(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-24
(45)【発行日】2022-03-04
(54)【発明の名称】電着銅箔および電極ならびにそれを含むリチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
C25D 1/04 20060101AFI20220225BHJP
H01M 4/66 20060101ALI20220225BHJP
C25D 7/06 20060101ALI20220225BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20220225BHJP
【FI】
C25D1/04 311
H01M4/66 A
C25D7/06 A
H01M4/13
(21)【出願番号】P 2021503555
(86)(22)【出願日】2020-01-15
(86)【国際出願番号】 CN2020072157
(87)【国際公開番号】W WO2020156158
(87)【国際公開日】2020-08-06
【審査請求日】2021-01-26
(32)【優先日】2019-02-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2019-09-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】591057290
【氏名又は名称】長春石油化學股▲分▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100082418
【氏名又は名称】山口 朔生
(74)【代理人】
【識別番号】100167601
【氏名又は名称】大島 信之
(74)【代理人】
【識別番号】100201329
【氏名又は名称】山口 真二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100220917
【氏名又は名称】松本 忠大
(72)【発明者】
【氏名】黄慧芳
(72)【発明者】
【氏名】呉致中
(72)【発明者】
【氏名】頼耀生
(72)【発明者】
【氏名】周瑞昌
【審査官】▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-172198(JP,A)
【文献】特開2017-038043(JP,A)
【文献】特許第6860706(JP,B2)
【文献】国際公開第2015/104999(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 1/04
C25D 7/06
H01M 4/13
H01M 4/64
H01M 4/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドラム側および前記ドラム側に相対する電着側を含む電着銅箔であって、
前記ドラム側は、0.17μm
3
/μm
2
~1.17μm
3
/μm
2
の範囲の空隙容積(Vv)を示し、
前記電着側は、0.17μm
3
/μm
2
~1.17μm
3
/μm
2
の範囲のVvを示し、
前記ドラム側の最大高さ(Sz)と、前記電着側のSzとの間の差の絶対値は、0.60μm未満の範囲にあり、
前記VvはISO25178-2:2012の標準法に従って得られ、
前記Vvは材料比10%での空隙容積を意味し、
前記SzはISO25178-2:2012に従って得られることを特徴とする、
電着銅箔。
【請求項2】
前記ドラム側および前記電着側の少なくとも片方は、0.16μm
3
/μm
2
~1.07μm
3
/μm
2
の範囲のコア部空隙容積(Vvc)を示し、前記Vvcは、第1の材料比10%と第2の材料比80%との間での空隙容積の差であることを特徴とする、請求項
1に記載の電着銅箔。
【請求項3】
前記ドラム側は、0.16μm
3
/μm
2
~1.07μm
3
/μm
2
の範囲のVvcを示し、前記電着側は、0.16μm
3
/μm
2
~1.07μm
3
/μm
2
の範囲のVvcを示し、前記Vvcは、第1の材料比10%と第2の材料比80%との間での空隙容積の差であることを特徴とする、請求項
1に記載の電着銅箔。
【請求項4】
前記ドラム側および前記電着側の少なくとも片方は、0.01μm
3
/μm
2
~0.10μm
3
/μm
2
の範囲の谷部空隙容積(Vvv)を示し、前記Vvvは、材料比80%での空隙容積を意味することを特徴とする、請求項1乃至
3のいずれか一項に記載の電着銅箔。
【請求項5】
前記ドラム側は、0.01μm
3
/μm
2
~0.10μm
3
/μm
2
の範囲のVvvを示し、前記電着側は、0.01μm
3
/μm
2
~0.10μm
3
/μm
2
の範囲のVvvを示し、前記Vvvは、材料比80%での空隙容積を意味することを特徴とする、請求項1乃至
3のいずれか一項に記載の電着銅箔。
【請求項6】
前記ドラム側および前記電着側の少なくとも片方は、1.24μm~3.25μmの範囲のSzを示すことを特徴とする、請求項1乃至
5のいずれか一項に記載の電着銅箔。
【請求項7】
前記ドラム側は、1.24μm~3.25μmの範囲のSzを示し、前記電着側は、1.24μm~3.25μmの範囲のSzを示すことを特徴とする、請求項1乃至
5のいずれか一項に記載の電着銅箔。
【請求項8】
前記電着銅箔は、2μm~25μmの範囲の厚さを有することを特徴とする、請求項1乃至
7のいずれか一項に記載の電着銅箔。
【請求項9】
前記電着銅箔は、5回/μm超の範囲の前記電着銅箔の厚さに対する前記電着銅箔の疲労寿命の比を示すことを特徴とする、請求項1乃至
