(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-28
(45)【発行日】2022-03-08
(54)【発明の名称】ゴルフクラブ用グリップおよびゴルフクラブ
(51)【国際特許分類】
A63B 60/08 20150101AFI20220301BHJP
A63B 53/14 20150101ALI20220301BHJP
A63B 102/32 20150101ALN20220301BHJP
【FI】
A63B60/08
A63B53/14 Z
A63B102:32
(21)【出願番号】P 2017211096
(22)【出願日】2017-10-31
【審査請求日】2020-09-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100125184
【氏名又は名称】二口 治
(74)【代理人】
【識別番号】100188488
【氏名又は名称】原谷 英之
(72)【発明者】
【氏名】郷司 翔
(72)【発明者】
【氏名】志賀 一喜
【審査官】大隈 俊哉
(56)【参考文献】
【文献】特表2005-508769(JP,A)
【文献】特開2016-214679(JP,A)
【文献】特開2003-260155(JP,A)
【文献】特表平6-510248(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63B 49/00~60/64
A63B 102/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャフトが挿嵌される円筒部を有し、
前記円筒部が、基材ゴムと架橋剤とを含有するゴム組成物から形成されており、
前記基材ゴム中の非極性ゴムの含有率が50質量%以上であり、
前記ゴム組成物が、DBP吸油量が50cm
3
/100g~150cm
3
/100gのカーボンブラック、DBP吸油量が100cm
3
/100g~400cm
3
/100gのシリカ、DBP吸油量が10cm
3
/100g~30cm
3
/100gの酸化チタン、および、DBP吸油量が50cm
3
/100g~100cm
3
/100gの焼成カオリンよりなる群から選択される少なくとも1種の吸油剤を含有し、
前記吸油剤の使用量が、基材ゴム100質量部に対して、6質量部~20質量部であり、
前記円筒部の表面に、高さ(h)が0.07mm以上であり、かつ、底部の最小幅(w1)が0.2mm~0.8mmである微細突起を複数有することを特徴とするゴルフクラブ用グリップ。
【請求項2】
前記円筒部は、前記微細突起が1cm
2あたりに150個~2500個存在する微細突起存在領域を有する請求項1に記載のゴルフクラブ用グリップ。
【請求項3】
前記微細突起の高さ(h)と底部の最小幅(w1)との比(h/w1)が、0.1~1.5である請求項1または2に記載のゴルフクラブ用グリップ。
【請求項4】
前記微細突起の立体形状が、錐台状であり、
上底の最小幅(w3)と下底の最小幅(w1)との比(w3/w1)が、0.3~1.0である請求項1~3のいずれか一項に記載のゴルフクラブ用グリップ。
【請求項5】
前記非極性ゴムが、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン-ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、天然ゴム、エチレン-プロピレンゴム、エチレン-プロピレン-ジエンゴムおよびブチルゴムよりなる群から選択される少なくとも1種である請求項1~4のいずれか一項に記載のゴルフクラブ用グリップ。
【請求項6】
前記ゴム組成物中の吸油剤の基材ゴム100gに対する含有量(g)とDBP吸油量(cm
3
/100g)との積(含有量×DBP吸油量)が、200~8000である請求項1~5のいずれか一項に記載のゴルフクラブ用グリップ。
【請求項7】
シャフトと、前記シャフトの一端に取り付けられたヘッドと、前記シャフトの他端に取り付けられたグリップとを備え、
前記グリップが、請求項1~6のいずれか1項に記載のゴルフクラブ用グリップであることを特徴とするゴルフクラブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴルフクラブ用グリップに関する。
【背景技術】
【0002】
ゴルフクラブは、シャフトと、このシャフトの前端近傍に装着されたヘッドと、シャフトの後端近傍が挿嵌されるグリップとから構成されている。グリップは、ゴルフクラブをスイングするゴルファーが手で把持する部分であり、ゴルファーの運動がゴルフクラブに伝達される際に極めて重要な役割を果たす部分である。グリップの重要な要求性能として、スイング中にゴルファーの手とグリップとの滑りが抑制されることが挙げられる。
【0003】
一般にグリップは、ゴム、合成樹脂等の柔軟な材料から成形されており、さらに防滑性能を高めるために、その表面に溝や凹みのパターンが形成されている(例えば、特許文献1(段落0035、
図4)参照)。
【0004】
また、特許文献2には、グリップ表面に高さが異なるステムの個別のゾーンを有するステム配列を形成したグリップが提案されている(特許文献2(段落0040~0043)参照)。この特許文献2のグリップでは、第1ゾーンには、約0.020~約0.030インチ(0.508~0.762mm)の高さを有するステムが形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-214704号公報
【文献】特表2005-508769号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
引用文献2には、グリップの防滑性能を高めるために、グリップ表面に微細な突起を設けることが提案されている。しかしながら、突起の形状が微細な場合、突起先端が使用者の指紋の溝に入り込むため、微細突起に使用者の皮脂が付着しやすくなる。さらに、突起の形状を微細にした場合、突起の強度を維持するために突起間の溝の深さを浅くする必要がある。そのため、微細突起に付着した使用者の皮脂はグリップ表面に留まることとなり、グリップ表面のドライ性が低下する傾向がある。グリップ表面のドライ性が低下すると、使用者が滑りやすいと感じてしまい、無意識的にグリップを強く握り、ヘッドスピードが低下する。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、打撃時に良好な防滑性能が得られ、ヘッドスピードが向上するゴルフクラブ用グリップを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決することができた本発明のゴルフクラブ用グリップは、シャフトが挿嵌される円筒部を有し、前記円筒部が、基材ゴムと架橋剤とを含有するゴム組成物から形成されており、前記基材ゴム中の非極性ゴムの含有率が50質量%以上であり、前記円筒部の表面に、高さ(h)が0.07mm以上であり、かつ、底部の最小幅(w1)が0.2mm~0.8mmである微細突起を複数有することを特徴とする。
