IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 星光PMC株式会社の特許一覧

特許7030277銀ナノワイヤ分散液、銀ナノワイヤ含有導電体および銀ナノワイヤ含有導電性積層体
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-25
(45)【発行日】2022-03-07
(54)【発明の名称】銀ナノワイヤ分散液、銀ナノワイヤ含有導電体および銀ナノワイヤ含有導電性積層体
(51)【国際特許分類】
   H01B 1/22 20060101AFI20220228BHJP
   H01B 5/14 20060101ALI20220228BHJP
   B32B 27/20 20060101ALI20220228BHJP
【FI】
H01B1/22 A
H01B5/14 Z
B32B27/20 Z
H01B5/14 A
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2021560928
(86)(22)【出願日】2021-03-30
(86)【国際出願番号】 JP2021013599
【審査請求日】2021-10-14
(31)【優先権主張番号】P 2020104789
(32)【優先日】2020-06-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000109635
【氏名又は名称】星光PMC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100164828
【弁理士】
【氏名又は名称】蔦 康宏
(72)【発明者】
【氏名】植田 恭弘
(72)【発明者】
【氏名】河口 知晃
【審査官】神田 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-537820(JP,A)
【文献】国際公開第2012/002284(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 1/22
H01B 5/14
B32B 27/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銀ナノワイヤと分散溶媒とキレート剤とを含み、銀ナノワイヤの平均直径が100nm以下である銀ナノワイヤ分散液であって、キレート剤を銀ナノワイヤの含有量に対し0.1~1000μmol/g含み、かつ、キレート剤が、分子内に少なくともひとつのイミン骨格を有する芳香族複素環化合物のうち、1,10-フェナントロリン、8位がヒドロキシル基またはアミノ基で置換されたキノリン、2,2’-ビピリジル、ビアゾール(但し、アゾールはイミダゾール、チアゾール、オキサゾールのいずれか1種である)およびこれらの誘導体の群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする銀ナノワイヤ分散液(ただし、コバルト+2錯体を含まない)
【請求項2】
銀ナノワイヤと分散溶媒とキレート剤とを含み、銀ナノワイヤの平均直径が100nm以下である銀ナノワイヤ分散液であって、キレート剤を銀ナノワイヤの含有量に対し0.1~1000μmol/g含み、かつ、キレート剤が、分子内に少なくともひとつのイミン骨格を有する芳香族複素環化合物のうち、1,10-フェナントロリン、8位がヒドロキシル基またはアミノ基で置換されたキノリン、2,2’-ビピリジル、ビアゾール(但し、アゾールはイミダゾール、チアゾール、オキサゾールのいずれか1種である)およびこれらの誘導体の群より選ばれる少なくとも1種であり、さらに、下記銀ナノワイヤの安定性試験で(1)式より算出されるヘイズ上昇率が15%未満であることを特徴とする銀ナノワイヤ分散液。
[銀ナノワイヤ分散液の安定性試験]
銀ナノワイヤ分散液を40℃で10日間静置し、得られた銀ナノワイヤ分散液の希釈液のヘイズを測定し、調製直後の銀ナノワイヤ分散液と比較したヘイズの上昇率を求める。
(H2-H1)/H1×100 (%) … (1)
H1:調製直後の銀ナノワイヤ分散液の希釈液のヘイズ
H2:40℃で10日間静置した銀ナノワイヤ分散液の希釈液のヘイズ
【請求項3】
キレート剤が一般式(1)~(4)の群より選ばれる少なくとも1種である請求項1または請求項2に記載の銀ナノワイヤ分散液。
〔一般式(1)〕
【化1】

(但し、一般式(1)中、Lはヒドロキシル基またはアミノ基を表し、R~Rは水素、炭素数1~4の直鎖のアルキル基、ハロゲン基を示し、R、Rのうち少なくとも一つは水素であり、R~Rのうち少なくとも二つは水素である)

〔一般式(2)〕
【化2】
(但し、一般式(2)中、R、Rは水素、炭素数1~4の直鎖のアルキル基、ハロゲン基を示し、Rは水素、炭素数1~4の直鎖のアルキル基、フェニル基、CSONa基、ハロゲン基を示し、R~Rのうち少なくとも一つは水素である)

〔一般式(3)〕
【化3】
(但し、一般式(3)中、R、Rは水素、炭素数1~4の直鎖のアルキル基、ハロゲン基を示し、R10は水素、炭素数1~4のアルキル基、ハロゲン基を示し、R~R10のうち少なくとも二つは水素である)

〔一般式(4)〕
-Z
(但し、一般式(4)中、Z、Zはそれぞれ独立して一般式(5)または(6)で示される含窒素複素環のいずれかを表す)

〔一般式(5)〕
【化4】
(但し、一般式(5)中、XはNH、O、Sのいずれかを表し、R11、R12は水素、炭素数1~4の直鎖のアルキル基、ハロゲン基または共同で形成するベンゼン環を示し、矢印はZまたはZとの単結合を表す)

〔一般式(6)〕
【化5】
(但し、一般式(6)中、XはNH、O、Sのいずれかを表し、R13は水素、炭素数1~4の直鎖のアルキル基、ハロゲン基を示し、矢印はZまたはZとの単結合を表す)
【請求項4】
キレート剤の含有量が銀ナノワイヤの含有量に対し1~300μmol/gである請求項1~請求項3のいずれか一項に記載の銀ナノワイヤ分散液。
【請求項5】
キレート剤が1,10-フェナントロリン、ネオクプロイン、バソフェナントロリン及びそのスルホン酸ナトリウム塩、2,2’-ビピリジル、8-ヒドロキシキノリン、8-アミノキノリン、2-(4-チアゾリル)ベンゾイミダゾールの群より選ばれる少なくとも1種である請求項1~請求項のいずれか一項に記載の銀ナノワイヤ分散液。
【請求項6】
銀ナノワイヤの平均直径が30nm以下である請求項1~請求項のいずれか一項に記載の銀ナノワイヤ分散液。
【請求項7】
銀ナノワイヤの濃度が0.01~3質量%である請求項1~請求項のいずれか一項に記載の銀ナノワイヤ分散液。
【請求項8】
さらにアミド結合を有する高分子または多糖類から選択される高分子化合物を含み、高分子化合物の濃度が0.02~1質量%である請求項1~請求項のいずれか一項に記載の銀ナノワイヤ分散液。
【請求項9】
分散溶媒が水または炭素数1~3の1価のアルコール類のいずれかを含み、分散溶媒に占める水または炭素数1~3の1価のアルコール類の含有量が85質量%以上である請求項1~請求項のいずれか一項に記載の銀ナノワイヤ分散液。
【請求項10】
基板と少なくとも一つの銀ナノワイヤ含有導電層(ただし、コバルト+2錯体を含まない)を有する導電体であって、さらに導電層にキレート剤を銀ナノワイヤの含有量に対し0.1~1000μmol/g含み、キレート剤が、分子内に少なくともひとつのイミン骨格を有する芳香族複素環化合物のうち、1,10-フェナントロリン、8位がヒドロキシル基またはアミノ基で置換されたキノリン、2,2’-ビピリジル、ビアゾール(但し、アゾールはイミダゾール、チアゾール、オキサゾールのいずれか1種である) およびこれらの誘導体の群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする銀ナノワイヤ含有導電体。
【請求項11】
導電層のシート抵抗が1Ω/□~100Ω/□であり、Δヘイズが1.5%未満である請求項10に記載の銀ナノワイヤ含有導電体。
【請求項12】
基板と銀ナノワイヤ含有導電層(ただし、コバルト+2錯体を含まない)とキレート剤を含む保護層(ただし、バナジウム+5組成物を含まない)を有する導電性積層体であって、キレート剤が、分子内に少なくともひとつのイミン骨格を有する芳香族複素環化合物のうち、1,10-フェナントロリン、8位がヒドロキシル基またはアミノ基で置換されたキノリン、2,2’-ビピリジル、ビアゾール(但し、アゾールはイミダゾール、チアゾール、オキサゾールのいずれか1種である) およびこれらの誘導体の群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする銀ナノワイヤ含有導電性積層体。
【請求項13】
