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特許7030867癌ワクチン開発のための改変アデノウイルス
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-25
(45)【発行日】2022-03-07
(54)【発明の名称】癌ワクチン開発のための改変アデノウイルス
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/861 20060101AFI20220228BHJP
   C12N 15/34 20060101ALI20220228BHJP
   C07K 14/075 20060101ALI20220228BHJP
【FI】
C12N15/861 Z ZNA
C12N15/34
C07K14/075
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020045322
(22)【出願日】2020-03-16
(62)【分割の表示】P 2016568387の分割
【原出願日】2015-05-18
(65)【公開番号】P2020110165
(43)【公開日】2020-07-27
【審査請求日】2020-04-01
(31)【優先権主張番号】20145449
(32)【優先日】2014-05-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FI
(73)【特許権者】
【識別番号】517199709
【氏名又は名称】バロ セラピューティクス オイ
【氏名又は名称原語表記】VALO THERAPEUTICS OY
【住所又は居所原語表記】Cultivator 1,Viikinkaari 6,00790 Helsinki,Finland
(74)【代理人】
【識別番号】100149294
【弁理士】
【氏名又は名称】内田 直人
(72)【発明者】
【氏名】セルロ,ビンチェンツォ
(72)【発明者】
【氏名】ヴァハ-コスケラ,マルクス
(72)【発明者】
【氏名】ヒルヴィネン,マリ
(72)【発明者】
【氏名】カパッソ,クリスチャン
【審査官】小林 薫
(56)【参考文献】
【文献】欧州特許出願公開第01985708(EP,A1)
【文献】国際公開第2008/131951(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2001/0047081(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0059135(US,A1)
【文献】Cancer Gene Ther., 2011, Vol.18, No.11, pp.825-836
【文献】Lab. Invest., 2013, Vol.93, No.3, pp.268-27
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C12N 1/00- 7/08
C07K 1/00-19/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アデノウイルスのカプシドを改変する方法であって、複数のポリリジン改変ポリペプチドを、共有結合的ないしは非共有結合的にアデノウイルスカプシドに連結することを含み、前記複数のポリペプチドが、同時に主要組織適合性複合体クラスI(MHC-I)特異的又は主要組織適合性複合体クラスII(MHC-II)特異的、腫瘍特異的および樹状細胞特異的であり、又は、同時に主要組織適合性複合体クラスI(MHC-I)特異的又は主要組織適合性複合体クラスII(MHC-II)特異的および腫瘍特異的であり、さらに、改変されたカプシドを含むアデノウイルスベクターが対象においてペプチド特異的な免疫応答を刺激することが可能である方法。
【請求項2】
共有結合的ないしは非共有結合的にアデノウイルスのカプシドに連結することによってアデノウイルスのカプシドを被覆するための、複数のポリリジン改変ポリペプチドの使用であって、ここでアデノウイルスベクターが、対象においてペプチド特異的な免疫応答を刺激することが可能な複数のポリペプチドにより被覆されたカプシドを含み、前記複数のポリペプチドが、同時に主要組織適合性複合体クラスI(MHC-I)特異的又は主要組織適合性複合体クラスII(MHC-II)特異的、腫瘍特異的および樹状細胞特異的であり、又は、同時に主要組織適合性複合体クラスI(MHC-I)特異的又は主要組織適合性複合体クラスII(MHC-II)特異的および腫瘍特異的である、使用。
【請求項3】
前記ポリペプチドが、静電的、ジスルフィドまたはアミド結合連結によってカプシドに結合されているか、または同時送達されて単一のナノ粒子のカプシドに付着されている、請求項1又は2に記載の方法又は使用。
【請求項4】
前記ウイルスカプシド上に付着したポリペプチドは、すべて同じポリペプチドであるか、または2種以上の異なるポリペプチドから選択される異なるペプチドである、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法又は使用。
【請求項5】
前記アデノウイルスベクターの骨格の血清型が、血清型3または5から選択される、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法又は使用。
【請求項6】
前記アデノウイルスベクターが24bp欠失またはE1遺伝子欠失を含むか、または前記ベクターがヘルパー依存性ベクターである、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法又は使用。
【請求項7】
前記アデノウイルスベクターが一または複数の導入遺伝子を含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法又は使用。
【請求項8】
前記アデノウイルスベクターがカプシド修飾を含む、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法又は使用。
【請求項9】
前記アデノウイルスベクターが、Ad5核酸骨格と、Ad3ファイバーノブ、Ad35ファイバーノブ、Ad5/3キメラファイバーノブおよびAd5/35キメラファイバーノブからなる群から選択されるファイバーノブとを含むAd5/3またはAd5/35である、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法又は使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウイルスカプシドが、対象におけるペプチド特異的免疫応答を刺激することができるポリペプチドで被覆されているアデノウイルスベクターおよびその使用に関する。さらに、本発明は、ペプチド特異的免疫応答を引き起こすポリペプチドによって被覆されているアデノウイルスベクターによる疾患、例えば癌を治療する方法に関する。また、本発明は、アデノウイルスベクターを特定のペプチドで被覆する方法、ならびに、アデノウイルスベクターのカプシドを被覆するのに適したペプチドを同定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
癌はより効果的な治療が必要な致命的な病気である。腫瘍崩壊を引き起こす(腫瘍崩壊性)ウイルスは、潜在的に他の標準的な療法よりも安全で効果的であるので、非常に関心が寄せられている。しかしながら、癌患者においては全体の治療効果は軽微であった。治療のための最適なツールを見出すためにアデノウイルスベクターを改変する多くの研究がある。アデノウイルスの機能を調節する一つの態様は、ウイルスの表面を改変することである。アデノウイルスの表面の遺伝的改変および非遺伝的改変の両方がよく知られている。
【0003】
例えば、Stevenson Mら(Cancer Gene Therapy(2007)14、335-345)は、標的部位へのアデノウイルスベクターの送達を強化することに注目している。Stevensonらは、アデノウイルスベクターが転移性腫瘍細胞上で選択的に発現されるインテグリンを介して細胞感染するように標的化している研究を記載している。この目的のために、ラミニン由来ペプチド(-SIKVAV-)をポリマー被覆ウイルスの表面上に組み込んだ。
【0004】
国際公開2013/116778は、癌のための免疫学的に増強されたアデノウイルスを記載している。腫瘍抗原がウイルスの複製サイクル中に発現され、MHC-1に直接提示されるように腫瘍抗原導入遺伝子をそのゲノムに挿入することによってアデノウイルスを改変した。この方法は、すべての異なる腫瘍抗原(例えば、発現させたいすべてのペプチドに対して新しいウイルスをクローニングしなければならない)ごとに新しいウイルスの生成が必要であるため、個人向けの治療には非常に時間がかかり、多くの時間と労力を要し、かつ高価である。
【0005】
実際、治療、特に個人向けの治療のための単純かつ改良されたアデノウイルスツールおよび方法が必要とされている。本発明は、ペプチドの送達系としてウイルスを使用するが、ウイルスの遺伝子操作を伴わず、対象における免疫応答を誘導するためのアデノウイルス用途を提供する。
【0006】
本発明は、患者特異的および疾患特異的なペプチドを送達し、結果として抗カプシド免疫をペプチド特異的免疫応答(例えば、抗腫瘍免疫)に変換するプラットフォームとしての腫瘍崩壊性アデノウイルスの使用に関する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】Stevenson Mら、Cancer Gene Therapy(2007)14、335-345
【特許文献】
【0008】
【文献】国際公開2013/116778
【発明の概要】
【0009】
本発明は、新規かつ強力なカスタマイズ可能な免疫療法(例えば、癌免疫ウイルス療法)プラットフォームを提供する。改変されたウイルス表面を有するアデノウイルスベクター、その使用、およびペプチド特異的(すなわち、抗ペプチド)免疫応答を刺激することによって疾患を治療する方法を提供し、例えば、効率が悪く、時間がかかり、高価でありかつ多くの時間と労力を要するアデノウイルス治療ならびに個人向け医薬に対するアデノウイルス治療の不適合性といった問題を解決することを目的とする。本発明の目的は、装置および方法によって達成されるものであり、それらは独立請求項に記載される事項によって特徴付けられる。本発明の好ましい実施形態は、従属請求項に開示される。
【0010】
本発明により、特異性の欠如といった従来技術の問題点および腫瘍崩壊性アデノウイルスの免疫優位性を克服することができる。
【0011】
アデノウイルス感染によって生じる免疫応答は、主にウイルスに向けられたものであり、腫瘍に対するものではない。さらに、ウイルス免疫の大部分はカプシドのタンパク質に向けられている。本発明はこれらの問題を克服するものである。実際、本発明は、腫瘍タンパク質由来のペプチドでウイルスカプシドを被覆することによりウイルス免疫を腫瘍に転換させるという考えに基づく(図3)。腫瘍崩壊性アデノウイルスカプシド上に搭載された主要組織適合複合体I(MHC-1)拘束ペプチドは、カプシド免疫を抗腫瘍免疫に転換する。
【0012】
単純に、ペプチドおよびウイルスが単一の物理的に連結された実体として投与される場合、危険シグナル(ウイルス)と腫瘍抗原(ペプチド)の両方が、最大の抗腫瘍効果のために同じ抗原提示細胞に入る。臨床経験によると、ペプチドワクチン接種だけでは、腫瘍の増殖を制御できない一過性で最適ではない免疫応答しか導けないことが既に示されている。また、腫瘍崩壊性ウイルスは単独療法として有望であるが、それらが誘発する免疫応答は主に腫瘍に対してではなくウイルスに対して標的化される。たとえペプチドとウイルスが解剖学的に同じ位置に注射されたとしても、それらは単一の治療実体では結合しないので、非効率的に同じ細胞に侵入する。これは、適切かつ最大の免疫活性化を達成するために重要な態様である。単一の治療実体におけるペプチドとアデノウイルスの物理的結合は、既存のウイルスおよびペプチド癌ワクチン技術よりも顕著な改善である。一つの腫瘍関連抗原またはペプチドを発現するように操作された先行技術の組換えウイルスとは対照的に、本発明は以前よりもはるかに迅速かつ費用効果の高い方法で個人向け医薬品を達成することを可能にする。実際、本発明によれば、ウイルスキャプシド上に接着したペプチドは、アデノウイルスベクターによってコードされていない。
【0013】
本発明の一態様は、小型ペプチド(MHC-I拘束)としての腫瘍抗原提示の一定かつ迅速なモニタリングを可能にする技術である。本発明は、疾患(例えば、腫瘍)特異的および患者特異的ペプチドを利用するものであり、これらペプチドは、アデノウイルス療法の前後の腫瘍細胞(すなわち、マスクされていないかまたは治療後に編集されている)および樹状細胞(DC)に同時に提示される。これらの特異的ペプチドを同定した後、それらを合成し、腫瘍崩壊アデノウイルスキャプシド上に搭載して高い抗腫瘍免疫を達成することができる。このようにして、腫瘍がウイルス療法後も細胞傷害性T細胞(CTL)によって効果的に標的化され、免疫系がウイルスを標的とするので免疫逃避が不可能になることを確実にすることが可能である。逆に、腫瘍の存在下または非存在下でウイルス治療後にDC上に出現するペプチドを比較することにより、「ウイルスのみ」ペプチドを排除し、CTL応答を誘導する腫瘍細胞に由来するペプチドを見出すことが可能である。
【0014】
