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特許7030208O,O’-二置換酒石酸エナンチオマーの添加によるラセミ体ニコチンのエナンチオマー分離
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-24
(45)【発行日】2022-03-04
(54)【発明の名称】O,O’-二置換酒石酸エナンチオマーの添加によるラセミ体ニコチンのエナンチオマー分離
(51)【国際特許分類】
   C07D 401/04 20060101AFI20220225BHJP
   A61K 31/465 20060101ALN20220225BHJP
   A61P 25/26 20060101ALN20220225BHJP
   A61P 25/34 20060101ALN20220225BHJP
【FI】
C07D401/04
A61K31/465
A61P25/26
A61P25/34
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020554570
(86)(22)【出願日】2018-12-18
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-06-17
(86)【国際出願番号】 EP2018085444
(87)【国際公開番号】W WO2019121649
(87)【国際公開日】2019-06-27
【審査請求日】2020-12-04
(31)【優先権主張番号】17210181.8
(32)【優先日】2017-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】520220696
【氏名又は名称】ジークフリート アクチェンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】SIEGFRIED AG
(73)【特許権者】
【識別番号】520220700
【氏名又は名称】コントラフ-ニコテックス-タバコ ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】CONTRAF-NICOTEX-TOBACCO GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100152489
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 美樹
(72)【発明者】
【氏名】ウェーバー、ベアト
(72)【発明者】
【氏名】パン、ベン
【審査官】高森 ひとみ
(56)【参考文献】
【文献】欧州特許出願公開第02484673(EP,A2)
【文献】特開2006-335639(JP,A)
【文献】特開2003-342259(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0326134(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式I-bの化合物を調製する方法であって、
【化1】

前記方法は、
式I-aのニコチンを(R)-および(S)-エナンチオマーの混合物として提供することと、
【化2】

キラルO,O’-二置換酒石酸の添加により式1-aの化合物のエナンチオマーを分離することであって、キラルO,O’-二置換酒石酸はL-エナンチオマーを含む、前記分離することと、式I-bの化合物を得ることと、を含み、O,O’-二置換酒石酸がL-エナンチオマーおよびD-エナンチオマーの混合物であり、L-エナンチオマーのD-エナンチオマーに対するモル比が80:20またはそれ以上である、方法。
【請求項2】
L-エナンチオマーのD-エナンチオマーに対するモル比が90:10またはそれ以上である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
L-エナンチオマーのD-エナンチオマーに対するモル比が95:5またはそれ以上である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記キラルO,O’-二置換酒石酸は、O,O’-ジベンゾイル酒石酸(DBTA)およびO,O’-ジトルオイル酒石酸(DTTA)から選択される、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記キラルO,O’-二置換酒石酸は、O,O’-ジベンゾイル-L-酒石酸(L-DBTA)である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記O,O’-二置換酒石酸は、O,O’-ジベンゾイル-L-酒石酸(L-DBTA)とO,O’-ジベンゾイル-D-酒石酸(D-DBTA)との混合物であり、L-DBTAのD-DBTAに対するモル比が80:20またはそれ以上である、請求項1、4および5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
L-DBTAのD-DBTAに対するモル比が90:10またはそれ以上である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