キレート剤が保護層中に0.05~5質量%存在する請求項12に記載の銀ナノワイヤ含有導電性積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定のキレート剤を含むことを特徴とする銀ナノワイヤ分散液と、特定のキレート剤を含む銀ナノワイヤ含有導電体および銀ナノワイヤ含有導電性積層体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機エレクトロルミネセンスディスプレイや電子ペーパーなどの表示デバイス、タッチパネルなどの入力センサー、薄膜型アモルファスSi太陽電池や色素増感太陽電池などの太陽光を利用した太陽電池などの利用が増えており、これらのデバイスに必須の部材である透明導電膜の需要も増えている。
【0003】
この透明導電膜の材料としては、従来、酸化インジウムスズ(ITO)が主に用いられてきた。ITOを用いた薄膜は、高い透明性と高い導電性が得られるものの、一般的にはスパッタ装置や蒸着装置により作製されるため、生産速度や製造コストの面に問題があった。さらに、ITOの原料であるインジウムは安定供給が問題視される希少金属であることから、ITOの代替材料の開発が求められている。
【0004】
ITOに代わる透明導電膜の材料として注目されているものの一つとして、金属ナノワイヤが挙げられる。金属ナノワイヤはその小さな直径から、可視光領域での光透過性が高いため透明導電膜としての応用が可能となる。特に、銀ナノワイヤを用いた透明導電膜は高い導電性と安定性を有するため注目されている。
【0005】
銀ナノワイヤを用いた透明導電膜では、一般的に銀ナノワイヤの直径が小さいほど光の散乱が抑えられるため、膜の光学特性が向上する。このことから、より細い銀ナノワイヤの製造方法が検討されており、例えば特許文献1では、平均直径30nm未満の銀ナノワイヤの製造方法及びそれを用いた低曇価透明導体が報告されている。
【0006】
しかしながら、特許文献1で得られるような銀ナノワイヤは、直径が非常に小さいが故に不安定化しており、例えば、銀ナノワイヤの分散液は経時変化により、銀の微粒子が徐々に副生してしまうという問題が生じることが分かった。このような銀の微粒子は、銀ナノワイヤを塗工したフィルムにおいて、光を散乱することによりフィルムの光学特性が悪化してしまう。そのため、このような問題を解決する方法が求められていた。
【0007】
銀ナノワイヤの安定性を向上させる添加剤についてはいくつか提案されており、例えば特許文献2では、ピリジン‐ケトン化合物を用いることにより、銀ナノワイヤを塗工したフィルムの表面抵抗値の上昇が抑えられることが報告されている。特許文献3では、特定の相互作用電位を有する複素環化合物を用いることにより、銀ナノワイヤ塗布物の熱安定性が向上することが報告されている。その他にも、銀ナノワイヤを塗工した導電膜の光や高温高湿条件に対する安定化剤はいくつか報告されているものの(例えば、特許文献4~8)、銀ナノワイヤの分散液の状態で銀微粒子の発生を抑制する添加剤については知られていなかった。
【0008】
また、銀ナノワイヤを用いた導電材料では、電場の印加によりマイグレーションに代表される銀ナノワイヤの劣化が進行してしまうことが知られており、実際に電場印加時に陽極側で銀ナノワイヤの粒子化による劣化が進行してしまうことが確認できる。このことから電場の印加による銀ナノワイヤの劣化を防ぐ手法の開発が行われている。例えば特許文献9では、銀の表面に異なる金属をめっきすることにより耐久性を向上させているが、別途めっきを施す工程が必要となり、工程が煩雑となってしまうという問題があった。特許文献10では尿素結合を有する低分子化合物を銀ナノワイヤインク中に配合することにより、マイグレーション耐性が向上することが報告されているが、短絡の有無のみの評価であり、このことから簡便な手段による、陽極側での銀ナノワイヤの粒子化を抑制できる手法が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特表2013-517603号公報
【文献】米国特許出願公開第2014/0255708号公報
【文献】特開2010-086714号公報
【文献】米国特許出願公開第2015/0270024号公報
【文献】特開2016-001608号公報
【文献】特表2016-515280号公報
【文献】再表2018-008464号公報
【文献】再表2018-116501号公報
【文献】特開2013-151752号公報
【文献】再表2019-198494号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、前記した従来技術における課題に鑑み、銀ナノワイヤの分散液にて、従来法より銀微粒子の発生を抑えることができる方法を提供することと、簡便な方法にて銀ナノワイヤの陽極側での粒子化を抑制することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、前記の課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、銀ナノワイヤと特定のキレート剤を共存させることにより、前記した課題が解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、
<1>銀ナノワイヤと分散溶媒とキレート剤とを含み、銀ナノワイヤの平均直径が100nm以下である銀ナノワイヤ分散液であって、キレート剤を銀ナノワイヤの含有量に対し0.1~1000μmol/g含み、かつ、キレート剤が、分子内に少なくともひとつのイミン骨格を有する芳香族複素環化合物のうち、1,10-フェナントロリン、8位がヒドロキシル基またはアミノ基で置換されたキノリン、2,2’-ビピリジル、ビアゾール(但し、アゾールはイミダゾール、チアゾール、オキサゾールのいずれか1種である) およびこれらの誘導体の群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする銀ナノワイヤ分散液、
<2>キレート剤が一般式(1)~(4) の群より選ばれる少なくとも1種である前記<1>に記載の銀ナノワイヤ分散液、
〔一般式(1)〕
【化1】
(但し、一般式(1)中、Lはヒドロキシル基またはアミノ基を表し、R~Rは水素、炭素数1~4の直鎖のアルキル基、ハロゲン基を示し、R、Rのうち少なくとも一つは水素であり、R~Rのうち少なくとも二つは水素である)
〔一般式(2)〕
【化2】
(但し、一般式(2)中、R、Rは水素、炭素数1~4の直鎖のアルキル基、ハロゲン基を示し、Rは水素、炭素数1~4の直鎖のアルキル基、フェニル基、CSONa基、ハロゲン基を示し、R~Rのうち少なくとも一つは水素である)
〔一般式(3)〕
【化3】
(但し、一般式(3)中、R、Rは水素、炭素数1~4の直鎖のアルキル基、ハロゲン基を示し、R10は水素、炭素数1~4のアルキル基、ハロゲン基を示し、R~R10のうち少なくとも二つは水素である)
〔一般式(4)〕
-Z
(但し、一般式(4)中、Z、Zはそれぞれ独立して一般式(5)または(6)で示される含窒素複素環のいずれかを表す)
〔一般式(5)〕
【化4】
(但し、一般式(5)中、XはNH、O、Sのいずれかを表し、R11、R12は水素、炭素数1~4の直鎖のアルキル基、ハロゲン基または共同で形成するベンゼン環を示し、矢印はZまたはZとの単結合を表す)
〔一般式(6)〕
【化5】
(但し、一般式(6)中、XはNH、O、Sのいずれかを表し、R13は水素、炭素数1~4の直鎖のアルキル基、ハロゲン基を示し、矢印はZまたはZとの単結合を表す)
<3>キレート剤の含有量が銀ナノワイヤの含有量に対し1~300μmol/gである前記<1>または<2>に記載の銀ナノワイヤ分散液、
<4>キレート剤が1,10-フェナントロリン、ネオクプロイン、バソフェナントロリン及びそのスルホン酸ナトリウム塩、2,2’-ビピリジル、8-ヒドロキシキノリン、8-アミノキノリン、2-(4-チアゾリル)ベンゾイミダゾールの群より選ばれる少なくとも1種である前記<1>~<3>のいずれか一項に記載の銀ナノワイヤ分散液、
<5>銀ナノワイヤの平均直径が30nm以下である前記<1>~<4>のいずれか一項に記載の銀ナノワイヤ分散液、
<6>銀ナノワイヤの濃度が0.01~3質量%である前記<1>~<5>のいずれか一項に記載の銀ナノワイヤ分散液、
<7>さらにアミド結合を有する高分子または多糖類から選択される高分子化合物を含み、高分子化合物の濃度が0.02~1質量%である前記<1>~<6>のいずれか一項に記載の銀ナノワイヤ分散液、
<8>分散溶媒が水または炭素数1~3の1価のアルコール類のいずれかを含み、分散溶媒に占める水または炭素数1~3の1価のアルコール類の含有量が85質量%以上である前記<1>~<7>のいずれか一項に記載の銀ナノワイヤ分散液、
