(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-25
(45)【発行日】2022-03-07
(54)【発明の名称】ビスカスダンパ
(51)【国際特許分類】
F16F 15/167 20060101AFI20220228BHJP
F16F 15/173 20060101ALI20220228BHJP
【FI】
F16F15/167 B
F16F15/173 Z
(21)【出願番号】P 2019509850
(86)(22)【出願日】2018-03-27
(86)【国際出願番号】 JP2018012298
(87)【国際公開番号】W WO2018181246
(87)【国際公開日】2018-10-04
【審査請求日】2021-03-19
(31)【優先権主張番号】P 2017071067
(32)【優先日】2017-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000136354
【氏名又は名称】株式会社フコク
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】特許業務法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松本 繁幸
【審査官】鵜飼 博人
(56)【参考文献】
【文献】英国特許出願公告第00650891(GB,A)
【文献】実開昭55-115456(JP,U)
【文献】実開昭63-152943(JP,U)
【文献】欧州特許出願公開第00557603(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/00- 15/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸に装着されるハブプレートと、
慣性質量体を備え前記慣性質量体と前記ハブプレートとの間の隙間に減衰液が充填され、前記ハブプレートの外周部に配置される環状ダンパと、
前記環状ダンパの両端面のうち少なくとも一方の面に設けられる放熱フィンと、
を有し、
前記放熱フィンは、前記環状ダンパの回転方向前方に向けて開口する空気導入口および回転方向後方に向けて開口する空気流出口を備えた冷却通路から構成され、前記環状ダンパの端面に円周方向に間隔を隔てて複数設けた、ビスカスダンパ。
【請求項2】
回転軸に装着されるハブプレートと、
慣性質量体を収容するダンパケーシングを備え、前記ハブプレートの外周部に配置される環状ダンパと、
前記慣性質量体と前記ダンパケーシングとの間の隙間に充填される減衰液と、
前記ダンパケーシングの両端面のうち少なくとも一方の面に設けられる放熱フィンと、
を有し、
前記放熱フィンは、前記環状ダンパの回転方向前方に向けて開口する空気導入口および回転方向後方に向けて開口する空気流出口を備えた冷却通路から構成され、前記環状ダンパの端面に円周方向に間隔を隔てて複数設けた、ビスカスダンパ。
【請求項3】
請求項1または2記載のビスカスダンパにおいて、前記空気流出口の開口面積は前記空気導入口の開口面積よりも大きい、ビスカスダンパ。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のビスカスダンパにおいて、前記放熱フィンは、前記環状ダンパの端面に取り付けられるディスク基板に設けられ、径方向内方端および径方向外方端の間を径方向に延びるフィン本体部を備え前記冷却通路を形成する、ビスカスダンパ。
【請求項5】
請求項
4に記載のビスカスダンパにおいて、前記フィン本体部は、前記空気導入口から前記空気流出口に向けて前記ディスク基板から離れる方向に傾斜している、ビスカスダンパ。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載のビスカスダンパにおいて、前記ハブプレートの回転中心から同一半径位置に円周方向に前記放熱フィンを一列に設けた、ビスカスダンパ。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか1項に記載のビスカスダンパにおいて、前記ハブプレートの回転中心からそれぞれ同一半径位置に円周方向に前記放熱フィンを複数列に設けた、ビスカスダンパ。
【請求項8】
