IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ナノテク インストゥルメンツ,インコーポレイテッドの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-25
(45)【発行日】2022-03-07
(54)【発明の名称】高導電性黒鉛フィルムおよび製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/205 20170101AFI20220228BHJP
   H01L 23/373 20060101ALI20220228BHJP
   H01B 1/04 20060101ALI20220228BHJP
   H01B 5/14 20060101ALI20220228BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20220228BHJP
【FI】
C01B32/205
H01L23/36 M
H01B1/04
H01B5/14 Z
H01B13/00 503Z
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2019511639
(86)(22)【出願日】2017-07-25
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-11-14
(86)【国際出願番号】 US2017043605
(87)【国際公開番号】W WO2018044429
(87)【国際公開日】2018-03-08
【審査請求日】2020-06-10
(31)【優先権主張番号】15/251,857
(32)【優先日】2016-08-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】518190776
【氏名又は名称】ナノテク インストゥルメンツ,インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】Nanotek Instruments,Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】110001302
【氏名又は名称】特許業務法人北青山インターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】ツァーム,アルナ
(72)【発明者】
【氏名】チャン,ボア ゼット.
【審査官】磯部 香
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0266739(US,A1)
【文献】特表2013-517274(JP,A)
【文献】国際公開第2014/046187(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/064555(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/205
H01L 23/373
H01B 1/04
H01B 5/14
H01B 13/00
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
黒鉛フィルムを製造するための方法であって、当該方法が、
(a)フミン酸を炭素前駆体ポリマーまたはモノマーおよび液体と混合してスラリーまたは懸濁液を形成すると共に配向誘起応力場のもとで前記スラリーまたは懸濁液を湿潤フィルムに形成して前記フミン酸分子を固体基材上に整列させる工程であって、前記炭素前駆体ポリマーが、ポリイミド、ポリアミド、ポリオキサジアゾール、ポリベンゾオキサゾール、ポリベンゾビスオキサゾール、ポリチアゾール、ポリベンゾチアゾール、ポリベンゾビスチアゾール、ポリ(p-フェニレンビニレン)、ポリベンゾイミダゾール、ポリベンゾビスイミダゾール、およびそれらの組合せからなる群から選択される工程と、
(b)前記液体を前記湿潤フィルムから除去して前駆体ポリマー複合フィルムを形成する工程であって、前記フミン酸が、乾燥された前駆体ポリマー複合物の全重量に基づいて50%以上の重量分率を占める工程と、
(c)少なくとも300℃の炭化温度において、前記前駆体ポリマー複合フィルムを炭化させるか、または前記モノマーを重合させ、次に、前記前駆体ポリマー複合フィルムを炭化させて、炭化複合フィルムを得る工程と、
(d)前記炭化複合フィルムを1,250℃より高い最終黒鉛化温度において熱処理して黒鉛フィルムを得る工程
備えることを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、前記前駆体ポリマー複合フィルムを炭化させる前記工程(c)の間または後に前記炭化複合フィルムを圧縮する工程をさらに備えることを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法において、前記炭化複合フィルムを熱処理する前記工程(d)の間または後に前記黒鉛フィルムを圧縮する工程をさらに備えることを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1に記載の方法において、前記最終黒鉛化温度が2,500℃より低いことを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項1に記載の方法において、前記炭化温度が1,000℃より低いことを特徴とする方法。
【請求項6】
黒鉛フィルムを製造するための方法であって、当該方法が、
(a)フミン酸分子、炭素前駆体材料を有するシート、および体を混合してスラリーまたは懸濁液を形成すると共に配向誘起応力場のもとで前記スラリーまたは懸濁液を湿潤フィルムに形成して前記フミン酸分子を整列させる工程であって、前記炭素前駆体材料が70%未満の炭素収率を有する工程と、
(b)前記液体を除去してフミン酸充填前駆体複合フィルムを形成する工程であって、フミン酸が全前駆体複合物の重量に基づいて50%以上の重量分率を占める工程と、
(c)前記前駆体複合フィルムを少なくとも300℃の炭化温度において炭化させて炭化複合フィルムを得る工程と、
(d)前記炭化複合フィルムを1,500℃より高い最終黒鉛化温度において熱処理して黒鉛フィルムを得る工程
備えることを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項に記載の方法において、前記前駆体複合フィルムを炭化させる前記工程(c)の間または後に前記炭化複合フィルムを圧縮する工程をさらに備えることを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項に記載の方法において、前記炭化複合フィルムを熱処理する前記工程(d)の間または後に前記黒鉛フィルムを圧縮する工程をさらに備えることを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項に記載の方法において、前記炭素前駆体材料が50%未満の炭素収率を有することを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項に記載の方法において、前記炭素前駆体材料がモノマー、オリゴマー、有機材料、ポリマー、またはそれらの組合せから選択されることを特徴とする方法。
【請求項11】
請求項に記載の方法において、前記炭素前駆体材料が30%未満の炭素収率を有することを特徴とする方法。
【請求項12】
請求項1に記載の方法において、前記最終黒鉛化温度が2,000℃未満であり、前記黒鉛フィルムが0.338nm未満のグラフェン間間隔、少なくとも1,000W/mKの熱伝導率、および/または5,000S/cm以上の電気導電率を有することを特徴とする方法。
【請求項13】
請求項1に記載の方法において、前記最終黒鉛化温度が2,200℃未満であり、前記黒鉛フィルムが0.337nm未満のグラフェン間間隔、少なくとも1,200W/mKの熱伝導率、7,000S/cm以上の電気導電率、1.9g/cmより大きい物理的密度、および/または30MPaより大きい引張強さを有することを特徴とする方法。
【請求項14】
請求項1に記載の方法において、前記最終黒鉛化温度が2,500℃未満であり、前記黒鉛フィルムが0.336nm未満のグラフェン間間隔、少なくとも1,500W/mKの熱伝導率、10,000S/cm以上の電気導電率、2.0g/cmより大きい物理的密度、および/または35MPaより大きい引張強さを有することを特徴とする方法。
【請求項15】
請求項1に記載の方法において、前記黒鉛フィルムが0.337nm未満のグラフェン間間隔および1.0未満のモザイクスプレッド値を示すことを特徴とする方法。
【請求項16】
請求項1に記載の方法において、前記黒鉛フィルムが60%以上の黒鉛化度および/または0.7未満のモザイクスプレッド値を示すことを特徴とする方法。
【請求項17】
請求項1に記載の方法において、前記黒鉛フィルムが90%以上の黒鉛化度および/または0.4未満のモザイクスプレッド値を示すことを特徴とする方法。
【請求項18】
黒鉛フィルムを製造するための方法であって、当該方法が、
(a)フミン酸を炭素前駆体ポリマーまたはモノマーおよび液体と混合してスラリーまたは懸濁液を形成すると共に配向誘起応力場のもとで前記スラリーまたは懸濁液を湿潤フィルムに形成して前記フミン酸分子を固体基材上に整列させる工程であって、前記炭素前駆体ポリマーが、ポリイミド、ポリアミド、ポリオキサジアゾール、ポリベンゾオキサゾール、ポリベンゾビスオキサゾール、ポリチアゾール、ポリベンゾチアゾール、ポリベンゾビスチアゾール、ポリ(p-フェニレンビニレン)、ポリベンゾイミダゾール、ポリベンゾビスイミダゾール、およびそれらの組合せからなる群から選択され、前記フミン酸が、還元フミン酸、窒化フミン酸、フッ化フミン酸、または、ポリマー、SO H、COOH、NH 、OH、R’CHOH、CHO、CN、COCl、ハリド、COSH、SH、COOR’、SR’、SiR’ 、Si(-OR’-) R’ 3-y 、Si(-O-SiR’ -)OR’、R’’、Li、AlR’ 、Hg-X、TlZ およびMg-Xからなる群から選択される種を含有する化学的に官能化されているフミン酸(式中、yは3以下の整数であり、R’は水素、アルキル、アリール、シクロアルキル、またはアラルキル、シクロアリール、またはポリ(アルキルエーテル)であり、R’’はフルオロアルキル、フルオロアリール、フルオロシクロアルキル、フルオロアルアルキルまたはシクロアリールであり、Xはハリドであり、Zはカルボキシレートまたはトリフルオロアセテート、またはそれらの組合せである)から選択される工程と、
