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特許7030424圧縮着火エンジンに動力供給する燃料およびプロセス
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-25
(45)【発行日】2022-03-07
(54)【発明の名称】圧縮着火エンジンに動力供給する燃料およびプロセス
(51)【国際特許分類】
   F02D 19/08 20060101AFI20220228BHJP
   F02B 47/04 20060101ALI20220228BHJP
   F02B 49/00 20060101ALI20220228BHJP
   F02D 19/12 20060101ALI20220228BHJP
【FI】
F02D19/08 D
F02B47/04
F02B49/00
F02D19/12 A
F02D19/12 Z
【請求項の数】 17
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2017097378
(22)【出願日】2017-05-16
(62)【分割の表示】P 2013540180の分割
【原出願日】2011-11-25
(65)【公開番号】P2017141842
(43)【公開日】2017-08-17
【審査請求日】2017-06-15
【審判番号】
【審判請求日】2019-10-24
(31)【優先権主張番号】2010905225
(32)【優先日】2010-11-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(31)【優先権主張番号】2010905226
(32)【優先日】2010-11-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(73)【特許権者】
【識別番号】513131198
【氏名又は名称】ガーン・エナジー・アンド・リソーシズ・ピーティーワイ・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】グレッグ・モリス
(72)【発明者】
【氏名】マイケル・ジョン・ブレアー
(72)【発明者】
【氏名】ロナルド・アンドリュー・スロコンブ
【合議体】
【審判長】山本 信平
【審判官】佐々木 正章
【審判官】鈴木 充
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第101113372(CN,A)
【文献】特開2002-30937(JP,A)
【文献】特表2003-504546(JP,A)
【文献】特開2001-129373(JP,A)
【文献】特開昭55-157684(JP,A)
【文献】特開平9-194857(JP,A)
【文献】特開2002-309273(JP,A)
【文献】特開平10-88156(JP,A)
【文献】特開平4-232367(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第101434874(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第1837333(CN,A)
【文献】特開平7-126665(JP,A)
【文献】特開昭64-29495(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 19/08 19/12
F02B 47/04 49/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮着火エンジンで使用され、着火促進剤前記圧縮着火エンジンの空気吸入内へ噴射される圧縮着火エンジン燃料であって、
前記圧縮着火エンジン燃料は、前記圧縮着火エンジン燃料の少なくとも20重量%のメタノールと、前記圧縮着火エンジン燃料の5重量%から15重量%の水と、前記圧縮着火エンジン燃料の0重量%~重量%のジメチルエーテルと、ジメチルエーテルではない着火改善剤、ジメチルエーテルではない燃料増量剤、燃焼促進剤、酸素吸収油、潤滑添加物、生成物着色添加物、炎色添加物、耐食添加物、殺生物剤、凝固点降下剤、堆積物還元剤、変性剤、および、pH制御剤からなる群から選択される1つまたは複数の添加物と、を含み、前記圧縮着火エンジン燃料の全成分の量は合計100%である、圧縮着火エンジン燃料。
【請求項2】
前記1つまたは複数の添加物が、燃焼促進剤、酸素吸収油、潤滑添加物、生成物着色添加物、炎色添加物、耐食添加物、殺生物剤、凝固点降下剤、堆積物還元剤、変性剤、および、pH制御剤からなる群から選択される、請求項1に記載の圧縮着火エンジン燃料。
【請求項3】
前記圧縮着火エンジン燃料は、前記圧縮着火エンジン燃料の0.5重量%~重量%のジメチルエーテルを含む、請求項1または2に記載の圧縮着火エンジン燃料。
【請求項4】
前記圧縮着火エンジン燃料は、前記圧縮着火エンジン燃料の6重量%より多い水を備える、請求項1~3のいずれか一項に記載の圧縮着火エンジン燃料。
【請求項5】
前記圧縮着火エンジン燃料は、粗メタノールを備える、請求項1~4のいずれか一項に記載の圧縮着火エンジン燃料。
【請求項6】
前記添加物は、前記圧縮着火エンジン燃料の1重量%までの生成物着色添加物と、前記圧縮着火エンジン燃料の1重量%までの炎色添加物とを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の圧縮着火エンジン燃料。
【請求項7】
エンジンの空気吸入への着火促進剤の噴射を伴う圧縮着火エンジンにおける、請求項1~6のいずれか一項に記載の圧縮着火エンジン燃料の使用。
【請求項8】
エンジンの空気吸入への着火促進剤の噴射を伴う圧縮着火エンジンの動作に使用するための2液性燃料であって、燃料組成物が、
- 請求項1~6のいずれか一項に記載された圧縮着火エンジン燃料の組成物からなる主燃料組成物と、
- 着火促進剤を含む2次燃料と、
を含む2液性燃料。
【請求項9】
前記主燃料組成物が前記圧縮着火エンジンの燃焼室内へ導入され、前記2次燃料が前記圧縮着火エンジンの前記空気吸入内へ噴射される、圧縮着火エンジンにおける請求項8に記載の2液性燃料の使用。
【請求項10】
圧縮着火エンジンを動作する方法であって、
請求項1~6のいずれか一項に記載された圧縮着火エンジン燃料の組成物を有するメタノール-水燃料を前記圧縮着火エンジンに供給するステップと、
前記圧縮着火エンジンの吸気流を予熱し、かつ/または着火促進剤を前記吸気流に噴射するステップと、
エンジン排気を処理して前記圧縮着火エンジンから排熱および/または水を回収するステップと、
さらなる使用のために前記排熱および/または水を再誘導するステップと
を含む、圧縮着火エンジンを動作する方法。
【請求項11】
前記排熱および/または水を前記圧縮着火エンジン内へ再循環するステップを含む、請求項10に記載の圧縮着火エンジンを動作する方法。
【請求項12】
前記圧縮着火エンジンは船舶に動力供給するように適合され、
前記方法は、脱塩器内で排気ガスを処理して熱および水を回収し、前記圧縮着火エンジン内へ再循環させ、かつ/または前記船舶上で使用するために再誘導するステップを含む、請求項10に記載の圧縮着火エンジンを動作する方法。
【請求項13】
混合器内でエンジン排気ガスと水を混合して、前記エンジン排気ガスを冷却し、排気ガス凝縮物から水を回収するステップを含む、請求項10に記載の圧縮着火エンジンを動作する方法。
【請求項14】
排気ガス凝縮器内で排気ガスから水を回収するステップを含む、請求項10に記載の圧縮着火エンジンを動作する方法。
【請求項15】
さらに、メタノールとジメチルエーテルを備えているプレ燃料組成物を提供し、前記プレ燃料組成物の前記メタノールから前記ジメチルエーテルを分離し、前記ジメチルエーテルを着火促進剤として使用する、請求項10~14のいずれか一項に記載の圧縮着火エンジンを動作する方法。
【請求項16】
前記プレ燃料組成物が7~10%のジメチルエーテルを含む、請求項15に記載の圧縮着火エンジンを動作する方法。
【請求項17】
前記吸気流を150℃~300℃に予熱するステップを含む、請求項10~16のいずれか一項に記載の圧縮着火エンジンを動作する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧縮着火型の内燃機関に動力供給するための燃料およびプロセスに関する。
【0002】
本出願は、豪州特許出願第2010905226号および第2010905225号からの優先権を主張するものである。本出願はまた、共通の優先権主張日に同じ出願人によって出願された「Process for powering a compression ignition engine and fuel therefor」という名称の国際特許出願に関する。関連国際特許出願の明細書は、参照により本明細書に組み込まれている。
【背景技術】
【0003】
従来の化石燃料に対する代替燃料に対する追求は、「クリーン」な排出燃料に対する必要と、それに加えて低い生産コストおよび広い利用可能性に対する必要とによって主に動かされている。燃料排出の環境的な影響は、大いに注目されている。代替燃料の研究では、燃料の燃焼によって生じる粒子状物質および酸化物の量を低減させる燃料、ならびに不燃焼性燃料およびCO2排出ならびに他の燃焼生成物を低減させる燃料に焦点が当てられている。
【0004】
輸送の適用分野向けの環境に優しい燃料組成物に対する取組みでは、エタノールに焦点が当てられてきた。有機植物などの生体材料をエタノールに変換することができ、そのようなプロセスによって作られたエタノールは、火花着火エンジン向けの燃料に対する部分的な代用品として使用されてきた。これにより燃料に対する再生不可能な資源への依存が低減する一方で、エンジンにおけるこれらの燃料の使用に起因する環境的な結果は、全体的にはあまり改善されず、よりクリーンな燃焼は、より効率の低い火花着火エンジンにおいてそのような燃料の使用を継続することによって相殺され、燃料を作るためのエネルギー、適耕地、肥料、および潅漑用水の使用に関連して、環境上の悪影響を与える。
【0005】
従来の燃料に完全または部分的に取って代わる他の代替燃料は、広く使用されていない。
【0006】
従来の燃料、特に圧縮着火エンジン向けの燃料(ディーゼル燃料)を再生可能な代替燃料に完全に取って代えることに伴う1つの主な欠点は、そのような燃料のセタン指数が低いことに関連する周知の問題に関する。そのような燃料は、エンジンの効率的な動作に必要な方法で着火を実現する上で問題がある。
【0007】
本出願人らはまた、一部の遠隔の地域または環境では、水は希少な資源であり、そのような地域では、発電(ディーゼルエンジン発電などによる)に加えて、水を副生成物として捕獲して地域社会で再利用することに対する需要が存在する可能性があると認識してきた。さらに、液体のパイプラインを介してバルクエネルギーを動かすことは、頭上の送電線と比較すると、最小の景観的な影響で長距離にわたって大量のエネルギーを動かすための長期間継続できる費用効果の高い技法である。
【0008】
本出願人らはまた、一部の地域で、そのような工業プロセスにおいて生成される熱を捕獲して地域社会で再利用する必要を認識してきた。場合によっては、この必要に加えて、上記のように水を捕獲して再利用することが必要とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
要約すると、内燃機関で使用するための代替燃料が引き続き必要とされている。特に燃料効率および/またはエンジン性能に大きな悪影響を与えることなく改善された排出プロファイルが得られる場合、排出を低減できる燃料は重要である。圧縮着火エンジンに動力供給する方法も必要とされており、その方法では、従来はそのような適用分野での使用に適さないと考えられてきた成分を含有するディーゼル代替燃料でそのようなエンジンを走らせることができる。遠隔地、または環境的な影響を受けやすい環境(排出に関して特に港湾地域内の高緯度の海洋環境など)、もしくはたとえば熱および水の副生成物を含むエンジン動作のすべての副生成物を最大に使用できる乾燥しているが寒冷な内陸の遠隔地域などの他の地域での使用に適したディーゼルエンジン燃料およびエンジン動作方法が、さらに必要とされている。これらの目的は、燃料効率およびエンジン性能の不利益を可能な限り少なくして対処されることが好ましい。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、メタノールおよび水を含む主燃料を使用する圧縮着火エンジンに動力供給するプロセスが提供され、このプロセスは、
着火促進剤を含む燻蒸剤で吸気流を燻蒸するステップと、
燻蒸した吸気をエンジン内の燃焼室内へ導入し、吸気を圧縮するステップと、
主燃料を燃焼室内へ導入するステップと、
主燃料/空気混合物に着火し、それによってエンジンを駆動させるステップとを含む。
【0011】
本発明によれば、圧縮着火エンジンで使用され、着火促進剤を含む燻蒸剤でエンジンの空気吸入内へ燻蒸されるディーゼルエンジン燃料も提供され、この燃料は、メタノールと、水と、着火改善剤、燃料増量剤、燃焼促進剤、酸素吸収油、潤滑添加物、生成物着色添加物、炎色添加物、耐食添加物、殺生物剤、凝固点降下剤、堆積物還元剤、変性剤、pH制御剤、およびこれらの混合物からなる群から選択される1つまたは複数の添加物とを含む。
【0012】
本発明は、本明細書に記載の方法による燃料中へそのような成分の混合物を受け入れることで、高純度の成分および副生成物の成分を作る必要をなくすことによって、燃料製造の簡略化および低コスト化、ならびに環境影響の低減をもたらすことができる。この燃料の氷点は起こりうるあらゆる低温環境に容易に適合できるため、コストおよび環境上の利益はまた、寒冷地での燃料の使用からも得ることができる。
【0013】
燃料の燃焼から生じる排気はわずかな不純物しか含有せず、後処理にとって理想的である。一例として、CO2を再びメタノールに変換して、温室効果ガスCO2を直接低減させることができ、またはメタノールの製造を含む複数の最終用途向けの藻類などの有機物の成長に高純度のCO2を使用して、太陽電池を含む再生可能源を含むことができるエネルギー源を利用することもできる。
【0014】
いくつかの実施形態では、燃料の燃焼中に生成される水を回収することができ、これは、水が不足している遠隔地域にとって大きな利点である。他の場合、ディーゼルエンジンの動作で生成される熱を地域の暖房需要に利用することができる。したがって、いくつかの実施形態は、エンジンの水および/または熱出力を適宜利用するディーゼルエンジンの動作による発電システムを提供する。
【0015】
一態様によれば、圧縮着火エンジンへ燃料を供給する方法が提供され、この方法は、
- メタノールおよび水を含む主燃料組成物を、圧縮着火エンジンの燃焼室に流動的に連通している第1の槽へ供給するステップと、
