(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-25
(45)【発行日】2022-03-07
(54)【発明の名称】前立腺癌の処置のためのシロリムスの腫瘍内投与
(51)【国際特許分類】
A61K 31/436 20060101AFI20220228BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20220228BHJP
A61K 47/10 20060101ALI20220228BHJP
A61P 13/08 20060101ALI20220228BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220228BHJP
【FI】
A61K31/436
A61K9/08
A61K47/10
A61P13/08
A61P35/00
(21)【出願番号】P 2019534904
(86)(22)【出願日】2017-12-29
(86)【国際出願番号】 JP2017047408
(87)【国際公開番号】W WO2018128173
(87)【国際公開日】2018-07-12
【審査請求日】2020-11-09
(32)【優先日】2017-01-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】000177634
【氏名又は名称】参天製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】クンドゥ アイシュワリヤ
(72)【発明者】
【氏名】エスクデロ セシル
(72)【発明者】
【氏名】ムドゥンバ スリーニバス
【審査官】梅田 隆志
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2007/092620(WO,A2)
【文献】ARMSTRONG, A.J., et al.,Clinical Cancer Research,2010年,Vol.16, No.11,pp.3057-3066.
【文献】AMATAO, R.J., et al.,Clinical Genitourinary Cancer,2008年,Vol.6, No.2,pp.97-102.
【文献】MORIKAWA, Y. et al.,Biochemical and Biophysical Research Communications,2012年,Vol.419, No.3,pp.584-589.
【文献】IMRALI, A., et al.,American Journal of Cancer Research,2016年,Vol.6, No.8,pp.1772-1784.
【文献】FAGONE, P. et al.,Basic & Clinical Pharmacology & Toxicology,2013年,Vol.112, No.1,pp.63-69.
【文献】GOLDBERG, E.P., et al.,Journal of Pharmacy and Pharmacology,2002年,Vol.54, No.2,pp.159-180.
【文献】SHIKANOV, S., et al.,Journal of Pharmaceutical Sciences,2009年,Vol.98, No.3,pp.1005-1014.
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/436
A61K 9/08
A61K 47/10
A61P 13/08
A61P 35/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
5mg/ml~500mg/mlのシロリムスを含む、哺乳動物の対象における前立腺癌を処置するための液体製剤であって、前記対象の前立腺に局所的に投与され
、ポリエチレングリコール(PEG)およびエタノールを含むことを特徴とする液体製剤。
【請求項2】
シロリムスの投与が、処置前の前立腺癌の体積と比較して、前立腺癌の体積の減少をもたらす、請求項1に記載の液体製剤。
【請求項3】
腫瘍内注射されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の液体製剤。
【請求項4】
前記対象の血液中の前立腺血清抗原(PSA)レベルが、シロリムスの投与の前において4ng/ml~10mg/mlである、請求項1~3のいずれか1項に記載の液体製剤。
【請求項5】
シロリムスの投与の前に前立腺癌の生検が行われることを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の液体製剤。
【請求項6】
前記前立腺癌の細胞がmTORを発現する及び/又は前記前立腺癌がホルモン不応性前立腺癌である、請求項1~5のいずれか1項に記載の液体製剤。
【請求項7】
前記前立腺癌が5~10のグリーソンスコアを有する、請求項1~6のいずれか1項に記載の液体製剤。
【請求項8】