請求項7記載のビスカスダンパにおいて、1つの列を構成する前記放熱フィンと、他の列を構成する前記放熱フィンとを円周方向にずらした、ビスカスダンパ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関のクランクシャフト等の回転軸に取り付けられ、回転軸の捩り振動を吸収するビスカスダンパに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車、トラック、バス等の車両の動力源や、建設機械、農業機械等の産業機械の動力源として使用される内燃機関つまりエンジンは、クランクシャフトやカムシャフト等の回転軸を有している。エンジンの燃焼サイクルに起因して、クランクシャフト等の回転軸には回転脈動を伴うトルクが印加され、これにより回転軸に捩り振動が発生する。この捩り振動を吸収するために、トーショナルダンパが回転軸に装着される。トーショナルダンパの一種として、ビスカスダンパと称されるものがある。ビスカスダンパは、回転軸に装着されるハブ側部材と、ハブ側部材の外周部に回転自在に装着される慣性質量体とを有し、ハブ側部材と慣性質量体との間に配された減衰液の剪断抵抗により、回転軸の捩り振動を吸収して消散する。
【0003】
ビスカスダンパには、慣性質量体つまり慣性マスがハブ側部材の外周部に設けられた環状のダンパケーシング内に収納されるタイプつまり内マス型と、慣性マスがハブ側部材、すなわちハブプレートの外周部の外側を取り囲むように装着されるタイプつまり外マス型とがある。
【0004】
特許文献1には内マス型のビスカスダンパが記載されている。このビスカスダンパにおいては、ハブプレートとしてのフランジの外周部にはダンパケーシングが設けられ、ダンパケーシングの作業チャンバー内には慣性質量体と粘性の減衰媒体が収容される。ダンパケーシングの両端面のうちの少なくとも一方には、ダンパケーシングの半径方向に延在する冷却通路を備えたファンディスクが設けられている。冷却通路は円周方向に一定間隔を隔てて同心円状に配置される複数の内側の冷却通路と、内側の冷却通路よりも径方向外側に位置させて円周方向に一定間隔を隔てて同心円状に配置される複数の外側の冷却通路とを備え、内側の冷却通路は外側の冷却通路と異なる寸法を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されるビスカスダンパにおいては、ダンパの運転中、すなわち、回転時に半径方向に搬送される空気を、まず内側の冷却通路に接触させ、その後に外側の冷却通路に接触させるようにしており、冷却通路から空気への熱伝達によりダンパが冷却される。そして、内側の冷却通路と外側の冷却通路との間に間隔を設けることにより、そこに乱流を発生させて層状の空気流動を阻止し、熱伝達を高めている。
【0007】
しかしながら、このビスカスダンパにおいては、冷却通路が半径方向つまり回転方向に対して直角方向に形成され、加えて、当該冷却通路の開口がダンパの回転方向に向いて開口しておらず、ダンパの回転によって生じる回転方向の空気の流れを利用するものではないので冷却通路に導かれる冷却空気は限定的であり、ビスカスダンパの冷却効果を高めることができないという問題点がある。しかも、内側の冷却通路を通過し、熱を吸収して温められた空気が、再度、外側の冷却通路に導入されるので、冷却効率を高めることができない。
【0008】
本発明の目的は、冷却効率が高いビスカスダンパを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のビスカスダンパは、回転軸に装着されるハブプレートと、慣性質量体を備え前記慣性質量体と前記ハブプレートとの間の隙間に減衰液が充填され、前記ハブプレートの外周部に配置される環状ダンパと、前記環状ダンパの両端面のうち少なくとも一方の面に設けられる放熱フィンと、を有し、前記放熱フィンは、前記環状ダンパの回転方向前方に向けて開口する空気導入口および回転方向後方に向けて開口する空気流出口を備えた冷却通路から構成され、前記環状ダンパの端面に円周方向に間隔を隔てて複数設けた。
【発明の効果】
【0010】
