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特許7031108非水電解質二次電池用正極活物質、非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法、非水電解質二次電池用正極、非水電解質二次電池、及び非水電解質二次電池の製造方法
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  • 特許-非水電解質二次電池用正極活物質、非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法、非水電解質二次電池用正極、非水電解質二次電池、及び非水電解質二次電池の製造方法 図1
  • 特許-非水電解質二次電池用正極活物質、非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法、非水電解質二次電池用正極、非水電解質二次電池、及び非水電解質二次電池の製造方法 図2
  • 特許-非水電解質二次電池用正極活物質、非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法、非水電解質二次電池用正極、非水電解質二次電池、及び非水電解質二次電池の製造方法 図3
  • 特許-非水電解質二次電池用正極活物質、非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法、非水電解質二次電池用正極、非水電解質二次電池、及び非水電解質二次電池の製造方法 図4
  • 特許-非水電解質二次電池用正極活物質、非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法、非水電解質二次電池用正極、非水電解質二次電池、及び非水電解質二次電池の製造方法 図5
  • 特許-非水電解質二次電池用正極活物質、非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法、非水電解質二次電池用正極、非水電解質二次電池、及び非水電解質二次電池の製造方法 図6
  • 特許-非水電解質二次電池用正極活物質、非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法、非水電解質二次電池用正極、非水電解質二次電池、及び非水電解質二次電池の製造方法 図7
  • 特許-非水電解質二次電池用正極活物質、非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法、非水電解質二次電池用正極、非水電解質二次電池、及び非水電解質二次電池の製造方法 図8
  • 特許-非水電解質二次電池用正極活物質、非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法、非水電解質二次電池用正極、非水電解質二次電池、及び非水電解質二次電池の製造方法 図9
  • 特許-非水電解質二次電池用正極活物質、非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法、非水電解質二次電池用正極、非水電解質二次電池、及び非水電解質二次電池の製造方法 図10
  • 特許-非水電解質二次電池用正極活物質、非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法、非水電解質二次電池用正極、非水電解質二次電池、及び非水電解質二次電池の製造方法 図11
  • 特許-非水電解質二次電池用正極活物質、非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法、非水電解質二次電池用正極、非水電解質二次電池、及び非水電解質二次電池の製造方法 図12
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-28
(45)【発行日】2022-03-08
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池用正極活物質、非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法、非水電解質二次電池用正極、非水電解質二次電池、及び非水電解質二次電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/505 20100101AFI20220301BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20220301BHJP
   H01M 10/058 20100101ALI20220301BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20220301BHJP
【FI】
H01M4/505
H01M4/525
H01M10/058
H01M10/052
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018117727
(22)【出願日】2018-06-21
(65)【公開番号】P2019220376
(43)【公開日】2019-12-26
【審査請求日】2021-01-25
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】100127513
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100199691
【弁理士】
【氏名又は名称】吉水 純子
(74)【代理人】
【識別番号】100206829
【弁理士】
【氏名又は名称】相田 悟
(72)【発明者】
【氏名】村松 弘将
【審査官】結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-50079(JP,A)
【文献】国際公開第2003/044881(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/190419(WO,A1)
【文献】特許第4877660(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/505
H01M 4/525
H01M 10/058
H01M 10/052
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム遷移金属複合酸化物を含有する非水電解質二次電池用正極活物質であって、
前記リチウム遷移金属複合酸化物は、
α-NaFeO型結晶構造を有し、
遷移金属(Me)に対するLiのモル比Li/Meが1<Li/Meであり、
遷移金属(Me)としてNi及びMn、又はNi、Co及びMnを含み、Meに対するMnのモル比Mn/Meが0.3≦Mn/Me<0.55であり、
ラマンスペクトルにおける550~650cm-1の範囲での最大値I600に対する、450~520cm-1の範囲での最大値I490の比(I490/I600)が0.45以上である、
非水電解質二次電池用正極活物質。
【請求項2】
請求項1に記載の非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法であって、Ni及びMn、又はNi、Co及びMnを含み、Meに対するMnのモル比Mn/Meが0.3≦Mn/Me<0.55である遷移金属化合物に、Li化合物を混合し、焼成することにより、モル比Li/Meが1<Li/Meであるリチウム遷移金属複合酸化物を製造する際に、焼結助剤を添加する、非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の非水電解質二次電池用正極活物質を含有する非水電解質二次電池用正極。
【請求項4】
請求項3に記載の非水電解質二次電池用正極を備え、前記正極に含有される正極活物質は、CuKα線を用いたエックス線回折図において20~22°の範囲に回折ピークが観察される、非水電解質二次電池。
【請求項5】
請求項3に記載の非水電解質二次電池用正極を備え、正極電位が5.0V(vs.Li/Li)に至る充電を行ったとき、4.5~5.0V(vs.Li/Li)の正極電位範囲内に、充電電気量に対して電位変化が比較的平坦な領域が観察される、非水電解質二次電池。
【請求項6】
4.5V(vs.Li/Li)未満の電位で使用される、請求項4又は5に記載の非水電解質二次電池。
【請求項7】
請求項4又は5に記載の非水電解質二次電池の製造方法であって、初期充放電工程における正極の最大到達電位を4.5V(vs.Li/Li)未満とする、非水電解質二次電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池用正極活物質、その製造方法、非水電解質二次電池用正極、非水電解質二次電池、及びその電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池に代表される非水電解質二次電池は、近年ますます用途が拡大され、より高容量の正極材料の開発が求められている。
従来、非水電解質二次電池用正極活物質として、α-NaFeO型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物が検討され、LiCoOを用いた非水電解質二次電池が広く実用化されている。LiCoOの放電容量は120~130mAh/g程度である。前記リチウム遷移金属複合酸化物を構成する遷移金属(Me)として、地球資源として豊富なMnを用い、前記リチウム遷移金属複合酸化物を構成する遷移金属に対するLiのモル比Li/Meがほぼ1であり、遷移金属中のMnのモル比Mn/Meが0.5以下であるいわゆる「LiMeO型」活物質を用いた非水電解質二次電池も実用化されている。例えば、LiNi1/2Mn1/2やLiNi1/3Co1/3Mn1/3を含有する正極活物質の放電容量は150~180mAh/gである。
一般に、これらのいわゆる「LiMeO型」活物質を用いた非水電解質電池に対して採用される充電電圧は、約4.3Vであり、このときの正極の最大到達電位は約4.4V(vs.Li/Li)である。これは、これ以上充電電圧を高くしても、より多くの放電容量が取りだせないためである。
【0003】
一方、α-NaFeO型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物の中でも、遷移金属(Me)中のMnのモル比が大きく、遷移金属(Me)に対するLiのモル比Li/Meが1を超えるいわゆる「リチウム過剰型」活物質が知られている。この活物質は、電池を組立てて、最初に行う充電過程において、4.5~5.0V(vs.Li/Li)の電位範囲内に、充電電気量に対して電位変化が比較的平坦な領域が観察されるという特徴があり、上記平坦な領域に至る初期充電を行うことにより、以降の充電電位をそれほど貴としなくても、「LiMeO型」活物質と同等以上の高い放電容量を有することから、注目されている(特許文献1参照)。
【0004】
特許文献1には、「α-NaFeO型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物の固溶体を含むリチウム二次電池用活物質であって、前記固溶体が含有するLi,Co,Ni及びMnの組成比が、Li1+(1/3)xCo1-x-yNi(1/2)yMn(2/3)x+(1/2)y(x+y≦1、0≦y、1-x-y=z)を満たし、・・・で表され、かつ、X線回折測定による(003)面と(104)面の回折ピークの強度比が、充放電前においてI(003)/I(104)≧1.56であり、放電末においてI(003)/I(104)>1であり、4.3V(vs.Li/Li)を超え4.8V以下(vs.Li/Li)の正極電位範囲に充電電気量に対して出現する電位変化が比較的平坦な領域に少なくとも至る初期充電を行う工程を経た場合に、4.3V(vs.Li/Li)以下の電位領域において放電可能な電気量が177mAh/g以上となることを特徴とするリチウム二次電池用活物質。」(請求項3)が記載されている。