<9>基板と少なくとも一つの銀ナノワイヤ含有導電層を有する導電体であって、さらに導電層にキレート剤を銀ナノワイヤの含有量に対し0.1~1000μmol/g含み、キレート剤が、分子内に少なくともひとつのイミン骨格を有する芳香族複素環化合物のうち、1,10-フェナントロリン、8位がヒドロキシル基またはアミノ基で置換されたキノリン、2,2’-ビピリジル、ビアゾール(但し、アゾールはイミダゾール、チアゾール、オキサゾールのいずれか1種である) およびこれらの誘導体の群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする銀ナノワイヤ含有導電体、
<10>導電層のシート抵抗が1Ω/□~100Ω/□である前記<9>に記載の銀ナノワイヤ含有導電体、
<11>さらにΔヘイズが1.5%未満である前記<9>または<10>に記載の銀ナノワイヤ含有導電体、
<12>基板と銀ナノワイヤ含有導電層とキレート剤を含む保護層を有する導電性積層体であって、キレート剤が、分子内に少なくともひとつのイミン骨格を有する芳香族複素環化合物のうち、1,10-フェナントロリン、8位がヒドロキシル基またはアミノ基で置換されたキノリン、2,2’-ビピリジル、ビアゾール(但し、アゾールはイミダゾール、チアゾール、オキサゾールのいずれか1種である) およびこれらの誘導体の群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする銀ナノワイヤ含有導電性積層体、
<13>キレート剤が保護層中に0.05~5質量%存在する前記<12>に記載の銀ナノワイヤ含有導電性積層体、
である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、特定のキレート剤を用いることにより、銀ナノワイヤの分散液から、光学特性が悪化する原因である微粒子の発生を従来法より抑制することができ、さらに本発明で用いたキレート剤を用いると銀ナノワイヤ含有導電層の電場印加時の粒子化を抑制することもできる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0015】
[銀ナノワイヤ]
本発明における「銀ナノワイヤ」とは、直径が1μm未満であり、アスペクト比(長軸長/直径)が2以上である銀構造体をいう。また、本発明における「微粒子」とは、直径が1μm未満であり、アスペクト比(長軸長/直径)が2未満である構造体をいう。
【0016】
[銀ナノワイヤの直径]
銀ナノワイヤを透明導電膜として用いる場合、透明性を高めるため、ワイヤの平均直径は小さい方が有利であり好ましい。本発明での「銀ナノワイヤの直径」とは、走査型電子顕微鏡(SEM;日本電子株式会社製、JSM-5610LV)を用い、計測した直径をいう。また、「銀ナノワイヤの平均直径」とは、100個以上の銀ナノワイヤを観察し、計測した直径の平均値をいう。本発明においては、銀ナノワイヤの平均直径として100nm以下が好ましく、40nm以下がより好ましく、30nm以下がさらに好ましく、25nm以下が特に好ましい。
【0017】
[銀ナノワイヤの長軸長]
銀ナノワイヤを含有する透明電導膜は、銀ナノワイヤが互いに接触し合い、3次元的な導電ネットワーク構造が空間的に広く分布して形成されることにより、導電性を発現するため、導電性の観点からはナノワイヤの平均長軸長は長いほうが好ましい。一方で、長すぎるナノワイヤは絡まりやすくなるため、分散安定性の観点からは短いナノワイヤが好ましい。本発明での「銀ナノワイヤの長軸長」とは、暗視野顕微鏡(商品名:BX51、オリンパス(株)製)を用い、銀ナノワイヤを撮影し、画像処理ソフトウエア(商品名:Image-Pro Premier、Media Cybernetics, Inc製)を用いて算出した値をいう。また、「銀ナノワイヤの平均長軸長」とは、1000個以上の銀ナノワイヤを観察し、計測した長軸長の平均値をいう。本発明においては、銀ナノワイヤの平均長軸長として1~100μmが好ましく、5~30μmがより好ましく、7~20μmがさらに好ましい。
【0018】
[銀ナノワイヤの製造方法]
本発明で用いる銀ナノワイヤの製造方法に特に制限はなく、公知の製造方法で得られたものを用いることができる。その中でも、ポリオール中で成長制御剤とハロゲン化物塩の存在下、銀塩を還元することによって銀ナノワイヤを得る製造方法を用いるのが好ましい。
【0019】
[ポリオール]
前記のポリオールとしては、銀イオンを還元できる化合物であれば特に制限はなく、2つ以上の水酸基を有する化合物から少なくとも一種類を目的に応じて適宜選択することができる。具体例としては、エチレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ジエチレングリコール等のジオール類、グリセリン等のトリオール類等が挙げられる。これらの中でも、液体であることや、成長制御剤の溶解のし易さ、といった点から、炭素数が1~5である飽和炭化水素のジオール、炭素数が1~5である飽和炭化水素のトリオールが好ましい。中でも、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール(プロピレングリコール)、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、グリセリンを用いることがより好ましく、プロピレングリコールを用いることがさらに好ましい。
【0020】
[成長制御剤]
前記の成長制御剤は、特に制限はなく、少なくとも一種類のポリマーを目的に応じて適宜選択することができる。具体的な例としては、ポリビニルピロリドン、ポリ(メタ)アクリルアミド、ポリN置換(メタ)アクリルアミド、ポリ(メタ)アクリル酸及びその誘導体、ポリビニルアルコール、またはそれらの共重合体である。これらの中でもアミド骨格を有するポリマーが好ましく、ポリビニルピロリドン、ポリN置換(メタ)アクリルアミド、またはそれらの共重合体がより好ましく、ポリビニルピロリドンがさらに好ましい。ここで使用されるN置換(メタ)アクリルアミドとは、(メタ)アクリルアミドのN位の水素原子が1個以上アルキル基、ヒドロキシアルキル基、アリール基、アルコキシアルキル基等の官能基で置換されたものであれば特に限定されない。
【0021】
[ハロゲン化物塩]
前記のハロゲン化物塩は、無機塩あるいは有機塩を極性溶媒中に溶解することによってハロゲン化物イオンを解離する化合物であれば特に制限はなく、少なくとも一種類を目的に応じて適宜選択することができる。ハロゲン化物塩の具体例としては、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、臭化ナトリウム、臭化カリウム等のアルカリ金属ハロゲン化物、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、臭化マグネシウム等のアルカリ土類金属ハロゲン化物、塩化アルミニウム等の土類金属ハロゲン化物、塩化亜鉛等の亜鉛族金属ハロゲン化物、塩化スズ等の炭素族金属ハロゲン化物、塩化鉄、臭化鉄、塩化ニッケル、オキシ塩化ジルコニウム等の遷移金属ハロゲン化物、トリエチルアミン塩酸塩、ジメチルエタノールアミン塩酸塩等のアミン塩酸塩、塩化アンモニウム、臭化アンモニウム、塩化テトラブチルアンモニウム、臭化テトラブチルアンモニウム、塩化ベンジルトリエチルアンモニウム等のアンモニウム塩ハロゲン化物、塩化テトラブチルホスホニウム等のホスホニウム塩ハロゲン化物等が挙げられる。これらは単独で用いられてもよく、2種類以上組み合わせて用いられてもよい。特に塩化物塩を用いることで銀ナノワイヤの収率が高くなるため、塩化物塩を用いることが好ましく、臭化物塩を用いることでより直径の小さい銀ナノワイヤが得られるため、塩化物塩と臭化物塩を共に用いることがより好ましい。塩化物塩としては、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、オキシ塩化ジルコニウム、塩化アンモニウム、塩化ベンジルトリエチルアンモニウムを用いることが好ましく、塩化ナトリウムを用いることがさらに好ましい。臭化物塩としては、臭化ナトリウム、臭化カリウム、臭化アンモニウム、臭化テトラブチルアンモニウムを用いることが好ましく、臭化ナトリウムを用いることがさらに好ましい。
【0022】
[銀塩]
前記の銀塩としては、ポリオールによって還元される銀化合物であれば特に制限はなく、少なくとも一種類を目的に応じて適宜選択することができる。具体的な例としては、硝酸銀、硫酸銀、スルファミン酸銀、塩素酸銀、過塩素酸銀等の無機酸塩類、酢酸銀、乳酸銀等の有機酸塩類が挙げられる。これらの中でも硝酸銀を用いることが好ましい。なお、前記ハロゲン化物塩と銀塩は同一物質で併用しても良い。このような化合物として、例えば、塩化銀や臭化銀を挙げることができる。
【0023】
[銀ナノワイヤの精製]
前記銀ナノワイヤの製造方法で得られた銀ナノワイヤは、反応液を遠沈法、濾過法、傾瀉法、水簸法、溶媒による沈殿後再分散処理する方法等従来公知の方法により精製してから、分散溶媒を用いて銀ナノワイヤ分散液とすることが好ましい。
【0024】
[銀ナノワイヤ分散液]
