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特許7031278リチウムイオン電池用バインダー水溶液、リチウムイオン電池用電極スラリー及びその製造方法、リチウムイオン電池用電極、並びにリチウムイオン電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-28
(45)【発行日】2022-03-08
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池用バインダー水溶液、リチウムイオン電池用電極スラリー及びその製造方法、リチウムイオン電池用電極、並びにリチウムイオン電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/62 20060101AFI20220301BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20220301BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20220301BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20220301BHJP
   H01M 4/66 20060101ALI20220301BHJP
   C08F 20/56 20060101ALI20220301BHJP
   C08F 290/06 20060101ALI20220301BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
H01M4/139
H01M4/36 C
H01M4/13
H01M4/66 A
C08F20/56
C08F290/06
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2017241496
(22)【出願日】2017-12-18
(65)【公開番号】P2019110002
(43)【公開日】2019-07-04
【審査請求日】2020-12-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000168414
【氏名又は名称】荒川化学工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】尾▲崎▼ 真仁
(72)【発明者】
【氏名】池谷 克彦
(72)【発明者】
【氏名】合田 秀樹
【審査官】川口 陽己
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/024789(WO,A1)
【文献】特開2017-117597(JP,A)
【文献】特開2012-151108(JP,A)
【文献】国際公開第2016/067632(WO,A1)
【文献】特開平09-012652(JP,A)
【文献】特開2008-034378(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102249692(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
H01M 10/05-10/0587
C08C 19/00-19/44
C08F 6/00-246/00;301/00
C08F 283/01;290/00-290/14;299/00-299/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
幹ポリマー(A)を構成する構成単位中、(メタ)アクリルアミド基含有化合物(a-1)に由来する構成単位の割合が50質量%以上であり、
枝ポリマー(B)を構成する構成単位中、3量体以上のポリアルキレングリコールエーテル(b-1)に由来する構成単位の割合が90質量%以上であり、
幹ポリマー(A)と枝ポリマー(B)がエステル結合で結合されている水溶性グラフトポリマー(C)を含水溶性グラフトポリマー(C)中の不飽和スルホン酸及び/又はその塩の含有量が10モル%未満である、リチウムイオン電池用バインダー水溶液。
【請求項2】
前記水溶性グラフトポリマー(C)が、前記(メタ)アクリルアミド基含有化合物(a-1)と、下記一般式(1)
【化1】
(式中、Rは、水素原子又はメチル基であり、Rは、メチレン基、エチレン基、又はプロピレン基であり、Rは、水素原子又はメチル基であり、nは3以上の整数である。)で表されるマクロモノマーの重合物である、請求項1に記載のリチウムイオン電池用バインダー水溶液。
【請求項3】
前記水溶性グラフトポリマー(C)を乾燥し、作成したフィルムのHAZEが3%以上である、請求項1又は請求項2に記載のリチウムイオン電池用バインダー水溶液。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池用バインダー水溶液、及び電極活物質(D)を含む、リチウムイオン電池用電極スラリー。
【請求項5】
前記電極活物質(D)100質量%に対し、前記水溶性グラフトポリマー(C)を1~15質量%含む、請求項4に記載のリチウムイオン電池用電極スラリー。
【請求項6】
前記電極活物質(D)が炭素層で覆われたシリコン又はシリコンオキサイドを5質量%以上含む、請求項4又は5に記載のリチウムイオン電池用電極スラリー。
【請求項7】
