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特許7030322リチウムイオン電池用複合粒子及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-25
(45)【発行日】2022-03-07
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池用複合粒子及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/36 20060101AFI20220228BHJP
【FI】
H01M4/36 C
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2017254949
(22)【出願日】2017-12-28
(65)【公開番号】P2019121499
(43)【公開日】2019-07-22
【審査請求日】2020-10-21
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業(先端的低炭素化技術開発)「次世代蓄電池/無機固体電解質を用いた全固体リチウム二次電池の創出/懸濁・固化プロセスの検討による電極複合体作製・機械的評価」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】304027349
【氏名又は名称】国立大学法人豊橋技術科学大学
(74)【代理人】
【識別番号】100151127
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 勝雅
(74)【代理人】
【識別番号】100151644
【弁理士】
【氏名又は名称】平岩 康幸
(72)【発明者】
【氏名】松田 厚範
(72)【発明者】
【氏名】武藤 浩行
(72)【発明者】
【氏名】グエン フ フィ フク
(72)【発明者】
【氏名】松田 麗子
(72)【発明者】
【氏名】平原 栄人
【審査官】村岡 一磨
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-201372(JP,A)
【文献】特開2014-191899(JP,A)
【文献】特開2017-152347(JP,A)
【文献】特開2016-117640(JP,A)
【文献】特開2016-025027(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
活物質を含む活物質部と、該活物質部の表面に配設されてなる固体電解質部とを備える複合粒子であって、
前記固体電解質部は、チオリシコンを含み、前記活物質部の表面を被覆する被覆部分と、該被覆部分からその外側に延びた薄肉部分とからなることを特徴とするリチウムイオン電池用複合粒子。
【請求項2】
前記チオリシコンがβ-LiPSを含む請求項1に記載のリチウムイオン電池用複合粒子。
【請求項3】
前記チオリシコンがLiIを含む請求項1に記載のリチウムイオン電池用複合粒子。
【請求項4】
前記チオリシコンがガラスセラミックスである請求項1乃至3のいずれか一項に記載のリチウムイオン電池用複合粒子。
【請求項5】
前記活物質部及び前記固体電解質部の質量割合が、これらの合計を100質量%とした場合に、それぞれ、70~99質量%及び1~30質量%である請求項1乃至4のいずれか一項に記載のリチウムイオン電池用複合粒子。
【請求項6】
前記活物質が、Li元素を含む複合酸化物からなる正極活物質である請求項1乃至5のいずれか一項に記載のリチウムイオン電池用複合粒子。
【請求項7】
前記活物質が、グラファイト、シリコン、チタン酸リチウム、二酸化スズ及び三酸化モリブデンから選ばれた少なくとも1種からなる負極活物質である請求項1乃至のいずれか一項に記載のリチウムイオン電池用複合粒子。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか一項に記載のリチウムイオン電池用複合粒子を製造する方法であって、
活物質を含む粒子の表面に、第1硫化物が付着している第1複合粒子と、第2硫化物とを含有する原料を用いて、前記第2硫化物を溶解する溶媒の中で、前記第1硫化物及び前記第2硫化物を反応させ、チオリシコンを生成させる工程を備えることを特徴とする、リチウムイオン電池用複合粒子の製造方法。
【請求項9】
前記第1硫化物がLiSを含み、前記第2硫化物が下記一般式(1)で表される化合物を含む請求項8に記載のリチウムイオン電池用複合粒子の製造方法。
a(LiS)-b(P)-c(LiX) (1)
(式中、Xはハロゲン原子であり、aは0以上の数、cは0以上の数、b=a+c、a+c>0である。)
【請求項10】
前記溶媒が飽和脂肪酸エステル及びジアルキルカーボネートから選ばれた少なくとも1種を含む請求項8又は9に記載のリチウムイオン電池用複合粒子の製造方法。
【請求項11】
請求項1乃至7のいずれか一項に記載のリチウムイオン電池用複合粒子を含むことを特徴とするリチウムイオン電池用電極。
【請求項12】
請求項11に記載のリチウムイオン電池用電極を備えることを特徴とするリチウムイオン電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池の電極を形成する材料として好適なリチウムイオン電池用複合粒子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高エネルギー密度を実現する電池として、リチウムイオン電池やナトリウムイオン電池、更にはマグネシウム二次電池に代表される多価イオン電池の開発が精力的に進められている。
