(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-24
(45)【発行日】2022-03-04
(54)【発明の名称】射出成形用金型、および成形品の製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 45/56 20060101AFI20220225BHJP
B29C 45/26 20060101ALI20220225BHJP
【FI】
B29C45/56
B29C45/26
(21)【出願番号】P 2020531357
(86)(22)【出願日】2019-07-18
(86)【国際出願番号】 JP2019028225
(87)【国際公開番号】W WO2020017579
(87)【国際公開日】2020-01-23
【審査請求日】2021-01-15
(31)【優先権主張番号】P 2018135192
(32)【優先日】2018-07-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】591270257
【氏名又は名称】クミ化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【氏名又は名称】荒 則彦
(72)【発明者】
【氏名】岡原 悦雄
【審査官】山本 雄一
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-117302(JP,A)
【文献】特開2009-241480(JP,A)
【文献】特開2006-289783(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/00-45/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の型のキャビティ面の表面温度を、成形する樹脂の熱変形温度よりも高くすることで、成形中の樹脂成形品の表面を前記一対の型の両方のキャビティ面に密着させる成形方法に使用する射出成形用金型であって、
前記一対の型は、樹脂成形品の第1主面を成形する第1の型と、
前記樹脂成形品の第1主面とは反対の面である第2主面の少なくとも一部を成形する第2成形面を有する第2の型と、を備え、
前記第1の型は、第1本体部と、前記第1主面の少なくとも一部を成形する第1成形面を有する第1可動駒と、を有し、
前記第1本体部は、基壁部と、前記基壁部の周縁部から下方に突出する側壁部とを備え、
前記側壁部の内側面の最上部には、外側方に向けて凹設された受け凹部が形成されており、
前記第1可動駒は、可動駒本体と、ストッパ部とを備え、
前記第1成形面に沿って前記可動駒本体から離れる方向である突出方向において、前記ストッパ部は、前記可動駒本体の側面から側方に突出し、
前記ストッパ部は、前記受け凹部に挿入されており、
前記ストッパ部が前記受け凹部の下面に当接する前進限では、前記第1可動駒の前進が規制され、
前記ストッパ部が前記受け凹部の上面に当接する後退限では、前記第1可動駒の後退が規制され、
前記第1可動駒は、
前記前進限と前記後退限との間で、前記第2成形面に対して接近および離間する方向に移動可能であり、
前記第1可動駒が前記第2成形面に対して接近および離間する方向に移動可能となる距離は、前記樹脂成形品の厚みの10%以上20%以下であり、
前記一対の型により形成されるキャビティへの前記樹脂の射出動作に伴って前記キャビティの容積が増大し、前記樹脂の冷却収縮に伴って、前記樹脂と前記第1可動駒との間の密着力により前記第1可動駒が移動して、前記キャビティの容積が減少することが可能である、
射出成形用金型。
【請求項2】
前記第1可動駒を、前記第2成形面に接近する方向に付勢する付勢体をさらに備える、請求項1に記載の射出成形用金型。
【請求項3】
前記第2の型は、第2本体部と、前記第2成形面を有する第2可動駒と、を有し、
前記第2可動駒は、前記第1成形面に対して接近および離間する方向に移動可能である、
請求項1又は請求項2に記載の射出成形用金型。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の射出成形用金型の温度を、前記樹脂成形品を構成する樹脂の熱変形温度よりも高くした状態で、前記樹脂を溶融状態で前記第1の型と前記第2の型との間のキャビティに射出充填する工程と、
前記第1可動駒が前記第2成形面に対して接近および離間する方向に移動可能となる距離を、前記樹脂成形品の厚みの10%以上20%以下とし、前記第1の型と前記第2の型とを冷却するにあたり、前記樹脂の体積収縮にともなって、前記樹脂と前記第1可動駒との間の密着力により前記第1可動駒を前記第2成形面に対して接近する方向に移動させることによって、前記樹脂が第1成形面および第2成形面に密着した状態で前記樹脂を成形する工程と、を有する、
成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形用金型、および成形品の製造方法に関する。
本願は、2018年7月18日に日本に出願された特願2018-135192号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
樹脂成形品の射出成形において、例えば、成形品の裏面にリブ、ボス、あるいは取り付けのためのクリップ座等の凸部を成形する場合は、この凸部を厚肉に設定すると、成形品表面における凸部に対応する位置にヒケと呼ばれる凹部が形成されやすい。
【0003】
ヒケ発生を抑制できる金型としては、成形品の意匠面を成形するキャビティ型内面を、成形品の裏面側を成形するコア型表面に比べて高温にすることができる金型が知られている。この金型では、キャビティ型内面をコア型表面に比べて高温にすることで、成形品の意匠面側を金型のキャビティ面に密着させて、ヒケの発生を意匠面とは反対の裏面側へ集中させ、意匠面のヒケ発生を抑制する(例えば、特許文献1~3を参照)。
【0004】
しかしながら、前記金型では、型締め状態の金型のキャビティ型とコア型との接触箇所において、高温のキャビティ型からコア型への熱の移動が生じる。これにより、キャビティ型とコア型との間の温度差が小さくなり、キャビティ型内面への成形樹脂の密着力が低下することがあった。そのため、意匠面のヒケ発生を抑制するのが難しくなる場合があった。
【0005】
