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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-25
(45)【発行日】2022-03-07
(54)【発明の名称】シリコン粒子の熱処理
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/12 20060101AFI20220228BHJP
   H01M 4/38 20060101ALN20220228BHJP
   H01M 4/36 20060101ALN20220228BHJP
【FI】
C01B33/12 D
H01M4/38 Z
H01M4/36 C
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020523343
(86)(22)【出願日】2018-07-25
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-02-22
(86)【国際出願番号】 EP2018070234
(87)【国際公開番号】W WO2020020458
(87)【国際公開日】2020-01-30
【審査請求日】2020-06-17
(73)【特許権者】
【識別番号】390008969
【氏名又は名称】ワッカー ケミー アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Wacker Chemie AG
【住所又は居所原語表記】Hanns-Seidel-Platz 4, D-81737 Muenchen, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヤーントケ,ドミニク
(72)【発明者】
【氏名】マウラー,ローベルト
【審査官】印出 亮太
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/082880(WO,A1)
【文献】特表2013-534899(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/00 - 33/193
H01M 4/00 - 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1.0μm~10.0μmの直径パーセンタイルd50を有する体積加重粒径分布及びシリコン粒子の総重量に基づいて0.1~5重量%の酸素含有率を有するシリコン粒子を製造する方法であって、
1)シリコンを粉砕してシリコン粒子を形成し、粉砕は酸化性雰囲気又は酸化性媒体中で行われる、及び/又は
粉砕により得られたシリコン粒子を酸化性雰囲気に曝露させ、並びに
2)ステップ1)で得られたシリコン粒子を、300℃~1100℃の温度で不活性ガス雰囲気下又は減圧下で熱処理する
ステップを含み、
ステップ2)で得られた前記シリコン粒子が、その表面に2~50nmの層厚を有する酸化物層を有することを特徴とする、
方法。
【請求項2】
前記不活性ガス雰囲気が、窒素、及びヘリウム、ネオン、アルゴン又はキセノンのような希ガスからなる群から選択される1種以上の不活性ガスを含むことを特徴とする、請求項1に記載のシリコン粒子の製造方法。
【請求項3】
前記不活性ガス雰囲気が、不活性ガス雰囲気の総体積に基づいて≧95体積%の不活性ガスを含むことを特徴とする、請求項2に記載のシリコン粒子の製造方法。
【請求項4】
前記酸化性雰囲気が、二酸化炭素、酸化窒素、二酸化硫黄、オゾン、過酸化物、酸素及び水蒸気からなる群から選択される1種以上の酸化性ガスを含むことを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載のシリコン粒子の製造方法。
【請求項5】
前記酸化性媒体が、水、脂肪族又は芳香族炭化水素、エステル及びアルコールからなる群から選択される1種以上の液体を含むことを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載のシリコン粒子の製造方法。
【請求項6】
ステップ2)で得られた前記シリコン粒子及びステップ1)で得られた前記シリコン粒子が、それらの酸素又はシリコンの含有率がシリコン粒子の総重量に基づいて0.2重量%以下の差である点で異なることを特徴とする、請求項1~のいずれか一項に記載のシリコン粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン粒子の熱処理のための方法、このようにして得ることができるシリコン粒子、及び水性インク配合物及びリチウムイオン電池用のアノードを製造するためのその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
再充電可能なリチウムイオン電池は、最も高い質量エネルギー密度を有する、現在最も実用的な電気化学エネルギー貯蔵器である。シリコンは、特に高い理論材料容量(4200mAh/g)を有するため、リチウムイオン電池のアノードのための活物質として特に適している。アノードは、アノード材料の個々の成分が溶媒に分散されているアノードインクによって製造される。工業規模では、経済的及び環境保護の理由から、通常、水がアノードインクの溶媒として使用される。シリコンは水に対して非常に反応性が高く、水と接触すると酸化されて酸化シリコン及び水素を形成する。水素の遊離により、アノードインクの処理はかなり困難なものとなる。例えば、このようなインクは、含まれる気泡のために不均一な電極コーティングを生じる可能性がある。また、水素の生成により、複雑な安全対策が必要となる。アノードインク中のシリコンの望ましくない酸化は、最終的に、アノード中のシリコンの比率の減少にもつながり、これは、リチウムイオン電池の容量を減少させる。
