IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ インセンス・リミテッドの特許一覧

<>
  • 特許-真菌感染症の治療のための組成物 図1a
  • 特許-真菌感染症の治療のための組成物 図1b
  • 特許-真菌感染症の治療のための組成物 図1c
  • 特許-真菌感染症の治療のための組成物 図2
  • 特許-真菌感染症の治療のための組成物 図3
  • 特許-真菌感染症の治療のための組成物 図4
  • 特許-真菌感染症の治療のための組成物 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-25
(45)【発行日】2022-03-07
(54)【発明の名称】真菌感染症の治療のための組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 33/40 20060101AFI20220228BHJP
   A61K 9/06 20060101ALI20220228BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20220228BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20220228BHJP
   A61P 31/10 20060101ALI20220228BHJP
【FI】
A61K33/40
A61K9/06
A61K47/32
A61P17/00 101
A61P31/10
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2019513337
(86)(22)【出願日】2017-09-15
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-10-17
(86)【国際出願番号】 GB2017052736
(87)【国際公開番号】W WO2018055341
(87)【国際公開日】2018-03-29
【審査請求日】2020-08-20
(31)【優先権主張番号】1616003.8
(32)【優先日】2016-09-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】511183951
【氏名又は名称】インセンス・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】INSENSE LIMITED
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】デイビス,ポール
(72)【発明者】
【氏名】オースティン,コリーン
【審査官】鶴見 秀紀
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-543644(JP,A)
【文献】特表2007-519696(JP,A)
【文献】特表2016-514121(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0079804(US,A1)
【文献】特開2008-142560(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 33/00-33/44
A61K 9/00-9/72
A61K 47/00-47/69
A61P 17/00
A61P 31/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトまたは動物の爪の真菌感染症を治療するための包装された治療用組成物であって、(1)過酸化水素源を含む、包装された第1の流動性成分、および(2)別個に包装された第2の流動性成分、を含む重合性組成物および/または硬化性組成物を含み、前記重合性組成物が重合性モノマーもしくはオリゴマーを含み、前記硬化性組成物がポリマーおよび硬化剤を含み、前記重合性組成物および/または前記硬化性組成物が光開始剤を含み、前記第1の流動性成分が光開始剤を実質的に含まず、包装された治療用組成物が、前記第1および第2の流動性成分を混合した後、UV開始重合および/または硬化によって固形組成物を形成することができる、包装された治療用組成物。
【請求項2】
前記第1の流動性成分が重合性モノマーまたはオリゴマーを実質的に含まない、請求項1に記載の包装された治療用組成物。
【請求項3】
前記第2の流動性成分が重合性モノマーまたはオリゴマーを実質的に含まない、請求項1に記載の包装された治療用組成物。
【請求項4】
前記硬化剤が架橋剤である、請求項に記載の包装された治療用組成物。
【請求項5】
前記第1の流動性組成物が実質的に硬化剤を含まない、請求項またはに記載の包装された治療用組成物。
【請求項6】
