IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ コニカミノルタ株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-マイクロ流路デバイス及び画像形成装置 図1
  • 特許-マイクロ流路デバイス及び画像形成装置 図2
  • 特許-マイクロ流路デバイス及び画像形成装置 図3
  • 特許-マイクロ流路デバイス及び画像形成装置 図4
  • 特許-マイクロ流路デバイス及び画像形成装置 図5
  • 特許-マイクロ流路デバイス及び画像形成装置 図6
  • 特許-マイクロ流路デバイス及び画像形成装置 図7
  • 特許-マイクロ流路デバイス及び画像形成装置 図8
  • 特許-マイクロ流路デバイス及び画像形成装置 図9
  • 特許-マイクロ流路デバイス及び画像形成装置 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-28
(45)【発行日】2022-03-08
(54)【発明の名称】マイクロ流路デバイス及び画像形成装置
(51)【国際特許分類】
   B01J 19/00 20060101AFI20220301BHJP
   G03G 15/04 20060101ALI20220301BHJP
   B82Y 30/00 20110101ALI20220301BHJP
   B01J 21/06 20060101ALI20220301BHJP
   B01J 23/52 20060101ALI20220301BHJP
   B01J 35/02 20060101ALI20220301BHJP
   B81B 1/00 20060101ALI20220301BHJP
   G01N 37/00 20060101ALN20220301BHJP
【FI】
B01J19/00 321
G03G15/04
B82Y30/00
B01J21/06 M
B01J23/52 M
B01J35/02 J
B81B1/00
G01N37/00 101
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2017155521
(22)【出願日】2017-08-10
(65)【公開番号】P2019034255
(43)【公開日】2019-03-07
【審査請求日】2020-07-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145908
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 信雄
(74)【代理人】
【識別番号】100136711
【弁理士】
【氏名又は名称】益頭 正一
(74)【代理人】
【識別番号】100194582
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 康浩
(72)【発明者】
【氏名】植村 英生
(72)【発明者】
【氏名】大木 誠
(72)【発明者】
【氏名】池田 和樹
【審査官】壷内 信吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-042402(JP,A)
【文献】特開2008-246348(JP,A)
【文献】特開2007-256237(JP,A)
【文献】特開2005-000744(JP,A)
【文献】特開2014-018721(JP,A)
【文献】特開2015-199065(JP,A)
【文献】特開2013-121671(JP,A)
【文献】特開2005-030985(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0042503(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 19/00
G03G 13/04,13/045,13/056,15/00,15/04-15/043,15/047,15/056
B82Y 30/00
B01J 21/00-38/74
B81B 1/00-7/04
B81C 1/00-99/00
G01N 35/00-37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材を含むマイクロ流路デバイスであって、
前記基材の上に層が形成されるものであり、
前記層の表面は、
