(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-28
(45)【発行日】2022-03-08
(54)【発明の名称】樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 63/00 20060101AFI20220301BHJP
C08L 71/02 20060101ALI20220301BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20220301BHJP
C08K 5/29 20060101ALI20220301BHJP
C08L 61/26 20060101ALI20220301BHJP
C08K 3/08 20060101ALI20220301BHJP
C08G 59/00 20060101ALI20220301BHJP
B32B 27/18 20060101ALI20220301BHJP
B32B 27/38 20060101ALI20220301BHJP
H05K 1/03 20060101ALI20220301BHJP
H05K 1/16 20060101ALI20220301BHJP
【FI】
C08L63/00 Z
C08L71/02
C08L101/00
C08K5/29
C08L61/26
C08K3/08
C08G59/00
B32B27/18 H
B32B27/38
H05K1/03 610L
H05K1/03 610R
H05K1/16 B
(21)【出願番号】P 2017193049
(22)【出願日】2017-10-02
【審査請求日】2020-09-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000000066
【氏名又は名称】味の素株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】依田 正応
(72)【発明者】
【氏名】松村 恵理
(72)【発明者】
【氏名】阪内 啓之
(72)【発明者】
【氏名】西嶋 千晴
【審査官】岡谷 祐哉
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-535278(JP,A)
【文献】特開2015-187260(JP,A)
【文献】特開2016-108561(JP,A)
【文献】国際公開第2018/194099(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0197848(US,A1)
【文献】特表2008-519884(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0260955(US,A1)
【文献】特表2015-522686(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0008822(US,A1)
【文献】特開2018-168354(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 63/00
C08L 71/02
C08L 101/00
C08K 5/29
C08L 61/26
C08K 3/08
C08G 59/00
B32B 27/18
B32B 27/38
H05K 1/03
H05K 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)エポキシ樹脂、
(B)磁性フィラー、
(C)硬化剤、及び
(D)両親媒性ポリエーテルブロックコポリマー、を含有する樹脂組成物
であって、
(A)エポキシ樹脂の含有量は、樹脂組成物中の不揮発成分を100質量%とした場合、1質量%以上20質量%以下であり、
(B)磁性フィラーの含有量は、樹脂組成物中の不揮発成分を100質量%とした場合、75質量%以上95質量%未満である、樹脂組成物。
【請求項2】
(D)成分の含有量が、樹脂組成物中の不揮発成分を100質量%とした場合、0.3質量%以上15質量%以下である、請求項
1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
(D)成分が、少なくとも一つのエポキシ樹脂混和性ポリエーテルブロックセグメントと、少なくとも一つのエポキシ樹脂非混和性ポリエーテルブロックセグメントとを含むブロックコポリマーである、請求項1
又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
エポキシ樹脂混和性ポリエーテルブロックセグメントが、ポリエチレンオキシドブロック、ポリプロピレンオキシドブロック、ポリ(エチレンオキシド-co-プロピレンオキシド)ブロック、ポリ(エチレンオキシド-ran-プロピレンオキシド)ブロック、及びそれらの混合物から選択される1種以上のポリアルキレンオキシドブロックであり、
エポキシ樹脂非混和性ポリエーテルブロックセグメントが、ポリブチレンオキシドブロック、ポリヘキシレンオキシドブロック、ポリドデシレンオキシドブロック、及びそれらの混合物から選択される1種以上のポリアルキレンオキシドブロックである、請求項
3に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
さらに、(E)カルボジイミド化合物を含有する、請求項1~
4のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
さらに、(F)熱可塑性樹脂を含有する、請求項1~
5のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
(C)成分が、トリアジン骨格含有フェノール系硬化剤、及び活性エステル系硬化剤から選ばれる1種以上である、請求項1~
6のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
(A)成分が、縮合環構造を有するエポキシ樹脂を含有する、請求項1~
7のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
樹脂組成物を、100℃で30分間、さらに190℃で60分間熱硬化させた硬化物の硬化収縮率が0.27%以下である、請求項1~
8のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項10】
樹脂組成物を190℃で90分間熱硬化させた硬化物の30℃~150℃における線熱膨張係数が3ppm/℃以上30ppm/℃以下である、請求項1~
9のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項11】
インダクタ素子を備える配線板の磁性層形成用である、請求項1~1
0のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項12】
支持体と、該支持体上に設けられた、請求項1~1
1のいずれか1項に記載の樹脂組成物で形成された樹脂組成物層を含む、樹脂シート。
【請求項13】
請求項1
2に記載の樹脂シートの樹脂組成物層の硬化物である磁性層と、該磁性層に少なくとも一部分が埋め込まれた導電性構造体とを有しており、
前記導電性構造体と、前記磁性層の厚さ方向に延在し、かつ前記導電性構造体に囲まれた前記磁性層のうちの一部分によって構成されるインダクタ素子を含む、インダクタ素子内蔵配線板。
【請求項14】
請求項1
3に記載のインダクタ素子内蔵配線板を内層基板として含むプリント配線板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性フィラーを含有する樹脂組成物に関する。さらには、当該樹脂組成物を用いて得られる、樹脂シート、インダクタ部品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型化、高性能化が進み、プリント配線板のみならず、プリント配線板に搭載されるインダクタ部品(コイル)も、小型化、薄型化の要求が高まっている。このため、インダクタ部品に用いる基材(コア材)の薄型化や、さらにはコアレス構造のインダクタ部品などが求められている(例えば、特許文献1等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
薄いインダクタ部品や、コアレス構造のインダクタ部品を製造する場合、磁性フィラーを含有する樹脂組成物により磁性層(絶縁層)を形成する際に、磁性層自身の硬化収縮により、インダクタ部品に反りが発生しやすいという課題が生じる。反りが発生すると、インダクタ部品をプリント配線板に実装する際に、実装の信頼性が損なわれる。
【0005】
一方、反りを抑制するために、樹脂硬化物(磁性層)の柔軟性を高める成分を配合することが考えられる。しかし、反り防止効果を十分発揮させるには、柔軟性を高める成分を相当量配合させることが求められるので、磁性フィラーの含有量が相対的に下がるため、磁性層の高透磁率化には不利となり、インダクタ部品の性能が低下する傾向となる。
【0006】
よって本発明の課題は、インダクタ部品の高透磁率化を維持しつつ、薄型化した場合でも反りの発生の抑制し得る、インダクタ部品の磁性層を形成用の樹脂組成物;当該樹脂組成物を用いて得られる、樹脂シート;インダクタ素子内蔵配線板;及びプリント配線板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、エポキシ樹脂、磁性フィラー、硬化剤、及び両親媒性ポリエーテルブロックコポリマーを含有する樹脂組成物が、磁性層を形成する際に、透磁率の維持と反りの抑制を同時に達成し得ることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下の内容を含む。
[1] (A)エポキシ樹脂、
(B)磁性フィラー、
(C)硬化剤、及び
(D)両親媒性ポリエーテルブロックコポリマー、を含有する樹脂組成物。
[2] (B)成分の含有量が、樹脂組成物中の不揮発成分を100質量%とした場合、75質量%以上95質量%未満である、[1]に記載の樹脂組成物。
[3] (D)成分の含有量が、樹脂組成物中の不揮発成分を100質量%とした場合、0.3質量%以上15質量%以下である、[1]又は[2]に記載の樹脂組成物。
[4] (D)成分が、少なくとも一つのエポキシ樹脂混和性ポリエーテルブロックセグメントと、少なくとも一つのエポキシ樹脂非混和性ポリエーテルブロックセグメントとを含むブロックコポリマーである、[1]~[3]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[5] エポキシ樹脂混和性ポリエーテルブロックセグメントが、ポリエチレンオキシドブロック、ポリプロピレンオキシドブロック、ポリ(エチレンオキシド-co-プロピレンオキシド)ブロック、ポリ(エチレンオキシド-ran-プロピレンオキシド)ブロック、及びそれらの混合物から選択される1種以上のポリアルキレンオキシドブロックであり、
エポキシ樹脂非混和性ポリエーテルブロックセグメントが、ポリブチレンオキシドブロック、ポリヘキシレンオキシドブロック、ポリドデシレンオキシドブロック、及びそれらの混合物から選択される1種以上のポリアルキレンオキシドブロックである、[4]に記載の樹脂組成物。
[6] さらに、(E)カルボジイミド化合物を含有する、[1]~[5]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[7] さらに、(F)熱可塑性樹脂を含有する、[1]~[6]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[8] (C)成分が、トリアジン骨格含有フェノール系硬化剤、及び活性エステル系硬化剤から選ばれる1種以上である、[1]~[7]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[9] (A)成分が、縮合環構造を有するエポキシ樹脂を含有する、[1]~[8]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[10] 樹脂組成物を、100℃で30分間、さらに190℃で60分間熱硬化させた硬化物の硬化収縮率が0.27%以下である、[1]~[9]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[11] 樹脂組成物を190℃で90分間熱硬化させた硬化物の30℃~150℃における線熱膨張係数が3ppm/℃以上30ppm/℃以下である、[1]~[10]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[12] インダクタ素子を備える配線板の磁性層形成用である、[1]~[11]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[13] 支持体と、該支持体上に設けられた、[1]~[12]のいずれかに記載の樹脂組成物で形成された樹脂組成物層を含む、樹脂シート。
[14] [13]に記載の樹脂シートの樹脂組成物層の硬化物である磁性層と、該磁性層に少なくとも一部分が埋め込まれた導電性構造体とを有しており、
前記導電性構造体と、前記磁性層の厚さ方向に延在し、かつ前記導電性構造体に囲まれた前記磁性層のうちの一部分によって構成されるインダクタ素子を含む、インダクタ素子内蔵配線板。
[15] [14]に記載のインダクタ素子内蔵配線板を内層基板として含むプリント配線板。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、インダクタ部品の高透磁率化を維持しつつ、薄型化した場合でも反りの発生の抑制し得る、インダクタ部品の磁性層を形成用の樹脂組成物;当該樹脂組成物を用いて得られる、樹脂シート;インダクタ素子内蔵配線板;及びプリント配線板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、一例としての第1実施形態のインダクタ素子内蔵配線板をその厚さ方向の一方からみた模式的な平面図である。
【
図2】
図2は、一例としてのII-II一点鎖線で示した位置で切断した第1実施形態のインダクタ素子内蔵配線板の切断端面を示す模式的な図である。
【
図3】
図3は、一例としての第1実施形態のインダクタ素子内蔵配線板のうちの第1配線層の構成を説明するための模式的な平面図である。
【
図4】
図4は、一例としての第2実施形態のインダクタ素子内蔵配線板の製造方法を説明するための模式的な断面図である。
【
図5】
図5は、一例としての第2実施形態のインダクタ素子内蔵配線板の製造方法を説明するための模式的な断面図である。
【
図6】
図6は、一例としての第2実施形態のインダクタ素子内蔵配線板の製造方法を説明するための模式的な断面図である。
【
図7】
図7は、一例としての第2実施形態のインダクタ素子内蔵配線板の製造方法を説明するための模式的な断面図である。
【
図8】
図8は、一例としての第2実施形態のインダクタ素子内蔵配線板の製造方法を説明するための模式的な断面図である。
【
図9】
図9は、一例としての第2実施形態のインダクタ素子内蔵配線板の製造方法を説明するための模式的な断面図である。
【
図10】
図10は、一例としての第2実施形態のインダクタ素子内蔵配線板の製造方法を説明するための模式的な断面図である。
【
図11】
図11は、一例としての第2実施形態のインダクタ素子内蔵配線板の製造方法を説明するための模式的な断面図である。
【
図12】
図12は、硬化収縮率を測定する際の樹脂シートの一例を示した概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。なお、各図面は、発明が理解できる程度に、構成要素の形状、大きさおよび配置が概略的に示されているに過ぎない。本発明は以下の記述によって限定されるものではなく、各構成要素は本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。以下の説明に用いる図面において、同様の構成要素については同一の符号を付して示し、重複する説明については省略する場合がある。また、本発明の実施形態にかかる構成は、必ずしも図示例の配置により、製造されたり、使用されたりするとは限らない。
