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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-25
(45)【発行日】2022-03-07
(54)【発明の名称】MAX相材料、その調製方法及び使用
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/907 20170101AFI20220228BHJP
   C22C 1/00 20060101ALI20220228BHJP
   C22C 30/06 20060101ALI20220228BHJP
   C01B 21/06 20060101ALI20220228BHJP
【FI】
C01B32/907
C22C1/00 Z
C22C30/06
C01B21/06 Z
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020546500
(86)(22)【出願日】2018-11-28
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-06-24
(86)【国際出願番号】 CN2018117811
(87)【国際公開番号】W WO2020010783
(87)【国際公開日】2020-01-16
【審査請求日】2020-09-04
(31)【優先権主張番号】201810751303.5
(32)【優先日】2018-07-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】201810751944.0
(32)【優先日】2018-07-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】201810930369.0
(32)【優先日】2018-08-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】510173476
【氏名又は名称】中国科学院▲寧▼波材料技▲術▼▲与▼工程研究所
【氏名又は名称原語表記】NINGBO INSTITUTE OF MATERIALS TECHNOLOGY & ENGINEERING,CHINESE ACADEMY OF SCIENCES
【住所又は居所原語表記】No.519 Zhuangshi Avenue,Zhenhai District,Ningbo,Zhejiang,315201 CHINA
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100148633
【弁理士】
【氏名又は名称】桜田 圭
(74)【代理人】
【識別番号】100147924
【弁理士】
【氏名又は名称】美恵 英樹
(72)【発明者】
【氏名】黄 慶
(72)【発明者】
【氏名】李 勉
(72)【発明者】
【氏名】李 友兵
(72)【発明者】
【氏名】周 小兵
(72)【発明者】
【氏名】羅 侃
(72)【発明者】
【氏名】都 時禹
(72)【発明者】
【氏名】黄 政仁
【審査官】山本 吾一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/173188(WO,A1)
【文献】NECHICHE, M. et al.,Inorg. Chem.,2017年11月15日,56,pp.14388-14395,DOI:10.1021/acs.inorgchem.7b01003
【文献】DEZELLUS, O. et al.,Scripta Materialia,2015年04月04日,104,pp.17-20,DOI:10.1016/j.scriptamat.2015.03.015
【文献】THOLANDER, C. et al.,J. Appl. Phys.,2016年12月08日,120(22),225102,DOI:10.1063/1.4971248
【文献】GALVIN, T. et al.,Journal of the European Ceramic Society,2018年06月25日,38,pp.4585-4589,DOI:10.1016/j.eurceramsoc.2018.06.034
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B
C01G
C01F
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
MAX相材料の調製方法であって、
溶融塩法及び/又は放電プラズマ焼結法を含み、
前記MAX相材料は、分子式がM n+1 (A A’ 1-z (AはZn、Cu、Ni、Co、Fe又はMn元素から選ばれ、MはIIIB、IVB、VB又はVIB族元素から選ばれ、A’はIIIA、IVA、VA又はVIA元素から選ばれ、XはC及び/又はN元素から選ばれ、nは1、2、3又は4であり、0<z≦1であり、hはM n+1 単位層の間にある(A A’ 1-z )層の原子の層数であり、且つ1、2又は3である。)として示される
ことを特徴とするMAX相材料の調製方法。
【請求項2】
前駆体MAX相材料、A及び/又はA含有材料、無機塩を1:1.5~3:3~6のモル比で混合し、得た混合物を不活性雰囲気にて400℃~1000℃で高温反応させ、その後、後処理して、AサイトにA元素を含むMAX相材料を得るステップを含み、
前記前駆体MAX相材料の分子式は、Mm+1A’X(式中、MはIIIB、IVB、VB又はVIB族の早期遷移金属から選ばれ、A’はIIIA又はIVA族元素から選ばれ、XはC及び/又はNを含み、m=1、2又は3であり、AはZn、Cu、Ni、Co、Fe又はMn元素である。)として示される、
ことを特徴とする請求項に記載の調製方法。
【請求項3】
前記A含有材料はA含有合金、A含有酸化物及びA含有塩のうちの任意の1種又は2種以上の組み合わせを含み、及び/又は、前記A及び/又はA含有材料は、粒度500nm~50μmの粉体である、
ことを特徴とする請求項に記載の調製方法。
【請求項4】
前記後処理は、前記反応終了後、得た反応産物を脱イオン水で洗浄し、次に40~80℃で乾燥させて、MAX相材料を得ることを含む、
ことを特徴とする請求項に記載の調製方法。
【請求項5】
前記前駆体MAX相材料は、粉体、バルク、薄膜のうちの任意の1種又は2種以上の組み合わせであり、及び/又は、前記前駆体MAX相材料は、TiAlC、TiSiC、TiAlC、TiAlN、TiAlN、TiGaC、VAlC、VGaC、CrGaN、CrAlC、ScAlC、ZrAlC、ZrSnC、NbAlC、NbAlC、MoAlC、MoGaN、HfAlC、HfAlN、TaAlC、TaAlCのうちの任意の1種又は2種以上の組み合わせを含む、
ことを特徴とする請求項のいずれか1項に記載の調製方法。
【請求項6】
前記MAX相材料は、六方晶系構造を有し、空間群がP63/mmcであり、単位胞がM n+1 単位と(A A’ 1-z 層の原子を交互して積層してなる、
ことを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の調製方法。
【請求項7】
前記MAX相材料は、分子式がM n+1 (A A’ 1-z (hはM n+1 単位層の間にあるA A’ 1-z 層の原子の層数であり、単位胞がM n+1 単位と(A A’ 1-z 層の原子を交互して積層してなる。)として示される、
ことを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載の調製方法。
【請求項8】
MはSc、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Taのうちの任意の1種又は2種以上の組み合わせを含む、
ことを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の調製方法。
【請求項9】
XはC ((x+y)=1)である、
