(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-28
(45)【発行日】2022-03-08
(54)【発明の名称】蓄電装置の製造方法およびその製造装置
(51)【国際特許分類】
H01M 4/04 20060101AFI20220301BHJP
【FI】
H01M4/04 A
(21)【出願番号】P 2017230979
(22)【出願日】2017-11-30
【審査請求日】2020-08-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(72)【発明者】
【氏名】嵯峨 庄太
【審査官】結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-052547(JP,A)
【文献】特開2014-154363(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペースト供給部からペースト供給先へ繋がっているペースト供給経路内に設けられた少なくとも2つの測定点で測定したペーストの粘度から算出したチクソトロピーインデックス値に基づいて前記ペーストの分散状態の良否が判定され、
前記ペーストの分散状態が否と判定されたときは、前記ペーストの分散状態を調整し、
調整された前記ペーストが塗工された電極を用いている
蓄電装置の製造方法。
【請求項2】
前記ペーストの分散状態が否と判定されたときは、
前記ペーストを前記ペースト供給部に戻し、
溶媒、活物質、添加剤のいずれかを混合する請求項1記載の蓄電装置の製造方法。
【請求項3】
前記チクソトロピーインデックス値が1~1.8の範囲外にあるときに前記ペーストの分散状態を否と判断し、前記チクソトロピーインデックス値が、1~1.8の範囲にあるときに、前記ペーストの分散状態を良と判定する請求項1
又は2記載の蓄電装置の製造方法。
【請求項4】
ペースト供給部からペースト供給先へ繋がっているペースト供給経路を備えた、蓄電装置の製造装置であって、
前記ペースト供給経路内に、2つの粘度計を有し、
2つの前記粘度計で測定したペーストの粘度より算出したチクソトロピーインデックス値によって、前記ペーストの分散状態の良否判定をする制御部を有した蓄電装置の製造装置。
【請求項5】
前記制御部は、
前記ペーストの分散状態が否と判定されたときは、
前記ペーストを前記ペースト供給部に戻し、
溶媒、活物質、添加剤のいずれかを混ぜる信号を送ることを特徴とした請求項4記載の蓄電装置の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電装置の製造方法およびその製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
二次電池やキャパシタのような蓄電装置は再充電が可能であり、繰り返し使用することができるため電源として広く利用されている。従来から、EV(Electric Vehicle)やPHV(Plug-in Hybrid Vehicle)などの車両に搭載される蓄電装置としては、リチウムイオン二次電池や、ニッケル水素二次電池などがよく知られている。これらの二次電池は、ケース内に収容された電極組立体を有し、電極組立体は、極性の異なる電極を両者の間を絶縁して積層又は捲回して構成されている。電極組立体の構成要素である電極は、一般に、金属箔と、該金属箔の表面に設けられた活物質層とを有し、活物質層は活物質を含むペースト状又はスラリー状の電極用合剤を塗布して形成されている。
【0003】
電極の製造において、活物質層を形成する電極用合剤は、活物質(粉末固体)、バインダー(ペースト体)及び溶媒(液体)を少なくとも含む原材料に、必要に応じて増粘剤等を添加したものを混練して調整される。電極用合剤は、二次電池の性能及び品質に影響を与えるため、例えば、特許文献1に示すように、活物質、バインダー、溶媒を含む原材料は正確に秤量して配合される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、電極用合剤の原材料のうち、バインダーは液体に粉末状の固体を分散させて調整されたものであり、製造ロット毎に固形分率が異なる場合がある。このため、バインダー、活物質、及び溶媒を予め規定された秤量値で秤量して電極用合剤を調整したとき、電極用合剤(液体と固体を含む)における固体成分の割合が、使用されたバインダーの製造ロットによって異なり、電極用合剤の品質がばらついてしまう。その結果、電極用合剤から液体成分を蒸発させて活物質層を形成したとき、活物質層の品質が、使用したバインダーによってばらついてしまう。活物質層のばらつきは、電極の反応ムラを引き起こし、出力特性、サイクル特性もしくは容量が低下する恐れがある。