(b)前記液体を前記湿潤フィルムから除去して前駆体ポリマー複合フィルムを形成する工程であって、前記フミン酸が、乾燥された前駆体ポリマー複合物の全重量に基づいて50%以上の重量分率を占める工程と、
(c)少なくとも300℃の炭化温度において、前記前駆体ポリマー複合フィルムを炭化させるか、または前記モノマーを重合させ、次に、前記前駆体ポリマー複合フィルムを炭化させて、炭化複合フィルムを得る工程と、
(d)前記炭化複合フィルムを1,250℃より高い最終黒鉛化温度において熱処理して黒鉛フィルムを得る工程
を備えることを特徴とする方法。
【請求項19】
請求項18に記載の方法において、前記前駆体ポリマー複合フィルムを炭化させる前記工程(c)の間または後に前記炭化複合フィルムを圧縮する工程をさらに備えることを特徴とする方法。
【請求項20】
請求項18に記載の方法において、前記炭化複合フィルムを熱処理する前記工程(d)の間または後に前記黒鉛フィルムを圧縮する工程をさらに備えることを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2016年8月30日に出願された米国特許出願第15/251,857号(その内容を参照によって本願明細書に組み入れる)に対する優先権を主張する。
【0002】
本発明は一般的に、電磁干渉(EMI)遮蔽および放熱用途のための黒鉛材料の分野に関し、より詳しくは、フミン酸充填ポリマーまたは炭素前駆体から得られる電気導電性および熱伝導性黒鉛フィルムに関する。このフミン酸/ポリマー混合物由来のフィルムは、非常に高い熱伝導率、高い電気導電率、および高い機械的強度の組合せを示す。
【背景技術】
【0003】
最新EMI遮蔽および熱管理材料は、現在のミクロ電子工学、フォトニック、および光電池システムに重要になりつつある。これらのシステムは外部ソースからのEMIに対する遮蔽を必要とし、これらのシステムは他の影響を受けやすい電子デバイスの電磁干渉源である場合があり、遮蔽されなければならない。EMI遮蔽用途のための材料は、電気導電性でなければならない。
【0004】
さらに、新しいおよびより多くの強力チップ設計および発光ダイオード(LED)システムが導入されるので、それらはより電力を消費し、より多くの熱を発生する。これによって、熱管理は現在の高性能システムにおける極めて重要な課題になっている。アクティブ電子走査レーダーアレイ、ウェブサーバー、個人消費者向けエレクトロニクス用の大型バッテリーパック、ワイドスクリーンディスプレイ、および固体照明装置の範囲にわたるシステムは全て、より効率的に放熱することができる高熱伝導率材料を必要とする。他方、デバイスは、ますますより小さく、より薄く、ますますより軽量になるように設計および製造される。これは、放熱の難しさをさらに増す。実際に、熱管理の課題は今、デバイスおよびシステム性能の継続的な改良を産業が提供できるための主な障害として広く知られている。
【0005】
ヒートシンクは、コンピューティングデバイス内のCPUまたはバッテリーなどの熱源の表面から周囲空気などのより低温の環境への放熱を促進する構成部品である。典型的に、固体表面と空気との間の伝熱はシステム内で少しも効率的でなく、したがって固体-空気境界面は放熱のための最も大きな障害となる。ヒートシンクは、主に、空気と直接接触しているヒートシンク表面積の増加によって、熱源と空気との間の伝熱効率を高めるように設計される。この設計は、より速い放熱速度を可能にし、したがって、デバイス動作温度を低下させる。
【0006】
(例えばヒートシンクとして)熱管理用途のための材料は熱伝導性でなければならない。典型的に、ヒートシンクは、金属がその構造物全体にわたって容易に伝熱することができるので、金属、特に銅またはアルミニウムから製造される。フィンまたは他の構造物を使用してCuおよびAlヒートシンクを形成してヒートシンクの表面積を増加させ、しばしば、空気をフィン全体にわたって圧入してまたは通過させて空気への熱の放熱を促進する。しかしながら、金属ヒートシンクの使用に伴ういくつかの主な欠点または制限条件がある。1つの欠点は、金属の比較的低い熱伝導率(Cuについては<400W/mKおよびAl合金については80~200W/mK)に関する。さらに、銅またはアルミニウムヒートシンクの使用は、金属の重量のために、特に、加熱面積がヒートシンクの加熱面積よりかなり小さい時、問題を生じ得る。例えば、高純度銅は8.96グラム/立方センチメートル(g/cm)の重さがあり、高純度アルミニウムは2.70g/cmの重さがある。多くの用途において、いくつかのヒートシンクを回路ボード上に配列して、ボード上の様々な構成部品から放熱させる必要がある。金属ヒートシンクが使用される場合、ボード上の金属の純然たる重量は、ボードのクラッキングまたは他の望ましくない効果の可能性を増加させることがあり、構成部品それ自体の重量を増加させる。多くの金属は高い表面熱放射率を示さず、したがって、放射機構によって有効に放熱しない。
【0007】
したがって、CPUなどの熱源によって生じる熱を放熱するために有効な非金属ヒートシンクシステムが非常に必要とされている。ヒートシンクシステムは、金属ヒートシンクと比較して、より高い熱伝導率および/またはより高い熱伝導率対重量比を示すのがよい。これらのヒートシンクはまた、好ましくは費用効果が高い方法を使用して、大量生産可能でなければならない。金属ヒートシンクは押出、スタンピング、およびダイキャスティングなどのスケーラブルな技術を使用して容易に大量に製造できるので、この加工の容易さの要件は重要である。
【0008】
EMI遮蔽およびヒートシンクの両方の用途に適している可能性がある一群の材料は、黒鉛炭素または黒鉛である。炭素は、ダイアモンド、フラーレン(0次元ナノ黒鉛材料)、カーボンナノチューブまたはカーボンナノファイバー(1次元ナノ黒鉛材料)、グラフェン(2次元ナノ黒鉛材料)、および黒鉛(3次元黒鉛材料)など、5つの独特の結晶性構造を有することが知られている。カーボンナノチューブ(CNT)は、単層または多層を有するように成長したチューブ状構造体を意味する。カーボンナノチューブ(CNT)およびカーボンナノファイバー(CNF)は、数ナノメートル~数百ナノメートルのオーダーの直径を有する。それらの長手方向中空構造体は、独特の機械的、電気的および化学的性質を材料に与える。CNTまたはCNFは、1次元ナノカーボンまたは1次元ナノ黒鉛材料である。
【0009】
バルク天然黒鉛粉末は、各々の黒鉛粒子が複数の結晶粒(結晶粒は黒鉛単結晶または微結晶である)から構成され、結晶粒界(非晶質または欠陥領域)は、隣接する黒鉛単結晶の境界を定める3次元黒鉛材料である。各々の結晶粒は、互いに平行に配向される複数のグラフェン面から構成される。黒鉛微結晶内のグラフェン面は、二次元の、六方格子を占める炭素原子から構成される。所与の結晶粒または単結晶において、グラフェン面は、(グラフェン面または基礎面に垂直な)c方向の結晶方位のファンデルワールス力によって積み重ねられて接合される。1つの結晶粒の全てのグラフェン面は互いに平行であるが、典型的に1つの結晶粒のグラフェン面と隣接した結晶粒のグラフェン面は配向が異なっている。換言すれば、黒鉛粒子の様々な結晶粒の配向は典型的に、結晶粒ごとに異なる。
【0010】
黒鉛単結晶(微結晶)それ自体は異方性であり、基礎面(a軸またはb軸結晶方向)の方向に沿って測定された性質はc軸結晶方向(厚さ方向)に沿って測定される場合とは劇的に異なっている。例えば、黒鉛単結晶の熱伝導率は、基礎面(a軸およびb軸結晶方向)において約1,920W/mKまで(理論値)または1,800W/mKまで(実験値)であり得るが、c軸結晶方向に沿う熱伝導率は10W/mK未満(典型的に5W/mK未満)である。したがって、異なった配向の複数の結晶粒から構成される天然黒鉛粒子は、これらの2つの極値の間の平均の性質を示す。
【0011】
面間ファンデルワールス力に打ち勝つことができるならば、黒鉛微結晶の構成グラフェン面は剥離されて黒鉛微結晶から抽出または単離され、炭素原子の単独グラフェンシートを得ることができる。炭素原子の単離された、単独グラフェンシートは一般的に単一層グラフェンと称される。0.3354nmのグラフェン面間間隔で厚さ方向にファンデルワールス力によって接合した複数のグラフェン面の積層体は一般的に複数層グラフェンと称される。複数層グラフェンプレートリットは、300層までのグラフェン面(厚さ<100nm)を有するが、より典型的には30までのグラフェン面(厚さ<10nm)、さらにより典型的に20までのグラフェン面(厚さ<7nm)、および最も典型的に10までのグラフェン面を有する(科学界において一般的に数層グラフェンと称される)。単一層グラフェンおよび複数層グラフェンシートは一括して「ナノグラフェンプレートリット」(NGP)と呼ばれる。グラフェンシート/プレートリットまたはNGPは、0次元フラーレン、1次元CNT、および3次元黒鉛からはっきり区別される新規なクラスの炭素ナノ材料(2次元ナノ炭素)である。
【0012】
図1(A)および図1(B)において図示されるように、NGPは典型的に、天然黒鉛粒子を強酸および/または酸化剤でインターカレートして黒鉛層間化合物(GIC)または黒鉛酸化物(GO)を得ることによって得られる。グラフェン面間の格子空間における化学種または官能基の存在は、グラフェン間間隔(d002、X線回折によって測定される)を増加させるのに役立ち、それによって他の場合ならグラフェン面をc軸方向に沿って保持するファンデルワールス力をかなり低減する。GICまたはGOは非常にしばしば、天然黒鉛粉末(図1(A)の20)を硫酸、硝酸(酸化剤)、および別の酸化剤(例えば過マンガン酸カリウムまたは過塩素酸ナトリウム)の混合物中に浸漬することによって製造される。得られたGIC(22)は実際には或るタイプの黒鉛酸化物(GO)粒子である。次に、このGICを繰り返して水中で洗浄およびすすぎ洗いして過剰な酸を除去して、黒鉛酸化物懸濁液または分散体をもたらし、それは、水中に分散された離散したおよび目視で識別できる黒鉛酸化物粒子を含有する。このすすぎ工程の後に続く2つの加工経路がある。
経路1は、水を懸濁液から除去して、本質的に、乾燥されたGICまたは乾燥された黒鉛酸化物粒子の塊である、「膨張性黒鉛」を得る工程を必要とする。膨張性黒鉛を典型的に800~1,050℃の範囲の温度に約30秒~2分間の間暴露した時、GICは30~300倍急速な膨張をして「黒鉛ワーム」(24)を形成するが、それらはそれぞれ、相互接続されたままである剥離した、しかしほとんど分離していない黒鉛フレークの集まりである。