ことを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の調製方法。
【請求項10】
前記MAX相材料の形態として、粉体、バルク又は薄膜が含まれる、
ことを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の調製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、複合無機材料に関し、具体的には、新規MAX相材料に関し、特にAサイトにZn、Cu、Ni、Co、Fe、Mnなどの元素を含む新規三元層状MAX相材料、その調製方法及び使用に関し、材料の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
MAX相は、微細層状構造を持つ三元化合物であり、分子式がMn+1AX(式中、MはIIIB、IVB、VB、及びVIB族の早期遷移金属元素であり、Aは主にIIIA及びIVA族の元素であり、Xは炭素又は窒素であり、n=1~3である。)である。MAX相材料は六方晶系を有し、空間群がP63/mmcであり、その単位胞がMn+1単位とA原子面を交互して積層してなり、n=1、2、又は3であり、通常211、312、及び413相と略する。MAX相は、高強度、高靭性、高熱伝導率、低放射活性、優れた損傷許容性と耐熱衝撃性、及び高温耐性、抗酸化性、可加工性などの特性を有し、航空宇宙用の熱構造材料、高温電極、摩擦・摩耗材料、原子力エネルギー構造材料、エネルギー貯蔵などの分野では、応用の将来性が期待できる。
【0003】
現在、約70種類のMAX相材料が合成されている。物理学、化学、電気、機械などにおけるMAX相材料のユニークな特性は、高温電極、摩擦・摩耗材料、及び原子力エネルギー構造材料などの分野において応用の将来性が期待できる。これまで、MAX相材料の応用は主にその構造特性に重点が置かれているが、近年、科学者は一連の新しいMAX相材料(同形MAX相とも呼ばれる)を固溶、置換、又はその他の手段で合成し、それは、MAX相材料の種類の増加、結晶構造の理解、物理的及び化学的特性の制御にとって非常に重要である。
【0004】
MAX相材料ファミリーの拡大は、材料科学者が努力する目標であり、三元層状材料の結晶構造の理解と物理的性質の制御の上で非常に重要である。ただし、従来のMAX相材料では、Aサイトの元素は、主族IIIA及びIVAに含まれる元素に限定され、特に、実際には、ほとんどのMAX相材料のAサイトの原子はAl元素である。Aサイトの元素の変化により、MAX相の結合強度や電子構造が変化し、さらにその物理的及び化学的特性に大きな影響を与え、MAX相に豊富な機能特性を付与する。理論的な予測から、AサイトにZnやCuなどの元素を含むMAX相材料は、電子エネルギーバンド構造が、主族元素を含む従来のMAX相材料とはまったく異なることを示しており、エネルギー貯蔵、触媒、電磁波シールド・吸収の分野では、応用の将来性が期待できる。一方、AサイトにNi、Co、Feなどの磁性元素を導入することで、MAX相材料に調整可能な磁気特性を付与し、それにより、MAX相材料は、データ記憶、記録、冷凍や電子スピンなどの分野で応用の将来性が期待できる。したがって、MAX相材料のAサイトの元素の範囲を拡大し、新規MAX相材料を探索することは、理論上及び実用上非常に重要である。最近、スウェーデンのリンショーピング大学及び蘭州大学の物理化学研究所は、ツイン構造のMn+1層を維持しながら、Aサイトの元素の高化学活性を使用して元素を置換することにより、新規MAX相材料を合成できることを発見した。したがって、従来の固相法では合成できないMAX材料は、Aサイトの元素の置換で実現でき、これは、MAX相材料の種類の増加、及び物理的・化学的特性の制御に非常に重要である。
【0005】
従来のMAX相材料の調製プロセスは、固相焼結法であり、つまり、M、A、Xなどの数種の元素の粉末を混合して加熱した後、高温で反応させるが、この方法で調製できるMAX相材料の種類は限られており、AはAlやSiなどのIIIA、IVA族の元素に限定される。一部の研究者は、Aサイトの元素をZn、Cu、Ni、Co、Fe、Mnなどの他の元素に置き換え、固相焼結法を使用して対応するMAX相材料を調製することを試みたが、固相焼結には、Zn、Cu、Ni、Co、Fe、MnなどのAサイトの元素は、Ti、V、CrなどのMサイトの元素と容易に反応して合金相を形成し、この合金相の熱力学的安定性が所望のMAX相よりもはるかに高い、つまり合金相が優先的に形成され、その結果、Aサイトの元素がZnであるMAX相材料を形成できない。これまで、Aサイトの元素がZn、Cu、Ni、Co、FeであるMAX相材料についての報告はほとんどなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本願の主な目的は、従来技術の欠陥を解決するために、MAX相材料を提供することである。
【0007】
本願の目的は、Aサイトの元素としてZn、Cu、Co、Ni、Fe、Mnを含む三元層状MAX相材料、その調製方法及び応用を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前述発明の目的を達成させるために、本願に使用される技術案は以下を含む。
【0009】
本願の実施例は、分子式がMn+1(AA’1-z(MはIIIB、IVB、VB又はVIB族元素から選ばれ、AはZn、Cu、Ni、Co、Fe又はMn元素から選ばれ、A’はIIIA、IVA、VA又はVIA元素から選ばれ、XはC及び/又はN元素から選ばれ、nは1、2、3又は4であり、0<z≦1であり、単位胞がMn+1単位と(AA’1-z層の原子を交互して積層してなり、hはMn+1単位層の間にある(AA’1-z)層の原子の層数であり、且つ1、2又は3である。)として示されるMAX相材料を提供する。
【0010】
本願の実施例は、前駆体MAX相材料、A及び/又はA含有材料、無機塩を1:1.5~3:3~6のモル比で混合し、得た混合物を不活性雰囲気にて400℃~1000℃で高温反応させ、その後、後処理して、AサイトにA元素を含むMAX相材料を得るステップを含み、
前記前駆体MAX相材料の分子式は、Mm+1A’X(式中、MはIIIB、IVB、VB又はVIB族の早期遷移金属から選ばれ、A’はIIIA又はIVA族元素から選ばれ、XはC及び/又はNを含み、m=1、2又は3であり、AはZn、Cu、Ni、Co、Fe又はMn元素のうちの任意の1種又は2種以上の組み合わせである。)として示される。
【0011】
本願の実施例は、航空宇宙用の熱構造材料、原子力エネルギー構造材料、高温電極材料、摩擦・摩耗材料やエネルギー貯蔵材料などの調製における、前記新規MAX相材料の用途をさらに提供する。
【0012】
本願の実施例は、エネルギー貯蔵、触媒、電磁波シールド・吸収などの分野における、前記AサイトにZn、Cuを含むMAX相材料の用途をさらに提供する。
【0013】
本願の実施例は、データ記憶、記録、磁気冷凍及び電子スピンの分野などにおける、前記AサイトにNi、Co、Fe、Mnを含むMAX相材料の応用をさらに提供する。
【発明の効果】
【0014】
従来技術に比べて、本願の利点は少なくとも以下のとおりである。
(1)本願によるMAX相材料の調製方法は、初めてAサイトの元素としてZn、Cu、Ni、Co、Fe、Mn元素を含むMAX相材料を調製しており、そして、簡単に操作でき、エネルギー消費量が低く、汎用性がある。
(2)本願による新規MAX相材料は、Aサイトの元素としてZn、Cu元素を含むものであり、電子構造が従来のMAX相材料よりも大きく変化し、MAX相材料は、この変化により物理的・化学的特性が変化し、航空宇宙用の熱構造材料、原子力エネルギー構造材料、エネルギー貯蔵、触媒、電磁波シールド・吸収などの分野におけるその応用が大きな影響を受ける。
