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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-28
(45)【発行日】2022-03-08
(54)【発明の名称】光学素子
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/00 20060101AFI20220301BHJP
   B42D 25/324 20140101ALI20220301BHJP
   B42D 25/328 20140101ALI20220301BHJP
   B42D 25/36 20140101ALI20220301BHJP
   G02B 5/18 20060101ALI20220301BHJP
【FI】
G02B5/00 Z
B42D25/324
B42D25/328 120
B42D25/36
G02B5/18
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2017237816
(22)【出願日】2017-12-12
(65)【公開番号】P2019105722
(43)【公開日】2019-06-27
【審査請求日】2020-11-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(72)【発明者】
【氏名】田代 智子
【審査官】沖村 美由
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-060001(JP,A)
【文献】特開2014-052527(JP,A)
【文献】特開2006-134144(JP,A)
【文献】特開2009-023236(JP,A)
【文献】国際公開第2017/170886(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/138536(WO,A1)
【文献】中国実用新案第2547666(CN,Y)
【文献】特開2010-099929(JP,A)
【文献】特開平10-035149(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B5/00-5/136
G02B5/18;5/32
G03H1/00-5/00
B42D15/02;25/00-25/485
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも3層以上の積層体からなる光学素子であって、
光透過性を有する第1層、第2層、第3層がこの順に積層され、前記第1層と第2層との間にレリーフ構造が形成された第1レリーフ領域を少なくとも一部に有し、
前記第2層の少なくとも一部は気体であって、前記第1層と第3層の間に内包され、
前記第3層の少なくとも一部は樹脂または液体で構成され、
前記第1層の屈折率が前記第2層の屈折率よりも高く、
且つ、前記第1層と前記第3層の屈折率の屈折率差が±0.2以内であり
前記第1レリーフ領域が、第1層側から特定角度で入射した光を全反射するような傾斜面を有し、
且つ、前記第1層および前記第3層の少なくとも一方がレリーフ構造を一時的に埋めることを可能とする高弾性であ樹脂で構成されることを特徴とする光学素子。
【請求項2】
前記第3層が、前記第2層との間にレリーフ構造が形成された第2レリーフ領域を少なくとも一部に有し、
前記レリーフ構造には表面形状に追従して反射層が設けられることを特徴とする請求項1に記載の光学素子。
【請求項3】
前記第3層に接するように第4層が設けられ、
前記第4層は第3層側もしくはその反対側の表面に、
レリーフ構造が形成された第3レリーフ領域を少なくとも一部に有し、
前記レリーフ構造には表面形状に追従して反射層が設けられ、
且つ、前記第3レリーフ領域の少なくとも一部が、積層方向において前記第1レリーフ領域と重複することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の光学素子。
【請求項4】
前記第1レリーフ領域が第1領域と第2領域を有し、
前記第1領域と前記第2領域が光学素子平面に対し異なる角度で傾斜した斜面を有し、
且つ、光学素子を観察する側の特定角度から入射した光を前記第1領域は全反射し、
前記第2領域は透過することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の光学素子。
【請求項5】
前記第3層を構成する樹脂が液体に対して膨潤特性を有し、
且つ、前記第1層に層を貫通する細孔が多数設けられていることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の光学素子。
【請求項6】
少なくとも3層以上の積層体からなる光学素子であって、
光透過性を有する第1層、第2層、第3層がこの順に積層され、前記第2層と第3層との間にレリーフ構造が形成されたレリーフ領域を少なくとも一部に有し、
前記第1層はレリーフ構造を一時的に埋めることを可能とする高弾性である樹脂で構成され、
前記第2層の少なくとも一部は気体であって、前記第1層と第3層の間に内包された表示体であって、
前記第3層の前記第2層とは反対側に光を吸収する吸収層が設けられ、
前記第1層、第2層、第3層は光透過性を有し、
前記第1層と第2層の屈折率が互いに異なり、
且つ、前記第1層と第3層の屈折率の屈折率差が±0.2以内であることを特徴とする光学素子。
【請求項7】
前記第1層および第3層の第2層に面した側の表面の少なくとも一方において、
表面の形状に追従して離型層が設けられ、且つ、前記離型層の屈折率は前記第1層あるいは第2層の屈折率との屈折率差が±0.2以内であることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれかに記載の光学素子。
【請求項8】
前記第1層と、第2層以降の層で気体あるいは液体を含まない最初の領域とは、
