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特許7031100リチウム二次電池用ゲル電解質、リチウム二次電池およびリチウム二次電池の製造方法
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  • 特許-リチウム二次電池用ゲル電解質、リチウム二次電池およびリチウム二次電池の製造方法 図1
  • 特許-リチウム二次電池用ゲル電解質、リチウム二次電池およびリチウム二次電池の製造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-28
(45)【発行日】2022-03-08
(54)【発明の名称】リチウム二次電池用ゲル電解質、リチウム二次電池およびリチウム二次電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0565 20100101AFI20220301BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20220301BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20220301BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20220301BHJP
【FI】
H01M10/0565
H01M10/052
H01M4/13
H01M4/62 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020206630
(22)【出願日】2020-12-14
【審査請求日】2020-12-14
(73)【特許権者】
【識別番号】518110774
【氏名又は名称】株式会社ABRI
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】特許業務法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】丁 冬
(72)【発明者】
【氏名】久保田 昌明
(72)【発明者】
【氏名】金村 聖志
(72)【発明者】
【氏名】阿部 英俊
【審査官】村岡 一磨
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-514929(JP,A)
【文献】特表2017-535927(JP,A)
【文献】特開2014-112526(JP,A)
【文献】国際公開第2020/045893(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第111533864(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第105703003(CN,A)
【文献】米国特許第05110694(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0565
H01M 10/052
H01M 4/13
H01M 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム二次電池用ゲル電解質であって、
主鎖においてO原子を含む高分子化合物、リチウム塩、還元安定性を有する非水溶媒および酸化安定性を有する難燃剤を含み、
前記高分子化合物中のエ-テル結合に由来する酸素のモル濃度(O)と前記リチウム塩の中のリチウムイオンのモル濃度(Li)とのモル比(O/Li)が1~5であり、
前記高分子化合物および前記リチウム塩の合計質量(A+B)に対する前記非水溶媒の質量(C)の比率[C/(A+B)]が質量%表示で20~40であり、
前記高分子化合物および前記リチウム塩の合計質量(A+B)に対する前記難燃剤の質量(D)の比率[D/(A+B)]が質量%表示で10~30であるリチウム二次電池用ゲル電解質。
【請求項2】
前記難燃剤は、リン酸エステル化合物およびスルホン化合物から選ばれる少なくとも1つを含む請求項1に記載のリチウム二次電池用ゲル電解質。
【請求項3】
正極と、負極と、前記正極と前記負極の間に介在されたセパレ-タとを備えたリチウム二次電池であって、
請求項1または2に記載のリチウム二次電池用ゲル電解質は、前記正極、前記負極および前記セパレ-タに含浸されるリチウム二次電池。
【請求項4】
主鎖においてO原子を含む高分子化合物、リチウム塩、非水溶媒および難燃剤を含み、前記非水溶媒が前記高分子化合物、前記リチウム塩、前記非水溶媒および前記難燃剤の合計量に対して70~80質量%含むゲル電解液を調製する工程と、
正極、負極および正極と負極の間に配置されるセパレ-タを備えた発電要素を作製する工程と、
前記発電要素に前記ゲル電解液を注入する工程と、
前記ゲル電解液の注入後に放置し、前記ゲル電解液を前記正極、前記負極および前記セパレ-タに拡散させる工程と、
前記発電要素を加熱して前記ゲル電解液中の前記非水溶媒の一部を揮散させて前記発電要素の前記正極、前記負極および前記セパレ-タに請求項1または2に記載のリチウム二次電池用ゲル電解質を含浸させる工程と
を含むリチウム二次電池の製造方法。
【請求項5】
前記非水溶媒の沸点をa1,前記難燃剤の沸点をa2とすると、(a2-a1)≧100℃の関係を満たす請求項4に記載のリチウム二次電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池用ゲル電解質、リチウム二次電池およびリチウム二次電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保護のため二酸化炭素排出量の低減が切に望まれている。自動車業界では、電気自動車(EV)やハイブリッド電気自動車(HEV)の導入による二酸化炭素排出量の低減に期待が高まり、これらの実用化の鍵を握るモ-タ駆動用二次電池の開発が鋭意行われている。二次電池は、高エネルギ-密度、高出力密度が達成できる積層型のリチウムイオン二次電池が注目されている。