L-DBTAのD-DBTAに対するモル比が95:5またはそれ以上である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記キラルO,O’-二置換酒石酸の添加は、溶媒としてのエタノールを用いて行われる、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(R)-エナンチオマーおよび(S)-エナンチオマーの混合物としての式I-aのニコチンを、式I-bおよび式I-cで表される鏡像異性的に純粋な物質に分離する方法に関する。
【0002】
【化1】
【0003】
本発明はさらに、一般的に分離することが困難なエナンチオマーである、鏡像異性的に純粋な(R)-ニコチンおよび鏡像異性的に純粋な(S)-ニコチンを調製する方法に関する。
【背景技術】
【0004】
ニコチンは、さまざまな用途で使用される天然のアルカロイドである。特に(S)-ニコチンは、ニコチン乱用およびニコチン依存症を治療するための医薬品有効成分として使用されている。トゥレット症候群、アルツハイマー病、統合失調症、および神経系の障害に関連するその他の疾患の治療にて成功したことがさらに報告されている。一般的な投与方法は、ガム、クリーム、経皮パッチ、錠剤、点鼻薬、および電気タバコである。
【0005】
また、かなりの量のニコチンがアブラムシに対する植物保護剤または殺虫剤として農業においても使用されている。
天然のニコチンはタバコ植物から抽出され、このプロセスは、望ましくない有害な不純物を除くために効率的な精製ステップを必要とする。ニコチンの需要の増加により、特に化学的および立体化学的に非常に純粋な形で合成ニコチンを調製する環境にやさしい、かつ経済的な方法を提供する必要性が生じている。
【0006】
最新技術
ニコチン((S)-3-(1-メチルピロリジン-2-イル)ピリジン)およびそのエナンチオマーは、長年にわたり、様々な、満足できない方法で調製されてきた。周知の合成法は通常、費用を要するものであり、環境に害を及ぼす試薬を使用するものである。
【0007】
ピクテット(Pictet)A.は、エナンチオマーを分離するために酒石酸を使用することを含む、ニコチンの合成を1904年にすでに報告している(非特許文献1)。そして、酒石酸はその後数十年にわたって使用されてきた(例えば、アセト(Aceto)M.D.他の非特許文献2を参照)。
【0008】
最近ではチャブダリアン(Chavdarian)C.G.他は、光学的に活性なニコチノイドの合成に関するより近代的なアイデアを開示した(非特許文献3)。
カツヤマ(Katsuyama)A.他は、ニコチンのラセミ化のためにカリウムtert-ブタノレートを使用してニコチンを合成し、エナンチオマーをさらに分離するための出発物質を調製する方法を報告している(非特許文献4)。
【0009】
さらに、特許文献1は、5つの異なるステップにわたる合成ルートを開示しており、37.7%の純収率を得ている。
特許文献2は、還流下で強塩基(K tert-ブトキシドとして)の存在下で1-メチルピロリジン-2-オンおよびニコチン酸メチルを縮合して中間体カリウム1-メチル-3-ニコチノイル-4,5-ジヒドロ-1H-ピロール-2-オラートとし、次いで、R/Sニコチンのラセミ混合物に変換することを含むニコチンの合成を記載している。ジ-パラ-トルオイル-L-酒石酸は、分割剤として機能している。
【0010】
特許文献3(特許文献4)は、よく知られた合成経路に依拠しており、エナンチオマーを分離する薬剤としてD-DBTA(酒石酸のD-ジベンゾイルエステル)を開示している。
【0011】
特許文献5(特許文献6、特許文献7)は、金属水素化物の存在下でのN-ビニログスピロリジノンとニコチン酸エステルとの縮合を含む、中間体であるミオスミンへの3ステップを含む調製方法を開示している。
【0012】
ボーマン(Bowman)E.R.他は、50%の収率を与える、分離剤としてジ-(p-トルオイル)-L-酒石酸一水和物を使用する、D,L-ニコチンからのd-ニコチンジ-(p-トルオリ)-L-酒石酸塩の調製について説明している(非特許文献5)。
【0013】
アセト(Aceto)M.D.他は、光学的に高純度のニコチン塩を取得するための多段階の分割プロセスについて記載しており、各ステップは、メタノール、アセトン、またはそれらの混合物から選択された溶媒中で純粋なジ-p-トルオイル-D-酒石酸塩または純粋なジ-p-トルオイル-L-酒石酸塩のいずれかを使用している(非特許文献2)。
【0014】
グラスコ(Glassco)W.他は、(+)-および(-)-シス-2,3,3a、4,5,9b-ヘキサヒドロ-1-メチル-1-H-ピロール-[3,2-b]イソキノリンの合成と光学分割について記載している(非特許文献6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【文献】欧州特許第4487172号明細書
【文献】米国特許出願公開第2016/0326134号明細書
【文献】欧州特許第2484673号明細書
【文献】米国特許第8378111号明細書
【文献】国際公開第WO2016/065209号
【文献】欧州特許出願公開第3209653号明細書
【文献】米国特許第9556142号明細書
【非特許文献】
【0016】
【文献】ピクテット(Pictet)A.、Berichte der deutschen chemischen Gesellschaft、vol.37、1904、1225-1235頁
【文献】アセト(Aceto)M.D.他、J.Med.Chem.、1979、vol.22、174-177
【文献】チャブダリアン(Chavdarian)C.G.他、J.Org.Chem.、1982、vol.41、1069-1073