(3)本願によるMAX相材料は、Aサイトの元素としてMn、Fe、Co、Niなどの元素を含むものであり、電子構造が従来のMAX相材料よりも大きく変化し、MAX相材料はこの変化により物理的・化学的特性が変化し、金属とセラミックスの特徴を兼ね備え、高強度、高熱伝導性、抗酸化性、耐高温性、高損傷許容性や可加工性などの特徴を有し、原子力エネルギー構造材料、触媒、吸収材、電磁波シールド、スピン電子及び磁気冷凍などの分野において応用の将来性が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本願の実施例1に係るMAX相材料TiZnC及び従来のMAX相材料TiAlCのXRDパターンである。
図2】本願の実施例1に係るMAX相材料TiZnCの各ゾーン軸に沿う高解像度透過型電子顕微鏡像である。
図3a】本願の実施例1に係るMAX相材料TiZnCの高解像度透過型電子顕微鏡下のエネルギースペクトル分析図である。
図3b】本願の実施例1に係るMAX相材料TiZnCの単位胞の構造模式図である。
図4】本願の実施例1に係るMAX相材料TiZnCの走査型電子顕微鏡像である。
図5】本願の実施例2に係るMAX相材料TiZnCのXRDパターンである。
図6】本願の実施例2に係るMAX相材料TiZnCの各ゾーン軸に沿う高解像度透過型電子顕微鏡像である。
図7】本願の実施例2に係るMAX相材料TiZnCの高解像度透過型電子顕微鏡下のエネルギースペクトル分析図である。
図8】本願の実施例3に係るMAX相材料TiZnNのXRDパターンである。
図9】本願の実施例3に係るMAX相材料TiZnNの各ゾーン軸に沿う高解像度透過型電子顕微鏡像である。
図10】本願の実施例3に係るMAX相材料TiZnNの高解像度透過型電子顕微鏡下のエネルギースペクトル分析図である。
図11】本願の実施例4に係るMAX相材料VZnCのXRDパターンである。
図12】本願の実施例5に係る三元層状MAX相材料TiCuC及び従来のMAX相材料TiAlCのXRDパターンである。
図13】本願の実施例5に係る三元層状MAX相材料TiCuCの高解像度透過型電子顕微鏡(HFTEM)像である。
図14】本願の実施例6に係る三元層状MAX相材料TiCuC及び従来のMAX相材料TiAlCのXRDパターンである。
図15a】本願の実施例6に係る三元層状MAX相材料TiCuCの表面のSEM像である。
図15b】本願の実施例6に係る三元層状MAX相材料TiCuCの断面のSEM像である。
図16】本願の実施例7に係る三元層状MAX相材料TiCuN及び従来のMAX相材料TiAlNのXRDパターンである。
図17a】本願の実施例7に係る三元層状MAX相材料TiCuNのSEM像である。
図17b】本願の実施例7に係る三元層状MAX相材料TiCuNのEDS分析図である。
図18】本願の実施例8に係る三元層状MAX相材料TiCuNの高解像度透過型電子顕微鏡(HFTEM)像である。
図19】本願の実施例8に係る三元層状MAX相材料TiCuNの高解像度透過型電子顕微鏡下の元素面分布図である。
図20】本願の実施例9に係る三元層状MAX相材料Ti(CuIn1-x)CのXRDパターンである。
図21a】本願の実施例9に係る三元層状MAX相材料Ti(CuIn1-x)CのSEM像である。
図21b】本願の実施例9に係る三元層状MAX相材料Ti(CuIn1-x)CのEDS分析図である。
図22】本願の実施例10に係る三元層状MAX相材料V(CuAl1-x)CのXRDパターンである。
図23】本願の実施例11に係る三元層状MAX相材料TiCuCのXRDパターンである。
図24】本願の実施例12においてAサイトが磁性元素である三元層状MAX相材料V(SnFe1-z)Cの処理前後の、及びシミュレーションしたVSnC MAX相材料のXRDパターンである。
図25a】本願の実施例12においてAサイトが磁性元素である三元層状MAX相材料V(SnFe1-z)Cの走査型電子顕微鏡写真(SEM)である。
図25b】本願の実施例12においてAサイトが磁性元素である三元層状MAX相材料V(SnFe1-z)Cの元素分布図(EDS)である。
図26a】各ゾーン軸に沿って観察した、本願の実施例13においてAサイトが磁性元素である三元層状MAX相材料V(SnFe1-z)Cの高解像度透過型電子顕微鏡(HFTEM)像である。
図26b】各ゾーン軸に沿って観察した、本願の実施例13においてAサイトが磁性元素である三元層状MAX相材料V(SnFe1-z)Cの高解像度透過型電子顕微鏡(HFTEM)像である。
図27】本願の実施例13においてAサイトが磁性元素である三元層状MAX相材料V(SnFe1-z)Cの在高解像度透過型電子顕微鏡下の元素分布図である。
図28】本願の実施例13においてAサイトが磁性元素である塩酸処理後の三元層状MAX相材料V(SnFe1-z)Cの300Kでのヒステリシスループ図である。
図29】本願の実施例14においてAサイトが磁性元素である三元層状MAX相材料V(SnFe1-z)CのXRDパターンである。
図30a】本願の実施例14においてAサイトが磁性元素である三元層状MAX相材料V(SnFe1-z)Cの走査型電子顕微鏡写真(SEM)である。
図30b】本願の実施例14においてAサイトが磁性元素である三元層状MAX相材料V(SnFe1-z)Cの元素面分布図(EDS)である。
図31a】本願の実施例15においてAサイトが磁性元素である三元層状MAX相材料V(SnFe1-z)Cの走査型電子顕微鏡写真(SEM)である。
図31b】本願の実施例15においてAサイトが磁性元素である三元層状MAX相材料V(SnFe1-z)Cの元素面分布図(EDS)である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
前記のように、従来技術の欠陥に鑑み、本願の発明者は、長期間の研究及び大量の実践を行った結果、本願の技術案を提案している。以下、この技術案、その実施過程及び原理などをさらに説明する。
【0017】
本願の実施例は、分子式がMn+1(AA’1-z(MはIIIB、IVB、VB又はVIB族元素から選ばれ、A’はIB、IIB、VIII、IVA、VA又はVIA元素から選ばれ、AはZn、Cu、Mn、Fe、Co又はNi元素から選ばれ、XはC及び/又はN元素から選ばれ、nは1、2、3又は4であり、0<z≦1であり、hはMn+1単位層の間にある(AA’1-z)層の原子の層数であり、且つ1、2又は3である。)として示されるMAX相材料を提供する。
【0018】
さらに、前記MAX相材料は、六方晶系構造を有し、空間群がP63/mmcであり、単位胞がMn+1単位と(AA’1-z層の原子を交互して積層してなる。
【0019】
本願の一態様は、分子式がMn+1(AA’1-z(式中、AはZn、Cu、Mn、Fe、Co、Ni元素であり、hはMn+1単位層の間にあるA層の原子の層数であり、且つ単位胞がMn+1単位とA層の原子を交互して積層してなる。)として示される新規MAX相材料に関する。
【0020】
本願の一態様は、分子式がMn+1(AA’1-z(式中、MはIIIB、IVB、VB、VIB族元素のうちから選ばれる任意の1種又は2種以上の組み合わせであり、AはZn、Cu、Mn、Fe、Co、Ni元素であり、XはC、N元素のうちの任意の1種又は2種の組み合わせであり、nは1、2、3又は4であり、hはMn+1単位層の間にあるA層の原子の層数であり、且つ単位胞がMn+1単位とA層の原子を交互して積層してなる。)として示される新規MAX相材料に関する。
さらに、hは1、2又は3である。
【0021】
さらに、前記Mは、好ましくは、Sc、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Taのうちの任意の1種又は2種以上の組み合わせを含む。
【0022】
さらに、前記Xは、好ましくはC(x+y=1)である。
【0023】
さらに、前記MAX相材料は、六方晶系構造を有し、空間群がP63/mmcであり、単位胞がMn+1単位とA層の原子を交互して積層してなる。
【0024】
さらに、前記MAX相材料の形態として、粉体、バルク、薄膜のうちの任意の1種又は2種以上の組み合わせが含まれるが、これらに制限されない。
【0025】
本願の実施例の別の態様は、
