(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-25
(45)【発行日】2022-03-07
(54)【発明の名称】電力系統事故原因推定装置、電力系統事故原因推定システム、電力系統事故原因推定用コンピュータプログラムおよび電力系統事故原因推定方法
(51)【国際特許分類】
H02J 13/00 20060101AFI20220228BHJP
【FI】
H02J13/00 301A
(21)【出願番号】P 2018183139
(22)【出願日】2018-09-28
【審査請求日】2021-03-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【氏名又は名称】木内 光春
(72)【発明者】
【氏名】坂内 容子
(72)【発明者】
【氏名】廣政 勝利
(72)【発明者】
【氏名】塚田 徹
【審査官】佐藤 卓馬
(56)【参考文献】
【文献】特開平2-74877(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/81234(US,A1)
【文献】特開2017-184350(JP,A)
【文献】特開2003-279616(JP,A)
【文献】特開平6-300806(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力供給線の基準点から事故発生点までの電気回路モデルである系統モデルを作成する系統モデル作成部と、
入力された、前記電力供給線における前記事故発生点の事故波形に基づき、前記電力供給線の事故発生点から大地までの電気回路モデルである事故点モデルを作成する事故点モデル作成部と、
前記系統モデル作成部により作成された前記系統モデルおよび前記事故点モデル作成部により作成された前記事故点モデルを連結して連結モデルを作成し、前記連結モデルによる模擬波形と前記事故発生点の前記事故波形との差分が、予め設定された数値以下となるように、前記事故点モデルのパラメータを調整するパラメータ調整部と、
前記パラメータ調整部によりパラメータ調整された前記事故点モデルに基づき、事故原因を推定する原因推定部と、
を有する電力系統事故原因推定装置。
【請求項2】
前記事故点モデル作成部は、想定される複数の事故原因に基づき複数の事故点モデルを作成し、
前記パラメータ調整部は、前記系統モデル作成部により作成された前記系統モデルと、前記事故点モデル作成部により作成された前記複数の事故点モデルとを連結して複数の連結モデルを作成し、作成された前記連結モデルについてパラメータを調整し、前記連結モデルによる模擬波形と、前記事故発生点の前記事故波形との差分が最小となる事故点モデルを選択する、
請求項1に記載の電力系統事故原因推定装置。
【請求項3】
前記事故点モデル作成部は、想定される複数の事故原因に基づき選択された一つまたは複数の事故点モデルを作成し、
前記パラメータ調整部は、前記系統モデル作成部により作成された前記系統モデルと、前記事故点モデル作成部により作成された前記事故点モデルとを連結して連結モデルを作成し、作成された前記連結モデルについてパラメータを調整し、前記連結モデルによる模擬波形と、前記事故発生点の前記事故波形との差分が最小となる事故点モデルを選択する、
請求項1に記載の電力系統事故原因推定装置。
【請求項4】
前記パラメータ調整部は、前記事故点モデル作成部により作成された前記事故点モデルのパラメータを経時的に変化させて、前記連結モデルによる模擬波形と前記事故発生点の前記事故波形との差分が予め設定された数値以下となるように、前記事故点モデルのパラメータを調整する、
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の電力系統事故原因推定装置。
【請求項5】
前記原因推定部は、前記パラメータ調整部によりパラメータ調整された前記事故点モデル、およびエリアごとの過去の事故発生頻度に基づき、事故原因を推定する、
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の電力系統事故原因推定装置。
【請求項6】
前記系統モデル作成部により作成された前記系統モデルおよび事故点モデル作成部により作成された前記事故点モデルは、抵抗、キャパシタンス、インダクタンスによる単純な回路により構成される、
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の電力系統事故原因推定装置。
【請求項7】
前記事故波形は、電力供給線における事故発生点の相電圧波形、零相電流波形の少なくとも一方を含む、
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の電力系統事故原因推定装置。
【請求項8】
前記原因推定部は、前記事故波形の発生タイミングに基づき事故原因を推定する、
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の電力系統事故原因推定装置。
【請求項9】
前記事故発生点の前記事故波形は、通信により入力される、
請求項1乃至8のいずれか1項に記載の電力系統事故原因推定装置。
【請求項10】
電力供給線に配置され、前記電力供給線における事故発生点の事故波形を送信する一つまたは複数の測定装置と、
前記測定装置から送信された、前記事故発生点の前記事故波形が入力される入力部と、
電力供給線の基準点から事故発生点までの電気回路モデルである系統モデルを作成する系統モデル作成部と、
前記入力部に入力された前記事故発生点の前記事故波形に基づき、前記電力供給線の事故発生点から大地までの電気回路モデルである事故点モデルを作成する事故点モデル作成部と、
前記系統モデル作成部により作成された前記系統モデルおよび前記事故点モデル作成部により作成された前記事故点モデルを連結して連結モデルを作成し、前記連結モデルによる模擬波形と前記事故発生点の前記事故波形との差分が、予め設定された数値以下となるように、前記事故点モデルのパラメータを調整するパラメータ調整部と、
前記パラメータ調整部によりパラメータ調整された前記事故点モデルに基づき、事故原因を推定する原因推定部と、を備えた電力系統事故原因推定装置と、
を有する電力系統事故原因推定システム。
【請求項11】
電力供給線の基準点から事故発生点までの電気回路モデルである系統モデルを作成する系統モデル作成ステップと、
入力された前記電力供給線における前記事故発生点の事故波形に基づき、前記電力供給線の事故発生点から大地までの電気回路モデルである事故点モデルを作成する事故点モデル作成ステップと、