【文献】カツヤマ(Katsuyama)A.他、Bull.Spec.CORESTA Symposium,Winston-Salem、1982、p.15、S05、ISSN.0525-6240
【文献】ボーマン(Bowman)E.R.他、Synthetic Comm.、1982、vol.22、11、871-879
【文献】グラスコ(Glassco)W.他、J.Med.Chem.、1993、36、22、3381-3385
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
ここ数年、開発は主として光学的に活性なエナンチオマーの精製と分割ステップの最適化に重点が置かれてきた。しかしながら、特に、エナンチオマーが豊富な、本質的に純粋な、または、まさに純粋な(R)-または(S)-ニコチンのより効率的でよりエコロジカルな合成ならびに環境にやさしい薬剤および溶媒の使用に向けて、このステップにおいてさらに改善する必要性が存在している。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、エナンチオマーを分離する特定のプロセスを含む、本質的に鏡像異性的に純粋な(R)-または(S)-ニコチンを調製するための新規な方法を提供する。同時に、収量の増加と高純度の最終製品を見出すことができた。全体的に、この新規な方法は、当技術分野における既知の方法と比較して、経済的にもおよび環境上においても優れている。本願の発明者らは、経済的にもおよび環境上においても有利な薬剤を使用する本発明の方法によりラセミ体ニコチンを分離できることを見出した。さらに、本願の発明者らは、ラセミ混合物の分離は、鏡像異性的に純粋ではない分離剤を使用する場合にも効率的であることを見出した。
【0019】
第1の態様において、本発明は、式I-bの化合物を調製するための方法を提供し、
【0020】
【化2】
【0021】
同方法は、
式I-aのニコチンを(R)-および(S)-エナンチオマーの混合物として提供することと、
【0022】
【化3】
【0023】
キラルO,O’-二置換酒石酸(disubstituted tartaric acid)の添加により、式1-aの化合物のエナンチオマーを分離することであって、キラルO,O’-二置換酒石酸はL-エナンチオマーを含む、前記分離することと、式I-bの化合物を得ることと、を含み、O,O’-二置換酒石酸がL-エナンチオマーおよびD-エナンチオマーの混合物であり、L-エナンチオマーのD-エナンチオマーに対するモル比が好ましくは80:20またはそれ以上であり、さらに好ましくは、90:10またはそれ以上であり、さらにより好ましくは95:5またはそれ以上である。
【0024】
さらに、式I-cの化合物を調製する方法が開示されており、
【0025】
【化4】
【0026】
同方法は、
式I-aのニコチンを(R)-および(S)-エナンチオマーの混合物として提供することと、
【0027】
【化5】
【0028】
キラルO,O’-二置換酒石酸の添加により、式1-aの化合物のエナンチオマーを分離することであって、キラルO,O’-二置換酒石酸はD-エナンチオマーを含む、前記分離することと、式I-cの化合物を得ることと、を含み、同方法において、キラルO,O’-二置換酒石酸はO,O’-ジベンゾイル-D-酒石酸である。
【0029】
さらに式I-bの化合物を調製する方法が記載されており、
【0030】
【化6】
【0031】
同方法は、
式I-aのニコチンを(R)-および(S)-エナンチオマーの混合物として提供することと、
【0032】
【化7】
【0033】
少なくとも2種のエナンチオマー分離剤の混合物の添加により式I-aの化合物のエナンチオマーを分離することと、
式I-bの化合物を得ることと、を含み、同方法において、エナンチオマー分離剤の一方が、エナンチオマー分離剤の他方に対して、好ましくは50:50またはそれ以上、さらに好ましくは80:20またはそれ以上、さらにより好ましくは90:10またはそれ以上、さらにそれより好ましくは95:5またはそれ以上のモル比にて使用される。
【0034】
さらなる実施形態は、従属請求項に開示されており、それに限定されることなく、以下の説明および実施例から得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0035】
他に定義されていない場合、技術用語および科学用語は、本発明の分野の当業者によって一般に理解されるものと同じ意味を有する。
本明細書に開示されるすべての範囲は、反対であることが明確に定義されていないか、または文脈から明らかではない限り、「約」という用語によって補足されると見なされるべきである。
【0036】
本出願内にある物質の量に関連するすべての数またはパーセンテージは、反対であることが明確に定義されていないか、または文脈から明らかではない限り、重量%で示される。
【0037】
式I-bの化合物、即ち、(S)-ニコチンを調製する方法が開示されており、
【0038】
【化8】
【0039】
同方法は、
式I-aのニコチンを(R)-および(S)-エナンチオマーの混合物として提供することと、
【0040】
【化9】
【0041】
キラルO,O’-二置換酒石酸の添加により、式1-aの化合物のエナンチオマーを分離することであって、キラルO,O’-二置換酒石酸はL-エナンチオマーを含む、分離することと、式I-bの化合物を得ることと、を含む。この方法において、O,O’-二置換酒石酸はL-エナンチオマーからなる。この方法において、キラルO,O’-二置換酒石酸は、O,O’-ジベンゾイル酒石酸(DBTA)およびO,O’-ジトルオイル酒石酸(DTTA)からさらに選択され、たとえば、キラルO,O’-二置換酒石酸は、O,O’-ジベンゾイル-L-酒石酸であり得る。