流体が流れる流路を含む第1の領域と、前記第1の領域に隣接する第2の領域との間が面一に形成されるものであり、
前記第1の領域と流体との接触角をθaとし、前記第2の領域と流体との接触角をθa’とし、全体境界条件式を満足するものであって、
前記全体境界条件式は、
θa’-θa>45°で表され、
前記第1の領域と前記第2の領域とを流体の進行方向で繰り返しパターンにしつつ、前記第1の領域の割合を流体の進行方向にいくに従い増加するように形成する、
マイクロ流路デバイス。
【請求項2】
前記第1の領域と流体との接触角であるθaは第1の境界条件式を満足するものであって、
前記第1の境界条件式は、
θa<90°で表されるものであり、
前記第2の領域と流体との接触角であるθa’は第2の境界条件式を満足するものであって、
前記第2の境界条件式は、
θa’>90°で表されるものである、
請求項1に記載のマイクロ流路デバイス。
【請求項3】
前記流路の垂直方向の断面に沿って、前記流路の中心から離れるにつれ、前記層の表面と流体との接触角が大きくなる、
請求項1又は2に記載のマイクロ流路デバイス。
【請求項4】
前記流路を流れる流体の進行方向に沿って、前記流路が下流側であるにつれ、前記層の表面と流体との接触角が小さくなる、
請求項1~3の何れか一項に記載のマイクロ流路デバイス。
【請求項5】
前記層は、
前記基材の表面上に形成される光触媒の薄膜である、
請求項1~4の何れか一項に記載のマイクロ流路デバイス。
【請求項6】
前記薄膜は、
金属ナノ粒子を含む、
請求項5に記載のマイクロ流路デバイス。
【請求項7】
前記金属ナノ粒子は、
金のナノ粒子を含む、
請求項6に記載のマイクロ流路デバイス。
【請求項8】
前記金属ナノ粒子は、
アルミニウムのナノ粒子を含む、
請求項6に記載のマイクロ流路デバイス。
【請求項9】
露光装置を備える画像形成装置であって、
前記露光装置は、
照射光を照射自在であって、前記照射光により請求項5~8の何れか一項に記載のマイクロ流路デバイスに形成される前記流路を形成する、
画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、マイクロ流路デバイス及び画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、微細加工技術により物理的に加工される流路を含むマイクロチップが、化学、バイオ、又は医療分野における分析技術用のデバイスとして提案されている(例えば、特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-007529号公報
【文献】特開2005-000744号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1,2に記載のような従来技術は、数百μmサイズの高精度な流路パターンが物理的に加工されるマイクロチップが要求される。よって、加工時間に非常に長い時間を要するだけでなく、チップ単位の流路パターンの変更が高コストなものとなっている。したがって、上記に記載のような従来技術では、低コスト且つ迅速に流路パターンを形成可能なマイクロ流路デバイスを提供することができない恐れがある。
【0005】
本開示はこのような状況に鑑みてなされたものであり、低コスト且つ迅速に流路パターンを形成させることができるようにするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の第1の側面であるマイクロ流路デバイスは、基材を含むマイクロ流路デバイスであって、前記基材の上に層が形成されるものであり、前記層の表面は、流体が流れる流路を含む第1の領域と、前記第1の領域に隣接する第2の領域との間が面一に形成されるものであり、前記第1の領域と流体との接触角をθaとし、前記第2の領域と流体との接触角をθa’とし、全体境界条件式を満足するものであって、前記全体境界条件式は、θa’-θa>45°で表され、前記第1の領域と前記第2の領域とを流体の進行方向で繰り返しパターンにしつつ、前記第1の領域の割合を流体の進行方向にいくに従い増加するように形成する。
【0007】
また、前記第1の領域と流体との接触角であるθaは第1の境界条件式を満足するものであって、前記第1の境界条件式は、θa<90°で表されるものであり、前記第2の領域と流体との接触角であるθa’は第2の境界条件式を満足するものであって、前記第2の境界条件式は、θa’>90°で表されるものである、ことが好ましい。