前記系統モデル作成ステップにより作成された前記系統モデルおよび前記事故点モデル作成ステップにより作成された前記事故点モデルを連結して連結モデルを作成し、前記連結モデルによる模擬波形と前記事故発生点の前記事故波形との差分が、予め設定された数値以下となるように、前記事故点モデルのパラメータを調整するパラメータ調整ステップと、
前記パラメータ調整ステップによりパラメータ調整された前記事故点モデルに基づき、事故原因を推定する原因推定ステップと、
を有する電力系統事故原因推定用コンピュータプログラム。
【請求項12】
電力供給線の基準点から事故発生点までの電気回路モデルである系統モデルを作成する系統モデル作成手順と、
入力された前記電力供給線における前記事故発生点の事故波形に基づき、前記電力供給線の事故発生点から大地までの電気回路モデルである事故点モデルを作成する事故点モデル作成手順と、
前記系統モデル作成手順により作成された前記系統モデルおよび前記事故点モデル作成手順により作成された前記事故点モデルを連結して連結モデルを作成し、前記連結モデルによる模擬波形と前記事故発生点の前記事故波形との差分が、予め設定された数値以下となるように、前記事故点モデルのパラメータを調整するパラメータ調整手順と、
前記パラメータ調整手順によりパラメータ調整された前記事故点モデルに基づき、事故原因を推定する原因推定手順と、
を有する電力系統事故原因推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本実施形態は、電力系統において発生した地絡事故の原因を推定する電力系統事故原因推定装置、電力系統事故原因推定用コンピュータプログラムおよび電力系統事故原因推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電力系統において事故が発生した場合、事故現場にて復旧作業が行われる。効率的に事故の復旧を行うために、予め事故原因を推定し、復旧作業を行うことが望ましい。電力系統において発生した事故の原因を推定する電力系統事故原因推定装置が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-131006号公報
【文献】特開2007-174485号公報
【文献】特開2018-57096号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電力系統において地絡事故が発生した場合、作業者が事故現場に移動し、復旧作業が行われる。作業者は、事故現場にて事故原因を特定し、復旧作業を行う。作業者は、事故現場への移動前に予め事故原因を推定し、復旧作業に使用すると想定される器具や装置を事故現場に持参する。
【0005】
しかしながら、異なる事故原因であっても電力供給線の電流または電圧波形である事故波形が類似する場合もある。例えば樹木接触にかかる事故波形と機器絶縁破壊にかかる事故波形は類似する。このため、例えば単に事故現場の事故波形を周波数分析したのでは、精度よく事故原因を推定することができないとの問題点があった。実際の事故原因が、推定された事故原因と異なる場合、復旧作業に使用する器具や装置が準備されておらず、再度必要な器具や装置を準備し、事故現場に搬入することが必要とされる。
【0006】
電力系統は長距離にわたり施設されており、事故現場は、作業者が駐在する事務所等から遠距離である場合もある。このため、実際の事故原因が、作業者により推定された事故原因と異なる場合、復旧作業に長時間を要するという問題点があった。復旧作業に長時間を要することは、需要家において長時間の停電が発生することになり、望ましくない。
【0007】
したがって、作業者の事故現場への移動前に、精度よく事故原因の推定を行うことが望ましい。また、電力系統における事故が、何らかの理由にて自然に復旧した場合でも、精度よく事故原因の推定を行うことが望ましい。精度よく事故原因が推定されることにより、事故の再発が防止される。
【0008】
本実施形態は、より効率よい復旧作業を支援するために、電力系統において発生した事故原因を、より精度よく推定する電力系統事故原因推定装置、電力系統事故原因推定システム、電力系統事故原因推定用コンピュータプログラムおよび電力系統事故原因推定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本実施形態の電力系統事故原因推定装置は、次のような構成を有することを特徴とする。
(1)電力供給線の基準点から事故発生点までの電気回路モデルである系統モデルを作成する系統モデル作成部。
(2)入力された、前記電力供給線における前記事故発生点の事故波形に基づき、前記電力供給線の事故発生点から大地までの電気回路モデルである事故点モデルを作成する事故点モデル作成部。
(3)前記系統モデル作成部により作成された前記系統モデルおよび前記事故点モデル作成部により作成された前記事故点モデルを連結して連結モデルを作成し、前記連結モデルによる模擬波形と前記事故発生点の前記事故波形との差分が、予め設定された数値以下となるように、前記事故点モデルのパラメータを調整するパラメータ調整部。
(4)前記パラメータ調整部によりパラメータ調整された前記事故点モデルに基づき、事故原因を推定する原因推定部。
【0010】
また、上記に対応する各部を有する電力系統事故原因推定システム、上記に対応するステップを有する電力系統事故原因推定用コンピュータプログラムおよび上記に対応する手順を有する電力系統事故原因推定方法も本実施形態の一態様である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】第1実施形態にかかる電力系統事故原因推定装置を示すブロック図
【
図2】第1実施形態にかかる電力系統事故原因推定装置のプログラムのフローを示す図
【
図3】第1実施形態にかかる電力系統事故原因推定装置の事故点モデル作成に関するプログラムのフローを示す図
【
図4】第1実施形態にかかる系統モデル作成部により作成される系統モデルの一例を示す図
【
図5】第1実施形態にかかる事故点モデル作成部により作成される事故点モデルの一例を示す図
【
図6】第1実施形態にかかる事故事例における各相電圧と零相電流の関係を示す図
【
図7】第1実施形態にかかる事故点モデルによる模擬波形と事故発生点の事故波形の一例を示す図
【
図8】第1実施形態にかかるエリアごとの事故発生頻度を示す図
【発明を実施するための形態】
【0012】
[1.第1実施形態]
[1-1.構成]
図1を参照して本実施形態の一例として、電力系統の事故原因を推定する電力系統事故原因推定システム1について説明する。
【0013】
(1)システムの全体構成