- 着火促進剤を含む2次燃料成分を、圧縮着火エンジンの空気吸入に流動的に連通している第2の槽へ供給するステップとを含む。
【0016】
別の態様によれば、
メタノール-水燃料を発電に使用する圧縮着火エンジンに動力供給するステップと、
圧縮着火エンジンの吸気流を予熱し、かつ/または着火促進剤で吸気流を燻蒸するステップと、
エンジン排気を処理してエンジンから排熱および/または水を回収するステップと、
さらなる使用のために熱および/または水を再誘導するステップとを含む発電システムが提供される。
【0017】
さらなる態様によれば、メタノールおよびエーテルを含む2液性のプレ燃料組成物を輸送する方法が提供され、この方法は、プレ燃料を第1の位置から、第1の位置から離れた第2の位置へ輸送するステップと、メタノールからエーテルを分離して、メタノールを含む第1の燃料部分およびエーテルを含む第2の燃料部分を得るステップとを含む。
【0018】
さらなる態様によれば、メタノールおよび10重量%以下のエーテルを含むプレ燃料組成物も提供される。
【0019】
本発明の実施形態について、添付の図面を参照して例として次に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の一実施形態による圧縮着火エンジンに動力供給するプロセスを示す流れ図である。
図2】着火促進剤としてエンジン内へ燻蒸されるジメチルエーテル(DME)の重量%(主燃料の重量と比較)と、圧縮主燃料/燻蒸剤/空気混合物の温度変化との関係を、3つの主燃料組成物(100%メタノール、70%メタノール:30%水、および40%メタノール:60%水)に関して示すグラフである。このグラフは、他の着火促進技法がない状況に関する。
図3A】圧縮着火エンジンに動力供給してエンジン排気を処理するプロセスを示し、廃熱が温水ループを通じて別個の加熱源として使用される流れ図である。
図3B図3Aに類似しているが、エンジンに吸気を燻蒸するステップを除いた流れ図である。
図4A図3Aおよび図3Bの排気処理の流れ図をより詳細に示す図である。
図4B図4Aに類似しているが、最終の排気交換凝縮器のない図である。
図5A】圧縮着火エンジンに動力供給して鉄道車両を駆動し、エンジン排気を処理するプロセスを示す流れ図である。
図5B図5Aに類似しているが、エンジンに吸気を燻蒸するステップを除いた流れ図である。
図6A】圧縮着火エンジンに動力供給して船舶を駆動し、エンジン排気を処理するプロセスを示す流れ図である。
図6B図6Aに類似しているが、エンジンに吸気を燻蒸するステップを除いた流れ図である。
図7】様々な量の水、メタノール、DME、およびDEEを液相で含有する主燃料を使用し、DMEの燻蒸を伴う圧縮着火エンジンの正味熱効率を示すグラフである。
図8】様々な量のエーテルを着火促進剤として含有する主燃料を使用し、DMEを燻蒸剤として利用する圧縮着火エンジンの正味熱効率を示すグラフである。
図9】様々な量の水を含有する主燃料を使用し、DMEを燻蒸剤として利用する圧縮着火エンジンのNO排気出力を示すグラフである。
図10】実施例1の結果を得る際に使用した試験設備のプロセスおよび計器類の概略図である。
図11】メタノール-水燃料中の水の量を増大させることによって圧縮着火エンジンのNO排気出力を低減させることを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本明細書に記載の燃料およびプロセスは、圧縮着火(CI)エンジンに動力供給するのに適している。特に、燃料およびプロセスは、それだけに限定されるものではないが、1000rpm以下などの低速で動作するCIエンジンに最も適している。エンジンの速度は、さらに800rpm以下、たとえば500rpm以下とすることができる。エンジンの速度は、さらに300rpm以下、たとえば150rpm以下とすることもできる。したがって、この燃料は、船および列車上ならびに発電設備内で動作するエンジンなど、より大型のディーゼルエンジンに適している。より大型のCIエンジン内で速度がより遅いことで、選択された燃料組成物の燃焼を完了させ、十分に高い割合の燃料を蒸発させて効率的な動作を実現するのに十分な時間が得られる。
【0022】
しかし、本明細書に記載の燃料およびプロセスは、より高速で動作するより小型のCIエンジンでも動作できることが理解される。実際には、2000rpmおよび1000rpmで動作する小型のCIエンジン上で予備の試験作業を行い、この燃料でそのようなより高速のエンジンに動力供給することも可能であることを実証した。場合によっては、調整を加えることで、より小型(より高いrpm)のCIエンジンにおける燃料およびプロセスの使用を助けることができ、これらの一部について以下に詳述する。
【0023】
燃料組成物
このプロセスのための主燃料を形成する燃料組成物は、メタノールおよび水を含む。燃料は圧縮着火エンジン燃料、すなわちディーゼルエンジン燃料である。
【0024】
現在まで、圧縮着火エンジンではメタノールの商業的な応用は見られなかった。純粋であるか、それとも混合しているかにかかわらず、メタノールをエンジン燃料として使用することに伴う欠点は、そのセタン指数が3~5の範囲内と低いことによって強調される。このようにセタン指数が低いため、メタノールをCIエンジン内で着火するのは困難である。水とメタノールを混合すると、燃料のセタン指数はさらに低減し、メタノール/水の混合燃料の燃焼はさらに困難になり、したがって、CIエンジン内で使用するために水とメタノールを組み合わせるのは反直感的であると考えられたはずである。燃料噴射後の水の影響は、水が加熱されて気化するときの冷却であり、有効セタンをさらに下げる。
【0025】
しかし、エンジンが着火促進剤を含む燻蒸剤で燻蒸される場合、メタノール-水燃料の組合せを圧縮着火エンジン内で効率的に使用することができ、排気物質がよりクリーンになることが分かった。以下で詳述するさらなる要因もまた、この燃料によるCIエンジンの効果的な動作を最大にすることに寄与する。
【0026】
メタノールについては、燃料組成物中での使用について以前から記載されているが、この燃料を燃やして熱を生成する暖房または調理用燃料としてしか記載されてこなかった。ディーゼルエンジン燃料に該当する原理は、燃料が圧縮着火エンジンにおいて圧縮下で着火されなければならないために大きく異なる。調理/暖房用燃料におけるメタノールおよび他の成分の使用に関する文献からは、あるとしてもほとんど収集することができない。
【0027】
主燃料は、均質の燃料または単相の燃料とすることができる。この燃料は通常、別個の有機相と水性相がともに乳化された乳剤の燃料ではない。したがって、燃料は、乳化剤を含まないものとすることができる。燃料中の添加物成分の調整は、メタノールと水の両方の2重溶解特性によって助けられ、それによって、利用できる様々な水とメタノールの比および濃度にわたってより広い範囲の材料の溶解が可能になる。
【0028】
本明細書で参照するすべての量は、別段の指定がない限り、重量により参照している。主燃料組成物中のある成分の割合について説明する場合、これは、全主燃料組成物の重量によってその成分の割合を参照するものである。
【0029】
広義では、主燃料組成物中の水とメタノールの相対量は、重量で0.2:99.8~80:20の範囲とすることができる。いくつかの実施形態によれば、最小の水レベル(メタノールに対する)は1:99であり、たとえば最小比は2:98、3:97、5:95、7:93、10:90、15:95、19:81、21:79などである。いくつかの実施形態によれば、組成物中の水の上限(メタノールに対する)は80:20であり、たとえば75:25、70:30、60:40、50:50、または40:60などである。組成物中の水の相対量は、「低~中の水」のレベル範囲または「中~高の水」のレベル範囲内と見なすことができる。「低~中の水」のレベル範囲は、上記の最小レベルのいずれかから最大でも18:82、20:80、25:75、30:70、40:60、50:50、または60:40までの範囲に及ぶ。「中~高の水」のレベル範囲は、20:80、21:79、25:75、30:70、40:60、50:50、56:44、または60:40から最大でも上記の上限のうちの1つまでの範囲に及ぶ。典型的な低/中の水レベル範囲は2:98~50:50であり、典型的な中/高の水レベル範囲は50:50~80:20である。典型的な低い水レベル範囲は、5:95~35:65である。典型的な中レベルの水範囲は、35:65~55:45である。典型的な高い水レベル範囲は、55:45~80:20である。
【0030】
全主燃料組成物中の水の重量による割合に関して考えると、主燃料組成物中の水の相対量は、最小でも0.2重量%、または0.5重量%、または1重量%、または3重量%、または5重量%、10重量%、12重量%、15重量%、20重量%または22重量%とすることができる。全主燃料組成物中の水の最大量は、68重量%、60重量%、55重量%、50重量%、40重量%、35重量%、32重量%、30重量%、25重量%、23重量%、20重量%、15重量%、または10重量%とすることができる。最小レベルを最大の水レベルより低くするという要件を除いて、最小レベルはいずれも、限定なく最大レベルと組み合わせることができる。
【0031】
実施例で報告される試験結果に基づいて、所望の正味熱効率(BTE)に対して、いくつかの実施形態における燃料組成物中の水の量は0.2重量%~32重量%である。メタノール-水圧縮着火エンジン燃料に対する正味熱効率のピークの最適の区間は、主燃料組成物中に12重量%~23重量%の水が含まれる範囲である。この範囲は、これらの2つのより広い範囲からより狭い範囲へ徐々に狭めることができる。いくつかの実施形態では、これは、主燃料組成物の15重量%以下である主燃料組成物中の着火促進剤の量と組み合わされる。着火促進剤の詳細については、後述する。
【0032】
実施例で報告される他の試験結果に基づいて、NOx排出の低減を最大にする場合、いくつかの実施形態における燃料組成物中の水の量は22重量%~68重量%である。NOx排出の最大の低減に対する最適の区間は、主燃料組成物に30重量%~60重量%の水が含まれる範囲である。この範囲は、これらの2つのより広い範囲からより狭い範囲へ徐々に狭めることができる。NOはNOx排出の主成分であるため、NO排出は、NOx排出の全範囲のうちのより大きい割合として、またはNOx排出の全範囲を示すものとして参照することができる。
【0033】
いくつかの実施形態では、燃料特性および排出の所望の残りとして、主燃料組成物は、5%~25%の水、5%~22%の水など、主燃料組成物の5重量%~40重量%の水を含む。これらのレベルは、実施例で報告される試験結果の組合せに基づく。
【0034】
メタノール/水の主燃料組成物および燻蒸を伴うが、空気吸入の予熱または送風などの他の着火促進技法を伴わない圧縮着火エンジンの動作の場合、燃料中の含水率は、低レベルから中レベル、好ましくは低い水レベルとすることができる。水レベルがより高い場合、プロセスは通常、吸気および/または主燃料の予熱から利益を得て、主燃料組成物中の水レベルの増大による冷却作用の増大を克服する。予熱は、以下でさらに詳細に論じる様々な技法によって実現することができる。
【0035】
全主燃料組成物中のメタノールの量は、燃料組成物の少なくとも20重量%であることが好ましい。いくつかの実施形態によれば、燃料組成物中のメタノールの量は、燃料組成物の少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、または少なくとも70%である。全主燃料組成物中の水の量は、少なくとも0.2%、少なくとも0.5%、少なくとも1%、少なくとも2%、少なくとも3%、少なくとも4%、少なくとも5%、少なくとも6%、少なくとも7%、少なくとも8%、少なくとも9%、少なくとも10%、少なくとも11%、少なくとも12%、少なくとも13%、少なくとも14%、少なくとも15%、少なくとも16%、少なくとも17%、少なくとも18%、少なくとも19%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、および少なくとも70%とすることができる。主燃料組成物中の水の重量が増大すると、燻蒸剤による吸気の燻蒸により、着火に関して燃料中に水が存在することの不利益が克服され、IMEPのCOVおよび正味動力出力の生成に関して動作が平滑になることは、ますます驚くべきことである。
【0036】
全主燃料組成物中のメタノールおよび水の合計量は、燃料組成物の少なくとも75重量%、たとえば少なくとも80重量%、少なくとも85重量%、または少なくとも90重量%などとすることができる。主燃料組成物は、主燃料組成物の25重量%以下または20重量%以下または15重量%以下または10重量%以下の合計量で、1つまたは複数の添加物を含むことができる。いくつかの実施形態では、添加物の全レベルまたは合計レベルは、主燃料組成物の5%以下である。
【0037】
主燃料組成物の生成で使用するためのメタノールは、任意の供給源から得ることができる。一例として、メタノールは、製造もしくは廃棄メタノール、または粗もしくは半精製メタノール、または未精製メタノールとすることができる。粗または廃棄または半精製メタノールは通常、主にメタノールを含有することができ、残りは水であり、メタノール製造の正常な過程では、高級アルコール、アルデヒド、ケトン、または他の炭素、水素、および酸素分子が生じる。廃棄メタノールは、汚染の程度およびタイプに応じて、適していることも適していないこともある。メタノールと水の比または燃料組成物中のメタノールの重量による量に関する上項での参照は、メタノール源中のメタノール自体の量を指す。したがって、メタノール源が90%のメタノールおよび他の成分を含有する粗製メタノールであり、燃料組成物中のこの粗製メタノールの量が50%である場合、メタノールの実際の量は、45%のメタノールと見なされる。燃料組成物中の水の量を判定するときには、メタノール源内の水成分が考慮され、生成物内の成分の相対量を評価するときは、別段の指定がない限り、他の不純物は添加物として処理される。粗製メタノール中に存在しうる高級アルコール、アルデヒド、およびケトンは、可溶性の燃料増量添加物として機能することができる。
【0038】
いくつかの実施形態によれば、主燃料は粗製メタノールを含む。「粗製メタノール」という用語は、メタノール、水、およびおそらく35%以下の水以外の不純物を含有するメタノール源などの低純度のメタノール源を包含する。粗製メタノールのメタノール含有率は、95%以下とすることができる。粗製メタノールは、さらなる精製を行わなくても燃料中で直接使用することができる。典型的な水以外の不純物には、高級アルコール、アルデヒド、ケトンが含まれる。「粗製メタノール」という用語は、廃棄メタノール、粗メタノール、および半精製メタノールを含む。この実施形態では、高価な精製を行わなくても、より高いレベルの不純物を含有する粗製メタノールをCIエンジン向けの燃料中で直接使用できることが特に有利である。この場合、添加物(すなわち、水を除く粗製メタノールの不純物および他の燃料組成物の添加物)レベルは、主燃料組成物(粗製メタノール内の不純物を含む)の60%以下とすることができる。高純度のメタノール(98%以上の純粋なメタノールなど)を供給源として使用する主燃料組成物の場合、全添加物レベルをより低くすることができ、たとえば25%以下、20%以下、15%以下、または10%以下などにすることができる。
