(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-28
(45)【発行日】2022-03-08
(54)【発明の名称】ヘリウム富化ガスの製造方法及びガス分離システム
(51)【国際特許分類】
B01D 53/22 20060101AFI20220301BHJP
B01D 71/64 20060101ALI20220301BHJP
B01D 69/02 20060101ALI20220301BHJP
【FI】
B01D53/22
B01D71/64
B01D69/02
(21)【出願番号】P 2017199288
(22)【出願日】2017-10-13
【審査請求日】2020-08-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000000206
【氏名又は名称】宇部興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】特許業務法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】武田 達志
(72)【発明者】
【氏名】林 学
【審査官】高橋 成典
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-033222(JP,A)
【文献】特開2003-212523(JP,A)
【文献】特開2016-175000(JP,A)
【文献】特開昭63-126522(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-1341068(KR,B1)
【文献】特開昭54-130484(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/22
61/00 - 71/82
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一つのガス分離膜ユニットにヘリウムを含む原料ガスを供給するヘリウム富化ガスの製造方法であって、
前記ガス分離膜ユニットは、前記原料ガスが供給されるガス入口と、透過ガス排出口と、非透過ガス排出口と、を少なくとも備え、
前記透過ガス排出口から排出された透過ガスの一部を帰還させて前記原料ガスに合流させるとともに、透過ガスの残分をヘリウム富化ガスとして取り出
し、
前記ガス分離膜ユニットのガス分離膜がポリイミドからなり、
前記原料ガスは、ヘリウムガス以外に、二酸化炭素又はアルゴンを含み、
前記原料ガスに合流する前記透過ガスの流量が、前記原料ガスと合流後の混合ガスの流量に対して合流する透過ガスの流量が50%以上80%以下である、ヘリウム富化ガスの製造方法。
【請求項2】
前記原料ガスに含まれるヘリウムガス以外の成分が、二酸化炭素及びアルゴンを含む、請求項1に記載のヘリウム富化ガスの製造方法。
【請求項3】
前記原料ガスに含まれるヘリウムガス以外の成分
が、酸素及び窒素
を含む、請求項1又は2に記載のヘリウム富化ガスの製造方法。
【請求項4】
原料ガス中のヘリウム濃度が8
5mol%以上である、請求項1~3の何れか1項に記載のヘリウム富化ガスの製造方法。
【請求項5】
透過ガス排出口から排出される透過ガス流量中、原料ガスに合流する割合は60%以上である、請求項1~4の何れか1項に記載のヘリウム富化ガスの製造方法。
【請求項6】
ガス分離膜ユニットのガス分離膜のガス分離選択性P' He / P' N
2が30以上200以下であ
り、P' He / P' O2は、3以上30以下であり、P' He / P' CO2は、2以上20以下であり、P' He / P' Arは、20以上150以下である請求項1~5の
何れか1項に記載のヘリウム富化ガスの製造方法。
【請求項7】
一つのガス分離膜ユニットからなるガス分離システムであって、
前記ガス分離膜ユニットは、ガス入口、透過ガス排出口及び非透過ガス排出口を少なくとも備え、
前記ガス分離膜ユニットのガス入口に、ヘリウムを含む原料ガスの供給ラインを連結し、
前記ガス分離膜ユニットの透過ガス排出口及び非透過ガス排出口にそれぞれ透過ガス排出ライン及び非透過ガス排出ラインを連結しており、
透過ガス排出ラインと原料ガスの供給ラインとを連結して、透過ガス排出ガスの一部を原料供給ガスに合流させる帰還ラインを有し、透過ガス排出ガスの残りを、ヘリウム富化ガスとして取り出すようになされて
おり、
前記ガス分離膜ユニットのガス分離膜がポリイミドからなり、
前記原料ガスは、ヘリウムガス以外に、二酸化炭素又はアルゴンを含み、