【0009】
前記グリップは、非極性ゴムを主成分とするグリップは、微細突起に付着した使用者の皮脂を吸収することができ、グリップ表面をドライな状態に保つことができる。さらに、前記グリップは、使用者が握った際に、微細突起が使用者の指紋の溝に入り込むことができる。そのため、前記微細突起が、使用者の指紋の溝内部でアンカー効果を発揮し、防滑性能が向上する。また、指紋の溝内部まで入り込む微細突起は、指紋と連動して動くことで、感覚的にも滑りにくいと感じさせることができる。そのため、使用者のグリップを握る力が無意識的に弱くなり、スイングに対する体の抵抗が小さくなることで、ヘッドスピードが向上する。
【0010】
本発明には、シャフトと、前記シャフトの一端に取り付けられたヘッドと、前記シャフトの他端に取り付けられたグリップとを備え、前記グリップが、前記ゴルフクラブ用グリップであるゴルフクラブも含まれる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、打撃時に良好な防滑性能が得られ、ヘッドスピードが向上するゴルフクラブ用グリップが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図9】ゴルフクラブ用グリップの一例を示す斜視図である。
【
図10】ゴルフクラブ用グリップの一例を示す断面模式図である。
【
図11】
図10のゴルフクラブ用グリップの拡大断面模式図である。
【
図13】グリップNo.1の動摩擦係数の測定結果を示す図である。
【
図14】グリップNo.11の動摩擦係数の測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のゴルフクラブ用グリップは、シャフトが挿嵌される円筒部を有し、前記円筒部が、基材ゴムと架橋剤とを含有するゴム組成物から形成されており、前記基材ゴム中の非極性ゴムの含有率が50質量%以上であり、前記円筒部の表面に、高さ(h)が0.07mm以上であり、かつ、底部の最小幅(w1)が0.2mm~0.8mmである微細突起を複数有することを特徴とする。
【0014】
[微細突起]
前記微細突起は、高さが0.07mm以上であり、かつ、底部の最小幅が0.2mm~0.8mmである。前記微細突起の高さおよび底部の最小幅が上記範囲内であれば、使用者がグリップを握った際に、微細突起が使用者の指紋の溝に入り込むことができる。そのため、前記微細突起が、使用者の指紋の溝内部でアンカー効果を発揮し、防滑性能が向上する。
【0015】
さらに、微細突起が使用者の指紋の溝部に入り込むことで、使用者に感覚的にも滑らないと感じさせることができる。このメカニズムは下記のように考えられる。指紋の直下にはマイスナー小体が2列に配置している。これらのマイスナー小体は、指紋に生じたせん断変形やこのせん断変形からの解放を検出することで、指紋接触面の滑りを検知している。ここで、指紋の溝内部まで入り込む微細突起は、指紋と連動して動くため、指紋がせん断変形から解放され難くなる。つまり、マイスナー小体が滑りを検知し難い。そのため、微細突起を有するグリップは、滑りにくいと感じられる。このように滑りにくいと感じることで、使用者のグリップを握る力が無意識的に弱くなる。そして、グリップを握る力が弱くなることで、スイングに対する体の抵抗が小さくなり、ヘッドスピードが向上する。
【0016】
図1~8を参照し、微細突起の高さ、幅について説明する。
図1は、微細突起の一例を示す平面図である。
図2は、
図1の微細突起のA-A断面図である。
図3、5および7は、微細突起の他の一例を示す平面図である。
図4、6および8は、それぞれ
図3、5および7の微細突起のA-A断面図である。
図1、2の微細突起は、底部の平面視形状が四角形(正方形)であり、立体形状が四角柱である。
図3、4の微細突起は、底部の平面視形状が四角形(正方形)であり、立体形状が四角錐台である。
図5、6の微細突起は、底部の平面視形状が円形であり、立体形状が円柱である。
図7、8の微細突起は、底部の平面視形状が円形であり、立体形状が円錐台である。
【0017】
前記微細突起の高さとは、円筒部表面における法線方向の微細突起の頂部から底部までの距離(h)である。前記微細突起の高さ(h)は、0.07mm以上、好ましくは0.08mm以上、さらに好ましくは0.09mm以上であり、1.5mm以下が好ましく、より好ましくは0.8mm以下、さらに好ましくは0.3mm以下である。前記微細突起の高さが0.07mm以上であれば指紋と接触した際に十分なひっかかりが得られ、防滑性能がより向上し、1.5mm以下であれば握った際に微細突起が倒れ込むことがなく、防滑性能が得られる。
【0018】
前記微細突起の底部の最小幅(w1)とは、微細突起の底部の幅の最小値である。前記微細突起の底部の最小幅(w1)は、0.2mm以上、好ましくは0.3mm以上、さらに好ましくは0.4mm以上であり、0.8mm以下、好ましくは0.6mm以下、さらに好ましくは0.5mm以下である。前記底部の最小幅が0.2mm以上であれば微細突起が指紋の溝に収まり、防滑性能が高くなり、0.8mm以下であれば微細突起が指紋からはみ出すことがなく感触がより良好となる。
【0019】
前記微細突起の高さ(h)と底部の最小幅(w1)との比(h/w1)は、0.10以上が好ましく、より好ましくは0.13以上、さらに好ましくは0.16以上であり、1.5以下が好ましく、より好ましくは1.0以下、さらに好ましくは0.5以下である。前記比(h/w1)が0.10以上であれば指紋に対して十分なサイズを維持しており、防滑性能がより向上し、1.5以下であれば握った際に微細突起が倒れ込むことがなく、防滑性能が得られる。
【0020】
前記微細突起の底部の平面視形状は、特に限定されず、三角形、四角形、五角形、六角形などの多角形状、角丸多角形状、円形状、楕円形状、十字形状、星形多角形状などが挙げられる。これらの中でも、微細突起の機械的強度の観点から、三角形、四角形、五角形、六角形などの多角形状、円形状、楕円形状が好ましい。
【0021】
前記微細突起の底部の平面視形状が円形以外の場合、底部の最大幅(w2)は、0.2mm以上、好ましくは0.3mm以上、さらに好ましくは0.4mm以上であり、1.2mm以下、好ましくは1.0mm以下、さらに好ましくは0.8mm以下である。前記底部の最大幅が0.2mm以上であれば微細突起の機械的強度がより高くなり、1.2mm以下であれば単位面積あたりの微細突起の個数を増やすことができ、防滑性能が高くなる。
【0022】
前記底部の最小幅(w1)と最大幅(w2)との比(w2/w1)は、1.40以下が好ましく、より好ましくは1.35以下、さらに好ましくは1.30以下である。前記比(w2/w1)が1.40以下であれば単位面積あたりの微細突起の個数を増やすことができ、防滑性能が高くなる。前記比(w2/w1)の下限は1.00である。
【0023】
前記微細突起の立体形状は、特に限定されず、三角柱、四角柱、五角柱、六角柱、円柱、楕円柱などの柱状;三角錐台、四角錐台、五角錐台、六角錐台、円錐台、楕円錐台などの錐台状;三角錐、四角錐、五角錐、六角錐、円錐などの錐状;などが挙げられる。これらの中でも、柱状、錐台状が好ましい。