【0039】
適した品質の任意の水を、主燃料組成物の生成のための水源として使用することができる。水源は、未蒸留の粗メタノールの一部として含まれる水、または再循環水、あるいは粗製もしくは汚染水(たとえば、塩を含有する海水)を、逆浸透によって精製し、活性炭素などの活性物質、またはさらなる化学処理、脱イオン、蒸留、もしくは気化技法によって精製したものとすることができる。水は、これらの供給源の組合せから得ることができる。一例として、水源は、燃焼着火エンジンの水が豊富な排気から回収した水とすることができる。この水は、熱交換器および噴霧チャンバまたは他の類似の動作を介して回収することができる。この回収および再利用技法により、排気物質を浄化することができる。この場合、水は、何らかの燃え残った燃料が捕獲されたかどうかにかかわらず、再びエンジンへ再循環される。炭化水素もしくは粒子または他の燃焼生成物は、ループ燃焼ステップを介してエンジンへ戻され、消滅するまで再循環され、または知られている精製手段によって処理される。いくつかの実施形態では、水は、海水などの塩水から塩を除去するように精製したものとすることができる。この実施形態は、船舶のCIエンジンなどの洋上での適用、または遠隔の島におけるCIエンジンの動作に適している。
【0040】
水質は、エンジン内への噴射の時点までの供給網における腐食およびエンジン堆積特性に影響を与え、これらの状況では、耐食添加物による主燃料の適した処理または他の方法が必要とされることがある。
【0041】
ベース燃料中に含まれる添加物の量は、燃料に水(たとえば)を加えることによって生じるあらゆる下流の希釈作用を考慮することができる。
【0042】
主燃料組成物中に存在できる添加物は、排他的ではないが、以下の1つまたは複数の種類から選択することができる。
【0043】
1.着火改善添加物。これらを着火促進剤と呼ぶこともできる。着火改善剤は、燃焼の開始を促進する成分である。このタイプの分子は、本質的に不安定であり、この不安定性は「自己始動」反応を招き、主燃料成分(たとえば、メタノール)を燃焼させる。着火改善剤は、エーテル(ジメチルエーテルなどのC1~C6のエーテルを含む)、硝酸アルキル、過酸化アルキル、揮発性炭化水素、含酸素炭化水素、およびこれらの混合物など、着火促進特性を有することで当技術分野では周知の材料から選択することができる。
【0044】
典型的な着火促進剤に加えて、液体燃料成分の蒸発から着火までの間に燃焼区間内に存在する微細に分散した炭水化物粒子は、着火促進剤としての機能を果たすことも果たさないこともあるが、存在するそのような種は、全空気/燃料混合物のより完全かつ急速な燃焼に寄与することができる。
【0045】
主燃料にはさらなる着火改善剤を組み込むことができるが、本明細書に記載の技法は、そのような追加を行わなくても、エンジン動作範囲全体にわたって着火を容易にする。したがって、いくつかの実施形態によれば、主燃料は着火改善添加物を含まない。他の実施形態では、主燃料はDMEを含まない(ただし、他の着火改善剤を含有することもある)。着火改善剤としてジメチルエーテルを含む場合、いくつかの実施形態によれば、燃料組成物中には20%未満、15%未満、10%未満、5%未満、3%未満、1%未満、または0%のジメチルエーテルが存在する。いくつかの実施形態では、主燃料組成物中のエーテル(ジメチルまたはジエチルエーテルなどの任意のタイプ)の量は、20%未満、15%未満、10%未満、5%未満である。
【0046】
いくつかの実施形態では、主燃料組成物中に存在する着火促進剤の少なくとも80%は、1つまたは多くても2つの特有の化学物質によって提供され、その例はジメチルエーテルおよびジエチルエーテルである。一実施形態では、主燃料組成物中には単一の化学的同一性の着火促進剤が存在する。一実施形態では、主燃料組成物中の着火促進剤の少なくとも80%は、単一の化学的同一性の着火促進剤によって構成される。いずれの場合も、着火促進剤を構成する単一の着火促進剤、または80%を超える着火促進剤成分を、ジメチルエーテルとすることができる。他の実施形態では、着火促進剤は、3つ以上の着火促進剤の混合物を含む。
【0047】
いくつかの実施形態では、主燃料組成物中の着火促進剤の量は、燃料組成物の20%以下であり、たとえば10%以下または5%以下などである。
【0048】
2.燃料増量剤。燃料増量剤は、エンジンを駆動するための熱エネルギーを提供する材料である。燃料増量剤として使用される材料は、燃料組成物中に含む主な目的として、この目的を有することができ、または添加物材料は、この機能とともに別の機能も提供することができる。
【0049】
そのような燃料増量剤の例は、次の通りである。
【0050】
a)炭水化物。炭水化物は、糖およびデンプンを含む。炭水化物は、燃料増量剤の目的で含むことができるが、着火改善剤および/または燃焼改善剤として機能することもできる。炭水化物は、水/メタノールに対して可溶性であることが好ましく、たとえば、水レベルが高ければ高いほど、主燃料中の糖の溶解はより大きくなる。水の豊富な(単一相)主燃料組成物は、糖などの炭水化物を溶解させることができるが、燃料組成物中の液体の溶剤(水/メタノール)がエンジン内で気化すると、炭水化物の溶質が、低LEL(爆発下限)組成物の超微細な表面積の大きい懸濁粒子を形成することができ、これらの粒子は、エンジン条件下で分解/反応して、主燃料混合物の着火性を改善することができる。混合物の可燃性の改善を実現するために、この炭水化物添加物の量は、少なくとも1%、好ましくは少なくとも1.5%、およびより好ましくは少なくとも5%であることが好ましい。
【0051】
b)可溶性の燃料増量添加物。燃料増量添加物は、可燃材料である。これらの添加物は、別個の成分として添加することができ、または主燃料組成物を生成するために使用される未蒸留メタノールの一部とすることができる。そのような添加物には、C2~C8のアルコール、エーテル、ケトン、アルデヒド、脂肪酸エステル、およびこれらの混合物が含まれる。脂肪酸メチルエステルなどの脂肪酸エステルは、生物燃料に由来することができる。これらは、任意の生物燃料源またはプロセスを通じて供給することができる。これらを生成するための典型的なプロセスは、とりわけ菜種油、パーム油、または大豆油などの植物油のエステル交換を伴う。
【0052】
主燃料組成物自体の中の燃料増量剤のレベルは、そのような添加物を地域で生成または成長させて消費できる特定の市場では経済的に増大できる可能性もあり、基礎燃料および/または添加物の輸入の必要を低減させることができる。そのような条件では、主燃料組成物の30%以下または40%以下または50%以下の量または処理率が好ましいが、特にメタノール源が粗製メタノールである場合、そのような燃料増量添加物を含む全添加物の60%以下の濃度を考慮することができる。
【0053】
3.燃焼促進剤。これらは燃焼改善剤と呼ぶこともできる。燃焼促進剤の一例は、硝酸アンモニウム化合物、たとえば硝酸アンモニウムである。硝酸アンモニウムは、200℃で、以下の反応に従って分解されて亜酸化窒素になる。
NH4NO3=N2O+2H2O
形成された亜酸化窒素は、酸素の場合と同様に、水の存在下で燃料と反応する。たとえば以下の通りである。
CH3OH+H2O=3H2+CO2
H2+N2O=H2O+N2
CH3OH+3N2O=3N2+CO2+2H2O
使用できる他の硝酸アンモニウム化合物には、例としてエチル硝酸アンモニウムおよびトリエチル硝酸アンモニウムが含まれるが、これらの硝酸もまた、燃料中の主な機能が着火促進であるため、燃焼促進剤ではなく着火促進剤(セタン)と見なすことができる。
【0054】
他の燃焼改善剤は、金属種またはイオン種を含むことができ、イオン種は、燃焼前または燃焼後の環境下で解離によって形成される。
【0055】
4.酸素吸収油。酸素吸収油は、水メタノール混合物中で可溶性を有するものであることが好ましい。酸素吸収油は、低い自己着火点を有し、また、たとえば油の30重量%の量で燃焼前に酸素を直接吸収する能力を有する。こうして周囲の水の蒸発後に高温の気相から油/固相へ酸素を急速に凝縮させることで、油粒子をより急速に加熱し、周囲の気化および過熱したメタノールを着火させる。この役割に理論上適している油は、主燃料混合物中で約1~5%の濃度の亜麻仁油である。この添加物が主燃料組成物中で利用される場合、燃料混合物は、酸素による油の分解を最小にするために、不活性ガスブランケット下で貯蔵するべきである。亜麻仁油は、脂肪酸含有油である。亜麻仁油の代わりに、または亜麻仁油に加えて、他の脂肪酸含有油を使用することもできる。好ましい油は、均質な単相の組成物を生成するために、メタノール相で溶解するもの、またはメタノール中に混和できるものである。しかし、いくつかの実施形態では、特に燃料組成物中に乳化添加物も存在する場合、水/メタノールに混和しない油を使用することもできる。
【0056】
5.潤滑添加物。潤滑添加物の例には、主燃料組成物が主成分とする水/メタノール混合物中である程度の可溶性を有する生物燃料など、ジエタノールアミン誘導体、フッ素系界面活性剤、および脂肪酸エステルが含まれる。
【0057】
6.生成物着色添加物。着色添加物は、燃料組成物を水などの液体飲料と間違われないようにするのを助ける。黄色、赤色、青色の着色剤、またはこれらの着色剤の組合せなど、任意の水溶性の着色剤を使用することができる。着色剤は、業界に受け入れられている標準的な液体着色剤とすることができる。
【0058】
7.炎色添加物。非限定的な例には、炭酸または酢酸ナトリウム、リチウム、カルシウム、またはストロンチウムが含まれる。炎色添加物は、最終の生成物pHにおいて好ましい生成物の色および安定性を実現するように選択することができる。使用する添加物を選択する際、エンジン堆積の問題も、もしあれば、考慮することができる。
【0059】
8.耐食添加物。耐食添加物の非限定的な例には、アミンおよびアンモニウムの誘導体が含まれる。
【0060】
9.殺生物剤。殺生物剤を添加することができるが、主燃料中のアルコール(メタノール)含有率が高いことで生物学的成長または生物学的汚染を防止するため、これらは通常は必要でない。したがって、いくつかの実施形態によれば、主燃料は殺生物剤を含まない。
【0061】
10.凝固点降下剤。主燃料中へ凝固点降下剤を組み込むことができるが、メタノール(および他の目的で添加される糖などの任意選択の添加物)は、水の凝固点を降下させる。したがって、いくつかの実施形態によれば、主燃料は、さらなる専用の凝固点降下剤を含まない。
【0062】
11.堆積物還元剤。非限定的な例には、ポリオールエーテルおよびトリエタノールアミンが含まれる。
【0063】
12.必要に応じて変性剤
【0064】
13.pH制御剤。適したpHまでpHを上下させる燃料に適合した薬剤を使用することができる。
【0065】
添加物、特に上記の項目1および2で特定したものは、業界で取引される標準的な生成物(すなわち、精製された状態)または部分的に処理された水溶液(すなわち、未精製の状態、半精製の状態、もしくは粗製の状態)として、主燃料に添加することができる。場合によっては、部分的に処理された水溶液の選択肢は、添加物のコストを低減させる。そのような粗製の添加物源の使用の条件は、一例として粗製の糖液または糖シロップなど、そのような添加物の粗製状態の不純物が、燃料噴射器またはエンジンの性能に悪影響を与えないことである。
【0066】
いくつかの実施形態によれば、主燃料は少なくとも1つの添加物を含む。いくつかの実施形態によれば、主燃料は少なくとも2つの異なる添加物を含む。
【0067】
上記では、エーテルについて、着火改善剤および可溶性の燃料増量添加物の例として述べた。いくつかの実施形態では、所期の機能にかかわらず、エーテルは、全体で燃料組成物の20%未満、15%未満、10%未満、5%未満、3%未満、1%未満のレベルで存在することができる。この量は、0.2%、0.5%、1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、12%より大きくすることができる。これらの下限と上限は、選択された上限より下限が低い限り、限定なく組み合わせることができる。
【0068】
いくつかの実施形態では、主燃料組成物は、主燃料組成物の0.2重量%~10重量%の量のエーテルを含む。エーテルは、単一のエーテルまたは2つのエーテルの組合せであることが好ましい。
【0069】
メタノールベースの燃料中でエーテルを着火改善剤および/または可溶性の燃料増量剤として利用することによって、燃料組成物の生成、輸送、および利用に対する完全なプロセスが開発された。この場合、メタノールベースの燃料は、水を含まない燃料であっても、メタノール-水燃料であってもよい。これについて、以下でさらに詳細に説明する。
【0070】
燻蒸剤としての着火促進剤
燻蒸に依拠する本発明の実施形態の方法で使用する燻蒸剤は、着火促進剤を含む。燻蒸剤は、メタノール、水、および主燃料に関して上記で略述した添加物のいずれかの1つまたは複数などの他の成分をさらに含むことができる。
【0071】
上記のように、着火促進剤とは、可燃材料の着火を促進する材料である。圧縮着火エンジンに対する主燃料組成物中の中核の燃料成分としてメタノールを使用することに関する難題の1つは、メタノールが他の燃料ほど容易に着火しないことである。着火促進剤は、良好な着火特性を有する材料であり、着火を生じさせるために使用することができ、着火後、主燃料組成物(および他の可燃材料)中のメタノールが燃焼する。可能な燃料成分の着火特性について、その成分のセタン価(または別法としてセタン指数)によって説明する。セタン価は、材料着火遅延の尺度であり、燃料の噴射の開始から燃焼の開始、すなわち着火までの期間である。適した着火促進剤は、40を上回るセタンを有することができる(55~57のセタンを有するDMEなど)。燻蒸剤中に存在する着火促進剤のセタン価は、燻蒸剤中の他の成分に対する着火促進剤の相対量、ならびに主燃料組成物と比較した燻蒸剤の量、負荷、およびエンジン速度を決定するときに考慮されるべきである。燻蒸剤の全体的なセタンは、各成分の比例する寄与とセタン特性の組合せに基づき、この関係は必ずしも直線的になるわけではない。
【0072】
燻蒸剤中に含むことができる着火促進剤のいくつかの非限定的な例には、
- 低級アルキル(C1~C6のエーテルである)、とりわけジメチルエーテルおよびジエチルエーテルなどのエーテル、