8のいずれか一項に記載の電着銅箔。
【請求項10】
前記電着銅箔の厚さに対する前記電着銅箔の疲労寿命の比は、8回/μm~40回/μmの範囲であることを特徴とする、請求項
9に記載の電着銅箔。
【請求項11】
前記電着銅箔は、裸銅箔および前記裸銅箔上に配置された表面処理層を含み、前記ドラム側および前記電着側は、前記電着銅箔の両方の最外表面上にそれぞれ存在し、前記表面処理層の最外表面は、ドラム側または前記電着側であることを特徴とする、請求項1乃至
10のいずれか一項に記載の電着銅箔。
【請求項12】
前記表面処理層は、亜鉛-クロム層、クロム層、および有機層からなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴とする、請求項
11に記載の電着銅箔。
【請求項13】
請求項1~
12のいずれか1項に記載の前記電着銅箔、
少なくとも1種の結合剤、
および少なくとも1種の活性物質、を含む、
リチウムイオン二次電池用の電極。
【請求項14】
前記結合剤および前記活性物質は、前記電着銅箔の前記電着側と接触していることを特徴とする、請求項
13に記載のリチウムイオン二次電池用の電極。
【請求項15】
前記結合剤および前記活性物質は、前記電着銅箔の前記ドラム側と接触していることを特徴とする、請求項
13又は
14に記載のリチウムイオン二次電池用の電極。
【請求項16】
請求項
13~
15のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用の電極を含む、
リチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
開示の分野
本開示は、電着銅箔に関する。さらに、本開示は、前記電着銅箔を含むリチウムイオン二次電池にも関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、高エネルギーおよび高出力密度の両方を有し、このことが該二次電池を、携帯電話およびタブレット、動力工具、電気自動車(EV)、エネルギー貯蔵システム(ESS)、宇宙応用、軍事用途、および鉄道などの携帯型電子デバイスの分野のための電源として最有力な選択肢にしている。電気自動車には、ハイブリッド電気自動車(HEV)、プラグインハイブリッド電気自動車(PHEV)、および純粋なバッテリー自動車(BEV)が含まれる。
EVが大部分の化石燃料(例えば、ガソリン、ディーゼル燃料など)動力源輸送手段と置き換われば、リチウムイオン二次電池は、温室効果ガス排出を大きく減らす。さらに、リチウムイオン二次電池の高エネルギー効率は、風力、太陽、地熱および他の再生可能な資源から収集したエネルギーの品質の改善を含む種々の配電網用途におけるそれらの使用を可能にし、エネルギー持続可能な社会の広範な構築に繋がる。
【0003】
従って、リチウムイオン二次電池は、商業的企業ならびに政府機関および学術研究所の研究の注力対象になっている。この分野の研究開発が近年多く実施され、リチウムイオン二次電池が現在使用されているが、より高容量、より高い電流生成、およびより多くの充電/放電サイクルを可能にすることによりそれらの使用寿命を延長可能な電池に向けた改善の必要性が残されている。さらに、電気自動車および携帯用電子機器などのいくつかの分野での利用の改善に有益になり得る、リチウムイオン二次電池の重量の低減がまだ必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
リチウムイオン二次電池は通常、その上に活物質を沈着させる金属箔の集電体を含み、その活物質は通常、結合剤および活性物質を含む。銅箔は、銅が良好な電気伝導度を有するために、集電体としての使用に特に好適である。開発は軽量化に向かっているので、集電体は、より薄くして、リチウムイオン二次電池のサイズおよび重量を減らす必要がある。さらに、リチウムイオン二次電池の容量を高めるために、ケイ素(Si)、ゲルマニウム(Ge)、およびスズ(Sn)などの材料が高容量活物質と混合され、リチウムイオン二次電池中に充填されるので、活物質の膨張および収縮が増大し、活物質が接触している銅箔に加わる応力が高くなる。さらに、リチウムイオン二次電池の容量を高めるために、銅箔は、折り畳まれ、または折り曲げられ、および巻き付けられる。電池の使用中に銅箔が活物質の膨張および収縮に耐えることができずに、またはリチウムイオン二次電池の製造プロセス中で折り畳みおよび巻き上げに耐えることができずに亀裂を生じると、リチウムイオン二次電池のサイクル特性が悪影響を受ける。
【0005】
すなわち、リチウムイオン二次電池として使用するために、依然として銅箔の改善の必要性が残されている。
例えば、銅箔と活物質との間の接着強度は、負極活物質と銅箔との間の剥離により生ずる破壊または高充放電サイクル下での銅箔の破壊を回避するために、依然として改善の必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の態様では、本開示は、ドラム側およびドラム側に相対する電着側を含む電着銅箔を提供し、ドラム側および電着側の少なくとも片方は0.17μm3/μm2~1.17μm3/μm2の範囲の空隙容積(Vv)を示し、ドラム側の最大高さ(Sz)と電着側のSzとの間の差の絶対値は0.60μm未満の範囲にある。
【0007】
ドラム側は、0.17μm3/μm2~1.17μm3/μm2の範囲のVvを示し、電着側も同様に、0.17μm3/μm2~1.17μm3/μm2の範囲のVvを示すのが好ましい。
【0008】