また、前記金型では、成形品の裏面にリブ等の凸部が形成された成形品を成形するにあたり、凸部の位置によっては、意匠面のヒケ発生を防止できないことがあった。例えば、リブ等で囲まれた範囲が存在する場合や、リブ等が略平行に近接して配置されていたりする場合は意匠面に発生するヒケを防止できないことがあった。
【0006】
また、前記金型では、キャビティ型内面をコア型表面より高温とするため、成形品に、キャビティ型側(すなわち高温側)が凹状となる反りが発生するという問題もあった。
【0007】
また、前記金型では、樹脂の射出量が増えると、成形品と低温のコア型との接触時間が長くなることで裏面のスキン層が発達して、本来裏面に集中するヒケが意匠面に発生することが考えられる。そのため、射出量の制御を精密に行う必要があるが、射出量の精密な制御は容易でなく、安定した成形条件を構築することが難しい場合があった。特に、多数個取りの金型においては、複数の成形品の成形条件を安定的に構築することが課題となっていた。
【0008】
また、前記金型では、裏面にヒケを集中させた成形品を、成形品の裏面に両面テープを貼り付けて別の製品表面に貼り付けて最終的な使用形態とするような場合に、所望する接着強度を得ることが難しくなるという問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】日本国特開平6-315961号公報
【文献】日本国特開2012-192715号公報
【文献】日本国特開2015-223732号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の態様が解決しようとする課題は、上記の問題を解決し、安定して成形品の意匠面へのヒケ発生の防止を実現しながら、成形品に金型の温度差に起因する反りを発生させないことに加え、成形品の裏面におけるヒケ発生も抑制し、しかも成形条件を構築することが容易な射出成形用金型、および成形品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様は、一対の型のキャビティ面の表面温度を、成形する樹脂の熱変形温度よりも高くすることで、成形中の樹脂成形品の表面を前記一対の型の両方のキャビティ面に密着させる成形方法に使用する射出成形用金型である。前記一対の型は、樹脂成形品の第1主面を成形する第1の型と、前記樹脂成形品の第1主面とは反対の面である第2主面の少なくとも一部を成形する第2成形面を有する第2の型と、を備える。前記第1の型は、第1本体部と、前記第1主面の少なくとも一部を成形する第1成形面を有する第1可動駒と、を有する。前記第1本体部は、基壁部と、前記基壁部の周縁部から下方に突出する側壁部とを備える。前記側壁部の内側面の最上部には、外側方に向けて凹設された受け凹部が形成されている。前記第1可動駒は、可動駒本体と、ストッパ部とを備える。前記第1成形面に沿って前記可動駒本体から離れる方向である突出方向において、前記ストッパ部は、前記可動駒本体の側面から側方に突出している。前記ストッパ部は、前記受け凹部に挿入されている。前記ストッパ部が前記受け凹部の下面に当接する前進限では、前記第1可動駒の前進が規制される。前記ストッパ部が前記受け凹部の上面に当接する後退限では、前記第1可動駒の後退が規制される。第1可動駒は、前記前進限と前記後退限との間で、前記第2成形面に対して接近および離間する方向に移動可能である。前記第1可動駒が前記第2成形面に対して接近および離間する方向に移動可能となる距離は、前記樹脂成形品の厚みの10%以上20%以下である。前記一対の型により形成されるキャビティへの前記樹脂の射出動作に伴って、前記樹脂と前記第1可動駒との間の密着力により前記第1可動駒が移動して、前記キャビティの容積が増大し、前記樹脂の冷却収縮に伴って前記キャビティの容積が減少することが可能である射出成形用金型を提供する。
【0013】
前記第1可動駒を、前記第2成形面に接近する方向に付勢する付勢体をさらに備えることが好ましい。
【0014】
前記第2の型は、第2本体部と、前記第2成形面を有する第2可動駒と、を有し、前記第2可動駒は、前記第1成形面に対して接近および離間する方向に移動可能であることが好ましい。
【0016】
本発明の他の態様は、前記射出成形用金型の温度を、前記樹脂成形品を構成する樹脂の熱変形温度よりも高くした状態で、前記樹脂を溶融状態で前記第1の型と前記第2の型との間のキャビティに射出充填する工程と、前記第1可動駒が前記第2成形面に対して接近および離間する方向に移動可能となる距離を、前記樹脂成形品の厚みの10%以上20%以下とし、前記第1の型と前記第2の型とを冷却するにあたり、前記樹脂の体積収縮にともなって、前記樹脂と前記第1可動駒との間の密着力により前記第1可動駒を前記第2成形面に対して接近する方向に移動させることによって、前記樹脂が第1成形面および第2成形面に密着した状態で前記樹脂を成形する工程と、を有する、成形品の製造方法を提供する。
【0017】
本発明のさらに他の態様は、樹脂成形品の第1主面を成形する第1の型と、前記樹脂成形品の第1主面とは反対の面である第2主面の少なくとも一部を成形する第2成形面を有する第2の型と、を備え、前記第1の型は、第1本体部と、前記第1主面の少なくとも一部を成形する第1成形面を有する第1可動駒と、を有し、前記第1可動駒は、前記第2成形面に対して接近および離間する方向に移動可能である射出成形用金型を提供する。
【発明の効果】
【0018】
本発明の一態様によれば、安定して成形品の意匠面へのヒケ発生の防止を実現しながら、成形品に金型の温度差に起因する反りを発生させないことに加え、成形品の裏面におけるヒケ発生も抑制し、しかも成形条件を構築することが容易な射出成形用金型、および成形品の製造方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1A】本発明の第1実施形態に係る射出成形用金型の正断面図である。
【
図1B】
図1Aにおける符号Aで示された部分を拡大して示す断面図である。
【
図2A】
図1Aの射出成形用金型によって作製された樹脂成形品の一例を示す側面図である。
【
図3A】
図1Aに示す射出成形用金型を用いて樹脂成形品を製造する方法を説明する工程図であって、射出成形用金型に樹脂を射出充填した直後の状態を示す正断面図である。
【
図3B】
図3Aにおける符号Bで示された部分を拡大して示す断面図である。
【
図4A】