- 硝酸アルキル、
- 過酸化アルキル、
ならびにこれらの混合物が含まれる。
【0073】
ジメチルエーテルは、燻蒸剤での使用に適した好ましい高着火特性の着火促進剤である。ジエチルエーテルは、適した着火促進剤の別の例である。
【0074】
主燃料中のメタノールは、触媒作用でジメチルエーテルに変換することができる。したがってジメチルエーテルは、主燃料組成物流から触媒作用で生成することができ、次いで、主燃料組成物(吸気を含む)とは別個にエンジン内へ燻蒸される。代替手段では、ジメチルエーテルを含む燻蒸剤組成物を、燃料供給器によって既製の燻蒸剤組成物としてエンジンの所有者に提供することができる。別の実施形態では、メタノールおよび15重量のエーテル着火促進剤(ジメチルエーテルなど)を含むプレ燃料組成物を1つの位置で生成し、別の位置へ輸送(たとえば、パイプラインによる)して、圧縮着火エンジンに燃料供給する際に使用することができる。いくつかの実施形態では、プレ燃料は、水をさらに含むことができる。パイプラインの終端では、プレ燃料中のエーテル着火促進剤成分の一部またはすべてを、プレ燃料組成物の他の成分(とりわけメタノールであるが、エーテルより高い沸点を有する他の成分も)から分離することができる。次いで、分離されたエーテル成分は、主燃料組成物として使用されるプレ燃料組成物の残りの部分とは別個に、直接(特に水を含有する場合)、または使用前に組成物のさらなる調整(たとえば、含水率に対する)を伴って、燻蒸剤として圧縮着火エンジン内へ燻蒸することができる。プレ燃料中のエーテル着火促進剤の量は、10重量%以下または9重量%以下とすることができる。上限は、エーテルおよび温度条件の選択に依存する。さらなる詳細は、CIエンジン発電システムについて詳述する以下の項で述べる。
【0075】
ジメチルエーテルなどの着火促進剤は、燻蒸剤の最小5%または燻蒸剤の最小10%、たとえば燻蒸剤の最小15%、20%、30%、40%、50%、60%、65%、70%、75%、80%、82%、84%、86%、88%、または90%などを構成することが適している。通常、燻蒸剤の着火促進剤含有率は、範囲の上端であることが好ましく、したがっていくつかの実施形態では、着火促進剤含有率は70%以上である。着火促進剤は、たとえば貯蔵部から、またはプレ燃料組成物から回収されて分離された着火促進剤から純粋な成分を導入する場合、燻蒸剤の100%以下を構成することができる。主燃料(メタノールに加えて、DMEが形成される成分を含む)の触媒反応によって主燃料から変換されるとき、または不純物の混じった高着火特性の成分が生成され、もしくは貯蔵部から引き込まれた場合、そのような成分に対する上限はそれに応じて低減する。
【0076】
燻蒸剤中の各成分の相対量は一定のまま保つことができ、またはエンジンの動作期間にわたって変動させることができる。燻蒸剤中の成分の相対量に影響を与える要因には、エンジン速度(rpm)、負荷のレベルおよび変動性、エンジン構成、ならびに燻蒸剤の個々の成分の特有の特性が含まれる。他の実施形態では、燻蒸剤組成物は比較的一定のまま保つことができ、代わりに、エンジン内へ噴射された主燃料組成物(グラム/秒)と比較した燻蒸剤の相対量(エンジン内へ燻蒸されたグラム/秒)は、エンジンの異なる動作段階中に調整される。
【0077】
CIエンジンを異なるエンジン動作条件(速度、負荷、構成)に対して異なる燻蒸剤組成物で動作させることが望ましいとき、燻蒸剤組成物は、燻蒸剤組成物のコンピュータ制御または任意の他の形式の制御によって適切に変動させることができる。これらの調整は、主なエンジン動作条件に整合するように所望の燻蒸剤組成物を計算するアルゴリズムに基づいて摺動する調整とすることができ、または段階的な調整とすることができる。たとえば、全体的なセタン指数がより高い燻蒸剤(100%のDMEなど)を、いくつかの条件における動作のために燃料に対して高い重量%でエンジン内へ燻蒸することができ、次いでこの燻蒸剤を、より低い%のDMEおよびセタン指数がより低い成分を含有する第2の組成物に切り換えることができる。別の実施形態では、組成物を安定させ、空気/燻蒸剤比を変動させることができる。
【0078】
燻蒸剤中の1つまたは複数の着火促進剤を除く水以外の成分の標的%は、40%以下、たとえば5~40%または10~40%または20~40%または30~40%などであることが適している。これらの割合には、他の着火促進剤および可燃性成分のセタン価ならびに特有のエンジン構成に基づいて、調整を加えることができる。追加として、いくつかの実施形態では、変換反応(たとえば、メタノールからDME)の生成物として、もしくは水を含有する反応器の供給からの担体として、燻蒸剤中に水が存在することができ、または別個の流れの中に水を添加することができる。
【0079】
着火促進剤に加えて燻蒸剤中に存在できる成分の例には、メタノール、水、上記で略述した添加物、ならびにアルカンガス(通常は、C1~C6アルカン、とりわけメタン、エタン、プロパン、またはブタンなどの低級アルカンを含む直鎖アルカン、およびより長鎖のアルカン(C6以上))が含まれる。
【0080】
いくつかの実施形態では、燻蒸剤は少なくとも60%の単一の成分を含み、一例はジメチルエーテルである。燻蒸剤の単一の主成分の量は、62%、65%、68%、70%、72%、75%、78%、または80%を上回ることができる。
【0081】
燻蒸剤または2次燃料は、貯蔵部から純粋な状態で直接得ることができ、または主燃料を処理した後(メタノールからDMEへの触媒変換と、それに続く精製により、DMEからなる燻蒸剤を得る)、純粋な状態で燻蒸剤としてエンジンへ供給することができる。別法として、燻蒸剤は、主燃料を処理した後、または貯蔵部から、着火促進剤および他の成分を含むことができる(すなわち、燻蒸剤は純粋な状態ではない)。この場合、不純物は、所望の燻蒸結果にやはり適合しており、すなわち燻蒸剤はまた、水およびメタノールを含むことができ、またはその応用例に適合している他の材料(C1~C8のアルコールなど)を含有することができる。
【0082】
主燃料組成物および燻蒸剤は、2液性燃料として供給することができ、または2つの燃料部分からなる「キット」として送達することができる。この文脈では、燻蒸剤を2液性燃料の「2次燃料成分」として説明することができ、したがって燻蒸剤に関する上記の説明も第2の燃料成分に該当する。主燃料組成物および2次燃料成分は、圧縮着火エンジンに付随する別個の貯蔵槽内へポンプで汲み上げることができる。
【0083】
したがって、一実施形態によれば、圧縮着火エンジンの動作に使用するための2液性燃料が提供され、この燃料組成物は、
- メタノールおよび水を含む主燃料組成物と、
- 着火促進剤を含む2次燃料成分とを含む。
【0084】
この2液性燃料を使用する際には、主燃料は圧縮着火エンジンの燃焼室内へ導入され、2次燃料は圧縮着火エンジンの空気吸入中へ燻蒸される。
【0085】
別の実施形態によれば、圧縮着火エンジンへ燃料を供給する方法が提供され、この方法は、
- メタノールおよび水を含む主燃料組成物を、圧縮着火エンジンの燃焼室に流動的に連通している第1の槽へ供給するステップと、
- 着火促進剤を含む2次燃料成分を、圧縮着火エンジンの空気吸入に流動的に連通している第2の槽へ供給するステップとを含む。
【0086】
上記のように、2次燃料は、主燃料の一部分から着火促進剤への触媒変換によって完全または部分的にその場で準備することができる。これは、ジメチルエーテルが着火促進剤である状況に特に適している。
【0087】
本発明はまた、燃焼着火エンジンの動作における2液性燃料の使用を実現し、2液性燃料は、
- メタノールおよび水を含む主燃料組成物と、
- 着火促進剤を含む2次燃料成分とを含む。
【0088】
本発明は、メタノールおよび10重量%以下のエーテルを含むプレ燃料組成物をさらに提供する。エーテルは、ジメチルエーテルとすることができる。いくつかの実施形態では、プレ燃料は水をさらに含むことができる。上記のように、エーテル成分は、2次燃料成分として使用するためにプレ燃料組成物の残りから分離することができ、プレ燃料組成物の残りは、主燃料組成物として使用することができる。この残りは、主燃料組成物全体として直接使用することができ(特に水を含有する場合)、またはたとえば水を添加することによって、組成物を調整して主燃料組成物を得ることができる。したがって、この実施形態では、プレ燃料は水を含有しないことがあり、エーテルの除去後に水を添加して主燃料組成物を生成することができる。いくつかの実施形態では、さらに後述する発電システムの1つで燃料が使用されるとき、主燃料組成物中で使用するための水が必要とされないことがある。
【0089】
本発明はまた、第1の部分のメタノールおよび第2の部分のエーテルを含む2液性燃料組成物を1つの場所から別の場所へ輸送する方法を提供し、この方法は、メタノールおよびエーテルを含むプレ燃料組成物を1つの場所から第2の場所へ輸送するステップと、メタノールからエーテルを分離して、メタノールを含む第1の燃料部分およびエーテルを含む第2の燃料部分を得るステップとを含む。輸送するステップは、パイプラインを通って配管することによって行われる。第1の場所はメタノール生成設備の場所とすることができ、他方の場所(第2の場所)は、第1の場所から離れた遠隔地である。遠隔地は通常、少なくとも1キロメートル離れており、おそらく数キロメートル離れているはずである。遠隔地は、発電のための圧縮着火エンジンの場所、あるいは出荷港もしくは列車の側線、または2液性燃料が必要とされる任意の他の適した場所とすることができる。
【0090】
エンジン動作の詳細
図1は、CIエンジン10内でメタノール/水混合物の主燃料11を使用するプロセスについて概説する流れ図を示す。このプロセスは、着火促進剤14で吸気流12を燻蒸し、次いで燻蒸した空気を、着火制御部30を通ってエンジン10の燃焼室内へ導入してから、主燃料11を燃焼室内へ導入し、圧縮着火によって主燃料/燻蒸した空気の混合物に着火してエンジンを駆動させることを含む。
【0091】
吸気12は、着火促進剤14を含む燻蒸剤17で燻蒸される。次いで、エンジンの圧縮行程の最初の段階前または最初の段階中、燻蒸した吸気12を燃焼室内へ噴射して空気を圧縮し、その後、主燃料を燃焼室内へ噴射する。空気の圧縮によって燃焼室内の温度を上昇させ、最終の圧縮段階中に主燃料をチャンバ内へ噴霧したときに主燃料にとって好ましい着火条件を提供する。
【0092】
着火促進剤14で吸気12を燻蒸することで、圧縮空気の温度のさらなる上昇を促進し、それによって、燻蒸する材料の事前燃焼、およびメタノールの燃焼の開始に役立つ分解種の存在のため、燃料噴射時の可燃性がさらに高められる。
【0093】
上記の燻蒸により、燃料噴射前に燃焼室内で事前燃焼を行うことができる。この2つのステップからなる着火プロセス、または「着火」動作は、燻蒸された空気の温度を着火点まで上げるためのエンジンピストンの圧縮行程に依拠する。これは、燃焼室内の着火条件を促進し、圧縮行程の終わり近くで噴射したとき、メタノールおよび水の燃料にとって十分に高温の環境を提供し、高温条件下で着火を加速させ、メタノールを急速に蒸発させ、燃料中へ水を気化させて、高い熱効率を得る。
【0094】
低い水レベルでの安定したエンジン動作に対する燻蒸剤による温度の寄与は、50~100℃である。主燃料噴射時に、水レベルの低い燃料の場合、この寄与の結果、燃焼室の温度は、知られている燃焼着火エンジンの温度と同等になる。燃料中の水レベルが増大すると、燻蒸剤の量を調整して水の冷却作用を補うことができる。その結果得られる正味熱効率は、ディーゼル燃料のものと同等であり、正味効率の結果は、エンジンの寸法およびその構成などの様々な要因に依存する。
【0095】
このようにして、メタノールおよび水の燃料の効率的かつ完全な燃焼は、排気物質中に燃え残りまたは変質した炭化水素および粒子を最小にし、排出をよりクリーンにする。これは、着火動作の2つのステップの開始および完了に十分な時間が与えられるために燃焼プロセスの効率が最大になるより遅い速度のより大型のCIエンジンで特に明らかである。
【0096】
吸気に関連する「燻蒸」という用語は、材料または混合物、この場合は着火促進剤を含む燻蒸剤を、吸気流中へ導入して蒸気または気体を形成し、それによって着火促進剤をよく分散させることを指す。いくつかの実施形態では、材料は、通常は材料の微細な霧を吸気流中へ噴霧することによって少量で導入され、または気体として噴射される。
【0097】
着火動作は、圧縮行程中に吸気を予熱する作用を有する。水メタノール混合物の性質は、燃焼後の反応生成物中にほとんど感じられない熱が生成されることであり、熱は、存在する水を気化するために必要とされる。これは、炭化水素燃料で動作するディーゼルエンジンと比較すると、エンジンの設計上の制限を守りながら、噴射時により厳しいエンジン条件に対応できることを意味する。これらのより厳しい条件は、燻蒸剤の燃焼、あるいは空気温度の上昇(空気の直接加熱による)、ならびに/またはターボ過給もしくは過給などの変更されたエンジン構成の使用による圧力および温度の上昇から生じる。
【0098】
着火促進剤の量は、主燃料の着火が適時実現される燃焼室内の条件をもたらし、それによってエンジンから最善の熱効率が得られるように、主燃料中に含有されるメタノールと水の混合物に対して制御することができる。着火促進剤と燃料混合物の比が制御されない場合、燃焼は、TDC前25~30°など、TDCのかなり前に開始する可能性があり、したがって、着火促進剤の使用が中和作用を与えて、エンジンの熱効率への寄与を最小またはゼロにする可能性がある。エンジンの好ましい動作では、燻蒸剤/空気混合物の着火は、この燃料の燃焼を可能な限り遅延させ(エンジンの動力行程に不要に逆らうのを回避するため)、噴射後の主燃料の良好な燃焼と一致させるように時間調整される。これは、主燃料噴射が始まる前に2次燃料が着火するべきであるが、2次燃料中に含まれるそのエネルギーによるエンジンの熱効率への寄与が最小またはゼロになるほど早すぎてはならないことを意味する。
【0099】
主燃料の着火は、以下の比の着火制御の1つまたは組合せを使用することによって、理想的なタイミングに可能な限り近くなるように、図1に示す着火制御部30で制御することができる。
1.空気吸入中へ導入される燻蒸剤の量を主燃料に対して制御する。
2.燻蒸剤中の着火促進剤と他の成分の割合を制御する(水およびメタノールなどの他の成分も存在しうることを認識)。
3.エンジンがエンジンのrpm動作範囲にわたって高い負荷(50%~100%)で動作するか、それとも低い負荷(50%未満)で動作するかに応じて、上記の1および2を制御する。
【0100】
