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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-24
(45)【発行日】2022-03-04
(54)【発明の名称】マルチレベルコンバータの動作方法
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/49 20070101AFI20220225BHJP
   H02M 7/12 20060101ALI20220225BHJP
【FI】
H02M7/49
H02M7/12 X
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021534309
(86)(22)【出願日】2018-12-18
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-19
(86)【国際出願番号】 EP2018085524
(87)【国際公開番号】W WO2020125950
(87)【国際公開日】2020-06-25
【審査請求日】2021-08-25
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】521001582
【氏名又は名称】シーメンス エナジー グローバル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング ウント コンパニー コマンディートゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】SIEMENS ENERGY GLOBAL GMBH & CO. KG
(74)【代理人】
【識別番号】110003317
【氏名又は名称】特許業務法人山口・竹本知的財産事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100075166
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 巖
(74)【代理人】
【識別番号】100133167
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100169627
【弁理士】
【氏名又は名称】竹本 美奈
(72)【発明者】
【氏名】アル-アレキ,サンアド
(72)【発明者】
【氏名】チョードリー,アドナン
(72)【発明者】
【氏名】フッセンネザー,フォルカー
【審査官】栗栖 正和
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-135918(JP,A)
【文献】特開2017-169299(JP,A)
【文献】特許第6783419(JP,B1)
【文献】国際公開第2017/029327(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0161987(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/49
H02M 7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の相モジュール(400,400’,400”)を備えたマルチレベルコンバータ(800)を動作させるための方法であって、
前記マルチレベルコンバータ(800)の第1の直流電圧接続部(16)と第2の直流電圧接続部(17)との間に、前記複数の相モジュール(400,400’,400”)が互いに並列接続されて配置されており、
前記複数の相モジュール(400,400’,400”)が、それぞれ複数のモジュール(1_1…1_n;2_1…2_n;408_1…408_n)を有し、前記複数のモジュール(1_1…1_n;2_1…2_n;408_1…408_n)が、それぞれ少なくとも2つの電子スイッチング要素(902、906)とエネルギ蓄積器(910)とを有し、
前記複数の相モジュール(400,400’,400”)のそれぞれが、前記第1の直流電圧接続部(16)に接続されている第1の相モジュールアーム(11,11’,11”)と、前記第2の直流電圧接続部(17)に接続されている第2の相モジュールアーム(13,13’,13”)と、フルブリッジ回路を備えた少なくとも1つのモジュール(408_1)を有するとともに、前記第1の相モジュールアーム(11,11’,11”)を前記第2の相モジュールアーム(13,13’,13”)に接続する第3の相モジュールアーム(404,404’,404”)と、スイッチング装置(420,420’,420”)とを有し、
前記スイッチング装置(420,420’,420”)が、第1のスイッチング位置(421)において、前記複数の相モジュール(400,400’,400”)の交流電圧接続部(5,5’,5”)を、前記第1の相モジュールアーム(11,11’,11”)と前記第3の相モジュールアーム(404,404’,404”)との間の第1の接続点(412,412’,412”)に接続すると共に、第2のスイッチング位置(422)において、前記交流電圧接続部(5,5’,5”)を前記第3の相モジュールアーム(404,404’,404”)と前記第2の相モジュールアーム(13,13’,13”)との間の第2の接続点(416,416’,416”)に接続する、マルチレベルコンバータ(800)を動作させるための方法において、
前記複数の相モジュール(400,400’,400”)のそれぞれについて、前記第1の相モジュールアーム(11,11’,11”)のエネルギと、前記第2の相モジュールアーム(13,13’,13”)のエネルギとの和に対する尺度であるエネルギ合計量(WΣ1,WΣ2,WΣ3)が決定され、
前記複数の相モジュール(400,400’,400”)のそれぞれについて、前記複数の相モジュール(400,400’,400”)のスイッチング装置(420,420’,420”)のスイッチング位置(421,422)に応じて、エネルギ差分量(WΔ1,WΔ2,WΔ3)が決定され、前記エネルギ差分量(WΔ1,WΔ2,WΔ3)が、
第1のスイッチング位置(421)においては、前記第2の相モジュールアーム(13,13’,13”)と前記第3の相モジュールアーム(404,404’,404”)とのエネルギの差に対する尺度であり、第2のスイッチング位置(422)においては、前記第1の相モジュールアーム(11,11’,11”)と前記第3の相モジュールアーム(404,404’,404”)とのエネルギの差に対する尺度であり、
前記相モジュールアーム(11,11’,11”,13,13’,13”,404,404’,404”)間のエネルギ不平衡を補償するために、前記複数の相モジュール(400,400’,400”)の前記エネルギ合計量(WΣ1,WΣ2,WΣ3)および前記エネルギ差分量(WΔ1,WΔ2,WΔ3)に応じて、前記マルチレベルコンバータ(800)の循環電流が調節される、