前記
原料ガスに合流する前記透過ガスの流量は、前記原料ガスと合流後の混合ガスの流量に対して、合流する透過ガスの流量が50%以上80%以下であるようになされている、ガス分離システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘリウム富化ガスの製造方法及びヘリウム富化ガスを製造するガス分離システムに関する。
【背景技術】
【0002】
ヘリウムを含む原料ガスを各ガスに分離する方法として、膜に対するガスの透過速度の差を利用した膜分離法が知られている。この方法では通常、透過ガスを回収することにより、目的ガスである高純度のヘリウム富化ガスを得ることができる。原料ガスに含まれるヘリウムの膜に対する単位膜面積・単位時間・単位分圧差あたりの透過体積である透過速度は、P'He(単位は、×10-5cm3(STP)/cm2・sec・cmHg)で表すことができる。
【0003】
一般に、ガス分離膜は、ガス選択透過性を有するガス分離膜を、少なくともガス入口、透過ガス排出口、非透過ガス排出口が備えられている容器内に収容してなるガス分離膜モジュールとして使用されている。ガス分離膜は、そのガス供給側とガス透過側の空間が隔離されるように、容器内に装着されている。ガス分離システムにおいては、所要の膜面積とするために、一般に複数のガス分離膜モジュールを並列に組み合わせたガス分離膜ユニットとして使用される。ガス分離膜ユニットを構成する複数のガス分離膜モジュールは、ガス入口、非透過ガス排出口、透過ガス排出口を共用するため、ガス分離膜ユニットは、実質的に膜面積が大きいガス分離膜モジュールとして作用する。
【0004】
従来、ヘリウム精製にガス分離膜を用いる手法が取り入れられている。ガス分離膜によるヘリウム精製としては、例えば、
図3のように、1段のガス分離膜ユニットに原料ガスを供給して透過ガスをヘリウム富化ガスとして取り出す方法が挙げられる。またガス分離膜ユニットを2段連結して設け、一段目の透過ガスを二段目に供給して、二段目の透過ガスをヘリウム富化ガスとして取り出す方法や(特許文献1の
図4)、一段のガス分離膜ユニットを用い、一段目の非透過ガスを一段目に帰還させながら透過ガスを取り出す方法(特許文献1の
図5)等が挙げられる。
また、特許文献2に記載のように、不純物として少なくとも酸素を含むヘリウムガスを密閉容器から連続的に抜き出し、ガス分離膜を透過させることによってヘリウムガスを精製し、前記密閉容器に循環回収させるヘリウムガスの回収精製方法において、前記ガス分離膜における非透過ガス中に含まれる酸素濃度が一定となるように非透過ガス流量を制御するヘリウムガスの回収精製方法も提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2004-518522号公報
【文献】特開2003-212523号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図3のガス分離システム100では、製品ガス中のヘリウム純度を高めようとすると、透過ガス流量に対する非透過ガス流量を増やさざるを得ず、これにより回収率が犠牲になる。また一方、回収率を高めようとすると、ヘリウム純度の向上に限界がある、といった課題があった。
また、特許文献1の
図4の2段階のガス分離は、1段に比べて設備コストが大きいという課題がある。更に、特許文献1の
図5のように、ヘリウムの回収率及び純度を高めようとすると、低温処理による不純分の除去処理が必要となり、設備コストが大きいという課題があった。
更に、特許文献2に記載のように、密閉容器を用いて循環回収させる方法は、回収までに時間がかかる点や特殊な密閉容器を必要する点等で処理コストが大きいという課題があった。
【0007】
したがって本発明の課題は、前述した従来技術が有する欠点を解消し得るガス分離システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、一つのガス分離膜ユニットにヘリウムを含む原料ガスを供給するヘリウム富化ガスの製造方法であって、
前記ガス分離膜ユニットは、前記原料ガスが供給されるガス入口と、透過ガス排出口と、非透過ガス排出口と、を少なくとも備え、
前記透過ガス排出口から排出された透過ガスの一部を帰還させて前記原料ガスに合流させるとともに、透過ガスの残分をヘリウム富化ガスとして取り出す、ヘリウム富化ガスの製造方法を提供するものである。
【0009】
また本発明は、一つのガス分離膜ユニットからなるガス分離システムであって、