エンジン内へ導入される主燃料に対する燻蒸剤の相対量(それぞれ、空気吸入により、または燃焼室に入る)は、該当するエンジン動作条件に応じて変動するが、通常、中程度の負荷または高い負荷で定常状態動作中の燻蒸剤中の着火促進剤の量は、主燃料組成物のうち、重量で比較的低い割合であることが望ましい。100%の着火促進剤(DMEなど)を含む燻蒸剤の場合、主燃料に対する燻蒸剤の相対量は、20重量%以下、18重量%以下、15重量%以下、13重量%以下、10重量%以下、8重量%以下、7重量%以下、6重量%以下、5重量%以下であることが望ましい。燻蒸剤レベルは、主燃料組成物の少なくとも0.2重量%、少なくとも0.5重量%、少なくとも1重量%、または少なくとも2重量%であることが好ましい。燻蒸剤が100%の着火促進剤を含むものとして、これらの数字は重量に基づき、燻蒸剤中の重量による着火促進剤の含有率の低減に比例して調整することができる。これらは、グラム/秒単位でエンジン内へ導入される量、またはエンジン寸法に適した任意の他の対応する尺度を参照することによって、測定することができる。着火促進剤(それぞれ10%、8%、または7%の着火促進剤など)として必要な最高の量のエーテルを含有するプレ燃料組成物を圧縮着火エンジン位置へ送達することができ、着火促進剤は同じ標的レベルの燻蒸で動作するエンジンの必要に対応する数量で引火および回収されるため、約10%以下(8%または7%など)の上限がさらに有利である。他の実施形態では、エンジン位置のより高いレベルまで燻蒸剤レベルを追加することができる(たとえば、エーテルなどの着火促進剤の別個の蓄積からの追加による)。
【0101】
着火制御部30は、上記の比を制御して、エンジン10に入る吸気の性質を制御する。具体的には、図1を参照すると、着火制御部30は、空気12、燻蒸剤17中に着火促進剤14の濃度を含む燻蒸剤17、および燻蒸剤17中の他の成分19の量および相対的な割合を制御する。
【0102】
上記の第2項に関連して、全燻蒸剤/空気流中の着火促進剤を除く水以外の成分の標的%は、40%以下、たとえば5~40%または10~40%または20~40%または30~40%などとすることができ、残りは着火促進剤、たとえばDME(55~57のセタンを有する)である。他の着火促進剤のセタン価および特有のエンジン構成に基づいて、これらの割合に調整を加えることもできる。すべての割合は重量による。水は、エンジンの平滑な動作と一致する任意の量で存在することができ、そのような水は、たとえば燃料から触媒作用で作られた場合は燻蒸剤から得ることができ、またはエンジンへの周囲空気取込み流の一部とすることができ、あるいは他の手段によって添加することができる。
【0103】
図1は、主燃料11のうち、エンジン11から触媒反応器20の方へ分流した一部分13を示し、触媒反応器20では、メタノールからDMEへの触媒による脱水が行われる。生成されたDMEは、吸気12を燻蒸する燻蒸剤17中で着火促進剤として使用される。本明細書に記載の他の実施形態は、燻蒸剤の着火促進剤として使用されるとき、ジメチルエーテルを生成する他の技法を利用する。いくつかのそのような実施形態では、DMEは、メタノール生成位置で生成することができ、プレ燃料組成物の一部としてエンジンの位置へ送達することができる。
【0104】
触媒反応器20は、メタノール/水燃料中のメタノールの脱水を行うように、当業者には知られている業界標準の条件下で動作する。図1に示すように、触媒反応器20を動作させるための熱源は、エンジン10からの排気ガス22であり、排気ガス22は、熱交換器(図示せず)を通って伝達され、触媒反応器20内で主燃料の分流部分を加熱する。排気ガスの温度は、200℃~500℃以上の範囲とすることができ、通常はエンジンの負荷に依存し、すなわち、エンジン負荷が大きければ大きいほど、排気温度も高くなる。
【0105】
図1は、排気ガスまたは必要に応じて他の熱源からの熱を使用して触媒反応器に動力供給した後、エンジンの排気ガス22は、触媒反応器内の熱交換器を通って伝達された後に冷却され、大気へ排出28されることを示す。別法または追加として、図1に示すように、排気ガスを処理することができ、一部分を凝縮し、凝縮器25によって処理された再循環燃料32として主燃料へ再循環させることができ(任意の冷却媒体を使用できる)、図示の実施形態では、凝縮器25は塩水/水ヒートシンク34(熱交換器)を含み、これは船上での使用に適している。また、標的の汚染物質を大気への排気ガス(28)中で低レベルまで低減させるために、凝縮物または他の手段を利用する追加の排気処理ステップを行うこともできる。別の実施形態では、燃え残った燃料などの成分は活性表面上へ吸着させ、後に標準的な技法を使用して脱着させることができ、汚染をさらに低減させるために主燃料または燻蒸剤成分として含むことができる。別法として、触媒を用いて、燃え残った燃料などの酸化できる種を触媒反応させ、排気温度を増大させて、利用できる追加の熱源を提供することができる。
【0106】
追加として、複数のエンジンがたとえば発電のために動作している場合、集まった排気ガスは、処理/凝縮すべき単一の流れとして処理することができ、排気からの再循環燃料は、そのようなエンジンの1つまたは複数へ誘導される。
【0107】
第2の燃料貯蔵部38が、2次燃料としての直接使用のために燃料を提供し、すなわち燃料は着火促進剤を含む燻蒸剤であり、または触媒反応器20によって2次燃料に変換するために燃料を提供する。第2の燃料貯蔵部38内の燃料は、主燃料11の一部分13を得て触媒反応器20によって変換する代わりとして使用することができ、または主燃料の一部分13と組み合わせて使用することができる。
【0108】
また、メタノール/水燃料、特に中~高の水レベルを有する燃料の不十分なセタン特性は、主燃料および/または吸気を予熱することによって補うことができる。予熱は、以下のいずれか1つまたは組合せを含む様々な技法によって実現することができる。
1.廃熱予熱器 - CIエンジン排気または他の廃熱を使用して、熱交換によって吸気および/または主燃料を予熱する。ファンを導入して、エンジンサイクルを通る吸気の圧力プロファイルを最適化することができる。
2.過給器/送風器 - または吸気を燃焼室内へ誘導するようにエンジンによって駆動される他の空気圧縮手段。空気圧の増大によって吸気を加熱する。
3.ターボ過給器 - または吸気を燃焼室内へ誘導するようにエンジン排気もしくは他の廃熱によって駆動される他の空気圧縮機構。空気圧の増大によって吸気を加熱する。
4.素子を介した電気的な加熱または燃料の燃焼などの直接的な方法を使用して空気を加熱し、必要な温度の上昇を得る。そのような方法は、起動中およびエンジン負荷が低いときに有用であろう。
5.グロープラグ(またはホットバルブ) - エンジンシリンダ内へ熱を誘導する。
【0109】
上記の選択肢1(ファンなし)によって、空気の流量が少なくなるため(空気の流量が減っていない選択肢2~3と比較)、エンジンからの動力出力はより低くなるが、この最大動力の損失は、石油ベースのディーゼル燃料と比較すると、燃料噴射時により高温の条件で燃焼効率がより高くなること、および過剰空気の要件がより低くなることによって、部分的に補うことができる。補償圧力ファンは、空気温度が増大した条件下で空気の流量の低減を補うことができる。
【0110】
燃料噴射時に必要な温度、したがって水/メタノール混合物に着火するのに必要な予熱レベルは、存在する水の量に依存する。低~中の水レベルでは、特有の製法により、これは、50~150℃の空気予熱温度で実現することができる。しかし、中~高の水レベル、たとえば50%/50%の水/メタノール混合物の場合、150~300℃の空気予熱を使用することができる。
【0111】
別の実施形態では、知られている技法による主燃料の加熱で、着火プロセスを助けることができる。
【0112】
予熱の選択肢と中~高の水/低メタノール燃料とを組み合わせることで、エンジンサイクルは、着火および燃焼ならびに最初の膨張段階中の一定体積のサイクルから、エンジン性能を最大にするのに最も適した時間枠で方向的により一定温度の膨張(メタノールからの熱が大部分で水を気化させる)へ変わる。
【0113】
より速いエンジン速度、たとえば1000~3000rpm以上で動作するより小型のCIエンジンで動作および効率を最適化するためには、上記の燃料およびプロセスに対する何らかの調整が必要とされることがある。着火促進剤を含む燻蒸剤で空気吸入流を燻蒸することに加えて、以下の動作態様を、別個に、またはより速い速度で動作するエンジンと組み合わせて、使用することができる。
・直接加熱(独立した熱源から)、排気ガスとの熱交換、過給器、またはターボ過給器などによって、上記の空気吸入を予熱する。
・たとえばグロープラグを使用して燃焼室を加熱する。
・主燃料吸入を予熱する。
・燃料の着火および燃焼を改善する添加物を主燃料および/または2次燃料に添加する。これらの添加物のいくつかについては、上記で論じた。
・上記で論じた主燃料組成物中で、低~中の水レベル範囲などの適当な水レベルを選択する。
・エンジン構成と一致する適したレベルに対する燻蒸剤中の水レベルを選択する。
【0114】
これらの選択肢は、より大型のCIエンジンを1000rpm以下などのより遅いエンジン速度で動作させるときも、必要に応じてさらに利用することができる。
【0115】
CIエンジン発電システム
本明細書に記載のメタノール/水混合物燃料および圧縮着火エンジンに動力供給するための関連システム(プロセスとも呼ぶ)を使用して、低減させた排出レベルで動力を効率的に生成するように、発電システムおよび構造を開発することができ、また、エンジン排気を処理して排気ガスからの熱および水を捕獲し、次いで再利用または再誘導することができる。熱および水の再利用または再循環は、システム効率の増大ならびに廃棄生成物および排出の全体的な低減を促進する。熱および水の再誘導は、地域/地区の暖房および冷房を伴う関連のない応用範囲内で用途を見出すことができ、水の再生は、地域で、または他のシステムの一部として使用することができる。
【0116】
図3A~6Bは、圧縮着火エンジンに動力供給する本明細書に記載のプロセスおよび燃料を組み込む発電システムの例を示す。これらのプロセスに表す燃料は、様々な量の水を含有できるメタノールベースの燃料であり、0%~80%の量の水を含有することができることが理解される。
【0117】
図3Aおよび図3Bは、メタノール燃料を生成してICエンジン111(ディーゼルエンジンとも呼ばれる)に供給し、出力動力を生成するプロセスを示すだけでなく、排出を低減させるエンジン排気処理を含み、この処理は、エンジン排気を利用して水を再循環させ、温水ループ(HWL)113a、113b(図4Aおよび図4B参照)を組み込んで地域社会に熱を提供する。エンジンによって生成される出力動力を使用して、発電設備が位置する地域に供給することもでき、たとえばこの出力動力を使用して、地域のための電気を生成することができる。図3Aは、エンジン内への空気の燻蒸を利用するプロセスを示し、図3Bに示すプロセスは、吸気を燻蒸するステップを省略しているという点で、図3Aおよび図3Bは異なる。
【0118】
図3Aおよび図3Bは、燃料製造設備101、および供給網103を通ってその燃料を遠隔で供給することを示す。燃料製造設備は、大型で遠隔の石炭発電設備102内の従来のボイラから生じる蒸気から生成された電気を使用する従来のメタノール製造設備とすることができる。そのような設備は、石炭だき排出プロファイルをもたらす。別法として、発電設備102は、本明細書に記載のメタノール燃料を使用する燃焼エンジンを組み込んで、メタノール燃料の生成に必要な電気を生成することができる。これは、石炭発電設備によって得られるものより排出の少ないよりクリーンな代替手段を提供するはずである。
【0119】
メタノールベースの燃料は設備101で製造され、主としてメタノール、メタノール-水混合物、またはメタノール-エーテル混合物、またはメタノール-水-エーテル混合物を含有することができる。一実施形態では、燃料は、大気圧で沸騰していない液体として、「全燃料」メタノールおよびDME混合物を、メタノールおよびDMEの90~99.5%の混合物の形で含み、これをエンジン111で直接使用することができる。メタノールおよびDMEの混合物中では、DMEは、液体としての伝達およびエーテルから気相への遷移を回避するのに適した安定した数量で提供される。この数量は、燃料がパイプライン103内で伝達される圧力および温度に依存するが、通常、総燃料量の10%未満であり、7%~8%の範囲内である。
【0120】
別法として、加圧条件下でより高いDME割合を有する燃料を供給することもできる。別の代替手段では、100%のメタノール(たとえば、化学用)に近い高いメタノール含有率を含有する燃料を伝達し、その後、需要の中心地(すなわち発電設備)付近でDMEに部分的に変換することができる。高い%のメタノールを含むこの形式のプレ燃料組成物は、約0.2%以上の水成分を含有することができる。さらなる代替手段では、パイプライン内で伝達される燃料またはプレ燃料をメタノール-水燃料とすることができる。メタノール-水燃料中の水は、粗製メタノールなどの形でメタノールに会合させることができ、またはこの目的のために高い費用効果で使用できる製造領域内の水の余剰分から供給することができる。伝達された燃料には、伝達網の構造材料に応じて、エンジン/プロセス動作を促進するために、潤滑性および腐食の改善剤である添加物の添加を含むことができる。
【0121】
地域の給電網内の長距離のパイプラインを通じて可燃性の液体中で大量のエネルギーを伝達することは、確立された技術である。また、パイプライン103などの基本設備を使用して、メタノール燃料を離れた場所へ安全かつ高い費用効果で送達することもできる。
【0122】
パイプライン103を通って伝達した後、燃料は発電設備に到達し、発電設備は、圧縮着火エンジン111、前処理段階104、および排気処理113、115、116、118を含む。燃料は、エンジン111内で直ちにそのまま使用することができ、または燃料の任意選択の前処理を実施して、設備の動作範囲にわたって安全かつ確実な動作を確保することができる。システムの完全性の理由のため、たとえばエーテル成分を貯蔵できるように、開始および停止燃料の貯蔵も企図することができる。
【0123】
前処理段階104で、燃料は、2つの豊富な相に瞬間蒸発させることによって分割することができ、一方はメタノールが豊富な部分107であり、もう一方はDMEなどのエーテルが豊富な部分105である。DMEは、その沸点が低いため、この瞬間蒸発プロセスに特に適している。50℃~60℃の温度を有する温水流からのエンジン排気からの低レベルの廃熱を使用して、低沸点のDMEを瞬間蒸発させてメタノールから分離することができる。いくつかの実施形態では、メタノールが豊富な相は少量のDMEを含むことができ、大部分のDMEは瞬間蒸発する。他の実施形態では、大部分のDMEは液相で保持することができ、良好かつ完全な燃焼を確保するのに十分なDMEだけが蒸気し、燻蒸剤105として利用される。たとえば、製造設備からの燃料が7%のDMEを含む場合、このうちの5%を液相で保持することができ、2%は、エンジン111に入る加熱された燃焼空気110に添加される燻蒸剤105として使用される。