【0006】
本発明の目的は、上述した事情を鑑みてなされたものであり、工程経路内でのペーストのチクソトロピーインデックス値を一定に保ちながら電極塗工を行う製造方法およびその製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の蓄電装置の製造方法は、ペースト供給部からペースト供給先へ繋がっているペースト供給経路内に設けられた少なくとも2つの測定点で測定したペーストの粘度から算出したチクソトロピーインデックス値に基づいてペーストの分散状態の良否が判定され、ペーストの分散状態が否と判定されたときは、ペーストの分散状態を調整し、調整されたペーストが塗工された電極を用いていることを要旨とする。
【0008】
これによれば、粘度計で測定されるチクソトロピーインデックス値を所定範囲内に保つことで、ペーストの分散性を一定に保つことが可能となる。分散性の優れたペーストを塗工した電極を用いて製造された蓄電装置は、出力特性、サイクル特性もしくは容量に優れた電池を得ることができる。
【0009】
本発明請求項2記載の蓄電装置の製造方法によると、ペーストの分散状態が否と判定されたときは、ペーストをペースト供給部に戻し、溶媒、活物質、添加剤のいずれかを混合することを要旨とする。
【0010】
これによると、材料ロット自体が変わった場合や、溶媒の希釈量の変化等で粘度の値が変化した場合であっても、ペーストの分散状態を管理することができ、ペーストの良好な分散状態を維持することができる
【発明の効果】
【0011】
この発明によれば、分散性の優れたペーストを塗工した電極を使用する蓄電装置の製造方法及び製造装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明にかかる製造装置のブロック図である。
【
図2】本発明にかかる製造方法および製造装置の動作を示すフローチャートである。
【
図3】本発明の実施形態にかかる出力と粘度比の相関図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について
図1~
図4を参照しながら説明する。
【0014】
本実施形態において、蓄電装置は例えばリチウムイオン二次電池である。
図4に示すように、電極40は、
集電体41の両面に活物質層42を有するものである。ペースト10(図示省略)は、
集電体41に塗工されて活物質層
42を形成する材料である。ペースト10の配合原料は、粉末固体としての活物質11、粉末固体やペースト体としての添加剤12、および液体としての溶媒13を含み、必要に応じて増粘剤等が添加される。本実施形態で使用したペースト10は、活物質:添加剤=19:1の配合で混練されている。活物質11は、少なくともニッケル、コバルト、マンガン、アルミ、シリコン、炭素、リチウムのいずれかを含む粒子である。添加剤12としてカーボンブラックや、有機溶剤系のバインダーを用いる。
【0015】
図1のブロック図に示すように、本発明にかかる分散性の優れたペースト10を塗工した電極を使用する蓄電装置の製造装置は、ペースト供給部30(混練機21)からペースト供給先31(タンク24または塗工機25)へのペースト供給経路32内に設けられた2つの粘度計22,23を有している。混練機21で原料を混ぜ合わせたペースト10は、ペースト供給経路32を通して、タンク24に供給される。タンク24に貯蔵されたペースト10を、塗工機25を用いて、金属箔である集電体41表面に塗工して、活物質層42を形成する。
【0016】
図2に示すように、混練機21は、原料を混練して(S101)、分散させ(S102)、ペースト10を作製する装置である。混練機21の内部にはペースト10を混練して分散させる為の羽根が設けられている。ペースト10は、ペースト供給経路32から混練機21に戻り、制御部26の信号(S106)により、原料を追加し(S107)、粘度が調整される。
【0017】
粘度計22,23は、ペースト供給経路32内部に設置されている。本実施形態で使用する粘度計22,23は、回転式粘度計である。粘度計22,23は、ペースト供給経路32内にインラインで設置されている。すなわち、新たなバイパスを設けずに設置されている。また、粘度計22,23は、ペースト供給経路32内において、流路に沿って直列に並んでいる。粘度計22,23は、異なる回転速度で粘度測定を行っている(S103,S104)。本実施形態において、粘度計22の回転速度は2rpm、粘度計23の回転速度は20rpmである。
【0018】