【0012】
[樹脂組成物]
本発明の樹脂組成物は、(A)エポキシ樹脂、(B)磁性フィラー、(C)硬化剤、及び(D)両親媒性ポリエーテルブロックコポリマー、を含有する。
【0013】
(A)成分、(B)成分、(C)成分、及び(D)成分を樹脂組成物に含有させることで、反りを抑制することができる磁性層を得ることが可能となる。樹脂組成物は、必要に応じて、さらに(E)カルボジイミド化合物、(F)硬化促進剤、(G)熱可塑性樹脂、(H)その他の添加剤を含み得る。
【0014】
<(A)エポキシ樹脂>
樹脂組成物は、(A)エポキシ樹脂を含有する。エポキシ樹脂としては、例えば、ナフタレン型エポキシ樹脂、ナフタレン型4官能エポキシ樹脂、ナフトール型エポキシ樹脂、ナフチレンエーテル型エポキシ樹脂、アントラセン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ナフタレン型4官能エポキシ樹脂、ナフトール型エポキシ樹脂、ナフチレンエーテル型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂等の縮合環構造を有するエポキシ樹脂;ビスフェノールA型エポキシ樹脂;ビスフェノールF型エポキシ樹脂;ビスフェノールS型エポキシ樹脂;ビスフェノールAF型エポキシ樹脂;トリスフェノール型エポキシ樹脂;ノボラック型エポキシ樹脂;ナフトールノボラック型エポキシ樹脂;フェノールノボラック型エポキシ樹脂;tert-ブチル-カテコール型エポキシ樹脂;グリシジルアミン型エポキシ樹脂;グリシジルエステル型エポキシ樹脂;クレゾールノボラック型エポキシ樹脂;ビフェニル型エポキシ樹脂;線状脂肪族エポキシ樹脂;ブタジエン構造を有するエポキシ樹脂;脂環式エポキシ樹脂;複素環式エポキシ樹脂;スピロ環含有エポキシ樹脂;シクロヘキサンジメタノール型エポキシ樹脂;トリメチロール型エポキシ樹脂;テトラフェニルエタン型エポキシ樹脂;ビキシレノール型エポキシ樹脂等が挙げられる。エポキシ樹脂は1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0015】
(A)エポキシ樹脂は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂及び縮合環構造を有するエポキシ樹脂から選択される1種以上であることが好ましい。中でも、(A)成分としては、平均線熱膨張係数などの物性に優れた磁性層を得る観点から、縮合環構造を有するエポキシ樹脂を含有することがより好ましい。縮合環構造を有するエポキシ樹脂としては、上記例示したもののうち、ナフタレン型エポキシ樹脂、ナフタレン型4官能エポキシ樹脂、ナフトール型エポキシ樹脂、ナフチレンエーテル型エポキシ樹脂、アントラセン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂が好ましく、ナフタレン型エポキシ樹脂、ナフトール型エポキシ樹脂が特に好ましい。
【0016】
(A)エポキシ樹脂は、1分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂を含むことが好ましい。エポキシ樹脂の不揮発成分を100質量%とした場合に、少なくとも50質量%以上は1分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂であるのが好ましい。中でも、樹脂組成物は、温度20℃で液状のエポキシ樹脂(以下「液状エポキシ樹脂」という。)と、温度20℃で固体状のエポキシ樹脂(以下「固体状エポキシ樹脂」という。)とを組み合わせて含むことが好ましい。エポキシ樹脂として、液状エポキシ樹脂と固体状エポキシ樹脂とを併用することで、優れた可撓性を有する樹脂組成物が得られる。また、樹脂組成物の硬化物の破断強度も向上する。液状エポキシ樹脂は、1分子中に2個以上のエポキシ基を有する液状エポキシ樹脂が好ましい。固体状エポキシ樹脂は、1分子中に3個以上のエポキシ基を有する固体状エポキシ樹脂が好ましい。
【0017】
液状エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAF型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、エステル骨格を有する脂環式エポキシ樹脂、シクロヘキサンジメタノール型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、及びブタジエン構造を有するエポキシ樹脂が好ましく、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAF型エポキシ樹脂及びナフタレン型エポキシ樹脂がより好ましい。液状エポキシ樹脂の具体例としては、DIC社製の「HP4032」、「HP4032D」、「HP4032SS」(ナフタレン型エポキシ樹脂)、三菱ケミカル社製の「828US」、「jER828EL」(ビスフェノールA型エポキシ樹脂)、「jER807」(ビスフェノールF型エポキシ樹脂)、「jER152」(フェノールノボラック型エポキシ樹脂)、「630」、「630LSD」(グリシジルアミン型エポキシ樹脂)、新日鉄住金化学社製の「ZX1059」(ビスフェノールA型エポキシ樹脂とビスフェノールF型エポキシ樹脂の混合品)、ナガセケムテックス社製の「EX-721」(グリシジルエステル型エポキシ樹脂)、ダイセル社製の「セロキサイド2021P」(エステル骨格を有する脂環式エポキシ樹脂)、「PB-3600」(ブタジエン構造を有するエポキシ樹脂)、新日鉄住金化学社製の「ZX1658」、「ZX1658GS」(液状1,4-グリシジルシクロヘキサン)、三菱ケミカル社製の「630LSD」(グリシジルアミン型エポキシ樹脂)、ADEKA社製の「EP-3980S」(グリシジルアミン型エポキシ樹脂)等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0018】
固体状エポキシ樹脂としては、ナフタレン型4官能エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、トリスフェノール型エポキシ樹脂、ナフトール型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ナフチレンエーテル型エポキシ樹脂、アントラセン型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、テトラフェニルエタン型エポキシ樹脂が好ましく、ナフタレン型4官能エポキシ樹脂、ナフトール型エポキシ樹脂、及びビフェニル型エポキシ樹脂がより好ましい。固体状エポキシ樹脂の具体例としては、DIC社製の「HP4032H」(ナフタレン型エポキシ樹脂)、「HP-4700」、「HP-4710」(ナフタレン型4官能エポキシ樹脂)、「N-690」(クレゾールノボラック型エポキシ樹脂)、「N-695」、「N-680」(クレゾールノボラック型エポキシ樹脂)、「HP-7200」(ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂)、「HP-7200HH」、「HP-7200H」、「EXA-7311」、「EXA-7311-G3」、「EXA-7311-G4」、「EXA-7311-G4S」、「HP6000」(ナフチレンエーテル型エポキシ樹脂)、日本化薬社製の「EPPN-502H」(トリスフェノール型エポキシ樹脂)、「NC7000L」(ナフトールノボラック型エポキシ樹脂)、「NC3000H」、「NC3000」、「NC3000L」、「NC3100」(ビフェニル型エポキシ樹脂)、新日鉄住金化学社製の「ESN475V」(ナフタレン型エポキシ樹脂)、「ESN485」(ナフトールノボラック型エポキシ樹脂)、三菱ケミカル社製の「YX4000H」、「YL6121」(ビフェニル型エポキシ樹脂)、「YX4000HK」(ビキシレノール型エポキシ樹脂)、「YX8800」(アントラセン型エポキシ樹脂)、大阪ガスケミカル社製の「PG-100」、「CG-500」、三菱ケミカル社製の「YL7760」(ビスフェノールAF型エポキシ樹脂)、「YL7800」(フルオレン型エポキシ樹脂)、三菱ケミカル社製の「jER1010」(固体状ビスフェノールA型エポキシ樹脂)、「jER1031S」(テトラフェニルエタン型エポキシ樹脂)、「157S70」(ノボラック型エポキシ樹脂)等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0019】
(A)エポキシ樹脂として、液状エポキシ樹脂と固体状エポキシ樹脂とを併用する場合、それらの量比(液状エポキシ樹脂:固体状エポキシ樹脂)は、質量比で、1:0.1~1:15の範囲が好ましい。液状エポキシ樹脂と固体状エポキシ樹脂との量比を斯かる範囲とすることにより、i)樹脂シートの形態で使用する場合に適度な粘着性がもたらされる、ii)樹脂シートの形態で使用する場合に十分な可撓性が得られ、取り扱い性が向上する、並びにiii)十分な破断強度を有する硬化物を得ることができる等の効果が得られる。上記i)~iii)の効果の観点から、液状エポキシ樹脂と固体状エポキシ樹脂の量比(液状エポキシ樹脂:固体状エポキシ樹脂)は、質量比で、1:0.3~1:10の範囲がより好ましく、1:0.5~1:8の範囲がさらに好ましい。
【0020】
(A)エポキシ樹脂の含有量は、良好な機械強度、絶縁信頼性を示す磁性層を得る観点から、樹脂組成物中の不揮発成分を100質量%とした場合、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上、さらに好ましくは3質量%以上である。(A)エポキシ樹脂の含有量の上限は、本発明の効果が奏される限りにおいて特に限定されないが、好ましくは20質量%以下、より好ましくは15質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下である。
【0021】
(A)エポキシ樹脂のエポキシ当量は、好ましくは50~5000、より好ましくは50~3000、さらに好ましくは80~2000、さらにより好ましくは110~1000である。この範囲となることで、硬化物の架橋密度が十分となり表面粗さの小さい磁性層をもたらすことができる。なお、エポキシ当量は、JIS K7236に従って測定することができ、1当量のエポキシ基を含む樹脂の質量である。
【0022】
(A)エポキシ樹脂の重量平均分子量は、好ましくは100~5000、より好ましくは250~3000、さらに好ましくは400~1500である。ここで、エポキシ樹脂の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定されるポリスチレン換算の重量平均分子量である。
【0023】
(A)エポキシ樹脂の数平均分子量は、好ましくは5000未満、より好ましくは4000以下、さらに好ましくは3000以下である。下限は、好ましくは100以上、より好ましくは300以上、さらに好ましくは500以上である。数平均分子量(Mn)は、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)を使用して測定されるポリスチレン換算の数平均分子量である。
【0024】
(A)エポキシ樹脂のガラス転移温度(Tg)は、好ましくは25℃を超え、より好ましくは30℃以上、さらに好ましくは35℃以上である。上限は、好ましくは500℃以下、より好ましくは400℃以下、さらに好ましくは300℃以下である。
【0025】
<(B)磁性フィラー>
樹脂組成物は、(B)磁性フィラーを含有する。(B)磁性フィラーの材料は特に限定されず、例えば、純鉄粉末、Fe-Si系合金粉末、Fe-Si-Al系合金粉末、Fe-Cr系合金粉末、Fe-Cr-Si系合金粉末、Fe-Ni-Cr系合金粉末、Fe-Cr-Al系合金粉末、Fe-Ni系合金粉末、Fe-Ni-Mo系合金粉末、Fe-Ni-Mo-Cu系合金粉末、Fe-Co系合金粉末、あるいはFe-Ni-Co系合金粉末などのFe合金類、Fe基アモルファス、Co基アモルファスなどのアモルファス合金類、Mg-Zn系フェライト、Mn-Zn系フェライト、Mn-Mg系フェライト、Cu-Zn系フェライト、Mg-Mn-Sr系フェライト、Ni-Zn系フェライトなどのスピネル型フェライト類、Ba-Zn系フェライト、Ba-Mg系フェライト、Ba-Ni系フェライト、Ba-Co系フェライト、Ba-Ni-Co系フェライトなどの六方晶型フェライト類、Y系フェライトなどのガーネット型フェライト類が挙げられる。中でも、(B)磁性フィラーとしては、Fe-Si系合金粉末、Fe-Si-Al系合金粉末、Fe-Cr系合金粉末、Fe-Cr-Si系合金粉末、Fe-Ni-Cr系合金粉末、Fe-Cr-Al系合金粉末等の、Si、Al、及びCrから選ばれる1種以上の元素を含むFe合金類が好ましく、Si及びCrを含むFe合金類がより好ましい。(B)磁性フィラーは1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0026】
(B)磁性フィラーとしては、市販の磁性フィラーを用いることができる。用いられ得る市販の磁性フィラーの具体例としては、山陽特殊製鋼社製「PST-S」、エプソンアトミックス社製「AW2-08」、「AW2-08PF20F」、「AW2-08PF10F」、「AW2-08PF3F」、「Fe-3.5Si-4.5CrPF20F」、「Fe-50NiPF20F」、「Fe-80Ni-4MoPF20F」、JFEケミカル社製「LD-M」、「LD-MH」、「KNI-106」、「KNI-106GSM」、「KNI-106GS」、「KNI-109」、「KNI-109GSM」、「KNI-109GS」、戸田工業社製「KNS-415」、「BSF-547」、「BSF-029」、「BSN-125」、「BSN-714」、「BSN-828」、「S-1281」、「S-1641」、「S-1651」、「S-1470」、「S-1511」、「S-2430」、日本重化学工業社製「JR09P2」、CIKナノテック社製「Nanotek」、キンセイマテック社製「JEMK-S」、「JEMK-H」、ALDRICH社製「Yttrium iron oxide」等が挙げられる。
【0027】
(B)磁性フィラーは、球状であることが好ましい。(B)磁性フィラーの粉体の長辺の長さを短辺の長さで除した値(アスペクト比)としては、好ましくは2以下、より好ましくは1.5以下、さらに好ましくは1.2以下である。一般に、磁性フィラーは球状ではない扁平な形状であるほうが、比透磁率を向上させやすい。しかし、透磁率の維持と反りの抑制を同時に達成する観点から、球状の(B)磁性フィラーを用いる方が、所望の特性を有する樹脂組成物を容易に得ることができる。
【0028】
(B)磁性フィラーの平均粒径は、好ましくは0.01μm以上、より好ましくは0.5μm以上、さらに好ましくは1μm以上である。また、好ましくは8μm以下、より好ましくは5μm以下、さらに好ましくは4μm以下である。(B)磁性フィラーの平均粒径を斯かる範囲内とすることにより、透磁率の維持と反りの抑制を同時に達成することが可能となる。
【0029】
(B)磁性フィラーの平均粒径はミー(Mie)散乱理論に基づくレーザー回折・散乱法により測定することができる。具体的にはレーザー回折散乱式粒度分布測定装置により、磁性フィラーの粒度分布を体積基準で作成し、そのメディアン径を平均粒径とすることで測定することができる。測定サンプルは、磁性フィラーを超音波によりメチルエチルケトン中に分散させたものを好ましく使用することができる。レーザー回折散乱式粒度分布測定装置としては、堀場製作所社製「LA-500」、島津製作所社製「SALD-2200」等を使用することができる。
【0030】