幹ポリマー(A)を構成する構成単位中、(メタ)アクリルアミド基含有化合物(a-1)に由来する構成単位の割合が50質量%以上であり、枝ポリマー(B)を構成する構成単位中、3量体以上のポリアルキレングリコールエーテル(b-1)に由来する構成単位の割合が90質量%以上であり、幹ポリマー(A)と枝ポリマー(B)がエステル結合で結合されている水溶性グラフトポリマー(C)、及び電極活物質(D)を混合する工程を含む、請求項4~6のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池用電極スラリーの製造方法。
【請求項8】
請求項4~6のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池用電極スラリーを集電体に塗布し乾燥させることにより得られる、リチウムイオン電池用電極。
【請求項9】
前記集電体が銅箔である、請求項8に記載のリチウムイオン電池用電極。
【請求項10】
請求項9に記載のリチウムイオン電池用電極を含む、リチウムイオン電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、リチウムイオン電池用バインダー水溶液、リチウムイオン電池電極用スラリー及びその製造方法、リチウムイオン電池用電極、並びにリチウムイオン電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池は、小型で軽量、且つエネルギー密度が高く、さらに繰り返し充放電が可能という特性があり、幅広い用途に使用されている。そのため、近年では、リチウムイオン電池の更なる高性能化を目的として、電極等の電池部材の改良が検討されている。
【0003】
リチウムイオン電池の正極及び負極はいずれも、電極活物質とバインダー樹脂とを溶媒に分散させてスラリーとしたものを集電体(例えば金属箔)上に両面塗布し、溶媒を乾燥除去して電極層を形成した後、これをロールプレス機等で圧縮成形して作製されている。
【0004】
上記バインダー樹脂について、例えば、特許文献1では、ケイ素系活物質を含む負極活物質層のバインダーとしてポリ(メタ)アクリル酸を使用する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2007-115671号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示した技術では、ポリ(メタ)アクリル酸は可撓性が低いので、活物質の膨張収縮に追従できず、活物質同士を切り離してしまうことから、サイクル特性に改善の余地がある。
【0007】
そこで、本発明は、分散安定性に優れたスラリーを調整する事ができるリチウムイオン電池用バインダー水溶液であって、上記水溶液を用いてリチオムイオン電池を製造する際にリチウムイオン電池のサイクル特性等の電気的特性を向上させることができるリチウムイオン電池用バインダー水溶液を提供することを課題とする。
【0008】
また、本発明はリチオムイオン電池を製造する際にリチウムイオン電池のサイクル特性等の電気的特性を向上させることができるリチウムイオン電池用電極スラリーを提供することに関しても課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、特定の組成を有するポリマーを用いることによって、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
本開示により以下の項目が提供される。
(項目1)
幹ポリマー(A)を構成する構成単位中、(メタ)アクリルアミド基含有化合物(a-1)に由来する構成単位の割合が50質量%以上であり、枝ポリマー(B)を構成する構成単位中、3量体以上のポリアルキレングリコールエーテル(b-1)に由来する構成単位の割合が90質量%以上であり、幹ポリマー(A)と枝ポリマー(B)がエステル結合で結合されている水溶性グラフトポリマー(C)を含む、リチウムイオン電池用バインダー水溶液。
(項目2)
前記水溶性グラフトポリマー(C)が、前記(メタ)アクリルアミド基含有化合物(a-1)と、下記一般式(1)
【化2】
(式中、Rは、水素原子又はメチル基であり、Rは、メチレン基、エチレン基、又はプロピレン基であり、Rは、水素原子又はメチル基であり、nは3以上の整数である。)で表されるマクロモノマーの重合物である、上記項目に記載のリチウムイオン電池用バインダー水溶液。
(項目3)
前記水溶性グラフトポリマー(C)を乾燥し、作成したフィルムのHAZEが3%以上である、上記項目のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池用バインダー水溶液。
(項目4)
上記項目のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池用バインダー水溶液、及び電極活物質(D)を含む、リチウムイオン電池用電極スラリー。
(項目5)
前記電極活物質(D)100質量%に対し、前記水溶性グラフトポリマー(C)を1~15質量%含む、上記項目のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池用電極スラリー。
(項目6)
前記電極活物質(D)が炭素層で覆われたシリコン又はシリコンオキサイドを5質量%以上含む、上記項目のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池用電極スラリー。
(項目7)