前駆体MAX相材料、A及び/又はA含有材料、無機塩を1:1.5~3:3~6のモル比で混合し、得た混合物を不活性雰囲気にて400℃~1000℃で高温反応させ、その後、後処理し、AサイトにA元素を含むMAX相材料を得るステップを含み、前記前駆体MAX相材料の分子式は、Mm+1A’X(式中、MはIIIB、IVB、VB又はVIB族の早期遷移金属から選ばれ、A’はIIIA又はIVA族元素から選ばれ、XはC及び/又はNを含み、m=1、2又は3であり、AはZn、Cu、Ni、Co、Fe、Mnのうちの任意の1種又は2種以上の組み合わせである。)として示される新規MAX相材料の調製方法を提供する。
【0026】
さらに、前記前駆体MAX相材料は、TiAlC、TiSiC、TiAlC、TiAlN、TiAlN、TiGaC、VAlC、VGaC、CrGaN、CrAlC、ScAlC、ZrAlC、ZrSnC、NbAlC、NbAlC、MoAlC、MoGaN、HfAlC、HfAlN、TaAlC、TaAlCのうちの任意の1種又は2種以上の組み合わせを含むが、これらに制限されない。
【0027】
さらに、前記A含有材料は、ZnO、ZnCl、ZnBr、ZnSO、CuO、CuCl、CuBr、CuSO、FeO、FeCl、FeBr、FeSO、NiO、NiCl、NiBr、NiSO、CoO、CoCl、CoBr、CoSO、MnO、MnCl、MnBr、MnSOのうちの任意の1種又は2種以上の組み合わせを含むが、これらに制限されない。
【0028】
さらに、前記無機塩は、NaF、NaK、NaCl、KCl、NaBr、KBrのうちの任意の1種又は2種以上の組み合わせを含むが、これらに制限されない。
【0029】
さらに、前記前駆体MAX相材料は、粉体、バルク、薄膜のうちの任意の1種又は2種以上の組み合わせであるが、これらに制限されない。
【0030】
さらに、前記A及び/又はA含有材料は、粒度500nm~50μmの粉体である。
【0031】
さらに、前記無機塩は、粒径500nm~1mmの粉体である。
【0032】
いくつかの実施形態では、前記後処理は、前記反応終了後、得た反応産物を脱イオン水で洗浄し、次に60~100℃で乾燥させて、前記新規MAX相材料を得ることを含む。
【0033】
本願の実施例の別の態様は、航空宇宙用の熱構造材料、原子力エネルギー構造材料、高温電極材料、摩擦・摩耗材料又はエネルギー貯蔵材料の調製などにおける、前記新規MAX相材料の用途を提供する。
【0034】
AサイトがZn、Cu元素であるMAX相材料の実施例は実施例1~実施例11として示される。
【0035】
実施例1
本実施例では、新規MAX相材料はTiZnCであり、前駆体MAX相はTiAlCであり、Zn含有材料はZn粉であり、無機塩はNaClであり、これら原料はすべて市販品として入手できる。このTiZnCの調製方法は以下のとおりである。
(1)NaCl 5.84g、粒度10μmのTiAlC粉6g、300メッシュのZn粉3gを秤量して、上記材料を粉砕して混合し、混合産物を得た。
(2)混合物をコランダム製坩堝に投入して、高温管状炉に入れて、800℃、30分間、アルゴンガス保護の反応条件で反応させた。管状炉の温度が室温まで下がった後、坩堝内の反応産物を取り出した。
(3)脱イオン水で反応産物を洗浄した。具体的には、反応産物をビーカーに入れて、脱イオン水を加え、撹拌しながら30分間超音波洗浄した後、1時間静置し、上清を捨てた。反応産物を3回洗浄した後、80℃のオーブンに入れて、24時間後取り出して、固体産物を得た。
図1は上記で調製した固体産物TiZnCのXRDパターンと従来のMAX相材料TiAlCとの比較である。比較から分かるように、両方のXRDパターンは、全体としてピークタイプが類似しており、(002)、(004)、(006)など、(00l)面に配向した明らかな回折ピークがあり、それは、両方の結晶が(00l)面に沿って優先的に成長し、微細形態として層状構造となることを示した。(002)面の回折ピークの位置から、TiZnC格子定数のc値が1.87nmであると確認でき、この値はTiZnC格子定数のc値である1.857nmに近かった。両方のXRDパターンの区別としては、1)、(002)、(004)、(006)、(101)、(103)などの回折ピークの強度が異なり、それは、TiZnCとTiAlCのAサイトの原子が異なり、X線に対する両方の格子の散乱能力が異なるためである。2)、(104)、(105)、(110)などの回折ピークの位置が異なり、これは、TiZnCとTiAlCのAサイトの原子が異なり、両方の格子パラメータが異なるためである。XRDデータから、本実施例で調製したTiZnC材料は、結晶構造がTiAlCと類似し、P63/mmc空間群構造を有する三元層状MAX相材料であることを十分に示した。
図2は各ゾーン軸に沿って観察したTiZnCの高解像度透過型電子顕微鏡による形態であり、この図からTiZnCの層状結晶構造が明らかになり、図中、輝度の高い層は原子番号の高いZn原子層であり、輝度の低い層はTi層であった。
図3aは高解像度透過型電子顕微鏡下のTiZnCについての微細形態分析であり、この図からより明らかなように、TiZnCの格子はZn原子層とTi層を交互して積層してなるものである。図3bはTiZnCの単位胞の構造模式図である。
【0036】
実施例2
本実施例では、新規MAX相材料はTiZnCであり、前駆体MAX相はTiGaCであり、Zn含有材料はZnSOであり、無機塩はKClであり、これら原料はすべて市販品として入手できる。このTiZnCの調製方法は以下のとおりである。
(1)KCl 7.45g、粒度10μmのTiGaC粉4g、ZnSO粉5.4gを秤量し、上記材料を粉砕して混合し、混合産物を得た。
(2)混合物をコランダム製坩堝に投入して、高温管状炉に入れて、700℃、30分間、アルゴンガス保護の反応条件で反応させた。管状炉の温度が室温まで下がった後、坩堝内の反応産物を取り出した。
(3)脱イオン水で反応産物を洗浄した。具体的には、反応産物をビーカーに入れて、脱イオン水を加え、撹拌しながら30分間超音波洗浄した後、1時間静置し、上清を捨てた。反応産物を3回洗浄した後、80℃のオーブンに入れて、24時間後取り出して、固体産物を得た。
図5は上記で調製した固体産物TiZnCのXRDパターンである。TiZnCのXRDパターンには明らかな(002)、(004)、(006)回折ピークがあり、このことから、TiZnCは(00l)に面おいて良好な配向度を有することを示した。その中でも、(002)回折ピークは13°付近にあり、対応する格子定数のc値は約1.362nmであり、TiAlCなどの211型MAXに近かった。
図6は各ゾーン軸に沿って観察したTiZnCの高解像度透過型電子顕微鏡による形態であり、この図から、TiZnCの層状結晶構造が明らかになり、図中、輝度の高い層は原子番号の高いZn原子層であり、輝度の低い層はTiC層であった。
図7は高解像度透過型電子顕微鏡下のTiZnCについての微細形態分析であり、この図からより明らかなように、TiZnCの格子はZn原子層とTiC層を交互して積層してなるものであった。
【0037】
実施例3
本実施例では、新規MAX相材料はTiZnNであり、前駆体MAX相はTiAlNであり、Zn含有材料はZn粉であり、無機塩はNaBrであり、これら原料はすべて市販品として入手できる。このTiZnNの調製方法は以下のとおりである。
(1)NaBr 10.3g、粒度20μmのTiAlN粉4.2g、300メッシュのZn粉3gを秤量し、上記材料を粉砕して混合し、混合産物を得た。
(2)混合物をコランダム製坩堝に投入して、高温管状炉に入れて、1100℃、30分間、アルゴンガス保護の反応条件で反応させた。管状炉の温度が室温まで下がった後、坩堝内の反応産物を取り出した。
(3)脱イオン水で反応産物を洗浄した。具体的には、反応産物をビーカーに入れて、脱イオン水を加え、撹拌しながら30分間超音波洗浄した後、1時間静置し、上清を捨てた。反応産物を3回洗浄した後、80℃のオーブンに入れて、24時間後取り出して、固体産物を得た。
図8は上記で調製した固体産物TiZnNのXRDパターンである。TiZnNのXRDパターンには、明らかな(002)、(004)、(006)回折ピークがあり、このことから、TiZnCは(00l)面において良好な配向度を有することを示した。その中でも、(002)回折ピークは13°付近にあり、対応する格子定数のc値は約1.354nmであり、TiAlNなどの211型MAXに近かった。
