(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-25
(45)【発行日】2022-03-07
(54)【発明の名称】水路の補修工法
(51)【国際特許分類】
E02B 5/00 20060101AFI20220228BHJP
【FI】
E02B5/00 Z
(21)【出願番号】P 2018164848
(22)【出願日】2018-09-03
【審査請求日】2021-03-24
(73)【特許権者】
【識別番号】504464173
【氏名又は名称】株式会社 南組
(74)【代理人】
【識別番号】100082234
【氏名又は名称】中村 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100145078
【氏名又は名称】内藤 拓郎
(72)【発明者】
【氏名】南 修
【審査官】湯本 照基
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-201895(JP,A)
【文献】特開2002-030669(JP,A)
【文献】特開平09-242048(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0271472(US,A1)
【文献】特開2016-204948(JP,A)
【文献】登録実用新案第3202882(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02B 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水路床から一対の側壁が対向して起立する水路の補修工法であって、該水路を幅方向に二分する状態で水路の長手方向に沿って前記水路床上に水路仕切板を配設し、該水路仕切板と前記側壁の一方との間に仕切板支持体を架設して該水路仕切板を起立状態に保持し、前記水路床に接する漏水防止シール材を有する漏水防止パネルを該水路仕切板の側面に添設することにより、前記水路床、一側壁面及び前記水路仕切板によって前記水路内に水路補修域を画成し、該水路補修域の上流端側に止水体を配置して遮水することにより、該水路補修域の水路床及び側壁を露出させるようにした水路の補修工法。
【請求項2】
前記水路仕切板は、下面に前記水路床に接する漏水防止パッキンを設けてあることを特徴とする請求項1記載の水路の補修工法。
【請求項3】
前記仕切板支持体は、支持杆と、該支持杆の両端側に設けられ、前記水路仕切板及び何れかの側壁に係着する係止体とから構成してあることを特徴とする請求項1記載の水路の補修工法。
【請求項4】
前記支持杆は、伸縮可能であることを特徴とする請求項3記載の水路の補修工法。
【請求項5】
前記漏水防止パネルは、前記水路仕切板に上下に変位可能に設けてあることを特徴とする請求項1記載の水路の補修工法。
【請求項6】
前記水路仕切板は、前記水路床に面状に接する支え板を下端側に略L字状に設けてあることを特徴とする請求項1記載の水路の補修工法。
【請求項7】
該支え板は、下面に前記水路床に接する漏水防止パッキンを設けてあることを特徴とする請求項6記載の水路の補修工法。
【請求項8】
前記止水体は、前記水路補修域の上流側開口を閉塞可能な止水シートと、該止水シートを押え込む重量物とから構成してある請求項1記載の水路の補修工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流石、流木等の異物による衝撃や、コンクリートの経年劣化による亀裂や剥離、更には水藻や雑草の繁殖による流水性の阻害が生じている水路床及び側壁を流水を止めることなく効率的に補修することを可能にする水路の補修工法に関する。
【背景技術】
【0002】
農業用や工業用の水路、発電事業所の排水路等は、流木、流石の衝突により、また冬期における凍結によって、水路床や側壁に亀裂等の損傷が形成される。これらの損傷は経年に伴って次第に拡大し、損傷した箇所から地中に水が浸透して内部の土砂を流出させる、水路の流れが悪くなって流木等の雑物が滞留し易くなり排水性が阻害される、土砂が堆積し易くなる、更には円滑な流れが阻害されて水路から溢流するといった水路の機能が損なわれる多様な問題が生じる。また、水路床や側壁に水藻、雑草が次第に繁殖して流水性を阻害するという問題も生じる。
【0003】