【0003】
現在、小型電子・電気機器用に市販されているリチウム二次電池の多くは、可燃性の有機溶媒を電解液として使用されている。有機溶媒電解液は、液漏れおよびそれに伴う発火などの危険性を有する。このようなリチウム二次電池を電気自動車のような大型用途に用いることは、リスクの増大を招く虞がある。それ故、より安全な電解質材料が求められている。その解決策のひとつとして不燃で、熱安定の高い固体電解質が注目されている。固体電解質は、ポリマ-系、硫化物系、LiSICON型、ガ-ネット型等に分類されている。硫化物系、LiSICON型およびガ-ネット型固体電解質は、室温下でのリチウムイオンの伝導率が高い。しかしながら、硫化物系は大気中で不安定で、かつ有毒ガスを放ち易くなる。LiSICON型およびガ-ネット型の固体電解質は、電極との接触問題が挙げられる。
【0004】
固体状態でイオンを高速かつ選択的に伝導できるポリマ-固体電解質の研究は、1973年のWrightらの報告に端を発している。特許文献1には、ポリエチレンオキシド(PEO-[CHCHO]-)が固体状態でアルカリ金属塩と錯体を形成し、室温でイオン導電性を示すことが開示されている。このような特許文献1によって、ポリマ-固体電解質を用いた全固体ポリマ-電池の可能性がはじめて示唆され、それ以来、今日に至るまで多岐にわたるポリマ-電解質の研究が進められてきた。
【0005】
ところで、ポリマ-固体電解質に要求される性質として次のようなものが挙げられる。第一に、非水溶媒電解質溶液に匹敵する高いイオン伝導度と低い温度依存性を有することである。高いイオン伝導度を得るには、電荷キャリア度(イオン度)が高く、固体中のキャリアの移動速度が大きいことが必要である。キャリア濃度は、ポリマ-中への塩(例えばリチウム塩)の溶解度とイオン解離の容易さにより決まる。一方、イオンの移動はポリマ-複合体の非晶質部分の熱運動と連動して起こる。このため、高いイオン移動度を得るにはポリマ-の構造が熱運動し易いことが望ましい。これまでに研究されてきた溶媒を含まない完全固体のPEO系ポリマ-は、室温でイオン導電率が極めて低く(~10-8S・cm-1)、室温でほぼ作動できないという問題点がある。第二に、ポリマ-固体電解質膜の製造と取り扱いが極めて困難である。ポリマ-固体電解質膜は、粘性が高く、複数枚積層する発電要素を製造する場合、注液が殆ど困難である。また、ポリマ-固体電解質を前もって正極または負極の互いに対向する表面に塗工する方法も提案されている。しかしながら、現行のリチウムイオン二次電池の製造ラインの積層機を用いて積層する操作は、ポリマ-固体電解質が高い粘性を有するために困難である。さらに、ポリマ-固体電解質膜は多量のリチウム塩を含むため、吸水性が非常に高くため、ドライル-ムで取り扱わなければならない。これは、現在のリチウムイオンの製造ラインに大掛かりの変更が必要になる。
【0006】
一方、可燃性非水溶媒を可塑剤としてを電解質に添加してイオン導電性を高めたゲル型ポリマ-電解質が知られている。可塑剤を加えることにより、ポリマ-であるPEOの鎖間またはPEOとリチウムイオン間の相互作用を弱め、結晶化を抑制してPEOのセグメント運動を活発化させることができる。例えば、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ジエチル、炭酸ジメチルなど炭酸エステル類非水溶媒を可塑剤として使用した例がある。また、非特許文献1には誘電率の高い可塑剤がリチウム塩の解離を助長するために有効であり、高誘電率のプロピレンカ-ボネ-トなどの非水溶媒が可塑剤として用いられていることが開示されている。
【0007】
ただし、過度の添加は電解質膜の強度低下をもたらすとともに、液漏れや発火のリスクの増大を招く虞がある。
【0008】
また、高分子膜を電解質溶液で膨潤させたゲルを用いることにより、イオン伝導率も改善した、いわゆるゲル電解質を用いた電池が近年、注目されている。例えば、特許文献2にはリチウムイオン電池に使用するゲル電解質の可塑剤として、炭酸プロピレンなどの炭酸エステル系非水溶媒にLiPFのようなリチウム塩を溶解させた電解液を用いると、導電率の比較的高いゲル電解質を得ることができることが開示されている。
【0009】
しかしながら、ゲル電解質はゲル型ポリマ-電解質と同様に、電解液の使用量が多いため、電池の外部への液漏れによる電解液の着火の虞がある。このため、依然として安全性の点で改良が求められていた。
【0010】
非特許文献2には、従来の4倍以上の高濃度リチウムイオンを含む“濃い液体”で、既存の電解液にはない「高速反応」、「高い分解耐性」、「高いリチウム輸送率」等新機能を持つ高濃度電解液が開示されている。有機電解液は、一般的にイオン伝導度が最大となる1mol/L付近の濃度が選択されているが、高濃度化により全ての溶媒分子をリチウムイオンに配位(溶媒和)させ、未配位(フリ-)の溶媒分子をなくすことにより、電気化学安定性を劇的に変化させるという意図がある。
【0011】
しかしながら、非特許参考文献2は非常に高い粘度の高濃度電解液を用いるため、流動性が低下し、現在のリチウムイオン二次電池の製造ラインの注液方式の適用が困難になり、取り扱い難くなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】米国特許第4,303,748号明細書
【0013】
【文献】特開平11-102613号公報
【非特許文献】
【0014】
【文献】Z. Xue, D. He, X. Xie, Poly(ethylene oxide)-based electrolytes for lithium-ion batteries, J.Mater. Chem. A. 3 (2015) 19218-19253.