ドラム側のVvと電着側のVvとの間の差の絶対値(すなわち、ΔVv)は、0.80μm3/μm2を超えないのが好ましい。いくつかの実施形態では、ΔVvは、0.00μm3/μm2~0.70μm3/μm2の範囲である。
上記の電着銅箔の表面性状または表面特徴は、リチウムイオン二次電池に適用されると、特性または最終性能に影響する場合がある。
【0009】
本願の特徴には、電着銅箔の表面の空隙容積が含まれる。ISO25178-2:2012の標準法の負荷面積率曲線に基づいて、空隙容積は、指定材料比(mr)の高さで負荷面積率曲線により囲まれている面積を積分することにより計算される。Vvは、電着銅箔の特定の表面上の単位面積当たりの細孔の合計容積である。
図1の左側には、電着銅箔のドラム側または電着側の三次元表面を示す。これによって、
図1の右側に示す対応する負荷面積率曲線が得られる。最も高いピークの先端のmrを0%に設定し、最も深い谷の底部を100%に設定する。Vvは、水平切取り面(0%と100%との間の指定材料比に対応するその高さ)未満の領域と谷の底部の全てを超える領域とで囲まれた細孔の体積を積分することにより計算される。例えば、mrが100%のときは、対応するVvはゼロであり、対照的に、mrが0%のときは、対応するVvは最大である。別段の指定がない限り、本明細書で記載されたVvは、mrが10%での空隙容積を意味し、これは、
図1のVvとして示される面積である。
【0010】
さらに
図2を参照する。コア部空隙容積(Vvc)は、第1の材料比と第2の材料比との間の空隙容積の差である。別段の指定がない限り、本明細書で記載のVvcは、第1の材料比10%と第2の材料比80%との間の空隙容積の差であり、すなわち、面積は
図2のVvcとして示される。加えて、谷部空隙容積(valley void volume)とも呼ばれる谷部空隙容積(dale void volume)(Vvv)は、第2の材料比での空隙容積である。別段の指定がない限り、本明細書で記載されたVvvは、mrが80%での空隙容積、すなわち、
図2のVvvで示される面積である。手短に言えば、Vvは、VvcおよびVvvの合計である。
【0011】
いくつかの実施形態では、ドラム側および電着側の少なくとも片方が、0.16μm3/μm2~1.07μm3/μm2の範囲のVvcを示す。他の実施形態では、ドラム側は、0.16μm3/μm2~1.07μm3/μm2の範囲のVvcを示し、電着側も同様に、0.16μm3/μm2~1.07μm3/μm2の範囲のVvcを示す。
【0012】
いくつかの実施形態では、ドラム側および電着側の少なくとも片方が、0.01μm3/μm2~0.10μm3/μm2の範囲のVvvを示す。他の実施形態では、ドラム側は、0.01μm3/μm2~0.10μm3/μm2の範囲のVvvを示し、電着側も同様に、0.01μm3/μm2~0.10μm3/μm2の範囲のVvvを示す。
【0013】
本開示では、Szは、ISO25178-2:2012による特定の領域内の最大のピーク(Sp)のピーク高さ値および最も深い谷(Sv)のピット深さ値の合計として定義される。いくつかの実施形態では、ドラム側のSzと電着側のSzとの間の差の絶対値(すなわち、ΔSz)は、0.05μm以上で、0.59μm以下である。
いくつかの実施形態では、ドラム側および電着側の少なくとも片方が、1.24μm~3.25μmの範囲のSzを示す。他の実施形態では、ドラム側は、1.24μm~3.25μmの範囲のSzを示し、電着側は、1.24μm~3.25μmの範囲のSzを示す。
【0014】
電着銅箔は、裸銅箔およびその裸銅箔上に配置された表面処理層を含み、ドラム側および電着側は、電着銅箔の両方の最外表面上にそれぞれ存在し、表面処理層の最外表面は、ドラム側または電着側である。
本開示では、電着銅箔のドラム側および電着側は、電着銅箔の2つの相対する最外表面を指し、すなわち、ドラム側および電着側は、電着銅箔の最外表面の両側にそれぞれ位置する。
【0015】
これらの用語は、電着銅箔を製造するための製造工程に関連する。製造工程は、少なくとも、陰極ドラムが銅イオンおよび任意選択で他の添加剤(それに限定されないが、希土類金属および有機添加物など)を含む、銅電解質溶液中に浸漬される電着ステップを含む。直流での稼働下で、銅電解質溶液中の銅イオンが陰極ドラム上に電着され、裸銅箔を形成する。
裸銅箔は、所定の厚さに堆積すると、裸銅箔が陰極ドラムの表面から引き剥がされ、連続プロセスで巻き上げられる。裸銅箔が電着ステップ後に続けて表面処理に供されるか否かにかかわらず、電着銅箔の2つの相対する最外表面は、本明細書では、裸銅箔が、陰極ドラムおよび銅電解質溶液に関係するという関係性により規定される。それらの内で、裸銅箔の陰極ドラムの表面に接触している側は、「ドラム側」と呼ばれ、ドラム側に相対する裸銅箔のもう一方の側は、「電着側」と呼ばれる。
【0016】
一実施形態では、電着銅箔は、電着ステップ後に製造された裸銅箔であり得、これは、何ら表面処理のない裸銅箔である。即ち、陰極ドラムの表面に近接した裸銅箔の表面は、「ドラム側」と呼ばれ、一方、銅電解質溶液に近接した裸銅箔の表面は、「電着側」と呼ばれ、ドラム側および電着側の両方は、電着銅箔の最外表面上に存在する。他の実施形態では、電着ステップ後に片側表面処理が実施され、得られた電着銅箔は、裸銅箔および裸銅箔上に配置された1つの表面処理層を含む。例えば、陰極ドラムに近接する裸銅箔の表面上に片側表面処理が実施される場合では、表面処理層は、陰極ドラムに近接した裸銅箔の表面上に配置され、従って、「ドラム側」は、表面処理層の外表面を意味し、「電着側」は、銅電解質溶液に近接する裸銅箔の表面を意味し、ドラム側および電着側の両方は、電着銅箔の最外表面上に存在する。別の実施形態では、電着ステップ後に両側表面処理が実施され、得られた電着銅箔は、裸銅箔および裸銅箔上に配置された2つの表面処理層を含む。従って、「ドラム側」は、陰極ドラムに近接した銅箔の表面上に配置された表面処理層の外表面を意味し、「電着側」は、銅電解質溶液に近接した銅箔の表面上に配置された別の表面処理層の外表面を意味し、ドラム側および電着側の両方は、電着銅箔の最外表面上に存在する。