部分的に溶着しているか、または接着層を介して部分的に接合していることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれかに記載の光学素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外部刺激に対して光学的あるいは電気的な応答を示す素子に関する。
【背景技術】
【0002】
紙幣やクレジットカード、商品券等の有価証券の偽造防止、および商品のブランドプロテクションを目的として、ホログラムや回折格子、多層干渉膜などを利用した光学素子が上記物品に付される。このように、微細な凹凸構造を形成して光学的な視覚効果を表現したり、特殊インキを精巧に配置してパターンを形成したりすることは容易でないため、偽造防止効果がある。
【0003】
特別な検証器具を必要とせず、目視のみで真贋判定できる光学素子として、観察角度に応じて色や像が変化するものが広く用いられている。観察角度に応じて色変化させる手段としては、回折格子の形成や特殊インキの使用、多層干渉膜などがある。また、像の変化にはプリズムやレンチキュラーレンズなどの微細凹凸構造を利用したものがある。そのような技術を用いた偽造防止用の光学素子として、例えば、特許文献1や特許文献2が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2008-547040号公報
【文献】特開2005-35115号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、観察角度を変化させる、すなわち上記素子を付した物品を傾けることにより像や色が変化するといった効果は、一般に広く知られた技術によって模造することが可能となり、素人には真贋判定が不可能なほど高精度に偽造されてしまうことが懸念される。そこで、偽造防止用の光学素子を構成する各要素には、従来にも増して、新規な構造あるいは構成が強く求められている。
【0006】
本発明は、真贋判定方法として一般化している「物品を傾ける」という動作以外で、且つ、専用の検証器具を必要としない動作、作用によって判定可能で、さらに単層のプリズムあるいはレンズ以外の技術によって上記を実現する新しい構成および効果を有した素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明はこれらの課題を解決すべくなされたものである。
すなわち、上記課題を解決するための光学素子は、光透過性を有する第1層、第2層、第3層がこの順に積層され、前記第1層と第2層との間にレリーフ構造が形成された第1レリーフ領域を少なくとも一部に有し、前記第2層の少なくとも一部は気体であって、前記第1層と第3層の間に内包され、前記第3層の少なくとも一部は樹脂または液体で構成され、前記第1層の屈折率が前記第2層の屈折率よりも高く、且つ、前記第1層と前記第3層の屈折率がほぼ等しく、前記第1レリーフ領域が、第1層側から特定角度で入射した光を全反射するような傾斜面を有し、且つ、前記第1層および前記第3層の少なくとも一方が高弾性であり、さらに粘着性または低融着性のどちらかの特性を有した樹脂で構成される。
【0008】
上記構成によれば、光学素子は、通常時は第1レリーフ領域の全反射によって表示される像が観察され、光学素子に外力が加わり、第2層によって形成されていた第1層と第3層の間隙がなくなると第1層側から入射した光は第1層から第3層までを透過し、像が表示されなくなる。
【0009】
また、上記構成によれば、第1層および第3層の少なくとも一方が高弾性であり、さらに粘着性または低融着性のどちらかの特性を有した樹脂であるため、外力が加わったときに樹脂がレリーフ構造に入り込み、透過作用を高められるとともに、第1層と第3層が密着した状態を一定時間保持できるため、像の消失効果を視認しやすくなる。
【0010】
上記光学素子において、前記第3層が、前記第2層との間にレリーフ構造が形成された第2レリーフ領域を少なくとも一部に有し、前記レリーフ構造には表面形状に追従して反射層が設けられる。
【0011】
上記構成によれば、光学素子に外力が加わったときに、第1層と第3層との間の反射層により、上記2つの層が密着しても第2レリーフ領域の反射像を視認することができるため、外力が加わる前後で、第1レリーフ領域内にて異なる像を表示させることが可能である。
【0012】
上記光学素子において、前記第3層に接するように第4層が設けられ、前記第4層は第3層側もしくはその反対側の表面に、レリーフ構造が形成された第3レリーフ領域を少なくとも一部に有し、前記レリーフ構造には表面形状に追従して反射層が設けられ、且つ、前記第3レリーフ領域の少なくとも一部が、積層方向において前記第1レリーフ領域と重複する。
【0013】
上記構成によれば、光学素子に外力が加わる前後で、第1レリーフ領域内において異なる像を表示させることが可能である。また、平坦な第3層を介して第1層および第4層にレリーフ構造を設けることにより、光学素子に外力を加えた場合にレリーフ構造同士が接することなく密着するため、第1レリーフ領域の構造細部にまで樹脂が均一に埋まりやすくなり、効果が明瞭になる。
【0014】
上記光学素子において、前記第1レリーフ領域が第1領域と第2領域を有し、前記第1領域と前記第2領域が光学素子平面に対し異なる角度で傾斜した斜面を有し、且つ、光学素子を観察する側の特定角度から入射した光を前記第1領域は全反射し、前記第2領域は透過する。
【0015】
上記構成によれば、光学素子を観察したとき、第1層に設けられたレリーフ構造による反射と透過によって形成された像が視認される。このとき、透明な第2領域においては、第3層あるいは第4層に形成されたレリーフ構造による反射像が観察されており、光学素子に外力を加えると、第2領域で見える像は変化せず、第1領域のみで第1層の反射像から第3層あるいは第4層の反射像への変化が認められる。このように、上記構成によれば、表示させる像を部分的に変化させることが可能である。
【0016】
