(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-25
(45)【発行日】2022-03-07
(54)【発明の名称】付加製造方法及び付加製造システム
(51)【国際特許分類】
B22F 10/85 20210101AFI20220228BHJP
B22F 12/90 20210101ALI20220228BHJP
B29C 64/393 20170101ALI20220228BHJP
B29C 64/10 20170101ALI20220228BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20220228BHJP
B33Y 50/02 20150101ALI20220228BHJP
G01N 25/72 20060101ALI20220228BHJP
【FI】
B22F10/85
B22F12/90
B29C64/393
B29C64/10
B33Y10/00
B33Y50/02
G01N25/72 K
(21)【出願番号】P 2018129014
(22)【出願日】2018-07-06
【審査請求日】2021-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】特許業務法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 摂
(72)【発明者】
【氏名】小林 徳康
(72)【発明者】
【氏名】辻 大輔
(72)【発明者】
【氏名】菅原 あずさ
(72)【発明者】
【氏名】千星 淳
【審査官】瀧口 博史
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-003082(JP,A)
【文献】特開2018-100954(JP,A)
【文献】特開2016-060063(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 3/00
B22F10/85
B22F12/90
B33Y10/00
B33Y50/02
B29C64/10
B29C64/393
G01N25/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の層
を一層ずつ重ね合わせることにより構造物を製造する付加製造方法であって、
前記構造物を構成する前記複数の層のうちのいずれかの、少なくとも一層の第1の層を形成する第1の層形成ステップと、
前記第1の層の上に少なくとも一層の第2の層を形成する第2の層形成ステップと、
前記第2の層形成ステップの後に、前記第1の層内
に設定された表層検査可能深さ位置よりも浅い位置の表層検査領域内の欠陥を検査する表層検査ステップと、
前記表層検査ステップによって得られた検査結果に基づいて再検査が必要か否かを判定する判定ステップと、
前記判定ステップによって再検査が必要と判定されたときに、前記第1および第2の層内の欠陥を再検査する再検査ステップと、
を有すること、を特徴とする付加製造方法。
【請求項2】
前記再検査ステップは、前記表層検査ステップと異なる条件で前記第1および第2の層内の欠陥を検査すること、を特徴とする請求項1に記載の付加製造方法。
【請求項3】
前記再検査ステップにおいて設定される再検査可能最大深さ位置は、前記表層検査ステップにおいて設定される表層検査可能深さ位置と同じか、または、より深い位置とすること、を特徴とする請求項2に記載の付加製造方法。
【請求項4】
前記再検査ステップにおいて設定される再検査可能最大深さ位置は、前記表層検査可能深さ位置よりも一層分以上深い位置とすること、を特徴とする請求項3に記載の付加製造方法。
【請求項5】
前記表層検査ステップの後で前記再検査ステップの前に少なくとも一層の第3の層を形成する第3の層形成ステップをさらに有すること、を特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の付加製造方法。
【請求項6】
前記表層検査ステップおよび前記再検査ステップの少なくとも一方は
、
頂面側から加熱する検査加熱ステップと、
前記検査加熱ステップの後に、前記頂面の温度の分布を非接触で測定する温度測定ステップと、
前記温度測定ステップで得られた温度の分布またはその温度の時間変化率の分布を表示する表示ステップと、
を含むこと、を特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載の付加製造方法。
【請求項7】
前記層形成ステップそれぞれが、前記頂面側から加熱する層形成加熱ステップを含み、
前記表層検査ステップの前記検査加熱ステップは、前記層形成加熱ステップを兼ねること、を特徴とする請求項6に記載の付加製造方法。
【請求項8】
前記第2の層形成ステップの後で前記再検査ステップの前に、頂面を平滑化する平滑化ステップをさらに有すること、を特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれか一項に記載の付加製造方法。
【請求項9】
複数の層
を一層ずつ重ね合わせることにより構造物を製造する付加製造システムであって、
所定位置
に層を付加して形成する層形成用ヘッドと、
前記構造物を構成する前記複数の層の一部の複数の層が形成された段階
で頂面側から予め定めた検査領域内の欠陥を検査する検査装置と、
前記層形成用ヘッドおよび前記検査装置を制御する処理装置と、
を備え、
前記処理装置は、
前記層形成用ヘッドを制御して、
前記構造物を構成する前記複数の層のうちのいずれかの、少なくとも一層の第1の層を形成させる第1の層形成部と、
