IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ テイジン・アラミド・ビー.ブイ.の特許一覧

特許7030805ポリエーテルケトンケトン繊維の製造方法
<>
  • 特許-ポリエーテルケトンケトン繊維の製造方法 図1
  • 特許-ポリエーテルケトンケトン繊維の製造方法 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-25
(45)【発行日】2022-03-07
(54)【発明の名称】ポリエーテルケトンケトン繊維の製造方法
(51)【国際特許分類】
   D01F 6/76 20060101AFI20220228BHJP
   D02G 3/04 20060101ALI20220228BHJP
【FI】
D01F6/76 Z
D02G3/04
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2019523572
(86)(22)【出願日】2017-11-08
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-11-21
(86)【国際出願番号】 EP2017078554
(87)【国際公開番号】W WO2018087121
(87)【国際公開日】2018-05-17
【審査請求日】2020-07-21
(31)【優先権主張番号】16197754.1
(32)【優先日】2016-11-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】501469803
【氏名又は名称】テイジン・アラミド・ビー.ブイ.
【氏名又は名称原語表記】Teijin Aramid B.V.
【住所又は居所原語表記】Velperweg 76, NL-6824 BM Arnhem, Netherlands
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ハネケ ブルストゥル
(72)【発明者】
【氏名】ベルト ヘッベン
(72)【発明者】
【氏名】ヴィド ネイエンハイス
(72)【発明者】
【氏名】ジュリアン ジュアノー
(72)【発明者】
【氏名】フィリップ ビュシ
【審査官】長谷川 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-514136(JP,A)
【文献】特表2012-516948(JP,A)
【文献】特表2012-520950(JP,A)
【文献】特表平06-502880(JP,A)
【文献】特開平03-019915(JP,A)
【文献】特開平01-280018(JP,A)
【文献】特表2013-531138(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F1/00-6/96
9/00-9/04
D02G1/00-3/48
D02J1/00-13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエーテルケトンケトンを含む繊維の製造方法であって、
ポリエーテルケトンケトンと、少なくとも90重量%の濃度を有する硫酸とを混合して紡糸ドープを得て、紡糸口金を通して該紡糸ドープを凝固浴中に通過させ、ここで、前記ポリエーテルケトンケトンは硫酸中で12~22重量%の濃度に溶解される工程を含む、方法。
【請求項2】
前記ポリエーテルケトンケトンが、式Iおよび式II:
-A-C(=O)-B-C(=O)- I
-A-C(=O)-D-C(=O)- II
[式中、Aは-Ph-O-Ph-基であり、Phはフェニレン基であり、Bは1,4-フェニレンであり、Dは1,3-フェニレンである]で表される繰り返し単位を含み、ここで、前記式I:式IIで表される繰り返し単位の比は100:0~0:100である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記ポリエーテルケトンケトンが、少なくとも295℃の溶融温度Tを有する、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
前記繊維を少なくとも1つの加熱工程で150~290℃の範囲の温度に加熱することをさらに含む、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
加熱工程の間、1.5~10の延伸比をもたらす張力を印加する、請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記繊維を第二の加熱工程で150~290℃の範囲の温度に加熱する、請求項4または5記載の方法。
【請求項7】
第二の加熱工程の間、最大で1.5の繊維の延伸比をもたらす張力を印加する、請求項6記載の方法。
【請求項8】
凝固後の前記繊維を、最大で11のpHを有する溶液でのみ処理する、請求項1から7までのいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
ポリエーテルケトンケトンを含み、かつ繊維の重量を基準にして0.001~5重量%の硫黄含有量を有する繊維。
【請求項10】
最大で30%の結晶化度を有する、請求項記載の繊維。
【請求項11】
ASTM D3822-07に準拠して測定して、少なくとも50mN/texの破断靭性を有する、請求項9または10記載の繊維。
【請求項12】
ASTM D3822-07に準拠して測定して、少なくとも100%の破断点伸びを有する、請求項9から11までのいずれか1項記載の繊維。