【0017】
好ましくは、表面処理層は、亜鉛-クロム層、クロム層、および有機層からなる群より選択される少なくとも1種である。例えば、クロム層は、コーティング塗料により形成されるクロムコーティングであり得、またはクロム層は、電気メッキにより形成されるクロムメッキであり得るが、これらに限定されない。
【0018】
本開示の第1の態様によるいくつかの追加の特性は、以下をさらに含み得る。好ましくは、電着銅箔は、2μm~25μmの範囲の厚さを有する。一実施形態では、電着銅箔は、5回/μm(times/μm)超の範囲の電着銅箔の厚さに対する電着銅箔の疲労寿命比をさらに示す。好ましくは、電着銅箔の厚さに対する電着銅箔の疲労寿命比は、8回/μm~40回/μmの範囲である。
【0019】
第2の態様では、本開示は、上記電着銅箔を含む、リチウムイオン二次電池のための電極を提供する。電着銅箔は、リチウムイオン二次電池の集電体としての使用に特に好適である。
【0020】
一般に、電極は、少なくとも1種の結合剤および少なくとも1種の活性物質をさらに含む。いくつかの実施形態では、結合剤および活性物質は、電着銅箔の電着側と接触している。別の実施形態では、結合剤および活性物質は、電着銅箔のドラム側と接触している。
加えて、本開示は、リチウムイオン二次電池を提供し、これは、リチウムイオン二次電池のための上記電極を含む。具体的には、リチウムイオン二次電池は、正極、負極および電解質溶液を含む。いくつかの実施形態では、正極および負極は、リチウムイオン二次電池中でセパレーターにより分離される。
【0021】
本明細書で記載の電着銅箔は、例えば、それらがリチウムイオン二次電池中に使用されると、優れた特性を示す。高容量で軽いリチウムイオン二次電池の製造を可能にすることに加えて、これらの電着銅箔で作製されたリチウムイオン二次電池は、優れた充放電サイクリング特性を有する。具体的には、本開示の電着銅箔は、電着銅箔の両面のVvおよび電着銅箔の両面間のSzの差の絶対値の上記特徴を有するので、リチウムイオン二次電池に適用される場合、電着銅箔は、活物質に対する優れた接着強度を有し、それにより、充放電サイクリング中に活物質が電着銅箔の表面から容易に剥離される状態を改善、または電着銅箔の破壊の発生を低減できる。従って、リチウムイオン二次電池のサイクル寿命性能がより良くなる。
【0022】
本明細書では、電着銅箔は、数値化できる特性を有し、集電体として使用した場合、良好な性能が得られる。例えば、電着銅箔は、活物質と組み合わせて、リチウムイオン二次電池用の負極を提供できる。いくつかの実施形態では、電着銅箔は、銅箔のVvおよび銅箔の両面間のSzの差の絶対値を特徴とする。
【0023】
いくつかの実施形態では、電着銅箔のドラム側および/または電着側のVvは、0.17μm3/μm2~1.17μm3/μm2の範囲である。Vvが低すぎる(0.17μm3/μm2未満などの)場合には、弱すぎるアンカー効果に起因して、銅箔の活物質に対する接着が不十分である。他方では、Vvが高すぎる(1.17μm3/μm2超などの)場合には、活物質で谷を満たすことも、均一に、効果的に電着銅箔の表面をコートすることもできず、従って、電着銅箔の活物質への接着は、この場合も不十分である。手短に言えば、Vvが低すぎるおよび高すぎる場合には、活物質の電着銅箔への接着はより不十分になり、従って、前述の電着銅箔で作製した電池は、より不十分な電池特性を示すことになる。
【0024】
電着銅箔のドラム側または電着側の少なくとも片側が、上記範囲内のVvを有し、ドラム側および電着側のVvは、独立に選択されたパラメーターである。上述の範囲は連続的であり、いずれかの次の値(次記の値の単位は、μm3/μm2である)として表し得ることを理解されたい。
0.17、0.18、0.19、0.20、0.21、0.22、0.23、0.24、0.25、0.26、0.27、0.28、0.29、0.30、0.31、0.32、0.33、0.34、0.35、0.36、0.37、0.38、0.39、0.40、0.41、0.42、0.43、0.44、0.45、0.46、0.47、0.48、0.49、0.50、0.51、0.52、0.53、0.54、0.55、0.56、0.57、0.58、0.59、0.60、0.61、0.62、0.63、0.64、0.65、0.66、0.67、0.68、0.69、0.70、0.71、0.72、0.73、0.74、0.75、0.76、0.77、0.78、0.79、0.80、0.81、0.82、0.83、0.84、0.85、0.86、0.87、0.88、0.89、0.90、0.91、0.92、0.93、0.94、0.95、0.96、0.97、0.98、0.99、1.00、1.01、1.02、1.03、1.04、1.05、1.06、1.07、1.08、1.09、1.10、1.11、1.12、1.13、1.14、1.15、1.16、および1.17(これらに限定されない)。上記特定の値のそれぞれは、別の値の範囲の端点を表し得る。
【0025】
電着銅箔のΔSzは、まさに上記範囲内にある。上述の範囲は連続的であり、いずれかの次の値(次記の値の単位は、μmである)として表し得ることを理解されたい。