【0015】
【文献】Y. Yamada, J. Wang, S. Ko, E. Watanabe, A. Yamada, Advances and issues in developing salt-concentrated battery electrolytes, Nat. Energy. (2019).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、ポリマ-固体電解質と高濃度電解液のメリットを合わせ持つリチウム二次電池用ゲル電解質、それを含むリチウム二次電池およびリチウム二次電池の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、主鎖においてO原子を含む高分子化合物、リチウム塩、還元安定性を有する非水溶媒および酸化安定性を有する難燃剤を含むリチウム二次電池用ゲル電解質である。高分子化合物中のエ-テル結合に由来する酸素のモル濃度(O)とリチウム塩の中のリチウムイオンのモル濃度(Li)とのモル比(O/Li)は、1~5である。高分子化合物およびリチウム塩の合計質量(A+B)に対する非水溶媒の質量(C)の比率[C/(A+B)]は、質量%表示で20~40である。高分子化合物およびリチウム塩の合計質量(A+B)に対する難燃剤の質量(D)の比率[D/(A+B)]は、質量%表示で10~30である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ゲル電解質中に存在する遊離の非水溶媒分子が消失し、高分子化合物と還元安定性を有する非水溶媒はリチウムイオンに配位して特殊な錯体構造を有し、さらに酸化安定性を有する難燃剤を配合することによって、高い電気化学的安定性、液漏れがなく、燃えないリチウム二次電池用ゲル電解質を提供できる。
【0019】
また、前記ゲル電解質を組み込むことにより、高容量、高性能、高安全特性を有するリチウム二次電池およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、実施形態に係るコイン型のリチウムイオン二次電池の一例を示す断面図である。
図2図2は、実施例4および比較例4のコイン型のリチウムイオン二次電池における0.1Cでの充放電カ-ブをを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態に係るリチウム二次電池用ゲル電解質、リチウム二次電池およびリチウム二次電池の製造方法を詳細に説明する。
【0022】
<第1の実施形態>
第1の実施形態に係るリチウム二次電池用ゲル電解質は、主鎖においてO原子を含む高分子化合物、リチウム塩、還元安定性を有する非水溶媒および酸化安定性を有する難燃剤を含む。高分子化合物中のエ-テル結合に由来する酸素のモル濃度(O)とリチウム塩の中のリチウムイオンのモル濃度(Li)とのモル比(O/Li)は、1~5である。高分子化合物およびリチウム塩の合計質量(A+B)に対する非水溶媒の質量(C)の比率[C/(A+B)]は、質量%表示で20~40である。高分子化合物およびリチウム塩の合計質量(A+B)に対する難燃剤の質量(D)の比率[D/(A+B)]は、質量%表示で10~30である。
【0023】
主鎖においてO原子を含む高分子化合物は、例えばエチレンオキシド構造を有する高分子化合物を挙げることができる。このような高分子化合物の具体的な例は、ポリエチレンオキサイド(PEO)、ポリエチレングリコ-ルジメチルエステル(PEGDME),ポリエチレングリコ-ル(PEG)、ポリエチレンカ-ボネート(PEC)等を挙げることができる。高分子化合物の重量平均分子量は、1,000~5,000,000であることが好ましい。
【0024】
リチウム塩は、特に限定されないが、例えばLiClO4、LiBOB,LiBF(C),LiBF、LiPF、LiAlCl、LiSbF、LiSCN、LiCFSO、LiAsF、LiB10Cl10、低級脂肪族カルボン酸リチウム、LiCl、LiBr、LiI、クロロボランリチウム、四フェニルホウ酸リチウム、イミド化合物[(例えばLi(FSON、LiN(CFSO、LiN(CSO)]などを用いることができる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
ゲル電解質中におけるリチウム塩の濃度は、当該リチウム塩の析出等が発生しない範囲において高い濃度で選択することができる。高分子化合物中のエ-テル結合に由来する酸素のモル濃度[O]とリチウム塩のリチウムイオンのモル濃度[Li]のモル比:[O]/[Li]は、1~5である。当該モル比を1未満にすると、リチウム塩が完全に溶けずに、一部析出する虞がある。一方、当該モル比が5を超えると、遊離の非水溶媒分子(リチウムイオンと配位しない)が増える虞がある。
【0026】