【0024】
前記微細突起の立体形状が、錐台状である場合、上底の最小幅(w3)と下底の最小幅(底部の最小幅)(w1)との比(w3/w1)が、0.3以上が好ましく、より好ましくは0.5以上、さらに好ましくは0.7以上である。前記比(w3/w1)が0.3以上であれば微細突起の機械的強度が高くなり、耐久性が向上する。前記比(w3/w1)は1.0未満である。なお、錐台の下底が、微細突起の底部である。
【0025】
前記微細突起は円筒部表面に複数配置されるが、これらの微細突起の配列は特に限定されず、格子状、千鳥状、ランダム状などが挙げられる。また、複数配置される微細突起の形状は、全てを同一形状であってもよいし、2種以上の形状であってもよい。
【0026】
前記微細突起の立体形状が柱状の場合、隣接する微細突起の底部間の最短距離(d1)は、0.10mm以上が好ましく、より好ましくは0.15mm以上、さらに好ましくは0.20mm以上であり、0.5mm以下が好ましく、より好ましくは0.4mm以下、さらに好ましくは0.3mm以下である。前記底部間の最短距離(d1)が0.10mm以上であればレーザ彫刻により精度よく加工することが可能となり、0.5mm以下であれば微細突起が指紋にひっかかりやすくなる。
【0027】
前記微細突起の立体形状が錐台状の場合、隣接する微細突起の上底間の最短距離(d2)は、0.10mm以上が好ましく、より好ましくは0.15mm以上、さらに好ましくは0.20mm以上であり、0.5mm以下が好ましく、より好ましくは0.4mm以下、さらに好ましくは0.3mm以下である。前記上底間の最短距離(d2)が0.10mm以上であればレーザ彫刻により精度よく加工することが可能となり、0.5mm以下であれば微細突起が指紋にひっかかりやすくなる。なお、前記微細突起の立体形状が錐台状の場合、隣り合う微細突起の下底は、互いに接触していてもよいし、離間していてもよい。
【0028】
前記微細突起の個数は、特に限定されず、各微細突起の形状に応じて適宜調節すればよい。なお、前記円筒部は、前記微細突起が1cm2あたりに150個~2500個存在する微細突起存在領域を有することが好ましい。前記微細突起存在領域は、1cm2あたりの微細突起の個数が、250個以上が好ましく、より好ましくは300個以上であり、2000個以下が好ましく、より好ましくは1500個以下である。
【0029】
前記円筒部は、チップ側端部からの軸方向の距離が全長の10%~60%までの範囲において、表面積中の微細突起存在領域の面積率が50面積%以上が好ましく、より好ましくは70面積%以上、さらに好ましくは90面積%以上である。また、チップ側端部からの軸方向の距離が全長の10%~60%までの範囲において、全ての部分を微細突起存在領域とすることも好ましい。前記チップ側端部からの軸方向の距離が全長の10%~60%までの範囲は、使用者が素手でグリップを握る部分である。この部分に微細突起存在領域を有することで、グリップの感触が良好となる。
【0030】
前記円筒部は、全表面積中の微細突起存在領域の面積率が、40面積%以上が好ましく、より好ましくは45面積%以上、さらに好ましくは50面積%以上であり、100面積%以下が好ましく、より好ましくは80面積%以下、さらに好ましくは60面積%以下である。
【0031】
前記微細突起は、レーザ加工により形成することが好ましい。レーザ加工により形成することで、微細突起を容易に形成できる。特に、レーザ加工により形成することで、柱状の微細突起や、比(w3/w1)が0.3以上である錐台状の微細突起を形成できる。なお、金型を用いた加工によって、微細突起を形成した場合、柱状の微細突起や、比(w3/w1)が0.3以上である錐台状の微細突起は、微細突起の形状を精度よく成形することが困難である。
【0032】
[構造]
前記ゴルフクラブ用グリップの円筒部は、単層構造でもよいし、多層構造でもよい。円筒部が単層構造の場合は、微細突起存在領域と、微細突起存在領域以外の他の領域(以下、単に「他の領域」と称する場合がある。)とを異なる組成物から形成してもよいし、同一の組成物から形成してもよい。なお、単層構造の円筒部は、微細突起存在領域および他の領域が、いずれも中実層であることが好ましい。
【0033】
円筒部が多層構造の場合、円筒部は最表層と少なくとも一層の内層とを有する。前記最表層が微細突起存在領域を有する。ここで、最表層とは、グリップの最も外側の層であり、グリップ使用時に使用者が触れる部分である。前記最表層は、微細突起存在領域と他の領域とを異なる組成物から形成してもよいし、同一の組成物から形成してもよい。なお、最表層は、微細突起存在領域および他の領域が、いずれも中実層であることが好ましい。前記内層は、少なくとも一層が多孔質層であることが好ましい。円筒部を多層構造とする場合、最表層と1層の内層とを有する2層構造;最表層と2層の内層とを有する3層構造;が好ましい。
【0034】
前記円筒部の厚さは、0.5mm以上が好ましく、より好ましくは1.0mm以上、さらに好ましくは1.5mm以上であり、17.0mm以下が好ましく、より好ましくは10.0mm以下、さらに好ましくは8.0mm以下である。前記円筒部の厚さは、軸方向に一定となるように形成してもよいし、先端部から後端部に向かって徐々に厚くなるように形成してもよい。
【0035】
前記円筒部の厚さが0.5mm~17.0mmの場合、前記最表層の厚さは、0.5mm以上が好ましく、より好ましくは0.6mm以上、さらに好ましくは0.7mm以上であり、2.5mm以下が好ましく、より好ましくは2.3mm以下、さらに好ましくは2.1mm以下である。前記外層の厚さが0.5mm以上であれば外層素材による補強効果がより大きくなり、2.5mm以下であれば相対的に内層を厚くすることができ、グリップの軽量化の効果が大きくなる。
【0036】
前記円筒部の厚さに対する最表層の厚さの百分率((最表層厚さ/円筒部厚さ)×100)は、0.5%以上が好ましく、より好ましくは1.0%以上、さらに好ましくは1.5%以上であり、99.0%以下が好ましく、より好ましくは98.0%以下、さらに好ましくは97.0%以下である。前記百分率が0.5%以上であれば外層素材による補強効果がより大きくなり、99.0%以下であれば相対的に内層を厚くすることができ、グリップの軽量化の効果が大きくなる。
【0037】
[材質]
前記円筒部は、少なくとも前記微細突起が形成されている部分が、基材ゴムと架橋剤とを含有するゴム組成物から形成されている。そして、前記基材ゴム中の非極性ゴムの含有率が50質量%以上である。基材ゴム中の非極性ゴムの含有率が50質量%以上であれば、使用者の指紋の内部に入り込んだ微細突起に、使用者の皮脂が付着した場合でも、グリップが油分を吸収することができる。そのため、使用者の皮脂による防滑性能の低下を抑制できる。以下、前記微細突起存在領域を構成するゴム組成物を第1ゴム組成物と称する場合がある。
【0038】