個人向け被覆アデノウイルスは、生検からわずか2週間で得ることができる。これは、MHCならびに自動合成からのペプチドの単離および配列決定が迅速なプロセスであり、コーティングためにウイルス(例えば、すべてのペプチドについて同じバックボーンウイルス)を大量に備蓄することができるため可能となっている。コーティング自体は1時間で行われ、その後コーティングされたアデノウイルスは注射の準備が整う。これは、「個人向けワクチンアプローチ」を不可能にするプロセスを遅らせるウイルスの遺伝子操作を回避するものであるので、本発明者らのシステムの非常にユニークな特徴である。
【0015】
本発明はまた、新規の免疫原性腫瘍特異的ペプチドを発見することを可能にする。
【0016】
癌治療に加えて、本発明の被覆アデノウイルスは、より高いペプチド特異的免疫応答が必要とされる状況において、他の疾患の治療に使用することができる。
【0017】
本発明は、ウイルスカプシド上に付着したポリペプチドを含むアデノウイルスベクターの対象への投与を含む、必要とする対象においてペプチド特異的な免疫応答を刺激する方法に関する。本発明はまた、必要とする対象においてペプチド特異的な免疫応答を刺激する方法であって、ウイルスカプシド上に付着したポリペプチドを含むアデノウイルスベクターの対象への投与を含み、当該ポリペプチドが前記アデノウイルスベクターによって遺伝的にコードされていない方法に関する。
【0018】
本発明はさらに、対象においてペプチド特異的な免疫応答を刺激する際に使用するための、ウイルスカプシド上に付着したポリペプチドを含むアデノウイルスベクターに関する。 本発明はまた、対象においてペプチド特異的な免疫応答を刺激する際に使用するための、ウイルスカプシド上に付着したポリペプチドを含むアデノウイルスベクターであって、当該ポリペプチドが前記アデノウイルスベクターによって遺伝的にコードされていないアデノウイルスベクターに関する。
【0019】
本発明はさらに、必要とする対象における癌の治療方法であって、対象におけるペプチド特異的免疫応答を刺激することが可能であり、ウイルスカプシド上に付着しているポリペプチドを含むアデノウイルスベクターの、対象への投与を含む方法に関する。本発明はまた、必要とする対象における癌の治療方法であって、対象におけるペプチド特異的免疫応答を刺激することが可能であり、ウイルスカプシド上に付着しているポリペプチドを含むアデノウイルスベクターの、対象への投与を含み、当該ポリペプチドが前記アデノウイルスベクターによって遺伝的にコードされていない方法に関する。
【0020】
また、本発明は、対象における癌の治療の際に使用するための、対象におけるペプチド特異的免疫応答を刺激することが可能であり、ウイルスカプシド上に付着しているポリペプチドを含むアデノウイルスベクターに関する。本発明はまた、対象における癌の治療の際に使用するための、対象におけるペプチド特異的免疫応答を刺激することが可能であり、ウイルスカプシド上に付着しているポリペプチドを含むアデノウイルスベクターであって、当該ポリペプチドが前記アデノウイルスベクターによって遺伝的にコードされていないアデノウイルスベクターに関する。
【0021】
さらに、本発明は、ウイルスカプシドがポリペプチドと付着しているアデノウイルスベクターであって、当該ポリペプチドと付着しているアデノウイルスベクターが対象においてペプチド特異的な免疫応答を刺激することが可能である、アデノウイルスベクターに関する。
【0022】
さらに、本発明は、アデノウイルスのカプシドを被覆(コーティング)する方法であって、対象においてペプチド特異的な免疫応答を刺激することが可能であるポリペプチドを、共有結合的ないしは非共有結合的にアデノウイルスカプシドに連結することを含む方法に関する。本発明はまた、アデノウイルスのカプシドを改変する方法であって、ポリリジン改変ポリペプチドを、共有結合的ないしは非共有結合的にアデノウイルスカプシドに連結することを含み、当該改変されたアデノウイルスベクターが対象においてペプチド特異的な免疫応答を刺激することが可能である方法に関する。
【0023】
さらに、本発明は、ポリペプチドをカプシドに共有結合的ないしは非共有結合的に付着ないしは連結させることによってアデノウイルスのカプシドを被覆するための、対象におけるペプチド特異的免疫応答を刺激することが可能であるポリペプチド(例えば、ポリリジン改変ポリペプチド)の使用に関する。
【0024】
本発明のアデノウイルスベクターおよび方法は、抗ウイルス免疫を抗ペプチド免疫に変換するために用いられる。本発明の改変されたウイルスベクターは、対象において抗ペプチド応答を引き起こす。
【0025】
さらに、本発明は、本発明のアデノウイルスベクターを含む医薬組成物に関する。
【0026】
さらに、本発明は、対象由来の腫瘍特異的およびMHC-I特異的ポリペプチドを同定する方法であって、
i)対象の腫瘍細胞にアデノウイルスベクターを感染させる工程、
ii)対象の樹状細胞にアデノウイルスベクターを感染させる工程、
iii)工程i)の腫瘍細胞および工程ii)の樹状細胞からMHC-I分子を単離し、両グループからMHC-I関連ポリペプチドを同定する工程、
iv)感染しなかった腫瘍細胞からMHC-I分子を単離し、MHC-I関連ポリペプチドを同定する工程、
v)工程iii)およびiv)の感染した腫瘍および感染しなかった腫瘍、ならびに工程iii)の樹状細胞によって提示されたポリペプチドを同定する工程、
を含む方法に関する。
【0027】
以下に、添付の図面を参照し、好ましい実施形態を用いて本発明をより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明の模式図を示す。改変アデノウイルスは、腫瘍に対する抗ウイルス免疫応答を転換しながら複製および癌細胞を死滅させることができる。
図2】抗アデノウイルス応答(左棒線)対腫瘍応答(右棒線)の免疫優勢を示す。マウス)B16-OVA腫瘍を持つC57BL/6マウスをPBS(Mock)、Ad5D24(非改変腫瘍崩壊性ウイルス)および(Ad5D24-CpG、免疫原性の高い腫瘍崩壊性ウイルス)で処理した。腫瘍由来のT細胞を回収し、IFNガンマELISPOTを実施して、抗腫瘍応答および抗アデノウイルス応答を評価した。癌患者)IFNガンマELISPOTは、GMCSF武装(armed)腫瘍崩壊性アデノウイルス(Ad5D24-GMCSF)15で処置した患者由来のPBMCに対して行った。ELISPOTの前にAd5由来ペプチド(抗ウィルス)およびスルビビン由来ペプチド(抗腫瘍)を用いてPBMCを刺激した。
図3A】本発明の被覆アデノウイルスが既存の技術と比較して利点を有することを示す。A)腫瘍崩壊性アデノウイルスはAPCを引き起こす能力を有し、ウイルス抗原(抗ウイルス応答をもたらすもの)(図Aの細胞上に提示される別の抗原)だけでなく副作用として抗腫瘍免疫につながる腫瘍抗原(図Aの細胞上に提示される別の抗原)を提示する。抗腫瘍T細胞は、T細胞群の最も低い2つの細胞として表示される。B)本発明の被覆アデノウイルスは、そのキャプシドがMHC-I使用可能な腫瘍特異的抗原(ペプチド)によって覆われているので、腫瘍抗原提示(いずれの抗原も図Bの細胞上に提示される)を好む。このようにして、抗カプシド免疫は抗腫瘍免疫に転換されうる。抗腫瘍T細胞は、T細胞群の4つの最も低い細胞として表示される。本明細書中で使用される場合、APCは抗原提示細胞を指し、TAAは腫瘍関連抗原を指し、「PRR活性化」はパターン認識受容体活性化を指す。PRRは、例えば微生物病原体に関連する病原体関連分子パターンを同定するための自然免疫系の細胞によって発現されるタンパク質である。
図3B】同上。
図4】腫瘍崩壊性アデノウイルスに曝露された樹状細胞の、上方制御されたバイオ機能ネットワークを示す。ヒト初代樹状細胞を採取し、IL4およびGMCSFとともに2週間培養した。細胞を10VP/細胞で腫瘍崩壊性アデノウイルス(Ad5D24)にてパルスした。72時間後、総RNAを収集し、Agilent SurePrint G3ヒト8×60k(mRNA)にて分析した。次いで、Ingenuity Pathwayソフトウェアを用いてデータを分析した。
図5】新規の免疫原性腫瘍関連MHCI拘束ペプチドの発見を表す概略図を示す。異なる条件により、腫瘍が発現しているペプチドを、樹状細胞が提示しているのと同じ腫瘍のペプチドと一致させることが可能になる。これは、免疫原性ペプチドの同定を容易にするためのシステムにおける重要な特徴である。A)樹状細胞に腫瘍崩壊物(tumor oncolysate)をパルスして腫瘍抗原を提示させた。B)パルスのない樹状細胞を成熟させ、分析した。これは、DCによって提示された自己ペプチドを後に除去するためのコントロールとしての役割を果たす。C)感染した腫瘍細胞株(条件Aと同じ)を腫瘍崩壊性アデノウイルスに感染させ、完全溶解前(48時間未満)に分析した。この条件は、アデノウイルスが提示された腫瘍抗原の質に重大な影響を及ぼすか否かを区別するのに役立つ。D)これは、MHCI上に腫瘍抗原と自己ペプチド(もちろんこれら2つは同じでありうる)を提示する非感染腫瘍である。
図6】OVA特異的被覆ウイルスの概略図を示す。A)この場合、ニワトリオボアルブミン(OVA)のプロセシングされたペプチドをすべてわかっているので、OVA特異的免疫原性ペプチド(SIINFEKL)(配列番号1)にてウイルスをコーティングした。次いで、コントロールとして使用するために、SIINFDL(配列番号2)(アンタゴニスト)およびFILKSINE(配列番号3)(スクランブル)などの他の被覆ウイルスならびに非被覆ウイルスを作製した。B)概念の実証が証明されたら、異なるペプチドでコーティングされたII世代のアデノウイルスの研究を開始した。(PeptiCRAdは、ペプチドで被覆された腫瘍崩壊性アデノウイルスを指す。)
図7】ペプチド被覆腫瘍崩壊性アデノウイルスを生成するための3つの異なる戦略を表す概略図を示す。
図8】腫瘍崩壊性アデノウイルスと腫瘍特異的ペプチドとの複合体形成および改変エピトープと腫瘍崩壊性アデノウイルスとの間の相互作用を示す。 図8Aは、Ad5D24腫瘍崩壊性アデノウイルスと腫瘍特異的ペプチドとの複合体形成を示す。「Z電位」曲線)1×1010ウイルス粒子を、異なる濃度の正に帯電した腫瘍特異的ペプチドと結合させた。反応後、単一粒子のZ電位を測定した。「サイズ」曲線)1×1010ウイルス粒子を、異なる濃度の正に帯電した腫瘍特異的ペプチドと結合させた。その後、単一粒子のサイズを測定し、ペプチド濃度の関数として報告した。Z電位が-20mVから+20mVのときには、複合体の大きさに劇的な変化があり、高度な多分散性(ウイルス凝集の可能性が高い)を示すが、この状態は高濃度のペプチドで正常に戻り、複合体(PeptiCRAd)はコーティングが完了し、凝集体の形成を促進する双極子を形成する可能性がない(高い多分散性)。図8Bは、改変MHC-IエピトープSIINFEKLと腫瘍崩壊性アデノウイルスとの間の相互作用を示す。ウイルス/ペプチド相互作用はSPRによって測定した。APTESシリカSiOセンサーをAd5D24でコーティングし、濃度(0.15、0.3、1.6、2.2、2.4および7.2μM)の異なるSIINFEKL(点線)またはpolyK-SIINFEKL(実線)を流動系に注入した。SPRシグナル応答は、実験の持続時間に関連して示す。
図9】本発明の被覆アデノウイルスAd5D24(PeptiCRAd)が、被覆されていない腫瘍崩壊性ウイルスに比して増強された細胞死滅活性を示すことを示す。代表的な細胞生存率アッセイ(MTSアッセイ)を肺癌腺癌細胞株(A549)に対して行った。0日目に細胞を播種し、1日目に示された感染効率で感染させ、試験を停止し、3日目に分析した。
図10A】OVA特異的アデノウイルスがOVA特異的免疫を増強することを示す。皮下にB16-OVA腫瘍を有するマウスに、PBS、腫瘍崩壊性ウイルス(Ad5D24)、腫瘍崩壊性ウイルス+SIINFEKLペプチド(複合体化していないもの)、腫瘍崩壊性ウイルス+SIINFEKL(単体として複合体化したもの、PeptiCRAd)を腫瘍内に注射した。A)腫瘍増殖を測定し、示した時点で記録した。B)SIINFEKL特異的免疫をフローサイトメトリー(五量体分析)によって評価した。
図10B】同上。
図11】ペプチドコーティング技術の整合性を示す。図は、改変されたペプチド(6K-SIINFEKL)で被覆された2つの異なる腫瘍崩壊性アデノウイルスの正味の電荷を示す。この実施例で使用された2つのウイルスは、Ad5D24-CpG(CpGアイランドを豊富に含むように遺伝的に改変された腫瘍崩壊性アデノウイルス)およびインビトロおよびインビボでの画像法を容易にするための赤色蛍光タンパク質をコードする腫瘍崩壊性アデノウイルスであるAd5D24-RFPである(RFPは赤色蛍光タンパク質を意味する)。
図12】PeptiCRAdの正味の電荷とそのサイズとの相関を示す。この例では、ネイキッドなウイルス(正味電荷約-25~30mV)で開始し、複合体が形成されるようにペプチドの濃度を増加させて添加し、その複合体をPeptiCRAdと称した。ペプチドの添加を増やせば増やすほどウイルスの正味電荷も負から正の値へ変化し、最終的に、複合体PeptiCRAdが形成されたとき、ペプチドで被覆されたウイルスの正味電荷は約+30~35mVであった。