【0008】
また、前記流路の垂直方向の断面に沿って、前記流路の中心から離れるにつれ、前記層の表面と流体との接触角が大きくなる、ことが好ましい。
【0009】
また、前記流路を流れる流体の進行方向に沿って、前記流路が下流側であるにつれ、前記層の表面と流体との接触角が小さくなる、ことが好ましい。
【0010】
また、前記層は、前記基材の表面上に形成される光触媒の薄膜である、ことが好ましい。
【0011】
また、前記薄膜は、金属ナノ粒子を含む、ことが好ましい。
【0012】
また、前記金属ナノ粒子は、金のナノ粒子を含む、ことが好ましい。
【0013】
また、前記金属ナノ粒子は、アルミニウムのナノ粒子を含む、ことが好ましい。
【0014】
また、本開示の第2の側面である画像形成装置は、露光装置を備える画像形成装置であって、前記露光装置は、照射光を照射自在であって、前記照射光により上記に記載のマイクロ流路デバイスに形成される前記流路を形成する。
【発明の効果】
【0015】
本開示の第1及び第2の側面によれば、低コスト且つ迅速に流路パターンが形成されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本開示を適用した実施形態1に係るマイクロ流路デバイス1の概略図である。
図2】実施形態1に係るマイクロ流路デバイス1の断面図である。
図3】実施形態1に係る層5の表面と液体との接触角θを説明する図である。
図4】実施形態1に係る層5の表面のぬれ性の差異により生じる流路を流れる流体Fの駆動力の一例を示す図である。
図5】実施形態1に係る層5の表面と流路を流れる流体Fとの接触角θ1,θ2の差異により生じる流体Fの駆動力の一例を示す図である。
図6】実施形態1に係る第1の領域K及び第2の領域Jのパターンの一例を示す図である。
図7】実施形態1に係る第1の領域K及び第2の領域Jのパターンの他の一例を示す図である。
図8】実施形態1に係る第1の領域K及び第2の領域Jのパターンのさらに他の一例を示す図である。
図9】実施形態1に係る金属ナノ粒子9を含むマイクロ流路デバイス1の断面図の一例である。
図10】本開示を適用した実施形態2に係る画像形成装置50の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面に基づいて本開示の実施形態を説明するが、本開示は以下の実施形態に限られるものではない。なお、本開示の実施形態の説明で使用されているように、「構成する」、「より成る」、「含む」、「含んでいる」、「有する」、「備える」又はそれらの他の何らかの同義語は、非排他的な包含関係を含むように意図される。例えば、要素の列挙を含むプロセス、方法、物品又は装置は、それらの要素だけに限定されることは必須でなく、明示的には列挙されていない又は本来備わっているはずの他の要素が、そのようなプロセス、方法、物品又は装置に含まれてもよい。さらに、明示的に言及しない限り、「又は」は包括的なものであり、排他的な和ではない。例えば、「条件A又はB」は、Aが存在し且つBが存在しない場合、Aが存在せず且つBが存在する場合、AもBも両方とも存在する場合の何れの場合でも満たされるものである。
【0018】
実施形態1.
図1は、本開示を適用した実施形態1に係るマイクロ流路デバイス1の概略図である。図2は、実施形態1に係るマイクロ流路デバイス1の断面図である。図1,2に示すように、マイクロ流路デバイス1は、基材3を含むものであって、基材3の上に層5が形成されるものである。基材3は、特に限定されるものではなく、例えば、ガラス、金属、樹脂、又はセラミックス等のようなものを使用することができる。層5の表面は、第1の領域Kと、第2の領域Jとを含む。第1の領域Kは、流体Fが流れる流路を含む。第2の領域Jは、第1の領域Kに隣接する。図1のA-A線に沿った断面図である図2に示すように、第1の領域Kと、第2の領域Jとの間は面一に形成されるものである。
【0019】