【0003】
シリコン粒子を含有するアノード材料を有するリチウムイオン電池が、例えばDE102015215415号から知られている。DE102015215415号は、この目的のために、d10≧0.2μm及びd90≦20.0μm、及び幅d90―d10≦15μmの体積加重粒径分布を有するシリコン粒子を記載している。他方、EP1313158号は、100~500nmの平均粒径を有し、粉砕し、続いて80~450℃の酸素含有ガスで、又は80~900℃の比較的低い酸素含有量を有する不活性ガス中で酸化処理することによって製造されたシリコン粒子を、このような目的のために推奨している。EP1313158号によれば、より大きな粒径は、対応する電池のクーロン効率にとって不利である。
【0004】
シリコン粒子の水性処理におけるガス発生とそれに伴う処理中の問題を低減するために、例えば、KR1020150034563号に記載されているように、シリコン粒子の表面を酸化することがしばしば推奨されている。WO2018/077389号では、粒子を水性媒体に対しより耐性にするために、酸素含有ガスによるシリコン粒子の酸化処理を80~900℃で実施することを推奨している。EP1102340号は、希薄空気中で粉砕することにより、リチウムイオン電池用のシリコン粒子を製造することを教示する。
【0005】
Touidjine、Journal of The Electrochemical Society、2015、162、A1466~A1475頁は、粉砕したシリコン粒子の水との接触による水素生成の低減に関する。この目的のために、Touidjineは水を用いて又は、高温の空気中でシリコン粒子を部分的に酸化することを教示する。酸化に用いたシリコン粒子は、いずれの場合もシリコン粒子の総重量に基づいて、9重量%のSiO含有率を有し、空気酸化の後は11重量%のSiO含有率を有する。シリコン粒子は150nmの平均粒径を有し、強凝集体の形で存在する。酸化に用いたシリコン粒子は14m/gのBET比表面積を有し、これはTouidjineによって提案されたように空気による酸化の過程で減少する。Touidjineは、リチウムイオン電池のアノード用の水性アノードインクの製造にこのような部分的に酸化されたシリコン粒子の使用を推奨している。
【0006】
Tichapondwa、Propellants、Explosives、Pyrotechnics、2013、38、48~55頁は、遅延発火点火体の前駆体として水性シリコン分散液を考察している。シリコン粒子と水との接触での水素形成を抑制するために、Tichapondwaは、空気中の高温での酸化により、シリコン粒子の表面に保護的な酸化シリコン層を提供することを推奨する。酸化に供したシリコン粒子は2.06μmという平均粒径、9.68m/gというBET比表面積を有し、シリコンに基づいて13%程度酸化され、強凝集形態で存在する。超音波処理の有無にかかわらず、レーザ光散乱で示されるように、Tichapondwaの酸化シリコン粒子も強凝集している。しかし、Tichapondwaの論文の図1から、酸化され、強凝集したこれらのシリコン粒子は、酸化物の割合が非常に高いにもかかわらず、水中で未だかなりの量の水素を遊離させることがわかる。
【0007】
シリコン粒子がリチウムイオン電池に使用される場合、この粒子の酸化処理は、一般に、容量の減少をもたらし、また、リチウムの初期消費又はシリコン粒子の絶縁をもたらし得る。さらに、酸素によるケイ素粒子の酸化では、制御されない過酸化又は粉塵爆発など、特別な安全対策が必要となる、方法の工学的問題が発生する可能性がある。
【0008】
形成されるあらゆる天然酸化物層は、例えば、シリコン粒子の粉砕又は貯蔵中に、水性媒体中、特にリチウムイオン電池用のアノードインク中のシリコン粒子の処理中に水素の形成が抑制されるのに十分なほどシリコン粒子を不動態化しないことがある。シリコン粒子を製造するための粉砕方法については、例えば、WO2018/082789号及びWO2018/082794号に記載されている。
【0009】
このような背景から、水性媒体中のシリコン粒子の処理、特に電極を形成する材料の処理において生じる問題を解決し、同時に、容量の減少又は厚い絶縁層の蓄積を防止することができる措置を提供する必要性が引き続き存在する。この方法は、特に、安全かつ制御された方法で実施可能であるべきである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】独国特許出願公開第102015215415号明細書
【文献】欧州特許出願公開第1313158号明細書
【文献】韓国公開特許第10―2015―0034563号公報
【文献】国際公開第2018/077389号
【文献】欧州特許出願公開第1102340号明細書
【文献】国際公開第2018/082789号
【文献】国際公開第2018/082794号
【非特許文献】
【0011】
【文献】Touidjine, JOurnal of The Electrochemical Society、2015、162、A1466~A1475頁
【文献】Tichapondwa、Propellants、Explosives、Pyrotechnics、2013、38、48~55頁
【発明の概要】
【0012】
本発明は、1.0μm~10.0μmの直径パーセンタイルd50を有する体積加重粒径分布及びシリコン粒子の総重量に基づいて0.1~5重量%の酸素含有率を有するシリコン粒子を製造する方法であって、
1)シリコンを粉砕してシリコン粒子を形成し、粉砕は酸化性雰囲気又は酸化性媒体中で行われる、及び/又は
粉砕により得られたシリコン粒子を酸化性雰囲気に曝露させ、並びに
2)ステップ1)で得られたシリコン粒子を、300℃~1100℃の温度で不活性ガス雰囲気下又は減圧下で熱処理する
