(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-25
(45)【発行日】2022-03-07
(54)【発明の名称】最適化されたリバウンドを伴うインパルス式締付け方法
(51)【国際特許分類】
B25B 21/02 20060101AFI20220228BHJP
B25B 21/00 20060101ALI20220228BHJP
【FI】
B25B21/02 F
B25B21/00 520A
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2019190100
(22)【出願日】2019-10-17
【審査請求日】2020-03-25
(32)【優先日】2018-10-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】507284031
【氏名又は名称】エタブリスマン・ジョルジュ・ルノー
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100107319
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100170379
【氏名又は名称】徳本 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100180231
【氏名又は名称】水島 亜希子
(74)【代理人】
【識別番号】100096769
【氏名又は名称】有原 幸一
(72)【発明者】
【氏名】マティルド・シモン
(72)【発明者】
【氏名】ジュリアン・トロペ
【審査官】山内 康明
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-500214(JP,A)
【文献】国際公開第00/054939(WO,A1)
【文献】特開昭58-022667(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25B 21/02
B25B 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転子及び固定子を備えたモータと、
締付け対象の要素と協働する回転出力部材と、
前記回転子を前記出力部材に接続し、
構成要素間の機能的クリアランスを有する
歯車伝動装置と
を備えるインパルス式スクリュードライバを用いて締付けを行う方法であって、
所定の頻度に従う一連の基本締付けサイクルを含み、
前記締付けサイクルの各々は、
前記モータに電力を供給し、前記回転子を締付け方向に回転駆動するステップと、
前記回転子の角度位置を表す情報をリアルタイムで求めるステップと、
トルクインパルスが前記回転出力部材に伝えられるインパクトステップであって、前記
歯車伝動装置の機能的クリアランスが前記締付け方向においてなくなる時点で開始し、前記回転出力部材の前記締付け方向の回転が止まる時点で終了するインパクトステップと、
前記機能的クリアランスにより前記回転子が反締付け方向に自由にリバウンドする自由リバウンドステップと
を含み、
各サイクルは、前記インパクトステップの終了時における前記回転子の最終角度位置を表す情報を求めるステップを更に含み、
所与の締付けサイクルにおける電力供給は、前記回転子
が、直前の前記締付けサイクル
における前記インパクトステップの終了時点の最終角度位置となるまで行われる、方法。
【請求項2】
所与の締付けサイクルにおける電力供給は、前記回転子が、
直前の前記締付けサイクルの最終角度位置よりも所定値だけ前方の角度位置となるまで行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
所与の締付けサイクルにおける電力供給は、前記回転子が、
直前の前記締付けサイクル
における前記インパクトステップの終了時点の最終角度位置よりも所定値だけ後方の角度位置となるまで行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記締付けサイクルの各々は、当該サイクルにおいて前記回転子の回転方向の反転を検出するステップを含み、
前記回転子の回転方向の反転が或る締付けサイクルにて検出されたときに、前記回転子の最終角度位置を表す情報を求めるステップが当該締付けサイクルにおいて行われる、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記締付けサイクルの各々は、前記自由リバウンドステップにおける前記回転子の自由リバウンド角度を表す情報を求めるステップを含み、
所与の締付けサイクルにおける電力供給は、前記回転子が、
直前の前記締付けサイクルにおける前記回転子の自由リバウンド角度にほぼ等しい角度にわたって締付け方向に進むまで行われる、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記締付けサイクルの各々は、前記回転子の自由リバウンド速度を求めるステップと、前記回転子の自由リバウンド時間を求めるステップとを含み、
前記回転子の自由リバウンド角度を表す情報は、前記回転子の自由リバウンド速度及び自由リバウンド時間に応じて求められる、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
各締付けサイクルは、前記インパクトステップの終了時に得られる締付けトルクを求めるステップを含み、
前記回転子の自由リバウンド速度は、前記締付けトルクと前記
歯車伝動装置の剛性と前記
歯車伝動装置の比とに応じて求められる、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
各締付けサイクルは、電力供給開始から前記インパクトステップの終了までの経過時間を求めるステップを含み、
前記自由リバウンドステップは、所定時間から前記経過時間を減じた時間に等しい時間において行われる、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
回転子及び固定子を備えたモータと、
締付け対象の要素と協働する回転出力部材と、
前記回転子を前記出力部材に接続し、
構成要素間の機能的クリアランスを有する
歯車伝動装置と、
前記回転子の角度位置を表す情報をリアルタイムで求める手段と、
所定の頻度に従って一連の基本締付けサイクルを行う指令手段と
を備えるインパルス式締付けデバイスであって、
前記締付けサイクルの各々は、
前記モータに電力を供給し、前記回転子を締付け方向に回転駆動するステップと、
前記回転子の角度位置を表す情報をリアルタイムで求めるステップと、
トルクインパルスが前記回転出力部材に伝えられるインパクトステップであって、前記
歯車伝動装置の機能的クリアランスが前記締付け方向においてなくなる時点で開始し、前記回転出力部材の前記締付け方向の回転が止まる時点で終了するインパクトステップと、