前記第1ゴム組成物の基材ゴム中の非極性ゴムの含有率は、50質量%以上、好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上である。第1ゴム組成物は、基材ゴムとして、極性ゴムを含有してもよいが、非極性ゴムのみを含有することも好ましい。前記非極性ゴムは、SP(溶解度パラメーター)値が7.7以上、8.7未満である。
【0039】
前記SP値は、Fedorsの式(下記数式(1))(Polymer Engineering and Science、第14巻、第2号、1974年、第147頁)により求められる値(Pa1/2(25℃))である。
SP値=(ΔE/V)1/2=(ΣΔei/ΣΔvi)1/2 (1)
[式(1)中、ΔEは蒸発エネルギー、Vはモル体積、Δeiは原子または原子団の蒸発エネルギー、Δviは原子または原子団のモル体積を表す。]
【0040】
前記非極性ゴムとしては、例えば、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、クロロプレンゴム(CR)、天然ゴム(NR)、などのジエン系ゴム;エチレン-プロピレンゴム(EPM)、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、ブチルゴム(IIR)などの非ジエンゴムが挙げられる。非極性ゴムが単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、ジエン系ゴムが好ましく、非極性ゴム中のジエン系ゴムの含有率は50質量%以上が好ましく、より好ましくは60質量%以上である。非極性ゴムとしてジエン系ゴムのみを使用することも好ましい。前記非極性ゴムとしては、NR、EPDM、IIR、SBRがより好ましい。
【0041】
前記第1ゴム組成物は、基材ゴムとして、天然ゴムを含有することが好ましい。天然ゴムを含有することで、寒冷条件下においても微細突起の柔軟性が維持され、高い防滑性能を維持できる。基材ゴムとして天然ゴムを使用する場合、基材ゴム中の天然ゴムの含有率は50質量%以上が好ましく、より好ましくは55質量%以上、さらに好ましくは60質量%以上である。
【0042】
前記第1ゴム組成物は、基材ゴムとして、極性ゴムを含有してもよい。前記極性ゴムは、SP値が8.7以上、10.5以下である。前記極性ゴムとしては、例えば、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)、カルボキシ変性アクリロニトリル-ブタジエンゴム(XNBR)、水素添加アクリロニトリル-ブタジエンゴム(HNBR)、水素添加カルボキシ変性アクリロニトリル-ブタジエンゴム(HXNBR)などのジエン系ゴム;アクリルゴム、ウレタンゴムなどの非ジエン系ゴムが挙げられる。
【0043】
前記架橋剤としては、硫黄系架橋剤、有機過酸化物を使用できる。前記硫黄系架橋剤としては単体硫黄、硫黄ドナー型化合物が挙げられる。前記単体硫黄としては、粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド状硫黄、不溶性硫黄が挙げられる。前記硫黄ドナー型化合物としては、4,4’-ジチオビスモルホリンなどが挙げられる。前記有機過酸化物としては、ジクミルパーオキサイド、α,α’-ビス(t-ブチルパーオキシ-m-ジイソプロピル)ベンゼン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)3,3,5-トリメチルシクロヘキサンなどが挙げられる。前記架橋剤は単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。前記架橋剤としては、硫黄系架橋剤が好ましく、単体硫黄がより好ましい。前記架橋剤の使用量は、基材ゴム100質量部に対して、0.2質量部以上が好ましく、より好ましくは0.4質量部以上、さらに好ましくは0.6質量部以上であり、4.0質量部以下が好ましく、より好ましくは3.5質量部以下、さらに好ましくは3.0質量部以下である。
【0044】
前記第1ゴム組成物は、DBP(フタル酸ジブチル)吸油量が50~150のカーボンブラック、DBP吸油量が100~400のシリカ、DBP吸油量が10~30の酸化チタン、および、DBP吸油量が50~100の焼成カオリンよりなる群から選択される少なくとも1種の吸油剤を含有することが好ましい。第1ゴム組成物がこれらの吸油剤を含有すれば、グリップの油分吸収能を高めることができる。そのため、使用者の皮脂による防滑性能の低下をより一層抑制できる。前記吸油剤は、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの材料のDBP吸油量は、JIS K6217-4(2008)に従い圧縮試料について測定する。DBP吸油量は、オイル(フタル酸ジブチル)を吸収する能力を示す。
【0045】
前記吸油剤を配合する場合、前記吸油剤の使用量は、基材ゴム100質量部に対して、4質量部以上が好ましく、より好ましくは6質量部以上、さらに好ましくは8質量部以上であり、20質量部以下が好ましく、より好ましくは16質量部以下、さらに好ましくは14質量部以下である。吸油剤の使用量が、4質量部以上であれば十分な吸油性能が得られ、20質量部以下であればグリップの重量が重くなり過ぎることはない。
【0046】
前記第1ゴム組成物中の吸油剤の基材ゴム100gに対する含有量(g)とDBP吸油量(cm3/100g)との積(含有量×DBP吸油量)は、200以上が好ましく、より好ましくは400以上、さらに好ましくは800以上であり、8000以下が好ましく、より好ましくは7000以下、さらに好ましくは6000以下である。前記積(含有量×DBP吸油量)が200以上であれば十分な皮脂耐性が得られ、8000以下であればゴム組成物の硬度が硬くなり過ぎることはない。
【0047】
前記カーボンブラックのDBP吸油量は50cm3/100g以上が好ましく、より好ましくは60cm3/100g以上、さらに好ましくは70cm3/100g以上であり、150cm3/100g以下が好ましく、より好ましくは145cm3/100g以下、さらに好ましくは140cm3/100g以下である。
【0048】
前記カーボンブラックを配合する場合、前記カーボンブラックの使用量は、基材ゴム100質量部に対して、2質量部以上が好ましく、より好ましくは3質量部以上、さらに好ましくは4質量部以上であり、20質量部以下が好ましく、より好ましくは16質量部以下、さらに好ましくは14質量部以下である。
【0049】
前記シリカのDBP吸油量は100cm3/100g以上が好ましく、より好ましくは140cm3/100g以上、さらに好ましくは160cm3/100g以上であり、400cm3/100g以下が好ましく、より好ましくは380cm3/100g以下、さらに好ましくは360cm3/100g以下である。
【0050】
前記シリカを配合する場合、前記シリカの使用量は、基材ゴム100質量部に対して、2質量部以上が好ましく、より好ましくは4質量部以上、さらに好ましくは6質量部以上であり、20質量部以下が好ましく、より好ましくは16質量部以下、さらに好ましくは14質量部以下である。
【0051】