前記前立腺癌が、限局期の癌、局所期の癌又は遠隔転移期の癌である、請求項1~7のいずれか1項に記載の液体製剤。
【請求項9】
シロリムスの投与が、前立腺癌に対する放射線療法、アンドロゲン除去療法、及び/又は化学療法に加えて行われる、請求項1~8のいずれか1項に記載の液体製剤。
【請求項10】
シロリムスの投与が、(i)放射線療法若しくはアンドロゲン除去療法後、又は(ii)ドセタキセルを含む化学療法レジメンの後に前立腺癌が再発した後に開始される、請求項1~9のいずれか1項に記載の液体製剤。
【請求項11】
週1回または週2回の頻度で繰り返し投与されることを特徴とする、請求項1~10のいずれか1項に記載の液体製剤。
【請求項12】
1年あたり2~52週間繰り返し投与されることを特徴とする、請求項11に記載の液体製剤。
【請求項13】
10mg/ml~25mg/mlのシロリムスを含む、請求項1~12のいずれか1項に記載の液体製剤。
【請求項14】
0.5重量%~35重量%のシロリムスを含む、請求項1~13のいずれか1項に記載の液体製剤。
【請求項15】
2.0%(w/w)のシロリムス、94%(w/w)のポリエチレングリコール400、4%(w/w)のエタノールを含む、請求項1~
14のいずれか1項に記載の液体製剤。
【請求項16】
前記哺乳動物の対象がヒトである、請求項1~
15のいずれか1項に記載の液体製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
〔関連出願の相互参照〕
本出願は、2017年1月6日に出願された米国仮出願第62/443,599号の利益を主張し、参照によりその全文が本明細書に援用される。
【0002】
〔技術分野〕
本開示は、効果的な量のシロリムスを、それを必要とする対象の前立腺に局所的に投与することによって、前立腺癌を処置する方法に関する。特に、本開示はシロリムスを含む液体製剤の腫瘍内注射によって前立腺癌を処置する方法を提供し、ここで、投与されるシロリムスの量は、移植拒絶反応を防ぐために使用される投薬量を十分に超える。
【背景技術】
【0003】
前立腺癌の大部分は、前立腺の腺癌である。National Cancer Instituteによると、前立腺癌診断時の年齢中央値は66歳であり、2016年には18万人を超える男性が診断されると予測されている。限局性または局所性の疾患の男性では5年生存率は非常に高いが、転移性前立腺癌の男性では生存率は30%未満に低下する。現在、前立腺癌は、米国人男性における癌による死亡の第2の主要な原因である。
【0004】
多くの前立腺癌は、日常的な検査の間に見出される。処置の選択肢は、診断時の癌の病期、患者の年齢、併存疾患の有無によって異なる。前立腺の外科的除去(前立腺切除術)は、癌が転移していない場合に前立腺癌を治癒するために一般に行われる。しかし、不完全な腫瘍除去および結果として生じる再発など、大手術に関連する重大なリスクが存在する。さらに、尿失禁のような前立腺手術の副作用は、衰弱させることがある。他の処置の選択肢には、放射線、凍結療法、ホルモン療法および化学療法が挙げられる。いずれも理想的ではなく、長期にわたると、患者の癌はホルモン療法に対して不応性になり、標準的な化学療法剤に対して抵抗性になることがある。
【0005】
したがって、単独または標準治療の補助として、追加の局所処置の選択肢が必要である。
【発明の概要】
【0006】
本開示は、哺乳動物の対象(例えば、ヒト男性)における前立腺癌を処置する方法であって、前立腺癌を処置するために効果的な量のシロリムスを含む液体製剤を前記対象の前立腺に局所的に投与する工程を含み、前記液体製剤は、約5mg/ml~約500mg/mlのシロリムスを含む方法を提供する。いくつかの実施形態において、前記液体製剤は、約5mg/ml~約50mg/mlのシロリムスを含む。いくつかの実施形態において、シロリムスの投与は、処置前の前立腺癌の体積と比較して、前立腺癌の体積の減少をもたらす。いくつかの実施形態において、シロリムスの投与は、処置を行わない場合に予想される前立腺癌の成長と比較して、前立腺癌の成長を阻害する。いくつかの実施形態において、局所的に投与する工程は、液体製剤の腫瘍内注射を含む。いくつかの実施形態において、前記対象の血液中の前立腺血清抗原(PSA)レベルは、シロリムスの投与の前において4ng/ml未満である。他の実施形態において、前記対象の血液中の前立腺血清抗原(PSA)レベルは、シロリムスの投与の前において4ng/ml以上である。これらの実施形態のサブセットにおいて、前記対象の血液中のPSAレベルは、4ng/ml~10mg/mlである。あるいは、前記対象の血液中のPSAレベルは、10mg/mlを超える。いくつかの好ましい実施形態において、シロリムスの投与は、シロリムスの投与の前のPSAレベルと比較して、被験体の血液中のPSAレベルの減少をもたらす。いくつかの実施形態において、前記前立腺癌は、シロリムスの投与の前に前記対象の直腸指診によって検出可能である。いくつかの実施形態において、前記対象は前立腺全摘出術の候補ではないが、他の実施形態において、前記対象は前立腺全摘出術の候補である。本開示は、シロリムスの投与の前に前立腺癌の生検を行う工程をさらに含む方法を提供する。