方法を提供する。
【0013】
本発明は、さらに、本発明の方法によって得ることができる、1.0μm~10.0μmの直径パーセンタイルd50を有する体積加重粒径分布及びシリコン粒子の総重量に基づいて、0.1~5重量%の酸素含有率を有するシリコン粒子を提供する。
【0014】
本発明はさらに、SiOの負の対数反射信号の最大値(特に1150cm-1~1250cm-1の範囲)に対するSiOHの負の対数反射信号の最大値(特に3300cm-1~3500cm-1の範囲)の比が0.002~0.2の範囲にある(決定方法:DRIFT分光法(拡散反射率赤外フーリエ変換分光法)ことを特徴とする、1.0μm~10.0μmの直径パーセンタイルd50を有する体積加重粒径分布及びシリコン粒子の総重量に基づいて0.1~5重量%の酸素含有率を有するシリコン粒子を提供する。
【0015】
本発明は、さらに、本発明による方法の生成物及び1つ以上のバインダーが水と混合されることを特徴とする、水性インク配合物を製造する方法を提供する。
【0016】
本発明はさらに、リチウムイオン電池用のアノードを製造するための本発明による方法の生成物の使用を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】比較例1の生成物のDRIFTスペクトルを示す。
図2】実施例2eの生成物のDRIFTスペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明によるそれらの製造により、ステップ2)からのシリコン粒子は、熱処理の出発材料として使用されるステップ1)からのシリコン粒子と構造的に異なる。これは、例えば、ステップ2)からのシリコン粒子が、室温での水の存在下で、一般的に、ステップ1)からのシリコン粒子と比較して水素の発生が全くないか、又は水素の発生が少なくともはるかに少ない、及び/又は遅延するため、発泡を伴わないか、又はほとんど発泡を伴わない水性インク配合物中での処理を可能にし、したがって、少なくともより均質なアノードコーティングの製造を可能にするという事実から明らかである。
【0019】
ステップ2)におけるシリコン粒子の熱処理のための温度は、好ましくは400℃~1080℃、より好ましくは500℃~1060℃、特に好ましくは600℃~1040℃、さらにより好ましくは700℃~1030℃、最も好ましくは750℃~1020℃である。
【0020】
不活性ガス雰囲気は、例えば、不活性ガスとして、窒素、又はヘリウム、ネオン、アルゴン又はキセノンのような希ガス、特に窒素又はアルゴンを含むことができる。不活性ガス雰囲気は、不活性ガスの総体積に基づいて、好ましくは≧95体積%、特に好ましくは≧99体積%、より好ましくは≧99.5体積%、さらにより好ましくは≧99.9体積%、最も好ましくは≧99.99体積%の不活性ガスを含む。
【0021】
さらなる構成要素として、不活性ガス雰囲気は、例えば、還元性ガス、例えば、水素若しくはヒドラジン、又は市販の工業用ガス中に慣例的に存在する他の構成要素を含むことができる。還元性ガスの割合は、好ましくは≦5体積%、特に好ましくは≦1体積%、最も好ましくは≦0.1体積%である。
【0022】
酸素及び/又は水は、好ましくは≦1体積%、特に好ましくは≦0.1体積%、さらにより好ましくは≦0.01体積%、最も好ましくは≦0.001体積%の量で不活性ガス雰囲気中に存在する。酸素をまったく含んでおらず、水をまったく含んでいない不活性ガス雰囲気が最も好ましい。CVD(化学蒸着)法において通常使用されるようなガス又は炭素前駆体、特に脂肪族の不飽和又は芳香族炭化水素であって、好ましくは1~10個の炭素原子を有するもの、例えば、メタン、エタン、プロパン、エチレン、アセチレン、ベンゼン、トルエン、スチレン、エチルベンゼンの割合は、好ましくは≦1体積%、特に好ましくは≦0.1体積%、さらにより好ましくは≦0.01体積%である。最も好ましくは、不活性ガス雰囲気はいかなる炭素前駆体も含有しない。重量パーセントにおける数値は不活性ガスの総体積に基づく。
【0023】
ステップ2)における不活性ガス雰囲気中での熱処理における圧力は、例えば、0.5~2bar、好ましくは0.8~1.5bar、より好ましくは1気圧とすることができる。周囲圧力での操作が特に好ましい。
【0024】
代替として、ステップ2)の熱処理を減圧下で行うこともできる。この実施形態では、圧力は好ましくは≦0.5bar、より好ましくは≦0.1bar、特に好ましくは≦20mbarである。ここで、任意の気相は、好ましくは上記の不活性ガス雰囲気からなる。
【0025】
ステップ2)における熱処理は、一般に溶媒、例えば、水又はメタノール若しくはエタノールのようなアルコールの非存在下で行われる。一般に、熱処理では液相は存在しない。
【0026】
ステップ1)からのシリコン粒子は、粉砕によって製造された直後、及び任意選択的に、特に事前に化学反応することなく、その後の貯蔵を経て、ステップ2)において熱処理に供されることが好ましい。
【0027】
シリコン粒子は、一般的にステップ2)における熱処理前又は熱処理中に炭素又はポリマーで被覆されない。したがって、一般的にポリマー又は炭素前駆体、特に上記の炭素前駆体のような炭素含有化合物は、ステップ2)に存在しない。よって、一般的に、ステップ2)の実施前又は実施中には、シリコン粒子と炭素含有化合物との反応は起こらない。ステップ2)におけるシリコン粒子の割合は、シリコン粒子及び任意の炭素含有化合物の総重量に基づいて、好ましくは≧90重量%、特に好ましくは≧95重量%、最も好ましくは≧99重量%である。
【0028】
ステップ2)における熱処理は、シリコン粒子のみ、任意選択的に不活性ガス雰囲気の存在下で行うことが好ましい。
【0029】
一般に、ステップ2)ではシリコン粒子の粉砕を行わない。