前記層形成用ヘッドを制御して、前記第1の層の上に少なくとも一層の第2の層を形成させる第2の層形成部と、
前記第1および第2の層を形成した後に、前記検査装置を制御して、前記第1の層内
に設定された表層検査可能深さ位置よりも浅い位置の表層検査領域内の欠陥を検査させる表層検査部と、
前記表層検査部によって得られた検査結果に基づいて再検査が必要か否かを判定する判定部と、
前記判定部で再検査が必要と判定されたときに、前記検査装置を制御して、前記第1および第2の層内の欠陥を再検査させる再検査部と、
を有すること、を特徴とする付加製造システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、粉末状などの材料を塗布または載置などすることによって層を一層ずつ積層する付加製造技術に関する。
【背景技術】
【0002】
三次元形状の構造物を製造する技術には、粉末状などの材料で構成された薄い層を一層ずつ付加し、接合する製造技術、いわゆるアディティブ・マニュファクチャリング(AM:additive manufacturing、以下、単に「付加製造」と記す)」がある。付加製造技術により、内部の形状が複雑な構造物を比較的容易に製造することができ、例えば、複数の部品を接合する場合に比べて、少ない部品数で、三次元形状の構造物を製造することができる。また、鋳造に比べて寸法精度の高い構造物を製造することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
付加製造技術によって製造された構造物の健全性を検査する技術も開発されている。例えば、レーザ光を照射して、層の内部を、その厚さ方向に伝搬する弾性波、いわゆるバルク波を生じさせ、当該バルク波の伝搬により層の表面に生じた変動を、レーザ干渉計により計測する手法が提案されている。しかし、そのような技術において、構造物の頂面から下側に伝搬するバルク波は、構造物(すなわち複数の層)の内部に空洞等の空間があると、当該空間を画定する面において反射されて最も上側の層の表面に戻るため、当該空間より下側には伝搬することができず、当該空間より下側にあるきずについて、調べることができないという問題がある。
【0005】
付加製造(AM)技術により三次元形状の構造物を製造する場合、当該構造物には、内部の構造について強度を保証することが求められる場合がある。また、当該構造物には、溶接や鋳造により製造された構造物に比べて広い領域について検査が要求される傾向がある。付加製造により製造する過程においては、製造中の構造物の所定の部分について「きず(flaw)」を調べ、当該きずについて所定の基準に従って欠陥(defect)であるか否かを判定する検査、いわゆる「インプロセス検査」を行うことが求められている。
【0006】
付加製造技術により製造される構造物は、多数の層からなるため、製造中の構造物に一つの新たな層を付加するたびに、当該層の表面や当該層の内部を検査したのでは、検査効率が悪く、構造物の製造に時間を要するという問題がある。また、構造物のうち最も上側にある頂面を通して一度にバルク波探傷等の非破壊検査を行ったのでは、構造物のうち弾性波等が到達しない領域が生じ、当該領域については、欠陥等のきずが検出されないという問題も生じる。
【0007】
本発明の実施形態は、上記に鑑みてなされたものであって、付加製造技術において、欠陥の有無を検査しながら、高精度で効率的に構造物を製造できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の実施形態の付加製造方法は、複数の層を一層ずつ重ね合わせることにより構造物を製造する付加製造方法であって、前記構造物を構成する前記複数の層のうちのいずれかの、少なくとも一層の第1の層を形成する第1の層形成ステップと、前記第1の層の上に少なくとも一層の第2の層を形成する第2の層形成ステップと、前記第2の層形成ステップの後に、前記第1の層内に設定された表層検査可能深さ位置よりも浅い位置の表層検査領域内の欠陥を検査する表層検査ステップと、前記表層検査ステップによって得られた検査結果に基づいて再検査が必要か否かを判定する判定ステップと、前記判定ステップによって再検査が必要と判定されたときに、前記第1および第2の層内の欠陥を再検査する再検査ステップと、を有すること、を特徴とする。
【0009】
また、本発明の実施形態の付加製造システムは、複数の層を一層ずつ重ね合わせることにより構造物を製造する付加製造システムであって、所定位置に層を付加して形成する層形成用ヘッドと、前記構造物を構成する前記複数の層の一部の複数の層が形成された段階で頂面側から予め定めた検査領域内の欠陥を検査する検査装置と、前記層形成用ヘッドおよび前記検査装置を制御する処理装置と、を備え、前記処理装置は、前記層形成用ヘッドを制御して、前記構造物を構成する前記複数の層のうちのいずれかの、少なくとも一層の第1の層を形成させる第1の層形成部と、前記層形成用ヘッドを制御して、前記第1の層の上に少なくとも一層の第2の層を形成させる第2の層形成部と、前記第1および第2の層を形成した後に、前記検査装置を制御して、前記第1の層内に設定された表層検査可能深さ位置よりも浅い位置の表層検査領域内の欠陥を検査させる表層検査部と、前記表層検査部によって得られた検査結果に基づいて再検査が必要か否かを判定する判定部と、前記判定部で再検査が必要と判定されたときに、前記検査装置を制御して、前記第1および第2の層内の欠陥を再検査させる再検査部と、を有すること、を特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の実施形態によれば、付加製造技術において、欠陥の有無を検査しながら、高精度で効率的に構造物を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】第1の実施形態の付加製造システムの全体構成を示す模式図である。