本発明の銀ナノワイヤ分散液は、銀ナノワイヤが分散溶媒に分散しているものである。この銀ナノワイヤ分散液には、発明の効果を阻害しない程度に必要に応じて各種の添加剤を併用することができる。添加剤の具体例として、界面活性剤や高分子化合物を挙げることができる。
【0025】
[銀ナノワイヤ分散液の濃度]
本発明で用いる銀ナノワイヤ分散液の銀ナノワイヤ濃度は、任意に設定できるが、分散安定性の観点から、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、3質量%以下であることがさらに好ましく、1質量%以下であることが特に好ましい。また、銀ナノワイヤ濃度が極端に薄い場合は、塗工時に目的の抵抗値にするために、塗工厚を上げることや、複数回の塗工が必要となるなど使用時の手間が増えるため、生産性の観点から0.005質量%以上であることが好ましく、0.01質量%以上であることがより好ましく、0.05質量%以上であることがさらに好ましい。
【0026】
[銀ナノワイヤ分散液の希釈液のヘイズ]
特定の濃度の銀ナノワイヤ分散液のヘイズを測定することにより、銀ナノワイヤ分散液を塗膜にしたときの光散乱の度合いを見積もることができる。本発明における「銀ナノワイヤ分散液の希釈液のヘイズ」とは、銀ナノワイヤ分散液をイオン交換水で銀濃度を0.0015%とした希釈液を光路長1cmのセルに入れて、NDH5000(日本電色工業(株)製)を用いてヘイズを測定した値のことをいう。銀ナノワイヤ分散液の希釈液のヘイズは、分散液を製膜したときの透明性の観点から10.0%未満が好ましく、5.0%未満がより好ましく、3.0%未満がさらに好ましく、2.6%未満が特に好ましい。
【0027】
[分散溶媒]
本発明で用いる分散溶媒は、銀ナノワイヤが分散可能であるとともに、高分子化合物等の銀ナノワイヤ分散液に含まれるその他の成分を溶解させる化合物であればよい。また、銀ナノワイヤ分散液は銀ナノワイヤ含有導電層の作成にも用いられることから、分散溶媒は銀ナノワイヤを含む導電層を成膜時に蒸発することで均一な塗膜を形成する化合物であることが好ましい。具体例としては、水、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、2-メチル-1-プロパノール、2-メチル-2-プロパノール、ジアセトンアルコール等のアルコール類、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、グリセリン等のポリオール類、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のグリコールエーテル類、エチレングリコールジメチルエーテル等のグライム類、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のグリコールエーテルエステル類、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、トルエン等の芳香族類、およびこれらの2種類以上からなる溶媒が挙げられる。その中でも、銀ナノワイヤの分散性の観点から極性溶媒を用いるのが好ましい。その中でも、分散溶媒に占める水または炭素数1~3の1価のアルコール類の含有量が50質量%以上であることが好ましく、75質量%以上であることがより好ましく、85質量%以上であることがさらに好ましい。
【0028】
[キレート剤]
キレート剤とは、同一分子内の少なくとも2か所の異なる位置で、ある1つの金属中心に対して配位することができる能力を有する化合物のことである。本発明では、キレート剤の中でも分子内に少なくとも一つのイミン骨格を有する特定の芳香族複素環化合物を銀ナノワイヤとともに用いる。イミン骨格を有する芳香族複素環とは、ベンゼンやフラン等の芳香環の環を形成している少なくとも一つの炭素が窒素に置き換えられた芳香環であり、具体的には、ピリジンやオキサゾール等が挙げられる。本発明で用いるキレート剤は、少なくとも一つのイミン骨格を有する芳香族複素環のイミン型窒素と少なくとも一つのヘテロ原子によってキレート配位が可能な化合物である。イミン骨格を有する芳香族複素環構造を有するキレート剤は、複素環構造に含まれるイミン型窒素の銀に対する適度な配位能とキレート効果による安定化により発明の効果を発揮しているものと思われる。配位能を有するイミン型窒素ともう一つのヘテロ原子の位置関係も重要であり、芳香族複素環のイミン型窒素から3結合離れた位置にもう一つの配位能を有するヘテロ原子が配置され、キレート構造をとることができる化合物が好ましい。その中でも、キレート剤の構造が、キレート配位できる構造に固定されていることが好ましい。また、もう一つのヘテロ原子を有する官能基も重要であり、ヒドロキシル基、アミノ基、イミン型窒素のいずれかである必要がある。これらの中でも、銀に対する親和性の観点から、アミノ基またはイミン型窒素が好ましく、イミン型窒素がより好ましい。これらのことから、本発明で用いることができるキレート剤が有するイミン骨格を有する芳香族複素環は1,10-フェナントロリン、8位がヒドロキシル基またはアミノ基で置換されたキノリン、2,2’-ビピリジル、ビアゾール(但しアゾールはイミダゾール、チアゾール、オキサゾールのいずれか)およびこれらの誘導体の群より選ばれる少なくとも1種である。以下それぞれの芳香族複素環構造を有するキレート剤について詳細に説明する。
【0029】
1,10-フェナントロリンおよびその誘導体は、1,10-フェナントロリン骨格のキレート配位できるヘテロ原子が二つともイミン型窒素であり、かつ、キレート配位する構造に固定されていることから最も好ましく用いることができる化合物群である。1,10-フェナントロリンおよびその誘導体の好ましく用いることができる例として、下記一般式(7)で示される化合物が挙げられる。
〔一般式(7)〕
【化6】
(但し、一般式(7)中、R、Rは水素、炭素数1~4の直鎖のアルキル基、ハロゲン基を示し、Rは水素、炭素数1~4の直鎖のアルキル基、フェニル基、CSONa基、ハロゲン基を示し、R~Rのうち少なくとも一つは水素である)
これらの1,10-フェナントロリンおよびその誘導体の具体例としては、1,10-フェナントロリン、ネオクプロイン、2,9-ジブチル-1,10-フェナントロリン、4,7-ジメチル-1,10-フェナントロリン、3,4,7,8-テトラメチル-1,10-フェナントロリン、2,9-ジクロロ-1,10-フェナントロリン、4,7-ジクロロ-1,10-フェナントロリン、バソフェナントロリン及びそのスルホン酸ナトリウム塩、バソクプロイン及びそのスルホン酸ナトリウム塩等が挙げられる。この中でも入手容易性の観点から、1,10-フェナントロリン、ネオクプロイン、バソフェナントロリン及びそのスルホン酸ナトリウム塩を用いるのが好ましく、1,10-フェナントロリンを用いるのがより好ましい。また、配位性官能基近傍の置換基は小さいほど立体障害が緩和され、銀との相互作用に有利であることから、一般式(7)中のRは水素またはメチル基であることが好ましく、水素であることがより好ましい。
【0030】
8位がヒドロキシル基またはアミノ基で置換されたキノリンおよびその誘導体は、イミン型窒素と、ヒドロキシル基またはアミノ基によるキレート構造をとることができ、キレート配位する構造に固定されている化合物である。キノリンおよびその誘導体の好ましく用いることができる例として、下記一般式(8)で示される化合物が挙げられる。
〔一般式(8)〕
【化7】
(但し、一般式(8)中、Lはヒドロキシル基またはアミノ基を表し、R~Rは水素、炭素数1~4の直鎖のアルキル基、ハロゲン基を示し、R、Rのうち少なくとも一つは水素であり、R~Rのうち少なくとも二つは水素である)
8位がヒドロキシル基またはアミノ基で置換されたキノリンおよびその誘導体の具体例としては、8-ヒドロキシキノリン、8-ヒドロキシ-2-メチルキノリン、8-ヒドロキシ-2-プロピルキノリン、5-フルオロ-8-ヒドロキシキノリン、5-クロロ-8-ヒドロキシキノリン、7-ブロモ-5-クロロ-8-ヒドロキシキノリン、8-アミノキノリン、8-アミノ-2-メチルキノリン等が挙げられる。この中でも入手容易性の観点から、8-ヒドロキシキノリン、8-ヒドロキシ-2-メチルキノリン、5-クロロ-8-ヒドロキシキノリン、8-アミノキノリンを用いるのが好ましく、8-ヒドロキシキノリン、8-アミノキノリンを用いるのがより好ましい。また、配位性官能基近傍の置換基は小さいほど立体障害が緩和され、銀との相互作用に有利であることから、一般式(8)中のRは水素またはメチル基であることが好ましく、水素であることがより好ましい。銀との相互作用の観点からは、一般式(8)中のLはアミノ基がより好ましい。
【0031】
2,2’-ビピリジルおよびその誘導体において、2,2’-ビピリジル骨格のピリジル基同士は1つの単結合でつながっていることから、この結合軸を中心に自由回転できるため、キレート配位する構造が固定されていないものの、キレート配位できるヘテロ原子が二つともイミン型窒素であり好ましく用いることができる。2,2’-ビピリジルおよびその誘導体の好ましく用いることができる例として、下記一般式(9)で示される化合物が挙げられる。