【0042】
第1の態様において、式I-bの化合物、即ち、(S)-ニコチンを調製する方法が開示されており、
【0043】
【化10】
【0044】
同方法は、
式I-aのニコチンを(R)-および(S)-エナンチオマーの混合物として提供することと、
【0045】
【化11】
【0046】
キラルO,O’-二置換酒石酸の添加により、式1-aの化合物のエナンチオマーを分離することであって、キラルO,O’-二置換酒石酸はL-エナンチオマーを含む、前記分離することと、式I-bの化合物を得ることと、を含み、O,O’-二置換酒石酸がL-エナンチオマーおよびD-エナンチオマーの混合物であり、L-エナンチオマーのD-エナンチオマーに対するモル比が好ましくは80:20またはそれ以上であり、さらに好ましくは90:10またはそれ以上であり、さらにより好ましくは95:5またはそれ以上である。
【0047】
式I-aのニコチンは特に限定されず、任意の適切な方法、例えば、天然物からの抽出または合成法による方法にて得ることができる。式I-aのニコチンは、ニコチンの(R)-および(S)-エナンチオマーの混合物であり、特に限定されず、両方のエナンチオマーが含まれる限り任意の比率で2つのエナンチオマーを含むことができる、混合物である。式I-aのニコチンは、ラセミ混合物、すなわち、50:50のモル比を有する混合物であり得るが、それはまた、(S)-エナンチオマーの(R)-エナンチオマーに対する比が、例えば、1:99~99:1、例えば10:90~90:10、例えば20:80~80:20、例えば30:70~70:30、例えば40:60~60:40、例えば45:55~55:45、またはこれらの比率の間の任意の他の比率、の範囲にある混合物であり得る。第1の態様の本発明の方法は、この混合物からの(S)-エナンチオマーの分離を可能にする。
【0048】
式I-aのニコチンのラセミ化合物((rac-)ニコチン)としての例示的な合成は、以下のステップ1a、1b、1cおよび1dで示されるスキームに従っており、これは文献にも記載されている。
【0049】
【化12】
【0050】
(R)-ニコチンおよび(S)-ニコチンの混合物、例えばラセミ体ニコチンは、例えば、伸縮法を用いたワンポット合成法、一般的には、ニコチン酸エチルおよび1-ビニル-2-ピロリドンの塩基の存在下での縮合から始まる方法にて、合成され得る。強酸の存在下で、アミド窒素は脱保護され、ミオスミンへの脱炭酸と閉環が生ずる。ピロール環をピロリジン環に還元した後、ニコチンにメチル化される。ニコチンの混合物は、第1の態様の方法において、分割剤(resolving agent)/分離剤(separating agent)、例えば、L-DBTAで分割することができ、ステップ2に示すように、目的の製品である(S)-ニコチンが得られる。得られた(R)-ニコチンに富む副流(side stream)は、ステップ3に示されるように、ラセミ化によってさらにリサイクルされ、第1の態様の方法に沿ってさらなる分離/分割ステップを受けることができる。
【0051】
第1の態様の方法において、キラルO,O’-二置換酒石酸は、それがキラル、すなわち光学的に活性である限り、特に限定されない。ヒドロキシ基の酸素上の2つの置換基は特に限定されず、同じであっても異なっていてもよい。特定の実施形態によれば、それらは、1~20個のC原子を有するアルキル基、2~20個のC原子を有するアルケンおよび/またはアルキン基、6~20個のC原子を有するアリール基、および/またはハロゲン化基、ニトロ基、アミン基、エステル基、アミド基などの官能基ですべて置換または非置換できる7~20個のC原子を有するアルキルアリールおよび/またはアリールアルキル基、から選択され、それらの全てが置換されていないことが好ましい。キラルO,O’-二置換酒石酸における好ましい置換基は、6~20個のC原子を有するアリール基であり、および/または置換されていない7~20個のC原子を有するアルキルアリールおよび/またはアリールアルキル基である。
【0052】
ある実施形態に従って、キラルO,O’-二置換酒石酸は、O,O’-ジベンゾイル酒石酸(DBTA)およびO,O’-ジトルオイル酒石酸から選択され、たとえば、キラルO,O’二置換酒石酸は、O,O’-ジ-o-トルオイル酒石酸、O,O’-ジ-m-トルオイル酒石酸および/またはO,O’-ジ-p-トルオイル酒石酸(DTTA)および/またはそれらの混合物であり、好ましくは、O,O’-ジベンゾイル酒石酸である。ある実施形態に従って、それは溶媒としてのエタノールに加えられる。
【0053】
本発明の方法において、キラルO,O’-二置換酒石酸は、L-エナンチオマーを含む。O,O’-二置換酒石酸は、L-エナンチオマーおよびD-エナンチオマーを混合物として含む。L-エナンチオマーは、D-エナンチオマーよりも過剰に、すなわち、50:50より大きいモル比で含まれることが好ましく、例えば、D-エナンチオマーに対するL-エナンチオマーのモル比にて、少なくとも80:20、好ましくは少なくとも90:10、さらにより好ましくは少なくとも95:5であり、この比は、少なくとも60%、好ましくは少なくとも80%、さらに好ましくは少なくとも90%のエナンチオマー過剰率(enantiomeric excess)(ee)として記載されてもよい。
【0054】