UV源を伴う、請求項1~のいずれか一項に記載の包装された治療用組成物。
【請求項7】
前記第1および第2の流動性成分が、重合時および任意選択により硬化時に水和ハイドロゲルを生成するように設定された、請求項1~のいずれか一項に記載の包装された治療用組成物。
【請求項8】
前記重合性モノマーがAMPSモノマーであり、重合時にポリAMPSハイドロゲルを形成する、請求項に記載の包装された治療用組成物。
【請求項9】
前記第1および第2の流動性成分が実質的に同じ粘度を有する、請求項1~のいずれか一項に記載の包装された治療用組成物。
【請求項10】
前記流動性成分の一方または両方が、増粘剤を含む、請求項1~のいずれか一項に記載の包装された治療用組成物。
【請求項11】
前記第1および第2の組成物がどちらも水溶液である、請求項1~10のいずれか一項に記載の包装された治療用組成物。
【請求項12】
前記第1および第2の成分がゲル形態である、請求項1~11のいずれか一項に記載の包装された治療用組成物。
【請求項13】
前記過酸化水素源が予め形成された過酸化水素を含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の包装された治療用組成物。
【請求項14】
前記第1および第2の成分が、所定量の前記第1および第2の流動性成分のそれぞれを投与するように包装された、請求項1~13のいずれか一項に記載の包装された治療用組成物。
【請求項15】
前記予め形成された過酸化水素が、前記所定量の前記第1および第2の流動性成分の合計の0.2~1.5重量%の濃度で存在する、請求項13または14に記載の包装された治療用組成物。
【請求項16】
前記第1の流動性成分のpHが5.0未満である、請求項1~15のいずれか一項に記載の包装された治療用組成物。
【請求項17】
前記包装が、投与前に前記所定量の前記第1および第2の流動性成分の混合を提供する、請求項14に記載の包装された治療用組成物。
【請求項18】
前記第1および第2の成分が、それぞれ独自のシリンジ内に入っているか、またはデュアルシリンジ内に一緒に入っているかのいずれかで、シリンジ内に収容される、請求項1~17のいずれか一項に記載の包装された治療用組成物。
【請求項19】
前記第1および第2の成分が、破断可能なシールによって互いに接合されたそれぞれの第1および第2の可撓性区画内に保管されている、請求項1~17のいずれか一項に記載の包装された治療用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特にヒトまたは動物の爪の真菌感染症を治療するための、重合性および/または硬化性組成物を含む、包装された治療用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
視覚的に良好な状態の健康な爪は重要であり、ヒトの外観で高く評価される面である。しばしば、爪の外観、強度および健康は、典型的にはトリコフィトン(Trychophyton)属の、病原性真菌生物による感染によって悪影響を受ける可能性があり、影響を受けた爪の外観を、感染性真菌感染症の排除によって改善する治療法が強く求められている。
【0003】
爪真菌症(皮膚糸状菌性爪真菌症または爪白癬(tinea unguium)としても知られる)は、爪に関する真菌感染症である。これは最も一般的な爪の疾患であり、全ての爪の異常の約半分を構成する。この症状は足指の爪および指の爪の両方に影響するが、足指の爪の感染症が特に一般的であり、報告された全感染症の約90%を占める。いくつかの患者集団、特に糖尿病患者(報告された有病率約33%)、乾癬患者(報告された有病率約18%)および免疫不全のHIV患者(報告された有病率15~40%)ではより高い発生率が報告されているが、症状は成人人口の約10%で発生すると推定される。爪真菌症の全体的な有病率は、年齢、素因、社会階級、職業、気候、生活環境および旅行頻度を含む、いくつかの要因によって決定される。
【0004】
爪真菌症は主に無症状であるため、英国内では患者が一般的に治療のために来院しないことが定着している。患者が来院する場合、自尊心の喪失および社会的相互作用の欠如が報告されてはいるが、通常、それは身体的愁訴のない美容上の理由によるものである。しかしながら、爪真菌症は益々単なる美容上の問題以上のものと考えられている。個人衛生および生活環境が改善されたにもかかわらず、爪真菌症は拡散および存続し続けている。その上、これは自然に解決しない感染症である。実際、感染症は悪化、他の未感染の場所(例えば、他の爪または周囲の皮膚)に拡散、および他の個体に感染し得る。したがって、足指の爪の感染症は、罹病者の生活の質に影響を与える可能性を有する。これは、例えば、それが他の足の障害および四肢切断のリスクを高め得る場合など、免疫系が損なわれている患者または糖尿病患者などのハイリスク患者には特に重要である。爪真菌症に起因する病的状態は、特に重症の場合、起立、歩行、および運動の障害を含む。さらに、感染した人は感覚異常、疼痛、不快感、および器用さの喪失を報告することがある。