【0005】
そして、段落[0062]には、「本発明に係るリチウム二次電池用活物質を用い、使用時において、充電時の正極の最大到達電位が4.3V(vs.Li/Li)以下となるような充電方法を採用しても、充分な放電容量を取り出すことのできるリチウム二次電池を製造するためには、次に述べる、本発明に係るリチウム二次電池用活物質に特徴的な挙動を考慮した充電工程を該リチウム二次電池の製造工程中に設けることが重要である。即ち、本発明に係るリチウム二次電池用活物質を正極に用いて定電流充電を続けると、正極電位4.3V~4.8Vの範囲に、電位変化が比較的平坦な領域が比較的長い期間に亘って観察される。・・・ここで採用した充電条件は、電流0.1ItA、電圧(正極電位)4.5V(vs.Li/Li)の定電流定電圧充電であるが、充電電圧をさらに高く設定しても、この比較的長い期間に亘る電位平坦領域は、xの値が1/3以下の材料を用いた場合にはほとんど観察されない。逆に、xの値が2/3を超える材料では、電位変化が比較的平坦な領域が観察される場合であっても短いものとなる。また、従来のLi[Co1-2xNiMn]O(0≦x≦1/2)系材料でもこの挙動は観察されない。この挙動は、本発明に係るリチウム二次電池用活物質に特徴的なものである。」と記載されている。
【0006】
一方、「リチウム過剰型」活物質の酸素サイトをFで置換することにより、4.5V(vs.Li/Li+)を超える初期充電過程を行う場合の初回クーロン効率、レート特性、サイクル寿命特性等の向上を図ることが行われている(特許文献2~5参照)。
【0007】
特許文献2には、「 一般式 Li(LiMnNiCoFe)O2-xで表される非水電解質二次電池用正極活物質であって、前記一般式中のa、b、c、d、e及びxは、0<a≦0.33、0<b≦0.67、0≦c<1、0≦d<1、0≦e<1、0.1<x≦1-bの値であり、下式(1)を満たす非水電解質二次電池用正極活物質。
【数1】

(請求項1)が記載されている。
そして、Mn及びNiを含む活物質の実施例として、「Li1.2Ni0.2Mn0.61.90.1」、「Li1.2Ni0.2Mn0.61.80.2」、「Li1.2Ni0.2Mn0.61.70.3」、「Li1.2Ni0.2Mn0.61.60.4」、「Li1.2Ni0.4Mn0.41.80.2」、比較例として、「Li1.2Ni0.2Mn0.6」、「Li1.2Ni0.2Mn0.61.950.05」、「Li1.2Ni0.25Mn0.551.90.1」が記載され、4.6Vまでの充電による初回充電容量と、充電状態から2.0Vまでの放電による初回放電容量から、初回クーロン効率を求めたことが記載されている(段落[0072]~[0078])。
【0008】
特許文献3には、「層状構造のLiMnOを含むリチウム過量のリチウム金属複合化合物からなり、フルオロ化合物がドーピングされ、FWHM(半値幅)値が0.164°~0.185°の範囲内にある正極活物質。」(請求項1)が記載されている。
そして、実施例として、Ni:Co:Mnのモル比が2:2:6の遷移金属水酸化物前駆体0.82モルと、LiCOとLiFを合わせて1.18モル(LiFは0.02~0.06モル)の混合物を焼成して、正極活物質を得たこと、電池特性の評価は、2.5V~4.6Vの充放電を行って、ハイレート特性、寿命特性を評価したことが記載されている(段落[0054]~[0064]、[0073])。
【0009】
特許文献4には、「Li元素と、Ni、Co、およびMnから選ばれる少なくとも一種の遷移金属元素とを含む(ただし、Li元素のモル量が該遷移金属元素の総モル量に対して1.2倍超である。)リチウム含有複合酸化物とフッ素ガスとを接触させることを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。」(請求項1)が記載されている。
そして、実施例として、組成「Li(Li0.2Ni0.137Co0.125Mn0.538)O」のリチウム含有複合酸化物をフッ素処理して正極活物質を得たこと(段落[0082]~[0092])、電池評価は、4.8V~2.5Vの充放電により初期容量を評価し、及び4.5~2.5Vの充放電サイクルによりサイクル特性を評価したことが記載されている(段落[0101],[0102])。
【0010】
特許文献5には、「組成式Li1+xNiαMnβCoγδ2-zによって近似的に表される結晶材料を含む電気活性組成物であって、ここで、xが約0.02~約0.19であり、αが約0.1~約0.4であり、βが約0.35~約0.869であり、γが約0.01~約0.2であり、δが0.0~約0.1であり、zが約0.01~約0.2であり、Aが、Mg、Zn、Al、Ga、B、Zr、Ti、Ca、Ce、Y、Nb、またはそれらの組合せである、電気活性組成物。」(請求項1)が記載されている。
そして、実施例1として、Ni,Co,およびMnを含む金属炭酸塩粉末と、適量のLiCOおよびLiF粉末とを混合し、2ステップで焼成して、組成Li1.2Ni0.175Co0.10Mn0.5252-F(F=0.05、0.01、0.02、0.05、0.1、または0.2)のリチウム複合酸化物を得たこと(段落[0064]~[0069])、実施例2として、LiFを用いずに酸化物を生成し、この酸化物をNHHFと混合し、加熱して、Li1.2Ni0.175Co0.10Mn0.5252-F、Li1.167Ni0.219Co0.125Mn0.4902-F、Li1.130Ni0.266Co0.152Mn0.4512-F、またはLi1.090Ni0.318Co0.182Mn0.4092-Fのリチウム複合酸化物を得たこと(段落[0070]、[0071])、これらのリチウム複合酸化物を正極活物質としてコインセルを製造し、2.0~4.6Vの間で充放電サイクルを行って、比放電容量のデータを得たことが記載されている(段落[0072]~[0078])。
【0011】
また、正極活物質の電気化学特性を、ラマンスペクトルを評価することにより行う先行技術も存在する。
特許文献6には、「アノード集電体及び前記アノード集電体上に配置されるアノード活物質を含むアノードと、カソード集電体及び前記カソード集電体上に配置され、xLi2MO3・(1-x)LiCoyM’(1-y)2で表される組成物を有するカソード活物質を含むカソードと、を備えることを特徴とする、バッテリセル。」(請求項1)の実施例1として、カソード活物質が「0.02LiMnO・0.98LiNi0.021Co0.979で表される組成物」であり、そのラマンスペクトルが図5に記載されている(段落[0026]~[0029])。
また、その他の実施例として、「0.04LiMnO・0.96LiCoO」、「0.01LiMnO・0.99LiNi0.01Mn0.01Co0.98」で表される組成物が記載されている(段落[0030]、[0036])。
【0012】
特許文献7には、「下記化学式1のリチウム系正極活物質であり、ラマンスペクトル分析においてスピネル構造のA1g振動モードのピーク強度対六方晶系構造のA1g振動モードのピーク強度の比が1:0.1~1:0.4であり、六方晶系構造のA1g振動モードのピーク強度対E振動モードのピーク強度の比が1:0.9~1:3.5であり、スピネル構造のA1g振動モードのピーク強度対F2g振動モードのピーク強度の比が1:0.2~1:0.4である正極活物質:
[化学式1]
LiCo1-y
前記式で、0.95≦x≦1.0、0≦y
≦1であり、MはNi、Fe、Pb、Mg、Al、K、Na、Ca、Si、Ti、Sn、V、Ge、Ga、B、As、Zr、Mn及びCrからなる群から選択される少なくとも1種以上の元素であり、AはO、F、S及びPからなる群から選択される元素である。」(請求項1)が記載され、リチウム系正極活物質は、電池製造前には六方晶系構造のみ有するため、ラマン分光分析をおこなうと2種の振動モードによるピーク(593cm-1のA1gモードと484cm-1のEモード)のみを示すスペクトルが得られ、電池を作製した後には、リチウム系正極活物質は六方晶系の他にスピネル構造を有するようになることが記載されている(段落[0017]、[0018]、図1,2)。
【0013】
非特許文献1には、Li比率を高めたNCMs(LiNi1/3Co1/3Mn1/3、Li1.1Ni1/3Co1/3Mn1/3及び高エネルギーxLiMnO・(1-x)LiMO(M=Ni,Co,Mn;x=0.5))は、ラマンスペクトルにおいて、MeO振動モードに対応する600cm-1付近のピークA1gと、O-Me-O振動モードに対応する500cm-1付近のピークEピークを有すること、LiMnOは、612cm-1(Ag1)、493cm-1等のピークを有すること、及びxLiMnO・(1-x)LiMO(x=0.5)は、LiNi1/3Co1/3Mn1/3が有さずにLiMnOが有するピークを有し、特に496cm-1のピークと569cm-1のショルダーが顕著であることが記載されている。また、NCMsは、充放電前後において、典型的なEとAg1に対応するピークを有する点で、充放電後にも、充放電前の層状LiMO類似構造を維持することが記載されている(206頁右欄2~5行、208頁左欄~209頁右欄「3.2. Ex situ Raman investigation」全文)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】特許第4877660号公報
【文献】特開2012-89470号公報
【文献】特開2014-107269号公報
【文献】特開2014-75177号公報
【文献】特表2012-504316号公報
【文献】特表2016-517615号公報
【文献】特表2005-44785号公報
【非特許文献】
【0015】
【文献】P.Lanz,et al.Electrochimica Acta,130,206-212(2014)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
非水電解質二次電池には、誤って満充電状態(SOC100%)を超えてさらに充電がされた場合に安全性が確保されることが規格(例えば自動車用電池に対して「GB/T(中国勧奨国家標準)」)によって定められている。安全性が向上したことを評価する方法としては、充電制御回路が壊れた場合を想定し、満充電状態を超えてさらに電流を強制的に印加したときに、電池電圧の急上昇が観察されたSOCを記録する方法がある。より高いSOCに至るまで、電池電圧の急上昇が観察されない場合、安全性が向上したと評価される。
ここで、SOCとはState Of Chargeの略で、電池の充電状態をそのときの残存容量と満充電時の容量との比率で表したものであり、満充電状態を「SOC100%」と表記する。また、本明細書中の「初回」充放電とは、非水電解質を注液後に行われる、1回目の充電及び放電をさす。「初期」充放電とは、非水電解質を注液後、電池の出荷前製造工程にて行われる1回または複数回の充電及び放電をさす。
【0017】
