(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-25
(45)【発行日】2022-03-07
(54)【発明の名称】孔版印刷用エマルションインク
(51)【国際特許分類】
C09D 11/105 20140101AFI20220228BHJP
【FI】
C09D11/105
(21)【出願番号】P 2017230184
(22)【出願日】2017-11-30
【審査請求日】2020-09-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000250502
【氏名又は名称】理想科学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【氏名又は名称】伊藤 正和
(72)【発明者】
【氏名】今市 悠貴
【審査官】▲吉▼澤 英一
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-297506(JP,A)
【文献】特開平10-168372(JP,A)
【文献】特開2000-345088(JP,A)
【文献】特開平10-140069(JP,A)
【文献】特開平07-150093(JP,A)
【文献】特開2001-354892(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/105
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量平均分子量が10000以上であるアルキド樹脂と、1分子の炭素数が6以上である高級脂肪酸とを含む油相、及び多価金属塩を含む水相を有し、前記高級脂肪酸は、インク全量に対し0.1質量%~
2.5質量%であ
り、前記重量平均分子量が10000以上であるアルキド樹脂100質量部に対し30質量部以下である、孔版印刷用エマルションインク。
【請求項2】
前記水相は、アルカリ金属の塩基性塩をさらに含む、請求項1に記載の孔版印刷用エマルションインク。
【請求項3】
前記油相は、高級アルコールと高級脂肪酸とのエステルワックスをさらに含む、請求項1又は2に記載の孔版印刷用エマルションインク。
【請求項4】
前記重量平均分子量が10000以上であるアルキド樹脂は、重量平均分子量が10000以上25000以下である、請求項1から3のいずれか1項に記載の孔版印刷用エマルションインク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、孔版印刷用エマルションインクに関する。
【背景技術】
【0002】
孔版印刷方法の一方法では、画像データに基づいてマスターにサーマルヘッドの熱で穿孔部を形成して原版を作製し、この原版をドラムに巻き付け、ドラム内部から供給されるインクを原版の穿孔部を介して用紙に転写させて、印刷物が提供される。マスターは、用紙に接し穿孔部が形成されるフィルムと、フィルムのドラム側の面に形成される多孔質支持体とを備える。ドラム内部から供給されるインクは、マスターの多孔質支持体に浸透し、フィルムの穿孔部から排出され、用紙に転写される。
【0003】
孔版印刷装置では、マスターがドラムと接する面で、マスター上のインク成分が分離して滲み出るいわゆるマスター滲みの問題がある。マスター滲みでは、インク成分がクランプ板(ドラムにマスターを装着し支える部位)まで達して排版不良を引き起こす問題があり、また、用紙の搬送がずれた際にマスターの端面からはみ出したインク成分によってマスター周辺の印刷機又は印刷物を汚すという問題がある。
【0004】
孔版印刷用インクとしては、エマルションインクが一般的に用いられている。なかでも、油中水型エマルションインクは、用紙に塗工されると、エマルションの外相である油相成分が用紙に浸透し、次いで内相である水相成分が用紙に浸透又は飛散して印刷されると考えられ、高画像濃度の印刷物を得ることができる。用紙への浸透速度はインク粘度に依存するため、低粘度のインクを用いれば、インクが用紙へ速やかに浸透し、印刷物の定着性及び乾燥性を改善することができる。
一方で、低粘度のエマルションインクは、貯蔵安定性が低下する問題があり、また、マスター上でインク成分が分離しマスター滲みが発生しやすい問題がある。
【0005】
