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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-25
(45)【発行日】2022-03-07
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/49 20070101AFI20220228BHJP
   H02M 7/48 20070101ALI20220228BHJP
【FI】
H02M7/49
H02M7/48 E
H02M7/48 M
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021521720
(86)(22)【出願日】2019-05-31
(86)【国際出願番号】 JP2019021681
(87)【国際公開番号】W WO2020240810
(87)【国際公開日】2020-12-03
【審査請求日】2021-05-31
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】特許業務法人 志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金子 恭大
(72)【発明者】
【氏名】石黒 崇裕
【審査官】栗栖 正和
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-046707(JP,A)
【文献】特開2018-129963(JP,A)
【文献】特開2019-022313(JP,A)
【文献】国際公開第2015/178376(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/121821(WO,A1)
【文献】特開2017-200327(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/49
H02M 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも3つのレグを含み、
前記レグのそれぞれは、
一以上のセルを含むアームと、
前記アームの交流側に接続されたインダクタンスと、
前記インダクタンスに流れる電流を検出する電流検出部と、を含み、
前記3つのレグのうち、第1レグはU相、第2レグはV相、第3レグはW相に接続され、
前記セルは、
スイッチング素子と、
コンデンサと、
前記コンデンサの両端の電圧を検出する電圧検出部と、
制御部により出力された制御信号に基づいて前記スイッチング素子を制御して直流側に出力する電力を制御し、前記電圧検出部により検出された前記コンデンサの電圧を前記制御部に提供するセル制御部と、を含み、
交流電力を直流電力または直流電力を交流電力に変換する変換器と、
前記変換器の直流側における正極線と負極線または接地線との間に接続される負荷装置と、
前記変換器に含まれる前記電圧検出部により検出されたコンデンサの電圧に基づいて、前記負荷装置に電力を消費または蓄電させるように前記負荷装置を制御する前記制御部と、を備える
電力変換装置。
【請求項2】
前記制御部は、
前記コンデンサの電圧が第1閾値を超えた場合に、前記負荷装置に電力を消費または蓄電させるように前記負荷装置を制御し
前記コンデンサの電圧が第2閾値以下になった場合に、前記負荷装置に電力を消費または蓄電させるように前記負荷装置を制御することを停止する、
請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記第1閾値は、過電圧が生じている状況に応じた電圧であり、
前記第2閾値は、前記第1閾値よりも小さい定格レベル以下の電圧である、
請求項2に記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記制御部は、
直流側の系統で事故が発生したことを示す信号を取得していない場合、前記直流側に流れる直流電流と、コンデンサの電圧を検出する電圧検出部により検出されたコンデンサの電圧とに基づく制御値に基づいて、前記変換器を制御するための制御信号を生成し、
前記直流側の系統で事故が発生したことを示す信号を取得した場合、前記直流側に流れる直流電流と前記電圧検出部により検出されたコンデンサの電圧とに基づく制御値を制限した制限制御値に基づいて、前記制御信号を生成する、
請求項1から3のうちいずれか1項に記載の電力変換装置。
【請求項5】
前記直流側と前記直流側に接続された複数の直流送電路とのそれぞれの接点のうち少なくとも1つには直流遮断器が接続され、
前記制御部は、前記直流遮断器の開閉状態を制御可能である、
請求項1から4のうちいずれか1項に記載の電力変換装置。
【請求項6】
前記直流側と前記直流側に接続された複数の直流送電路とのそれぞれの接点のうち少なくとも2つの接点のそれぞれには直流遮断器が接続され、
前記制御部は、前記変換器がゲートブロックしている場合に、前記変換器の直流側に電流が流れておらず、且つ複数の前記直流遮断器のうちいずれかの前記直流遮断器が閉状態である場合に、前記変換器が運転を再開するように前記ゲートブロックを解除する、
請求項5に記載の電力変換装置。
【請求項7】
前記制御部は、
直流側の電流変化率が規定値よりも大きい場合に、前記直流側が事故状態であることを検知し、
前記直流側の電流変化率が前記規定値以下になった場合に直流側が事故状態でなくなったことを検知し、
前記事故状態の検知結果に基づいて、前記変換器を制御する、
請求項5または6に記載の電力変換装置。
【請求項8】
前記アームは、複数のセルを直列接続して構成され、前記セルはハーフブリッジ回路、もしくはフルブリッジ回路であり、
前記インダクタンスは、前記アームに直列接続されるバッファリアクトルであり、
前記コンデンサは、各セルが有するセルコンデンサである、
請求項1から7のうちいずれかの1項に記載の電力変換装置。
【請求項9】
少なくとも3つのレグを含み、
前記レグのそれぞれは、
一以上のアームと、