〔一般式(9)〕
【化8】
(但し、一般式(9)中、R、Rは水素、炭素数1~4の直鎖のアルキル基、ハロゲン基を示し、R10は水素、炭素数1~4のアルキル基、ハロゲン基を示し、R~R10のうち少なくとも二つは水素である)
これらの2,2’-ビピリジルおよびその誘導体の具体例としては、2,2’-ビピリジル、4,4’-ジメチル-2,2’-ビピリジル、5,5’-ジメチル-2,2’-ビピリジル、6,6’-ジメチル-2,2’-ビピリジル、4,4’-ジブロモ-2,2’-ビピリジル、6,6’-ジブロモ-2,2’-ビピリジル、4,4’-ジ-tert-ブチル-2,2’-ビピリジル等が挙げられる。この中でも入手容易性の観点から、2,2’-ビピリジルを用いるのが好ましい。また、配位性官能基近傍の置換基は小さいほど立体障害が緩和され、銀との相互作用に有利であることから、一般式(9)中のRは水素またはメチル基であることが好ましく、水素であることがより好ましい。
【0032】
一般的に、ビアゾールとは二つのアゾールが単結合によって結合している化合物のことであるが、本発明でいうビアゾールとは、それぞれのアゾール(但し、アゾールはイミダゾール、チアゾール、オキサゾールのいずれか)が2位または4位でもう一方のアゾールと結合しビアゾール骨格を形成しているもののことをいう。ビアゾールおよびその誘導体において、ビアゾール骨格のアゾール基同士は1つの単結合でつながっていることから、この結合軸を中心に自由回転できるため、2,2’-ビピリジルと同様にキレート配位する構造が固定されていない。しかしながら、6員環同士が単結合している2,2’-ビピリジルと比較し、5員環同士が単結合しているビアゾールは、2つの環が共平面をとりキレート配位するのに好ましい構造をとるときの2つの環同士の立体障害が小さいため、よりキレート配位するのに好ましい構造が安定に存在できるため、2,2’-ビピリジルおよびその誘導体より好ましく用いることができる。さらにキレート配位できるヘテロ原子が二つともイミン型窒素であるため好ましく用いることができる。ビアゾールおよびその誘導体の好ましく用いることができる例として、下記一般式(10)で示される化合物が挙げられる。
〔一般式(10)〕
-Z
(但し、一般式(10)中、Z、Zはそれぞれ独立して一般式(11)または(12)で示される含窒素複素環のいずれかを表す)
〔一般式(11)〕
【化9】
(但し、一般式(11)中、XはNH、O、Sのいずれかを表し、R11,R12は水素、炭素数1~4の直鎖のアルキル基、ハロゲン基または共同で形成するベンゼン環を示し、矢印はZまたはZとの単結合を表す)
この中でも、配位性官能基近傍の置換基は小さいほど立体障害が緩和され、銀との相互作用に有利であることから、一般式(11)中のR11は水素またはR12と共同で形成するベンゼン環であることが好ましい。
〔一般式(12)〕
【化10】
(但し、一般式(12)中、XはNH、O、Sのいずれかを表し、R13は水素、炭素数1~4の直鎖のアルキル基、ハロゲン基を示し、矢印はZまたはZとの単結合を表す)
この中でも、配位性官能基近傍の置換基は小さいほど立体障害が緩和され、銀との相互作用に有利であることから、一般式(12)中のR13は水素またはメチル基であることが好ましく、水素であることがより好ましい。
これらのビアゾールおよびその誘導体の具体例としては、2-(4-チアゾリル)ベンゾイミダゾール、2,2’-ビイミダゾール、2,2’-ビス-(4,5-ジメチルイミダゾール)、2,2’-ジメチル-4,4’-ビチアゾール等が挙げられる。この中でも入手容易性の観点から、2-(4-チアゾリル)ベンゾイミダゾールを用いるのが好ましい。
【0033】
[銀ナノワイヤ分散液中のキレート剤の含有量]
本発明では規定するキレート剤を銀ナノワイヤの分散液中に添加することにより、銀ナノワイヤ分散液の経時的な微粒子の発生を抑制することができる。本発明で用いるキレート剤は量が多いほど微粒子の発生を抑制できるため、銀ナノワイヤ分散液に含まれるキレート剤は銀ナノワイヤに対し0.1μmol/g以上用いる必要がある。その中でも、0.5μmol/g以上であることが好ましく、1μmol/g以上であることがより好ましく、2μmol/g以上であることがさらに好ましく、5μmol/g以上であることが特に好ましい。一方で、キレート剤は銀ナノワイヤの分散性や導電性の観点からは使用量が少ない方が好ましい。このことから、用いるキレート剤の量は銀ナノワイヤに対し1000μmol/g以下が好ましく、300μmol/g以下がより好ましく、100μmol/g以下がさらに好ましい。
【0034】
[高分子化合物]
本発明の銀ナノワイヤ分散液には銀ナノワイヤの分散安定性向上や塗工適性の向上の目的で高分子化合物を添加することが好ましい。高分子化合物の具体例としては、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ニトロセルロース、酢酸セルロース、グアーガム、キサンタンガム、タマリンドシードガム、サイリウムシードガム、ガティガム、ローカストビーンガム、ヒドロキシエチルグアーガム、ヒドロキシプロピルグアーガム等の多糖類およびその誘導体、ポリ(メタ)アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、アルキッド樹脂、エポキシ樹脂、エチレン酢酸ビニル樹脂、ポリビニルピロリドン等のポリ-N-ビニル化合物、ポリ(メタ)アクリルアミド、ポリN置換(メタ)アクリルアミド、ポリビニルアルコールおよびその誘導体等があげられる。その中でも、多糖類およびその誘導体やアミド結合を有する高分子を用いるのが好ましい。多糖類およびその誘導体の中では、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースが好ましく、ヒドロキシプロピルメチルセルロースがより好ましい。アミド結合を有する高分子の中では、ポリN置換(メタ)アクリルアミド、ポリビニルピロリドンを用いるのが好ましく、ポリビニルピロリドンがより好ましい。
【0035】
[高分子化合物の濃度]
銀ナノワイヤ分散液中に含まれる高分子化合物の濃度は、銀ナノワイヤの分散性や塗工適性向上の観点から、0.005質量%以上が好ましく、0.02質量%以上がより好ましく、0.05質量%以上がさらに好ましい。また塗膜の導電性の観点から、高分子化合物の含有量は、5質量%以下が好ましく、1質量%以下がより好ましく、0.4質量%以下がさらに好ましい。
【0036】
[銀ナノワイヤ分散液を用いた銀ナノワイヤ含有導電層の製膜]
本発明の銀ナノワイヤ分散液は、例えば銀ナノワイヤ含有導電層の形成に用いることができ、基板上に公知の方法で塗布することで銀ナノワイヤ含有導電層を得る。塗布方法の具体例としては、スピンコート法、スリットコート法、ディップコート法、ブレードコート法、バーコート法、スプレー法、凸版印刷法、凹版印刷法、スクリーン印刷法、平板印刷法、ディスペンス法およびインクジェット法等が挙げられる。また、これらの塗布方法を用いて複数回塗り重ねてもよい。
【0037】
[銀ナノワイヤ含有導電体]
銀ナノワイヤ含有導電体は、基板と銀ナノワイヤ含有導電層を有する導電体である。
【0038】
[銀ナノワイヤ含有導電性積層体]
銀ナノワイヤ含有導電性積層体は、基板と、銀ナノワイヤ含有導電層と、保護層とを少なくとも1層ずつ有する積層体である。銀ナノワイヤ含有導電層は、銀ナノワイヤ分散液を製膜して作成することができる。また、保護層は、保護層形成用樹脂組成物を製膜して作成することができる。本発明においては、銀ナノワイヤ含有導電層および/または保護層にキレート剤を含むことができ、銀ナノワイヤ含有導電層または保護層の少なくとも一方に本発明で規定するキレート剤を含むことにより、電場印加時の銀ナノワイヤの粒子化を抑制することができる。
【0039】
[積層方法]
銀ナノワイヤ含有導電性積層体の製造方法は特に限定されない。例えば、基材上に銀ナノワイヤ分散液を製膜することで銀ナノワイヤ含有導電層を形成し、さらにその上面に保護層を形成する方法、あるいは、基材上に予め保護層を形成しておき、その上に順に銀ナノワイヤ含有導電層、保護層を形成する方法などが挙げられる。
【0040】
[基板]
基板は、用途に応じて適宜選択し、堅くてもよく、曲がり易くてもよい。また、着色されていてもよい。本発明における基板は、公知の方法で得られる、あるいは市販品の基板であれば特に限りはなく用いることができる。基板の材料の具体例として、ガラス、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、ポリアクリレート、ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリオレフィン、ポリ塩化ビニルが挙げられる。基板には、有機機能性材料および無機機能性材料が、さらに形成されても良い。また、基板は多数積層されても良い。