前記ガス分離膜ユニットは、ガス入口、透過ガス排出口及び非透過ガス排出口を少なくとも備え、
前記ガス分離膜ユニットのガス入口に、ヘリウムを含む原料ガスの供給ラインを連結し、
前記ガス分離膜ユニットの透過ガス排出口及び非透過ガス排出口にそれぞれ透過ガス排出ライン及び非透過ガス排出ラインを連結しており、
透過ガス排出ラインと原料ガスの供給ラインとを連結して、透過ガス排出ガスの一部を原料供給ガスに合流させる帰還ラインを有し、透過ガス排出ガスの残りを、ヘリウム富化ガスとして取り出すようになされている、ガス分離システムを提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば従来のガス分離システム及びヘリウム富化ガスの製造方法に比べて設備等のコストを低減し、簡便にヘリウム富化ガスの高回収率及び高純度を達成できる、ヘリウム富化ガスの製造方法及びガス分離システムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本発明の一の実施形態であるヘリウム分離用ガス分離システムの構成を示す概略図である。
【
図2】
図2は、本発明のガス分離システムに用いられるガス分離膜ユニットを構成するモジュールの一例の構造を示す模式図である。
【
図3】
図3は、従来のヘリウム分離用ガス分離システムの構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき図面を参照しながら説明する。まず、
図1及び
図2に基づき、本発明の好ましい実施形態であるガス分離システム10及びこれを用いてヘリウム富化ガスを製造する方法についての本発明の好ましい実施態様について説明する。
図1に示すように、本実施形態のガス分離システム10は、1つのガス分離膜ユニット11からなる。ガス分離膜ユニット11としては、例えば、
図2に示すとおり、中空糸膜等からなり、ガス選択透過性を有するガス分離膜30をケーシング31内に収容してなるモジュール40を用いることができる。本実施形態におけるガス分離膜ユニット11におけるガス分離膜は、ヘリウムの透過速度P'He(cm
3(STP)/cm
2・sec・cmHg)がO
2の透過速度P'O
2(cm
3(STP)/cm
2・sec・cmHg)及びN
2の透過速度P'N
2(cm
3(STP)/cm
2・sec・cmHg)よりも高いものである。また、本実施形態におけるガス分離膜ユニット11におけるガス分離膜は、ヘリウムの透過速度P'He(cm
3(STP)/cm
2・sec・cmHg)がCO
2の透過速度P'CO
2(cm
3(STP)/cm
2・sec・cmHg)及びアルゴンの透過速度P'Ar(cm
3(STP)/cm
2・sec・cmHg)よりも高いものであることが好ましい。
【0013】
本実施形態のガス分離膜ユニット11は、例えば、
図2に示すガス分離膜モジュール40を一本用いたものであるか、或いは、このモジュール40を複数本並列してなるものである。モジュール40におけるケーシング31は、対向する二面が開口して開口部32を形成している。この開口部32は、ガス分離膜30をケーシング31内に挿入するためのものであり、ガス分離膜30の開口部ではない点に留意すべきである。ガス分離膜30は、この開口部32を通じてケーシング31内に収容される。ガス分離膜30が多数本の中空糸膜が長手方向を一致するように束ねてなる中空糸膜束から構成される場合、該ガス分離膜30はその収容状態において、ケーシング31の各開口部32の付近において中空糸膜の各端部が開口するように、ケーシング31内に収容される。
【0014】
ガス分離膜30がケーシング31内に収容された状態においては、中空糸膜の延びる方向であるY方向の両端部の位置において、ガス分離膜30が管板33,34によってケーシング31の内壁に固定されている。ケーシング31の各開口部32は、蓋体35,36によって閉塞されている。蓋体35にはガス入口37が設けられている。一方、蓋体36には非透過ガス排出口38が設けられている。分離対象となる混合ガスである原料ガスは、蓋体35のガス入口37からモジュール内(すなわちユニット内)に導入される。導入されたガスのうち、ガス分離膜30を透過したガスは、ケーシング31に設けられた透過ガス排出口39からモジュール外(すなわちユニット外)に排出される。一方、ガス分離膜30を透過しなかった非透過ガスは、蓋体36の非透過ガス排出口38からモジュール外(すなわちユニット外)に排出される。また、場合によっては、ケーシング31にパージガスの供給口(図示せず)を設けてもよい。以上、