リチウムイオン電池は、充電時には正極からリチウムがイオンとして脱離して負極へ移動して吸蔵され、放電時には負極から正極へリチウムイオンが挿入されて戻る構造の二次電池である。このリチウムイオン電池は、エネルギー密度が大きく、長寿命である等の特徴を有しているため、従来、パソコン、カメラ等の家電製品や、携帯電話機等の携帯型電子機器又は通信機器、パワーツール等の電動工具等の電源として広く用いられており、最近では、電気自動車(EV)、ハイブリッド電気自動車(HEV)等に搭載される大型電池にも応用されている。
このようなリチウムイオン電池において、可燃性の有機溶剤を含む電解液に代えて固体電解質を用いると、安全装置の簡素化が図られるだけでなく、製造コスト、生産性等に優れることが知られている。また、硫化物からなる固体電解質は、導電率(リチウムイオン伝導度)が高く、電池の高出力化を図る上で有用であるといわれており、この硫化物固体電解質を用いた全固体型のリチウムイオン電池の開発が盛んとなっている。
ところで、液体電解質は、浸透性が高く電極の隅々にまで浸入し、充填されている活物質の夫々とその界面で接するため、負極から正極に至るまで連続的なイオン伝導のパスを容易に形成できる。一方で、固体電解質は、液体電解質に比べて流動性が乏しく、そのままでは電極に浸入しないため、電極内部までイオンを伝導させるために、固体電解質を活物質に混合した組成物を用いて電極が形成されている。
【0003】
また、活物質と固体電解質とを良好に接触させ、接触面積を増大させるため、固体電解質により活物質を被覆した複合体によりイオン伝導性を向上させる技術が知られている。例えば、特許文献1には、LiS-M(MはP、Si、Ge、B、Al及びGaから選択され、xとyは、Mの種類に応じて、化学量論比を与える数である)で表される固体電解質と、この固体電解質を溶解しうる有機溶媒とを含む全固体リチウム二次電池の固体電解質を含む層の形成用溶液が開示されており、この溶液を正極活物質に塗布、乾燥して得られた複合体は、全固体リチウム二次電池に好適であることが記載されている。更に、特許文献2には、活物質粒子に硫化物系固体電解質を被覆してなる複合活物質粒子と、繊維状の導電材と、複合活物質粒子よりも平均粒径の小さい硫化物系固体電解質粒子と、を含む電極合材が開示されている。そして、この複合活物質粒子は、活物質粒子を酸化物系固体電解質により被覆して複合粒子とした後、得られた複合粒子と、硫化物系固体電解質粒子とを乾式混練することにより作製されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-191899号公報
【文献】特開2016-207418号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1の実施例1には、所定割合のLiS及びPをメカニカルミリングしてガラス状固体電解質を作製した後、これをN-メチルホルムアミド(NMF)に溶解させて得られた溶液が記載されている。そして、この溶液を真空乾燥させて得られた析出物には、LiS結晶及びLiPS結晶が含まれることが記載されている。従って、上記ガラス状固体電解質の溶液を正極活物質に塗布、乾燥した場合には、表面にLiS結晶及びLiPS結晶を含む複合体が得られる。LiSは、大気中における安定性が低く、水と容易に反応して、有毒ガスである硫化水素を発生させる等、リチウムイオン電池の製造上、使用上の安全面で改善の余地があった。更に、硫化物系固体電解質を、一旦、溶媒に溶解した後に再析出させると、硫化物系固体電解質の原料物質が析出する等、往々にして、溶解前の硫化物系固体電解質とは異なる組成になってしまうという問題点があった。また、本発明者らの分析によれば、溶解して析出させた上記LiPS結晶のイオン伝導性は、著しく低いことが判明しており、主にγ-LiPSに変化したと考えている。
更に、上記特許文献2には、上記のように、乾式混練による複合粒子を製造する方法が記載されているが、活物質粒子は、通常、表面に凹凸を有するため、機械的な乾式混練では、硫化物系固体電解質の、活物質粒子表面への密着性を十分に確保できないという問題点があった。
【0006】
本発明の課題は、活物質を含む活物質部と、該活物質部の表面に配設されてなる固体電解質部とを備える複合粒子であって、新規な構造を有する固体電解質部を備えるリチウムイオン電池用複合粒子を提供することである。また、本発明の他の課題は、上記の新規な構造を有し、且つ、実質的にLiSを含まない固体電解質部を備え界面抵抗が抑制されたリチウムイオン電池用複合粒子を製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、活物質粒子の表面全体に、密着性の高い固体電解質層を形成する方法について、鋭意、検討した結果、新規の構造を有する複合粒子を見い出した。
本発明は、以下に示される。
[1]活物質を含む活物質部と、該活物質部の表面に配設されてなる固体電解質部とを備える複合粒子であって、上記固体電解質部は、チオリシコンを含み、上記活物質部の表面を被覆する被覆部分と、該被覆部分からその外側に延びた薄肉部分とからなることを特徴とするリチウムイオン電池用複合粒子。
[2]上記チオリシコンがβ-LiPSを含む上記[1]に記載のリチウムイオン電池用複合粒子。
[3]上記チオリシコンがLiIを含む上記[1]に記載のリチウムイオン電池用複合粒子。
[4]上記チオリシコンがガラスセラミックスである上記[1]乃至[3]のいずれか一項に記載のリチウムイオン電池用複合粒子。
[5]上記活物質部及び上記固体電解質部の質量割合が、これらの合計を100質量%とした場合に、それぞれ、70~99質量%及び1~30質量%である上記[1]乃至[4]のいずれか一項に記載のリチウムイオン電池用複合粒子。
[6]上記活物質が、Li元素を含む複合酸化物からなる正極活物質である上記[1]乃至[5]のいずれか一項に記載のリチウムイオン電池用複合粒子。