実施形態のゲル電解質は、後述するリチウム二次電池のセパレ-タに含浸させるために、適切な流動性を有することが好ましい。このため、実施形態のゲル電解質は高分子化合物、リチウム塩に加えて、非水溶媒を含む。非水溶媒は、低粘度、低沸点を有することが好ましい。これは、最小限の非水溶媒の添加により一定の流動性を付与し、かつ後述するリチウム二次電池の製造方法の加熱工程により容易に揮発させることができるためである。非水溶媒の25℃での粘度は、1mPa・S以下であることが好ましく、0.5mPa・S以下であることがさらに好ましい。沸点は100℃以下であることが好ましい。また、高い還元安定性、特にリチウム金属に安定できる非水溶媒が好ましい。このような低粘度、低沸点、高還元安定性の非水溶媒は、例えば、テトラヒドロフラン(THF)、2-メチルテトラヒドロフラン(2-MeTHF)、1,2-ジメトキシエタン(DME)、ジオキソラン(DOL)等のエ-テル類が好ましい。これらに加えて、その他の非水溶媒を含む混合溶媒とすることも可能である。
【0027】
高分子化合物およびリチウム塩の合計質量(A+B)に対する非水溶媒の質量(C)の比率[C/(A+B)]は、質量%表示で20~40である。比率を20質量%未満にすると、リチウム二次電池のセパレ-タを実施形態のゲル電解質を含浸させた場合、セパレ-タに隣接する例えば正極の活物質との界面抵抗が高くて、室温でのリチウムイオンの伝導率が低下する。比率が40質量%を超えると、リチウム二次電池の性能向上が飽和するばかりか、二次電池が破裂した場合に非水溶媒の漏れが生じる可能性が高くなる。
【0028】
前記の還元安定性を有する非水溶媒は、実際充放電時においてのカットオフ電圧により、酸化されやすい場合がある。例えば、エ-テル系の非水溶媒は4V(Li/Li+)以上になれば、酸化される虞がある。というわけで、本発明にそのため、第1の実施形態において酸化安定性を有する難燃剤を添加する。難燃剤の添加目的は、単純にゲル電解質を燃えにくくなるだけではなく、ゲル電解質の高電位下の酸化を抑制する狙いもある。難燃剤は、例えばリン酸エステル類、スルホン化合物より選択される少なくとも1種を含む。具体的な難燃剤は、トリメチルフォスフェ-ト(TMP),トリエチルフォスフェ-ト(TEP),2,2,2-トリフルオロエチルフォスフェ-ト(TFP),トリフェニルフォスフェ-ト(TPP)およびトリトリルフォスフェ-ト(TTP)、トリス(2,2,2-トリフルオロエチル)ホスファ-ト(TFEP)、スルホラン(SL)など挙げられる。
【0029】
高分子化合物およびリチウム塩の合計質量(A+B)に対する難燃剤の質量(D)の比率[D/(A+B)]は、質量%表示で10~30である。この比率を10質量%未満にすると、難燃剤による十分な消火性をゲル電解質に付与できず、リチウム二次電池のセパレ-タにゲル電解質を含浸させた場合、引火すると二次電池が燃える虞がある。前記比率が30質量%を超えると、添加される難燃剤の種類により電池性能への悪影響を及ぼす虞がある。
【0030】
前記非水溶媒と前記難燃剤の沸点は、非水溶媒の沸点をa1,前記難燃剤の沸点をa2とすると、(a2-a1)≧100℃の関係を満たすことが好ましい。すなわち、非水溶媒の沸点を難燃剤の沸点より100℃以上の低沸点であることが好ましい。
【0031】
第1の実施形態によれば、高分子化合物中のエ-テル結合に由来する酸素のモル濃度(O)とリチウム塩の中のリチウムイオンのモル濃度(Li)とのモル比(O/Li)、および高分子化合物およびリチウム塩の合計質量(A+B)に対する非水溶媒の質量(C)の比率[C/(A+B)]を特定化することによって、高分子化合物がリチウムイオンに配位するのみならず、非水溶媒もリチウムイオンに配位した特殊な錯体構造を形成することができる。その結果、高い還元安定性、リチウムイオン導電性および良好な流動性を有し、さらに電解質膜を作る必要がなく、取り扱いが容易なリチウム二次電池用ゲル電解質を得ることができる。
また、酸化安定性を有する難燃剤の配合にあたり、高分子化合物およびリチウム塩の合計質量(A+B)に対する難燃剤の質量(D)の比率[D/(A+B)]を特定化することによって、ゲル電解質本来の特性を損なうことなく、非水溶媒の保持性の高い液漏れ性に優れ、かつ高い酸化還元安定性、難揮発性と難燃性を有する安全なリチウム二次電池用ゲル電解質を得ることができる。
【0032】
次に、第2の実施形態を説明する。
<第2の実施形態>
第2の実施形態に係るリチウム二次電池は、正極と、負極と、正極および負極の間に介在されたセパレ-タとを備える。第1の実施形態で説明したリチウム二次電池用ゲル電解質は、正極、負極およびセパレ-タに含浸されている。
【0033】
第2の実施形態に係るリチウムイオン二次電池の形状は特に限定されないが、例えばコイン型、ボタン型、シ-ト型、積層型、円筒型、角形、扁平型等が挙げられる。
【0034】
以下、コイン型のリチウムイオン二次電池を例にして、第2の実施形態に係るリチウムイオン二次電池の構造を、図1を参照して説明する。
コイン型のリチウムイオン二次電池1は、正極2と、負極3と、それら正極2および負極3の間に配置されたセパレ-タ4とを備える。これら正極2、負極3およびセパレ-タ4は、下部側に位置する第1外部端子5と上部側に位置する第2外部端子6の間に収納されている。当該第1外部端子5および当該第2外部端子6の当接部位は、ガスケット7により絶縁されている。
【0035】