図9は各ゾーン軸に沿って観察したTiZnNの高解像度透過型電子顕微鏡による形態であり、この図から、TiZnNの層状結晶構造が明らかになり、図中、輝度の高い層は原子番号の高いZn原子層であり、輝度の低い層はTiN層であった。
図10は高解像度透過型電子顕微鏡下のTiZnNについての微細形態分析であり、この図からより明らかなように、TiZnNの格子はZn原子層とTiN層を交互して積層してなるものであった。
【0038】
実施例4
本実施例では、新規MAX相材料はVZnNであり、前駆体MAX相はVAlCであり、Zn含有材料はZn粉であり、無機塩はNaClであり、これら原料はすべて市販品として入手できる。このVZnNの調製方法は以下のとおりである。
(1)NaC 5.84g、粒度10μmのVAlC粉4.34g、300メッシュのZn粉3gを秤量し、上記材料を粉砕して混合し、混合産物を得た。
(2)混合物をコランダム製坩堝に投入して、高温管状炉に入れて、800℃、30分間、アルゴンガス保護の反応条件反応させた。管状炉の温度が室温まで下がった後、坩堝内の反応産物を取り出した。
(3)脱イオン水で反応産物を洗浄した。具体的には、反応産物をビーカーに入れて、脱イオン水を加え、撹拌しながら30分間超音波洗浄した後、1時間静置し、上清を捨てた。反応産物を3回洗浄した後、80℃のオーブンに入れて、24時間後取り出して、固体産物を得た。
図11は上記で調製した固体産物VZnCのXRDパターンである。VZnCのXRDパターンには、明らかな(004)、(006)回折ピークがあり、このことから、VZnCは(00l)面において良好な配向度を有することを示した。その中でも、(004)回折ピークは26°付近にあり、対応する格子定数のc値は約1.323nmであり、VAlCなどの211型MAX相に近かった。
さらに、本願の発明者は、前述実施例1~4における対応する原料及びプロセス条件を本明細書に記載のほかの原料及びプロセス条件に変更して実験したが、その結果、Zn元素に基づく新規MAX相材料が得られた。
【0039】
実施例5
本実施例では、新規三元層状MAX相材料はTiCuC粉体材料であり、前駆体はTiAlCであり、Cu含有材料はCu粉であり、無機塩はNaClであり、これら原料はすべて市販品として入手できる。このTiCuC粉体の調製方法は以下のとおりである。
(1)塩化ナトリウム5.85g、TiAlC粉体6g、300メッシュのCu粉1.2gを秤量し、上記材料を粉砕して混合し、混合産物を得た。
(2)混合物をコランダム製坩堝に投入して、高温管状炉に入れて、900℃、120分間、アルゴンガス保護の反応条件反応させた。管状炉の温度が室温まで下がった後、坩堝内の反応産物を取り出した。
(3)脱イオン水とアルコールで反応産物を洗浄した。具体的には、反応産物をビーカーに入れて、脱イオン水を加え、撹拌しながら30分間超音波洗浄した後、1時間静置し、上清を捨てた。反応産物を3回洗浄した後、エタノールで洗浄し、次に40℃のオーブンに入れて、12時間後取り出して、固体産物を得た。
図12は上記で調製した粉末産物TiCuCのXRDパターンと従来のMAX相材料TiAlCとの比較である。比較から分かるように、両方のXRDパターンは、全体として回折ピークのピーク位置が類似しており、いずれも(002)、(004)、(006)など、(00l)面に配向した回折ピークを有し、それは、両方の結晶が(00l)面に沿って優先的に成長することを示し、このため、微細形態として層状構造となり、計算したところ、シミュレーションXRDは実験結果と一致した。また、合成したTiCuCのXRDピークはTiAlCよりも低角度へシフトする傾向があり、その原因として、Aサイトの原子の半径の大きさに差異があり、両方の格子パラメータが異なると考えられ、計算したところ、TiCuCの格子定数のc値は18.53Åであり、この値はTiAlCの格子定数のc値である18.57Åに近かった。XRDデータから、本実施例で調製したTiCuC材料は、結晶構造がTiAlCと類似し、P63/mmc空間群構造を有する三元層状MAX相材料であることを十分に示した。
図13はTiCuCの高解像度透過型電子顕微鏡による形態図であり、この図から明らかなように、TiCuCは典型的な312MAX相材料の層状結晶構造を有し、図中、輝度の高い層は原子番号の高いCu原子層であり、輝度の低い層はTiであり、TiCuCの格子は輝度の高いCu原子層と輝度の低いTi層を交互して積層してなるものであることが確認された。
【0040】
実施例6
本実施例では、新規三元層状MAX相材料はTiCuCバルク材料であり、前駆体MAX相はTiAlCであり、Cu含有材料はCuであり、これら原料はすべて市販品として入手できる。このTiCuCの調製方法は以下のとおりである。
(1)粒度30μmのTiAlC粉2g、Cu粉2gを秤量し、上記材料を粉砕して混合し、粉体混合物を得た。
(2)上記粉体混合物2gを黒鉛型に入れて、次に1100℃で60分間保温、昇温速度100℃/min、アルゴンガス保護、圧力30MPaの焼結条件で、SPSにより焼結した。反応終了後、産物を取り出した。
(3)得たバルクから表面の黒鉛紙を除去し、異なるメッシュのサンドペーパーで鏡面となるまで研磨し、最後に、80℃の条件でベークし、12h後取り出し、TiCuCバルク材料を得た。
図14は、SPSで焼結したTiCuCバルク材料のXRDパターンと従来のMAX相材料TiAlCとの比較である、図14から分かるように、得たバルク材料の表面には、TiCuCに加えて銅単体が含まれ、その原因としては、原料に加えるCu単体が過量であると考えられ、硝酸で余分な銅単体を溶解した後に、得たXRD図は、TiAlC 312相のXRDパターンの回折ピークのピーク位置とは全体的に類似しており、このことから、TiCuCバルク材料を調製したことを示した。
図15a及び図15bは、SPSで焼結したTiCuCバルク材料の断面のSEM像及びEDS図であり、この図から分かるように、その形態としてMAX相材料の典型的な層状構造となり、このことから、AサイトがCu元素であるTiCuCの新規MAX相材料が得られた。
【0041】
実施例7
本実施例では、新規三元層状MAX相材料はTiCuNであり、前駆体MAX相はTiAlNであり、Cu含有材料はCu粉であり、無機塩はKClであり、これら原料はすべて市販品として入手できる。このTiCuNの調製方法は以下のとおりである。
(1)、塩化カリウム7.45g、粒度10μmのTiAlN粉6g、300メッシュのCu粉2.4gを秤量し、上記材料を粉砕して混合し、混合産物を得た。
(2)混合物をコランダム製坩堝に投入して、高温管状炉に入れて、600℃で420分間保温、アルゴンガス保護の反応条件で反応させた。管状炉の温度が室温まで下がった後、坩堝内の反応産物を取り出した。
(3)脱イオン水とアルコールで反応産物を洗浄した。具体的には、反応産物をビーカーに入れて、脱イオン水を加え、撹拌しながら30分間超音波洗浄した後、1時間静置し、上清を捨てた。反応産物を3回洗浄した後、エタノールで洗浄し、60℃のオーブンに入れて、12時間後取り出して、粉体産物を得た。
図16は調製したTiCuN MAX相材料のXRDパターンと従来のMAX相材料TiAlNとの比較である。図16の比較から分かるように、得た新規三元層状MAX相材料のXRDパターンはTiAlNとほぼ類似しているが、得た新規三元層状MAX相材料の多数の結晶面はTiAlNよりも弱まり、その原因としては、Aサイトの原子の半径の大きさに差異があり、両方の格子パラメータが異なると考えられ、XRDから、新規的TiCuN MAX相材料が得られたことを示した。
図17a及び図17bは、調製したTiCuN MAX相粉体材料のSEM像及びEDS図であり、この図から分かるように、その形態は溶融塩法によるTiAlNの形態とほぼ一致し、EDS結果から明らかなように、顆粒の表面には、Ti、Cu、Nの3種類の元素が含まれ、そして元素Ti/Cuの比が2:1に近く、XRD結果とSEM結果の組みわせから、合成した物質は新規TiCuN MAX相材料であることが確認された。