いくつかの実施形態において、前記前立腺癌の細胞はmTORを発現する。いくつかの実施形態において、前記前立腺癌の細胞はアンドロゲン受容体を発現する。別の実施形態において、前記前立腺癌の細胞はアンドロゲン受容体を発現しない。いくつかの実施形態において、前記前立腺癌は5~7のグリーソンスコアを有する。他の実施形態において、前記前立腺癌は8~10のグリーソンスコアを有する。いくつかの実施形態において、前記前立腺癌は限局期または局所期の癌である。他の実施形態において、前記前立腺癌は遠隔転移期の癌である。いくつかの実施形態において、シロリムスの投与は、前立腺癌に対する放射線療法に加えて行われる。いくつかの実施形態において、シロリムスの投与は、放射線療法後に前立腺癌が再発した後に開始される。いくつかの実施形態において、シロリムスの投与は、前立腺癌に対するアンドロゲン除去療法に加えて行われる。いくつかの実施形態において、シロリムスの投与は、アンドロゲン除去療法後に前立腺癌が再発した後に開始される。いくつかの実施形態において、前記前立腺癌は、ホルモン不応性前立腺癌である。いくつかの実施形態において、シロリムスの投与は、前立腺癌に対する化学療法に加えて行われる。これらの実施形態のサブセットにおいて、化学療法薬は、ドセタキセル、カバジタキセル、ミトキサントロン、エストラムスチン、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される。いくつかの実施形態において、シロリムスの投与は、ドセタキセルを含む化学療法レジメンの後に前立腺癌が戻った後に開始される。いくつかの実施形態において、液体製剤は、週1回または週2回の頻度で繰り返し投与される。特に、液体製剤は、1年あたり2~52週間繰り返し投与され得る。
【0007】
哺乳動物の対象(例えば、ヒト男性)における前立腺癌を、当該対象の前立腺への局所投与によって処置するための液体製剤は、約5mg/ml~約500mg/mlのシロリムス、または約5mg/ml~約50mg/mlのシロリムス、または約10mg/ml~約25mg/mlのシロリムスを含む。この段落の液体製剤は、前段落の方法に関連して使用するのに適している。いくつかの実施形態において、液体製剤は、約1重量%~約35重量%のシロリムスを含む。いくつかの実施形態において、液体製剤は、0.5重量%~8.0重量%のシロリムスを含む。いくつかの好ましい実施形態において、液体製剤は、1.0重量%~4.0重量%のシロリムスを含む。いくつかの好ましい実施形態において、シロリムスの投与は、全身免疫抑制をもたらさない。いくつかの実施形態において、液体製剤は、ポリエチレングリコール(PEG)を含む。いくつかの実施形態において、PEGは、PEG300またはPEG400である。いくつかの実施形態において、液体製剤は、エタノールをさらに含む。いくつかの好ましい実施形態において、液体製剤は、約2.0%(w/w)のシロリムス、約94%(w/w)のポリエチレングリコール400、約4%(w/w)のエタノールを含む。他の実施形態において、液体製剤は、表2-1に記載の製剤である。いくつかの実施形態において、液体製剤はPLAを含む。いくつかの実施形態において、液体製剤はDMSOまたはDMAを含む。いくつかの実施形態において、液体製剤はPLAを含む。いくつかの好ましい実施において、哺乳動物の対象はヒトである。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、BALB/cヌードマウスにおける皮下ヒト前立腺癌異種移植片の処置における被験物質の効力を比較するために実施された、実施例1に記載の研究デザインを示す。
【
図2】
図2は、実施例1に記載の研究における投薬およびデータ収集のスケジュールを示す。
【
図3】
図3Aは、BALB/cヌードマウスにおけるPC-3腫瘍異種移植片のサイズに対する被験物質の効果を示す。
図3Bは、BALB/cヌードマウスにおける22Rv1腫瘍異種移植片のサイズに対する被験物質の効果を示す。
【
図4】
図4Aは、BALB/cヌードマウスにおけるPC-3腫瘍異種移植片の成長に対する被験物質の効果を示す。
図4Bは、BALB/cヌードマウスにおける22Rv1腫瘍異種移植片の成長に対する被験物質の効果を示す。
【
図5】
図5は、腫瘍内送達によって週2回投与された2%シロリムス製剤で処置されたBALB/cヌードマウスにおけるPC-3腫瘍異種移植片の退縮を示す。
【
図6】
図6は、22Rv1腫瘍異種移植片を有するBALB/cヌードマウスにおける血漿前立腺特異的抗原(PSA)レベルを示す。
【
図7】
図7Aは、PC-3腫瘍異種移植細胞のmTORレベルに対する被験物質の効果を示す。
図7Bは、22Rv1腫瘍異種移植細胞のmTORレベルに対する被験物質の効果を示す。
【
図8】
図8Aは、PC-3腫瘍異種移植細胞のリン酸化4E-P1レベルに対する被験物質の効果を示す。
図8Bは、22Rv1腫瘍異種移植細胞のリン酸化4E-BP1レベルに対する被験物質の効果を示す。
【
図9】