図3Aに続く工程図であって、射出成形用金型内で樹脂の冷却が完了し、金型を開いて成形品を取り出す直前の状態を示す正断面図である。
【
図4B】
図4Aにおける符号Cで示された部分を拡大して示す断面図である。
【
図5A】本発明の第2実施形態に係る射出成形用金型の正断面図である。
【
図5B】
図5Aにおける符号Dで示された部分を拡大して示す断面図である。
【
図6】本発明の第3実施形態に係る射出成形用金型の正断面図である。
【
図7】本発明の第4実施形態に係る射出成形用金型の正断面図である。
【
図8】
図7の射出成形用金型を用いて樹脂成形品を製造する方法を説明する工程図であって、射出成形用金型に樹脂を射出充填した直後の状態を示す正断面図である。
【
図9】
図8に続く工程図であって、射出成形用金型内で樹脂の冷却が完了し、金型を開いて成形品を取り出す直前の状態を示す正断面図である。
【
図10】本発明の第5実施形態に係る射出成形用金型の正断面図である。
【
図11】
図10の射出成形用金型を用いて樹脂成形品を製造する方法を説明する工程図であって、射出成形用金型に樹脂を射出充填した直後の状態を示す正断面図である。
【
図12】
図11に続く工程図であって、射出成形用金型内で樹脂の冷却が完了し、金型を開いて成形品を取り出す直前の状態を示す正断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を適用した実施形態について詳細に説明する。
なお、以下の説明で用いる図面は、本発明の実施形態の構成を説明するためのものであり、図示される各部の大きさや厚さや寸法等は、実際の装置の寸法関係とは異なる場合がある。
【0021】
[樹脂成形品]
実施形態の射出成形用金型の説明に先だって、この射出成形用金型によって作製される樹脂成形品の一例について説明する。
図2Aは、第1実施形態の射出成形用金型によって作製された樹脂成形品の一例を示す側面図である。
図2Bは、樹脂成形品を示す平面図である。
【0022】
図2Aおよび
図2Bには、2つの樹脂成形品1,1が示されている。2つの樹脂成形品1,1(第1樹脂成形品1A、第2樹脂成形品1B)は連結部2(ランナー部ともいう)によって互いに連結されている。樹脂成形品1は、成形品本体1aと、1または複数の凸部1d(以下、成形品凸部、ともいう)とを有する。成形品本体1aは板状に形成されている。成形品本体1aは、例えば、厚さ方向から見て矩形である。成形品本体1aの一方の面は意匠面1b(第2主面)である。意匠面1bとは反対の面を裏面1c(以下、成形品本体裏面、ともいう)(第1主面)という。
【0023】
成形品凸部1dは、例えば、成形品本体1aの裏面1cから突出するリブである。以下、成形品凸部1dを「リブ」とも言う。凸部1dは成形品本体1aの裏面1cの複数箇所に形成されている。凸部1d(リブ)は、成形品本体1aから突出する突出先端(突端)が互いに平行に延在する突条状に形成されている。複数の凸部1dの間隔は、特に限定されず、例えば成形品本体1aの厚みの2倍以下であってもよい。
【0024】
[射出成形用金型]
(第1実施形態)
以下、実施形態に係る射出成形用金型について、図面を参照して説明する。
図1Aは、第1実施形態の射出成形用金型100(以下、「金型100」ともいう)の正断面図である。
図1Bは、
図1Aにおける符号Aで示された部分を拡大して示す断面図である。以下、金型100について説明する。
【0025】
図1Aに示すように、射出成形用金型100は、第1の型10(コア型)と、第2の型20(キャビティ型)とを備える。
以下の説明においては、
図1A及び
図1Bに即して各部材の位置関係を説明する。第1の型10は第2の型20の上方に位置する。第1可動駒12については、前方とは
図1Aにおける下方(矢印Fの方向)であり、後方とは
図1Aにおける上方(矢印Rの方向)である。
図1Aは、第1の型10と第2の型20とを閉じ合わせた状態(型締め状態)を示す。
【0026】
第1の型10と第2の型20との間(詳しくは、第1可動駒12と第2の型20との間)には、キャビティ30(空隙部)が確保される。キャビティ30は、成形するべき樹脂成形品1(
図2Aおよび
図2B参照)に応じた形状を有する。金型100は、キャビティ30に、射出装置(図示略)からランナー部を介して溶融状態の樹脂が射出充填されるように構成されている。
【0027】
第1の型10は、天板10Aと、側部10Bと、第1本体部11と、第1可動駒12とを備える。
第1本体部11は、基壁部13と、基壁部13の周縁部から下方に突出する側壁部14とを備える。基壁部13と側壁部14とによって形成された凹部を、第1成形用凹部15という。側壁部14の内側面14aの最上部には、外側方に向けて凹設された受け凹部16が形成されている。受け凹部16の上面16a(後面)は、基壁部13の天面13a(
図1Bにおける下面)と面一である。受け凹部16の下面16b(前面)は、上面16aと平行である。
【0028】
第1可動駒12は、可動駒本体17と、ストッパ部18とを備える。第1可動駒12は、第1成形用凹部15に収容されている。
可動駒本体17は、基壁部13に沿う板状とされている。可動駒本体17の下面(キャビティ30の本体成形領域30Aに臨む面)は、樹脂成形品1の裏面1cの成形のための成形面17a(裏側成形面。本明細書において、本体裏側成形面、とも言う)(第1成形面)である。本体裏側成形面17aは、平坦に形成されている。
【0029】
なお、第1可動駒の本体裏側成形面は、樹脂成形品の裏面の少なくとも一部を成形できればよい。例えば、本体裏側成形面は、成形品の裏面のうち、ヒケの発生を回避することが必要な領域にのみ接していてもよい。
【0030】
本体裏側成形面17aは、第1可動駒12が前進限にあるとき(
図1A及び
図1B参照)、パーティング面を形成する第1本体部11の下面19(第1成形用凹部15の開口部を囲む側壁部14の先端面)と面一であってよい。第1可動駒12は、前進限にあるとき、下部(本体裏側成形面17aを含む部分)が下面19より下方に突出していてもよい。
【0031】
可動駒本体17には、成形面17aから窪む凸部成形用凹部31と、エジェクタピン孔32とが形成されている。
凸部成形用凹部31は、成形品凸部1dを成形する凸部成形領域の役割を果たす。凸部成形用凹部31は、1つの第1可動駒12あたり1つ形成されていてもよいし、複数形成されていてもよい。