マルチレベルコンバータ(800)を動作させるための方法。
【請求項2】
前記複数の相モジュール(400,400’,400”)の全てのエネルギ合計量(WΣ1,WΣ2,WΣ3)からエネルギ合計空間ベクトルが生成され、前記エネルギ合計空間ベクトルに応じて、前記複数の相モジュール(400,400’,400”)間のエネルギ不平衡を補償するために、前記循環電流の直流成分が調節される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記複数の相モジュール(400,400’,400”)のそれぞれのエネルギ合計量(WΣ1,WΣ2,WΣ3)が、前記第1の相モジュールアーム(11,11’,11”)に印加される電圧(U)と前記第2の相モジュールアーム(13,13’,13”)に印加される電圧(U)とから決定される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記複数の相モジュール(400,400’,400”)の全てのエネルギ差分量(WΔ1,WΔ2,WΔ3)からエネルギ差分空間ベクトルが生成され、前記複数の相モジュール(400,400’,400”)の個々の相モジュールアーム(11,11’,11”,13,13’,13”,404,404’,404”)間のエネルギ不平衡を補償す
るために、前記エネルギ差分空間ベクトルに応じて、前記循環電流の正相分および逆相分が調節される請求項1から3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記複数の相モジュール(400,400’,400”)のそれぞれのエネルギ差分量(WΔ1,WΔ2,WΔ3)が、
前記複数の相モジュール(400,400’,400”)の前記スイッチング装置(420,420’,420”)の前記第1のスイッチング位置(421)においては、前記第2の相モジュールアーム(13,13’,13”)に印加される電圧(U)と前記第3の相モジュールアーム(404,404’,404”)に印加される電圧(U)とから決定され、
前記複数の相モジュール(400,400’,400”)の前記スイッチング装置(420,420’,420”)の前記第2のスイッチング位置(422)においては、前記第1の相モジュールアーム(11,11’,11”)に印加される電圧(U)と前記第3の相モジュールアーム(404,404’,404”)に印加される電圧(U)とから決定される、
請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記複数の相モジュール(400,400’,400”)のそれぞれの電気スイッチング装置(420,420’,420”)が、
前記第2のスイッチング位置(422)においては、前記複数の相モジュール(400,400’,400”)の前記交流電圧接続部(5,5’,5”)を第1の接続点(412,412’,412”)から分離し、
前記第1のスイッチング位置(421)においては、前記複数の相モジュール(400,400’,400”)の前記交流電圧接続部(5,5’,5”)を第2の接続点(416,416’,416”)から分離する、請求項の1から5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記第3の相モジュールアーム(404,404’,404”)のそれぞれの少なくとも1つのモジュール(408_1…408_n)が、正または負の極性の電圧を出力することができるように構成されている、請求項1から6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記第3の相モジュールアーム(404,404’,404”)のそれぞれの少なくとも1つのモジュール(408_1…408_n)が、フルブリッジ回路を有する、請求項1から7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記複数の相モジュール(400,400’,400”)のそれぞれの前記スイッチング装置(420,420’,420”)が、前記複数の(400,400’,400”)
の前記交流電圧接続部(5,5’,5”)に印加される交流電圧(Uac)の瞬時値に応じた前記スイッチング位置(421、422)をとる、請求項1から8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記複数の相モジュール(400,400’,400”)のそれぞれの前記スイッチング装置(420,420’,420”)は、前記複数の相モジュール(400,400’,400”)の前記交流電圧接続部(5,5’,5”)に印加される交流電圧(Uac)の瞬時値がゼロよりも大きいときに、前記第1のスイッチング位置(421)をとり、前記複数の相モジュール(400,400’,400”)のそれぞれの前記スイッチング装置(420,420’,420”)は、前記複数の相モジュール(400,400’,400”)の前記交流電圧接続部(5,5’,5”)に印加される交流電圧(Uac)の瞬時値がゼロよりも小さいときに、前記第2のスイッチング位置(422)をとる、又は、
前記複数の相モジュール(400,400’,400”)のそれぞれの前記スイッチング装置(420,420’,420”)は、前記複数の相モジュール(400,400’,400”)の前記交流電圧接続部(5,5’,5”)に印加される交流電圧(Uac)の瞬時値が第1の予め選択された電圧範囲にあるときに、前記第1のスイッチング位置(421)をとり、前記複数の相モジュール(400,400’,400”)のそれぞれの前記スイッチング装置(420,420’,420”)は、前記複数の相モジュール(400,400’,400”)の前記交流電圧接続部(5,5’,5”)に印加される交流電圧(Uac)の瞬時値が第2の予め選択された電圧範囲にあるときに、前記第2のスイッチング位置(422)をとる、
請求項1から9のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の相モジュールを備えたマルチレベルコンバータを動作させるための方法に関する。マルチレベルコンバータの複数の相モジュールは、マルチレベルコンバータの第1の直流電圧接続部と第2の直流電圧接続部との間に、互いに並列接続されて配置されており、かつそれぞれ少なくとも2つの電子スイッチング要素とエネルギ蓄積器とを有する。各相モジュールは、第1の直流電圧接続部に接続されている第1の相モジュールアームと、第2の直流電圧接続部に接続されている第2の相モジュールアームと、第1の相モジュールアームを第2の相モジュールアームに接続する第3の相モジュールアームとを有する。さらに、マルチレベルコンバータは、第1のスイッチング位置において相モジュールの交流電圧接続部を第1の相モジュールアームと第3の相モジュールアームとの間の第1の接続点に接続し、第2のスイッチング位置において前記交流電圧接続部を第3の相モジュールアームと第2の相モジュールアームとの間の第2の接続点に接続するスイッチング装置を有する。