【0124】
前処理は、DMEまたは他の燻蒸剤の供給を補足する変換の選択肢を含むことができる。別法として、DMEなどの必要な数量の着火改善剤は、貯蔵部から得ることもできる。DEEおよび本明細書に記載の他の着火改善剤などの他の薬剤も可能である。
【0125】
前処理段階はまた、燻蒸剤として使用されるDMEを分離するだけでなく、他のプロセスのための液体燃料の原料として使用するために余分なDMEを生成するように、伝達された燃料を処理する部分を含むことができる。たとえば、余剰のDMEは、HWLに余剰の熱を提供することによって、近隣地域に利益を与えることができる。別法または追加として、DMEは、発電設備プロセスに組み込むことができる。メタノール燃料はまた、処理前か処理後かにかかわらず、発電システムから取り出して、地域の化学薬品の製造に使用することができる。
【0126】
粗製メタノールの発電設備への伝達も可能であり、上流の製造設備における資本支出および営業費を節約する。そのような発電設備への燃料供給は、DME生成のための粗製メタノールの一部を分割して残りの燃料をエンジン内へ誘導する上記の選択肢に適しているはずである。エネルギーおよび資本支出に関しては、この選択肢は、大部分の生成物が蒸留されて「限度を超えている」製造設備101の蒸留ユニットを、比較的少量が「限度を超えている」発電設備のはるかに小型のユニットに取って代えるはずである。この選択肢はまた、需要の中心地付近、すなわち発電設備付近で地域のDMEを利用可能にするはずである。
【0127】
前処理段階104における燃料の前処理はまた、潅漑品質の水106として前処理段階104から出るベンチュリスクラバ115の戻りラインから導出される冷水を使用して、エンジンへ入れる前にメタノール燃料107を加熱することができる。冷却された潅漑品質の水106は、凝縮器116からの凝縮物と混合することができ、必要な場合、冷却器を使用して許容できる廃液温度を確保することができる。
【0128】
HWLによる発電に関して示す例では、1MW以上の動力を生成するディーゼルエンジンが使用されるはずである。これは1MW未満の動力を排除せず、それによって、より小規模の使用者に対応することができ、低NOX、SOX、および粒子の結果をもたらすことができる。ディーゼルエンジンは、エンジン効率に対してわずかなコストだけで浄化および熱交換機器に排気を通すのに必要な空気圧の駆動力を提供するため、燃焼後の処理に特に適している。
【0129】
本明細書に記載の燃料混合物のいくつかの性質は、エンジン寸法を増大させる本質的な熱的利益のため、直径の小さいピストンより大きいピストンが好ましいことを意味する。より大きいピストンはまた、噴射燃料がピストン壁に与える衝撃のリスクを低減させ、燃料が適正に燃焼し、潤滑剤膜に干渉しないようにする。
【0130】
以下でさらに述べる実験は、1000rpmを上回るエンジンで試験した燃料を実証するが、前述のように、燃料は、通常はちょうど100rpm未満から1000rpm以下で動作するより低速のエンジンでもうまく使用することができ、これは、一般に低速から中程度の速度の範囲として説明される範囲である。この速度範囲は、揮発性の着火改善剤を蒸気として蒸気空間に入れ、圧縮行程中に高温の圧縮空気との化学反応を始めるのにより多くの時間を可能にする。こうして燃焼段階中により多くの時間が可能になることで、燃料のより完全な燃焼を可能にし、エンジン排気中の燃え残った燃料および他の成分のレベルを低減させる。また、より多くの時間が可能になることで、水と酸素分子の接触によってシリンダ内の燃料を完全に燃焼させるのにより多くの時間が可能になり、より低いラムダを使用することができ、その際、エンジン排気中の水の濃度を増大させることができる。
【0131】
メタノール107および水108の混合物が空気100とともにエンジン111に入れ、これを予熱し、図3Aおよび図3Bに示す例では、凝縮器116を通じてエンジン排気ガスによって予熱することによって、エンジン111で動力が生成される。適した予熱温度は、40℃~50℃とすることができる。燃料中の水は、貯水部から得ることができ、または排気ガスから凝縮器116を通って再循環される水から得ることができる(以下でより詳細に説明する)。
【0132】
排気ガスの処理は、CO2および含酸素化合物を標的とする触媒を使用する触媒変換器112にエンジン排気を通すことを含む。これにより排気ガスがわずかに加熱され、その熱は、HWLに対して、または図5A図5B図6A、および図6Bに関連してさらに後述する他のプロセスに対して、利用可能とすることができる。触媒変換器112はまた、任意の燃料または燃焼生成物を適当なレベルに低減させる。任意選択で、最終段階で活性化される炭素などを用いて浄化することができる。追加として、本明細書に記載のメタノール燃料は少ないすすできれいに燃え、触媒性能を改善する。
【0133】
HWLは、ポンプで汲み上げた水のループを通じて住宅地などの地域の目的地へ熱を運ぶ。図4Aおよび図4Bは、HWL熱交換器113のHWL供給ライン113aおよび戻りライン113bを示す。発電プロセスからの熱副生成物を使用して、住宅地区および商業地区に低コストの加熱を提供することができる。HWLを通じてポンプで汲み上げた水は、触媒変換器112の下流に位置するHWL熱交換器113によって加熱される。熱交換器113は、HWLの戻りで40℃の温度で動作する標準的なユニットであり、HWLへの設計ディスパッチ温度は80℃である。必要な表面積に関して比較的低温のHWL戻り温度で効率的な交換器の設計によって、排気の十分な冷却が確保される。
【0134】
腐食剤噴射器114で排気処理添加物が添加され、腐食剤噴射器114は、所望の結果を得るために任意の腐食性の化学物質および他の適した酸中和剤を排気ガス中へ噴射する。たとえば、最終の排気から酸性の化合物を取り除くために、少量の塩基性の液体(たとえば、50%の苛性ソーダおよび水)が排気流中へ噴射され、これを使用して、微量の酸を無効にし、設備から流れる潅漑用水のpHを制御する。最終のpHは、地域の条件を最もよく満たすレベルに制御される。
【0135】
HWL交換器113の下流には、ベンチュリスクラバ115または他の適した混合デバイスを示す。このユニットはいくつかの機能を有し、第1の機能は、循環する水流と排気ガスを密接に混合することであり、この水流の作用は、HWL交換器からの85~90℃からベンチュリスクラバからの約55~60℃へ排気を冷却することである。そのような冷却により、排気ガスから凝縮水を生じさせて粒子を収集し、これらの粒子は、知られている方法を使用して処理することができ、または最終的に設備から出て地面へ戻る最終の潅漑用水の一部を形成することができる。スクラバ115から出る脱酸されたクリーンな排気により、最終の凝縮器から出る排気の純度がより高くなる。
【0136】
ベンチュリスクラバ115とフィンファン熱交換器100との間では、ポンプで水が汲み上げられる。フィンファン熱交換器または他の適した機器は、ベンチュリスクラバを通じて排気ガスからの熱を取得してその熱を空気中へ放出する別の気体/液体交換部であり、この空気は、1つまたは複数のファンによって熱交換器100内を流れるように駆動される。このようにして熱を放出する1つの利点は、熱が低温で放出され、したがってプロセスの全体的な効率に大きな影響を与えないことである。
【0137】
大気中へ熱を吐き出す代替手段として、フィンファン排気からの加熱空気を使用して、加熱燃焼空気110として直接エンジンに入れることができ、この場合、ファンから圧力を印加して、空気の流量に対する加熱作用を補うことができる。大気中へ熱を吐き出す別の代替手段は、信頼できかつ環境的に許容できる方法で大量の熱を放散することが可能な冷却槽または他の水システムを通じて熱を放散することである。
【0138】
図4Aは、最終の大型の排気ガス/燃焼空気交換器、すなわち高い水回収率のシステム内で水を回収する凝縮器116を示す。高い水回収率が必要ないシステムには、凝縮器116は含まれない。図4Bは、図4Aのシステムに類似しているが凝縮器116を省いた中程度の水回収率のシステムを示す。
【0139】
最終の(任意選択の)凝縮器116は、ベンチュリスクラバ115からの排気を約50~60℃から周囲温度の約5~20℃の範囲内へ冷却する。これだけ温度を下げる際には、設備から生成されて回収される水が著しく増大される。潅漑用の水を生成し、または発電設備の外側で再利用することに加えて、凝縮器116からの凝縮物は、任意選択で、発電プロセスで有用になることがある。
【0140】
前処理した燃料とともに凝縮物を噴射して、HWL交換器などの下流の機器におけるNOXの形成および関連する酸性度の問題を低減させる。凝縮物はまた、貯蔵水に対する代替または追加として、特定の燃料混合物の燃焼で使用される水源を形成することができる。さらに、凝縮器からのより高級な水をさらに処理して飲用水にすることができ、またはベンチュリスクラバによって生成された潅漑品質の水に加えて、ベンチュリスクラバ115とフィンファン熱交換器100との間を再循環させることができる。
【0141】
排気の冷却から得られる熱は廃棄されるのではなく、エンジン111に入る吸気と交換することができる。再循環する廃熱および水がプロセスで必要な燃料および生成される排出に与える利益に加えて、水および熱の回収は、エンジン動作を安定させる傾向もある。エンジンへの吸気がより低温であればあるほど、さらなる熱を回収することができる。
【0142】
図3Bは、吸気を着火改善剤で燻蒸することなくメタノール燃料を生成してエンジン111へ供給するプロセスを示す点で、図3Aとは異なる。製造設備101からのメタノール燃料は、パイプライン基本設備103を通じて輸送され、エンジン111で直接使用され、吸気110が予熱される。燻蒸剤が必要でないため、エーテルを瞬間蒸発させて輸送燃料から分離する前処理は必要でない。しかし、やはり前処理を行って、燃焼のために燃料を準備すること、および/または発電設備の外側での別個の使用のためにエーテルを分離することもできる。図3Aに関連して、排熱で吸気を予熱するステップは必須ではなく、省略することもできることも理解される。しかし、排熱を使用して排気粒子を再循環させ、エンジン効率を改善して排出を低減させることが有用である。別法として、ベンチュリスクラバからフィンファンへの水は、原則的に、吸気を加熱する目的で使用することができる。
【0143】
図3Bに示すプロセスでは、排気ガスから、たとえば凝縮器116を通じて伝達される熱、または触媒変換段階などの燃焼後のプロセスで事前に排気から得た熱を使用することを含む様々な手段によって、吸気を予熱することができる。別法として、電気加熱要素、グロープラグによる直接加熱、および過給器またはターボ過給器による間接加熱を含む本明細書に記載の他の技法を使用して、吸気が予熱される。
【0144】
図5Aおよび図5Bは、本明細書に記載の技術および燃料を使用する発電の概念を、鉄道車両への動力供給にどのように適用できるかを示す。図5Aおよび図5B内の参照番号は、図3Aおよび図3Bに関連して使用した同じ番号および項目に対応する。燃料の前処理104およびエンジン111による燃料の使用は同じである。周囲空気を使用して排気を冷却して燃焼空気110を加熱する第1の熱交換器120を通って触媒変換器112から出た後、排気は冷却される。
【0145】
鉄道車両上の排気処理は、水を他の排気材料から分離するHWLプロセスの処理とは異なる。触媒変換器から出た排気ガスは、活性アルミナ水吸着サイクル121および活性アルミナ水発生サイクル122を通過して、クリーンで高温の乾燥した排気を大気中へ生成し、水凝縮器123によって排気ガスから水が再捕獲される。再捕獲された水は、前処理段階へ再び供給し、飲料用以外の鉄道車両の用途で使用することができる。活性アルミナサイクルから出るより低温の乾燥した排気を第2の熱交換器124によって使用して、鉄道車両上で加熱または冷却を提供することができる。
【0146】
一実施形態では、メタノール設備101における燃料の製造により、(1)適正なNOX/性能結果を提供するように設計された水メタノール混合物と、(2)別個の加圧貯蔵部内の燻蒸剤成分とを含む潜在的に2つの成分が鉄道車両上に貯蔵される。レール重量の不利益は、出荷重量の不利益ほど大きくはない。
【0147】
図3Bに類似の図5Bは、燻蒸剤を使用しないで予熱のみに依拠する鉄道車両発電プロセスを示す。燻蒸剤のないHWLプロセスの利点に関する同じ説明は、図5Bに関連して記載のプロセスにも該当する。
【0148】
図6Aおよび図6Bは、海洋の目的で、たとえば船上で使用される発電プロセスの概念を示す。HWL発電プロセスの例と同様に、船に合わせて寸法設定されたメタノール製造設備を船上に設けて、船に動力供給する1つまたは複数のエンジン111にメタノールベースの燃料を供給することができる。上記の例と同様に、図6Aは、吸気中で燻蒸剤の着火促進剤を使用するプロセスを示し、図6Bは、燻蒸剤を用いないプロセスを示す。このプロセスは、代わりに吸気の予熱を含まなくても、吸気の予熱を含んでもよい。
【0149】
船舶上の第1の熱交換器120は、より低温の周囲空気を使用して排気を冷却する。その排気の一部分を再循環させて、加熱された燃焼空気110にすることができる。残りの冷却された排気は、次いで、脱塩器125および他の熱交換機器へ渡され、槽および船舶の暖房など、船舶の必要に合わせて排熱回収を最大にする。脱塩器は、船舶にとって容易に入手可能な海水を使用する。
【0150】
上記の応用例で使用されるときの本明細書に記載のプロセスおよび燃料に関連する概略的な利点は、エネルギーおよび資源が制限された地域および地区へいくつかの利益を同時に送達できることである。具体的な利点には、次のものが含まれる。
・不適当である(たとえば、硫黄分が多い)ために普通なら開発されないままである遠隔資源の開発。
・効率的なバイオマスの共同処理のための途切れのない選択肢を提供して、CO2を低減させる。
・バイオマスの最も早い共同使用で、既存の資源の寿命を延ばす。
・風力および太陽光などの他の再生可能資源の統合も可能性である。
・熱と動力の組合せ(CHP)または冷却熱と動力の組合せ(CCHP)に基づいて、需要の中心地に電気を提供する。
・電力の生成段階で生じるすべてのCO2以外の汚染物質を事実上排除する。
・最大限まで資源から水素を捕獲して、これらの資源を需要の中心地で使用するための水に変換する(1重量部の水素が酸素と反応して9重量部の水に変換される)。そのような構成では、燃料送達機構がそれ自体の流通コストをいずれにせよ吸収するため、化石燃料資源もまた部分的に、潜在的な「自由搬送」作用を有する水資源と見なすことができる。この水は、高温のエンジン排気を処理する触媒変換器の通過を不要にするように、活性アルミナまたは他の適した吸着材料もしくは技術で処理される。