[7]上記活物質が、グラファイト、シリコン、チタン酸リチウム、二酸化スズ及び三酸化モリブデンから選ばれた少なくとも1種からなる負極活物質である上記[1]乃至[6]のいずれか一項に記載のリチウムイオン電池用複合粒子。
[8]上記[1]乃至[7]のいずれか一項に記載のリチウムイオン電池用複合粒子を製造する方法であって、
活物質を含む粒子の表面に、第1硫化物が付着している第1複合粒子と、第2硫化物とを含有する原料を用いて、上記第2硫化物を溶解する溶媒の中で、上記第1硫化物及び上記第2硫化物を反応させ、チオリシコンを生成させる工程を備えることを特徴とする、リチウムイオン電池用複合粒子の製造方法。
[9]上記第1硫化物がLiSを含み、上記第2硫化物が下記一般式(1)で表される化合物を含む上記[8]に記載のリチウムイオン電池用複合粒子の製造方法。
a(LiS)-b(P)-c(LiX) (1)
(式中、Xはハロゲン原子であり、aは0以上の数、cは0以上の数、b=a+c、a+c>0である。)
[10]上記溶媒が飽和脂肪酸エステル及びジアルキルカーボネートから選ばれた少なくとも1種を含む上記[8]又は[9]に記載のリチウムイオン電池用複合粒子の製造方法。
[11]上記[1]乃至[7]のいずれか一項に記載のリチウムイオン電池用複合粒子を含むことを特徴とするリチウムイオン電池用電極。
[12]上記[11]に記載のリチウムイオン電池用電極を備えることを特徴とするリチウムイオン電池。
【発明の効果】
【0008】
本発明のリチウムイオン電池用複合粒子は、リチウムイオン電池の電極を形成する材料として好適であり、従来、公知の、活物質及び固体電解質の混合体や、上記特許文献に開示された複合体に比べて、イオン伝導パスが網羅的に且つ連続的に形成され、活物質部と固体電解質部との間のイオン伝導性がより良好なものとなり、界面抵抗が低減された電極を与えることができる。また、固体電解質部は、実質的にLiSを含有しないので、硫化水素が発生しないリチウムイオン電池の製造に好適である。更に、活物質部と固体電解質部との密着性に優れることから、本発明のリチウムイオン電池用複合粒子を含む電極を備えるリチウムイオン電池とした場合、その駆動時において、固体電解質部は、充放電の際の活物質部の体積変化に好適に追従するものと思われる。
本発明のリチウムイオン電池用複合粒子の製造方法によれば、活物質部と固体電解質部との密着性に優れ、チオリシコンを含み、実質的にLiSを含有しない固体電解質部を備えるリチウムイオン電池用複合粒子を効率よく得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明のリチウムイオン電池用複合粒子の構造を示す概略断面図である。
図2】リチウムイオン電池用電極を備えるリチウムイオン電池の要部断面を示す概略図である。
図3】実施例1で得られたリチウムイオン電池用複合粒子(p1)の走査電子顕微鏡による画像である。
図4】実施例1で得られたリチウムイオン電池用複合粒子(p1)の走査電子顕微鏡による他の画像である。
図5図4のリチウムイオン電池用複合粒子(p1)のEDS元素分析によるマッピング画像であり、(A)はP元素の分布を、(B)はS元素の分布を示す画像である。
図6】実施例1で得られたリチウムイオン電池用複合粒子(p1)の表層を示す透過電子顕微鏡による画像であり、「LPS」は、被覆部分を示し、「NMC」は、活物質部を示す。
図7図6におけるLPS(被覆部分)の制限視野電子回折像である。
図8図7をもとに作製されたLPS(被覆部分)のX線回折パターンを示す図である。
図9】実施例2で得られたリチウムイオン電池用複合粒子(p2)の走査電子顕微鏡による画像である。
図10図9のリチウムイオン電池用複合粒子(p2)のEDS元素分析によるマッピング画像であり、(A)はP元素の分布を、(B)はS元素の分布を、(C)はI元素の分布を示す画像である。
図11】実施例2で得られたリチウムイオン電池用複合粒子(p2)の表層を示す透過電子顕微鏡による画像であり、「LPSI」は、被覆部分を示し、「NMC」は、活物質部を示す。
図12図11におけるLPSI(被覆部分)の制限視野電子回折像である。
図13図12をもとに作製されたLPSI(被覆部分)のX線回折パターンを示す図である。
図14】〔実施例〕で作製した全固体形リチウムイオン電池の構造を示す概略断面図である。
図15】実施例3における全固体形リチウムイオン電池による充放電特性を示すグラフである。
図16】比較例1における全固体形リチウムイオン電池による充放電特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のリチウムイオン電池用複合粒子は、活物質を含む活物質部と、該活物質部の表面に配設されてなる固体電解質部とを備える複合粒子であって、上記固体電解質部は、チオリシコンを含み、上記活物質部の表面を被覆する被覆部分と、該被覆部分からその外側に延びた薄肉部分とからなることを特徴とする。即ち、本発明のリチウムイオン電池用複合粒子は、活物質部の表面に固体電解質を含む被覆部分を備えるだけの粒子ではなく、被覆部分から連続相を形成しつつ、その外側に延びた薄肉部分を備える異形粒子である。
【0011】
本発明のリチウムイオン電池用複合粒子は、図1に示される概略断面を有する。即ち、図1のリチウムイオン電池用複合粒子1は、活物質部10と、固体電解質部20とを備え、固体電解質部20は、活物質部10の表面を被覆する被覆部分22と、被覆部分22から外側に延びた薄肉部分24とからなる。被覆部分22は、実質的に、活物質部10の外形(表面の凹凸)を追従するように、表面全体を被覆しており、薄肉部分24は、通常、局所的に形成されている。
リチウムイオン電池で用いられる複合粒子において、イオン伝導性の観点からは、活物質の表面全体にわたって固体電解質が吸着していることが良いとされる。電池容量の観点からは、電極中の活物質充填量が多い方が望ましいため、活物質に吸着する固体電解質は、より少ない方が好ましい。ところが、活物質に吸着する固体電解質が少なくなると、イオン伝導パスが途切れたり、電極形成時のプレス成形によって活物質が割れ易くなってしまう。