【背景技術】
【0002】
マルチレベルコンバータ(モジュラマルチレベルコンバータとも称せられる)は、電気エネルギを変換するためのパワー電子回路である。マルチレベルコンバータにより、例えば、交流を直流に、又は直流を交流に変換することができる。マルチレベルコンバータは、電気的に直列に接続された多数の同タイプのモジュールを有する。モジュールを電気的に直列に接続することによって、高い出力電圧を達成することができる。マルチレベルコンバータは、容易に、異なる電圧に適合可能(拡張可能)であり、所望の出力電圧を比較的正確に生成することができる。マルチレベルコンバータは、高電圧範囲において、例えば、高電圧直流送電システムにおけるコンバータとして、又は無効電力補償装置として、有利に使用することができる。
【0003】
電気的直列接続回路におけるモジュールの数は、マルチレベルコンバータが必要な出力電圧を生成することができるように選択すべきである。しかし、たとえそうであっても、直列接続におけるモジュールの数は、モジュールに印加される電圧がマルチレベルコンバータの全ての動作状態において最大許容モジュール電圧を超えないように、十分に大きくなければならない。従って、その直列接続回路には、予め与えられた出力電圧を生成するために実際に必要とするよりも多い数のモジュールが存在しなければならない。これは、高コスト、高い電力損失およびマルチレベルコンバータ構造の大型化を招く。
【0004】
従来のマルチレベルコンバータの相モジュールは、それぞれ2つの相モジュールアームを有し、その一方は第1の直流電圧接続部に接続され、他方はマルチレベルコンバータの第2の直流電圧接続部に接続されている。
【0005】
本発明は、従来のマルチレベルコンバータとは違って、相モジュール毎に2つだけでなく3つの相モジュールアームを有する特別なマルチレベルコンバータに関する。このようなマルチレベルコンバータは、マルチレベルコンバータにおける1つの相モジュールの交流電圧接続部と第1の直流電圧接続部との間のモジュールの数を、必要に応じて、第3の相モジュールアームにおけるモジュールの数だけ増減することを可能にする。同様に、マルチレベルコンバータにおける1つの相モジュールの交流電圧接続部と第2の直流電圧接続部との間のモジュールの数を、第3の相モジュールアーム内のモジュールの数だけ増減することができる。言い換えれば、第3の相モジュールアームのモジュールは、必要に応じて第1の相モジュールアーム又は第2の相モジュールアームに割り当てることができる。
【0006】
従って、1つの相モジュールの第3の相モジュールアームのモジュールは、二重の機能を有する。その相モジュールのスイッチング装置のスイッチング位置に応じて、これらのモジュールは、その相モジュールの交流電圧接続部と第1の直流電圧接続部との間、又は交流電圧接続部と第2の直流電圧接続部との間に接続される。従って、1つの相モジュールの第3の相モジュールアームのモジュールは、その相モジュールの異なる電圧を生成するために使用される。1つの相モジュールのスイッチング装置が第1のスイッチング位置と第2のスイッチング位置との間で切換え可能であることによって、第3の相モジュールアームのモジュールは、1回存在しさえすればよい。これに対して、従来のマルチレベルコンバータの場合、追加のモジュールは、各相モジュールにおいて2回、即ち、1回は第1の(正側の)相モジュールアームに、1回は相モジュールの第2の(負側の)相モジュールアームに存在しなければならない。従って、特別なマルチレベルコンバータの各相モジュールにおける第3の相モジュールアームによって、相モジュール当たりに必要とされるモジュールの数は、従来のマルチレベルコンバータと比べて著しく低減することができる。これは、マルチレベルコンバータのサイズ、コンバータ損失およびコストの著しい低減にもつながる。必要なモジュールの25%を節約することが可能である。
【0007】
相モジュール毎に2つの相モジュールアームを有する従来のマルチレベルコンバータを動作させる場合、相モジュールアームに均等に負荷をかけるべく、個々の相モジュールアームに蓄積されるエネルギの間のエネルギ不平衡が補償される。その場合に、一方では、相モジュール間で、いわゆる水平エネルギ補償が実行され、他方では、各相モジュールの2つの相モジュールアーム間で、いわゆる垂直エネルギ補償が実行される。この目的のために、各相モジュールの2つの相モジュールアームのエネルギの和および差に応じて、相モジュール間および個々の相モジュールの相モジュールアーム間でエネルギを伝達するマルチレベルコンバータの循環電流が調節される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、相モジュール毎に3つの相モジュールアームを有する上述のマルチレベルコンバータにおける相モジュールアーム間のエネルギを補償するための方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この課題は、本発明によれば、請求項1記載の特徴事項を有する方法によって解決される。
【0010】
本発明の有利な実施形態は従属請求項に記載されている。
【0011】
本発明による方法では、マルチレベルコンバータの各相モジュールについて、第1の相モジュールアームおよび第2の相モジュールアームのエネルギの和に対する尺度であるエネルギ合計量(Energiesummengroesse)が決定される。さらに、各相モジュールについて、相モジュールのスイッチング装置のスイッチング位置に応じて、エネルギ差分量(Energiedifferenzgroesse)が決定され、そのエネルギ差分量は、スイッチング装置の第1のスイッチング位置においては、第2の相モジュールアームおよび第3の相モジュールアームのエネルギの差に対する尺度であり、スイッチング装置の第2のスイッチング位置においては、第1の相モジュールアームおよび第3の相モジュールアームのエネルギの差に対する尺度である。相モジュールの前記エネルギ合計量および前記エネルギ差分量に応じて、マルチレベルコンバータの循環電流が、相モジュールアーム間のエネルギ不平衡を補償するために調節される。
【0012】