図13】ウイルスカプシド上に吸着されたまたは吸着されていないMHC-I上の改変SIINFEKL類似体の交差提示を示す。C57BL/6マウス(H-2Kb)から脾臓を収集し、単一細胞懸濁液を10%FBSを含むRPMI-1640増殖培地で調製した。(A)改変していないSIINFEKL(ポジティブコントロール)、アミノカプロン酸含有SIINFEKL-AHX-polyK(ネガティブコントロール)、C末端伸長SIINFEKL-polyK、またはN末端伸長polyK-SIINFEKL(0.19μg/μl)を含む200μlの培地で、合計2×10の脾細胞をインキュベートした。37℃で2時間インキュベートした後、細胞を洗浄し、SIINFEKLまたはアイソタイプコントロールに結合したAPC抗H-2Kで染色した。(B)(A)と同様に、OVA-PeptiCRAd(100vp/細胞+37.5μgのペプチド)および37.5μgのSIINFEKL(ポジティブコントロール)またはpolyK-SIINFEKLを新鮮なネズミ脾細胞に感染させた。2時間のインキュベーションの後、サンプルを洗浄し、フローサイトメトリーによって分析した。データは平均±SEM(n=2)として示す。ボンフェローニの多重比較検定による一元配置ANOVAを用いて有意性を評価した。P<0.05、**P<0.01、***P<0.001。
図14】PeptiCRAdが、CAR発現の低い細胞株においてインタクトな腫瘍崩壊活性を保持し、増加した感染性を表すことを示す。(A)細胞をウェル当たり1×10細胞の密度で播種し、異なるvp/細胞比(0.1、1、10および100)を用いてOVA-PeptiCRAdまたはネイキッドなAd5D24に感染させた。polyK-SIINFEKLペプチド(点線、丸)をコントロールとして含めた。次いで、細胞生存率をMTSアッセイによって決定した。データは平均±SEM(n=3)として示す。(B)ICCによるウイルス感染の研究。合計2×10細胞/ウェルを24ウェルプレートに播種し、翌日OVA-PeptiCRAdまたはAd5D24(コントロール)のいずれかを含む100μlのウイルス希釈液(10vp/細胞)を感染させた。インキュベーションの2日後、抗ヘキソンICCを行い、5つの重複しない画像をデジタル顕微鏡を用いて撮像した。視野当たりの平均スポット数を示す。代表的な実験からのデータを平均±SEM(n=2~3)として示す。ウェルチの補正による不対t検定を用いて有意性を評価した。P<0.05、**P<0.01、***P<0.001。
図15-1】PeptiCRAdの抗腫瘍効果および抗原特異的CD8T細胞およびDCの免疫学的分析を示す。(A)C57BL/6マウス(n=6)の両脇腹に3×10個のB16-OVA細胞を投与した。治療は9日後に開始し、生理食塩水溶液(mock)、ペプチド単独(SIINFEKL)、ウイルス単独(Ad5D24-CpG)、ウイルスとペプチドの混合物(Ad5D24-CpG+SIINFEKL)およびウイルス-ペプチド複合体(OVA-PeptiCRAd)を含めた。マウスを3回処置した(0日目、2日目および7日目)。次いで、腫瘍の大きさを測定し、平均±SEMを時間の関数として表した。統計解析は、ボンフェローニの多重比較検定による二元配置ANOVAを用いて行った。*P<0.05、**P<0.01、***P<0.001。7日目(早期(early))(B)および16日目(後期(late))(C)の2つの時点で、マウス(n=3~4)から腫瘍、脾臓および鼠径リンパ節を採取した。SIINFEKL特異的CD8T細胞の割合は、CD19細胞を外へゲーティングすることによって決定した。CD8OVAT細胞の割合を平均±SEMとして示す。(D)実験終了時の平均腫瘍サイズ(直線y軸)を、平均割合の二重ポジティブCD8OVAT細胞(log10X軸)に対してプロットした。ピアソンのrおよびr値も計算し、サンプルの各セットについてグラフ化した。(E)成熟プロファイルおよびMHC-I分子上の交差提示SIINFEKLを示すDCにおける倍数変化を決定した。成熟DCはCD19CD3CD11cCD86high細胞と定義された。SIINFEKLに結合したAPC抗マウスH-2Kを使用して、DCの選択されたプールにおけるMHC-Iに対するSIINFEKLの交差提示を追跡した。
図15-2】同上。
図15-3】同上。
図16-1】2つの腫瘍抗原をPeptiCRAdで標的化すると、治療された腫瘍と遠く離れた未治療の腫瘍の両方の増殖が減少することを示している。1つの原発性腫瘍を、1×10のB16-F10メラノーマ細胞を用いてC57BL/6マウスの右脇腹に移植した。治療は第10日目に開始した。第16日目に、マウスの左脇腹に3×10のB16-F10細胞を投与した。(A)原発性(右)腫瘍の増殖を記録し、データは平均±SEM(n=5)として示す。ボンフェローニの多重比較検定による二元配置ANOVAを用いて有意性を決定した。P<0.05、**P<0.01、***P<0.001。(B)実験終了時の二次(左)腫瘍のサイズはlog2スケールで記録する。マン・ホイットニーU検定を用いて有意性を評価した。P<0.05、**P<0.01、***P<0.001。(C)脾臓および鼠径リンパ節を採取し、TRP-2およびhgp100特異的CD8T細胞のレベルをMHC-I五量体染色により各臓器で測定した。各臓器で見られたエピトープ特異的CD8T細胞の割合はmockに対して正規化し、各実験群の累積相対応答として表される。
図16-2】同上。
図17-1】ヒトメラノーマを有するヒト化マウスにおけるPeptiCRAdの有効性を示す。トリプルノックアウトNGSマウスの各脇腹に2×10のヒトメラノーマ細胞(SK-MEL-2)を投与した。腫瘍の平均直径が4~5mmに達したとき、1群のマウス(n=3)にHLA-A適合健常ドナー由来のヒトPBMCを投与し、別のマウス群(n=2)にはPBMCを投与しなかった。次いで、i)生理食塩水(mock)、ii)Ad5D24-GM-CSF、およびiii)MAGE-A1 PeptiCRAdのうちの1つでマウスを処理した(0日目、2日目および4日目)。ヒト化マウス(A)の腫瘍体積を平均±SEMとして示す。ボンフェローニの多重比較検定による二元配置ANOVAを用いて有意性を評価した。P<0.05、**P<0.01、***P<0.001、****P<0.0001。(B)ヒト化マウスの各群について、腫瘍の大きさに対する曲線下面積(AUC)を示す。(C)非ヒト化マウスの腫瘍体積を平均±SEM(****P<0.0001)として記録する。
図17-2】同上。
【発明を実施するための形態】
【0029】
発明の詳細な説明
腫瘍免疫学および免疫ペプチドーム
樹状細胞(DC)は、骨髄由来の専門的抗原提示細胞である。DCは、腫瘍抗原エピトープをCD8+およびCD4+T細胞に提示するために最適な抗原提示細胞である。外因性抗原は、CD8+T細胞への「交差提示(クロスプレゼンテーション)」のためにMHCクラスIに積載(ロード)されうる。交差提示は、その結果がDCの活性化状態によって決定される現象である。癌細胞では、腫瘍抗原交差提示をもたらすDC成熟の程度は、不利な腫瘍微小環境および局所リンパ節での腫瘍由来免疫抑制のために、通常、非常に低い。これらの障害は、腫瘍を破壊するウイルスがいずれも、DC活性化を駆動し、腫瘍免疫抑制を妨害して隠れた免疫原性抗原を露出させるのに必要な「危険信号」を提供するため、腫瘍崩壊性ウイルス治療によって克服することができる6-8
【0030】
条件付複製アデノウイルス(CRAd)としても知られている腫瘍崩壊性アデノウイルスは、複製して癌細胞のみを殺すように遺伝学的に改変されている9、10。ウイルス誘発性の腫瘍アポトーシスおよび/または壊死により、抗原提示細胞によっては通常は到達できない多量の腫瘍関連タンパク質が放出され、これによって、腫瘍放出リンパ節における腫瘍関連DCによる効率的な交差提示が促されることが知られている11-13
【0031】
癌のウイルス療法は一般的に良好な耐容性が認められているが、全体の治療効力は軽微なままである。ウイルス治療の免疫学的効果を精査した結果、マウスとヒトの両方で腫瘍に対するウイルスの明らかな優位性が観察された(図2)。アデノウイルスのカプシドを合成MHC-I拘束腫瘍特異的ペプチドでコーティングすることにより、これらの腫瘍抗原をウイルスの一部として提示する抗原提示細胞(APC)を「だます」。換言すれば、MHC-I拘束性ペプチドを送達する足場としてアデノウイルスカプシドを利用する本発明は、免疫応答をウイルスから離れて腫瘍に向かわせるものである。
【0032】
本明細書で使用される「クラスIの主要組織適合複合体」分子は、主要組織適合複合体(MHC)分子の2つの主要クラスのうちの1つ(他方はMHCクラスIIである)を指し、身体のほぼすべての有核細胞上に見られる。それらの機能は、細胞内からT細胞へタンパク質の断片を提示することである。健康な細胞は無視され、外来タンパク質を含む細胞は免疫系によって攻撃される。クラスI MHC分子は、主にプロテアソームによる細胞質タンパク質の分解から生成されたペプチドに結合する。次に、MHC I:ペプチド複合体が細胞の原形質膜へ挿入する。このペプチドは、クラスI MHC分子の細胞外部分に結合する。したがって、クラスI MHCの機能は、細胞傷害性T細胞(CTL)に細胞内タンパク質を提示することである。しかしながら、クラスI MHCは、いわゆる交差提示のプロセスにおいて、外因性タンパク質から生成されたペプチドを提示することもできる。本明細書で使用される場合、「MHC-I特異的ポリペプチド」は、MHC-I、すなわちクラスI MHC分子の細胞外部分に結合し、CTLに提示されるペプチドを指す。
【0033】
すべてのMHC-Iペプチド(MIP)は総称して免疫ペプチドームと呼ばれる14。最近では、高度な技術の使用により、MHC-I免疫ペプチドームを研究し始める可能性がでてきている。免疫ペプチドーム全体を広範にスクリーニングしようとする他の戦略と比較して、本発明における重大な相違点は、本発明が治療前と治療後の両方で腫瘍細胞上(すなわち、治療後にマスクされていないかあるいは排除されていないペプチド)および治療後のDC上に同時に存在する特定のペプチドに焦点を当てていることである(図3)。
【0034】
本発明と従来のペプチドベースの免疫療法との間の著しい相違は、本発明が、ウイルス、特にアデノウイルスがDCと相互作用する特権的手段を有するという事実を十分に利用していることである(よってDCを標的とする義務はない)。アデノウイルスは、いくつかのパターン認識レセプター(PRR)、トール(Toll)様受容体16、17、NOD様受容体ファミリー18およびインフラマソーム19を刺激し、DCによる安定した抗原提示およびCTL活性化を生じさせやすくする20。この目的のために、発明者らは、腫瘍崩壊性アデノウイルスでパルスされたヒト一次DCが、細胞接着、細胞-細胞相互作用およびシグナル伝達、成熟および抗原提示に関与する経路を活性化することを示し、これによりアデノウイルスが未成熟一次樹状細胞の成熟および移動を促進することができることを示唆する(図4)。
【0035】
本明細書において、「ペプチド特異的免疫応答を刺激する」とは、特定のペプチドを表す細胞が攻撃されて破壊される免疫応答を引き起こすことをいう。「免疫応答」は、リンパ球(すなわち、白血球)、Tリンパ球またはBリンパ球またはその両方を含む系を指す。Tリンパ球は抗原を直接攻撃し、免疫応答の制御を助ける。それらはまた、サイトカインとして知られる化学物質を放出して、免疫応答全体を制御する。Bリンパ球は抗体を産生する細胞となる。抗体は特定の抗原に結合し、免疫細胞が抗原を破壊しやすくする。
【0036】
本発明の一実施形態では、ウイルスカプシド上に付着した1つまたは複数のポリペプチドは、チロシナーゼ関連タンパク質2(TRP-2)の断片、ヒトメラノーマ抗原gp100(hgp100)の断片、メラノーマ関連抗原A1(MAGE-A1)の断片、SIINFEKL、polyK-SIINFEKL、SIINFEKL-polyK、SLFRAVITK(配列番号4)、polyK-SLFRAVITK、SLFRAVITK-polyK、SVYDFFVWL(配列番号5)、polyK-SVYDFFVWL、SVYDFFVWL-polyK、KVPRNQDWL(配列番号6)、polyK-KVPRNQDWLおよびKVPRNQDWL-polyKからなる群から選択される。本発明の一実施形態では、ウイルスカプシド上に付着した1種または複数のポリペプチドは、SIINFEKL、SLFRAVITK、SVYDFFVWLまたはKVPRNQDWLを含む。さらなる実施形態では、TRP-2およびhgp100のポリペプチド断片(例えば、SVYDFFVWLまたはKVPRNQDWL)がアデノウイルスカプシド上に付着している。本発明の一実施形態では、本発明で使用されるポリペプチドは、ポリリジン(ポリK)修飾されている。本明細書で使用されるポリKは、3K~15K、3K~10K、3K~8K、5K~8K、5K~7Kおよび6Kからなる群から選択されうる。本明細書中で使用される場合、「ポリリジン修飾ポリペプチド」とは、ポリリジン配列が挿入されているポリペプチドを指す。ポリリジン配列をポリペプチドに付加すると、ペプチドの電荷が変化し、その結果としてウイルスの表面に吸収される。
【0037】
アデノウイルスベクター
ペプチドで被覆されたアデノウイルスは、任意のタイプおよび種のアデノウイルス科のもの(例えば、ヒトアデノウイルスに限定されない)であってよい。本発明の一実施形態では、アデノウイルスは、腫瘍に対する抗ウイルス免疫応答を転換しながら複製し癌細胞を死滅させることができる(図1)。患者由来の腫瘍特異的免疫活性化ペプチドで被覆された本発明の癌破壊性ウイルスは、抗ウイルス免疫から抗腫瘍免疫への転換を増強する。
【0038】