【0042】
実施例8
本実施例では、新規三元層状MAX相材料はTiCuNであり、前駆体MAX相材料はTiAlNであり、Cu含有材料はCuO粉であり、無機塩はNaClとKClであり、これら原料はすべて市販品として入手できる。このTiCuNの調製方法は以下のとおりである。
(1)塩化ナトリウム4.8g、塩化カリウム6.2g、TiAlN粉体3g、300メッシュのCu粉3gを秤量し、上記材料を粉砕して混合し、混合産物を得た。
(2)混合物をコランダム製坩堝に投入して、高温管状炉に入れて、1000℃で180分間保温、アルゴンガス保護の反応条件で反応させた。管状炉の温度が室温まで下がった後、坩堝内の反応産物を取り出した。
(3)脱イオン水とアルコールで反応産物を洗浄した。具体的には、反応産物をビーカーに入れて、脱イオン水を加え、撹拌しながら30分間超音波洗浄した後、1時間静置し、上清を捨てた。反応産物を3回洗浄した後、エタノールで洗浄し、60℃のオーブンに入れて、12時間後取り出して、粉体産物を得た。
図18はTiCuNの高解像度透過型電子顕微鏡による形態図であり、この図から明らかなように、TiCuNは典型的な211 MAX相材料の層状結晶構造を有し、図中、輝度の高い層は原子番号の高いCu原子層であり、輝度の低い層はTiNであり、このことから、TiCuNの格子は輝度の高いCu原子層と輝度の低いTiN層を交互して積層してなるものであった。
図19は高解像度透過型電子顕微鏡下のTiCuNについての元素分析であり、元素面分布の結果から明らかなように、Cu元素は主にAサイトにあり、これに加えて、少量のAl元素があり、EDXから、Ti:(Al+Cu)≒2:1、且つCu:(Cu+Al)=0.87であり、それは、A層のAlのほとんどがCu原子により置換され、TiCuN MAX相材料が得られたことを示した。
【0043】
実施例9
本実施例では、新規三元層状MAX相材料はTi(CuIn1-x)Cであり、原料はTiInCであり、無機塩はNaBrとKBrであり、これら原料はすべて市販品として入手できる。このTi(CuIn1-x)Cの調製方法は以下のとおりである。
(1)臭化ナトリウム2.4g、臭化カリウム3.1g、TiInC粉体2g、300メッシュのCu粉1.2gを秤量し、上記材料を粉砕して混合し、混合産物を得た。
(2)混合物をコランダム製坩堝に投入して、高温管状炉に入れて、750℃で600分間保温、アルゴンガス保護の反応条件で反応させた。管状炉の温度が室温まで下がった後、坩堝内の反応産物を取り出した。
(3)脱イオン水とアルコールで反応産物を洗浄した。具体的には、反応産物をビーカーに入れて、脱イオン水を加え、撹拌しながら30分間超音波洗浄した後、1時間静置し、上清を捨てた。反応産物を3回洗浄した後、エタノールで洗浄し、50℃のオーブンに入れて、24時間後取り出して、粉体産物を得た。
図20は、調製したTi(CuIn1-x)CMAX相材料のXRDパターンである。図20から分かるように、得た新規三元層状MAX相材料のXRDパターンは211 MAX相のスペクトルとほぼ類似しており、これは、得た新相がAサイトにCuを含むMAX相材料であることを示し、さらに、XRD結果から、産物にCuIn合金相及びTiCがさらに存在することが明らかになった。
図21a及び図21bは、調製したTiCuN MAX相粉体材料のSEM像及びEDS図であり、この図から分かるように、その形態はMAX相材料の典型的な層状構造であった。EDS結果から明らかなように、顆粒の表面にTi、Cu、In、Cの4種類の元素が含まれ、Ti:(Cu+In)≒2:1、In:(Cu+In)≒0.6であり、このことから、Cu原子は主にMAX相のAサイトに入り、Aサイトに銅を含む新規MAX相材料Ti(CuIn1-x)Cは得られた。
【0044】
実施例10
本実施例では、新規三元層状MAX相材料はV(CuAl1-x)Cであり、前駆体はVAlC粉体であり、CuはCu粉であり、無機塩はNaClとKClであり、これら原料はすべて市販品として入手できる。このV(CuAl1-x)Cの調製方法は以下のとおりである。
(1)塩化ナトリウム3.6g、塩化カリウム4.65g、300メッシュのVAlC粉1g、300メッシュのCu粉1.2gを秤量し、上記材料を粉砕して混合し、混合産物を得た。
(2)混合物をコランダム製坩堝に投入して、高温管状炉に入れて、400℃で720min保温、アルゴンガス保護の反応条件で反応させた。管状炉の温度が室温まで下がった後、坩堝内の反応産物を取り出した。
(3)脱イオン水とアルコールで反応産物を洗浄した。具体的には、反応産物をビーカーに入れて、脱イオン水を加え、撹拌しながら30分間超音波洗浄した後、1時間静置し、上清を捨てた。反応産物を3回洗浄した後、エタノールで洗浄し、80℃のオーブンに入れて、24時間後取り出して、粉体産物を得た。
図22は調製したV(CuAl1-x)C MAX相材料のXRDパターンである。図22から分かるように、得た新規三元層状MAX相材料は、XRDパターンが211 VAlC MAX相の回折ピークパターンとほぼ類似しており、且つCu単体が存在し、このことから、得た新相はCu含有のMAX相材料であり、Cuは主にMAX相のAサイトに存在した。
【0045】
実施例11
本実施例では、新規三元層状MAX相材料はTiCuCであり、前駆体材料はTiAlC、300メッシュのCuO粉1.5gであり、無機塩はNaClとKClであり、これら原料はすべて市販品として入手できる。このTiCuCの調製方法は以下のとおりである。
(1)塩化ナトリウム1.2g、塩化カリウム1.55g、TiAlC粉体6g、300メッシュのCuO粉1.5g、Al粉1.5g、300メッシュの炭素粉0.48 gを秤量し、上記材料を粉砕して混合し、混合産物を得た。
(2)混合物をコランダム製坩堝に投入して、高温管状炉に入れて、800℃で300 min保温、アルゴンガス保護の反応条件で反応させた。管状炉の温度が室温まで下がった後、坩堝内の反応産物を取り出した。
(3)脱イオン水とアルコールで反応産物を洗浄した。具体的には、反応産物をビーカーに入れて、脱イオン水を加え、撹拌しながら30分間超音波洗浄した後、1時間静置し、上清を捨てた。反応産物を3回洗浄した後、エタノールで洗浄し、45℃のオーブンに入れて、24時間後取り出して、粉体産物を得た。
図23は、調製したTiCuC MAX相材料のXRDパターンである。図23から分かるように、得た新規三元層状TiCuCMAX相材料は、そのXRDパターンが312 TiAlCMAX相のパターンとほぼ類似しており、Cu単体及びアルミナが存在し、このことから、AlとCuOの置換反応後、CuはMAX相材料に入り、最終的に得た新相はCu含有MAX相材料であり、Cuは主にMAX相のAサイトに存在した。
AサイトがCo、Ni、Fe、Mn元素である三元層状MAX相材料の実施例は、実施例12~実施例18として示された。
【0046】
実施例12
本実施例では、Aサイトが磁性元素である三元層状MAX相材料はV(SnFe1-z)C粉体材料である。前駆体はVAlCであり、Sn含有材料はSn粉であり、Fe含有材料はFe粉体であり、このV(SnFe1-z)C粉体の調製方法は以下のとおりである。
(1)塩化ナトリウム1.2g、塩化カリウム1.5g、VAlC粉体2g、300メッシュのSn粉1.3g、300メッシュの鉄粉0.56gを秤量し、上記材料を粉砕して混合し、混合物を得た。
(2)混合物をコランダム製坩堝に投入して、高温管状炉に入れて、反応温度1300℃、保温時間60min、不活性雰囲気の保護の反応条件で反応させた。管状炉の温度が室温まで下がった後、坩堝内の反応産物を取り出した。
(3)脱イオン水とアルコールで反応産物を洗浄した。具体的には、反応産物をビーカーに入れて、脱イオン水を加え、撹拌しながら30分間超音波洗浄した後、1時間静置し、上清を捨てた。反応産物を3回洗浄した後、エタノールで洗浄し、次に40℃のオーブンに入れて、12時間後取り出して、固体産物を得た。