【0005】
爪真菌症は、3つの主要な種類の真菌:皮膚糸状菌、酵母菌、および皮膚糸状菌でないカビによって引き起こされる。皮膚糸状菌は、群を抜いて最も一般的な爪真菌症の原因であると考えられている。2つの主要な病原体がヨーロッパにおける全ての爪真菌症の症例のおよそ90%の原因であると考えられる。全症例のうち、紅色白癬菌(Trichophyton rubrum)が70%を占め、毛瘡白癬菌(Trichophyton mentagrophytes)が20%を占める。皮膚糸状菌でないカビ(フザリウム(Fusarium)種、スコプラリオプシス・ブレビカウリス(Scopulariopsis brevicaulis)、アスペルギルス(Aspergillus)種)によって引き起こされる爪真菌症は、世界中でより一般的になりつつあり、症例の10%までを占めている。カンジダ菌(Candida)による爪真菌症は一般的によりまれであると考えられる。ブラジルでの研究では、陽性培養の52%(カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)18.3%、カンジダ・パラプシローシス(Candida parapsilosis)13.8%、他のカンジダ菌(Candida)15.4%および他の酵母菌4.6%)で酵母菌が、続いて陽性培養の40.6%(最も一般的に単離された生物は33.2%の紅色白癬菌(Trichophyton rubrum)であり、続いて6.3%の毛瘡白癬菌(Trichophyton mentagrophytes)、および他1.2%であった)で皮膚糸状菌が同定された。皮膚糸状菌でないカビは、陽性培養の7.4%(フザリウム属菌(Fusarium spp.)4.5%、Nattrassia mangiferae2.3%およびアスペルギルス属菌(Aspergillus spp.)0.6%)で単離された。
【0006】
市場には多数の治療薬があるが、活性成分が爪に容易には浸透せず、上面に適用された物質のうち、たとえあったとしてもそのわずかしか、真菌細胞が比較的安全に存在することができる深部組織に達しないため、利用可能な技術および製品には広範な不満がある。
【0007】
全身的に送達された薬剤は血流を介して爪領域に到達することができるが、循環から爪領域への不十分な浸透および重篤な副作用がこのアプローチの有用性を制限する。
【0008】
真菌に感染した爪は、侵入する真菌の作用によってしばしば多孔性または開放性になる。したがって、しばしば爪は細菌と共コロニー形成され、これは、さらなる破壊性の酵素および局所的に活性な毒素を放出することによって真菌の有害な影響を悪化させ得る。
【0009】
真菌性の爪の感染症が公知の治療法によって軽減されたとしても、それが完全に排除されることはめったになく、感染症は通常、治療が中止された後すぐに戻ってくることがよく知られている。
【0010】
国際公開第2010/125358号パンフレットは、二液治療法を開示しており、ここでは最初に水性液体を爪に塗布し、続いて過酸化水素を送達することができる包帯を適用する。
【0011】
米国特許出願公開第2009/0232876号明細書は、出血を抑制するために創傷のインサイチュ閉塞を形成するための組成物を開示し、これは過酸化水素、ポリマー形成成分および過酸化水素の分解剤を含む。
【0012】
このように、この分野における改善は非常に望ましいと考えられる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、(1)過酸化水素源を含む、包装された第1の流動性成分、および(2)別個に包装された第2の流動性成分、を含む重合性および/または硬化性組成物を含む、包装された治療用組成物に関し、組成物は重合性モノマーもしくはオリゴマー、ポリマーおよび/または硬化剤を含み、組成物は光開始剤を含み、第1の流動性成分は光開始剤を実質的に含まず、組成物は、第1および第2の流動性成分を混合した後、UV開始重合および/または硬化によって固形組成物を形成することができる。
【0014】
そのような組成物は、真菌感染症の治療を必要とする爪の表面に投与することができる。組成物は、2つの別個の成分(爪への適用直前、または爪表面上に配置されている間に一緒に混合される)として得られる。
【0015】
治療が行われる間、爪上に配置されて残存する固形組成物を提供するため、爪表面への送達の後、および2成分の混合に続いて、組成物の重合、硬化、またはその両方が発生する。
【0016】
一実施形態では、組成物は、重合性モノマーまたはオリゴマーを含む重合性組成物を含む。次いで、モノマーまたはオリゴマーを重合して固形組成物を形成することができる。
【0017】