前記アームと並列に1つもしくは、2つ以上直列接続される直流コンデンサと、
前記直流コンデンサの両端の電圧を検出する電圧検出部と、
前記アームの交流側に接続されたインダクタンスと、
前記インダクタンスに流れる電流を検出する電流検出部と、を含み、
前記3つのレグのうち、第1レグはU相、第2レグはV相、第3レグはW相に接続され、
前記アームは、1つのスイッチング素子または、2つ以上のスイッチング素子を直列接続して構成され、
交流電力を直流電力または直流電力を交流電力に変換する変換器と、
前記変換器の直流側における正極線と負極線または接地線との間に接続される負荷装置と、
前記変換器に含まれる前記電圧検出部により検出された前記直流コンデンサの電圧に基づいて、前記負荷装置に電力を消費または蓄電させるように前記負荷装置を制御する制御部と、を備え、
前記直流側と前記直流側に接続された複数の直流送電路とのそれぞれの接点のうち少なくとも1つには直流遮断器が接続され、
前記制御部は、前記直流遮断器の開閉状態を制御可能である、
電力変換装置。
【請求項10】
前記変換器の交流側は交流電気設備に接続され、
前記交流電気設備は、風力発電所もしくは、交流系統である、
請求項1から9のうちいずれか1項に記載の電力変換装置。
【請求項11】
前記直流側と前記直流側に接続された複数の直流送電路とのそれぞれの接点のうち少なくとも2つの接点のそれぞれには直流遮断器が接続され、
前記制御部は、
前記変換器がゲートブロックしている場合に、前記変換器の直流側に電流が流れておらず、且つ複数の前記直流遮断器のうちいずれかの前記直流遮断器が閉状態である場合に、前記変換器が運転を再開するように前記ゲートブロックを解除する、
請求項9に記載の電力変換装置。
【請求項12】
前記制御部は、
前記直流側の電流変化率が規定値よりも大きい場合に、前記直流側が事故状態であることを検知し、前記直流側の電流変化率が前記規定値以下になった場合に直流側が事故状態でなくなったことを検知し、前記事故状態の検知結果に基づいて、前記変換器を制御する、
請求項9または11に記載の電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、複数の変換所間で電力融通を行う多端子直流送電システムが利用されている。直流送電システムにおいて、事故が発生した場合、電力を変換する電力変換器の運転が停止する場合がある。電力変換器が停止した場合には、再起動するまでに長時間を要してしまうことがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-14837号公報
【非特許文献】
【0004】
萩原 誠・赤城 泰文「モジュラー・マルチレベル変換器(MMC)のPWM制御法と動作検証」、電気学会論文D(産業応用部門)、128巻7号、pp.957-965、2008年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、送電システムの状況に応じて、電力変換器をより適切に制御することができる電力変換装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態の電力変換装置は、変換器と、負荷装置と、制御部とを持つ。変換器は、少なくとも3つのレグを含む。前記レグのそれぞれは、一以上のセルを含むアームと、前記アームの交流側に接続されたインダクタンスと、前記インダクタンスに流れる電流を検出する電流検出部と、を含む。前記3つのレグのうち、第1レグはU相、第2レグはV相、第3レグはW相に接続される。前記セルは、スイッチング素子と、コンデンサと、電圧検出部と、制御部とを持つ。電圧検出部は、前記コンデンサの両端の電圧を検出する。セル制御部は、制御部により出力された制御信号に基づいて前記スイッチング素子を制御して直流側に出力する電力を制御し、前記電圧検出部により検出された前記コンデンサの電圧を前記制御部に提供する。交流電力を直流電力または直流電力を交流電力に変換する。負荷装置は、前記変換器の直流側における正極線と負極線または接地線との間に接続される。前記制御部は、前記変換器に含まれるコンデンサの電圧に基づいて、前記負荷装置に電力を消費または蓄電させるように前記負荷装置を制御する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】直流送電システムの構成の一例を示す図である。
図2】電力変換装置の機能構成を中心に示す図である。
図3】セルの機能構成の一例を示す図である。
図4】ブリッジ回路の構成の一例を示す図である。
図5】制御装置が実行する処理の概要を説明するための図である。
図6】負荷装置の動作および停止を示す指令値を決定する処理を説明するための図である。
図7】動作演算部の動作とコンデンサ電圧の平均値と電圧変化率との関係の一例を示す図である。
図8】直流事故時に行われる操作量の演算に関する処理を説明するための図である。
図9】直流系統の事故状態と健全状態を検知するための状態検出部の処理に関するブロック図である。
図10】事故除去後に電力変換器がスイッチング動作を再開するか否かが決定される処理に関するブロック図である。
図11】第2実施形態の電力変換装置の構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、実施形態の電力変換装置を、図面を参照して説明する。
【0009】
(第1の実施形態)
図1は、直流送電システム1の構成の一例を示す図である。直流送電システム1は、複数の変換所間で電力融通を行う多端子直流送電システムである。直流送電システム1における長距離範囲に点在する交流電気設備2(図中、2-1~2-5)のそれぞれは、電力変換装置10と連系する。交流電気設備2は、発電所(例えば、風力発電所)や、その他の交流系統である。電力変換装置10は、直流系統3(図中、3-1~3-8)を介して他の複数の電力変換装置10と接続されている。以下、電力変換装置10を、変換所と称する場合がある。
【0010】