図9Aは、PC-3腫瘍異種移植細胞のリン酸化S6K1レベルに対する被験物質の効果を示す。
図9Bは、22Rv1腫瘍異種移植細胞のリン酸化S6K1レベルに対する被験物質の効果を示す。
【
図10】
図10Aは、PC-3腫瘍異種移植細胞におけるKi67発現に対する被験物質の効果を示す。
図10Bは、22Rv1腫瘍異種移植細胞におけるKi67発現に対する被験物質の効果を示す。
【
図11】
図11Aは、PC-3腫瘍異種移植細胞の切断されたカスパーゼ-3のレベルに対する被験物質の効果を示す。
図11Bは、22Rv1腫瘍異種移植細胞の切断されたカスパーゼ-3のレベルに対する被験物質の効果を示す。
【
図12】
図12Aは、PC-3腫瘍異種移植細胞におけるE-カドヘリン発現に対する被験物質の効果を示す。
図12Bは、22Rv1腫瘍異種移植細胞におけるE-カドヘリン発現に対する被験物質の効果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
ラパマイシンの機構的標的(mTOR)は、ホスファチジルイノシトール3-キナーゼ関連キナーゼファミリーのメンバーである。mTORは、細胞の成長、増殖および生存に関与するシグナル伝達経路において重要な役割を果たす、2つの異なるタンパク質複合体の構成要素である。ラパマイシン(シロリムスとしても知られる)は、免疫抑制剤として開発される前に抗真菌剤として最初に同定された。RAPAMUNE(登録商標)(Wyeth Pharmaceuticals Inc., Philadelphia, PAにより市販されている経口投与用シロリムス)は腎移植レシピエントにおける器官拒絶反応を防ぐために、1999年に米国食品医薬品局により承認された。
【0010】
ラパマイシンはまた、ヒト癌細胞株に対して抗癌活性を有することが見出された(Douros and Suffnes, Cancer Treat Rev, 8:63-87, 1981)。続いて、ラパマイシンおよびそのアナログ(ラパログ)は種々の臨床試験において抗癌剤として評価されている(Yuan et al., J Hematol Oncol, 2:45, 2009;およびDufour et al., Cancers, 3:2478-2500, 2011)。経口ラパマイシン製剤の薬物動態プロファイルは、化学療法剤に対して望ましくないと決定された。したがって、いくつかのラパログは、化学療法レジメンにおいてより広範に評価されている。TORISEL(登録商標)(Wyeth Pharmaceuticals Inc., Philadelphia, PAにより市販されている注射用テムシロリムスキット)は、進行腎細胞癌(RCC)を処置するために承認されている。AFINITOR(登録商標)(Novartis Pharmaceuticals Corporation, East Hanover, NJにより市販されている経口投与用エベロリムス)も、スニチニブまたはソラフェニブによる処置の失敗後に進行RCCを処置するために承認されており、いくつかの他の癌に対して単独で、または異なるクラスの化学療法剤と組み合わせて承認されている。
【0011】
抗mTOR抗体を用いた免疫組織化学法により測定したところ、前立腺癌の80%までが中程度から高レベルのmTOR発現を有することが報告された。対照的に、通常の前立腺癌組織は、低レベルのmTOR発現しか有さなかった。この表現型は、mTORが前立腺癌の良好な薬物標的であることを示唆する。ホルモン不応性前立腺癌の男性に経口投与されたラパマイシンの小規模なパイロット研究において、12人の男性のうちの1人のみが放射線学的応答を示した(Amato et al, Clin Genitourin Cancer, 6:97-102, 2008)。今日まで、ラパマイシン、テムシロリムスおよびエベロリムスは、前立腺癌を処置するために承認されていない。
【0012】
本開示の開発の間、シロリムスは経口送達とは対照的に、腫瘍内注射によって投与される場合、はるかに強力な抗癌剤であることが見出された。ヒト前立腺癌の2つの異なるマウスモデルにおける2つの研究の詳細を実施例1に提供する。
【0013】
理論に束縛されるものではないが、全身投与時のシロリムスの組織利用能が低いため、シロリムスの局所投与は有利であると考えられる。実際、シロリムスの経口での生物学的利用能は、Medscapeによればわずか14%である。従って、シロリムスの局所投与はより高い組織利用能のために、シロリムスの全身投与よりも有効であると考えられる。さらに、シロリムスの局所投与は有害な全身作用(例えば、免疫抑制、肝毒性、腎毒性など)を最小限にすると予想される。具体的には、シロリムスの腫瘍内注射が感染に対する感受性の増加をもたらすとは予想されないが、一方、所望の前立腺組織の利用能を達成するためのシロリムスの経口投与の増加は免疫抑制を引き起こす可能性が高い。8~10ng/mLの、血液中のシロリムスのレベルは、腎移植拒絶反応を防ぐための免疫抑制を達成するのに有効である。従って、好ましい実施形態において、前立腺へのシロリムスの局所投与は、8~10ng/mLを下回る血液中のシロリムスのレベルをもたらす。
【0014】