本発明で使用されるアデノウイルスベクターは、ヒトまたは動物を治療するのに適した任意のアデノウイルスベクターであってよい。あるいは、種々のタイプのアデノウイルスベクターを本発明に従って使用することができる。また、ベクターは、当技術分野で公知の任意の方法、例えば、ウイルス領域を削除、挿入、突然変異または改変するなどの方法によって改変することができる。ベクターは、複製に関して腫瘍特異的にすることができる。例えば、アデノウイルスベクターは、腫瘍特異的プロモーターの挿入、領域の欠失および導入遺伝子の挿入などのE1、E3および/またはE4の改変を含んでよい。
【0039】
本発明の一実施形態では、アデノウイルスベクターは、腫瘍崩壊性アデノウイルスベクターである。本明細書中で使用される場合、「腫瘍崩壊性アデノウイルスベクター」は、腫瘍対正常細胞における選択的複製によって癌細胞に感染し、死滅させることができるアデノウイルスベクターを指す。本発明の一実施形態では、ベクターは、Rb経路、具体的にはRb-p16経路に欠損を有する細胞においてのみ複製可能である。これらの欠陥細胞には、動物およびヒトのすべての腫瘍細胞が含まれる。本明細書中で使用される場合、「Rb-経路における欠損」は、経路の任意の遺伝子またはタンパク質における突然変異および/または後成的(エピジェネティックな)変化をいう。腫瘍特異的腫瘍崩壊性アデノウイルスは、例えば、E1の定常領域2(CR2)の24塩基対(D24)を欠失させることによって操作されていてもよい。本明細書中で使用される場合、「D24」または「24bp欠失」は、Heise C.ら(2000、Nature Med 6、1134-1139)によるベクターのアミノ酸122-129に対応するヌクレオチドの欠失を指す。本発明の一実施形態では、アデノウイルスベクターは24bp欠失(腫瘍崩壊性ウイルス)またはE1遺伝子欠失(第二世代ウイルス)を含むかないしは、ベクターはヘルパー依存性ベクターである。E1遺伝子欠失は、E1領域の部分的または完全な欠失であってよい。本明細書で使用される場合、「ヘルパー依存性ベクター」は、複製に必要な酵素および/または構造タンパク質をコードする遺伝子を含まないので、複製するためにヘルパーウイルスの補助に依存しているベクターを指す。
【0040】
アデノウイルスベクターの骨格は、任意の血清型であってよい。本発明の一実施形態では、アデノウイルスベクター骨格の血清型は血清型3または5から選択される。本明細書中で使用される場合、「アデノウイルス血清型5(Ad5)核酸骨格」とはAd5のゲノムを指し、「アデノウイルス血清型3(Ad3)核酸骨格」とはAd3のゲノムを指す。
【0041】
さらに、ベクターは、キメラベクター、例えば、Ad5/3、Ad3/5またはAd5/35ベクターであってよい。一例として、「Ad5/3ベクター」は、Ad5およびAd3ベクターの両方の部分を有するキメラベクターを指す。
【0042】
本発明の一実施形態では、アデノウイルスベクターは、カプシド改変(すなわち、ウイルスのカプシドを形成するタンパク質をコードするヌクレオチド配列の改変)を含む。アデノウイルスの「カプシド」とは、ウイルスのタンパク質殻をいう。カプシドは、プロトマーと呼ばれるタンパク質から成るいくつかのオリゴマー構造サブユニットからなる。
【0043】
さらに、ベクターのファイバーノブ領域が改変されてもよい。本発明の一実施形態において、アデノウイルスベクターは、Ad5核酸骨格と、Ad3ファイバーノブ、Ad35ファイバーノブ、Ad5/3キメラファイバーノブおよびAd5/35キメラファイバーノブからなる群より選択されるファイバーノブとを含むAd5/3またはAd5/35である。
【0044】
本発明の特定の実施形態では、腫瘍崩壊性アデノウイルスベクターは、アデノウイルス血清型5(Ad5)核酸骨格に基づき、D24欠失、必要に応じて導入遺伝子および場合によりCpG部位を含む。別の実施形態では、腫瘍崩壊性アデノウイルスベクターはアデノウイルス血清型5(Ad5)核酸骨格に基づき、カプシド(例えばAd3ファイバーノブ)の修飾、場合によりD24欠失および場合により導入遺伝子を含む。
【0045】
外因性エレメントの挿入は、標的細胞におけるベクターの効果を増強し得る。外因性組織または腫瘍特異的プロモーターの使用は組換えベクターにおいて一般的であり、それらも本発明で利用することができる。適切なプロモーターは当業者によく知られており、それらにはhTERT、CMV、E2Fが含まれるが、これらに限定されない。
【0046】
アデノウイルスベクターはまた、任意の導入遺伝子(例えば、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF))の発現を引き起こしうる。本発明の一実施形態では、アデノウイルスベクターは1または複数の導入遺伝子を含む。好適な導入遺伝子の一例はサイトカインであり、サイトカインは疾患によって影響を受けた部位、例えば腫瘍部位での免疫細胞の輸送の増加をコントロールする。本発明で使用されるサイトカインは、当該分野で知られる任意のサイトカインから選択することができる。本発明の一実施形態において、導入遺伝子は、T細胞、樹状細胞、マクロファージ、ナチュラルキラー細胞に関するものについての腫瘍部位における免疫性間質の補充または操作のためのケモカインおよびサイトカインおよびシグナルペプチドからなる群から選択される。本発明のウイルスベクターは、1つまたはいくつかの導入遺伝子、例えば、サイトカイン(例えば、2、3、4、5またはそれ以上)をコードしてよい。アデノウイルスベクターは、例えば免疫学的チェックポイント(例えば、CTLA4、PD1、PDL1)を特異的にブロックするモノクローナル抗体を発現してもよい。
【0047】
導入遺伝子をアデノウイルスベクターの異なる位置に配置してもよい。導入遺伝子は、例えば、部分的にまたは完全に欠失したE3領域内、E3プロモーターまたは外因性プロモーターの下、部分的にまたは完全に欠失したE1領域内、またはE1プロモーターまたは外因性プロモーターの下に配置してよい。
【0048】
本発明の一実施形態では、コーティングのためのアデノウイルスベクターは、Ad5D24、Ad5D24CpGまたはAd5D24-GMCSFである。 Ad5D24-GMCSFでは、GM-CSF導入遺伝子はE3プロモーターの制御下に欠失したE3領域の代わりにある(すなわち、欠失6.7K/gp19K)(Cerullo Vら、2010、Cancer Research 70:4297-4309)。本明細書中で使用される場合、CpGは、ウイルスをより免疫刺激性にするためにアデノウイルスゲノムに加えられたCpG部分を指す。アデノウイルス骨格中のCpGリッチ領域の挿入は、アデノウイルスが抗原提示細胞においてTLR9を刺激する能力を増加させ、それに起因してT細胞の刺激および成熟ならびにNK活性化を増加させる(Nayak S、Herzog RW、Gene Ther. Mar Mar;17(3):295-304)。
【0049】
本発明において利用されるウイルスベクターはまた、上記のもの以外の修飾を含んでよい。場合によって任意の追加の構成要素または修飾を使用することができるが、本発明のために必須ではない。
【0050】
アデノウイルスベクターの被覆(コーティング)
本発明によれば、アデノウイルスのカプシドは、対象においてペプチド特異的免疫応答を刺激することができる合成ポリペプチドまたはペプチドでコーティングされる。アデノウイルスベクターをコーティングするために使用されるポリペプチドは、前記アデノウイルスベクターによって遺伝的にコードされていない。本明細書において、用語「ポリペプチド」および「ペプチド」は、任意の長さのアミノ酸のポリマーを指すために交換可能に使用される。
【0051】
ポリペプチドは、任意の知られている適切な化学的または生化学的方法によってカプシドに結合させることができる。本発明の一実施形態において、ペプチドは、ウイルスカプシド上に共有結合的または非共有結合的に結合されている。本発明の別の実施形態では、ポリペプチドは、静電的、ジスルフィドまたはアミド結合連結によってカプシドに結合されているか、または同時送達されて単一のナノ粒子のカプシドに結合されている。ナノ粒子はまた、共有結合的または非共有結合的に、例えば、静電的、ジスルフィド結合またはアミド結合連結によってカプシドに結合してよい。本明細書で使用される場合、「ナノ粒子」は、1~100ナノメートルの大きさの任意の粒子を指す。静電的連結ストラテジーは、アデノウイルスカプシドが負の総電荷を有するという事実を利用するものであり、これは、目的のペプチドに結合した小さなリンカーに結合したポリリジンからなる正に荷電したペプチドの合成を意味する。第一のストラテジーは、2つの潜在的な利点を有する:1)急速であること(例えば、室温で約15~30分または室温で約20分)、これは個人向け薬物の重要な特徴でありうる。2)カチオンポリマーと複合体化したアデノウイルスの導入を有意に増加させること26,29
【0052】
ウイルスカプシド上に付着したポリペプチドは、すべて同じペプチドであってもよく、または2種以上の異なる腫瘍抗原から選択される異なるペプチドであってもよい。本発明の一実施形態では、アデノウイルスは2種類以上のペプチドで被覆されている。ペプチドは、例えば、同じ抗原の異なるMHC-I特異的ポリペプチド、異なる抗原に由来するMHC-Iポリペプチド、またはMHC-IおよびMHC-II拘束ペプチドの組み合わせであってよい。本発明の一実施形態において、ウイルスカプシド上に付着したポリペプチドは、クラスI(MHC-I)特異的ポリペプチド(MHC-Iに結合するポリペプチド)の主要組織適合性複合体、クラスII(MHC-II)特異的ポリペプチド(MHC-IIに結合するポリペプチド)の主要組織適合性複合体、疾患特異的ポリペプチド(疾患に関連するポリペプチド)、腫瘍特異的ポリペプチド(腫瘍または特定の腫瘍に関連するポリペプチド)およびDC特異的ポリペプチド(DCに結合するポリペプチド)からなる群から選択される。本発明の特定の実施形態では、ウイルスカプシド上に付着したポリペプチドは、腫瘍特異的MHC-I拘束性ペプチドである。これらのペプチドは、図5に示されるプロセスにより患者の腫瘍から直接単離され得る。図5の方法を利用することにより、ウイルスカプシド上に結合されるポリペプチドは、腫瘍のMHC-I上に同時に表出され、腫瘍崩壊物が与えられるDCから得てよい。本明細書で使用される場合、「腫瘍特異的ポリペプチド」は、腫瘍細胞によって提示されるポリペプチドを指す。本明細書中で使用される場合、「DC特異的ポリペプチド」は、DCによって提示されるポリペプチドを指す。本明細書中で使用される場合、「疾患特異的ポリペプチド」は、疾患表現型を有する細胞または疾患に感染した細胞によって提示されるポリペプチドを指す。
【0053】
アデノウイルスベクターのカプシドに付着されるポリペプチドには、1人の患者の疾患細胞または腫瘍細胞および樹状細胞によって同時に提示される任意のポリペプチド(例えば、腫瘍抗原またはそれらに由来するペプチド)が含まれる。適切なペプチドの例としてはgp100が挙げられるが、これに限定されない。
【0054】
カプシド上のポリペプチドの濃度は変化してもよく、本発明の一実施形態では、ポリペプチドは少なくとも500nMの濃度である。
【0055】
本発明によれば、患者に合わせたポリペプチド被覆アデノウイルスの製造において、疾患細胞由来または腫瘍由来のMHC-I搭載ペプチドを単離し、同定し、合成し、DC刺激性腫瘍崩壊性アデノウイルスのカプシドに混合することができる。しかし、この方法は少なくとも2つのステップを含む。第一に、MHC-Iに搭載された最も免疫原性のポリペプチドが同定され、第二に、これらのポリペプチドが腫瘍崩壊性アデノウイルスカプシドに搭載される。
【0056】
医薬組成物
本発明は、障害を治療するための治療方法および使用だけでなく、前記方法および治療用途で使用するための医薬組成物も提供する。そのような医薬組成物は、被覆アデノウイルスを単独で、または治療上有効な薬剤(一または複数)および/または薬学的に許容されるビヒクル(一または複数)などの他の薬剤と組み合わせて含む。
【0057】
薬学的に許容されるビヒクルは、例えば、薬学的に許容される溶媒、希釈剤、アジュバント、賦形剤、緩衝剤、担体、防腐剤、充填剤、安定剤および増粘剤からなる群から選択され得る。場合によって、対応する製品に通常見られる他の構成成分を含めてもよい。本発明の一実施形態において、医薬組成物は、ポリペプチド被覆アデノウイルスおよび薬学的に許容されるビヒクルを含む。
【0058】
医薬組成物は、投与に適した固体、半固体または液体の形態などの任意の形態であってよい。製剤は、限定されるものではないが、例えば、溶液、乳化物または懸濁液からなる群から選択することができる。本医薬製剤を製剤化するための手段および方法は、当業者に知られており、それ自体知られた方法で製造されうる。
【0059】
治療