図24は、溶融塩法により調製したV(SnFe1-z)C MAX相粉体材料の塩酸処理前後の、及び計算してシミュレーションしたVSnCのXRD図である。XRD図から分かるように、V(SnFe1-z)C相に加えて、Sn単体及びFeSn合金相があり、塩酸処理したところ、Sn単体及びFeSnはすべて除去され、残るのはV(SnFe1-z)C MAX相材料であり、標準的なVSnC XRDパターンと比較したところ、AサイトにFe元素がドーピングされると、XRD回折ピークは全体として低角度へシフトし、且つ(002)結晶面が弱まり、その原因としては、Aサイト原子の半径の大きさに差異があり、その結果、両方の格子パラメータが異なると考えられる。
図25a及び図25bはそれぞれ三元層状MAX相材料V(SnFe1-z)Cの走査型電子顕微鏡写真(SEM)及び元素分布図(EDS)である。図から分かるように、得たV(SnFe1-z)はMAX相材料の典型的な層状構造をしており、このことから、得た新材料は層状MAX相材料であった。EDSエネルギースペクトルから示すように、V:(Sn+Fe)≒2:1、且つSn:Fe≒2:1であり、このため、Aサイトの原子に対するFeの比が約1/3であると判定し、このため、た新規MAX相材料の化学式はV(Sn2/3Fe1/3)Cであった。
【0047】
実施例13
本実施例では、Aサイトが磁性元素である三元層状MAX相材料はV(SnFe1-z)C粉体材料である。
前駆体はVAlCであり、Sn含有材料はSn粉であり、Fe含有材料はFe粉体であり、このV(SnFe1-z)C粉体の調製方法は以下のとおりである。
(1)塩化ナトリウム2.4g、塩化カリウム3.1g、VAlC粉体3g、300メッシュのSn粉1.3g、300メッシュの鉄粉0.34gを秤量し、上記材料を粉砕して混合し、混合物を得た。
(2)混合物をコランダム製坩堝に投入して、高温管状炉に入れて、反応温度900℃、保温時間420min、不活性雰囲気保護の反応条件で反応させた。管状炉の温度が室温まで下がった後、坩堝内の反応産物を取り出した。
(3)脱イオン水とアルコールで反応産物を洗浄した。具体的には、反応産物をビーカーに入れて、脱イオン水を加え、撹拌しながら30分間超音波洗浄した後、1時間静置し、上清を捨てた。反応産物を3回洗浄した後、エタノールで洗浄し、次に40℃のオーブンに入れて、12時間後取り出して、固体産物を得た。
図26a及び図26bは、それぞれ各ゾーン軸に沿って観察したV(SnFe1-z)Cの高解像度透過型電子顕微鏡による形態であり、この図から明らかなように、V(SnFe1-z)Cは典型的な211 MAX相材料の層状結晶構造を有し、図中、輝度の高い層は原子番号の高いA原子層であり、その元素組成がFeとSnであり、輝度の低い層はVCであり、V(SnFe1-z)Cの格子は輝度の高いFe/Sn原子層と輝度の低いVC層を交互して積層してなることが分かった。
図27は高解像度透過型電子顕微鏡下のV(SnFe1-z)Cについてのエネルギースペクトル分析であり、エネルギースペクトル結果から明らかなように、Fe元素は主にA位置にあり、この図からより明らかなように、V(SnFe1-z)Cの格子はA層のFe/Sn原子層とVC層を交互して積層してなるものであり、そして、V:(Sn+Fe)≒2:1、且つSn:Fe≒2:1であり、走査型電子顕微鏡のエネルギースペクトル結果と一致し、このため、得た新規MAX相材料の化学式はV(Sn2/3Fe1/3)Cであった。
図28は塩酸処理後の三元層状化合物V(SnFe1-z)Cの300Kでのヒステリシスループ図である。この図から分かるように、三元層状化合物V(SnFe1-z)Cは良好な磁気応答を示し、常温でのヒステリシスループが「S」形であり、保磁力と残留磁化強度が0に近く、このことから、この材料は典型的な軟磁特性を有し、その最大飽和磁化強度が2.63emu/gであることを示した。
【0048】
実施例14
本実施例では、Aサイトが磁性元素である三元層状MAX相材料はV(SnFe1-z)Cバルク材料である。
前駆体はVAlCであり、Sn含有材料はSn粉であり、Fe含有材料はFe粉体であり、このV(SnFe1-z)Cバルク材料の調製方法は以下のとおりである。
(1)VAlC粉体3g、300メッシュのSn粉1.3g、300メッシュの鉄粉1gを秤量し、上記材料を粉砕して混合し、粉体混合物を得た。
(2)上記粉体混合物を黒鉛型に投入して、1100℃で120min保温、昇温速度100℃/min、アルゴンガス保護、圧力37MPaの焼結条件でSPSにより焼結した。反応終了後、産物を取り出した。
(3)得たバルクから表面の黒鉛紙を除去し、異なるメッシュのサンドペーパーで鏡面となるまで研磨し、100℃のオーブンに入れて、12h後取り出して、バルク材料を得た。
図29は、1000℃条件でのSPSによるXRD図であり、この図から分かるように、得た物相はV(SnFe1-z)C、C、VC及びSn単体を含み、明らかなFeSn合金相が検出されてなかった。この図から分かるように、211MAX相の特徴的なピークが現れ、Cピークは表面にある黒鉛紙が完全に研磨されていないこと、さらに、反応が不不十分であることにより、VとCは高温で大量のVCを形成するによるものである。
図30a及び図30bは、それぞれSPS焼結で得たV(SnFe1-z)C材料の走査型電子顕微鏡写真(SEM)及び元素分布図(EDS)である。この図から分かるように、得たV(Sn1-xFe)CはMAX相材料の典型的な層状構造を示し、このことから、得た新材料は層状MAX相材料であることを示した。EDSエネルギースペクトルから、V:(Sn+Fe)≒2:1、且つSn:Fe≒2:1であることを示し、したがって、Aサイトの原子に対するFeの比が約1/3であると判定し、このため、得た新規MAX相材料の化学式はV(Sn2/3Fe1/3)Cであった。
【0049】
実施例15
本実施例では、Aサイトが磁性元素である三元層状MAX相材料はV(SnFe1-z)C粉体材料である。
前駆体はVAlCであり、Sn含有材料はSn粉であり、Fe含有材料はFe粉体であり、このV(SnFe1-z)C粉体の調製方法は以下のとおりである。
(1)塩化ナトリウム2.4g、塩化カリウム3.1g、秤量VAlC粉体3g300メッシュのSn粉1.3g、300メッシュの鉄粉0.15gを秤量し、上記材料を粉砕して混合し、混合物を得た。
(2)混合物をコランダム製坩堝に投入して、高温管状炉に入れて、反応温度700℃、保温時間720min、不活性雰囲気保護の反応条件で反応させた。管状炉の温度が室温まで下がった後、坩堝内の反応産物を取り出した。
(3)脱イオン水とアルコールで反応産物を洗浄した。具体的には、反応産物をビーカーに入れて、脱イオン水を加え、撹拌しながら30分間超音波洗浄した後、1時間静置し、上清を捨てた。反応産物を3回洗浄した後、エタノールで洗浄し、80℃のオーブンに入れて、12時間後取り出して、固体産物を得た。
図31a及び図31bは、それぞれ溶融塩法による700℃での得たV(SnFe1-z)C材料の走査型電子顕微鏡写真(SEM)及び元素分布図(EDS)である。この図から分かるように、得たV(SnFe1-z)CはMAX相材料の典型的な層状構造を示し、このことから、得た新材料は層状MAX相材料であることを示した。EDSエネルギースペクトルから、V:(Sn+Fe)≒2:1、且つSn:(Fe+Sn)≒0.70であることを示し、したがって、Aサイトの原子に対するFeの比が約30%であると判定し、得た新規MAX相材料の化学式はV(Sn0.7Fe0.3)Cであった。
【0050】
実施例16
本実施例では、Aサイトが磁性元素である三元層状MAX相材料はV(SnCo1-z)C粉体材料である。
前駆体はVAlCであり、Sn含有材料はSn粉であり、Co含有材料はCo粉体であり、このV(SnCo1-z)C粉体の調製方法は以下のとおりである。
(1)粒度300メッシュのSn粉、300メッシュのコバルト粉、VAlC粉体、塩化ナトリウムを秤量し、上記材料を2:1:6:3のモル比で粉砕して混合し、混合物を得た。