上記光学素子において、前記第3層を構成する樹脂が液体に対して膨潤特性を有し、且つ、前記第1層に層を貫通する細孔が多数設けられている。
【0017】
上記構成によれば、第1層を最表面とする光学素子に液体を滴下もしくは塗布すると、細孔を通じて第3層に水分が供給されて樹脂が膨潤することにより、第1層と第3層の間隙が埋まり、上記と同様の効果が得られる。また、液体が蒸発して樹脂が乾燥すると、樹脂は収縮し、液体付与前の状態へ戻るため、繰り返し利用することが可能である。
【0018】
上記光学素子において、光透過性を有する第1層、第2層、第3層がこの順に積層され、前記第2層と第3層との間にレリーフ構造が形成されたレリーフ領域を少なくとも一部に有し、前記第1層は高弾性、かつ粘着性または低融着性のどちらかの特性を有した樹脂で構成され、前記第2層の少なくとも一部は気体であって、前記第1層と第3層の間に内包された表示体であって、前記第3層の前記第2層とは反対側に光を吸収する吸収層が設けられ、前記第1層と第2層の屈折率が互いに異なり、且つ、前記第1層と第3層の屈折率がほぼ等しい。
【0019】
上記構成によれば、第1層および第3層を透過した光が、第2層と第3層の間のレリーフ構造における回折または干渉によって形成された像や構造色が第1層側から観察され、光学素子に外力を加えると、上記同様レリーフ構造が埋まるため反射像および回折光は観察されなくなるため、像および色の消失という効果が得られる。
【0020】
また、上記構成によれば、吸収層を設けることにより、光透過性を有する第3層のレリーフ構造を透過した光を吸収し、構造色による発色を明瞭に見せることが可能である。
【0021】
上記光学素子において、前記第1層および第3層の第2層に面した側の表面の少なくとも一方において、表面の形状に追従して離型層が設けられ、且つ、前記離型層の屈折率は前記第1層あるいは第2層の屈折率とほぼ等しい。
【0022】
上記構成によれば、光学素子に外力を加え、第1層と第3層が密着しても、その間に備えられた離型性によって、一定時間が経つと上記2つの層は自然と離れ、外力を加える前の状態に戻ることができる。これにより、光学素子を繰り返し利用することが可能となる。
【0023】
上記光学素子において、前記第1層と第2層以降の層で気体あるいは液体を含まない最初の領域とは部分的に溶着しているか、または接着層を介して部分的に接合している。
【0024】
上記構成によれば、気体あるいは液体を内包する第1層と第2層以降の層が複数箇所で溶着あるいは接合されることで、光学素子の物理的耐久性が保持される。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、外部刺激に応答を示すことで真贋判定可能な可逆的な光学素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】第1実施形態に係る光学素子の例を示した(a)断面図、(b)正面図。
図2図1の光学素子に外力を加えた状態の例を示した(a)断面図、(b)正面図。
図3】レリーフ構造における全反射と透過を説明する断面図。
図4】レリーフ構造の傾斜角と臨界角の関係を説明する断面図。
図5】第2実施形態に係る光学素子の例を示した(a)断面図、(b)正面図。
図6図5の光学素子に外力を加えた状態の例を示した(a)断面図、(b)正面図。
図7】第3実施形態に係る光学素子の例を示した(a)断面図、(b)正面図。
図8図7の光学素子に外力を加えた状態の例を示した(a)断面図、(b)正面図。
図9図7の光学素子の一部を着色層とした例を示した断面図。
図10】第4実施形態に係る光学素子の例を示した断面図。
図11】第5実施形態に係る光学素子の例を示した断面図。
図12】第6実施形態に係る光学素子の例を示した(a)断面図、(b)正面図。
図13図12の光学素子に外力を加えた状態の例を示した(a)断面図、(b)正面図。
図14】第7実施形態に係る光学素子の例を示した断面図。
図15図14の光学素子に外力を加えた状態の例を示した断面図。
図16】第8実施形態に係る光学素子の例を示した断面図。
図17】第8実施形態に係る光学素子の例を示した断面図。
図18】第9実施形態に係る光学素子の例を示した断面図。
図19】第9実施形態に係る光学素子の例を示した断面図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に、本発明の実施の形態について詳細に説明する。以下の説明において適宜図面を参照するが、図面に記載された態様は本発明の例示であり、本発明はこれらの図面に記載された態様に制限されない。
【0028】
尚、同様又は類似した機能を発揮する構成要素には全て図面を通じて同一の参照符号を附し、重複する説明は省略する。
【0029】
[第1実施形態]
図1から図4を参照して、光学素子の第1実施形態を説明する。
【0030】
図1が示すように、光学素子(1)は、傾斜面を含むレリーフ構造が表面に形成された第1レリーフ領域(21)を備えた第1層(2)と、前記レリーフ構造に接するように配置された第2層(3)と、第2層の第1層とは反対側に設置された第3層(4)から構成される。また、第1層(2)と第2層(3)とは屈折率の異なる材料から構成され、第2層(3)は少なくとも一部が気体である。第1層(2)の屈折率は第2層(3)の屈折率よりも高く、第1層側から入射した光はレリーフ構造の傾斜面に垂直な軸と入射光とが為す入射角に応じて、反射あるいは透過する。入射光の光路についての詳細は、後述する。図1の例では、図1(b)に示すように、レリーフ構造にて反射された光によって像(22)が表示されている。
【0031】
図2は、図1の光学素子(1)に外力が加わり、第1層(2)と第3層(4)が密着している様子を示している。第1層(2)および第3層(4)の少なくとも一方は高弾性、かつ粘着性または低融着性のどちらかの特徴を有しており、図2では第3層(4)がそれらの特徴を有している場合の例を示している。第1層(2)に設けられたレリーフ構造の窪みに第3層(4)が入り込むことにより、2つの層が一体化する。どちらの層も屈折率がほぼ同じであるため、実質的には屈折率が一様なひとつの層とみなすことができる。その結果、光学素子(1)に光が入射してもレリーフ構造による反射が生じないため、図2(b)の第1レリーフ領域(21)において像(22)は現れず、あたかも像(22)が消失したような効果が得られる。