正極2は、第1外部端子5の内面に位置してそれと接続される正極集電体21と、当該正極集電体21のセパレ-タ4と対向する面に設けられた正極層22とから構成されている。負極3は、第2外部端子6の内面に位置してそれと接続される負極集電体31と、当該負極集電体31のセパレ-タ4と対向する面に設けられた、金属リチウムからなる負極層32とから構成されている。セパレ-タ4は、前記ゲル電解質が含浸されている。第2外部端子6は、その端部がその下端及び両側面をガスケット7で包んだ状態で第1外部端子5内に挿入され、下部側の第1外部端子5の開口端をガスケット7側に湾曲させて第2外部端子6を第1外部端子5にかしめ固定するとともに、第1外部端子5及び第2外部端子6の当接部位をガスケット7により絶縁している。
【0036】
以下に発電要素である正極、負極およびセパレ-タを詳述する。
(1)正極
正極を構成する正極集電体は、例えば、アルミニウム箔又はアルミニウム合金箔を用いることができる。
【0037】
正極を構成する正極層は、正極活物質、導電性材料および結着剤を含む。
正極活物質は、公知のリチウムイオン二次電池用正極活物質を用いることができ、例えば、コバルト酸リチウム(LiCoO)、マンガン酸リチウム(LiMn)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)等の1種類以上の遷移金属を含むリチウム含有遷移金属酸化物、遷移金属硫化物、金属酸化物、リン酸鉄リチウム(LiFePO)やピロリン酸鉄リチウム(LiFeP)などの1種類以上の遷移金属を含むリチウム含有ポリアニオン系化合物、硫黄系化合物(LiS)などが挙げられる。
【0038】
導電性材料は、例えば、炭素材料、金属繊維等の導電性繊維、銅、銀、ニッケル、アルミニウム等の金属粉末、ポリフェニレン誘導体等の有機導電性材料を使用することができる。炭素材料は、黒鉛、ソフトカ-ボン、ハ-ドカ-ボン、カ-ボンブラック、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、グラファイト、活性炭、カ-ボンナノチュ-ブ、カ-ボンファイバ-等を使用することができる。また、芳香環を含む合成樹脂、石油ピッチ等を焼成して得られたメソポ-ラスカ-ボンを使用することもできる。
【0039】
結着剤は、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、エチレンテトラフルオロエチレン(ETFE)等のフッ素系樹脂、或いは、ポリエチレン、ポリプロピレンなどを好ましく用いることができる。
【0040】
(2)負極
負極を構成する負極集電体は、例えば銅、ニッケル、アルミニウム、ステンレススチ-ル等を主体とする棒状体、板状体、箔状体、網状体等を使用することができる。
【0041】
負極を構成する負極層は、負極活物質のみを含有するものであってもよく、負極活物質の他に導電性材料および結着剤を含んでもよい。例えば、負極活物質が箔状である場合は、負極活物質のみで負極を構成することができる。一方、負極活物質が粉末状である場合は、負極活物質、導電性材料および結着剤により負極層を構成することができる。粉末状の負極活物質を用いて負極を形成する方法としては、ドクタ-ブレ-ド法や圧着プレスによる成型方法等を用いることができる。
【0042】
前記箔状の負極層は、例えばリチウム金属、又はリチウム元素を含む合金から形成できる。リチウム元素を有する合金としては、例えばリチウムアルミニウム合金、リチウムスズ合金、リチウム鉛合金、リチウムケイ素合金等を挙げることができる。
【0043】
負極活物質が粉末状である場合は、公知のリチウムイオン二次電池用負極活物質を用いることができる。例えば、天然グラファイト(黒鉛)、高配向性グラファイト(Highly Oriented Pyrolytic Graphite;HOPG)、非晶質炭素等の炭素質材料が挙げられる。他の負極活物質の例は、リチウムの酸化物、硫化物、窒化物が挙げられる。具体的なリチウム酸化物は、例えばチタン酸リチウム(LiTi12等)等を挙げることができる。リチウム窒化物は、例えばリチウムコバルト窒化物、リチウム鉄窒化物、リチウムマンガン窒化物等を挙げることができる。これら負極活物質は、単独または2種以上の混合物として用いることができる。
【0044】
導電性材料および結着剤は、前述した正極と同様のものを用いることができる。
【0045】
(3)セパレ-タ
セパレ-タは、例えばポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリイミド(PI)、ポリエステル、セルロ-ス、ポリアミド等の樹脂からなる多孔質シ-トまたは不織布、或いはガラス繊維不織布等の多孔質絶縁材料等を用いることができる。
【0046】
第2の実施形態において、第1の実施形態で説明したリチウム二次電池用ゲル電解質は、正極、負極およびセパレ-タに含浸する。なお、負極を構成する負極層が負極活物質、導電材および結着剤を含む場合、前記ゲル電解質は負極層に含浸されるが、負極が前述した箔状の負極活物質からなる場合、前記ゲル電解質は当該箔状の負極活物質の表面、つまり箔状の負極活物質とセパレ-タの界面に存在する。
【0047】
なお、本発明の電解液及び二次電池は、二次電池としての用途に好適ではあるが、一次電池として用いることを除外するものではない。
【0048】
第2の実施形態によれば、高いリチウムイオン導電性および良好な流動性を有し、かつゲル電解質を正極、負極、正極と負極の間に配置されたセパレ-タに含浸させることによって、正極とセパレ-タの間及び負極とセパレ-タの間の界面部の抵抗を低減でき、かつ正極、負極およびセパレ-タのリチウムイオン伝導率を向上できるため、高エネルギ-性、高出力性を有するリチウム二次電池を実現できる。