特許文献1に記載された「4.3V(vs.Li/Li)を超え4.8V以下(vs.Li/Li)の正極電位範囲に充電電気量に対して出現する電位変化が比較的平坦な領域」は「リチウム過剰型」活物質に特徴的に観察される。本明細書中では、以下、「過充電領域」と表記する。上記の電位変化が比較的平坦な領域が観察される充電(以下、「過充電化成」)を一度でも行うと、次に4.8Vに至る充電を行っても、上記平坦な領域は観察されることがない。したがって、正極に「リチウム過剰型」活物質を含み、上記の電位変化が比較的平坦な領域が観察される初期充放電を行わず、通常使用の満充電(SOC100%)を上記の電位変化が平坦な領域が観察されない正極電位とする非水電解質二次電池を提案した。この電池は、SOC100%を超えて、さらに充電された場合、上記電位変化が比較的平坦な領域が初めて観察され、より高いSOCに至るまで電池電圧の急上昇が観察されない。
しかし、上記過充電領域が終了するまでの充電過程を一度も経ないで非水電解質二次電池を製造し、かつ、上記過充電領域が終了するまでの充電を行わずに使用すると、従来のリチウム過剰型活物質では、放電容量が小さいという問題があった。
これに対して、特許文献1~5に記載されたリチウム過剰型活物質を正極に含む非水電解質二次電池は、いずれも過充電領域が終了するまでの充電を行うものである点で、上記の非水電解質二次電池とは異なる。
特許文献6に記載された活物質はMn含有量が少ないから本来のリチウム過剰型活物質ではなく、特許文献7に記載された活物質はリチウム過剰型活物質ではないから、上記の問題は生じない。
【0018】
本発明者は、前駆体の結晶構造、リチウム過剰型活物質の組成及び結晶性等を変化させることによって、過充電領域での質量当たりの充電電気量が大きく、かつ、過充電化成をしない場合でも高い質量当たりの放電容量が得られることを見出した。
しかし、リチウム過剰型活物質は、LiMeO型活物質と比べて粉体密度が小さく、体積当たりの放電容量は依然として小さいことが課題であった。
本発明は、過充電領域における体積当たりの充電電気量が大きく、かつ、体積当たりの放電容量が大きい非水電解質二次電池用正極活物質、その正極活物質の製造方法、その正極活物質を含有する非水電解質二次電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記の課題を解決するための本発明の一側面は、リチウム遷移金属複合酸化物を含有する非水電解質二次電池用正極活物質であって、前記リチウム遷移金属複合酸化物は、α-NaFeO型結晶構造を有し、遷移金属(Me)に対するLiのモル比Li/Meが1<Li/Meであり、遷移金属(Me)としてNi及びMn、又はNi、Co及びMnを含み、Meに対するMnのモル比Mn/Meが0.3≦Mn/Me<0.55であり、ラマンスペクトルにおける550~650cm-1の範囲での最大値I600に対する、450~520cm-1の範囲での最大値I490の比(以下、「I490/I600」という。)が0.45以上である、非水電解質二次電池用正極活物質である。
【0020】
本発明の他の一側面は、前記非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法であって、Ni及びMn、又はNi、Co及びMnを含み、Meに対するMnのモル比Mn/Meが0.3≦Mn/Me<0.55である遷移金属化合物に、Li化合物を混合し、焼成することにより、モル比Li/Meが1<Li/Meであるリチウム遷移金属複合酸化物を製造する際に、焼結助剤を添加する、非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法である。
【0021】
本発明のさらに他の一側面は、前記非水電解質二次電池用正極活物質を含有する非水電解質二次電池用正極である。
また、前記非水電解質二次電池用正極を備え、前記正極に含有される正極活物質は、CuKα線を用いたエックス線回折図において20~22°の範囲に回折ピークが観察される、非水電解質二次電池である。又は、前記非水電解質二次電池用正極を備え、正極電位が5.0V(vs.Li/Li)に至る充電を行ったとき、4.5~5.0V(vs.Li/Li)の正極電位範囲内に、充電電気量に対して電位変化が比較的平坦な領域が観察される、非水電解質二次電池である。
【0022】
本発明のさらに他の一側面は、前記非水電解質二次電池の製造方法であって、初期充放電工程における正極の最大到達電位を4.5V(vs.Li/Li)未満とする、非水電解質二次電池の製造方法である。
【発明の効果】
【0023】
本発明により、過充電領域における体積当たりの充電電気量が大きく、かつ、体積当たりの放電容量が大きい非水電解質二次電池用正極活物質、その正極活物質の製造方法、その正極活物質を含有する正極、その正極を備える非水電解質二次電池、及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】リチウム過剰型活物質を用いた正極に、SOC100%を超える初回充電を行ったときの典型的な充電カーブ、及び過充電領域を示す概念図
図2】α-NaFeO型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物のA1g及びE振動モードを示す図
図3】LiNi1/3Co1/3Mn1/3、Li1.1Ni1/3Co1/3Mn1/32.1、xLiMnO・(1-x)LiMO(M=Ni,Co,Mn;x=0.5)、及びLiMnOの充放電前のラマンスペクトル
図4】本発明の実施例に係る正極活物質の充放電前後におけるラマンスペクトル及びラマンピーク強度比I490/I600
図5】実施例の初回充放電条件1を適用した非水電解質二次電池の正極に含有される正極活物質のエックス線回折測定において「20~22°の範囲に回折ピークが観察される」ことを説明する図
図6】実施例の初回充放電条件2を適用した非水電解質二次電池の正極に含有される正極活物質のエックス線回折測定において「20~22°の範囲に回折ピークが観察され」ないことを説明する図
図7】本発明の一実施形態に係る非水電解質二次電池を示す外観斜視図
図8】本実施形態に係る非水電解質二次電池における「充電電気量に対して電位変化が比較的平坦な領域」を説明する図
図9】体積当たりの放電容量及び充電電気量を算出するためのプレス密度の測定に用いた装置の概念図
図10】本発明の一実施形態に係る非水電解質二次電池を複数個備えた蓄電装置を示す概略図
図11】本発明の実施例及び比較例に係るラマンスペクトル
図12】本発明の実施例及び比較例に係るリチウム過剰型活物質のラマンピーク強度比I490/I600と体積当たりの放電容量の関係を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の構成及び作用効果について、技術思想を交えて説明する。但し、作用機構については推定を含んでおり、その正否は、本発明を制限するものではない。なお、本発明は、その本質又は主要な特徴から逸脱することなく、他のいろいろな形で実施することができる。そのため、後述の実施形態又は実施例は、あらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、すべて本発明の範囲内のものである。
【0026】
本発明の一実施形態は、リチウム遷移金属複合酸化物を含有する非水電解質二次電池用正極活物質であって、前記リチウム遷移金属複合酸化物は、α-NaFeO型結晶構造を有し、遷移金属(Me)に対するLiのモル比Li/Meが1<Li/Meであり、遷移金属(Me)としてNi及びMn、又はNi、Co及びMnを含み、Meに対するMnのモル比Mn/Meが0.3≦Mn/Me<0.6であり、ラマンスペクトルにおける550~650cm-1の範囲での最大値I600に対する、450~520cm-1の範囲での最大値I490の比(I490/I600)が0.45以上である、非水電解質二次電池用正極活物質である。
上記本発明の一実施形態によれば、過充電領域における体積当たりの充電電気量が大きく、かつ、体積当たりの放電容量が大きい正極活物質が提供される。
【0027】
本発明の他の一実施形態は、前記非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法であって、Ni及びMn、又はNi、Co及びMnを含み、Meに対するMnのモル比Mn/Meが0.3≦Mn/Me<0.55である遷移金属化合物に、Li化合物を混合し、焼成することにより、モル比Li/Meが1<Li/Meであるリチウム遷移金属複合酸化物を製造する際に、焼結助剤を添加する、非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法である。
上記本発明の他の一実施形態によれば、特に、体積当たりの放電容量が大きい正極活物質の製造方法が提供される。
【0028】
本発明のさらに他の一実施形態は、前記非水電解質二次電池用正極活物質を含有する非水電解質二次電池用正極である。
【0029】
本発明のさらに他の一実施形態は、前記非水電解質二次電池用正極を備え、前記正極に含有される正極活物質は、CuKα線を用いたエックス線回折図において20~22°の範囲に回折ピークが観察される、非水電解質二次電池である。
また、前記非水電解質二次電池用正極を備え、正極電位が5.0V(vs.Li/Li)に至る充電を行ったとき、4.5~5.0V(vs.Li/Li)の正極電位範囲内に、充電電気量に対して電位変化が比較的平坦な領域が観察される、非水電解質二次電池である。
この一実施形態によれば、過充電領域における体積当たりの充電電気量が大きいため、より高いSOCに至るまで電池電圧の急上昇が観察されない非水電解質二次電池が提供される。
【0030】
上記の非水電解質二次電池は、4.5V(vs.Li/Li)未満の電位で使用することが好ましい。4.5V(vs.Li/Li)未満の電位で使用した場合、体積当たりの放電容量が大きいことと、より高いSOCに至るまで電池電圧の急上昇が観察されないこととを両立することができる。
【0031】
本発明のさらに他の一実施形態は、前記非水電解質二次電池の製造方法であって、初期充放電工程における正極の最大到達電位を4.5V(vs.Li/Li)未満とする、非水電解質二次電池の製造方法である。
この一実施形態によれば、正極電位が5.0V(vs.Li/Li)に至る充電を行ったとき、4.5~5.0V(vs.Li/Li)の正極電位範囲内に、充電電気量に対して電位変化が比較的平坦な領域が観察されることにより、より高いSOCに至るまで電池電圧の急上昇が観察されない非水電解質二次電池が製造される。
上記した本発明の一実施形態に係る非水電解質二次電池用正極活物質(以下、「本実施形態に係る正極活物質」という。)、本発明の他の一実施形態に係る非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法(以下、「本実施形態に係る正極活物質の製造方法」という。)、本発明のさらに他の一実施形態に係る非水電解質二次電池用正極(以下、「本実施形態に係る非水電解質二次電池用正極」という。)、本発明のさらに他の一実施形態に係る非水電解質二次電池(以下、「本実施形態に係る非水電解質二次電池」という。)、本発明のさらに他の一実施形態に係る非水電解質二次電池の製造方法(以下、「本実施形態に係る非水電解質二次電池の製造方法」という。)について、以下、詳細に説明する。
【0032】
<リチウム遷移金属複合酸化物>
本実施形態に係る正極活物質に含有されるリチウム遷移金属複合酸化物(以下、「本実施形態に係るリチウム遷移金属複合酸化物」という。)は、組成式Li1+αMe1-α(α>0;MeはNi及びMn、又はNi、Co及びMnを含む。)と表記することができる、いわゆる「リチウム過剰型」活物質である。上記の組成式において、(1+α)/(1-α)で表される遷移金属元素Meに対するLiのモル比Li/Meは1<Li/Meである。過充電領域における体積当たりの充電電気量をより大きくできる点で、Li/Meは、1.05以上が好ましく、1.1以上がより好ましい。また、1.4未満が好ましく、1.3以下がより好ましい。この範囲であると、過充電領域より低い電位範囲で製造、及び使用する場合の正極活物質の体積当たりの放電容量が向上する。