【0013】
経路1Aにおいて、これらの黒鉛ワーム(剥離黒鉛または「相互接続された/分離されていない黒鉛フレークの網目構造」)を再圧縮して、0.1mm(100μm)~0.5mm(500μm)の範囲の厚さを典型的に有する可撓性黒鉛シートまたは箔(26)を得ることができる。代わりに、100nmよりも厚い主に黒鉛フレークまたはプレートリット(したがって、定義によってナノ材料ではない)を含有するいわゆる「膨張黒鉛フレーク」を製造する目的のために低強度エアジェットミルまたは剪断機を使用して黒鉛ワームを単に破断することを選択してもよい。
【0014】
剥離黒鉛ワーム、膨張黒鉛フレークの他、黒鉛ワームの再圧縮塊(可撓性黒鉛シートまたは可撓性黒鉛箔と一般的に称される)は全て、1次元ナノ炭素材料(CNTまたはCNF)または2次元ナノ炭素材料(グラフェンシートまたはプレートリット、NGP)のどちらとも根本的に異なり明らかに区別できる3次元黒鉛材料である。可撓性黒鉛(FG)箔はヒートスプレッダ材料として使用され得るが、典型的に500W/mK未満(より典型的に<300W/mK)の最大面内熱伝導率および1,500S/cm以下の面内電気導電率を示す。これらの低い導電率の値は、多くの欠陥、皺が寄ったまたは折れた黒鉛フレーク、黒鉛フレーク間の割り込みまたは間隙、および平行でないフレーク(例えば図2(B)のSEM画像)の直接の結果である。多くのフレークは、非常に大きな角度で互いに対して傾斜している(例えば20~40度の方位差)。
【0015】
経路1Bにおいて、剥離黒鉛を高強度機械的剪断に供して(例えばウルトラソニケーター、高剪断ミキサー、高強度エアジェットミル、または高エネルギーボールミルを使用して)、分離された単一層および複数層グラフェンシート(一括してNGPと呼ばれる、33)を形成する。単一層グラフェンはわずか0.34nmであり得るが、他方、複数層グラフェンは100nmまでの厚さを有することができる。本出願において、複数層NGPの厚さは典型的に20nm未満である。
【0016】
経路2は、単独酸化グラフェンシートを黒鉛酸化物粒子から分離/単離する目的のために黒鉛酸化物懸濁液を超音波処理することを必要とする。これは、グラフェン面間分離が天然黒鉛の0.3354nmから高度に酸化された黒鉛酸化物の0.6~1.1nmに増加しており、隣接する面を一緒に保持するファンデルワールス力を著しく弱めるという考えに基づいている。超音波出力は、グラフェン面シートをさらに分離して、分離された、単離された、または離散酸化グラフェン(GO)シートを形成するために十分であり得る。次に、これらの酸化グラフェンシートを化学的にまたは熱還元して、0.001重量%~10重量%、より典型的に0.01重量%~5重量%の酸素含有量を典型的に有する「還元酸化グラフェン」(RGO)を得ることができる。したがって、NGPには、グラフェン、酸化グラフェン、または酸素含有量0~10重量%、より典型的には0~5重量%、および好ましくは0~2重量%の還元酸化グラフェンの単一層および複数層形態の離散シート/プレートリットが含まれる。純粋グラフェンは本質的に0%の酸素を有する。酸化グラフェン(RGOを含める)は典型的に、0.001重量%~46重量%の酸素を有する。
【0017】
可撓性黒鉛箔は、剥離黒鉛ワームを紙状シートに圧縮またはロールプレスすることによって得られてもよい。電子デバイスの熱管理用途について(例えばヒートシンク材料として)、可撓性黒鉛(FG)箔は以下の主な欠陥を有する:
(1)先に示したように、FG箔は比較的低い熱伝導率、典型的に<500W/mKおよびより典型的には<300W/mKを示す。剥離黒鉛を樹脂で含浸することによって、得られた複合物はさらにより低い熱伝導率(典型的に<<200W/mK、より典型的には<100W/mK)を示す。
(2)その中に含浸されるかまたはその上にコートされる樹脂を有さない、可撓性黒鉛箔は低い強度、低い剛性、および不十分な構造統合性を有する。可撓性黒鉛箔がばらばらになる傾向が高いことによって、ヒートシンクを製造するプロセスにおいてそれらは取扱いが難しくなる。実際のところ、可撓性黒鉛シート(典型的に厚さ50~200μm)は非常に「可撓性」であるので、それらは、フィンを有するヒートシンク用のフィン構成部品材料を製造するために十分に硬質ではない。
(3)FG箔の非常に微妙な、一般に無視されるか見過ごされるが極めて重要な特徴は、それらがフレーク状になり、黒鉛フレークがFGシート表面から容易に落ちてマイクロ電子デバイスの他の部分に放出される傾向が高いことである。これらの高電気導電性フレーク(横方向寸法が典型的に1~200μmおよび厚さが>100nm)は、電子デバイスの内部短絡および故障を引き起こし得る。
【0018】
同様に、固体NGP(純粋グラフェン、GO、およびRGOの離散シート/プレートリットを含める)は、不織集合体のフィルム、膜、または紙シート(34)に充填される時、これらのシート/プレートリットが最密充填され且つフィルム/膜/紙が極薄である(例えば<1μm、それは機械的に弱い)というのでなければ典型的に高い熱伝導率を示さない。これは、我々の先行の米国特許出願第11/784,606号明細書(2007年4月9日)に記載されている。一般的には、グラフェン、GO、またはRGOのプレートリットから製造される紙状構造物またはマット(例えば真空補助濾過プロセスによって作製されるそれらの紙シート)は、多くの欠陥、皺が寄ったまたは折れたグラフェンシート、プレートリット間の割り込みまたは間隙、および平行でないプレートリット(例えば図3(B)のSEM画像)を示し、比較的不十分な熱伝導率、低い電気導電率および低い構造強度をもたらす。(樹脂結合剤を有さない)離散NGP、GOまたはRGOプレートリットだけのこれらの紙または集合体はまた、空中に導電性粒子を放出する、フレーク状になる傾向を有する。
【0019】
また、我々の先行の出願(米国特許出願第11/784,606号明細書)には、金属、ガラス、セラミック、樹脂、およびCVD炭素母材材料が浸透されたNGPのマット、フィルム、または紙が開示されている(この先行の出願においてグラフェンシート/プレートリットは、母材相ではなく、充填剤相または強化相である)。また、Haddonら著(米国特許出願公開第2010/0140792号明細書、2010年6月10日)には、熱管理用途のためのNGP薄フィルムおよびNGP強化ポリマー母材複合物が報告されている。所期の熱インターフェース材料として、NGP強化ポリマー母材複合物は、非常に低い熱伝導率、典型的に<<2W/mKを有する。HaddonらのNGPフィルムは、我々の先行の発明(米国特許出願第11/784,606号明細書)のNGPフィルムと同じである、離散グラフェンプレートリットの本質的に不織布集合体である。また、これらの集合体は、黒鉛粒子のフレーキングがあり、フィルム表面から分離する傾向が大きく、これらの集合体を含有する電子デバイスの内部短絡の問題を生じる。それらはまた、実際のデバイス製造環境において取扱いが非常に難しい薄フィルム(Haddonらによって報告されるように、10nm~300nm)にされなければ低い熱伝導率を示す。Balandinら(米国特許出願公開第2010/0085713号明細書、2010年4月8日)は、ヒートスプレッダ用途のためのCVD堆積またはダイアモンド変換によって製造されるグラフェン層を開示している。もっと最近では、Kimら(N.P.KimおよびJ.P.Huang、“Graphene Nanoplatelet Metal Matrix”、米国特許出願公開第2011/0108978号明細書、2011年5月10日)は、金属母材が浸透されたNGPを報告した。しかしながら、金属母材は非常に重く、得られた金属母材複合物は高い熱伝導率を示さない。
【0020】
熱管理またはEMI遮蔽用途のための別の先行技術材料は、熱分解黒鉛フィルムである。図1(A)の下側部分は、先行技術の熱分解黒鉛フィルムをポリマーから製造するための典型的な方法を図示する。方法は、2~10時間の間10~15Kg/cmの典型的な圧力下で400~1,500℃の炭化温度でポリマーフィルム46を炭化させることから開始して、炭化材料48を得て、それをその後に、1~5時間の間100~300Kg/cmの超高圧下で2,500~3,200℃での黒鉛化処理を行ない、黒鉛フィルム50を形成する。黒鉛フィルムを製造するためのこの方法に伴ういくつかの主な欠点がある:
(1)技術的に、このような超高温(>2,500℃)においてこのような超高圧(>100Kg/cm)を維持することは極めて難しい。高温および高圧の組み合わせられた条件は、達成可能だとしても、費用効果が高くない。
(2)これは困難な、緩慢な、長たらしい、エネルギー集約的であり、非常に費用がかかる方法である。
(3)このポリマー黒鉛化方法は、厚い黒鉛フィルム(>50μm)または非常に薄フィルム(<10μm)のどちらの製造にも寄与しない。
(4)一般的には、高品質黒鉛フィルムは、高配向ポリマーが出発原料として使用される場合(例えばY.Nishikawaら著“Filmy graphite and process for producing the same”、米国特許第7,758,842号明細書(2010年7月20日)を参照のこと)または炭化および黒鉛化の間に触媒金属が高配向ポリマーと接触される場合でなければ(Y.Nishikawaら著“Process for producing graphite film”、米国特許第8,105,565号明細書(2012年1月31日))、2,700℃より低い温度で製造することができない。光学複屈折を用いて表わされるこの高度の分子配向は、必ずしも達成可能でない。さらに、触媒金属の使用は、得られた黒鉛フィルムを金属元素で汚染する傾向がある。
(5)得られた黒鉛フィルムは脆くて低い機械的強度を有する傾向がある。
【0021】
第2のタイプの熱分解黒鉛は、真空中で炭化水素ガスを高温分解する工程と、その後に、炭素原子を基材表面に堆積する工程とによって製造される。分解炭化水素のこの気相凝縮は本質的に化学蒸着(CVD)法である。特に、高配向熱分解黒鉛(HOPG)は、非常に高い温度(典型的に3,000~3,300℃)において、堆積された熱分解炭素または熱分解黒鉛に一軸圧力を適用することによって製造された材料である。これは、保護雰囲気中で長時間にわたる機械的圧縮と超高温との組合せの加工熱処理、非常に費用がかかる、エネルギー集約的な、そして技術的に極めて難しい方法を必要とする。この方法は、作製に非常に費用がかかるだけでなく維持に非常に費用がかかり困難である(高真空、高圧、または高圧縮設備を有する)超高温装置を必要とする。