【0032】
ここで、入射光の光路について説明する。第1層(2)の屈折率をn、第2層(3)の屈折率をn、第1層側から入射する光の入射角をθ、射出角をθとしたとき、入射光の光路は式(1)のスネルの法則に従って決まる。
【0033】
・sinθ= n・sinθ ・・・式(1)
入射角が臨界角以上になると、入射光は全反射する。臨界角、すなわち射出角θが90°になるとき、式(2)が成り立つ。
【0034】
θ=arcsin(n/n) ・・・式(2)
式(2)に従うと、例えばn=1.5、n=1.0の場合、臨界角θ=41.8となる。つまり、入射角が41.8°以上の場合、入射光は全反射することとなる。
【0035】
図3には、例としてレリーフ構造の傾斜面における入射光ILおよびILの光路を示している。領域Aには傾斜角θα、領域Bには傾斜角θβのレリーフ構造が配置されている(θα≠θβ)。屈折率nの媒質1から屈折率nの媒質2に光が入射したとき、入射光ILおよびILは互いに平行であるが、領域Aと領域Bではレリーフ構造の傾斜角が異なるために、それぞれにおける入射角θおよびθの大きさは異なる。したがって、式(1)よりそれぞれのレリーフ構造における射出角θおよびθは異なり、入射角が臨界角よりも大きい領域Aでは入射光は射出角θで全反射した射出光ELが得られ、入射角が臨界角よりも小さい領域Bでは、式(1)より算出される射出角θで媒質2へ透過した射出光ELが得られる。
【0036】
また、入射角θおよびθは以下のように分解することができる。図4のように、光学素子平面に対する垂線をN、各レリーフ構造の傾斜面に対する垂線をP、Pとすると、入射光ILおよびILが垂線Nと為す角θは両レリーフ構造において共通である。次に、垂線Nと垂線PおよびPが為す角θおよびθは、それぞれ傾斜角θαおよびθβに等しい。すなわち、入射光ILおよびILの入射角θおよびθは式(3)、式(4)のように表せる。
【0037】
θ=θ+θα ・・・式(3)
θ=θ+θβ ・・・式(4)
したがって、垂線Nと光源とが為す角θが決定したら、式(1)より臨界角を算出し、光を反射させたい領域ではθが臨界角以上になるように、反対に光を透過させたい領域ではθが臨界角未満になるように、レリーフ構造の傾斜角θαおよびθβの大きさを設定すればよい。
【0038】
さらに、全反射させる入射角範囲において、どの角度を設定するかによって、所定の観察角度から光学素子(1)を観察した場合に視認される反射強度が変化する。すなわち、レリーフ構造の傾斜角を領域ごとに変化させることにより、領域によって反射強度が異なる像、つまり濃淡画像を表示させることも可能である。これにより、表示像に立体感をもたせることができる。
【0039】
以上の考えに基づいて構造設計をすることにより、図1に示したような像を、第1層(2)と第2層(3)との屈折率差から生じる全反射光によって表示させることができるため、レリーフ構造に反射層を用いる必要がなく、その結果、互いの屈折率がほぼ同等である第1層(2)と第3層(4)を密着させた場合に屈折率差が生じず、像(22)を消失させることが可能となる。
【0040】
[第2実施形態]
図5および図6を参照して、光学素子の第2実施形態を説明する。
【0041】
図5が示すように、光学素子(1)は、傾斜面を含むレリーフ構造が表面に形成された第1レリーフ領域(21)を備えた第1層(2)と、前記レリーフ構造に接するように配置された第2層(3)と、第2層の第1層とは反対側に設置され、傾斜面を含むレリーフ構造が表面に形成された第2レリーフ領域(41)を備えた第3層(4)から構成される。さらに、第2レリーフ領域(41)の表面には反射層(5)が設けられている。また、第1層(2)は第2層(3)とは屈折率の異なる材料から構成され、第2層(3)は少なくとも一部が気体である。第1層(2)の屈折率は第2層(3)の屈折率よりも高く、第1実施形態にて説明したように、第1層側から入射した光はレリーフ構造の傾斜面に垂直な軸と入射光とが為す入射角に応じて、反射あるいは透過する。
【0042】
図5(a)において、第1層(2)の第1レリーフ領域(21)を、コーナーキューブアレイのような再帰反射構造とすることにより、光学素子(1)を第1層側から観察した場合に、全面から一様な反射光が射出され、図5(b)のように見える。
【0043】
一方、光学素子(1)に力を加えて第1層(2)と第3層(4)を密着させたとき、第1層(2)が高弾性、かつ粘着性あるいは低融着性を有している場合、第1層(2)が変形し、図6(a)のような状態となる。その結果、光透過性を有した第1層(2)を通して、第3層(4)に設けられた第2レリーフ領域(41)において像(42)が観察される。すなわち、光学素子(1)に外力を加えることにより、何も表示されていなかった領域に像が現れるという効果が得られる。第1実施形態と異なり、第3層(4)の少なくとも第2レリーフ領域(41)に、第1層(2)とは屈折率の異なる反射層(5)を設けることによって、上述の効果が得られる。
【0044】
[第3実施形態]
図7から図9を参照して、光学素子の第3実施形態を説明する。
【0045】
図7が示すように、光学素子(1)は、傾斜面を含むレリーフ構造が表面に形成された第1レリーフ領域(21)を備えた第1層(2)と、前記レリーフ構造に接するように配置され、少なくとも一部が気体である第2層(3)と、少なくとも一部が樹脂あるいは液体で構成された第3層(4)と、第3層とは反対側の表面に、傾斜面を含むレリーフ構造が形成された第3レリーフ領域(61)を備えた第4層(6)から構成される。さらに、第3レリーフ領域(61)の表面には反射層(5)が設けられている。第1層(2)の屈折率は第2層(3)の屈折率よりも高く、且つ、第3層(4)および第4層(6)は共に第1層(2)と屈折率がほぼ等しい。
【0046】