(B)磁性フィラーの含有量(体積%)は、比透磁率を向上させる観点から、樹脂組成物中の不揮発成分を100体積%とした場合、好ましくは10体積%以上、より好ましくは20体積%以上、さらに好ましくは30体積%以上である。また、好ましくは85体積%以下、より好ましくは75体積%以下、さらに好ましくは65体積%以下である。
【0031】
(B)磁性フィラーの含有量は、比透磁率を向上させる観点から、樹脂組成物中の不揮発成分を100質量%とした場合、好ましくは75質量%以上、より好ましくは76質量%以上、さらに好ましくは77質量%以上である。また、好ましくは95質量%未満、より好ましくは94質量%以下、さらに好ましくは93質量%以下である。
【0032】
<(C)硬化剤>
樹脂組成物は、(C)硬化剤を含有する。(C)硬化剤としては、(A)エポキシ樹脂等を硬化する機能を有する限り特に限定されず、例えば、フェノール系硬化剤、ナフトール系硬化剤、活性エステル系硬化剤、ベンゾオキサジン系硬化剤、及びシアネートエステル系硬化剤などが挙げられる。硬化剤は1種単独で用いてもよく、又は2種以上を併用してもよい。(C)成分は、フェノール系硬化剤、ナフトール系硬化剤、活性エステル系硬化剤及びシアネートエステル系硬化剤から選択される1種以上であることが好ましく、フェノール系硬化剤、及び活性エステル系硬化剤から選択される1種以上であることが好ましく、一態様として、ピール強度、透磁率などの特性を良好にする観点から、トリアジン骨格含有フェノール系硬化剤、及び活性エステル系硬化剤から選ばれる1種以上であることがさらに好ましい。
【0033】
フェノール系硬化剤及びナフトール系硬化剤としては、硬化物が十分な強度を得る観点から、ノボラック構造を有するフェノール系硬化剤、又はノボラック構造を有するナフトール系硬化剤が好ましい。また、導体層との密着性の観点から、含窒素フェノール系硬化剤が好ましく、トリアジン骨格含有フェノール系硬化剤がより好ましい。
【0034】
フェノール系硬化剤及びナフトール系硬化剤の具体例としては、明和化成社製の「MEH-7700」、「MEH-7810」、「MEH-7851」、日本化薬社製の「NHN」、「CBN」、「GPH」、新日鉄住金化学社製の「SN170」、「SN180」、「SN190」、「SN475」、「SN485」、「SN495V」、「SN375」、「SN395」、DIC社製の「TD2090」、「TD2090-60M」、「LA-7052」、「LA-7054」、「LA-1356」、「LA-3018」、「LA-3018-50P」、「EXB-9500」、「HPC-9500」、「KA-1160」、「KA-1163」、「KA-1165」、群栄化学社製の「GDP-6115L」、「GDP-6115H」、「ELPC75」等が挙げられる。
【0035】
活性エステル系硬化剤としては、特に制限はないが、一般にフェノールエステル類、チオフェノールエステル類、N-ヒドロキシアミンエステル類、複素環ヒドロキシ化合物のエステル類等の反応活性の高いエステル基を1分子中に2個以上有する化合物が好ましく用いられる。当該活性エステル系硬化剤は、カルボン酸化合物及び/又はチオカルボン酸化合物とヒドロキシ化合物及び/又はチオール化合物との縮合反応によって得られるものが好ましい。特に耐熱性向上の観点から、カルボン酸化合物とヒドロキシ化合物とから得られる活性エステル系硬化剤が好ましく、カルボン酸化合物とフェノール化合物及び/又はナフトール化合物とから得られる活性エステル系硬化剤がより好ましい。カルボン酸化合物としては、例えば安息香酸、酢酸、コハク酸、マレイン酸、イタコン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ピロメリット酸等が挙げられる。フェノール化合物又はナフトール化合物としては、例えば、ハイドロキノン、レゾルシン、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、フェノールフタリン、メチル化ビスフェノールA、メチル化ビスフェノールF、メチル化ビスフェノールS、フェノール、o-クレゾール、m-クレゾール、p-クレゾール、カテコール、α-ナフトール、β-ナフトール、1,5-ジヒドロキシナフタレン、1,6-ジヒドロキシナフタレン、2,6-ジヒドロキシナフタレン、ジヒドロキシベンゾフェノン、トリヒドロキシベンゾフェノン、テトラヒドロキシベンゾフェノン、フロログルシン、ベンゼントリオール、ジシクロペンタジエン型ジフェノール化合物、フェノールノボラック等が挙げられる。ここで、「ジシクロペンタジエン型ジフェノール化合物」とは、ジシクロペンタジエン1分子にフェノール2分子が縮合して得られるジフェノール化合物をいう。
【0036】
具体的には、ジシクロペンタジエン型ジフェノール構造を含む活性エステル硬化剤、ナフタレン構造を含む活性エステル硬化剤、フェノールノボラックのアセチル化物を含む活性エステル硬化剤、フェノールノボラックのベンゾイル化物を含む活性エステル硬化剤が好ましく、中でもナフタレン構造を含む活性エステル硬化剤、ジシクロペンタジエン型ジフェノール構造を含む活性エステル硬化剤がより好ましい。「ジシクロペンタジエン型ジフェノール構造」とは、フェニレン-ジシクロペンチレン-フェニレンからなる2価の構造を表す。
【0037】
活性エステル系硬化剤の市販品としては、ジシクロペンタジエン型ジフェノール構造を含む活性エステル硬化剤として、「EXB9451」、「EXB9460」、「EXB9460S」、「HPC-8000」、「HPC-8000H」、「HPC-8000-65T」、「EXB-8000L」(DIC社製)、ナフタレン構造を含む活性エステル硬化剤として「EXB9416-70BK」(DIC社製)、フェノールノボラックのアセチル化物を含む活性エステル硬化剤として「DC808」(三菱ケミカル社製)、フェノールノボラックのベンゾイル化物を含む活性エステル硬化剤として「YLH1026」(三菱ケミカル社製)、フェノールノボラックのアセチル化物である活性エステル系硬化剤として「DC808」(三菱ケミカル社製)、フェノールノボラックのベンゾイル化物である活性エステル系硬化剤として「YLH1026」(三菱ケミカル社製)、「YLH1030」(三菱ケミカル社製)、「YLH1048」(三菱ケミカル社製)等が挙げられる。
【0038】
ベンゾオキサジン系硬化剤の具体例としては、昭和高分子社製の「HFB2006M」、四国化成工業社製の「P-d」、「F-a」が挙げられる。
【0039】
シアネートエステル系硬化剤としては、例えば、ビスフェノールAジシアネート、ポリフェノールシアネート、オリゴ(3-メチレン-1,5-フェニレンシアネート)、4,4’-メチレンビス(2,6-ジメチルフェニルシアネート)、4,4’-エチリデンジフェニルジシアネート、ヘキサフルオロビスフェノールAジシアネート、2,2-ビス(4-シアネート)フェニルプロパン、1,1-ビス(4-シアネートフェニルメタン)、ビス(4-シアネート-3,5-ジメチルフェニル)メタン、1,3-ビス(4-シアネートフェニル-1-(メチルエチリデン))ベンゼン、ビス(4-シアネートフェニル)チオエーテル、及びビス(4-シアネートフェニル)エーテル等の2官能シアネート樹脂、フェノールノボラック及びクレゾールノボラック等から誘導される多官能シアネート樹脂、これらシアネート樹脂が一部トリアジン化したプレポリマーなどが挙げられる。シアネートエステル系硬化剤の具体例としては、ロンザジャパン社製の「PT30」及び「PT60」(いずれもフェノールノボラック型多官能シアネートエステル樹脂)、「BA230」、「BA230S75」(ビスフェノールAジシアネートの一部又は全部がトリアジン化され三量体となったプレポリマー)等が挙げられる。
【0040】
(C)硬化剤の含有量は、樹脂組成物中の樹脂成分を100質量%とした場合、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、さらに好ましくは1質量%以上であり、好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下、さらに好ましくは2質量%以下である。(C)硬化剤の含有量を斯かる範囲内とすることにより、磁性層を形成する際に発生する反りを抑制することができ、さらには線熱膨張係数、ピール強度などの物性に優れた磁性層を得ることができる。
【0041】
<(D)両親媒性ポリエーテルブロックコポリマー>
樹脂組成物は、(D)両親媒性ポリエーテルブロックコポリマーを含有する。本願明細書において、両親媒性ポリエーテルブロックコポリマーとは、少なくとも一つのエポキシ樹脂混和性ポリエーテルブロックセグメントと、少なくとも一つのエポキシ樹脂非混和性ポリエーテルブロックセグメントとを含むブロックコポリマーを言う。(D)成分を含有することで樹脂組成物の靱性向上、応力緩和性能を向上させることができ、これにより樹脂組成物の硬化物の反り量を低減することができる。
【0042】
エポキシ樹脂混和性ポリエーテルブロックセグメントとしては、例えばアルキレンオキシドから誘導されるエポキシ樹脂混和性ポリエーテルブロックセグメントが挙げられる。アルキレンオキシドから誘導されるエポキシ樹脂混和性ポリエーテルブロックセグメントとしては、ポリエチレンオキシドブロック、ポリプロピレンオキシドブロック、ポリ(エチレンオキシド-co-プロピレンオキシド)ブロック、ポリ(エチレンオキシド-ran-プロピレンオキシド)ブロック、及びそれらの混合物から選択される1種以上のポリアルキレンオキシドブロックが好ましく、ポリエチレンオキシドブロックがより好ましい。
【0043】
エポキシ樹脂非混和性ブロックセグメントとしては、例えば、アルキレンオキシドから誘導される少なくとも一つのエポキシ樹脂非混和性ポリエーテルブロックセグメントが挙げられる。アルキレンオキシドから誘導される少なくとも一つのエポキシ樹脂非混和性ポリエーテルブロックセグメントとしては、例えば、ポリブチレンオキシドブロック、1,2-エポキシヘキサンから誘導されるポリヘキシレンオキシドブロック、1,2-エポキシドデカンから誘導されるポリドデシレンオキシドブロック、及びそれらの混合物から選択される1種以上のポリアルキレンオキシドブロックが好ましく、ポリブチレンオキシドブロックがより好ましい。
【0044】
(D)両親媒性ポリエーテルブロックコポリマーは、1種以上のエポキシ樹脂混和性ブロックセグメントを有することが好ましく、2種以上のエポキシ樹脂混和性ブロックセグメントを有することより好ましい。同様に、1種以上のエポキシ樹脂非混和性ブロックセグメントを有することが好ましく、2種以上のエポキシ樹脂非混和性ブロックセグメントを有することがより好ましい。従って、(D)成分は、例えば、ジブロック、直鎖トリブロック、直鎖テトラブロック、高次マルチブロック構造、分岐ブロック構造、星型ブロック構造、及びそれらの組合せから成る群から選択されるエポキシ樹脂混和性ブロックセグメント、又はエポキシ樹脂非混和性ブロックセグメントを有することが好ましい。
【0045】
両親媒性ポリエーテルブロックコポリマーは、その効果を損なわない範囲で、分子中に他のセグメントを含有してもよい。他のセグメントとしては、例えば、ポリエチレンプロピレン(PEP)、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリジメチルシロキサン、ポリブチレンオキシド、ポリヘキシレンオキシド、ポリエチルヘキシルメタクリレート等のポリアルキルメチルメタクリレート、及びそれらの混合物から誘導されるセグメント等が挙げられる。
【0046】
(D)両親媒性ポリエーテルブロックコポリマーの数平均分子量は、好ましくは3,000~20,000である。数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定されるポリスチレン換算の重量平均分子量である。
【0047】
(D)両親媒性ポリエーテルブロックコポリマーとしては、例えば、ポリ(エチレンオキシド)-b-ポリ(ブチレンオキシド)(PEO-PBO);ポリ(エチレンオキシド)-b-ポリ(ブチレンオキシド)-b-ポリ(エチレンオキシド)(PEO-PBO-PEO)等の両親媒性ポリエーテルトリブロックコポリマー等が挙げられる。両親媒性ブロックコポリマーは市販品を用いることもできる。市販品としては、例えばThe Dow Chemical Company社製の「Fortegra100」等が挙げられる。(D)両親媒性ポリエーテルブロックコポリマーは1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0048】
(D)成分の含有量は、樹脂組成物中の不揮発成分を100質量%とした場合、反り量を抑制する観点から、好ましくは0.3質量%以上、より好ましくは0.4質量%以上、さらに好ましくは0.5質量%以上である。上限は、ピール強度、透磁率などの特性を良好にする観点から、好ましくは15質量%以下、より好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下である。
【0049】
<(E)カルボジイミド化合物>
樹脂組成物は、(E)カルボジイミド化合物を含有し得る。(E)カルボジイミド化合物は、1分子中にカルボジイミド基(-N=C=N-)を1個以上有する化合物であり、(E)カルボジイミド化合物を含有させることで導体層との密着性に優れる磁性層をもたらすことができる。(E)カルボジイミド化合物としては、1分子中にカルボジイミド基を2個以上有する化合物が好ましい。(E)カルボジイミド化合物は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0050】
一実施形態において、本発明の樹脂組成物に含まれるカルボジイミド化合物は、下記式(1)で表される構造を含有する。
【0051】
【化1】
(式中、Xは、アルキレン基、シクロアルキレン基又はアリーレン基を表し、これらは置換基を有していてもよい。pは1~5の整数を表す。Xが複数存在する場合、それらは同一でも相異なってもよい。*は結合手を表す。)
【0052】
Xで表されるアルキレン基の炭素原子数は、好ましくは1~20、より好ましくは1~10、さらに好ましくは1~6、1~4、又は1~3である。該炭素原子数に置換基の炭素原子数は含まれない。該アルキレン基の好適な例としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基が挙げられる。
【0053】
Xで表されるシクロアルキレン基の炭素原子数は、好ましくは3~20、より好ましくは3~12、さらに好ましくは3~6である。該炭素原子数に置換基の炭素原子数は含まれない。該シクロアルキレン基の好適な例としては、シクロプロピレン基、シクロブチレン基、シクロペンチレン基、シクロヘキシレン基が挙げられる。
【0054】
Xで表されるアリーレン基は、芳香族炭化水素から芳香環上の水素原子を2個除いた基である。該アリーレン基の炭素原子数は、好ましくは6~24、より好ましくは6~18、さらに好ましくは6~14、さらにより好ましくは6~10である。該炭素原子数に置換基の炭素原子数は含まれない。該アリーレン基の好適な例としては、フェニレン基、ナフチレン基、アントラセニレン基が挙げられる。
【0055】