図3は、実施形態1に係る層5の表面と液体との接触角θを説明する図である。図3に示すように、ぬれとは気体である蒸気と固体である層5との界面が、液体と固体である層5との界面に置換される現象のことであって、接触角θが小さい場合にはぬれやすい状態を表し、接触角θが大きい場合にはぬれにくい状態を表す。第1の領域Kと、第2の領域Jとにより流路を形成するためには、第1の領域Kと流体Fとの接触角θaと、第2の領域Jと流体Fとの接触角θa’とで差異を生じさせるのが好ましい。例えば、接触角θaと接触角θa’との差異が小さければ、第1の領域Kと、第2の領域Jとはほぼ同じぬれ性を示すことになる。この場合、流路としての境界が曖昧になる。また、接触角θaと接触角θa’との差異が大きく、且つ接触角θa’と比べて接触角θaの方が小さい場合、液体はぬれやすい方に留まるため、流路を含む第1の領域Kに流体Fが留まる。よって、第1の領域Kに流路を形成するためには、接触角θaと接触角θa’との差異が大きく、且つ接触角θa’と比べて接触角θaの方が小さい方が好ましい。
【0020】
具体的には、基材3と液体とのぬれ性、すなわち親水性及び疎水性を利用することにより、物理的な境界を設けることなく流路としての機能を発現させている。より具体的には、基材3に特殊な表面加工等がされていない場合、水溶液の液滴を滴下すると液体の表面張力と基材3の表面エネルギーから接触角θは約55°以上となり、液滴の状態で安定する。一方、基材3の表面の一部に親水加工を施すことにより基材3の表面エネルギーを低下させ、液体が抵抗無く流れていくときの接触角θは10°以下である。よって、本発明者等が鋭意検討した結果、流路を含む第1の領域Kは、接触角θaが10°以下であって、且つ流路を含まない第2の領域Jは、接触角θa’が約55°以上であれば、液体が第2の領域Jにもれることなく第1の領域K内を流れていくことができるとの知見を得て、その知見に基づき本開示を適用した実施形態1に係るマイクロ流路デバイス1を完成させた。
【0021】
つまり、接触角θa及び接触角θa’において、全体境界条件式を満足するものであって、全体境界条件式は、接触角θa’-接触角θa>45°で表されるものである。さらに、接触角θaは、第1の境界条件式を満足するものであって、第1の境界条件式は、接触角θa<90°で表されるものである。接触角θa’は、第2の境界条件式を満足するものであって、第2の境界条件式は、接触角θa’>90°で表されるものである。具体的には、ぬれは、接触角θを用いて3種類に分類することができる。接触角θは、液体を基材3のような固体表面に滴下したときの、液体の接線と、固体表面とのなす角度を表すものとする。接触角θ≒0°の場合、拡張ぬれと呼び、液体が固体表面をどこまでも広がっていく状態を表す。接触角θ=0°~90°の場合、浸漬ぬれと呼び、液体の広がりが0°<接触角θ≦90°のどこかで安定になる状態を表す。接触角θ>90°である場合、付着ぬれと呼び、ぬれが進行しない状態を表す。よって、第1の領域Kは、流路を含むものであるため、液体のぬれが進行することが求められる。そこで接触角θa≒0°又は0°<接触角θa≦90°が望ましい。一方、第2の領域Jは、流路外であって、第1の領域Kからのぬれの進行を食い止めることが求められるため、接触角θa’>90°であることが望ましい。したがって、第1の領域Kと第2の領域Jとにおいて、接触角θを90°を境に区分することで、ぬれの進行特性を明確に分けることが可能となる。
【0022】
図4は、実施形態1に係る層5の表面のぬれ性の差異により生じる流路を流れる流体Fの駆動力の一例を示す図である。図5は、実施形態1に係る層5の表面と流路を流れる流体Fとの接触角θ1,θ2の差異により生じる流体Fの駆動力の一例を示す図である。流路の垂直方向の断面に沿って、流路の中心Cから離れるにつれ、層5の表面と流体Fとの接触角θが大きくなる。一方、流路を流れる流体Fの進行方向に沿って、流路が下流側であるにつれ、層5の表面と流体Fとの接触角θが小さくなる。つまり、図4に示すようなぬれ性の傾斜がある場合、滴下した液体の接触角θは場所に応じて異なり、図5に示すように、接触角θ1と接触角θ2とは、接触角θ1>接触角θ2となる。よって、接触角θ2の方に駆動力が働くため、液滴が接触角θ2の側に移動する。
【0023】
なお、ぬれ性の傾斜は連続的である必要はない。単位面積当たりのぬれ性の平均値が単調に減少すればよい。例えば、第1の領域Kと、第2の領域Jとを利用して親水領域と疎水領域とを粗密の繰り返しパターンで実現してもよい。図6は、実施形態1に係る第1の領域K及び第2の領域Jのパターンの一例を示す図である。図7は、実施形態1に係る第1の領域K及び第2の領域Jのパターンの他の一例を示す図である。図8は、実施形態1に係る第1の領域K及び第2の領域Jのパターンのさらに他の一例を示す図である。図6の一例においては、接触角θaの領域の割合を流体Fの進行方向に従い末広がりに形成することにより流体Fに駆動力を発現させている。図7,8の一例においては、接触角θaの領域の割合を流体Fの進行方向に従い増加するように形成することにより流体Fに駆動力を発現させている。