第1実施形態および第2実施形態と同様、レリーフ界面における屈折率差と構造の傾斜角を利用し、第1レリーフ領域(21)は光学素子(1)を第1層側から観察した場合に全反射するような構造で構成されており、図7(b)のように像(22)が観察される。ここでは、例として星のパターンを示している。
【0047】
一方、図8(a)のように光学素子(1)に外力を加えて、第1層(2)と第3層(4)を密着させた場合、屈折率がほぼ等しい第1層(2)、第3層(4)、第4層(6)は、実質的にひとつの層とみなすことができる。これらの一体化した層は光透過性を有しているため、光学素子(1)を第1層側から観察した場合には、図8(b)のように、第4層(6)に形成され、反射層(5)を備えた第3レリーフ領域(61)が表示する像(62)が観察される。ここでは、例として月のパターンを示している。
【0048】
したがって、このような構成とすることにより、通常は星のパターンが観察され、光学素子(1)を押すなど外力を加えた場合には月のパターンが観察される、チェンジングの効果が得られる。
【0049】
ここで、図7ならびに図8等では、第4層(6)の第3層(4)と接する面とは反対側の面に、第3レリーフ領域(61)が設けられているが、必ずしもこちらの面に限定されるものではなく、第3層(4)と接する面側に、第3レリーフ領域(61)および反射層(5)が設けられてあっても何ら問題ない。
【0050】
また、第4層(6)にて像を表示させる手段は、レリーフ構造による反射に限らず、着色層によるものであってもよい。図9はそのような構成を示したものである。ここでは図を簡略化させているが、着色層(7)のうち、第1層(2)の第1レリーフ領域(21)に相当する領域の少なくとも一部にパターンが形成される。
【0051】
[第4実施形態]
図10を参照して、光学素子の第4実施形態を説明する。
【0052】
図10が示すように、光学素子(1)は、傾斜面を含むレリーフ構造が表面に形成された第1レリーフ領域(21)を備えた第1層(2)と、前記レリーフ構造に接するように配置され、少なくとも一部が気体である第2層(3)と、少なくとも一部が樹脂あるいは液体で構成された第3層(4)と、第3層とは反対側の表面に、傾斜面を含むレリーフ構造が形成された第3レリーフ領域(61)を備えた第4層(6)から構成される。さらに、第3レリーフ領域(61)の表面には反射層(5)が設けられている。第1層(2)の屈折率は第2層(3)の屈折率よりも高く、且つ、第3層(4)および第4層(5)は共に第1層(2)と屈折率がほぼ等しい。
【0053】
第1レリーフ領域(21)は、第1領域(211)と第2領域(212)とを含み、第1領域(211)と第2領域(212)とは、光学素子(1)を第1層(2)側から観察した場合に、それぞれ全反射領域および透過領域となるようなレリーフ構造から形成される。この場合、図10の状態で光学素子(1)を観察すると、透過領域となる第2領域(211)による表示像と、第4層(6)に形成された第3レリーフ領域(61)のうち、第2領域(212)に相当する部分による表示像とが合わさった像が視認される。
【0054】
第1領域(211)と第2領域(212)は、どちらも全反射および透過という条件を満たしていれば、各領域内のレリーフ構造は全て同一でなくてもよい。例えば、第1領域(211)に傾斜角の異なるレリーフ構造を設けることにより、濃淡画像を表現することが可能である。また、同様のことを第2領域(212)で実施した場合、領域内において透過率が変化するため、第2領域(212)を通して観察される第3レリーフ領域(61)の像を、例えば中心から徐々に明瞭に見せたり、ドット状に部分的に明瞭に見せたりするなど、見せ方を任意に変えることが可能である。
【0055】
このような構成にすることにより、光学素子(1)に外力を加え、第1層(2)と第3層(4)を密着させた場合に、第2領域(212)では外力を加える前後で同一の像が観察され、第1領域(211)では第3レリーフ領域(61)が形成する像に変化する。さらに、上述のような第2領域(212)内で傾斜角の異なるレリーフ構造を配置し、透過率を変化させている場合には、光学素子(1)に外力を加える前後で、第2領域(212)において観察される像は同一であるが、全体の見え方が一様かつ明瞭になる、といった変化が得られる。
【0056】
[第5実施形態]
図11を参照して、光学素子の第5実施形態を説明する。
【0057】
図11が示すように、光学素子(1)は第1~5層(2、3、4、6、8)および着色層(7)から構成される。各層の特徴は第4実施形態とほとんど同じである。第1レリーフ領域(21)のうち、第2領域(212)を構成する構造が斜面構造ではなく、平坦な構造であるが、これは一例であり、透過効果があれば構造の形状は問わない。第4実施形態と異なる点としては、まず第1に、第4層(6)の第3レリーフ領域(61)が、第3レリーフ第1領域(611)と第3レリーフ第2領域(612)とを含み、第3レリーフ第1領域(611)においてはレリーフ構造に沿って反射層(5)が設けられているのに対して、第3レリーフ第2領域(612)には反射層が設けられていないことが挙げられる。第2に、第5層(8)が設けられていることが挙げられる。第5層(8)は、第2層(3)を除く第1~4層(2、4、6)と屈折率がほぼ等しい。
【0058】
第3レリーフ領域に部分的に反射層を設ける方法として、第3レリーフ第1領域(611)と第3レリーフ第2領域(612)とで構造の深さ幅比を変え、反射層の膜厚に差をつけてエッチングすることにより、膜厚の薄い領域のみ反射層を除去するというやり方がある。反射層を除去する領域に設ける構造の深さ幅比は0.3以上であることが好ましい。
【0059】
他の手法としては、反射層(5)を残したい領域、即ち図11では、第3レリーフ第1領域(611)の反射層(5)表面上にマスク層を設け、エッチングすることにより、マスク層が設けられていない第3レリーフ第2領域(612)の反射層を取除く方法などを例示することができる。
【0060】