Xで表されるアルキレン基、シクロアルキレン基又はアリール基は置換基を有していてもよい。該置換基としては、特に限定されないが、例えば、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、シクロアルキル基、シクロアルキルオキシ基、アリール基、アリールオキシ基、アシル基及びアシルオキシ基が挙げられる。置換基として用いられるハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。置換基として用いられるアルキル基、アルコキシ基は、直鎖状、分岐状のいずれであってもよく、その炭素原子数は、好ましくは1~20、より好ましくは1~10、さらに好ましくは1~6、1~4、又は1~3である。置換基として用いられるシクロアルキル基、シクロアルキルオキシ基の炭素原子数は、好ましくは3~20、より好ましくは3~12、さらに好ましくは3~6である。置換基として用いられるアリール基は、芳香族炭化水素から芳香環上の水素原子を1個除いた基であり、その炭素原子数は、好ましくは6~24、より好ましくは6~18、さらに好ましくは6~14、さらにより好ましくは6~10である。置換基として用いられるアリールオキシ基の炭素原子数は、好ましくは6~24、より好ましくは6~18、さらに好ましくは6~14、さらにより好ましくは6~10である。置換基として用いられるアシル基は、式:-C(=O)-R1で表される基(式中、R1はアルキル基又はアリール基を表す。)をいう。R1で表されるアルキル基は、直鎖状、分岐状のいずれであってもよく、その炭素原子数は、好ましくは1~20、より好ましくは1~10、さらに好ましくは1~6、1~4、又は1~3である。R1で表されるアリール基の炭素原子数は、好ましくは6~24、より好ましくは6~18、さらに好ましくは6~14、さらにより好ましくは6~10である。置換基として用いられるアシルオキシ基は、式:-O-C(=O)-R1で表される基(式中、R1は上記と同じ意味を表す。)をいう。中でも、置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、及びアシルオキシ基が好ましく、アルキル基がより好ましい。
【0056】
式(1)中、pは1~5の整数を表す。耐熱性、レーザービア信頼性、及びピール強度に一層優れる磁性層を実現する観点から、pは、好ましくは1~4、より好ましくは2~4、さらに好ましくは2又は3である。
【0057】
式(1)中、Xが複数存在する場合、それらは同一でも相異なっていてもよい。好適な一実施形態において、少なくとも1つのXは、アルキレン基又はシクロアルキレン基であり、これらは置換基を有していてもよい。
【0058】
好適な一実施形態において、カルボジイミド化合物は、カルボジイミド化合物の分子全体の質量を100質量%としたとき、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上、さらにより好ましくは80質量%以上又は90質量%以上にて、式(1)で表される構造を含有する。カルボジイミド化合物は、末端構造を除いて、式(1)で表される構造から実質的になってもよい。カルボジイミド化合物の末端構造としては、特に限定されないが、例えば、アルキル基、シクロアルキル基及びアリール基が挙げられ、これらは置換基を有していてもよい。末端構造として用いられるアルキル基、シクロアルキル基、アリール基は、Xで表される基が有していてもよい置換基について説明したアルキル基、シクロアルキル基、アリール基と同じであってよい。また、末端構造として用いられる基が有していてもよい置換基は、Xで表される基が有していてもよい置換基と同じであってよい。
【0059】
樹脂組成物を硬化する際のアウトガスの発生を抑制し得る観点から、カルボジイミド化合物の重量平均分子量は、好ましくは500以上、より好ましくは600以上、さらに好ましくは700以上、さらにより好ましくは800以上、特に好ましくは900以上又は1000以上である。また、良好な相溶性を得る観点から、カルボジイミド化合物の重量平均分子量の上限は、好ましくは5000以下、より好ましくは4500以下、さらに好ましくは4000以下、さらにより好ましくは3500以下、特に好ましくは3000以下である。カルボジイミド化合物の重量平均分子量は、例えば、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法(ポリスチレンン換算)で測定することができる。
【0060】
なお、カルボジイミド化合物は、その製法に由来して、分子中にイソシアネート基(-N=C=O)を含有する場合がある。良好な保存安定性を示す樹脂組成物を得る観点、ひいては所期の特性を示す磁性層を実現する観点から、カルボジイミド化合物中のイソシアネート基の含有量(「NCO含有量」ともいう。)は、好ましくは5質量%以下、より好ましくは4質量%以下、さらに好ましくは3質量%以下、さらにより好ましくは2質量%以下、特に好ましくは1質量%以下又は0.5質量%以下である。
【0061】
カルボジイミド化合物は、市販品を使用してもよい。市販のカルボジイミド化合物としては、例えば、日清紡ケミカル社製のカルボジライト(登録商標)V-02B、V-03、V-04K、V-07及びV-09、ラインケミー社製のスタバクゾール(登録商標)P、P400、及びハイカジル510が挙げられる。
【0062】
樹脂組成物が(E)カルボジイミド化合物を含有する場合、(E)カルボジイミド化合物の含有量は、耐熱性、レーザービア信頼性、及び導体層との密着性のいずれの特性にも優れる磁性層を得る観点から、樹脂組成物中の不揮発成分を100質量%とした場合、0.1質量%以上が好ましく、0.15質量%以上がより好ましく、0.2質量%以上がさらに好ましい。(E)カルボジイミド化合物の含有量の上限は特に限定されないが、1.5質量%以下が好ましく、1質量%以下がより好ましく、0.5質量%以下がさらに好ましい。
【0063】
<(F)熱可塑性樹脂>
樹脂組成物は、(F)熱可塑性樹脂を含有し得る。(F)熱可塑性樹脂としては、例えば、フェノキシ樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリブタジエン樹脂、シロキサン樹脂、ポリ(メタ)アクリル樹脂、ポリアルキレン樹脂、ポリアルキレンオキシ樹脂、ポリイソプレン樹脂、ポリイソブチレン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエステル樹脂が挙げられる。ポリ(メタ)アクリル樹脂とは、ポリアクリル樹脂とポリメタクリル樹脂とを指す。
【0064】
フェノキシ樹脂のポリスチレン換算の重量平均分子量は8,000~70,000の範囲が好ましく、10,000~60,000の範囲がより好ましく、20,000~60,000の範囲がさらに好ましい。フェノキシ樹脂のポリスチレン換算の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法で測定される。具体的には、フェノキシ樹脂のポリスチレン換算の重量平均分子量は、測定装置として島津製作所社製LC-9A/RID-6Aを、カラムとして昭和電工社製Shodex K-800P/K-804L/K-804Lを、移動相としてクロロホルム等を用いて、カラム温度を40℃にて測定し、標準ポリスチレンの検量線を用いて算出することができる。
【0065】
フェノキシ樹脂の具体例としては、三菱ケミカル社製の「1256」及び「4250」(いずれもビスフェノールA構造含有フェノキシ樹脂)、「YX8100」(ビスフェノールS骨格含有フェノキシ樹脂)、及び「YX6954」(ビスフェノールアセトフェノン構造含有フェノキシ樹脂)が挙げられ、その他にも、新日鉄住金化学社製の「FX280」及び「FX293」、三菱ケミカル社製の「YX7180」、「YX6954」、「YX7553」、「YX7553BH30」、「YL7553BH30」、「YL7769」、「YL6794」、「YL7213」、「YL7290」、「YL7891」、「YL7482」等が挙げられる。中でもポリアルキレンオキシ構造を有するフェノキシ樹脂が好ましく、具体例としては三菱ケミカル社製の「YX-7180」、「YL7553BH30」が挙げられる。
【0066】
(F)成分は、分子内に、ポリブタジエン構造、ポリシロキサン構造、ポリ(メタ)アクリレート構造、ポリアルキレン構造、ポリアルキレンオキシ構造、ポリイソプレン構造、ポリイソブチレン構造、及びポリカーボネート構造から選択される1種以上の構造を有することが好ましく、ポリブタジエン構造、ポリ(メタ)アクリレート構造、ポリアルキレンオキシ構造、ポリイソプレン構造、ポリイソブチレン構造、及びポリカーボネート構造から選択される1種または2種以上の構造を有することがより好ましく、ポリブタジエン構造、及びポリアルキレンオキシ構造から選択される1以上の構造を有することがさらに好ましい。上記の構造を有する樹脂を含むことで磁性層が低弾性となり、シェア強度、破断曲げひずみ、及び割れ性に優れるようになり、さらに反りの発生を抑制することがきる。なお、「(メタ)アクリレート」とは、メタクリレート及びアクリレートを指す。これらの構造は主鎖に含まれていても側鎖に含まれていてもよい。
なお、ポリブタジエン構造は、一部又は全てが水素添加されていてもよい。
ポリアルキレンオキシ構造は、炭素原子数2~15のポリアルキレンオキシ構造が好ましく、炭素原子数3~10のポリアルキレンオキシ構造がより好ましく、炭素原子数5~6のポリアルキレンオキシ構造がさらに好ましい。
【0067】
(F)成分は、樹脂組成物が硬化した際の反りを低下させるために高分子量であることが好ましい。数平均分子量(Mn)は、好ましくは1,000以上、より好ましくは1500以上、さらに好ましくは3000以上、5000以上である。上限は、好ましくは1,000,000以下、より好ましくは900,000以下である。数平均分子量(Mn)は、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)を使用して測定されるポリスチレン換算の数平均分子量である。
【0068】
(F)成分は、硬化物の機械的強度を向上させる観点から、(A)成分と反応し得る官能基を有することが好ましい。なお、(A)成分と反応し得る官能基としては、加熱によって現れる官能基も含めるものとする。
【0069】
好適な一実施形態において、(A)成分と反応し得る官能基は、ヒドロキシ基、カルボキシ基、酸無水物基、フェノール性水酸基、エポキシ基、イソシアネート基及びウレタン基からなる群から選択される1種以上の官能基である。中でも、当該官能基としては、ヒドロキシ基、酸無水物基、フェノール性水酸基、エポキシ基、イソシアネート基及びウレタン基が好ましく、ヒドロキシ基、酸無水物基、フェノール性水酸基、エポキシ基がより好ましく、フェノール性水酸基が特に好ましい。ただし、官能基としてエポキシ基を含む場合、数平均分子量(Mn)は、5,000以上であることが好ましい。
【0070】
ポリブタジエン樹脂の具体例としては、クレイバレー社製の「Ricon 130MA8」、「Ricon 130MA13」、「Ricon 130MA20」、「Ricon 131MA5」、「Ricon 131MA10」、「Ricon 131MA17」、「Ricon 131MA20」、「Ricon 184MA6」(酸無水物基含有ポリブタジエン)、日本曹達社製の「GQ-1000」(水酸基、カルボキシル基導入ポリブタジエン)、「G-1000」、「G-2000」、「G-3000」(両末端水酸基ポリブタジエン)、「GI-1000」、「GI-2000」、「GI-3000」(両末端水酸基水素化ポリブタジエン)、ナガセケムテックス社製の「FCA-061L」(水素化ポリブタジエン骨格エポキシ樹脂)等が挙げられる。一実施形態として、ヒドロキシル基末端ポリブタジエン、ジイソシアネート化合物及び四塩基酸無水物を原料とする線状ポリイミド(特開2006-37083号公報、国際公開第2008/153208号に記載のポリイミド)等が挙げられる。該ポリイミド樹脂のブタジエン構造の含有率は、好ましくは60質量%~95質量%、より好ましくは75質量%~85質量%である。該ポリイミド樹脂の詳細は、特開2006-37083号公報、国際公開第2008/153208号の記載を参酌することができ、この内容は本明細書に組み込まれる。
【0071】
ポリ(メタ)アクリル樹脂としては、ナガセケムテックス社製のテイサンレジン、根上工業社製の「ME-2000」、「W-116.3」、「W-197C」、「KG-25」、「KG-3000」等が挙げられる。
ポリカーボネート樹脂としては、旭化成ケミカルズ社製の「T6002」、「T6001」(ポリカーボネートジオール)、クラレ社製の「C-1090」、「C-2090」、「C-3090」(ポリカーボネートジオール)等が挙げられる。またヒドロキシル基末端ポリカーボネート、ジイソシアネート化合物及び四塩基酸無水物を原料とする線状ポリイミドを使用することもできる。該ポリイミド樹脂のカーボネート構造の含有率は、好ましくは60質量%~95質量%、より好ましくは75質量%~85質量%である。該ポリイミド樹脂の詳細は、国際公開第2016/129541号の記載を参酌することができ、この内容は本明細書に組み込まれる。
【0072】
また、他の具体例としては信越シリコーン社製の「SMP-2006」、「SMP-2003PGMEA」、「SMP-5005PGMEA」、アミン基末端ポリシロキサンおよび四塩基酸無水物を原料とする線状ポリイミド(国際公開第2010/053185号公報、特開2002-12667号公報及び特開2000-319386号公報等)、旭化成せんい社製の「PTXG-1000」、「PTXG-1800」、クラレ社製の「KL-610」、「KL613」、カネカ社製の「SIBSTAR-073T」(スチレン-イソブチレン-スチレントリブロック共重合体)、「SIBSTAR-042D」(スチレン-イソブチレンジブロック共重合体)、電気化学工業社製の「電化ブチラール4000-2」、「電化ブチラール5000-A」、「電化ブチラール6000-C」、「電化ブチラール6000-EP」、積水化学工業社製のエスレックBHシリーズ、BXシリーズ(例えばBX-5Z)、KSシリーズ(例えばKS-1)、BLシリーズ、BMシリーズ、新日本理化社製の「リカコートSN20」及び「リカコートPN20」、東洋紡社製の「バイロマックスHR11NN」及び「バイロマックスHR16NN」、日立化成社製の「KS9100」及び「KS9300」、住友化学社製の「PES5003P」、ソルベイアドバンストポリマーズ社製のポリスルホン「P1700」及び「P3500」、ガンツ化成社製の「AC3832」等が挙げられる。
【0073】
樹脂組成物が(F)成分を含有する場合、(F)成分の含有量は、柔軟性付与の観点から、樹脂組成物中の不揮発成分を100質量%とした場合、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.15質量%以上、さらに好ましくは0.2質量%以上であり、好ましくは1.5質量%以下、より好ましくは1質量%以下、さらに好ましくは0.8質量%以下である。(F)成分の含有量を斯かる範囲内とすることにより、硬化物の透磁率を維持でき、反りを抑制させることができる。
【0074】
<(G)硬化促進剤>
樹脂組成物は、(G)硬化促進剤を含有し得る。硬化促進剤としては、例えば、リン系硬化促進剤、アミン系硬化促進剤、イミダゾール系硬化促進剤、グアニジン系硬化促進剤、金属系硬化促進剤等が挙げられ、リン系硬化促進剤、アミン系硬化促進剤、イミダゾール系硬化促進剤、金属系硬化促進剤が好ましく、アミン系硬化促進剤、イミダゾール系硬化促進剤、金属系硬化促進剤がより好ましい。硬化促進剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0075】
リン系硬化促進剤としては、例えば、トリフェニルホスフィン、ホスホニウムボレート化合物、テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、n-ブチルホスホニウムテトラフェニルボレート、テトラブチルホスホニウムデカン酸塩、(4-メチルフェニル)トリフェニルホスホニウムチオシアネート、テトラフェニルホスホニウムチオシアネート、ブチルトリフェニルホスホニウムチオシアネート等が挙げられ、トリフェニルホスフィン、テトラブチルホスホニウムデカン酸塩が好ましい。
【0076】
アミン系硬化促進剤としては、例えば、トリエチルアミン、トリブチルアミン等のトリアルキルアミン、4-ジメチルアミノピリジン、ベンジルジメチルアミン、2,4,6,-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、1,8-ジアザビシクロ(5,4,0)-ウンデセン等が挙げられ、4-ジメチルアミノピリジン、1,8-ジアザビシクロ(5,4,0)-ウンデセンが好ましい。
【0077】