制御部26は、粘度計22,23で測定した粘度からチクソトロピーインデックス値(TI値)を算出する(S105)。算出したTI値にもとづいてペースト10の分散状態の良否を判断する(S106)。本発明にかかるペースト10は、チクソトロピー性を有した流体であり、ペースト10の良否をTI値にて判断する。チクソトロピー性とは、一定の力をかけ続けることで粘度が下がり、また下がった粘度がある一定時間放置すると元に戻る性質のことである。TI値は、チクソトロピー性を持つ流体の評価指数として、一般的に用いられている。TI値の一般的な算出方法は、2つの回転速度もしくはせん断速度での粘度値の比で表し、一般的に回転速度比またはせん断速度比1:10で設定する。このとき、回転速度もしくはせん断速度が高いほうを分母にとり、TI値を算出する。本実施形態では、TI値が1以上になるように比を取った。
【0019】
タンク24は、制御部26で、良と判定(S106;YES)されたペースト10を一時的に貯蔵する場所であり、所定の速度で回転する羽根が備え付けられており、ペースト10の分散状態を保つことができる。
【0020】
制御部26で否と判定(S106;NO)されたペースト10は、混練機21へ戻され、原料を混入して(S107)粘度調整を行う(S101,S102)。
【0021】
そして、塗工機25にて、集電体41の表面にペースト10を塗工する。
【0022】
ここで、制御部26でのペースト10の分散状態の良否判定(S106)について説明する。粘度測定S103での速度をγ1、粘度測定S104での速度をγ2とおく。本実施形態では、γ1=2rpm、γ2=20rpmの条件で粘度測定(S103,S104)をした。本実施形態で測定したTI値(粘度比)と出力との相関性を、
図3に示す。TI値が小さいほど、ペースト10の分散状態が良好なため、出力が良い傾向であることが分かる。また、TI値が1.8のとき、出力が大幅に低下する閾値があると判断できる。本実施形態のペースト10の良否判定(S106)は、速度比がγ1/γ2=0.1のとき、TI値=1~1.8の範囲内にあるときペースト10は良と判断(S106;YES)し、TI値=1~1.8の範囲外にあるときペースト10は否と判断(S106;NO)する。
【0023】
次に、本実施形態の作用を説明する。
【0024】
上記実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)本発明によれば、ペースト供給部30からペースト供給先31へのペースト供給経路32内に設けられた2つの粘度計22,23で測定されたTI値(粘度の比)を特定範囲に収めることにより、ペースト10に含まれる活物質11や添加剤12の分散性が向上する。それに伴い、塗工時における目付け精度が向上する。また、目付け精度の向上により得られる塗工電極は、平滑性に優れて柔軟なため、活物質層のクラック発生を低減でき、活物質密度の高い電極が得られる。また、活物質密度が高く、柔軟性のある電極が得られるため、優れた出力特性、高電位サイクル特性、初期容量の高い蓄電装置を提供することができる。
(2)本発明によれば、ペースト供給経路32内にインライン(新たなバイパスを設けずに)で、粘度計22,23を取り付けるため、リアルタイムな粘度管理をすることが可能となる。また、設定範囲外のTI値がであった場合は、混練機21へペースト10を戻し、必要な分だけ原料を加えて混合する。これらの工程を全てインラインにて処理が可能なため、工数が大幅に低減できる。
【0025】
なお、上記実施形態は以下のように変更しても良い。
○ 粘度計22,23が、回転粘度計の場合、粘度計22と粘度計23は同一の粘度計でも良い。この場合、一定時間ごとに2種類の回転速度γ1,γ2(γ1/γ2=0.1)に切り替わり、粘度測定を行う。
○ 粘度計22,23は、細管式粘度計、落球式粘度計でも良い。いずれの場合も、ペースト供給経路32内部に設置する。落球式粘度計は、ペースト供給経路32内部から枝分かれした測定管の中を落下錘が移動する時間を粘度に変換する装置で、再現性に優れている。粘度計22,23は、それぞれ測定管の太さ、落下錘の重量や大きさのいずれかが異なっており、それぞれのせん断速度条件での粘度を測定する(S103,S104)。粘度計22,23は、ペースト供給経路32に沿って直列に設置しても良いし、並列に配置しても良い。
【符号の説明】
【0026】
10 ペースト
11 活物質
12 添加剤
13 溶媒
21 混練機
22 粘度計
23 粘度計
24 タンク
25 塗工機
26 制御部
30 ペースト供給部
31 ペースト供給先
32 ペースト供給経路
40 電極
41 集電体
42 活物質層