図1の例では、交流設備および変換所がそれぞれ5か所に点在し、変換所同士を接続する直流送電路が、計8区間(図中、区間3-1~3-8)が存在する場合の多端子直流送電システムである。交流電気設備2と変換所の個数および直流送電路の区間数や条数はこの限りでない。例えば、交流電気設備2と連系する少なくとも3つ以上の変換所を直流送電路2区間で接続した、ループ状あるいは非ループ状の直流送電システムまたは2端子直流送電システムに、本実施形態の処理等が適用されてもよい。
【0011】
図2は、電力変換装置10の機能構成を中心に示す図である。直流母線200(図中、200P、200N)に対して、並列に、電力変換装置10および直流遮断器210(210-1、210-2)が電気線を介して接続されている。
【0012】
電力変換装置10は、例えば、電力変換器20と、負荷装置80と、制御装置100とを備える。電力変換器20と負荷装置80とは電気線を介して並列に接続されている。電力変換器20は、変圧器TRと、複数のレグ30(図中、30-1~30-3)とを有する。
【0013】
交流電気設備2と各レグ30の端子NACとの間には、変圧器TRが接続されている。変圧器TRは、一次巻線と二次巻線との組を三相分備える。三相とは、例えば、交流のU相、交流のV相、および交流のW相である。変圧器TRの一次巻線側には、交流のU相の交流電力と、交流のV相の交流電力と、交流のW相の交流電力とが、それぞれ供給される。変圧器TRは、供給された交流電力を変圧して、変圧した交流電力を二次巻線側(レグ30側)に出力する。
【0014】
各レグ30は、正側アーム40P(40P-1~40P-3)と負側アーム40N(40N-1~40N-3)とを含む。正側アーム40Pと負側アーム40Nとの間には、端子NACが接続されている。図2の例では、レグ30-1の端子NACには変圧器TRの二次巻線U相が接続され、レグ30-2の端子NACには変圧器TRの二次巻線V相が接続され、レグ30-3の端子NACには変圧器TRの二次巻線W相が接続される。
【0015】
レグ30の正側アーム40Pにおいて、一以上のセル50(例えば50P-1-1~50P-1-n)が直列に接続される。「n」は任意の自然数である。レグ30の負側アーム40Nにおいて、一以上のセル50(例えば50N-1-1~50N-1-n)が直列に接続される。正側アーム40Pおよび負側アーム40Nには、それぞれセル50がN個(N≧2)直列に接続されている。セル50は単位変換器として機能し、アーム40は階段状の交流電圧等の任意の電圧を出力する。
【0016】
上記の階段状の交流電圧の出力は、各セル50が備えるスイッチング素子(図3参照)のスイッチング動作のタイミングがずらされることにより行われる。例えば、制御装置100は、各セル50に入力されるアーム電圧指令値X1に基づいてスイッチング素子を制御してスイッチング動作を制御する。各セル50は、内部に有するセルコンデンサの電圧を検出し、セルコンデンサの電圧検出値(コンデンサ電圧検出値X2)を制御装置100に出力する。セル50および上記制御の内容の詳細については後述する。
【0017】
バッファリアクトルLBと電流センサCTは、正側アーム40Pと直列に接続されている。バッファリアクトルLBと電流センサCTは、負側アーム40Nと直列に接続されている。バッファリアクトルLBは、セル50に流れる短絡電流を抑制する。電流センサCTは各バッファリアクトルLBに流れる電流を検出し、アーム電流検出値X3を制御装置100に出力する。
【0018】
正側アーム40Pおよび負側アーム40Nのそれぞれにおいて、各セル50の電圧が加算されて出力電圧が決定される。正側アーム40Pの出力直流電圧は、交流端子NACを基準にすると正の電圧である。正側アーム40Pによって生成された正の直流電圧は、端子NDCPに出力される。負側アーム40Nの出力直流電圧は、交流端子NACを基準にすると負の電圧である。負側アーム40Nによって生成された負の直流電圧は、端子NDCNに出力される。電力変換器20は、端子NDCPと端子NDCNの間に直流電力を供給する。
【0019】
負荷装置80は、例えば、抵抗体や、蓄電機能を有する装置等である。負荷装置80は、動作状態において直流側電力を消費または蓄電することによって、電力変換器20の直流側電力を調整する機能を有する。負荷装置80は、電力変換器20の直流側における正極線と負極線(または接地線)との間に接続される。負荷装置80は端子NDCPと端子NDCNに接続され、入力される負荷装置動作指令X4に従って動作状態または停止状態に制御される。例えば、直流事故等によって電力変換器20の交流側の電力に対し直流側の電力が増加した場合に各セル50のエネルギー蓄積要素であるセルコンデンサが過充電され、セルコンデンサが過電圧になる場合がある。このとき負荷装置80が動作状態になることで、直流側の電力を調整する。この調整により、交流側の電力と直流側の電力との均衡が維持されて、セルコンデンサの過電圧が回避される。負荷装置80は、動作状態に応じて、動作状態または停止状態を示す負荷装置状態信号X5を出力する。
【0020】
直流母線200Pは端子NDCPに接続され、直流母線200Nは端子NDCNに接続される。直流母線200と直流母線200に接続された直流系統3(直流送電路)との接点のうち少なくとも1つには直流遮断器210が接続される。制御装置100は、直流遮断器210の開閉状態を制御可能である。直流遮断器210は、1つの直流遮断器であってもよいし、複数の直流遮断器を含んでもよい。例えば、直流遮断器210-1は直流母線200Pと直流系統3との間に接続されている。直流遮断器210-2は直流母線200Nと直流系統3との間に接続されている。直流遮断器210は、直流系統3を介して所定の変換所(第1変換所、第2変換所・・・)に接続される。直流遮断器210は、制御装置100が出力する直流遮断機動作指令X6に応じて、開動作または閉動作し、開動作または閉動作したことを示す直流遮断器状態信号X7を制御装置100に出力する。
【0021】
直流帰路を大地帰路とするために端子NDCNを接地する場合は、負側の直流母線200Nや負側の直流母線200Nに接続された直流遮断器210-2は省略されてもよい。