【
図2】第1の実施形態の付加製造システムのうち付加製造機の要部構成を示す斜視図である。
【
図3】第1の実施形態の付加製造システムのうち、付加製造機の要部および層表面温度測定装置を示す斜視図である。
【
図4】第1の実施形態の付加製造方法の検査ステップで用いられ得る温度変化速度測定法の原理説明図であって、表面加熱直後の温度分布を示す。
図4(a)は断面図であり、
図4(b)は平面図である。
【
図5】第1の実施形態の付加製造方法の検査ステップで用いられ得る温度変化速度測定法の原理説明図であって、
図4の状態から所定時間経過後の温度分布を示す。
図5(a)は断面図であり、
図5(b)は平面図である。
【
図6】第1の実施形態の付加製造方法の検査ステップで用いられ得る温度変化速度測定法の原理説明図であって、
図5の状態から所定時間経過後の温度分布を示す。
図6(a)は断面図であり、
図6(b)は平面図である。
【
図7】
図4ないし
図6の温度分布表示における凡例を表す図である。
【
図8】第1の実施形態の処理装置の機能を示す機能ブロック図である。
【
図9】第1の実施形態の付加製造方法の手順を示すフロー図である。
【
図10】第1の実施形態の付加製造方法の表層検査ステップの状況を示す断面図である。
【
図11】第1の実施形態の付加製造方法の再検査ステップの状況を示す断面図である。
【
図12】第2の実施形態の付加製造方法の手順を示すフロー図である。
【
図13】第2の実施形態の付加製造方法の再検査ステップの状況を示す断面図である。
【
図14】第3の実施形態の付加製造システムのうち付加製造機の要部構成を示す斜視図である。
【
図15】第3の実施形態の付加製造方法における平滑化ステップで、レーザ加工により頂面にある凹凸を除去する状況を示す模式的断面図である。
【
図16】第3の実施形態の付加製造方法における平滑化ステップで、空気を吹き付けることにより頂面に付着した塵埃を除去する状況を示す模式的断面図である。
【
図17】第4の実施形態の付加製造システムのうち付加製造機の要部構成を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下に説明する実施形態により、本発明が限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。
【0013】
〔第1の実施形態〕
(付加製造システムの全体構成)
まず、本実施形態の付加製造方法を行うための付加製造システムについて、
図1を参照して説明する。
図1は、第1の実施形態の付加製造システムの全体構成を示す模式図である。
【0014】
図1に示すように、付加製造システム1は、複数の層が積層された三次元形状の構造物を製造するためのシステムであり、付加製造機(AM machine)10と、付加製造機10を制御可能な処理装置100と、付加製造機10を制御するためのソフトウェアや、構造物の形状及び製造工程に関する情報を示すデータを格納可能な記憶装置110を有する。付加製造機10は、三次元形状の構造物を造形するものであり、「造形装置」とも呼称される。
【0015】
本実施形態において、付加製造システム1は、付加製造機10の操作者の入力を受け付ける入力装置120と、当該操作者に向けて各種の情報を表示する表示装置130とを有する。付加製造機10、処理装置100、記憶装置110、入力装置120及び表示装置130は、各種のデータを伝送可能な通信線140を介して電気的且つ物理的に接続されている。処理装置100は、通信線140を介して、付加製造機10、記憶装置110、入力装置120及び表示装置130と、各種のデータの授受が可能に構成されている。
【0016】
入力装置120には、例えば、キーボードやマウス、タッチパネルが用いられ、上述した付加製造機10の操作者により操作される。表示装置130には、例えば、コンピュータ・ディスプレイが用いられる。これら処理装置100、記憶装置110、入力装置120及び表示装置130は、一体に結合されて付加製造機10の前面10aに配置されることも好適である。
【0017】
処理装置100には、例えば、コンピュータにおいて各種の演算処理を行う中央演算処理装置及び主記憶装置が用いられる。また、記憶装置110は、ハードディスクやEPROMを用いて実現することができ、各種のプログラム及びデータが予め格納されている。記憶装置110には、付加製造機10により製造される構造物の三次元形状や、当該構造物を形成する複数の層の形状を示すデータ(以下、単に「三次元データ」と記す)や、当該構造物の製造過程に関するデータが、予め格納されている。記憶装置に格納されているデータの詳細については、後述する。
【0018】
(付加製造機の構成)
次に、本実施形態の付加製造機の要部構成について、
図2を参照して説明する。
図2は、第1の実施形態の付加製造システムのうち付加製造機の要部構成を示す斜視図である。なお、
図2等において、矢印X,Y,Zは、付加製造機10の座標系を示している。本実施形態において、矢印Xは、水平方向のうち付加製造機10の前面10aに平行な所定の向きを示す。矢印Zは、鉛直方向上側を示し、以下、単に「上側」と記す。また、矢印Yは、水平方向のうち矢印Z及び矢印Xに垂直な向きを示している。また、構造物を形成する複数の層が積層される方向のうち基盤11に向かう向きを、特に「深さ方向」と記して矢印Dで示す。本実施形態において深さ方向(矢印Dの方向)は、鉛直方向下側と一致している。
【0019】