このため、水路の水路床や側壁の損傷は補修する必要があり、従来は排水用バイパスを設け、水路を遮断して水路から水を抜いた状態にして補修作業を行っていた。しかし、周囲の条件により排水用バイパスを設けることが出来ない場合には施工が無理であるという欠点がある。
そこで、天井部と底面を開放した構成の作業容器Aを開水路Bに沈設して底面を開水路Bの底面に密着させ、作業容器内の水を排水し、作業容器Aの底面に露出した開水路Bの底面の補修を行う開水路の補修工法が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の技術は、水路の使用を停止する必要が無く、バイパス工事も行わずに水路の底面や壁面の補修が可能である点で優れている。しかし、作業容器Aを沈設するために以下の設置工程が必要である。即ち、両側の壁面の水上部にレール4を並行に取付け、レール4間に支持枠5を開水路Bを横断する状態で移動自在に掛け渡し、支持枠5に作業容器Aの上部を取付けて底面と側面を開水路Bに当接させ、開口部の周囲の弾性部材からなる止水部材1が自重によって底面と側面に密着したら、ポンプにより作業容器A内の水を排出する。
【0006】
しかし、これらの設置工程には日数を要する。補修の対象となる開水路Bは作業容器Aが沈設可能な横幅のある水路に限られることから、底面積の異なる複数の作業容器が必要になる。補修面積が作業容器A内の底面に限られることから、作業容器Aを頻繁に移動しなければならず作業効率が悪い。作業容器Aに取付ける支持枠5がレール4で移動自在であるとしても、作業容器Aの移動にはその都度沈設する場合と同様の作業が必要である。といった幾多の問題点や欠点がある。
また、作業容器Aは出入り用に一部が開放した形状の天井部を有していることから、モルタル等の資材を収容した箱をクレーンで吊って上方から搬入し、或いは水路内底面で回収した水藻や雑物等を箱に収容して搬出することができないために作業効率が悪いという欠点がある。
【0007】
本発明は上述した従来技術の諸欠点に鑑みなされたもので、バイパス工事を行うことなく水路仕切板を用いることで、流水を止めることなく水路に水路補修域を容易に、速やかに画成することができるし、水路仕切り工事は短期間で施工可能であり、また1作業単位の補修面積が広いので移動回数が少なく作業効率に優れており、かつ水量の多寡のいずれにも対応できるので通年工事が可能である水路の補修工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)上述した課題を解決するために構成した請求項1に係る本発明の手段は、水路床から一対の側壁が対向して起立する水路の補修工法であって、該水路を幅方向に二分する状態で水路の長手方向に沿って前記水路床上に水路仕切板を配設し、該水路仕切板と前記側壁の一方との間に仕切板支持体を架設して該水路仕切板を起立状態に保持し、前記水路床に接する漏水防止シール材を有する漏水防止パネルを該水路仕切板の側面に添設することにより、前記水路床、一側側壁及び前記水路仕切板によって前記水路内に水路補修域を画成し、該水路補修域の上流端側に止水体を配置して遮水することにより、該水路補修域の水路床及び側壁を露出させるようにしたことにある。
(2)そして、前記水路仕切板は、下面に前記水路床に接する漏水防止パッキンを設けるとよい。
(3)また、前記仕切板支持体は、支持杆と、該支持杆の両端側に設けられ、前記水路仕切板及び何れかの壁面に係着する係止体とから構成するとよい。
(4)そして、前記支持杆は、伸縮可能にするとよい。
(5)また、前記漏水防止パネルは、前記水路仕切板に上下に変位可能に設けるとよい。
(6)更に、前記水路仕切板は、前記水路床に面状に接する支え板を下端側に略L字状に設けるとよい。
(7)そして、該支え板は、下面に前記水路床に接する漏水防止パッキンを設けるとよい。
(8)また、前記止水体は、前記水路補修域の上流側開口を閉塞可能な止水シートと、該止水シートを押え込む重量物とから構成するとよい。
【発明の効果】
【0009】
(1)水路仕切板によって水路を幅方向に二分して水路の一側を水路補修域に、他側を流水域に画成し、水路補修域の上流端側に止水体を配置して水路床及び壁面を露出させる方法を採用することで、流水を止めることなく水路の補修作業を行うことができるし、バイパス工事は不要であるから工事費も節減できるし、補修工事も短期間で行うことができる。
(2)水路補修域は上方が全面的に開放しているから、補修資材の搬入作業や水路内の雑物の搬出作業を円滑に行うことができる。
(3)水路仕切板、仕切板支持体及び止水体は移動及び設置が容易であるから、補修作業終了後の水路補修域の移動が容易である。