キラルO,O’-二置換酒石酸がO,O’-ジベンゾイル-L-酒石酸であることが記載されている場合、すなわち100%のeeを有する。
ある実施形態に従って、O,O’-二置換酒石酸は溶媒としてのエタノールに加えられる。
【0055】
(R)-および(S)-ニコチンの分離は、(S)-ニコチンが得られることになっている場合、純粋なエナンチオマー、すなわちキラルO,O’-二置換酒石酸のL-エナンチオマーである分離剤で達成できることが明らかになったが、驚くべきことに、純粋な分離剤(separating agent)(分割剤(resolution agent)とも呼ばれる)を使用しないが、キラルO,O’-二置換酒石酸のエナンチオマーの混合物を使用しても同じことが達成されることも明らかになり、それは驚くべきことに分離効果を発揮した。純粋な分離剤/分割剤が利用可能であるとしても、(S)-ニコチン(式I-bの化合物)を得る場合に、経済的かつ環境上の理由により、より容易かつ入手可能な薬剤を、過剰な1つのエナンチオマー(例えば、L-エナンチオマー)との混合物として使用することには利点がある。
【0056】
O,O’-二置換酒石酸は、L-エナンチオマーおよびD-エナンチオマーの混合物であり、L-エナンチオマーは、D-エナンチオマーよりも過剰に含まれており、好ましくはL-エナンチオマーのD-エナンチオマーに対するモル比は、80:20またはそれ以上、好ましくは90:10またはそれ以上、さらに好ましくは95:5またはそれ以上である。ある実施形態に従って、それは溶媒としてのエタノールに加えられる。
【0057】
特定の実施形態によれば、O,O’-二置換酒石酸は、O,O’-ジベンゾイル-L-酒石酸(L-DBTA)とO,O’-ジベンゾイル-D-酒石酸(D-DBTA)との混合物であり、L-DBTAのD-DBTAに対するモル比が50:50超、好ましくは80:20またはそれ以上、さらに好ましくは90:10またはそれ以上、さらにより好ましくは95:5またはそれ以上である。ある実施形態に従って、それは溶媒としてのエタノールに加えられる。
【0058】
本発明の方法において、O,O’-二置換酒石酸を添加するために使用される溶媒は、特に限定されるものではなく、O,O’-二置換酒石酸を溶解することができる任意の適切な溶媒であり得る。特定の実施形態によれば、溶媒はエタノールである。分離のために、式I-aの化合物にO,O’-二置換酒石酸を加えることにより得られる混合物は、例えば、混合物を反応させるために一定時間還流することができ、および/または、加熱下、例えば、少なくとも40℃、好ましくは50℃またはそれ以上、さらに好ましくは60℃またはそれ以上の温度まで、好ましくは少なくとも15分、さらに好ましくは30分またはそれ以上、撹拌させることができる。このような加熱の後に冷却を行ってもよく、例えば20℃未満、好ましくは10℃未満、さらに好ましくは5℃未満の温度に、好ましくは少なくとも8時間、好ましくは少なくとも10時間、例えば12時間またはそれ以上、冷却を行ってもよい。また、還流および/または加熱および場合により冷却ステップの2つ以上行うことができ、各ステップの間に、S-ニコチンおよびL-O,O’-二置換酒石酸の塩を用いたシーディング(seeding)も行うことができる。
【0059】
式I-bの化合物を得るステップは、特に制限されず、適切な方法、例えば、分離剤を用いて得られた(S)-ニコチンの塩をアルカリ性媒体中にて水で加水分解し、トルエンのような有機溶媒で抽出し、溶媒を蒸留する方法によって、実施することができる。分離剤を用いて(S)-ニコチンの塩を得るために、それを予め沈殿させ、濾過し、そして場合により例えばエタノールを用いて洗浄することができる。この場合、沈殿、濾過および洗浄のステップは、例えば、2回、3回、4回またはそれ以上、繰り返して実施してもよい。
【0060】
第2の態様において、本発明は、式I-cの化合物を調製する方法に関し、
【0061】
【化13】
【0062】
同方法は、
式I-aのニコチンを(R)-および(S)-エナンチオマーの混合物として提供することと、
【0063】
【化14】
【0064】
キラルO,O’-二置換酒石酸の添加により、式1-aの化合物のエナンチオマーを分離することであって、キラルO,O’-二置換酒石酸はD-エナンチオマーを含む、前記分離することと、式I-cの化合物を得ることと、を含み、同方法において、キラルO,O’-二置換酒石酸はO,O’-ジベンゾイル-D-酒石酸である。
【0065】
ここでも、式I-aのニコチンは特に限定されず、任意の適切な方法、例えば、すでに示されたように、例えば天然物からの抽出または合成法による方法にて得ることができる。式I-aのニコチンは、ニコチンの(R)-および(S)-エナンチオマーの混合物であり、特に限定されず、両方のエナンチオマーが含まれる限り任意の比率で2つのエナンチオマーを含むことができる、混合物である。式I-aのニコチンは、ラセミ混合物、すなわち、50:50のモル比を有する混合物であり得るが、それはまた、(S)-エナンチオマーの(R)-エナンチオマーに対する比が、例えば、1:99~99:1、例えば10:90~90:10、例えば20:80~80:20、例えば30:70~70:30、例えば40:60~60:40、例えば45:55~55:45、またはこれらの比率の間の任意の他の比率、の範囲にある混合物であり得る。第2の態様の本発明の方法は、この混合物からの(R)-エナンチオマーの分離を可能にする。
【0066】