環状ダンパに設けられる放熱フィン、すなわち冷却通路の空気導入口は回転方向前方に向けて開口されており、ビスカスダンパが回転駆動されると、冷却通路の回転移動により外部の空気が冷却通路内に直接流入する。これにより、環状ダンパを構成する慣性質量体とハブプレートとの間に生ずる差動により減衰液が繰り返して剪断力を受けて環状ダンパが発熱しても、冷却通路に直接流入して流れる空気により環状ダンパが冷却され、環状ダンパの放熱効率を向上させることができる。そして、空気流出口の開口面積を、空気導入口の開口面積よりも大きくすると、冷却通路を通過して空気流出口から流出する空気と冷却通路の外側を流れる空気とでは、圧力が異なるため、空気流出口で乱流が発生し、冷却通路の外側を流れる空気の一部を引き込むことになり、層状の空気の流動を阻止することができる。これにより、環状ダンパの放熱効率をより高めることができる。
【0011】
放熱ディスクに、環状ダンパに設けられるディスク基板と、径方向内方端と径方向外方端との間を径方向に延びるフィン本体部とを備えた放熱フィンを設けると、放熱フィンにより冷却通路を形成することができる。フィン本体部を空気導入口から空気流出口に向けてディスク基板から離れる方向に傾斜させると、放熱フィンにより空気流出口の開口面積が、空気導入口の開口面積よりも大きくなった冷却通路を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】一実施の形態であるビスカスダンパを示す正面図である。
【
図3】(A)は
図2の正面側を示す斜視図であり、(B)は
図2の背面側を示す斜視図である。
【
図4】(A)は
図3(A)の正面図であり、(B)は
図3(B)の背面図である。
【
図5】(A)は
図4(A)に示された放熱ディスクの拡大正面図であり、(B)は(A)を下側から見た断面図である。
【
図6】(A)は
図5(A)における6A-6A線拡大断面図であり、(B)は
図5(A)における6B-6B線拡大断面図である。
【
図7】(A)、(B)はそれぞれ放熱ディスクの変形例を示す正面図である。
【
図8】他の実施の形態であるビスカスダンパを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。ビスカスダンパ10は、
図1および
図2に示されるようにハブプレート11を有し、ハブプレート11は、乗用車、トラック、バス等の車両や、建設機械等の産業機械の動力源として使用されるエンジンのクランクシャフトやカムシャフト等の回転軸Sに装着される。
【0014】
ハブプレート11の径方向外方部は正面壁12を構成しており、正面壁12には外周壁13が一体に設けられており、外周壁13は正面壁12に対して略直角となっている。ハブプレート11の背面には内周壁14が配置され、内周壁14はハブプレート11に取り付けられるフランジ15を有し、内周壁14はフランジ15に対して略直角となっている。外周壁13と内周壁14の背面にはカバー16が取り付けられ、正面壁12、外周壁13、内周壁14およびカバー16により環状のダンパケーシング17が形成される。正面壁12はハブプレート11の外周部により形成されており、ハブプレート11もダンパケーシング17の一部を構成する。
【0015】
ダンパケーシング17内には環状の収容室18が形成され、収容室18内には環状の慣性質量体21が収容されるとともに、シリコーンオイルが減衰液Lとしてダンパケーシング17と慣性質量体21との間の隙間に充填される。ダンパケーシング17と慣性質量体21と減衰液Lとにより、ハブプレート11の外周部に配置される環状ダンパ22が構成される。この明細書においては、
図1に示される面をビスカスダンパ10の正面とし、反対側の面をビスカスダンパ10の背面とする。
【0016】
フランジ15はハブプレート11に溶接され、カバー16は慣性質量体21が収容室18内に組み込まれた状態のもとで外周壁13と内周壁14に溶接される。カバー16には液体注入口23が形成されており、減衰液Lがダンパケーシング17と慣性質量体21との間の隙間に注入された後に、液体注入口23は図示しない封止栓により封止される。ハブプレート11と、これと一体となった正面壁12および外周壁13は、鋼板をプレス加工することにより製造され、内周壁14とフランジ15とが一体となった部材、およびカバー16も鋼板をプレス加工することにより製造される。ただし、内周壁14と正面壁12とがハブプレート11および外周壁13とが一体となった部材を鋳造により製造するようにしても良い。