第1レリーフ領域(21)と第3レリーフ領域(61)それぞれの第2領域(212、612)は完全に一致していてもよいし、一部のみ重複していてもよい。このような構成とすることにより、光学素子(1)を観察した場合に、第1領域(211)においては全反射による反射像が、第2領域(212)においては着色層(7)による像が観察され、光学素子(1)に対し押すなどの外力を加えた場合には、第1領域(211)では第3レリーフ第1領域(611)の反射像が、第2領域(212)では着色層(7)による像が観察される。
【0061】
第2領域(212)は透過構造に限定されるものではなく、例えば第1領域(211)のように全反射構造としてもよい。このような構成にすることにより、光学素子(1)に外力を加える前後で像を変化させられるだけでなく、部分的に金属や色材といった異なる質感の材料で像を表示することができ、デザインの自由度が高くなるとともに、偽造防止効果の向上も期待される。
【0062】
[第6実施形態]
図12および図13を参照して、光学素子の第6実施形態を説明する。
【0063】
図12(a)が示すように、光学素子(1)は、少なくとも一部が樹脂あるいは液体で構成された第1層(2)と、少なくとも一部が気体である第2層(3)と、第2層(3)に面した表面にレリーフ構造が形成された第2レリーフ領域(41)備えた第3層(4)と、吸収層(9)から構成される。第1層(2)の屈折率は第2層(3)の屈折率よりも高く、第1層(2)と第3層(4)は屈折率がほぼ等しい。第1~3層(2、3、4)はいずれも透明材料であり、光透過性を有する。
【0064】
第2レリーフ領域(41)には、回折や干渉で色を発現する構造が形成されており、構造の深さや配置を設計することで、図12(b)に示すような像(42)を多色で表示することができる。
【0065】
構造色は観察角度(入射角と観察角の組み合わせ)によって色調が変化するものや、広い観察角度で特定色を生じるものがある。それ以外の波長領域のほとんどを透過させるため、透過した光を吸収することによって、構造色の光と透過光とが混合して構造色の色が白くなることを防止できる。つまり、構造色によって鮮やかな色変化や固定色を得るためには吸収層(9)が必要となる。吸収層(9)は顔料や染料などの色材を使ってよく、典型的には黒色顔料であるカーボンである。しかし色材以外でも光を吸収する特性があれば使用してよい。たとえば反射防止構造などで利用されるモスアイ構造は、そのレリーフ構造に反射層を付与することによって光吸収効果を生じることが知られており、これらの構造を吸収層(9)として利用してもよい。その結果、光学素子(1)を第1層側から観察したときに、第2レリーフ領域(41)にて発現される構造色を視認しやすくなる。
【0066】
一方、図13(a)のように光学素子(1)に外力を加え、第1層(2)と第3層(4)を密着させたとき、2つの層には屈折率差がほぼないため、第2レリーフ領域(41)では構造による回折や干渉が生じず、発色しない、すなわち像(42)が視認できなくなる。結果として、吸収層(9)の黒色のみが一様に広がった平面が観察されることとなる。
【0067】
図13(b)では、破線で画像が示されているが、像(42)が見えなくなったことを示しているのであって、実際には視認されない。
【0068】
[第7実施形態]
図16および図17を参照して、光学素子の第8実施形態を説明する。
【0069】
図16が示すように、光学素子(1)は、第2層側にレリーフ構造を有した第1層(2)と、少なくとも一部が気体である第2層(3)と、第3層(4)と、第3層(4)とは反対側に反射層(5)を備えたレリーフ構造が形成された第4層(6)から構成される。第1層(2)の屈折率は第2層(3)の屈折率よりも高く、第1層(2)と第3層(4)は屈折率がほぼ等しい。第1~3層(2、3、4)はいずれも透明材料であり、光透過性を有する。
【0070】
第1層(2)において、少なくとも光学素子平面のうち、第1層(2)と第3層(4)を密着させたときに像変化を生じさせたい領域に、複数の細孔(10)が形成されている。細孔(10)は第1層(2)を貫通するもので、目視で視認できない大きさで、且つ第1層(2)に形成されたレリーフ構造によって表示される像が十分に視認できる範囲内で数多く設けられることが望ましい。より具体的には、細孔直径が300μm以下、好ましくは100μm以下であり、細孔形成領域の単位面積あたりにおける〈細孔面積×細孔数〉が50%以下、好ましくは30%以下であることが望ましい。
【0071】
さらに、第3層(4)の構成材料として、水分で膨潤し、乾燥すると収縮する樹脂を用いる。この構成とすることにより、第1層側に液体を滴下もしくは塗布すると細孔(10)を通して浸透した水分によって第3層(4)が膨潤し、第2層(3)に設けられた間隙が埋まる。その結果、第1層(2)と第3層(4)が実質的にひとつの層となり、第1層側から入射した光は第1層(2)と第3層(4)を透過し、第4層(6)に設けられたレリーフ構造によって反射され、液体付与前とは異なる像が表示される。
【0072】
なお、図17のようにレリーフ構造が第3層(4)の第2層側に形成され、且つ、第1層(2)が光学素子(1)の最表面となる場合には、細孔(10)を設ける必要はなく、単に第1層(2)として上述の水分で膨潤し、乾燥すると収縮する樹脂を用いれば同様の効果が得られる。
【0073】
[第8実施形態]
図18および図19を参照して、光学素子の第9実施形態を説明する。
【0074】
第2層(3)は少なくとも一部が気体である。対応する領域においては、第1層(2)と第3層(4)の間に間隙が生じるため、物理的な刺激に対する光学素子の耐久性が、間隙がない場合と比較して低くなることが懸念される。
【0075】
図18および図19は、耐久性を補強するための構成の例を示したものであり、図18では第1層(2)と第3層(4)が部分的に溶着しており、図19では2つの層が接着要素(11)を介して部分的に接合している。ここでは例としてレリーフ構造や平坦な層を図示しているが、第1層(2)および第3層(4)の表面形状は上記に限られるものでは