ここで、本発明のリチウムイオン電池用複合粒子は、異形粒子であるので、活物質表面全体に形成された被覆部分22にてイオン伝導性の確保と、固体電解質の付着量の低減とを図ることができる上、局所的に形成された薄肉部分24により、プレス成形時の応力を緩和する作用を備えることができる。
【0012】
上記活物質部を構成する活物質は、正極活物質及び負極活物質のいずれでもよい。
正極活物質としては、MoO、WO、VO、LiCoO(LiCoO等)、LiMnO(LiMnO、LiMn等)、LiNiO(LiNiO等)、LiVO(LiVO等)、LiMnNiCoO(LiNi1/3Co1/3Mn1/3等)、LiFeP(LiFePO等)、LiMnP(LiMnPO等)、LiNiP(LiNiPO等)、LiCuP(LiCuPO等)等の酸化物(複合酸化物)系材料;(MoS,CuS,TiS,WS)、Li、Li等の硫化物系材料;セレン化物系材料等が挙げられる。これらのうち、Li元素を含む複合酸化物が好ましい。
また、負極活物質としては、グラファイト等の炭素材料;リチウム、インジウム、アルミニウム、シリコン等の金属又はこれらを含む合金;チタン酸リチウム(LiTi12)、Sn(SnO等)、MoO(MoO等)、WO等が挙げられる。これらのうち、グラファイト、シリコン、チタン酸リチウム、二酸化スズ、三酸化モリブデン等が好ましい。
【0013】
上記活物質部の形状及びサイズは、特に限定されない。上記活物質部は、通常、粒状であり、その表面は平滑であってよいし、凹凸を有するものであってもよい。また、上記活物質部の粒径は、好ましくは0.5~20μm、より好ましくは3~10μmである。
【0014】
次に、上記固体電解質部は、活物質部の表面を被覆する被覆部分と、この被覆部分からその外側に延びた薄肉部分とからなり、いずれも、チオリシコンを含む。
上記チオリシコンは、一般式:mLi4-x 1-x -nLiX(式中、M及びMは、P、Ge、Si、Al及びGaから選ばれた原子であり、Xは、ハロゲン原子であり、mは1~2、nは0~1である)で表される化合物である。本発明においては、MがP原子である化合物が好ましい。このような化合物としては、β-LiPS、LiI、Li11等が挙げられる。尚、上記チオリシコンの中には、結晶質の化合物もあれば、非晶質の化合物もあり、本発明では、結晶性に関わりなく、リチウムイオン電池用複合粒子の構成材料として好適である。また、上記チオリシコンは、イオン伝導性の観点から、ガラスセラミックスであることが好ましい。
上記固体電解質部に含まれるチオリシコンは、1種のみであってよいし、2種以上であってもよい。
【0015】
上記固体電解質部を構成する被覆部分22の厚さは、極薄である。上記被覆部分22の厚さは、特に限定されないが、活物質部10のサイズに関わらず、電極中の活物質充填量向上の観点から、下限は、好ましくは50nm、より好ましくは10nmである。
【0016】
また、上記固体電解質部を構成する薄肉部分24は、被覆部分22から外側に延びている部分であり、好ましくは、長さ、幅及び厚さが特に限定されない、板状(平面板状又は曲面板状)を有する(図1参照)。尚、この薄肉部分24は、電極形成時の応力緩和の観点から、上記被覆部分22より厚いことが好ましく、好ましくは10倍以上、より好ましくは20倍以上の厚さである。また、上記薄肉部分24の構造としては、図1に示す以外では、複数の薄肉部分24が凝集する構造とすることができる(図示せず)。
上記薄肉部分24の、上記被覆部分22における基礎部の位置及び数、並びに、上記薄肉部分24の延長方向は、特に限定されない。本発明のリチウムイオン電池用複合粒子は、後述する、他の本発明におけるリチウムイオン電池用複合粒子の製造方法により得られたものであり、薄肉部分の形状及びサイズ、被覆部分における基礎部の位置及び数、並びに、上記薄肉部分の延長方向を制御することはできないため、1の薄肉部分の形状及びサイズと、他の薄肉部分の形状及びサイズとは、通常、異なり、被覆部分における、1の基礎部の位置及び数と、他の基礎部の位置及び数とは、やはり、異なる。
【0017】
本発明のリチウムイオン電池用複合粒子において、活物質部及び固体電解質部の質量割合は、リチウムイオン電池用複合粒子を含む電極とした場合の電池特性の観点から、これらの合計を100質量%とした場合に、それぞれ、好ましくは70~99質量%及び1~30質量%、より好ましくは85~95質量%及び5~15質量%である。
【0018】
本発明のリチウムイオン電池用複合粒子は、リチウムイオン電池用電極の構成材料として好適である。具体的には、図2に示されるリチウムイオン電池30の正極31又は負極33の構成材料として好適である。
【0019】
他の本発明は、上記本発明のリチウムイオン電池用複合粒子を製造する方法であって、活物質を含む粒子の表面に、第1硫化物が付着している第1複合粒子と、第2硫化物とを含有する原料を用いて、第2硫化物を溶解する溶媒の中で、第1硫化物及び第2硫化物を反応させ、チオリシコンを生成させる工程(以下、「反応工程」という)を備えることを特徴とする、リチウムイオン電池用複合粒子の製造方法(以下、「本発明の製造方法」という)である。本発明の製造方法は、反応工程により得られた反応液から溶媒を除去する工程を、更に備えることができる。
【0020】
上記反応工程で用いられる第1複合粒子は、活物質を含む粒子(以下、「活物質粒子」という)の表面に、第1硫化物が付着している粒子であり、その構造は、特に限定されない。上記第1複合粒子は、第1硫化物が活物質粒子の表面全体を被覆する構造であることが好ましい。尚、第1硫化物による被覆部の厚さは、特に限定されない。
【0021】