本電力系統事故原因推定システム1は、測定装置7および電力系統事故原因推定装置2(以降、推定装置2と称する場合がある)を有する。測定装置7と推定装置2は、伝送線6により接続される。本実施形態において、同一構成の装置や部材が複数ある場合にはそれらについて同一の番号を付して説明を行い、また、同一構成の個々の装置や部材についてそれぞれを説明する場合に、共通する番号にアルファベットの添え字を付けることで区別する。本実施形態における、測定装置7a、7b~7nは同じ構成を有する。
【0014】
本電力系統事故原因推定システム1において、以下の信号、データが作成、記憶または送受信される。
データA:系統情報
(線種、線路長、変圧器の定数、短絡容量、配電線の容量分等)
データB:事故発生点の事故波形
(相電圧波形、零相電流波形、事故波形の発生タイミング)
データC:エリアごとの過去の事故発生頻度
(樹木接触、鳥獣接触、機器破損等)
データD:系統モデル
データE:事故点モデル
データF:連結モデル
データG:パラメータ調整後モデル
データH1:事故現象
データH2:推定事故原因
【0015】
(2)測定装置7
測定装置7は、電力供給線9の事故発生点の電圧および電流を測定し、ディジタル値に変換し推定装置2に送信するための装置である。任意の数量の測定装置7a、7b~7nが、電力供給線9に配置される。測定装置7は、電力供給線9の事故発生点の相電圧波形、零相電流波形の少なくとも一方にかかる事故波形を検出し、伝送線6を介し推定装置2に送信する。
【0016】
また、測定装置7は、電力供給線9の事故発生点の事故波形の発生タイミングを検出し、推定装置2に送信する。測定装置7は、電力供給線9に設置された開閉器等の機器(図中不示)に内蔵されたものであってもよい。
【0017】
電力供給線9は、需要家に電力を供給する供給線であり、配電変電所8に接続される。配電変電所8は、電圧を変圧し電力供給線9に電力を供給する。配電変電所8が、請求項における基準点である。
【0018】
(推定装置2)
推定装置2は、電力供給線9の事故発生点における事故原因を推定するための装置である。推定装置2は、コンピュータ等により構成された装置である。推定装置2は、演算部20、入力部25、記憶部26、出力部27を有する。推定装置2は、伝送線6を介し測定装置7に接続される。
【0019】
推定装置2は、入力されたデータB(事故発生点の事故波形)に基づき、データH1(事故現象)、データH2(推定事故原因)を出力する。推定装置2は、電力系統の監視制御を行う給電指令所、系統制御所、集中制御所などの指令室等に設置される。
【0020】
(入力部25)
入力部25は、インターネットやイントラネット等の通信回線との通信インタフェース、メモリーポート、キーボード、マウス、タッチパネル等のマンマシンインタフェースにより構成される。タッチパネルは表示装置上に構成されたものであってもよい。入力部25は、演算部20に接続される。
【0021】
入力部25の通信インタフェースに、伝送線6を介し測定装置7から送信されたデータB(事故発生点の事故波形)が、入力される。データB(事故発生点の事故波形)は、電力供給線9の事故発生点における相電圧波形、零相電流波形、事故波形の発生タイミングに関する情報である。データB(事故発生点の事故波形)は、入力部25のメモリーポート、キーボード、マウス、タッチパネル等のマンマシンインタフェースを介して入力されるものであってもよい。入力されたデータB(事故発生点の事故波形)は、演算部20へ出力される。
【0022】
また、入力部25の通信インタフェースに入力されたデータB(事故発生点の事故波形)に添付された測定装置7の個別の識別番号に基づき、測定装置7の設置位置が特定される。測定装置7の個別の識別番号は、測定装置7の設置位置に関連する。測定装置7から送信された上記データに基づき、データA(系統情報)、データC(エリアごとの過去の事故発生頻度)が、演算部20により作成され、記憶部26に蓄積して記憶される。データA(系統情報)は、電力供給線9の線種、事故の起きた場所までの経路、線路長、変圧器の定数、短絡容量、配電線の容量分等の情報である。
【0023】
データC(エリアごとの過去の事故発生頻度)は、過去に発生したエリアごとの事故の種別および発生頻度に関する情報である。データC(エリアごとの過去の事故発生頻度)は、例えば樹木接触、鳥獣接触、機器破損等の事故の種別ごとの発生頻度に関する情報である。データA(系統情報)、データC(エリアごとの過去の事故発生頻度)は、演算部20に制御され、記憶部26に記憶される。また、入力部25のメモリーポート、キーボード、マウス、タッチパネル等のマンマシンインタフェースに、作業者によりデータA(系統情報)、データC(エリアごとの過去の事故発生頻度)が入力されるようにしてもよい。
【0024】
(記憶部26)
記憶部26は、半導体メモリやハードディスクのような記憶媒体にて構成される。記憶部26は、演算部20に接続される。記憶部26は、データA(系統情報)、データC(エリアごとの過去の事故発生頻度)を記憶する。記憶部26に対する各データの書き込み、読み出しは、演算部20により制御される。
【0025】
(演算部20)
演算部20は、電力供給線9の事故発生点における事故原因を推定するための演算を行う演算装置である。演算部20は、入力部25、記憶部26、出力部27に接続される。
【0026】
演算部20は、系統モデル作成部21、事故点モデル作成部22、パラメータ調整部23、原因推定部24を有する。系統モデル作成部21、事故点モデル作成部22、パラメータ調整部23、原因推定部24は、コンピュータ内の演算部または、ソフトウェアモジュールにより構成される。
【0027】
(系統モデル作成部21)
系統モデル作成部21は、記憶部26に記憶されたデータA(系統情報)に基づき、電気回路モデルであるデータD(系統モデル)を作成する。データD(系統モデル)は、電力供給線9の基準点である配電変電所8から事故発生点までの電気回路モデルである。作成されたデータD(系統モデル)は、パラメータ調整部23へ出力される。
【0028】
(事故点モデル作成部22)
事故点モデル作成部22は、入力部25から入力されたデータB(事故発生点の事故波形)に基づき、電気回路モデルであるデータE(事故点モデル)を作成する。データE(事故点モデル)は、電力供給線9の事故発生点から大地までの電気回路モデルである。データE(事故点モデル)は、想定される事故原因に基づき複数、作成される。作成されたデータE(事故点モデル)は、パラメータ調整部23へ出力される。
【0029】
(パラメータ調整部23)
パラメータ調整部23は、系統モデル作成部21により作成されたデータD(系統モデル系統モデル)と事故点モデル作成部22により作成されたデータE(事故点モデル)とを連結しデータF(連結モデル)を作成する。データF(連結モデル)は、電力供給線9の基準点である配電変電所8から事故発生点までの電気回路モデルであるデータD(系統モデル系統モデル)に、データE(事故点モデル)が直列接続された電気回路モデルである。