【請求項13】
ASTM D3822-07に準拠して測定して、少なくとも100J/gの破断引張エネルギーを有する、請求項9から12までのいずれか1項記載の繊維。
【請求項14】
少なくとも30%の結晶化度を有する、請求項記載の繊維。
【請求項15】
ASTM D3822-07に準拠して測定して、少なくとも150mN/texの破断靭性を有する、請求項14記載の繊維。
【請求項16】
請求項9から15までのいずれか1項記載の繊維を含むマルチフィラメント糸。
【請求項17】
請求項9から15までのいずれか1項記載の繊維および/または請求項16記載のマルチフィラメント糸および少なくとも1種の他の繊維を含むハイブリッド糸。
【請求項18】
前記少なくとも1種の他の繊維が、炭素繊維、ガラス繊維、およびPEKK以外のポリマーでできた繊維から選択される、請求項17記載のハイブリッド糸。
【請求項19】
請求項9から15までのいずれか1項記載の繊維、請求項16記載のマルチフィラメント糸、または請求項17もしくは18記載のハイブリッド糸の少なくとも1つを含む複合材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエーテルケトンケトンを含む繊維の製造方法、ポリエーテルケトンケトンを含む繊維、前記繊維のマルチフィラメント糸、ならびに繊維またはマルチフィラメント糸を含むハイブリッド糸および複合材料に関する。
【0002】
ポリエーテルケトンケトン繊維およびポリエーテルケトンケトン繊維の製造方法は公知である。
【0003】
当該技術分野では、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)は通常、溶融紡糸法によって繊維に加工されるので、溶媒を使用する必要はない。
【0004】
米国特許出願公開第2011/0311811号明細書(US2011/0311811)および米国特許出願公開第2011/0287255号明細書(US2011/0287255)は、PEKKとナノチューブとの複合繊維を記載している。繊維は溶融紡糸によって製造され、ここで、PEKKは300℃を超える温度に加熱され、押出される。
【0005】
米国特許第5300122号明細書(US5300122)は、着色PEKK繊維に関する。これらの繊維も溶融紡糸によって製造され、続いて染料で処理される。
【0006】
欧州特許出願公開第0392558号明細書(EP0392558)は、アラミドと熱凝固性ポリマーとのポリマーブレンドでできた成形品を開示している。しかしながら、これらの製品は、主にアラミドポリマーとほんの少しのPEKKとを含む。
【0007】
米国特許出願公開第2012/0015577号明細書(US2012/0015577A1)は、315~330℃の押出機温度でPEKKから溶融押出することによって製造された不織布を記載している。
【0008】
PEKKは非常に高い融点を有しているので、PEKKの溶融紡糸法は300℃を超える温度でポリマーを加熱することが必要である。このプロセスはエネルギー集約的であり、ポリマーの分解をもたらす可能性がある。したがって、溶融紡糸によって製造されたPEKK繊維の機械的特性は最適なものではない。
【0009】
本発明の目的は、加熱によるPEKKポリマーの分解を回避し、改善された機械的特性を有する繊維を製造する方法を提供することである。より具体的には、高い粘り強さまたは非常に高い靭性を有する繊維と組み合わせて高い破断点伸びを有するPEKK繊維を得ることが望ましい。さらに、より小さい線密度ひいてはより小さいフィラメント直径を有するフィラメントを含むPEKK糸を製造することも望ましい。
【0010】
これらの課題は、
ポリエーテルケトンケトンと、少なくとも90重量%の濃度を有する硫酸とを混合して紡糸ドープを得て、紡糸口金を通して紡糸ドープを凝固浴中に通過させ、ここで、ポリエーテルケトンケトンは硫酸中で12~22重量%の濃度に溶解される工程を含む、ポリエーテルケトンケトンを含む繊維の製造方法によって解決される。
【0011】
本出願の文脈において、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)は、式Iおよび式II:
-A-C(=O)-B-C(=O)- I
-A-C(=O)-D-C(=O)- II
[式中、Aは-Ph-O-Ph-基であり、Phはフェニレン基、好ましくはパラフェニレン基であり、Bは1,4-フェニレン(パラフェニレンとも呼ばれる)であり、Dは1,3-フェニレン(メタフェニレンとも呼ばれる)である]で表される繰り返し単位を含むポリマーとして定義される。-B-C(=O)-基はテレフタル部分(T)とも呼ばれ、-D-C(=O)-基はイソフタル部分(I)とも呼ばれる。
【0012】
PEKKポリマーの式I単位:式II単位の比は、一般にT/I比と呼ばれる。T/I比は、特定の一連の繊維特性を達成するのに望ましくなり得るように容易に変えることができる。例えば、T/I比は、より低いまたはより高い結晶化度を提供するように選択することができる。
【0013】
ポリエーテルケトンケトンは当技術分野において周知であり、以下の特許に記載されている方法を含む任意の適切な重合技術を使用して調製することができる。米国特許第3,065,205号明細書(US3,065,205);米国特許第3,441,538号明細書(US3,441,538);米国特許第3,516,966号明細書(US3,516,966);米国特許第4,704,448号明細書(US4,704,448);米国特許第4,816,556号明細書(US4,816,556);および米国特許第6,177,518号明細書(US6,177,518)。ポリエーテルケトンケトンの混合物を用いてもよい。