(2)混合物をコランダム製坩堝に投入して、高温管状炉に入れて、反応温度1200℃、保温時間100min、不活性雰囲気保護の反応条件で反応させた。管状炉の温度が室温まで下がった後、坩堝内の反応産物を取り出した。
(3)脱イオン水とアルコールで反応産物を洗浄した。具体的には、反応産物をビーカーに入れて、脱イオン水を加え、撹拌しながら30分間超音波洗浄した後、1時間静置し、上清を捨てた。反応産物を3回洗浄した後、エタノールで洗浄し、60℃のオーブンに入れて、15時間後取り出して、固体産物を得た。
【0051】
実施例17
本実施例では、Aサイトが磁性元素である三元層状MAX相材料はV(SnNi1-z)C粉体材料である。
前駆体はVAlCであり、Sn含有材料はSn粉であり、Ni含有材料はNi粉体であり、このV(SnNi1-z)C粉体の調製方法は以下のとおりである。
(1)粒度300メッシュのSn粉、300メッシュのニッケル粉、V2AlC粉体、塩化ナトリウムを秤量し、上記材料を3:1:6:3のモル比で粉砕して混合し、混合物を得た。
(2)混合物をコランダム製坩堝に投入して、高温管状炉に入れて、反応温度1000℃、保温時間200min、不活性雰囲気保護の反応条件で反応させた。管状炉の温度が室温まで下がった後、坩堝内の反応産物を取り出した。
(3)脱イオン水とアルコールで反応産物を洗浄した。具体的には、反応産物をビーカーに入れて、脱イオン水を加え、撹拌しながら30分間超音波洗浄した後、1時間静置し、上清を捨てた。反応産物を3回洗浄した後、エタノールで洗浄し、80℃のオーブンに入れて、15時間後取り出して、固体産物を得た。
【0052】
実施例18
本実施例では、Aサイトが磁性元素である三元層状MAX相材料はV(SnMn1-z)C粉体材料である。
前駆体はVAlCであり、Sn含有材料はSn粉であり、Mn含有材料はMn粉体であり、このV(SnMn1-z)C粉体の調製方法は以下のとおりである。
(1)粒度300メッシュのSn粉、300メッシュのマンガン粉、VAlC粉体、塩化ナトリウム、塩化カリウムを秤量し、上記材料を4:1:10:3:3のモル比で粉砕して混合し、混合物を得た。
(2)混合物をコランダム製坩堝に投入して、高温管状炉に入れて、反応温度800℃、保温時間600min、不活性雰囲気保護の反応条件で反応させた。管状炉の温度が室温まで下がった後、坩堝内の反応産物を取り出した。
(3)脱イオン水とアルコールで反応産物を洗浄した。具体的には、反応産物をビーカーに入れて、脱イオン水を加え、撹拌しながら30分間超音波洗浄した後、1時間静置し、上清を捨てた。反応産物を3回洗浄した後、エタノールで洗浄し、50℃のオーブンに入れて、15時間後取り出して、固体産物を得た。
【0053】
本願の実施例16~18で得たAサイトが磁性元素である三元層状MAX相材料の性能は、実施例12~15における製品とほぼ一致した。
【0054】
さらに、本願の発明者は、前述実施例12~18における対応する原料及びプロセス条件を本明細書に記載のほかの原料及びプロセス条件に変更して、関連実験を行ったが、その結果、AサイトにZn、Cu、Mn、Fe、Co、Niなどの元素を含む三元層状MAX相材料が得られた。
【0055】
前記のとおり、従来のMAX相材料に比べて、本願の前述実施例による新規MAX相材料は、高強度、高熱伝導性、高導電性、抗酸化性、磁性、耐高温性、高損傷許容性や可加工性などの多くの利点を有し、また、調製プロセスが実施されやすく、航空宇宙用の熱構造材料、原子力エネルギー構造材料、エネルギー貯蔵、触媒、吸収材、電磁波シールド、スピン電子、磁気冷凍や磁気ストレージなどの分野において応用の将来性が期待できる。
【0056】
なお、以上は本願の実施例に過ぎず、それにより本願の特許範囲を制限するものではなく、本願の明細書及び図面の内容を利用して行われる均等な構造又は均等なプロセスの変換、若しくは、ほかの関連技術分野への直接又は間接的な適用は、すべて本願の特許する保護範囲に属する。
【0057】
(付記)
(付記1)
MAX相材料であって、
分子式がMn+1(AA’1-z(AはZn、Cu、Ni、Co、Fe又はMn元素から選ばれ、MはIIIB、IVB、VB又はVIB族元素から選ばれ、A’はIIIA、IVA、VA又はVIA元素から選ばれ、XはC及び/又はN元素から選ばれ、nは1、2、3又は4であり、0<z≦1であり、hはMn+1単位層の間にある(AA’1-z)層の原子の層数であり、且つ1、2又は3である。)として示される、
ことを特徴とするMAX相材料。
【0058】
(付記2)
六方晶系構造を有し、空間群がP63/mmcであり、単位胞がMn+1単位と(AA’1-z層の原子を交互して積層してなる、
ことを特徴とする付記1に記載の新規MAX相材料。
【0059】
(付記3)
分子式がMn+1(AA’1-z(hはMn+1単位層の間にあるAA’1-z層の原子の層数であり、単位胞がMn+1単位と(AA’1-z層の原子を交互して積層してなる。)として示される、
ことを特徴とする付記1又は2に記載のMAX相材料。
【0060】
(付記4)
MはSc、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Taのうちの任意の1種又は2種以上の組み合わせを含む、
ことを特徴とする付記1に記載のMAX相材料。
【0061】
(付記5)
XはC((x+y)=1)である、
ことを特徴とする付記1に記載のMAX相材料。
【0062】
(付記6)
前記MAX相材料の形態として、粉体、バルク又は薄膜が含まれる、
ことを特徴とする付記1に記載の新規MAX相材料。
【0063】
(付記7)
航空宇宙用の熱構造材料、原子力エネルギー構造材料、高温電極材料、摩擦・摩耗材料、エネルギー貯蔵材料、触媒材料、電磁波シールド・吸収材の調製、磁気冷凍又は磁気記憶の分野における、
付記1~6のいずれか1つに記載のMAX相材料の使用。
【0064】
(付記8)
溶融塩法及び/又は放電プラズマ焼結法を含む、
ことを特徴とする付記1~6のいずれか1つに記載のMAX相材料の調製方法。
【0065】
(付記9)
前駆体MAX相材料、A及び/又はA含有材料、無機塩を1:1.5~3:3~6のモル比で混合し、得た混合物を不活性雰囲気にて400℃~1000℃で高温反応させ、その後、後処理して、AサイトにA元素を含むMAX相材料を得るステップを含み、
前記前駆体MAX相材料の分子式は、Mm+1A’X(式中、MはIIIB、IVB、VB又はVIB族の早期遷移金属から選ばれ、A’はIIIA又はIVA族元素から選ばれ、XはC及び/又はNを含み、m=1、2又は3であり、AはZn、Cu、Ni、Co、Fe又はMn元素である。)として示される、
ことを特徴とする付記8に記載の調製方法。
【0066】
(付記10)
前記A含有材料はA含有合金、A含有酸化物及びA含有塩のうちの任意の1種又は2種以上の組み合わせを含み、及び/又は、前記A及び/又はA含有材料は、粒度500nm~50μmの粉体である、
ことを特徴とする付記9に記載の調製方法。
【0067】
(付記11)
前記後処理は、前記反応終了後、得た反応産物を脱イオン水で洗浄し、次に40~80℃で乾燥させて、MAX相材料を得ることを含む、
ことを特徴とする付記9に記載の調製方法。
【0068】
(付記12)
前記前駆体MAX相材料は、粉体、バルク、薄膜のうちの任意の1種又は2種以上の組み合わせであり、及び/又は、前記前駆体MAX相材料は、TiAlC、TiSiC、TiAlC、TiAlN、TiAlN、TiGaC、VAlC、VGaC、CrGaN、CrAlC、ScAlC、ZrAlC、ZrSnC、NbAlC、NbAlC、MoAlC、MoGaN、HfAlC、HfAlN、TaAlC、TaAlCのうちの任意の1種又は2種以上の組み合わせを含む、
ことを特徴とする付記9~11のいずれか1つに記載の調製方法。
図1
図2
図3a
図3b
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15a
図15b
図16
図17a
図17b
図18
図19
図20
図21a
図21b
図22
図23
図24
図25a
図25b
図26a
図26b
図27
図28
図29
図30a
図30b
図31a
図31b