【0024】
図9は、実施形態1に係る金属ナノ粒子9を含むマイクロ流路デバイス1の断面図の一例である。図9に示すように、層5は、基材3の表面上に形成される光触媒の薄膜であって、金属ナノ粒子9を含む。金属ナノ粒子9は、金のナノ粒子又はアルミニウム等のようなナノ粒子を含む。流路は、光触媒の薄膜に紫外光が照射されて形成されるものである。光触媒の薄膜は、特に限定はないが、例えば、酸化チタン、窒素ドープ酸化チタン、炭素ドープ酸化チタン、硫黄ドーム酸化チタン、又は酸化亜鉛等を用いることができる。特に、コスト、ハンドリング性、及び安全性等のように触媒効率向上の観点からは、酸化チタンが望ましい。光触媒の薄膜は、スパッタ又は蒸着等により作成されるものであり、成膜した状態では疎水性を示し、紫外光を照射することで触媒効果が発現し超親水性を示す。紫外光は、UVレーザーによる照射、マスクパターンを作成してUVランプを照射する等のような各種照射方法がある。
【0025】
光触媒は紫外光が照射されることにより触媒機能が発現するものであるが、そのままでは照射された光に対して利用効率は低い。そこで、光触媒に金属ナノ粒子9を含ませる。金属ナノ粒子9は、特に限定はないが、プラズモン光をより効果的に利用する観点からは、プラズモンを起こす物質のナノ粒子を含ませるのが望ましい。金属ナノ粒子9は、銀、金、銅、若しくはアルミニウム、又はこれらを含むあらゆる合金を含むことが望ましく、特に、金のナノ粒子又はアルミニウムのナノ粒子が望ましい。なお、アルミニウムのナノ粒子の粒径は、プラズモン光の吸収効率を考慮すると100nm以下が望ましい。また、図9に示すように、金属ナノ粒子9は、光触媒の薄膜である層5の上に析出させるのが望ましい。このような構成により、紫外光を照射された照射領域に含まれる金属ナノ粒子9近傍で発生したプラズモン光が光触媒に作用し、層5の一部は親水性に変化する。一方、紫外光が照射されない非照射領域は疎水性の状態を維持するため、紫外光の照射領域が第1の領域Kとして形成され、紫外光の非照射領域が第2の領域Jとして形成される。
【0026】
次に、従来例について具体的に説明する。近年、微小な流路又はバルブ若しくはポンプ等をシリコン又はガラスの基板上に集積したマイクロチップは、化学、バイオ、又は医療分野における分析技術に応用する研究として盛んに検討されている。また、マイクロチップの市場は、年率20%で拡大成長しており、分析用途以外にも体外診断、医薬品の研究、又はドラッグデリバリー等への応用展開も期待されている。従来において、射出成形又はリソグラフィー等で流路を形成したマイクロチップが提供されている。従来技術においては、特定の型を作成してそれを流路形成の基材3に転写して形成されるものがある。このような従来技術においては、最初に流路パターンの型を作成し、それを複製するための同一仕様のマイクロチップを大量に生成するには理にかなうものである。しかし、流路パターンの型を転写するものであるため、個々に流路パターンに変化を持たせることは高コストであり、且つ製造工程が多いことからマイクロチップの完成までには非常に長い時間を要するものである。
【0027】
また、機械切削で流路形成を行ったり、マスクを利用したフォトリソグラフィーによるエッチングプロセスで形成されたりするものがある。このような従来技術においては、個々に流路パターンを形成することは可能であるが、切削プロセスは非常に高い精度が要求される機械加工になるため、大型の設備が必要であり、マイクロチップを1つ作成するだけで数日の時間を要する。また、リソグラフィーによる場合も設備投資が膨大であり、且つ流路パターンを露光した後のエッチング加工プロセスで時間を膨大に要する。要するに、従来技術は、高コストであって、多大な時間を要するものである。
【0028】
このようなことを引き起こす最大の要因は、従来技術では、数百μmサイズの高精度な流路パターンを物理的に加工することでマイクロチップを形成している点にある。物理的に高精度な流路パターンを前提としているため、加工方法に制約が生じ、さらには加工時間又はチップ単位での流路パターンの可変対応不可ということになる。特に、体外診断又は研究開発においては多様な解析を行う必要があるため、流路パターンも適宜最適化を行った上で迅速に入手したいという要望がある。そのような要望に対し、従来技術では対応しきれていないのが現状である。