【0030】
さらに、パラメータ調整部23は、作成したデータF(連結モデル)による模擬波形と事故発生点の実際の事故にかかるデータB(事故発生点の事故波形)との差分が、予め設定された数値以下となるように、データF(連結モデル)におけるデータE(事故点モデル)のパラメータを調整する。
【0031】
データE(事故点モデル)のパラメータ調整は、複数のデータE(事故点モデル)について行われる。または、データE(事故点モデル)のパラメータ調整は、複数のデータE(事故点モデル)のうち、選択された一つまたは複数について行われる。パラメータ調整されたデータE(事故点モデル)は、データG(パラメータ調整後モデル)として、原因推定部24へ出力される。
【0032】
(原因推定部24)
原因推定部24は、パラメータ調整部23によりパラメータ調整されたデータG(パラメータ調整後モデル)に基づき、事故原因を推定する。原因推定部24は、パラメータ調整されたデータG(パラメータ調整後モデル)と、事故点モデル作成部22とにより作成された複数のデータE(事故点モデル)のうち、パラメータが最も近似するデータE(事故点モデル)の原因を、電力供給線9における事故発生点の推定原因であるとし、データH1(事故現象)を作成する。
【0033】
さらに、原因推定部24は、パラメータ調整部23によりパラメータ調整されたデータG(パラメータ調整後モデル)、原因推定部24により推定されたデータH1(事故現象)および、記憶部26に記憶されたデータC(エリアごとの過去の事故発生頻度)に基づき、データH2(推定事故原因)を作成する。
【0034】
データH2(推定事故原因)は、データC(エリアごとの過去の事故発生頻度)のエリアごとの発生頻度に基づき、例えばデータH1(事故現象)をさらに樹木接触、鳥獣接触、機器破損等の原因に細分化したものである。データH2(推定事故原因)は、データH1(事故現象)をさらに細分化して推定された電力供給線9における事故発生点の事故原因である。
【0035】
作成されたデータH1(事故現象)およびデータH2(推定事故原因)は、出力部27へ出力される。
【0036】
(出力部27)
出力部27は、表示装置、プリンタ、通信インタフェースにより構成される。出力部27は、演算部20に接続される。出力部27は、データH1(事故現象)、データH2(推定事故原因)を、作業者に対し出力する。また、出力部27は、データH1(事故現象)、データH2(推定事故原因)と併せて、データD(系統モデル)、データE(事故点モデル)、データF(連結モデル)、データG(パラメータ調整後モデル)を出力するものであってもよい。
【0037】
以上が、事故原因推定システム1の構成である。
【0038】
[1-2.作用]
次に、
図1~8に基づき本実施形態の推定装置2の動作の概要を説明する。
図2は推定装置2のプログラムのフローを示す図、
図3は事故点モデル作成に関するプログラムのフローを示す図である。
【0039】
推定装置2は、
図2および
図3に示すプログラムに基づき、電力供給線9において発生した事故原因を、推定する。
図2および
図3に示すプログラムは推定装置2に内蔵される。推定装置2は、以下の手順にて事故原因の推定にかかる動作および演算を行う。
【0040】
(入力ステップ:S01)
最初に、推定装置2は、入力部25により、測定装置7から送信されたデータB(事故発生点の事故波形)を受信する。データB(事故発生点の事故波形)は、電力供給線9の事故発生点における相電圧波形、零相電流波形、事故波形の発生タイミングに関する情報である。
【0041】
データB(事故発生点の事故波形)の一例を、
図6に示す。
図6は、鳥獣接触事故発生時の各相電圧と零相電流を模式的に示したものである。入力部25は、データB(事故発生点の事故波形)として
図6に示すデータを受信する。受信したデータB(事故発生点の事故波形)は、演算部20に入力される。
【0042】
(系統モデル作成ステップ:S02)
次に推定装置2は、系統モデル作成部21により、データD(系統モデル)を作成する。系統モデル作成部21は、記憶部26に記憶されたデータA(系統情報)に基づき、
図4に示すデータD(系統モデル)を作成する。記憶部26に記憶されたデータA(系統情報)は、電力供給線9の線種、事故の起きた場所までの経路、線路長、変圧器の定数、短絡容量、配電線の容量分を含む。系統モデル作成部21は、記憶部26に記憶されたデータA(系統情報)のうち、基準点である配電変電所8から事故発生点までの情報を抽出し、データD(系統モデル)を作成する。
【0043】
データD(系統モデル)は、基準点である配電変電所8から事故発生点までの電力供給線9の電気回路モデルである。データD(系統モデル)は、抵抗、キャパシタンス、インダクタンスによる単純な回路により構成されることが望ましい。データD(系統モデル)は、抵抗、キャパシタンス、インダクタンスによる単純な回路により構成された、基準点から事故発生点までの電力供給線9の等価回路である。作成されたデータD(系統モデル)は、パラメータ調整部23に入力される。
【0044】
(事故点モデル作成ステップ:S03)
次に推定装置2は、事故点モデル作成部22により、データE(事故点モデル)を作成する。事故点モデル作成部22は、入力部25から入力されたデータB(事故発生点の事故波形)に基づき、
図5に示すデータE(事故点モデル)を作成する。データE(事故点モデル)は、電力供給線9の事故発生点から大地までの電気回路モデルである。
【0045】
データE(事故点モデル)は、抵抗、キャパシタンス、インダクタンス、スイッチによる単純な回路により構成されることが望ましい。データE(事故点モデル)は、抵抗、キャパシタンス、インダクタンス、スイッチによる単純な回路により構成された、事故発生点から大地までの等価回路である。
【0046】
データE(事故点モデル)は、想定される事故現象に基づき複数、作成される。例えば、過去の事故事例に基づき、5つの想定される事故現象に基づく推定原因「a.接触放電」、「b.接触」、「c.雷サージ」、「d.ギャップ放電」、「e.その他」ごとに、データE(事故点モデル)が作成される。想定される推定原因「a.接触放電」、「b.接触」、「c.雷サージ」、「d.ギャップ放電」、「e.その他」に対応して、データE(事故点モデル)であるデータEa、データEb、データEc、データEd、データEeが作成される。
【0047】
データE(事故点モデル)は、例えば
図3に示す事故点モデル作成に関するプログラムに基づき作成されるようにしてもよい。
図3に示す事故点モデル作成に関するプログラムに基づき一つまたは複数のデータE(事故点モデル)が作成される。