前記酸化チタンのDBP吸油量は10cm3/100g以上が好ましく、より好ましくは12cm3/100g以上、さらに好ましくは15cm3/100g以上であり、30cm3/100g以下が好ましく、より好ましくは27cm3/100g以下、さらに好ましくは26cm3/100g以下である。
【0052】
前記酸化チタンを配合する場合、前記酸化チタンの使用量は、基材ゴム100質量部に対して、2質量部以上が好ましく、より好ましくは4質量部以上、さらに好ましくは6質量部以上であり、10質量部以下が好ましく、より好ましくは9質量部以下、さらに好ましくは8質量部以下である。
【0053】
前記焼成カオリンのDBP吸油量は50cm3/100g以上が好ましく、より好ましくは55cm3/100g以上、さらに好ましくは60cm3/100g以上であり、100cm3/100g以下が好ましく、より好ましくは95cm3/100g以下、さらに好ましくは90cm3/100g以下である。
【0054】
前記焼成カオリンを配合する場合、前記焼成カオリンの使用量は、基材ゴム100質量部に対して、2質量部以上が好ましく、より好ましくは4質量部以上、さらに好ましくは6質量部以上であり、20質量部以下が好ましく、より好ましくは16質量部以下、さらに好ましくは14質量部以下である。
【0055】
前記第1ゴム組成物は、さらに加硫促進剤、加硫活性剤を含有することが好ましい。
【0056】
前記加硫促進剤としては、テトラメチルチウラムジスルフィド(TMTD)、テトラベンジルチウラムジスルフィド(TBzTD)、テトラメチルチウラムモノスルフィド(TMTM)、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィドなどのチウラム系;ジフェニルグアニジン(DPG)などのグアニジン系;ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛(ZnPDC)、ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛などのジチオカルバミン酸塩系;トリメチルチオ尿素、N,N'-ジエチルチオ尿素などのチオウレア系;メルカプトベンゾチアゾール(MBT)、ベンゾチアゾールジスルフィドなどのチアゾール系;N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(CBS)、N-t-ブチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(BBS)などのスルフェンアミド系;などが挙げられる。これらの加硫促進剤は、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。前記加硫促進剤の合計使用量は、基材ゴム100質量部に対して、0.4質量部以上が好ましく、より好ましくは0.8質量部以上、さらに好ましくは1.2質量部以上であり、8.0質量部以下が好ましく、より好ましくは7.0質量部以下、さらに好ましくは6.0質量部以下である。
【0057】
前記加硫活性剤としては、金属酸化物(酸化チタンを除く。)、金属過酸化物、脂肪酸などが挙げられる。前記金属酸化物としては、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化鉛などが挙げられる。前記金属過酸化物としては、過酸化亜鉛、過酸化クロム、過酸化マグネシウム、過酸化カルシウムなどが挙げられる。前記脂肪酸としては、ステアリン酸、オレイン酸、パルミチン酸などが挙げられる。これらの加硫活性剤は、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。前記加硫活性剤の合計使用量は、基材ゴム100質量部に対して、0.5質量部以上が好ましく、より好ましくは0.6質量部以上、さらに好ましくは0.7質量部以上であり、10.0質量部以下が好ましく、より好ましくは9.5質量部以下、さらに好ましくは9.0質量部以下である。
【0058】
前記第1ゴム組成物は、さらに必要に応じて、老化防止剤、軟化剤、着色剤、スコーチ防止剤、樹脂などを配合してもよい。
【0059】
前記老化防止剤としては、イミダゾール類、アミン類、フェノール類、チオウレア類などが挙げられる。前記イミダゾール類としては、ジブチルジチオカルバミン酸ニッケル(NDIBC)、2-メルカプトベンズイミダゾール、2-メルカプトベンズイミダゾールの亜鉛塩などが挙げられる。アミン類としては、フェニル-α-ナフチルアミンなどが挙げられる。フェノール類としては、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)(MBMBP)、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノールなどが挙げられる。チオウレア類としては、トリブチルチオ尿素、1,3-ビス(ジメチルアミノプロピル)-2-チオ尿素などが挙げられる。これらの老化防止剤は単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。前記老化防止剤の使用量は、基材ゴム100質量部に対して、0.2質量部以上が好ましく、より好ましくは0.3質量部以上、さらに好ましくは0.4質量部以上であり、5.0質量部以下が好ましく、より好ましくは4.8質量部以下、さらに好ましくは4.6質量部以下である。
【0060】
前記軟化剤としては、鉱物油、可塑剤が挙げられる。前記鉱物油としては、パラフィンオイル、ナフテンオイル、アロマチックオイルなどが挙げられる。前記可塑剤としては、ジオクチルフタレート、ジブチルフタレート、ジオクチルセパケート、ジオクチルアジペートなどが挙げられる。
【0061】
前記スコーチ防止剤としては、有機酸、ニトロソ化合物などが挙げられる。前記有機酸としては、無水フタル酸、無水ピロメリット酸、無水トリメリット酸、安息香酸、サリチル酸、リンゴ酸などが挙げられる。前記ニトロソ化合物としては、N-ニトロソ・ジフェニルアミン、N-(シクロヘキシルチオ)フタルイミド、スルホンアミド誘導体、ジフェニルウレア、ビス(トリデシル)ペンタエリスルトールジホスファイト、2-メルカプトベンズイミダゾールなどが挙げられる。
【0062】
前記樹脂としては、水素添加ロジンエステル、不均化ロジンエステル、エチレン-酢酸ビニル共重合体、クマロン樹脂、フェノール樹脂、キシレン樹脂、スチレン樹脂などが挙げられる。
【0063】
前記第1ゴム組成物は、従来公知の方法で調製できる。例えば、バンバリーミキサー、ニーダー、オープンロールなどの混練機を用いて、各原料を混練りすることで調製できる。
【0064】
前記第1ゴム組成物の材料硬度(ショアA硬度)は、40以上が好ましく、より好ましくは42以上、さらに好ましくは45以上であり、60以下が好ましく、より好ましくは58以下、さらに好ましくは55以下である。表層用ゴム組成物の材料硬度(ショアA硬度)が40以上であれば微細突起存在領域の機械的強度がより向上し、60以下であれば最表層が硬くなりすぎず、掴んだ時のグリップ感がより良好となる。
【0065】