【0022】
フミン酸(HA)は土壌に一般的に見出される有機物であり、塩基(例えばKOH)を使用して土壌から抽出することができる。HAはまた、亜炭石炭の高度に酸化された別形態である、レオナルダイトと呼ばれる或るタイプの石炭から高収率で抽出することができる。レオナルダイトから抽出されたHAは、グラフェンのような分子中心(六方晶炭素構造物のSPコア)のエッジの周りに配置された多数の酸素化基(例えばカルボキシル基)を含有する。この材料は、天然黒鉛の強酸酸化によって製造される酸化グラフェン(GO)と少し似ている。HAは、5重量%~42重量%の典型的な酸素含有量を有する(他の主な元素は炭素および水素である)。HAは、化学還元または熱還元の後、0.01重量%~5重量%の酸素含有量を有する。本願における請求の範囲の定義のために、フミン酸(HA)は、0.01重量%~42重量%の酸素含有量の全範囲を基準とする。還元フミン酸(RHA)は、0.01重量%~5重量%の酸素含有量を有する特殊なタイプのHAである。
【0023】
本発明の目的は、非常に優れた熱伝導率、電気導電率、および機械的強度の組合せを示す黒鉛フィルムを製造するための方法を提供することである。
【0024】
本発明の別の目的は、制御された炭化および黒鉛化によって熱伝導性黒鉛フィルムをフミン酸充填ポリマーまたは他のタイプのフミン酸充填炭素前駆体材料(例えばピッチ、モノマー、オリゴマー、有機物、例えばマレイン酸)から製造するための費用効果が高い方法を提供することである。
【0025】
特に、本発明は、(フミン酸を有さない)相当するニートポリマーだけから同等の導電率の黒鉛フィルムを良好に製造するのに必要とされる炭化温度および/または黒鉛化温度より低い炭化温度および/または黒鉛化温度において黒鉛フィルムをフミン酸充填ポリマーまたは他の炭素前駆体材料から製造することができる方法を提供する。
【0026】
従来の方法と比較した時、本発明のこの方法は、著しくより低い熱処理温度、より短い熱処理時間およびより低いエネルギー消費量を必要とし、より高い熱伝導率、より高い電気導電率、およびより高い強度を有する黒鉛フィルムをもたらす。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0027】
ここに示されるのは、(a)フミン酸(HA)分子または炭素前駆体材料を有するシート(例えばポリマーまたはピッチ)と液体(例えば水または他の溶媒)とを混合して懸濁液またはスラリーを得る工程と、(b)配向誘起応力場のもとでスラリーをフミン酸充填前駆体ポリマー複合フィルムに形成してHA分子またはシートを固体基材上に整列させる工程において、HAが全前駆体ポリマー複合物重量に基づいて1%~99%の重量分率を占める工程と、(c)前駆体ポリマー複合フィルムを200~1,500℃(好ましくは350~l,250℃)の炭化温度において炭化させて、炭化複合フィルムを得る工程と、(d)炭化複合フィルムを1,500℃より高い最終黒鉛化温度において熱処理して(または黒鉛化して)黒鉛フィルムを得る工程とを含む、黒鉛フィルムを製造するための方法である。炭素前駆体ポリマーは好ましくは、ポリイミド、ポリアミド、ポリオキサジアゾール、ポリベンゾオキサゾール、ポリベンゾビスオキサゾール、ポリチアゾール、ポリベンゾチアゾール、ポリベンゾビスチアゾール、ポリ(p-フェニレンビニレン)、ポリベンゾイミダゾール、ポリベンゾビスイミダゾール、およびそれらの組合せからなる群から選択される。これらのポリマーは典型的に、高い炭素収率(典型的に>50重量%)を有する。
【0028】
好ましくは、方法は、前駆体ポリマー複合フィルムを炭化させる工程(c)の間または後に(例えばロールプレスによって)炭化複合フィルムを圧縮する工程をさらに含む。別の好ましい実施形態において、方法は、炭化複合フィルムを熱処理する工程(d)の間または後に黒鉛フィルムを圧縮してフィルムの厚さを低減し、フィルムの面内特性を改良する工程をさらに含む。
【0029】
本発明の一態様において、ポリイミド(PI)などのポリマーだけの炭化によって得られる炭素材料の黒鉛化のための2,500℃より高い典型的な温度とは対照的に、最終黒鉛化温度が2,500℃より低い。別の態様において、最終黒鉛化温度は2,000℃より低い。これは、我々の炭化された複合物の完全な黒鉛化は2,500℃より低い温度において達成され得るという点において驚くべきであり、そしてこれは2,000℃より低い温度において達成され得ることは最も驚くべきである。別の態様において、1,000℃より高い炭化温度を典型的に使用するのとは対照的に、炭化温度は1,000℃より低い。
【0030】
本発明の態様において、黒鉛フィルムをHA充填炭素前駆体ポリマー複合物から得るための炭化温度および/または最終黒鉛化温度は、フィルムが示す同じ黒鉛化度または同じかもしくは同様な性質を考えれば、付加的なHAなしに黒鉛フィルムを炭素前駆体ポリマーだけから製造するのに必要とされる炭化温度および/または最終黒鉛化温度よりも低い。
【0031】
さらに別の態様において、HA充填前駆体ポリマー複合物を炭化させるための炭化温度は1,000℃より低く、(同等の導電率の値を有する)ポリマーだけのために必要とされる炭化温度は1,000℃より高い。さらに別の態様において、黒鉛フィルムをHA充填炭素前駆体ポリマー複合物から製造するための最終黒鉛化温度は2,500℃より低く、ポリマーだけからの必要とされる最終黒鉛化温度(得られた黒鉛フィルムの同等の導電率の値を有する)は2,500℃より高い。
【0032】
本発明の別の好ましい実施形態は、(a)HAを炭素前駆体材料(例えばポリマー、有機材料、コールタールピッチ、石油ピッチ等々)および液体と混合してスラリーまたは懸濁液を形成すると共に配向誘起応力場のもとで、得られたスラリーまたは懸濁液を(例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルム、PETなどの固体基材の表面上に薄フィルムをキャストまたはコートすることによって)湿潤フィルムに形成してHAを整列させる工程と、(b)液体成分を除去してHA充填前駆体複合フィルムを形成する工程においてHAが全前駆体複合物の重量に基づいて1%~99%の重量分率を占める工程と、(c)前駆体複合フィルムを300~1,500℃の炭化温度において炭化させて、炭化複合フィルムを得る工程と、(d)炭化複合フィルムを1,500℃より高い最終黒鉛化温度において熱処理して黒鉛フィルムを得る工程とを含む黒鉛フィルムを製造するための方法であり、そこで炭素前駆体材料は70%未満の炭素収率を有する。
【0033】
一態様において、炭素前駆体材料は50%未満の炭素収率を有する。別の態様において、炭素前駆体材料は30%未満の炭素収率を有する。前駆体母材材料中に分散される高配合量のHAシートを使用することによって、母材材料は低い炭素収率を有するけれども(例えば50%未満またはさらに30%未満、すなわち炭化させる間に物質の50%または70%を失う)、本質的に十分に黒鉛化された黒鉛フィルムを得ることができることを観察することは驚くべきことである。例えば30%未満などの低い炭素収率を有する前駆体材料から黒鉛フィルムを得ることは可能でなかった。
【0034】
本発明の方法は典型的に、得られたHA充填炭素前駆体ポリマー複合フィルムが、炭化処理の前に、1.4未満の光学複屈折を示すように行われる。一態様において、光学複屈折は1.2未満である。
【0035】
本発明の特定の態様において、最終黒鉛化温度は2,000℃未満であり、得られた黒鉛フィルムは、0.338nm未満のグラフェン間間隔、少なくとも1,000W/mKの熱伝導率、および/または5,000S/cm以上の電気導電率を有する。別の態様において、最終黒鉛化温度は2,200℃未満であり、黒鉛フィルムは0.337nm未満のグラフェン間間隔、少なくとも1,200W/mKの熱伝導率、7,000S/cm以上の電気導電率、1.9g/cm3より大きい物理的密度、および/または25MPaより大きい引張強さを有する。さらに別の態様において、最終黒鉛化温度は2,500℃未満であり、得られた黒鉛フィルムは0.336nm未満のグラフェン間間隔、少なくとも1,500W/mKの熱伝導率、10,000S/cm以上の電気導電率、2.0g/cmより大きい物理的密度、および/または30MPaより大きい引張強さを有する。
【0036】
好ましくは、黒鉛フィルムは、0.337nm未満のグラフェン間間隔および1.0未満のモザイクスプレッド値を示す。より好ましくは、黒鉛フィルムは、60%以上の黒鉛化度および/または0.7未満のモザイクスプレッド値を示す。最も好ましくは、黒鉛フィルムは90%以上の黒鉛化度および/または0.4未満のモザイクスプレッド値を示す。
【0037】
また、本発明は、本願において規定される方法のいずれか1つによって製造される黒鉛フィルムを提供する。本発明の別の実施形態は、放熱要素としてその中に黒鉛フィルムを含有する電子デバイスである。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1A図1(A)は、剥離黒鉛生成物(可撓性黒鉛箔および可撓性黒鉛複合物)および熱分解黒鉛(下部分)を製造する様々な先行技術の方法を説明するフローチャートである。
図1B図1(B)は、単塊状黒鉛またはNGPフレーク/プレートリットの紙、マット、フィルム、および膜を製造するための方法を説明する略図である。全ての方法は、黒鉛材料(例えば天然黒鉛粒子)のインターカレーションおよび/または酸化処理から開始する。
図2A図2(A)は、黒鉛層間化合物(GIC)または黒鉛酸化物粉末の熱剥離後の黒鉛ワーム試料のSEM画像である。
図2B図2(B)は、可撓性黒鉛箔表面に平行ではない配向を有する多くの黒鉛フレークを示すと共にまた、多くの欠陥、よじれたまたは折れたフレークを示す、可撓性黒鉛箔の横断面のSEM画像である。
図3A図3(A)は、HA-PI複合物由来の黒鉛フィルムのSEM画像である。
図3B図3(B)は、製紙プロセス(例えば真空補助濾過)を使用して離散グラフェンシート/プレートリットから作製されるグラフェン紙/フィルムの横断面のSEM画像である。画像は、折れるかまたは割り込まれている(統合されていない)多くの離散グラフェンシートを示し、配向がフィルム/紙表面に平行でなく、多くの欠陥または不完全部を有する。
図4図4は、PBOの製造に伴う化学反応である。
図5図5は、HAの様々な重量分率(0%~100%)のHA-PBOフィルムから得られる一連の黒鉛フィルムの熱伝導率の値である。