【0014】
特にT/I比は、PEKKを調製するために使用される異なるモノマーの相対量を変えることによって所望の通りに調整することができる。例えば、PEKKは、テレフタロイルクロリドとイソフタロイルクロリドの混合物をジフェニルエーテルと反応させることによって合成することができる。イソフタロイルクロリドの量に対してテレフタロイルクロリドの量を増加させることでT/I比が増加する。本発明の他の実施形態では、異なるT/I比を有するポリエーテルケトンケトンを有するポリエーテルケトンケトンの混合物が用いられる。例えば、80:20のT/I比を有するPEKKを60:40のT/I比を有するPEKKとブレンドすることができ、ここで、相対比は、繊維にとって望ましい特性のバランスを有するPEKK混合物を提供するように選択される。
【0015】
ポリエーテルケトンケトンは、100:0~0:100のT/I比を有することができる。好ましくは、T/I比は、50:50~100:0、より好ましくは60:40~90:10である。
【0016】
特に好ましい実施形態では、PEKKのT/I比は65:35~85:15である。
【0017】
PEKKポリマーのT/I比が高いほど、ポリマー中のパラ結合の数が多くなり、PEKKポリマーの融点が高くなる。そのようなPEKKポリマーの場合、溶融紡糸法はより困難であり、さらに高い温度で溶融することが必要である。それゆえ、本発明の方法は、大部分のパラ結合ひいては高い溶融温度を有するPEKKにとって特に有利である。
【0018】
一実施形態では、本発明で使用されるポリエーテルケトンケトンは、少なくとも295℃、好ましくは少なくとも310℃、より好ましくは少なくとも320℃、さらにより好ましくは少なくとも330℃、またはさらに少なくとも350℃の溶融温度Tを有する。しかしながら、一般的に、溶融温度Tは405℃を超えない。溶融温度は示差走査熱量測定(DSC)によって測定される。4mg(1mg)のサンプルを最初に20℃/分で20℃~400℃に加熱し、次いで20℃/分で20℃に冷却する。次いでサンプルを20℃/分で400℃に二回目の加熱に供する。融点は、最も低い熱流が観察される温度としてDSCによって測定された曲線上で測定される。
【0019】
本発明において有用なポリエーテルケトンケトンは、少量の他の繰り返し単位を含み、かつ/またはその末端官能基に関して修飾されていてもよい。
【0020】
好ましくは、本発明で使用されるポリエーテルケトンケトンは、最大で15モル%、好ましくは最大で10モル%、特に最大で5モル%、最も好ましくは最大で1モル%の式IおよびIIで表されるもの以外の単位を含む。適切な他の単位(コモノマー)の例は、二官能性ナフタレンおよび連鎖制限剤、例えばベンゾイル-C(=O)-Ph部分を含む化合物である。
【0021】
好ましくは、ポリエーテルケトンケトンは、式I(T)およびII(I)で表される繰り返し単位からなる。
【0022】
ポリエーテルケトンケトンが式I(T)およびII(I)で表される単位からなる実施形態ならびにポリエーテルケトンケトンが他の単位を含む実施形態の場合、式Iおよび式IIの繰り返し単位の相対量についての上記の比も好ましくは適用される。
【0023】
本発明の範囲内で、繊維は、比較的柔軟性のある、長さ対幅(その断面積にわたって、その長さに対して垂直)の比が高い物質単位として理解されるべきであり、あらゆる通常の種類の繊維、例えば、長さが特に制限されていないフィラメント、1本以上の撚り合わされた、混繊されたまたは撚り合わされていないフィラメント(モノフィラメントおよびマルチフィラメント束)を含むフィラメント糸、撚りを与えることなく実質的に束ねられている多数のフィラメントの集合からなるトウなどが挙げられる。紡糸の間に形成される実質的に無制限の長さのフィラメントは、所望される場合、短繊維に切断することができ、短繊維はまた紡績糸に加工することができる。繊維はフロックと呼ばれるさらに短い長さに切断することができる。
【0024】
特定の実施形態によれば、マルチフィラメント糸は、本発明によるPEKK繊維と他の材料の繊維とを含み得る。繊維またはフィラメントの断面は任意の形状とすることができるが、典型的には中実の円形(丸型)または豆形である。
【0025】
本発明による方法は、溶媒ベースの方法である。紡糸ドープを形成するためにPEKKを溶解するのに使用される溶媒は水性溶媒である。
【0026】
溶媒としては濃硫酸が使用される。好ましくは、硫酸は、少なくとも95重量%、より好ましくは少なくとも98重量%、さらにより好ましくは少なくとも99重量%の濃度を有する。
【0027】
好ましくは、本発明の方法では、ポリエーテルケトンケトンと硫酸とを連続流により混合装置中で混合して紡糸ドープをもたらす。
【0028】
混合装置は、例えば、混練機または押出機、好ましくは一軸混練機、二軸混練機、単軸スクリュー押出機または二軸スクリュー押出機であり得る。
【0029】
好ましくは、混合装置は、PEKKポリマーと硫酸との効率的な混合のために高い剪断速度を生み出す設定で使用される。
【0030】
好ましくは、混合紡糸ドープの混合も紡糸も、20~120℃の範囲の温度、より好ましくは50~90℃の温度で行われる。
【0031】
好ましくは、PEKKポリマーは、硫酸中で12~22重量%の濃度、より好ましくは15~20重量%の濃度、さらにより好ましくは18~21重量%の濃度に溶解される。
【0032】