【0041】
[銀ナノワイヤ含有導電層]
銀ナノワイヤ含有導電層は、銀ナノワイヤを含んだ層である。銀ナノワイヤ含有導電層は、銀ナノワイヤ分散液を製膜して作成することができる。銀ナノワイヤ分散液は、公知のものを使用することができるが、本発明で規定するキレート剤を含んでいることが好ましい。
【0042】
[銀ナノワイヤ含有導電層のシート抵抗]
銀ナノワイヤ含有導電層のシート抵抗は、銀ナノワイヤ含有導電体や銀ナノワイヤ含有導電性積層体の導電性の指標として用いられる。銀ナノワイヤ含有導電層のシート抵抗は前記導電層に含まれる銀ナノワイヤの量を変化させることにより、使用する用途に応じて任意に設定することができる。好ましく使用できるシート抵抗の範囲として、0.1Ω/□~1000Ω/□であり、より好ましくは1Ω/□~100Ω/□である。
【0043】
[保護層]
保護層は、保護層形成用樹脂組成物によって形成され、主に、銀ナノワイヤ含有導電層を物理的・化学的に保護する目的で設けられる。保護層は銀ナノワイヤ含有導電層と隣接して設置されていても良く、保護層と導電層の間に複数の層を有していても良い。銀ナノワイヤ含有導電層を保護する観点から、保護層は銀ナノワイヤ含有導電層に隣接して配置されることが好ましい。
【0044】
[保護層形成用樹脂組成物]
保護層形成用樹脂組成物は光重合開始剤および/または熱重合開始剤、並びに、重合性モノマーおよび/またはマクロモノマーからなる組成物である。保護層形成用樹脂組成物には、さらに必要に応じてキレート剤、耐候性向上剤、溶媒、硬化助剤ならびに後述するその他の添加剤を含むことができる。本発明においては、本発明で規定するキレート剤を含む保護層形成用樹脂組成物を用いて銀ナノワイヤ含有導電性積層体の保護層を形成することにより、電場印加時の銀ナノワイヤの粒子化を抑制することができる。
【0045】
[保護層の製膜]
保護層形成用樹脂組成物の塗布方法としては、公知な塗布方法を用いることができる。塗布方法の具体例としては、スピンコート法、スリットコート法、ディップコート法、ブレードコート法、バーコート法、スプレー法、凸版印刷法、凹版印刷法、スクリーン印刷法、平板印刷法、ディスペンス法およびインクジェット法等が挙げられる。また、これらの塗布方法を用いて複数回塗り重ねてもよい。
【0046】
[保護層中のキレート剤の含有量]
本発明で規定するキレート剤を銀ナノワイヤ含有導電性積層体に添加することにより、電場印加時の銀ナノワイヤの粒子化を抑制することができる。銀ナノワイヤ含有導電性積層体の保護層中に用いるキレート剤の量が多いほど粒子化を抑制できるため、保護層中に含まれるキレート剤は0.01質量%以上であることが好ましく、0.05質量%以上であることがより好ましく、0.1質量%以上であることがさらに好ましく、0.2質量%以上であることが特に好ましい。一方で、キレート剤は導電性の観点からは使用量が少ない方が好ましいと考えられる。このことから、保護層中に含まれるキレート剤の量は15質量%以下が好ましく、7質量%以下がより好ましく、5質量%以下がさらに好ましく、2質量%以下が特に好ましい。保護層中に含まれるキレート剤の量は、保護層形成用樹脂組成物中に含まれる成分のうち溶媒を除いた成分の量に対するキレート剤の量から求めることができる。
【0047】
[光重合開始剤]
光重合開始剤は特に限定なく、公知の方法で得られる、あるいは市販品の光重合開始剤でよい。光重合開始剤の具体例としては、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ジエトキシアセトフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾイル安息香酸、ベンゾイル安息香酸メチル、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-(4-モルホリニル)-1-プロパノン、キサントン、アントラキノン、2-メチルアントラキノン等が挙げられる。これらは1種または2種以上を組合せて用いることができる。
【0048】
[熱重合開始剤]
熱重合開始剤は特に限定なく、公知の方法で得られる、あるいは市販品の熱重合開始剤でよい。熱重合開始剤の具体例としては、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム等の過硫酸塩類;t-ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド等の過酸化物類;過硫酸塩類や過酸化物類と亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、チオ硫酸塩、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート、硫酸第一鉄、硫酸第一鉄アンモニウム、ブドウ糖、アスコルビン酸等の還元剤との組み合わせによるレドックス開始剤;2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオン酸)ジメチル、2,2’-アゾビス(2-アミジノプロパン)二塩酸塩等のアゾ化合物類、が挙げられる。これらは1種または2種以上を組合せて用いることができる。
【0049】
[重合性モノマーおよびマクロモノマー]
重合性モノマーおよびマクロモノマーとしては、可視光、または紫外線や電子線のような電離放射線の照射により直接または開始剤の作用を受けて重合反応を生じるモノマーおよびマクロモノマーであれば、特に限定はなく用いることができる。1分子中に1個の重合性不飽和基を有する重合性モノマーの具体例としては、(メタ)アクリル酸、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシ-ジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシ-トリエチレングリコール(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル類;(メタ)アリルアルコール、グリセロールモノ(メタ)アリルエーテル等の(メタ)アリル化合物;スチレン、メチルスチレン、ブチルスチレン等の芳香族ビニル類;酢酸ビニル等のカルボン酸ビニルエステル類;(メタ)アクリルアミド、N-シクロヘキシル(メタ)アクリルアミド、N-フェニル(メタ)アクリルアミド、N-(2-ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド類が挙げられる。また、1分子中に2個以上の重合性不飽和基を有する重合性モノマーの具体例としては、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、アルキル変性ジペンタエリスリトール(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、プロピレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性イソシアヌル酸トリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。マクロモノマーの具体例としては、1分子あたり平均1個以上重合性不飽和基を有する重合性ウレタンアクリレート樹脂、重合性ポリウレタン樹脂、重合性アクリル樹脂、重合性エポキシ樹脂、重合性ポリエステル樹脂、を用いることができる。これらは1種または2種以上を組合せて用いることができる。
【0050】
[耐候性向上剤]
保護層形成用樹脂組成物には、経時安定性の観点から耐候性向上剤を含むことが好ましい。耐候性向上剤は、環境下で銀ナノワイヤの劣化を抑制するために機能する化合物である。このような耐候性向上剤は公知なものを用いることができる。その中でも、下記一般式(13)または(14)で表わされる化合物と組合せて用いることが好ましく、2-メルカプトチアゾリン、2-メルカプトベンゾチアゾール、2-メルカプトベンゾチアゾールメチルエーテル、3-(1,3-ベンゾチアゾール-2-イルチオ)プロピオン酸、(1,3-ベンゾチアゾール-2-イルチオ)コハク酸から選ばれる化合物と組合せて用いることがより好ましい。
〔一般式(13)〕
【化11】
(但し、一般式(13)中、R14は水素原子、炭素数1~12のアルキル基、または炭素数1~3のアルキル基を有する(ジ)カルボキシアルキル基を示す。)
〔一般式(14)〕
【化12】
(但し、一般式(14)中、R15は水素原子、炭素数1~12のアルキル基、または炭素数1~3のアルキル基を有する(ジ)カルボキシアルキル基を示す。)
【0051】
[保護層形成用樹脂組成物の溶媒]