過酸化水素は種々のモノマーまたはオリゴマーと反応性であり得るため、第1の流動性成分が実質的に重合性モノマーまたはオリゴマーを含まないことが好ましいことがあり得る。
【0018】
しかしながら、配合上の理由から、第2の流動性成分が重合性モノマーまたはオリゴマーを実質的に含まないことが好ましいことがあり得る。
【0019】
別の実施形態では、組成物はポリマーと硬化剤とを含む硬化性組成物を含む。この実施形態では、組成物はすでにポリマーを含んでおり、固形組成物はポリマーの硬化時に形成される。典型的には、硬化剤は、ポリマー鎖間に架橋を提供するため、架橋剤である。これは、固形構造を提供するのに役立つからである。
【0020】
過酸化水素は種々の硬化剤と反応性であり得るため、第1の流動性組成物が実質的に硬化剤を含まないことが好ましいことがあり得る。
【0021】
当然ながら、組成物は、重合性組成物、硬化性組成物、または重合性と硬化性の両方である組成物を含み得る。
【0022】
重合反応および/または硬化は、紫外線(UV)の適用によって起こり、光開始剤によって誘発される。2つの流動性成分は、硬化または重合を起こすことなく混合して爪表面に配置され得る。UV源が混合組成物に導入される場合、重合が開始するのは、配置されてよく混合されたときのみである。過酸化水素は種々の光開始剤と反応性であり得るため、第1の流動性組成物が実質的に光開始剤を含まないことが好ましいことがあり得る。
【0023】
このように、包装された組成物は、好ましくはUV源を伴う。
過酸化水素源は、好ましくは予め形成された過酸化水素である。過酸化水素源は、過酸化水素自体、または他の実体と組み合わせた、もしくは複合体化した過酸化水素を含み得る。あるいは、過酸化水素源は、過酸化水素発生手段であり得る。
【0024】
好ましくは、重合および/または硬化反応は、ハイドロゲルを形成するために互いに架橋された重合鎖から形成される水和ハイドロゲルを生成する。
【0025】
好適な水和ハイドロゲルは、国際公開第03/090800号パンフレットに開示されている。水和ハイドロゲルは、好都合には親水性ポリマー材料を含む。好適な親水性ポリマー材料は、ポリアクリレートおよびメタクリレート、例えば、ポリ2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸(ポリAMPS)またはその塩(例えば、国際公開第01/96422号パンフレットに記載されているもの)を含む、シートハイドロゲルの形態でFirst Water Ltdにより供給されるもの、多糖類、例えば、多糖ガム、特にキサンタンガム(例えば、商標Keltrolとして入手可能)、様々な糖類、ポリカルボン酸(例えば、商標Gantrez AN-169 BFとしてISP Europeより入手可能)、ポリ(メチルビニルエーテル-コ-無水マレイン酸)(例えば20,000~40,000の範囲の分子量を有する、商標Gantrez AN 139として入手可能)、ポリビニルピロリドン(例えば、PVP K-30およびPVP K-90として知られる商業的に入手可能なグレードの形態)、ポリエチレンオキシド(例えば、商標Polyox WSR-301として入手可能)、ポリビニルアルコール(例えば、商標Elvanolとして入手可能)、架橋ポリアクリルポリマー(例えば、商標Carbopol EZ-1として入手可能)、ヒドロキシプロピルセルロースを含むセルロースおよび変性セルロース(例えば、商標Klucel EEFとして入手可能)、カルボキシメチルセルロースナトリウム(例えば、商標Cellulose Gum 7LFとして入手可能)、ならびにヒドロキシエチルセルロース(例えば、商標Natrosol 250 LRとして入手可能)を含む。
【0026】
親水性ポリマー材料の混合物は、ゲルで使用してもよい。
親水性ポリマー材料の水和ハイドロゲルにおいて、親水性ポリマー材料は、ゲルの総重量に基づいて、望ましくは少なくとも0.1重量%、好ましくは少なくとも0.5重量%、好ましくは少なくとも1重量%、好ましくは少なくとも2重量%、より好ましくは少なくとも5重量%、さらにより好ましくは少なくとも10重量%、または少なくとも20重量%、望ましくは少なくとも25重量%、さらにより望ましくは少なくとも30重量%の濃度で存在する。ハイドロゲルの総重量に基づいて約40重量%までのさらに高い含有量を使用してもよい。
【0027】
好ましい水和ハイドロゲルは、ポリ2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸(ポリAMPS)またはその塩を、好ましくはゲルの総重量の約20重量%の量で含む。
【0028】
典型的には、2つの組成物はどちらも水溶液である。好ましい設定では、一方の成分、または好ましくは両方の成分がゲル形態である。
【0029】