紡糸ドープは、繊維形成性であるポリマー画分と溶媒画分とを含む。ポリマー画分はPEKKを含む。好ましくは、ポリマーの少なくとも60重量%がPEKKであり、より好ましくは、ポリマーの少なくとも70重量%、少なくとも80重量%または少なくとも90重量%がPEKKである。一実施形態では、ポリマーはPEKKからなる。溶媒画分は硫酸を含む。
【0033】
本発明の一実施形態によれば、紡糸ドープは、添加剤、特に安定剤をさらに含んでもよい。本発明の別の実施形態によれば、そのような添加剤、特に安定剤は、好ましくは水溶性であり、凝固浴および/または繊維を洗浄するために使用される溶液に添加することができる。
【0034】
適切な安定剤は、例えばリン酸塩、特に無機または有機金属リン酸塩である。そのようなリン酸塩は、例えば、アンモニウム、ナトリウム、リチウム、カリウム、カルシウム、亜鉛、アルミニウム、マグネシウム、ジルコニウム、バリウム、または希土類リン酸塩からなる群の中から選択することができる。リン酸塩は、特に、以下の化合物のうちの1種以上の中から選択することができる:リン酸一ナトリウム無水物、一水和物または二水和物;リン酸二ナトリウム無水物、二水和物、七水和物、八水和物または十二水和物;リン酸三ナトリウム無水六方晶系、無水立方晶系、半水和物、六水和物、八水和物または十二水和物;およびリン酸二水素アンモニウム。
【0035】
ポリエーテルケトンケトンと硫酸とを含む紡糸ドープは、紡糸口金を通して紡糸ドープを凝固浴中に通過させることによって繊維に加工される。
【0036】
脱気して紡糸温度に加熱した紡糸塊は、公知の乾式ジェット-湿式紡糸法によって紡糸される。この方法は、パラアラミドと硫酸との紡糸ドープについて、例えば米国特許第3414645号明細書(US3414645)および米国特許第4016236号明細書(US4016236)にさらに詳細に記載されている。乾式ジェット-湿式紡糸法は、液体紡糸ドープを空気などの非凝固性気体雰囲気中と、その直後に凝固浴中に押し出すことを含む。紡糸塊が通過する空気領域(エアギャップとも呼ばれる)では、ポリエーテルケトンケトンが引き込まれる。
【0037】
それらの凝固後、形成されたフィラメントは凝固浴から取り出され、洗浄され、乾燥されてボビンに巻き取られる。
【0038】
本発明による方法で使用される紡糸口金は、完全芳香族ポリアミドの乾式ジェット-湿式紡糸においてそれ自体知られている種類のものであってよい。気体状非凝固性媒体は、好ましくは空気からなる。
【0039】
エアギャップは、2~100mmの長さを有していてよく、好ましくは4~20mm、より好ましくは6~15mmの長さを有する。
【0040】
凝固浴の組成は様々に変化し得る。それは完全にまたは部分的に水または他の物質、例えば塩基、酸、塩および有機溶媒からなることができる。凝固浴は、好ましくは0~40重量%の濃度を有する希硫酸水溶液からなる。一実施形態によれば、凝固浴は、希釈した苛性アルカリ水溶液、例えば0~10重量%、好ましくは0.05~5重量%、特に0.1~1重量%の濃度を有するNaOH水溶液からなることができる。別の実施形態によれば、凝固浴は、4~11、好ましくは5~10、特に6~8のpHを有する。凝固浴は、水、特に軟水または脱塩水からなることができる。
【0041】
凝固浴の温度は、任意の所望の値をとり得る。他の紡糸条件に応じて、凝固浴の温度は、一般的に-10℃~50℃の範囲、そして好ましくは0℃~25℃である。
【0042】
本発明による方法では、紡糸オリフィスを出る紡糸塊は、非凝固性気体媒体中に引き込まれる。延伸比、すなわち凝固浴を出るときのフィラメントの長さと紡糸口金の紡糸オリフィスを出るときの紡糸塊の平均長さとの比は、0.5~15、好ましくは0.8~10の範囲であり得る。他の紡糸条件に応じて、繊維の特性に関する限り最適な結果が得られるように延伸比が選択される。
【0043】
少量の残留酸が繊維の特性に有害な影響を及ぼす可能性があるので、使用される硫酸は、特に中和および/または洗浄によって紡糸繊維から完全に除去されるべきである。これは、紡糸繊維を室温または高温で水および/またはアルカリ性物質の溶液、例えばNaOH、NaHCOまたはNaCOの苛性溶液での処理にかけることによって行うことができる。一実施形態では、繊維は、凝固後、最大pH11、特にpH9、好ましくは最大で8.5のpHを有する溶液でのみ処理される。好ましくは、繊維は、凝固後、特に1回、2回、3回以上(中和なしで)、水(例えば脱塩水または軟水)で処理されるだけである。このようにして製造された繊維は、改善された機械的特性およびより良好な熱安定性を有することができる。
【0044】
繊維が洗浄された後、それらは乾燥される。これは任意の便利な方法で行うことができる。乾燥は洗浄直後に、例えば繊維を加熱ローラー上に通過させることによって行うのが好ましい。
【0045】
乾燥後に得られる繊維は、一般的に結晶化度が低く、通常、最大で30%の結晶化度であるか、または非晶質であり得る。
【0046】
繊維の結晶化度および靭性を増加させるために、任意に、本発明による方法で得られた繊維を熱処理にかけてよく、ここで、繊維は、不活性または非不活性ガス中で張力下に加熱される。
【0047】
熱処理は、張力下で加熱する1つまたは複数の工程を含み得る。一実施形態では、本発明による方法は、少なくとも1つの加熱工程で、150~290℃の範囲、好ましくは155~260℃の範囲の温度に繊維を加熱することを含む。
【0048】
好ましい実施形態では、少なくとも1つの加熱工程の間に張力が印加され、延伸比は1.5~10となる。
【0049】