従って、本発明では、エネルギ不平衡を補償するために、各相モジュールの第1の相モジュールアームと第2の相モジュールアームとのエネルギの和と、各相モジュールの第1又は第2のモジュールアームと第3の相モジュールアームとのエネルギの差とに応じて、マルチレベルコンバータの循環電流を調節する。第1および第3の相モジュールアームのエネルギの差を使用するか、又は第2および第3の相モジュールアームのエネルギの差を使用するかは、1つの相モジュールのスイッチング装置のスイッチング位置に依存する。本発明は、エネルギ補償のために、従来のマルチレベルコンバータの場合と同様に、マルチレベルコンバータの循環電流を調節することによって、従来のマルチレベルコンバータに使用される相モジュールアーム間のエネルギ補償原理を、相モジュール毎に3つの相モジュールアームを有する特別なマルチレベルコンバータに転用することを可能にする。その際に、特別なマルチレベルコンバータは、従来のマルチレベルコンバータよりも多い相モジュール当たり相モジュールアーム数を有するにもかかわらず、循環電流を調節するために、同一の相モジュール数を有する従来のマルチレベルコンバータと同一の数の、相モジュールアームのエネルギの和および差が使用される。例えば、3相の特別なマルチレベルコンバータでは、全部で9つの相モジュールアームのエネルギから、3つのエネルギ合計量および3つのエネルギ差分量が形成され、従って、相モジュール毎に2つの相モジュールアームを有する従来の3相マルチレベルコンバータと同じだけのエネルギ合計量およびエネルギ差分量が生成される。その結果、相モジュール毎に3つの相モジュールアームを有する特別なマルチレベルコンバータに対して、従来のマルチレベルコンバータに対しても使用される同じ循環電流調節器をエネルギ補償のために使用することができる。
【0013】
本発明の一実施形態では、全ての相モジュールのエネルギ合計量からエネルギ合計空間ベクトル(Energiesummenraumzeiger)が生成され、そのエネルギ合計空間ベクトルに応じて、循環電流の直流成分が相モジュール間のエネルギ不平衡を補償するために調節される。本発明のこの実施形態は、循環電流の直流成分が相モジュール間の直接のエネルギ伝達を可能にし、従って水平エネルギ補償に利用できることと、その直流成分がエネルギ合計空間ベクトルに依存することとを利用する。
【0014】
本発明の別の実施形態では、全ての相モジュールのエネルギ差分量からエネルギ差分空間ベクトル(Energiedifferenzraumzeiger)が生成され、個々の相モジュールの相モジュールアーム間のエネルギ不平衡を補償するために、エネルギ差分空間ベクトルに応じて、循環電流の正相分および逆相分が調節される。本発明のこの実施形態は、循環電流の正相分および逆相分を調節することによって、個々の相モジュールの相モジュールアームの間で垂直エネルギ補償を達成できること、ならびに循環電流の正相分および逆相分がエネルギ差分空間ベクトルに依存することを利用する。
【0015】
本発明のさらに別の実施形態では、各相モジュールのエネルギ合計量が、当該相モジュールの第1の相モジュールアームおよび第2の相モジュールアームにそれぞれ印加される電圧から決定されるか、各相モジュールのエネルギ差分量が、当該相モジュールのスイッチング装置の第1のスイッチング位置において当該相モジュールの第2の相モジュールアームおよび第3の相モジュールアームにそれぞれ印加される電圧から決定されかつ当該相モジュールのスイッチング装置の第2のスイッチング位置において当該相モジュールの第1の相モジュールアームおよび第3の相モジュールアームにそれぞれ印加される電圧から決定されるか、それらのうちのいずれか一方又は両方である。本発明のこれらの実施形態は、1つの相モジュールアームのエネルギがその相モジュールアームに印加される電圧に依存することを利用する。
【0016】
マルチレベルコンバータは、1つの相モジュールのスイッチング装置が、第2のスイッチング位置において当該相モジュールの交流電圧接続部を第1の接続点から(電気的に)分離し、第1のスイッチング位置において交流電圧接続部を第2の接続点から(電気的に)分離するように構成することができる。一般的に言えば、スイッチング装置は、交流電圧接続部を、各スイッチング位置においてそれぞれ最大で1つの(当該スイッチング位置に属する)接続点にのみ接続する(かつ交流電圧接続部を他の接続点から分離する)。従って、スイッチング装置は、(そのスイッチング位置において)交流電圧接続部を、それぞれ排他的に1つの(そのスイッチング位置に属する)接続点に接続する。もちろん、交流電圧接続部が全ての接続点から分離されているスイッチング位置も存在してよい。
【0017】
マルチレベルコンバータは、第1の相モジュールアーム、第2の相モジュールアームおよび第3の相モジュールアームが、それぞれ、1つの直列接続回路内に、少なくとも2つのモジュール、特に少なくとも5つのモジュールを有しているように構成することもできる。
【0018】
マルチレベルコンバータは、スイッチング装置が(スイッチング要素として)サイリスタを有するように構成することもできる。第1の接続点と第2の接続点との間の切換えは、サイリスタによって特に迅速に行うことができる。
【0019】
マルチレベルコンバータは、以下のように構成することもできる。
各相モジュールのスイッチング装置は、スイッチング装置の第1のスイッチング位置において交流電圧接続部を第1の接続点に(電気的に)接続しかつスイッチング装置の第2のスイッチング位置において交流電圧接続部を第1の接続点から(電気的に)分離する第1の電子パワースイッチを有し、
各相モジュールのスイッチング装置は、スイッチング装置の第2のスイッチング位置において交流電圧接続部を第2の接続点に(電気的に)接続しかつスイッチング装置の第1のスイッチング位置において交流電圧接続部を第2の接続点から(電気的に)分離する第2の電子パワースイッチを有する。1つのスイッチング装置の2つの電子パワースイッチを用いて、第1の接続点と第2の接続点との間の切換えを格別に容易かつ迅速に実行することができる。
【0020】
マルチレベルコンバータは、各スイッチング装置の第1の電子パワースイッチおよび第2の電子パワースイッチがそれぞれサイリスタを有するように構成することができる。
【0021】
マルチレベルコンバータは、各スイッチング装置の第1の電子パワースイッチおよび第2の電子パワースイッチがそれぞれ逆並列に接続されたサイリスタを有するように構成することもできる。それによって、電子パワースイッチは、相モジュールの交流電圧接続部を流れる交流電流を両方の極性で切り替えることができる。
【0022】
マルチレベルコンバータは、第3の相モジュールアームの少なくとも1つのモジュールが正または負の極性の電圧を出力することができるように構成してもよい。これは、特に、サイリスタのターンオフ過程を有利に支援する。少なくとも1つのモジュールが負電圧および正電圧の両方を生成し、出力することができると格別に有利である。この電圧によって、交流電圧接続部を介して第1の接続点から第2の接続点へ流れる電流の転流を安全かつ確実に実施することができる。これは、例えば、そのモジュールにより元の電流の流れと反対方向の電圧が転流電圧として生成されることによって行うことができる。