好ましくは、成分は、使用時に成分が「増粘された」稠度を有するように所定の粘度を有し、これは成分が包装から流れ出るが爪表面上に留まることを可能にする。好ましくは、2成分の混合を補助するため、第1および第2の流動性成分は両方、実質的に同じ粘度を有する。「実質的に同じ粘度」とは、20℃の温度で0.1s-1の剪断速度における2成分の粘度の比が2:1未満であることを意味する。
【0030】
所望の同様の粘度を達成するための1つの好都合な方法は、流動性成分の一方または両方に増粘剤を含めることである。好ましくは、増粘剤はポリマー増粘剤である。
【0031】
好都合な設定では、包装は、所定量の第1および第2の成分のそれぞれを投与するように設定されている。所定量は、一般的に、それが所望の速度および程度で進行するように、重合反応に関与する成分の相対量に従って決定されよう。しかしながら、好ましくは、所定量は、ほぼ等しい体積の2成分が投与される場合の量である。「ほぼ等しい体積」とは、投与される2成分の体積の比が2:1未満であることを意味する。
【0032】
包装が所定量の第1および第2の成分のそれぞれを投与するように構成され、過酸化水素が予め形成された過酸化水素として存在する場合、組み合わせ混合物中の予め形成された過酸化水素の濃度を制御することができる。このように、好ましくは、過酸化水素は、所定量の第1および第2の組成物の合計の0.2~1.5重量%の濃度で存在する。そのような濃度により、真菌性爪感染症を治療する目的での過酸化水素の使用の成功をこれまで阻害してきた2つの基本的な課題、すなわち、数時間にわたって持続的な有効量を達成すること、および真菌を死滅させるのに十分に高いが爪床と爪板の間に酸素の泡を形成するのには十分に高くないように用量率を制御すること、が克服される。
【0033】
過酸化水素は一定の触媒的に作用する不純物の存在下で発熱的に分解して、酸素ガスおよび水を形成する。したがって、過酸化水素溶液の安定性は、主に温度、pH値、およびとりわけ分解作用を有する不純物の存在によって影響を受ける。より高いpH値と同様、温度の上昇は分解を促進する。最適な安定性のためには、純粋な過酸化水素のpH範囲は典型的には4.5未満である。pH5を超えると、分解は急激に増加する。
【0034】
したがって、市販の溶液は、一般的に5未満のpH値に調整されている。安定性をさらに補助するために、安定剤がppm量で市販グレードまで添加されている。
【0035】
好ましい実施形態では、包装は、投与前に所定量の第1および第2の組成物の混合を提供する。これは、例えば、包装内に混合チャンバーを提供すること、または2つのチャンバーが流体連通するようにすることを可能にすることによって、投与前の混合を可能にし得る。
【0036】
それぞれのモノマーまたはオリゴマー配合物の実用的な送達を達成するためにいくつかの方法がある。それらは個々のシリンジ、または単回使用のデュアルシリンジ内に包装することができる。そのようなシリンジは、投与前に2成分ゲルを均質に混合することを可能にし、同時に個々の使用者による爪への適用を容易にし得る。
【0037】
包装の別の好ましい形態は、破断可能なシールによって互いに接合されたそれぞれの第1および第2の可撓性区画内に保管されている第1および第2の成分を伴う。好ましい形態の包装は、可撓性のパウチ、例えば、二区画性の積層ホイルパウチを利用する。この実施形態では、第1の成分は第1の区画に収容され、第2の成分は近接した第2の区画に収容される。2つの区画は、第1の区画内に含まれる第1の成分を第2の区画内の第2の成分と混合させるため、第1の区画内の圧力(例えば、手で圧搾することから生じる)を可能にする使用において破断可能である、シール(例えば、(例えば接着剤の)シールストリップによって、比較的脆弱な領域を作るために、その一領域を改変することができる)によって互いに分離されている。混合は、組み合わせられた成分のゲルを1つの区画から他の区画へと何度も行き来させるために、1つの区画、次いで他の区画を交互に複数回(例えば、10回)圧搾することによって容易に達成される。この作用は、閉鎖された好都合な容器内で混合する手段として非常に効率的である。混合組成物は、パウチの角を引き裂くかまたは切り取ること、および必要な量のゲルを目的の1つまたは複数の爪の中央に穏やかに絞ることによって、爪へ容易に適用することができ、UV照射によるインサイチュ重合の準備ができる。
【0038】
このように、重合組成物、例えば、ハイドロゲルは、固形のパッチになり、適用される爪に適合し、爪の微細表面トポグラフィーと、適用プロセスを通してキャストおよび硬化された重合組成物(例えば、ハイドロゲル)の対向面との間で正確に適合した形に固定される。これは必要な接着性グリップを提供し、また、ゲルから爪板への溶解した過酸化水素の最も効率的な分子移動を可能にする。
【0039】