特許文献1では、油中水型孔版印刷用エマルションインクにおいて、特定のカーボンブラックを用いることで、放置によるマスター上での顔料展開を抑制し、マスター滲みを抑制することが提案されている。
【0006】
特許文献2では、油中水型孔版印刷用エマルションインクにおいて、油相が、樹脂成分又は高級脂肪酸を含み、水相が、2又は3価の金属塩と、アルカリ性を示す1価の金属塩とを含むことで、インクの安定性を向上させることが提案されている。
特許文献3では、孔版印刷用油中水型エマルションインキにおいて、油相及び水相を含み、油相がアルミニウムキレート、樹脂、高級脂肪酸、及び着色剤を含むことで、紙上定着強度、紙上乾燥状態を改善することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2011-021086号公報
【文献】特開2000-119581号公報
【文献】特開2010-168446号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1では、特定のカーボンブラックを用いることで、マスター上で顔料展開を防止することが開示されるが、マスター上でインク成分のうち溶剤成分が展開する問題について十分に検討されていない。
特許文献2では、マスター滲みを防止する観点から、樹脂成分と高級脂肪酸とを組み合わせる具体例は開示されていない。また、極性成分である高級脂肪酸の配合量が多くなると、エマルションインクの安定性が低下する問題がある。
特許文献3では、比較的低分子量のアルキド樹脂が用いられており、マスター上でインク成分、特に溶剤成分が滲みでる問題が発生し得る。また、特許文献3では、油相中の高級脂肪酸が3質量%以上、好ましくは5質量%以上で含まれることで、乾燥性、定着強度が改善することが開示されている。しかし、極性成分である高級脂肪酸の配合量が多くなると、エマルションインクの安定性が低下する問題がある。
【0009】
本発明の一目的としては、マスター滲みを防止し、また、貯蔵安定性に優れる孔版印刷用エマルションインクを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
一実施形態としては、重量平均分子量が10000以上であるアルキド樹脂と、1分子の炭素数が6以上である高級脂肪酸とを含む油相、及び多価金属塩を含む水相を有し、前記高級脂肪酸は、インク全量に対し0.1質量%~5.0質量%である、孔版印刷用エマルションインクである。
【発明の効果】
【0011】
一実施形態によれば、マスター滲みを防止し、また、貯蔵安定性に優れる孔版印刷用エマルションインクを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を一実施形態を用いて説明する。以下の実施形態における例示が本発明を限定することはない。
一実施形態による孔版印刷用エマルションインク(以下、単にインクと称することがある。)としては、重量平均分子量が10000以上であるアルキド樹脂と、1分子の炭素数が6以上である高級脂肪酸とを含む油相、及び多価金属塩を含む水相を有し、高級脂肪酸は、インク全量に対し0.1質量%~5.0質量%である、ことを特徴とする。
以下、上記アルキド樹脂を高分子量アルキド樹脂とも記し、上記高級脂肪酸を単に高級脂肪酸とも記す。
これによれば、マスター滲みを防止し、また、貯蔵安定性に優れる孔版印刷用エマルションインクを提供することができる。
【0013】
上記インクは、油相に高分子量アルキド樹脂及び高級脂肪酸が含まれ、水相に多価金属塩が含まれることで、油相と水相が混合された状態で、油相の高分子量アルキド樹脂と高級脂肪酸とが多価金属塩を介して結合して、3次元網目構造を有する樹脂が生成されると考えられる。この樹脂は、3次元網目構造を有することで、油相の溶剤成分を保持する容量が大きくなり、マスター上でインク成分が分離し溶剤が印面領域以外に展開する現象、いわゆるマスター滲みを防止することができる。
また、上記インクが色材を含む場合は、樹脂が溶剤成分を保持する能力と同様に色材もまた保持されて、マスター上でインク成分が分離し色材が印面領域以外に展開する現象を防止することができる。これは、色材が油相に含まれるインクにおいて、特に効果を得ることができる。