遷移金属元素Meに対するMnのモル比Mn/Meは、0.3以上0.55以下である。0.3以上であることにより、過充電領域における体積当たりの充電電気量を大きくすることができる。また、0.55以下であることにより、過充電領域より低い電位範囲で製造、及び使用する場合の体積当たりの放電容量が向上する。上記Mnのモル比Mn/Meは、0.5以下がより好ましく、0.45以下がさらに好ましい。
リチウム遷移金属複合酸化物に含有されるCoは、初期効率を向上させる効果がある任意成分であるが、希少資源であることからコスト高である。したがって、遷移金属元素Meに対するCoのモル比Co/Meは0.35以下とすることが好ましく、0でもよい。
遷移金属元素Meに対するNiのモル比Ni/Meは0.2以上が好ましく、0.3以上がより好ましい。また、0.6以下が好ましく、0.55以下がより好ましい。この範囲であると、充放電における分極が小さくなることによって、4.5V(vs.Li/Li)未満の電位で使用する場合の放電容量が大きくなる。
このような組成のリチウム遷移金属複合酸化物を正極活物質に用いることによって、過充電領域における体積当たりの充電電気量が大きく、過充電領域が終了するまでの充電過程を一度も経ないで製造し、かつ、過充電領域が終了するまでの充電を行わずに使用する場合に、体積当たりの放電容量が大きい非水電解質二次電池を得ることができる。
なお、本実施形態に係るリチウム遷移金属複合酸化物は、本発明の効果を損なわない範囲で、Na,K等のアルカリ金属、Mg,Ca等のアルカリ土類金属、Fe等の3d遷移金属に代表される遷移金属など少量の他の金属を含有することを排除するものではない。
【0033】
本実施形態に係るリチウム遷移金属複合酸化物は、ラマンスペクトルにおける550~650cm-1の範囲での最大値I600に対する、450~520cm-1の範囲での最大値I490の比(I490/I600)が0.45以上である。
490/I600を0.45以上とすることにより、過充電領域における体積当たりの充電電気量が大きくなり、かつ、体積当たりの放電容量が大きくなる。
本発明において、I490/I600を0.45以上と特定する意義は以下のように推察される。
本実施形態に係るリチウム遷移金属複合酸化物は、LiMeO(M=Ni及びMn、又はNi、Co及びMnを含む。)とLiMnOの固溶体として表すことができる。LiMeOとLiMnOは、ラマンスペクトルにおいて、MeO振動モードに対応する600cm-1付近のピークA1gとO-Me-O振動モードに対応する490cm-1付近のピークEを有するが、LiMnOには、ピークEが特に顕著に現れることが知られている(非特許文献1参照)。図2に、振動モードを説明する上記特許文献7の図2を転載し、図3に、上記非特許文献1のFig.4を転載する。
490/I600が大きいことは、O-Me-O振動が相対的に大きいから、本実施形態に係るリチウム遷移金属複合酸化物において、相対的にLiMnO成分が多いことを意味する。LiMnOは過充電領域での充電電気量を大きくすることに寄与する成分であるから、I490/I600が0.45以上であることは、より高いSOCに至るまで電池電圧の急上昇が観察されることがない。
一方、I490/I600が小さいことは、MeO振動が相対的に大きいから、本実施形態に係るリチウム遷移金属複合酸化物において、相対的にLiMeO成分が多いことを意味する。LiMeOはLiMnOと比較して、高密度かつ高容量である。しかし、本実施形態に係るリチウム遷移金属複合酸化物を含有する正極活物質においては、焼結助剤により高密度化した場合、LiMeOのユニットの割合が相対的に小さいと考えられるI490/I600が0.45以上の活物質の方が、0.45未満の活物質と比較して、予想外に、体積当たりの放電容量が大きくなることがわかった。焼結助剤によりI490/I600が小さくなる理由としては、活物質中の酸素欠損によって遷移金属の価数が小さくなるか、又は、活物質合成時の不均化(3LiMeO→LiMn+LiMnO)が解消されることによって、活物質中のLiMnOのユニットに対するLiMeOのユニットの割合が大きくなるためと考えられる。ただし、上記の理由により、体積当たりの放電容量を大きくするためには、I490/I600が大きすぎないことが好ましく、0.85以下であることが好ましい。
【0034】
また、本実施形態に係る「リチウム過剰型」正極活物質に含有されるリチウム遷移金属複合酸化物は、合成後(充放電前)、空間群P312に帰属されると共に、CuKα線を用いたエックス線回折図上、2θ=20~22°の範囲に超格子ピーク(Li[Li1/3Mn2/3]O型の単斜晶に見られるピーク)が確認される。ここで、「観察される」とは、回折角17~19°の範囲内の強度の最大値と最小値との差分(I18)に対する回折角20~22°の範囲内の強度の最大値と最小値との差分(I21)の比、すなわち「I21/I18」の値が0.001~0.1の範囲であることをさす。この超格子ピーク(以下、「20~22°のピーク」という。)は、4.5V(vs.Li/Li+)未満の電位領域で充放電を行っても、消失することがない。ところが、一度でも4.5V(vs.Li/Li+)以上の過充電領域が終了する電位まで充電を行うと、結晶中のLiの脱離に伴って結晶の対称性が変化することにより、この20~22°のピークが消失して、上記リチウム遷移金属複合酸化物は空間群R3-mに帰属されるようになる。ここで、P312は、R3-mにおける3a、3b、6cサイトの原子位置を細分化した結晶構造モデルであり、R3-mにおける原子配置に秩序性が認められるときに該P312モデルが採用される。なお、「R3-m」は本来「R3m」の「3」の上にバー「-」を施して表記する。
【0035】
ラマンスペクトル測定及びエックス線回折測定に供する試料の調製は、以下のとおりの手順及び条件により行う。
測定に供する試料は、正極作製前の活物質粉末(充放電前粉末)であれば、そのまま測定に供する。電池を解体して取り出した電極から試料を採取する場合には、電池を解体する前に、当該電池の公称容量(Ah)の10分の1となる電流値(A)で、指定される電圧の下限となる電池電圧に至るまで定電流放電を行い、放電末状態とする。解体した結果、金属リチウム電極を負極に用いた電池であれば、以下に述べる追加作業は行わず、正極板から採取した正極合剤を測定対象とする。金属リチウム電極を負極に用いた電池でない場合は、正極電位を正確に制御するため、電池を解体して電極を取り出した後に、金属リチウム電極を対極とした電池を組立て、正極合剤1g当たり10mAの電流値で、正極の電位が2.0V(vs.Li/Li)となるまで定電流放電を行い、放電末状態に調整した後、再解体する。取り出した正極板は、ジメチルカーボネートを用いて電極に付着した非水電解質を十分に洗浄し室温にて一昼夜の乾燥後、アルミニウム箔集電体上の合剤を採取する。エックス線回折測定に供する試料は、採取した合剤をめのう乳鉢で軽くほぐし、エックス線回折測定用試料ホルダーに配置して測定に供する。ラマンスペクトル測定に供する試料は、この合剤を小型電気炉を用いて600℃で4時間焼成することで導電剤であるカーボンおよび結着剤であるPVdFバインダーを除去し、リチウム遷移金属複合酸化物粒子を取り出し、活物質粉末(充放電後粉末)として上記の測定に供する。
上記の電池の解体から再解体までの作業、及び正極板の洗浄、乾燥作業は、露点-60℃以下のアルゴン雰囲気中で行う。
【0036】
<ラマンスペクトルの測定方法>
ラマンスペクトルの測定は以下の条件にて行う。
堀場製作所社の「LabRAM HR Revolution」を用いてラマン分光測定を行う。対物レンズに100倍のレンズを用い、上記のようにして調製した活物質粉末にレーザの焦点を合わせた状態で測定を行う。その際、波長532nm(YAGレーザ)、グレーティング600g/mmの条件、露光時間30秒、積算回数2回、測定波長100cm-1~4000cm-1の条件で測定を行う。上記測定により得られたスペクトルにおいて、550cm-1以上650cm-1以下の範囲での最大値I600に対する、450cm-1以上520cm-1以下の範囲での最大値I490の比(I490/I600)を求める。
【0037】
図4は、後述する実施例2に係るリチウム遷移金属複合酸化物について、充放電前粉末、充放電後粉末を上記の手順により測定したラマンスペクトルである。本実施形態に係るリチウム遷移金属複合酸化物は、粉末状態での充放電前後において、ラマンスペクトルが維持される。
なお、非特許文献1のFig.4(充放電前),Fig.5(充放電後)においても、ラマンスペクトルがほとんど変化していないことが示されている。
【0038】
<エックス線回折の測定方法>
本明細書において、エックス線回折測定は、次の条件にて行う。線源はCuKα、加速電圧は30kV、加速電流は15mAとする。サンプリング幅は0.01deg、スキャンスピードは1.0deg/min、発散スリット幅は0.625deg、受光スリットは開放、散乱スリットは8.0mmとする。
【0039】
図5は、本実施形態に係る正極活物質を用いた非水電解質二次電池に対して、正極合剤1g当たり10mAの電流値で、充電上限電位を4.35V(vs.Li/Li)、放電下限電位を2.0V(vs.Li/Li)として初回の充放電(後述する実施例の初回充放電条件1に相当)を行った後の放電末状態における非水電解質二次電池(本実施形態に係る非水電解質二次電池)の正極に含有される活物質粉末について、上記の手順で測定したエックス線回折図である。図5では、20~22°の範囲に回折ピークが観察される。
図6は、同じ本実施形態に係る正極活物質を用いた非水電解質二次電池に対して、正極合剤1g当たり10mAの電流値で、充電上限電位を4.6V(vs.Li/Li)、放電下限電位を2.0V(vs.Li/Li)として初回の充放電(後述する実施例の初回充放電条件2に相当)を行った後の放電末状態における非水電解質二次電池の正極に含有される活物質粉末について、上記の手順で測定したエックス線回折図である。図6では、20~22°の範囲に回折ピークが観察されない。
なお、後述する実施例の初回充放電条件2は、本実施形態に係る正極活物質の過充電領域における体積当たりの充電電気量を調査するために、充電上限電位を4.6V(vs.Li/Li)としたものであるから、初回充放電条件2を適用した後の非水電解質二次電池は、本実施形態に係る非水電解質二次電池ではない。
同じ本実施形態に係る正極活物質を用いた非水電解質二次電池に対して、充電上限電位を4.6V(vs.Li/Li)、放電下限電位を2.0V(vs.Li/Li)として、初回の充放電を行った後、充電上限電位4.35V(vs.Li/Li)、放電下限電位を2.0V(vs.Li/Li)として充放電を行った放電末状態における非水電解質二次電池の正極に含有される活物質粉末について、上記の手順で測定したところ、図6と同様のエックス線回折図が得られた。すなわち、上記のとおり、一度でも4.5V以上の電位まで充電を行うと、20~22°の範囲のピークは消失し、20~22°の範囲の回折ピークが再び現れることはない。
本実施形態に係る非水電解質二次電池は、上記の手順による充放電後のエックス線回折測定においても、正極活物質のエックス線回折図に20~22°の範囲の回折ピークが観察されることから、本実施形態に係る非水電解質二次電池は、初回充放電を含めて、4.5V(vs.Li/Li)未満の電位で使用された電池であることがわかる。
【0040】
<リチウム遷移金属複合酸化物の製造方法>