0.60、0.58、0.56、0.54、0.52、0.50、0.48、0.46、0.44、0.42、0.40、0.38、0.36、0.34、0.32、0.30、0.28、0.26、0.24、0.22、0.20、0.18、0.16、0.15、0.14、0.12、0.10、0.09、0.08、0.07、0.06、0.05、0.04、0.03、0.02、0.01、0.00(これらに限定されない)。上記特定の値のそれぞれは、別の値の範囲の端点を表し得る。ΔSzが上述の範囲内に存在しない場合は、電着銅箔は、皺になりがちである。
【0026】
同様に、0.16μm3/μm2~1.07μm3/μm2の範囲内のVvcはまた、連続的であり、上記範囲内のいずれかの特定の値は、別の値の範囲の端点を表し得る。0.01μm3/μm2~0.10μm3/μm2の範囲内のVvvはまた、連続的であり、上記範囲内のいずれかの特定の値は、別の値の範囲の端点を表し得る。
【0027】
本開示では、ΔVvはまた、連続的な範囲であり、上記範囲内のいずれかの特定の値は、別の値の範囲の端点を表し得る。
【0028】
本開示では、ドラム側および/または電着側はそれぞれ、1.24μm~3.25μmの範囲のSzを有し、これは連続的な範囲であり、上記範囲内のいずれかの特定の値は、別の値の範囲の端点を表し得る。
【0029】
本開示では、「疲労寿命」は、曲げ特性に関連する定量的測定値である。以降で、疲労寿命試験が詳細に記述される。銅箔の曲げ特性は、電着銅箔接着性の導電性炭素含有物質などの活物質に対する接着に影響を与え得るので、リチウムイオン二次電池の性能が影響を受けることになる。電着銅箔の厚さは、電着銅箔の疲労寿命性能に影響するので、銅箔の耐屈曲性は、本開示では、単位厚さ当たりの疲労寿命、すなわち、電着銅箔の厚さに対する電着銅箔の疲労寿命の比、で表される。いくつかの実施形態では、本開示の電着銅箔は、高い耐屈曲性を有する。いくつかの実施形態では、電着銅箔の厚さに対する電着銅箔の疲労寿命の比は、5回/μm超であり、例えば、比は、限定されないが、8回/μm、10回/μm、20回/μmまたは30回/μmであり得る。この比が低すぎると、電着銅箔は容易に破壊し、充放電サイクリング中に不合格となる。
【0030】
いくつかの実施形態では、電着銅箔は、限定されないが、積層型リチウムイオン電池またはコイン型リチウムイオン電池などのリチウムイオン二次電池の形成に使用できる。
【0031】
いくつかの実施形態では、電着銅箔の表面が負極活物質でコートされ、負極が形成される。
【0032】
いくつかの実施形態では、電着銅箔は、ドラム側および/または電着側上に形成された変色防止層を含み得る。変色防止層は、腐食に起因するなどの劣化から電着銅箔を保護できる。
【0033】
本開示では、電着銅箔は、変色防止物質を含む溶液に浸漬する、またはそれを通す、または金属もしくは合金膜を裸銅箔上にさらにメッキ(例えば、電気メッキ)するなどの電着ステップから得られる裸銅箔のステップを含む任意の既知の表面処理方法により形成し得る。例えば、変色防止物質を含む溶液は、亜鉛(Zn)、クロム(Cr)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、モリブデン(Mo)、バナジウム(V)またはこれらの任意の組み合わせを含み得、または変色防止物質を含む溶液は、有機化合物を含み得る。処理は、連続的な場合もあり、また、電着銅箔製造の全体プロセスの一部である場合もある。
【0034】
充放電試験は、特定の電位が電池の正極および負極間に印加して電池を充電し、その後、負荷を介して正極および負極を接続し、負荷に電流を通過させて電池を放電させる試験を意味する。1回の充電および1回の放電の組み合わせは、1回の充放電サイクルを表す。充放電試験は、リチウムイオン二次電池が反復使用に対していかに良好な挙動をするかをシミュレートするために実施できる。「サイクル寿命」または「充放電サイクル寿命」は、試験をするリチウムイオン二次電池の容量がその初期容量の80%まで低下するまでに、リチウムイオン二次電池が実施できる充放電サイクルの数として定義される。
【0035】
いくつかの実施形態では、電着銅箔は、電池(例えば、リチウムイオン二次電池)用の集電体として使用でき、軽量、小型、独立、または携帯型電池を必要とするエレクトロニクスデバイスに使用される。例えば、エレクトロニクスデバイスは、限定されないが、乗り物(例えば、自動車、路面電車、バス、トラック、ボート、潜水艇、航空機)、コンピューター(例えば、マイクロコントローラ、ラップトップ、タブレット)電話(例えば、スマートフォン、無線電話)、個人用健康モニタリング装置(例えば、グルコースモニター、ペースメーカー)、動力工具(例えば、電気ドリル、チェーンソー)、照明器(例えば、フラッシュライト、非常用照明、信号など)、手持ち型の測定装置(例えば、pHメーター、空気監視装置)、および居住ユニット(例えば、宇宙船、トレーラー、家、飛行機、潜水艇中の)を含み得る。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】負荷面積率プロットでの概略Vvプロットを示す図である。
【
図2】負荷面積率プロットでの概略VvcおよびVvvプロットを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
当業者なら以下の実施例から本開示の利点および効果を容易に理解できる。従って、本明細書で提案される記述は、例示のみの目的の単なる好ましい実施例であり、本発明の範囲を限定することを意図するものではないことを理解されたい。本開示の趣旨および範囲から逸脱することなく、本開示を実施または適用するために様々な修正および変更をなし得るであろう。
【0038】
電着銅箔