疾患の原因となる異常細胞に対するペプチド特異的免疫応答を刺激することによって治療することができるか、進行を遅くすることができるか、または症状を改善することができる任意の疾患または障害は、本発明の範囲内に含まれる。本発明の一実施形態において、ペプチド特異的免疫応答は、抗腫瘍(原発性および/または二次性腫瘍に対する)、抗癌(原発性および/または二次性悪性新生物に対する)、抗感染および抗ウイルス免疫応答からなる群から選択される。これらの場合、免疫応答は、腫瘍(悪性および良性腫瘍ならびに原発性および続発性腫瘍の両方を含む)、癌(すなわち、原発性または二次性悪性新生物)、感染性疾患(例えば、マラリア)、ウイルス(例えば、インフルエンザ、SARS-CoVまたはHIVなどのウイルス感染の場合)などに対する。例えば、任意の癌が、本発明の被覆アデノウイルスの標的であってよい。本発明の一実施形態において、癌は、鼻咽頭癌、滑膜癌、肝細胞癌、腎癌、結合組織の癌、メラノーマ、肺癌、腸癌、結腸癌、直腸癌、結腸直腸癌、脳腫瘍、咽喉癌、口腔癌、肝臓癌、骨肉腫、膵臓癌、絨毛腫、ガストリノーマ、褐色細胞腫、プロラクチノーマ、T細胞白血病/リンパ腫、ニューローマ、フォンヒッペル-リンダウ病、ゾリンジャーエリソン症候群、副腎癌、肛門癌、胆管癌、膀胱癌、尿管癌、脳腫瘍、乏突起膠腫、神経芽細胞腫、髄膜腫、脊髄腫瘍、骨肉腫、骨軟骨腫、軟骨肉腫、ユーイング肉腫、未知の原発部位の癌、カルチノイド、胃腸管のカルチノイド、線維肉腫、乳癌、パジェット病、子宮頸癌、結腸直腸癌、直腸癌、食道癌、胆嚢癌、頭部癌、眼癌、頸部癌、腎臓癌、ウィルムス腫瘍、肝臓癌、カポジ肉腫、前立腺癌、肺癌、睾丸癌、ホジキン病、非ホジキンリンパ腫、口腔癌、皮膚癌、中皮腫、多発性骨髄腫、卵巣癌、内分泌膵癌、グルカゴノーマ、膵臓癌、副甲状腺癌、陰茎癌、下垂体癌、軟部組織肉腫、網膜芽細胞腫、小腸癌、胃癌、胸腺癌、甲状腺癌、絨毛癌(トロホブラスト癌)、胞状奇胎、子宮癌、子宮内膜癌、膣癌、外陰部癌、聴神経腫、菌状息肉腫、インスリン腫、カルチノイド症候群、ソマトスタチン腫瘍、歯肉癌、心臓癌、唇癌、髄膜癌、口癌、神経癌、口蓋癌、耳下腺癌、腹膜癌、咽頭癌、胸膜癌、唾液腺癌、舌癌およびへんとう腺癌からなる群から選択される。
【0060】
本明細書で使用される「治療」または「治療する」という用語は、少なくとも被覆されたアデノウイルスベクターまたは被覆アデノウイルスベクターを含む医薬組成物の対象への投与を指す。本明細書で使用される用語「治療する」およびそれに由来する用語は、必ずしも100%または完全な治療または増加を意味するものではない。むしろ、当業者が潜在的な利益または治療効果を有すると認識する程度が様々である。この点で、本発明の方法および使用は、疾患の任意の程度の治療または予防を提供することができる。したがって、「治療する」には、完全な治癒だけでなく、例えば、癌、腫瘍、感染症またはウイルス感染のような問題の疾患に関連する障害または症状の予防、改善または緩和も含まれる。治療効果は、例えば、患者の症状または血液中の疾患マーカーをモニターすることによって、当業者に知られる任意の方法によって評価してよい。
【0061】
本明細書中で使用される場合、用語「対象」は、動物、哺乳動物またはヒトからなる群から選択される対象を指す。本発明の一実施形態では、対象はヒトまたは動物である。
【0062】
ポリペプチドで被覆されたアデノウイルスは、ペプチド特異的免疫応答を引き起こす治療的に有効な量で対象に投与される。本明細書中で使用される場合、用語「治療的有効量」は、疾患または障害(例えば、癌)の有害な影響が最小限に低減される被覆アデノウイルスの量を指す。有害な影響には、痛み、めまいまたは腫脹などの対象の検出可能なまたは顕著な影響が含まれる。
【0063】
本発明の被覆アデノウイルスベクターまたは医薬組成物の1回のみの投与が治療効果を有し得る。一方、治療はいくつかの投与を含んでよい。アデノウイルスベクターまたは医薬組成物は、例えば2、3、4または8週間または治療期間中に1~10回投与されてよい。治療期間の長さは様々であり、例えば、2か月から12か月以上続いてよい。場合によっては、1人の患者にいくつかの治療期間を使用することも可能である。
【0064】
ベクターの有効用量は、少なくとも、治療、疾患のタイプおよび疾患の段階を必要とする対象に応じて異なる。投与量は、例えば、約1×10ウイルス粒子(VP)~約1×1014VP、具体的には約1×10VP~約1×1013VP、より具体的には約5×10VP~約1×1012VPで変化しうる。
【0065】
被覆されたアデノウイルスの投与は、当業者に知られた任意の適切な方法によって行うことができる。本発明の一実施形態では、アデノウイルスベクターの投与は、腫瘍内、動脈内、静脈内、胸膜内、嚢胞内、腔内または腹腔内注射または経口投与によって行われる。異なる投与経路を組み合わせることも可能である。
【0066】
被覆されたアデノウイルスはまた、他の治療剤または治療方法または治療の組み合わせと一緒に(同時にまたは連続して)用いてもよい。例えば、本発明の方法または使用は、放射線療法、化学療法、他の薬物の投与または任意の臨床的手術をさらに含んでよい。
【0067】
ヒトまたは動物の患者を本発明の治療に適したものとして分類する前に、臨床医は患者を検査してよい。正常から外れ、癌などの疾患を示す結果に基づいて、臨床医は患者に対して本発明の方法または治療を示唆してよい。
【0068】
被覆のための特定のペプチドの同定
本発明は、対象から少なくとも腫瘍特異的およびMHC-I特異的なポリペプチドを同定するための方法を明らかにする。この方法は、具体的にはインビトロで腫瘍溶解物に曝露されたDCおよび腫瘍のMHC-I免疫ペプチドームに関する、定性的および定量的研究を利用する。方法論は、図5に簡潔に要約すると、インビトロで腫瘍崩壊物でパルスされたDC(ウイルス感染腫瘍細胞)および腫瘍細胞の両方からのMHC-I分子の単離、および質量分析に基づく技術によるMHC関連ポリペプチドの配列決定を含む。免疫学的に関連するペプチドは、腫瘍溶解物でパルスされた樹状細胞および腫瘍の両方によって提示される。例えば、OVA発現モデルマウスの使用は系の検証を容易にすることができ、実際によく知られた免疫原性OVA由来ペプチド(例えばSIINFEKL)はマウス実験からもたらされ、ポジティブコントロールとして役立ちうる。
【0069】
インビトロアデノウイルス感染の前後の対象の腫瘍細胞は、ウイルス感染に起因して細胞によって提示されるポリペプチドをブロックするために本方法で使用される。インビトロで腫瘍崩壊物でパルスされたDCもまた、この方法において、腫瘍抗原の提示を可能にするために使用される。腫瘍特異的ペプチドの単離のために腫瘍崩壊物でパルスされたDCだけでなく腫瘍を用いる利点は、免疫学的に活性なペプチドを良好に同定できることである(腫瘍とDCの両方にペプチドが提示されれば効率的な免疫応答がある)。腫瘍細胞および樹状細胞からのMHC-I分子の単離は、当該分野の任意の適切な単離方法によって実施されてよい。その後、ポリペプチドの配列決定は、MHC関連ペプチドを同定するための任意の適切な質量分析に基づく技術(例えば、LC-MS/MS)によって行うことができる。腫瘍および樹状細胞の両方によって提示されるポリペプチドは、これらの細胞によって提示されるポリペプチドを比較することによって同定することができる。2つのグループ、すなわち、溶解物でパルスされたDCによって提示されたポリペプチドからパルスされていないDCによって提示されたポリペプチドを引いたポリペプチド(DC自己ペプチドを排除するため)、およびウイルス感染した腫瘍および感染していない腫瘍によって提示されるポリペプチド(ウイルス特異的ペプチドを排除するために)に共通のポリペプチドは、アデノウイルスを被覆するために好適である。ポリペプチドの比較は、手動で、または当業者に知られる任意のバイオインフォマティクス法によって行うことができる。場合によって、インビトロ、エクスビボおよび/またはインビボでの確認は、任意の特定のポリペプチドまたはその組み合わせに対して行うことができる。本発明の一実施形態では、MHC-I分子を感染した腫瘍細胞および感染していない腫瘍細胞ならびに感染した樹状細胞から単離することに加えて、該方法は、MHC-I分子を感染していない樹状細胞から単離し、MHC-I関連ポリペプチドを同定すること、および、工程iii)およびiv)の感染した腫瘍および感染していない腫瘍によって提示されたポリペプチド、および感染していない樹状細胞ではなくステップiii)の感染した樹状細胞によって提示されたポリペプチドを同定することを含む。本発明の特定の実施形態では、アデノウイルスベクターによる腫瘍細胞およびDCの感染はインビトロで起こる。本発明の方法に使用されるアデノウイルスベクターは、任意のアデノウイルスベクター、例えば、前の章で説明したこれらのベクターのいずれかであってよい。
【0070】
本発明の一実施形態において、対象から腫瘍特異的およびMHC-I特異的なポリペプチドを同定するための方法は、アデノウイルスカプシドをコーティングするための1または複数の腫瘍特異的およびMHC-I特異的ポリペプチドを選択するために使用される。 これらの腫瘍特異的およびMHC-I特異的ポリペプチドのいずれかまたはそれらの組み合わせは、コーティングに使用することができる。
【0071】
技術が進歩するにつれて、本発明の概念が様々な方法で実施できることは、当業者には明らかであろう。 本発明およびその実施形態は、上記の例に限定されず、特許請求の範囲内で変更することができる。
【実施例
【0072】
以下の実施例は、少なくとも、腫瘍特異的ポリペプチドを単離し選択するための腫瘍MHC-I免疫ペプチドームの分析、腫瘍特異的ポリペプチド被覆腫瘍崩壊性アデノウイルスの生成および物理的特徴付け、および動物モデルにおける、被覆アデノウイルスの特徴付け(例えば、i)治療効力、ii)抗ウイルス免疫を抗腫瘍免疫に転換する能力、およびiii)免疫系の細胞を募集し、T細胞応答を促進する能力)を示す。
【0073】
腫瘍崩壊性アデノウイルスの調製
すべての腫瘍崩壊性アデノウイルス(OAd)を生成し、先に記載した標準的なプロトコルを用いて増殖させた(8)。簡潔に述べると、10のT175フラスコに70~80%コンフルエントA549細胞を30の感染多重度(MOI)で感染させることによりウイルスを増幅した。感染の3日後、細胞を回収し、4回の凍結(-80℃)および解凍(37℃)サイクルにより溶解した。次いで、CsCl勾配の2回の超遠心分離(22,000および27,000rpm)により、細胞破片および不純物からアデノウイルス粒子を分離した。回収したバンドを、連続攪拌しながらA195緩衝液に対して4℃で一晩透析することにより精製した。具体的には、10,000kDaの分子量カットオフを有する透析カセット(Pierce、Life Technologies)を使用した。精製されたウイルスをカセットから回収し、等分し、-80℃で保存した。
【0074】
アデノウイルスゲノムの完全性は、E3遺伝子およびE1A遺伝子におけるD24欠失に特異的なプライマーを用いたPCRによって評価した。
【0075】
ウイルス粒子力価は分光光度法を用いて測定し、感染力価は、このセクションの他の箇所に記載されているように、免疫細胞化学染色によって測定した。ウイルス調製物のタンパク質濃度は、Bio-Radタンパク質アッセイ染色試薬濃縮物(Bio-Rad Laboratories、Hercules、CA、USA)を用いたBradfordアッセイによって決定した。SPECTROstar Nano分光光度計(BMG Labtech、Ortenber、Germany)を用いて、すべての分光光度測定値を読み取った。
【0076】
本試験に用いたウイルスはすべて既に報告されているものであり、Ad5D24は、E1A遺伝子の24塩基対の欠失(D24)を特徴とするアデノウイルスであり(9)、Ad5D24-CpGは、E3遺伝子にCpGを富化したゲノムを有するOAdであり(30)、Ad5D24-GM-CSFは、ウイルスE3プロモーターの制御下でGM-CSFを発現するOAdである(8)。
【0077】
腫瘍特異的ペプチドを単離して選択するための腫瘍MHC-I免疫ペプチドームの分析
方法1a:
C57BL/6マウスからマウスCD11c+分類骨髄樹状細胞を採取し、1週間培養した23。次いで、細胞を以下の溶液に曝した。
A)コントロールとしてのPBS、
B)B16-OVA細胞からの腫瘍崩壊物(腫瘍崩壊物は、完全に溶解するまで腫瘍崩壊性アデノウイルスAd5D24に感染させたB16-OVA細胞に由来する)
C)細胞の凍結および融解により得られたB16-OVA細胞溶解物。
様々な時点で、ペプチドを負荷したMHC-Iを、軽度の酸溶出を用いて生DCから単離した25。分析の時点で、ペプチドを水溶液に溶解し、LTQ-Orbitrap Elite質量分析計(Thermo Fisher Scientific)でナノLC-MS/MSにより分析した。データベース検索は、51536配列および24497860残基を含む国際タンパク質インデックスマウスデータベースバージョン3.23(http://www.ebi.ac.uk/IPI/IPIhelp.html)に対して実施した。関連ペプチドは、(DC自己ペプチドを排除するために)パルスを与えていないDCを除いた溶解物でパルスしたDC群と、(ウイルス特異的ペプチドを排除するために)感染していないB16-OVAを除いたウイルス感染B16-OVA群の両方に共通して存在するペプチドによる群とした。
【0078】
方法1b:
本発明者らはまず、方法1aの免疫ペプチドームの複雑さをインシリコで減少させた。 MHC-Iクラスペプチドの予測(http://www.syfpeithi.de/home.htm)。タンパク質の機能的注釈(http://david.abcc.ncifcrf.gov)および(http://www.ingenuity.com)を用いた。
【0079】
Oncomine分析(https://www.oncomine.org)を用いて、異なるヒト癌および細胞株における所与のタンパク質の発現レベルを示した。最も重要なことに、本発明者らはエピトープツール予測を用いてペプチドを検証した(17)。
【0080】
実験的に、最も免疫原性の高いペプチドを選択するために、本発明者らは、C57BL/6マウスから採取した脾細胞、腫瘍およびリンパ節にマウスIFN-γELISPOT(Mabtech AB、Sweden)を用い、方法1aから単離したすべての異なるペプチドをパルスした。
【0081】