O,O’-二置換酒石酸はキラル、すなわち光学活性であり、D-エナンチオマーを含むものが記載されている。ヒドロキシ基の酸素上の2つの置換基は同じであっても異なっていてもよい。それらは、1~20個のC原子を有するアルキル基、2~20個のC原子を有するアルケンおよび/またはアルキン基、6~20個のC原子を有するアリール基、および/またはハロゲン化基、ニトロ基、アミン基、エステル基、アミド基などの官能基ですべて置換または非置換できる7~20個のC原子を有するアルキルアリールおよび/またはアリールアルキル基、から選択され、それらの全てが置換されていないことが好ましい。キラルO,O’-二置換酒石酸における好ましい置換基は、6~20個のC原子を有するアリール基であり、および/または置換されていない7~20個のC原子を有するアルキルアリールおよび/またはアリールアルキル基である。
【0067】
キラルO,O’-二置換酒石酸は、O,O’-ジベンゾイル-D-酒石酸およびO,O’-ジトルオイル-D-酒石酸から選択することができ、例えば、O,O’-ジ-o-トルオイル-D-酒石酸、O,O’-ジ-m-トルオイル-D-酒石酸および/またはO,O’-ジ-p-トルオイル-D-酒石酸および/またはそれらの混合物であり得、好ましくは、O,O’-ジベンゾイル-D-酒石酸である。
【0068】
キラルO,O’-二置換酒石酸は溶媒としてのエタノールに加えられる。
第2の態様において、キラルO,O’-二置換酒石酸がO,O’-ジベンゾイル-D-酒石酸であり、すなわち100%のeeを有する。ある実施形態に従って、それは溶媒としてのエタノールに加えられる。
【0069】
(R)-および(S)-ニコチンの分離は、(R)-ニコチンが得られることになっている場合、純粋なエナンチオマー、すなわちキラルO,O’-二置換酒石酸のD-エナンチオマーである分離剤で達成できることが明らかになった。
【0070】
本発明の方法において、O,O’-二置換D-酒石酸を添加するために使用される溶媒は、特に限定されるものではなく、O,O’-二置換D-酒石酸を溶解することができる任意の適切な溶媒であり得る。特定の実施形態によれば、溶媒はエタノールである。分離のために、式I-aの化合物にO,O’-二置換酒石酸を加えることにより得られる混合物は、例えば、透明な溶液を得るために一定時間還流することができ、および/または、加熱下、例えば、少なくとも40℃、好ましくは50℃またはそれ以上、さらに好ましくは60℃またはそれ以上の温度まで、好ましくは少なくとも15分、さらに好ましくは30分またはそれ以上、撹拌させることができる。このような加熱の後に冷却を行ってもよく、例えば20℃未満、好ましくは10℃未満、さらに好ましくは5℃未満の温度に、好ましくは少なくとも8時間、好ましくは少なくとも10時間、例えば12時間またはそれ以上、冷却を行ってもよい。また、還流および/または加熱および場合により冷却ステップの2つ以上を行うことができ、各ステップの間に、R-ニコチンおよびD-O,O’-二置換酒石酸(即ち、O,O’-ジベンゾイル-D-酒石酸)の塩を用いたシーディングも行うことができる。
【0071】
式I-cの化合物を得るステップは、特に制限されず、適切な方法、例えば、分離剤を用いて得られた(R)-ニコチンの塩をアルカリ性媒体中にて水で加水分解し、トルエンのような有機溶媒で抽出し、溶媒を蒸留する方法によって、実施することができる。分離剤を用いて(R)-ニコチンの塩を得るために、それを予め沈殿させ、濾過し、そして場合により例えばエタノールを用いて洗浄することができる。この場合、沈殿、濾過および洗浄のステップは、例えば、2回、3回、4回またはそれ以上、繰り返して実施してもよい。
【0072】
第2の態様のある実施形態によれば、純粋なエナンチオマー、すなわち(R)-エナンチオマー、および/またはO,O’-二置換酒石酸とのその塩によるシーディングは収率および純度を高めるために、好ましくは高温で行われ、さらに好ましくは30~50℃、特に好ましくは約40℃で行われる。
【0073】
さらに、式I-bの化合物を調製する方法が記載されており、
【0074】
【化15】
【0075】
同方法は、
式I-aのニコチンを(R)-および(S)-エナンチオマーの混合物として提供することと、
【0076】
【化16】
【0077】
少なくとも2種のエナンチオマー分離剤の混合物の添加により式I-aの化合物のエナンチオマーを分離することと、式I-bの化合物を得ることと、を含み、同方法において、エナンチオマー分離剤の一方が、エナンチオマー分離剤の他方に対して、50:50またはそれ以上のモル比にて、好ましくは50:50超、さらに好ましくは80:20またはそれ以上、さらにより好ましくは90:10またはそれ以上、さらにそれより好ましくは95:5またはそれ以上のモル比にて使用される。
【0078】
ここでも、式I-aのニコチンは特に限定されず、任意の適切な方法、例えば、すでに示したように、例えば天然物からの抽出または合成法による方法にて得ることができる。式I-aのニコチンは、ニコチンの(R)-および(S)-エナンチオマーの混合物であり、特に限定されず、両方のエナンチオマーが含まれる限り任意の比率で2つのエナンチオマーを含むことができる、混合物である。式I-aのニコチンは、ラセミ混合物、すなわち、50:50のモル比を有する混合物であり得るが、それはまた、(S)-エナンチオマーの(R)-エナンチオマーに対する比が、例えば、1:99~99:1、例えば10:90~90:10、例えば20:80~80:20、例えば30:70~70:30、例えば40:60~60:40、例えば45:55~55:45、またはこれらの比率の間の任意の他の比率、の範囲にある混合物であり得る。第3の態様の本発明の方法は、この混合物からの(S)-エナンチオマーの分離を可能にする。