図3に示すプログラムにより、想定される複数の事故現象に基づく推定原因に基づき選択された一つまたは複数の事故点モデルが作成される。事故点モデル作成部22は、以下の手順にて事故点モデル作成に関する動作および演算を行う。
【0048】
最初に、事故点モデル作成部22は、入力部25から出力されたデータB(事故発生点の事故波形)を受信する(ステップS11)。データB(事故発生点の事故波形)は、電力供給線9の事故発生点における相電圧波形、零相電流波形、事故波形の発生タイミングに関する情報である。
【0049】
次に、事故点モデル作成部22は、受信したデータB(事故発生点の事故波形)に基づき、事故波形の零相電流は正弦波に近似するかの判断を行う(ステップS12)。零相電流が正弦波に近似するかの判断は、データB(事故発生点の事故波形)の基本波の含有率が、予め設定された数値以上であるかにより行われる。データB(事故発生点の事故波形)の基本波の含有率は、スペクトル解析等により算出される。例えば、データB(事故発生点の事故波形)の基本波の含有率が80%以上である場合、事故波形の零相電流は正弦波に近似すると判断される。
【0050】
事故点モデル作成部22が、零相電流は正弦波に近似すると判断した場合(ステップS12のYES)、プログラムはステップS13に移行する。事故点モデル作成部22が、零相電流は正弦波に近似すると判断しない場合(ステップS12のNO)、プログラムはステップS16に移行する。
【0051】
ステップS12において、零相電流は正弦波に近似すると判断された場合、事故点モデル作成部22は、受信したデータB(事故発生点の事故波形)に基づき、事故波形の零相電流に放電がみられるかの判断を行う(ステップS13)。
【0052】
事故点モデル作成部22が、零相電流に放電がみられると判断した場合(ステップS13のYES)、プログラムはステップS14に移行する。事故点モデル作成部22が、零相電流に放電がみられると判断しない場合(ステップS13のNO)、プログラムはステップS15に移行する。
【0053】
ステップS13において、零相電流に放電がみられると判断された場合、事故点モデル作成部22は、想定される推定原因「a.接触放電」に関するデータEa(事故点モデル)を作成する(ステップS14)。
【0054】
ステップS13において、零相電流に放電がみられると判断されない場合、事故点モデル作成部22は、電力供給線9が常時接触していることを想定し、想定される推定原因「b.接触」に関するデータEb(事故点モデル)を作成する(ステップS15)。
【0055】
ステップS12において、零相電流は正弦波に近似すると判断されない場合、事故点モデル作成部22は、受信したデータB(事故発生点の事故波形)に基づき、事故波形の零相電流に50A以上のサージがみられるかの判断を行う(ステップS16)。
【0056】
事故点モデル作成部22が、零相電流に50A以上のサージがみられると判断した場合(ステップS16のYES)、プログラムはステップS17に移行する。事故点モデル作成部22が、零相電流に50A以上のサージがみられると判断しない場合(ステップS16のNO)、プログラムはステップS18に移行する。
【0057】
ステップS16において、零相電流に50A以上のサージがみられると判断された場合、事故点モデル作成部22は、電力供給線9が落雷を受けたことを想定し、想定される推定原因「c.雷サージ」に関するデータEc(事故点モデル)を作成する(ステップS17)。
【0058】
ステップS16において、零相電流に50A以上のサージがみられると判断されない場合、事故点モデル作成部22は、受信したデータB(事故発生点の事故波形)に基づき、事故波形の相電圧に折り返しがみられるかの判断を行う(ステップS18)。
【0059】
事故点モデル作成部22が、相電圧に折り返しがみられると判断した場合(ステップS18のYES)、プログラムはステップS19に移行する。事故点モデル作成部22が、相電圧に折り返しがみられると判断しない場合(ステップS18のNO)、プログラムはステップS20に移行する。
【0060】
ステップS18において、相電圧に折り返しがみられると判断された場合、事故点モデル作成部22は、想定される推定原因「d.ギャップ放電」に関するデータEd(事故点モデル)を作成する(ステップS19)。
【0061】
ステップS18において、相電圧に折り返しがみられると判断されない場合、事故点モデル作成部22は、想定される推定原因「e.その他」に関するデータEe(事故点モデル)を作成する(ステップS20)。その後、事故点モデル作成部22は、事故点モデル作成に関するプログラムを終了する。
【0062】
(パラメータ調整ステップ:S04、S05)
図2に戻り、次に推定装置2は、パラメータ調整部23により、データE(事故点モデル)のパラメータ調整を行う(ステップS04)。パラメータ調整部23は、系統モデル作成部21により作成されたデータD(系統モデル)と事故点モデル作成部22により作成されたデータE(事故点モデル)とを連結しデータF(連結モデル)を作成する。
【0063】
データF(連結モデル)は、電力供給線9の基準点である配電変電所8から事故発生点までの電気回路モデルであるデータD(系統モデル)に、データE(事故点モデル)が直列接続された電気回路モデルである。
【0064】
事故点モデル作成ステップ(S03)により想定される推定原因「a.接触放電」、「b.接触」、「c.雷サージ」、「d.ギャップ放電」、「e.その他」に対応して作成された、データE(事故点モデル)であるデータEa、データEb、データEc、データEd、データEeに応じ、データF(連結モデル)であるデータFa、データFb、データFc、データFd、データFeが作成される。
【0065】
パラメータ調整部23は、作成したデータF(連結モデル)のうちデータE(事故点モデル)部分を構成する抵抗、キャパシタンス、インダクタンスのパラメータ調整を行う。データE(事故点モデル)であるデータEa~データEeごとに、過去の経験値に基づき、抵抗、キャパシタンス、インダクタンスの上限値および下限値が、それぞれ記憶部26に記憶されている。
【0066】
パラメータ調整部23は、記憶部26に記憶された抵抗、キャパシタンス、インダクタンスの上限値および下限値に基づき、データE(事故点モデル)であるデータEa~データEeを構成する抵抗、キャパシタンス、インダクタンスのパラメータ調整を行う。
【0067】
パラメータ調整は、データF(連結モデル)であるデータFa~データFeのシミュレーションによる模擬波形が、データB(事故発生点の事故波形)に近似するように調整される。例えば、
図7に示すようにデータFa~データFeのシミュレーションによる零相電流の模擬波形と、データB(事故発生点の事故波形)にかかる実際の零相電流の波形が近似するように、パラメータ調整が行われる。