図6A図6(A)は、様々な最終熱処理温度で調製されたHA-PIフィルム(66%HA+34%PI)、HA由来フィルムだけ、およびPIフィルムだけから得られる一連の黒鉛フィルムの熱伝導率である。
図6B図6(B)は、様々な最終熱処理温度で調製されたHA-PIフィルム(66%HA+34%PI)、HA由来フィルムだけ、およびPIフィルムだけから得られる一連の黒鉛フィルムの電気導電率の値である。
図7図7は、複合則の予測に従う熱伝導率の曲線と一緒に、様々な最終熱処理温度で調製されたHA-PFフィルム(90%HA+10%PF)、HA由来フィルムだけ、およびPFフィルムだけから得られる一連の黒鉛フィルムの熱伝導率の値である。
図8図8は、HAの様々な重量分率(0%~100%)を有するHA-PBIフィルムから得られる一連の黒鉛フィルムの電気導電率の値である。
図9図9は、黒鉛化温度の関数としてプロットされたHA-PI由来フィルム、PI由来フィルム、およびHA由来フィルム試料の引張強さの値である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
フミン酸(HA)は土壌に一般的に見出される有機物であり、塩基(例えばKOH)を使用して土壌から抽出することができる。HAはまた、亜炭石炭の高度に酸化された別形態である、レオナルダイトと呼ばれる或るタイプの石炭から抽出することができる。レオナルダイトから抽出されたHAは、グラフェンのような分子中心(六方晶炭素構造物のSPコア)のエッジの周りに配置された多数の酸素化基(例えばカルボキシル基)を含有する。この材料は、天然黒鉛の強酸酸化によって製造される酸化グラフェン(GO)と少し似ている。HAは、5重量%~42重量%の典型的な酸素含有量を有する(他の主な元素は炭素、水素、および窒素である)。キノン、フェノール、カテコールおよび糖部分などの様々な成分を有するフミン酸の分子構造の例は、以下の図式1に示される(情報源:Stevenson F.J.“Humus Chemistry:Genesis,Composition,Reactions”,John Wiley & Sons,New York 1994)。
【0040】
フミン酸のための非水溶媒には、ポリエチレングリコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、アルコール、糖アルコール、ポリグリセロール、グリコールエーテル、アミン系溶媒、アミド系溶媒、アルキレンカーボネート、有機酸、または無機酸が含まれる。
【0041】
本発明は、高導電性黒鉛フィルムを製造するための方法を提供する。方法は、
(a)フミン酸(シート状分子)を炭素前駆体材料(例えばポリマー)および液体(例えば水または他の溶媒)と混合して懸濁液またはスラリーを得る工程と、
(b)配向誘起応力場のもとでスラリーをHA充填前駆体ポリマー複合フィルムに形成してHA分子またはシートを固体基材上に整列させる工程において、HAが全前駆体ポリマー複合物重量に基づいて1%~99%の重量分率を占める工程と、
(c)典型的に300~1,500℃の炭化温度において前駆体ポリマー複合フィルムを炭化して、炭化複合フィルムを得る工程と、
(d)炭化複合フィルムを1,500℃より高い最終黒鉛化温度において熱処理して(または黒鉛化して)黒鉛フィルムを得る工程を含む。炭素前駆体材料は好ましくは、ポリイミド、ポリアミド、ポリオキサジアゾール、ポリベンゾオキサゾール、ポリベンゾビスオキサゾール、ポリチアゾール、ポリベンゾチアゾール、ポリベンゾビスチアゾール、ポリ(p-フェニレンビニレン)、ポリベンゾイミダゾール、ポリベンゾビスイミダゾール、およびそれらの組合せからなる群から選択されるポリマーである。
【0042】
フミン酸は、化学的に官能化されているフミン酸分子を含有する。これらの化学的に官能化されたフミン酸分子(CHA)は、ポリマー、SOH、COOH、NH、OH、R’CHOH、CHO、CN、COCl、ハリド、COSH、SH、COOR’、SR’、SiR’、Si(--OR’--)R’-y、Si(--O--SiR’--)OR’、R’’、Li、AlR’、Hg- -X、TlZおよびMg--Xから選択される化学官能基を含有してもよい。そこでyは3以下の整数であり、R’は水素、アルキル、アリール、シクロアルキル、またはアラルキル、シクロアリール、またはポリ(アルキルエーテル)であり、R’’はフルオロアルキル、フルオロアリール、フルオロシクロアルキル、フルオロアルアルキルまたはシクロアリールであり、Xはハリドであり、Zはカルボキシレートまたはトリフルオロアセテート、またはそれらの組合せである。これらの種は、ポリイミド、ポリアミド、ポリオキサジアゾール、ポリベンゾオキサゾール、ポリベンゾビスオキサゾール、ポリチアゾール、ポリベンゾチアゾール、ポリベンゾビスチアゾール、ポリ(p-フェニレンビニレン)、ポリベンゾイミダゾール、またはポリベンゾビスイミダゾール等々から選択される炭素前駆体材料のモノマー、オリゴマー、またはポリマーと化学的に相溶性であると思われる。
【0043】
混合工程または工程(a)は、ポリマー(またはそのモノマーまたはオリゴマー)を溶媒中に溶解して溶液を形成し、次いでHAを溶液中に分散させて懸濁液またはスラリーを形成することによって達成することができる。典型的に、ポリマーは、HAと混合する前にポリマー-溶媒溶液中に0.1重量%~10重量%の量である。HAは、スラリーの1重量%~90重量%(より典型的には10重量%~90重量%および最も望ましくは50重量%~90重量%)を占めてもよい。
【0044】
フィルム形成工程または工程(b)は、スラリーをPETフィルムなどの固体基材上に薄フィルムにキャストまたはコートすることによって行なうことができる。キャスティングまたはコーティング手順は、HA分子またはシートを薄フィルム面に平行に配向する目的のために、剪断応力成分を典型的に含有する、応力の適用を含まなければならない。キャスティング手順において、キャスティングガイドをキャストスラリーの上に送ることによってこの剪断応力を引き起こして、所望の厚さの薄フィルムを形成することができる。コーティング手順において、(例えばコンマコーティングまたはスロットダイコーティングを使用して)、分配されたスラリーをコーティングダイを通して支持PET基材の上に押し出すことによって剪断応力を生じさせてもよい。有利には、コーティング方法は、完全に自動化される連続した、ロールツーロール方法であり得る。キャストフィルムまたはコーテッドフィルムは初期に湿潤状態であり、液体成分は、コーティングまたはキャスティング後に実質的に除去される。
【0045】
工程(c)は、複合フィルムの前駆体材料(例えばポリマーまたは有機材料)を炭素母材に熱的に変換して、得られたフィルムがHA充填炭素母材複合物であるようにすることを根本的に必要とする。炭素前駆体材料の好ましい群は、ポリイミド(PI)、ポリアミド、ポリオキサジアゾール、ポリベンゾオキサゾール、ポリベンゾビスオキサゾール、ポリチアゾール、ポリベンゾチアゾール、ポリベンゾビスチアゾール、ポリ(p-フェニレンビニレン)、ポリベンゾイミダゾール、およびポリベンゾビスイミダゾールを含む。これらのポリマーは典型的に、炭素に変換される材料50重量%~75重量%を有する、高い炭素収率を有する。これらのポリマーの炭化された別形態は、後続の黒鉛化を受けやすい、芳香環またはベンゼン環のようないくつかの構造物を容易に形成することができる。
【0046】
全く予想外に、HA分子またはシートの存在は、これらの芳香族ポリマーの炭化された別形態を(HAによる促進なしに)これらのポリマーだけよりも著しく低い黒鉛化温度において良好に黒鉛化することを可能にする。さらに、HAそれ自体もまた、極高温を利用しなければ黒鉛化され得ない。HAとこれらのポリマーの炭化された別形態との共存は相乗効果をもたらし、黒鉛化温度の典型的に100~500℃の低下を可能にし、得られた黒鉛フィルムはしばしば、どちらかの成分だけによって達成され得る性質よりも高い性質(例えば導電率)を示す。HAシートは、黒鉛結晶のための優先的核形成部位となるように思える。
【0047】
別の驚くべき観察は、黒鉛フィルムの形成にも黒鉛化にも適することが知られていない多くの他の有機材料が、HAと作用する炭素前駆体材料として良好に使用することができるということである。これらには、例えば、上に記載されたポリマー(例えばポリアミド酸、PIの前駆体)のモノマーまたはオリゴマー、低炭素収率ポリマー(例えばポリエチレンオキシド、ポリ塩化ビニル、エポキシ樹脂等々)、高炭素収率ポリマー(例えばフェノール樹脂)、低分子量有機材料(例えばマレイン酸、ナフタレン等々)、およびピッチ(例えば石油ピッチ、コールタールピッチ、メソフェーズピッチ、重油等々)が含まれる。HAの存在によって、おそらく低炭素収率のいくつかの材料がより高い炭素収率を示すようにされ、以前は黒鉛化可能でないいくつかの材料が今や黒鉛化可能にされると思われる。
【0048】
最も驚くべきことは、炭化前駆体に由来する黒鉛微結晶は、既存のHA分子/シートと完全に統合されてほぼ完全な黒鉛構造物をシームレスに形成するように見えるという観察である。元のHAシートと、前駆体材料の炭化および黒鉛化によって形成される黒鉛微結晶との間に違いを確認することはできない。特定の黒鉛結晶が元のHAシートに由来するのかまたはその後に黒鉛化される前駆体材料に由来するのか簡単に区別することはできない。炭素前駆体材料(典型的に<<1.8g/cmの物理的密度をもたらす)の存在なしに熱処理することによって得られる重複または凝集したグラフェンシートの構造物中に多くの間隙またはボイドがあるのとは対照的に、本発明の黒鉛フィルムは特定可能な間隙を全く示さず、フィルムの物理的密度は、黒鉛の理論密度に近い、2.25g/cmに達することができる。これらの観察は、X線回折、SEMおよびTEM検査によって行われた。
【0049】
好ましくは、方法は、前駆体ポリマー複合フィルムを炭化させる工程(c)の間または後に(例えばロールプレスによって)炭化複合フィルムを圧縮する工程をさらに含む。全く予想外に、この炭化後の圧縮は、得られた黒鉛フィルムのより良い面内特性(例えば著しくより高い熱伝導率および電気導電率)をもたらす。別の好ましい実施形態において、方法は、炭化複合フィルムを熱処理する(黒鉛化する)工程(d)の間または後に黒鉛フィルムを圧縮してフィルムの厚さを低減し、フィルムの面内特性を改良する工程をさらに含む。
【0050】
HA-前駆体複合フィルムは、2つの異なった熱処理温度(HTT)レジームに分けることができる適切にプログラムされた熱処理に供される:
(1)炭化レジーム(典型的に200℃~1,500℃、より典型的には300℃~1,200℃):このレジームにおいて、前駆体材料を炭化して、非炭素元素(例えばH、O、N等々)の大部分を除去すると共に、前駆体材料領域内に若干の初期芳香族構造物または微細な六方晶炭素ドメイン(グラフェン状ドメイン)を形成する。これらの微細なグラフェン状ドメインは、新しい黒鉛結晶のための不均質な核形成部位として役立つと思われる、既存のHA部位において優先的に核形成される。
(2)黒鉛化レジーム(典型的に1,500℃~3,000℃):このレジームにおいて、付加的な黒鉛結晶の核形成と黒鉛結晶の成長とは同時に起こる。既存のHAシートのエッジまたは表面から最初に核形成された黒鉛結晶は、これらのシート間の間隙を架橋するのに役立ち、新旧の全ての黒鉛結晶は、一緒に本質的に統合される。黒鉛化を開始するために2,500℃もの温度を典型的に必要とする従来の黒鉛化可能な材料(HAシートが共存しない炭化ポリイミドフィルムなど)と著しい対照をなして、わずか1,500~2,000℃の温度において若干の黒鉛化がすでに始まったことをこれは意味する。これは、本発明のHA-ポリマー由来黒鉛フィルム材料およびその製造方法の別の異なった特徴である。これらの同化および連結反応は、薄フィルムの面内熱伝導率の1,400~1,700W/mKへの増加、および/または面内電気導電率の5,000~15,000S/cmへの増加をもたらす。
【0051】
この黒鉛化レジームは、温度範囲の高い側における場合(>2,500℃)、黒鉛構造物の再結晶化および完成を引き起こすことができる。粒界およびその他の欠陥の広範な移動および除去が生じることができ、完全なまたはほぼ完全な結晶の形成をもたらす。典型的に、構造物は、不完全な粒界または巨大な結晶粒を有する主に多結晶グラフェンの結晶を含有する(これらの結晶粒は、グラフェンシートを製造するために使用される出発黒鉛粒子の元の結晶粒径よりも数桁大きいことがあり得る。非常に興味深いことに、グラフェン多結晶は、全てのグラフェン面が最密充填されて接合され、全て1つの方向に沿って整列され、完全な配向を有する。超高圧(300Kg/cm)下で超高温(3,200~3,400℃)に同時に供しなければHOPGを使用してこのような完全に配向された構造物を形成することはできない。本発明の黒鉛フィルムは、著しくより低い温度およびもっとより低い圧力(例えば周囲圧力)を使用して最も高い完成度を達成することができる。
【0052】
黒鉛フィルムの構造を特性決定する目的のために、CuKcv放射線を使用してX線回折計によってX線回折パターンが得られた。回折計によるピークシフトおよび幅の広がりをケイ素粉末標準を使用して較正した。黒鉛化度、gは、メーリング(Mering)の式d002=0.3354g+0.344(1-g)(式中、d002は、nm単位の黒鉛またはグラフェン結晶の中間層間隔である)を使用して、X線パターンから計算された。この式は、d002が約0.3440nm以下である時にだけ有効である。
【0053】
グラフェン前駆強化材料または関連の黒鉛結晶から得られる本発明の黒鉛フィルムの秩序化度を特性決定するために使用できる別の構造指数は、(002)または(004)反射を表わすX線回折強度曲線の半値全幅によって表わされる、「モザイクスプレッド」である。この秩序化度は、黒鉛結晶サイズ(または結晶粒径)、粒界およびその他の欠陥の量、および好ましい結晶粒配向度を特性決定する。黒鉛のほぼ完全な単結晶は、0.2~0.4のモザイクスプレッド値を有することを特性とする。(2,500℃以上の熱処理温度を使用して得られた時)我々の黒鉛フィルムの大部分は、0.2~0.4の範囲のモザイクスプレッド値を有する。しかしながら、いくつかの値は、最も高い熱処理温度(TTT)が2,200~2,500℃の間である場合0.4~0.7の範囲であり、最も高いTTTが2,000~2,200℃の間である場合0.7~1.0の範囲である。
【0054】
天然または人工黒鉛の粒子は典型的に、複数の黒鉛微結晶または結晶粒から構成される。黒鉛微結晶は、炭素原子の六方晶網目構造の層面から構成される。六方晶整列炭素原子のこれらの層面は実質的に平らであり、特定の微結晶において互いに実質的に平行且つ等距離であるように配向または秩序化される。グラフェン層または基礎面と一般的に称される、六方晶構造炭素原子のこれらの層は、弱いファンデルワールス力によってそれらの厚さ方向(c軸結晶方向)において弱く接合される、微結晶においてこれらのグラフェン層の群は整列される。黒鉛微結晶構造体は通常、2つの軸または方向:c軸方向およびa軸(またはb軸)方向の観点から特徴づけられる。c軸は基礎面に垂直な方向である。a軸またはb軸は、(c軸方向に垂直な)基礎面に平行な方向である。
【0055】
高度に秩序化された黒鉛粒子は、a軸結晶方向に沿うLの長さ、b軸結晶方向に沿うLの幅、およびc軸結晶方向に沿う厚さLを有する、かなりのサイズの微結晶からなり得る。微結晶の構成グラフェン面は互いに対して高度に整列または配向され、したがって、これらの異方性構造は、高度に方向性である多くの性質を生じる。例えば、微結晶の熱伝導率および電気導電率は面方向(a軸またはb軸方向)に沿って非常に大きいが、垂直な方向(c軸)において比較的低い。図1(B)の上左部分に示されるように、黒鉛粒子中の異なった微結晶は典型的に、異なった方向に配向され、したがって、多微結晶黒鉛粒子の特定の性質は、全ての構成微結晶の方向性の平均値である。
【0056】
平行なグラフェン層を保持する弱いファンデルワールス力のために、グラフェン層間の間隔がかなり広がってc軸方向の顕著な膨張をもたらし、したがって、炭素層の層状特性が実質的に保持される膨張黒鉛構造体を形成するように天然黒鉛を処理することができる。可撓性黒鉛を製造するための方法は、従来技術に公知である。一般的には、天然黒鉛のフレーク(例えば図1(B)の100)を酸溶液中にインターカレートして黒鉛層間化合物(GIC、102)を製造する。GICを洗浄し、乾燥させ、そして次に、短時間の間高温に暴露することによって剥離する。これは、フレークを黒鉛のc軸方向においてそれらの元の寸法の80~300倍まで膨張または剥離させる。剥離黒鉛フレークは外観が細長く、したがって、一般的にワーム104と称される。非常に膨張した黒鉛フレークのこれらのワームを、結合剤を使用せずに、大抵の適用のために約0.04~2.0g/cmの典型的な密度を有する膨張黒鉛、例えばウェブ、紙、ストリップ、テープ、箔、マット等(典型的に「可撓性黒鉛」106と称される)の凝集または統合シートに形成することができる。
【0057】
図1(A)の上左部分は、可撓性黒鉛箔および樹脂含浸可撓性黒鉛複合物を製造するために使用される先行技術の方法を説明するフローチャートを示す。この方法は典型的に、黒鉛粒子20(例えば、天然黒鉛または合成黒鉛)をインターカラント(典型的に強酸または酸混合物)でインターカレートして黒鉛層間化合物22(GIC)を得ることから開始する。水中で洗浄して過剰な酸を除去した後、GICが「膨張性黒鉛」になる。次に、GICまたは膨張性黒鉛を短時間の間(典型的に15秒~2分)高温環境(例えば、800~1,050℃の範囲の温度に予め設定された管状炉内で)に暴露する。この熱処理は黒鉛をそのc軸方向において30~数百倍膨張させてワーム状虫食い形構造体24(黒鉛ワーム)を達成し、それは、大きな細孔がこれらの相互接続フレークの間に挟まれた剥離された、しかし分離されていない黒鉛フレークを含有する。黒鉛ワームの例が図2(A)に示される。
【0058】
先行技術の一方法において、カレンダリングまたはロールプレス加工技術を使用することによって剥離黒鉛(または黒鉛ワームの塊)を再圧縮して可撓性黒鉛箔(図1(A)の26または図1(B)の106)を得るが、それらは典型的に100μmよりもずっと厚い。可撓性黒鉛箔の横断面のSEM画像が図2(B)に示され、それは、可撓性黒鉛箔表面に平行ではない配向を有する多くの黒鉛フレークを示し、多くの欠陥および不完全部分がある。
【0059】
一般に黒鉛フレークのこれらの誤配向および欠陥の存在のために、市販の可撓性黒鉛箔は通常、1,000~3,000S/cmの面内電気導電率、15~30S/cmの面貫通(厚さ方向またはZ方向)電気導電率、140~300W/mKの面内熱伝導率、および約10~30W/mKの面貫通熱伝導率を有する。また、これらの欠陥および誤配向は、低い機械的強度の原因である(例えば欠陥は、亀裂が優先的に開始される潜在的応力集中部位である)。これらの性質は、多くの熱管理用途には不十分であり、本発明は、これらの問題に対処するために実施される。
【0060】
別の先行技術の方法において、剥離黒鉛ワーム24を樹脂で含浸し、そして次に圧縮および硬化して可撓性黒鉛複合物28を形成してもよく、それは通常、同様に低い強度である。さらに、樹脂含浸した時、黒鉛ワームの電気導電率および熱伝導率は二桁低下され得る。後続の熱処理があるにもかかわらず、電気導電率および熱伝導率の値は非常に低いままであり、樹脂含浸のない相当する可撓性黒鉛シートの電気導電率および熱伝導率の値よりもさらに低い。
【0061】
代わりに、高強度エアジェットミル、高強度ボールミル、または超音波デバイスを使用して剥離黒鉛を高強度機械的剪断/分離処理に供して、分離されたナノグラフェンプレートリット33(NGP)を製造してもよく、全てのグラフェンプレートリットは100nmよりも薄く、主に10nmよりも薄く、そして、多くの場合、単一層グラフェンである(図1(B)において112としても示される)。NGPは、グラフェンシートまたは複数のグラフェンシートから構成され、各々のシートは炭素原子の二次元の、六方晶構造体である。このように製造されたNGPは、例えば、フッ素化グラフェンまたは水素化グラフェンの製造のためにフッ素ガスまたは水素ガスに供されてもよい。代わりに、フッ素化グラフェンは、フッ化黒鉛(商業的に入手可能)を製造する工程と、次に、懸濁液の形態のフッ化黒鉛粒子を超音波処理する工程とによって得られてもよい。
【0062】
さらに代わりに、低強度剪断によって、黒鉛ワームは、厚さ>100nmを有するいわゆる膨張黒鉛フレーク(図1(B)の108に分離される傾向がある。紙製造またはマット製造法を使用してこれらのフレークを黒鉛紙またはマット110に形成することができる。この膨張黒鉛紙またはマット110は、欠陥、割り込み、およびこれらの離散フレーク間の誤配向を有する離散フレークのごく単純な集合体または積層体である。
【0063】