【0049】
また、正極、負極、正極と負極の間に配置されたセパレ-タに含浸したゲル電解質は、非水溶媒の保持性が高く、液漏れ性に優れ、かつ高い難揮発性と難燃性を有するため、燃焼し難い安全性の高いリチウム二次電池を実現できる。
【0050】
次に、第3の実施形態に係るリチウム二次電池の製造方法を詳述する。
<第3の実施形態>
最初に、主鎖においてO原子を含む高分子化合物、リチウム塩、非水溶媒および難燃剤を含み、前記非水溶媒が前記高分子化合物、前記リチウム塩、前記非水溶媒および前記難燃剤の合計量に対して70~80質量%含むゲル電解液を調製する。
【0051】
ゲル電解液の非水溶媒の配合量を70~80質量%にすることにより、ゲル電解液が高い流動性を有するため、現行の非水電解液を用いるリチウム二次電池の製造設備に変更を加えることなく使用ことが可能になる。
【0052】
次いで、正極、負極、および正極と負極の間に配置されるセパレ-タを備えた発電要素を作製する。正極、負極およびセパレ-タは、第2の実施形態で説明した構造とを有する。
【0053】
次いで、発電要素にゲル電解液を注入する。通常、発電要素は円筒型、角形の金属缶または2つの浅い缶を互いにガスケットで絶縁固定した外装材に収納され、当該外装材内にゲル電解液を注入する。
【0054】
ゲル電解液の注入後に放置する。この工程により、ゲル電解液は正極、負極およびセパレ-タに拡散する。
【0055】
次いで、発電要素を加熱してゲル電解液中の非水溶媒の一部を揮散させる。この工程により、発電要素の正極、負極およびセパレ-タに第1の実施形態で説明したゲル電解質を含浸させる。この工程において、第1の実施形態で説明したようにゲル電解質中の非水溶媒と難燃剤の沸点は、非水溶媒の沸点をa1,前記難燃剤の沸点をa2とすると、(a2-a1)≧100℃の関係を満たすこと好ましい。すなわち、非水溶媒の沸点を難燃剤の沸点より100℃以上の低沸点であることが好ましい。このような関係を満たすことにより、前記加熱工程において、難燃剤が揮散することなく、非水溶媒を優先的に揮散させることが可能になる。
【0056】
以上説明した第3の実施形態によれば、現行の非水電解液を用いるリチウム二次電池の製造設備に変更を加えることなく、当該設備を使用できるため、簡易な方法で安価に良好な電気化学性能および安全性の高いリチウム二次電を製造できる。
【実施例
【0057】
以下、本発明を実施例を用いて詳細に説明する。
【0058】
(実施例1)
(1)電解質溶液の調製
重量平均分子量300,000のポリエチレンオキシド(PEO:Sigma-Aldrich社製)1gと、THF15gとを混合し、さらにLiN(SOCF1.29gを加えた。このとき、ポリエチレンオキシド中のエ-テル結合に由来する酸素のモル濃度[]とリチウム塩中のリチウムイオンのモル濃度[Li]とのモル比(O/Li)を5とした。得られたPEOとTHFとリチウム塩との混合物に、15wt%のスルホラン(SL)を難燃剤として加えて、電解質溶液を調製した。
【0059】
(2)正極の作製
84.4質量%のLiFePO0.5gと、5.0質量%のNASION型固体電解質(LICGCPW-01,オハラ製)0.03g、0.6質量%の多層カ-ボンナノチュ-ブ分散液0.13g(溶媒はCnano製のN-メチル-2-ピロリドン(NMP)である)、10質量%のポリフッ化ビニリデン(PVDF)0.5g、をそれぞれ添加して混合した後、当該混合物に溶剤としてNMPを更に適量添加して正極スラリ-を調製した。つづいて、正極集電体である厚さ20μmのアルミニウム箔上に正極スラリ-を塗布し、80℃で12時間乾燥した。その後、ロ-ルプレスを用いて5MPaでプレスし、さらに打抜き加工して直径14mmの円形の正極を作製した。
【0060】
(3)負極の作製
負極には、直径15mm、厚さ600μmの円板状リチウム金属箔を用いた。
【0061】
(4)正極層およびセパレ-タ層にゲル電解質を付与
露点-50℃以下の雰囲気下、正極およびセパレ-タの表面に予め調製した電解質溶液を付与した。すなわち、正極を外部端子に載せ、この上にセパレ-タを載せて、ピペットを使って600μLを直接表面に付与した。セパレ-タ層の厚さは10~25μmとした。その後ホットプレ-トに載せて決められたTHFの残量まで加熱した。電解質溶液は加熱前のサラサラ状態からネバネバ状態のゲル電解質に変わった。加熱温度と加熱時間はTHFの残留量によって決められる。本例の加熱温度は50℃、加熱時間は10分であった。負極はピペットを使って電解質溶液を直接表面に付与し、同様に加熱してゲル電解質を形成した。
【0062】
(5)電池の作製
セパレ-タを介して正極と対向するように負極と積層し、前述した図1に示すコイン型リチウムイオン二次電池(2032型)を組立てた。
【0063】
(実施例2)
(1)電解質溶液の調製
重量平均分子量300,000のポリエチレンオキシド(PEO:Sigma-Aldrich社製)1gと、テトラヒドロフラン(THF)15gとを混合し、さらにLiN(SOCF6.45gを加えた。このとき、ポリエチレンオキシド中のエ-テル結合に由来する酸素のモル濃度[]とリチウム塩中のリチウムイオンのモル濃度[Li]とのモル比(O/Li1とした。得られたPEOとTHFとリチウム塩との混合物に、10wt%のTMPを難燃剤として加えて、電解質溶液を得た。