前記インパクトステップの終了時における前記回転子の最終角度位置を表す情報を求めるステップと、
前記機能的クリアランスにより前記回転子が反締付け方向に自由にリバウンドする自由リバウンドステップと
を含み、
所与の締付けサイクルにおける電力供給は、前記回転子
が、直前の前記締付けサイクル
における前記インパクトステップの終了時点の最終角度位置になるまで行われる、インパルス式締付けデバイス。
【請求項10】
前記所与の締付けサイクルにおける電力供給が、前記回転子が
直前の前記締付けサイクルの最終角度位置よりも所定値だけ前方の所定値の角度位置となるまで行われるように、前記指令手段が構成される、請求項9に記載のデバイス。
【請求項11】
前記所与の締付けサイクルにおける電力供給が、前記回転子が
直前の前記締付けサイクルの最終角度位置よりも所定値だけ後方の角度位置となるまで行われるように、前記指令手段が構成される、請求項9に記載のデバイス。
【請求項12】
サイクルにおいて前記回転子の回転方向の反転を検出する手段を備え、
前記指令手段は、前記締付けサイクルの各々が、当該サイクルにおいて前記回転子の回転方向の反転を検出するステップを含むものとなるように構成され、
前記回転子の回転方向の反転が或る締付けサイクルにて検出されたときに、前記回転子の最終角度位置を表す情報を求めるステップが当該締付けサイクルにおいて行われる、請求項9~11のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項13】
前記指令手段は、各締付けサイクルにおいて、前記自由リバウンドステップにおける前記回転子の自由リバウンド角度を表す情報を求め、
所与の締付けサイクルにおける電力供給は、前記回転子が、
直前の前記締付けサイクルにおける前記回転子の自由リバウンド角度にほぼ等しい角度にわたって締付け方向に進むまで行われる、請求項9~12のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項14】
前記回転子の自由リバウンド速度を表す情報を求める手段を備え、
前記指令手段は、前記締付けサイクルの各々が、前記回転子の自由リバウンド速度を求めるステップと、前記回転子の自由リバウンド時間を求めるステップとを含むように構成され、
前記回転子の自由リバウンド角度を表す情報は、前記回転子の自由リバウンド速度及び自由リバウンド時間に応じて求められる、請求項13に記載のデバイス。
【請求項15】
締付けトルクを表す情報を測定する手段を備え、
前記指令手段は、各締付けサイクルが、前記インパクトステップの終了時に得られる締付けトルクを求めるステップを含むものとなるように構成され、
前記回転子の自由リバウンド速度は、前記締付けトルクと前記
歯車伝動装置の剛性と前記
歯車伝動装置の比とに応じて求められる、請求項14に記載のデバイス。
【請求項16】
前記指令は、各締付けサイクルにおいて、電力供給開始から前記インパクトステップの終了までの経過時間を求め、
前記自由リバウンドステップは、所定時間から前記経過時間を減じた時間に等しい時間において行われる、請求項9~15のいずれか1項に記載のデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の分野は、インパルス式締付け方法及びインパルス式締付けデバイスの分野である。
【背景技術】
【0002】
インパルス式締付けの方法は、例えば、自動車産業、航空機産業等の様々な分野において、締付け対象となるアセンブリの締付けを行うために、一般に用いられる。
【0003】
インパルス式スクリュードライバ(impulse screwdriver)は、通常、回転子及び固定子を備えた電気モータを収容するケーシングを備え、その端部には、締付け対象の要素と協働する先端部材が、回転できるように取り付けられている。
【0004】
ケーシングは、回転子を先端回転部材につなぐ伝動装置を収容する。したがって、伝動装置は、回転子の回転運動を先端部材に伝えることを可能にするものである。伝動装置は、モータの機械動力を、回転数を減少させて先端部材に伝達する。この伝動装置は、モータによって回転駆動される太陽歯車と、遊星歯車キャリヤによって保持される遊星歯車と、リングとを有する遊星歯車列とすることができる。
【0005】
かかるスクリュードライバは角度センサを備える。角度センサの回転子はモータの回転子に接続され、角度センサの固定子はモータの固定子に接続される。
【0006】
かかるスクリュードライバは、伝動装置と一体のトルクセンサをも備える。例えば、遊星歯車列のリングをスクリュードライバのケーシングに連結するひずみゲージセンサである。リングは、ケーシング内で回転できるように取り付けられ、トルクセンサによって回転が停止する。
【0007】
伝動装置は、通常、機能的クリアランス(functional clearance)を備える。この機能的クリアランスは、設計上必要なクリアランスであり、伝動装置の別々の構成要素、例えば、別々の歯車装置が互いに対して相対的に運動して、モータと先端部材との間の回転運動の伝達が可能となる。
【0008】
このクリアランスを前提として、回転子は以下のように位置することができる。
- クリアランスが反締付け方向(unscrewing sense)においてなくなった後方停止(backstop)位置。先端部材は、動かない状態にあり、回転子が反締付け方向において停止している。
- クリアランスが締付け方向(screwing sense)においてなくなった前方停止(forward-stop)位置。先端部材は、動かない状態にあり、回転子が締付け方向において停止している。
【0009】
伝動装置における全機能的クリアランスは、これらの2つの位置、すなわち、前方停止位置と後方停止位置との間の回転子の回転角度に対応する。
【0010】
アセンブリのインパルス式締付けは、所定の頻度に従って周期的に繰り返される一連の連続する締付けサイクルを含む。
【0011】
各締付けサイクルは、以下の4つの連続するフェーズに分けることができる。
- 回転子が伝動装置内で利用可能なクリアランスを締付け方向において吸収する一定時間の間にモータへの電力供給の影響下にある回転子の自由加速フェーズ(抵抗トルクがない)。
- 加速フェーズにおいて回転構成要素によって蓄積された運動エネルギーが先端部材に伝わり、締付け対象要素の締付けが行われるインパクトフェーズ。このインパクトフェーズは、伝動装置のクリアランスが締付け方向において完全になくなる時点(すなわち、先行ステップの終了時)で開始し、締め付けられる要素が先端部材によって回転駆動されなくなるまで続く。
- インパクトフェーズにおいて弾性変形した伝動装置が弛緩(relax)して初期形状を取り戻す弛緩フェーズ。
- スクリュードライバの回転パーツ(先端部材、伝動装置及び回転子)が、伝動装置の機能的クリアランスの全て又は一部を取り込むときに反締付け方向に自然にリバウンドするリバウンドフェーズ。