【0079】
少なくとも2つのエナンチオマー分離剤の混合物の添加は、溶媒としてのエタノールを用いて行うことができる。分離のためには、少なくとも2つのエナンチオマー分離剤と式I-aの化合物との混合物を、例えば、混合物を反応させるために一定時間還流することができ、および/または、加熱下、例えば、少なくとも40℃、好ましくは50℃またはそれ以上、さらに好ましくは60℃またはそれ以上の温度まで、好ましくは少なくとも15分、さらに好ましくは30分またはそれ以上、撹拌させることができる。このような加熱の後に冷却を行ってもよく、例えば20℃未満、好ましくは10℃未満、さらに好ましくは5℃未満の温度に、好ましくは少なくとも8時間、好ましくは少なくとも10時間、例えば12時間またはそれ以上、冷却を行ってもよい。また、還流および/または加熱および場合により冷却ステップの2つ以上行うことができ、各ステップの間に、得られるニコチンエナンチオマーおよび分割のための対応するO,O’-二置換酒石酸の塩を用いたシーディングも行うことができる。
【0080】
少なくとも2つのエナンチオマー分離剤の混合物は、少なくとも2つのエナンチオマーを含み、エナンチオマー分離剤の一方が、エナンチオマー分離剤の他方に対して、50:50またはそれ以上のモル比にて、好ましくは50:50超、さらに好ましくは80:20またはそれ以上、さらにより好ましくは90:10またはそれ以上、さらにそれより好ましくは95:5またはそれ以上のモル比にて使用される限り、特に制限されるものではない。好ましくは、少なくとも2つのエナンチオマー分離剤の混合物中の2つのエナンチオマー分離剤は、光学対掌体(optical antipodes)、すなわち2つのエナンチオマー、すなわち重ね合わせることができない互いに対して鏡像である2つの立体異性体である。混合物は一対以上のエナンチオマー分離剤を含んでいてもよく、例えば、2つのエナンチオマー分離剤のそれぞれが2つのエナンチオマーの混合物(例えば、DBTAおよびDTTA);3つのエナンチオマー分離剤のそれぞれが2つのエナンチオマーの混合物、など、を含んでいてもよく、少なくとも1対、例えば、少なくとも2対、例えば、少なくとも3対などのモル比は、50:50またはそれ以上、例えば50:50超、好ましくは80:20またはそれ以上、さらに好ましくは90:10またはそれ以上、さらにそれより好ましくは95:5またはそれ以上のモル比で含んでいてもよい。2対のエナンチオマー分離剤が含まれる場合、それらは、任意の適切な比率、例えば、1:4~4:1のモル比、例えば1:2~2:1の間、例えば1:1の比率で含まれ得る。従って、3対のエナンチオマー分離剤またはそれ以上の混合物は、任意の適切な比率で、例えば、3対に対して、4:1:1、1:4:1および1:1:4の間のモル比、例えば2:1:1、1:2:1および1:1:2の間のモル比、例えば1:1:1のモル比などで含まれ得る。適切なエナンチオマー分離剤の任意の混合物を適用することができ、例えば、上記したように、本発明の第1の態様および第2の態様に関して記載されているようなキラルO,O’-二置換酒石酸、例えば、2つのアシル置換基、2つのベンゾイル置換基、2つのトルオイル置換基、2つの異なる置換基などを有するキラルO,O’-二置換酒石酸など、そしてまたその他のもの、例えば、D-酒石酸およびL-酒石酸、ならびにそれらの混合物を適用することができる。好ましくは、エナンチオマー分離剤は、D-配置およびL-配置を有するエナンチオマー分離剤であり、好ましくはL-配置が、他方のD-配置のエナンチオマー分離剤に対して過剰に、即ち、50:50超のモル比にて、好ましくは80:20またはそれ以上、さらに好ましくは90:10またはそれ以上、さらにそれより好ましくは95:5またはそれ以上のモル比にて使用される。
【0081】
(S)-ニコチンの分離は、純粋な分離剤(分割剤とも呼ばれる)を使用しないが、分離剤の混合物が、特に溶媒としてエタノール中にて、上記したようなeeで使用された場合でも達成されるという驚くべきことが見いだされ、それは驚くべきことに分離効果を発揮した。純粋な分離剤/分割剤が利用可能であるとしても、(S)-ニコチン(式I-bの化合物)を得る場合に、経済的かつ環境上の理由により、より容易かつ入手可能な薬剤を、過剰な1つのエナンチオマー(例えば、L-エナンチオマー)との混合物として使用することには利点がある。
【0082】
式I-bの化合物を得るステップは、特に制限されず、適切な方法、例えば、分離剤を用いて得られた(S)-ニコチンの塩をアルカリ性媒体にて水で加水分解し、トルエンのような有機溶媒で抽出し、溶媒を蒸留する方法によって、実施することができる。分離剤を用いて(S)-ニコチンの塩を得るために、それを予め沈殿させ、濾過し、そして場合により例えばエタノールを用いて洗浄することができる。この場合、沈殿、濾過および洗浄のステップは、例えば、2回、3回、4回またはそれ以上、繰り返して実施してもよい。
【0083】
この方法において、純粋なエナンチオマーおよび/またはエナンチオマー分離剤とのその塩でのシーディングは、収率および純度を高めるために、好ましくは高温で行われ、さらに好ましくは30~50℃、特に好ましくは約40℃で行われる。
【0084】