図1Aに示す第1可動駒12では、凸部成形用凹部31は、成形面17aの2箇所に、溝状に形成されている。2つの凸部成形用凹部31は、互いに平行であって、凸部成形用凹部31の幅方向(
図1Aにおける左右方向)に離れて形成されている。なお、凸部成形用凹部の形状は特に限定されず、無端の多角形、リング状などの形状であってもよい。
【0032】
エジェクタピン孔32は、可動駒本体17に、成形面17aから上面17b(可動駒本体17における成形面17aとは反対側の面)にわたって貫通形成されている。エジェクタピン孔32には、樹脂成形品1の成形完了後に第1の型10から樹脂成形品1を取り外すエジェクタピン33が挿入されている。エジェクタピン33は、図示しないピン移動装置の駆動によって、先端部がキャビティ30に突出しない待機位置と、先端部がキャビティ30に突出した突出位置とを切り換えることができる。
【0033】
ストッパ部18は、可動駒本体17の側面17cから側方に突出する。ストッパ部18の突出方向は、成形面17aに沿う方向であって、可動駒本体17から離れる方向である。ストッパ部18は、成形面17aと平行な板状とされている。ストッパ部18は、受け凹部16に挿入されている。
【0034】
ストッパ部18の厚さ、すなわち前後方向(
図1A及び
図1Bにおける上下方向)の寸法は、受け凹部16の前後方向の寸法より小さい。そのため、第1可動駒12は、前後方向(第2成形用凹部21の内底面22に対して接近および離間する方向)に移動可能である。
【0035】
第1可動駒12は、
図1Bに示す前進限と、
図3Bに示す後退限との間で移動可能である。
前進限(
図1A及び
図1B参照)では、ストッパ部18は受け凹部16の下面16bに当接するため、第1可動駒12の前進が規制される。後退限(
図3A及び
図3B参照)では、ストッパ部18は受け凹部16の上面16aに当接するため、第1可動駒12の後退が規制される。
【0036】
第1可動駒12が前後方向に移動可能となる距離(前後方向の可動距離)は、樹脂成形品の厚みの10%であることが好ましい。例えば、この距離は、0.2mm以上であることが好ましい。これによって、樹脂の成形時に、樹脂が本体裏側成形面17aおよび内底面22に密着した状態を維持しやすくなる。
第1可動駒12の前後方向の可動距離は、樹脂成形品1の厚み(成形品本体1aの厚み)に対して5分の1以下、すなわち、樹脂成形品1の厚み(成形品本体1aの厚み)の20%以下であることが好ましい。第1可動駒12の前後方向の可動距離がこの範囲であると、第1可動駒12のスムーズな前後方向の動作が可能となる。なお、第1可動駒12の可動距離は、樹脂成形品1の厚み(成形品本体1aの厚み)の20%を越えてもよい。
【0037】
第2の型20は、基台部23を備える。基台部23と側壁部14とによって形成された凹部を、第2成形用凹部21という。第2成形用凹部21の内底面22(第2成形面)を、以下、意匠面成形面、とも言う。
なお、意匠面成形面は、樹脂成形品の裏面の少なくとも一部を成形できればよい。例えば、意匠面成形面は、成形品の意匠面のうち、ヒケの発生を回避することが必要な領域にのみ接していてもよい。
【0038】
第1の型10の本体裏側成形面17aと、第2の型20の第2成形用凹部21の内底面22とは、キャビティ30を介して対向する。キャビティ30は、第1の型10の下面19と、パーティング面を形成する第2の型20の上面25とを閉じ合わせることによって確保される。上面25は、第2成形用凹部21の開口部を囲む基台部23の先端面である。
【0039】
キャビティ30は、本体成形領域30Aと、凸部成形用凹部31とによって構成されている。本体成形領域30Aは、第2成形用凹部21の内面と、本体裏側成形面17aとによって取り囲まれる空間である。本体成形領域30Aは、成形品本体1aを成形する。凸部成形用凹部31は、成形品凸部1dを成形する。
【0040】
射出成形用金型100は、第1の型10の本体裏側成形面17aの温度と第2の型20の意匠面成形面22の温度とを独立に制御する温度調整機構(図示略)を備えていてもよい。温度調整機構は、第1の型10および第2の型20にそれぞれ設けられた加熱用配管(図示略)と、これらの加熱用配管に加熱用流体(熱水、油等)を送給する流体加熱送給部(図示略)とを有する。この温度調整機構は、流体加熱送給部にて加熱した加熱用流体を加熱用配管に送給して第1の型10および第2の型20を加熱する。これによって、本体裏側成形面17aの温度および意匠面成形面22の温度を調整できる。温度調整機構は、本体裏側成形面17aの温度と、意匠面成形面22の温度とを略同一に保つことができる。温度調整機構には、循環型構造を採用してもよい。循環型構造は、例えば、加熱用配管内の加熱用流体が接続配管(戻り配管)を介して流体加熱送給部に循環する構造である。
なお、温度調整機構は、キャビティ30内での樹脂成形時に第1の型10および第2の型20を加熱して、本体裏側成形面17aの温度と、意匠面成形面22の温度とを略同一に保つことができればよく、その具体的構成は特に限定されない。
【0041】
金型100は、第1可動駒12が前進限にあるときに、キャビティ30内の樹脂が予め定められた厚さよりも0.1mm程度薄くなるように設計されていることが好ましい。この構成によれば、あらかじめ所望の厚みの成形品を得ることが可能な樹脂量を金型100に射出充填しておけば、樹脂の冷却収縮が進行しても第1可動駒12の本体裏側成形面17aが成形品の裏面から離間することを防止できる。
【0042】
第1の型10および第2の型20は、それぞれ金属製である。
【0043】
[成形品の製造方法]
(第1実施形態)
次に、射出成形用金型100を用いて樹脂成形品1を製造する方法について、
図1A、
図1B、
図3A、
図3B、
図4A、及び
図4Bを参照して説明する。
図3Aは、金型100を用いて樹脂成形品1を製造する方法を説明する工程図であって、射出成形用金型に樹脂を射出充填した直後の状態を示す正断面図である。
図3Bは、
図3Aにおける符号Bで示された部分を拡大して示す断面図である。
図4Aは、
図3Aに続く工程図であって、射出成形用金型内で樹脂の冷却が完了し、金型を開いて成形品を取り出す直前の状態を示す正断面図である。
図4Bは、
図4Aにおける符号Cで示された部分を拡大して示す断面図である。
【0044】