付加製造機10は、基盤11を有し、当該基盤11上に複数の層が積層されて、三次元形状の構造物5が形成される。なお、以下の説明において、付加製造機10が製造する構造物、すなわち複数の層が積層され且つ互いに接合された三次元形状の構造物を、単に「構造物」と記す。
【0020】
本実施形態においては、基盤11の表面11a上に、当該複数の層のうち最初の層が形成される。基盤11は、ビルド・プラットフォーム(build platform)とも呼称される。なお、基盤11の表面11a上に、構造物5を支持するための部材、いわゆるサポート(図示せず)を配置し、当該サポート上に最初の層を形成するものとしてもよい。
【0021】
付加製造機10のうち基盤11より鉛直上側には、層を形成可能な空間12、すなわち構造物5を製作可能な空間12が配置されている。当該空間12を、以下に「層形成空間」12と記し、その外縁を、
図1、
図2等に破線で示す。層形成空間12は、密閉された空間であるものとしてもよい。層形成空間12は、ビルド・スペース(build space)とも呼称される。
【0022】
付加製造機10は、基盤11の表面11a又は固化した層6上に一つの層を形成して構造物5に一層ずつ新たな層8を付加するためのヘッド(以下、層形成用ヘッドと記す)20を有する。層形成用ヘッド20は、基盤11より上側にある層形成空間12内に複数の層を形成可能である。層を構成する材料には、例えば、金属や合成樹脂が用いられる。本実施形態において、複数の層は、同一の材料で構成されている。なお、複数の層のうち、所定の層については、その材料を異ならせることも可能である。
【0023】
層形成用ヘッド20は、基盤11又は他の層の上側に材料を供給すると共に当該材料を溶融させる。溶融した材料が固化することにより、新たな層が形成される。当該新たな層は、材料が固化する際に、その下側にある他の層と接合される。粉末状の材料の供給と、当該材料の加熱、具体的には、熱源としてのレーザ光の照射を、同時に行って新たな層を形成することが好適である。
【0024】
なお、材料を溶融させるための熱源として、レーザ光に代えて、電子ビームを用いることも可能である。材料を溶融させるための熱源には、必要な熱量集光径及び輝度を得られるものであれば、様々な種類の光源を用いることが可能である。また、層形成用ヘッド20は、不活性ガスを吹き付けながら、他の層の上側に溶融した材料を供給することも好適である。
【0025】
このようにして、層形成用ヘッド20は、製造中の構造物5のうち、基盤11の上側にある固化した層のうち最も上側にある層の上側の表面である「頂面」7上に、材料を供給すると共に溶融させて新たな一つの層8を形成し、当該層を構造物5に付加する。なお、基盤11の表面11a又は固化した層の頂面7上に新たな一つの層8を形成して当該層を構造物5に付加するステップを、以下に「層形成ステップ」と記す。
【0026】
なお、複数の層が積層された製造中の構造物のうち、最も上側(矢印Z)にある固化した層6の頂面7から、矢印Dで示す深さ方向に向かう距離を、以下の説明において、単に「深さ」と記す。
【0027】
本実施形態の層形成ステップにおいては、層形成用ヘッド20は、他の層の頂面7上に材料を供給すると同時に、集光した熱源により当該材料を溶融させて層を形成し、構造物に付加する「ダイレクト・エナジー・デポジション」(Direct energy deposition、いわゆる指向性エネルギー堆積)を行う場合について説明する。本実施形態において、金属粉末の噴射と同時にレーザ光の照射を行う「レーザー・メタル・デポジション」を行って頂面7上に新たな層8を形成して構造物5に付加する。
【0028】
本実施形態の付加製造機10において、層形成用ヘッド20は、基盤11の上側を、三次元的に移動可能に構成されており、具体的には、矢印X,Y、Zのそれぞれに沿って移動可能に構成されている。付加製造機10は、層形成用ヘッド20を移動させるための機構(図示せず)を有する。層形成用ヘッド20は、固化した他の層の頂面7の上側に位置しており、当該頂面7に沿って移動しながら、新たな層を構成する材料を供給すると共に当該材料を溶融させる。
【0029】
新たに付加される層のうち、層形成用ヘッド20により材料の供給及び加熱がなされている部分を、以下に「層加工点」と記して、
図1、
図2等にハッチングで示す。層形成用ヘッド20の移動に伴って層加工点も移動する。層加工点を所定の三次元データに従って移動させることにより、層形成用ヘッド20は、所定の形状の層を付加することができる。層形成用ヘッド20すなわち層加工点の移動と、材料の供給及び加熱は、処理装置100(
図1参照)により制御される。
【0030】
以上のように構成された付加製造機10は、層形成用ヘッド20により層加工点8aを、他の層の頂面7に沿って移動させる、いわゆる「走査」を行うことにより、当該頂面7上に新たな層を付加的に形成することができる。このような層を一層ずつ付加する、すなわち層の形成を繰り返し行うことにより、付加製造機10は、複数の層が積層された三次元形状の構造物を製造する。
【0031】
付加製造機10により構造物を製造する過程すなわち構造物を形成する層を、一層ずつ付加する過程においては、最も上側にある新しく付加された層を含む所定の領域について、きずを調べ、当該きずについて所定の基準に従って欠陥であるか否かを判定する「インプロセス検査」を行う必要がある。
【0032】
ここで、「きず」とは、検査で検出可能な最小の大きさ以上の大きさを有する構造物中のき裂、ひび、組織に内在する欠陥(内在欠陥)、又は空隙等を意味し、「欠陥」とはこれらの「きず」のうち構造物に悪影響を及ぼす恐れのあるものを意味する。すなわち、例えば、「欠陥」はその代表長さなどの値が予め定めた閾値よりも大きい「きず」である。ただし、「きず」を「欠陥」と判定するための閾値を検査で検出可能な最小の大きさとすることで、全ての検査可能な「きず」を「欠陥」とすることも可能であり、各実施形態は、このように全ての「きず」が「欠陥」となる場合にも適用可能である。