成分の相対濃度および架橋の程度は、所望の物理的特性および過酸化水素送達速度をパッチに付与するのに役立つ。このように送達された過酸化水素は、使用者に有痛性の副作用を引き起こすことなく感染している真菌および細菌を死滅させることができる。
【0040】
この新規技術は、感染した爪への局所的過酸化水素の制御された持続的送達を提供する。本質的には本発明は、新しいプロファイルが、パッチが標的の爪上に配置されている間、一連の8時間(一晩)の治療エピソードにおける最適用量の活性治療剤の送達のために完全に調整されるように、過酸化水素の薬物動態プロファイルを変換する。実際上、架橋パッチに組み込まれた過酸化水素は、爪からの皮膚糸状菌感染を排除するための完全な化学療法剤になる。遊離過酸化水素それ自体、ヒトの爪に感染する生物として同定された任意の真菌、および共感染細菌(これも真菌的に分解された爪に生息できる)を死滅させることができる、広域スペクトル抗真菌剤である。
【0041】
以下の図面を参照しながら、例として本発明を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0042】
図1】好適な主要容器を示す。過酸化水素「活性」ゲルおよび「光開始剤ゲル」が予め充填され得る単回使用のデュアルシリンジ。混合チップをシリンジの端部に取り付けることによって混合が得られる。
図2】デンプンヨウ化物プレートの色変化によって証明される、爪の下での過酸化水素の放出を示すチャートである。
図3】0.5%w/wの本発明によるゲル25μLおよび125μLを3回適用した後の、爪を通した過酸化水素拡散のデンプンヨウ化物寒天感知の結果を示す表である。
図4】実施例5の実験技術の概略図である(正確な縮尺率ではない)。この設定では、紅色白癬菌(T.rubrum)はわずか0.25ml(または重量で0.25g)のはるかに少ない量で保持される。これは、0.05gのゲルから放出された過酸化水素が、寒天中の標的の紅色白癬菌(T.rubrum)を攻撃する際に5倍にのみ希釈し得ることを意味する。次いで、死滅効率は、0.25gの播種された寒天標的を取り除き、それを滅菌栄養寒天上に置いて、生存している紅色白癬菌(T.rubrum)を成長させて検出可能とすることによって決定することができる。
図5】無傷の爪片に適用された二相ゲル(0.05g)から放出された過酸化水素の殺真菌活性を示す表である。この実験では、標的の紅色白癬菌(T.rubrum)を、無傷の爪片によってゲルから分離した少量(0.25g)の栄養寒天中に保持した。過酸化水素は爪を通過することによってのみ標的に到達できた。
【発明を実施するための形態】
【0043】
実施例
図1a~1cに示されるデュアルシリンジ形式の使用者は、提供されたデュアルシリンジ上のプランジャーを押すことによって、1つの「活性」ゲルと1つの「光開始剤」ゲルの内容物を混合して、1回分の用量、例えば、1cmあたり0.15mLの混合生成物、を送達することに基づいて、最終配合物を爪の上に投与することができる。これはおよそ1.5mm厚のゲルの厚さを提供する。適用されたゲルは、続いて標準化されたUV光源を用いて1~2分間UV光にさらされる。この作用は、爪の上に活性ポリマーを重合(硬化)させ、爪の表面にそれをしっかりと接着させ、それにより一晩(すなわち、8~10時間の間)配置して留まらせる。爪に硬化しても、重合したゲルは(グリセロールの存在により)柔らかくゴム状のままであり、適切な時間の後に患者が爪からゲルを剥がせるように設計されている。爪の感染症の完了を得るために必要な場合、このプロセスは数週間にわたって毎日反復することができる。
【0044】
配合例
本発明による2成分溶液の配合は以下の通りである。
【0045】
【表1】
【0046】
配合物の残りは脱イオン水である。
【0047】
【表2】
【0048】
配合物の残りは脱イオン水である。
本発明のこの実施形態では、過酸化水素は、0.5w/wの公称濃度で使用されるが、これは化学療法剤として存在するため、ほとんどの管轄において、医薬品グレードであることが証明された材料のみを使用する必要がある。好適な市販の過酸化水素調製物は、高純度過酸化水素の形態の、「PERSYNT(登録商標)」(Evonik GmbH)として知られており、これは、食品処理、精密化学合成、ならびに化粧品および製薬産業での使用に最適化されていると理解される。この材料は、欧州薬局方7の要件(濃度を除く)およびEN DIN 902の要件に適合している。
【0049】
Evonikが提供する情報は、PERSYNTがアントラキノン自動酸化(AO)プロセスに従って製造されていることを示している。このAOプロセスでは、過酸化水素は水素および大気中の酸素から生成され、循環されるアントラキノン誘導体を「反応担体」として利用する。AOプロセスを通して得られた粗過酸化水素は、次いで精製され濃縮される。適切な安定化の後、これは20~35重量%の範囲の濃度の水溶液として市販される。
【0050】