【0017】
正面壁12と慣性質量体21との間にはスラストベアリング24が配置され、スラストベアリング24は慣性質量体21に形成された凹部に収容される。カバー16と慣性質量体21との間にはスラストベアリング25が配置され、スラストベアリング25は慣性質量体21に形成された凹部に収容される。
【0018】
ハブプレート11とフランジ15には取付孔26が形成されており、取付孔26を貫通する図示しないねじ部材により、ビスカスダンパ10は回転軸Sに取り付けられる。ビスカスダンパ10が回転軸Sにより回転駆動されて回転軸Sに捩り振動が発生すると、捩り振動によりダンパケーシング17と慣性質量体21との間に差動が生じる。この差動により、減衰液Lは剪断力を受け、減衰液Lの剪断抵抗により捩り振動が吸収され消散される。減衰液Lが繰り返し剪断力を受けると、振動エネルギーは剪断抵抗により熱に変換され、環状ダンパ22は発熱する。ビスカスダンパ10は、回転軸Sにより
図1に矢印Rで示される方向に回転駆動される。
【0019】
図3および
図4に示されるように、環状ダンパ22を冷却するために、環状ダンパ22の正面側の端面つまり正面壁12の外面には放熱ディスク31が設けられ、環状ダンパ22の背面側の端面つまりカバー16の外面には放熱ディスク32が設けられる。放熱ディスク31は、
図1に示されるように、環状のディスク基板33を有しており、放熱ディスク32もディスク基板33を有している。それぞれのディスク基板33には、
図1に示されるように、複数の放熱フィン34がダンパケーシング17の回転中心から同一半径rの位置に円周方向に間隔を隔てて設けられている。
図1に示されるように、放熱フィン34は、円周方向に角度間隔αのピッチで同一半径位置に一列となってディスク基板33に設けられ、径方向に延びている。このビスカスダンパ10における角度間隔αは、10°に設定されており、3~15°の範囲のうちいずれかの角度に設定することが好ましい。
【0020】
図5(A)は放熱ディスク31の一部を示す拡大正面図であり、
図6(A)は
図5(A)における6A-6A線拡大断面図であり、
図6(B)は
図5(A)における6B-6B線拡大断面図である。
【0021】
図5および
図6に示されるように、放熱フィン34は、ディスク基板33から軸方向に外方に向けて突出しており、径方向内方端35と径方向外方端36との間を径方向に延びるフィン本体部37を有し、放熱フィン34の内側には冷却通路38が円周方向に形成される。ビスカスダンパ10の回転方向が
図5(A)および
図6(B)に矢印Rで示した方向とすると、放熱フィン34の回転方向前端面側の空気導入口41が回転方向前方に開口し、回転方向後端面側の空気流出口42が回転方向後方に開口する。ビスカスダンパ10が矢印Rの方向に回転すると、
図6(B)に示されるように、ビスカスダンパ10の周囲空気は、放熱フィン34に対して相対的に矢印Aで示されるように、空気導入口41から冷却通路38に直接流入し、円周方向に延びる冷却通路38を流れて空気流出口42から流出する。このように、冷却通路38の空気導入口41が回転方向前方に開口されているので、ビスカスダンパ10の回転に伴って、放熱フィン34の回転速度で空気が冷却通路38内に流入する。これにより、冷却通路38内には直接空気が流入し、環状ダンパ22の熱は、放熱ディスク31、32から冷却通路38を流れる空気に熱伝達され、放熱フィン34により放熱される。したがって、冷却通路38に直接流入する空気によって、ビスカスダンパ10の冷却効果を向上させることができる。
【0022】
冷却通路38の空気流方向の通路長さMは、放熱フィン34の幅寸法により設定される。また、放熱フィン34のフィン本体部37は、
図6(B)に示されるように、空気導入口41から空気流出口42に向けてディスク基板33から離れる方向に角度θで傾斜しており、空気導入口41のフィン本体部37の高さをh1とし、空気流出口42のフィン本体部37の高さをh2とすると、高さh2は高さh1よりも高い。これにより、空気流出口42の開口面積は、空気導入口41の開口面積よりも大きくなっている。
【0023】