本実施形態に係る正極活物質の製造方法において、リチウム遷移金属複合酸化物は、Ni及びMn、又はNi、Co及びMnを含み、Meに対するMnのモル比Mn/Meが0.3≦Mn/Me<0.55である遷移金属化合物に、Li化合物を混合し、焼成することにより、製造することができる。前記焼成の際には、焼結助剤を添加することが好ましい。
【0041】
前記遷移金属化合物は、Ni及びMn、又はNi、Co及びMnをそれぞれ含む原料化合物を、pH10.2以下の水溶液中で反応させる共沈法によって製造される遷移金属水酸化物前駆体であることがより好ましい。pHを10.2以下とすることにより、粒子成長を促進できるので、原料水溶液滴下終了後の撹拌継続時間を短縮でき、かつ、αMe(OH)及びβMe(OH)を含有する結晶構造を有する前駆体を製造することができる。αMe(OH)及びβMe(OH)を含有する結晶構造を有する前駆体は、αMe(OH)単相又はβMe(OH)単相の結晶構造を有する前駆体と比べてタップ密度を大きくすることができる。タップ密度の高い前駆体を用いて作製された電極は、プレス密度を高めることができるので、電極の抵抗を小さくすることができる。なお、pHが低すぎると、αMe(OH)単相の前駆体となるので、反応pHは9を超えることが好ましい。
【0042】
水酸化物前駆体を製造する場合、アルカリ性を保った反応槽に、遷移金属(Me)を含有する溶液と共に、アルカリ金属水酸化物、錯化剤、及び、還元剤を含有するアルカリ溶液を加えて、遷移金属水酸化物を共沈させることが好ましい。
錯化剤としては、アンモニア、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム等を用いることができ、アンモニアが好ましい。錯化剤を用いた晶析反応によって、よりタップ密度の大きな前駆体を作製することができる。
錯化剤と共に還元剤を用いることが好ましい。還元剤としては、ヒドラジン、水素化ホウ素ナトリウム等を用いることができ、ヒドラジンが好ましい。
アルカリ金属水酸化物(中和剤)には、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム又は水酸化カリウムを使用することができる。
【0043】
Ni,Co,MnのうちMnは酸化されやすく、Ni,Mn、又はNi,Co,Mnが2価の状態で均一に分布した共沈物を作製することが容易ではないため、Ni,Mn、又はNi,Co,Mnの原子レベルでの均一な混合は不十分なものとなりやすい。本実施形態に係る正極活物質の製造方法においては、遷移金属化合物の組成範囲におけるMeに対するMnのモル比Mn/Meが0.3以上であるので、水溶液中の溶存酸素を除去することが重要である。溶存酸素を除去する方法としては、酸素を含まないガスをバブリングする方法が挙げられる。酸素を含まないガスとしては、限定されるものではないが、窒素ガス、アルゴンガス、二酸化炭素(CO)等を用いることができる。
【0044】
前記遷移金属化合物の原料は、Mn源としては酸化マンガン、炭酸マンガン、硫酸マンガン、硝酸マンガン、酢酸マンガン等を、Ni源としては、水酸化ニッケル、炭酸ニッケル、硫酸ニッケル、硝酸ニッケル、酢酸ニッケル等を、Co源としては、硫酸コバルト、硝酸コバルト、酢酸コバルト等を一例として挙げることができる。
【0045】
前記遷移金属化合物の原料水溶液を滴下供給する間、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属水酸化物(中和剤)、アンモニア等の錯化剤、及び、ヒドラジン等の還元剤を含有する混合アルカリ溶液を適宜滴下する方法が好ましい。滴下するアルカリ金属水酸化物の濃度は、1.0~8.0Mであることが好ましい。錯化剤の濃度は、0.4M以上であることが好ましく、0.6M以上であることがより好ましい。また、2.0M以下であることが好ましく、1.6M以下であることがより好ましく、1.5M以下とすることがさらに好ましい。還元剤の濃度は、0.05~1.0Mであることが好ましく、0.1~0.5Mとすることがより好ましい。反応槽のpHを低くすると共に、アンモニア(錯化剤)の濃度を0.6M以上とすることにより、水酸化物前駆体のタップ密度を高くすることができる。
【0046】
前記原料水溶液の滴下速度は、生成する水酸化物前駆体の1粒子内における元素分布の均一性に大きく影響を与える。特にMnは、NiやCoと均一な元素分布を形成しにくいので注意が必要である。好ましい滴下速度については、反応槽の大きさ、攪拌条件、pH、反応温度等にも影響されるが、30mL/min以下が好ましい。放電容量を向上させるためには、滴下速度は10mL/min以下がより好ましく、5mL/min以下が最も好ましい。
【0047】
また、反応槽内にアンモニア等の錯化剤が存在し、かつ一定の対流条件を適用した場合、前記原料水溶液の滴下終了後、さらに攪拌を続けることにより、粒子の自転および攪拌槽内における公転が促進され、この過程で、粒子同士が衝突しつつ、粒子が段階的に同心円球状に成長する。即ち、水酸化物前駆体は、反応槽内に原料水溶液が滴下された際の金属錯体形成反応、及び、前記金属錯体が反応槽内の滞留中に生じる沈殿形成反応という2段階での反応を経て形成される。従って、前記原料水溶液の滴下終了後、さらに攪拌を続ける時間を適切に選択することにより、目的とする粒子径を備えた水酸化物前駆体を得ることができる。
【0048】
原料水溶液滴下終了後の好ましい攪拌継続時間については、反応槽の大きさ、攪拌条件、pH、反応温度等にも影響されるが、粒子を均一な球状粒子として成長させるために0.5h以上が好ましく、1h以上がより好ましい。また、粒子径が大きくなりすぎることで電池の低SOC領域における出力性能が充分でないものとなる虞を低減させるため、15h以下が好ましく、10h以下がより好ましく、5h以下が最も好ましい。
【0049】
また、水酸化物前駆体及びリチウム遷移金属複合酸化物の2次粒子の粒度分布における累積体積は、50%となる粒子径であるD50を13μm以下とすることが好ましい。そのためには、例えば、pHを9.1~10.2に制御した場合には、攪拌継続時間は1~3hが好ましい。
【0050】
水酸化物前駆体の粒子を、中和剤として水酸化ナトリウム等のナトリウム化合物を使用して作製した場合、その後の洗浄工程において粒子に付着しているナトリウムイオンを洗浄除去することが好ましい。例えば、作製した水酸化物前駆体を吸引ろ過して取り出す際に、イオン交換水500mLによる洗浄回数を6回以上とするような条件を採用することができる。
【0051】
上記のようにして作製した水酸化物前駆体(遷移金属化合物)に、Li化合物を混合し、焼成することにより、リチウム遷移金属複合酸化物を製造する。
遷移金属化合物と混合するLi化合物としては、水酸化リチウム、硝酸リチウム、炭酸リチウム、酢酸リチウム等を用いることができる。
【0052】
遷移金属化合物とLi化合物を混合して焼成する際には、焼結助剤を添加することが好ましい。焼結助剤としては、フッ化リチウム(LiF)、炭酸リチウム(LiCO)、フッ化ナトリウム(NaF)、塩化ナトリウム(NaCl)、硫酸リチウム(LiSO)、リン酸リチウム(LiPO)、塩化リチウム(LiCl)、塩化マグネシウム(MgCl)又は塩化カルシウム(CaCl)を使用することが好ましい。上記のように、炭酸リチウムは、リチウム遷移金属複合酸化物を製造するためのLi化合物として用いられるが、後述する実施例のように、上記のリチウム化合物として水酸化リチウムを用いた場合には、炭酸リチウムは焼結助剤として機能する。これらの焼結助剤の添加比率は、Li化合物の総量に対して1~10mol%とすることが好ましい。なお、Li化合物の総量は、焼成中にLi化合物の一部が消失することを見込んで、1~5%程度過剰に仕込むことが好ましい。
【0053】
焼成温度は、活物質の可逆容量に影響を与える。
焼成温度が高すぎると、得られた活物質が酸素放出反応を伴って崩壊すると共に、主相の六方晶に加えて単斜晶のLi[Li1/3Mn2/3]O型に規定される相が、固溶相としてではなく、分相して観察される傾向がある。このような分相が多く含まれすぎると、活物質の可逆容量の減少を招くので好ましくない。このような材料では、エックス線回折図上35°付近及び45°付近に不純物ピークが観察される。したがって、焼成温度は、活物質の酸素放出反応の影響する温度未満とすることが好ましい。活物質の酸素放出温度は、活物質の組成によって若干の差があり、本実施形態に係る正極活物質では、概ね1000℃以上であるが、あらかじめ活物質の酸素放出温度を確認しておくことが好ましい。特に試料に含まれるCo量が多いほど水酸化物前駆体の酸素放出温度は低温側にシフトすることが確認されているので注意が必要である。活物質の酸素放出温度を確認する方法としては、焼成反応過程をシミュレートするために、水酸化物前駆体とリチウム化合物を混合したものを熱質量分析(TG-DTA測定)に供してもよいが、この方法では測定機器の試料室に用いている白金が揮発したLi成分により腐食されて機器を傷めるおそれがあるので、あらかじめ500℃程度の焼成温度を採用してある程度結晶化を進行させた組成物を熱質量分析に供するのが良い。
【0054】
一方、焼成温度が低すぎると、結晶化が十分に進まず、電極特性が低下する傾向がある。十分に結晶化させることにより、結晶粒界の抵抗を軽減し、円滑なリチウムイオン輸送を促すことができる。
したがって、好ましい焼成温度は、活物質の組成による酸素放出温度により異なるが、本実施形態に係る正極活物質の製造方法において、体積当たりの放電容量が十分な活物質を得るためには、焼成温度を800~1000℃とすることが好ましく、850~950℃とすることがより好ましい。
【0055】
<正極>
本実施形態に係る非水電解質二次電池用正極は、上記の正極活物質を主成分とする粉体を含む。その他の成分として、導電剤、結着剤、増粘剤、フィラー等を含有していてもよい。
【0056】
正極活物質の粉体は、平均粒子サイズは100μm以下であることが好ましい。特に、正極活物質の粉体は、非水電解質電池の高出力特性を向上させる点で15μm以下であることが好ましい。粉体を所定の形状で得るためには、所定の大きさの前駆体を作製する方法や、粉砕機、分級機などを用いる方法がある。粉砕には、例えば乳鉢、ボールミル、サンドミル、振動ボールミル、遊星ボールミル、ジェットミル、カウンタージェットミル、旋回気流型ジェットミルや篩などが用いられる。粉砕時には水、あるいはヘキサン等の有機溶剤を共存させた湿式粉砕を用いることもできる。分級方法としては、特に限定はなく、篩や風力分級機などが、乾式、湿式ともに必要に応じて用いられる。
【0057】
導電剤としては、電池性能に悪影響を及ぼさない電子伝導性材料であれば限定されないが、通常、天然黒鉛(鱗状黒鉛,鱗片状黒鉛,土状黒鉛等)、人造黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンウイスカー、炭素繊維、金属(銅,ニッケル,アルミニウム,銀,金等)粉、金属繊維、導電性セラミックス材料等の導電性材料を1種またはそれらの混合物として含ませることができる。
【0058】
これらの中で、導電剤としては、電子伝導性及び塗工性の観点よりアセチレンブラックが好ましい。導電剤の添加量は、正極の総質量に対して0.1質量%~50質量%が好ましく、特に0.5質量%~30質量%が好ましい。特にアセチレンブラックを0.1~0.5μmの超微粒子に粉砕して用いると、必要炭素量を削減できるため好ましい。これらの混合方法は、物理的な混合であり、その理想とするところは均一混合である。そのため、V型混合機、S型混合機、擂かい機、ボールミル、遊星ボールミルといったような粉体混合機を用いて、乾式、あるいは湿式で混合することが可能である。