【0022】
制御装置100は、CPU(Central Processing Unit)などのプロセッサが、記憶装置に記憶されたプログラム(ソフトウェア)を実行することで実現される。制御装置100は、LSI(Large Scale Integration)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、GPU(Graphics Processing Unit)等のハードウェア(回路部:circuitryを含む)によって実現されていてもよいし、ソフトウェアとハードウェアの協働によって実現されていてもよい。プログラムは、予めHDD(Hard Disk Drive)やフラッシュメモリなどの記憶装置に格納されていてもよいし、DVDやCD-ROMなどの着脱可能な記憶媒体に格納されており、記憶媒体がドライブ装置に装着されることでインストールされてもよい。
【0023】
制御装置100は、電力変換器20からコンデンサ電圧検出値X2およびアーム電流検出値X3を取得し、取得したこれらの検出値に基づいて、所定の演算を行って各種操作量(アーム電圧指令値X1)を導出する。上記によって得られたアーム電圧指令値X1は各セル50に送信される。
【0024】
制御装置100は、セル50のコンデンサの電圧に基づいて、負荷装置80に電力を消費または蓄電させるように負荷装置80を制御する。制御装置100は、負荷装置80の動作または停止を決定するための演算を行い、演算結果に基づいて負荷装置動作指令X4を導出し、導出した負荷装置動作指令X4を負荷装置80に送信する(詳細は後述する)。
【0025】
制御装置100は、負荷装置80の動作状態を示す負荷装置状態信号X5を、負荷装置80から取得する。制御装置100は、取得した負荷装置状態信号X5に基づいて、直流遮断器210の開閉動作を決定するための演算を行って直流遮断機動作指令X6を導出する。制御装置100は、導出した直流遮断機動作指令X6を直流遮断器210に送信する。制御装置100は、直流遮断器210の動作状態を示す直流遮断器状態信号X7を取得し、取得した直流遮断器状態信号X7に基づいて、直流遮断器210の開閉動作を決定するための演算を行う(詳細は後述する)。
【0026】
図3は、セル50の機能構成の一例を示す図である。セル50は、例えば、ハーフブリッジ型のチョッパセルである。この場合、セル50は、端子50A、端子50Bと、スイッチング素子52Aと、スイッチング素子52Bと、セルコンデンサ54と、給電回路56と、セル制御部58と、帰還ダイオード60Aと、帰還ダイオード60Bと、電圧センサVTとを備える。
【0027】
端子50Aは、端子NDCPまたは他のセル50に接続され、端子50Bは、他のセル50または端子NACに接続されている。スイッチング素子52Aと、スイッチング素子52Bとは、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)やMOSFET(metal-oxide-semiconductor field-effect transistor)等の自己消弧型の半導体素子である。これらのスイッチング素子52Aおよびスイッチング素子52Bは、例えば、直列に2個接続されている。
【0028】
帰還ダイオード60Aと、帰還ダイオード60Bとは、直列に接続され、スイッチング素子52Aおよびスイッチング素子52Bにそれぞれ逆並列に接続されている。端子50Aから延在する電気線は、直列に接続されたスイッチング素子52Aとスイッチング素子52Bとの間、および直列に接続された帰還ダイオード60Aと帰還ダイオード60Bとの間に接続される。
【0029】
セルコンデンサ54は、直列に接続された2個のスイッチング素子52Aおよびスイッチング素子52Bに並列に接続されている。
【0030】
給電回路56は、セルコンデンサ54に直接に接続される。給電回路56は降圧回路である。給電回路56は、セルコンデンサ54により出力された電圧をセル制御部58に出力することでセル制御部58に電力を供給する。電圧センサVTは、セルコンデンサ54の両端の電位差を検出し、検出値をセル制御部58に出力する。スイッチング素子52Aおよび帰還ダイオード60Aの第1側(正端子側)は電圧センセVTの第1側(正端子側)に接続されている。スイッチング素子52Bおよび帰還ダイオード60Bの第2側(負端子側)は、端子50Bから延在する電気線を介して、電圧センセVTの第2側(負端子側)に接続されている。
【0031】
セル制御部58は、制御装置100により出力された制御信号に基づいてスイッチング素子52を制御して直流母線200に出力する電力を制御し、電圧センサVTにより検出された電圧を制御装置100に提供する。セル制御部58は、電圧センサVTにより検出された検出値と制御装置100に出力されるアーム電圧指令値X1とを取得し、取得した情報に基づいて、各種演算(例えばPWM制御のための演算)を行う。制御装置100は、PWM制御のための演算結果に応じて、ゲート信号G1およびゲート信号G2を生成し、生成したゲート信号G1をスイッチング素子52Aのゲートに出力し、生成したゲート信号G2をスイッチング素子52Bのゲートに出力する。制御装置100により出力される制御信号には、セル50の電力変換動作を停止させるための変換器停止指令ESが含まれる場合がある。セル制御部58は、変換器停止指令ESを取得すると、各セル50の電力変換動作を停止させる。セル制御部58は、コンデンサ電圧検出値X2を制御装置100に送信する。
【0032】
セル50は、スイッチング素子52Aがオン制御されており、スイッチング素子52Bがオフにされている場合にセルコンデンサ54の電圧を出力する。セル50は、スイッチング素子52Aがオフ制御されており、スイッチング素子52Bがオンにされている場合にゼロ電圧を出力する。
【0033】