フィルム製造または製紙プロセスを使用して複数のNGP(図1(A)の33、単一層および/または数層グラフェンの離散シート/プレートリットを含む)の塊をグラフェン紙に製造してもよい(図1(A)の34または図1(A)の114)。図3(B)は、製紙プロセスを使用して離散グラフェンシートから作製されるグラフェン紙/フィルムの横断面のSEM画像を示す。画像は、折れるかまたは割り込まれている(統合されていない)多くの離散グラフェンシートが存在し、プレートリット配向の大部分がフィルム/紙表面に平行ではなく、多くの欠陥または不完全部の存在を示す。NGP集合体は、最密充填される時でも、典型的に、600W/mKより高い熱伝導率を示さない。
【0064】
NGPの前駆体としてGOまたはGICを形成する目的のために酸化されるかまたはインターカレートされる出発黒鉛材料は、天然黒鉛、人工黒鉛、メソフェーズ炭素、メソフェーズピッチ、メソ炭素マイクロビーズ、軟質炭素、硬質炭素、コークス、炭素繊維、炭素ナノ繊維、炭素ナノチューブ、またはそれらの組合せから選択されてもよい。黒鉛材料は好ましくは、20μm未満、より好ましくは10μm未満、さらに好ましくは5μm未満、最も好ましくは1μm未満の寸法を有する粉末または短いフィラメントの形態である。
【0065】
HAが添加された前駆体材料から得られた黒鉛フィルムは通常、全てのグラフェン状六方晶炭素面が本質的に互いに平行であり且つ薄フィルム面に平行である多結晶グラフェン状構造物である。黒鉛フィルムは、任意の特定のHA分子またはシートと結合し得る結晶粒を全く有さない。元のHAシートは、炭素前駆体材料に由来する黒鉛ドメインと同化または統合される時にそれらの本性をすでに完全に失っている。得られた黒鉛フィルム(多結晶グラフェン構造物)は典型的に、同じX線回折方法によって測定される時に非常に高度の好ましい結晶配向を示す。
【実施例
【0066】
以下の実施例は、本発明を実施する最良の方式を説明するために使用され、本発明の範囲を制限すると解釈されるべきではない。
【0067】
実施例1:レオナルダイトからのフミン酸および還元フミン酸
フミン酸は、レオナルダイトを塩基性水溶液(10のpH)中に分散させることによって非常に高収率(75%の範囲)でレオナルダイトから抽出され得る。溶液の後続の酸性化によってフミン酸粉末の沈殿が得られる。実験において、3gのレオナルダイトを磁気撹拌下で1M KOH(またはNHOH)溶液を含有する二重脱イオン水300mlで溶解した。pH価を10に調節した。次に、溶液を濾過して一切の大きな粒子または一切の残留不純物を除去した。
【0068】
HCだけを含有するかまたは炭素前駆体材料(例えば未硬化ポリアミド酸およびフェノール樹脂のためのモノマー)が存在する、フミン酸分散体を一般的な溶媒に溶解し、ガラス基材上にキャストして一連のフィルムを形成し、引き続いて熱処理した。
【0069】
実施例2:石炭からのフミン酸の調製
典型的な手順において、300mgの石炭を濃硫酸(60ml)および硝酸(20ml)中に懸濁し、そしてその後に、2時間の間カップ音波処理した。次に、反応物を撹拌し、100℃または120℃の油槽内で24時間加熱した。溶液を室温に冷却し、100mlの氷を保有するビーカーに流し込み、その後に、pH価が7に達するまでNaOH(3M)を添加する工程が続いた。
【0070】
1つの実験において、次に中和混合物を0.45mmのポリテトラフルオロエチレン膜を通して濾過し、濾液を5日間1,000Da透析バッグ内で透析した。より大きいフミン酸シートのために、クロスフロー限外濾過を使用して時間を1~2時間に短縮することができる。精製後に、回転蒸発を使用して溶液を濃縮して、固体フミン酸シートを得た。これらのフミン酸シートだけおよびそれらと炭素前駆体材料との混合物を溶媒中に再分散させて、後続のキャスティングまたはコーティングのためのいくつかの分散体試料を得た。
【0071】
実施例3:ポリベンゾオキサゾール(PBO)フィルムおよびHA-PBOフィルムの調製
ポリベンゾオキサゾール(PBO)フィルムをその前駆体、メトキシ含有ポリアラミド(MeO-PA)からのキャスティングおよび熱変換によって調製した。具体的には、PBO前駆体、メトキシ含有ポリアラミド(MeO-PA)溶液を合成するために4,4’-ジアミノ-3,3’-ジメトキシジフェニル(DMOBPA)、および二塩化イソフタロイル(IPC)のモノマーを選択した。キャスティングのためのこのMeO-PA溶液を調製するため、2時間の間-5℃でピリジンおよびLiClの存在下でDMAc溶液中のDMOBPAおよびIPCを重縮合し、20重量%の薄黄色の透明なMeO-PA溶液をもたらした。得られたMeO-PA溶液の内部粘度は、25℃で0.50g/dlの濃度で測定された時1.20dL/gであった。このMeO-PA溶液をDMAcによって15重量%の濃度に希釈した。次に、キャスティングのためにHAをこの溶液中に分散させた。
【0072】
合成されただけのMeO-PAをガラス表面上にキャストして、剪断条件下で薄フィルム(35~120μm)を形成した。キャストフィルムを100℃の真空炉内で4時間の間乾燥させて、残留溶媒を除去した。次いで、約28~100μmの厚さの得られたフィルムを3つの工程においてN雰囲気下で200℃~350℃で処理し、それぞれの工程において約2時間の間アニールした。この熱処理は、MeO-PAをPBOフィルムに熱的に変換するのに役立つ。関与する化学反応は図4に示される。PBOの前駆体中にHAが存在することは化学変換プロセスを妨げないことを指摘しておくことは重要である。さらに、得られたHA/PBOブレンドフィルムは、熱処理される時に予想外の著しい相乗効果をもたらす(図5に基づいて以下に考察される)。
【0073】
比較のために、PBOおよびHA-PBOおよびフィルムの両方が同様な条件下で製造された。HAの比率を10重量%から90重量%に変化させた。
【0074】
3つの工程において、すなわち、1時間で室温から600℃、1.5時間で600℃から1,000℃、および1時間の間1,000℃に維持して3sccmのアルゴンガスフロー下で熱処理される(炭化される)間に全てのフィルムをアルミナの2つのプレートの間でプレスした。次に、炭化されたフィルムを一対のローラーでロールプレスして、厚さを約40%低減した。次に、ロールプレスされたフィルムを5時間の間2,200℃で黒鉛化処理に供し、その後に、もう一回ロールプレスして、厚さを典型的に20~40%低減した。
【0075】
様々なHA重量分率(0%~100%)のHA-PBOフィルムから得られる一連の黒鉛フィルムの熱伝導率の値を図5に要約する。また、KおよびKの熱伝導率をそれぞれ有する2つの成分AおよびBからなる複合物の性質を予想するために一般的に使用される複合則の予測に従って熱伝導率(K)の曲線がそこにプロットされる:
=w+w
上式中、w=成分Aの重量分率およびw=成分Bの重量分率であり、w+w=1である。この場合、w=HAの重量分率であり、0%~100%に変化する。また、100%のHAを含有する試料も、同じ熱処理およびロールプレス手順を受けさせられた。HAと炭素前駆体とを組み合わせる方法によって、全ての熱伝導率の値が複合則に基づいて理論的に予想される熱伝導率の値より劇的に高い、顕著な相乗作用がもたらされたことをデータは明らかに示す。さらに重大にそして予想外に、いくつかの熱伝導率の値は、PBOだけから得られるフィルム(860W/mK)およびHAだけから得られるフィルム(633W/mK)の両方の熱伝導率の値より高い。前駆体複合フィルム中に60~90%のHAを使用すると、最終黒鉛フィルムの熱伝導率の値は、2つのうちのより良いほう(より高いほう)である860W/mKを超える。非常に興味深いことに、同じ条件下で調製されたニートPBO由来黒鉛フィルムは、最も高い導電率の値860W/mKを示すが、いくつかの組み合わせられたHA-PBOフィルムは、炭化および黒鉛化される時に982~1,188W/mKの熱伝導率の値を示す。
【0076】
驚くべきことに観察されたこの相乗効果は、HAの六方晶炭素構造物が、炭化前駆体材料(この実施例において炭化PBO)の黒鉛化を促進することができるということ、およびPBOからの新たに黒鉛化された相が、他の場合なら分離される離散HA分子またはシート間の間隙を充填するのに役立つことができるということに帰せられるであろう。熱処理されたHAシートはそれら自体、黒鉛化されたポリマー自体よりも良く組織化または黒鉛化された高黒鉛材料である。熱処理されたHAのグラフェン状シート間の間隙を架橋する新たに形成された黒鉛ドメインがなければ、電子およびフォノンの輸送が妨げられて一層低い導電率をもたらしたであろう。これが、HAだけから製造される薄フィルム(2,200℃の熱処理温度を使用する)がたった633W/mKの導電率しか示さない理由である。
【0077】
実施例4:ポリイミド(PI)フィルム、HA-PIフィルム、およびそれらの熱処理された別形態の調製
従来のポリイミド(PI)の合成は、ピロメリット酸無水物(PMDA)およびオキシジアニリン(ODA)から形成されるポリ(アミド酸)(PAA、Sigma Aldrich)を必要とした。使用前に、両方の化学物質を室温の真空炉内で乾燥させた。次に、実施例として、4gのモノマーODAを21gのDMF溶液(99.8wt%)中に溶解した。この溶液を使用前に5℃で貯蔵した。PMDA(4.4g)を添加し、磁気バーを使用して30分間の間混合物を撹拌した。その後、透明且つ粘性ポリマー溶液を4つの試料に分けた。次に、0、1、3、および5wt%を有するトリエチルアミン触媒(TEA、Sigma Aldrich)をそれぞれの試料に添加して、分子量を制御した。TEAの全量が添加されるまで機械的攪拌機によって撹拌を維持した。合成されただけのPAAを-5℃に保持して、さらなる加工のために必須の性質を維持した。
【0078】
ポリ(アミド酸)の合成において利用される溶媒は非常に重要な役割を果たす。利用される一般的な非プロトン性双極性アミド溶媒は、DMF、DMAc、NMPおよびTMUである。DMAcおよびDMFの両方が本研究において利用される。中間体のポリ(アミド酸)およびHA-PAA前駆体混合物をイミド化熱経路によって最終ポリイミドに変換した。最初に、フィルムをガラス基材上にキャストし、次に100℃~350℃の範囲の温度の熱サイクルに移行させた。手順は、ポリ(アミド酸)混合物を100℃に加熱して1時間保持する工程と、100℃から200℃に加熱して1時間保持する工程と、200℃から300℃に加熱して1時間保持する工程と、300℃から室温に徐冷する工程とを必要とする。PAAからPIへのこの化学変換の間に、特定のHA分子が互いに同化して、グラフェン状六方晶炭素構造物よりも長い/幅が広いHAシートを形成するように見えるということを観察することは重要である。これらのグラフェン状構造物はPI母材中に十分に分散される。