上記第1複合粒子を構成する活物質粒子は、正極活物質及び負極活物質のいずれからなるものでもよい。正極活物質及び負極活物質は、上記例示した通りである。
【0022】
上記活物質粒子の形状及びサイズは、特に限定されない。上記活物質粒子は、球体、楕円球体、多面体、不定形等の形状を有するものとすることができ、その表面は平滑であってよいし、凹凸を有するものであってもよい。本発明においては、活物質粒子の表面粗さに関係なく、付着した第1硫化物が基点となって、第2硫化物と反応し、活物質粒子の全表面(凹部の内表面を含む)にチオリシコンを含む被覆層を効率よく形成することができる。また、上記活物質粒子の粒径は、好ましくは0.5~20μm、より好ましくは3~10μmである。
【0023】
上記活物質粒子の表面に付着している第1硫化物は、リチウムイオン電池用複合粒子の構造に依存するが、好ましくはリチウム化合物であり、特に好ましくはLiSである。
【0024】
上記第1複合粒子を構成する活物質粒子と、この活物質粒子に付着している第1硫化物との質量割合は、特に限定されないが、第1硫化物の含有割合は、得られるリチウムイオン電池用複合粒子を含む電極とした場合の電池特性の観点から、活物質粒子を100質量部とした場合に、好ましくは0.25~10質量部、より好ましくは1~5質量部である。従って、活物質粒子への第1硫化物の付着部の厚さは、極薄であり、上記第1複合粒子の形状及びサイズは、実質的に、活物質粒子と同等であり、粒径は、好ましくは0.5~20μm、より好ましくは3~10μmである。
【0025】
上記第1複合粒子を調製する方法は、特に限定されないが、上記好ましい態様である、第1硫化物が活物質粒子の表面全体を被覆する構造を有する第1複合粒子を調製する方法としては、第1硫化物を有機溶剤に溶解させてなる第1硫化物溶液と、活物質粒子とを混合した後、混合液の中の有機溶剤を除去する方法、第1硫化物を有機溶剤に溶解させてなる第1硫化物溶液を、活物質粒子に噴霧した後、有機溶剤を除去する方法等が挙げられる。
【0026】
上記反応工程では、第1複合粒子と、第2硫化物とを含有する原料を用いて、第2硫化物を溶解する溶媒の中で、第1硫化物及び第2硫化物を反応させ、チオリシコンを生成させる。
上記溶媒は、第2硫化物を溶解する化合物からなるが、第1硫化物を溶解せず(不溶又は難溶)生成するチオリシコンを溶解しない(不溶)化合物であることが好ましい。本発明において、溶媒に溶解する硫化物と、同じ溶媒に溶解しない硫化物とを併用することにより、異形粒子である、リチウムイオン電池用複合粒子を効率よく製造することができる。
上記溶媒は、好ましくは、飽和脂肪酸エステル及びジアルキルカーボネートである。飽和脂肪酸エステルは、好ましくは、プロピオン酸エステルであり、このプロピオン酸エステルとしては、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、プロピオン酸ブチル等が挙げられる。ジアルキルカーボネートとしては、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等が挙げられる。
【0027】
上記第2硫化物は、第1硫化物と反応して、チオリシコンを生成させるものであれば、特に限定されないが、好ましくは、下記一般式(1)で表される化合物である。尚、この化合物は、LiS、P及びLiXのうち、Pを含む複合硫化物であってよいし、Pのみ、又は、Pを含む混合物であってもよい。
a(LiS)-b(P)-c(LiX) (1)
(式中、Xはハロゲン原子であり、aは0以上の数、cは0以上の数、b=a+c、a+c>0である。)
【0028】
上記一般式(1)において、ハロゲン原子Xは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子とすることができるが、好ましくはヨウ素原子である。
上記一般式(1)で表される化合物としては、LiS-P(別称Li)、LiLiI等が挙げられる。
【0029】
上記反応工程では、第1複合粒子と、第2硫化物と、溶媒とを含む反応系が用いられるが、上記溶媒において、第1硫化物及び第2硫化物を反応させる限りにおいて、反応系の調製方法は、特に限定されない。好ましい調製方法としては、(1)第1複合粒子と、第2硫化物と、溶媒とを用いる方法、(2)溶媒と接触することにより、この溶媒に溶解する第2硫化物を形成する少なくとも2種の化合物(以下、「第2硫化物形成用化合物」という)及び溶媒を混合して得られた溶液(以下、「第2硫化物溶液」という)と、第1複合粒子とを用いる方法等が挙げられる。
【0030】
上記方法(2)の場合、各第2硫化物形成用化合物は、上記溶媒の中で反応して第2硫化物溶液を形成する化合物であれば、特に限定されない。尚、各第2硫化物形成用化合物は、それぞれ、単独で上記溶媒に溶解するものであってよいし、溶解しないものであってもよい。
上記第2硫化物形成用化合物としては、LiS、P等が挙げられる。また、上記第2硫化物形成用化合物として、硫黄原子を含まない化合物、例えば、LiX(ハロゲン化リチウム)等を併用することができる。
上記第2硫化物形成用化合物のうち、単独で上記の飽和脂肪酸エステル又はジアルキルカーボネートに溶解する化合物としては、LiX(ハロゲン化リチウム)等が挙げられ、単独で上記の飽和脂肪酸エステル又はジアルキルカーボネート溶媒に溶解しない化合物としては、LiS、P等が挙げられる。尚、LiSは、モル比で1:1となるようPを共存させると、各種溶媒に対する溶解性が向上する。また、後者の第2硫化物形成用化合物のうち、LiX(ハロゲン化リチウム)と併用することで上記溶媒に溶解する化合物としては、P等が挙げられる。
【0031】