図2の分離膜モジュールを例に挙げて説明したが、当然ながら、本発明は他の構成の分離膜モジュールにも応用可能であり、例えば、シェルフィード型のモジュールやスパイラル型モジュールにも応用できる。
【0015】
図1に戻ると、ガス分離膜ユニット11のガス入口11aには、原料である混合ガス源(図示せず)からの原料ガスをガス分離膜ユニット11へ供給するための原料ガス供給ライン16が連結されている。一方、ガス分離膜ユニット11の非透過ガス排出口11cには、ガス分離膜ユニット11の非透過ガスをシステム10外へ排出するための非透過ガス排出ライン18が連結されている。またガス分離膜ユニット11の透過ガス排出口11bには、透過ガス排出ライン19が連結されている。非透過ガス排出ライン18は、ガス分離膜ユニットのガス分離膜12に対する供給側の圧力を調整するための背圧調整器であるバルブ22を有している。
【0016】
透過ガス排出ライン19は、原料ガス供給ライン16に連結する帰還ライン14と、システム10外に透過ガスを取り出す取り出し用ライン15とに分岐している。この分岐箇所には、バルブ13が設けられている。バルブ13は、透過ガス排出ライン19から、帰還ライン14と、取り出し用ライン15とにそれぞれ流出する透過ガス流量を調整可能に構成されている。本実施形態のシステム10は、このように構成することにより、透過ガス排出口から排出された透過ガスの一部を原料ガス供給ライン16に合流させ、残りを製品ガスであるヘリウム富化ガスとして取り出し可能に構成されている。バルブ13は、自動及び手動のいずれで制御されるものであってもよい。例えば、製品ガスとして取り出すヘリウム富化ガス中のヘリウム濃度を検出する不図示の検出装置を設け、この検出装置の検出結果に基づいて、帰還ライン14における流量及び取り出し用ライン15における流量をそれぞれ増減させるように構成してもよい。
【0017】
本実施形態において、原料ガス供給ライン16と透過ガス排出ライン19とは、帰還ライン14により直接連結されている。たとえば、特許文献2に記載されているような、ガスを貯留するための密閉容器は帰還ライン14上に設けられていない。
【0018】
圧縮手段21が原料ガス供給ライン16の途中に介在配置されている。圧縮手段21は、原料ガスを加圧して、ガス分離膜ユニット11に供給する目的で設置されている。帰還ライン14は、原料ガス供給ライン16における圧縮手段21の吸込側に連結される。
【0019】
原料ガスとしては、ヘリウムに加えて、空気を含有するものが挙げられる。更に具体的には、原料ガスとしては、ヘリウムに加えて二酸化酸素、酸素、窒素及びアルゴンから選ばれる少なくとも一種を含有するものが挙げられ、ヘリウムに加えて、二酸化酸素、酸素及び窒素を含有するものが一般的であり、ヘリウムに加えて二酸化酸素、酸素、窒素及びアルゴンを含有するものが好ましい。帰還ラインからの合流ガスと混合する前の原料ガスにおけるヘリウム濃度は、例えば80mol%以上であることが本実施形態のシステムにより取り出されるヘリウム富化ガスの純度を高いものとする点で好ましく、85mol%以上であることが更に好ましく、89mol%以上であることが特に好ましい。
【0020】
上記の本実施形態のシステム10によれば、原料ガスは原料ガス供給ライン16において、帰還ライン14を通じて透過ガスと合流することにより、ヘリウムが富化される。更に、このヘリウムが富化された原料ガス(以下、帰還された透過ガスとの合流後の原料ガスを「合流後の混合ガス」ともいう)がガス分離膜ユニット11に供給されて透過ガス排出口11bから透過ガスとして排出されることで更にヘリウムが富化される。このようにして、本実施形態において取り出されるヘリウム富化ガスは、製品ガスとして高純度なものとなる。本発明者は、ヘリウム精製の場合には、本実施形態のシステムにより、容易にヘリウムの高回収率と高純度を達成できることを見出した。好ましくは、本実施形態は、一定の膜面積を用いる場合においても、透過ガスの帰還量をそれほど大きくせずに、つまり圧縮動力をそれほど大きくせずに、容易にヘリウムの高回収率と高純度を達成できる。
【0021】
本実施形態の特徴の一つに、透過ガス排出口11bから排出された透過ガスの一部をそのまま、システム10外に製品であるヘリウム富化ガスとして取り出す点にある。取り出し用ライン15から取り出されたヘリウム富化ガスは、そのまま製品ガスとすることができる。もちろん、取り出し用ライン15から取り出されたヘリウム富化ガスを更なる精製にかけてもよい。その場合の精製手段としては、吸着法、深冷分離が挙げられる。ヘリウム富化ガスの更なる精製は、ガス分離膜ユニットによるものを除くことが、コストの観点から好ましい。