【0012】
サイクルの繰返し周期は、締付け工具の機能中は一定であり、変化することはない。
【0013】
同様に、各サイクルの加速フェーズの間にモータに電力供給する時間は一定である。したがって、モータ電力供給フェーズのこの時間は、一定であり、変えることができない。したがって、モータの電力供給の時間は管理されない。
【0014】
理想的には、リバウンドの影響下にある回転子は、弛緩フェーズ及びリバウンドフェーズの終了時に、伝動装置内で利用可能なクリアランスが締付け方向において最大である後方停止位置にあるべきである。これによって、回転子は、機能的クリアランス全体に対応する角度範囲において自由に加速し、工具の最適な動作を保証することができる。
【0015】
したがって、サイクルの弛緩フェーズ及びリバウンドフェーズにおいて、モータの自然なリバウンドは、本工具をその初期位置にリセットする、すなわち、回転子を後方停止位置に戻すのに役立つ。
【0016】
この自然リバウンドは、トーションバネのように振る舞う工具内の内部要素、主として伝動装置の変形により可能である。したがって、このバネは、インパクトフェーズの終了時に、以下の2つのパラメータに依存する蓄積されたポテンシャルエネルギーを有することになる。
- 変形する一組の要素の剛性(N・m/度)
- インパクト時に加えられるトルク
【0017】
この剛性は、一定であり、工具の設計(材料、形状、サイズ等)に依存する。慣例により、剛性は、本明細書においては、スクリュードライバのトルクセンサによって測定されるトルクと、モータの回転子に連結された角度センサによって測定される角度とに応じて評価される。この剛性は、スクリュードライバのケーシングに対して固定された出力シャフトを有するモータシャフトにおいて測定される。
【0018】
この剛性K
TRは、以下のように表される。
【数1】
ただし、
C
sensor:トルクセンサによって測定された締付けトルクを表すトルク。
∝
motor:太陽歯車又はドライブシャフトの回転角度。
Z
sun gear:伝動装置の太陽歯車の歯数。
Z
ring:伝動装置のリングの歯数。
η
1:ドライブシャフトとリングとの間の伝動効率。
【0019】
インパクト時に加えられるトルクは、所与のインパルスにおいてねじに加えられるトルクに対応する。このトルクは、ねじが締め付けられる限り徐々に増加する。したがって、このトルクは、各インパルス(すなわち、各サイクル)において増加する。このトルクは、ねじ、したがって、モータの回転子の回転が停止するときに測定される。このトルクは、スクリュードライバのトルクセンサによって間接的に測定され、このセンサは、スクリュードライバの機械式伝動装置に一体化されている。
【0020】
当業者に知られているように、ねじに加わるトルクC
screwと、センサによって測定されるトルクC
sensorとの関係は、以下のとおりである。
【数2】
ただし、
R:遊星歯車列の入力太陽歯車と遊星歯車キャリヤとの間の減速比。
η:太陽歯車と遊星歯車キャリヤとの間の伝動効率。
【数3】
【0021】
したがって、締付け動作において、インパクト終了時に伝動装置に蓄積されているポテンシャルエネルギーETRは、各インパルス後に増加する(したがって、このポテンシャルエネルギーはサイクルごとに増加する)ことが分かる。
【0022】
このポテンシャルエネルギーE
TRは、以下のように表される。
【数4】
【0023】
インパクト後、モータ端子に電流は印加されない。したがって、モータはフリーホイールモード(惰性で動くモード)となる。したがって、伝動装置に蓄積されたポテンシャルエネルギーETRは、変換効率η2を有する伝動装置の弛緩の影響下で、回転子の運動エネルギーECに変換される。
【0024】
回転子の運動エネルギーE
Cは、以下のように表される。
【数5】
【0025】
弛緩フェーズの終了時に、回転子の跳ね返り(recoil)及び伝動装置の機能的クリアランスを前提として、伝動装置チェーンにおける接触が失われる。この接触が途切れた時点で、回転子は初期回転数ωinitialに達する。
【0026】
したがって、利用可能なポテンシャルエネルギー及び運動エネルギーへの変換効率が分かっている場合、この運動エネルギーを計算し、次に、この運動エネルギーから以下の式によってリバウンド回転数を抽出することができる。
【数6】
ここで、Jは、回転子の慣性である。
【0027】
したがって、各サイクルの終了時に、以下のように、その初期回転数ω
initialにたとえられるモータの回転子のリバウンド速度を計算することが可能である。
【数7】
ただし、
【数8】
である。
【0028】
したがって、サイクルの弛緩フェーズの終了時における回転子の回転数は、このサイクル中の締付けトルクが高いほど、ますます高くなる。
【0029】
回転子のリバウンドの角度振幅は、まずその初期回転数と、サイクルにおいてリバウンドに与えられる時間とに依存する。サイクル中にリバウンドに与えられる時間は、サイクルの弛緩フェーズの開始と次のサイクルの開始との間の経過時間に等しい。
【0030】
サイクルにおいてモータに電力供給している時間及び電力供給していない時間は固定されている。その結果、リバウンドに利用可能な時間は、サイクルごとに基本的に一定である。
【0031】
したがって、リバウンド時間は、サイクルごとにほぼ一定であるので、回転子が進むリバウンド角度は、その初期回転数が小さいほど、ますます小さくなる。
【0032】
その結果、締付け動作の開始時に、回転子の締付けトルク及び初期回転数が小さいとき、回転子のリバウンド角度もそれ自体小さい可能性があり、加速の最大角度クリアランスよりもはるかに低い可能性がある。言い換えると、伝動装置の機能的クリアランスは、回転子によって反締付け方向において完全になくなるわけではない。各サイクルにおいて回転子の自由リバウンドを伴うインパルス式締付け技法に関するこの一組の問題は、もちろん、モータの回転方向の反転によって指令され、したがって自由ではない回転子のリバウンドを伴うインパルス式締付け技法の場合には起こらない。
【0033】
その結果、締付けトルクが小さく、回転子のリバウンドが小さい最初のサイクルにおいて、回転子が自由に加速することを可能にするために伝動装置において真に利用可能なクリアランスは、伝動装置の全体的な機能的クリアランスよりも小さい。
【0034】
これは特に、以下の結果をもたらす。
- 回転子の加速行程は、通常の行程(伝動装置の最大角度クリアランス)よりも小さいので、インパクト前に回転子に蓄積された運動エネルギーは、通常よりも小さく、したがって、締付け効率が減少する。
- モータの電力供給時間は、サイクルごとに一定であるため、モータの電力供給が、回転子が自由に加速するのに利用可能な角度クリアランスが小さい最初のサイクルのインパクトを越えて維持されるというリスクがある。このようにインパクトを超えて電力供給を延長することは、リバウンドを減衰させ、したがって、上記で指摘したことが増長する可能性がある。したがって、スクリュードライバが最適な機能状態に決して達しないということが起こり得る。