実施例1~7(E1~E7)、比較例1~7(C1~C7):電着銅箔
電着銅箔を作製するための製造装置は、電着装置、一連のガイドローラーおよび表面処理装置を含む。電着装置は、回転可能陰極ドラムおよび不溶性陽極、銅電解質溶液ならびに供給管を含む。不溶性陽極は、陰極ドラムの下半分に配置され、陰極ドラムを取り囲む。陰極ドラムおよび陽極板は、互いに間隔を置いて配置され、銅電解質溶液を供給管を通って導入可能にする。表面処理装置は、変色防止処理タンクおよびそれらの間に配置された電極板を含む。
【0039】
下の表1に示される実施例1、4~7および比較例4を作製する製造プロセス中に、不溶性陽極を陽極袋(製品モデル:BEIP308W10L20、Taiwan Grace International Corp製)で覆った。陽極袋に不溶性陽極を封入したが、銅電解質溶液の液面より上の上端で解放した。これにより、酸素の気泡が銅電解質溶液から流出し、不溶性陽極の表面から離れることを可能にした。
【0040】
電着ステップでは、連続直流を印加して、陰極ドラムと不溶性陽極との間で銅電解質溶液流を形成し、銅電解質溶液中で銅イオンを作成して、陰極ドラムの表面上に継続的に電着させることにより、裸銅箔を形成した。その後、裸銅箔を陰極ドラムから剥離させ、ガイドローラーの1つに誘導した。その後、裸銅箔を表面処理装置に移し、変色防止処理に供した。変色防止溶液を満たした変色防止処理タンク中に裸銅箔を浸漬し、電極板を用いることにより、裸銅箔の相対する両方の面に連続的電気メッキを適用して、裸銅箔の両方の表面上にそれぞれ付着した2つの表面処理層(すなわち、変色防止層)を形成した。
【0041】
銅電解質溶液の組成および電着ステップの製造パラメーターは以下に記載の通りである。
1.銅電解質溶液の組成
(1)50重量%:1リットル当たり75g(g/L)の硫酸濃度
(2)硫酸銅(CuSO4・5H2O):280g/L
(3)塩化物イオン(HCl由来、RCI Labscan Ltd.から購入):1リットル当たり15ミリグラム(mg/L)
(4)クエン酸セリウム(Ce(SO4)2):1リットル当たり0ミリグラム(mg/L)~55mg/L(Sigma-Aldrichから購入)
E1~E7およびC1~C7の電着銅箔を作製するために使用された銅電解質溶液中のクエン酸セリウムの含量比は、表1に記載した。
2.製造パラメーター
(1)銅電解質溶液の温度:40℃
(2)電流密度:1平方デシメートルあたり33アンペア/(A/dm2)~65A/dm2
E1~E7およびC1~C7の電着銅箔を作製するために適用された電流密度は、表1に記載した。
【0042】
変色防止溶液の組成および変色防止処理の製造パラメーターは以下に記載の通りである。
1.変色防止溶液の組成:クロム酸(CrO3):1500mg/L(Sigma-Aldrichから購入)
2.製造パラメーター:
(1)変色防止溶液の温度:25℃
(2)電流密度:0.5A/dm2
(3)メッキ時間:1秒(sec)
【0043】
分析1:電着銅箔の単位面積当たりの重量および平均厚さ
実施例1~7および比較例1~7のそれぞれの電着銅箔を、100mmの長さおよび幅の試験試料に切断し、微量天秤AG-204(Mettler Toledo International Inc.から購入)で各試料を秤量し、さらに、各試験試料の測定重量値をその面積で除算することにより、それぞれの電着銅箔の単位面積当たりの重量を得た(単位:g/m2)。
【0044】
さらに、IPC-TM-650 2.4.18標準法によると、電着銅箔の密度は約8.909g/cm3であった。次に、E1~E7およびC1~C7の電着銅箔のそれぞれの平均厚さを次の式(I)により計算した。その結果、E1~E7およびC1~C7の電着銅箔のそれぞれの単位面積当たりの重量および平均厚さを、表1に記載した。
平均厚さ(μm)=単位面積当たりの重量(g/m2)/電着銅箔の密度(g/m3)(I)
【0045】
【0046】
分析2:電着銅箔の表面性状分析
E1~E7およびC1~C7のそれぞれの電着銅箔の表面性状をレーザー走査型共焦点顕微鏡により観察し、得られた画像を取得した。さらに、E1~E7およびC1~C7の電着銅箔のドラム側および電着側のそれぞれのVv、VvcおよびVvvをISO25178-2:2012の標準法に準拠して分析し、分析結果を表2に記載した。加えて、関連装置および試験条件を以下のように記録した。
1.装置
(1)レーザー走査型共焦点顕微鏡:モデルLEXT OLS5000-SAF、Olympus製
(2)対物レンズ:MPLAPON-100xLEXT
2.試験条件
(1)分析環境:24±3℃の温度、および63±3%の相対湿度
(2)光源:405nmの波長
(3)対物レンズ倍率:100x倍率
(4)光学ズーム:1.0x
(5)画像領域:129μmx129μm
(6)解像度:1024ピクセルx1024ピクセル
(7)条件設定:自動傾き除去
(8)フィルター設定:フィルターなし
Vvは、10%の材料比で計算した。
さらに、Vvvは、80%の材料比で計算した。
さらに、VVcは、10%と80%の材料比の間の空隙容積の差であった。
【0047】
分析3:電着銅箔のSz分析
ISO25178-2:2012の標準法に準拠して、E1~E7およびC1~C7の電着銅箔のドラム側および電着側のそれぞれのSzを測定し、次に、各群のドラム側のSzと電着側のSzとの間の得られた差の絶対値をそれぞれ計算し、分析結果を表2に記載した。さらに、関連試験条件を分析2と同様に記録した。
【0048】
【0049】
分析4:電着銅箔の疲労寿命分析
標準法IPC-TM-650 2.4.2.1に準拠して、E1~E7およびC1~C7の電着銅箔のそれぞれの疲労寿命を疲労柔軟性試験機により測定した。