【0030】
ステップ2)における熱処理の間、不活性ガス雰囲気は、シリコン粒子上に静止させることができ、又は熱処理が行われる反応器を通過させることができる。
【0031】
ステップ2)における熱処理の持続時間は、広い範囲にわたって変化することができ、熱処理のために選択される温度にも依存する。個々の事例において目的を果たす熱処理の温度及び持続時間は、数件の定位実験を活用して当業者によって容易に決定することができる。熱処理の持続時間又は反応器内のシリコン粒子の平均滞留時間は、好ましくは1分~16時間、特に好ましくは3分~6時間、最も好ましくは10分~2時間である。
【0032】
熱処理は、従来の、静的又は動的な反応器、例えば、管状炉、回転管状炉、流動床反応器又は移動床反応器において実施することができる。特にか焼炉及び回転管状炉が好ましい。
【0033】
この方法は連続的又は不連続的に作動させることができる。
【0034】
ステップ2)で使用されるシリコン粒子は、好ましくは1.0~8.0μm、特に好ましくは2.0~7.0μm、最も好ましくは3.0~6.0μmの直径パーセンタイルd50を有する体積加重粒径分布を有する。
【0035】
ステップ1)からのシリコン粒子の体積加重粒径分布は、好ましくは0.5μm~10μm、特に好ましくは0.5μm~5.0μm、最も好ましくは0.5μm~3.0μmの直径パーセンタイルd10を有する。
【0036】
ステップ1)からのシリコン粒子の体積加重粒径分布は、好ましくは2.0μm~20.0μm、特に好ましくは3.0~15.0μm、最も好ましくは5.0μm~10.0μmの直径パーセンタイルd90を有する。
【0037】
ステップ1)からのシリコン粒子の体積加重粒径分布は、好ましくは≦20.0μm、より好ましくは≦15.0μm、さらにより好ましくは≦12.0μm、特に好ましくは≦10.0μm、最も好ましくは≦7.0μmの幅d90―d10を有する。
【0038】
シリコン粒子の体積加重粒径分布は、Mieモデル及び測定機器Horiba LA 950を用いて、シリコン粒子の分散媒としてアルコール、例えば、エタノール若しくはイソプロパノール、又は好ましくは水を用いて、静的レーザ光散乱によって決定することができる。
【0039】
ステップ1)からのシリコン粒子は、元素状シリコンをベースとすることが好ましい。本発明の目的のために、元素状シリコンは、高純度であり、異種原子(例えば、B、P、As)の割合が少ない多結晶シリコン、異種原子(例えば、B、P、As)を意図的にドープしたシリコン、例えば、ソーラーシリコンだけでなく、元素汚染(例えば、Fe、Al、Ca、Cu、Zr、Sn、Co、Ni、Cr、Ti、C)を有することができる冶金的処理からのシリコンである。
【0040】
ステップ1)からのシリコン粒子は、好ましくは≧95重量%、より好ましくは≧98重量%、特に好ましくは≧99重量%、最も好ましくは≧99.9重量%のシリコンを含有する。重量パーセントにおける数値は、ステップ1)kaらのシリコン粒子の総重量、特にステップ1)からのシリコン粒子の総重量からその酸素含有量を引いた値に基づく。ステップ1)からのシリコン粒子中のシリコンの本発明による割合は、Perkin Elmer製測定機器Optima 7300 DVを用いて、EN ISO 11885:2009に従ったICP(誘導結合プラズマ)発光分光分析法によって決定することができる。
【0041】
ステップ1)からのシリコン粒子は、一般に、酸化シリコンを含有する。酸化シリコンは、シリコン粒子の表面に存在することが好ましい。酸化物層は、シリコン粒子の表面を完全に又は部分的に覆うことができる。酸化シリコン、特に酸化物層の形態の酸化シリコンは、一般に、酸化性雰囲気中又は酸化性媒体中でのシリコンの粉砕中に形成され得るか、又は例えば、シリコン粒子の貯蔵中に粉砕によって得られたシリコン粒子と酸化性雰囲気との接触時に形成され得る。このような酸化物層は、天然酸化物層とも呼ばれる。
【0042】
ステップ1)からのシリコン粒子は、一般に、好ましくは0.5~30nm、特に好ましくは1~10nm、最も好ましくは1~5nmの厚さを有する酸化物層、特に酸化シリコン層をそれらの表面に有する(決定方法:例えば、HR-TEM(高分解能透過型電子顕微鏡))。
【0043】
ステップ1)からのシリコン粒子は、ステップ1)からのシリコン粒子の総重量に基づいて、好ましくは0.1~5.0重量%、より好ましくは0.1~2重量%、特に好ましくは0.1~1.5重量%、最も好ましくは0.2~0.8重量%の酸素を含有する(Leco TCH-600分析器を用いて測定)。
【0044】
ステップ1)からのシリコン粒子は強凝集(aggregate)しないことが好ましく、特に弱凝集(agglomerate)しないことが好ましい。
【0045】
強凝集するとは、例えば、シリコン粒子の製造における気相過程で最初に形成された球形又は大部分が球形の一次粒子が、一緒に成長して強凝集体を形成することを意味し、例えば、共有結合によって連結される。一次粒子又は強凝集体は弱凝集体を形成しうる。弱凝集体は強凝集体又は一次粒子の緩い集合体である。弱凝集体は、例えば、混練又は分散処理によって、一次粒子又は強凝集体に再び容易に分解する。これらの方法では、強凝集体を一次粒子に分解することはできないか、ごくわずかにしか分解できない。強凝集体及び弱凝集体は、一般に好ましいシリコン粒子とは全く異なる球形度及び粒子形状を有し、一般に球形ではない。強凝集体又は弱凝集体の形態のシリコン粒子の存在は、例えば、従来の走査型電子顕微鏡法(SEM)によって可視化することができる。他方、シリコン粒子の粒径分布又は粒子直径を決定するための静的光散乱法では、強凝集体と弱凝集体を区別することができない。
【0046】