- 加えて、モータの電力供給はインパクト時に拡大するのに対し、モータが自由に加速することを可能にするクリアランスはもはや存在しないため、モータは、コントローラによってそれ自体に割り当てられた回転数の定点値にもはや達することができない。これは、過電流をもたらし、コントローラにおけるセキュリティによってプログラミングされた最大強度を超えると、スクリュードライバを故障させる。システムがこのように故障すると、これを修復するために、技術者による操作が必要となる。これは、生産性を害し、したがって、望ましくない。
【0035】
電流消費限界を超えるこれらの場合を回避する1つの方法として、モータ電力供給時間を削減することが考えられる。しかし、この解決策は、リバウンドがより大きいときに工具の性能を低下させ、したがって、満足のゆくものではない。
【0036】
したがって、インパルス式スクリュードライバが概ね満足のゆくものであっても、それらの動作を更に改良することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0037】
本発明は、特に、これらの種々の問題の少なくとも幾つかに対する効率的な解決策を提供することを目的とする。
【0038】
特に、少なくとも1つの実施形態によれば、本発明の目的は、インパルス締付けを最適化することである。
【0039】
特に、本発明の目的は、少なくとも1つの実施形態によれば、基本的にインパルス締付けによるアセンブリの締付けの全体を通して最適な締付け性能を維持するこの種の技法を提供することである。
【0040】
本発明の別の目的は、少なくとも1つの実施形態によれば、モータ電力供給がサイクル中にインパクトフェーズを越えて継続することを防止するこの種の技法を提供することである。
【0041】
本発明の別の目的は、少なくとも1つの実施形態によれば、モータ電力供給において過電流を回避するこの種の技法を提供することである。
【0042】
本発明の別の目的は、少なくとも1つの実施形態によれば、実施するのに信頼性があり及び/又はロバストであり及び/又はシンプルであるこの種の技法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0043】
この目的のため、本発明は、
回転子及び固定子を備えたモータと、
締付け対象の要素と協働する回転出力部材(先端部材とも呼ぶ)と、
上記回転子を上記出力部材に接続する伝動装置であって、機能的クリアランスを有する伝動装置と
を備えるインパルス式スクリュードライバによって締付けを行う方法であって、
所定の頻度に従った一連の基本締付けサイクルを含み、
上記締付けサイクルの各々は、
上記モータに電力を供給し、上記回転子を締付け方向において回転駆動するステップと、
上記回転子の角度位置を表す情報をリアルタイムで求めることと、
トルクインパルスが上記回転出力部材に伝わるインパクトステップであって、上記伝動装置の機能的クリアランスが、締付け方向において除かれる時点で開始し、上記回転出力部材が締付け方向において回転することを停止する時点で終了するインパクトステップと、
上記回転子が反締付け方向において自由にリバウンドする自由リバウンドステップと
を含む、方法を提案する。
【0044】
本発明によれば、各サイクルは、上記インパクトステップの終了時に上記回転子の最終角度位置を表す情報を求めるステップを更に含み、所与の締付けサイクルの電力供給ステップは、上記回転子が、基本的に、直前の締付けサイクルにおいて位置していた最終角度位置になるまで実施される。
【0045】
したがって、本発明によれば、インパルス式締付け動作において、各サイクルはインパクト後のモータの自由リバウンドを含む。あるサイクルにおいて、モータへの電力供給は、基本的に、回転子が以前のサイクルのインパクトステップの終了時の角度位置を占めるようになるまで、続けられる。
【0046】
このように、本発明の手法によれば、必要に応じて、短い過渡的動作状態の後に、以下のような安定状態の動作がもたらされる。
- 伝動装置の機能的クリアランスが、各自由リバウンドにおいて回転子により全て取り込まれる。そして、回転子が次の加速フェーズにて機能的クリアランス全体にわたって自由に加速することを可能とし、各サイクルにおいて最適なインパクトフェーズが確保される。
- モータへの電力供給が、伝動装置の弛緩及び回転子のリバウンドにおいて続くことはない。したがって、上記の問題が生ずることが防止されるとともに、電力供給における過電流のリスク及びシステムが不能となるリスクが引き起こされることが防止される。
【0047】
したがって、本発明による手法は、最適化された回転子の自由リバウンドタイプのインパルス式締付けの実現を保証する。
【0048】
1つの変形形態によれば、上記所与の締付けサイクルの電力供給ステップは、上記回転子が、直前の締付けサイクルの間に位置していた最終角度位置よりも所定の値だけ後方の角度位置に位置するまで実施される。
【0049】
1つの変形形態によれば、上記所与の締付けサイクルの電力供給ステップは、上記回転子が、直前の締付けサイクルの間に位置していた最終角度位置よりも所定の値だけ後方の角度位置に位置するまで実施される。
【0050】
1つの変形形態によれば、締付けサイクルの各々は、当該サイクルの間に上記回転子の回転方向の反転を検出するステップを含む。上記回転子の回転方向の反転が或る締付けサイクルにて検出されると、当該締付けサイクルにて上記回転子の最終角度位置を表す情報を求めるステップが行われる。
【0051】
1つの変形形態によれば、上記締付けサイクルの各々は、上記自由リバウンドステップにおける上記回転子の自由リバウンド角度を表す情報を求めるステップを含む。上記所与の締付けサイクルの電力供給ステップは、上記回転子が、直前の締付けサイクルの間の回転子の自由リバウンド角度に実質的に等しい角度にわたって締付け方向に進むまで行われる。
【0052】
1つの変形形態によれば、上記締付けサイクルの各々は、上記回転子の自由リバウンド速度を求めるステップと、上記回転子の自由リバウンド時間を求めるステップとを含む。上記回転子の自由リバウンド角度を表す情報は、上記回転子の自由リバウンド速度及び自由リバウンド時間に応じて求められる。
【0053】
1つの変形形態によれば、各締付けサイクルは、上記インパクトステップの終了時に到達する締め付けトルクを求めるステップを含む。上記回転子の自由リバウンド速度は、上記締め付けトルクと上記伝動装置の剛性と上記伝動装置の比とに応じて求められる。
【0054】
1つの変形形態によれば、各締付けサイクルは、上記電力供給ステップの開始から上記インパクトステップの終了までの経過時間を求めるステップを含む。上記自由リバウンドステップは、上記経過時間だけ減じた所定の時間に等しい時間において行われる。