樹脂成形品1を構成する樹脂としては、ポリオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、ポリメチルメタアクリレート(PMMA)樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂等を採用可能である。
【0045】
本実施形態の製造方法は、次に示す工程を有する。
第1工程(射出充填工程):射出充填する樹脂の熱変形温度よりも金型100の温度を高くした状態で、キャビティ30内に、樹脂を溶融状態で射出充填する工程。
第2工程(冷却工程):冷却による樹脂の体積収縮に伴ってキャビティ30の容積を減少させつつ樹脂を冷却する工程。
第3工程(脱型工程):金型100を開き、樹脂成形品1を脱型する工程。
【0046】
(第1工程:射出充填工程)
図1Aに示すように、射出充填工程では、第1の型10と第2の型20とを型締め状態とする。エジェクタピン33は待機位置に配置される。
図3Aに示すように、射出充填する樹脂Xの熱変形温度よりも第1の型10および第2の型20の温度を高くした状態で、キャビティ30内に樹脂Xを溶融状態で射出充填する。
詳しくは、少なくとも本体裏側成形面17aおよび意匠面成形面22の温度を樹脂Xの熱変形温度より高くした状態で、キャビティ30内に樹脂Xを溶融状態で射出充填する。これにより、樹脂Xは、本体裏側成形面17aおよび意匠面成形面22に密着した状態となる。樹脂Xの充填量は、冷却工程の完了時に樹脂成形品1が所定の板厚になるように定められる。
なお、樹脂の熱変形温度は、JIS K7191-2に準拠した方法により1.80MPaの曲げ荷重を負荷した条件で測定される値である。
【0047】
射出充填工程における金型100と樹脂Xの熱変形温度との温度差は、5~30℃が好ましい。前記温度差が前記範囲の下限値(5℃)以上であれば、射出充填工程において樹脂Xをキャビティ面(本体裏側成形面17aおよび意匠面成形面22)に密着させた状態にすることが容易になり、成形品にヒケが生じることを抑制しやすい。前記温度差が前記範囲の上限値(30℃)以下であれば、成形品の取り出し時に変形する可能性が低くなる。
【0048】
射出充填工程では、樹脂Xの射出動作に伴ってキャビティ30の容積が増大することが好ましい。射出充填工程では、樹脂Xの充填量は、樹脂Xの射出充填時の樹脂圧力が所定の圧力を超えたときに、その樹脂圧力によって第1可動駒12が後退し、キャビティ30の容積が増大するように定めることができる。
図3A及び
図3Bでは、第1可動駒12は後退限にある。これにより、冷却工程において、冷却による樹脂Xの体積収縮に伴って容易にキャビティ30の容積を減少させることができる。第1可動駒12は、樹脂の冷却収縮に伴って、樹脂と第1可動駒12との間の密着力により、キャビティ30の容積を減少させる方向に移動する。
【0049】
樹脂Xの射出充填時の第1の型10と第2の型20の温度は、同じでもよく、異なってもよいが、成形品の反りを抑制しやすい点から、同じ温度であることが好ましい。前述の温度調整機構によって、第1の型10(詳しくは、本体裏側成形面17a)と第2の型20(詳しくは、意匠面成形面22)の温度を同じにすることができる。第1の型10と第2の型20の温度が同じであれば、樹脂Xと第1の型10(詳しくは、本体裏側成形面17a)との密着力と、樹脂Xと第2の型20(詳しくは、意匠面成形面22)との密着力が同等になる。そのため、樹脂Xが本体裏側成形面17aと意匠面成形面22の両方に密着した状態にすることが容易になる。そのため、表面にも裏面にもヒケがない成形品を得ることが容易になる。
【0050】
(第2工程:冷却工程)
図4Aに示すように、冷却工程では、樹脂Xを冷却する。樹脂Xは、本体裏側成形面17aに密着しているため、冷却による樹脂Xの体積収縮に伴い、密着力により第1可動駒12は前進して第2の型20に近づき、キャビティ30の容積は減少する。これにより、冷却工程において、冷却が完了するまで樹脂Xが本体裏側成形面17aと意匠面成形面22の両方に密着した状態が維持される。そのため、樹脂成形品におけるヒケ発生が抑制される。また、樹脂Xが本体裏側成形面17aおよび意匠面成形面22に密着した状態が維持されるため、樹脂Xから第1の型10および第2の型20への熱移動が阻害されることが抑制される。これにより、樹脂Xが短時間で効率よく冷却される。
【0051】
(第3工程:脱型工程)
脱型工程では、第1の型10と第2の型20を開き、エジェクタピン33を待機位置から突出位置に移動させることによって樹脂成形品1(
図2Aおよび
図2B参照)を押し出して脱型する。
【0052】
[第1実施形態により得られる効果]
射出成形用金型100は、第1可動駒12が、意匠面成形面22に対して接近および離間する方向に移動可能である。そのため、冷却時に樹脂Xの体積収縮に伴ってキャビティ30の容積を減少させることができる。これにより、樹脂Xの射出充填から冷却終了まで、樹脂Xが本体裏側成形面17aおよび意匠面成形面22に密着した状態を維持できるため、成形品におけるヒケ発生が抑制される。そのため、表面にも裏面にもヒケがない樹脂成形品1が得られる。金型100は、裏表の両面が意匠面となる成形品の製造にも適用できる。
【0053】
金型100は、樹脂Xの射出充填から冷却終了まで、樹脂Xが本体裏側成形面17aおよび意匠面成形面22に密着した状態を維持できるため、リブ等の凸部を有する成形品であっても、ヒケの発生を抑制できる。また、成形品が複数の凸部を有し、これら凸部の間隔が短い(例えば、樹脂成形品1において2つの凸部1dの間隔が成形品本体1aの厚さの2倍以下)場合でも、意匠面1bにおけるヒケ発生を抑制できる。
【0054】
意匠面側の金型と非意匠面側の金型で温度差をつけ、成形品の非意匠面側にヒケを集中させる金型では、成形品の非意匠面側で樹脂がキャビティ面から離間して空気断熱層が形成されるため、樹脂の冷却効率が悪く、冷却時間が長くなる。これに対して、金型100では、冷却中に樹脂が一対の型の両方のキャビティ面(本体裏側成形面17aおよび意匠面成形面22)に密着した状態が維持されるため、樹脂から第1の型10および第2の型20への熱移動が阻害されることが抑制される。そのため、樹脂の冷却効率の低下がなく、冷却時間を短縮でき、また冷却不足による変形も抑制できる。
【0055】
金型100では、第1の型10と第2の型20との間に温度差を設けなくてもヒケ抑制が可能である。第1の型10と第2の型20との間に温度差を設ける必要がないため、成形品の反りを抑制できる。