ない。上述の第1~第8実施形態に適用することで、光学素子(1)の耐久性向上が期待される。
【0076】
第1層(2)と第3層(4)の接合部は、図18のレリーフ構造のように、あらかじめピラー状の接合要素を含んだ形状で作製してもよいし、図19の接着要素(11)のように粒子状に分散した接着剤であってもよい。
【0077】
以下に、上述した各光学素子について採用可能な、レリーフ構造の製法、各層の材質について詳細に説明する。
【0078】
<レリーフ構造の製法>〉
レリーフ構造を連続的に大量複製するにあたり、代表的な手法としては、「熱エンボス法」、「キャスト法」、「フォトポリマー法」等が挙げられ、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、放射線硬化性樹脂などを手法に応じて選定し、用いることができる。
【0079】
中でも「フォトポリマー法」(2P法、感光性樹脂法)は、放射線硬化性樹脂をレリーフ型(微細凹凸パターンの複製用型)と平担な基材(プラスチックフィルム等)との間に流し込み放射線で硬化させた後、この硬化膜を基板ごと、複製用型から剥離する方法により高精細な微細凹凸パターンを得る事が出来る。また、この様な方法によって得られた光学素子は、熱可塑樹脂を使用する「プレス法」や「キャスト法」に比べ凹凸パターンの成形精度が良く、耐熱性や耐薬品性に優れる。また、更に新しい製造方法としては、常温で固体状若しくは高粘度状の光硬化性樹脂を使用して成形する方法や、離型材料を添加する方法もある。
【0080】
本実施形態では、第1層または第3層にレリーフ構造が形成されており、第1層と第3層とは、第2層に含まれる気体(例えば空気)を内包するために、レリーフ構造の窪みを埋めないようにラミネートすることで作成してよい。なお、この方法以外でもレリーフ界面を介して気体から成る第2層を内包できれば製法は問わない。
【0081】
また、第1層または第3層を構成する樹脂材料を押し出し、エンボス機を用いてレリーフ構造を有する金型の上に溶融樹脂を押し出した後に、フィルム状に成型し、レリーフ構造を有する第1層または第3層をフィルムとして作成してもよい。
【0082】
〈レリーフ構造〉
本実施形態のレリーフ構造は第1層(2)と第2層(3)、あるいは第2層(3)と第3層(4)の界面に存在し、傾斜した平面あるいは、光学素子平面と平行で深さあるいは高さの異なる面などを、少なくともその一部に含むことができる。またレリーフ構造は、格子構造とすることもできる。この格子構造は、波長以下の周期の格子や、光の半波長以上の周期の格子とすることができる。また、一方向に並んだ一次元格子や2方向以上の交差する二次元格子とすることもできる。
【0083】
そのため、レリーフ構造断面は、少なくとも一部の界面は、光学素子平面に対して任意の角度を有する場合や、光学素子の表面からの距離が異なる面を有する場合がある。
【0084】
本発明の傾斜した平面とは、少なくとも一部の界面が光学素子平面に対して任意の角度を有しており、徐々に変化しても良い。例えば曲面(断面が曲線)であるレリーフ構造は本発明のレリーフ構造に該当する。なお、傾斜した平面上には凹凸があっても良い。傾斜した平面上に光散乱効果を有するランダムな凹凸構造を設けた場合には、反射および透過光を拡散する効果を有するため、例えば反射と透過の領域境界にグラデーションをかける効果を得ることも可能である。
【0085】
また、光学素子の表面からの距離が異なる面とは、光学素子平面と平行である特定の面を基準面とし、この面と深さあるいは高さが異なり、かつ平行な複数の面から構成されており、少なくとも一群の複数の面は、基準面に対する深さあるいは高さが同等である。
【0086】
このような複数の面を構成することにより、高さあるいは深さに応じて、特定の色を表現することが可能となる。格子構造は、波長以下の周期の格子の場合光を吸収する構造となり、光の半波長以上の格子とした場合には、光を回折することができる。光の半波長以上の格子が一方向に並んだ一次元格子では、格子の並ぶ方向に回折光を一方向に回折し、2方向の交差する方向に格子が配列した二次元格子の場合は、格子のそれぞれの配列方向に回折光を回折する。また、光の波長以下の格子構造において、2方向の交差する方向に格子が配列した二次元格子の場合は、光をより吸収しやすい。
【0087】
なお、本発明の特徴は第2層が気体である事から、レリーフ構造の一部にピラーを設けて構造強度を強化してもよい。
【0088】
また、本実施形態の基礎概念は、第1層側から臨界角以上で入射した光がレリーフ構造の界面で全反射し、臨界角未満で入射した光が透過することであるため、この概念に沿って、レリーフ構造に追従した別の層を追加設置してもよい。この場合、追加した層の屈折率は、上下に接するどちらかの層の屈折率に対して、±0.2以内、好ましくは±0.1以内の屈折率差で設けるとよい。この範囲の屈折率差であれば、第1層と第3層との界面、または第2層と第3層との界面での反射を低減できる。
【0089】
なお、本発明において、外力を与えないときに全反射により像を表示する第1層以外に形成されるレリーフ構造は、特に形状が限定されるものでなく、例えばプリズム、円錐、角錐、マイクロレンズ、レンチキュラーレンズ、バイナリパターン等でもよい。さらに、第1層含むレリーフ領域を構成するレリーフ構造は、文字や記号、図形等を表示するよう配置されてもよいし、ランダムパターンや一様なパターンを表示するよう配置されてもよい。
【0090】
<反射層>
反射層は、観察側に接する材料より高い屈折率を有し、且つ、蒸着可能であれば特に限定されるものでなく、例えばアルミニウム、金、銀、プラチナ、ニッケル、スズ、クロム、ジルコニウム等の金属やこれらの合金等が挙げられる。また、酸化チタン、酸化亜鉛、硫化亜鉛等の高屈折材料を含んでいてもよい。ただし、アルミニウムおよび銀は、可視光領域において反射率が特に高い点において好ましい。表示させる像を透明、不透明のどちらで見せたいかによっても材料の選定は異なり、例えば、IDカードやパスポートのような下地の印刷も見せたい場合には、透明反射層を選ぶ必要がある。