【0022】
取り出し用ライン15から取り出されるヘリウム富化ガスのヘリウム濃度は、例えば95mol%以上であることが好ましく、98mol%以上であることが更に好ましく、99mol%以上であることが特に好ましい。
【0023】
更に、本実施形態において、ヘリウム回収率は80%以上であることが好ましく、85%以上であることがより好ましく、90%以上であることが特に好ましい。ヘリウム回収率は、時間当たりに供給される原料ガス中のヘリウム量に対する、時間当たりに取り出し用ライン15から取り出されるヘリウム富化ガス中のヘリウム量の割合である。
【0024】
また、透過ガス排出口11bから排出される透過ガス流量中、帰還ライン14により原料ガス供給ライン16に合流する割合(還流率)は60%以上であることが、ヘリウムの高純度及び高回収率の達成しやすさから好ましく、70%以上であることがより好ましい。
【0025】
また、原料ガス供給ライン16に供給される原料ガスと、それと合流する透過ガスの流量は、原料ガス供給ライン16に供給される合流後の混合ガスの流量に対して、合流する透過ガスの流量が50%以上80%以下であることが、高純度及び高回収率の達成しやすさ、及び一定の膜面積において圧縮動力を低減できる点で好ましく、30%以上70%以下であることがより好ましい。
【0026】
上記の純度及び回収率を、一定の膜面積により低い圧縮動力で実現しやすい点から、ガス分離膜ユニットのガス分離選択性P' He / P' N2は、30以上300以下であることが好ましく、100以上200以下であることがより好ましい。同様の観点から、ガス分離膜ユニットのガス分離選択性P' He / P' O2は、3以上30以下であることが好ましく、5以上20以下であることがより好ましい。同様の観点から、ガス分離膜ユニットのガス分離選択性P' He / P' CO2は、2以上20以下であることが好ましく、3以上10以下であることがより好ましい。同様の観点から、ガス分離膜ユニットのガス分離選択性P' He / P' Arは、20以上150以下であることが好ましく、30以上100以下であることがより好ましい。ここでいうガス分離選択性は25℃における値である。
【0027】
ガス分離膜ユニット11におけるガス分離膜は、供給される原料ガスや目的とする製品ガスの種類に応じて適宜選択できる。ガス分離膜としては、当該技術分野においてこれまで用いられているものと同様のものを特に制限なく用いることができる。例えば高分子材料としては、シリコーン樹脂、ポリブタジエン樹脂などのゴム状ポリマー材料、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリスルホン、ポリカーボネート、セルロースなどのガラス状ポリマー材料等が挙げられるほか、ゼオライトなどのセラミックス材料が挙げられる。ガス分離膜は高分子膜であることが好ましい。またガス分離膜は、均質膜、均質層と多孔層とからなる非対称膜、微多孔質膜などいずれであってもよい。ガス分離膜のケーシング内への収納形態も、プレートアンドフレーム型、スパイラル型、中空糸型などいずれであってもよい。特に好適に用いられるガス分離膜は、均質層の厚さが10nm以上200nm以下であり、多孔質層の厚さが20μm以上200μm以下の非対称構造を持ち、内径が30μm以上500μm以下程度である芳香族ポリイミドの中空糸ガス分離膜である。
【0028】
原料ガス供給ライン16は、ガス分離膜ユニット11に原料ガスを供給する前段階として、ヘリウムの更なる精製手段を有していてもよい。例えば、そのような手段としては、クーラーなどによる水分凝縮や、有機質等の不純物を除去するためのフィルター等が挙げられる。そのような精製手段は、原料ガス供給ライン16における帰還ガス14の連結箇所の上流及び下流のいずれであってもよいが、上流に置く方が好ましい。システム10は、ガス分離膜ユニット11の上流にガス分離膜ユニット11以外のガス分離膜ユニットを有しないことが、システムのコスト低減のため好ましい。
【0029】
更に、エネルギー効率等の点から、一般に、中空糸膜からなるガス分離膜ユニット11に送り込むガスの圧力は0.3MPaG~1.4MPaGであることが好ましく、0.7MPaG~1.0MPaGであることがより好ましい。
また運転時のガス分離膜モジュールの温度は、0~150℃、5~80℃の範囲であることが、運転効率や安定した運転のために好ましい。
【0030】