上記インクにおいて、高級脂肪酸は、高分子量アルキド樹脂と結合させるために配合されるため、高級脂肪酸の配合量を少なくすることができる。高級脂肪酸は、極性成分であるため、その配合量を制限することで、貯蔵安定性を向上させることができる。
【0014】
孔版印刷用エマルションインクは、油相及び水相を有するエマルションインクであって、好ましくは、油相中に水相が分散される油中水型エマルションインクである。油相と水相の割合は、油相20質量%~40質量%、水相60質量%~80質量%であることが好ましい。
【0015】
インクの油相は、重量平均分子量が10000以上であるアルキド樹脂を含む。
上記アルキド樹脂としては、特に限定されないが、油脂と多塩基酸と多価アルコールとを構成成分とするものであり、常温(23℃)で液体のものが好ましい。このアルキド樹脂としては、例えば、トール油変性アルキド樹脂、やし油変性アルキド樹脂、ひまし油変性アルキド樹脂、亜麻仁油変性アルキド樹脂、桐油変性アルキド樹脂、大豆油変性アルキド樹脂等が挙げられる。これらは、単独で、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0016】
アルキド樹脂の重量平均分子量は、10000以上が好ましく、12000以上がより好ましい。これによって、マスター上でインク成分、特に溶剤成分の展開をより防止することができる。
アルキド樹脂の重量平均分子量は、これに限定されないが、100000以下が好ましく、50000以下がより好ましく、25000以下であってもよい。これによって、油相へのアルキド樹脂の溶解性又は親和性を確保し、また、インク全体の粘度上昇を防止することができる。
ここで、重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー法(標準ポリスチレン換算)により測定することができる。
【0017】
上記アルキド樹脂は、ゲル化されていてもよい。油相にゲル化アルキド樹脂が含まれることで、マスター上でインク成分の展開をより防止することができる。また、油相にゲル化アルキド樹脂が含まれることで、インクの貯蔵安定性をより改善することができる。
【0018】
ゲル化方法の具体例としては、これに限定されないが、アルキド樹脂を、アルミニウムキレート化合物、アルミニウムアルコラート、又はこれらの組み合わせとともに溶剤に混合し、この混合物を反応させることでゲル化することができる。ゲル化反応は、混合物を加熱することで進行させることができる。
【0019】
加熱温度は、アルキド樹脂の酸価が低下するために十分な温度であればよく、樹脂の種類や添加量によって異なるが、通常、酸価が10以下になるまで反応させればよい。具体的な加熱温度は、通常、100℃~200℃である。
【0020】
上記溶剤としては、特に限定されないが、後述する油相に含有される有機溶剤を使用することができる。油相に使用する有機溶剤を用いた場合は、ゲル化終了後、反応生成物を含有した有機溶剤をそのまま油相として使用することができるため好都合である。
【0021】
アルミニウムキレート化合物としては、例えば、アルキルアセトアセテート・アルミニウム・ジイソプロピレート、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)、アルミニウムモノアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)、アルミニウムトリス(アセチルアセテート)等が挙げられる。
アルミニウムアルコラートとしては、例えば、アルミニウムイソプロピレート、モノsec-ブトキシアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムsec-ブチレート、アルミニウムエチレート等が挙げられる。
【0022】
上記アルキド樹脂は、インク全量に対して、1質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましく、10質量%以上がさらに好ましい。これによって、マスター上でインク成分の展開をより防止することができる。
上記アルキド樹脂は、インク全量に対して、50質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましく、20質量%以下がさらに好ましい。これによって、インクの粘度が高くならず、ドラム端面からのインク漏れ等をより防止することができる。