【0033】
インプロセス検査には、層の形成・付加に関係しない物質、例えば、水や油等の接触媒質や、磁粉、浸透液、現像剤を、使用しない方法を用いることが必要である。また、層の表面だけでなく、層の内部にあるきず、例えば、層の表面から数mm程度の深さ位置にある内在欠陥等のきずを検出可能な探傷技術を用いる必要がある。このような探傷技術には、コイルを用いて導体に、時間的に変化する磁場を与え、導体に生じた渦電流が、きず等によって変化することを利用してきずの検出を行う渦電流探傷がある。また、超音波を弾性体中に伝搬させたときに当該弾性体が示す音響的性質を利用して弾性体の表面又は弾性体内にあるきずを検出する超音波探傷がある。
【0034】
超音波探傷は、弾性体の表面に衝撃力を与えることにより、弾性体の表面に沿って伝搬する弾性波(以下、表面波と記す)や、弾性体の表面から深さ方向に伝搬する弾性波(以下、バルク波と記す)を発生させる。このような弾性波が、欠陥等のきず、詳細には、きずを画定する内面で反射された反射波を、プローブ等により検出する。このような超音波探傷には、弾性体の表面にレーザ光を照射することにより、当該弾性体に衝撃力を与える、いわゆるレーザ超音波探傷がある。なお、衝撃力を与える方法には、空気の力や電磁力を用いる方法もある。
【0035】
上述の渦電流探傷や超音波探傷は基本的に、超音波を受信したり渦電流を計測したりするプローブを用いる必要がある。しかし、高温環境で動作している付加製造機10の内部には、そのプローブ挿入が困難な場合がある。そこで、プローブを接近させずに遠隔目視で検査を行う手法としてサーモグラフィ法があり、それを適用することもできる。サーモグラフィ法とは被検査対象物の表面温度を測定するもので、欠陥が内在する、表面に割れが存在する等、構造的に不連続な部位が存在すると、温度にも不連続性が生じることに着目して、検査を行うものである。
【0036】
例えば、繰り返し荷重をかけることで応力集中部で局所的な温度変化が発生し、それが表面温度に現れるため、表面温度を測定することで、応力集中部を検出することができる。
【0037】
また、板厚が一定の対象の中で局所的にある部分が減肉している場合、表面を瞬間的に熱すると、板厚が一定の部分と減肉した部分とで温度変化速度に差が生じることが知られている。一般的に、空気中で温度変化測定を行えば、減肉した部分の方が冷めにくい(温度変化速度が小さい)。高フレームレートのサーモカメラである空間の温度分布時刻歴を測定し、各位置での時間的差分を出すことで温度変化速度の空間分布が算出される。例えば温度変化速度が周辺と異なる部位が得られた場合、そこが欠陥部と判断することができる。この手法は、サーモグラフィ法の中でも特に一般にアクティブサーモグラフィ法と呼称する。
【0038】
図3は、第1の実施形態の付加製造システムのうち、付加製造機の要部および層表面温度測定装置を示す斜視図である。
図3に示すように、全体を層表面温度測定装置40の視界となるように設定することで、頂面7全体の層表面温度の測定が可能となる。
【0039】
図4~
図6は、第1の実施形態の付加製造方法の検査ステップで用いられ得る温度変化速度測定法の原理を説明する図であって、表面加熱後の温度分布の時間変化を示す。
図4~
図6それぞれの図(a)は断面図であり、図(b)は平面図である。ここでは、頂面7の上方から所定の短時間だけ、均一に加熱するものとする。
図4は表面加熱直後の温度分布を示す。
図5は、
図4の状態から所定時間経過後の温度分布を示し、
図6は、
図5の状態から所定時間経過後の温度分布を示す。
図7は、
図4ないし
図6の温度分布表示における凡例を表す図である。
【0040】
図4~
図6を用いて、具体的なアクティブサーモグラフィ法の例を説明する。対象は欠陥9a、9bを内在する構造物である。
【0041】
図4は、被検査対象である頂面7に熱源で高温を負荷した直後の状況を示し、熱エネルギーは頂面7に集中している。そのため層表面温度測定装置40で観察しても一様な高い温度の分布の結果が得られるのみである。
【0042】
図5は、頂面7に高温が負荷されてから少しだけ時間が経過した後の温度分布であり、熱エネルギーは徐々に内部に伝搬していく。通常、熱エネルギーは深さ方向に一様に伝搬、拡散していくが、欠陥9aのような比熱や熱伝導率の異なる領域が存在すると、そこで拡散速度が変化する。例えば欠陥9aが空隙であって熱伝導率の小さい領域であれば、熱の拡散速度が低下し、欠陥9aの上部に熱エネルギーが多く留まる。その結果、頂面7では高温領域が保持される。そのため層表面温度測定装置40で観察すると
図5に示すように、欠陥9aの上面のみ温度が高い状態となる。
【0043】
図6は
図5からさらに時間が経過した後の温度分布であり、熱エネルギーはさらに内部に伝搬していく。ここで熱エネルギーが欠陥9b上に到達した場合も欠陥9aと同様の現象が起こり欠陥9bの上方の
図6に温度変化を生じる。
【0044】
これらの現象により、異なる位置の異なる深さ位置に存在する欠陥を層表面温度測定装置40によって検出可能である。これらの結果はこの温度分布単体で用いてもよいが、
図4(b)から
図6(b)のような過渡変化状態を複数の時間で撮影し、その時間的な差分を取ることで、より明瞭に温度変化分布が得られる場合もある。差分を取った場合、得られる結果は温度分布ではなく、温度変化量分布や温度変化速度分布に等しいものとなる。
【0045】