放熱フィン34が一体となった放熱ディスク31は、金属製の薄板からなるブランク材をプレス加工することにより製造される。上述した傾斜角度θは5~45°に設定され、高さh1は1~3mm、高さh2は2~6mm、冷却通路38の通路長さMは5~10mm程度に設定される。放熱ディスク31は環状ダンパ22の端面に熱伝導性を有する接着剤により取り付けられるか、ディスク基板33の外周部と内周部とをシーム溶接することにより環状ダンパ22に取り付けられる。
【0024】
なお、図示する実施の形態においては、放熱フィン34が放熱ディスク31に一体となっているが、径方向内方端35と径方向外方端36と、これらの間を径方向に延びるフィン本体部37とを有する複数の独立した放熱フィン34を環状ダンパ22の両端面のうち少なくとも一方の面に直接取り付けるようにしても良い。
【0025】
上述のように、フィン本体部37を傾斜させて、空気流出口42の開口面積を空気導入口41の開口面積よりも大きくすると、冷却通路38の空気流出口42では、負圧が生じて周囲の空気を巻き込んで乱流ないし渦流が発生し、これに冷却通路38を通過した空気がこの乱流ないし渦流を押し広げる。これにより、放熱フィン34による放熱効果が高められる。
図6(B)においては、空気流出口42の付近に発生した乱流が符号Tにより模式的に示されている。
【0026】
フィン本体部37を傾斜させることなく、空気導入口41と空気流出口42の開口面積をほぼ同一に設定した場合と、空気流出口42の開口面積を空気導入口41の開口面積よりも大きくした場合とを比較すると、いずれも放熱フィン34による放熱効果を高めることができるが、フィン本体部37を傾斜させて空気流出口42の開口面積を空気導入口41の開口面積よりも大きくした場合の方が、放熱効果が高められることが実験により確認された。
【0027】
環状ダンパ22の背面側に設けられる放熱ディスク32についても、放熱ディスク31と同様の構造であり、放熱ディスク32の放熱フィン34も空気導入口41が回転方向前方に開口し、空気流出口42が回転方向後方に開口する。ビスカスダンパ10が正面側から見て、
図3(A)、
図4(A)において矢印Rで示す方向に回転すると、
図3(B)、
図4(B)に示されるように、ビスカスダンパ10を背面側から見ると、放熱ディスク32の回転方向は、放熱ディスク31に対して逆方向となる。したがって、環状ダンパ22の両端面に放熱ディスク31、32が設けられる場合には、放熱ディスク31と放熱ディスク32とでは、空気導入口41と空気流出口42の開口方向が逆向きとなった放熱ディスクが用いられる。
【0028】
上述した環状ダンパ22には、その両端面に放熱ディスク31、32が設けられているが、ビスカスダンパ10の種類によっては、環状ダンパ22の一方の端面に放熱ディスクを設ける形態としても良く、放熱ディスクを環状ダンパ22の両端面のうち少なくとも一方に設けることにより、ビスカスダンパ10の冷却効率を高めることができる。
【0029】
放熱フィン34が122個設けられた放熱ディスク31を環状ダンパ22に設けたビスカスダンパ10と、特許文献1に記載されるように、径方向に延びる冷却通路が122個設けられたファンディスクを環状ダンパに設けたビスカスダンパとについて、冷却効果の確認実験を行った。それぞれの実験においては、放熱フィン34の表面積と、冷却通路を構成する部材の表面積とをほぼ同一に設定した。その結果、環状ダンパの外周温度は、径方向に冷却通路を延在させた場合には、81.0℃までしか冷却されなかったのに対し、本発明のように冷却通路38を円周方向に延在させ、空気流出口42の開口面積を空気導入口41の開口面積よりも大きくした場合は、78.8℃まで冷却された。このように、上述した放熱ディスクを環状ダンパ22に設けると、ビスカスダンパ10の冷却効率を高めることができることが確認された。
【0030】
図7(A)、(B)はそれぞれ放熱ディスクの変形例を示す正面図である。
図7(A)に示される放熱ディスク31は、半径r1の位置に一列となって放熱フィン34が複数設けられるとともに、半径r1よりも大きい半径r2の位置に一列となって放熱フィン34が複数設けられている。半径r1の内側列の放熱フィン34と、半径r2の外側列の放熱フィン34は、同一径方向線の位置に設けられており、内側列と外側列の放熱フィン34の数は同数となっている。なお、内側列の放熱フィン34と外側列の放熱フィン34を同一径方向線の位置に設けることなく、円周方向の位置を内側列の放熱フィン34と外側列の放熱フィン34とで円周方向の位置を相違させて円周方向にずらした形態としても良い。