・加熱または冷凍の目的で、温水ループ(HWL)で排気を冷却し、熱に対する地域の需要の中心地とこの主要な熱エネルギー源を交換することによって、地域社会に廃熱を提供する。本明細書に記載の技術を利用することから得られるクリーンな排気により、発電を市場に近づけることができ、この特徴は、特に石炭火力発電では普通なら利用できないものである。
・水および熱を効率的に回収する。他の熱伝達手法を使用して、コストはより高いが、回収を増大させることができ、燃焼空気はまた任意選択で、たとえばフィンファン冷却器の前の循環水によって加熱することができる(図3Aおよび図3Bの例)。
・消費されるメタノール1トン当たり約0.7~1トンの潅漑用水という高い水の回収率を得ることができ、または経済的かつ技術的根拠で正当化される場合、よい高い回収率を得ることができる。
・地域社会で直接使用するためにpHが中性の潅漑用水を提供する。
・酸を中和して粒子を低レベルに除去する水洗いした排気を提供する。排気中のSOXおよび炭化水素などの他の汚染物質も少なくなる。
【0151】
水の生成、HWL熱の統合、および排出結果に関する本明細書に記載の技術は、エンジン効率の犠牲を伴うが、この態様は、多くの場合、供給網の利益および上記の利益によって補われることが予期される。
【0152】
(実施例)
(実施例1)
圧縮着火エンジンに対するメタノール水燃料組成物を調査するための実験プログラム
1.1 要約
この報告は、圧縮着火エンジンにおける異なるメタノールベースの燃料の性能およびエンジン排出に関してメルボルン大学が実施した実験プログラム中に得られた結果を要約する。
【0153】
試験された燃料は、メタノール、水、ジメチルエーテル(DME)、およびジエチルエーテル(DEE)の混合物であった。メタノールは一般的には圧縮着火燃料ではないため、2つの着火促進剤システムを使用した。第1の着火促進剤システムは、吸気予熱器から構成された。エンジン吸気を最高150℃(課された安全性限界)まで加熱することによって、圧縮行程の終端付近でより高い温度に到達し、この時点で主燃料装荷が噴射される。場合によっては、これらの温度は、噴射燃料の圧縮着火を発生させるのに十分なほど高かった。
【0154】
着火を促進する第2のシステムは、エンジンの取込みポート内への気体状ジメチルエーテル(DME)の連続噴射(すなわち、燻蒸)を伴った。DMEは比較的低い着火温度および高いセタン価を有するため、圧縮行程中に空気/燻蒸剤混合物が圧縮されるとDMEは自己着火し、したがって熱エネルギーを解放し、この熱エネルギーは主燃料装荷を着火させることができる。
【0155】
これらの試験は、内蔵のモータリング/吸収動力計設備上に取り付けられた改良型の1D81Hatzという単一シリンダのディーゼルエンジンで行った。改良されていない状態では、この本来自然吸気式のエンジンは、体積約670ccの単一のシリンダから最高10kWの軸動力を生じさせる。ピークエンジン効率は基本的な物理的法則のためにエンジン寸法とともに増大することがエンジン業界では一般に知られているため、試験したすべての燃料の絶対性能は、より大型のエンジンでより良好になる可能性が非常に高い。
【0156】
したがって、現在の試験プログラムにおけるディーゼル以外の燃料に対するエンジン性能は、この同じエンジンにおけるディーゼル燃料の結果を基準に観察すべきであると考えられる。具体的には、このエンジンにおいてディーゼルに対する所与の代替燃料で同等以上の性能が実現される場合、より大型のエンジンでもこの相対的な性能を実現できる可能性が高い。当然ながら、所与のエンジンにおける所与の燃料の絶対性能を最大にするには、さらなる最適化を必要とし、それにはエンジン性能を改善するべきである。
【0157】
この実験プログラムからの全体的な観察は次の通りである。
【0158】
1.燻蒸エンジン試験
これらの結果は、ディーゼルエンジンより動作条件が効率的で、燻蒸エンジンが同等の効率をもたらし、NO排出が少なく、粒子排出がさらに少ないことを示す。
【0159】
2.加熱吸気試験
これらの結果は、エンジンNO排出がディーゼルエンジンと同等であることを示す。燻蒸エンジンの実行に関しては、ディーゼルエンジンよりさらに少ない粒子排出がこの場合も観察された。この動作モードでエンジンの効率を改善するには、さらなる作業を必要とする。
【0160】
1.2 実験方法
これらの試験は、内蔵のモータリング/吸収動力計設備上に取り付けられた改良型の1D81Hatzというディーゼルエンジンで行った。図10は、この設備に対するプロセスおよび計器類の図を示す。改良されていないエンジンの仕様は、以下のTable 1(表1)に詳述する。これらの仕様は、エンジン試験中に変更されなかった。
【0161】
エンジンに加えた改良は、以下から構成された。
【0162】
・機械的な燃料噴射器および燃料ポンプからソレノイド駆動式の噴射システムならびに別個の燃料ポンプおよび噴射システムへの取替え。
電子命令式の一般的な鉄道用ディーゼル噴射器を使用して、システムに燃料供給した。この噴射器(Boschの型式0445110054-RE)で、改良されていないエンジンの噴射器より著しく大きな流量を送達し、その結果、Table 2(表2)内で最高の含水量の燃料を送達しながら、ディーゼルおよび純粋なメタノール燃料と同じ空気/燃料比を実現することができた。
【0163】
この噴射器はこのエンジンにとっては大きすぎ、したがって、改良されていないエンジンと同じディーゼル燃料で動作したときでも、エンジン性能が著しく低減するはずである。その結果、Table 2(表2)に示す代替燃料を試験する適切な参照は、ディーゼルで動作する同じ改良型のシステムであり、その結果をTable 3(表3)、Table 4(表4)、およびTable 5(表5)に示す。具体的には含水率がより低い燃料のさらなる試験では、より小型の噴射器を使用でき、したがってエンジン性能の著しい改善が得られることが予期される。
【0164】
図10に示すように、燃料を混合して加圧貯蔵容器に入れ、その結果、DMEはエンジン内へ噴射する前に気相に遷移しなかった。この容器は、試験中は常に5~10バールであった。次いで、この容器から出た液体燃料をHaskelの空気駆動ポンプによって最高800バールに加圧してから、エンジン内へ噴射した。高圧アキュムレータを使用して、試験中に燃料ラインの圧力を一定のまま確保した。
【0165】
燃料の流量は、加圧貯蔵容器を荷重計上につるし、各試験中に容器の質量の変化率を測定することによって測定した。
【0166】
・取込みマニホルドの延長。
これは、吸気予熱器とDME燻蒸取込みを接続するために行った。どちらのシステムも、主燃料装荷の着火促進剤として使用した。
【0167】
・すべての排出分析システムを接続するための排気マニホルドの延長。
【0168】
・Kistler圧電式圧力トランスデューサ。
エンジンのシリンダヘッド上に設置して、シリンダ内圧力を記録した。
【0169】
・すべての試験に対するShell Helix Racing10W60油の使用。
これは合成油である。
【0170】
複数の独立したシステムを使用して、排気の排出を分析した。
【0171】
・MAHA粒子状物質計。
このデバイスにより、エンジン排気中の粒子状物質の重量測定が得られる。
【0172】
・Bosch UEGOセンサ。
これは、空気燃料比を測定する製造デバイスである。炭化水素燃料向けに開発されたが、ADS9000排出台から測定された空気燃料比との比較により、含水率が50%より大きい材料以外の試験したすべての燃料に対して十分に機能することを実証した(図4)。
【0173】
・ADS9000排出台。
このデバイスで、エンジンNO排出を測定した。採取前に、排気サンプルは加熱されていないラインおよび除水器を通過し、したがって採取された気体の含水率は、周囲条件でほぼ飽和しているはずである。ADS9000は、すべての測定された数量に対する較正ガスおよび気体分割器を使用して、試験プログラム前および試験プログラム中に較正した。
【0174】
・Gasmet FTIR排出分析器。
このデバイスは、適当な較正ガスを使用して較正し、供給業者の指示どおりに高純度の窒素でゼロにした。
【0175】
各燃料について、2000rpmの定常状態速度および2のラムダ値(すなわち、100%の過剰空気)で試験した。改良されていないエンジンは、約1.5のラムダで動作した。純粋なメタノールによるラムダ1.5の第1の試験の結果、一例で噴射が早すぎたせいでエンジンの焼付きが生じたため、より粗末な動作が選択された。ラムダ2では、さらなるエンジンの焼付きは起こらなかった。
【0176】
全体的な試験エンジン手順は次の通りである。
【0177】
1.加熱取込みの実行。
第1に、吸気を150℃に上昇させた。
噴射の持続時間は、2のラムダ値によって設定し、噴射の開始は上死点に設定した。
次いで、エンジンの実行中に、加熱器制御装置によって、正のエンジントルクが維持できなくなるまで取込み温度を下げた。次いで、加熱器取込み制御装置により、動作が終了したときより高い温度に取込み温度を設定した。
次いで、エンジントルクがいわゆる「最大制動トルク(MBT)」に到達するまで、噴射の開始を早めて、動力計制御装置で一定のエンジン速度を維持した。MBTは、一定のエンジン速度および空気/燃料比で最も効率的な動作条件である。
その結果得られた噴射タイミング(開始および持続時間)ならびに他の測定数量は、この動作条件でログ記録した。
【0178】
2.燻蒸取込みの実行。
エンジンは、DME流量が高い状態で、平滑な実行条件で確立した。
主燃料噴射持続時間は、2のラムダ値によって設定し、噴射タイミングの開始は上死点で設定した。
次いで、DMEの流量を低減させながら主燃料の流量を増大させて、制動トルクが最大に到達するまで一定のラムダを維持した。
次いで、MBTタイミングが実現されるまで、噴射開始タイミングを早めながら、必要に応じてラムダを維持するように主燃料の流量を引き続き調整した。
その結果得られた噴射タイミング(開始および持続時間)ならびに他の測定数量は、この動作条件でログ記録した。
【0179】
3.ディーゼルエンジンの実行。
噴射開始タイミングをMBTまで早めながら、噴射持続時間を介して2のラムダを維持した。
【0180】
これらの燃料の仕様は次の通りである。
・メタノール、純度99.8%+
・脱イオン水、純度99.8%+
・ジメチルエーテル(DME)、純度98%+
・ジエチルエーテル(DEE)、純度98%+
【0181】
1.3 結果
試験作業の結果を以下の表に提示する。
【0182】
【表1】
【0183】
【表2】
【0184】
【表3】
【0185】
【表4】
【0186】
【表5】
【0187】
【表6】
【0188】
【表7】
【0189】
【表8】
【0190】
【表9】
【0191】
【表10】
【0192】
1.5 さらなる試験作業
さらなる試験作業を行って追加の燃料および燻蒸剤の組合せを調べ、それらの試験の結果を以下のTable 11(表11、表12、および表13)およびTable 12(表14、表15、および表16)に要約した。以下に留意されたい。
・全体的に、1000rpmのエンジン効率は、より速いエンジン速度における同じまたは類似の燃料に対する効率より低い。これは、改良されていないHatzエンジンのピーク効率が約2000rpmであることに基づき、予期されたものであった。より低いrpmにおけるピーク効率に対して設計されたより大型のエンジンで使用されるとき、これらの燃料を使用する効率は改善されるはずである。
・ADS9000デバイスを使用するNOの排出は、この試験プログラム中のこのセンサの障害のため、提示されなかった。
・燃料噴射器は試験番号25で障害を生じた。この障害は試験の終わり近くで生じたため、この試験に対してログ記録されたデータはやはり妥当と考えられ、したがってこの付録に含まれている。実行25および実行27の比較性能は、添加物を除いて、非常に類似した主燃料組成物を有することに留意されたい。
【0193】
【表11】
【0194】
【表12】
【0195】
【表13】
【0196】
【表14】
【0197】
【表15】
【0198】
【表16】
【0199】
1.5 燃料組成物における容量%と重量%との比較表
上記の1.1~1.4に略述した試験結果における表は、容量で測定された主燃料組成物中の成分の相対量に基づく。以下のTable 13(表17)およびTable 14(表18)では、燃料組成物に対して容量%と重量%との間の変換を行うことができる。
【0200】
【表17】
【0201】
【表18】
【0202】
1.6 第1.1項~第1.5項で報告した試験結果の観察。
水およびエーテルならびにDME燻蒸剤
上記で報告した作業は、水がいくつかの重要な特性を有し、メタノール燃料に対する有用な添加であることを実証する。
1.可燃性のメタノール燃料をある点まで噴射した場合、その効率は、低減するのではなく最適点まで増大し、次いで水の割合が引き続き上昇するにつれて低減する。本出願人らは、効率の増大は以下の要因などの要因の組合せによって生じうると仮定した。
a.放射率および吸収係数などの水のスペクトル特性は、加熱(たとえば、赤外IR)帯域全体でメタノールより優れており、これは、メタノールが加速速度で液滴から気化するとき、メタノールがこのより速い熱の取込み速度を共有して第1に蒸発するため、燃料および水の混合物の液滴中へ放射熱を取り込むのを助ける。文献では、水の放射率は0.9~1.0であり、すなわち赤外放射に対してほぼ黒体であり、メタノールはその値の2分の1未満であり、0.4付近であると報告されている。
b.水の熱伝導率はメタノールより大きい。
c.水の熱拡散率はメタノールより大きい。
d.上記の項目bおよび項目cでは、水が存在する場合、液滴中で熱の伝達がより大きくなり、この場合も、液滴が縮小してメタノール濃度が低下するにつれて、液相メタノールから気体への変換を加速させる。
【0203】
【表19】
【0204】
2.上記で報告した作業は、燻蒸剤に関連して適した量の着火補助を用いて高い水レベルで実行されるときでも平滑な動作を実証することによって、水メタノール燃料の実行可能性の根拠を提供する。上記で報告した作業から導出された図7に提示するデータから、含水率が主燃料組成物の約12重量%~23重量%の範囲内であるときに、正味熱効率のピークが実現されることが分かる。改善されたBTEの区間は、2%~32%の含水率に対するものであり、最適値は、DME燻蒸剤を用いて約16~18%の領域内で実現される。これは、驚くべき結果である。そのような高いレベルの水を燃焼室内へ噴射することで、IMEPのCOV(指示平均有効圧力の変動係数)に関連して許容できる動作で圧縮着火エンジンを動作できることは予期していなかった。
【0205】
上記で報告した実験データから、より低級のBTE実行体は大部分の場合、希釈されていないメタノールであり、4~9重量%の範囲でDMEを含む混合物によって良好な性能が得られた。
【0206】