イミダゾール系硬化促進剤としては、例えば、2-メチルイミダゾール、2-ウンデシルイミダゾール、2-ヘプタデシルイミダゾール、1,2-ジメチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、1,2-ジメチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-フェニルイミダゾール、1-シアノエチル-2-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾール、1-シアノエチル-2-エチル-4-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾール、1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾリウムトリメリテイト、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾリウムトリメリテイト、2,4-ジアミノ-6-[2’-メチルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-[2’-ウンデシルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-[2’-エチル-4’-メチルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-[2’-メチルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジンイソシアヌル酸付加物、2-フェニルイミダゾールイソシアヌル酸付加物、2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール、2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾール、2,3-ジヒドロ-1H-ピロロ[1,2-a]ベンズイミダゾール、1-ドデシル-2-メチル-3-ベンジルイミダゾリウムクロライド、2-メチルイミダゾリン、2-フェニルイミダゾリン等のイミダゾール化合物及びイミダゾール化合物とエポキシ樹脂とのアダクト体が挙げられ、2-エチル-4-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-フェニルイミダゾールが好ましい。
【0078】
イミダゾール系硬化促進剤としては、市販品を用いてもよく、例えば、三菱ケミカル社製の「P200-H50」等が挙げられる。
【0079】
グアニジン系硬化促進剤としては、例えば、ジシアンジアミド、1-メチルグアニジン、1-エチルグアニジン、1-シクロヘキシルグアニジン、1-フェニルグアニジン、1-(o-トリル)グアニジン、ジメチルグアニジン、ジフェニルグアニジン、トリメチルグアニジン、テトラメチルグアニジン、ペンタメチルグアニジン、1,5,7-トリアザビシクロ[4.4.0]デカ-5-エン、7-メチル-1,5,7-トリアザビシクロ[4.4.0]デカ-5-エン、1-メチルビグアニド、1-エチルビグアニド、1-n-ブチルビグアニド、1-n-オクタデシルビグアニド、1,1-ジメチルビグアニド、1,1-ジエチルビグアニド、1-シクロヘキシルビグアニド、1-アリルビグアニド、1-フェニルビグアニド、1-(o-トリル)ビグアニド等が挙げられ、ジシアンジアミド、1,5,7-トリアザビシクロ[4.4.0]デカ-5-エンが好ましい。
【0080】
金属系硬化促進剤としては、例えば、コバルト、銅、亜鉛、鉄、ニッケル、マンガン、スズ等の金属の、有機金属錯体又は有機金属塩が挙げられる。有機金属錯体の具体例としては、コバルト(II)アセチルアセトナート、コバルト(III)アセチルアセトナート等の有機コバルト錯体、銅(II)アセチルアセトナート等の有機銅錯体、亜鉛(II)アセチルアセトナート等の有機亜鉛錯体、鉄(III)アセチルアセトナート等の有機鉄錯体、ニッケル(II)アセチルアセトナート等の有機ニッケル錯体、マンガン(II)アセチルアセトナート等の有機マンガン錯体等が挙げられる。有機金属塩としては、例えば、オクチル酸亜鉛、オクチル酸錫、ナフテン酸亜鉛、ナフテン酸コバルト、ステアリン酸スズ、ステアリン酸亜鉛等が挙げられる。
【0081】
樹脂組成物が(G)成分を含有する場合、(G)成分の含有量は、樹脂組成物中の不揮発成分を100質量%とした場合、好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは0.005質量%以上、さらに好ましくは0.01質量%以上、好ましくは0.1質量%以下、より好ましくは0.8質量%以下、さらに好ましくは0.5質量%以下である。(G)成分の含有量を斯かる範囲内とすることにより、硬化物の透磁率を維持でき、反りを抑制させることができる。
【0082】
<(H)任意の添加剤>
樹脂組成物は、さらに必要に応じて、他の添加剤を含んでいてもよく、斯かる他の添加剤としては、例えば、難燃剤、有機銅化合物、有機亜鉛化合物及び有機コバルト化合物等の有機金属化合物、並びに、バインダー、増粘剤、消泡剤、レベリング剤、密着性付与剤、及び着色剤等の樹脂添加剤等が挙げられる。
【0083】
難燃剤としては、例えば、ホスファゼン化合物、有機リン系難燃剤、有機系窒素含有リン化合物、窒素化合物、シリコーン系難燃剤、金属水酸化物等が挙げられる。ホスファゼン化合物の具体例としては、例えば、大塚化学社製の「SPH-100」、「SPS-100」、「SPB-100」、「SPE-100」、伏見製薬所社製の「FP-100」、「FP-110」、「FP-300」、「FP-400」等が挙げられ、ホスファゼン化合物以外の難燃剤としては、市販品を用いてもよく、例えば、三光社製の「HCA-HQ」、大八化学工業社製の「PX-200」等が挙げられる。
【0084】
<樹脂組成物の物性>
本発明の樹脂組成物を、100℃で30分間、さらに190℃で60分間熱硬化させた硬化物は、硬化収縮率が低いという特性を示す。即ち、硬化収縮が抑えられ、これにより反りを抑制することができる磁性層をもたらす。硬化収縮率としては、好ましくは0.27%以下、より好ましくは0.25%以下、さらに好ましくは0.2%以下である。硬化収縮率の下限値は特に限定されないが、0.01%以上等とし得る。硬化収縮率は、後述する実施例に記載の方法に従って測定することができる。
【0085】
本発明の樹脂組成物を190℃90分間熱硬化させた硬化物は、反りを抑制するという特性を示す。具体的には、硬化物の中央部が凸部となる側の面を下向きにして平滑な台上に載置したとき、台上と硬化物との距離の絶対値が20mm未満であることが好ましく、15mm未満であることがより好ましい。反りの評価は、後述する実施例に記載の方法に従って評価することができる。
【0086】
本発明の樹脂組成物を130℃で30分間、さらに190℃で60分間熱硬化させた硬化物は、金属層、特にメッキにより形成されたメッキ導体層とのピール強度に優れるという特性を示す。即ちピール強度に優れた磁性層をもたらす。ピール強度としては、好ましくは0.5kgf/cm以上、より好ましくは0.6kgf/cm以上、さらに好ましくは0.7kgf/cm以上である。一方、ピール強度の上限値は特に限定されないが、1.5kgf/cm以下等とし得る。ピール強度の評価は、後述する実施例に記載の方法に従って測定することができる。
【0087】
本発明の樹脂組成物を190℃で90分間熱硬化させた硬化物は、平均線熱膨張係数(熱膨張率)が低いという特性を示す。即ち、熱膨張率が低い磁性層をもたらす。30℃~150℃における平均線熱膨張係数の上限値は30ppm/℃以下が好ましく、25ppm/℃以下がより好ましく、20ppm/℃以下が更に好ましく、15ppm/℃以下が更に一層好ましく、10ppm/℃以下が特に好ましい。一方、線熱膨張係数の下限値は特に限定されず、3ppm/℃以上、4ppm/℃以上、5ppm/℃以上などし得る。熱膨張率の測定は、後述する実施例に記載の方法に従って測定することができる。
【0088】
樹脂組成物を190℃で90分間熱硬化させた硬化物は、周波数100MHzにおける比透磁率が高いという特性を示す。周波数100MHzにおける比透磁率は、好ましくは5以上、より好ましくは7以上、さらに好ましくは9以上である。また、好ましくは20以下、より好ましくは18以下、さらに好ましくは15以下である。比透磁率は、後述する実施例に記載の方法に従って測定することができる。
【0089】
樹脂組成物を190℃で90分間熱硬化させた硬化物は、周波数100MHzにおける損失係数が低いという特性を示す。周波数100MHzにおける損失係数は、好ましくは0.07以下、より好ましくは0.06以下、さらに好ましくは0.05以下である。下限は特に限定されないが0.0001以上等とし得る。損失係数は、後述する実施例に記載の方法に従って測定することができる。
【0090】
本実施形態の樹脂組成物は、磁性層形成時の流動性に優れており、磁性層(硬化物)としたときの配線層の封止性に優れている。また、本実施形態の樹脂組成物を熱硬化させて得られる磁性層(硬化物)は、絶縁性にも優れる。
【0091】
よって、本実施形態の樹脂組成物は、磁性層(複数層の磁性層が積層された磁性体部)の厚さ内にコイルが作り込まれた、いわゆるフィルム構造のインダクタ素子を備える配線板の磁性層の材料として好適に用いることができる。
【0092】
[樹脂シート]
本発明の樹脂シートは、支持体と、該支持体上に設けられた、本発明の樹脂組成物で形成された樹脂組成物層とを含む。
【0093】
樹脂組成物層の厚さは、薄型化の観点から、好ましくは250μm以下、より好ましくは200μm以下、さらに好ましくは150μm以下、100μm以下、80μm以下、60μm以下又は40μm以下である。樹脂組成物層の厚さの下限は、特に限定されないが、通常、5μm以上、10μm以上、20μm以上等とし得る。
【0094】
支持体としては、例えば、プラスチック材料からなるフィルム、金属箔、離型紙が挙げられ、プラスチック材料からなるフィルム、金属箔が好ましい。
【0095】
支持体としてプラスチック材料からなるフィルムを使用する場合、プラスチック材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(以下「PET」と略称することがある。)、ポリエチレンナフタレート(以下「PEN」と略称することがある。)等のポリエステル、ポリカーボネート(以下「PC」と略称することがある。)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)等のアクリル、環状ポリオレフィン、トリアセチルセルロース(TAC)、ポリエーテルサルファイド(PES)、ポリエーテルケトン、ポリイミド等が挙げられる。中でも、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートが好ましく、安価なポリエチレンテレフタレートが特に好ましい。
【0096】
支持体として金属箔を使用する場合、金属箔としては、例えば、銅箔、アルミニウム箔等が挙げられ、銅箔が好ましい。銅箔としては、銅の単金属からなる箔を用いてもよく、銅と他の金属(例えば、スズ、クロム、銀、マグネシウム、ニッケル、ジルコニウム、ケイ素、チタン等)との合金からなる箔を用いてもよい。
【0097】
支持体は、樹脂組成物層と接合する面にマット処理、コロナ処理を施してあってもよい。
【0098】
また、支持体としては、樹脂組成物層と接合する面に離型層を有する離型層付き支持体を使用してもよい。離型層付き支持体の離型層に使用する離型剤としては、例えば、アルキド樹脂、ポリオレフィン樹脂、ウレタン樹脂、及びシリコーン樹脂からなる群から選択される1種以上の離型剤が挙げられる。離型層付き支持体は、市販品を用いてもよく、例えば、アルキド樹脂系離型剤を主成分とする離型層を有するPETフィルムである、リンテック社製の「SK-1」、「AL-5」、「AL-7」、東レ社製の「ルミラーT60」、帝人社製の「ピューレックス」、ユニチカ社製の「ユニピール」等が挙げられる。
【0099】
支持体の厚みとしては、特に限定されないが、5μm~75μmの範囲が好ましく、10μm~60μmの範囲がより好ましい。なお、離型層付き支持体を使用する場合、離型層付き支持体全体の厚さが上記範囲であることが好ましい。
【0100】
樹脂シートは、例えば、有機溶剤に樹脂組成物を溶解した樹脂ワニスを調製し、この樹脂ワニスを、ダイコーター等を用いて支持体上に塗布し、更に乾燥させて樹脂組成物層を形成させることにより製造することができる。
【0101】
有機溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)及びシクロヘキサノン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチル、セロソルブアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート及びカルビトールアセテート等の酢酸エステル類、セロソルブ及びブチルカルビトール等のカルビトール類、トルエン及びキシレン等の芳香族炭化水素類、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド(DMAc)及びN-メチルピロリドン等のアミド系溶媒等を挙げることができる。有機溶剤は1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0102】
乾燥は、加熱、熱風吹きつけ等の公知の方法により実施してよい。乾燥条件は特に限定されないが、樹脂組成物層中の有機溶剤の含有量が10質量%以下、好ましくは5質量%以下となるように乾燥させる。樹脂ワニス中の有機溶剤の沸点によっても異なるが、例えば30質量%~60質量%の有機溶剤を含む樹脂ワニスを用いる場合、50℃~150℃で3分間~10分間乾燥させることにより、樹脂組成物層を形成することができる。
【0103】
樹脂シートにおいて、樹脂組成物層の支持体と接合していない面(即ち、支持体とは反対側の面)には、支持体に準じた保護フィルムをさらに積層することができる。保護フィルムの厚さは、特に限定されるものではないが、例えば、1μm~40μmである。保護フィルムを積層することにより、樹脂組成物層の表面へのゴミ等の付着やキズを抑制することができる。樹脂シートは、ロール状に巻きとって保存することが可能である。樹脂シートが保護フィルムを有する場合、保護フィルムを剥がすことによって使用可能となる。
【0104】
[インダクタ素子内蔵配線板及びインダクタ素子内蔵配線板の製造方法]
(第1実施形態)
第1実施形態のインダクタ素子内蔵配線板の構成例について、
図1、
図2および
図3を参照して説明する。
図1は、インダクタ素子内蔵配線板をその厚さ方向の一方からみた模式的な平面図である。
図2は、II-II一点鎖線で示した位置で切断したインダクタ素子内蔵配線板の切断端面を示す模式的な図である。
図3は、インダクタ素子内蔵配線板のうちの第1配線層の構成を説明するための模式的な平面図である。以下、インダクタ素子内蔵配線板を、単に「配線板」ということがある。
【0105】
配線板は、樹脂組成物(樹脂組成物層)の硬化体である磁性層と、この磁性層に少なくとも一部分が埋め込まれた導電性構造体とを有しており、この導電性構造体と、磁性層の厚さ方向に延在し、かつ導電性構造体に囲まれた磁性層のうちの一部分によって構成されるインダクタ素子を含んでいる。
【0106】
本実施形態の配線板が備えるインダクタ素子が機能し得る周波数は10MHz~200MHzであることが想定されている。また、本実施形態の配線板が備えるインダクタ素子は電源系が想定されている。
【0107】
図1および
図2に示されるように、配線板10は、ビルドアップ磁性層を有するビルドアップ配線板である。配線板10は、コア基材20を備えている。コア基材20は第1主表面20aおよび第1主表面20aとは反対側の第2主表面20bを有している。コア基材20は絶縁性の基板である。コア基材20は、その厚さ内に配線等が作り込まれた内層回路基板であってもよい。