アクティブサーモグラフィ法は上述したとおり、被検査対象への加熱源を備えなければならない。付加製造機10は、それ自体が層加工を行うための熱源を備えており、それを走査しながら層形成を行うため、層加工を行うための熱源を検査用の熱源として用いることもできる。この場合、層形成ステップの中に表層検査ステップを内包させる、つまり層形成ステップそのものを層検査ステップにすることが可能である。もちろん、層加工用の熱源とは別に、パルス化したレーザやフラッシュランプ等別の熱源を用意してもよい。
【0046】
(付加製造方法における検査ステップおよび検査領域の設定手法)
図8は、第1の実施形態の処理装置の機能を示す機能ブロック図である。処理装置100は、その機能として、第1の層形成部101と、第2の層形成部102と、表層検査部103と、再検査部104と、判定部105とを含む。
【0047】
図9は、第1の実施形態の付加製造方法の手順を示すフロー図である。以下、
図9に沿って、第1の実施形態の付加製造方法の手順を説明する。この付加製造方法は、上述の付加製造システム1を用いて実施される。また、ここに示す一連の手順は、記憶装置110に予め格納された三次元データや製造過程に関するデータに基づいて、処理装置100により制御される。
【0048】
初めに、第1の層形成部101により、付加製造システム1を用いて、基盤11より上側において固化した他の層の頂面7上に新たな少なくとも一層の第1の層を付加する第1の層形成ステップS11が行われる。つぎに、第1の層形成ステップS11の後に、第2の層形成部102により、さらに、第1の層形成ステップS11で形成された層の頂面7上に新たな少なくとも一層の第2の層を付加する第2の層形成ステップS12が行われる。
【0049】
なお、複数の層を形成する場合に、第1の層形成ステップS11の最初に行われるステップにおいては、基盤11の表面11a又は基盤11上に配置された構造物を支持するためのサポート上に最初の層が形成される。第1および第2の層形成ステップS11、S12は、層形成用ヘッド20及びこれを移動させる走査機構(図示せず)により行われる。
【0050】
つぎに、表層検査部103により、表層検査ステップS13が行われる。
【0051】
図10は、第1の実施形態の付加製造方法の表層検査ステップS13の状況を示す断面図である。
【0052】
表層検査ステップS13は、表層よりも内部であってかつ予め定めた表層検査可能深さ位置D1aよりも浅い位置に生じた欠陥を検出するためものである。
図10に示すように、表層検査ステップは表層から実施され、頂面7を欠陥検出が可能な最小深さとし、表層検査可能深さ位置D1aを欠陥検出が可能な最大深さとした範囲に存在する欠陥9を検出可能とするものである。ここで、検査手法としては上述したアクティブサーモグラフィ法を用いてもよいし、それ以外の手法を用いてもよい。ここで、表層検査可能深さ位置D1aは予め定めて処理装置100に入力する機能を設けてもよいし、材料や頂面の形状、層の厚さ、層形成速度等によってデータベース化したものを自動で引用してもよいし、施工条件をモニタリングしながらそれに合わせて適切な値を自動設定する、もしくは外部入力する等の施工中に設定を変化させる手段を設けてもよい。
【0053】
つぎに、表層検査ステップS13の結果に基づいて、判定部105により、欠陥9(異常)の有無が判断される(判定ステップS14)。ここで、判定ステップS14は、後述する再検査ステップS15を行うべきか否かを判定するものであるから、たとえば、欠陥9の有無が疑わしい場合は欠陥9が在るように判定してもよい。
【0054】
判定ステップS14は、例えば処理装置100等に内包され予め定められた判定基準によって判定を下してもよいし、表層検査ステップS13の結果を表示装置130に表示し、オペレータ等の装置を操作する人間に判断をゆだねてもよい。また、予め定めた判定基準そのものがない場合もしくは判定基準に記載されていない項目の変化が生じた場合、表層検査ステップS13の結果の傾向を機械学習的に評価し、傾向が異なる結果が得られた場合に次の行動を決定することにしてもよい。その機械学習装置は、処理装置100に内包することもできる。また、表層検査ステップS13の結果および、判定ステップS14の判定履歴等はその全てまたは一部を記憶装置110に保持することも可能である。
【0055】
表層検査ステップS13の結果に基づいて異常がないと判定された場合(判定ステップS14でYESの場合)、第1の層形成ステップS11に戻る。なお、変形例として、このとき、第1の層形成ステップS11に戻る代わりに第2の層形成ステップS12に戻るようにしてもよい。
【0056】
表層検査ステップS13の結果に異常があった場合(判定ステップS14でNOの場合)は、再検査部104によって再検査ステップS15が行われる。
【0057】
なお、変形例として、たとえば、表層検査ステップS13の結果で異常の程度が高い場合に、再検査ステップS15を行わずに、動作を中止して、作業員などが異常の原因を検討するようにしてもよい。
【0058】
図11は、第1の実施形態の付加製造方法の再検査ステップS15の状況を示す断面図である。再検査ステップS15は、再検査可能最小深さ位置D2bを欠陥検出が可能な最小深さ位置とし、再検査可能最大深さ位置D2aを欠陥検出が可能な最大深さ位置とした範囲に存在する欠陥9を検出可能とするものである。ここで、検査手法としては上述したアクティブサーモグラフィ法を用いてもよいし、それ以外の手法として超音波探傷や渦電流探傷を用いてもよい。
【0059】
ここで、再検査ステップS15は複数回もしくは複数手法を組合せて行うこともできる。
【0060】