【0023】
マルチレベルコンバータは、第3の相モジュールアームの少なくとも1つのモジュールがフルブリッジ回路を有するように構成することができる。フルブリッジ回路を有する少なくとも1つのモジュールが負電圧および正電圧の両方を生成し、出力することができると、格別に有利である。これは、上述したように、転流を支援する。
【0024】
マルチレベルコンバータは、フルブリッジ回路が4つの電子スイッチング要素と1つの電気エネルギ蓄積器とを有するように構成することができる。
【0025】
マルチレベルコンバータは、各相モジュールのスイッチング装置が、当該相モジュールの交流電圧接続部に印加される電圧(交流電圧)の瞬時値に応じて、複数のスイッチング位置、特に第1のスイッチング位置および第2のスイッチング位置をとるように構成することもできる。スイッチング装置は、交流電圧接続部に印加される電圧(交流電圧)の瞬時値に応じたスイッチング位置をとるように制御されると、有利である。それによって、スイッチング装置の格別に簡単な様式の制御がもたらされる。交流電圧の瞬時値を評価しさえすればよく、その瞬時値の大きさに応じて、スイッチング装置は、それぞれのスイッチング位置(特に、第1のスイッチング位置および第2のスイッチング位置)をとる。
【0026】
マルチレベルコンバータは、以下のように構成することもできる。
各相モジュールのスイッチング装置は、当該相モジュールの交流電圧接続部に印加される電圧の瞬時値がゼロよりも大きい(又はゼロに等しい)ときに第1のスイッチング位置をとり、前記スイッチング装置は、前記交流電圧接続部に印加される電圧の瞬時値がゼロよりも小さいときに第2のスイッチング位置をとる。又は、
各相モジュールのスイッチング装置は、当該相モジュールの交流電圧接続部に印加される電圧の瞬時値が第1の予め選択された電圧範囲にあるときに第1のスイッチング位置をとり、前記スイッチング装置は、前記交流電圧接続部に印加される電圧の瞬時値が第2の予め選択された電圧範囲にあるときに第2のスイッチング位置をとる。第1の選択肢は、有利に、スイッチング装置がいつ第1のスイッチング位置をとるか、また、スイッチング装置がいつ第2のスイッチング位置をとるかを規定する格別に簡単な方法を成している。即ち、スイッチング装置は、交流電圧の瞬時値がゼロより大きい(又はゼロに等しい)ときには、第1のスイッチング位置をとり、交流電圧の瞬時値がゼロより小さいときには、第2のスイッチング位置をとる。第2の選択肢は、交流電圧の瞬時値が第1の予め選択された電圧範囲にあるときに、第1のスイッチング位置がとられることを示す。交流電圧の瞬時値が第2の予め選択された電圧範囲にあるときには、第2のスイッチ位置がとられる。この変形例は、スイッチング装置のよりフレキシブルなスイッチングを可能にする。
【0027】
以下において図面を参照して実施例をさらに詳細に説明することにより、上述の本発明の特性、特徴、および利点、ならびにそれらを達成する方法を明らかにする。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1図1は、マルチレベルコンバータの1つの相モジュールの実施例を示す。
図2図2は、図1による相モジュールにおける電圧経過例を示す。
図3図3は、図1による相モジュールの代替的な表示を示す。
図4図4は、3つの相モジュールを有するマルチレベルコンバータの実施例を示す。
図5図5は、マルチレベルコンバータの1つのモジュールの実施例を示す。
図6図6は、マルチレベルコンバータの1つのモジュールの他の実施例を示す。
図7図7は、本発明よる方法の実施例のフローチャートを示す。
図8図8は、マルチレベルコンバータの循環電流を調節するための目標電流空間クトルを決定するブロック図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0029】
図面において、対応する部分には同じ参照符号が付されている。
【0030】
図1には、マルチレベルコンバータ800の相モジュール400の実施例が示されている。相モジュール400は、第1(正側)の相モジュールアーム11と、第2(負側)の相モジュールアーム13と、第3(中間)の相モジュールアーム404とを有する。第1の相モジュールアーム11の両端には第1の電圧Uが存在し、第2の相モジュールアーム13の両端には第2の電圧Uが存在し、第3の相モジュールアーム404の両端には第3の電圧Uが存在する。相モジュール400は、第1の直流電圧接続部16と第2の直流電圧接続部17との間に配置されており、第1の相モジュールアーム11は、第1の直流電圧接続部16に接続されている。第2の相モジュールアーム13は、第2の直流電圧接続部17に接続されている。各相モジュールアームは、多数のモジュールを有する。この実施例では、第1の相モジュールアーム11は、n個のモジュール1_1…1_nを有し、これらのモジュールは、それぞれハーフブリッジ回路(ハーフブリッジモジュール)又はフルブリッジ回路(フルブリッジモジュール)に構成することができる。第2の相モジュールアーム13も同様に、n個のモジュール2_1…2_nを有し、これらのモジュールは、それぞれハーフブリッジ回路(ハーフブリッジモジュール)又はフルブリッジ回路(フルブリッジモジュール)に構成することができる。従って、第1の相モジュールアーム11および第2の相モジュールアーム13は、例えば、それぞれハーフブリッジモジュールのみ、又はフルブリッジモジュールのみを有することができる。
【0031】
第3の相モジュールアーム404は、フルブリッジ回路(フルブリッジモジュール408_1)を備えた少なくとも1つのモジュール408_1と、それぞれハーフブリッジ回路(ハーフブリッジモジュール)又はフルブリッジ回路(フルブリッジモジュール)に構成することができる他のモジュール408_2~408_nとを有する。
【0032】
第3の相モジュールアーム404は、第1の相モジュールアーム11と第3の相モジュールアーム404との間に第1の接続点412を形成すると共に、第3の相モジュールアーム404と第2の相モジュールアーム13との間に第2の接続点416を形成することにより、第1の相モジュールアーム11を第2の相モジュールアーム13に接続する。スイッチング装置420は、第1のスイッチング位置421において相モジュール400の交流電圧接続部5を第1の接続点412に電気的に接続し、第2のスイッチング位置422において交流電圧接続部5を第2の接続点416に電気的に接続するように構成されている。さらに、スイッチング装置420は、第2のスイッチング位置422において交流電圧接続部5を第1の接続点412から電気的に分離し、第1のスイッチング位置421において交流電圧接続部5を第2の接続点416から電気的に分離するように構成されている。