ステップ1)からのシリコン粒子のBET比表面積は、好ましくは0.2~8.0m/g、特に好ましくは0.5~5.0m/g、最も好ましくは1.0~5.0m/gである(DIN 66131(窒素を用いる)に従った決定)。
【0047】
ステップ1)からのシリコン粒子は、好ましくは0.3≦Ψ≦0.9、特に好ましくは0.5≦Ψ≦0.85、最も好ましくは0.65≦Ψ≦0.85の球形度を有する。このような球形度を有するシリコン粒子は、特に、粉砕方法によって得ることができる。球形度Ψは、物体の実際の表面積に対する体積が同じ球体の表面積の比(Wadellの定義)である。例えば、球形度は、従来のSEM画像から決定することができる。
【0048】
ステップ1)からのシリコン粒子は、好ましくは縁の鋭い破断面を有するか、又はスプリッター形であることが好ましい。
【0049】
ステップ1)からのシリコン粒子はシリコンの粉砕により得ることができる。粉砕は、例えば、湿式粉砕処理によって、又は特に乾式粉砕処理によって実施することができる。遊星ボールミル、撹拌ボールミル、又は特にジェットミル、例えば、対向ジェットミル又はインパクトミルを使用することが好ましい。
【0050】
粉砕方法は一般に強凝集していないシリコン粒子を生じる。一方、気相法、例えば、蒸着によるシリコン粒子の製造は、強凝集したシリコン粒子をもたらすことが知られている。
【0051】
シリコンの粉砕は酸化性雰囲気中で行うことができる。特に乾式粉砕方法は、酸化性雰囲気中で行われる。酸化性雰囲気は、酸化性ガスとして、例えば、二酸化炭素、酸化窒素、二酸化硫黄、オゾン、過酸化物、特に酸素又は水蒸気を含有することができる。酸化性雰囲気は、酸化性ガスを好ましくは1~100体積%、特に好ましくは5~80体積%、さらにより好ましくは10~50体積%の量で含有する。酸化性雰囲気はまた、不活性ガス、例えば、窒素、希ガス又は他の不活性ガスを含むことができる。不活性ガスは、好ましくは≦99体積%、特に好ましくは20~95体積%、最も好ましくは50~90体積%の量で存在する。酸化性雰囲気はまた、不純物又は他のガス状成分を、好ましくは≦10体積%、特に好ましくは≦5体積%、最も好ましくは≦1体積%の量で含有することができる。体積%における数値は、いずれの場合も酸化性雰囲気の総体積に基づく。酸化性雰囲気は最も好ましくは空気を含む。酸化性雰囲気は、好ましくは0.3~200bar、より好ましくは0.5~100bar、特に好ましくは0.4~10bar、最も好ましくは0.6~4barの分圧を有する酸化性ガスを含む。酸化性雰囲気は、好ましくは0.7~200bar、特に好ましくは1~40bar、最も好ましくは1.5~10barの圧力を有する。対応する方法は、例えば、WO2018/082794号又はWO2018/082794号に記載されている。
【0052】
代替として、シリコンの粉砕は酸化性媒体中で行うこともできる。特に湿式粉砕方法は酸化性媒体中で行われる。ここで、シリコンは酸化性媒体中に懸濁されることが好ましい。酸化性媒体の例は、水のような無機液体又は脂肪族若しくは芳香族炭化水素、エステル若しくは特にアルコールのような有機液体である。アルコールの例は、メタノール、ブタノール、特にエタノール及びプロパノールである。有機液体は、好ましくは5重量%未満の水、特に好ましくは1重量%未満の水を含む。対応する方法は、例えば、WO2017/025346号に記載されている。
【0053】
粉砕によって得られたシリコン粒子は、ステップ1)、例えば、シリコン粒子の貯蔵中に酸化性雰囲気にさらすこともできる。ここで、酸化性雰囲気は上記のような組成を有することができる。好ましい酸化性ガスは、二酸化炭素、酸化窒素、オゾン、特に酸素又は水蒸気である。酸化性雰囲気は最も好ましくは空気を含む。ここでの酸化性雰囲気は、好ましくは0.7~2bar、特に好ましくは1気圧又は周囲圧の圧力を有する。代替として、不活性ガス雰囲気下、特に上記の不活性ガス雰囲気下で貯蔵を行うこともできる。シリコン粒子の貯蔵は、好ましくは0℃~50℃、特に好ましくは10℃~40℃、最も好ましくは15℃~30℃の温度で行われる。シリコン粒子は、例えば、数時間、1日以上、1週間以上、又は1年以上まで貯蔵することができる。
【0054】
ステップ2)で得られたシリコン粒子は、好ましくは、ステップ1)からのシリコン粒子について上述したように、体積加重粒径分布d50、d10、d90及びd90-d10、球形度、BET比表面積、シリコンの重量割合及び/又は酸素又は任意のその他の成分の重量割合、及び酸化物層の厚さを有する。これは、示された粒子形状、例えば、強凝集していない粒子、又縁の鋭い破断面を有する粒子、又はスプリンター形状の粒子にも当てはまる。
【0055】
ステップ2)で得られたシリコン粒子及びその製造に用いられるステップ1)からのシリコン粒子は、酸素及び/又はシリコンの含有率について、シリコン粒子の総重量に基づいて、好ましくは≦0.2重量%、特に好ましくは≦0.1重量%、最も好ましくは≦0.05重量%異なる(シリコン含有率の決定:上記のICPによる;酸素含有率の決定:この見出しの下で以下にさらに述べる)。
【0056】
理論に結びつけたいと思わないが、ステップ2)の本発明による熱処理の過程でシリコン粒子の表面構造が変化することが想定できる。これは、例えば、シリコン粒子の酸化物層の構成において明らかである。DRIFTスペクトル(拡散反射率赤外フーリエ変換分光法)を用いて確立することができるように、このように、ステップ2)で得られたシリコン粒子のSiOH基の数、特にステップ2)からのシリコン粒子の表面の単位面積当たりのSiOH基の数(SiOH基密度)は、ステップ1)からのシリコン粒子のSiOH基密度よりも小さいことが好ましい。したがって、ステップ2)からのシリコン粒子のDRIFTスペクトルにおける特に1150cm-1~1250cm-1の範囲のSiOの負の対数反射信号の最大値に対する特に3300cm-1~3500cm-1の範囲のSiOHの負の対数反射信号の最大値の比は、好ましくは≦0.2、特に好ましくは≦0.15、さらにより好ましくは≦0.1であり、最も好ましくは<0.08である(決定方法:「DRIFTスペクトルの測定及び評価」の見出しの下で以下にさらに参照)。上記の比は、好ましくは≧0.001、特に≧0.01、最も好ましくは≧0.03である。水中のシリコン粒子の安定性は、このパラメータの発明に従った値を忠実に守ると改善することができる。