プロセスのこの段階では、延伸比は、[加熱工程後の繊維の長さ]/[加熱工程前の繊維の長さ]として定義することができる。連続オンラインプロセスの場合、延伸比はまた熱処理の前後で糸を案内するゴデットの速度、したがって[少なくとも1つの加熱工程後のゴデットの速度]/[少なくとも1つの加熱工程前のゴデットの速度]に基づいて測定することができる。
【0050】
繊維の加熱処理は少なくとも2つの工程を含み得る。本発明による一方法では、上記の第一の加熱工程で得られた繊維は、第二の加熱工程で150~290℃の範囲、好ましくは180~250℃の範囲の温度に加熱される。
【0051】
第二の加熱工程の間、繊維の延伸比が最大で1.5となる張力を印加してもよい。それに延伸比は、第二の加熱工程の前後のそれぞれの長さまたは速度を用いて、上記のように測定される。
【0052】
第二の加熱工程の間、好ましくは繊維に張力は全く印加されないか、またはほんの少しだけ印加され、好ましくは、処理装置、例えばガイドロール全体にわたった繊維の輸送を可能にするのにちょうど十分な張力が印加される。
【0053】
本発明はまた、ポリエーテルケトンケトン繊維に関する。
【0054】
ポリエーテルケトンケトンを含むこの繊維は、上記の方法の実施形態のいずれかによって得ることができる。
【0055】
本発明はさらに、ポリエーテルケトンケトンを含み、かつ繊維の重量を基準にして0.001~5重量%の硫黄含有量、好ましくは0.01~2重量%の硫黄含有量、より好ましくは0.05~1重量%または0.1~0.5重量%の硫黄含有量を有する繊維に関する。
【0056】
溶媒硫酸を使用せずに溶融押出によって製造される先行技術のPEKK繊維は、本発明の繊維よりも低い硫黄含有量を有する。
【0057】
硫黄含有量は、誘導結合プラズマ発光分析法(ICP-OES)によって測定することができる。
【0058】
100mgの繊維に、9mlの濃硝酸(70重量%)を添加する。この混合物を、透明な液体が得られるまで、Ultrawave(Milestone)中でマイクロ波温浸にさらす。MilliQ水を加えて容量を25mlに調整した。
【0059】
沈殿物を濾過によってこの溶液から除去する。透明な濾液を、Perkin Elmer Optima 8300 DV装置中でICP-OESによって分析する。硫黄含有量を測定するために、181,972nmおよび180,669nmの波長における輝線を使用する。
【0060】
一実施形態では、本発明による繊維は、少なくとも295℃、好ましくは少なくとも310℃、より好ましくは少なくとも320℃、さらにより好ましくは少なくとも330℃、さらに約350℃の溶融温度Tを有するポリエーテルケトンケトンを含む。
【0061】
一実施形態では、本発明は、ポリエーテルケトンケトンを含み、0.001~5重量%の硫黄含有量を有し、かつ最大で30%(または30%未満)の低結晶化度または少なくとも30%の高結晶化度のいずれかを有する繊維に関する。
【0062】
本発明による繊維は、低いフィラメント線密度および小さい繊維直径を有することができ、これはPEKK繊維の溶融紡糸と比較して有利である。
【0063】
特に、フィラメント直径は、30μmと小さく、好ましくは15μm以下でさえあり得る。
【0064】
フィラメント線密度は、10dtex/フィラメントと小さく、好ましくは5dtex/フィラメントと小さく、2dtex/フィラメントと小さく、1dtex/フィラメントと小さく、またはそれよりも低くさえあり得る。
【0065】
特に、少なくとも310℃の溶融温度を有するポリエーテルケトンケトンに基づく場合、最大で30%または30%以下の結晶化度を有し、かつ最大で5dtex/フィラメント、最大で3dtex/フィラメントまたは最大で1dtex/フィラメントのフィラメント線密度を有する繊維も本発明に包含される。
【0066】
本発明による繊維は、比較的高い多孔度および比較的低い質量密度を有することができる。これは多くの状況下、例えば繊維の染色が必要な場合に有利である。
【0067】
本発明による繊維は、1.1~1.4g/cm、好ましくは1.2~1.3g/cmの質量密度を有することができる。
【0068】
繊維の質量密度は、化学天秤(例えばMettler Toledo Density Kit付きのMettler Toledo AX)を用いた浮力技術によって測定され、ASTM-D3800方法AおよびASTM D792に基づく。浸漬液としてはドデカンが使用される。繊維サンプル(少なくとも0.3gのサンプルサイズ)を乾燥し(100℃、真空)、乾燥重量を測定する。続いて繊維サンプルを浸漬液に入れて脱気し、その後、浸漬液を保持する浴中(Mettler Toledo Density Kitの一部)に繊維サンプルを入れ、その湿重量を測定する。測定前に、浸漬液をASTM D885に従ってコンディショニングする。密度を計算する:
【数1】
dry=空気中での乾いた試験片の質量[g]、Wwet=液体中での水に浸した試験片の質量[g]、Dspecimen=試験片の密度[g/cm]、Dliquid=浸漬液の密度[g/cm]、Dair=空気浮力が考慮される[g/cm]。浸漬液の密度は、ホウケイ酸ガラス標準品を使用することによって測定される。
【0069】
一実施形態では、本発明によるポリエーテルケトンケトン繊維は、最大で30%の比較的低い結晶化度を有する。この繊維は、未延伸繊維の乾燥後に、繊維を増大させた温度および/または張力にさらすことなく得ることができる。
【0070】
本発明による繊維のこの実施形態では、繊維は、最大で30%の結晶化度、および少なくとも50mN/tex、好ましくは少なくとも75mN/texの破断靭性を有することができる。
【0071】