以上、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明したが、本発明は前記実施形態に制限されない。例えば前記実施形態においては、バルブによって、透過ガスを、帰還ラインと取り出し用ラインに分岐させていたが、バルブの代わりに、任意の分岐手段、例えば オリフィスを用いていてもよい。
【0031】
また、上記各実施形態では各ガス分離膜ユニットの一例として、中空糸膜を有するガス分離膜ユニットを用いたが、これに代えて他の形態のガス分離膜ユニットを用いてもよい。
【実施例】
【0032】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。
【0033】
〔実施例1〕
図1に示すガス分離システム10を用いて、ヘリウムを含む混合ガスである原料ガスの分離を行った。同システム10における第1圧縮手段21としては圧縮機を用いた。原料ガスは、組成が表1に示すものを用いた。ガス分離膜ユニット11を構成するモジュールとして、上述した非対称構造を有し、上記範囲の内径を有するポリイミド中空糸膜から構成され、P'Heが23×10
-5(cm
3(STP)/cm
2・sec・cmHg)、P'CO
2が6.6×10
-5(cm
3(STP)/cm
2・sec・cmHg)、P' O
2が2.5×10
-5(cm
3(STP)/cm
2・sec・cmHg)、P'
N
2が0.33×10
-5(cm
3(STP)/cm
2・sec・cmHg)、P'
Arが0.64×10
-5(cm
3(STP)/cm
2・sec・cmHg)であるガス分離膜をケース内に収容するガス分離膜モジュールを用いた。これらの各透過速度は運転温度25℃における数値である(以下同様)。
【0034】
ガス分離膜ユニット11を構成するガス分離膜モジュールの本数を1本に設定し、ガス分離膜ユニット11の運転温度を25℃に設定した。原料ガスを、流量20Nm3/h、温度25℃、圧力0MPaGの状態で帰還ガスと合流させ、合流後の混合ガスを圧縮手段21を介して圧力0.8MPaGの状態でガス分離膜ユニット11に供給させて、表1の条件にてガス分離システム10を運転し、透過ガス中、原料ガスに合流しない残分を製品ガスとして取り出したところ、表1に示すように、製品ガスのヘリウム純度は99.35mol%、ヘリウム回収率は96.6%であった。
【0035】
【0036】
〔比較例1〕
図3に示すガス分離システム100を用いた。ガス分離膜ユニット111を構成するモジュールとして、実施例1で用いたものと同じガス分離膜モジュールを用いた。ガス分離膜ユニット111を構成するガス分離膜モジュールの本数を1本に設定した。ガス分離膜ユニット111の運転温度を25℃に設定した。原料ガスは、実施例1と同様のもの(組成が表2に示すもの)を用いた。原料ガスは、流量20Nm
3/h、温度25℃、圧力0.8MPaGの状態でガス分離膜ユニット111に供給させ、表2の条件にてガス分離システム100を運転し、透過ガスを製品ガスとして取り出したところ、表2に示すように、製品ガスのヘリウム純度は94.24mol%、ヘリウム回収率は99.99%であった。
【0037】
【0038】
〔比較例2〕
ガス分離膜ユニット111として、比較例1で用いたガス分離膜モジュールと同じ構造・内径・ガス選択性を有し、且つ比較例1で用いたガス分離膜モジュールに対して膜面積が43%であるポリイミド中空糸膜からなるガス分離膜モジュールを用いた。この点以外は比較例1と同様にした。原料ガスは、流量20Nm3/h、温度25℃、圧力0.8MPaGの状態でガス分離膜ユニット111に供給させ、表3の条件にてガス分離システム100を運転し、透過ガスを製品ガスとして取り出したところ、表3に示すように、製品ガスのヘリウム純度は99.12mol%、ヘリウム回収率は78.2%であった。
【0039】
【0040】
上記の通り、本発明によれば、高いヘリウム純度と回収率を1段のガス分離システムにて実現できることが判る。一方、透過ガスを原料ガスに帰還させない場合、高い回収率を得るためには比較例1の通り、高いヘリウム純度が得られず、高い純度を得ようとして、非透過ガス量を増やそうとすると、比較例2の通り、回収率が大幅に低下してしまうことが判る。
【符号の説明】
【0041】
10,100 ガス分離システム
11,111 ガス分離膜ユニット
12,112 ガス分離膜
11a、111a ガス入口
11b、111b 透過ガス排出口
11c、111c 非透過ガス排出口
14 帰還ライン
16,116 原料ガス供給ライン
18,118 非透過ガス排出ライン
19,119 透過ガス排出ライン
40 ガス分離膜モジュール
21,121 圧縮手段
22、122 背圧調整器