【0057】
インク配合物は、好ましくは、ステップ2)から本発明に従って製造されたシリコン粒子、1種以上のバインダー、任意に黒鉛、任意に1種以上のさらなる導電性成分、及び任意に1種以上の添加剤を含む混合物をベースとする。
【0058】
好ましいバインダーは、ポリアクリル酸若しくはそれらのアルカリ金属、特にリチウム若しくはナトリウム塩、ポリビニルアルコール、セルロース若しくはセルロース誘導体、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリオレフィン、ポリイミド、特にポリアミドイミド、又は熱可塑性エラストマー、特にエチレン-プロピレン-ジエンターポリマーである。ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸又はセルロース誘導体、特にポリアクリル酸、又はそのリチウム若しくはナトリウム塩が特に好ましい。
【0059】
黒鉛としては、一般に天然又は合成黒鉛を使用することが可能である。黒鉛粒子は、直径パーセンタイルd10>0.2μm及びd90<200μmの間の体積荷重粒径分布を有することが好ましい。
【0060】
好ましいさらなる導電性成分は、導電性カーボンブラック、カーボンナノチューブ又は金属粒子、例えば、銅である。
【0061】
添加剤の例は、孔形成剤、分散剤、レベリング剤又はドーパント、例えば、元素リチウムである。
【0062】
リチウムイオン電池のインク配合物の好ましい組成物は、好ましくは5~95重量%、特に60~85重量%の、ステップ2)から本発明により製造されるシリコン粒子、0~40重量%、特に0~20重量%のさらなる導電性成分、0~80重量%、特に5~30重量%の黒鉛、0~25重量%、特に5~15重量%のバインダー、及び任意に0~80重量%、特に0.1~5重量%の添加剤を含み、ここで、%重量における数値はインク配合物の総重量に基づいており、インク配合物の全成分の割合は合計で100重量%になる。
【0063】
アノードインク又はペーストを生じるためのインク配合物の成分の処理は、水中又は水性溶媒中で行うことが好ましい。水性溶媒は、一般に水及び1種以上の有機溶媒を含む。有機溶媒の例は、テトラヒドロフラン、N-メチルピロリドン、N-エチルピロリドン、アセトン、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド又はエタノールである。有機溶媒の割合は、水性溶媒の総体積に基づいて、好ましくは≦50体積%、より好ましくは≦20体積%、特に好ましくは≦10体積%である。水は有機溶媒を含まないことが最も望ましい。
【0064】
インク配合物を製造するために、従来の装置、例えば、ロータ-ステータ機、高速ミキサー、高エネルギーミル、遊星ミキサー、混練機、撹拌ボールミル、振動台又は超音波装置を使用することが可能である。
【0065】
インク配合物は、好ましくは2~9、特に好ましくは5~8、最も好ましくは6.5~7.5のpHを有する(例えば、SenTix RJD電極を有するpHメーターモデルWTW pH340iを用いて20℃で決定)。
【0066】
リチウムイオン電池用のアノードを製造するために、インク配合物は、例えば、ドクターブレードコーティングによって銅箔又は別の電流コレクターに塗布することができる。他のコーティング方法、例えば、スピンコーティング、ローラーコーティング、浸漬コーティング又はスリットノズルコーティング、コーティング又は噴霧も同様に使用できる。
【0067】
アノードコーティングの層厚、すなわち乾燥層厚は、好ましくは2μm~500μm、特に好ましくは10μm~300μmである。
【0068】
アノード材料は、一般に恒量になるように乾燥させる。乾燥温度は、好ましくは20℃~300℃、特に好ましくは50℃~150℃の温度範囲である。
【0069】
リチウムイオン電池は、一般に、カソードとしての第一電極、アノードとしての第二電極、これら2つの電極の間に配置されたセパレータとしての膜、電極への2つの導電性接続部、前記部品を収容するハウジング、及びリチウムイオンを含み、かつ、セパレータ及び2つの電極を含浸させた電解質を備え、第二の電極の一部は本発明のアノード材料を含む。
【0070】
上記のように、本発明によるリチウムイオン電池を製造するために使用される全ての物質及び材料は既知である。本発明の電池の部品の製造及び本発明の電池を得るためのその組み立ては、電池製造の分野で既知の方法、例えば、出願番号DE102015215415.7を有する特許出願に記載されている方法によって行うことができる。
【0071】
本発明は、さらに、本発明によるアノード材料の、このアノード材料がリチウムイオン電池の完全に充電された状態で部分的にのみリチオ化されるように構成されたリチウムイオン電池における使用を提供する。
【0072】
このように、部分的にしかリチオ化されない完全に充電されたリチウムイオン電池における、前記アノード材料、特にシリコン粒子が好ましい。現在の目的のために、完全に充電されたとは、電池のアノード材料にリチウムが最も多く有する電池の状態を指す。アノード材料の部分的リチオ化は、アノード材料中のシリコン粒子のリチウムの最大取り込み能力が使い果たされないことを意味する。シリコン粒子のリチウム最大取り込み能力は、一般に式Li4.4Siに対応し、つまりシリコン原子1個当たり4.4個のリチウム原子である。これはシリコン1g当たり4200mAhの最大比容量に相当する。