単層構造の円筒部または多層構造の円筒部の最表層において、微細突起存在領域以外の他の領域の材質は特に限定されないが、前記第1ゴム組成物から形成されていることが好ましい。なお、前記他の領域を構成するゴム組成物は、前記微細突起存在領域を構成するゴム組成物と同一の組成でもよいし、異なる組成でもよい。これらが同一の組成であれば、円筒部または最表層の作製が容易となる。
【0066】
前記円筒部が多層構造の場合、内層の材質は特に限定されない。前記内層を形成する組成物(以下、「第2組成物」と称する場合がある。)としては、第2ゴム組成物、樹脂組成物が挙げられる。
【0067】
前記第2ゴム組成物は、基材ゴムと架橋剤とを含有することが好ましい。前記基材ゴムとしては、天然ゴム(NR)、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、ブチルゴム(IIR)、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)、水素添加アクリロニトリル-ブタジエンゴム(HNBR)、カルボキシ変性アクリロニトリル-ブタジエンゴム(XNBR)、カルボキシ変性水素添加アクリロニトリル-ブタジエンゴム(HXNBR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、ポリウレタンゴム(PU)、イソプレンゴム(IR)、クロロプレンゴム(CR)、エチレン-プロピレンゴム(EPM)などが挙げられる。これらの中でも、前記基材ゴムとしては、NR、EPDM、IIR、NBR、HNBR、XNBR、HXNBR、BR、SBR、PUが好ましい。
【0068】
前記第2ゴム組成物の架橋剤としては、前記第1ゴム組成物に使用されるものと同じものが挙げられ、単体硫黄が好ましい。前記第2ゴム組成物は、さらに加硫促進剤、加硫活性剤を含有することが好ましい。これらの加硫促進剤、加硫活性剤としては前記第1ゴム組成物に使用されるものと同じものが挙げられる。前記加硫促進剤としては、N-t-ブチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、テトラベンジルチウラムジスルフィドが好ましい。前記加硫活性剤としては、酸化亜鉛、ステアリン酸が好ましい。
【0069】
前記第2ゴム組成物は、さらに必要に応じて補強材、老化防止剤、軟化剤、着色剤、スコーチ防止剤などを配合してもよい。これらの補強材、老化防止剤、着色剤としては前記第1ゴム組成物に使用されるものと同じものが挙げられる。前記補強材としては、カーボンブラック、シリカが好ましい。前記老化防止剤としては、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)が好ましい。
【0070】
前記第2ゴム組成物は、従来公知の方法で調製できる。例えば、バンバリーミキサー、ニーダー、オープンロールなどの混練機を用いて、各原料を混練りすることで調製できる。混練りする際の温度(材料温度)は、70℃~160℃が好ましい。なお、第2ゴム組成物がマイクロバルーンを含有する場合は、マイクロバルーンの膨張開始温度未満の温度で混練りすることが好ましい。
【0071】
前記樹脂組成物は、基材樹脂を含有する。前記基材樹脂としては、ポリウレタン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂などが挙げられる。
【0072】
前記他の部分を形成する第2組成物としては、第2ゴム組成物が好ましく、基材ゴムとして天然ゴム(NR)、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、ブチルゴム(IIR)を含有することが好ましい。他の部分を形成する組成物が天然ゴム(NR)、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、ブチルゴム(IIR)を含有することで、第1ゴム組成物から形成される部分と他の部分との密着性が向上する。
【0073】
前記内層は、中実層でもよいし、多孔質層でもよい。前記内層を多孔質層とすれば、ゴルフクラブ用グリップを軽量化できる。多孔質層は、基材となるゴムに多数の細孔(空隙)が形成されている層である。多数の細孔が形成されていることにより、層の見掛け密度が小さくなり、軽量化を図ることができる。
【0074】
多孔質層を作製する方法としては、バルーン発泡法、化学発泡法、超臨界二酸化炭素射出成型法、塩抽出法、溶剤除去法などが挙げられる。前記バルーン発泡法では、ゴム組成物にマイクロバルーンを含有させ、加熱によりマイクロバルーンを膨張させて、発泡させる。なお、ゴム組成物に膨張済みのマイクロバルーンを配合し、それを成形してもよい。前記化学発泡法では、ゴム組成物に発泡剤(アゾジカルボンアミド、アゾビスイソブチロニトリル、N,N-ジニトロソペンタメチレンテトラミン、p-トルエンスルホニルヒドラジン、p-オキシビス(ベンゼンスルホヒドラジド)など)や発泡助剤を含有させ、化学反応により気体(炭酸ガス、窒素ガスなど)を発生させて発泡させる。前記超臨界二酸化炭素射出成型では、高圧力下で超臨界状態にある二酸化炭素をゴム組成物に含侵させ、このゴム組成物を常圧下に射出し、二酸化炭素を気化させて発泡させる。前記塩抽出法では、ゴム組成物に易溶解性塩(ホウ酸、塩化カルシウムなど)を含有させ、成形後に塩を溶解抽出して細孔を形成する。前記溶剤除去法では、ゴム組成物に溶剤を含有させ、成形後に溶剤を除去し細孔を形成する。
【0075】
前記内層を多孔質層とする場合、発泡剤を含有する第2ゴム組成物から成形された発泡層が好ましい。特に、バルーン発泡法により作製された発泡層とすることが好ましい。すなわち、内層としては、マイクロバルーンを含有する第2ゴム組成物から成形された発泡層が好ましい。マイクロバルーンを用いることで、内層の機械的強度を維持しつつ、軽量化を図ることができる。
【0076】
前記マイクロバルーンとしては、有機マイクロバルーン、無機マイクロバルーンのいずれも使用できる。有機マイクロバルーンとしては、熱可塑性樹脂からなる中空粒子、熱可塑性樹脂の殻に低沸点炭化水素が内包された樹脂カプセルなどが挙げられる。前記樹脂カプセルの具体例としては、Akzo Nobel社製のエクスパンセル、松本油脂製薬社製のマツモトマイクロスフェアー(登録商標)などが挙げられる。無機マイクロバルーンとしては、中空ガラス粒子(シリカバルーン、アルミナバルーンなど)、中空セラミックス粒子などが挙げられる。
【0077】
前記樹脂カプセル(膨張前)の体積平均粒子径は、5μm以上が好ましく、より好ましくは6μm以上、さらに好ましくは9μm以上であり、90μm以下が好ましく、より好ましくは70μm以下、さらに好ましくは60μm以下である。
【0078】
バルーン発泡法により内層を作製する場合、前記第2ゴム組成物中のマイクロバルーンの含有量は、基材ゴム100質量部に対して、5質量部以上が好ましく、より好ましくは8質量部以上、さらに好ましくは12質量部以上であり、20質量部以下が好ましく、より好ましくは18質量部以下、さらに好ましくは15質量部以下である。前記マイクロバルーンの含有量が5質量部以上であればグリップの軽量化の効果がより大きくなり、20質量部以下であれば内層の機械的強度の低下を抑制できる。