上記アルキド樹脂は、油相全量に対して、10~60質量%が好ましく、12~50質量%がより好ましく、20~40質量%であってもよい。
【0023】
インクには、上記したアルキド樹脂以外のその他の樹脂が含まれてもよい。その他の樹脂は、油相及び水相の一方又は両方に含まれてもよいが、油相に含まれることが好ましい。
その他の樹脂としては、例えば、ロジン樹脂、フェノール樹脂、石油樹脂、キシレン樹脂、ケトンレジン、硬化レジン、アクリル樹脂、ゴム誘導体、テルペン樹脂等、これらの樹脂の誘導体等が挙げられる。
インクにその他の樹脂が含まれる場合では、アルキド樹脂を含む全ての樹脂の合計量が、インク全量に対して、50質量%以下であることが好ましく、より好ましくは30質量%以下であり、油相全量に対して、60質量%以下であることが好ましく、より好ましくは50質量%以下であり、さらに好ましくは40質量%以下である。
【0024】
インクの油相は、高級脂肪酸を含むことができる。
高級脂肪酸は、1分子の炭素数が6以上であってよく、好ましくは12以上であり、より好ましくは16以上である。
また、高級脂肪酸は、1分子の炭素数が30以下であってよく、好ましくは24以下であり、より好ましくは20以下である。
高級脂肪酸は、飽和又は不飽和であってもよく、直鎖又は分岐鎖を有してもよい。高級脂肪酸は、一塩基酸、二塩基酸、三塩基以上の多塩基酸のいずれであってもよいが、一塩基酸であることが好ましい。
【0025】
高級脂肪酸としては、例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、イソミリスチン酸、パルミチン酸、イソパルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、イソアラキン酸等の飽和モノカルボン酸;不飽和の脂肪族又は芳香族のモノカルボン酸としては、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、エイコセン酸、エルカ酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、ネルボン酸、等の不飽和モノカルボン酸;1-プロペン-1,2,3トリカルボン酸等の不飽和多価カルボン酸等が挙げられる。
これらの中でも、リノール酸、オレイン酸、イソステアリン酸を好ましく用いることができる。
上記した高級脂肪酸は、単独で、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0026】
高級脂肪酸は、インク全量に対し、0.1質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましい。高級脂肪酸は、インク全量に対し、5質量%以下が好ましく、3質量%以下がより好ましく、2.5質量%以下がさらに好ましい。
高級脂肪酸は、油相全量に対して、0.1~20質量%が好ましく、0.3~10質量%がより好ましく、0.3~5質量%がさらに好ましい。
【0027】
高級脂肪酸は、高分子量アルキド樹脂100質量部に対し、30質量部以下が好ましく、20質量部以下がより好ましく、10質量部以下がさらに好ましく、5質量部以下であってもよい。これによって、マスター滲みを防止しながら、インク全体の貯蔵安定性を高めることができる。
【0028】
油相は、溶媒として有機溶剤を含むことができる。油相の有機溶剤は、非極性有機溶剤、極性有機溶剤、又は、単一相を形成する限りこれらの組み合わせであってもよい。また、油相の有機溶剤は、水相の溶媒に対して不溶性であることが好ましく、例えば非水溶性有機溶剤である。
非極性有機溶剤としては、例えば、ナフテン系、パラフィン系、イソパラフィン系等の石油系炭化水素溶剤を使用でき、具体的には、ドデカン等の脂肪族飽和炭化水素類、JXTGエネルギー株式会社製「アイソパーシリーズ」、エクソンモビール社製「エクソールシリーズ」、JXTGエネルギー株式会社製「AFソルベントシリーズ」、日本サン石油株式会社製「サンセン」、「サンパー」(いずれも商品名)等が挙げられる。
極性有機溶剤としては、例えば、エステル系溶剤、アルコール系溶剤、エーテル系溶剤等が挙げられる。植物油も使用でき、植物油としてはヤシ油、パーム油、大豆油、こめ油、オリーブ油、ヒマシ油、アマニ油等が挙げられる。植物油は、エステル化物や水素添加物として配合することが好ましい。