具体的には、本開示は、哺乳動物の対象(例えば、ヒト男性)における前立腺癌を処置する方法であって、前立腺癌を処置するために効果的な量のシロリムスを含む液体製剤を前記対象の前立腺に局所投与する工程を含み、液体製剤は約5mg/ml~約500mg/mlのシロリムス、または約5mg/ml~約50mg/mlのシロリムスを含む方法を提供する。本明細書で「SRL」と呼ばれる例示的な液体製剤は、約2.0%(w/w)のシロリムス、約94%(w/w)のポリエチレングリコール(PEG)400および約4%(w/w)のエタノールを含む溶液である。しかし、本開示は、例示的な液体製剤に限定されない。
【0015】
シロリムスは、本開示の液体製剤中に約5mg/ml~約500mg/ml、または約5mg/ml~約50mg/mlの量で存在する。いくつかの実施形態において、シロリムスは、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24または25mg/mlを超える量(下限)で存在する。いくつかの実施形態において、シロリムスは、500、450、400、350、300、250、200、150、100、50、45、40、35、30、29、28、27、26、25、24、23、22、21、20、19、18、17、16、15、14、13、12、11または10mg/ml未満の量(上限)で存在する。すなわち、シロリムスは、独立して選択される上限と下限との間の範囲の量で存在する。
【0016】
重量パーセントとして表される場合、シロリムスは、本開示の液体製剤中に1%~35%(w/w)または0.5%~8.0%(w/w)の濃度で存在する。いくつかの実施形態において、シロリムスは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10%(w/w)を超える濃度(下限)で存在する。他の実施形態において、シロリムスは、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9または2.0%(w/w)を超える濃度(下限)で存在する。いくつかの実施形態において、シロリムスは、35%、30%、25%、20%、15%、14%、13%、12%、11%または10%(w/w)未満の濃度(上限)で存在する。他の実施形態において、シロリムスは、8.0、7.5、7.0、6.5、6.0、5.5、5.0、4.5、4.0、3.5、3.0または2.5%(w/w)未満の濃度(上限)で存在する。すなわち、シロリムスは、独立して選択される上限と下限との間の範囲の濃度で存在する。
【0017】
約5mg/ml~約500mg/mlのシロリムスまたは約5mg/ml~約50mg/mlのシロリムスの範囲の濃度のシロリムスを含む種々の製剤もまた、本明細書に記載の方法における使用に適している。PEG400およびエタノールの一方または両方に加えて、またはその代わりに、溶媒が、代替の製剤において使用され得る。さらに、液体製剤は、安定性を増大させるために酸化防止剤などの賦形剤を含み得る。さらに、本開示の液体製剤は、溶液に限定されない。いくつかの実施形態において、液体製剤は、懸濁液またはin situゲル形成系である。
【0018】
シロリムスのための適切な溶媒としてはPEG400、プロピレングリコール、グリセリン、トリアセチン、ジアセチン、クエン酸アセチルトリエチル、乳酸エチル、ポリグリコール化カプリルグリセリド、エタノール、N-メチル-2-ピロリドン、ガンマ-ブチロラクトン、ジメチルイソソルビド、トリエチレングリコールジメチルエーテル、エトキシジグリコール、グリセロール、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド(DMA)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ベンジルアルコール、およびこれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない(例えばSimamora et al., Int J Pharmaceutics, 213:25-29, 2001等参照)。水、生理食塩水またはリン酸緩衝生理食塩水も存在し得る。さらなる態様において、液体製剤はポリメタクリレートベースのコポリマー(例えばThakral et al., Expert Opin Drug Deliv, 10:131-149, 2013等参照)およびポリビニルピロリドンの一方または両方を含み得る。生分解性ポリマーも、シロリムスの局所投与のためのビヒクルに含まれ得る。いくつかの態様では、生分解性ポリマーはポリエステル化合物である。適切な生分解性ポリマーとしてはポリ(乳酸)、ポリ(乳酸-グリコール酸)共重合体、ポリカプロラクトン、およびこれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの態様では、液体製剤がDMSO、DMA、DOPC、PLA、トレハロース、ゲランガム、および水からなる群より選択される1つ以上の成分を含む。
【0019】
〔定義〕