次いで、前記電解質溶液を用い、ホットプレ-トにより50℃で20分加熱した以外、実施例1と同様な方法によりコイン型リチウムイオン二次電池を組立てた。
【0064】
(実施例3)
実施例2と同様な方法により電解質溶液を調製し、同実施例2と同様に電解質溶液をホットプレ-トにより50℃で20分加熱し、さらに難燃剤として15wt%のTMPを用いた以外、実施例1と同様な方法によりコイン型リチウムイオン二次電池を組立てた。
【0065】
(実施例4)
実施例2と同様な方法により電解質溶液を作製し、同実施例2と同様に電解質溶液をホットプレ-トで20分加熱し、さらに難燃剤としてTMPの代わりに15wt%のスルホランを用いた以外、実施例1と同様な方法によりコイン型リチウムイオン二次電池を組立てた。
【0066】
(実施例5)
実施例2と同様な方法により電解質溶液を作製し、同実施例2と同様に電解質溶液をホットプレ-トで20分加熱し、さらに難燃剤としてTMPの代わりに25wt%のスルホランを用いた以外、実施例1と同様な方法によりコイン型リチウムイオン二次電池を組立てた。
【0067】
(実施例6)
実施例2と同様な方法により電解質溶液を作製し、同実施例2と同様に電解質溶液をホットプレ-トで20分加熱し、さらに難燃剤として10wt%の2,2,2-トリフルオロエチルフォスフェ-ト(TFP)を用いた以外、実施例1と同様な方法によりコイン型リチウムイオン二次電池を組立てた。
【0068】
(比較例1)
難燃剤を添加しない以外、実施例1と同様な方法によりコイン型リチウムイオン二次電池を組立てた。
【0069】
(比較例2)
難燃剤を添加せず、ホットプレ-トにより50℃で20分加熱した以外、実施例1と同様な方法によりコイン型リチウムイオン二次電池を組立てた。
【0070】
(比較例3)
難燃剤として25wt%のスルホランを用い、かつホットプレ-トににより100℃の温度で20分加熱した以外、実施例1と同様な方法によりコイン型リチウムイオン二次電池を組立てた。
【0071】
(比較例4)
難燃剤として25wt%のスルホランを用い、かつホットプレ-トにより100℃の温度で40分加熱した以外、実施例1と同様な方法によりコイン型リチウムイオン二次電池を組立てた。
【0072】
(比較例5)
難燃剤を添加せずに実施例3と同様な方法により電解質溶液を作製し、同実施例3と同様に電解質溶液をホットプレ-トにより50℃の温度で20分加熱した以外、実施例1と同様な方法によりコイン型リチウムイオン二次電池を組立てた。
【0073】
(比較例6)
難燃剤を添加せず、実施例3と同様な方法により電解質溶液を作製し、同実施例3と同様に電解質溶液をホットプレ-トにより100℃の温度で20分加熱した以外、実施例1と同様な方法によりコイン型リチウムイオン二次電池を組立てた。
【0074】
(比較例7)
(1)電解質溶液の調製
重量平均分子量300,000のポリエチレンオキシド(PEO:Sigma-Aldrich社製)3gと、THF25gとを混合し、さらにLiN(SOCF2.45gを加えた。このとき、ポリエチレンオキシド中のエ-テル結合に由来する酸素のモル濃度[]とリチウム塩中のリチウムイオンのモル濃度[Li]とのモル比(O/Li)を8とした。得られたPEOとTHFとリチウム塩との混合物に、15wt%のトリメチルフォスフェ-ト(TMP)を難燃剤として加えて、電解質溶液を調製した。
次いで、前記電解質溶液を用い、ホットプレ-トにより50℃で20分加熱した以外、実施例1と同様な方法によりコイン型リチウムイオン二次電池を組立てた。
【0075】
(比較例8)
比較例7と同様な方法により電解質溶液を調製し、同比較例7と同様に電解質溶液をホットプレ-トにより50℃で20分加熱し、さらに難燃剤として25wt%のTMPを用いた以外、実施例1と同様な方法によりコイン型リチウムイオン二次電池を組立てた。
【0076】
(比較例9)
比較例7と同様な方法により電解質溶液を調製し、同比較例7と同様に電解質溶液をホットプレ-トにより50℃で10分加熱し、さらに難燃剤として15wt%のTMPを用いた以外、実施例1と同様な方法によりコイン型リチウムイオン二次電池を組立てた。
【0077】
(比較例10)
難燃剤を添加せずに比較例7と同様な方法により電解質溶液を調製し、同比較例7と同様に電解質溶液をホットプレ-トにより50℃で10分加熱した以外、実施例1と同様な方法によりコイン型リチウムイオン二次電池を組立てた。
【0078】
(比較例11)
79,4質量%の正極活物質であるLiFePO、10質量%のNASION型固体電解質(LICGC PW-01,オハラ製)と、0.6質量%の導電助剤であるカ-ボンナノチュ-ブと、10質量%の結着剤であるポリフッ化ビニリデン(PVDF)とをそれぞれ添加して混合した後、当該混合物に溶剤としてN-メチル-2-ピロリドン(NMP)を添加して正極スラリ-を調製した。つづいて、正極集電体である厚さ20μmのアルミニウム箔上に正極スラリ-を塗布し、80℃で12時間乾燥した。その後、その後、、ハンドプレスを用いて5MPaでプレスし、さらに打抜き加工して直径14mmの円形の正極を作製した。