【0055】
本発明はまた、
回転子及び固定子を備えたモータと、
締付け対象の要素と協働するように設計された回転出力部材と、
上記回転子を上記出力部材に接続する伝動装置であって、機能的クリアランスを有する伝動装置と、
上記回転子の角度位置を表す情報をリアルタイムで求める手段と、
所定の頻度に従って一連の基本締付けサイクルを実施する指令手段と
を備え、
上記締付けサイクルの各々は、
上記モータに電力を供給し、上記回転子を締付け方向において回転駆動するステップと、
上記回転子の角度位置を表す情報をリアルタイムで求めることと、
トルクインパルスが上記回転出力部材に伝わるインパクトステップであって、上記伝動装置の機能的クリアランスが、締付け方向において除かれる時点で開始し、上記回転出力部材が締付け方向における回転を停止する時点で終了するインパクトステップと、
上記インパクトステップの終了時に上記回転子の最終角度位置を表す情報を求めるステップと、
上記回転子が反締付け方向において自由にリバウンドする自由リバウンドステップと
を含み、
所与の締付けサイクルの電力供給ステップは、上記回転子が、基本的に、直前の締付けサイクルにおいて位置していた最終角度位置となるまで行われる、インパルス締付けデバイスに関する。
【0056】
1つの変形形態によれば、上記所与の締付けサイクルの電力供給ステップが、上記回転子が以前の締付けサイクルにおいて位置していた最終角度位置よりも所定の値だけ前方の所定値の角度位置となるまで行われるように、上記指令手段が構成される。
【0057】
一変形形態によれば、上記所与の締付けサイクルの電力供給ステップが、上記回転子が直前の締付けサイクルにおいて位置していた最終角度位置よりも所定値だけ後方の角度位置となるまで行われるように、上記指令手段が構成される。
【0058】
一変形形態によれば、本発明によるデバイスは、サイクルにおいて回転子の回転方向の反転を検出する手段を備える。上記指令手段は、締付けサイクルの各々が、当該サイクルにおいて上記回転子の回転方向の反転を検出するステップを含むものとなるように構成される。上記回転子の回転方向の反転が締付けサイクルにおいて検出されると、上記回転子の最終角度位置を表す情報を求めるステップが当該締付けサイクルにて行われる。
【0059】
1つの変形形態によれば、上記指令手段は、各締付けサイクルにおいて、上記自由リバウンドステップにおける上記回転子の自由リバウンド角度を表す情報を求めるように構成される。上記所与の締付けサイクルの電力供給ステップは、上記回転子が以前の締付けサイクルにおける回転子の自由リバウンド角度に実質的に等しい角度にわたって締付け方向に進むまで、実施される。
【0060】
1つの変形形態によれば、本発明によるデバイスは、上記回転子の自由リバウンド速度を表す情報を求める手段を備える。上記指令手段は、上記締付けサイクルの各々が、上記回転子の自由リバウンド速度を求めるステップと、上記回転子の自由リバウンド時間を求めるステップとを含むように構成される。上記回転子の自由リバウンド角度を表す情報は、上記回転子の自由リバウンド速度及び自由リバウンド時間に応じて求められる。
【0061】
1つの変形形態によれば、本発明によるデバイスは、締付けトルクを表す情報を測定する手段を備える。上記指令手段は、各締付けサイクルが上記インパクトステップの終了時に到達する締付けトルクを求めるステップを含むように構成される。上記回転子の自由リバウンド速度は、上記締付けトルクと、上記伝動装置の剛性と、上記伝動装置の比とに応じて求められる。
【0062】
1つの変形形態によれば、上記指令は、各締付けサイクルにおいて、上記電力供給ステップの開始から上記インパクトステップの終了までの経過時間を求めるように構成される。上記自由リバウンドステップは、経過時間だけ減じた所定の時間に等しい時間の間にわたり行われる。
【0063】
本発明の他の特徴及び利点は、単なる例示であり、網羅的ではない例として与えられる特定の実施形態の以下の記載及び添付図から明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【
図1】本発明によるインパルス式スクリュードライバの一例の部分断面側面図である。
【
図2】
図1のスクリュードライバのコントローラの一例を示す図である。
【
図3】本発明によるインパルス式締付け方法の一例を示すフローチャートである。
【
図4】本発明によるインパルス式締付け方法の別の例を示すフローチャートである。
【
図5】回転子の自由加速の角度範囲がサイクルごとに徐々に増加して伝動装置の機能的クリアランスに近づく過渡的機能状態から、回転子の自由加速の角度範囲が各サイクルにおいて伝動装置の機能的クリアランスに等しい安定化作業状態への推移を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0065】
[1.アーキテクチャ]
図1及び
図2を参照して、本発明による工具、この実施形態では、パルスモード式スクリュードライバとも呼ばれるインパルス式スクリュードライバの一例を示す。
【0066】
本スクリュードライバは、好ましくは拳銃の形状を有するとともにグリップ2を有する本体1を備える。この本体は、拳銃形状ではなく、代替形態として軸に沿って延在する形状とすることもできる。この本体1には電気モータ3が収容されている。
【0067】
モータ3は、好ましくは永久磁石同期モータである。ただし、このモータは、例えば、DC電流に適合した他の任意のタイプの電気モータとすることができる。このモータは、固定子31及び回転子32を備える。
【0068】
回転子32は、回転駆動が可能な先端部材4と伝動装置Tを介して連結される。この先端部材4は、ねじ又はナット等の締付け対象の要素と、直接的に又はスリーブによるいずれかで協働するように設計されている。
【0069】
この実施形態では、伝動装置は単一の遊星歯車列7を備える。この歯車列において、太陽歯車71は、モータ3の回転子32のシャフト33とともに回転するようにシャフト33に固定して取り付けられている。この歯車列の遊星歯車72は、遊星歯車キャリヤ74に固定して取り付けられたピン73の回りを回転運動できるように取り付けられている。遊星歯車キャリヤ74は、先端部材4とともに回転するよう先端部材4に固定して取り付けられている。伝動装置は、複数の遊星歯車列を含むこともできる。
【0070】
本スクリュードライバは、締付けトルクを表す情報を測定するために用いられるトルクセンサ8を備える。
【0071】
遊星歯車列7のリング9は、本スクリュードライバの本体1に対し、本体内でのリングの回転を阻止する変形要素によって接続されている。トルクセンサ8を部分的に構成するこの変形要素は、歪ゲージを保持し、締付けトルクに応じて変形する。このトルクセンサは、締付け動作中にリングの反作用トルクを測定するのに用いられる。この反作用トルクは、締付けトルクに応じたものである。