未延伸乾燥繊維の結晶化度は、最大で20%、または最大で10%もしくはさらに最大で5%と低くあり得る。
【0072】
結晶化度は、X線回折(XRD)分析によって測定される。測定は、グラファイト単色化CuKα線および0.5mmコリメータを用いて、Histar領域検出器を備えたP4回折計を用いて行われる。サンプル-検出器間の距離は7.70cmである(コランダムを使用して校正)。
【0073】
得られたデータは、標準的なGADSS手順に従って、検出器の不均一性、空間的歪みおよび空気の散乱について補正される。
【0074】
サンプルは、平行フィラメントの束として回折計の測定位置に取り付けられる。
【0075】
結晶化度の測定は、BrukerのGADDS V 4.1.36で利用可能な外部結晶化度法を用いて行われる(特定の設定については実験の章を参照のこと)。
【0076】
結晶化度を評価するための別の方法は、示差走査熱量測定によって溶融エンタルピーを測定することである。
【0077】
測定方法は、相対的結晶化度、すなわち絶対的結晶化度をもたらさない。
【0078】
最大で30%の結晶化度を有する繊維は、好ましくは、少なくとも100%、好ましくは少なくとも150%、より好ましくは少なくとも200%、さらにより好ましくは少なくとも250%の破断点伸びを有する。
【0079】
破断点伸びは、一般に500%と高くなり得る。
【0080】
最大で30%の結晶化度を有する繊維は、好ましくは、少なくとも100J/g、好ましくは少なくとも125J/g、さらにより好ましくは少なくとも150J/gの破断引張エネルギー(一般に粘り強さまたは破断粘り強さまたは破裂粘り強さとも呼ばれる)を有する。
【0081】
一般に、破断引張エネルギーは300J/gと高くなり得る。
【0082】
好ましい実施形態では、本発明による最大で30%の結晶化度を有する繊維は、少なくとも100J/g、好ましくは少なくとも125J/gの破断引張エネルギーと一緒に、少なくとも50mN/tex、好ましくは少なくとも75mN/texの靱性および少なくとも100%、好ましくは少なくとも200%の破断点伸びを有する。
【0083】
本発明による別の実施形態では、繊維はより高い結晶化度を有する。それゆえ、本発明はまた、少なくとも30%、好ましくは少なくとも50%、より好ましくは少なくとも60%の結晶化度を有するポリエーテルケトンケトンを含む繊維に関する。一実施形態では、ポリエーテルケトンケトンを含む繊維は、少なくとも70%の結晶化度を有することができる。
【0084】
結晶化度の増加は、繊維の熱処理、例えば本発明の方法について記載したような一段階または多段階の熱処理によって実現することができる。
【0085】
一実施形態では、本発明による繊維は、少なくとも30%(または30%超)の結晶化度および少なくとも150mN/tex、好ましくは少なくとも200mN/tex、より好ましくは少なくとも300mN/tex、さらにより好ましくは少なくとも350mN/texの破断靭性を有する。
【0086】
本発明による、少なくとも30%の結晶化度を有するPEKK繊維は、100%までの破断点伸びおよび10~200J/gの破断引張エネルギーを有することができる。
【0087】
本発明による繊維の機械的特性(破断靭性、破断点伸びおよび破断引張エネルギー)は、サンプルをASTM D1776「Practice for conditioning and testing textiles」に準拠して20℃および相対湿度65%で14時間コンディショニングした後に、ASTM D3822-07「Standard test methods for tensile properties of single textile fibers」に準拠して測定される。
【0088】
本発明はまた、本発明の上記実施形態のいずれかによる任意の繊維を含むマルチフィラメント糸を包含する。
【0089】
本発明はさらに、本発明の繊維および/またはマルチフィラメント糸と、少なくとも1種の他の繊維またはマルチフィラメント糸とを含むハイブリッド糸に関する。
【0090】
少なくとも1種の他の繊維またはマルチフィラメント糸は、好ましくは、PEKK繊維のTよりも少なくとも20℃高い溶融温度Tを有する。少なくとも1種の他の繊維またはマルチフィラメント糸は、炭素繊維、ガラス繊維、およびPEKK以外のポリマーでできた繊維から選択されていてもよい。PEKK以外のポリマーは、例えば、アラミド、セルロースまたは剛直棒状ポリマーであってよい。
【0091】
本明細書の文脈において、アラミドは、アミドフラグメントを介して互いに直接結合している芳香族フラグメントからなる芳香族ポリアミドを指す。アラミドを合成する方法は当業者に知られており、典型的には芳香族ジアミンと芳香族ジアシルハライドとの重縮合を含む。アラミドはメタ型およびパラ型で存在することができ、その両方を本発明において使用することができる。
【0092】
剛直棒状(芳香族)ポリマーとしては、ポリベンズアゾールおよびポリピリダゾールなどのポリアゾールなどが挙げられ、ホモポリマーまたはコポリマーであり得る。適切なポリアゾールは、ポリベンゾアゾール、例えばポリベンゾオキサゾール(PBO)、ポリベンゾチアゾール(PBT)、ポリベンゾイミダゾール(PBI)およびPBO様ポリマー、例としてポリ(p-フェニレン-2,6-ベンゾビスオキサゾール)およびポリヒドロキノン-ジイミダゾピリジンである。ポリベンゾオキサゾールは、必ずしもベンゼン環ではない芳香族基に結合したオキサゾール環を含むポリマーである。PBO様ポリマーは広範囲のポリマーを含み、その各々がポリ(フェニレンベンゾビスオキサゾール)および芳香族基に結合した複数のオキサゾール環の単位を含む。PBIおよびPBTも同様の類似した構造を持つことができる。