本明細書中で使用される場合、用語「アンドロゲン受容体」は、テストステロンまたはジヒドロテストステロン(アンドロゲンホルモン)を結合することによって活性化される受容体を指す。アンドロゲン受容体は、「核受容体サブファミリー3、グループC、メンバー4」および「NR3C4」としても知られている。ヒトアンドロゲン受容体のアミノ酸配列はGenBankアクセッション番号NP_000035(アイソフォーム1)として示され、ヒトアンドロゲン受容体の核酸配列はGenBankアクセッション番号NM_000044(変異体1)として示される。
【0020】
本明細書中で使用される場合、用語「ラパマイシンの機構的標的」および「mTOR」は、種々の細胞プロセスに関与するmTORC1およびmTORC2の触媒サブユニットであるタンパク質キナーゼを指す。mTORはまた、「ラパマイシンの哺乳動物標的」、「FK506結合タンパク質12-ラパマイシン関連タンパク質1」および「FRAP1」としても知られている。ヒトmTORのアミノ酸配列はGenBankアクセッション番号NP_004949として示され、ヒトmTOR mRNAの核酸配列はGenBankアクセッション番号NM_004958として示される。
【0021】
1つ以上のさらなる治療剤と「組み合わせて」または「加えて」の投与は、任意の順序での同時(並行)および連続の投与を含む。
【0022】
本明細書中で使用される場合、用語「処置する」および「処置」は、臨床結果を含む、有益な、または所望の結果を得るためのアプローチを指す。有益な、または所望の臨床結果には、検出可能であろうと検出不可能であろうと、1つ以上の症状の軽減または改善、疾患の程度の減少、疾患の安定化された(すなわち、悪化していない)状態、疾患の拡大の防止、疾患進行の遅延または減速、疾患状態の改善または緩和、および寛解(部分的であろうと完全であろうと)が含まれるが、これらに限定されない。「処置」はまた、処置を受けない場合に予想される寿命よりも寿命を延長することを意味し得る。したがって、本明細書で使用される用語「処置する」および「処置」は、徴候または症状の完全な軽減を必要とせず、治癒を必要とせず、特に個々に対して適度な効果を有するプロトコルを含む。
【0023】
本明細書および添付の特許請求の範囲で使用されるように、単数形「a」、「or」、および「the」は文脈が他に示さない限り、複数の参照を含む。例えば、「賦形剤(an excipient)」は、1つ以上の賦形剤を含む。
【0024】
本明細書で「含む」として説明される態様および実施形態は、「からなる」および/または「実質的に~からなる」態様および実施形態を含むことが理解される。
【0025】
本明細書において値に関して使用される用語「約」は、その値の90%~110%を表す。例えば、約2%(w/w)のシロリムスは1.8%~2.2%(w/w)のシロリムスを記載し、2.0%(w/w)のシロリムスを含む。
【実施例】
【0026】
略語:BIW(週2回);HRPC(ホルモン不応性前立腺癌);ITまたはi.t.(腫瘍内);PEG(ポリエチレングリコール);POまたはp.o.(経口);PSA(前立腺特異的抗原);QD(1日1回);QW(週1回);RAPAMUNE(登録商標)(Wyeth Pharmaceuticals Inc., Philadelphia, PAにより市販されている経口シロリムス溶液);およびSRL(Santen Inc., Emeryville, CAにより市販されている注射用シロリムス溶液)。
【0027】
<実施例1:皮下ヒト前立腺癌異種移植片の処置>
本実施例では、全身(経口)および局所(腫瘍内注射)に投与されたシロリムスの効果を試験するためにBALB/cヌードマウスにおいて実施された2つの研究を記載する。マウスは6~8週齢の雄であり、研究開始時の体重は18~22グラムの範囲であった。異種移植片形成のために、2つの表現型的に異なるヒト前立腺癌細胞株を選択した。PC-3および22Rv1は、ATCC(登録商標)(American Type Culture Collection, Manassas, VA)から入手可能である。研究デザインを
図1に示す。
【0028】
【表1】
PC-3および22Rv1腫瘍細胞を、標準的な細胞培養条件下で、単層培養にて維持した。指数期で増殖する細胞を、腫瘍接種のために回収した。それぞれのマウスに対して、腫瘍発達のためにマトリゲルと混合した0.1mLのPBS(1:1)中の腫瘍細胞(1×10
7)を左右両方の側腹部領域に接種した。左側腹部または右側腹部の平均腫瘍サイズが約100~150mm
3に達したときに処置を開始した。
【0029】
群分けおよび処置の前に、全ての動物の体重を測定し、そして、カリパスを用いて1日おきに腫瘍体積を測定した。腫瘍体積は、任意の所定の処置の有効性に影響を及ぼし得るので、腫瘍体積を数値パラメータとして使用して、選択された動物を特定の群に無作為化した。群分けは、StudyDirectorTMソフトウェア(Studylog Systems, Inc. CA, USA)を用いて行った。
【0030】