【0033】
スイッチング装置420は、スイッチング要素として、第1サイリスタT1と、第2サイリスタT2と、第3サイリスタT3と、第4サイリスタT4とを有する。より正確に言えば、そのスイッチング装置は、第1の電子パワースイッチ424および第2の電子パワースイッチ428を有する。第1の電子パワースイッチ424は、第1のサイリスタT1および第2のサイリスタT2を有し、第2の電子パワースイッチ428は、第3のサイリスタT3および第4のサイリスタT4を有する。従って、第1の電子パワースイッチ424は、逆並列に接続されたサイリスタT1およびT2を有し、第2の電子電力スイッチ428は、逆並列に接続されたサイリスタT3およびT4を有する。
【0034】
個々のサイリスタT1,T2,T3,T4による表示は、ここでは単に象徴的に理解すべきである。実際には、例えば、必要な電圧値および電流値を達成するために、より多数のサイリスタを直列および/又は並列に接続することができる。
【0035】
第1の電子パワースイッチ424は、スイッチング装置420の第1のスイッチング位置において、交流電圧接続部5を第1の接続点412に電気的に接続する。第1の電子パワースイッチ424は、スイッチング装置420の第2のスイッチング位置において、交流電圧接続部5を第1の接続点412から電気的に分離する。第2の電子パワースイッチ428は、スイッチング装置420の第2のスイッチング位置において、交流電圧接続部5を第2の接続点416に電気的に接続する。第2の電子パワースイッチ428は、スイッチング装置420の第1のスイッチ位置において、交流電圧接続部5を第2の接続点416から電気的に分離する。
【0036】
交流電圧接続部5と接地接続部202との間に交流電圧Uacが存在する。第1の直流電圧接続部16と接地接続部202との間に電圧1/2Udcが印加される。Udcは、第1の直流電圧接続部16と第2の直流電圧接続部17との間に印加される全直流電圧である。接地接続202と第2の直流電圧接続部17との間に、同様に電圧1/2Udcが印加される。
【0037】
スイッチング装置420は、交流電圧接続部5に存在する交流電圧Uacの瞬時値に応じたスイッチング位置(即ち、第1のスイッチング位置および第2のスイッチング位置)をとる。より正確に言えば、スイッチング装置420は、交流電圧接続部5に印加される交流電圧Uacの瞬時値に依存したスイッチング位置(即ち、第1のスイッチング位置および第2のスイッチング位置)をとるように、制御装置(図示せず)によって制御される。その際に、スイッチング装置420は、交流電圧Uacの瞬時値がゼロよりも大きい(またはゼロに等しい)とき、第1のスイッチング位置をとる。それによって、第1の交流電圧接続部5が第1の接続点412に電気的に接続される。スイッチング装置420は、交流電圧接続部5に印加される交流電圧Uacの瞬時値がゼロよりも小さいとき、第2のスイッチング位置をとる。それによって、第1の交流電圧接続部5が第2の接続点416に電気的に接続される。
【0038】
マルチレベルコンバータ800は、交流電圧接続部5に印加される交流電圧Uacの瞬時値が第1の予め選択された電圧範囲にあるときにスイッチング装置420が第1のスイッチング位置をとり、交流電圧接続部に印加される交流電圧Uacの瞬時値が第2の予め選択された電圧範囲にあるときにスイッチング装置420が第2のスイッチング位置をとるように、構成することもできる。第1の予め選択された電圧範囲は、例えば、0~+1/2Udcの電圧範囲とすることができ、第2の予め選択された電圧範囲は、例えば、-1/2Udc~0の電圧範囲とすることができる。
【0039】
図2には、相モジュール400に生じる電圧が例示されている。t=0からt=1/2Tまでの時間間隔中(即ち、交流電圧Uacの瞬時値がゼロよりも大きい期間中)には、第1の相モジュールアーム11に比較的低い電圧Uのみが印加される。より大きな電圧(Udc-U)が、(電圧Uとして)第2の相モジュールアーム13および(電圧Uとして)第3の相モジュールアーム404に分配される。それによって、第1の相モジュールアーム11、第2の相モジュールアーム13および第3の相モジュールアーム404には、それぞれ最大で電圧1/2Udcが印加される。従って、各相モジュールアーム11,13,404は、最大直流電圧の半分1/2Udcに対して設計されさえすればよい。第2の半周期の間(即ち、t=1/2Tからt=Tまでの範囲内)では、第2の相モジュールアーム13に比較的低い電圧Uのみが印加される一方で、より大きい電圧(Udc-U)が、第1の相モジュールアーム11および第2の相モジュールアーム404に分配される。交流電圧Uacの周期の前半における過程と同様に、ここでも、各相モジュールアーム11,13,404には最大で電圧1/2Udcが生じる。
【0040】
図3には、図1の相モジュール400がもう一度簡略図で示されている。このために、第1の相モジュールアーム11、第2の相モジュールアーム13および第3の相モジュールアーム404は、それぞれ、対角線が描かれた正方形として象徴的に表されている。第1の電子パワースイッチ424および第2の電子パワースイッチ428は、それぞれ、2つの対角線が描かれたより小さい正方形として示されている。さらに、図3は、電圧矢印により、第1の接続点412と接地接続部202との間の交流電圧の第1の半周期の期間中(Uac>0)に、接地接続部202に対して交流電圧接続部5で発生する交流電圧Uacがどのように発生するかを示している。第2の半周期の期間中(Uac<0)には、第2の接続点416と接地接続部202との間において交流電圧Uacが発生する(この図は、第1の電子パワースイッチ424および第2の電子パワースイッチ428が理想的なスイッチのように振る舞うこと、即ち、スイッチオンされた状態で、これらのスイッチ424および428の両端間に電圧降下が生じないことを仮定している)。
【0041】
交流電圧接続部5は、交流電圧接続部5に存在する交流電圧Uacの瞬時値がゼロより大きい(またはゼロに等しい)とき、第1の接続点412に電気的に接続され、第2の接続点416から電気的に分離される。交流電圧接続部5は、交流電圧接続部5に存在する交流電圧Uacの瞬時値がゼロより小さいとき、第2の接続点416に電気的に接続され、第1の接続点412から電気的に分離される。
【0042】
図4には、3相マルチレベルコンバータ800の実施例が示されている。マルチレベルコンバータ800は、図3に応じた3つの相モジュール400,400’,400”を有する。第1の相モジュール400は、相モジュールアーム11,13,404と、電子パワースイッチ424,428を備えたスイッチング装置420と、接続点412,416と、交流電圧接続部5とを有する。第2の相モジュール400’は、相モジュールアーム11’,13’,404’と、電子パワースイッチ424’,428’を備えたスイッチング装置420’と、接続点412’,416’と、交流電圧接続部5’とを有する。第3の相モジュール400”は、相モジュールアーム11”,13”,404”と、電子パワースイッチ424”,428”を備えたスイッチング装置420”と、接続点412”,416”と、交流電圧接続部5”とを有する。