【0029】
そこで、本開示を適用した実施形態1に係るマイクロ流路デバイス1は、第1の領域Kと第2の領域Jとの間が面一に形成されるものであるため、切削による微細加工はされていない。また、第1の領域Kと、第2の領域Jとで接触角θの差異が45°以上であるため、第2の領域Jに比べ、第1の領域Kの方が表面エネルギーが低下する表面であって、流体Fは第1の領域Kには流れ、第2の領域Jには流れない。よって、切削による微細加工をすることなく、第1の領域Kと、第2の領域Jとで差異が45°以上となるような異なる接触角θが生じる表面にするだけで流体Fを流す流路パターンが形成される。したがって、低コスト且つ迅速に流路パターンを形成させることができる。
【0030】
また、本開示を適用した実施形態1に係るマイクロ流路デバイス1において、第1の領域Kと流体Fとの接触角θaは90°未満であるため、第1の領域Kは拡張ぬれ又は浸漬ぬれの状態である。よって、第1の領域Kでは液体によるぬれが進行する。一方、第2の領域Jと流体Fとの接触角θa’は90°を超えるため、第2の領域Jは付着ぬれの状態である。よって、第2の領域Jでは液体によるぬれが進行しないため、第1の領域Kからの液体によるぬれの進行を食い止めることができる。したがって、第1の領域Kと第2の領域Jとで接触角θを90°を境に区分することにより、液体ぬれの進行特性を明確に分けることができる。
【0031】
また、本開示を適用した実施形態1に係るマイクロ流路デバイス1において、液体は、ぬれにくい領域からぬれやすい領域、つまり、接触角θの大きい領域から接触角θの小さい領域に向かって移動しようとする性質がある。よって、流路の垂直方向の断面に沿って、流路の中心Cから離れるにつれ、層5の表面と流体Fの接触角θが大きくなる構成であれば、流路の断面方向において流路を進行する流体Fの進行方向の中心軸に向かう力が働くことが可能となる。したがって、流路外に流体Fがもれるのを抑制することができる。
【0032】
また、本開示を適用した実施形態1に係るマイクロ流路デバイス1において、液体は、ぬれにくい領域からぬれやすい領域、つまり、接触角θの大きい領域から接触角θの小さい領域に向かって移動しようとする性質がある。よって、流路を流れる流体Fの進行方向に沿って、流路が下流側であるにつれ、層5の表面と流体Fとの接触角θが小さくなる構成であれば、流路に滴下された流体Fが上流側から下流側に向かう駆動力が発生する。したがって、外部から流路上の液体に加圧等を加えなくても液体の搬送が可能となるため、ポンプ等のような駆動源の構成を簡略化することができる。
【0033】
また、本開示を適用した実施形態1に係るマイクロ流路デバイス1において、層5は、基材3の表面上に形成される光触媒の薄膜である。流路は、光触媒の薄膜に紫外光が照射されて形成されるものである。光触媒の薄膜は、紫外光が照射されることにより触媒効果が発現して超親水性を示すようになる。よって、光触媒の薄膜が基材3の表面上に形成されていれば、流路として形成する箇所に紫外光を照射するだけで照射箇所が親水性に変化し、流路として機能させることができる。
【0034】
また、本開示を適用した実施形態1に係るマイクロ流路デバイス1において、薄膜は、金属ナノ粒子9を含む。つまり、金属ナノ粒子9と光触媒とを共存させることにより、金属ナノ粒子9の一部で起きるプラズモン共鳴が、光触媒における光の利用効率を飛躍的に向上させることができる。
【0035】
また、本開示を適用した実施形態1に係るマイクロ流路デバイス1において、金属ナノ粒子9は、金のナノ粒子を含む。金のナノ粒子は助触媒として作用するため、光触媒の活性効率を高めることができる。よって、露光時間を短縮することができ、且つ光学系をコンパクト化することができる。
【0036】
また、本開示を適用した実施形態1に係るマイクロ流路デバイス1において、金属ナノ粒子9は、アルミニウムのナノ粒子を含む。アルミニウムのナノ粒子は、紫外光領域でプラズモン共鳴を起こす物質である。アルミニウムのナノ粒子に紫外光が照射されると、プラズモン共鳴が発生することにより、アルミニウムのナノ粒子の近傍に照射された紫外光は、電場として留まる。このような電場は光触媒に作用するものである。よって、光触媒の活性効率を高めることができる。したがって、露光時間を短縮することができ、且つ光学系をコンパクト化することができる。
【0037】
実施形態2.