(4)水路補修域は水路の幅に応じて広狭自由に設定できるから、広い補修作業面積を確保することも可能である。
(5)仕切板支持体は、伸縮自在な支持杆と、該支持杆の両端側に設けられ、前記水路仕切板及び何れかの壁面に係着する係止体とから構成してあり、水路仕切板と側壁との間に張設することで水路仕切板の立設作業を容易に、効率良く行うことができる。
(6)漏水防止パネルは、水路仕切板に上下に変位可能に設けることで、凹凸の激しい荒れた水路床でも漏水防止パネルを密着させることができる。
(7)水路仕切板は、水路床に面状に接する支え板を下端側に略L字状に設けることにより、水路仕切板の安定性が高くなるし、水路床に対する接触面が広いので漏水防止効果が得られる。そして、支え板の下面に水路床に接する漏水防止シール材を設けると更に漏水防止効果を得られる。
(8)止水体は、水路補修域の上流側開口を閉塞可能な止水用シートと、止水用シートを押え込む重量物とから構成したから、水路補修域の閉塞作業を容易に、短時間で効率良く行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は本発明の実施の形態に係り、水路内に水路仕切板を配置した部分斜視図である。
【
図2】水路の上流側に止水体を配置した部分斜視図である。
【
図3】水路仕切板と漏水防止パネルの下端側の部分拡大図である。
【
図5】仕切板支持体で水路仕切板を保持する部分拡大図である。
【
図6】水路仕切板に対して上下の調整可能な漏水防止パネルの分解斜視図である。
【
図7】変形例に係る水路仕切板を設置した水路の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を図に基づき詳述する。
図1及び
図2において、51はコンクリート製の既設水路、52、52、・・・は該既設水路51を構成する複数の水路構成体を示す。該各水路構成体52は水路床53と、該水路床53の幅方向両端から起立して対向する一対の側壁54、54とから縦断面略凵字状の形状で所定の長さに成形したものからなり、複数の水路構成体52、52、・・を長手方向に連結することにより、既設水路51は構成してある。
そして、既設水路51の水路床53の表面53A及び側壁54の表面54Aは、年月の経過と共に流石、流木、氷塊等の異物の衝突によって亀裂、剥離等の損傷を受けて次第に劣化し、また水藻等の植物が繁殖して水の流れを妨げる荒れた凹凸面になることから、水路内面の修復が必要になる。
【0012】
1、1、・・・は水路仕切板を示す。該各水路仕切板1は前記既設水路51内を幅方向に二分する状態で、既設水路51の長手方向に沿って水路床53上に複数枚配置し列設することにより、既設水路51内は一側を水路補修域Zに、他側を流水域Yとして画成してある。各水路仕切板1はコンクリート製の長尺の平板からなる板本体1Aと、該板本体1Aの上面に突設したクレーンによる吊上げ用の係止環1B、1Bと、板本体1Aの縦方向に離間して形成した下側ボルト穴1Cと上側ボルト穴1Dとからから構成してある。なお、板本体1Aの長手方向一側端面に蟻溝を、他側端面にほぞを形成して列設する水路仕切板1、1を嵌合状態で連結するようにしてもよい。これにより、列設する水路仕切板1、1、・・・全体の強度性を高めることができるし、漏水防止効果も高まる。
【0013】
2は前記板本体1Aの下面に固着した漏水防止パッキンで、該漏水防止パッキン2は、例えば発泡合成樹脂、布織布等の柔軟性を有する材料で成形することにより、水路床53の凹凸のある荒れた表面53Aに密着するようにしてある(
図3参照)。
【0014】
3は前記板本体1Aの一側側面に添接して設けた漏水防止パネルを示す。該漏水防止パネル3はコンクリート製のパネル本体3Aと、該パネル本体3Aの厚さ方向に貫通して形成したボルト通し穴3Bと、パネル本体3Aの下面に設けた漏水防止シール材3Cとから構成してある。パネル本体3Aは水路仕切板1より縦幅を短く設定した平パネルに形成し、作業員が重機を用いずに設置できる重量にしてある。そして、漏水防止パネル3は、水路仕切板1の一側側面に添接して取付けボルト・ナット4によって着脱可能に締着してある。
【0015】
図4、5において、5、5、・・・は複数本の仕切板支持体を示す。6は該各仕切板支持体5を構成する支持杆で、該支持杆6は一端側が開口して内周面に雌ねじ6A
1を形成した支持筒6Aと、外周面に雄ねじ6B
1を形成し、先端に連結環6B