上記の実施形態は、適宜、任意に組み合わせることができる。本発明のさらなる実施形態および実装形態はまた、本発明の実施例に関して上記または下記にて言及される特徴の明示的に引用されていない組み合わせも含む。特に、当業者はまた、本発明のそれぞれの基本的な形態に対する改善または補足として単一の態様を追加するであろう。
【実施例
【0085】
次に、本発明を、そのいくつかの実施例を参照して詳細に説明する。しかしながら、これらの実施例は例示であり、本発明の範囲を限定するものではない。
参考例:ラセミ体ニコチンを調製するための一般的な手順
1.0当量のニコチン酸エチル、トルエン、1.6当量のナトリウムエトキシドおよび1.2当量の1-ビニル-2-ピロリドン(NVP)を、無水物条件下、約20℃の室温でフラスコに装填した。次に、反応を100℃で3時間行った。反応が完了し、混合物を30℃に冷却した後に、695.0gのHCl(36重量%水溶液)を滴下により加えた。アセトアルデヒド、エタノール、ガス状COなどの低沸点成分を、トルエンおよび水の一部とともに蒸留により除去した。反応温度が105℃に達したら、蒸留を停止し、反応混合物を100℃~105℃の温度で一晩撹拌した。反応の完了後、NaOH(30重量%水溶液)を使用して、pHを9.5~10.5の間の値に調整した。イソプロパノール360.0gおよび(ニコチン酸エチルに関して)1.0当量のNaBHを反応容器に装填した。反応を室温(約20℃)で3時間以上行った(この時点でミオスミンの含有量は3.0重量%未満であった)。2.0当量のギ酸(ニコチン酸エチルに関してHCOOH)と1.2当量のパラホルムアルデヒド(ニコチン酸エチルに関して(HCHO))を加え、混合物を65℃で少なくとも3時間攪拌した。反応の完了後(この時点で、ミオスミンの含有量は0.5重量%未満であった)、NaOH(30重量%水溶液)を使用して、混合物のpHを13~14の間の値に調整した。すべての無機固体が溶解するまで水を加えた。混合物をトルエンで2回抽出した。合わせた有機相を濃縮して、粗生成物を得た。粗生成物を蒸留することにより、サンプル1として、純度98.9%(収率66.0%)の無色油状のラセミ体ニコチンを得た。
【0086】
同様の結果を達成する異なる量の反応物および溶媒を用いた上記に従うさらなる手順を以下の表1に示す:
【0087】
【表1】
【0088】
すべての場合において、ニコチン酸エチルに関連する正確に1.2当量のNVP、ニコチン酸エチルに関連する正確に1.6当量のEtONa、および11.4gのニコチン酸エチルあたり60.0gのトルエンを使用した。
【0089】
実施例1:分割ステップ(Resolution Step)
前述の参考例のサンプル1で得られたラセミ体ニコチン1.0gを、室温で10gのエタノール(1)および2.2gのジベンゾイル-L-酒石酸(L-DBTA)(1当量)と混合した。混合物を数分間還流し、室温(約20℃)に冷却した。沈殿が始まり、混合物を20℃で一晩攪拌した(10~12時間)。生じた沈殿を濾過し、2.5gのエタノール(2)で洗浄した。粗生成物を5.0gのエタノール(3)に溶解した。混合物を数分間還流し、室温に冷却した。沈殿が始まり、混合物を20℃で一晩攪拌した(10~12時間)。沈殿物を濾過し、2.5gのエタノール(4)で洗浄した。生成物を乾燥し、純粋な生成物を得た。表2に示すように異なる量(サンプル2~5)を使用して、同様の分割/分離実験を行なった。さらに、40℃でのシーディングにより、より高い収率と純度が得られることが明らかとなった。
【0090】
実施例2
実施例1、サンプル1で製造した3.2gのニコチン-L-DBTAを、7.2gの水および7.2gのトルエン中に懸濁した。アンモニア水(25重量%)を、pHが9.8~10.4になるまで添加した。相を分離し、水相を2.4gのトルエンで2回抽出した。トルエン相を合わせ、トルエンを蒸留により除去した。残渣を真空下で蒸留し、0.93gの純粋な(S)-ニコチンを得た。エナンチオ純度(Enantiopurity)はキラルHPLCで測定した。実施例1のサンプル2~5について同様の実験を行い、結果を表2に示す。
【0091】
【表2】
【0092】
モル当量の分割剤およびラセミ体ニコチンを使用した。エタノールの量は、ラセミ体ニコチンの重量倍として選択されている。
実施例3:代替的な分割ステップ
参考例のサンプル1で得られたラセミ体ニコチン1.0gを、室温で10gのエタノール(1)および2.2gのジベンゾイル-L-酒石酸(L-DBTA)(1当量)と混合した。混合物を数分間70℃に加熱し、60℃で0.5時間以上撹拌し、(S)-ニコチンL-DBTA塩でシーディングし、2℃~3℃までゆっくりと冷却して一晩撹拌した。生成した沈殿物を濾過し、粗生成物をエタノール(2)に溶解した。混合物を数分間75℃に加熱して透明な溶液を得、60℃に冷却し、(S)-ニコチンL-DBTA塩でシーディングし、0.5時間撹拌した。得られた懸濁液を2℃~3℃に徐々に冷却し、一晩撹拌する。沈殿物を濾別し、予冷したエタノール(3)で洗浄し、減圧乾燥する。(S)-ニコチンは、実施例2と同様に製造した。エタノールの量が異なる異なるサンプル6~8の結果を以下の表3に示す。
【0093】
【表3】
【0094】
実施例4
等量のジベンゾイル-D-酒石酸(23.2g)とラセミ体ニコチン(10g)をエタノールに溶解し、1時間攪拌し、15分間還流し、室温に冷却し、さらに1時間攪拌した。(R)-ニコチンジベンゾイル-D-酒石酸塩を得た。(R)-ニコチンは、実施例2と同様に製造した。イソプロパノール-メタノール混合物(1.0:0.3)中で再結晶後、(R)-ニコチンを得た。結果を以下の表4に示す。
【0095】
【表4】