上記反応工程で用いられる第1複合粒子及び第2硫化物の使用量は、上記第1複合粒子に含まれる第1硫化物の構成により、適宜、選択されるが、得られるリチウムイオン電池用複合粒子を含む電極とした場合の電池特性の観点から、第1複合粒子に含まれる活物質と、反応工程により形成されるチオシリコン(固体電解質)との質量割合が、両者の合計を100質量%とした場合に、それぞれ、好ましくは70~99質量%及び1~30質量%、より好ましくは85~95質量%及び5~15質量%となるように、選定される。尚、第1複合粒子及び第2硫化物が、LiSを含む場合、このLiSが消費されるよう、反応モル比を設定することが好ましい。
また、上記溶媒の使用量は、第1複合粒子及び第2硫化物の合計量の固形分濃度が、好ましくは20~70質量%、より好ましくは30~50質量%となるように、選定される。
【0032】
上記反応工程では、第1複合粒子を構成する活物質粒子の表面に付着した第1硫化物を基点としてチオリシコンが生成され、活物質粒子の表面に固体電解質部が形成されて、上記本発明のリチウムイオン電池用複合粒子が得られる。この反応工程は、好ましくは、溶媒の中で、第1複合粒子を構成する第1硫化物と、第2硫化物とを接触反応させる工程であり、例えば、第1複合粒子と、第2硫化物と、溶媒とを容器に収容した後、通常、スラリー状のこの混合物を、撹拌翼、撹拌子、ビーズ、ボール、ホモジナイザー等を用いて動的混合する方法を適用することができる。
上記反応工程における反応系の雰囲気は、特に限定されず、窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガス、乾燥空気等からなるものとすることができる。
上記反応工程における反応時間は、接触反応の方法に依存することがあり、特に限定されないが、通常、1時間以上、好ましくは6時間以上である。
尚、使用する第2硫化物又は第2硫化物形成用化合物の組成によっては、第1硫化物の非存在下でチオリシコンが形成されることがあるので、上記第1複合粒子を用いる反応工程において、一部には、活物質粒子の表面に付着した第1硫化物を基点とせずにチオリシコンが遊離しつつ生成されることが考えられるが、接触反応の進行にともなって、最終的に、固体電解質部における薄肉部分の形成に寄与するものと推定している。
【0033】
上記反応工程により、反応生成物の固形分濃度が好ましくは2~10質量%、より好ましくは3~5質量%の分散体(サスペンジョン)を得ることができる。反応生成物は、活物質粒子の表面に、生成したチオリシコンを含む被覆部分及び薄肉部分を有する固体電解質部を備える複合粒子、即ち、上記本発明のリチウムイオン電池用複合粒子である。従って、反応工程の後、得られた反応液から溶媒を除去する溶媒除去工程により、リチウムイオン電池用複合粒子を単離することができる。この溶媒除去工程では、デカンテーション、濾過、蒸発等、従来、公知の方法を適用することができる。
本発明に係る反応工程では、固体電解質部の形成にLiSを原料の1つに用いた場合であっても、反応生成物には、LiSが残存したり、反応後に、別途、析出したりすることがない。即ち、固体電解質を溶媒に溶解させてなる溶液を用いて、活物質粒子の表面に、固体電解質を析出させる手法とは異なり、チオリシコンの態様が維持される。言い換えれば、高伝導の固体電解質部を活物質粒子の表面に吸着させることができる。故に、得られるリチウムイオン電池用複合粒子を用いてリチウムイオン電池等とした場合にLiSを原因として硫化水素が発生することはない。また、LiSやLiS-P(γ相)などのイオン伝導性が極めて低い抵抗相の生成が抑制されたリチウムイオン電池用複合粒子が得られるので、これを用いることにより、イオン伝導性の良好なリチウムイオン電池を構築することができる。
【0034】
更に他の本発明のリチウムイオン電池用電極は、上記本発明のリチウムイオン電池用複合粒子を含むことを特徴とする。正極の場合、正極活物質からなる活物質部を備えるリチウムイオン電池用複合粒子を含み、負極の場合、負極活物質からなる活物質部を備えるリチウムイオン電池用複合粒子を含む。
本発明のリチウムイオン電池用電極は、バインダー、導電助剤、他の固体電解質等を含むことができる。
上記バインダーとしては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリヘキサフルオロプロピレン(PHFP)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、フッ化ビニリデン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体等の含フッ素樹脂;ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン系樹脂;エチレン・プロピレン・非共役ジエン系ゴム(EPDM等)、スルホン化EPDM、天然ブチルゴム(NBR)等が挙げられる。
上記導電助剤としては、炭素材料(グラフェン等の板状導電性物質;カーボンナノチューブ、炭素繊維等の線状導電性物質;ケッチェンブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック、チャンネルブラック等のカーボンブラック、黒鉛等の粒状導電性物質等)、金属、金属化合物等が挙げられる。
【0035】
本発明のリチウムイオン電池用電極は、通常、上記の材料を含む混合物を、従来、公知の方法、例えば、プレス成形に供することにより得られた所定形状の成形体である。
【0036】
更に他のリチウムイオン電池は、上記本発明のリチウムイオン電池用電極を備えることを特徴とする。本発明のリチウムイオン電池は、図2に示すように、好ましくは、正極活物質からなる活物質部を備えるリチウムイオン電池用複合粒子を含む正極31と、負極活物質からなる活物質部を備えるリチウムイオン電池用複合粒子を含む負極33と、正極31及び負極33の間に配された電解質層35と、正極31の集電を行う正極集電体37と、負極35の集電を行う負極集電体39と、これらの部材を収納する電池ケース(図示せず)とを有するものである。