【0029】
インクの油相は、エステルワックスを含むことができる。これによって、インクの流動性を調整し、インクの貯蔵安定性をより改善することができる。
エステルワックスは、高級アルコールと高級脂肪酸とのエステル化物を用いることができ、好ましくは、炭素数8以上である高級アルコールと炭素数16以上である高級脂肪酸とのエステル化物である。
エステルワックスとしては、例えば、カルナバワックス、ライスワックス等の天然物由来のワックスを好ましく用いることができる。
【0030】
エステルワックスは、インク全量に対し、0.1質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましい。エステルワックスは、インク全量に対し、5質量%以下が好ましく、3質量%以下がより好ましい。
エステルワックスは、油相全量に対し、0.1~5質量%が好ましく、0.5~3質量%がよりこのましい。
【0031】
インクは、乳化剤を含むことができる。乳化剤は、油相及び水相の一方又は両方に含まれてもよいが、油相に含まれることが好ましい。これによって、エマルションの乳化安定性を高めることができる。
乳化剤としては、例えば、金属石鹸、高級アルコール硫酸エステル化塩、ポリオキシエチレン付加物の硫酸エステル化塩等の陰イオン性界面活性剤;1~3級アミン塩、4級アンモニウム塩等の陽イオン性界面活性剤;多価アルコールと脂肪酸のエステル系の非イオン性界面活性剤、脂肪酸のポリオキシエチレン・エーテル、高級アルコールのポリオキシエチレン・エーテル、アルキル・フェノール・ポリオキシエチレン・エーテル、ソルビタンモノオレエート等のソルビタン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステルのポリオキシエチレン・エーテル、ひまし油のポリオキシエチレン・エーテル、ポリオキシ・プロピレンのポリオキシエチレン・エーテル、脂肪酸のアルキロールアマイド等の非イオン性界面活性剤等が挙げられる。これらは、単独で、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
なかでも非イオン性界面活性剤を好ましく用いることができる。
【0032】
乳化剤の添加量は、各々の乳化剤のモル濃度、水相と油相の界面の面積、一部は油相と顔料等の固体との界面の面積等を考慮して適宜決めることができる。
例えば、乳化剤は、インク全量に対し、0.1~10質量%が好ましく、0.1~5質量%がより好ましく、0.1~3質量%であってもよい。
【0033】
インクは、色材を含むことができる。色材は、油相及び水相の一方又は両方に含まれてもよいが、油相に含まれることが好ましい。色材は、顔料、染料又はこれらの組み合わせであってもよい。
【0034】
顔料としては、例えば、不溶性アゾ顔料、溶性アゾ顔料、フタロシアニンブルー、染色レーキ、イソインドリノン、キナクリドン、ジオキサジンバイオレット、ぺリノン・ぺリレン等の有機顔料、カーボンブラック、二酸化チタン等の無機顔料等が挙げられる。
染料としては、例えば、分散染料、酸性染料、反応染料、直接染料、建染染料等の合成染料等が挙げられる。
上記した色材は、単独で、又は2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0035】
色材(固形分)は、インク全量に対し、1質量%以上が好ましく、3質量%以上がより好ましく、5質量%以上がさらに好ましい。色材(固形分)は、インク全量に対し、15質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましい。この範囲で色材が含まれることで、着色及び発色に適する印刷濃度を得ることができるとともに、成分間の凝集を抑制しインクの変質を防止することができる。
また、色材(固形分)は、油相全量に対し、1~40質量%で配合することができ、10~30質量%で配合してもよい。
【0036】
油相又は水相に顔料が含まれる場合では、油相又は水相に顔料とともに顔料分散剤を含ませることで、顔料の分散安定性を高めることができる。