【0068】
パラメータ調整部23は、データE(事故点モデル)であるデータEa~データEeを構成する抵抗、キャパシタンス、インダクタンスのパラメータを変化させ、第7図の実線で示したシミュレーションによる零相電流の模擬波形の波高や周期を変化させ、点線で示したデータB(事故発生点の事故波形)にかかる実際の零相電流の波形との差分が小さくなるようにパラメータ調整を行う。
【0069】
パラメータ調整部23によるパラメータ調整部23は、データE(事故点モデル)であるデータEa~データEeを構成する抵抗、キャパシタンス、インダクタンスのパラメータを経時的に変化させて、データF(連結モデル)であるデータFa~データFeのシミュレーションによる模擬波形が、データB(事故発生点の事故波形)に近似するように調整するものであってもよい。データF(連結モデル)による模擬波形とデータB(事故発生点の事故波形)との差分が予め設定された数値以下となるように、データE(事故点モデル)のパラメータが経時的に変化させて調整される。
【0070】
データB(事故発生点の事故波形)に基づき、事故原因は経時的にパラメータ変動するものであることが想定される場合もある。たとえば倒木が擦れて一線地絡事故が発生した場合、電流が流れることにより擦れた倒木が焼けて徐々に炭化し、樹木の抵抗値が低下していく。
【0071】
このような場合、データE(事故点モデル)を構成する抵抗を計時的に変化させることで、データB(事故発生点の事故波形)に近似させることができる。このように、パラメータを経時的に変化させることにより、より多くの実際の事故原因に近いデータE(事故点モデル)を構築することができ、事故原因をより精度よく推定することができる。
【0072】
さらに、推定装置2は、パラメータ調整部23により、パラメータ調整を行ったデータF(連結モデル)による模擬波形と、データB(事故発生点の事故波形)とが、近似するかの判断を行う(ステップS05)。ステップS05にかかる近似の判断は、下記の(式1)により行われる。(式1)により、データF(連結モデル)による模擬波形と、データB(事故発生点の事故波形)の差分が、予め設定された数値である閾値未満であるか判断される。
【数1】
・・・・・(式1)
【0073】
(式1)において、Xmtは各時刻における測定値、Xstは各時刻におけるシミュレーション値、Xrは値Xの定格値である。各測定時刻における実際の測定値とシミュレーション値の差分の平均値の定格に対する割合が、予め設定された数値である閾値未満であるかにより、ステップS05にかかる近似の判断が行われる。
【0074】
ステップS05において、データF(連結モデル)による模擬波形とデータB(事故発生点の事故波形)が近似しないと判断された場合(ステップS05のNO)、再度、ステップS04に移行し、パラメータ調整部23により、データE(事故点モデル)のパラメータ調整が繰り返される。
【0075】
パラメータ調整は、データF(連結モデル)のうち、データB(事故発生点の事故波形)と模擬波形が近似しないと判断されたデータFa、データFb、データFc、データFd、データFeについて繰り返し行われる。ステップS04によるパラメータ調整は、一定時間または、近似すると判断されるまで繰り返される。パラメータ調整部23は、データE(事故点モデル)であるデータEa~データEeのパラメータ調整を行いデータG(パラメータ調整後モデル)としてデータGa~データGeを作成する。
【0076】
(原因推定ステップ:S06、S07)
次に推定装置2は、原因推定部24により、パラメータ調整部23によりパラメータ調整され作成されたデータG(パラメータ調整後モデル)であるデータGa~データGe、およびデータC(エリアごとの過去の事故発生頻度)に基づき、事故原因を推定する。
【0077】
推定装置2は、原因推定部24により、データH1(事故現象)にかかる推定原因を選択する(ステップS06)。データH1にかかる事故現象は、
図3に示す推定原因「a.接触放電」、「b.接触」、「c.雷サージ」、「d.ギャップ放電」、「e.その他」から選択される。データH1は、事故点における事故の発生現象からみた事故現象である。
【0078】
原因推定部24は、パラメータ調整ステップS04、S05によるパラメータ調整後のシミュレーションによる模擬波形が、最もデータB(事故発生点の事故波形)に近似したデータF(連結モデル)にかかる推定原因を、データH1(事故現象)とする。データH1(事故現象)は、データF(連結モデル)であるデータFa~データFeを構成するデータG(パラメータ調整後モデル)であるデータGa~データGeにかかる推定原因「a.接触放電」、「b.接触」、「c.雷サージ」、「d.ギャップ放電」、「e.その他」から選択される。
【0079】
例えば、データEa(事故点モデル)を含む、データFa(連結モデル)によるパラメータ調整後のシミュレーションによる模擬波形が、最もデータB(事故発生点の事故波形)に近似する場合、データH1(事故現象)は、データGa(パラメータ調整後モデル)にかかる「a.接触放電」とされる。
【0080】
さらに、推定装置2は、原因推定部24により、データH2(推定事故原因)にかかる推定事故原因を選択する(ステップS07)。データH2にかかる推定事故原因は、
図8に示すデータC(エリアごとの過去の事故発生頻度)から選択される。データC(エリアごとの過去の事故発生頻度)は記憶部26に記憶されている。
【0081】
データC(エリアごとの過去の事故発生頻度)は、過去に発生したエリアごとの事故の種別および発生頻度に関する情報である。データC(エリアごとの過去の事故発生頻度)は、例えば樹木接触、鳥獣接触、機器破損等の事故の種別ごとの発生頻度に関する情報である。
【0082】
鳥獣接触、機器破損などを事故原因とする事故の発生頻度は、都市部、山間部等のエリアごとにより異なる。事故発生の都度、事故原因ごとに累積加算されデータC(エリアごとの過去の事故発生頻度)として、記憶部26に記憶される。記憶部26は、データC(エリアごとの過去の事故発生頻度)にかかるテーブルを記憶する。
【0083】
また、データE(事故点モデル)の回路内の抵抗、キャパシタンス、インダクタンス等のパラメータの値は、樹木、鳥獣などの事故原起因物によって異なる。ステップS06により選択されたデータH1は、事故点における事故の発生現象からみた事故現象である。このため、データH1(事故現象)に基づき、より具体的な事故原因を推定することが望ましい。
【0084】
推定装置2は、原因推定部24により、データC(エリアごとの過去の事故発生頻度)に基づき、データH2にかかる推定事故原因を選択する。データH2(推定事故原因)は、S06により選択されたデータH1(事故現象)にかかる推定原因を、さらに細分化したものである。データH2(推定事故原因)にかかる事故原因は、