【0079】
2つのアルミナプレートの間でプレスされたPIフィルムを1000℃において3sccmアルゴンガスフロー下で熱処理した。これは、3つの工程において、すなわち、1時間で室温から600℃、1.3時間で600℃から1,000℃、および1時間の間1,000℃に維持して行われた。
【0080】
それぞれ様々な最終熱処理温度で調製されたHA-PIフィルム(65%HA+35%PI)、HA由来フィルムだけ、およびPIフィルムだけから得られる一連の黒鉛フィルムの熱伝導率および電気導電率の値を図6(A)および図6(B)に要約する。複合則の予測に従って熱伝導率(K)の曲線または電気導電率の曲線もまた、それぞれの図にプロットされる。また、HAシートと炭素前駆体(PI)とを組み合わせる方法によって、全ての熱伝導率および電気導電率の値が複合則の予測より高い、相乗作用がもたらされたことをデータは実証する。
【0081】
実施例5:フェノール樹脂フィルム、HA-フェノールフィルム、およびそれらの熱処理された別形態の調製
フェノールホルムアルデヒド樹脂(PF)は、フェノールまたは置換フェノールとホルムアルデヒドとの反応によって得られた合成ポリマーである。PF樹脂をそれだけでまたは90重量%のHAシートと共に、50μmの厚いフィルムに製造し、同じ硬化条件下で硬化させた:2時間の間100℃の一定の等温硬化温度そして次に100℃から170℃に上昇させ、170℃に維持して硬化反応を終えた。
【0082】
次に、全ての薄フィルムを2時間の間500℃でそして次に3時間の間700℃で炭化させた。次に、炭化されたフィルムを700℃~2,800℃に変化させる温度で5時間の間さらに熱処理(付加的な炭化および/または黒鉛化)に供した。
【0083】
様々な最終熱処理温度で調製されたHA-PFフィルム(90%HA+10%PF)、HA由来フィルム、およびPFフィルムだけから得られる一連の黒鉛フィルムの熱伝導率の値を図7に要約する。また、複合則の予測に従って熱伝導率(K)の曲線もまたそこにプロットされる。また、HAシートと炭素前駆体(PF)とを組み合わせる方法によって、全ての熱伝導率の値が複合則の予測よりずっと高い、相乗作用がもたらされたことをデータは示す。
【0084】
実施例6:ポリベンゾイミダゾール(PBI)フィルムおよびHA-PBIフィルムの調製
PBIは、3,3’,4,4’-テトラアミノビフェニルおよびジフェニルイソフタレート(イソフタル酸とフェノールとのエステル)から段階成長重合によって調製される。本研究において使用されるPBIは、PBI溶液の形態のPBI高性能製品から得られ、それは、ジメチルアセトアミド(DMAc)に溶解された0.7dl/gのPBIポリマーを含有する。いくつかの試料において、HAを添加して後続のコーティング/キャスティングのための懸濁液を製造した。PBIおよびHA-PBIフィルムをガラス基材の表面上にキャストした。熱処理およびロールプレス手順は、PBOのために実施例3において使用される手順と同様であった。
【0085】
HAの様々な重量分率(0%~100%)のHA-PBIフィルムから得られる一連の黒鉛フィルムの電気導電率の値を図8に要約する。また、σおよびσΒの電気導電率をそれぞれ有する2つの成分AおよびBからなる複合物の性質を予想するために一般的に使用される複合則の予測に従って電気導電率(σ)の曲線がそこにプロットされる:
σ=wσ+wσΒ
上式中、w=成分Aの重量分率およびw=成分Bの重量分率であり、w+w=1である。この場合、w=HAの重量分率であり、0%~100%に変化する。HAと炭素前駆体とを組み合わせる方法によって、全ての電気導電率の値が複合則に基づいて理論的に予想される電気導電率の値より劇的に高い、顕著な相乗作用がもたらされたことをデータは明らかに実証する。さらに予想外に、いくつかの電気導電率の値は、PBIだけから得られるフィルム(10,900S/cm)およびHAだけから得られる黒鉛フィルム(2,500℃での熱処理の後に7,236S/cm)の両方の電気導電率の値より高い。前駆体複合フィルム中に60~90%のHAを使用すると、最終黒鉛フィルムの電気導電率の値は、2つのうちのより良いほう(より高いほう)である10,900S/cmを超える。非常に興味深いことに、同じ条件下で調製されたニートPBI由来黒鉛フィルムは、最も高い導電率の値10,900S/cmを示すが、いくつかの組み合わせられたHA-PBIフィルムは、炭化および黒鉛化した時に11,450~13,006S/cmの電気導電率の値を示す。
【0086】
この驚くべき相乗効果は、HA由来グラフェン状シートが、炭化前駆体材料(この実施例において炭化PBI)の黒鉛化を促進することができるということ、およびPBIからの新たに黒鉛化された相が、他の場合なら分離される離散グラフェン状シート間の間隙を充填するのに役立つことができるということにおそらく帰せられる。200℃しかない温度でもHAが(独立型フィルムとしてまたはHA-炭素前駆体ブレンドフィルムの一部として)熱処理される時にグラフェン状シートがHA分子から急速に形成されることを我々は観察した。グラフェン状シートはそれら自体、黒鉛化されたポリマー自体よりも良く組織化または黒鉛化された高黒鉛材料である。グラフェン状シート間の間隙を架橋する新たに形成された黒鉛ドメインがなければ、電子の輸送が妨げられて一層低い導電率をもたらしたであろう。これが、HAだけから製造される薄フィルム紙がたった7,236S/cmの導電率しか示さない理由である。
【0087】
実施例7:様々なHA改質炭素前駆体からの黒鉛フィルム
さらに別の黒鉛フィルムがいくつかの異なったタイプの前駆体材料から調製される。それらの電気導電率および熱伝導率の値を以下の表1に記載する。
【0088】
実施例8:黒鉛フィルムの特性決定
炭化または黒鉛化された材料のX線回折曲線を熱処理温度および時間の関数としてモニタした。X線回折曲線の約2θ=22~23°でのピークは、天然黒鉛の約0.3345nmのグラフェン間間隔(d002)に相当する。PI、PBI、およびPBOなどの炭化芳香族ポリマーの温度>1,500℃での特定の熱処理によって、材料は2θ<12℃でのピークを示す回折曲線を示し始める。黒鉛化温度および/または時間が増加される時に角度2θはより高い値にシフトする。1~5時間にわたる2,500℃の熱処理温度によって、d002間隔は典型的に、黒鉛単結晶の0.3354nmに近い、約0.336nmに減少する。
【0089】
5時間にわたる2,750℃の熱処理温度によって、d002間隔は、黒鉛単結晶のd002間隔に等しい、約0.3354nmに減少する。さらに、高強度を有する第2の回折ピークは、(004)面からのX線回折に相当する2θ=55°に出現する。同じ回折曲線上の(002)強度に対する(004)ピーク強度、またはI(004)/I(002)比は、グラフェン面の結晶完成度および好ましい配向の良い表示である。
【0090】
2,800℃より低い最終温度で熱処理されたニート母材ポリマー(分散されたHAを含有しない)から得られた全ての黒鉛材料について、(004)ピークは存在していないかまたは比較的弱く、I(004)/I(002)比は<0.1である。これらの材料について、3,000~3,250℃で熱処理することによって得られた黒鉛材料のI(004)/I(002)比は0.2~0.5の範囲である。対照的に、3時間の間2,750℃のHTTを使用してHA-PIフィルム(90%HA)から調製された黒鉛フィルムは、0.78のI(004)/I(002)比および0.21のモザイクスプレッド値を示し、非常に優れた好ましい配向度を有するほぼ完全なグラフェン単結晶を示す。
【0091】
「モザイクスプレッド」値は、X線回折強度曲線の(002)反射の半値全幅から得られる。秩序化度のためのこの指標は、黒鉛またはグラフェン結晶サイズ(または結晶粒径)、粒界およびその他の欠陥の量、および好ましい結晶粒配向度を特性決定する。黒鉛のほぼ完全な単結晶は、0.2~0.4のモザイクスプレッド値を有することを特性とする。我々のHA-PI由来材料の大部分は、(2,200℃以上の熱処理温度を使用して得られる場合)0.2~0.4の範囲のモザイクスプレッド値を有する。
【0092】
可撓性黒鉛箔のI(004)/I(002)比は典型的に<<0.05、多くの場合ほとんど存在していないことを指摘しておいてもよいだろう。全てのHAフィルム試料のI(004)/I(002)比は、2時間にわたる3,000℃での熱処理の後でも<0.1である。
【0093】
グラフェン層の格子画像化の走査電子顕微鏡検査(SEM)、透過型電子顕微鏡検査(TEM)写真、ならびに制限視野電子回折(SAD)、明視野(BF)、および暗視野(DF)画像もまた実施して、様々な黒鉛フィルム材料の構造を特性決定した。図2(A)、図3(A)、および図3(B)の綿密な精査および比較は、ここに発明された黒鉛フィルム内のグラフェン層は、互いに平行に実質的に配向されることを示す。しかしこれは可撓性黒鉛箔および酸化NGP紙については当てはまらない。本発明の黒鉛フィルム内の2つの特定可能な層の間の傾斜角は主に5度未満である。対照的に、非常に多くの折れた黒鉛フレーク、キンク、および可撓性黒鉛内の誤配向があるので、2つの黒鉛フレークの間の角度の多くは10度より大きく、45度もあるものもある(図2(B))。全然悪くはないが、NGP紙内のグラフェンプレートリット間の誤配向(図3(B))もまた高く、プレートリット間に多くの間隙がある。最も重要なことに、本発明の黒鉛フィルムは本質的に間隙がない。
【0094】
実施例9:様々な黒鉛フィルムの引張強さ
万能材料試験機を使用して、これらの材料の引張強さを測定した。図9においてHA-PI由来フィルム、PI由来フィルム、およびHAフィルム試料の引張強さの値が黒鉛化温度の関数としてプロットされる。最終熱処理温度(HTT)が2,000℃を超えなければPIフィルムの引張強さは非常に低い(<<10MPa)ことをこれらのデータは実証する。熱処理温度が700℃から2,000℃に上昇する時にHAフィルムの強度はわずかに(28Mpaから69Mpaに)増加する。対照的に、HA強化PI由来フィルムの引張強さは、同じ範囲の熱処理温度について30MPaから80Mpaに著しく増加し、2,800℃のHTTにおいて112MPに達する。
【0095】
結論において、我々は高導電性黒鉛フィルムを製造するための絶対に新しい、新規な、予想外の、明らかに区別できる方法を成功裏に開発した。この方法によって製造された薄フィルムは、優れた電気導電率、熱伝導率、および機械的強度の最良の組合せを有する。
図1A
図1B
図2A-2B】
図3A-3B】
図4
図5
図6A
図6B
図7
図8
図9