【0108】
コア基材20の材料の例としては、ガラスエポキシ基板、金属基板、ポリエステル基板、ポリイミド基板、BTレジン基板、熱硬化型ポリフェニレンエーテル基板等の絶縁性基材が挙げられる。
【0109】
コア基材20は、第1主表面20aに設けられる第1配線層42と、第2主表面20bに設けられる外部端子24とを有している。第1配線層42および第2配線層44は、複数の配線を含んでいる。図示例ではインダクタ素子のコイル状導電性構造体40を構成する配線のみが示されている。外部端子24は図示されていない外部の装置等と電気的に接続するための端子である。外部端子24は、第2主表面20bに設けられる配線層の一部として構成することができる。
【0110】
第1配線層42、第2配線層44、外部端子24、その他の配線を構成し得る導体材料としては、例えば、金、白金、パラジウム、銀、銅、アルミニウム、コバルト、クロム、亜鉛、ニッケル、チタン、タングステン、鉄、スズおよびインジウムからなる群から選択される1種以上の金属が挙げられる。第1配線層42、第2配線層44、外部端子24、その他の配線は、単金属により構成されていても合金により構成されていてもよく、合金としては、例えば、上記の群から選択される2種以上の金属の合金(例えば、ニッケルクロム合金、銅ニッケル合金および銅チタン合金)が挙げられる。中でも、汎用性、コスト、パターニングの容易性等の観点から、クロム、ニッケル、チタン、アルミニウム、亜鉛、金、パラジウム、銀若しくは銅、又はニッケルクロム合金、銅ニッケル合金、銅チタン合金を用いることが好ましく、クロム、ニッケル、チタン、アルミニウム、亜鉛、金、パラジウム、銀若しくは銅、又はニッケルクロム合金を用いることがより好ましく、銅を用いることがさらに好ましい。
【0111】
第1配線層42、第2配線層44、外部端子24、その他の配線は、単層構造であっても、異なる種類の金属若しくは合金からなる単金属層又は合金層が2層以上積層した複層構造であってもよい。第1配線層42、第2配線層44、外部端子24、その他の配線が複層構造である場合、磁性層と接する層は、クロム、亜鉛若しくはチタンの単金属層、又はニッケルクロム合金の合金層であることが好ましい。
【0112】
第1配線層42、第2配線層44、外部端子24、その他の配線の厚さは、所望の多層プリント配線板のデザインによるが、一般に3μm~35μm、好ましくは5μm~30μmである。
【0113】
コア基材20が有する第1配線層42および外部端子24の厚さは特に限定されない。第1配線層42および外部端子24の厚さは、薄型化の観点から、好ましくは70μm以下であり、より好ましくは60μm以下であり、さらに好ましくは50μm以下、さらにより好ましくは40μm以下、特に好ましくは30μm以下、20μm以下、15μm以下又は10μm以下である。外部端子24の厚さの下限は特に制限されないが、好ましくは1μm以上、より好ましくは3μm以上、さらに好ましくは5μm以上である。
【0114】
第1配線層42および外部端子24のライン(L)/スペース(S)比は特に制限されないが、表面の凹凸を減少させて平滑性に優れる磁性層を得る観点から、通常、900/900μm以下、好ましくは700/700μm以下、より好ましくは500/500μm以下、さらに好ましくは300/300μm以下、さらにより好ましくは200/200μm以下である。ライン/スペース比の下限は特に制限されないが、スペースへの樹脂組成物の埋め込みを良好にする観点から、好ましくは1/1μm以上である。
【0115】
コア基材20としては、例えば、ガラス布基材エポキシ樹脂両面銅張積層板であるパナソニック社製「R1515A」を用い、銅層をパターニングすることにより配線層とした配線板が挙げられる。
【0116】
コア基材20は第1主表面20aから第2主表面20bに至るようにコア基材20を貫通する複数のスルーホール22を有している。スルーホール22にはスルーホール内配線22aが設けられている。スルーホール内配線22aは、第1配線層42と外部端子24とを電気的に接続している。
【0117】
図3に示されるように、第1配線層42はコイル状導電性構造体40を構成するための渦巻状の配線部と、スルーホール内配線22aと電気的に接続される矩形状のランド42aとを含んでいる。図示例では渦巻状の配線部は直線状部と直角に屈曲する屈曲部とランド42aを迂回する迂回部を含んでいる。図示例では第1配線層42の渦巻状の配線部は全体の輪郭が略矩形状であって、中心側からその外側に向かうにあたり反時計回りに巻いている形状を有している。
【0118】
第1配線層42が設けられたコア基材20の第1主表面20a側には第1配線層42および第1配線層42から露出する第1主表面20aを覆うように第1磁性層32が設けられている。
【0119】
第1磁性層32は、既に説明した樹脂シートに由来する層であるので、第1配線層42の封止性に優れている。また第1磁性層32は、前記樹脂シートを用いて形成されるので、周波数が10MHz~200MHzの範囲における比透磁率が向上しており、さらに、通常は磁性損失が低減されている。
【0120】
第1磁性層32には、第1磁性層32をその厚さ方向に貫通するビアホール36が設けられている。
【0121】
第1磁性層32上には第2配線層44が設けられている。第2配線層44はコイル状導電性構造体40を構成するための渦巻状の配線部を含んでいる。図示例では渦巻状の配線部は直線状部と直角に屈曲する屈曲部とを含んでいる。図示例では第2配線層44の渦巻状の配線部は全体の輪郭が略矩形状であって、中心側からその外側に向かうにあたり時計回りに巻いている形状を有している。
【0122】
ビアホール36内にはビアホール内配線36aが設けられている。第2配線層44の渦巻状の配線部のうちの中心側の一端はビアホール内配線36aにより第1配線層42の渦巻状の配線部のうちの中心側の一端に電気的に接続されている。第2配線層44の渦巻状の配線部のうちの外周側の他端はビアホール内配線36aにより第1配線層42のランド42aに電気的に接続されている。よって第2配線層44の渦巻状の配線部のうちの外周側の他端はビアホール内配線36a、ランド42a、スルーホール内配線22aを経て外部端子24に電気的に接続されている。
【0123】
コイル状導電性構造体40は、第1配線層42の一部分である渦巻状の配線部、第2配線層44の一部分である渦巻状の配線部、第1配線層42の渦巻状の配線部と第2配線層44の渦巻状の配線部とを電気的に接続しているビアホール内配線36aにより構成されている。
【0124】
第2配線層44が設けられた第1磁性層32上には第2配線層44および第2配線層44から露出する第1磁性層32を覆うように第2磁性層34が設けられている。
【0125】
第2磁性層34は、第1磁性層32と同様に既に説明した樹脂シートに由来する層であり、樹脂シートの樹脂組成物層は磁性層形成時の流動性に優れているので、第2配線層44の封止性に優れている。また第2磁性層34は、前記樹脂シートを用いて形成されるので、比透磁率が向上しており、さらに通常は磁性損失が低減されている。
【0126】
第1磁性層32および第2磁性層34は一体的な磁性層としてみることができる磁性部30を構成している。よってコイル状導電性構造体40は、磁性部30に少なくとも一部分が埋め込まれるように設けられている。すなわち、本実施形態の配線板10において、インダクタ素子はコイル状導電性構造体40と、磁性部30の厚さ方向に延在し、かつコイル状導電性構造体40に囲まれた磁性部30のうちの一部分である芯部によって構成されている。
【0127】
本実施形態では、コイル状導電性構造体40が、第1配線層42および第2配線層44の2層の配線層を含む例を説明したが、3層以上の配線層(および3層以上のビルドアップ磁性層)によりコイル状導電性構造体40を構成することもできる。この場合には、最上層の配線層と最下層の配線層とに挟まれるように配置される図示しない配線層の渦巻状の配線部は、その一端が最上層側であって直近に配置される配線層の渦巻状の配線部のいずれか一方の端部に電気的接続され、その他端が最下層側であって直近に配置される配線層の渦巻状の配線部のいずれか一方の端部に電気的接続される。
【0128】
本実施形態にかかる配線板によれば、磁性層を前記樹脂シートにより形成するので、形成される磁性層の比透磁率を高めることができ、反り量を低減することができる。
【0129】
以下、第1実施形態にかかるインダクタ素子内蔵配線板の製造方法について
図2を参照して説明する。
【0130】
本実施形態にかかる配線板の製造方法は、第1磁性層および第2磁性層を含む磁性部と、磁性部に少なくとも一部分が埋め込まれたコイル状導電性構造体とを有しており、コイル状導電性構造体と磁性部のうちの一部分とにより構成されるインダクタ素子を含む配線板の製造方法であって、本実施形態にかかる樹脂シート、および第1配線層が設けられたコア基材を用意する工程と、コア基材に樹脂シートの樹脂組成物層をラミネートする工程と、樹脂組成物層を熱硬化して第1磁性層を形成する工程と、第1磁性層にビアホールを形成する工程と、ビアホールが形成された第1磁性層に対して粗化処理する工程と、第1磁性層に第2配線層を形成し、第1配線層と第2配線層とを電気的に接続するビアホール内配線を形成する工程と、第2配線層およびビアホール内配線が形成された第1磁性層にさらに本実施形態にかかる樹脂シートをラミネートし、熱硬化して第2磁性層を形成する工程と、第1配線層の一部分と第2配線層の一部分とビアホール内配線とを含むコイル状導電性構造体、および磁性部の厚さ方向に延在し、かつコイル状導電性構造体に囲まれた磁性部の一部分を含むインダクタ素子を形成する工程とを含む。
【0131】
まず、第1主表面20aに設けられる第1配線層42と、第2主表面20bに設けられる外部端子24と、スルーホール22と、スルーホール内配線22aが設けられているコア基材(内層回路基板)20および樹脂シートを用意する。
【0132】
<第1磁性層の形成工程>
次に第1磁性層32を形成する。まずコア基材の第1配線層42に接触するように樹脂シートの樹脂組成物層をラミネートするラミネート工程を行う。
【0133】
ラミネート工程の条件は特に限定されず、樹脂シートを用いて磁性層(ビルドアップ磁性層)を形成するにあたり使用される条件を採用することができる。例えば、加熱されたステンレス鏡板等の金属板を樹脂シートの支持体側からプレスすることにより行うことができる。この場合、金属板を直接的にプレスするのではなく、コア基材20の表面の凹凸に樹脂シートが十分に追随するよう、耐熱ゴム等からなる弾性部材を介してプレスを行うことが好ましい。プレス温度は、好ましくは70℃~140℃の範囲であり、プレス圧力は好ましくは1kgf/cm2~11kgf/cm2(0.098MPa~1.079MPa)の範囲であり、プレス時間は好ましくは5秒間~3分間の範囲である。
【0134】
また、ラミネート工程は、好ましくは20mmHg(26.7hPa)以下の減圧下で実施される。ラミネート工程は、市販されている真空ラミネーターを用いて実施することができる。市販されている真空ラミネーターとしては、例えば、名機製作所社製の真空加圧式ラミネーター、ニッコー・マテリアルズ社製のバキュームアプリケーター等が挙げられる。
【0135】
ラミネート工程の終了後、コア基材20にラミネートされた樹脂シートを、加熱および加圧処理する平滑化工程を実施してもよい。
【0136】
平滑化工程は、一般に、常圧(大気圧)下、加熱された金属板又は金属ロールにより、コア基材20にラミネートされている樹脂シートを加熱および加圧処理することにより実施される。加熱および加圧処理の条件は、上記ラミネート工程の条件と同様の条件を用いることができる。
【0137】
ラミネート工程および平滑化工程は、同一の真空ラミネーターを用いて連続的に実施することもできる。
【0138】
なお、前記ラミネート工程又は前記平滑化工程の実施後の任意のタイミングで樹脂シートに由来する支持体を剥離する工程を行う。支持体を剥離する工程は、例えば、市販の自動剥離装置により機械的に実施することができる。
【0139】
次いで、コア基材20にラミネートされた樹脂組成物層を熱硬化して磁性層(ビルドアップ磁性層)を形成する熱硬化工程を実施する。
【0140】
熱硬化工程の条件は特に限定されず、多層プリント配線板の絶縁層を形成するに際して通常採用される条件を適用することができる。
【0141】
熱硬化工程の条件は、樹脂組成物層に用いられる樹脂組成物の組成等により任意好適な条件とすることができる。熱硬化工程の条件は、例えば硬化温度を120℃~240℃の範囲(好ましくは150℃~210℃の範囲、より好ましくは170℃~190℃の範囲)とし、硬化時間を5分間~90分間の範囲(好ましくは10分間~75分間、より好ましくは15分間~60分間)とすることができる。
【0142】
熱硬化工程を実施する前に、樹脂組成物層を硬化温度よりも低い温度にて予備加熱する工程を実施してもよい。熱硬化工程の実施に先立ち、例えば50℃以上120℃未満(好ましくは60℃以上110℃以下、より好ましくは70℃以上100℃以下)の温度にて、樹脂組成物層を5分間以上(好ましくは5分間~150分間、より好ましくは15分間~120分間)予備加熱してもよい。予備加熱は、大気圧下(常圧下)にて行うことが好ましい。
【0143】
以上の工程によりコア基材20に設けられる第1磁性層32を形成することができる。
【0144】
また、コア基材20に第1磁性層32を形成する工程は、一般の真空ホットプレス機を用いて行うことも可能である。例えば、加熱されたSUS板等の金属板を用いてコア基材20と樹脂組成物層とを支持体側からプレスすることにより行うことができる。プレス条件は、減圧度を通常1×10-2MPa以下、好ましくは1×10-3MPa以下の減圧下とする。加熱及び加圧は、1段階で行うこともできるが、樹脂のしみだしを制御する観点から2段階以上の工程としてそれぞれプレス条件を変えて行うことが好ましい。例えば、1段階目のプレス条件を、温度を70℃~150℃とし、圧力を1kgf/cm2~15kgf/cm2の範囲とし、2段階目のプレス条件を、温度を150℃~200℃とし、圧力を1kgf/cm2~40kgf/cm2の範囲として行うのが好ましい。各段階の時間は30分間~120分間として行うのが好ましい。市販されている真空ホットプレス機としては、例えば、名機製作所社製「MNPC-V-750-5-200」、北川精機社製「VH1-1603」等が挙げられる。
【0145】
<ビアホールの形成工程>
形成された第1磁性層32にビアホール36を形成する。ビアホール36は、第1配線層42と第2配線層44とを電気的に接続するための経路となる。ビアホール36は第1磁性層32の特性を考慮して、ドリル、レーザー、プラズマ等を用いる公知の方法により形成することができる。例えば、この時点で樹脂シートの支持体が残存している場合には、支持体を介してレーザー光を第1磁性層32に照射することにより、ビアホール36を形成することもできる。
【0146】
ビアホール36の形成に用いられ得るレーザー光源としては、例えば、炭酸ガスレーザー、YAGレーザー、エキシマレーザー等が挙げられる。中でも、加工速度、コストの観点から、炭酸ガスレーザーが好ましい。
【0147】
ビアホール36の形成は、市販されているレーザー装置を用いて実施することができる。市販されている炭酸ガスレーザー装置としては、例えば、日立ビアメカニクス社製「LC-2E21B/1C」、三菱電機社製「ML605GTWII」、松下溶接システム社製の基板穴あけレーザー加工機が挙げられる。
【0148】
<粗化工程>
次にビアホール36が形成された第1磁性層32に対して粗化処理する粗化工程を行う。粗化工程の手順、条件は特に限定されず、多層プリント配線板の製造方法に際して通常使用される手順、条件を採用することができる。粗化工程としては、例えば、乾式スパッタにより行うことが好ましく、また、膨潤液による膨潤処理、酸化剤による粗化処理、中和液による中和処理をこの順に実施することにより第1磁性層32を粗化処理してもよい。
【0149】