【0056】
意匠面側の金型と非意匠面側の金型で温度差をつけ、成形品の非意匠面側にヒケを集中させる金型では、成形品と低温の金型との接触時間が長くなることで、本来裏面に集中するヒケが意匠面に発生することが考えられる。これに対し、金型100では、樹脂の充填量にかかわらず、樹脂が両方のキャビティ面に密着した状態が維持されるため、ヒケ発生を抑制できる。そのため、安定した成形条件を構築できる。例えば、多数個取りの金型(複数の成形品を製造できる金型)(
図2B参照)において、複数の成形品の成形条件を安定的に構築することができる。
【0057】
金型100では、上述のように、裏面にもヒケがない成形品を製造できる。そのため、成形品の裏面に両面テープを貼り付けて別の製品表面に貼り付けて最終的な使用形態とするような場合に、十分な接着強度を得ることができる。
【0058】
[射出成形用金型]
(第2実施形態)
図5A及び
図5Bは、第2実施形態に係る射出成形用金型200(以下、「金型200」ともいう)の正断面図である。なお、既出の実施形態と第2実施形態との共通構成については同じ符号を付して説明を省略する。
【0059】
金型200は、第1の型110と、第2の型20とを備える。
第1の型10は、天板110Aと、側部110Bと、第1本体部11と、第1可動駒12とを備える。天板110A及び側部110Bは、上述した第1実施形態の天板10A及び側部10Bに各々対応する。
第1の型110の基壁部13の天面13aには、収容凹部114が形成されている。収容凹部114には、付勢体115が設けられている。付勢体115の上端は収容凹部114の天面に当接し、付勢体115の下端は可動駒本体17の上面17bに当接する。付勢体115は、収容凹部114の天面に反力をとって第1可動駒12を下方(前進方向)に付勢する。付勢体115は、コイルスプリング、板バネなどの弾性体であってよい。なお、付勢体は、冷却工程において樹脂の体積収縮に伴って第1可動駒12を押圧し、その前進を促すことができればよく、付勢体の構成は限定されない。例えば、油圧シリンダ等を採用することもできる。
【0060】
[成形品の製造方法]
(第2実施形態)
(第1工程:射出充填工程)
射出充填する樹脂の熱変形温度よりも第1の型110および第2の型20の温度を高くした状態で、キャビティ30内に樹脂を射出充填する。この際、樹脂の圧力によって第1可動駒12は後退する。第1可動駒12の後退に伴い、付勢体115は圧縮される。
【0061】
(第2工程:冷却工程)
樹脂の体積収縮とともに、第1可動駒12は前進する。この際、付勢体115は、第1可動駒12を前進方向に押圧し、第1可動駒12の前進を促す。これにより、キャビティ30の容積が減少し、冷却が完了するまで樹脂が本体裏側成形面17aと意匠面成形面22の両方に密着した状態が維持される。そのため、樹脂成形品1のヒケ発生が抑制される。
【0062】
(第3工程:脱型工程)
第1の型110と第2の型20を開き、樹脂成形品1(
図2Aおよび
図2B参照)を脱型する。
【0063】
[第2実施形態により得られる効果]
射出成形用金型200は、第1可動駒12を前進方向に付勢する付勢体115を備えているため、冷却工程において第1可動駒12の前進が促され、樹脂が本体裏側成形面17aと密着した状態を維持することができる。そのため、成形品におけるヒケ発生が抑制される。
【0064】
[射出成形用金型]
(第3実施形態)
図6は、第3実施形態に係る射出成形用金型300(以下、「金型300」ともいう)の正断面図である。なお、既出の実施形態と第3実施形態との共通構成については同じ符号を付して説明を省略する。
金型300は、第1の型210と、第2の型220とを備える。第1の型210と第2の型220との間(詳しくは、第1可動駒12と第2可動駒212との間)には、キャビティ230(空隙部)が確保される。
【0065】
第1の型210は、天板210Aと、側部210Bと、第1本体部211と、第1可動駒12とを備える。天板210A及び側部210Bは、上述した第1実施形態の天板10A及び側部10Bに各々対応する。
第1本体部211は、基壁部213と、基壁部213の周縁部から下方に突出する側壁部214とを備える。基壁部213と側壁部214とによって形成された凹部は、第1成形用凹部15である。符号219は、パーティング面を形成する第1本体部211の下面である。
【0066】
第2の型220は、第2本体部221と、第2可動駒212とを備える。第2本体部221は、第1本体部211と同様の構成を有する。すなわち、第2本体部221は、基壁部223と、基壁部223の周縁部に設けられた側壁部224とを備える。基壁部223と側壁部224とによって形成された凹部を、第2成形用凹部215という。側壁部224の内側面214aの最下部には、受け凹部16と同様の形状の受け凹部216が形成されている。符号225は、パーティング面を形成する側壁部224の上面である。
【0067】
第2可動駒212は、可動駒本体217と、ストッパ部218とを備える。第2可動駒212は、第2成形用凹部215に収容されている。
可動駒本体217は、基壁部223に沿う板状とされている。可動駒本体217の上面(キャビティ230の本体成形領域230Aに臨む面)は、樹脂成形品1の意匠面1bの成形のための意匠面成形面217a(第2成形面)である。意匠面成形面217aは、平坦に形成されている。第2可動駒212については、前方とは
図6における上方であり、後方とは
図6における下方である。
【0068】
なお、意匠面成形面は、樹脂成形品の裏面の少なくとも一部を成形できればよい。例えば、意匠面成形面は、成形品の意匠面のうち、ヒケの発生を回避することが必要な領域にのみ接していてもよい。
【0069】
ストッパ部218は、ストッパ部18(
図1A及び
図1B参照)と同様に、可動駒本体217の側面から側方に突出する。ストッパ部218は、受け凹部216に挿入されている。ストッパ部218の厚さは、受け凹部216の前後方向の寸法より小さいため、第2可動駒212は、前後方向(本体裏側成形面17aに対して接近および離間する方向)に移動可能である。すなわち、第1の型210の第1可動駒12と、第2の型220の第2可動駒212とは、互いに接近および離間する方向に移動可能である。
【0070】