【0079】
また、バルーン発泡法により作製される内層の発泡倍率は、1.2以上が好ましく、より好ましくは1.5以上、さらに好ましくは1.8以上であり、5.0以下が好ましく、より好ましくは4.5以下、さらに好ましくは4.0以下である。発泡倍率が1.2以上であればグリップの軽量化の効果が大きくなり、5.0以下であれば内層の機械的強度の低下を抑制できる。
【0080】
前記第2ゴム組成物の材料硬度(ショアA硬度)は、20以上が好ましく、より好ましくは25以上、さらに好ましくは30以上であり、60以下が好ましく、より好ましくは58以下、さらに好ましくは55以下である。内層用ゴム組成物の材料硬度(ショアA硬度)が20以上であれば内層が軟らかくなりすぎず、掴んだ時にしっかりと固定できる感触が得られ、55以下であれば内層が硬くなりすぎず、掴んだ時のグリップ感がより良好となる。
【0081】
ゴルフクラブ用グリップは、前記第1ゴム組成物を、金型内で成形することで得られる。成型方法としては、プレス成形、射出成形が挙げられる。また、内層と外層とを有するゴルフクラブ用グリップは、例えば、前記第1ゴム組成物から形成した未加硫のゴムシートと、前記第2ゴム組成物から形成した未加硫のゴムシートとの積層物を、金型内でプレス成形することで得られる。プレス成形を採用する場合、金型温度は140℃~200℃が好ましく、成形時間は5分間~40分間が好ましく、成形圧力は0.1MPa~100MPaが好ましい。
【0082】
ゴルフクラブ用グリップの形状としては、例えば、シャフトが挿嵌される円筒部と、前記円筒部の後端の開口を覆うように一体形成されたキャップ部とを有する形状が挙げられる。そして、円筒部が、前記第1ゴム組成物から形成されている。さらに、前記円筒部は内層と外層との積層構造を有していることが好ましい。この場合、前記外層が第1ゴム組成物から形成される。
【0083】
前記円筒部の厚みは、軸方向に一定となるように形成してもよいし、先端部から後端部に向かって徐々に厚くなるように形成してもよい。また、円筒部の厚みは、径方向に一定となるように形成してもよいし、一部に凸条部分(いわゆるバックライン)を設けてもよい。また、円筒部の表面には溝を設けてもよい。溝により、ゴルファーの手とグリップとの間の水膜形成が抑制され、ウェット状態でのグリップ性能がより向上する。さらに、グリップの防滑性能および耐摩耗性の観点から、グリップ内に補強コードを配設してもよい。
【0084】
前記ゴルフクラブグリップの質量は、16g以上が好ましく、より好ましくは18g以上、さらに好ましくは20g以上であり、35g以下が好ましく、より好ましくは32g以下、さらに好ましくは30g以下である。
【0085】
[ゴルフクラブ]
本発明には、前記ゴルフクラブ用グリップを用いたゴルフクラブも含まれる。前記ゴルフクラブは、シャフトと、前記シャフトの一端に取り付けられたヘッドと、前記シャフトの他端に取り付けられたグリップとを備え、前記グリップが前記ゴルフクラブ用グリップである。前記シャフトは、ステンレス鋼製や炭素繊維強化樹脂製が使用できる。前記ヘッドとしては、ウッド型、ユーティリティ型、アイアン型が挙げられる。前記ヘッドを構成する材料は、特に限定されるものではなく、例えばチタン、チタン合金、炭素繊維強化プラスチック、ステンレス鋼、マルエージング鋼、軟鉄などが挙げられる。
【0086】
以下、図面を参照して、ゴルフクラブ用グリップおよびゴルフクラブについて説明する。
図9は、ゴルフクラブ用グリップの一例を示す斜視図である。グリップ1は、シャフトが挿嵌される円筒部2と、前記円筒部の後端の開口を覆うように一体形成されたキャップ部3とを有する。
【0087】
図10は、ゴルフクラブ用グリップの一例を示す断面模式図である。前記円筒部2は、内層2aと外層2bから構成されている。そして、前記外層2bは先端部から後端部にわたり厚さが均一に形成されている。前記内層2aの厚みは、先端部から後端部に向かって徐々に厚くなるように形成されている。
図10に示したグリップ1では、キャップ部3は外層2bと同様のゴム組成物から形成されている。
図11は、
図10に示したゴルフクラブ用グリップ1の拡大断面模式図である。
図11に示すように、円筒部2は、外層2bの表面に微細突起10を有する。
【0088】
図12は、本発明のゴルフクラブの一例を示す斜視図である。ゴルフクラブ4は、シャフト5と、前記シャフト5の一端に取り付けられたヘッド6と、前記シャフト4の他端に取り付けられたグリップ1とを備えている。グリップ1の円筒部2にシャフト5の後端が嵌入されている。
【実施例】
【0089】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明は、下記実施例によって限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲の変更、実施の態様は、いずれも本発明の範囲内に含まれる。
【0090】
[評価方法]
(1)材料硬度(ショアA硬度)
ゴム組成物を用いて、160℃で8~20分間プレスして、厚み2mmのシートを作製した。なお、ゴム組成物がマイクロバルーンを含有する場合は、グリップを形成した際と同様の発泡倍率となるようにマイクロバルーンを膨張させてシートを作製した。このシートを、23℃で2週間保存し、測定基板などの影響が出ないように、3枚重ねた状態で、自動硬度計(H.バーレイス社製、デジテストII)を用いて硬度を測定した。検出器は、「Shore A」を用いた。
【0091】
(2)動摩擦係数測定
動摩擦係数は、静・動摩擦測定機(トリニティーラボ社製、TL201Ts)を用いて測定した。具体的には、ゴルフクラブ用グリップからゴム片(幅2cm、長さ6cm)を切り出し、これを試験片とした。ゴム片は、グリップの突起が形成されている領域から切り出した。なお、グリップNo.11については、微細突起が形成されていないため、グリップの軸方向の中央付近からゴム片を切り出した。試験片を装置の移動テーブルに固定し、幾何学指紋パターンが施された触覚接触子を使用し、試験片の動摩擦を測定した。試験は、移動距離1cm、移動速度1mm/秒、荷重25gとした。動摩擦係数は、ずれ運動を開始した位置を0cmとして、0.35cm~0.65cmの平均値を求めた。なお、動摩擦係数は、グリップNo.11の動摩擦係数を100として、指数化した値で示した。また、グリップNo.1および11について、動摩擦係数の測定結果を
図13および14に示した。
【0092】
(3)tanδピーク
tanδは、動的粘弾性測定装置(ユービーエム社製、Rheogel-E4000)を用いて測定した。試験試料は、外層用ゴム組成物を用いて、160℃でプレスしてゴム板を作製し、このゴム板を所定サイズに打ち抜くことにより作製した。測定条件は、温度範囲;-100℃~100℃、昇温速度;3℃/min、測定間隔;3℃、周波数;10Hz、治具;引張り、試料形状;幅4mm、厚さ1mm、長さ40mmとした。動的粘弾性測定により得られた粘弾性スペクトルからtanδピーク温度(ガラス転移点)を算出した。