図3に示したハーフブリッジ回路に代えて、図4に示すようなフルブリッジ回路が用いられてもよい。フルブリッジ回路は、4つのスイッチング素子52C、52D、52E、52Fを含む。スイッチング素子52Cとスイッチング素子52Dとは直列に接続され、スイッチング素子52Eとスイッチング素子52Fとは直列に接続されている。スイッチング素子52Cとスイッチング素子52Dとの直列回路とスイッチング素子52Eとスイッチング素子52Fとの直列回路とは、並列に接続されている。スイッチング素子52Cとスイッチング素子52Dとに対して、直列に接続された帰還ダイオード60C、60Dが逆並列に接続されている。スイッチング素子52Eとスイッチング素子52Fとに対して、直列に接続された帰還ダイオード60E、60Fが逆並列に接続されている。端子50Aから延在する電力線は、スイッチング素子52Cとスイッチング素子52Dとの間に接続され、端子50Bから延在する電力線は、スイッチング素子52Eとスイッチング素子52Fとの間に接続されている。スイッチング素子52C、52E、52D、52Fは、セル制御部58により生成されたゲート信号に基づいて制御される。
【0034】
図5は、制御装置100が実行する処理の概要を説明するための図である。
制御装置100は、例えば[処理1]~[処理4]を行う。
[処理1]は、制御装置100が、セル50のセルコンデンサ54の電圧(コンデンサ電圧)に基づいて負荷装置80を制御し、直流電力を消費または蓄電する処理である。これによりセルコンデンサ54の過電圧が抑制される。
[処理2]は、制御装置100が、直流事故検出時に、制御演算に用いる直流電力演算量を抑制する処理である。これによりコンデンサ電圧の制御性が向上する。すなわち、コンデンサ電圧が適切な範囲に制御される。
[処理3]は、制御装置100が、直流電流値に基づいて直流事故を検出する処理である。これにより迅速に直流事故が検出される。
[処理4]は、制御装置100が、遮断器の状態と直流電流とに基づいて電力変換器20を再起動させる処理である。これにより迅速に電力変換器20が再起動する。以下、これらの処理について説明する。
【0035】
[処理1]
まず、変換所の直流側に接続される負荷装置80の動作の詳細について図6を参照しながら説明する。図6は負荷装置80の動作および停止を示す指令値を決定する処理を説明するための図である。
【0036】
制御装置100は、動作演算部A1を含む。動作演算部A1は、始動判定部A2-1と、停止判定部A2-2と、SR-FF部A2-3とを備える。動作演算部A1は、コンデンサ電圧に基づいて、各処理を行う。以下の説明では、コンデンサ電圧の平均値を用いて処理が行われるものとして説明する。コンデンサ電圧の平均値は、例えば図2に示した複数のセルで検出されるコンデンサ電圧の全平均値であってもよいし、所定のアーム40(例えば40-1)に含まれるコンデンサ電圧検出値X2の平均値であってもよい。
【0037】
まず、始動判定部A2-1は、コンデンサ電圧の平均値を取得し、取得したコンデンサ電圧の平均値の時間変化率を導出する(ステップB1)。例えば、始動判定部A2-1は、コンデンサ電圧の平均値の毎サンプルごとに前回のサンプル値との差分を導出し、その導出結果に高周波ノイズ除去用のフィルタ演算処理を行って時間変化率を導出したり、移動平均処理などを行うことにより時間変化率を導出する。
【0038】
次に、始動判定部A2-1は、求めた時間変化率を予め設定した閾値ΔVcと比較し、コンデンサ電圧の平均値の時間変化率がΔVcよりも大きい場合にはハイ、小さい場合にはローを出力する(ステップB2)。次に、始動判定部A2-1は、コンデンサ電圧の平均値が閾値Vth(第1閾値)を超えたか否かを判定する(ステップB3)。閾値Vthは、定格値以上に設定された値である。例えば、閾値Vthを1puとすると、コンデンサ電圧の平均値が1puよりも高い場合、または1puに所定値を減算(または加算)した値よりも高い場合にはハイ、低い場合にはローが出力される。閾値△Vcを超える電圧の時間変化率は、異常な電圧上昇が生じている状況に応じた電圧の変化率である。閾値Vthを超える電圧は、過電圧が生じている状況に応じた電圧である。
【0039】
次に、始動判定部A2-1は、処理B2の出力信号と処理B3の出力信号の論理積を導出する(ステップB4)。処理B2の出力信号と処理B3の出力信号とがハイの場合、ステップB4の処理でハイが出力され、処理B2の出力信号または処理B3の出力信号とがローの場合、ステップB4の処理でローが出力される。始動判定部A2-1は、ステップB4で出力された信号が連続でハイ状態である連続時間を出力し、ステップB4の処理で出力される信号がローになった場合には出力をゼロにリセットする(ステップB5)。
【0040】
始動判定部A2-1は、処理B5で出力された連続時間と、予め設定された規定時間T1との大小を比較する(ステップB6)。始動判定部A2-1は、処理B5で出力された連続時間が規定時間T1よりも長い場合にはハイを出力し、短い場合にはローを出力する。上述した処理の結果、始動判定部A2-1は、例えば直流事故などによってコンデンサ電圧の平均値が連続して閾値Vthを超え、急増している場合にはハイ、それ以外の場合にはローを出力する。
【0041】
停止判定部A2-2は、コンデンサ電圧の平均値と予め設定した閾値Vchとの大小を比較する(ステップB7)。停止判定部A2-2は、コンデンサ電圧の平均値が閾値Vchよりも小さい場合にはハイ、コンデンサ電圧の平均値が閾値Vchよりも大きい場合にはローを出力する。閾値Vch(第2閾値)は、コンデンサ電圧が閾値Vthに相当する、または閾値Vthよりも小さい定格レベル以下の電圧である。
【0042】
SR-FF部A2-3が、始動判定部A2-1の出力信号と停止判定部A2-2の出力信号を用いて、負荷装置動作指令X4を生成する(ステップB8)。SR-FF部A2-3は、始動判定部A2-1の出力信号をSR-FF部A2-3のセット端子(S)に入力し、停止判定部A2-2の出力信号をSR-FF部A2-3のリセット端子(R)に入力する。この結果、負荷装置動作指令X4は、直流事故などによってコンデンサ電圧の平均値が規定時間T1の間、閾値Vthを超え急増した場合にはハイとなり、コンデンサ電圧の平均値が閾値Vch以下になった場合にロー信号となる。
【0043】