第1の型210の本体裏側成形面17aと、第2の型220の意匠面成形面217aとは、キャビティ230を介して対向する。
キャビティ230は、本体成形領域230Aと、凸部成形用凹部31とによって構成されている。本体成形領域230Aは、本体裏側成形面17aと、意匠面成形面217aと、側壁部14,214の内側面14a,214aとによって取り囲まれる空間である。本体成形領域230Aは、樹脂成形品1の成形品本体1a(
図2Aおよび
図2B参照)を成形する。凸部成形用凹部31は、成形品凸部1dを成形する。
【0071】
[成形品の製造方法]
(第3実施形態)
(第1工程:射出充填工程)
射出充填する樹脂の熱変形温度よりも第1の型210および第2の型220の温度を高くした状態で、キャビティ230内に樹脂を射出充填する。この際、樹脂の圧力によって第1可動駒12および第2可動駒212は後退する。
【0072】
(第2工程:冷却工程)
樹脂の体積収縮とともに、第1可動駒12と第2可動駒212のうち一方または両方は前進する。これにより、冷却が完了するまで樹脂が本体裏側成形面17aと意匠面成形面217aの両方に密着した状態が維持される。そのため、樹脂成形品におけるヒケ発生が抑制される。
【0073】
(第3工程:脱型工程)
第1の型210と第2の型220を開き、樹脂成形品1(
図2Aおよび
図2B参照)を脱型する。
【0074】
[第3実施形態により得られる効果]
射出成形用金型300は、第1可動駒12と第2可動駒212の両方が前後方向に移動可能である。そのため、冷却工程において、第1可動駒12と第2可動駒212のそれぞれの前進距離が小さい場合でも、樹脂の体積収縮に対応できる。したがって、樹脂が本体裏側成形面17aおよび意匠面成形面217aに密着した状態が維持されやすい。よって、樹脂成形品1におけるヒケ発生を抑制できる。
【0075】
(第3実施形態の変形例)
上述した第3実施形態では、第1可動駒12と第2可動駒212の両方が前後方向に移動可能である構造について説明したが、本発明は、この構造に限定されない。例えば、第1可動駒12を備えない構造、すなわち、第2可動駒212のみが前後方向に移動可能である構造が採用されてもよい。この場合においても、成形品におけるヒケ発生が抑制される。
【0076】
[射出成形用金型]
(第4実施形態)
図7は、第4実施形態に係る射出成形用金型400(以下、「金型400」ともいう)の正断面図である。なお、既出の実施形態と第4実施形態との共通構成については同じ符号を付して説明を省略する。
【0077】
図7に示すように、金型400は、第1の型310と、第2の型320とを備える。
第1の型310は、天板310Aと、第1本体部311とを備える。第1本体部311は、側部311Aと、基壁部13(311B)と、コア型本体部311Cとを有する。可動駒312は、基壁部13(311B)に不図示のボルト等の締結部材で固定されており、付勢体315(後述)の伸縮により、基壁部311Bからの距離を変化させることができる。可動駒312の下面319は、パーティング面を形成する。
コア型本体部311Cは、板状に形成されている。コア型本体部311Cの下面(キャビティ30の本体成形領域30Aに臨む面)は、本体裏側成形面17a(第1成形面)である。
【0078】
付勢体315は、第1の型310と第2の型320との距離が変化しても可動駒312を第1の型310から第2の型320へ押し付けることで、パーティング面(面319と面325との合わせ面)が開くことを防止している。付勢体315は、皿バネなどの弾性体である。なお、付勢体315は、射出充填工程において樹脂圧により金型が開いたときに可動駒312を押圧し、その前進を促すことができればよく、付勢体315の構成は限定されない。
【0079】
第2の型320は、基台部323と、基台部323の周縁部から上方に突出する側壁部324とを備える。基台部323と側壁部324とによって形成された凹部を、第2成形用凹部321という。第2成形用凹部321の内底面22(第2成形面)は意匠面成形面22である。符号325は、第2成形用凹部321の開口部を囲む側壁部324の先端面であり、パーティング面を形成する。
【0080】
[成形品の製造方法]
(第4実施形態)
(第1工程:射出充填工程)
図8に示すように、射出充填する樹脂の熱変形温度よりも第1の型310および第2の型320の温度を高くし、且つ、型締め力が樹脂圧力に負けて金型が開くことを許容する値に設定した状態で、キャビティ30内に樹脂Xを射出充填する。この際、樹脂Xの圧力の総和が型締め力を超えると、第1の型310は後退する(すなわち、
図8の上方に移動する)。第1の型310が後退しても可動駒312が付勢体315により第2の型320に押し付けられ、パーティング面を形成する面319、325が互いに当接した状態を維持することができる。
【0081】
(第2工程:冷却工程)
図9に示すように、樹脂Xの冷却収縮とともに、第1の型310は前進する(すなわち、
図9の下方に移動する)。この際、付勢体315は、型締め力により弾性的に変形する。第1の型310に押圧されることによって、キャビティ30の容積が減少する。これにより、冷却が完了するまで樹脂Xが本体裏側成形面17aと意匠面成形面22の両方に密着した状態が維持される。そのため、樹脂成形品1のヒケ発生が抑制される。
【0082】
(第3工程:脱型工程)
第1の型310と第2の型320を開き、樹脂成形品1(
図2Aおよび
図2B参照)を脱型する。
【0083】
[第4実施形態により得られる効果]
射出成形用金型400は、可動駒312を前進方向に付勢する付勢体315を備えているため、型締め力が樹脂圧力に負けて金型が開いても、パーティング面(面319、325)が開くことがない。このため、その後に行われる冷却工程において第1の型310の前進が促され、樹脂が本体裏側成形面17aと密着した状態を維持することができる。そのため、成形品におけるヒケ発生が抑制される。
【0084】
[射出成形用金型]
(第5実施形態)
図10は、第5実施形態に係る射出成形用金型500(以下、「金型500」ともいう)の正断面図である。なお、既出の実施形態と第5実施形態との共通構成については同じ符号を付して説明を省略する。
【0085】
図10に示すように、金型500は、第1の型410と、第2の型420とを備える。第1の型410は、第1本体部411と、第1可動駒412と、天板413と、支柱414と、付勢体415と、下部ベース416と、上部ベース417とを有する。