図8に示すデータC(エリアごとの過去の事故発生頻度)から選択される。
【0085】
図8に示すように、同じ事故原因であってもエリアごとに事故発生頻度が異なる。エリアの環境によって事故原因の割合分布が異なる。例えば、都市部ではケーブル地絡や機器損傷による事故が多く、山間部では樹木や鳥獣の接触による事故が多い傾向にある。データC(エリアごとの過去の事故発生頻度)は、住所、フィーダー、電柱の番号等によりエリアを分割して作成される。
【0086】
データH2(推定事故原因)は、データC(エリアごとの過去の事故発生頻度)のエリアごとの発生頻度に基づき、例えばデータH1(事故現象)をさらに樹木接触、鳥獣接触、機器破損等の原因に細分化したものである。原因推定部24は、S06により選択されたデータH1(事故現象)のうち、データC(エリアごとの過去の事故発生頻度)に基づき、発生頻度の高い事故原因を、データH2(推定事故原因)とする。
【0087】
(出力ステップ:S08)
次に推定装置2は、出力部27により、原因推定ステップS06により作成されたデータH1(事故現象)、原因推定ステップS07により作成されたデータH2(推定事故原因)を、作業者に対し出力する。また、出力部27は、データH1(事故現象)、データH2(推定事故原因)と併せて、データD(系統モデル)、データE(事故点モデル)、データF(連結モデル)、データG(パラメータ調整後モデル)を出力してもよい。
【0088】
[1-3.効果]
(1)本実施形態によれば、電力系統事故原因推定装置2は、電力供給線の基準点から事故発生点までの電気回路モデルである系統モデル(データD)を作成する系統モデル作成部21と、入力された、電力供給線9における事故発生点の事故波形に基づき、電力供給線9の事故発生点から大地までの電気回路モデルである事故点モデル(データE)を作成する事故点モデル作成部22と、系統モデル作成部21により作成された系統モデル(データD)と事故点モデル作成部22により作成された事故点モデル(データE)を連結して連結モデル(データF)を作成し、連結モデル(データF)による模擬波形と事故発生点の事故波形(データB)との差分が、予め設定された数値以下となるように、事故点モデル(データE)のパラメータを調整するパラメータ調整部23と、パラメータ調整部23によりパラメータ調整された事故点モデル(データG)に基づき、事故原因を推定する原因推定部24と、を有するので、電力系統において発生した事故原因を、より精度よく推定する電力系統事故原因推定装置2を提供することができる。
【0089】
(2)パラメータ調整部23により、事故発生点の事故波形(データB)との差分が予め設定された数値以下となるように、事故点モデル(データE)のパラメータが調整され、より精度のよい事故点モデルであるパラメータ調整後モデル(データG)を得ることができる。これにより、より精度よく事故原因を推定することができる。
【0090】
(2)本実施形態によれば、事故点モデル作成部22は、想定される複数の事故原因に基づき複数の事故点モデル(データE)を作成し、パラメータ調整部23は、系統モデル作成部21により作成された系統モデル(データD)と、事故点モデル作成部22により作成された複数の事故点モデル(データE)とを連結して複数の連結モデル(データF)を作成し、作成された連結モデル(データF)についてパラメータを調整し、連結モデル(データF)による模擬波形と、事故発生点の事故波形(データB)との差分が最小となる事故点モデル(データE)を選択するので、電力系統において発生した事故原因を、より精度よく推定する電力系統事故原因推定装置2を提供することができる。
【0091】
事故点モデル作成部22により、想定される複数の事故原因に基づき複数の事故点モデル(データE)が作成され、パラメータ調整部23により、複数の事故点モデル(データE)のパラメータが調整され、複数のパラメータ調整後モデル(データG)を得ることができる。複数のパラメータ調整後モデル(データG)に基づき事故原因を推定することができ、事故原因の推定精度をより向上させることができる。
【0092】
(3)本実施形態によれば、事故点モデル作成部22は、想定される複数の事故原因に基づき選択された一つまたは複数の事故点モデル(データE)を作成し、パラメータ調整部23は、系統モデル作成部21により作成された系統モデル(データD)と、事故点モデル作成部22により作成された事故点モデル(データE)とを連結して連結モデル(データF)を作成し、作成された連結モデル(データF)についてパラメータを調整し、連結モデル(データF)による模擬波形と、事故発生点の事故波形(データB)との差分が最小となる事故点モデル(データE)を選択するので、電力系統において発生した事故原因を、より精度よく推定する電力系統事故原因推定装置2を提供することができる。
【0093】
事故点モデル作成部22は、想定される複数の事故原因に基づき、一つまたは複数の事故点モデル(データE)を選択して作成するので、電力系統事故原因推定装置2による事故原因の推定に関する演算時間を短縮することができる。系統モデル(データD)と、事故点モデル(データE)とを連結して作成した連結モデル(データF)のパラメータを調整し、事故原因を推定することができるので、新規に系統と事故点とを含めたモデルを作成することが必要とされず、その結果、事故原因の推定に関する演算時間を短縮することができる。
【0094】
(4)本実施形態によれば、パラメータ調整部23は、事故点モデル作成部22により作成された事故点モデル(データE)のパラメータを経時的に変化させて、連結モデル(データF)による模擬波形と事故発生点の事故波形(データB)との差分が予め設定された数値以下となるように、事故点モデル(データE)のパラメータを調整するので、電力系統において発生した事故原因を、より精度よく推定する電力系統事故原因推定装置2を提供することができる。
【0095】
電流が流れることにより擦れた倒木が焼けて徐々に炭化し、樹木の抵抗値が低下していく場合のように事故原因は、経時的にパラメータ変動する場合もある。パラメータ調整部23は、パラメータを経時的に変化させて、事故点モデル(データE)のパラメータ調整を行うので、より多くの実際の事故原因に近い事故点モデル(データE)を構築することができ、事故原因をより精度よく推定することができる。
【0096】
(5)本実施形態によれば、原因推定部24は、パラメータ調整部23によりパラメータ調整された事故点モデル(データE)、およびエリアごとの過去の事故発生頻度(データC)に基づき、事故原因を推定するので、電力系統において発生した事故原因を、より精度よく推定する電力系統事故原因推定装置2を提供することができる。