【0072】
本スクリュードライバは、モータの回転子と固定子との間の回転の角度を表す情報を測定するために用いられる角度センサ10を備える。
【0073】
伝動装置は、機能的クリアランス、すなわち、アセンブリと、伝動装置を構成する種々のパーツの応力のない相対運動とに必要な機械的クリアランスを有する。このクリアランスを前提として、モータの回転子は、
- クリアランスが締付け方向において最大である最大跳ね返り位置すなわち後方停止位置と、
- クリアランスが締付け方向においてなくなるインパクト位置すなわち前方停止位置と
の間で動くことができる。
【0074】
最大跳ね返り位置は、本スクリュードライバの出力シャフト(又は先端部材)及びグリップが固定され、締付けの逆方向での回転の終了時においてモータの回転子が伝動装置における停止位置に固定され、この伝動装置のクリアランスが取り込まれたときに得られる。
【0075】
インパクト位置は、本スクリュードライバの出力シャフト及びグリップが固定され、締付け方向での回転の終了時においてモータの回転子が伝動装置における停止位置に固定され、伝動装置のクリアランスが取り込まれたときに得られる。
【0076】
本スクリュードライバは、作業者が締付け動作を開始することを可能にする作動トリガ11を備える。
【0077】
本スクリュードライバ1は、コントローラ17等の指令手段を備える。このコントローラ17は、本工具の内部に設けることもできるし、外部に設けることもできる。このコントローラは、事前にプログラミングされた締付け方針又は穿孔方針を実施するように工具を制御することを可能にする。
【0078】
コントローラは、工具内に一体化されていない場合、有線手段又は非有線手段(例えば無線)によって工具に接続される。
【0079】
工具が1以上のケーブルによってコントローラに接続されている場合、コントローラは、それ自体既知の方法で、工具にエネルギーを供給することを可能にする。
【0080】
無線工具の場合、この工具の電源は1つ以上の電池を含むことができる。
【0081】
コントローラ17は、例えば、マイクロプロセッサを備えた処理ユニット170と、ランダムアクセスメモリ171と、締付け又は穿孔の方法、又はより一般的には本発明による方法を実行するプログラムコード命令を含むコンピュータプログラムを含むリードオンリメモリ172とを特に備える。
【0082】
本発明による方法を実行するのに必要となる手段は、工具に統合することもできるし、コントローラに統合することもできる。
【0083】
コントローラは、ケーブルによって工具に接続されていない場合、工具と通信することを可能にする無線送受信モジュール173を備える。
【0084】
有線であるか否かを問わず、コントローラは、工具とコントローラとの間の通信を通じて、
工具と一体化された種々の測定手段(センサ)から送られる信号を受信することと、
指令を工具に送ることと
を行うことができる。
【0085】
コントローラは、有線手段によってコンピュータネットワーク等の他のデバイスと通信することができる。
【0086】
工具は、コントローラと通信する送受信モジュール18をも備える。
【0087】
コントローラは、指令入力手段175(キーボード、タッチパッド画面、マウス等)と、表示手段176(画面、ディスプレイデバイス、インジケータライト)と、場合によっては、可聴周波数の音響信号を出す手段177とを管理するユーザインタフェースである入出力インタフェース174と、電力供給用のコネクタ178とをも備える。
【0088】
コントローラは、モータ手段に電力供給するインバータ179をも備える。
【0089】
以下でより詳細に説明するように、コントローラ(指令手段)は、インパルス式締付けの方法を実施するようにプログラミングされる。
【0090】
[2.締付け方法]
[2.1.第1の方法]
続いて
図3を参照して、本発明によるインパルス式締付け方法の一例を説明する。
【0091】
締付け動作は、これまでと同様、締付けフェーズ41の前に行われる締付け前フェーズ40を含む。もちろん、締付け前処理フェーズ40を実施しなくてもよい。
【0092】
締付け前処理フェーズ40において、モータに電力供給がなされ、連続的な速度でのモータの回転が得られる(ステップ401)。
【0093】
締付け前処理フェーズにおいて、締付けトルクを表す少なくとも1つの情報を測定するステップ402が、好ましくは連続的にリアルタイムで行われる。本ステップは、例えば、伝動装置に設けられたトルクセンサによって締付けトルクを測定することとすることができる。
【0094】
測定されたトルクは、締付け前処理の終了時のトルクに対応する所定の締付け前トルク閾値とリアルタイムで比較される(ステップ403)。
【0095】
モータは、測定された締付けトルクが、締付け前処理の終了時の所定のトルク閾値に達するまで電力供給を受ける。
【0096】
この条件が満たされると、モータへの電力供給が停止され、時刻T1がコントローラ17によって記録される(ステップ404)。
【0097】
続いて締付けステップ41が開始する。
【0098】
締付けステップ41において、モータは、電気インパルスによって電力供給を受ける。そして、締付けフェーズは、アセンブリが所望の目標トルクに締め付けられるまで、所定の頻度で繰り返し行われる複数の基本締付けサイクルを含む。このため、モータはパルスによる電力供給を受ける。2つの連続するパルスを隔てる時間は所定の時間Pである。
【0099】
最初の基本締付けサイクルの前に、締付け準備サイクルが行われる。
【0100】
この締付け準備サイクルは、リバウンドステップ410を含む。実際、締付け前処理フェーズの終了時に、伝動装置は弛緩し、モータの回転子は、伝動装置の機能的クリアランスを少なくとも部分的に取り込んで反締付け方向に自然にリバウンドし、後方停止位置に接近又は到達する。
【0101】
リバウンドステップにおいて、コントローラは、回転子が自由にリバウンドすることができるようにする。すなわち、モータへの電力供給がない状態で、時刻T1以降、経験的に定められる所定の時間が経過する間、回転子は、後方停止位置に向かって反締付け方向にシフトする(ステップ411)。
【0102】
この所定の時間が経過すると、コントローラは時刻T2を記録する(ステップ412)。
【0103】
次に、自由加速ステップ413が行われる。回転子の自由加速ステップ413において、モータは、所定の一定時間にわたり電力供給を受ける(ステップ414)。この時間は、モータの電力供給が次のインパクトステップを越えて続かないことを保証するために、試行において、(すなわち、弛緩及びリバウンドのステップ)予め定められる。
【0104】
伝動装置の利用可能な機能的クリアランスが締付け方向においてなくなると、先端部材が締付け対象の要素に対してトルクを伝達するインパクトステップ415が開始する。