第1可動駒412は、ボルト等の締結部材Bによって下部ベース416に接続固定されている。支柱414の上面は、締結部材Bによって上部ベース417に接続固定されている。支柱414の下面は、締結部材Bによって下部ベース416に接続固定されている。
上部ベース417は、付勢体415の伸縮によって、内部空間SP内において矢印R及びFで示された方向に移動可能である。上部ベース417には、上述したエジェクタピン33が接続固定されている。
第1可動駒412は、板状に形成されている。第1可動駒412の下面(キャビティ30の本体成形領域30Aに臨む面)は、本体裏側成形面17a(第1成形面)である。第1可動駒412は、前後方向(意匠面成形面22に対して接近および離間する方向)に移動可能である。
第1可動駒412は、下部ベース416及び支柱414を介して上部ベース417に接続されている。第1可動駒412は、上部ベース417の上下動に伴って、矢印R、Fに示す方向に移動可能である。
【0086】
付勢体415は、天板413の天面CFと上部ベース417の上面417Uとの間に配置されている。付勢体415の上端は天面CFに固定され、付勢体415の下端は上面417Uに固定されている。
付勢体415は、上部ベース417と天面CFとが互いに離間する方向に付勢する。付勢体415は、コイルスプリング、板バネ、皿バネななどの弾性体である。なお、付勢体415は、冷却工程において樹脂の体積収縮に伴って第1可動駒412を押圧し、その前進を促すことができればよく、付勢体の構成は限定されない。
【0087】
第2の型420は、基台部423と、基台部423の周縁部から上方に突出する側壁部424とを備える。基台部423と側壁部424とによって形成された凹部を、第2成形用凹部421という。第2成形用凹部421の内底面(第2成形面)は意匠面成形面22である。符号425は、第2成形用凹部421の開口部を囲む側壁部424の先端面であり、パーティング面を形成する。
【0088】
[成形品の製造方法]
(第5実施形態)
(第1工程:射出充填工程)
図11に示すように、射出充填する樹脂の熱変形温度よりも第1の型410および第2の型420の温度を高くした状態で、キャビティ30内に樹脂Xを射出充填する。この際、樹脂Xの圧力によって、キャビティ30の容積が増加し、第1可動駒412および上部ベース417は後退する(すなわち、
図11の矢印Rで示された方向に移動する)。上部ベース417の後退に伴い、付勢体415は弾性的に変形し、圧縮される。
【0089】
(第2工程:冷却工程)
図12に示すように、樹脂Xの体積収縮とともに、第1可動駒412は前進する(すなわち、
図12の矢印Fで示された方向に移動する)。この際、付勢体415は、上部ベース417に前進方向の押圧力を加える。上部ベース417に押圧されることによって第1可動駒412の前進が促され、キャビティ30の容積が減少する。これにより、冷却が完了するまで樹脂Xが本体裏側成形面17aと意匠面成形面22の両方に密着した状態が維持される。そのため、樹脂成形品1のヒケ発生が抑制される。
【0090】
(第3工程:脱型工程)
第1の型410と第2の型420を開き、樹脂成形品1(
図2Aおよび
図2B参照)を脱型する。
【0091】
[第5実施形態により得られる効果]
射出成形用金型500は、第1可動駒412を前進方向に付勢する付勢体415を備えているため、冷却工程において樹脂の体積が減少するにつれて第1可動駒412の前進が促され、樹脂が本体裏側成形面17aと密着した状態を維持することができる。そのため、成形品におけるヒケ発生が抑制される。
【0092】
なお、本発明の技術範囲は、上述した各実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上述した実施形態に種々の変更を加えたものを含む。すなわち、上述した実施形態で挙げた構成等は一例に過ぎず、適宜変更が可能である。例えば、
図1A及び
図1Bに示す金型100では、第1可動駒12は第1の型10に設けられているが、可動駒は、第1の型には設けず、第2の型に設けることもできる。可動駒は、第1の型と第2の型の両方に設けることもできる(
図6参照)。すなわち、可動駒は、第1の型および第2の型のうちいずれか一方または両方に設けることができる。
【0093】
実施形態の射出成形用金型は、樹脂の射出動作の際にキャビティの容積が増大しない場合でも、樹脂の収縮によってキャビティの容積を減少させることができる構成であればよい。すなわち、実施形態の射出成形用金型は、一対の型のキャビティ面の表面温度を、成形する樹脂の熱変形温度よりも高くすることで、成形中の樹脂成形品の表面を前記一対の型の両方のキャビティ面に密着させる成形方法に使用する射出成形用金型であって、前記樹脂の冷却収縮に伴って前記キャビティの容積が減少することが可能である構成としてよい。
【0094】
実施形態の射出成形用金型は、次のような構成であってもよい。
樹脂成形品の第1主面を成形する第1の型と、前記樹脂成形品の第1主面とは反対の面である第2主面の少なくとも一部を成形する第2成形面を有する第2の型と、を備え、前記第1の型は、第1本体部と、前記第1主面の少なくとも一部を成形する第1成形面を有する第1可動駒と、を有し、前記第1可動駒は、前記第2成形面に対して接近および離間する方向に移動可能である射出成形用金型。
【0095】
実施形態の射出成形用金型は、可動駒は、樹脂成形品の裏面すべてに接する形状でなく、樹脂成形品の裏面のうちヒケ発生を抑制するべき一部領域にのみに接する形状であってもよい。この場合、樹脂成形品の裏面のうち、可動駒が接する領域以外の領域に、エジェクタピン孔などから導入された外気によってヒケが形成されてもよい。
【符号の説明】
【0096】
1…樹脂成形品、1a…成形品本体、1b…(樹脂成形品の)意匠面(第2主面)、1c…(樹脂成形品の)裏面(第1主面)、1d…(樹脂成形品の)凸部、10,110,210…第1の型、11…第1本体部、12…第1可動駒、17…可動駒本体、17a…本体裏側成形面(第1成形面、キャビティ面)、20,220…第2の型、22…内底面(意匠面成形面、キャビティ面)(第2成形面)、30…キャビティ、100,200,300,400,500…射出成形用金型、115…付勢体、211…第1本体部、212…第2可動駒、217…可動駒本体、217a…意匠面成形面(第2成形面)。