実施形態2においては、流路を形成する画像形成装置50について説明する。図10は、本開示を適用した実施形態2に係る画像形成装置50の構成例を示す図である。図10に示すように、画像形成装置50は、読取部511と、画像形成装置本体519とを備える。読取部511は、ADF511Aと、原稿読取部511Bとを備える。ADF511Aは、原稿トレイ513、通紙経路515、排紙トレイ517、密着型イメージセンサー521、及び濃度基準部材523等を備える。濃度基準部材523は、ADF511Aのシェーディング補正時に利用される。原稿読取部511Bは、原稿照明部525、反射ミラー526、集光レンズ527、センサー528、及びプラテンガラス529等を備える。読取部511は、原稿トレイ513にセットされている原稿を、1枚ずつ分離して繰り出し、密着型イメージセンサー521が配置されている通紙経路515に沿って副走査方向に搬送し、排紙トレイ517に排紙する。原稿照明部525は、ランプ525Aと、ミラー525Bとを備える。原稿は通紙経路515に沿って副走査方向に搬送されつつ、主走査方向のライン単位の読取動作が、原稿照明部525、反射ミラー526、集光レンズ527、及びセンサー528により繰り返し実行される。
【0038】
画像形成装置本体519は、画像形成部541、定着部543、及び給紙部545等を備える。画像形成部541は、露光装置551と、現像装置553と、感光ドラム555と、転写ベルト557とを備える。画像形成部541は、読取部511により読み取られた原稿の画像データに基づき、露光装置551により感光ドラム555に異なる色のトナーを供給して現像する。画像形成部541は、転写ベルト557により感光ドラム555に現像されたトナー像を給紙部545から供給された用紙に転写する。画像形成部541は、用紙に転写されたトナー像のトナーを定着部543で融解させることにより、用紙にカラー画像が定着する。
【0039】
つまり、画像形成装置50は、露光装置551を備えるものであって、露光装置551は、照射光を照射自在である。よって、露光装置551は、照射光によりマイクロ流路デバイス1に形成される流路を形成するものである。具体的には、露光装置551は、光触媒の薄膜に照射光を照射することにより照射領域を親水領域に形成できるので、親水領域と疎水領域とを層5上に形成できる。しかも、露光装置551は、適宜照射光の照射位置を制御することができるため、任意の流路パターンを層5の表面上に形成することができる。したがって、画像形成装置50は、低コスト且つ迅速に流路パターンを形成することができる。
【0040】
以上、本開示を適用したマイクロ流路デバイス1を実施形態に基づいて説明したが、本開示はこれに限定されるものではなく、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で、変更を加えてもよい。
【0041】
例えば、本実施形態においては、層5の上が開放状態である一例について説明したが、特にこれに限定されるものではない。例えば、層5の上に、層5の縁に沿った枠を置き、さらにその枠の上に蓋として機能する部材を被せ、流路への異物の混入を防いでもよい。
【符号の説明】
【0042】
1 マイクロ流路デバイス、3 基材、5 層、9 金属ナノ粒子
50 画像形成装置
511 読取部、511A ADF、511B 原稿読取部、513 原稿トレイ
515 通紙経路、517 排紙トレイ、519 画像形成装置本体
521 密着型イメージセンサー、523 濃度基準部材
525 原稿照明部、525A ランプ、525B ミラー、526 反射ミラー
527 集光レンズ、528 センサー、529 プラテンガラス
541 画像形成部、543 定着部、545 給紙部
551 露光装置、553 現像装置、555 感光ドラム、557 転写ベルト
K 第1の領域、J 第2の領域、F 流体、C 中心
θ,θa,θa’,θ1,θ2 接触角
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10