粗化工程は、第1磁性層32に形成されたビアホール36のスミア除去を行うためのいわゆるデスミア工程を兼ねていてもよい。
【0150】
また、粗化工程とは別に、ビアホール36に対してデスミア工程を実施してもよい。なお、このデスミア工程は、湿式のデスミア工程であっても、乾式のデスミア工程であってもよい。
【0151】
<第2配線層の形成>
次に粗化工程(およびデスミア工程)が行われた第1磁性層32に第2配線層44を形成する。
【0152】
第2配線層44は、めっきにより形成することができる。第2配線層44は、例えば、無電解めっき工程、マスクパターン形成工程、電解めっき工程、フラッシュエッチング工程を含むセミアディティブ法、フルアディティブ法等の従来公知の技術により形成することにより、所望の配線パターンを含む配線層として形成することができる。なお、この第2配線層44の形成工程により、ビアホール36内にビアホール内配線36aが併せて形成される。
【0153】
第1磁性層32がビルドアップ磁性層であり、第2配線層44がビルドアップ配線層であるビルドアップ層としてみた場合、本実施形態の配線板においてビルドアップ層がさらに1層以上必要な場合には、前記第1磁性層32の形成工程から前記第2配線層44の形成工程までの既に説明した一連の工程をさらに1回以上繰り返して実施すればよい。
【0154】
<第2磁性層の形成>
次に、第2配線層44およびビアホール内配線36aが形成された第1磁性層32に第2磁性層34を形成する。第2磁性層34は既に説明した樹脂シートのラミネート工程、平滑化工程、熱硬化工程を含む第1磁性層32の形成工程と同様の材料を用いて同様の工程により形成すればよい。
【0155】
以上の工程により、磁性部30に少なくとも一部分が埋め込まれたコイル状導電性構造体40を有しており、第1配線層42の一部分と第2配線層44の一部分とビアホール内配線36aとを含むコイル状導電性構造体40と磁性部30の厚さ方向に延在し、かつコイル状導電性構造体40に囲まれた磁性部30のうちの一部分とを含むインダクタ素子を含む配線板10を製造することができる。
【0156】
(第2実施形態)
第2実施形態のインダクタ素子内蔵配線板の構成例について、
図11を参照して説明する。第1実施形態と同様の構成要素については同一の符号を付して示し、重複する説明を省略する場合がある。
【0157】
図11に示すように、配線板11は、樹脂組成物(樹脂組成物層)の硬化体である磁性層と、この磁性層に少なくとも一部分が埋め込まれた導電性構造体とを有しており、この導電性構造体と、磁性層の厚さ方向に延在し、かつ導電性構造体に囲まれた磁性層のうちの一部分によって構成されるインダクタ素子を含んでいる。配線板11は、ビルドアップ磁性層を有するビルドアップ配線板である。配線板11は、コア基材を有さない点で第1実施形態の配線板10と異なる。
【0158】
配線板11が備えるインダクタ素子が機能し得る周波数は10MHz~200MHzであることが想定されている。また、配線板11が備えるインダクタ素子は電源系が想定されている。
【0159】
配線板11は、第1配線層42、第2配線層44、及び第3配線層46を含む。第1配線層42、第2配線層44、及び第3配線層46は、通常複数の配線を含んでいる。図示例ではインダクタ素子のコイル状導電性構造体40を構成する配線のみが示されている。第1配線層42、第2配線層44、外部端子24、及びその他の配線については、第1実施形態における第1配線層42、第2配線層44、外部端子24、及びその他の配線と同様である。
【0160】
第3配線層46を構成し得る導体材料としては、第1実施形態における第1配線層42を構成し得る導体材料と同様である。また、第3配線層46の厚さとしては、第1実施形態における第1配線層42の厚さと同様である。
【0161】
第3配線層46は、単層構造であっても、異なる種類の金属若しくは合金からなる単金属層又は合金層が2層以上積層した複層構造であってもよい。第3配線層46が複層構造である場合、磁性層と接する層は、クロム、亜鉛若しくはチタンの単金属層、又はニッケルクロム合金の合金層であることが好ましい。
【0162】
第1磁性層32、第2磁性層34、及び第3磁性層38は一体的な磁性層としてみることができる磁性部30を構成している。第1磁性層32及び第2磁性層34は、第1実施形態における第1磁性層32及び第2磁性層34と同様である。
【0163】
第3磁性層38は、既に説明した樹脂シートに由来する層であり、樹脂シートの樹脂組成物層は磁性層形成時の流動性に優れているので、第2配線層44の封止性に優れている。また第3磁性層38は、前記樹脂シートを用いて形成されるので、周波数が10MHz~200MHzの範囲における比透磁率が向上しており、さらに通常は磁性損失が低減されている。
【0164】
第1磁性層32及び第2磁性層34には、ビアホール36が形成されている。ビアホール36内にはビアホール内配線36aが設けられている。第1配線層42、第2配線層44、及び第3配線層46はビアホール内配線36a等によりに電気的に接続されている。
【0165】
本実施形態では、コイル状導電性構造体40が、第1配線層42、第2配線層44、及び第3配線層46の3層の配線層を含む例を説明したが、4層以上の配線層(及び4層以上のビルドアップ磁性層)によりコイル状導電性構造体40を構成することもできる。この場合には、最上層の配線層と最下層の配線層とに挟まれるように配置される図示しない配線層の渦巻状の配線部は、その一端が最上層側であって直近に配置される配線層の渦巻状の配線部のいずれか一方の端部に電気的接続され、その他端が最下層側であって直近に配置される配線層の渦巻状の配線部のいずれか一方の端部に電気的接続される。
【0166】
本実施形態にかかる配線板によれば、磁性層を前記樹脂シートにより形成するので、形成される磁性層の比透磁率、難燃性を高めることができ、反り量を低減することができる。
【0167】
以下、第2実施形態にかかるインダクタ素子内蔵配線板の製造方法について
図4~
図11を参照して説明する。第1実施形態と説明が重複する箇所については適宜説明を省略する。
【0168】
本実施形態に係る配線板の製造方法は、
(1)基材51と、該基材51の少なくとも一方の面に設けられたキャリア付金属層52とを有するキャリア付金属層付き基材50を準備する工程、
(2)キャリア付金属層付き基材50に樹脂シートの樹脂組成物層をラミネートし、該樹脂組成物層を熱硬化させ第1磁性層32を形成する工程、
(3)第1磁性層32上に第1配線層42を形成する工程、
(4)第1配線層42および第1磁性層32上に樹脂シートの樹脂組成物層をラミネートし、該樹脂組成物層を熱硬化して第2磁性層34を形成する工程、
(5)第2磁性層34にビアホール36を形成し、ビアホール36が形成された第2磁性層34に対して粗化処理する工程、
(6)第2磁性層34上に第2配線層44を形成する工程、
(7)第2配線層44および第2磁性層34上に樹脂シートの樹脂組成物層をラミネートし、該樹脂組成物層を熱硬化して第3磁性層38を形成する工程、
(8)キャリア付金属層付き基材50を除去する工程、
(9)第3磁性層38にビアホール(図示せず)を形成し、ビアホールが形成された第3磁性層38に対して粗化処理する工程と、
(10)第1磁性層32にビアホール36を形成し、ビアホール36が形成された第1磁性層32に対して粗化処理する工程と、
(11)第3磁性層38上に第3配線層46を形成する工程、及び
(12)第1磁性層32上に外部端子24を形成する工程、を含む。
【0169】
工程(9)と工程(10)とは順序を入れ替えて行ってもよく、同時に行ってもよい。また、工程(11)と工程(12)とは、順序を入れ替えて行ってもよく、同時に行ってもよい。
【0170】
<工程(1)>
工程(1)は、基材51と、該基材51の少なくとも一方の面に設けられたキャリア付金属層52とを有するキャリア付金属層付き基材50を準備する工程である。
図4に一例を示すように、通常、キャリア付金属層付き基材50は、基材51と、該基材51の少なくとも一方の面にキャリア付金属層52が設けられている。キャリア付金属層52は、後述する工程(8)の作業性を高める観点から、基材51側から第1金属層521、第2金属層522の順で備える構成であることが好ましい。
【0171】
基材51の材料としては、第1実施形態におけるコア基材と同様である。キャリア付金属層52の材料としては、例えば、キャリア付銅箔、その他、剥離可能な支持体付き金属箔等が挙げられる。キャリア付金属層付き基材50は、市販品を用いることができる。市販品としては、例えば三井金属社製「MT-EX」等が挙げられる。
【0172】
<工程(2)>
工程(2)は、
図5に一例を示すように、キャリア付金属層付き基材50に樹脂シートの樹脂組成物層をラミネートし、該樹脂組成物層を熱硬化させ第1磁性層32を形成する工程である。
【0173】
工程(2)における第1磁性層32の形成は、第1実施形態における第1磁性層の形成と同様の方法により形成することができる。
【0174】
工程(2)終了後、必要に応じて、形成した第1磁性層上に粗化工程を施してもよい。粗化工程は、第1実施形態における、第1磁性層に対して行う粗化工程と同様の方法により行うことができる。
【0175】
<工程(3)>
工程(3)は、
図6に一例を示すように、第1磁性層32上に第1配線層42を形成する工程である。第1配線層42は、めっきにより形成することができる。第1配線層42は、第1実施形態における第2配線層44の形成と同様の方法により形成することができる。また、第1配線層42は、第1実施形態における第1配線層と同様の導体材料を用いることができる。
【0176】
<工程(4)>
工程(4)は、
図7に一例を示すように、第1配線層42及び第1磁性層32上に樹脂シートの樹脂組成物層をラミネートし、該樹脂組成物層を熱硬化して第2磁性層34を形成する工程である。
【0177】
第2磁性層34は、先述した工程(2)と同様の方法により形成することができる。第2磁性層34を形成する樹脂シートは、第1磁性層32を形成する際に使用した樹脂シートと同様のものを用いてもよく、異なる樹脂シートを用いてもよい。
【0178】
<工程(5)>
工程(5)は、
図8に一例を示すように、第2磁性層34にビアホール36を形成し、ビアホール36が形成された第2磁性層34に対して粗化処理する工程である。ビアホール36内にはビアホール内配線36aが設けられている。ビアホール36は、第1配線層42と第2配線層44とを電気的に接続するための経路となる。
【0179】
ビアホール36の形成は、第1実施形態におけるビアホールの形成工程と同様の方法により形成することができる。また、粗化処理は、第1実施形態における、第1磁性層に対して行う粗化工程と同様の方法により行うことができる。
【0180】
<工程(6)>
工程(6)は、
図8に一例を示すように、第2磁性層34上に第2配線層44を形成する工程である。詳細は、第2磁性層34におけるビアホール36上に第2配線層44を形成する。第2配線層44は、めっきにより形成することができる。第2配線層44は、第1実施形態における第2配線層44の形成と同様の方法により形成することができる。また、第2配線層44は、第1実施形態における第2配線層と同様の導体材料を用いることができる。
【0181】
<工程(7)>
工程(7)は、
図9に一例を示すように、第2配線層44及び第2磁性層34上に樹脂シートの樹脂組成物層をラミネートし、該樹脂組成物層を熱硬化して第3磁性層38を形成する工程である。
【0182】
第3磁性層38は、先述した工程(2)と同様の方法により形成することができる。第3磁性層38を形成する樹脂シートは、第1磁性層32及び第2磁性層34を形成する際に使用した樹脂シートと同様のものを用いてもよく、異なるものを用いてもよい。
【0183】
<工程(8)>
工程(8)は、
図10に一例を示すように、キャリア付金属層付き基材50を除去する工程である。キャリア付金属層付き基材50の除去方法は特に限定されない。好適な一実施形態は、第1金属層521及び第2金属層522の界面で基材51及び第1金属層521を剥離し、第2金属層522を例えば塩化銅水溶液などでエッチング除去する。必要に応じて、第3磁性層38を保護フィルムで保護した状態でキャリア付金属層付き基材50を剥離してもよい。
【0184】
<工程(9)>
工程(9)は、第3磁性層38に、
図11に図示しないビアホールを形成し、ビアホールが形成された第3磁性層38に対して粗化処理する工程である。ビアホール内にはビアホール内配線が設けられている。ビアホールは、第2配線層44と第3配線層46とを電気的に接続するための経路となる。このビアホールの形成及び粗化処理は、第1実施形態と同様の方法により形成することができる。
【0185】
<工程(10)>
工程(10)は、
図11に一例を示すように、第1磁性層32にビアホール36を形成し、ビアホール36が形成された第1磁性層32に対して粗化処理する工程である。詳細は、第1磁性層32のキャリア付金属層付き基材50を除去した側の面側にビアホール36を形成し、該ビアホール36上に外部端子24を形成する。ビアホール36内にはビアホール内配線36aが設けられている。このビアホール36は、第1配線層42と外部端子24とを電気的に接続するための経路となる。このビアホール36の形成及び粗化処理は、第1実施形態と同様の方法により形成することができる。
【0186】
<工程(11)>
工程(11)は、
図11に一例を示すように、第3磁性層38上に第3配線層46を形成する工程である。詳細は、第3磁性層38に形成した、図示しないビアホールの粗化処理を行った後、該ビアホール上に第3配線層46を形成する。第3配線層46は、第1実施形態における第2配線層44と同様の方法により形成することができ、また、第1実施形態における第1及び第2配線層と同様の導体材料を用いることができる。
【0187】
<工程(12)>
工程(12)は、
図11に一例を示すように、第1磁性層32上に外部端子24を形成する工程である。詳細は、第1磁性層32に形成したビアホール36の粗化処理を行った後、該ビアホール36上に外部端子24を接続する。
【0188】
以上の工程により、基材がなく、且つインダクタ素子を含む配線板を製造することができる。このインダクタ素子は、コイル状導電性構造体40と磁性部30の厚さ方向に延在し、且つコイル状導電性構造体40に囲まれた磁性部30のうち一部分とを含む。そして、コイル状導電性構造体40は、第1配線層42の一部分と第2配線層44の一部分と第3配線層46の一部分とビアホール内配線36aとを含む。
【0189】
第1磁性層32がビルドアップ磁性層であり、第2配線層44がビルドアップ配線層であるビルドアップ層としてみた場合、本実施形態の配線板においてビルドアップ層がさらに1層以上必要な場合には、前記第1磁性層32の形成工程から前記第2配線層44の形成工程までの既に説明した一連の工程をさらに1回以上繰り返して実施すればよい。
【0190】
本発明の樹脂シートを用いれば、比透磁率を向上させることができ、かつ反り量が低減された磁性層を形成することができるので、空芯構造とすることなく磁性層の一部分により構成される芯部を含む、より高性能なインダクタ素子が作り込まれた配線板を、より簡便な工程で提供することができる。
【0191】
本実施形態にかかる配線板は、半導体チップ等の電子部品を搭載するための配線板として用いることができ、かかる配線板を内層基板として使用した(多層)プリント配線板として用いることもできる。また、かかる配線板を個片化したチップインダクタ部品として用いることもでき、該チップインダクタ部品を表面実装したプリント配線板として用いることもできる。
【0192】
またかかる配線板を用いて、種々の態様の半導体装置を製造することができる。かかる配線板を含む半導体装置は、電気製品(例えば、コンピューター、携帯電話、デジタルカメラおよびテレビ等)および乗物(例えば、自動二輪車、自動車、電車、船舶および航空機等)等に好適に用いることができる。
【実施例】
【0193】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、以下の記載において、量を表す「部」及び「%」は、別途明示のない限り、それぞれ「質量部」及び「質量%」を意味する。