【0093】
一実施形態では、ハイブリッド糸は少なくとも2種のマルチフィラメント糸を含み、ここで、1種のマルチフィラメント糸はPEKKでできている。
【0094】
ハイブリッド糸では、少なくとも2種の異なる繊維またはマルチフィラメント糸が組み合わされる。少なくとも2種の異なる繊維またはマルチフィラメント糸は、例えば撚り合わせることによって組み合わせることができる。好ましくは、この組合せは、少なくとも2種の異なる繊維またはマルチフィラメントが混ぜ合わされているハイブリッド糸、例として混繊糸をもたらす。
【0095】
混繊糸は、空気交絡または機械的交絡によって製造することができる。より小さな直径、すなわちより低いフィラメント線密度を有するフィラメントを使用することができる場合、混繊がより効率的である。
【0096】
本発明の繊維、マルチフィラメント糸および(混繊)ハイブリッド糸は、複合材料をはじめとする様々な用途に使用することができる。
【0097】
特に混繊ハイブリッド糸、例として混繊PEKK-炭素またはPEKK-アラミド糸は、複合材料、すなわち繊維強化プラスチック材料に非常に適している。複合材料は、航空宇宙産業、自動車産業、石油およびガス産業において、または一般工業用途、例えば繊維強化材料として土木または建築用途に使用することができる。(混繊)ハイブリッド糸を所望の形状に配置してプリフォームをもたらすことができる。あるいは(混繊)ハイブリッド糸は、二次元または三次元であり得る布地に組まれ、織られ、または編まれてもよい。
【0098】
複合材料は、ハイブリッド糸のPEKK繊維を溶融し、かつ複合材料を凝固させるために熱および圧力を印加することによって製造される。凝固後、PEKK以外の繊維は複合材料の強化繊維として残る一方で、PEKKは複合材料のマトリックス(の一部)を形成する。混繊糸はさらに、複合付加製造装置に供給するためにも使用することができる。
【0099】
本発明を、添付の図面を参照してより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0100】
図1】本発明によるPEKK繊維のXRDパターンを示す図。左側:サンプル1、中央:サンプル1~3、右側:サンプル1~9
図2】溶融紡糸法を用いて得られたPEKK繊維の顕微鏡写真を示す図。
【0101】
本発明を以下の実施例においてより詳細に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。
【0102】
実施例
本発明の方法を用いて調製されたPEKK繊維
a)
繊維を、ISO 113に従って5kgの荷重下で380℃にて22cm/10minのメルトボリュームインデックス、T=166℃、T=363℃、T/I比=80/20を有するPEKKポリマー(Arkema Franceにより販売されているKepstan 8001)を含む紡糸ドープから紡糸した。
【0103】
PEKKポリマーは、80℃の温度および300rpmの速度で99.8重量%の硫酸と一緒に20w/w%のポリマー濃度になるようにTheysohn 20mm二軸スクリュー押出機中で混合して紡糸ドープを得た。
【0104】
紡糸ドープは、それを90℃でフィルターおよび紡糸口金を通して、エアギャップを通して、凝固浴中に(表1に示される条件下で)通過させることによってフィラメントに加工した。凝固浴は水を含み、25℃の温度を有していた。
【0105】
【表1】
【0106】
凝固後に得られたフィラメントを、続いてそれらを水、0.2%NaOH、そして再び水の浴に通すことによって洗浄および中和した。糸を湿潤状態で巻き取り、オフラインで洗浄し、そして周囲条件下にボビン上で乾燥させた。
【0107】
乾燥後に得られたフィラメントの特性(「未延伸(as-spun)」とも示される)を測定した。
【0108】
機械的特性は、サンプルをASTM D1776「Practice for conditioning and testing textiles」に準拠して20℃および相対湿度65%で14時間コンディショニングした後に、ASTM D3822-07「Standard test methods for tensile properties of single textile fibers」(20mmゲージ長、10試験片)に従って測定した。
【0109】
1本の未延伸糸と2本の熱処理糸の相対的結晶化度はXRD測定によって測定し、グラファイト単色CuKα線および0.5mmコリメータを用いて、Histar領域検出器を備えたP4回折計を用いて行った。
【0110】
サンプル-検出器間の距離は7.7cmである(コランダムを使用して校正)。得られたデータは、標準的なGADSS手順に従って、検出器の不均一性、空間的歪みおよび空気の散乱について補正した。
【0111】
サンプルは、平行フィラメントの束として回折計の測定位置に取り付けた。
【0112】
結晶化度の測定は、BrukerのGADDS V 4.1.36で利用可能な外部結晶化度法を用いて行った。
【0113】
結晶化度の測定に使用したパラメータ:
・バックグラウンド領域:2θ範囲11~27°、χ範囲133~227°;
・結晶領域:2θ範囲11~28°、χ範囲79~101°。
【0114】
フィラメント特性を表2に示す。
【0115】
【表2】
LD:線密度、BT:破断靭性、EAB:破断点伸び、TEB:破断引張エネルギー
【0116】