上記電解質層は、電解液、ゲル電解質、固体電解質等を含むものとすることができる。
上記正極集電体及び上記負極集電体は、いずれも、アルミニウム、ステンレス、ニッケル、鉄、チタン等を含む、箔、板又はメッシュであることが好ましい。
【実施例
【0037】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明の主旨を超えない限り、本発明は、かかる実施例に限定されるものではない。
【0038】
1.リチウムイオン電池用複合粒子の製造及び評価
実施例1
アルゴン雰囲気下において、0.0638gのLiS粉末(ミツワ化学社製「LiS」、純度99%、粒子径53μm)を、5mlのエタノールに投入し、50℃で30分間攪拌し、LiS溶液を得た。
次いで、このLiS溶液と、ニッケルマンガンコバルト酸リチウムLiNi1/3Co1/3Mn1/3からなる粒子の表面にLiNbOが被覆している正極活物質粒子(粒子径3~10μm、以下、「NMC」という)2.25gとを混合し、50℃で1時間攪拌した。そして、この混合液を170℃で2時間真空乾燥し、エタノールを蒸発させて、上記正極活物質粒子の表面にLiSが吸着されてなるNMC-LiS複合体粒子(第1複合粒子)を得た。
一方、LiS粉末と、P粉末(Aldrich社製「P」、純度99%、粒子径100μm)とを、LiS及びPが等モルとなるように、且つ、PがNMC-LiS複合体粒子に含まれるLiSを含む全LiSに対して1/3のモル比となるように秤量し、これらの粉末を混合した。そして、この混合物を、10mlのプロピオン酸エチルに投入し、超音波処理を1時間行って、LiS-P(第2硫化物)が溶解されてなる溶液を得た。
その後、この溶液と、上記得られたNMC-LiS複合体粒子とを混合し、50℃で6時間攪拌することにより、上記正極活物質粒子の表面に固体電解質が密着形成された複合粒子(p1)の分散体(サスペンジョン)を得た。
次いで、この分散体を170℃で2時間真空乾燥し、プロピオン酸エチルを蒸発させることにより、複合粒子(p1)を単離した。尚、NMC粉末と生成するLiPSとが、質量比90:10となるように原料の仕込み量が設定されている。
【0039】
上記複合粒子(p1)について、日立ハイテクノロジーズ社製電界放出形走査電子顕微鏡「SU8000 TYPE II」(型式名)により、加速電圧10kVとして観察を行ったところ、図3及び図4に示す画像が得られ、いずれも、正極活物質粒子の表面に固体電解質からなる被覆部及び薄肉部が形成されていることが分かった。被覆部は、10nm程度の薄い厚さで、正極活物質粒子の表面の凹凸に沿って形成されており、薄肉部は、多くが、厚さ200~300nmの板状であり、被覆部から外側にランダムに張り出していた。また、図4の複合粒子(p1)について、画像の四角枠内に対してEDSによる元素分析を行ったところ、図5(A)及び(B)に示すように、それぞれ、リン元素(P)及び硫黄元素(S)が、複合粒子(p1)表面の全体に渡って検出された。これより、この複合粒子(p1)は、リン元素及び硫黄元素を含まない正極活物質粒子の表面にリン元素及び硫黄元素を含む化合物からなる被覆部及び薄肉部を有することが分かった。
【0040】
また、上記複合粒子(p1)について、日本電子社製フィールドエミッション形透過電子顕微鏡「JEM-2100F」(型式名)により、加速電圧200kVとして観察を行った。図6は、固体電解質からなる被覆部(図中、「LPS」と表記)を含む、正極活物質粒子の表面近傍の画像である。被覆部のEDS元素分析を行ったところ、活物質粒子由来の元素は、Li以外では検出されなかった。また、図6の画像をもとに、被覆部の電子線回折を行って、以下の要領でX線回折パターンを得たところ、固体電解質は、ガラスセラミックスであるβ-LiPSからなるチオリシコンを含むことが分かった(図8参照)。更に、2θ=27°及び31°に、LiSに起因する回折ピークが見られないことから、この複合粒子(p1)はLiSを含まないことが分かった。
電子線回折により得られた電子回折パターン(図7)の強度を、動径方向に対して積算することで、結晶構造を一次元的なプロファイルに変換し、その後、横軸2θにプロットすることで図8のX線回折パターンを得た。
【0041】
実施例2
アルゴン雰囲気下において、LiS粉末と、P粉末と、LiI粉末(Aldrich社製「LiI」、純度99%以上、粒子径100メッシュ以下)とを、LiS、P及びLiIが等モルとなるように、且つ、PがNMC-LiS複合体粒子に含まれるLiSを含む全LiSに対して1/3のモル比となるように秤量し、これらの粉末を混合した。そして、この混合物を、10mlのプロピオン酸エチルに投入し、超音波処理を1時間行って、LiS-P-LiI(第2硫化物)が溶解されてなる溶液を得た。
その後、この溶液と、実施例1と同じNMC-LiS複合体粒子とを混合し、50℃で6時間攪拌することにより、上記正極活物質粒子の表面に固体電解質が密着形成された複合粒子(p2)の分散体(サスペンジョン)を得た。
次いで、この分散体を170℃で2時間真空乾燥し、プロピオン酸エチルを蒸発させることにより、複合粒子(p2)を単離した。
【0042】
上記複合粒子(p2)について、上記走査電子顕微鏡による観察を行ったところ、図9に示す画像が得られ、正極活物質粒子の表面に固体電解質からなる被覆部及び薄肉部が形成されていることが分かった。被覆部は、10nm程度の薄い厚さで、正極活物質粒子の表面の凹凸に沿って形成されており、薄肉部は、厚さが200~300nmであり、被覆部から外側に張り出すことなく、被覆部を覆うように形成されていた。また、図9の複合粒子(p2)について、EDSによる元素分析を行ったところ、図10(A)、(B)及び(C)に示すように、それぞれ、リン元素(P)、硫黄元素(S)及びヨウ素元素(I)が、複合粒子(p2)表面の全体に渡って検出された。これより、この複合粒子(p2)は、リン元素、硫黄元素及びヨウ素元素を含まない正極活物質粒子の表面にリン元素、硫黄元素及びヨウ素元素を含む化合物からなる被覆部及び薄肉部を有することが分かった。