顔料分散剤としては、例えば、アルキルアミン系高分子化合物、アルミニウムキレート系化合物、スチレン/無水マレイン酸系共重合高分子化合物、ポリアクリル酸部分アルキルエステル、ポリアルキレンポリアミン、脂肪族系多価カルボン酸、高分子ポリエステルのアミン塩類、ポリエーテル、エステル型アニオン界面活性剤、高分子量ポリカルボン酸の長鎖アミン塩類、長鎖ポリアミノアミドと高分子酸ポリエステルの塩、ポリアミド系化合物、燐酸エステル系界面活性剤、アルキルスルホカルボン酸塩類、α-オレフィンスルホン酸塩類、ジオクチルスルホコハク酸塩類等、又はこれらの2種以上の組み合わせを挙げることができる。
【0037】
インクの水相は、多価金属塩を含むことができる。水相中の多価金属塩は、油相中のアルキド樹脂と高級脂肪酸とを結びつけ、網目構造を形成するように作用する。アルキド樹脂が網目構造となることで、マスター上でインク成分の展開をより防止することができる。
多価金属塩は、2価金属塩、3金属塩、又はこれらの組み合わせを好ましく用いることができる。
多価金属塩としては、例えば、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)等の多価金属塩が挙げられる。
また、多価金属塩としては、例えば、上記した多価金属のハロゲン化物、硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩、脂肪酸塩、乳酸塩、硼酸塩、リン酸塩、クエン酸塩等を用いることができる。
具体的には、多価金属塩として、硫酸マグネシウム、硫酸アルミニウム等を好ましく用いることができる。
多価金属塩は、単独で、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0038】
多価金属塩は、インク全量に対して、0.1質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましい。多価金属塩は、インク全量に対して、5質量%以下が好ましく、3.5質量%以下がより好ましい。
多価金属量は少量であってもアルキド樹脂と高級脂肪酸とを結びつけて網目構造を形成することができ、結果としてマスター滲みを防止することができる。一方、インクの貯蔵安定性の観点から、多価金属塩の配合量は制限することが好ましい。
多価金属塩は、水相全量に対して、0.1~20質量%が好ましく、0.5~10質量%がより好ましい。
【0039】
多価金属塩は、高分子量アルキド樹脂と高級脂肪酸とを結合させるために配合されるため、高分子量アルキド樹脂及び高級脂肪酸に対する質量割合が下記範囲になることが好ましい。
多価金属塩は、高分子量アルキド樹脂100質量部に対して、30質量部以下が好ましく、20質量部以下がより好ましく、10質量部以下がさらに好ましい。
多価金属塩は、高級脂肪酸100質量部に対して、30質量部以上が好ましく、50質量部以上がより好ましく、100質量部以上であってもよい。高級脂肪酸の一部が樹脂と結合しないで遊離状態でインクに含まれると、インク全体の貯蔵安定性が低下することがあるため、高級脂肪酸に対しては多価金属塩を多めに配合することが好ましい。
【0040】
多価金属塩は、高分子量アルキド樹脂及び高級脂肪酸の合計量100質量部に対し、25質量部以下が好ましく、15質量部以下がより好ましく、10質量部以下がさらに好ましい。この樹脂及び高級脂肪酸に対して多価金属塩を過剰に配合すると、インク全体の貯蔵安定性が低下することがある。
【0041】
インクの水相は、アルカリ金属の塩基性塩を含むことができる。これによって、インクの貯蔵安定性をより高めることができる。
アルカリ金属の塩基性塩としては、例えば、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)等の一価金属の水酸化物、脂肪酸塩、炭酸水素塩、リン酸水素塩、硼酸塩等が挙げられる。
具体的には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ホウ砂、炭酸水素ナトリウム、リン酸水素2ナトリウム、リン酸水素2カリウム等を好ましく用いることができる。
【0042】
アルカリ金属の塩基性塩は、インク全量に対して、0.1~5質量%が好ましく、0.5~1質量%であってもよい。アルカリ金属の塩基性塩は、水相全量に対して、0.1~5質量%が好ましい。
【0043】