サンプル1の繊維を、温度および延伸比に関して異なる条件で、オーブン中N雰囲気中で一段階熱処理にかけ、後者の延伸比は糸の出入り速度を変えることによって実現した。
【0117】
処理条件および熱処理後のフィラメントの特性を表3に示す。
【0118】
【表3】
温度:加熱工程の間に使用した温度、DR:示される延伸比をもたらすために加熱工程の間に印加した張力、LD:線密度、BT:破断靭性、EAB:破断点伸び、TEB:破断引張エネルギー、n.d.:未測定
【0119】
図1の左側の画像はサンプル1のXRDパターンを示し、中央の画像はサンプル1~3の画像を示し、右側の画像はサンプル1~9の画像を示す。XRDパターンから結論づけることができるように、熱処理温度の増加と共に、非晶質材料の一部は3D結晶秩序を示すよく発達した結晶構造に結晶化し、同時に結晶子サイズは増加する。
【0120】
本発明について記載したように結晶化度を測定する方法は、相対的結晶化度をもたらす。絶対的結晶化度が測定されれば、未延伸PEKK糸(サンプル1)は、はるかに低い結晶化度を有するであろう。これは、図1のサンプル1のXRDパターンを調べることによって結論づけることができるように、非晶質散乱が配向を示すという観察によって説明することができる。
【0121】
b)
繊維を、ISO 113に従って380℃/1kgで5.4cm/10minのメルトボリュームインデックス、T=158℃、T=333℃、T/I比=70/30を有するPEKKポリマー(Arkema Franceにより販売されているKepstan 7002 PF)を含む紡糸ドープからサンプル1~3と同様に紡糸した。
【0122】
PEKKポリマーは、50℃の温度および300rpmの速度で99.8重量%の硫酸と一緒に20wt/wt%のポリマー濃度になるようにTheysohn 20mm二軸スクリュー押出機中で混合して紡糸ドープを得た。
【0123】
紡糸ドープは、それを50℃でフィルターおよび65℃で紡糸口金を通して(紡糸口金開口部の数と直径は下記に示している)、エアギャップを通して、凝固浴中に通過させることによってフィラメントに加工した。凝固浴は水を含んでいた。
【0124】
【表4】
【0125】
凝固後に得られたフィラメントを水でオンライン洗浄した。サンプル4および5の糸を0.25重量%のNaOHで中和した。全てのサンプルを水でもう一度洗浄した。糸をオンラインで乾燥し、150℃で5秒間(サンプル4および5)または7秒間(サンプル6)熱処理し、そしてボビンに巻き取った。
【0126】
乾燥および加熱後の糸の機械的特性は、サンプルをASTM D1776「Practice for conditioning and testing textiles」に準拠して20℃および相対湿度65%で14時間コンディショニングした後に、ASTM D3822-07「Standard test methods for tensile properties of single textile fibers」(20mmゲージ長、10試験片)に従って測定した。繊維の硫黄含有量は(上記の通り)XRFによって測定した。
【0127】
【表5】
LD:線密度、BT:破断靭性、EAB:破断点伸び、TEB:破断引張エネルギー
【0128】
全てのサンプルのフィラメントは丸い形をしている(糸の断面の顕微鏡検査により測定した)。特にサンプル6のフィラメントは一様に丸い形をしている。
【0129】
PEKK繊維の評価
溶融物中のPEKKの安定性は、レオロジー測定を使用して上記で説明したように製造されたPEKK繊維について評価した。
【0130】
PEKK繊維を、上記b)に記載した方法に従って得て、次いで平行平板形状のPHYSICA MCR302-CTD450型レオメーターを使用して(直径25mmのプレートを用いて1Hzで)それらの粘度を測定する前に、窒素フラッシュ下で380℃にて30分間溶融保持した。特に、繊維サンプル5(中和および洗浄)ならびにサンプル6と同様の繊維サンプル(サンプル8と呼ばれる;中和なし、水での洗浄のみ)を試験した。参考として(サンプル7)、繊維を製造するために使用したPEKKポリマーの粘度を、ポリマーを溶融し、それを窒素下で380℃にて30分間保持した後、同様に測定した。
【0131】
粘度の変動率は、30分の熱処理に供した、繊維を製造するために使用したPEKKの溶融粘度の百分率として表される。このプロトコルによる、厳しい条件で溶融物中の繊維の熱安定性を評価することが可能になる。
【0132】
結果を下記の表6に示す。
【0133】
【表6】
【0134】
上記の結果は、中和されずに水で洗浄されただけの繊維が、中和され洗浄された繊維と比較して溶融物中で実質的により安定であることを示している。したがって、(中和されずに)水で洗浄されただけの繊維は、熱安定性の観点からより厳しい要件を伴う用途に使用することができる。
【0135】
これらの結果は、中和および/または洗浄溶液の組成が、例えば混繊用途などの用途に使用される溶融物中で十分に安定な繊維を得るための重要な要素であることを示している。
【0136】
比較例
溶融紡糸を用いて得られたPEKK繊維
サンプル1で使用したPEKKポリマーを、DSMマイクロコンパウンダーおよびDSM繊維コンディショニングユニットを使用して400℃で溶融紡糸した。
【0137】
図2から明らかなように、溶融紡糸によって得られた繊維は、いくつかの欠陥を有する不均一な表面を有する。この理論に拘束されることを望むものではないが、現在のところ、これらの欠陥は、熱劣化およびそれに続く架橋の後にポリマーがゲルを形成した領域に対応すると考えられている。
【0138】
得られた繊維の平均繊維径は140μmであった。
図1
図2