本発明による2成分溶液の別の配合は以下の通りである。
【0051】
【表3】
【0052】
配合物の残りは脱イオン水である。
【0053】
【表4】
【0054】
配合物の残りは脱イオン水である。
実施例1:インビトロ過酸化水素放出特性
表1の配合物と同様に、3つの配合物を0.5、1.0および2.0重量%活性の濃度で調製した。
【0055】
二相配合剤が過酸化水素を放出する能力はインビトロで研究されてきた。最初の研究では、2%w/w活性ゲルと光開始剤ゲルの試料を混合し、次に扁平シートの「レシーバー」ゲルに適用し、標準化されたUVランプを使用してインサイチュで重合させた。次いで、試験ゲルを除去する前に、試料を一晩、および3日間インキュベートした。次いで、ゲル抽出アッセイを用いてレシーバーゲルを過酸化水素の存在について試験し、以下の結果を得た。
【0056】
・一晩で、重合したゲル中の過酸化水素含有量の70%超がレシーバーゲル中に検出された。
【0057】
・3日間のインキュベーション後、レシーバーゲルには重合したゲルの過酸化水素含有量の50~60%が含有され、これは、より長い暴露時間で平衡が確立されたことを示唆している。
【0058】
実施例2:爪を通した、ゲルからのインビトロ過酸化水素透過
皮膚糸状菌真菌細胞を死滅させるのに有効であると予想される濃度で過酸化水素が爪に浸透する能力を調べるため、実施例1の実験の変形が設定された。無傷のヒトの爪片をペトリ皿の中央に開けた穴(直径3.2mm)の外側に糊付けし、次いで、これにデンプン/ヨウ化物寒天を充填し、デンプンヨウ化物ゲルが爪片と直接接触していることを注意して確認した。二相配合物を、各ペトリ皿の穴の上に固定された健康な爪片の外面上に0.05~0.06gを単回局所適用する前に、1:1の比で20~30秒間混合した。次いで、混合ゲルを、UV光を用いて30秒間爪表面に硬化させた。発色についてプレートをモニターしたところ、9時間にわたり、放出された過酸化水素とデンプン/ヨウ化物指示薬との間の反応が示された。
【0059】
図2に要約した結果は、2%w/wの過酸化水素を健康な爪に0.1~0.3mm厚の範囲で適用した場合に、発色(すなわち、爪を通した過酸化水素の放出および浸透)が最も速く、最も強かったことを示す。より低い濃度、すなわち0.5%w/wおよび1.0%w/wの過酸化水素もまた、より強さの小さい染色ではあるが、有意な色変化のエビデンスを示した。しかしながら、インビトロの有効性と一致して、過酸化水素濃度に関係なく、最も厚い健康な爪(>0.5mm)をアッセイに使用したときは色の変化が観察されず、これは、爪床への単回適用による過酸化水素の利用可能性が健康な爪の厚さ(したがって透過性)に依存している可能性が高いことを示している。
【0060】
実施例3:反復適用によるインビトロ過酸化水素透過
本発明の目的は、ガスの圧力が爪床からの爪の剥離を引き起こし、患者に苦痛をもたらす可能性があるため、爪の下で酸素ガスが有意に集まることを回避しながら、抗真菌作用を提供するのに十分な過酸化水素を爪床に有することである。したがって、爪の厚さは透過に影響を与えるであろうが、理想的な製品は、何度かの適用にわたり爪への過酸化水素の徐放を提供する。
【0061】
この実施例では、厚さ0.1~0.5mmの健康な無傷の爪を使用して、最低用量の過酸化水素(0.5%w/vゲル)の反復適用をヨウ素デンプン試験で用いた。25μL(0.03mL/cm2に相当)または125μL(0.15mL/cm2に相当)のいずれかの最終0.5%w/vの配合物を爪片の上に硬化させ、試料を25℃で一晩インキュベートした。インキュベーション後、デンプンヨウ化物寒天を、色変化のエビデンスについて調べた。最初の適用後に色が観察されなかった場合は、爪からゲルを取り除き、新鮮なゲルを再適用した。次に試料を再度25℃でインキュベートし、さらに48時間、デンプンヨウ化物寒天をモニターしながら水和させ続けた。
【0062】
3回適用した後の結果は、最も薄い爪(厚さ0.1~0.3mm)では、25μLまたは125μLの0.5%w/wゲルを単回適用した後に色変化が観察されることを示している。さらに、125μL(0.15mL/cm2)を爪に添加した場合、最も厚い爪(0.5mm)に単回適用した後にいくらかの色変化が観察された。0.5%w/wゲルの2回目の適用は、125μLを使用した場合に観察された色変化をさらに増強し、さらに、わずか25μLの2回目の適用後、0.4mm厚の爪で色変化が観察された。最も厚い(0.5mm)爪に25μLの0.5%w/wゲルを3回適用した後、極微の変化が観察された(表5)。
【0063】
実施例4:本発明によるゲルからの、爪を通って透過した過酸化水素のインビトロ殺真菌作用