保護層形成用樹脂組成物には、更に溶媒を含有することができる。溶媒は樹脂組成物中の他の成分を溶解させ、製膜時に蒸発することで均一な塗膜を形成する化合物であればよい。溶媒の具体例として、水、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、アセトン、メチルエチルケトン、トルエン、n-ヘキサン、n-ブチルアルコール、ジアセトンアルコール、メチルイソブチルケトン、メチルブチルケトン、エチルブチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、1,3-ブチレングリコールジアセテート、シクロヘキサノールアセテート、プロピレングリコールジアセテート、テトラヒドロフルフリルアルコール、およびN-メチル-2-ピロリドン等が挙げられる。これらは1種または2種以上を組合せて用いることができる。
【0052】
[硬化助剤]
保護層形成用樹脂組成物には、更に硬化助剤を含有することができる。硬化助剤は、1分子中に反応性官能基を2個以上有する化合物であればよい。反応性官能基の具体例としては、イソシアネート基、アクリル基、メタクリル基、メルカプト基等が挙げられる。これらは1種または2種以上を組合せて用いることができる。
【0053】
[その他の添加剤]
保護層形成用樹脂組成物には、本発明の効果を阻害しない範囲内で各種の添加剤を添加することができる。添加剤としては、例えば、有機の微粒子、難燃剤、難燃助剤、耐酸化安定剤、レベリング剤、滑り賦活剤、帯電防止剤、染料、充填剤などを用いることができる。
【0054】
本発明の銀ナノワイヤ含有導電体や本発明の銀ナノワイヤ含有導電性積層体は、例えば液晶ディスプレイ用電極材、プラズマディスプレイ用電極材、有機エレクトロルミネセンスディスプレイ用電極材、電子ペーパー用電極材、タッチパネル用電極材、薄膜型アモルファスSi太陽電池用電極材、色素増感太陽電池用電極材、電磁波シールド材、帯電防止材等の各種デバイスなどに幅広く適用することができる。
【実施例
【0055】
以下、本発明の実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0056】
なお、表中の各薬剤の略号は以下のことを意味する。
Phen:1,10-フェナントロリン1水和物
Neoc:ネオクプロイン0.5水和物
Batho:バソフェナントロリンジスルホン酸二ナトリウム水和物
bpy:2,2’-ビピリジル
8-HQ:8-ヒドロキシキノリン
8-AQ:8-アミノキノリン
TBZ:2-(4-チアゾリル)ベンゾイミダゾール
HPBO:2-(2-ヒドロキシフェニル)ベンゾオキサゾール
box:2,2’-(2-ビスオキサゾリン)
DAcPy:2,6-ジアセチルピリジン
HEPy:2-ピリジンエタノール
Im:イミダゾール
ImA:4-イミダゾールカルボン酸
MBI:2-メルカプトベンゾイミダゾール
IPA:2-プロパノール
HPMC-1:ヒドロキシプロピルメチルセルロース(ダウ・ケミカル(株)製、メトセル311)
HPMC-2:ヒドロキシプロピルメチルセルロース(信越化学工業社製、メトローズ(登録商標)60SH10000)
MBT:2-メルカプトベンゾチアゾール
DETA:ジエチレントリアミン
4,4’-bpy:4,4’-ビピリジル
【0057】
<銀ナノワイヤの作成>
(合成例1)
攪拌装置、温度計、窒素導入管を具備した四つ口フラスコに窒素を送入しながら、1.0質量%のポリビニルピロリドン(BASF社製、Sokalan(登録商標)K90P)のプロピレングリコール溶液666.97質量部、濃度1.5質量%の塩化ナトリウムのプロピレングリコール溶液5.35質量部、濃度2.2質量%の臭化ナトリウムのプロピレングリコール溶液1.87質量部およびプロピレングリコール162.95質量部を加え、室温で30分間攪拌した。次いで、内温を145℃まで昇温した後、2,5-ジメチル-4-ヒドロキシ-3(2H)-フラノン1.06質量部、イオン交換水4.80質量部およびプロピレングリコール30質量部を混合し溶解させた溶液を加え、10分間撹拌した。その後、内温を145℃で保持しながら濃度5.5質量%の硝酸銀のプロピレングリコール溶液127質量部を90分間かけて加え、さらに30分間攪拌した。その後、得られた溶液を冷却することにより、銀ナノワイヤを含む反応液を得た。
【0058】
[銀ナノワイヤ分散液(a)の調製]
銀ナノワイヤを含む反応液1000質量部に水3000質量部を加えて希釈し、メンブレンフィルターで吸引濾過した。さらに残渣上に水を加えて吸引濾過を5回繰り返し、再度水を加えることで0.15質量%の粗精製銀ナノワイヤ分散液を得た。得られた粗精製銀ナノワイヤ分散液を遠心分離機を用いて2000rpmの回転数で10分間処理し、残った上澄みを採取することにより、相対的に直径の大きい銀ナノワイヤを取り除いた。得られた上澄み液はメンブレンフィルターを用いて濃縮し、含有量0.7質量%の銀ナノワイヤ分散液(a)を調製した。得られた銀ナノワイヤは平均長軸長12μm、平均直径25nmであった。
【0059】
[銀ナノワイヤ分散液の安定性試験]
銀ナノワイヤ分散液の安定性試験は銀ナノワイヤ分散液を40℃で10日間静置し、得られた銀ナノワイヤ分散液の希釈液のヘイズを測定し、調製直後の銀ナノワイヤ分散液と比較したヘイズの上昇率を求めることにより安定性を評価した。具体的には、ヘイズ上昇率は下記(1)式で与えられる。ヘイズ上昇率は、その値が低い方が経時変化により銀微粒子の発生が抑えられているため、光学特性の悪化度合が小さいことを示す。測定には、NDH5000(日本電色工業(株)製)を用いた。
(H2-H1)/H1×100 (%) … (1)
H1:調製直後の銀ナノワイヤ分散液の希釈液のヘイズ
H2:40℃で10日間静置した銀ナノワイヤ分散液の希釈液のヘイズ
ヘイズ上昇率は15%未満が好ましく、12%未満がより好ましく、7%未満がさらに好ましく4%未満が特に好ましい。
【0060】
(実施例A-1)
ポリ容器に、0.7質量%の銀ナノワイヤ分散液(a)7.14質量部、5質量%ポリビニルピロリドン(BASF社製、Sokalan(登録商標)K30P)水溶液0.10質量部、0.1質量%の1,10-フェナントロリン一水和物の水溶液0.10質量部、エタノール0.10質量部、イオン交換水2.56質量部を加え、ふたを閉めた後に振蕩機で5分間混ぜることにより、0.5質量%の銀ナノワイヤ分散液(A-1)を調製した。調製した銀ナノワイヤ分散液(A-1)の希釈液のヘイズは2.27%であった。調製した銀ナノワイヤ分散液(A-1)の安定性試験を行った結果を表1に示す。
【0061】
(実施例A-2~A-19、比較例A-1~A-8)
実施例A-2~A-19、および、比較例A-1~A-8は表1に記載のように条件を変更する以外は実施例A-1と同様にして銀ナノワイヤ分散液の安定性試験を行った。結果もあわせて表1に記載した。バソフェナントロリンジスルホン酸二ナトリウム水和物の物質量については2水和物として計算した。
【0062】
【表1】
【0063】
(実施例B-1)
[銀ナノワイヤ含有導電体の作成]
ポリ容器に、0.7質量%の銀ナノワイヤ分散液(a)5.71質量部、0.5質量%のヒドロキシプロピルメチルセルロース(ダウ・ケミカル(株)製、メトセル311)水溶液2.40質量部、0.1質量%の1,10-フェナントロリン一水和物の水溶液0.08質量部、イオン交換水9.81質量部、2-プロパノール2.0質量部を仕込んだ後、ふたを閉め、振蕩機で5分間混ぜることにより、銀ナノワイヤ濃度が0.2質量%の銀ナノワイヤ分散液(B-1)を調製した。銀ナノワイヤ分散液(B-1)を、膜厚100μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(PETフィルム、東レ(株)製、商品名「ルミラーU403」)上に、No.7のワイヤーバーを用いて均一に塗布し、120℃の熱風対流式乾燥機で2分間乾燥することにより銀ナノワイヤ含有導電体を作成した。作成した導電体の物性測定を行った結果を表2に示す。
【0064】
(実施例B-2~B-11、比較例B-1~B-4)
実施例B-2~B-11、および、比較例B-1~B-4は表2に記載のように条件を変更する以外は実施例B-1と同様にして銀ナノワイヤ含有導電体を作成し、物性測定を行った。結果もあわせて表2に記載した。
【0065】
[銀ナノワイヤ含有導電体のシート抵抗]
銀ナノワイヤ含有導電体上の異なる9部位のシート抵抗(Ω/□)を測定し、その算術平均値から銀ナノワイヤ含有導電体における導電層の平均シート抵抗を求めた。シート抵抗の測定には、非接触式表面抵抗率測定器EC-80P(ナプソン(株)製)を用いた。さらに、キレート剤によるシート抵抗への影響を見積もるため、キレート剤を含まない銀ナノワイヤ含有導電体に対するキレート剤を含む銀ナノワイヤ含有導電体の導電層のシート抵抗変化率を求めた。シート抵抗変化率は下式(2)で与えられる。シート抵抗変化率は、その値が小さい方がキレート剤によるシート抵抗の上昇が抑えられていることを示す。