インクの水相は、溶媒として水を用いることができる。水としては、特に限定されないが、イオン交換水、蒸留水等の純水、又は超純水等、不純物の含有が少ない水が好ましい。
【0044】
インクの水相は、多価アルコール等の水溶性有機溶剤を含むことができる。例えば、多価アルコールは、インク中で、湿潤剤、水蒸発抑制剤、凍結防止剤等として作用する。
多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン、ソルビトール等が挙げられる。これらは、単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0045】
水溶性有機溶剤は、その合計量が、インク全量に対して、20質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましく、5質量%以下であってもよい。水溶性有機溶剤は、その合計量が、水相全量に対して、20質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましい。
【0046】
インクの水相は、上記した成分以外に、湿潤剤、水蒸発抑制剤、凍結防止剤、電解質、水溶性高分子等の添加剤をさらに含んでもよい。水溶性高分子が含まれる場合は、水溶性高分子は、インク全量に対して0.5質量%以下、特に0.1質量%以下に制限されることが好ましい。
【0047】
また、インクには、上記した成分の他に、酸化防止剤、体質顔料、pH調整剤、防腐剤、防黴剤等を水相及び/又は油相に添加してもよい。
【0048】
孔版印刷用エマルションインクは、常法にしたがって製造することができる。例えば、油相を攪拌しながらこれに水相を滴下することによって乳化して、エマルションインクを製造することができる。
【0049】
上記した孔版印刷用エマルションインクは、孔版印刷方法を用いて印刷することが好ましい。孔版印刷方法の一例としては、製版した孔版原紙を準備する工程と、製版した孔版原紙と記録媒体を圧接させることによって孔版原紙の穿孔部からインクを通過させて記録媒体にインクを転移させる工程とを有する。孔版印刷装置は、特に限定されないが、操作性に優れる点からデジタル孔版印刷装置が好ましい。
【0050】
製版原紙、いわゆるマスターは、樹脂等のフィルムであり、サーマルヘッド等を用いて熱によって穿孔部が形成される。マスターは、用紙に接し穿孔部が形成されるフィルムとともに、フィルムのインクが供給される側の面に形成される多孔質支持体を備えることができる。多孔質支持体には和紙を好ましく用いることができる。
【実施例】
【0051】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。本発明は以下の実施例に限定されない。
【0052】
(インクの作製)
表1及び表2に、インク処方を示す。
各表に示す処方にしたがって、油相成分を混合し、ビーズミルを用いて顔料を分散した。水相は、添加剤及びイオン交換水を混合して用意した。調製した油相を乳化装置に投入し、撹拌翼を回転させながら水相を徐々に滴下し、さらに撹拌翼を回転させつづけて乳化を行い、孔版印刷用油中水型エマルションインクを作製した。
【0053】
各表に示す成分は、以下の通りである。
カーボンブラック:三菱ケミカル株式会社製「MA8」。
ゲル化アルキド樹脂:下記の方法により合成、Mw15000。
アルキド樹脂A:下記の方法により合成、Mw3000。
アルキド樹脂B:荒川化学工業株式会社製「アラキード251」、Mw2400。
AFソルベント6号:JXTGエネルギー株式会社製「AFソルベント6号」。
大豆油:日清オイリオグループ株式会社製「日清大豆白絞油」。
リノール酸:和光純薬工業株式会社製。
オレイン酸:和光純薬工業株式会社製。
イソステアリン酸:高級アルコール工業株式会社製。
ラウリン酸:和光純薬工業株式会社製。
エステルワックス:株式会社加藤洋行製「カルナバワックスC1」。
ソルビタンモノオレート:和光純薬工業株式会社製。
グリセリン:阪本薬品工業株式会社製。
水酸化ナトリウム:和光純薬工業株式会社製。
硫酸マグネシウム:和光純薬工業株式会社製。
Mwは重量平均分子量を示す。
【0054】
(アルキド樹脂Aの合成)