乱塊法を用いて4つの試験群のうちの1つに実験動物を割り当てた。第1に、最初の範囲内の左右の腫瘍を有するマウスを選択し、それらの右側の腫瘍体積に応じて均質なブロックに配置した。第2に、各ブロック内で、無作為化様式でマウスを試験群に配置した。乱塊法を用いてマウスを試験群に割り当てることにより、系統誤差が最小限に抑えられた。0日目に群分けした後、即座に処置を開始した。
【0031】
試験される製剤(被験物質)には、RAPAMUNE(登録商標)(Wyeth Pharmaceuticals Inc., Philadelphia, PAにより市販されている経口投与用シロリムス溶液)、SRL(注射用シロリムス溶液)、およびビヒクル(活性成分なし)が挙げられる。RAPAMUNE(登録商標)は、1mg/mlのシロリムスと、不活性成分であるホスファチジルコリン、プロピレングリコール、モノグリセリドおよびジグリセリド、エタノール、大豆脂肪酸、アスコルビルパルミテート、ポリソルベート90およびエタノールを含む。SRLは、22mg/mlのシロリムス、ポリエチレングリコールおよびエタノール(2%シロリムス、4%エタノールおよび94%PEG400)を含む。ビヒクルは、SRLの溶媒(シロリムスを含まないエタノールおよびPEG400)を含む。
【0032】
RAPAMUNE(登録商標)は、使用前に4℃に維持した。負荷用量を調製するために、180μlのRAPAMUNE(登録商標)を2.82mlの滅菌水の添加により希釈し、1日用量を調製するために、60μlのRAPAMUNE(登録商標)を2.94mlの滅菌水の添加により希釈した。SRLおよびビヒクルは、使用前に-20oCで凍結保存した。解凍後、SRLおよびビヒクルをそのまま(希釈せずに)使用した。
【0033】
図2に示すように、4つの試験群があった。各試験群は、以下の5匹のマウスを含んでいた:1)ビヒクル - 0日目に腫瘍内注射により5μl/腫瘍を投与され、その後5μl/腫瘍QW;2)RAPAMUNE(登録商標) - 0日目に30μl/マウス(負荷用量)を経口投与され、その後10μl/マウスQD(1日用量または試験用量);3)SRL週1回 - 0日目に腫瘍内注射により5μl/腫瘍を投与され、その後5μl/腫瘍QW;および4)SRL週2回 - 0日目に腫瘍内注射により5μl/腫瘍を投与され、その後5μl/腫瘍BIW。RAPAMUNE(登録商標)の投与レジメンにより、ラパマイシン1.8μgを負荷用量として経口投与し、その後、ラパマイシン0.2μgを1日用量として各マウスに経口投与した。SRL投与レジメンでは、各マウスへの負荷用量と週1回または週2回のいずれかの用量との両方として、右側および左側の腫瘍へ腫瘍あたりラパマイシン110μgの用量を投与した。
【0034】
腫瘍細胞を接種した後、マウスの罹病率および死亡率を毎日チェックした。体重および腫瘍体積を週2回測定した。血中PSAレベルを0、12および22日目に測定した。
【0035】
腫瘍体積を、カリパスを用いて二次元で測定し、体積を、式:V=0.5a×b
2を用いて立方ミリメートル(mm
3)で表した。ここで、aおよびbは、それぞれ、腫瘍の長径および短径であった。腫瘍重量を研究終了時に測定した。研究は、各群の平均腫瘍量(左+右)が2000mm
3に達した時点で、または最終投与から1週間後(27日目)に終了した。
図3A~Bに示すように、週1回または週2回の頻度でのSRLの腫瘍内投与は、毎日のRAPAMUNE(登録商標)の経口投与で観察されたよりもはるかにPC-3および22Rv1異種移植片の成長を遅延させた。重要なことに、週2回の頻度でのSRLの腫瘍内投与は、PC-3異種移植片の体積の減少さえももたらした(
図5)。
【0036】
処置レジメンの有効性の指標である腫瘍増殖阻害(TGI)を、以下の式を用いて決定した:
TGI(%)=100×(1-TRTV/CRTV)
ここで、TRTVおよびCRTVは、それぞれ、所定の日における処置群およびコントロール群の平均相対腫瘍体積である。
【0037】
RTV(相対腫瘍体積)を、以下の式を用いて計算した:
RTV=V
t/V
0
ここで、V
t=研究の所定の日における薬物処置群の腫瘍体積、およびV
0=投薬の最初の日(0日)における薬物処置群の腫瘍体積である。
図4A~Bに示されるように、週1回または週2回の頻度でのSRLの腫瘍内投与は、毎日ベースでのRAPAMUNE(登録商標)の経口投与で観察されたよりも、PC-3および22Rv1異種移植片の成長において、より大きな阻害をもたらした。
【0038】
22Rv1異種移植片を有するマウスへのシロリムスの投与は、PSAレベルの減少をもたらした。PSAレベルの減少は、毎日ベースでRAPAMUNE(登録商標)を受けたマウスと比較して、腫瘍内投与により週1回または週2回の頻度でSRLを受けたマウスでより迅速に起こった(
図6)。
【0039】
結論として、局所投与されたSRLは、ヌードマウスにおけるPC3および22RV1異種移植ヒト前立腺癌において腫瘍体積を減少させた。腫瘍体積の減少は、同じモデルにおいて経口投与されたRAPAMUNE(登録商標)で達成されたものより有意に大きかった。さらに、局所投与されたSRLは、22RV1異種移植マウスにおける血中PSAレベルを有意に低下させ、PC3腫瘍の退縮を引き起こした。