【0043】
マルチレベルコンバータ800を動作させるために、マルチレベルコンバータ800の交流電圧接続部5,5’,5”に存在する各電圧の瞬時値が測定される。その場合、測定された瞬時値に応じて、交流電圧接続部5,5’,5”は、それぞれの第1の接続点412,412’,412”又はそれぞれの第2の接続点416,416’,416”に電気的に接続される。各交流電圧接続部5,5’,5”は、接続点412,412’,412”,416,416’,416”の1つにのみ電気的に接続され、他の接続点412,412’,412”,416,416’,416”から電気的に分離される。
【0044】
図5には、マルチレベルコンバータ800の1つのモジュール1_1の実施例が示されている。
【0045】
モジュール1_1は、ハーフブリッジモジュールとして構成されている。モジュール1_1は、逆並列に接続された第1のダイオード904を有する第1の(ターンオフ制御可能な)電子スイッチング要素902(第1のターンオフ制御可能な半導体バルブ902)を有する。
【0046】
さらに、モジュール1_1は、逆並列に接続された第2のダイオード908を有する第2の(ターンオフ制御可能な)電子スイッチング要素906(第2のターンオフ制御可能な半導体バルブ906)と、コンデンサの形態の電気エネルギ蓄積器910とを有する。第1の電子スイッチング要素902および第2の電子スイッチング要素906は、それぞれIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)として設計されている。第1の電子スイッチング要素902は、第2の電子スイッチング要素906と電気的に直列に接続されている。2つの電子スイッチング要素902および906の間の接続点に、第1のガルバニックモジュール接続部912が配置されている。前記接続点の反対側にある第2の電子スイッチング要素906の接続部には、第2のガルバニックモジュール接続部915が配置されている。第2のモジュール接続部915は、さらに、エネルギ蓄積器910の第1の接続部に電気的に接続されており、エネルギ蓄積器910の第2の接続部は、前記接続点の反対側にある第1の電子スイッチング要素902の接続部に電気的に接続されている。
【0047】
従って、エネルギ蓄積器910は、第1の電子スイッチング要素902と第2の電子スイッチング要素906とからなる直列回路に並列に電気的に接続されている。コンバータ800の電子制御装置(図示せず)により、第1の電子スイッチング要素902と第2の電子スイッチング要素906とを適切に制御することによって、第1のモジュール接続部912と第2のモジュール接続部915との間に、エネルギ蓄積器910の電圧が出力されるか、又は全く電圧が出力されない(即ち、ゼロ電圧が出力される)ことを達成することができる。個々の相モジュールアームのモジュールの協働によって、その都度所望されるコンバータ出力電圧を生成することができる。
【0048】
図6には、マルチレベルコンバータ800の1つのモジュール408_1の他の実施例が示されている。図5から既知である第1の電子スイッチング要素902、第2の電子スイッチング要素906、第1のフリーホイールダイオード904、第2のフリーホイールダイオード908およびエネルギ蓄積器910に加えて、図6に示されているモジュール408_1は、逆並列に接続された第3のフリーホイールダイオード1004を備えた第3の電子スイッチング要素1002と、逆並列に接続された第4のフリーホイールダイオード1008を備えた第4の電子スイッチング要素1006とを有する。第3の電子スイッチング要素1002および第4の電子スイッチング要素1006は、それぞれIGBTとして設計されている。図5の回路とは違って、第2のモジュール接続部915は、第2の電子スイッチング要素906に電気的に接続されておらず、第3の電子スイッチング要素1002と第4の電子スイッチング要素1006とからなる電気的直列回路の中間点に電気的に接続されている。
【0049】
図6のモジュール408_1は、いわゆるフルブリッジモジュールであり、第1の(ガルバニック)モジュール接続部912と第2の(ガルバニック)モジュール接続部915との間の4つの電子スイッチング要素902,906,1002,1006の適切な制御により、選択的に、エネルギ蓄積器910の正の電圧、エネルギ蓄積器910の負の電圧、又は値ゼロの電圧(ゼロ電圧)のいずれかを出力することができる。従って、出力電圧の極性は、モジュール408_1によって反転させることができる。マルチレベルコンバータ800は、ハーフブリッジモジュールのみを有するか、フルブリッジモジュールのみを有するか、又はハーフブリッジモジュールおよびフルブリッジモジュールの両方を有することができる。
【0050】
図7は、図4によるマルチレベルコンバータ800を動作させるための本発明による方法ステップS1~S3の実施例のフローチャートを示す。
【0051】
第1の方法ステップS1において、各相モジュール400,400’,400”について、第1の相モジュールアーム11,11’,11”および第2の相モジュールアーム13,13’,13”のエネルギの和に対する尺度であるエネルギ合計量WΣ1,WΣ2,WΣ3が決定される。WΣ1は、第1の相モジュール400の第1の相モジュールアーム11および第2の相モジュールアーム13のエネルギの和に対する尺度であるエネルギ合計量を表し、WΣ2は、第2の相モジュール400’の第1の相モジュールアーム11’および第2の相モジュールアーム13’のエネルギの和に対する尺度であるエネルギ合計量を表し、WΣ3は、第3の相モジュール400”の第1の相モジュールアーム11”および第2の相モジュールアーム13”のエネルギの和に対する尺度であるエネルギの和量を表す。例えば、各相モジュール400,400’,400”のエネルギ合計量WΣ1、WΣ2、WΣ3は、第1の相モジュールアーム11,11’,11”に印加される電圧Uと、第2の相モジュールアーム13,13’,13”に印加される電圧Uとから決定される。
【0052】