【0059】
前記結着剤としては、通常、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE),ポリフッ化ビニリデン(PVDF),ポリエチレン,ポリプロピレン等の熱可塑性樹脂、エチレン-プロピレン-ジエンターポリマー(EPDM),スルホン化EPDM,スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム等のゴム弾性を有するポリマーを1種または2種以上の混合物として用いることができる。結着剤の添加量は、正極の総質量に対して1~50質量%が好ましく、特に2~30質量%が好ましい。
【0060】
フィラーとしては、電池性能に悪影響を及ぼさない材料であれば限定されない。通常、ポリプロピレン,ポリエチレン等のオレフィン系ポリマー、無定形シリカ、アルミナ、ゼオライト、ガラス、炭素等が用いられる。フィラーの添加量は、正極の総質量に対して30質量%以下が好ましい。
【0061】
<負極>
上記の正極と組み合わせる負極に用いる負極活物質としては、限定されない。リチウムイオンを吸蔵及び放出することのできる形態のものであれば適宜選択できる。例えば、Li[Li1/3Ti5/3]Oに代表されるスピネル型結晶構造を有するチタン酸リチウム等のチタン系材料、SiやSb,Sn系などの合金系材料リチウム金属、リチウム合金(リチウム-シリコン、リチウム-アルミニウム,リチウム-鉛,リチウム-スズ,リチウム-アルミニウム-スズ,リチウム-ガリウム,及びウッド合金等のリチウム金属含有合金)、リチウム複合酸化物(リチウム-チタン)、酸化珪素の他、リチウムを吸蔵・放出可能な合金、炭素材料(例えばグラファイト、ハードカーボン、低温焼成炭素、非晶質カーボン等)等が挙げられる。
負極活物質は、正極活物質と同様、粉体として用いられ、負極は正極と同様、その他の成分を含んでいてよい。
【0062】
<正極及び負極の作製>
正極及び負極は、前記主成分(各活物質)及びその他の材料を混練し合剤とし、N-メチルピロリドン,トルエン等の有機溶媒又は水に混合させた後、得られた混合液を下記に詳述する集電体の上に塗布し、または圧着して50℃~250℃程度の温度で、2時間程度加熱処理することにより好適に作製される。前記塗布方法については、例えば、アプリケーターロールなどのローラーコーティング、スクリーンコーティング、ドクターブレード方式、スピンコーティング、バーコータ等の手段を用いて任意の厚さ及び任意の形状に塗布することが好ましいが、これらに限定されるものではない。
【0063】
集電体としては、Al箔、Cu箔等の集電箔を用いることができる。正極の集電箔としてはAl箔が好ましく、負極の集電箔としてはCu箔が好ましい。集電箔の厚みは10~30μmが好ましい。また、合剤層の厚みはプレス後において、40~150μm(集電箔厚みを除く)が好ましい。
【0064】
<非水電解質>
非水電解質二次電池に用いる非水電解質は、限定されるものではなく、一般にリチウム二次電池等への使用が提案されているものが使用可能である。非水電解質に用いる非水溶媒としては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネート、ビニレンカーボネート等の環状炭酸エステル類;γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン等の環状エステル類;ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等の鎖状カーボネート類;ギ酸メチル、酢酸メチル、酪酸メチル等の鎖状エステル類;テトラヒドロフランまたはその誘導体;1,3-ジオキサン、1,4-ジオキサン、1,2-ジメトキシエタン、1,4-ジブトキシエタン、メチルジグライム等のエーテル類;アセトニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル類;ジオキソランまたはその誘導体;エチレンスルフィド、スルホラン、スルトンまたはその誘導体等の単独またはそれら2種以上の混合物等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0065】
非水電解質に用いる電解質塩としては、例えば、LiClO、LiBF、LiAsF、LiPF、LiSCN、LiBr、LiI、LiSO、Li10Cl10、NaClO、NaI、NaSCN、NaBr、KClO、KSCN等のリチウム(Li)、ナトリウム(Na)またはカリウム(K)の1種を含む無機イオン塩、LiCFSO、LiN(CFSO、LiN(CSO、LiN(CFSO)(CSO)、LiC(CFSO、LiC(CSO、(CHNBF、(CHNBr、(CNClO、(CNI、(CNBr、(n-CNClO、(n-CNI、(CN-maleate、(CN-benzoate、(CN-phthalate、ステアリルスルホン酸リチウム、オクチルスルホン酸リチウム、ドデシルベンゼンスルホン酸リチウム等の有機イオン塩等が挙げられ、これらのイオン性化合物を単独、あるいは2種類以上混合して用いることが可能である。
【0066】
さらに、LiPF又はLiBFと、LiN(CSOのようなパーフルオロアルキル基を有するリチウム塩とを混合して用いることにより、さらに電解質の粘度を下げることができるので、低温特性をさらに高めることができ、また、自己放電を抑制することができ、より好ましい。
また、非水電解質として常温溶融塩やイオン液体を用いてもよい。
【0067】
非水電解質における電解質塩の濃度としては、高い電池特性を有する非水電解質電池を確実に得るために、0.1mol/L~5mol/Lが好ましく、さらに好ましくは、0.5mol/L~2.5mol/Lである。
【0068】
<セパレータ>
非水電解質二次電池のセパレータとしては、優れた高率放電性能を示す多孔膜や不織布等を、単独使用あるいは併用することが好ましい。非水電解質電池用セパレータを構成する材料としては、例えばポリエチレン,ポリプロピレン等に代表されるポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート,ポリブチレンテレフタレート等に代表されるポリエステル系樹脂、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン-パーフルオロビニルエーテル共重合体、フッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン-トリフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン-フルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロアセトン共重合体、フッ化ビニリデン-エチレン共重合体、フッ化ビニリデン-プロピレン共重合体、フッ化ビニリデン-トリフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン-エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体等を挙げることができる。
【0069】
セパレータの空孔率は強度の観点から98体積%以下が好ましい。また、充放電特性の観点から空孔率は20体積%以上が好ましい。
【0070】
また、セパレータは、例えばアクリロニトリル、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、メチルメタアクリレート、ビニルアセテート、ビニルピロリドン、ポリフッ化ビニリデン等のポリマーと電解質とで構成されるポリマーゲルを用いてもよい。非水電解質を上記のようにゲル状態で用いると、漏液を防止する効果がある点で好ましい。
【0071】
さらに、セパレータは、上述したような多孔膜や不織布等とポリマーゲルを併用して用いると、電解質の保液性が向上するため好ましい。即ち、ポリエチレン微孔膜の表面及び微孔壁面に厚さ数μm以下の親溶媒性ポリマーを被覆したフィルムを形成し、前記フィルムの微孔内に電解質を保持させることで、前記親溶媒性ポリマーがゲル化する。
【0072】
前記親溶媒性ポリマーとしては、ポリフッ化ビニリデンの他、エチレンオキシド基やエステル基等を有するアクリレートモノマー、エポキシモノマー、イソシアナート基を有するモノマー等が架橋したポリマー等が挙げられる。該モノマーは、電子線(EB)照射、又は、ラジカル開始剤を添加して加熱若しくは紫外線(UV)照射を行うこと等により、架橋反応を行わせることが可能である。
【0073】
<非水電解質二次電池の構成>
非水電解質二次電池の構成については特に限定されるものではなく、正極、負極及びロール状のセパレータを有する円筒型電池、角型電池(矩形状の電池)、扁平型電池等が一例として挙げられる。
図7に、本発明の一実施形態に係る矩形状の非水電解質二次電池1の外観斜視図を示す。なお、同図は、容器内部を透視した図としている。図7に示す非水電解質二次電池1は、電極群2が電池容器3に収納されている。電極群2は、正極活物質を備える正極と、負極活物質を備える負極とが、セパレータを介して捲回されることにより形成されている。正極は、正極リード4’を介して正極端子4と電気的に接続され、負極は、負極リード5’を介して負極端子5と電気的に接続されている。
【0074】
本実施形態に係る非水電解質二次電池は、上記の正極活物質を含有する正極を備え、前記正極に含有される正極活物質がCuKα線を用いたエックス線回折図において20~22°の範囲に回折ピークが観察されるか、又は、正極電位が5.0V(vs.Li/Li)に至る充電を行ったとき、4.5~5.0V(vs.Li/Li)の正極電位範囲内に、充電電気量に対して電位変化が比較的平坦な領域が観察される、電池である。
上記の正極に含有される正極活物質が20~22°の範囲に回折ピークが観察される非水電解質二次電池は、初期充放電工程における正極の最大到達電位を4.5V(vs.Li/Li)未満とする方法(本実施形態に係る非水電解質二次電池の製造方法)により製造されるので、前記電位変化が比較的平坦な領域が観察される。
そして、上記の電位変化が比較的平坦な領域を有することにより、過充電領域における体積当たりの充電電気量が大きくなるので、より高いSOCに至るまで電池電圧の急上昇が観察されない。
【0075】
<電位変化が平坦な領域の確認方法>
「充電電気量に対して電位変化が比較的平坦な領域」(以下、「電位変化が平坦な領域」という。)が観察されることの確認は、以下の手順による。解体して取り出した正極板を作用極、Li金属を対極とした試験電池を作製し、前記試験電池を正極合剤1g当たり10mAの電流値で2.0V(vs.Li/Li)まで放電したのち、30分の休止を行う。その後正極合剤1g当たり10mAの電流値で5.0V(vs.Li/Li+)まで定電流充電を行う。ここで、充電開始から4.45V(vs.Li/Li)到達時の容量X(mAh)に対する、各電位における容量Y(mAh)の比をZ(=Y/X*100(%))とする。横軸に電位、縦軸に分母を電位変化の差分、分子を容量比変化の差分としたdZ/dVをとり、dZ/dVカーブを得る。