含水率が前述のDME量を含有する燃料中で約30重量%を超えると、効率は再び、水がない状態で燃料を燃焼させた場合と一致するレベルまで低下した。
【0207】
部分的に排気含水率がより高いために効率の2分の1である場合でも、約70%の水を含む燃料はエンジン内で燃焼することに留意した。
【0208】
図8は、重量%単位による主燃料のエーテル含有率、およびその結果得られる燃料のBTEのグラフを提供する。括弧(})は、燃料組成物中でエーテル成分としてジエチルエーテルを使用したことに関連する点を示すために使用し、表示した他の点で使用されるエーテルはジメチルエーテルであった。図8は、希釈されていないメタノールの場合と比較すると、約16%の含水率の液相に4%のDMEを導入することによって、BTEが1.5%上昇したことを示す。通常、破線で示す枠内のエーテルの量の使用によって提供されるこれらの結果は、主燃料組成物に対する利点を提供する。エーテル含有率を10%を超えるレベル(すなわち、図の右側の枠外)に増大させることで、追加のコストが生じ、対応するプロセスの改善または利点は得られなくなる。
【0209】
低い水レベルでは、16%のDMEの利益は、4%と比較すると小さく、約6%より高い含水率では、4%のDMEは16%のDMEより優れた性能を示した。
約8重量%のDMEのBTEは、含水率範囲全体にわたって4%のDMEよりわずかに高く、その差は、燃料中で平均約0.3%から最大約36%の水であった。
【0210】
燃料中のジエチルエーテル(DEE、括弧内の点)は、より低い水の範囲内でより弱いBTEを示し、性能は純粋のメタノールに類似していたが、燃料中の含水率が約25%を超えて上昇すると、約8%のDEEは性能を改善し、DMEに整合した。
【0211】
正味熱効率に関連して、DEEは、揮発性または蒸気圧力などの他の理由が優勢でない限り、メタノール水燃料中のDMEに先行して選択されないことがある。
【0212】
水および燻蒸剤がNOに与える影響
水などの冷却剤が添加された燻蒸環境では、NOの低減が実現されることが予測できず、NO低減の程度も予測できなかった。試験作業は、水レベルが増大するにつれて、NOの低減が非常に大きかったことを示し、図9に示すように、36重量%の水で0.2グラム/kw時の谷を示した。
【0213】
図10は、含水率の増大が排気中のNOXに与える影響の別の図を提供する。4%および8%のDME線は、高い吸気温度でもNOX形成に対する最善の応答を示した。同じ傾向は燻蒸の場合に見られ、水レベルが増大するにつれてNOXが低減する場合、16.5%のDMEおよび8.8%のDEEは、DMEが低い場合と比較すると、より高いNOレベルを示した。水なしで加熱されたすべての実行では、予熱なしのディーゼル燃料より高いNOを得た。
【0214】
上記のデータおよび添付の図から、1つの有効動作区間は、主燃料組成物中にメタノールおよび20~22重量%の水および4~6重量%のDMEを含む主燃料組成物を燻蒸により使用することを伴うことが明らかである。この燃料は、良好な効率および低いNOを実現するはずである。所望の燃料動作区間は、本出願の他の項で詳細に説明するように、CIエンジンの許容できる動作でさらに拡大することができる。
【0215】
対照的に、同じエンジン上のディーゼル燃料は、ラムダ2および2000rpm(これらのグラフ内のすべての燻蒸試験のラムダおよび速度)で4.9グラム/kw時を実現した。
【0216】
燻蒸剤
複雑な燃料組成物、特に水およびメタノールを含む燃料組成物、ならびに任意選択でDMEなどの他の添加物で燻蒸剤(または燻蒸)を使用することは、従来考慮されていなかった。確かに、そのような技法を商業的に取り込んだ例に関する報告はない。これは、メタノールの低い加熱値がメタノールと水などの潜熱の高い希釈剤とを混合することによってさらに損なわれることから、そのような燃料がうまく機能する可能性がないと考えられてきたことに由来する可能性がある。また、水は通常、火が燃えるのを助けるのではなく、火を消すために使用されるため、大量の水成分を含有する燃料の使用は反直感的である。
【0217】
この空間を調査するために、5リットルV8エンジンのシリンダと類似の容量を有する単一シリンダエンジンを使用し、試験する燃料の一部の1リットル当たりの加熱値が低いことを克服するために、より大型の噴射器を設置した。
【0218】
これらの大型の噴射器には、エンジン効率を低減させる作用があったが、燃料間の比較によりミラー条件が適用されたため、この比較の有効性がエンジン試験の専門家に認識されてきた。試験の特有の動作条件では特大の噴射器が必要とされ、エンジンは、エンジン寸法が小さいため、高いrpmで動作されたが、さらなる作業によりこれらの要因を修正することができ、その結果、エンジンの吸気中へ噴射される燻蒸剤(着火促進剤)の相対量が低減した。本出願を支持するために実施した実験作業は2000rpmおよび1000rpmで実施され、1000rpmは、このプログラムに使用したHatzエンジンの最も遅い動作可能な速度である。
【0219】
(実施例2)
30%:70%の水:メタノール燃料、燻蒸あり
70%のメタノールおよび30%の水を含有する燃料が、図1に概略的に表す燃焼着火エンジン内へ導入される。
【0220】
エンジンの異なる動作段階(起動、低負荷の定常状態、50%~100%の全負荷の定常状態、遊休など)中、異なる燻蒸剤組成物を使用して空気吸入をエンジン内へ燻蒸することができる。
【0221】
起動および最初の遊休時、主燃料に対してより大きい重量%の燻蒸剤が、空気吸入中へ燻蒸される。この動作段階に適した1つの燻蒸剤は、100%のDMEを含む。
【0222】
エンジンが実行され、負荷/rpmが増大した後、燻蒸剤の%量および/または燻蒸剤中の着火促進剤の%量を低減させることができる。
【0223】
エンジン速度および負荷が全負荷まで増大した後、主燃料に対するこの燻蒸剤組成物の重量%を、主燃料(燻蒸剤中の100%のDME、または乾量基準(db))の重量でたとえば7~9%まで低減させることができる(図2のグラフ参照)。
【0224】
これにより、エンジンの動作は、主燃料組成物中に30%のレベルで水が存在することを克服することができる。
【0225】
(実施例3)
5%:95%の水メタノール燃料、燻蒸剤あり
実施例2を繰り返すが、組成物は95%のメタノールおよび5%の水を含む。メタノール含有率がより高いため、エンジンの異なる動作段階で、燻蒸剤の重量%または燻蒸剤中のDMEの%を、実施例2と比較すると、たとえば全負荷の燃料吸入(100%のDME)の2~3%まで低減させることができる。
【0226】
(実施例4)
1%:99%の水:メタノール燃料、燻蒸剤あり
実施例2を繰り返すが、組成物は99%のメタノールおよび1%の水を含む。メタノール含有率がより高いため、エンジンの異なる動作段階で、燻蒸剤の重量%または燻蒸剤中のDMEの%を、実施例2と比較すると、たとえば全負荷の燃料吸入(100%のDME)の0.5%~2%まで低減させることができる。
【0227】
(実施例5)
30%:70%の水:メタノール燃料、燻蒸および加熱方法あり
実施例2を繰り返すが、前述の方法を利用して燃焼空気を140℃まで予熱する。この修正により、必要な燻蒸剤を、実施例2の7~9%と比較すると2~3重量%まで低減させる。
【0228】
(実施例6)
74:26%の水:メタノール、燻蒸および加熱方法あり
実施例3を繰り返すが、燃料組成物は26%のメタノールおよび74%の水を含む。この燃料組成物は、船のCIエンジンを動作させるための海洋での使用に適している。この場合、排気ガスから必要な凝縮レベルを得るのに必要な場合、ヒートシンクとして海水を使用することができる。海洋の状況では、流出時に不燃性の気相の存在を介して密閉空間での安全を確保するために、燃料組成物中の水レベルは約74%(またはそれ以上)であり、燃料の26%(またはそれ以下)はメタノールである。こうして含水率を高くすることで、発火によりエンジン室に火災が生じるリスクを回避する。
【0229】
この実施例の燃料は、使用準備のできた組成物(すなわち、メタノール組成物中に74%の水を有する)で、主燃料貯蔵槽内へポンプで汲み上げることができる。別法として、より低い水レベル(使用する組成物と比較)を有する予備混合物を貯蔵槽内へポンプで汲み上げることができ、水レベルは、最終の予備混合物を水で希釈することによって、貯蔵とエンジン内への充填との間で増大させることができる。水源は、任意の水源とすることができ、たとえば再循環水または脱塩水とすることができる。この選択肢には、船上で実施される燃料組成物の重量に関して利点がある。
【0230】
この燃料の燃焼には、上記の方法による加熱が必要とされる。また、DME蒸気または噴霧を空気取込み中へ燻蒸することで、燃料を着火するのに十分な手段が提供される。
【0231】
排気ガス中の水の量は、約10~50%になるように計算することができる。これは、燃料中の元々の水、およびメタノールの燃焼から生じる水、およびDME、ならびに吸気中の水に基づく。この驚くほど高い結果は、メタノールの高い水素含有率(容量ベースで低温液体水素より多くの水素を含有する)と、燃料中の水、空気取込み中の水蒸気、ならびに燃料からの水燃焼生成物(メタノールおよびDME)の高い含有率とに起因する。
【0232】
この燃焼反応により、余分な水が生成され、この一部分を捕獲して再循環させ、貯蔵槽内に貯蔵されているより低い含水率の予備混合燃料と混合する可能性が存在する。いくつかの実施形態では、より高いメタノール含有率の基礎燃料を輸送することによって、燃料中の水の存在に関連する供給網の輸送コストを低減させること、およびエンジン排気からの水の捕獲によってより高い水レベルで標的エンジン品質を満たすことが有利である。
【0233】
最終段階で選択された種の除去のために任意選択の添加物を有する精製されていてもよい水を使用する熱交換および噴霧チャンバ構成は、メタノールの燃焼からのCO2以外の汚染がゼロに近くなるように構成することができる。さらに、知られている技法を使用するプロセス内で後に脱離してエンジンへ再循環させるために、または燻蒸剤もしくは主燃料の一部として組み込むために、たとえば燃え残ったメタノールを活性表面上へ吸着させることによって、排気ガスの最終の浄化を得ることができる。
【0234】
SOXに関連して、この場合の排気ガスは、以下の分析を有することができる。
SOX<0.1ppm
【0235】
通常、NOX粒子などの他の汚染物質の排出は、石油ベースのディーゼル燃料に比べてはるかにより少ない。
【0236】
燃焼段階で形成されるあらゆるわずかな量のNOXおよびSOX、ならびに水の相のCO2の吸収の結果、燃料と混合するために戻る水の酸性化が弱くなる可能性がある。戻った水の混合物は、この弱い酸性化を補うために、化学処理または機械的調整を必要とすることがある。
【0237】
そのような浄化から得られる排気ガスは、炭化水素、粒子、NOX、およびSOXの排出に関連して、ディーゼル燃料に比べて改善された排出を有し、これは環境的に有利である。
【0238】
CO2の回収
水の多い燃料から得られる排気は、不純物をほとんど含有しないため、後処理にとって理想的である。具体的には、CO2は、再びメタノールに変換されて、温室効果ガスCO2を直接低減させ、または、太陽電池などの再生可能源などを含むことができるエネルギー源を利用して、メタノール製造を含む複数の最終用途に対する藻類などの有機成長のために高純度のCO2を使用することができる。
【0239】
空気中の酸素レベルを分離または精製することによって、エンジンから窒素を低減または除去することができ、その結果、窒素の酸化からNOXが生じる可能性を低減または除去することができる。排気CO2をエンジンO2吸入へ再循環させることで、エンジンに入る酸素レベルを最適化することができ、ほぼ純粋なCO2および水蒸気の排気を生成することができる。このCO2は、必要に応じて、メタノールに対するさらなる処理または前述の応用例にとって理想的である。
【0240】
(実施例7)
10重量%の水:5重量%のDME:85重量%のメタノールからなる燃料、燻蒸剤あり
全負荷で必要な100%のDMEである燻蒸剤を、1~2%の範囲まで低減させることができる。
【0241】
(実施例8)
燃料組成物および燻蒸剤の組合せ
下表では、燃焼着火エンジンの平滑な動作を可能にするメタノール/水の燃料組成物および対応する燻蒸剤レベルの例に関して略述する。この表は2つの部分からなり、番号付きの各列の主燃料は、同じ番号付きの列の適した燻蒸剤と対をなすが、隣接する燃料と燻蒸剤との間の対も可能である。燃料増量剤、潤滑剤、着火改善剤、および他の添加物の識別に関しては、これらは上記の詳細な説明で提供した例から選択される。これらの添加物に関して表で参照する%量は、その説明の単一の添加物の量を指し、またはその種類の2つ以上のそのような添加物の組合せが使用されるときは、その説明の添加物の合計を指す。具体例では、燃料増量剤として糖または脂肪酸エステルを利用し、潤滑添加物として脂肪酸エステルまたはエタノールアミン誘導体を利用し、着火促進剤としてエーテルを利用し、追加の添加物として生成物色および炎色添加物を利用する。
【0242】
様々な燻蒸剤を表に示すが、一部の燻蒸剤は、より着火性の高い成分として分類されたものより着火特性が低い。ここに記載の成分は排他的なものではなく、本明細書で別途記載した当業者には知られている他の適した成分を使用することもできる。
【0243】
【表20A】
【0244】
【表20B】
【0245】
【表20C】
【0246】
【表20D】
【0247】
【表20E】
【0248】
【表20F】
【0249】
【表20G】
【0250】
【表20H】
【0251】
【表21A】
【0252】
【表21B】
【0253】
【表21C】
【0254】
【表21D】
【0255】
【表21E】
【0256】
【表21F】
【0257】
【表21G】
【0258】
【表21H】
【符号の説明】
【0259】
10 CIエンジン
11 主燃料
12 吸気流
20 触媒反応器
22 排気ガス
25 凝縮器
32 再循環燃料
34 塩水/水ヒートシンク(熱交換器)
38 第2の燃料貯蔵部
100 空気、フィンファン熱交換器
101 燃料製造設備
102 石炭発電設備
103 供給網
103 パイプライン
104 前処理段階
105 燻蒸剤
106 潅漑品質の水
107 メタノール
108 水
110 燃焼空気
111 エンジン
112 触媒変換器
113 HWL熱交換器
113a HWL供給ライン
113b HWL戻りライン
114 腐食剤噴射器
115 ベンチュリスクラバ
116 凝縮器
120 第1の熱交換器
121 活性アルミナ水吸着サイクル
122 活性アルミナ水発生サイクル
123 水凝縮器
124 第2の熱交換器
125 脱塩器
図1
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図5A
図5B
図6A
図6B
図7
図8
図9
図10
図11