爪を通して送達された過酸化水素が関連する殺真菌活性を有することを確認するために、単に過酸化水素を検出するのではなく、真菌の死滅を結果として伴う同様の実験を行った。この実験では、寒天に紅色白癬菌(T.rubrum)を播種した。2%w/w濃度の過酸化水素を爪片に適用された最終ゲルに使用し、これを標準化されたUVランプを使用してインサイチュで重合させた。ゲルからの過酸化水素放出の効率を比較するために、0.35%、3.5%および35%の過酸化水素の単純な水溶液の形態で陽性対照を含め、これらは爪表面に液体として適用した。過酸化水素を欠く水およびゲルの形態の陰性対照も含まれた。
【0064】
結果を以下の表4に要約する。概説すると、これらのデータは、2%w/wの過酸化水素を含む本発明の二相配合物が、健康な無傷の爪片に浸透することができ、可変的な反応を伴いはするが、下に存在する寒天において真菌死滅の領域を生じたことを示す。さらなる調査により、阻害領域の大きさは、大部分において、使用した健康な爪片の厚さに関係していることが示された。より厚い爪片は、おそらくより遅い拡散および/または爪を通した浸透の妨げに起因して、より小さな阻害領域を生じた。
【0065】
確認のために、爪片なしで試験を反復した場合、配合物は3.5%過酸化水素溶液と同等の阻害領域を達成し、重合したゲルそれ自体は過酸化水素の放出を妨げなかったことを示した。
【0066】
【表5】
【0067】
実施例5:インビボの状況により近いモデルにおける本発明によるゲルからの、爪を通って透過した過酸化水素のインビトロ殺真菌作用
実施例の試験モデルは、過酸化水素が紅色白癬菌(T.rubrum)を播種した寒天ゲルを通って拡散する際に実質的に希釈されるという重大な欠点を負う。いかなるクリアランス領域もこの希釈効果によって制限される。インビボの状況では、殺真菌作用は、大量の真菌感染した液または組織への希釈によって制限されない。爪真菌症では、真菌は主に爪板、および、ことによると爪板と爪床との間の境界、に限局される。
【0068】
爪真菌症の臨床状態をよりよく模倣するために、実施例4の試験モデルを図4に示すように修正した。
【0069】
標準モデルの通り、UV光を用いて、少量(0.05~0.06g)の異なる濃度(0.5%w/w、1.0%w/wおよび2.0%w/w)の二相ゲルを爪切片の上に硬化させた。標準的R-SNIPPモデルと比較した主な違いは、0.25mLの溶融YEPD寒天(±104胞子の紅色白癬菌(T.rubrum))液滴が、寒天を通した拡散によるのではなく、爪の下側に直接接触できるようにしたことである。プレートを25℃で一晩インキュベートした。寒天が乾燥するのを防ぐために、1mLの滅菌水もペトリ皿に加えた。プレートを培養するために、寒天の液滴を新鮮なYEPD寒天プレートに移し、25℃で4日間インキュベートした。
【0070】
この実験からの結果を図5に示す。ここで、各結果は、爪を通した過酸化水素への曝露後のインキュベーションの後、言葉および0.25gの標的ゲルの写真で記録される。
【0071】
この実験では、0.5~2.0%w/vの過酸化水素を含有する二相OnyxMycoゲルを0.1~0.2mm厚の深さの爪切片に使用した場合、爪の下での紅色白癬菌(T.rubrum)の成長は観察されなかった(表4)。しかしながら、成長は0.4mm厚を超える健康な爪切片で記録され、これは単回適用後のより厚い無傷の健康な爪を通しての過酸化水素の浸透は完全な殺真菌濃度を達成するのに不十分であり得ることを示す。それでも、0.4mm厚の爪片では、過酸化水素が配合物中に含まれていた場合の成長の程度は、過酸化水素ゼロの対照よりも著しく小さかった。
【0072】
このモデルは、1つの爪片への本発明の単回適用のみを評価するものであることを認識することが重要である。臨床診療において、本発明の適用は、完全な真菌死滅を達成するために数週間の過程にわたって毎日反復されることを意図している。実施例3において、より厚い爪を通したとしても、反復適用が検出可能な過酸化水素の浸透を増強することは明らかであった。
【0073】
本発明による2成分溶液のさらなる配合は以下の通りである。
【0074】
【表6】
【0075】
必要に応じて、除去された水の量に比例してグリセロールの量を増やすこと、および
- AMPSのナトリウム塩の代わりにAMPSの酸型を使用すること、
- EDTAを排除すること、
- Natrosolを排除すること
- Persyntを等量の尿素-過酸化水素複合体で置き換えること
によって水を排除することができる。
【0076】
必要に応じて、EDTA二ナトリウムを省略してもよい。
グアーガムは代用増粘剤として使用することができる。
【0077】
【表7】
【0078】
必要に応じて、代わりに次の保存剤を使用してもよい:
- ホウ酸/ホウ酸ナトリウム緩衝剤
- ブロノポール 0.02%
- ヘキセチジン 0.2%
- ソルビン酸カリウム 0.2%
必要に応じて、利用可能なUV照射の強度によって0.2%~0.8%の範囲の含有量でHMPPを使用してもよい。
図1a
図1b
図1c
図2
図3
図4
図5