【0031】
図7(B)に示される放熱ディスク31は、
図7(A)に示したものと同様に、半径r1の位置に一列となって放熱フィン34が複数設けられるとともに、半径r1よりも大きい半径r2の位置に一列となって放熱フィン34が複数設けられている。これに対し、
図7(B)に示した放熱ディスク31における外側の放熱フィン34の数は、内側の放熱フィン34の数よりも多く、内側列を構成する放熱フィン34と、他の列である外側列を構成する放熱フィン34とでは、円周方向の位置がずらされている。
【0032】
図7に示される放熱フィン34についても、
図5および
図6に示した形状であり、冷却通路38の空気導入口41が回転方向前方に開口されており、ビスカスダンパ10の回転に伴って、放熱フィン34の回転速度で空気が冷却通路38内に流入する。また、空気流出口42の開口面積は、空気導入口41の開口面積よりも大きくなっており、冷却通路38を通過した空気は、拡散するように空気流出口42から流出し、空気流出口42の付近には、乱流ないし渦流が発生し、放熱フィン34による放熱効果が高められる。
【0033】
図7は環状ダンパ22の正面側に設けられる放熱ディスク31を示すが、背面側に設けられる放熱ディスク32についても、
図7に示されるように、放熱フィン34を内側列と外側列の2列設けるようにしても良い。このように、放熱ディスク31、32に設けられる放熱フィン34としては、上述のように1列でも良く、2列またはそれ以上の複数列としても良い。さらに、同一列を構成し円周方向に隣り合う放熱フィン34を径方向にずらして設けるようにしても良い。
【0034】
図8は他の実施の形態であるビスカスダンパを示す断面図である。このビスカスダンパ10は外マス型であり、ハブプレート11の外周部の前後には、それぞれハブプレート11との間に隙間を介して2つの慣性質量体21a、21bが配置されている。それぞれの慣性質量体21a、21bの外周面には外周リング13aが溶接されており、外周リング13aにより両方の慣性質量体21a、21bは一体となっている。ハブプレート11の両面には、環状部43が軸方向に突出し、慣性質量体21a、21bの両面には環状部44が軸方向に突出しており、それぞれの環状部43、44の間には環状ゴムからなる弾性体45が組み込まれている。
【0035】
慣性質量体21a、21bとハブプレート11との間の隙間には減衰液Lが充填される。このように、
図8に示される外マス型のビスカスダンパ10においては、2つの慣性質量体21a、21bによりハブプレート11の外周部に配置される環状ダンパ22が構成される。
【0036】
それぞれの慣性質量体21a、21bの外面つまり環状ダンパ22の両端面には、上述した内マス型のビスカスダンパ10と同様に、放熱フィン34が設けられている。ただし、放熱フィン34を慣性質量体21a、21bの一方の外面のみに設けるようにしても良い。
【0037】
放熱フィン34の構造としては、
図3に示したように、放熱フィン34が放熱ディスク31に一体となった構造でも良く、径方向内方端35と径方向外方端36と、これらの間を径方向に延びるフィン本体部37とを有する複数の独立した放熱フィン34を環状ダンパ22の両端面のうち少なくとも一方の面に直接取り付けるようにしても良い。また、外周リング13aを軸方向に2分割された形状とし、2分割された外周リング13aをそれぞれの慣性質量体21a、21bの外周部に予め一体に成形するようにしても良い。
【0038】
このような外マス型のビスカスダンパ10においても、ビスカスダンパ10の回転に伴って、放熱フィン34の回転速度で空気が冷却通路38内に流入する。冷却通路38を通過した空気は、拡散するように空気流出口42から流出し、空気流出口42の付近には、乱流ないし渦流が発生し、放熱フィン34による放熱効果が高められる。
【0039】
本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【産業上の利用可能性】
【0040】
このビスカスダンパは、自動車等の車両の動力源としてのエンジンにより駆動される回転軸に取り付けられ、回転軸の捩り振動を吸収するために使用される。