図8の実線は、リチウム過剰型活物質を正極活物質として用いた正極とLi金属を用いた負極とを備えた非水電解質二次電池を組み立て、初回の充電を4.5V(vs.Li/Li)未満とした本実施形態に係る非水電解質二次電池について、4.6V(vs.Li/Li)に至る充電を行ったときのdZ/dVカーブの一例である。dZ/dVカーブは計算式からも分かるように、容量比変化に対し、電位変化が小さいときはdZ/dVの値が大きくなり、容量比変化に対し、電位変化が大きいときはdZ/dVの値が小さくなる。リチウム過剰型活物質の4.5V(vs.Li/Li)を超えた電位領域での充電過程では、電位変化が平坦な領域が見え始めたところで、dZ/dVの値は大きくなる。その後電位変化が平坦な領域が終了し、電位が再び上昇し始めた場合は、dZ/dVの値は小さくなる。すなわち、dZ/dVカーブにおいて、ピークが観察される。ここで、4.5V(vs.Li/Li)から5.0V(vs.Li/Li)の範囲におけるdZ/dVの最大値が150以上を示す場合、電位変化が平坦な領域が観察されると判断する。一方、破線は、上記した非水電解質二次電池と同様の構成の電池で、初回に上限4.6V(vs.Li/Li)、下限2.0V(vs.Li/Li)とした充放電を行った非水電解質二次電池について、10分の休止を挟んだのち、2回目の充電を上限4.6V(vs.Li/Li)として充電を行ったときのdZ/dVカーブである。破線では、実線のようなピークは観察されていない。すなわち、リチウム過剰型活物質を含有する正極を備えた非水電解質二次電池を、一度でも4.5V(vs.Li/Li+)以上の電位変化が平坦な領域が終了するまで充電を行うと、以降の4.5V(vs.Li/Li+)以上の電位での充電工程では、dZ/dVカーブにおいてピークが観察されない。なお、本明細書において、通常使用時とは、当該非水電解質二次電池について推奨され、又は指定される充放電条件を採用して当該非水電解質二次電池を使用する場合であり、当該非水電解質二次電池のための充電器が用意されている場合は、その充電器を適用して当該非水電解質二次電池を使用する場合をいう。
【0076】
<体積当たりの放電容量及び充電電気量の算出方法>
本明細書において、プレス密度の測定条件は次のとおりである。測定は室温20℃以上25℃以下の大気中にて行う。プレス密度の測定に用いた装置の概念図を図9に示す。一対の測定プローブ1A、1Bを準備する。測定プローブ1A、1Bは、直径8.0mm(±0.05mm)のステンレス鋼(SUS304)製の円柱の一端を平面加工した測定面2A、2Bを有し、他端をステンレス鋼製の台座3A、3Bに前記円柱を垂直に固定したものである。アクリル製の円柱の中心部に、前記ステンレス鋼製円柱が重力によって空気中で自然にゆっくりと下降しうるように内径を調整し研磨加工された貫通孔7を設けた側体6を準備する。側体6の上面及び下面は平滑に研磨加工されている。
一方の前記測定プローブ1Aを測定面2Aが上方を向くように水平な机上に設置し、上方から前記側体6を被せるようにして側体6の貫通孔7に前記測定プローブ1Aの円柱部を挿入する。もう一方の測定プローブ1Bを測定面2Bを下にして前記貫通孔7の上方から挿入し、前記測定面2A、2B間の距離をゼロの状態とする。このとき、ノギスを用いて測定プローブ1Bの台座3Bと測定プローブ1Aの台座3Aとの距離を測定しておく。
【0077】
次に、測定プローブ1Bを引き抜き、貫通孔7の上部から薬さじで0.3gの被測定試料の粉末(正極活物質粉末)を投入し、再度、測定プローブ1Bを測定面2Bを下にして前記貫通孔7の上方から挿入する。圧力計の付いた手動式の油圧プレス機を用いて前記測定プローブ1Bの上方から、プレス機の圧力目盛りが2MPaに達するまで加圧する。なお、前記目盛りが2MPaに達した後、前記目盛りが示す値が減じても追加の加圧は行わない。この状態、即ち、被測定試料が400Nに達するまで加圧された状態で、再び、ノギスを用いて測定プローブ1Bの台座3Bと測定プローブ1Aの台座3Aとの距離を測定する。被測定試料投入前の距離との差(cm)と、測定面の面積(0.5024cm)と被測定試料の投入量(0.3g)から、加圧された状態の被測定試料の密度を算出し、これをプレス密度(g/cm)とする。
上記のようにして測定された正極活物質粉末のプレス密度と質量当たりの放電容量及び充電電気量をかけ合わせることによって、体積当たりの放電容量及び充電電気量を算出する。
【0078】
<蓄電装置の構成>
上記の非水電解質二次電池を複数個集合した蓄電装置も、本発明の一実施形態に含まれる。図10に示す蓄電装置30は、複数の蓄電ユニット20を備えている。それぞれの蓄電ユニット20は、複数の非水電解質二次電池1を備えている。前記蓄電装置30は、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)等の自動車用電源として搭載することができる。
【0079】
本実施形態に係る非水電解質二次電池は、上記過充電領域が終了するまでの充電過程を一度も経ないで製造され、かつ、上記過充電領域が終了するまでの充電を行わずに使用されることを前提としている。製造時の上記充電過程及び使用時に採用する充電電圧は、当該充電によって正極が到達する最大到達電位、即ち充電上限電位が、過充電領域が開始する電位以下となるように設定することが好ましい。初期充放電工程における充電上限電位、及び使用時の充電上限電位は4.5V(vs.Li/Li)未満とすることが好ましい。上記充電上限電位は、例えば、4.40V(vs.Li/Li)とすることができる。上記充電上限電位は、4.38V(vs.Li/Li)であってもよく、4.36V(vs.Li/Li)であってもよく、4.34V(vs.Li/Li)であってもよく、4.32V(vs.Li/Li)であってもよい。
【実施例
【0080】
まず、同一組成の遷移金属化合物を使用し、リチウム遷移金属複合酸化物の製造条件を変化させた実施例1~10及び比較例1を示す。
【0081】
<リチウム遷移金属複合酸化物の作製>
(実施例1)
リチウム遷移金属複合酸化物の作製にあたって、反応晶析法を用いて水酸化物前駆体を作製した。まず、硫酸ニッケル6水和物578.3g、硫酸コバルト7水和物56.2g、硫酸マンガン5水和物385.7gを秤量し、これらの全量をイオン交換水4Lに溶解させ、Ni:Co:Mnのモル比が55:5:40となる1.0Mの硫酸塩水溶液を作製した。次に、5Lの反応槽に2Lのイオン交換水を注ぎ、Nガスを30minバブリングさせることにより、イオン交換水中に含まれる酸素を除去した。反応槽の温度は50℃(±2℃)に設定し、攪拌モーターを備えたパドル翼を用いて反応槽内を1500rpmの回転速度で攪拌しながら、反応層内に対流が十分おこるように設定した。前記硫酸塩原液を1.3mL/minの速度で反応槽に50hr滴下した。ここで、滴下の開始から終了までの間、4.0Mの水酸化ナトリウム、1.25Mのアンモニア、及び0.1Mのヒドラジンからなる混合アルカリ溶液を適宜滴下することにより、反応槽中のpHが常に10.20(±0.1)を保つように制御すると共に、反応液の一部をオーバーフローにより排出することにより、反応液の総量が常に2Lを超えないように制御した。滴下終了後、反応槽内の攪拌をさらに1h継続した。攪拌の停止後、室温で12h以上静置した。 次に、吸引ろ過装置を用いて、反応槽内に生成した水酸化物前駆体粒子を分離し、さらにイオン交換水を用いて粒子に付着しているナトリウムイオンを洗浄除去し、電気炉を用いて、空気雰囲気中、常圧下、80℃にて20h乾燥させた。その後、粒径を揃えるために、瑪瑙製自動乳鉢で数分間粉砕した。このようにして、Ni:Co:Mnのモル比が55:5:40である水酸化物前駆体を作製した。
【0082】
前記水酸化物前駆体2.264gに、水酸化リチウム1水和物1.264g、フッ化リチウム0.015gを加え、瑪瑙製自動乳鉢を用いてよく混合し、Li:(Ni,Co,Mn)のモル比が120:100である混合粉体を調製した。フッ化リチウムの添加比率は、Li化合物の総量に対して2mol%である。ペレット成型機を用いて、6MPaの圧力で成型し、直径25mmのペレットとした。ペレット成型に供した混合粉体の量は、想定する最終生成物の質量が2.5gとなるように換算して決定した。前記ペレット1個を全長約100mmのアルミナ製ボートに載置し、箱型電気炉(型番:AMF20)に設置し、空気雰囲気中、常圧下、常温から900℃まで10時間かけて昇温し、900℃で4h焼成した。前記箱型電気炉の内部寸法は、縦10cm、幅20cm、奥行き30cmであり、幅方向20cm間隔に電熱線が入っている。焼成後、ヒーターのスイッチを切り、アルミナ製ボートを炉内に置いたまま自然放冷した。この結果、炉の温度は5時間後には約200℃程度にまで低下するが、その後の降温速度はやや緩やかである。一昼夜経過後、炉の温度が100℃以下となっていることを確認してから、ペレットを取り出し、粒径を揃えるために、瑪瑙製自動乳鉢で数分間粉砕した。このようにして、実施例1に係るリチウム遷移金属複合酸化物を作製した。
【0083】
(実施例2~5、比較例1)
水酸化物前駆体、水酸化リチウム1水和物、及びフッ化リチウムの混合粉体におけるフッ化リチウムの添加比率を、それぞれ、Li化合物の総量に対して5、8、10、及び20モル%とした以外は実施例1と同様にして、実施例2~4、及び比較例1に係るリチウム遷移金属複合酸化物を作製した。
また、フッ化リチウムを添加しない以外は実施例1と同様にして、実施例5に係るリチウム遷移金属複合酸化物を作製した。
【0084】
(実施例6)
水酸化物前駆体、水酸化リチウム1水和物、及びフッ化リチウムの混合粉体を、950℃で焼成したこと以外は実施例2と同様にして、実施例6に係るリチウム遷移金属複合酸化物を作製した。
【0085】
(実施例7)
水酸化物前駆体、水酸化リチウム1水和物、及びフッ化リチウムの混合粉体におけるLi:(Ni,Co,Mn)のモル比を、130:100に変更した以外は実施例2と同様にして、実施例7に係るリチウム遷移金属複合酸化物を作製した。
【0086】
(実施例8~10)
フッ化リチウムに代えて、それぞれ炭酸リチウム、フッ化ナトリウム、及び塩化ナトリウムを、リチウム化合物の総量に対して5mol%添加した混合粉体を調整した以外は実施例2と同様にして、実施例8~10に係るリチウム遷移金属複合酸化物を作製した。
【0087】
次に、別の組成の遷移金属化合物を使用し、リチウム遷移金属複合酸化物の製造条件を変化させた実施例11~14及び比較例2を示す。
(実施例11)
Ni:Co:Mnのモル比を40:15:45に変更して水酸化物前駆体を作製し、前記水酸化物前駆体、水酸化リチウム1水和物、及びフッ化リチウムの混合粉体におけるLi:(Ni,Co,Mn)のモル比を、110:100に変更した以外は実施例2と同様にして、実施例11に係るリチウム遷移金属複合酸化物を作製した。
【0088】
(実施例12~14)
フッ化リチウムに代えて、それぞれ炭酸リチウム、フッ化ナトリウム、及び塩化ナトリウムを、リチウム化合物の総量に対して5mol%添加した添加した混合粉体を調整した以外は実施例11と同様にして、実施例12~14に係るリチウム遷移金属複合酸化物を作製した。
【0089】
(比較例2)
水酸化物前駆体、水酸化リチウム1水和物、及びフッ化リチウムの混合粉体におけるフッ化リチウムの添加比率を20モル%とした以外は実施例11と同様にして、比較例2に係るリチウム遷移金属複合酸化物を作製した。
【0090】
さらに、別の組成の遷移金属化合物を使用し、リチウム遷移金属複合酸化物の製造条件を変化させた実施例15~17び比較例3~7を示す。
(実施例15)
Ni:Mnのモル比を60:40に変更して水酸化物前駆体を作製した以外は実施例2と同様にして、実施例15に係るリチウム遷移金属複合酸化物を作製した。
【0091】
(実施例16)
Ni:Co:Mnのモル比を35:15:50に変更して水酸化物前駆体を作製し、前記水酸化物前駆体、水酸化リチウム1水和物、及びフッ化リチウムの混合粉体におけるLi:(Ni,Co,Mn)のモル比を、110:100に変更した以外は実施例2と同様にして、実施例16に係るリチウム遷移金属複合酸化物を作製した。
【0092】
(実施例17)