2を形成して前記支持筒6Aに螺挿した支持ロッド6Bとから構成してあり、該支持ロッド6Bと支持筒6Aは逆方向に回動することにより支持杆6は伸縮自在になっている。
【0016】
7は前記支持筒6Aの他端に連結した回動連結具で、該回動連結具7は基板7AにU字環7Bを固着して形成してある。8は該回動連結具7に搖動自在に連結した仕切板係止具で、該仕切板係止具8は水路仕切板1の上端側に上方から嵌合する略冂字状の係止金物8Aと、該係止金物8Aの内側面に固着して回動連結具7のU字環7Bに係合するU字環8Bとから構成してある。
また、9は前記支持ロッド6Bの先端に搖動可能に連結したアイボルトで、該アイボルト9は側壁54にドリル等の穿孔機で形成した支持孔に挿着するものである。
【0017】
本実施の仕切板支持体5は上述の構成からなるもので、支持杆6は水路仕切板1と片側の側壁54との間隔を考慮して長さを仮設定し、係止金物8Aを水路仕切板1に嵌合した状態で支持筒6Aを回転して支持ロッド6Bを進出させる。そして、アイボルト9を側壁54に挿着した状態で、支持杆6を伸張させて仕切板支持材5を架設状態にする。
また、水路仕切板1の高さ方向略中間に位置して仕切板支持体5を側壁54との間に架設する。この場合は、アイボルト9を側壁54に挿着し、仕切板係止体8の係止金物8Aを水路仕切板1の側面に当接し、反対側から上側ボルト穴1Dに押付ボルト10を螺入して先端面を係止金物8Aに押し付けることにより、水路仕切板1は起立した姿勢に保持することができる。
【0018】
このようにして、仕切板支持体5を各水路仕切板1と側壁54との間に上下に離間して架設することにより、水路床53が凹凸のある荒れた状態でも水路仕切板1は既設水路51を幅方向に略二分した状態で立設することができる。
【0019】
既設水路51に水路仕切板1を起立状態に列設したら、漏水防止パネル3を取付ボルト4で締着し、漏水防止シール材3Cを水路床53の表面53Aに密接させる。なお、漏水防止パネル3は工場で予め水路仕切板1に締着しておいてもよい。
なお、
図6に示すように、漏水防止パネル21のパネル本体21Aに縦長のボルト通し穴21Bを形成し、上下位置の調整が可能な構成にすることにより、漏水防止パネル21の漏水防止シール材21Cを水路床53に強く密接させて漏水をより確実に防止することができる。
【0020】
上述の如くして既設水路51内に水路仕切板1を起立状態に列設することにより、既設水路51内は水路補修域Zと流水域Yに画成した状態になり、かつ各一対の漏水防止パッキン2と漏水防止シール材3Cとによって、流水域Yから水路補修域Z側に水が漏洩する事態を可及的に防止している。
【0021】
11は上述の構成により既設水路51内に画成した水路補修域Zの上流側開口Z1を閉塞して遮水するための止水体を示す。12、12、・・・は該止水体11を構成する複数個の錘袋で、該各錘袋12は強度性のある素材、例えばズック製の袋本体12A内に砂、砂利等の重量物を充填し、上面に吊り上げ用フック12Bを設けて構成してある。13は前記開口Z1を閉塞する所謂ブルーシート等の止水用シートで、該止水用シート13は既設水路51内の水面より上位まで覆うように開口Z1の下半分に配設し、流水で移動しないように複数個の錘袋12で押えてある。
かくして、既設水路51内を流れる水Wは止水体11によって流水域Y側に誘導し、水路補修域Z内に流入するのを阻止することにより補修作業域Zの水路床53及び側壁54を露出させて作業空間を形成することができる。
【0022】
なお、
図7は本実施の形態の変形例に係る水路仕切板31を示す。該水路仕切板31は板本体31Aと、該板本体31Aの下端に略L字状に突設し、水路床53に面状に接する支え板31Bとから構成してあり、該支え板31の下面には漏水防止パッキン2が固着してある。
この構成によれば、水路仕切板31は起立状態の安定性が増すと共に、水路床53に対する接触面が広いので高い漏水防止効果が得られる。
【0023】
なお、本実施の形態では、仕切板支持体5を伸縮可能な支持杆6と、仕切板係止具8及びアイボルト9とから構成し、既設水路51の幅が場所によって広狭変化する場合にも対応可能にしたが、本発明における仕切板支持材は実施の形態に限定されるものではなく、単純に金属製ロッドを用いてもよいものである。
【符号の説明】
【0024】
1、31 水路仕切板
2 漏水防止パッキン
3、21 漏水防止パネル
3C 漏水防止シール材
5 仕切板支持体
6 支持杆
8 仕切板係止具(係止体)
9 アイボルト(係止体)
11 止水体