【0073】
リチウムイオン電池のアノード中のシリコン原子に対するリチウム原子の比(Li/Si比)は、例えば、電荷流量により設定することができる。アノード材料又はアノード材料中に存在するシリコン粒子のリチオ化の程度は、アノード材料又はシリコン粒子を流れた電荷に比例する。この変形例では、リチウムイオン電池の充電中に、リチウムのためのアノード材料の容量が完全に使い果たされることはない。この結果、アノードが部分的にリチオ化される。
【0074】
代替の好ましい変形例において、リチウムイオン電池のLi/Si比は、セルバランシングによって設定される。ここで、リチウムイオン電池は、アノードのリチウム取り込み能力が、好ましくはカソードのリチウム放出能力よりも大きいように設計される。これは、アノードのリチウム取り込み能力が完全に使い果たされていないこと、すなわち、アノード材料が完全に充電された電池において部分的にのみリチオ化されていることにつながる。
【0075】
本発明による部分リチオ化では、リチウムイオン電池の完全充電状態におけるアノード材料中のLi/Si比は好ましくは≦2.2、特に好ましくは≦1.98、最も好ましくは≦1.76である。リチウムイオン電池の完全充電状態におけるアノード材料中のLi/Si比は好ましくは≧0.22、特に好ましくは≧0.44であり、最も好ましくは≧0.66である。
【0076】
リチウムイオン電池のアノード材料のシリコンの容量は、シリコン1グラム当たり4200mAhの容量に基づいて、好ましくは≦50%、特に好ましくは≦45%、最も好ましくは≦40%の範囲で利用される。
【0077】
アノードは、好ましくは、アノードの質量に基づいて≦1500mAh/g、特に好ましくは≦1400mAh/g、最も好ましくは≦1300mAh/gで充電される。アノードは、アノードの質量に基づいて、好ましくは少なくとも600mAh/g、特に好ましくは≧700mAh/g、最も好ましくは≧800mAh/gで充電される。これらの数値は、好ましくは、完全に充電されたリチウムイオン電池に関する。
【0078】
シリコンのリチオ化の程度又はシリコンのリチウムに対する能力の利用度(Si容量利用度α)は、例えば、出願番号DE102015215415.7号を有する特許出願の11頁4行~12頁25行に記載されているように、特に、この出願でSi容量利用度αについて与えられた式及び「Bestimmung der Delithiierungs-Kapazitaet β」及び「Bestimmung des Si-Gewichtsanteils ωSi」という見出しの下の補足情報(「参照により援用する」)を用いて決定することができる。
【0079】
水性インク配合物の調製における本発明に従って製造されたシリコン粒子の使用は、驚くべきことに、特にステップ1)からのシリコン粒子と比較して、水素のより低い及び/又は遅延した生成をもたらす。これは、ステップ1)からのシリコン粒子とステップ2)からのシリコン粒子が同一又は本質的に同一の酸素含有量を有し得るため、いっそう驚くべきことである。このように、pH7及び60℃の水中でステップ2)からのシリコン粒子を分散させた後の圧力上昇は、好ましくは≧45分、特に好ましくは≧60分後に始まる。ステップ2)からのシリコン粒子をpH7及び60℃の水中に分散させた場合、上昇開始30分後の圧力上昇は、好ましくは≦1bar、特に好ましくは≦0.8bar、最も好ましくは≦0.6barである。圧力上昇の測定は、1気圧又は1barで行うことが望ましい。これらのパラメータを決定する方法については、「シリコン粉末の水性分散液を用いたガス発生の決定」という見出しの下でさらに詳しく述べる。
【0080】
さらに、本発明の方法により、強凝集していないシリコン粒子を得ることができる。異なるシリコン粒子の一緒の凝結は、本発明の方法によって防止することができる。他の好ましくない二次反応、例えば、亜酸化シリコン又は窒化ケイ素のような他の副生成物の生成は、本発明による方法の条件によって防止することができる。
【0081】
本発明の方法は、簡単な方法で安全に行うことができ、爆発のリスクを示す混合物の形成を回避することができる。均質な気泡のないアノードコーティングが得られる。
【実施例
【0082】
以下の実施例は、本発明をさらに説明するのに役立つ。
【0083】
<酸素含有率(O含有率)の決定>:
酸素含有率の決定はLeco TCH―600分析器を用いて行った。この分析は不活性ガス雰囲気下で試料を黒鉛るつぼ中で融解して行った。検出は赤外線検出(3測定セル)により行った。
【0084】
<粒径の決定>:
粒子分布の測定は、MieモデルとHoriba LA 950を用い、水中でかなり希釈した懸濁液中での静的レーザ光散乱により行った。決定した粒径分布は体積荷重である。
【0085】
<DRIFTスペクトルの測定及び評価>:
35mgの各Si粉末を500mgのKBrと混合し、Harrick Scientific Products社のカマキリミラーシステムを搭載したBruker Optics社製の機器(XSAユニットと結合したVertex 70)を用いて、この混合物のDRIFTスペクトル(拡散反射率赤外フーリエ変換分光法)(固体を強く吸収又は散乱することを調べるための赤外分光法における慣例的な方法である)を記録した。「反射率」の負の十進法対数を波数の関数として測定した。
【0086】
このようにして得られたDRIFTスペクトルを評価するために、SiO信号の最大値及びSiOH信号の最大値を使用した。負の対数反射信号の最大値は、SiOHの場合は通常3300cm-1~3500cm-1の範囲であり、SiOの場合は通常1150cm-1~1250cm-1の範囲である。