さらに、第1の方法ステップS1において、各相モジュール400,400’,400”について、当該相モジュール400,400’,400”のスイッチング装置420,420’,420”のスイッチング位置に応じて、エネルギ差分量WΔ1,WΔ2,WΔ3が決定される。エネルギ差分量WΔ1,WΔ2,WΔ3は、第1のスイッチング位置421においては、第2の相モジュールアーム13,13’,13”と第3の相モジュールアーム404,404’,404”とのエネルギ差に対する尺度であり、第2のスイッチング位置422においては、第1の相モジュールアーム11,11’,11”と第3の相モジュールアーム404,404’,404”とのエネルギ差に対する尺度である。その場合、WΔ1は第1の相モジュール400のエネルギ差分量を表し、WΔ2は、第2の相モジュール400’のエネルギ差分量を表し、WΔ3は、第3の相モジュール400”のエネルギ差分量を表す。例えば、各相モジュール400,400’,400”のエネルギ差分量WΔ1,WΔ2,WΔ3は、当該相モジュール400,400’,400”のスイッチング装置420,420’,420”のスイッチング位置421においては、第2の相モジュールアーム13,13’,13”に印加される電圧Uと、第3の相モジュールアーム404,404’,404”に印加される電圧Uとから決定され、当該相モジュール400,400’,400”のスイッチング装置420,420’,420”のスイッチング位置422においては、第1の相モジュールアーム11,11’,11”に印加される電圧Uと、第3の相モジュールアーム404,404’,404”に印加される電圧Uとから決定される。
【0053】
第2の方法ステップS2では、全ての相モジュール400,400’,400”のエネルギ合計量WΣ1,WΣ2,WΣ3からエネルギ合計空間ベクトルが生成される。さらに、第2の方法ステップS2において、全ての相モジュール400,400’,400”のエネルギ差分量WΔ1,WΔ2,WΔ3からエネルギ差分空間ベクトルが生成される。
【0054】
第3の方法ステップS3では、相モジュール400,400’,400”間のエネルギ不平衡を補償するために、エネルギ合計空間ベクトルに応じてマルチレベルコンバータ800の循環電流の直流成分が調節される。さらに、第3の方法ステップS3では、個々の相モジュール400,400’,400”の相モジュールアーム11,11’,11”,13,13’,13”,404,404’,404”間のエネルギ不平衡を補償するために、エネルギ差分空間ベクトルに応じて、循環電流の正相分および逆相分が調節される。この目的のために、エネルギ合計空間ベクトルおよびエネルギ差分空間ベクトルから、以下にさらに詳細に説明する方法で、循環電流のための目標電流空間ベクトルが決定され、循環電流を調節するために使用される。
【0055】
図8は、マルチレベルコンバータ800の相モジュールアーム11,11’,11”,13,13’,13”,404,404’,404”間のエネルギを補償するべく循環電流を調節するために目標電流空間ベクトルを決定する方法のブロック図を示す。
【0056】
第1の変換器501によって、エネルギ合計量WΣ1,WΣ2,WΣ3から、成分WΣα,WΣβ,WΣ0を有するエネルギ合計空間ベクトルが生成される。第1の目標値生成器503によって、エネルギ合計空間ベクトルのα成分WΣαから、目標電流空間ベクトルのα成分iΣαの直流成分iΣα、dcを生成される。さらに、第1の目標値生成器503によって、エネルギ合計空間ベクトルのβ成分WΣβから、目標電流空間ベクトルのβ成分iΣβの直流成分iΣβ、dcが生成される。
【0057】
第2の変換器502によって、エネルギ差分量WΔ1,WΔ2,WΔ3から、成分WΔα,WΔβ,WΔ0を有するエネルギ差分空間ベクトルが生成される。第2の目標値生成器504によって、エネルギ差分空間ベクトルのα成分WΔαおよびβ成分WΔβから、目標電流空間ベクトルのα成分iΣαの逆相分iΣα,-と、目標電流空間ベクトルのβ成分iΣβの逆相分iΣβ,-とが生成される。さらに、第2の目標値生成器504によって、エネルギ差分空間ベクトルの0成分WΔ0から、目標電流空間ベクトルのα成分iΣαの正相分iΣα,+と、目標電流空間ベクトルのβ成分iΣβの正相分iΣβ,+とが生成される。逆相分iΣα,-,iΣβ,-および正相分iΣα,+、iΣβ,+を生成するために、その電流成分は、マルチレベルコンバータ800の系統周波数で回転する座標系に座標変換され、それらの逆相分および正相分に分解される。この目的のために、次の回転行列、即ち、
【数1】
が使用され、これらの回転行列により、それぞれの電流成分が回転角-θもしくはθを有する逆相分もしくは正相分に変換される。
【0058】
目標電流空間ベクトルのα成分iΣαは、その直流成分iΣα,dcと、その逆相分iΣα,-と、その正相分iΣα,+とを加算することによって生成される。目標電流空間ベクトルのβ成分iΣβは、その直流成分iΣβ,dcと、その逆相分iΣβ,-と、その正相分iΣβ,+とを加算することによって生成される。
【0059】
本発明は、好ましい実施例によってより詳細に例示され、説明されてきたが、本発明は、開示された例によって限定されず、本発明の保護の範囲から逸脱することなく、当業者によって、他の変形形態をそこから導み出すことができる。
【符号の説明】
【0060】
1_1…1_n 第1の相モジュールアームのモジュール
2_1…2-n 第2の相モジュールアームのモジュール
5, 5’,5” 交流電圧接続部
11, 11’,11” 第1の相モジュールアーム
13, 13’,13” 第2の相モジュールアーム
16,17 直流電圧接続部
202 接地接続部
400,400’,400” 相モジュール
404,404’,404” 第3の相モジュールアーム
408_1…408_n 第3の相モジュールアームのモジュール
412,412’,412” 第1の接続点
416,416’,416” 第2の接続点
420,420’,420” スイッチング装置
424,424’,424” 第1の電子パワースイッチ
428,428’,428” 第2の電子パワースイッチ
421,422 スイッチング位置
501,502 変圧器
503, 504 目標値生成器
800 マルチレベルコンバータ
902, 906, 1002, 1006 電子スイッチング要素
904, 908, 1004, 1008 ダイオード
910 エネルギ蓄積器
912,915 モジュール接続部
Σα,iΣβ 目標電流空間ベクトルの成分
Σα,dc,iΣβ,dc 目標電流空間ベクトルの成分の直流分
Σα,-,iΣβ,- 目標電流空間ベクトルの成分の逆相分
Σα,+,iΣβ,+ 目標電流空間ベクトルの成分の正相分
S1~S3 方法ステップ
t 時間
T 期間
T1~T4 サイリスタ
U 電圧
ac 交流電圧
dc 直流電圧
第2の相モジュールアームの電圧
第1の相モジュールアームの電圧
第3の相モジュールアームの電圧
Δ1,WΔ2,WΔ3 エネルギ差分量
Δα,WΔβ,WΔ0 エネルギ差分空間ベクトルの成分
Σ1,WΣ2,WΣ3 エネルギ合計量
Σα,WΣβ,WΣ0 エネルギ合計空間ベクトルの成分

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8