アルキド樹脂は、大豆油「日清大豆白絞油」(日清オイリオグループ株式会社製)とグリセリン(阪本薬品工業株式会社製)をエステル交換反応させ、これにテレフタル酸(和光純薬工業株式会社製)を反応させて製造した。反応温度200~300℃、アルキド樹脂の酸価が20以下になるまで反応を進行させた。重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー法(標準ポリスチレン換算)により測定したところ、3000であった。
【0055】
(ゲル化アルキド樹脂の合成)
上記のアルキド樹脂をアルミニウムエチルアセトアセテートジイソプロピレート「ALCH」(川研ファインケミカル株式会社製)とともに加熱反応させることでゲル化した。反応温度100~200℃、アルキド樹脂の酸価が10以下になるまで反応を進行させた。重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー法(標準ポリスチレン換算)により測定したところ、15000であった。
【0056】
(評価)
実施例及び比較例のインクについて、以下の方法により評価を行った。これらの評価結果を各表に示す。
「マスター滲み」
各インクを、孔版印刷用マスター「RISOマスターEタイプAS(理想科学工業株式会社製)」の和紙上に0.2g/cm2で塗布して、23℃で1週間放置した。その後、顔料成分及び溶剤成分の展開を目視で観察し、以下の基準で評価した。
顔料成分の展開は、インク塗布領域の輪郭から、顔料成分が滲み出て着色することで確認される。また、溶剤成分の展開は、インク塗布領域の輪郭から、溶剤成分が滲み出て透明又は黄色に変質ないし着色することで確認される。
AA:ほとんど展開しない。
A:展開するが、顕著ではない。
C:展開が顕著である。
【0057】
「貯蔵安定性」
各インクを作製後に、各インクを密閉容器内で50℃で4週間放置した。放置前後のインクの状態を目視で確認した。また、粘度を測定し、下記式より粘度変化率を算出した。以下の基準で、貯蔵安定性を評価した。
粘度変化率=(1-放置後粘度/初期粘度)×100
AA:インクの分離がなく、粘度変化率の絶対値が10%以内である。
A:インクの分離がなく、粘度変化率の絶対値が10%超過20%以内である。
B:インクの分離がなく、粘度変化率の絶対値が20%超過30%以内である。
C:インクが完全に分離している。
【0058】
【0059】
【0060】
【0061】
各表に示す通り、各実施例のインクは、顔料成分及び溶剤成分のマスター滲みを防止することができ、また、貯蔵安定性も良好であった。
実施例1~4は、油相のリノール酸の配合量がこの順で多くなっている。
実施例1~4から、リノール酸量が多い方が、顔料成分のマスター滲みがより防止されることを確認できる。
また、実施例1~4から、リノール酸量が少ない方が、貯蔵安定性がより改善されることを確認できる。
実施例5は、実施例3に対して、水相に水酸化ナトリウムをさらに添加したものであり、貯蔵安定性をより改善することができた。
実施例6~8から、高級脂肪酸の種類が異なる場合でも、各評価が良好であることが分かる。
実施例9は、実施例2に対して、油相にエステルワックス、水相に水酸化ナトリウムをさらに添加したものであり、顔料成分のマスター滲みをより防止し、また、貯蔵安定性をより改善することができた。
【0062】
比較例1は、油相に高級脂肪酸が配合されない例であり、顔料成分のマスター滲みが顕著に発生した。
比較例2は、低分子量のアルキド樹脂Aを用いた例であり、溶剤成分のマスター滲みが顕著に発生した。
比較例3は、比較例2に対し、油相にエステルワックス、水相に水酸化ナトリウムをさらに添加したものであるが、溶剤成分のマスター滲みは改善されなかった。
【0063】
実施例10、11、12は、それぞれ実施例3、5、9に対して、水相の硫酸マグネシウム量をより多く配合したものである。これより、水相の硫酸マグネシウム量は、1質量%と少ない場合においても十分な効果を確認することができた。
比較例4、5、6は、それぞれ比較例1、2、3に対して、水相の硫酸マグネシウム量をより多く配合したものである。これより、水相の硫酸マグネシウム量をより多く配合しても、油相にアルキド樹脂及び高級脂肪酸の両方が含まれない場合は、十分な効果が得られないことを確認できる。
比較例7は、低分子量のアルキド樹脂Bを用いた例であり、溶剤成分のマスター滲みが発生し、貯蔵安定性も低下した。