簡潔に言えば、B16-OVA腫瘍を有するC57BL/6マウスを、腫瘍崩壊性アデノウイルス(Ad5D24)で処置した。処置から1~2週間後、マウスを安楽死させ、器官および腫瘍を採取し、IFN-γELISPOT分析(Mabtech、Palo Alto CA)のための単一細胞懸濁液とした。その後、最も免疫原性の高いペプチドのプールを同定した後、MHC-I分子上のこれらのペプチドを認識する特異的CD8T細胞のフローサイトメーターに基づく検出のために、カスタムテトラマーまたはペンタマー(Proimmune、UK)を生成した。
【0082】
腫瘍特異的ペプチド被覆腫瘍崩壊性アデノウイルスの生成および物理的特徴付け
OVA由来のペプチドは非常によく知られているので、概念実証として、本発明者らは最初にOVA特異的に被覆ウイルスを生成した(図6)。より具体的には、本発明者らは、SIINFEKL被覆アデノウイルス(SIINFEKL(配列番号1)は、最も免疫原性の高いOVA由来ペプチドである);SIINFEDL被覆ウイルス(SIINFEDL(配列番号7)はSIINFEKLペプチドのアンタゴニストである);FILKSINE被覆ウイルス(FILKSINE(配列番号3)はSIINFEKLのスクランブルペプチドである)を生成した。
【0083】
方法2a:
ペプチド被覆腫瘍崩壊性アデノウイルスを生成するために、異なる戦略が考慮された(図7)。
【0084】
一つはウイルスとペプチドとの間の静電結合を用いるものであり、他の二つはウイルスとペプチドとの間の共有結合を伴うものである。
I.静電相互作用。陰性ウイルスカプシドと複合体を形成した陽性荷電ペプチド26
II.共有結合。カプシドのタンパク質のシステインとのジスルフィド結合27,28
III.共有結合。アミド結合。カプシドのリジンのアミン基とのスクシンイミジルエステル反応28
連結の方法は対応する参考文献に記載されている。
【0085】
本発明の一実施形態では、ペプチド被覆腫瘍崩壊性アデノウイルスを以下のように調製した:
PeptiCRAd複合体形成
この研究に記載されているすべてのPeptiCRAd複合体は、以下のプロトコールに従って、腫瘍崩壊性ウイルス(「腫瘍崩壊性アデノウイルス調製物」の項で記載)とポリKエピトープとを1:500の比で混合することによって調製した(図8Aおよび12参照)。i)用いたウイルス調製物1マイクロリットルにつき、存在するタンパク質のマイクログラムの対応する数を計算し、ii)次に、ウイルスタンパク質1マイクログラムにつき500μgのペプチドを添加し、iii)ボルテックス後、混合物を室温(RT)で15分間インキュベートし、iv)溶液をボルテックスし、アッセイまたは動物注射に使用した。 新鮮な試薬を用いて各実験の前に新しいPeptiCRAdを調製した。インキュベーション前に必要とするウイルスおよびペプチドをすべて、pH7.4に調整した滅菌Milli-Q水で希釈した。次いで、PeptiCRAdをアッセイに必要とされる緩衝液で希釈した。
【0086】
方法2b:
方法2aのこのペプチド被覆ウイルスの感染性を、異なる細胞株(ヒトおよびマウス)においてルシフェラーゼアッセイおよびqPCRによってインビトロで評価した30。感染性を評価するために、CARの発現レベルが異なる異種腫瘍細胞株のパネルに、異なる濃度のルシフェラーゼ発現被覆ウイルス(Ad5D24-Luc)(1、10、100、1000VP/細胞)を感染させ、被覆されていないウイルスを常にコントロールとして用いた。異なる時点でルシフェラーゼ発現を定量した。同時に、全DNAを回収し、qPCRによりウイルスDNA複製を定量した。インビトロでの腫瘍崩壊活性をTCID50およびMTSアッセイにより試験した31
【0087】
本発明の一実施形態では、以下のように感染力をICCによって調べた。
ICCによる感染性アッセイ
腫瘍細胞を、1ウェルあたり2.0×10個の細胞で3または5回反復して24ウェルプレートに播種した。翌日、細胞を100μlのウイルス希釈液で感染させた。次いで、プレートを37℃で1,000rcfで90分間遠心分離し、続いて48時間インキュベートした。インキュベーション期間の後、培地を除去し、250μlの氷冷メタノールで15分間インキュベートすることによって細胞を固定した。メタノールを除去した後、細胞を1%ウシ血清アルブミン(BSA)を補充した300μlのPBSで3回洗浄した。次いで、細胞を1:2,000に希釈した250μlのマウスモノクローナル抗ヘキソン抗体(Novus Biologicals、Littleton、CO、USA)を用いて暗所で室温で1時間かけて染色した。次いで、細胞を洗浄し、PBS/1%BSAで1:500に希釈した250μlのビオチン-ストレプトアビジン結合ヤギ抗マウス抗体で、暗所で室温で1時間かけて染色した。その後、細胞を1:200に希釈した250μlのextravidin-ペルオキシダーゼ(Sigma-Aldrich、St. Louis、MO、USA)と共にRTで30分間インキュベートした。細胞を広範囲に洗浄し、DAB染色溶液(Sigma-Aldrich、St.Louis、MO、USA)を製造者の指示に従って調製した。次に、合計250μlのDAB染色溶液を各ウェルにアプライし、細胞を暗点の出現について顕微鏡下でモニターした。最適なシグナル対ノイズ比に達したら、PBS/1%BSA(1ウェル当たり500μl)の添加により反応を停止させた。各複製物(すなわち、ウェル)について、AMG EVOS XL顕微鏡(AMGグループ、Life Technologies)を用いて、非重複フィールドの5つの画像を取得した。以下の式を用いて感染力価を決定した:
感染力価=x*(ウェル面積)/(フィールド面積)*1/(希釈率)*(1ml)/(適用希釈量)
感染性の比較のために、データは、各フィールドにおける平均スポット数として表した。
【0088】
方法2の裏付け:
負に荷電したアデノウイルスカプシドを腫瘍特異的ペプチドで静電的に被覆した。この複合体は、ペプチドの量に比例するZ電位の変動を有していた。このZ電位の変化は、正に荷電したペプチドが電荷の反転を決定するウイルスカプシドに結合していることを示した(図8Aの点線)。カプシドの負の電荷すべてが飽和した後、Z電位はプラトーになるようであった(図12の円を付した線)。インビトロおよびインビボの有効性に進むために、500nMを超えるポリペプチド濃度で均一な単分散複合体を形成することができる。
【0089】
ペプチド被覆アデノウイルス複合体をさらに特徴付けるために、本発明者らは、PeptiCRAdの細胞殺傷の効果を非被覆腫瘍崩壊性ウイルスと比較するいくつかの生存率アッセイ(MTSアッセイ)を行った(図9)。この結果は、ウイルスの被覆が、被覆されていない腫瘍崩壊性ウイルスと比較して、変わらないかまたはより良好な細胞死滅活性を常にもたらすことを示す。
【0090】
本発明の一実施形態では、生存率アッセイを以下のように行った。
生存率アッセイ
腫瘍細胞を、5%FBSを含む成長培地に、96ウェルプレート上に1.0×10細胞/ウェルで播種した。翌日、培地を除去し、2%FBSを含む成長培地で希釈した50μlのウイルスを用いて、細胞を37℃で2時間かけて感染させた。その後、5%FBSを含む100μlの成長培地を添加し、細胞を再び37℃でインキュベートした。成長培地は1日おきに交換した。最も感染力の強い条件(100vp /細胞)が広範囲の細胞変性効果(>90%)を示した場合、製造業者のプロトコール(CellTiter 96 AQueous One Solution細胞増殖アッセイ;Promega、Nacka、Sweden)に従ってMTSアッセイによって細胞生存率を測定した。分光光度データは、Varioskan Flash Multimode読み取り機(Thermo Scientific、Carlsbad、CA、USA)を用いて取得した。
【0091】
研究デザイン
サンプルサイズは以下の式を使用して決定した。
n=1+2C(s/d)^2
ここで、Cはα値とβ値に基づく定数であり、sは推定された変数であり、dは観測される効果である(34)。すべての動物実験について、少なくとも80%のパワー(1-β)と0.05の有意性(α)が考慮された。データ収集を停止するための条件は、i)1または複数の群におおける60%を超えるマウスの死、およびii)腫瘍の全クリアランスとした。実験終了前に死亡したマウスをすべて増殖曲線から除外して、分析の統計的完全性を維持した。
【0092】
この研究の目的は、メラノーマモデルを用いて、OAdがペプチド癌ワクチンアプローチの有効なアジュバントであるかどうかを試験することであった。さらに、2つの具体的な疑問が提起された:i)PeptiCRAdは遠隔の未治療の腫瘍の成長を制限することができるか? ii)PeptiCRAdの有効性は、単一の腫瘍抗原の代わりに複数の腫瘍抗原を標的とすることによって高められるか?これらの疑問に答えるために、本発明者らはメラノーマ腫瘍を有する免疫応答性またはヒト化マウスを利用した。マウスを無作為に各実験群に割り当て、盲検化を採用しなかった。
【0093】
細胞株、試薬およびヒト試料
ヒト肺癌細胞株A549、ヒト結腸直腸腺癌細胞株CACO-2、ヒト悪性メラノーマ細胞株SK-MEL-2、ヒトメラノーマ細胞株HS294Tおよびマウスメラノーマ細胞株B16-F10は、アメリカンタイプカルチャーコレクション(ATCC;Manassas、VA、USA)より購入した。ニワトリOVAを発現するマウスメラノーマ細胞株である細胞株B16-OVA(35)は、Richard Vile教授(Mayo Clinic、Rochester、MN、USA)により快く提供された。
【0094】
A549、CACO-2およびB16-OVA細胞株を低グルコースDMEM(Lonza、Basel、Switzerland)で培養し、HS294T細胞株を高グルコースDMEM(Gibco、Life Technologies、Carlsbad、CA、USA)で培養し、SK-MEL-2細胞株をEMEM(ATCC)で培養し、B16-F10細胞株をRPMI-1640(Gibco、Life Technologies)で培養した。rの培地に10%ウシ胎児血清(FBS;Gibco、Life Technologies)、2mM GlutaMAX(Gibco、Life Technologies)および100U/mlペニシリンおよび0.1mg/mlストレプトマイシン(Gibco、Life Technologies)を補充した。B16-OVA細胞株はまた、5mg/mlジェネテシン(Gibco、Life Technologies)の存在下で培養して、OVA発現細胞の選択を確実にした。培養期間またはアッセイに必要な時に、細胞を1×リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で洗浄し、37℃で3分間、1×TrypLE Express(Gibco、Life Technologies)と共にインキュベートすることによって分離した。
【0095】
SIINFEKL(OVA257-264)、polyK-SIINFEKL、SIINFEKL-polyK、polyK-AHX-SIINFEKL、polyK-SVYDFFVWL(TRP-2180-188)、polyK-KVPRNQDWL(hgp10025-33)およびpolyK-SLFRAVITK(MAGE-A196-104)ペプチドは、Zhejiang Ontores Biotechnologies Co.(Zhejiang、China)から購入した。すべてのペプチドの純度は>80%であると推定され、これらを質量スペクトル分析によって分析した。
【0096】
実施例の章では、polyKは6Kを指す。
ペプチドの正味電荷は、ペプチド特性計算機バージョン3.1オンラインツール(http://www.biosyn.com/PeptidePropertyCalculator/PeptidePropertyCalculator.aspx)によって算出した。
【0097】
SK-MEL-2細胞株の遺伝子型はHLA-A*03-*26、B*35-*38、C*04-*12である。健康なドナーからのバフィコートもフィンランド赤十字社サービスから入手し、その遺伝子型はHLA-A*03-*03、B*07-*27、C*01-*07と判定された。
【0098】
動物モデルにおける被覆アデノウイルスの特性
方法3a:
本発明者らは、被覆ウイルス対被覆されていない一般的な腫瘍崩壊性ウイルスの有効性、免疫原性、毒性、生体内分布をインビボで試験した。有効性および免疫原性を、B16-OVA腫瘍を持つC57BL/6マウスにおいて試験した。SIINFEKL被覆ウイルスは、他の被覆ウイルス(アンタゴニスト、スクランブルおよび非被覆)と比較して、より顕著な腫瘍制御(有効性)に変換される、より強固な抗OVA応答を示した。同時に、放射能標識細胞(DCおよびT細胞)の適応的移入を介して、これらの細胞の腫瘍微小環境への輸送も評価した。最後に、改変されたアデノウイルスベクターの毒性および生体内分布も研究した。
【0099】