再検査可能最小深さ位置D2bおよび再検査可能最大深さ位置D2aの設定について述べる。再検査ステップS15は、表層検査ステップS13で疑わしい結果が得られた場合にその確度を高めるために行うものなので、再検査可能最大深さ位置D2aは、表層検査可能深さ位置D1aと同じ、もしくはそれより深い位置に設定する必要がある。特に、再検査ステップS15における再検査を確実にするため、再検査可能最大深さ位置D2aは、表層検査可能深さ位置D1aの位置よりも、第1の層形成ステップS11で形成される層の一層分以上深い位置とすることが好ましい。再検査可能最小深さ位置D2bは、かならずしも頂面7と同じにする必要はないが、再検査ステップS15の趣旨を鑑みると頂面7に近いことが望ましい。
【0061】
つぎに、再検査ステップS15の結果に基づいて、欠陥9(異常)の有無が判断される(判定ステップS16)。判定ステップS16は、上述の判定ステップS14と同様に、処理装置100等に内包され予め定められた判定基準によって判定を下してもよいし、オペレータ等の装置を操作する人間に判断をゆだねてもよい。また、再検査ステップS15の結果の傾向を機械学習的に評価し、傾向が異なる結果が得られた場合に次の行動を決定することにしてもよい。
【0062】
再検査ステップS15の結果に異常があった場合(判定ステップS16でNOの場合)は、動作を中止する。この場合は、作業員などが異常の原因を検討し、その異常原因を取り除くこと等の作業が必要となる。
【0063】
再検査ステップS15の結果に異常がないと判定された場合(判定ステップS16でYESの場合)、さらに、予定されている動作が完了したか否かを判定する(判定ステップS17)。予定されている動作が完了していない場合(判定ステップS17でNOの場合)は、第1の層形成ステップS11に戻る。なお、変形例として、このとき、第1の層形成ステップS11に戻る代わりに第2の層形成ステップS12に戻るようにしてもよい。
【0064】
予定されている動作が完了した場合(判定ステップS17でYESの場合)は、動作を終了する。
【0065】
上記の付加製造方法において、第1および第2の層形成ステップS11、S12を行って付加された新たな層が完全に固化した後に、表層検査ステップS13や再検査ステップS15を行ってもよいが、第1および第2の層形成ステップS11、S12を行って付加された新たな層の一部と、表層検査ステップS13や再検査ステップS15が時間的に並行して行われるものとしてもよい。
【0066】
以上説明した第1の実施形態によれば、付加製造技術において、付加製造の途中で、または付加製造と並行して欠陥の検査を行うことができ、また、表層検査ステップと再検査ステップとを組み合わせることにより、高精度で効率的に構造物を製造することができる。
【0067】
〔第2の実施形態〕
第2の実施形態は第1の実施形態の変形であって、
図1~
図3に示す付加製造システムの構成は第1の実施形態と共通である。
【0068】
図12は、第2の実施形態の付加製造方法の手順を示すフロー図である。
【0069】
図12に示すように、この第2の実施形態では、表層検査ステップS13の結果に基づいて欠陥9が見つかった場合、すなわち判定ステップS14でNOの場合に、再検査ステップS15を行う前に第3の層形成ステップS20が行われる。この第3の層形成ステップS20は、表層検査ステップS13の前の第1および第2の層形成ステップS11,S12と同様のものである。この層形成ステップS20でも、単数または複数の層が形成される。
【0070】
また、
図13は、第2の実施形態の付加製造方法の再検査ステップS15の状況を示す断面図である。この第2の実施形態において、表層検査ステップS13の状況は、第1の実施形態の場合と同様であって、
図10に示すとおりである。
図13に示すように、再検査ステップS15の際は、表層検査ステップS13(
図10)のときの頂面7の上に新たな層が追加されている。
【0071】
このとき、再検査可能最大深さの位置D2aは、層形成前の表層検査可能深さの位置D1aと同じ、もしくはそれより深い位置に設定する必要がある。特に、再検査ステップS15における再検査を確実にするため、再検査可能最大深さ位置D2aは、表層検査可能深さ位置D1aの位置よりも、第1の層形成ステップS11で形成される層の一層分以上深い位置とすることが好ましい。再検査可能最小深さ位置D2bは、表層検査時の頂面7aよりも浅い位置に設けることもできる。一般に頂面近くでは感度が得にくいが、この第2の実施形態では再検査ステップS15の前に表面に近い位置の層が追加されているので感度を高めることができる。なお、この再検査ステップS15で、内部の欠陥検出に有効な超音波探傷、レーザ超音波探傷等を組み合せることもできる。
【0072】
〔第3の実施形態〕
図14は、第3の実施形態の付加製造システムのうち付加製造機の要部構成を示す斜視図である。この第3の実施形態は第1または第2の実施形態の変形である。第3の実施形態の付加製造機10は、平滑化用ヘッド65及び66を有する。
【0073】
平滑化用ヘッド65及び66は、表層検査ステップS13または再検査ステップS15の前に、頂面7の凹凸を除去して平滑化する平滑化ステップを行うためのものである。
【0074】
図15は、第3の実施形態の付加製造方法における平滑化ステップで、レーザ加工により頂面にある凹凸を除去する状況を示す模式的断面図である。
図16は、第3の実施形態の付加製造方法における平滑化ステップで、空気を吹き付けることにより頂面に付着した塵埃を除去する状況を示す模式的断面図である。
【0075】
平滑化用ヘッド65は、レーザ光を発するものであって、