【0194】
<熱硬化収縮率の測定>
(1)樹脂付ポリイミドフィルムの調製
実施例及び比較例で作製した樹脂ワニスをアルキド樹脂系離型剤(リンテック社製「AL-5」)で離型処理したPETフィルム(東レ社製「ルミラーR80」、厚み38μm、軟化点130℃、以下「離型PET」ということがある)上に、乾燥後の樹脂組成物層の厚さが120μmとなるようにダイコーターにて塗布し、65℃~115℃(平均100℃)にて7分間乾燥し樹脂シートを得た。この樹脂シートを200mm角になる様に切り取った。作製した樹脂シート(200mm角)を、バッチ式真空加圧ラミネーター(ニッコー・マテリアルズ社製、2ステージビルドアップラミネーター、CVP700)を用いて、樹脂組成物層がポリイミドフィルム(宇部興産社製ユーピレックス25S、25μm厚、240mm角)の平滑面の中央と接するように、片面にラミネートした。ラミネートは、30秒間減圧して気圧を13hPa以下とした後、100℃、圧力0.74MPaにて30秒間圧着させることにより実施した。これにより、樹脂付ポリイミドフィルムを得た。
【0195】
(2)初期長の測定
得られた樹脂付ポリイミドフィルムを樹脂シートの離型PET上から、樹脂組成物層の4角から20mm程度の部分に、貫通穴(直径約6mm)を、パンチングによって4つ形成し(穴を時計回りにA、B、C、Dと仮に称する。)、離型PETを剥離後、形成した各穴の中央間の長さL(L
AB、L
BC、L
CD、L
DA、L
AC、L
BD)(
図12参照)を非接触型画像測定器(ミツトヨ社製、Quick Vision、「QVH1X606-PRO III_BHU2G」)で測定した。
【0196】
(3)樹脂組成物層の熱硬化
(2)初期長の測定を終了した樹脂付ポリイミドフィルムのポリイミドフィルム面を、255mm×255mmサイズのガラス布基材エポキシ樹脂両面銅張積層板(0.7mm厚、松下電工社製「R5715ES」)上に設置し、四辺をポリイミド接着テープ(幅10mm)で固定し、100℃で30分間、さらに190℃で60分間加熱して、樹脂組成物層を熱硬化して、硬化物層を得た。
【0197】
(4)硬化収縮率の測定
熱硬化後、ポリイミド接着テープを剥がし、硬化物層付ポリイミドフィルムを積層板から取り外し、更に硬化物層をポリイミドフィルムから剥離して、(2)で形成した各穴の中央間の硬化後の長さL’(L’AB、L’BC、L’CD、L’DA、L’AC、L’BD)を、長さLと同じように非接触型画像測定器で測定した。
【0198】
穴A、穴B間の長さLABの硬化後の収縮率s1ABを下記式(1)により求めた。同様にしてLBC、LCD、LDA、LAC及びLBDの硬化後の収縮率s1BC、s1CD、s1DA、s1AC及びs1DAを求めた。
s1AB=(LAB-L’AB)/LAB (1)
【0199】
硬化物層の硬化収縮率は下記式(2)で算出した。
硬化収縮率[x-y方向の収縮率:S1](%)
={(s1AB+s1BC+s1CD+s1DA+s1AC+s1DA)/6}×100 (2)
【0200】
<反り試験>
実施例及び比較例で作製した樹脂ワニスを離型PET上に、乾燥後の樹脂組成物層の厚さが200μmとなるようにダイコーターにて塗布し、65℃~115℃(平均110℃)にて12分間乾燥し樹脂シートを得た。この樹脂シートを、バッチ式真空加圧ラミネーター(名機社製、MVLP-500)を用いて、厚み0.2mm、10cm×10cmのSUS304板上に樹脂組成物層が接するようにラミネートした。ラミネートは、30秒間減圧して気圧を13hPa以下とし、その後30秒間、100℃、圧力0.74MPaでプレスすることにより行った。ラミネートされた樹脂シートの離型PETを除去し190℃90分の条件で熱硬化し反り評価用サンプルを得た。
【0201】
得られた反り評価用サンプルの中央部が凸部となる側の面を下向きにして平滑な台上に設置し、平滑な台上と反り評価用サンプルとの距離が最も大きい箇所の距離を測定し反り量とした。反り量の絶対値が15mm未満を「○」、15mm以上を「×」とした。
【0202】
<ピール強度の測定>
(1)内層回路基板の下地処理
内層回路を形成したガラス布基材エポキシ樹脂両面銅張積層板(銅箔の厚さ18μm、基板厚み0.8mm、パナソニック社製、R1515A)の両面を、エッチング剤(メック社製、CZ8101)にて1μmエッチングして銅表面の粗化処理をおこなった。
【0203】
(2)樹脂シートのラミネート
銅箔(JX金属社製JXUT-II箔、厚さ18μm)を用意した。該銅箔のシード銅側に、ダイコーターにて実施例及び比較例で作製した樹脂ワニスを塗布し、65℃~115℃(平均100℃)にて7分間乾燥させ、厚さ100μmの樹脂層を有する樹脂シートを作製した。実施例及び比較例で作製した樹脂シートを、バッチ式真空加圧ラミネーター(名機製作所社製、MVLP-500)を用いて、内層回路基板の両面にラミネートした。ラミネートは、30秒間減圧して気圧を13hPa以下とし、その後30秒間、100℃、圧力0.74MPaで圧着することにより行った。
【0204】
(3)樹脂組成物層の熱硬化
樹脂シートを、130℃、30分続けて190℃、60分の硬化条件で樹脂組成物層を硬化した。その後銅箔を剥離した。
【0205】
(4)電気メッキ
この基板に、硫酸銅電解メッキを行い、25μmの厚さで導体層を形成した。次に、アニール処理を180℃にて60分間行った。この基板を評価基板とした。
【0206】
(5)メッキ導体層の引き剥がし強さ(ピール強度)の測定
評価基板の導体層に、幅10mm、長さ100mmの部分の切込みをいれ、この一端を剥がして、つかみ具であるオートコム型試験機(ティー・エス・イー製、AC-50C-SL)で掴み、室温中にて、50mm/分の速度で垂直方向に35mmを引き剥がした時の荷重(kgf/cm)を測定した。
【0207】
<平均線熱膨張係数(熱膨張率)、透磁率、及び損失係数の測定>
(1)評価用硬化物の調整
支持体として、フッ素樹脂系離型剤(ETFE)処理を施したPETフィルム(三菱樹脂社製、フルオロージュRL50KSE)を用いた以外は硬化収縮率の測定と同様にして、各実施例および各比較例で作製した樹脂ワニスと同じ樹脂組成物層を有する樹脂シートを得た。得られた樹脂シートを190℃で90分間加熱することにより樹脂組成物層を熱硬化し、PETフィルムを剥離することによりシート状の硬化体を得た。
【0208】
(2)平均線熱膨張係数(熱膨張率)の測定
得られた評価用硬化物を、幅5mm、長さ15mmの試験片に切断し、熱機械分析装置(リガク社製「Thermo Plus TMA8310」)を用いて、引張加重法にて熱機械分析を行った。詳細には、試験片を前記熱機械分析装置に装着した後、荷重1g、昇温速度5℃/分の測定条件にて連続して2回測定した。そして2回目の測定において、30℃から150℃までの範囲における平面方向の平均線熱膨張係数(α1;ppm/℃)を算出した。この操作を3回行いその平均値を表に示した。
【0209】
(3)比透磁率(透磁率)、損失係数の測定
得られた評価用硬化物を、幅5mm、長さ18mmの試験片に切断し、評価サンプルとした。この評価サンプルを、アジレントテクノロジーズ(Agilent Technologies)社製「HP8362B」を用いて、短絡ストリップライン法にて測定周波数を1MHzから10GHzの範囲とし、室温23℃にて透磁率(μ’)および透磁損失(μ’’)を測定した。また、測定周波数が100MHzである場合の透磁率、透磁損失を測定し、損失係数を得た。損失係数は、以下の式より算出した。
tanδ=μ’/μ’’
【0210】
<実施例1>
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(三菱ケミカル社製「828US」、エポキシ当量約180)10部、ビフェニル型エポキシ樹脂(日本化薬社製「NC3000L」、エポキシ当量約269)10部、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(DIC社製「N-680」、エポキシ当量210)10部、ナフチレンエーテル型エポキシ樹脂(DIC社製「EXA-7311」、エポキシ当量277)20部、磁性フィラー(エプソンアトミックス社製「AW2-08PF3F」、Fe-Cr-Si系合金(アモルファス)、平均粒径3.0μm)735部、トリアジン骨格含有フェノール樹脂(DIC社製「LA-7054」、水酸基当量約125の固形分60%のMEK溶液)10部、活性エステル硬化剤(DIC社製「HPC-8000-65T」、活性基当量約223の固形分65%のトルエン溶液)6部、両親媒性ポリエーテルブロックコポリマー(Dow Chemical Co.製「Fortegra100」)6部、カルボジイミド化合物(日清紡ケミカル社製「V-03」、固形分50%のトルエン溶液)4部、イミダゾール系硬化促進剤(四国化成工業社製「1-ベンジル-2-フェニルイミダゾール(1B2PZ)」、固形分10%のMEK溶液)3部、フェノキシ樹脂(三菱ケミカル社製「YL7553BH30」、固形分30%のMEKとシクロヘキサノンの1:1溶液)7部を混合し、高速回転ミキサーで均一に分散して、樹脂ワニス1を作製した。
【0211】
<実施例2>
実施例1において、両親媒性ポリエーテルブロックコポリマー(Dow Chemical Co.製「Fortegra100」)の量を6部から3部に変え、磁性フィラー(エプソンアトミックス社製「AW2-08PF3F」、Fe-Cr-Si系合金(アモルファス)、平均粒径3.0μm)の量を735部から710部に変えた。以上の事項以外は、実施例1と同様にして樹脂ワニス2を作製した。
【0212】
<実施例3>
実施例1において、両親媒性ポリエーテルブロックコポリマー(Dow Chemical Co.製「Fortegra100」)の量を6部から12部に変え、磁性フィラー(エプソンアトミックス社製「AW2-08PF3F」、Fe-Cr-Si系合金(アモルファス)、平均粒径3.0μm)の量を735部から800部に変えた。以上の事項以外は、実施例1と同様にして樹脂ワニス3を作製した。
【0213】
<実施例4>
実施例1において、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(三菱ケミカル社製「828US」、エポキシ当量約180)の量を10部から20部へ変え、ナフタレンエーテル骨格型エポキシ樹脂(DIC社製「EXA-7311」、エポキシ当量277)の量を20部から10部に変えた。以上の事項以外は、実施例1と同様にして樹脂ワニス4を作製した。
【0214】
<実施例5>
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(三菱ケミカル社製「828US」、エポキシ当量約180)23部、ビフェニル型エポキシ樹脂(日本化薬社製「NC3000L」、エポキシ当量約269)23部、磁性フィラー(エプソンアトミックス社製「AW2-08PF3F」、Fe-Cr-Si系合金(アモルファス)、平均粒径3.0μm)735部、トリアジン骨格含有フェノール樹脂(DIC社製「LA-7054」、水酸基当量約125の固形分60%のMEK溶液)6部、活性エステル硬化剤(DIC社製「HPC-8000-65T」、活性基当量約223の固形分65%のトルエン溶液)18部、両親媒性ポリエーテルブロックコポリマー(Dow Chemical Co.製「Fortegra100」)6部、カルボジイミド化合物(日清紡ケミカル社製「V-03」、固形分50%のトルエン溶液)8部、アミン系硬化促進剤(和光純薬工業社製「4-ジメチルアミノピリジン(DMAP)」、固形分10%のMEK溶液)1.5部、フェノキシ樹脂(三菱ケミカル社製「YL7553BH30」、固形分30%のMEKとシクロヘキサノンの1:1溶液)14部を混合し、高速回転ミキサーで均一に分散して、樹脂ワニス5を作製した。
【0215】
<実施例6>
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(三菱ケミカル社製「828US」、エポキシ当量約180)20部、ビフェニル型エポキシ樹脂(日本化薬社製「NC3000L」、エポキシ当量約269)10部、ナフタレンエーテル型エポキシ樹脂(DIC社製「EXA-7311」、エポキシ当量277)20部、磁性フィラー(エプソンアトミックス社製「AW2-08PF3F」、Fe-Cr-Si系合金(アモルファス)、平均粒径3.0μm)735部、トリアジン骨格含有フェノール樹脂(DIC社製「LA-7054」、水酸基当量約125の固形分60%のMEK溶液)14部、活性エステル硬化剤(DIC社製「HPC-8000-65T」、活性基当量約223の固形分65%のトルエン溶液)6部、両親媒性ポリエーテルブロックコポリマー(Dow Chemical Co.製「Fortegra100」)6部、イミダゾール系硬化促進剤(四国化成工業社製「1-ベンジル-2-フェニルイミダゾール(1B2PZ)」、固形分10%のMEK溶液)3部、フェノキシ樹脂(三菱ケミカル社製「YL7553BH30」、固形分30%のMEKとシクロヘキサノンの1:1溶液)7部を混合し、高速回転ミキサーで均一に分散して、樹脂ワニス6を作製した。
【0216】
<比較例1>
実施例1において、両親媒性ポリエーテルブロックコポリマー(Dow Chemical Co.製「Fortegra100」)を含有させなかった。以上の事項以外は、実施例1と同様にして樹脂ワニス7を作製した。
【0217】
<比較例2>
実施例5において、両親媒性ポリエーテルブロックコポリマー(Dow Chemical Co.製「Fortegra100」)を含有させなかった。以上の事項以外は、実施例5と同様にして樹脂ワニス8を作製した。
【0218】
上述した実施例及び比較例の結果を、下記の表に示す。また、下記の表において、略称の意味は、下記のとおりである。
828US:ビスフェノールA型エポキシ樹脂(三菱ケミカル社製、エポキシ当量約180)
NC3000L:ビフェニル型エポキシ樹脂(日本化薬社製、エポキシ当量約269)
N-680:クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(DIC社製、エポキシ当量210)
EXA-7311:ナフタレンエーテル型エポキシ樹脂(DIC社製、エポキシ当量277)
AW2-08PF3F:磁性フィラー(エプソンアトミックス社製、Fe-Cr-Si系合金(アモルファス)、平均粒径3.0μm)
LA-7054:トリアジン骨格含有フェノール樹脂(DIC社製、水酸基当量約125の固形分60%のMEK溶液)
HPC-8000-65T:活性エステル硬化剤(DIC社製、活性基当量約223の固形分65%のトルエン溶液)
Fortegra100:両親媒性ポリエーテルブロックコポリマー(Dow Chemical Co.製)
V-03:カルボジイミド化合物(日清紡ケミカル社製、固形分50%のトルエン溶液)
1B2PZ:イミダゾール系硬化促進剤(四国化成工業社製「1-ベンジル-2-フェニルイミダゾール」、固形分10%のMEK溶液)
DMAP:アミン系硬化促進剤(和光純薬工業社製「4-ジメチルアミノピリジン」、固形分10%のMEK溶液)
YL7553BH30:フェノキシ樹脂(三菱ケミカル社製、固形分30%のMEKとシクロヘキサノンの1:1溶液)
【0219】
【0220】
各実施例において、(E)~(G)成分を含有しない場合であっても、程度に差はあるものの上記実施例と同様の結果に帰着することを確認している。
【符号の説明】
【0221】
10 配線板
20 コア基材
20a 第1主表面
20b 第2主表面
22 スルーホール
22a スルーホール内配線
24 外部端子
30 磁性部
32 第1磁性層
34 第2磁性層
36 ビアホール
36a ビアホール内配線
38 第3磁性層
40 コイル状導電性構造体
42 第1配線層
42a ランド
44 第2配線層
46 第3配線層
50 キャリア付金属層付き基材
51 基材
52 キャリア付金属層
521 第1金属層
522 第2金属層