負荷装置80は、上記の処理によって生成された負荷装置動作指令X4に従って動作または停止する。負荷装置80は、負荷装置動作指令X4がハイを示す指令である場合に動作して、負荷装置動作指令X4がローを示す指令である場合に停止する。負荷装置80が動作することによってコンデンサ電圧の上昇が抑制されて、過電圧により電力変換器20が停止するのを防止する。
【0044】
図7は、動作演算部A1の動作とコンデンサ電圧の平均値と電圧変化率との関係の一例を示す図である。図7では閾値Vchは1puである。時刻tにおいて、事故が発生すると、時刻tから時刻t+1の間で、事故の影響により、一時的にコンデンサ電圧の平均値が低下し、コンデンサ電圧の変化率が0pu/sに対してマイナスになる。
【0045】
時刻t+1において、コンデンサ電圧の平均値が上昇すると、コンデンサ電圧の変化率が上昇し、コンデンサ電圧の変化率は閾値△Vc以上となり、ステップB2の処理でハイの信号が出力される。時刻t+2において、コンデンサ電圧の平均値が閾値Vthを超えると、ステップB3の処理で、ハイの信号が出力される。
【0046】
時刻t+2から時刻t+3の間、ステップB2およびB3でハイの信号が出力されているため、ステップB4の処理でハイの信号が出力される。このハイの信号の出力時間が規定時間T1を超えた時刻t+3において、ステップB6の処理でハイの信号が出力され、負荷装置80を動作させるための信号を生成され、生成された信号が負荷装置80に出力される。
【0047】
時刻t+3において、コンデンサ電圧の平均値がピークとなり、その後、コンテンツ電圧の平均値が減少し続けて、時刻t+4において、コンデンサ電圧の平均値が閾値Vch以下となると、ステップB7でハイの信号が出力され、ステップB8の処理で負荷装置80の動作を停止させるための信号が生成され、生成された信号が負荷装置80に出力される。
【0048】
上述したように、制御装置100は、電力変換器20に含まれるコンデンサの電圧に基づいて、負荷装置80に電力を消費または蓄電させるように負荷装置80を制御することにより、セルコンデンサ54の過電圧が抑制される。この結果、制御装置100は、直流送電システム1の状況に応じて、電力変換器20をより適切に制御することができる。
【0049】
[処理2]
図8は、直流事故時に行われる操作量の演算に関する処理を説明するための図である。制御装置100の内部で制御演算が行われ、セル50を制御するための操作量が導出される。制御装置100は、コンデンサ電圧(直流電圧)と自変換所の直流側に流れる直流電流量とに基づいて直流電力量を導出する。制御装置100は、この直流電力量をフィードフォワード量として利用して、各種の制御演算を行う。直流電力量は、後述する処理3の直流電流に基づいて導出される。
【0050】
制御装置100は、直流電力算出部110と、コンデンサ電圧制御部112と、有効電流指令値算出部114と、交流電流制御部116と、リミッタ118と、切替部120とを備える。図8に示すように、コンデンサ電圧制御部112は、コンデンサ電圧制御に関する出力Pc_refを加算器に出力し(ステップB10)、直流電力算出部110は、フィードフォワード量である直流電力量Pdc_ffを加算器に出力する(ステップB11)。加算器は、コンデンサ電圧制御部112が出力した出力Pc_refと、直流電力算出部110が出力した直流電力量Pdc_ffとを加算する(ステップB12)。加算結果は、有効電流指令値算出部114に入力される。有効電流指令値算出部B12は、出力Id_refを交流電流制御部116に出力する(ステップB15)。交流電流制御部116は、ステップB15の処理で出力された出力Id_refを有効電流の制御指令値として利用する(ステップB16)。
【0051】
直流事故が発生した場合には、直流電力量Pdc_ffが高周波で振動的に変動し、有効電流指令値算出部B12の出力Id_refが乱される。これが原因となり、有効電流制御が悪影響を受け、結果的にコンデンサ電圧の制御性が悪化することがある。そこで、直流事故を検出している間、直流事故検出信号X8に応じた切替部120の処理によって、直流電力算出部110の出力にリミッタ118が処理を行う(ステップB13、B14)。
【0052】
直流事故検出信号X8は、直流側で事故が発生している場合にはハイ、直流側が健全である場合にはローとなる。直流事故検出信号X8は、前述した図2の制御装置100によって与えられたり、後述する方法によって直流電流値に基づいて生成されたりする。リミッタ118が用いる上限値および下限値は、例えば変換器の定格容量に準じた値である。あるいは、両方にゼロを用いる。これによって直流事故時の直流電力量Pdc_ffは制限されたり、無効化されたりするので、コンデンサ電圧の制御性悪化が抑制される。
【0053】
このように制御装置100が、直流系統で事故が発生したことを示す信号を取得していない場合には、直流側電力の算出量に基づいて、電力変換器20を制御するための制御信号を生成し、直流系統で事故が発生したことを示す信号を取得した場合には、直流側電力の算出量を制限した値に基づいて、制御信号を生成することにより、直流送電システム1の状況に応じて、電力変換器20をより適切に制御することができる。
【0054】
[処理3]
図9は、直流系統3の事故状態と健全状態を検知するための状態検出部A11の処理に関するブロック図である。状態検出部A11の電流急増検出部A12は、入力された直流電流値Idcを基に演算処理を行う。状態検出部A11の状態判定部A13は、電流急増検出部A12の出力を基に演算処理を行う。状態検出部A11のSR-FF部は、電流急増検出部A12の演算結果と、状態判定部A13の演算結果とに基づいて、直流系統3が健全状態であるか、事故状態であるかを示す直流事故検出信号X8を出力する。
【0055】
ここで直流電流とは、自変換所の直流側に流れる電流のことである。例えば、制御装置100は、例えば、下記の手法で直流電流値Idcを算出する。
(1)制御装置100が、下記の式(1)のように各アームから出力されるアーム電流の総和の半分の量を求める。