【0050】
実施例および比較例のそれぞれの電着銅箔を縦方向(「MD」)が200mmの薄い帯状試験試料に切断した。その後、薄い帯状試験試料を、薄い帯状試験試料がサンプルホルダーから滑り落ちないように粘着テープを用いて重りをつるしたサンプルホルダーに取り付けた。次に、設定直径のマンドレルを用いて、試験試料の中央部を急速に上下に振動させた。疲労柔軟性試験機を用いて、試験試料の表面が破壊するまでの振動の回数を数え、分析結果を表3に記載した。さらに、各電着箔の疲労寿命の電着銅箔の厚さに対する比を計算し、その比も表3に記載した。また、関連試験条件は以下の通りであった。
1.疲労柔軟性試験機:モデル3FDF(Jovil Universal Manufacturing Companyから購入)
2.試験試料のサイズ:長さ200mmおよび幅12.7mm
3.マンドレルの直径:0.8mm
4.振動数:毎分100回
5.引張荷重:84.6g
【0051】
【0052】
リチウムイオン二次電池のための電極
実施例1-A~7-Aおよび比較例1-A~7-A:電極
E1~E7およびC1~C7の電着銅箔のそれぞれ(すなわち、ドラム側および電着側)の2つの相対する最外表面上に負極スラリーをそれぞれコートした。乾燥完了後、コーティングされた電着銅箔をプレス成形機により加圧加工してリチウムイオン二次電池用の負極を得た。これは、実施例1-A~7-Aおよび比較例1-A~7-A用の電極であった。この場合、負極スラリーは、100重量部の負極活物質および60重量部の1-メチル-2-ピロリドン(「NMP」)から構成された。負極活物質の組成および関連する製造パラメーターを以下に記載した。
1.負極活物質の組成
(1)メソフェーズ黒鉛粉末(「MGP」):93.9重量%
(2)導電性添加物:1重量%の導電性カーボンブラック(Super P(登録商標))
(3)溶媒系結合剤:5重量%のポリ-1,1-ジフルオロエテン(PVDF6020)
(4)シュウ酸:0.1重量%
2.製造パラメーター
(1)コーティング速度:1分当たり5メートル(m/分)
(2)コーティング厚さ:200μm
(3)乾燥温度:160℃
(4)プレス成形機のローラーの材料、サイズおよび硬度:高炭素クロム軸受鋼(SUJ2);250mmx250mm;62~65HRC
(5)速度および圧:1m/分;3000ポンド/平方インチ(psi)
【0053】
分析5:湿潤密着性試験
各電極を設定サイズの試験試料に切断し、特定の期間にわたり特定の電解質溶液中に浸漬した。負極材料が電着銅箔から剥離した、または電着銅箔上で膨潤した場合、電着銅箔と負極材料との間の接着強度が不十分であると見なされ、これは「不合格」と評価された。これに対して、層間剥離または膨潤がない場合には、「合格」と評価された。また、関連試験条件は以下の通りであった。
1.試験試料サイズ:100mmx100mm
2.電解質溶液:モデル:LBC322-01H、Shenzhen Capchem Technology Co,Ltd.製)
3.浸漬温度および時間:60℃、4時間
実施例1-A~7-A(E1~E7の電着銅箔をそれぞれ含む)および比較例1-A~7-A(C1~C7の電着銅箔をそれぞれ含む)のリチウムイオン二次電池用の電極の分析結果を表4に記載した。
【0054】
分析6:電極に含まれる電着銅箔のしわ試験
実施例1-A~7-Aおよび比較例6-Aおよび7-Aのリチウムイオン二次電池用の電極は、湿潤密着性試験に合格したので、電極の当該電着銅箔および負極活物質は、一定の接着強度を有することを示し、これは、負極活物質がコーティングプロセス中に引き剥がされないはずであることを保証できるので、電極に含まれるそれぞれの電着銅箔をしわ試験にさらに供した。そのため、E1~E7およびC6およびC7の電着銅箔の別の試験試料を採取した。
次に、負極スラリーを試験試料の両面上にコートし、直接乾燥したその後、上述の試料をそれぞれ、2つの水平に固定した700mmの間隔のローラーの間に配置した。次に、試験試料に10kgの張力を加えたときに、試験試料の表面のしわを目視観察した。表面上にしわがない場合には、「合格」と評価されたが、表面上に何らかのしわがある場合には、「不合格」と評価された。分析結果を表4に記載した。また、関連試験条件は以下の通りであった。
1.負極スラリーコートの厚さ:200μm
2.乾燥温度:160℃
【0055】
リチウムイオン二次電池
実施例1-B~7-Bおよび比較例1-B~7-B:リチウムイオン二次電池
前述の実施例1-A~7-Aおよび比較例1-A~7-Aの負極は、正極とさらに組み合わせて、実施例1-B~7-Bおよび比較例1-B~7-Bのリチウムイオン二次電池を形成できる。
【0056】
具体的には、リチウムイオン二次電池の正極は、大略次のステップにより作製され得る。
正極スラリーをアルミニウム箔上にコートした。含有溶媒の留去後、コートしたアルミニウム箔をプレス成形機で加圧加工し、正極を得た。この場合、正極スラリーは、100重量部の正極活物質および195重量部の「NMP」から構成された。正極活物質の組成を以下に記載した。
1.正極活性物質:酸化リチウムコバルト(III)(LiCoO2):89重量%、
2.導電性添加物
(1)薄片化黒鉛(KS6):5重量%
(2)導電性カーボンブラック(Super P):1重量%
3.溶媒系結合剤:ポリ-1,1-ジフルオロエテン(PVDF1300):5重量%
その後、正極および負極を特定のサイズに切断した後、正極および負極を、これらの間に挟む微多孔性セパレーター(モデル:Celgard 2400、Celgard Company製)と共に交互に積層し、電解質溶液(モデル:LBC322-01H、Shenzhen Capchem Technology Co,Ltd.から購入)を満たしたプレス型中に入れた後、密閉して、積層型リチウムイオン二次電池を形成した。積層型リチウムイオン二次電池のサイズは、41mmx34mmx53mmであった。