【0087】
DRIFTパラメータは、SiOの負の対数反射信号の最大値に対するSiOHの負の対数反射信号の最大値の比である。
【0088】
<シリコン粉末の水性分散液を用いたガス発生の決定>:
400mgの各Si粉末を20gのLiポリアクリル酸溶液(Sokalan PA110S、pH7.0、4重量%濃度)中に分散させ、デジタル圧力センサを備えた不透過性で圧力安定性のあるガラス瓶(Andrews Glass Co.製の耐圧反応容器、総容量87mlに相当する3oz)に移した。その後、ガラス瓶を60℃に加熱した加熱ジャケットに導入し、ガス瓶内の圧力を測定した。このようにして得られた測定値は60℃での圧力に対する溶媒の寄与率によって補正した。
【0089】
<アノードインクを用いたガス発生の決定>:
決定は、上記の「シリコン粉末の水性分散液を用いたガス発生の決定」と類似の方法で行った。20gの各アノードインクを圧力安定性のあるガラス容器に導入し、予め50℃に加熱したアルミニウム製の加熱ブロックに導入した。このようにして得られた測定値は、50℃での圧力に対する溶媒の寄与率によって補正した。
【0090】
[比較例1(CEx.1)]:
粉砕によるSi粒子の製造:
流動床ジェットミル(7bar及び300℃の流入温度で90m3/時の、粉砕ガスとしての空気を含むNetzsch―Condux CGS16)でソーラーシリコンの製造から粗い破砕Siを粉砕することにより、Si粒子を通常の方法で製造した。このようにして得られたSi粒子を粉砕直後に空気中で包装し、20℃で3か月間貯蔵した。空気中でSi粒子を取り出した後、表1に報告した分析データを得た。比較例1の生成物のDRIFTスペクトルを図1に示す。
【0091】
[実施例2(Ex.2)]:
Si粒子の熱処理:
比較例1で粉砕して生成したSi粒子10gを舟形皿に秤量し、溶融シリカ管に入れて管状炉MTF12/38/400(Carboliteの商品名)に移した。溶融シリカ管をアルゴン(グレード4.8;酸素3ppm、水5ppm)で10分間フラッシュし、不活性ガス雰囲気を作った。続いて、この炉を表1に示す特定の温度に加熱し、この温度で4時間維持した。その後、管状炉を不活性ガス雰囲気下で室温に冷却し、生成物を取り出した。生成物について、酸素含有率及び粒径分布を調べ、DRIFT分光法によっても調べた。実施例2eの生成物のDRIFTスペクトルを図2に示す。
【0092】
【表1】
【0093】
本発明による熱処理は、比較例1及び実施例2の粒径の比較が示すように、Si粒子の強凝集をもたらさず、またSi粒子の酸素含有率の有意な増加ももたらさない。
【0094】
比較例2fの場合、1200℃での熱処理でSiOとSiの反応が起こり、ガス状SiOが形成され、このガス状SiOが不活性ガス流で生成物から運び去られ、Si粒子の酸素含有率の低下につながった。
【0095】
<水性分散液中のSi粒子の反応性の試験>:
各(比較)例からのSi粒子400mgを秤量して、Fischer-Porter容器(圧力安定性のあるガラス容器、Andrews Glass Co.製の耐圧反応容器、総容積87mlに相当する3oz)に入れ、pH7.0でLiポリアクリル酸水溶液(4重量%濃度)20gと混合し、超音波処理を1分間行った後、耐圧容器を閉じ、その後、予熱されたアルミニウム加熱ブロック内で、60℃で加熱した。
【0096】
試験結果を表2に報告する。
【0097】
ガス発生の開始は、Si粒子を添加せずに蓄積する圧力の解放後に反応容器内の圧力が上昇し始める時点である。
【0098】
30分後の圧力上昇は、水素発生開始30分後に確立された圧力である。
【0099】
表2に報告した値は、2回の測定の平均値である。複数の測定値における精度は、ガス発生開始に対し±2~4分、圧力増加に対し±0.1barである。
【0100】
【表2】
【0101】
熱処理されていない比較例1のSi粒子の水性分散液は、水素形成の迅速な開始を示す。
【0102】
本発明による熱処理によって得られた実施例2b~2eの生成物は、比較例1の酸素含有率と実質的に同一の酸素含有率にもかかわらず、水素発生の開始が遅延し、水性懸濁液中の水素発生速度も低下する。より高い圧力上昇から分かるように、本発明による温度範囲以上の熱処理(比較例2f)ですら、熱処理されていない比較例1のSi粒子に比べて不利であることが証明された。
【0103】
<水性インク配合物におけるガス発生の試験>:
85℃で恒量に乾燥したポリアクリル酸29.71g及び脱イオン水756.60gをシェーカー(290L/分)によりポリアクリル酸が完全に溶解するまで2.5時間撹拌した。水酸化リチウム一水和物を、pHが7.0(pH計WTW pH 340i及びSenTix RJD電極を用いて測定)になるまで、溶液に少量ずつ加えた。続いて、この溶液をシェーカーによってさらに4時間混合した。
【0104】
各(比較)例のSi粒子7.00gを中和されたポリアクリル酸溶液12.50g、脱イオン水5.10gに高速ミキサーを用いて5分間4.5m/秒の回転速度、20℃で30分間12m/秒の回転速度で分散させた。黒鉛(Imerys、KS6L C)2.50gを添加した後、12m/秒の回転速度でさらに30分間混合物を攪拌した。
【0105】
このようにして得られたアノードインクからのガス発生は、上記のように、圧力の蓄積を測定することによって、その製造直後に決定した。アノードインクについて圧力の蓄積を16時間観察した。試験結果を表3に報告する。
【0106】
【表3】
【0107】
本発明によるインク配合物は、数時間後でも均一な電極コーティングを生じるように処理することができる。
【0108】
比較例1のSi粒子を含むアノードインクは、強い水素発生のために長期間後に発泡する傾向があり、均一な電極被覆を生じるように処理することができなかった。
図1
図2