図15に示すように、レーザ加工により頂面7にある凹凸を除去することができる。平滑化用ヘッド65は、パルス状のレーザ光を頂面7に照射することにより、当該頂面7の一部を昇華させて凹凸を除去する、いわゆるレーザ・アブレーションを行うものとすることができる。また、平滑化用ヘッド65は、連続的にレーザ光を頂面7に照射して、当該頂面7を再溶融させるものとしてもよい。また、平滑化用ヘッド65は、エンドミルのように頂面7を機械加工することにより、当該頂面7の凹凸を除去するものとしてもよい。これらの平滑化用ヘッド65の作用により、頂面7は平滑化される。
【0076】
平滑化用ヘッド66は、空気を噴射するものであって、
図16に示すように、空気を吹き付けることにより頂面7に付着した塵埃を除去することができる。平滑化用ヘッド66は、圧縮された空気を頂面7に向けて噴射することにより、頂面7に付着した塵埃、例えば、層を構成する粉末材料を除去するものとすることができる。また、当該平滑化用ヘッド66は、ブラシを備えて、当該ブラシにより粉末材料等の塵埃を除去するものとしてもよい。
【0077】
なお、平滑化ステップは、平滑化用ヘッド65および平滑化用ヘッド66の両方を用いてもよいが、いずれか一方だけを用いてもよい。
【0078】
このような、平滑化用ヘッド65,66は、層形成空間12内に形成可能な頂面7の全てと対向する位置に移動可能に構成することが好ましい。平滑化用ヘッド65,66は、例えば、層形成用ヘッド20と同様に、走査機構により三次元的に移動させるものとしてもよい。
【0079】
平滑化用ヘッド65,66を用いた平滑化ステップを表層検査ステップS13および再検査ステップS15の前に行うことにより、構造物5の内部にある欠陥等のきずの検出精度をより高いものにすることができる。ただし、第1の実施形態では表層検査ステップS13と再検査ステップS15との間に層形成ステップを行わないので、この第1の実施形態の変形として平滑化ステップを行う場合、表層検査ステップS13の直前に平滑化ステップを行っていれば、再検査ステップS15の直前にまた平滑化ステップを行う必要はない。
【0080】
また、第2の実施形態の変形として平滑化ステップを行う場合、表層検査ステップS13および再検査ステップS15それぞれの直前に平滑化ステップを行ってもよいし、表層検査ステップS13の直前または再検査ステップS15の直前のいずれか一方に平滑化ステップを行ってもよい。
【0081】
平滑化ステップを行うことにより、表層検査ステップS13および再検査ステップS15の検査の精度を高めることができる。
【0082】
〔第4の実施形態〕
図17は、第4の実施形態の付加製造システムのうち付加製造機の要部構成を示す斜視図である。この第4の実施形態は、第1ないし第3の実施形態のいずれかの変形である。第4の実施形態の付加製造機10は、層表面温度測定装置40の視界を移動可能とするための走査機構43を備えている。その他の構成は第1ないし第3の実施形態のいずれかと同様である。この第4の実施形態では、層表面温度測定装置40の視界を移動可能とするための走査機構43を備えていることから、高精細もしくは高フレームレートにするなどのために層表面温度測定装置40の視界を限定する場合にも、対応可能である。
【0083】
[他の実施形態]
上述した実施形態において、
図2に示す構造物5を形成する複数の層のうち、最初に形成される層6は、基盤11の表面11a上に形成されるものとしたが、本発明は、この態様に限定されるものではない。基盤11の表面11a上に構造物を支持するためのサポートを配置し、当該サポート上に最初の層6を形成するものとしてもよい。
【0084】
上述した実施形態の付加製造方法のうち層形成ステップS11,S20においては、層形成用ヘッド20を用いて、いわゆるダイレクト・エナジー・デポジションを行うことにより、頂面上に層を形成し、当該層を製造中の構造物に付加するものとしたが、本発明に係る層形成ステップは、この態様に限定されるものではない。例えば、粉末材料を、一層ずつ敷き詰めた後、レーザ光の照射により敷き詰められた材料のうち所定の部分を溶融させて当該部分を選択的に固化させる、いわゆる「パウダー・ベッド・フュージョン(Powder bed fusion、「粉末床溶融結合」とも称される)」を行うものとしてよい。
【0085】
なお、層形成ステップにおいて、層形成用ヘッド20は、例えば、光硬化性樹脂(感光性樹脂)材料に紫外線等の光を照射し、当該材料を光重合反応により選択的に固化(硬化)させる、いわゆる「光造形(液槽光重合)を行うものとしてもよい。また、層形成用ヘッド20は、粉末状の材料を一層ずつ敷き詰めた後、敷き詰められた材料のうち所定の部分に液体の結合剤(結着材)を供給して、当該部分を選択的に固化させる結合剤噴射(Binder jetting)を行うものとしてもよい。
【0086】
本発明のいくつかの実施形態について説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態はその他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0087】
1…付加製造システム、 5…構造物、 6…層、 7,7a…頂面(構造物又は層の頂面)、 8…層、 8a…層加工点、 9,9a,9b…欠陥、 10…付加製造機、 10a…前面(付加製造機の前面)、 11…基盤、 11a…表面(基盤の表面)、 12…層形成空間(空間)、 20…層形成用ヘッド、 40…層表面温度測定装置、 43…走査機構、 65,66…平滑化用ヘッド、 100…処理装置、 110…記憶装置、 120…入力装置、 130…表示装置、 140…通信線、 D1a…表層検査可能深さ位置、 D2a…再検査可能最大深さ位置、 D2b…再検査可能最小深さ位置