【0040】
その後、残存腫瘍の表現型を免疫組織化学法によって評価した。具体的には、3群のマウス(ビヒクル送達QW IT、RAPAMUNE(登録商標)送達QD PO、および2%SRL送達BIW IT)からの腫瘍を、研究の終わりに屠殺した際に回収し、液体窒素中で凍結した。凍結した腫瘍を切片化し、発色団または酵素に結合した抗体で染色して、標準的な染色プロトコルによる抗体結合の可視化を可能にした。染色(褐色)は非特異的バックグラウンドノイズを除外するために、核(青色)を含む細胞において評価した。種々の群間の差異の統計分析を、対応のないt検定を用いて行った。すべての群のP値をビヒクル群に対して計算し、p値<0.05の差を統計学的に有意とみなした:* p<0.05、** p<0.01、*** p<0.001。
【0041】
予想されるように、ラパマイシンはmTORのキナーゼ活性を阻害するが、その分解を引き起こさないので、腫瘍細胞内のmTORタンパク質のレベルはRAPAMUNE(登録商標)および2%SRLでの処置によって変化しないままであった(
図7A~B)。対照的に、mTORのリン酸化された下流の標的のレベルは、ラパマイシン処置群の腫瘍において減少した。特に、リン酸化真核生物翻訳開始因子4E結合タンパク質1(p-4E-BP1)のレベルは、RAPAMUNE(登録商標)処置マウスおよびビヒクル処置マウス由来の腫瘍よりも、2%SRL処置マウス由来の腫瘍においてかなり低かった(
図8A~B)。リン酸化リボソームタンパク質S6キナーゼβ-1(p-S6K1)のレベルもまた、RAPAMUNE(登録商標)処置マウスおよびビヒクル処置マウス由来の腫瘍よりも、2%SRL処置マウス由来の腫瘍において低かった(
図9A~B)。興味深いことに、2%SRL処置の効果は、アンドロゲン受容体陽性腫瘍(22RV1)を有するマウスよりも、アンドロゲン受容体陰性腫瘍(PC-3)を有するマウスにおいてより顕著であった。
【0042】
さらに、腫瘍細胞機能の分子マーカーに対するラパマイシンの影響を評価した。腫瘍細胞の増殖を評価するために、Ki-67のレベルを測定した。Ki-67は増殖細胞(G
1、S、G
2、および有糸分裂)の間で普遍的に発現されるが、静止細胞(G
0)には存在しない核タンパク質である。Ki-67のレベルは、RAPAMUNE(登録商標)処置マウスおよびビヒクル処置マウス由来の腫瘍よりも、2%SRL処置マウス由来の腫瘍において低かった(
図10A~B)。Ki-67発現に対する2%SRL処置の効果は、アンドロゲン受容体陽性腫瘍(22RV1)よりもアンドロゲン受容体陰性腫瘍(PC-3)においてより顕著であったことに注目することは興味深い。
【0043】
腫瘍細胞のアポトーシスを評価するために、切断されたカスパーゼ-3(CASP3)のレベルを測定した。CASP3は、システイン-アスパラギン酸プロテアーゼファミリーのメンバーである。CASP3は、イニシエーターカスパーゼによる切断の際にアポトーシス細胞において活性化されるチモーゲンである。切断されたCASP3のレベルは、RAPAMUNE(登録商標)処置マウスおよびビヒクル処置マウス由来の腫瘍よりも、2%SRL処置マウス由来の腫瘍において高かった(
図11A~B)。
【0044】
腫瘍細胞の転移を評価するために、上皮カドヘリン(E-カドヘリン)のレベルを測定した。E-カドヘリンは、カルシウム依存性の細胞-細胞接着糖タンパク質である。E-カドヘリンの下方制御は、細胞運動性および転移の増加に関連する、組織における細胞接着を減少させる。E-カドヘリンのレベルは、RAPAMUNE(登録商標)処置マウスおよびビヒクル処置マウス由来の腫瘍よりも、2%SRL処置マウス由来の腫瘍において高かった(
図12A~B)。E-カドヘリン発現に対する2%SRL処置の効果は、高い転移能を有するグレードIV後期ホルモン不応性細胞株であるPC-3において顕著であった。これは、2%SRLでの処置がE-カドヘリン発現を増加させることによって、損傷した細胞構造を再確立できたことを示す。はるかに低い転移能を有し、それゆえにより無傷の細胞構造を有する22Rv1細胞株では、このような効果は観察されなかった。
【0045】
結論としては、SRLの局所投与の結果として、腫瘍の細胞において下流のmTORシグナル伝達のレベルの減少が観察された。下流のmTORシグナル伝達の減少は、細胞増殖の減少、アポトーシスの増加、および転移の減少を示す分子マーカーのレベルと関連していた。下流のmTORシグナル伝達および腫瘍細胞機能の有益な減少は、同じモデルにおいて経口投与されたRAPAMUNE(登録商標)で達成されたものより有意に大きかった。
【0046】
<実施例2:シロリムス製剤>
本実施例では、固形腫瘍への局所投与(腫瘍内注射)のための追加のシロリムス製剤を記載する。表2-1の製剤中のポリ乳酸(PLA)は、Evonik Industries AG (Darmstadt, Germany)によってRESOMER(登録商標)R202Hとして市販されているポリ(D,L-ラクチド)である。
【表2】