次いで、リチウム箔を直径15mmの円形に打ち抜き、負極を作製した。セパレ-タは、ポリプロピレンの高分子多孔フィルムを用いた。非水電解液は、LiPFをエチレンカ-ボネ-ト(EC)、ジメチルカ-ボネ-ト(DMC)の混合非水溶媒(体積比、EC:DMC=1:1)に1.0モル/L溶解させて調製した。
【0079】
正極と、負極と、セパレ-タと、混合非水溶媒とを用いて、露点-50℃以下の雰囲気下、常法により組込み、収容し、図1に示すようなコイン型のリチウムイオン二次電池(2032型)を組立てた。
【0080】
次に、得られたコイン型のリチウムイオン二次電池の性能を評価した。
「引火実験」
実施例1~6および比較例1~11で作製したゲル電解質を空気中にてライタ-で5秒以上引火して、燃焼が続く場合を「可燃」、燃焼が続かない場合を「難燃」とした。この結果を下記表1に示した。なお、表1には実施例1~7および比較例1~11のゲル電解質のモル比(ポリエチレンオキシド中のエーテル結合に由来する酸素のモル濃度(O)とリチウム塩(LiN(SO CF )中のリチウムイオンのモル濃度(Li)のモル比(O/Li)および有機溶媒(THF)、難燃剤の配合量を併記する。
【0081】
[放電レ-ト特性試験]
実施例1~6及び比較例1~11のコイン型のリチウムイオン二次電池を用い、室温で以下の充放電条件に従って充放電を行って、放電レ-ト特性試験を行った。下記表2に各レ-ト毎の放電容量を示す。なお、表2に記載の「-」は放電レ-ト特性試験を実行できなかたことを示す。
【0082】
充放電条件
0.1C放電の放電試験:4.0Vまで0.1C充電、2.5Vまで0.1C放電。
0.5C放電の放電試験:4.0Vまで0.5C充電、2.5Vまで0.5C放電。
1C放電の放電試験:4.0Vまで1C充電、2.5Vまで1C放電。
2C放電の放電試験:4.0Vまで2C充電、2.5Vまで2C放電。
【0083】
【表1】
【0084】
【表2】
【0085】
前記表1から明らかなように難燃剤を添加しない比較例1,2,5,6,10および11に用いるゲル電解質は、全て引火により燃焼が続けられた。
これに対し、モル比(O/Li)が5および1で難燃剤を10wt%以上添加した実施例1~6のゲル電解質は、難燃性を示した。
【0086】
一方、モル比(O/Li)が本発明の範囲(1~5)を超える8で、THFの配合量が20wt%以上の比較例9のゲル電解質は、難燃剤を15wt%の添加しても、難燃性を示さなかった。
【0087】
前記表2から明らかなように非水溶媒(THF)の配合量がは20wt%~40wt%、難燃剤の配合量が10wt%~30wt%である実施例1~6のコイン型のリチウムイオン二次電池は各レ-ト放電において良好な放電容量を示した。特に、難燃剤の配合量が少ないゲル電解質を備える実施例2および6のコイン型のリチウムイオン二次電池は、従来の液体電解液を用いる比較例11のコイン型のリチウムイオン二次電池に近似した放電レ-ト性能を有することが確認された。
【0088】
表2の結果から難燃剤を含まないゲル電解質を備える比較例1,5のコイン型のリチウムイオン二次電池は、優れた放電特性を有するものの、引火により燃焼する、安全性の問題がある。
【0089】
THFの配合量が20wt%未満のゲル電解質を備える比較例3、比較例4、比較例6-8のコイン型のリチウムイオン二次電池は、ゲル電解質の流動性が低いため、リチウムイオンの伝導率がまだ低く、0.1Cでの放電容量も低下することが確認された。
【0090】
モル比(O/Li)が本発明のモル比の範囲(1-5)を超える8である場合、THFの量を20wt%以上、難燃剤を15wt%配合しても燃えることが分かった(比較例9参照)。従って電気化学性能測定を実施しなかった。THF量を14wt%まで減らすと、難燃性が現われたが、0.1Cでの放電比容量が低下することが確認された(比較例7、8参照)。
【0091】
モル比(O/Li)が1であるゲル電解質を備えた実施例4および比較例4のコイン型のリチウムイオン二次電池について、0.1Cでの充放電カ-ブを測定した。その結果を図2に示す。両例には溶媒の含有量が近くて、難燃性を示したものの(実施例4:38wt%,比較例3:36wt%)、この図2から明らかなようにTHFの配合量が20wt%を超える(THF:23wt%)のゲル電解質を備えた実施例4のリチウムイオン二次電池は、放電容量が多く、分極が小さくなることをわかる。
【符号の説明】
【0092】
1…リチウムイオン二次電池、2…正極、3…負極、4…セパレ-タ、7…ガスケット、21…正極集電体、22…正極層、31…負極集電体、32…負極層。
【要約】
【課題】 ポリマ-固体電解質と高濃度電解液のメリットを合わせ持つリチウム二次電池用ゲル電解質を提供する。
【解決手段】 リチウム二次電池用ゲル電解質であって、主鎖においてO原子を含む高分子化合物、リチウム塩、還元安定性を有する非水溶媒および酸化安定性を有する難燃剤を含み、高分子化合物の繰り返し単位中の酸素のモル濃度(O)とリチウム塩の中のリチウムイオンのモル濃度(Li)とのモル比(O/Li)が1~5であり、高分子化合物およびリチウム塩の合計質量(A+B)に対する非水溶媒の質量(C)の比率[C/(A+B)]が質量%表示で20~40であり、高分子化合物およびリチウム塩の合計質量(A+B)に対する難燃剤の質量(D)の比率[D/(A+B)]が質量%表示で10~30であるリチウム二次電池用ゲル電解質。
【選択図】図1
図1
図2