被覆されたウイルスの有効性を研究するために、同系B16-OVA腫瘍(マウスあたり2つの腫瘍)を持つ異なるグループのC57BL/6マウス(1群当たりN=15)を以下のように処置した:a)SIINFEKL被覆ウイルス、b)SIINFEDL被覆ウイルス、c)FILKSINE被覆ウイルス、およびd)コントロールとしての被覆されていないウイルス。ウイルスの投与後3日目から開始する異なる時点で、1群当たり2匹のマウスを安楽死させ、脾臓、リンパ節および腫瘍を採取し、ELISPOT、共培養およびフローサイトメトリー分析のための単一細胞懸濁液とした。同時に、標準的なキャリパーを用いて腫瘍増殖を経時的に測定した。フローサイトメトリー分析により、腫瘍、脾臓およびリンパ節(腫瘍を排出するものおよびしないもの)におけるSIINFEKL特異的T細胞の量を直接明らかにした。この分析のために、本発明者らはSIINFEKL特異的ペンタマーを用いた(例えば、31)。マウスIFN-γELISPOTにより、抗OVA(抗SIINFEKL)T細胞活性化の定量的指標を得た。共培養実験において、B16およびB16-OVAを死滅させるT細胞(実験マウスから採取)の能力をインビトロで試験した。細胞を異なる細胞:標的比で共培養し、B16およびB16-OVA生存率をMTSまたはMTTアッセイによって評価した。このすべての実験において、OT-Iマウスから採取したT細胞をコントロールとして用いた。ヒトアデノウイルスが半許容性である33OVAを発現するネズミ腫瘍であるCMT64-OVAモデルも用いた。
【0100】
方法3b:
i)OVA-ペプチド(SIINFEKL(配列番号1))、ii)B16ペプチドTRP2(SVYDFFVWL(配列番号5))、iii)hgp100ペプチド(KVPRNQDWL(配列番号6))またはiv)方法1で同定された新規ペプチドで被覆されたウイルスの抗腫瘍活性および免疫原性を比較した。
【0101】
これらのウイルスは、抗腫瘍免疫応答を誘導する能力および有効性について試験した。 抗ウイルス応答を抗腫瘍応答と比較した(ELISPOTおよびペンタマー分析)。 異なるエピトープに対する免疫応答を誘導する(例えば、OVAウイルスがTRP2応答、エピトープの拡散を引き起こす)能力もまた評価した。この方法で使用される方法は方法3aに既に記載されている。
【0102】
方法2および3に基づく研究:
図7ストラテジーIに記載するように、本発明者らは、OVA特異的PeptiCRAd(SIINFEKL被覆腫瘍崩壊アデノウイルス)を生成した。簡潔には、合成SIINFEKLペプチドを合成し、ポリリジンリンカー(ポリK-SIINFEKL)に結合させて、ペプチドに正味の正電荷を与え、注射の30分前に正味の負電荷を有するネイキッドなウイルスと複合体を形成させた。次いで、この複合体を皮下B16-OVA腫瘍を有するマウスに腫瘍内投与した。腫瘍増殖をモニターし、実験の最後にマウスを安楽死させ、腫瘍を収集し、OVA特異的T細胞をフローサイトメトリーによって定量した(図10)。
【0103】
この実験は、本発明の改変アデノウイルスベクターがウイルス単独と、別々に投与されたウイルスおよびペプチドと比較して優れていることを実証する。また、ペプチドの濃度が高くなるにつれ、腫瘍特異的T細胞の誘発が少なくなるようであるため、被覆ウイルスの正しい処方の重要性も示された(データ示さず)。
【0104】
第二世代被覆アデノウイルス
方法4:
第二世代のPeptiCRAdは、より強力で多価の免疫応答を引き出すために、腫瘍崩壊性ウイルスを1つより多くのペプチドでコーティングすることによって作製した。これらの新しいウイルスは方法2のように特徴付けられ、有効性は方法3に記載するように評価した。続いて、本発明者らは、サイトカイン武装腫瘍崩壊性アデノウイルスをいくつかのタイプのポリペプチドでコーティングした。ポリペプチドは、同じ抗原の異なるMHC-I特異的ペプチド、または異なる抗原由来のMHC-Iペプチド、またはMHC-IおよびMHC-II拘束ペプチドの組み合わせのいずれであってよい。
【0105】
被覆腫瘍崩壊性ウイルスを分析するために使用される方法
ゼータ電位および動的光散乱(DLS)分析
被覆された腫瘍崩壊性ウイルス試料は、タイトル「PeptiCRAd複合体形成」の項に記載したように調製した。次いで、各サンプルをボルテックスし、pH7.4に調整した滅菌Milli-Q水で最終容量700μlに希釈した後、サンプルをポリスチレン使い捨てキュベットに移して複合体のサイズを決定した。 次いで、試料をキュベットから回収し、ゼータ電位測定のためにDTS1070使い捨て毛細管(Malvern、Worcestershire、UK)に移した。 すべての測定は、Zetasizer Nano ZS(Malvern)を用いて25℃で行った。
【0106】
SPR
ポリK-SIINFEKLまたはSIINFEKLとOAdとの相互作用をSPRを用いて評価した。測定は、マルチパラメトリックSPR Navi(商標)220A装置(Bionavis Ltd、Tampere、Finland)を用いて行った。この装置は、統合された流体システムを備えた温度制御二重流体チャネルと、緩衝液および試料の取り扱いのためのオートサンプラーとを含む。泳動緩衝液として、pHを7.4に調整したMilli-Q水を使用した。さらに、30μl/分の一定流量を実験を通して使用し、温度を+20℃に設定した。表面プラズモン励起には波長670nmのレーザー光を用いた。
【0107】
SPR実験の前に、二酸化ケイ素表面を有するセンサースライドを、3分間のプラズマ処理によって活性化し、その後、センサーをトルエン溶液中50mM APTES中で1時間インキュベートすることによってAPTES((3-アミノプロピル)トリエトキシシラン)でコーティングした。次いで、センサーをSPR装置に入れ、Milli-Q水(pH7.4)中に50μg/mlのOAdを約12分間注入し、続いて20mMのCHAPS(3-[(3-コラミドプロピル)ジメチルアンモニオ]-1-プロパンスルホネート)で3分間洗浄することにより、OAdを試験チャネルのセンサー表面上にインサイツに固定化した。第二の流体チャネルを基準として用い、Milli-Q水(pH7.4)を注入し、続いてCHAPSで洗浄した。ベースラインは、サンプル注入前の少なくとも10分間観察した。次いで、PolyK-SIINFEKLまたはSIINFEKLを、フローセルの両方の流体チャネルに濃度を上げながら同時に注入した。
【0108】
交差提示(クロスプレゼンテーション)実験
新鮮な脾臓をナイーブC57BL/6マウスから採取し、70μm細胞ストレーナー(Fisher Scientific、Waltham、MA、USA)に通した。5mlのACK溶解緩衝液(Life Technologies)と共に試料を室温で5分間インキュベートすることにより、赤血球を溶解させた。その後、脾細胞を洗浄し、アッセイ用に調製した(試験した各条件について10%RPMI-1640培地800μl中2×10細胞)。SIINFEKL、polyK-SIINFEKL、SIINFEKL-polyKまたはSIINFEKL-AHX-polyKペプチド希釈物(0.19μg/μl)の合計200μlを脾細胞に添加した。OVA-PeptiCRAdを試験するために、100vp/細胞の感染条件を使用した(200μlの10%RPMI-1640中37.5μgのpolyK-SIINFEKLと混合した合計7.9×10vp)。PeptiCRAd複合体を方法2の記載に従って調製した。次いで、脾細胞を37℃で2時間インキュベートした。その後、細胞を十分に洗浄し、SIINFEKLに結合したAPC抗マウスH-2KまたはAPCマウスIgG1(κアイソタイプCtrl)(BioLegend、San Diego、CA、USA)のいずれかで染色した。氷上で30分間インキュベートした後、サンプルを洗浄し、フローサイトメトリーで分析した。
【0109】
フローサイトメトリー分析
処置したマウスの腫瘍、脾臓およびリンパ節を収集し、70μm細胞ストレーナーに通し、10%RPMI-1640培地中で一晩培養した。必要に応じて、サンプルをRPMI-1640(10%FBSおよび10%DMSOを含む)中で凍結し、-80℃で保存した。単一細胞懸濁液を蛍光色素結合モノクローナル抗体で染色し、BD LSR II(BD Biosciences)またはGallios(Beckman Coulter)フローサイトメーターおよびFlowJoソフトウェア(Tree Star、Ashland、OR、USA)を用いて分析した。滅菌PBSを染色緩衝液として使用した。エピトープ特異的T細胞をMHCクラスIペンタマー(ProImmune、Oxford、UK)を用いて研究した。使用した他の抗体には以下のものを含めた:ネズミおよびヒトFcブロックCD16/32(BD Pharmingen)、FITC抗マウスCD8およびFITC抗ヒトCD8(ProImmune)、PE/Cy7抗マウスCD3ε、PE/Cy7抗マウスCD19、FITC抗マウスCD11c、PerCp/Cy5.5抗マウスCD86、SIINFEKLに結合したAPC抗マウスH-2Kb、およびAPCマウスIgG1(κアイソタイプCtrl)(BioLegend)。すべての染色手順は、製造業者の推奨に従って実施した。
【0110】
統計分析
統計的有意性は、GraphPad Prism 6(GraphPad Software、Inc.、La Jolla、CA、USA)を用いて測定した。各実験からのデータを分析するために使用される統計的方法の詳細な説明は各図面の簡単な説明に記す。
【0111】
動物実験と倫理問題
動物実験は、フィンランドおよびヨーロッパの法律および法案の下で行われた。動物許可証(ESAVI/5924/04.10.03/2012)は、フィンランド当局(ヘルシンキ大学実験動物委員会および南フィンランド州政府)によって改訂され、承認された。完全免疫応答性C57BL/6マウスをScanbur(Karlslunde、Denmark)から入手し、免疫不全トリプルノックアウトNOD.Cg-Prkdcscid-IL2rgtm1Wjl/SzJマウスをJackson Laboratories(Bar Harbor、ME、USA)から入手した。すべてのマウスを4~6週齢で購入し、試験前に2週間隔離した。マウスは隔離され調節された気流でケージに保持され、研究期間全体にわたって無制限に食べ物を利用可能とした。マウスの健康状態は頻繁に監視され、動物は痛みまたは苦痛の最初の兆候で屠殺した。すべての手順は、無菌条件下でのバイオセーフティーレベル2のキャビネット内で行った。
【0112】
有効性実験のために、60~70%コンフルエンス(対数増殖期)で腫瘍細胞を収集し、マウスの側腹部に皮下(s.c.)注入した。各側腹部に注入された腫瘍細胞の数は細胞株のタイプにより異なり、3×10個のB16-OVA、1×10個のB16-F10、および2×10個のSK-MEL-2とした。すべての実験において、3回の治療注射を行った。次いで、腫瘍の増殖を追跡し、式を用いて腫瘍体積を測定した。
【0113】
本発明者らのライセンスに従い、人道的エンドポイントは、i)25%の体重減少、ii)腫瘍直径>15mm、およびiii)明らかな痛みの徴候(腫瘍の移動または潰瘍の減少)とした。安楽死は、二酸化炭素吸入に続いて頸椎脱臼により実施した。
【0114】
結果
アデノウイルスカプシドの負電荷は、正に荷電した免疫原性ペプチドを複合させて、PeptiCRAdを形成するために使用することができる
アデノウイルスカプシドは非常に高い正味の負電荷を有する(36)。ゆえに、本発明者らは、正に荷電したMHC-I拘束ペプチドが、免疫学的に関連するペプチド(すなわち、腫瘍特異的MHC-I拘束ペプチド)でウイルスを覆う静電相互作用によってカプシドに結合すると仮定した。本発明者らの仮説を検証するために、B16-OVA腫瘍モデルを用いた(37)。この細胞株はニワトリ卵白アルブミン(OVA)を発現し、MHC-I上にモデルエピトープとして用いられるOVA由来ペプチドSIINFEKLを提示する。
【0115】
中性疎水性SIINFEKLペプチドと負のウイルス表面との間の静電的相互作用を可能にするために、本発明者らはペプチド配列にポリリジン(polyK)鎖を付加した。この化学修飾により、生理学的条件下でのペプチドの正味電荷が0~+ 6mV増加した。次に、表面プラズモン共鳴(SPR)によるウイルスカプシドと改変ペプチドとの間の相互作用を調べた。特に、APTESシリカSiOセンサーをOAdでコーティングし、SIINFEKLまたはpolyK-SIINの濃度を上げながら流動システムに注入した(図8B)。シグナルの増加は、改変していないペプチド(図8B、破線)では観察されなかったが、改変ペプチド(図8B、実線)ではシグナルの濃度依存的増加が観察され、ペプチドの改変がアデノウイルスカプシドとの相互作用を著しく増加させたことが示された。
【0116】
次に、ウイルス表面を効率的に被覆するのに必要なペプチドの最適濃度を調べた。この目的のために、異なるOAd:ペプチド比(1:5、1:50、1:100および1:500)から生じるウイルス-ペプチド複合体の正味の電荷および流体力学的直径を評価した。本発明者らは、反応における陽性ペプチドの量と複合体の正味電荷との間に明確な関連を観察した(図8A)。最も低い比(1:5)は、ウイルス粒子の電荷を-29.7±0.5から+6.3±0.06mVまで増加させることができたが、これらの条件下では重い凝集が観察された。この凝集は、複合体のサイズの増加に表されている(800±13.5nm)。1:5より大きいものでは正味電荷が増加し、プラトー様動態に達した。実際には、1:50、1:100および1:500の比それぞれについて、+17.5±0.2、+18.4±0.1および+18±0.8mVのゼータ電位を測定した。しかしながら、1:500の比の複合体の直径のみは、アデノウイルス粒子の正常な直径である120nm未満に低下した(図8A)。再現性を容易にするために、同じ実験を比ではなくペプチドの濃度で繰り返した(図12)。
【0117】
PeptiCRAdに吸着された改変MHC-Iエピトープは効率的に交差提示される