【0105】
インパクトステップ415において、インパクトの終了を検出するステップが行われる。この検出ステップは、ここでは、回転子がその最大角度に到達したことを検出するステップを含む。このステップは、例えば、回転子の回転数がその符号を変化させた時点を検出することとすることができる。最大角度が検出されると、この値が記録される(検出及び記録するステップ416)。この最大角度は、ここでは、モータの角度センサによって与えられる絶対角度である。この最大角度は、任意の不変の位置からカウントされ、弛緩の開始時点における回転子の角度位置を特徴付ける。
【0106】
締付けトルクを表す情報を求めるステップがリアルタイムで行われる。インパクトステップ415の終了時に、すなわち、インパクトステップの終了の検出416において、トルクを表す情報が、インパクト終了時の締付けトルクに等しいものとして記録される(ステップ417)。これは、インパクトの終了が検出されたときにトルクセンサによって測定される締付けトルクである。
【0107】
インパクト終了時のトルクは、目標トルクの閾値、すなわち、締め付ける対象の要素を締め付けるための所望のトルクと比較される(ステップ418)。
【0108】
インパクト終了時トルクが目標トルク以上である場合、原理上、締付け準備サイクルの終了時には該当せず、本処理は終了する。
【0109】
インパクト終了時トルクが目標トルク閾値よりも小さい場合、伝動装置は弛緩し、その後、回転子は、リバウンドステップ419においてリバウンドする。
【0110】
コントローラは、直近の時刻T2以降(すなわち、モータの直近の電力供給の開始)から時間Pが経過するまで、回転子が自由にリバウンドすることを可能にする(ステップ420)。
【0111】
自由リバウンドステップの終了時(すなわち、この時刻の経過時)(ステップ420)、コントローラは新たな時刻T2を記録する(ステップ421)。
【0112】
次に、回転子の自由加速ステップ422が行われる。この自由加速ステップにおいて、モータは、回転子が、以前のインパクトステップ416の終了時に位置していた位置となるまで電力供給を受ける(ステップ423)。言い換えると、モータは、自由加速ステップ422にて以前のサイクルのインパクトの終了時の最大角度に到達するまで電力供給を受ける。
【0113】
次に、インパクトステップ415が新たに行われる。本ステップでは、最大インパクト終了時角度を検出及び記録するステップ416が行われる。
【0114】
インパクト終了時締付けトルクを記録するステップ417と、この値を目標締付けトルク閾値と比較するステップ418とが行われる。
【0115】
目標締め付けトルクに到達しない限り、自由リバウンドステップ420と、時刻T2を記録するステップ421と、自由加速ステップ422と、インパクトステップ415と、インパクト終了時トルク記録ステップ417と、このトルクを目標締付けトルクと比較するステップ418とが新たに行われる。
【0116】
インパクトステップ415の終了時に、目標締付けトルクに到達すると、締付け動作は終了する。
【0117】
時刻T2を記録するステップ412と、自由加速ステップ413と、並びに最初のインパクトステップ415と、最初の記録ステップ417と、最初の比較ステップ418と、最初のリバウンドステップ420とは、準備サイクルを構成する。
【0118】
準備サイクルが完了すると、各基本サイクルは、時刻T2を記録するステップ421と、自由加速ステップ423と、インパクトステップ415と、インパクト終了時の締付けトルクを記録するステップ417と、このトルクを所定の目標締付けトルク閾値と比較するステップ418と、自由リバウンドステップ420とを含む。
【0119】
基本サイクルは、インパクトステップの終了時に目標締め付けトルクに到達するまで引き続き行われる。
【0120】
目標締め付けトルクに到達したサイクルは、最終の基本サイクルである。この最終基本サイクルは、比較ステップ418の終了時に終了し、したがって、その後のステップを含まない。
【0121】
[2.2.第2の方法]
図4を参照しながら、本発明によるインパルス式締付け方法の第2の実施形態を説明する。
【0122】
この第2の実施形態の、第1の実施形態との主な相違点を以下に説明する。
【0123】
第2の実施形態による方法は、準備サイクルの自由加速ステップ413の終了までは第1の実施形態による方法と同じである。
【0124】
自由加速ステップ413に続くインパクトステップ415において、最大インパクト終了時角度が検出されるが、記録されない(ステップ416’)。
【0125】
最大インパクト終了時角度が検出された(ステップ416’)後、インパクト終了時締付けトルクが時刻T3とともに記録される。
【0126】
次に、ステップ418において、インパクト終了時締付けトルクが目標締付けトルク閾値と比較される。このステップ418にて、インパクト終了時締付けトルクが目標締付けトルク閾値よりも小さいことが検出されると、本方法は、回転子のリバウンド角度を求めるステップに進む。
【0127】
本実施形態では、回転子のリバウンド角度を求めるステップは、回転子のリバウンド速度を求めるステップ50を含む。
【0128】
このステップ50にて、コントローラは、以下のように、回転子のリバウンド速度ω
initialを求める。
【数9】
ただし、
【数10】
であるとともに、以下の通りである。
C
sensor:トルクセンサによって測定されたトルク。
Z
sun gear:伝動装置の太陽歯車の歯数。
Z
ring:伝動装置のリングの歯数。
η
1:モータシャフトとリングとの間の伝動効率。
η
2:伝動装置の変形ポテンシャルエネルギーを回転子の運動エネルギーに変える変換効率。
J:回転子の慣性。
K
TR:伝動装置の剛性。
【0129】
ステップ51において、コントローラは、残りのリバウンド時間を求める。この残りのリバウンド時間は、モータに電力供給する時間Pから、時刻T2とT3との間の経過時間を引いた結果、すなわち、P-(T3-T2)に等しい。
【0130】
この計算において、T3からリバウンド開始までにわたる弛緩の時間は、無視できるものとみなされる。
【0131】
次に、ステップ52において、コントローラは、回転子のリバウンド速度及び残りのリバウンド時間から回転子のリバウンド角度を求める(リバウンドの残りの角度=リバウンド速度に残りのリバウンド時間を乗じたもの)。
【0132】
次に、コントローラは、ステップ53において、リバウンド角度を伝動装置の機能的クリアランスと比較する。
【0133】
リバウンド角度が、伝動装置の機能的クリアランスよりも小さい場合、本方法は、リバウンドステップ54に進む。このステップにおいて、回転子は、1つ前の時刻T2の記録からサイクル時間Pと同等の時間の経過とともに(ステップ541)、その後方停止位置へと反締付け方向において自然に戻る。
【0134】
この時間の経過の終了時に、新たな時刻T2がステップ55にて記録される。