【0097】
原因推定部24は、エリアごとの過去の事故発生頻度(データC)に基づき、事故原因を推定するので、エリアごとの事故原因の傾向に基づき、さらに細分化して事故原因を推定することができる。
【0098】
(6)本実施形態によれば、系統モデル作成部21により作成された系統モデル(データD)および事故点モデル作成部22により作成された事故点モデル(データE)は、抵抗、キャパシタンス、インダクタンスによる単純な回路により構成されるので、パラメータ調整を容易に行うことができる。これにより電力系統事故原因推定装置2による事故原因の推定に関する演算時間を短縮することができる。
【0099】
(7)本実施形態によれば、事故波形(データB)は、電力供給線における事故発生点の相電圧波形、零相電流波形の少なくとも一方を含むので、パラメータ調整部23は、より精度よく事故点モデル(データE)のパラメータ調整を行うことができ、事故原因をより精度よく推定することができる。
【0100】
(8)本実施形態によれば、原因推定部24は、事故波形(データB)の発生タイミングに基づき事故原因を推定するので、事故原因をより精度よく推定することができる。
【0101】
(9)本実施形態によれば、事故発生点の事故波形(データB)は、通信により入力されるので、人手を介することなく効率よく、事故発生点の事故波形(データB)が電力系統事故原因推定装置2に入力される。これにより電力系統事故原因推定装置2による事故原因の推定に関する演算時間を短縮することができる。
【0102】
[2.他の実施形態]
変形例を含めた実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであって、発明の範囲を限定することを意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略や置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。以下は、その一例である。
【0103】
(1)上記実施形態では、系統モデル作成部21は、配電変電所8を基準点としてデータD(系統モデル)を作成するものとした。しかしながら、系統モデル作成部21により作成されるデータD(系統モデル)の基準点はこれに限られない。系統モデル作成部21により作成されるデータD(系統モデル)は、電力供給線9における任意の点を基準点として作成されるものであってもよい。また、系統モデル作成部21により、作成されるデータD(系統モデル)は、上記に限られない。系統モデル作成部21により、作成されるデータD(系統モデル)は、任意の構成であってよい。
【0104】
(2)上記実施形態では、データA(系統情報)、データC(エリアごとの過去の事故発生頻度)は、推定装置2内の記憶部26に記憶されるものとした。しかしながら、データA(系統情報)、データC(エリアごとの過去の事故発生頻度)は、推定装置2外のデータベース(図中不示)に記憶されるものであってもよい。推定装置2は、通信によりデータベースからデータA(系統情報)、データC(エリアごとの過去の事故発生頻度)を受信するようにしてもよい。
【0105】
(3)上記実施形態では、事故点モデル作成部22により、想定される事故原因ごとに5つのデータE(事故点モデル)が作成されるものとしたが、作成されるデータE(事故点モデル)の数量は、これに限られない。作成されるデータE(事故点モデル)の数量は、2つ以上の任意の数量であってよい。また、想定される事故原因は地絡事故に限られない。想定される任意の事故原因に対応したデータE(事故点モデル)が作成されるようにしてよい。さらに、事故点モデル作成部22により、作成されるデータE(事故点モデル)は、上記に限られない。事故点モデル作成部22により、作成されるデータE(事故点モデル)は、任意の構成であってよい。
【0106】
(4)上記実施形態では、データB(事故発生点の事故波形)の相電圧波形、零相電流波形に基づき、事故点モデル作成および事故原因の推定を行うこととした。しかしながら、相電圧波形、零相電流波形にかかる事故波形の発生タイミングに基づき、事故点モデル作成および事故原因の推定を行うようにしてもよい。事故波形の発生タイミングに基づき事故点モデル作成および事故原因の推定を行うことにより、事故が発生した電力供給線9の相を特定することがより容易になる。
【0107】
(5)上記実施形態では、事故点モデル作成部22は、
図3に示す事故点モデル作成に関するプログラムにより、想定される複数の事故原因のうち選択された一つの事故原因に基づきデータE(事故点モデル)が作成されるものとした。しかしながら、想定される複数の事故原因のうち、選択された一つの事故原因は、予備的な選択であり精度よく推定された事故原因とは言えない。このため想定される複数の事故原因のうち、選択された複数の事故原因に基づき複数のデータE(事故点モデル)が作成されるものとすることが望ましい。
【0108】
例えば
図3に示すプログラムにおいて判断の基準となる数値を複数準備し、ステップS12の零相電流が正弦波に近似するかの判断等を行い、選択された複数の事故原因に基づき複数のデータE(事故点モデル)が作成されることが望ましい。このように構成することでより精度よく事故原因を推定することができる。
【0109】
(6)上記実施形態では、パラメータ調整部23は、零相電流についてデータE(事故点モデル)のシミュレーションによる模擬波形とデータB(事故発生点の事故波形)にかかる実際の零相電流の波形との差分が小さくなるようにパラメータ調整を行うものとしたが、相電圧についてデータE(事故点モデル)のシミュレーションによる模擬波形とデータB(事故発生点の事故波形)にかかる実際の波形との差分が小さくなるようにパラメータ調整を行うようにしてもよい。
【0110】
(7)上記実施形態では、原因推定部24により、データH1(事故現象)として選択される推定原因は「a.接触放電」、「b.接触」、「c.雷サージ」、「d.ギャップ放電」、「e.その他」であるものとしたが、推定原因はこれに限られない。事故点モデル作成ステップS03にて任意の想定される推定原因に対応するデータE(事故点モデル)を作成し、原因推定部24により、データH1(事故現象)として任意の推定原因が選択されるようにしてよい。
【符号の説明】
【0111】
1・・・電力系統事故原因推定システム
2・・・電力系統事故原因推定装置
6・・・伝送線
7・・・測定装置
8・・・配電変電所
9・・・電力供給線
20・・・演算部
21・・・系統モデル作成部
22・・・事故点モデル作成部
23・・・パラメータ調整部
24・・・原因推定部
25・・・入力部
26・・・記憶部
27・・・出力部