効果的な細胞傷害性Tリンパ球媒介性免疫応答を誘導するためには、ペプチドはAPC上のMHC-Iを介してナイーブCD8+Tリンパ球に交差提示されなければならない。したがって、本発明者らは、ポリK鎖の存在および位置が交差提示の効率に影響を及ぼすかどうかを調べた。この目的のために、本発明者らは、天然SIINFEKLまたは2つの異なるリジン伸長バージョン:ポリK-SIINFEKL(N末端伸長)およびSIINFEKL-polyK(C末端伸長)のいずれかを用いて、エクスビボで培養した脾細胞(C57BL/6マウス由来)をパルスした。ネガティブコントロールとして、本発明者らは、プロテオソームのタンパク質分解活性を阻害することができるリジンのよく知られた類縁体である、アミノカプロン(AHX)残基を含む伸長SIINFEKLを含めた。次に、SIINFEKLを搭載したMHC-Iを特異的に認識する抗体を用いてSIINFEKLの交差提示を評価した(38)。
【0118】
予想通り、SIINFEKLパルス脾細胞の98.5%は、脾細胞膜上のMHC-I分子上のSIINFEKLの存在について陽性であった(図13A)。興味深いことに、ペプチドの配列中のポリK鎖の位置は、染色された細胞の割合を有意に変化させた。実際、N末端伸長ペプチドでパルスされた脾細胞の94.5%がSIINFEKLを交差提示した。対照的に、脾細胞をC末端伸長SIINFEKL-polyKでパルスした場合、染色された集団は27.1%に減少した。ネガティブコントロールSIINFEKL-AHX-polyKでパルスすると、脾細胞の1.36%のみがSIINFEKLペプチドを交差提示した。これらの知見に基づいて、さらなる研究のためにN末端伸長型(polyK-SIINFEKL)を選択した。
【0119】
次に、本発明者らは、ウイルスカプシドへの改変SIINFEKLの吸着がその交差提示に影響を及ぼし得るかどうかを調べた。以前の実験と同様に、本発明者らはペプチドSIINFEKLまたはpolyK-SIINFEKLまたはOVA-PeptiCRAdを用いてマウス脾細胞をインキュベートした。本発明者らは、PeptiCRAdを形成するOAdと複合体化したN末端伸長polyK-SIINFEKLが、SIINFEKLペプチドの効率的なMHC-I拘束提示を可能にすることを見出した(図13B)。
【0120】
PeptiCRAdは、改変されていないウイルスと比較して、変わらない感染力および完全な腫瘍崩壊活性を示す
OAdは腫瘍細胞に選択的に感染し、OAd複製サイクルを介してそれらを溶解することができる。したがって、本発明者らは、改変されたペプチドでウイルスをコーティングすることがそれらの生物学的特性に影響を与えるかどうかを調べた。本発明者らは、低レベルのコクサッキーおよびアデノウイルスレセプター(CAR)を発現するヒト結腸直腸腺癌細胞株(CACO-2)および高いレベルのCARを発現する2つのヒトメラノーマ細胞株(SK-MEL-2およびA2058)を選択して試験した。OVA-PeptiCRAdと非改変ウイルスAd5D24とを比較するインビトロ生存率アッセイを最初に実施し(図14A)、結果は腫瘍崩壊活性に関して有意差を示さなかった。予想通り、最も感染性の高い条件(100vp/細胞)は、すべての細胞株において最も低い生存率と相関していた。さらに、本発明者らは、ペプチドpolyK-SIINFEKLが細胞に対して毒性作用を及ぼさないことを示した。
【0121】
次に、インビトロで同じ細胞株を用いた免疫細胞化学(ICC)アッセイによりPeptiCRAdの感染性を評価した(図14B)。PeptiCRAdは、SK-MEL-2細胞株において差異は観察されなかったが、CACO-2およびA2058細胞株においてはネイキッドのアデノウイルスと比較して感染力の有意な増加(P<0.01)を示した。この増加は、PeptiCRAdおよびネイキッドのアデノウイルスの異なる電荷によるものと考えられる(36)。
【0122】
メラノーマのネズミ科モデルにおけるPeptiCRAd癌ワクチンの抗腫瘍効果および免疫学の研究
PeptiCRAdの抗腫瘍効果およびそれが促進する抗腫瘍免疫を徹底的に研究するために、初めにニワトリOVA(B16-OVA)を過剰発現するメラノーマのネズミ科モデルを使用した(35)。具体的には、B16-OVAをマウスの側腹部に移植し、その後、定着した腫瘍を処置した。実験は、E1A(Ad5D24)にD24欠損を有するOAd(37)を用いて行い、CpGリッチアデノウイルス(Ad5D24-CpG)(39)を繰り返し用いてさらに免疫を増強した(図15)。試験群にはOVA-PeptiCRAd、非複合Ad5D24-CpGおよびSIINFEKL(Ad5D24-CpG+SIINFEKL)、OAd(Ad5D24-CpG)またはペプチド(SIINFEKL)単独または生理食塩水(mock)で処置したマウスを含めた。
【0123】
PeptiCRAd処置は、偽処置またはOAdおよびSIINFEKLの混合物と比較して、腫瘍増殖を有意に減少させた(P<0.01)。実験の最後に、OVA-PeptiCRAd処置マウスの腫瘍の平均体積は、他のすべての群のものよりも低かった(120.4±31.6mm対mockでは697.7±350mm、SIINFEKLでは255±61.5mm、およびAd5D24-CpGでは713.7±292.6mm、Ad5D24-CpG+SIINFEKLでは489.7±73.2mm図15A)。
【0124】
2つの異なる時点(早期および後期のそれぞれ7日目および16日目)において、マウスを屠殺し、脾臓、腫瘍および排液リンパ節を免疫分析のために収集した。この分析により、PeptiCRAdで処置したマウス群における鼠径排液リンパ節におけるSIINFEKL特異的CD8+T細胞(CD8+OVA+T細胞)の大きな集団の存在が明らかになった(7日目に7.4%および16日目に3.2%)。同じ分析では、早期の時点で腫瘍の劇的な差異は見られなかったが、後期では実質的な増加が観察された(16日目においてOVA-PeptiCRAdでは0.23%、mockでは0.02%、SIINFEKLでは0.03%、Ad5D24-CpGでは0.01%およびAd5D24-CpG+SIINFEKLでは0.02%;図15BおよびC)。
【0125】
次に、腫瘍のサイズと、脾臓、リンパ節および腫瘍におけるOVA特異的T細胞(CD8+OVA+T細胞)の集団との相関を調べた。本発明者らは、相関の性質(負の値、負の相関、正の値、正の相関)を評価するためにピアソンのr値を計算し、腫瘍体積と抗OVA応答の程度との間に負の相関を観察した(図15D)。これは、より小さな腫瘍を有する動物の群は、CD8+OVA+T細胞のより強い集団を有する動物の群に一致することを示唆する。その後、この相関の強さを評価するために、サンプルの各セットについてr値を計算した(脾臓、r=0.5719;リンパ節、r=0.6385;腫瘍、r=0.7445)。興味深いことに、相関解析では、PeptiCRAd群(図15Dの赤い点)は一貫して最小の腫瘍体積および最大の免疫応答を示した。
【0126】
最後に、PeptiCRAdのメカニズムの理解を深めるために、本発明者らは、マウスの脾臓におけるMHC-I上のSIINFEKLペプチドを提示する成熟DC(CD19CD3CD11cCD86high細胞)の割合を評価した。後期の時点で、成熟SIINFEKL提示DCの割合は、OVA-PeptiCRAdで処置したマウスでは、非複合Ad5D24-CpG+SIINFEKLで処置したマウスより有意に高かった(P<0.05)。両方の時点を考慮すると、CD86highOVADC集団における9.67倍の増加によって示されるように、PeptiCRAd処置のみが成熟SIINFEKL提示DCにおける増加を誘導した(図15E)。
【0127】
これらの結果は、成熟およびエピトープ特異的DCプールの拡大が、PeptiCRAdの高い抗腫瘍効果の基礎であり得ることを示唆している。
【0128】
多価PeptiCRAdは、遠く離れた未処置メラノーマに対して増強された抗腫瘍活性を示す
腫瘍崩壊性ワクチンを使用する主な利点の1つは、誘発された免疫応答が、原発腫瘍だけでなく播種性転移を標的とすることを容易にすることである。この理由のために、本発明者らは、メラノーマのネズミ科モデルにおける、未処置対側腫瘍に対するPeptiCRAdの抗腫瘍効果を調べた。同様の一連の実験において、本発明者らはまた、単一のものではなく、2つの腫瘍抗原(多価PeptiCRAdを介して)を標的とすることが全体の有効性を増加させるかどうかを検討した。したがって、本発明者らは、腫瘍崩壊性ウイルスAd5D24-CpGをコートするために2つの腫瘍特異的MHC-I拘束エピトープ:SVYDFFVWL(TRP-2180-188;ネズミ科MHC-I分子H-2Kに限定)およびKVPRNQDWL(ヒトgp10025-33またはhgp100;ネズミMHC-I分子H-2D(40)に限定)を選択した。これらの実験では、両方の腫瘍抗原を発現する非常に侵攻性の高いメラノーマB16-F10を用いた(41)。先のSIINFEKLについてのように、ペプチドをN末端でポリK鎖で修飾してウイルスカプシドへの吸着を促進した。
【0129】
初めに、1×10個のB16-F10細胞をC57BL/6マウスの右側腹部に移植した。10日後、i)生理食塩水(mock)、ii)ネイキッドな腫瘍崩壊性ウイルス(Ad5D24-CpG)、およびiii)二重被覆されたTRP-2-hgp100-PeptiCRAdによる処置を開始した。図6Aの模式図に示すように、治療は2日毎に腫瘍内投与した。最後の注射ラウンドの2日後に3×10のB16-F10細胞をマウスの左側腹部に注射し、メラノーマの成長を追跡した。二重コートしたPeptiCRAdで処置したマウスはコントロールと比較して、腫瘍増殖を有意に低下させた(11日目;図16A)(P<0.001)。二次腫瘍および未治療腫瘍の分析により、二重コートされたPeptiCRAdの利点が他のすべての群より優れていることが明らかになった。特に、実験終了時に、この群の二次腫瘍は、生理食塩水溶液を投与されたコントロールまたはAd5D24-CpGのみを投与された群と比較して有意に小さかった(P<0.01;図16B)。
【0130】
これらの結果を裏付けるメカニズムをより明確にするために、フローサイトメトリー分析を行って、両エピトープに対する特異的T細胞応答を調べた。TRP-2-hgp100 PeptiCRAdで処置したマウスでは、エピトープ特異的CD8+T細胞の累積集団が他のすべての群よりも大きいことが観察された(図16C)。
【0131】
まとめると、これらの結果は、PeptiCRAdアプローチは、免疫原性が低くかつ侵攻性の高いメラノーマモデルに対して有効であることを実証する。さらに、複数の抗原を標的とすることは、治療された腫瘍および未治療の腫瘍の両方に強い影響を及ぼす。したがって、多価のPeptiCRAdを生成することが可能であり、異なる腫瘍抗原を標的とする可能性を与え、それにより腫瘍の免疫学的回避を克服することができる。
【0132】
PeptiCRAdは、ヒト腫瘍を有するヒト化マウスにおいて増強された有効性および抗腫瘍免疫を示す
最後に、臨床現場への転換の実行可能性に関する情報を提供することができるモデルにおけるPeptiCRAdの有効性評価を試みた。したがって、本発明者らはより高性能のヒト化マウスモデルを選択した。この目的のために、まずトリプルノックアウトマウス(NOD.Cg-Prkdcscid-IL2rgtm1Wjl/SzJ、またはNSG)にヒトメラノーマ細胞株SK-MEL-2を移植した。腫瘍が触知可能な大きさに達したとき、健康なドナー由来の部分的に適合したヒト末梢血単核球(PBMC)を同じマウスに移植した。1日後、マウスをPeptiCRAd、被覆されていないウイルスまたは生理食塩水で処置した。この実験では、メラノーマ関連抗原A1(MAGE-A196-104;SLFRAVITK)由来のペプチドを選択し、それを改変してウイルスカプシド(polyK-SLFRAVITK)との相互作用を可能にした。この実験では、本発明者らはヒトの免疫系を十分に研究していたので、ヒトGM-CSFを発現するOAdを選択した。このOAdは本発明者らが以前に癌患者を含む免疫応答系で活性を増強することを示したものである(8)。
【0133】
本発明者らは、MAGE-A1 PeptiCRAdが、腫瘍体積の急速な減少によって示されるように、コントロール処置と比較して増加した有効性を示したことを明らかにした(図17AおよびB)。最後に、本発明者らは、より強力な免疫応答が、このモデルにおけるPeptiCRAdの増加した抗腫瘍効果を説明できるかどうかを調べた。この目的のために、本発明者らは、ペンタマー染色によってMAGE-A196-104特異的CD8T細胞の存在を研究したところ(図17C)、PeptiCRAdで処置したマウスの脾臓においてヒトMAGE特異的T細胞(CD8MAGE-A1)の集団が最も大きかったことを明らかにした。
【0134】
これらのデータは、PeptiCRAdが腫瘍崩壊性ウイルスの自然免疫原性を利用して腫瘍特異的免疫応答を刺激し、これに起因して癌免疫療法の有効性を改善するという本発明者らの先の知見を裏付けるものである。
【0135】
任意の疾患およびアデノウイルスカプシドのコーティングに対するMHC-I特異的ポリペプチドの分析およびその使用
任意のMHC-I特異的ポリペプチドが、DCおよび対象の感染した疾患細胞に代表されるMHC-I拘束ポリペプチドを比較することによって同定される。両方の細胞群によって提示される1つ又は複数のポリペプチドは、アデノウイルスベクターをコーティングするために選択される。
【0136】
任意のアデノウイルスベクターを選択し、方法2に記載の任意の方法に従ってコーティングする。
コーティングされたベクターは、患者の疾患を治療するために使用される。
【0137】
参考文献
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