【0043】
また、上記複合粒子(p2)について、上記透過電子顕微鏡による観察を行った。図11は、固体電解質からなる被覆部(図中、「LPSI」と表記)を含む、正極活物質粒子の表面近傍の画像である。被覆部のEDS元素分析を行ったところ、活物質粒子由来の元素は、Li以外では検出されなかった。また、図11の画像をもとに、被覆部の電子線回折を行い、得られた電子回折パターン(図12)を用いて、実施例1と同様にして、X線回折パターンを得た(図13)。尚、図13において、いずれも2本の点線で包囲された2つの領域(丸付き数字1及び2)は、それぞれ、図12における内径のハローパターン、及び、外径のハローパターンに対応する。図13により、固体電解質の大部分が非晶質であることが分かった。ここで、正極活物質粒子を用いずに、同じ方法で合成した固体電解質について、X線回折の測定を行ったところ、やはり非晶質であり、LiIからなるチオリシコンであることが分かった。従って、上記複合粒子(p2)を構成する固体電解質部は、ガラスセラミックスであるLiIからなるチオリシコンを含むものと推定される。また、図13には、2θ=27°及び31°に、LiSに起因する回折ピークが見られないことから、この複合粒子(p2)はLiSを含まないことが分かった。
【0044】
2.全固体形リチウムイオン電池の製造及び評価
実施例3
アルゴン雰囲気下において、モル比3:1となるように、硫化リチウム粉体0.3827g及び五硫化二リン粉体0.6174gを秤量して合計1gとし、メノウ乳鉢を用いて軽く混合した。次いで、この混合物と、プロピオン酸エチル20mlと、直径4mmのジルコニアボール(合計21.6g)とを、内径28mm、長さ116mmの試験管型の樹脂製容器(内容積45ml)に入れ、温度24℃、振幅約1cm、及び、約1500回/分の穏和な条件で振とうを行い、6時間、接触反応させてサスペンジョンを得た。その後、このサスペンジョンから固形分を回収し、減圧条件下、170℃、2時間で熱処理を行って、固体電解質であるβ-LiPSを得た。
次に、上記にて作製した固体電解質80mgを、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)製の筒状体の内部に充填し、一軸プレスにより180MPaで1分間加圧して予備成形し、電解質層用成形体を得た。そして、この電解質層用成形体を筒状体の内部に収容した状態で、その一方の表面側の全体に、実施例1にて作製した複合粒子(p1)10mgを充填し、500MPaで30分間加圧成形を行った。更に、電解質層用成形体の他方の面に、円形のインジウム箔(厚さ0.1 mm、直径0.8cm)を張り付け、180MPaで加圧して、複合体(全固体形リチウムイオン電池)とした。この複合体を収納した筒状体の両側から、それぞれステンレス-ニッケルの導通部を挿入し、治具で固定して、図14に示す測定セルを得た。そして、この測定セルごとガラス容器に封入し、ガラス容器内の気体をアルゴンガスに置換して、充放電試験を実施した。
充放電試験の条件は、2-3.8V vs. In-Li、Cレート:0.1C、サイクル数:20として充放電試験とした。その結果を図15に示す。
【0045】
比較例1
実施例1で用いたNMC粉末と、上記で得られたβ-LiPS粉末とを、質量比90:10となるように秤量し、乳鉢にて15分間混合を行って混合粉末を得た。この混合粉末を用いて正極複合体を作製し、実施例3と同様の方法により、全固体形リチウムイオン電池を作製し、測定セルを得た。そして、充放電試験を行った。その結果を図16に示す。
【0046】
図15及び図16から明らかなように、実施例3の全固体形リチウムイオン電池は、比較例1の全固体形リチウムイオン電池に比べて、放電容量、サイクル特性ともに優れている。
【0047】
また、実施例3の全固体形リチウムイオン電池、及び、比較例1の全固体形リチウムイオン電池に対して、Solartron社製ポテンショ/ガルバノスタット「SI1287」(型式名)と、Solartron社製インピーダンスアナライザー「1255B」(型式名)とを用いて、10~0.1Hzの周波数範囲で電気化学インピーダンス測定を行い、得られたナイキスト線図において、正極活物質-固体電解質間の界面抵抗に対応する半円の大きさ(界面抵抗値)を比較したところ、比較例1の全固体電池では、約56Ω、実施例3の全固体電池では約41Ωであった。このことから、本発明のリチウムイオン電池用複合粒子は、活物質部と固体電解質部とが密接しており、良好な界面が形成されていることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明のリチウムイオン電池用複合粒子は、パソコン、カメラ等の家電製品や、電力貯蔵装置、携帯電話機等の携帯型電子機器又は通信機器、パワーツール等の電動工具等の電源、更には、電気自動車(EV)、ハイブリッド電気自動車(HEV)等に搭載される大型電池を構成するリチウムイオン電池の構成材料、例えば、リチウムイオン電池用電極の構成材料として好適である。
【符号の説明】
【0049】
1:リチウムイオン電池用複合粒子
10:活物質部
20:固体電解質部
22:被覆部分
24:薄肉部分
30:全固体形リチウムイオン電池
31:正極
33:負極
35:電解質層
37:正極集電体
39:負極集電体
40:測定セル
41:押さえ板
43:押さえピン
45:締め付けネジ
47:カプトン(登録商標)テープ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16