【0057】
分析7:サイクル寿命試験
実施例1-B~7-Bおよび比較例1-B~7-Bのリチウムイオン二次電池を試験試料として、充放電サイクル試験に供した。充放電サイクル試験の具体的試験条件は以下の通りである。
1.充電モード:定電流-定電圧(CCCV)
(1)充電電圧:4.2ボルト(V)
(2)充電電流:5C
2.放電モード:定電流モード(CC)
(1)放電電圧:2.8V
(2)放電電流:5C
(3)試験温度:55℃
サイクル寿命を、リチウムイオン二次電池の容量がその初期容量の80%に低下したときに、試験下のリチウムイオン二次電池が受けた充放電サイクルの回数と定義した。実施例1-B~7-B(E1~E7の電着銅箔をそれぞれ含む)および比較例1-B~7-B(C1~C7の電着銅箔をそれぞれ含む)のリチウムイオン二次電池のサイクル寿命分析結果を同様に表4に記載した。
【0058】
【0059】
実験結果の考察
表2~4の結果から、E1~E7の電着銅箔が、ドラム側および電着側の少なくとも片方が適切な範囲のVv(すなわち、Vvは0.17μm3/μm2~1.17μm3/μm2の範囲である)を有し、ΔSzを適切な範囲(すなわち、ΔSzは0.60μm未満である)に制御するので、E1~E7の電着銅箔は、疲労寿命試験で50回以上を達成する良好な機械的特性を有するのみでなく、より重要なのは、実施例1-A~7-Aの電極では、電着銅箔のドラム側および電着側が負極活物質に対する十分な接着強度を有し、それにより、しわ試験の合格に加えて、湿潤密着性試験に合格できる。
さらに、実施例1-B~7-Bのリチウムイオン二次電池の充放電サイクル寿命では、800回以上のサイクル寿命を達成できる。これは、本開示の電着銅箔が実際に、改善された機械的性質および優れた抗しわ特性を有し、それにより、電着銅箔のしわおよび破壊の発生を減らす、あるいは回避することを実証した。
【0060】
C1~C7の電着銅箔に関しては、ドラム側および電着側では、上記2つの特性が同時に制御されなかったので、C1~C7の電着銅箔の疲労寿命分析結果は全て悪化した。加えて、比較例1-A~5-Aの電極が湿潤密着性試験に不合格であったという結果から、電着銅箔のドラム側および電着側の少なくとも片方のVvは、適切な範囲内に制御されず、そのため、電着銅箔のドラム側および電着側の少なくとも片方が比較例1-A~5-Aの電極の負極活物質に対し十分な接着強度を有していなかったということがわかる。
加えて、比較例6-Aおよび7-Aの電極は、湿潤密着性試験に合格したが、まだ、しわの発生があった。従って、比較例1-B~7-Bのリチウムイオン二次電池の全てのサイクル寿命は、800回未満であり、そのサイクル寿命性能は、実施例1-B~7-Bのリチウムイオン二次電池の値より有意に劣っていた。
【0061】
C1~C7の電着銅箔の特性のさらなる分析により、C6およびC7の電着銅箔のドラム側および電着側の少なくとも片方のVvは、それぞれ、適切な範囲内に制御されたが、C6およびC7の電着銅箔のΔSzは、適切な範囲内に制御されなかったので、C6およびC7の電着銅箔は、しわ試験に合格できず、C6およびC7の電着銅箔を含む比較例6-Bおよび7-Bのリチウムイオン二次電池のサイクル寿命は、まだ800回を達成しなかったことが示される。
比較例6-Bおよび7-Bのリチウムイオン二次電池は、依然として、それぞれが不十分なサイクル寿命を有した。上記の結果から、電着銅箔の最外表面の1つ(すなわち、ドラム側または電着側)のVvおよび両最外表面のΔSzは、同時には適切な範囲内に制御できず、電着銅箔がリチウムイオン二次電池に適用される場合、そのサイクル寿命を延長できないことがわかる。
【0062】
さらに、実施例1、6および7の実験結果から、本開示では、実施例6のより薄い厚さ(2.9μm)を有する電着銅箔、実施例1の一般的厚さ(6.0μm)を有する電着銅箔または実施例7のより大きい厚さ(21.0μm)を有する電着銅箔では、3種類全ての電着銅箔が同じ良好な耐屈曲性を得られるということがわかる。これは、本開示の技術的手段が実際に、電着銅箔の加工性および耐久性を改善することを示した。電着銅箔が同一条件下で作製される場合、厚さに対する疲労寿命の比がほぼ同じであり、これは、全ての異なる厚さを持つ電着銅箔が本開示の技術的手段によりそれらの疲労寿命を延長できることを意味する。特に、より薄い電着銅箔に対しては、従来のより薄い電着銅箔は、ほとんどの場合、不十分な疲労寿命の問題がある。しかし、実施例6の電着銅箔の厚さに対する電着銅箔の疲労寿命の比は、実施例1および実施例7の電着銅箔の厚さに対する疲労寿命の比とほぼ同じであった。従って、本開示は、薄い電着銅箔の疲労寿命の延長に関し、より強い効果を有することがわかる。
【0063】
まとめると、本開示は、電着銅箔のドラム側および/または電着側の表面性状特性(すなわち、Vv)を同時に調節し、ドラム側および電着側のプロファイル特性(すなわち、ΔSz)を制御して、電着銅箔の機械的強度を特に高め、電着銅箔と活物質間の接着強度も強化でき、それにより、リチウムイオン二次電池の充放電サイクル寿命の延長、および電池性能の改善を実現する。
【0064】
上記実施形態は、記述の便宜のための例示に過ぎず、これらの実施形態は本開示の特許請求の範囲を制限するために使用されるものではない。本開示の内容を逸脱することなく実施される全ての他の変更または修正は全て、本開示に包含される特許請求の範囲に含まれるべきである。