Ni:Co:Mnのモル比を33:33:33に変更して水酸化物前駆体を作製し、前記水酸化物前駆体、水酸化リチウム1水和物、及びフッ化リチウムの混合粉体におけるLi:(Ni,Co,Mn)のモル比を、110:100に変更した以外は実施例2と同様にして、実施例17に係るリチウム遷移金属複合酸化物を作製した。
【0093】
(比較例3)
Ni:Co:Mnのモル比を30:15:55に変更して水酸化物前駆体を作製した以外は実施例2と同様にして、比較例3に係るリチウム遷移金属複合酸化物を作製した。
【0094】
(比較例4)
Ni:Co:Mnのモル比を30:10:60に変更して水酸化物前駆体を作製し、前記水酸化物前駆体、水酸化リチウム1水和物、及びフッ化リチウムの混合粉体におけるLi:(Ni,Co,Mn)のモル比を、130:100に変更した以外は実施例2と同様にして、比較例4に係るリチウム遷移金属複合酸化物を作製した。
【0095】
(比較例5、6)
Ni:Co:Mnのモル比を33:33:33に変更して水酸化物前駆体を作製し、前記水酸化物前駆体、及び水酸化リチウム1水和物の混合粉体にフッ化リチウムをそれぞれ添加することなく、又は添加し、Li:(Ni,Co,Mn)のモル比を、100:100に変更した以外は実施例2と同様にして、比較例5、6に係るリチウム遷移金属複合酸化物を作製した。
【0096】
(比較例7)
実施例1に係る水酸化物前駆体、水酸化リチウム1水和物、及びフッ化リチウムの混合粉体におけるLi:(Ni,Co,Mn)のモル比を、100:100に変更した以外は実施例2と同様にして、比較例7に係るリチウム遷移金属複合酸化物を作製した。
【0097】
<リチウム遷移金属複合酸化物の結晶構造の確認>
上記の実施例及び比較例に係るリチウム遷移金属複合酸化物が、α-NaFeO型結晶構造を有することを、エックス線回折測定における構造モデルと回折パターンが一致したことにより確認した。
【0098】
<I490/I600の評価>
また、上記の実施例及び比較例に係るリチウム遷移金属複合酸化物のラマンスペクトルを測定し、550~650cm-1の範囲での最大値I600に対する、450~520cm-1の範囲での最大値I490の比(I490/I600)を評価した。実施例1~5、及び比較例1に係るリチウム遷移金属複合酸化物のラマンスペクトルを図11に示す。
【0099】
<非水電解質二次電池用正極の作製>
上記の実施例及び比較例に係るリチウム遷移金属複合酸化物を正極活物質に用いて、以下の手順で実施例及び比較例に係る非水電解質二次電池用正極を作製した。
【0100】
N-メチルピロリドンを分散媒とし、正極活物質、アセチレンブラック(AB)及びポリフッ化ビニリデン(PVdF)が質量比90:5:5の割合で混練分散されている塗布用ペーストを作製した。該塗布ペーストを厚さ20μmのアルミニウム箔集電体の片方の面に塗布し、正極板を作製した。なお、全ての実施例及び比較例に係る非水電解質二次電池同士で充電電気量および放電容量を求める試験条件が同一になるように、一定面積当たりに塗布されている活物質の塗布厚みを調整した。
【0101】
<非水電解質二次電池の作製>
上記のようにして作製した非水電解質二次電池用正極は、一部を切り出し、以下の手順で非水電解質二次電池である試験電池を作製した。
正極の単独挙動を正確に観察する目的のため、対極、即ち負極には金属リチウムをニッケル箔集電体に密着させて用いた。ここで、非水電解質二次電池の容量が負極によって制限されないよう、負極には十分な量の金属リチウムを配置した。
【0102】
非水電解質として、エチレンカーボネート(EC)/エチルメチルカーボネート(EMC)/ジメチルカーボネート(DMC)が体積比6:7:7である混合溶媒に濃度が1mol/LとなるようにLiPFを溶解させた溶液を用いた。セパレータとして、ポリアクリレートで表面改質したポリプロピレン製の微孔膜を用いた。外装体には、ポリエチレンテレフタレート(15μm)/アルミニウム箔(50μm)/金属接着性ポリプロピレンフィルム(50μm)からなる金属樹脂複合フィルムを用いた。正極端子及び負極端子の開放端部が外部露出するように電極を収納し、前記金属樹脂複合フィルムの内面同士が向かい合った融着代を、注液孔となる部分を除いて気密封止し、前記非水電解質を注液後、注液孔を封止した。
【0103】
<初回充放電工程>
上記手順にて組立てられた非水電解質二次電池は、初回充放電工程を経て完成される。ここで、初回充放電工程において、初回充放電条件1を適用する第1の群と、初回充放電条件2を適用する第2の群に分割した。
【0104】
(体積当たりの放電容量の算出)
第1の群の電池を用いて、次の初回充放電条件1を適用して、初回充放電工程に供した。25℃の下、充電は、電流0.1C、電圧4.35V(vs.Li/Li)の定電流定電圧充電とし、充電終止条件は電流値が0.02Cに減衰した時点とした。このときの充電電気量を「4.35V充電時充電電気量」(mAh/g)とした。放電は、電流0.1C、終止電圧2.5V(vs.Li/Li)の定電流放電とした。この充放電を1サイクル行った。なお、充電後に10分の休止過程を設けた。
このときの質量当たりの放電容量を「4.35V充電時放電容量」(mAh/g)とした。一方、前述した条件で正極活物質粉末のプレス密度を測定し、測定したプレス密度(g/cm)と「4.35V充電時放電容量」(mAh/g)をかけ合わせることによって、体積当たりの放電容量「4.35V充電時放電容量」(mAh/cm)を算出した。ここで、「4.35V充電時放電容量」(mAh/cm)は、過充電領域が終了するまでの充電過程を一度も経ないで製造し、かつ、過充電領域が終了するまでの充電を行わずにより低い電位範囲で使用した場合の放電容量を表す指標である。
【0105】
(体積当たりの充電電気量の算出)
第2の群の電池を用いて、次の初回充放電条件2を適用して、初回充放電工程に供した。25℃の下、充電は、電流0.1C、電圧4.6V(vs.Li/Li)の定電流定電圧充電とし、充電終止条件は電流値が0.02Cに減衰した時点とした。放電は、電流0.1C、終止電圧2.0V(vs.Li/Li)の定電流放電とした。この充放電を1サイクル行った。なお、充電後に10分の休止過程を設けた。
このときの充電電気量(mAh/g)と、上記「4.35V充電時充電電気量」(mAh/g)との差を「4.35~4.6V間の充電電気量」(mAh/g)として算出した。上記のプレス密度(g/cm)と「4.35~4.6V間の充電電気量」(mAh/g)をかけ合わせることによって、体積当たりの充電電気量「4.35~4.6V間の充電電気量」(mAh/cm)を算出した。ここで、「4.35~4.6V間の充電電気量」(mAh/cm)は、過充電領域における充電電気量を表す指標である。
【0106】
以上の結果を表1に示す。また、図12は、I490/I600と体積当たりの放電容量との関係を示しており、1<Li/MeかつMn/Me<0.55のものを●(実施例1~17及び比較例1、2)で示し、0.55≦Mn/Meのものを◇(比較例3、4)で示し、Li/Me=1.0のものを△(比較例5~7)で示す。図12から、1<Li/MeかつMn/Me<0.55の組成において、ラマンピーク強度比と体積当たりの放電容量に関して、相関がみられることがわかる。一方で、Li/Me=1.0や0.55≦Mn/Meの組成においては相関が見られていない。
【0107】
【表1】
【0108】
実施例1~5に係るリチウム遷移金属複合酸化物(正極活物質)は、全てNi,Co,及びMnを含む遷移金属化合物(水酸化前駆体)の組成が同一であり、Li/Me比も同一であるが、焼結助剤であるフッ化リチウムの添加の有無又は添加量が相違する。添加量が多いほどI490/I600は減少する傾向を示すが、すべて0.45を上回っており、4.35V充電時の体積当たりの放電容量が450mAh/cmを超え、過充電領域における体積当たりの充電電気量が110mAh/cmを超えていることがわかる。これに対して、フッ化リチウムの添加量がリチウム化合物の総量に対して20mol%である比較例1では、I490/I600が、0.45を下回り、4.35V充電時の体積当たりの放電容量、及び過充電領域における体積当たりの充電電気量が十分得られないことがわかる。
【0109】
実施例6、7は、実施例2における混合粉体の焼成温度を変更した、又はLi/Me比を変更した例に相当する。いずれも、I490/I600は0.45を上回り、4.35V充電時の体積当たりの放電容量が450mAh/cmを超え、過充電領域における体積当たりの充電電気量が110mAh/cmを超えていることがわかる。
【0110】
実施例8~10は、実施例2における焼結助剤の種類を変更した例に相当し、いずれも、I490/I600が0.45を上回り、4.35V充電時の体積当たりの放電容量、及び過充電領域における体積当たりの充電電気量が高いことがわかる。
また、実施例1~4、6~10と実施例5とを比較すると、焼結助剤を添加した実施例1~4、6~10の正極活物質は、焼結助剤を添加しない実施例5の正極活物質よりもI490/I600が小さく0.85以下であり、4.35V充電時の体積当たりの放電容量が高いことがわかる。したがって、4.35V充電時の体積当たりの放電容量を高くするためには、I490/I600を0.45以上0.85以下とすることが好ましい。
【0111】
実施例11~14、及び比較例2は、リチウム遷移金属複合酸化物の組成を実施例2から変更した例に相当し、実施例12~14は、さらに実施例11における焼結助剤の種類を変更した例に相当する。いずれも、I490/I600が0.45以上であり、4.35V充電時の体積当たりの放電容量、及び過充電領域における体積当たりの充電電気量が高いことがわかる。
比較例2は、実施例11における焼結助剤の添加量を増大した例に相当する。I490/I600は0.45を下回り、4.35V充電時の体積当たりの放電容量は389mAh/cmと、十分ではなかった。
【0112】
実施例15~17、及び比較例3~7は、リチウム遷移金属複合酸化物の組成を、実施例2からさらに変更した例に相当する。実施例15~17から、Mn/Me比が0.33~0.50であれば、I490/I600が0.45となる条件下で、450mAh/cmを超える4.35V充電時の体積当たりの放電容量と、110mAh/cmを超える過充電領域における体積当たりの充電電気量を有する活物質が得られたことがわかる。
これに対して、比較例3、4からは、Mn/Me比が0.55以上の場合、I490/I600が0.45以上であっても、十分な4.35V充電時の体積当たりの放電容量が得られないことがわかる。
比較例5~7は、本発明が対象としないLi/Me=1の場合の活物質である。I490/I600はいずれも0.45を下回り、4.35V充電時の体積当たりの放電容量、及び過充電領域における体積当たりの充電電気量がともに十分である活物質は得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明に係るリチウム遷移金属複合酸化物を含む正極活物質を用いると、過充電領域における体積当たりの充電容量が大きく、より高いSOCに至るまで電池電圧の急上昇が観察されず、かつ、体積当たりの放電容量が大きい非水電解質二次電池を提供することができる。したがって、この非水電解質二次電池は、ハイブリッド自動車用、電気自動車用、プラグインハイブリッド自動車用等の非水電解質二次電池として有用である。
【符号の説明】
【0114】
1 非水電解質二次電池
2 電極群
3 電池容器
4 正極端子
4’ 正極リード
5 負極端子
5’ 負極リード
1A、1B 測定プローブ
2A、2B 測定面
3A、3B 台座
6 側体
7 貫通孔
20 蓄電ユニット
30 蓄電装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12