【0091】
反射層を形成する際には、レリーフ構造に沿って被覆できれば特に限定されるものではなく、(a)真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、イオンクラスタービーム法等の物理気相成長法(Physical Vapor Deposition法:PVD法)、(b)プラズマ化学気相成長法、熱化学気相成長法、光化学気相成長法等の化学気相成長法(Chemical Vapor Deposition:CVD法)を採用することができる。ただし、これらの製膜法の中でも、生産性が高く良好な反射層が形成する方法として、真空蒸着法やイオンプレーティング法を用いることが好ましい。
【0092】
〈樹脂材料〉
外力を加えたときに変形可能で、且つ、離間した層のレリーフ構造を一時的に埋めることを可能とする高弾性を備えた材料として、例えば、スチレン・ブタジエン共重合体、ポ
リノルボルネン、ポリブタジエン、天然ゴム、ポリイソプレン、ブチルゴム、エチレン・プロピレン・ジエン共重合体、ニトリルゴム、シリコンゴム、ポリウレタン系樹脂が挙げられ、これら樹脂を単独または混合体で、必要であるならば加硫などの架橋処理を加えて用いる。これら樹脂は、樹脂単独では形状変化の速度、形状変化の変化率が小さいので、フィラーを分散することによって変化が助長され、上記効果を発現することができる。
【0093】
更に、これらの樹脂にタッキファイヤーや可塑剤などを添加して、粘着性を付与しても良いし、粘着性や熱溶融性などを有する樹脂類などを、上記高弾性を有する樹脂からなる層の表面に設けるか、あるいは上記高弾性を有する樹脂中にフィラーとして添加することによって、高弾性を有し、かつ粘着性または低融着性のどちらかの特性を有した樹脂を得ることができる。
【0094】
粘着性を有する樹脂類としては、アクリル系、ウレタン系、ゴム系、シリコン系などを例示することができ、任意に選定することができる。
【0095】
また、高弾性を有する樹脂中に分散する熱溶融性樹脂フィラーとしては、融点が60~200℃好ましくは80~160℃で、すみやかに熱により融解し、冷却時の結晶化が速い樹脂などを用いることができる。例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレンなどのポリオレフィン系樹脂や、ポリオレフィン系樹脂とポリフェニレンエーテル樹脂、ポリカーボネート樹脂などのポリマーアロイなどを例示することができるが、必ずしもこれらに限定されるものではない。
【0096】
また、第8実施形態で記載したような、水分で膨潤する材料によっても本発明が狙いとする効果を実現可能である。そのような特性を有する材料としては、水溶性高分子や高分子ゲル、親水性コロイド粒子などが含まれる。例えば、特願2015-44493号公報に記載されているような水溶性高分子を利用してもよい。
【0097】
<気体>
第2層に用いられる気体は通常空気であるが、物理的安定性を求めて、「窒素ガス」等を充填してもよい。また、その閉じ込められた気体の熱膨張係数は、気体の状態方程式によりほぼ一定であるが、そのことは空隙内に常圧(1気圧=0.1MPa)の気体を充填した場合であって、この充填時にm倍の気圧にて充填すると、その熱膨張係数はm倍となる。この圧力を、5倍を超えて設定すると、第1層および第3層において歪みや接合部分の剥離現象が発生するため不適である。
【0098】
<着色層>
着色層は、色材による着色層のほか、光の干渉構造であって良い。高屈折膜と低屈折膜を交互に重ね合わせた干渉膜の原理は、例えば、特願2007-505509号公報に記載されているような多層干渉膜を利用してよい。また、コレステリック液晶を利用した干渉構造であってもよい。また、レリーフ構造によって光を干渉させることも可能であり、これら干渉構造体を利用してもよい。
【0099】
また、着色層には文字、画像、二次元コードなどの情報が描かれていてもよく、紙、プラスチック、金属、ガラス等の基材に対して、顔料や染料を印刷したものでもよい。
【0100】
また、レーザー等の照射によって基材を変質させて印刷してもよく、例えばポリカーボネートのシートにはレーザーの照射により変質して黒色印字を生じるものがあり、これを使用してよい。更にはホログラムや回折格子等による印字であってもよい。これらの印字方式や材料は公知の方式や材料から適宜選択して使用すればよい。
【0101】
上述のようにして得られる光学素子(1)は、第1層(2)側とは、反対側の面に、接着層などを新たに設け、物品等に貼着されて用いられても良い。新たに設ける接着層は、感熱接着剤や感圧接着剤など、従来公知の接着層用の材料であれば、いずれも用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明によると、光学素子に外部刺激を加えることにより像や色の変化を目視で確認することが可能な光学素子を提供することが可能となり、高い偽造防止効果を必要とするIDカードやパスポート、紙幣への利用が可能である。特に、プラスチック基材との相性が良く、IDカードやパスポート、ポリマー紙幣および紙幣のウィンドウへの利用が好ましい。さらに、外部刺激によって電気的な応答も得られることから、検知器としての利用も可能である。
【符号の説明】
【0103】
1 光学素子
2 第1層
3 第2層
4 第3層
5 反射層
6 第4層
7 着色層
8 第5層
9 吸収層
10 細孔
11 接着要素
21 第1レリーフ領域
22 像
23 導電膜層
41 第2レリーフ領域
42 像
61 第3レリーフ領域
62 像
211 第1領域
212 第2領域
611 第3レリーフ第1領域
612 第3レリーフ第2領域
IL 入射光
EL 射出光
θα、θβ 傾斜角
θ、θ入射角
θ、θ射出角
θ入射光と垂線Nが為す角
θ、θ垂線Nと垂線Pが為す角
n 屈折率
N 光学素子平面に対する垂線
P レリーフ構造の傾斜面に対する垂線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19