【0135】
次に、モータに電力が供給される自由加速ステップ56が行われる(ステップ56)。これは、回転子が既に計算されたリバウンド角度に等しい角度だけ回転するまで行われる。
【0136】
リバウンド角度を伝動装置の機能的クリアランスと比較するステップ53にて、リバウンド角度が機能的クリアランス以上であることが検出されると、ステップ53からリバウンドステップ54’へと移る。このステップにて、回転子は、1つ前の時刻T2の記録からサイクル時間Pと同等の時間の経過とともに(ステップ541’)、その後方停止位置へと反締付け方向において自然に戻る。
【0137】
この時間の経過の終了時に、新たな時刻T2がステップ55’にて記録される。
【0138】
続いて自由加速ステップ56’が行われる。このステップでは、回転子が伝動装置の機能的クリアランスに等しい角度だけ回転するまで、モータに電力が供給される(ステップ562)。
【0139】
リバウンドステップ56又は56’に続き、新たなインパクトステップ415が行われる。このステップでは、最大インパクト終了時角度が検出され、次に、インパクト終了時締付けトルク及び新たな時刻T3を記録するステップ417が行われる。
【0140】
インパクト終了時トルクが、目標締付けトルク閾値と比較される(ステップ418)。
【0141】
インパクト終了時トルクが目標締付けトルク閾値に到達した場合、締付け動作は終了する。さもなければ、回転子のリバウンド速度を求める新たなステップ50へと進み、その後のステップが、目標締め付けトルクに到達するまで順に続く。
【0142】
時刻T2を記録するステップ412と、自由加速ステップ413と、最初のインパクトステップ415と、最初の記録ステップ417と、最初の比較ステップ418と、最初のリバウンド速度を求めるステップ50と、最初のリバウンド残り時間を求めるステップ51と、最初のリバウンド角度を求めるステップ52と、最初のリバウンド角度を伝動装置の機能的クリアランスと比較するステップ53と、最初のリバウンドステップ54、54’とは、準備サイクルを構成する。
【0143】
準備サイクルが完了すると、各基本サイクルは、時刻T2を記録するステップ55、55’と、自由加速ステップ56、56’と、インパクトステップ415と、インパクト終了時締め付けトルク及び時刻T3を記録するステップ417と、この値を目標締め付けトルクの所定の閾値と比較するステップ418と、リバウンド速度を求めるステップ50と、残りのリバウンド時間を求めるステップ51と、リバウンド角度を求めるステップ52と、リバウンド角度を伝動装置の機能的クリアランスと比較するステップ53と、リバウンドステップ54、54’とを含む。
【0144】
基本サイクルは、インパクトステップの終了時に目標締め付けトルクに到達するまで続けて行われる。
【0145】
目標締め付けトルクに到達したサイクルが、最終の基本サイクルである。この最終基本サイクルは、比較ステップ418の終了時に終了し、したがって、以後のステップは含まれない。
【0146】
[2.3.利点]
第1実施形態及び第2実施形態の双方において、本発明による手法は、所与の締付けサイクルにてモータに電力を供給するステップを、モータが基本的に、以前の締付けサイクルにおける最終角度位置となるまで行うことを主とする。
【0147】
このように、本発明による手法によれば、以下の安定した動作に迅速に到達することができる。
- 伝動装置の機能的クリアランスが、各自由リバウンドの際に回転子によってすべて取り込まれる。そして、回転子が次の加速フェーズにて機能的クリアランス全体において自由に加速することができ、最適なインパクトフェーズが確保される。
- 伝動装置の弛緩及び回転子のリバウンドにおいて、モータへの電力供給が続くことはない。
【0148】
【0149】
図5に示すように、第1のサイクルにおいて、回転子は機能的クリアランスの一部分においてのみ加速する。実際に、回転子は、伝動装置のクリアランスが反締付け方向において全体としてはまだ補償されていない一方で再加速している。したがって、回転子は後方停止位置にはなく、伝動装置において残クリアランス5が反締付け方向に残ったままである。
【0150】
第1のサイクルにて回転子の加速の角度的移動が小さいため、インパクトフェーズは短くなり、弛緩フェーズ及びその後のリバウンドフェーズについても同様である。
【0151】
次に、以後の各サイクルにおいて、それまでのサイクルのインパクトフェーズの終了時の角度位置となるまで、加速フェーズの間及びインパクトフェーズの開始時にモータに電力が供給されることがわかる。
【0152】
この実施態様によれば、
図5からわかるように、各サイクルにおいて、伝動装置の機能的クリアランスが回転子のリバウンド時に取り込まれる率を高めることができる。
【0153】
したがって、5回目のリバウンドサイクルの終了時に、伝動装置の機能的クリアランスは反締付け方向において完全に除かれ、回転子は後方停止位置にある。
【0154】
その結果、6回目の基本サイクルからは、回転子は、各サイクルにおいて、機能的クリアランスの全体において自由に加速するため、最適なインパクトステップが確保される。
【0155】
したがって、インパルス締付けは、5回目のサイクルと6回目のサイクルとの間において、回転子が各サイクルにて機能的クリアランスの一部分においてのみ加速し、回転子の自由リバウンドの角度がサイクルごとに変化する過渡的状態から、回転子が各サイクルにて機能的クリアランス全体において加速し、回転子のリバウンド角度が各サイクルにおいてほぼ同じであり、伝動装置のクリアランスに実質的に等しい安定状態へと移行する。
【0156】
このように、本発明による締付け方法は、過渡的フェーズと、それに続く恒久的フェーズとを含む。これらの2つのフェーズは各々、所定の頻度に従う一連の基本締付けサイクルを含む。過渡的フェーズでは、回転子の自由リバウンド角度は、伝動装置のクリアランス値に到達するまで、サイクルごとに変わる。その一方で、安定フェーズ(恒久的フェーズ)では、回転子のリバウンド角度は、各サイクルでほぼ同じであり、伝動装置のクリアランスに実質的に等しい。
【0157】
さらに、電力供給フェーズは、回転子が、ある基本サイクルにおいて、それ以前の基本サイクルのインパクトステップの終了時の位置となるまでのみ続くため、本発明の実施により、伝動装置の弛緩及び回転子のリバウンドの間はモータへの電力供給が停止されることが確保される。これにより、回転子は、各基本サイクルの終了時に後方停止位置へと戻ることを保証することができる。したがって、回転子はリバウンド時にモータによって制動されず、後方停止位置に戻ることが保証され、次のサイクルにおいて機能的クリアランス全体において加速することが可能となる。
【0158】
したがって、本発明による手法により、インパルスによる締付けが最適な安定機能状態へと段階的にかつ迅速に達することが可能になる。