【0093】
(4)ヘッドスピード
ゴルフクラブ(ドライバー)(ダンロップスポーツ社製、XXIO8(フレックス:S)のグリップを、試験対象のグリップに取り換え、試験用ゴルフクラブを作製した。このゴルフクラブについて10名のゴルファーに対して実打評価を実施し、ヘッドスピードを計測した。ヘッドスピードは、特開2012-170532号公報に記載された計測システムを使用して計測し、10名の平均値を算出した。なお、ヘッドスピードは、グリップNo.11のヘッドスピードとの差で示した。
【0094】
(5)耐寒性試験
グリップをシャフトに装着し、ゴルフクラブを作製し、0℃下で一終夜放置した。このゴルフクラブについて10名のゴルファーに対して実打評価を実施し、常温で保存したクラブとの間に差を感じた場合を「×」、差を感じなかった場合を「○」と評価した。最終的な統計は下記のように行った。
○:差なしと判断した人が8人以上
×:差ありと判断した人が2人以下
【0095】
[グリップ用組成物の調製]
表1、2に示す配合で各原料を混練し、外層用ゴム組成物および内層用ゴム組成物を調製した。なお、外層用ゴム組成物は、全ての原料をバンバリーミキサーで混練した。内層用ゴム組成物は、マイクロバルーン以外の原料をバンバリーミキサーで混練し、その後、ロールを用いてマイクロバルーンを配合した。内層用ゴム組成物のバンバリーミキサーの混練時の材料温度およびロールによりマイクロバルーンを配合する際の材料温度は、マイクロバルーンの膨張開始温度未満とした。
【0096】
【0097】
【0098】
表1、2で用いた材料は下記のとおりである。
NR(天然ゴム):TSR20
EPDM(エチレン-プロピレン-ジエンゴム):住友化学社製、エスプレン(登録商標)505A
IIR:JSR社製、JSR BUTYL065
HXNBR:水素添加カルボキシ変性アクリロニトリル-ブタジエンゴム(ランクセス社製、Therban XT VPKA 8889
HNBR:水素添加アクリロニトリル-ブタジエンゴム(ランクセス社製、Therban LT2057)
DIABLACK(登録商標)N220:三菱化学社製、カーボンブラック(DBP吸油量:115cm3/100g)
ウルトラジルVN3 GR:エボニック社製、造粒シリカ(不定形)(DBP吸油量:200cm3/100g~240cm3/100g)
シースト(SEAST)(登録商標)SO:東海カーボン社製、カーボンブラック(DBP吸油量:115cm3/100g)
硫黄:鶴見化学工業社製、5%油入微粉硫黄(200メッシュ)
ノクセラーNS:大内新興化学工業社製、N-t-ブチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド
ノクセラーCZ:大内新興化学工業社製、N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド
ソクシノールD:住友化学社製、1,3-ジフェニルグアニジン
サンセラー(登録商標)TBzTD:三新化学工業社製、テトラベンジルチウラムジスルフィド
酸化亜鉛:PT.INDO LYSAGHT社製、ホワイトシール
スクラトールZP 1014:struktol社製、struktol ZP 1014(過酸化亜鉛含有量29質量%)
ノクラック(登録商標)NS-6:大内新興化学工業社製、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)
ノクラック TBTU:大内新興化学工業社製、トリブチルチオ尿素
サントガードPVI:三新化学工業社製、N-シクロヘキシルチオフタルイミド
安息香酸:Aldrich社製
ステアリン酸:日油社製、ビーズステアリン酸つばき
PW380:出光興産社製、ダイアナプロセスオイルPW380
ハリタックSE10:ハリマ化成社製、水素添加ロジンエステル(軟化点78℃~87℃、酸価2mgKOH/g~10mgKOH/g)
Sylvatac RE5S:Arizona Chemical社製
Koresin(登録商標):BASF社製、ブチルフェノール-アセチレン縮合物(軟化点135℃~150℃)
マイクロバルーン:Akzo Nobel社製、「エクスパンセル(登録商標)909-80DU」(熱可塑性樹脂の殻に低沸点炭化水素が内包された樹脂カプセル、体積平均粒子径18μm~24μm、膨張開始温度120℃~130℃)
【0099】
前記外層用ゴム組成物を用いて、扇台形状の未加硫の外層用ゴムシートおよびキャップ部材を作製した。なお、外層用ゴムシートは一定の厚さとなるように成形した。前記内層用ゴム組成物を用いて、長方形状の未加硫の内層用ゴムシートを作製した。なお、内層用ゴムシートは、一方端から他方端に向かって徐々に厚くなるように形成した。マンドレルに内層用ゴムシートを巻き付け、接着剤組成物を塗布した後、この上に外層用ゴムシートを重ねて巻き付けた。これらのゴムシートを巻き付けたマンドレルおよびキャップ部材を、金型に投入した。そして、金型温度160℃、加熱時間15分間で熱処理を行い、外層表面に微細突起を有さないグリップを得た。得られた微細突起を有さないグリップの円筒部の厚さは、最薄部(ヘッド側端部)が1.5mm、最厚部(グリップエンド側端部)が6.7mmであった。
【0100】
上記で得た微細突起を有さないグリップについて、レーザ加工機(アマダミヤチ社製、ファイバーレーザー加工機、「ML-7320DL」)を用いて、微細突起を形成した。微細突起は、チップ側端部からの軸方向の距離が全長の10%~60%までの範囲に、円周方向全体にわたって形成した。各グリップの評価結果を表3、4に示した。
【0101】
【0102】
【0103】
グリップNo.1~10は、円筒部が、基材ゴム中の非極性ゴムの含有率が50質量%以上であるゴム組成物から形成されており、円筒部の外層に微細突起を有している。これらのグリップNo.1~10は、動摩擦係数が高く、防滑性能に優れている。そのため、これらのグリップを用いると、ヘッドスピードが向上した。また、これらのグリップNo.1~10は、基材ゴムの主成分が天然ゴムであり、寒冷条件下での防滑性能にも優れている。
【0104】
グリップNo.11は外層が微細突起を有さない場合である。グリップNo.12は突起の高さが低すぎる場合、グリップNo.13は突起の最小幅が大きすぎる場合、グリップNo.14は突起の最小幅が小さすぎる場合である。これらのグリップNo.11~14は、いずれも防滑性能が低く、ヘッドスピード向上効果が得られなかった。
【0105】
グリップNo.15、16は、円筒部が、基材ゴム中の極性ゴムの含有率が50質量%以上であるゴム組成物から形成された場合である。これらのグリップNo.15、16は、動摩擦係数の評価は高いものの、打撃時のヘッドスピード向上効果が得られなかった。これは、微細突起に付着した使用者の皮脂により、グリップ表面の防滑性能が低下し、使用者のグリップを握る力が強まったためと考えられる。
【符号の説明】
【0106】
1:グリップ、2:円筒部、2a:内層、2b:外層、3:キャップ部、4:ゴルフクラブ、5:シャフト、6:ヘッド、10:微細突起