(r2-r1)/r1×100 (%) … (2)
r1:キレート剤を含まない銀ナノワイヤ含有導電体における導電層の平均シート抵抗
r2:キレート剤を含む銀ナノワイヤ含有導電体における導電層の平均シート抵抗
シート抵抗変化率は30%未満が好ましく、20%未満がより好ましく、15%未満がさらに好ましく、10%未満が特に好ましい。
【0066】
[銀ナノワイヤ含有導電体の全光線透過率]
NDH5000(日本電色工業(株)製)を用い、銀ナノワイヤ含有導電体の全光線透過率を測定した。さらに下式により、銀ナノワイヤ含有導電体と塗工前の基板との全光線透過率の差を算出して、Δ全光線透過率とした。
Δ全光線透過率(%)=銀ナノワイヤ含有導電体の全光線透過率-塗工前の基板の全光線透過率
ここで、Δ全光線透過率はその絶対値が小さいほど優れていることを示し、Δ全光線透過率の絶対値は10%以下が好ましく、5%以下がより好ましい。
【0067】
[銀ナノワイヤ含有導電体のヘイズ]
NDH5000(日本電色工業(株)製)を用い、銀ナノワイヤ含有導電体のヘイズを測定した。さらに下式により、銀ナノワイヤ含有導電体と塗工前の基板とのヘイズの差を算出して、Δヘイズとした。
Δヘイズ(%)=銀ナノワイヤ含有導電体のヘイズ-塗工前の基板のヘイズ
ここで、Δヘイズはその値が小さいほど優れていることを示し、Δヘイズの値は3.0%以下が好ましく、1.5%以下がより好ましく、1.0%以下がさらに好ましい。
【0068】
【表2】
【0069】
(実施例C-1)
[銀ナノワイヤ分散液の調製]
ポリ容器に、0.7質量%の銀ナノワイヤ分散液(a)3.43質量部、0.5質量%のヒドロキシプロピルメチルセルロース(ダウ・ケミカル(株)製、メトセル311)水溶液1.20質量部、イオン交換水3.87質量部、2-プロパノール1.5質量部を仕込んだ後、ふたを閉め、振蕩機で5分間混ぜることにより、銀ナノワイヤ濃度が0.24質量%の銀ナノワイヤ分散液(C-1a)を調製した。
【0070】
[銀ナノワイヤ含有導電体の調製]
銀ナノワイヤ分散液(C-1a)を、膜厚100μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(PETフィルム、東レ(株)製、商品名「ルミラーU403」)上に、No.7のワイヤーバーを用いて均一に塗布し、120℃の熱風対流式乾燥機で2分間乾燥することにより銀ナノワイヤ含有導電体(C-1b)を調製した。
【0071】
[保護層形成用樹脂組成物の調製]
四つ口フラスコに、重合性モノマーおよびマクロモノマーとしてジペンタエリスリトールヘキサアクリレート15質量部、トリメチロールプロパントリアクリレート5質量部、重合開始剤として1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン0.8質量部、1,10-フェナントロリン一水和物0.042質量部、溶媒としてプロピレングリコールモノメチルエーテル80質量部を仕込んだ後、均一な溶液になるまで攪拌し、保護層形成用樹脂組成物(C-1c)を調製した。
【0072】
[銀ナノワイヤ含有導電性積層体の形成]
保護層形成用樹脂組成物(C-1c)をプロピレングリコールモノメチルエーテルで4倍に希釈し、銀ナノワイヤ含有導電体(C-1b)上にスピンコート法(4000rpm30秒)により均一に塗布し、80℃の熱風対流式乾燥機で2分間乾燥した後、紫外線照射装置UV1501C-SZ(センエンジニアリング(株)製)を用いて、PET基板上に、上方から500mJ/cm2の条件でUV光を照射することで、銀ナノワイヤ層の保護層を形成し、銀ナノワイヤ含有導電性積層体(C-1d)を得た。保護層形成用樹脂組成物(C-1c)を用いて作成された保護層中に含まれるキレート剤の量は0.042/(15+5+0.8+0.042)×100=0.2質量%である。
【0073】
[電場印加高温高湿試験]
作成した銀ナノワイヤ含有導電性積層体を寸法縦3cm×横10cmに切断し、カッターで横5cmの位置に幅30μm程度の非導電部を形成した。続いて、光学弾性樹脂(3M(株)製、商品名8146-2、膜厚50μm)を片面のセパレータを剥がして貼り合せたガラス基板(アズワン(株)製、ソーダガラス製スライドガラス)の残る片面のセパレータを剥がし、銀ナノワイヤ含有導電性積層体の上面に光学弾性樹脂が配置されるように、銀ナノワイヤ含有導電性積層体の両端がはみ出るように貼り合わせ、PETフィルム上に、銀ナノワイヤ含有導電性積層体、光学弾性樹脂、ガラスが順に積層されたサンプル片を得た。次に、テスターを用いてサンプル片の非導電部を挟んで両端で電流が流れないことを確認した。その後、サンプル片の非導電部を挟んで両端に単三電池3本を直列で繋ぎ、その状態で恒温恒湿器試験機(いすゞ製作所製、TPAV-48-20)を用いて、85℃85%RHの環境下で10時間静置することにより、電場印加高温高湿試験を行った。試験後のサンプル片を暗視野顕微鏡(商品名:BX51、オリンパス(株)製)を用いて観察することで、非導電部から電池の正極側に向かって粒子化が進行し、銀ナノワイヤが消失している部分が確認できる。この銀ナノワイヤが消失している領域の非導電部からの距離を等間隔に9点測定しその平均値を算出して、粒子化距離の平均値とした。結果を表3に示す。ここで粒子化距離の平均値は小さいほど優れていることを示し、220mm以下が好ましく、200mm以下がより好ましく、175mm以下がさらに好ましい。
【0074】
(実施例C-2~C-9、比較例C-1~C-4)
実施例C-2~C-9、および、比較例C-1~C-4は表3に記載のように条件を変更する以外は実施例C-1と同様にして銀ナノワイヤ含有導電性積層体を作成し、物性測定を行った。結果もあわせて表3に記載した。
【0075】
【表3】
【0076】
実施例A-1~A-19は本発明で規定したキレート剤を一定量以上含んでいるため、キレート剤を含まない比較例1と比べ、経時変化によるヘイズの上昇を抑えられていることがわかる。
【0077】
一方、特許文献2にピリジン‐ケトン化合物として例示されている2,6-ジアセチルピリジンを用いた比較例A-2や特許文献3に特定の相互作用電位を有する複素環化合物として例示されている4-イミダゾールカルボン酸を用いた比較例A-3、本発明で特定する構造とは異なる複素環化合物を用いた比較例A-4~A-7では、本発明で規定したキレート剤を含む実施例A-1~A-19と比べ、経時変化によるヘイズの上昇の抑制効果が不十分であることがわかる。
【0078】
実施例A-1~A-6、A-18、A-19と比べ比較例A-8は、銀ナノワイヤ分散液に含まれるキレート剤の銀ナノワイヤに対する物質量が本発明で規定する範囲外にあるため、経時変化によるヘイズの上昇の抑制効果が不十分であることがわかる。
【0079】
実施例A-18と比べ実施例A-1~A-6、A-19は、銀ナノワイヤ分散液に含まれるキレート剤の銀ナノワイヤに対する物質量がより好ましい範囲にあるため、よりヘイズの上昇を抑制できていることがわかる。
【0080】
実施例B-1~B-11は本発明で規定したキレート剤を規定量以下で含んでいるため、同じ銀ナノワイヤ含有量のキレート剤を含まない比較例B-1、B-3と同等のシート抵抗値を示しており、導電性への悪影響が小さいことがわかる。しかしながら、規定量以上用いた比較例B-2では比較例B-1と比較し、顕著なシート抵抗の上昇が確認される。このことから、本発明で規定したキレート剤を規定量以下で用いることが必要であることがわかる。
【0081】
一方、特許文献3に特定の相互作用電位を有する複素環化合物として例示されている2-メルカプトベンゾイミダゾールを用いた比較例B-4は比較例B-3と比較しシート抵抗が顕著に上昇しており、導電性への悪影響が大きく、好ましく用いることができないことがわかる。
【0082】
実施例C-1~C-9は本発明で規定したキレート剤を含んでいるため、本発明で規定したキレート剤を含まない比較例C-1と比較し、電場印加時の粒子化する領域が小さくなっており、耐性が向上していることがわかる。
【0083】
一方、本発明で規定する構造とは異なる化合物を用いた比較例C-2~C-4では、比較例C-1と比較し、電場印加時の粒子化する領域を小さくする効果はほとんどなく、電場印加時の劣化を抑制する効果が限定的であることがわかる。
【要約】
【課題】本発明は、従来技術における課題に鑑み、銀ナノワイヤの分散液にて、従来法より銀微粒子の発生を抑えることができる方法を提供することと、簡便な方法にて銀ナノワイヤの陽極側での粒子化を抑制することを課題とする。
【解決手段】銀ナノワイヤと分散溶媒とキレート剤とを含み、銀ナノワイヤの平均直径が100nm以下である銀ナノワイヤ分散液であって、キレート剤を銀ナノワイヤの含有量に対し0.1~1000μmol/g含み、かつ、キレート剤が、分子内に少なくともひとつのイミン骨格を有する特定の芳香族複素環化合物であることを特徴とする銀ナノワイヤ分散液。