(iarmpu+iarmnu+iarmpv+iarmnv+iarmpw+iarmnw)/2・・・式(1)
【0056】
アーム電流である、iarmpu、iarmnu、iarmpv、iarmnv、iarmpw、iarmnwは、それぞれ正側アーム40P-1、負側アーム40N-1、正側アーム40P-2、負側アーム40N-2、正側アーム40P-3、負側アーム40N-3から出力される電流である。アーム電流は、不図示の電流センサにより検出されてもよいし、制御装置100が、セル50の制御に関する演算結果に基づいて導出されてもよい。
【0057】
(2)制御装置100は、正側アーム40Pの各相の総和iarmpu+iarmpv+iarmpwを求める。
(3)制御装置100は、負側アーム40Nの各相の総和iarmnu+iarmnv+iarmnwを求める。
(4)制御装置100は、直流遮断器210に流れる電流を検出し、接点を共有する線路の電流の各和を求める。
(5)制御装置100は、後述の2レベル変換器のように電力変換器20の直流側にエネルギーバッファとしてのコンデンサを有し直流側の電圧を検出している場合、交流側の有効電力を直流電圧で除算することによって直流電流を求める。交流側の有効電力は、例えば、電流センサCTの検知結果や、電流センサVTの検知結果等に基づいて導出してもよい。
【0058】
電流急増検出部A12では、直流電流値Idcの絶対値を算出する(ステップB20)。電流急増検出部A12は、ステップB16で出力された直流電流値Idcの絶対値の時間変化率を演算する(ステップB21)。時間変化率を求める方法としては、毎サンプルごとに前回サンプル値との差分を算出し、その結果に高周波ノイズ除去用のフィルタ演算処理を行い算出する方法や、移動平均処理などを行う方法がある。
【0059】
電流急増検出部A12は、ステップB21で出力された時間変化率と、予め設定された閾値ΔIdcとの大小を比較する(ステップB22)。ステップB21で出力された時間変化率が閾値ΔIdcよりも大きい場合はハイ、小さい場合にはローが出力される。閾値ΔIdcは、通常運転時に設定される直流電流の時間変化率よりも大きい値に設定される。閾値ΔIdcは、例えば0.1pu/msである。
【0060】
事故状態の検知には、直流電流値Idcが直接用いられてもよい。例えば、直流電流値が閾値と比較されることで、直流電流の異常増加から事故状態であることが検知される。この場合、閾値は、定格運転レベルよりも高い値に設定されている。しかし、時間変化率を用いることによって、事故状態をより早く検知することができる。
【0061】
状態判定部A13は、電力急増検出部A12により出力された信号に対して否定演算を行う(ステップB23)。状態判定部A13は、ステップB23で否定演算された信号が連続でハイ状態である時間を演算する(ステップB24)。状態判定部A13は、電力急増検出部A12により出力される信号がローになった場合には出力をゼロにリセットする。
【0062】
状態判定部A13は、ステップB24における処理結果と、予め設定された規定時間T2との大小を比較する(ステップB25)。ステップB25における処理結果に係る時間が規定時間T2よりも長い場合にはハイ、短い場合にはローが出力される。
【0063】
次に、SR-FF部は、電流急増検出部A12により出力された信号と、状態判定部A13により出力された信号とを用いて、直流事故検出信号X8を生成する(ステップB26)。ステップB25では、電流急増検出部A12により出力された信号がSR-FF部のセット端子(S)に入力され、状態判定部A13により出力された信号がSR-FFのリセット端子(R)に入力される。この結果、直流事故検出信号X8は、直流事故などによって直流側電流が急増し、直流電流の時間変化率が閾値ΔIdcを超過した場合にはハイ、規定時間T2の間、直流電流の時間変化率が閾値ΔIdc以下になった場合にローとなる。上記の処理によって、素早く直流事故が検知される。
【0064】
このように、制御装置100は、直流側の電流変化率が規定値よりも大きい場合に、直流側が事故状態であるとことを検知し、直流側の電流変化率が規定値以下になった場合に直流側が事故状態でなくなったことを検知することで、より迅速に事故の状態を検知することができる。そして、制御装置100は、事故状態の検知結果に基づいて、迅速に電力変換器20を制御することができる。例えば、制御装置100は、処理2で説明したように、事故状態が検知された場合、直流電力の算出量を制限して、セル50を制御するための制御信号を生成する。この結果、制御装置100は、迅速、且つより確実にコンデンサ電圧を適切な状態に制御することができる。更に、制御装置100は、事故状態が検知されなくなった場合、迅速に直流電力量の制限を解除することができる。
【0065】
[処理4]
図10は、事故除去後に電力変換器20がスイッチング動作を再開するか否かが決定される処理に関するブロック図である。制御装置100の再起動判定部A20は、ゲートブロック中において、自変換所の直流遮断器210の開閉状態信号と直流電流とを用いて、電力変換器20のスイッチング動作を再開することができるか否かを判定する。以下、再起動判定部A20の処理について説明する。
【0066】
自変換所の直流側と直流系統3との間に少なくとも1つの有効な送電経路が形成されている場合、送電可否判定部A21は、ハイの信号を出力する。例えば、以下のような構成が採用されてもよい。再起動判定部A20の送電可否判定部A21は、自変換所の直流遮断器210-1と直流遮断器210-2とのうち一方または双方の直流遮断器状態信号X7を論理和に入力する(ステップB30)。このとき、直流遮断器状態信号はハイが開極状態、ローが閉極状態を示すものとする。次に、送電可否判定部A21は、ステップB30の処理で出力された信号に対して否定演算を行う(ステップB31)。これにより、直流遮断器210のいずかが閉状態であり、直流母線200と直流系統3とが電気的に接続されている状態の場合にハイの信号が出力される。直流遮断器210のすべてが開状態であり、直流母線200と直流系統3とが電気的に切断されている状態の場合にローの信号が出力される。
【0067】
再起動判定部A20のゼロ電流判定部A22は、直流電流値Idcに基づいて直流電流が概略ゼロであることを検出する。まず、ゼロ電流判定部A22は、直流電流値Idcの絶対値を演算する(ステップB32)。次に、ゼロ電流判定部A22は、ステップB32の処理結果とニアゼロIZとの大小を比較する(ステップB33)。直流電流がニアゼロIZよりも小さい場合にハイ、大きい場合にはローが出力される。ここで、ニアゼロIZは、直流電流が流れていないことを判定するための信号で、0.01puなどのゼロに近い値を示す信号である。
【0068】
次に、ゼロ電流判定部A22は、ステップB33で出力された出力信号が連続でハイ状態である時間を演算する(ステップB34)。ステップB33の出力信号がローになった場合にはステップB34の出力はゼロにリセットされる。
【0069】
ゼロ電流判定部A22は、ステップB34における処理結果と、予め設定された規定時間T3との大小を比較する(ステップB35)。ステップB35の処理結果が規定時間T3よりも長い場合にはハイ、短い場合にはローが出力される。例えば、規定時間T3は1ms程度の時間である。これにより、潮流反転などにより一時的に直流電流がゼロクロスする場合などの誤判定が回避される。
【0070】
再起動判定部A20は、送電可否判定部A21により出力された信号と、ゼロ電流判定部A22により出力された信号との論理積を演算する(ステップB36)。次に、再起動判定部A20は、ステップB36の処理結果に対して、ポジティブエッジ検出処理を行って再起動信号を出力する(ステップB37)。すなわち、再起動判定部A20は、ステップB36で出力された出力信号がローからハイに変化した瞬間のみにパルス状の再起動信号を出力する。
【0071】
再起動信号は、ステップB36で出力された信号がローの場合、電力変換器20を停止状態に維持する待機信号、ステップB36で出力された信号がハイの場合、電力変換器20がスイッチング動作を再開する再起動を意味する信号である。これによって、自変換所と直流系統3とが少なくとも1つの有効な送電経路を形成するように接続されており、かつ直流側に流れる電流が概略ゼロとなっている場合に、電力変換器20のスイッチング動作を再開するための再起動許可信号X9が出力される。
【0072】
再起動許可信号X9がハイになると、ゲートブロック中の電力変換器20のスイッチング素子のスイッチング動作が再開される。上記の一連の処理は自変換所の情報のみで行われるため、他変換所の情報は必要とされず、通信に関わる遅延や通信に関わる信号処理の遅延が生じない。したがって、制御装置100は、直流事故等によって電力変換器20が停止した場合にも迅速に電力変換器20を再起動させることができる。
【0073】
このように、制御装置100が、電力変換器20がゲートブロックしている場合に、電力変換器20の直流側に電流が流れておらず、且つ直流遮断器210のうちいずれかの直流遮断器210が閉状態である場合に、電力変換器20が運転を再開するようにゲートブロックを解除することにより、迅速に電力変換器20を再起動させることができる。
【0074】
以上説明した第1実施形態によれば、制御装置100が、送電システムの状況に応じて、種々の処理を行うことにより、電力変換器20をより適切に制御することができる。
より具体的には、送電システムが非定常状態の場合における運転継続性能を向上した電力変換装置を提供することができる。
【0075】
(第2実施形態)
以下、第2実施形態について説明する。第2実施形態では、電力変換器20の機能構成が、第1実施形態の電力変換器20の構成と異なる。以下、第1実施形態との相違点について説明する。
【0076】
図11は、第2実施形態の電力変換装置10の構成の一例を示す図である。電力変換器20は、各正側アーム40P(40P-1Aから40P-3A)、および各負側アーム40N(40N-1Aから40P-3A)のそれぞれには少なくとも1つのスイッチング素子(41P-1~41P-3、41N-1~41N-3)が直列に接続されている。スイッチング素子のそれぞれに対して、帰還ダイオード42(42P-1~42P-3、42N-1~42N-3)が逆並列に接続されている。正側アーム40Pと負側アーム40Nの接点に端子NACが位置する。変圧器TRの二次巻線と端子NACの間に交流インピーダンスLACが介在し、電流センサCTは交流インピーダンスLACを流れる電流を検出するように設置される。交流インピーダンスLACはリアクトルにより形成される場合や変圧器TRの漏れインピーダンス成分により形成される場合がある。
【0077】
電力変換器20のエネルギー蓄積要素は端子NDCPと端子NDCNの間に接続される直流コンデンサCDCである。直流コンデンサCDCは少なくとも1つ以上の直列接続構成である。複数の直流コンデンサが直列に接続される場合には、中性点を端子NDCMとする。電圧センサ46Pは、端子NDCPと端子NDCMの電圧を検出するように設けられ、電圧センサ46Nは、端子NDCMと端子NDCNの電圧を検出するように設けられている。直流コンデンサCDCが一つのみの場合には、電圧センサ46は、端子NDCPと端子NDCNの間に一つ設置される。
【0078】
上記のような2レベルインバーター回路において、第1実施形態で説明した処理が適用されてもよい。
【0079】
以上説明した第2実施形態によれば、第1実施形態の電力変換装置10が奏する効果と同様の効果を奏する。
【0080】
また、上記の各実施形態では、制御装置100が、電力変換器20に含まれるコンデンサの電圧に基づいて、負荷装置80に電力を消費または蓄電させるように負荷装置80を制御するものとしたが、これに代えて、制御装置100は、電力変換器20の交流側の有効電力と直流側の電力との差異が規定範囲を逸脱する場合に負荷装置80に電力を消費または蓄電させる制御を行ってもよい。これにより、過電圧が抑制される。
【0081】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11