幹ポリマー(A)を構成する構成単位中、(メタ)アクリルアミド基含有化合物(a-1)に由来する構成単位の割合が50質量%以上であり、枝ポリマー(B)を構成する構成単位中、3量体以上のポリアルキレングリコールエーテル(b-1)に由来する構成単位の割合が90質量%以上であり、幹ポリマー(A)と枝ポリマー(B)がエステル結合で結合されている水溶性グラフトポリマー(C)、及び電極活物質(D)を混合する工程を含む、上記項目のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池用電極スラリーの製造方法。
(項目8)
上記項目のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池用電極スラリーを集電体に塗布し乾燥させることにより得られる、リチウムイオン電池用電極。
(項目9)
前記集電体が銅箔である、上記項目に記載のリチウムイオン電池用電極。
(項目10)
上記項目に記載のリチウムイオン電池用電極を含む、リチウムイオン電池。
【発明の効果】
【0011】
本発明のリチウムイオン電池用の電極用バインダー水溶液及びリチウムイオン電池用電極スラリーは、上記水溶液及び上記スラリーに含まれる水溶性グラフトポリマー(C)が結着性に優れているため、上記水溶液及び/又は上記スラリーから得られる電極を用いることで電池容量の持続性を向上させたリチウムイオン電池を得ることができる。
【0012】
本発明のリチウムイオン電池用電極は、水溶性グラフトポリマー(C)を含む上記水溶液及び/又は上記スラリーを用いて得られるものであるため、電池容量を高めた場合であっても充放電に伴う体積膨張が少なく、電池容量の持続性に優れるリチウムイオン電池を与える。
【0013】
本発明のリチウムイオン電池は、本発明に係る電極を搭載したものであるため、電池容量の持続性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[1.リチウムイオン電池用バインダー水溶液:水溶液(1)ともいう]
本開示は、幹ポリマー(A)を構成する構成単位中、(メタ)アクリルアミド基含有化合物(a-1)に由来する構成単位の割合が50質量%以上であり、枝ポリマー(B)を構成する構成単位中、3量体以上のポリアルキレングリコールエーテル(b-1)に由来する構成単位の割合が90質量%以上であり、幹ポリマー(A)と枝ポリマー(B)がエステル結合で結合されている水溶性グラフトポリマー(C)を含む、リチウムイオン電池用バインダー水溶液を提供する。
【0015】
<1-1.水溶性グラフトポリマー(C):(C)成分ともいう>
本開示において、「水溶性」とは、25℃において、その化合物0.5gを100gの水に溶解した際に、不溶分が0.5質量%未満であることを意味する。
【0016】
水溶性グラフトポリマー(C)の化学構造は、幹ポリマー(A)と枝ポリマー(B)、及びこれらを結合させる結合部位で構成される。
【化3】
【0017】
本発明の水溶性グラフトポリマー(C)は、幹ポリマー(A)と枝ポリマー(B)の機能を分離して発揮し得る。例えば、幹ポリマー(A)で、機械的強度、耐熱性、高凝集性等を機能させ、枝ポリマー(B)では幹ポリマー(A)の凝集力の結果として生じる応力を緩和し、柔軟性、高密着性を機能させ得る。
【0018】
前記グラフト構造を効率的に作用させるには、幹ポリマー(A)と枝ポリマー(B)の親和性を低くすることが好ましい。例えば、幹ポリマー(A)に凝集性が高い官能基で構成される親水性ユニット、枝ポリマー(B)には幹ポリマー(A)に相溶化しない液状ポリマーである場合が好ましい。
【0019】
<1-2.幹ポリマー(A):(A)成分ともいう>
本開示において「(メタ)アクリルアミド基含有化合物(a-1)」とは、(メタ)アクリルアミド骨格
【化4】
(式中、RA1は水素又はメチル基である。)を有する化合物又はその塩を意味する。(a-1)成分は、単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0020】
本開示において「(メタ)アクリル」は「アクリル及びメタクリルからなる群より選択される少なくとも1つ」を意味する。同様に「(メタ)アクリレート」は「アクリレート及びメタクリレートからなる群より選択される少なくとも1つ」を意味する。また「(メタ)アクリロイル」は「アクリロイル及びメタクリロイルからなる群より選択される少なくとも1つ」を意味する。
【0021】
1つの実施形態において、(メタ)アクリルアミド基含有化合物は下記構造式
【化5】
(式中、RA1は水素又はメチル基であり、RA2及びRA3はそれぞれ独立して、水素、置換若しくは非置換のアルキル基、アセチル基、又はスルホン酸基であるか、或いはRA2及びRA3が一緒になって環構造を形成する基であり、RA4及びRA5はそれぞれ独立して、水素、置換若しくは非置換のアルキル基、カルボキシル基、ヒドロキシ基、アミノ基(-NR(R及びRはそれぞれ独立して水素又は置換若しくは非置換のアルキル基である)(以下同様))、アセチル基、スルホン酸基である。置換アルキル基の置換基はヒドロキシ基、アミノ基、アセチル基、スルホン酸基等が例示される。また、R及びRが一緒になって環構造を形成する基は、モルホリル基等が例示される。)
により表される。(メタ)アクリルアミド基含有化合物は、単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0022】
アルキル基は、直鎖アルキル基、分岐アルキル基、シクロアルキル基等が例示される。
【0023】
直鎖アルキル基は、-C2n+1(nは1以上の整数)の一般式で表現できる。直鎖アルキル基は、メチル基、エチル基、プロピレン基、n-ブチレン基、n-ペンチレン基、n-ヘキシレン基、n-ヘプチレン基、n-オクチレン基、n-ノニレン基、n-デカメチレン基等が例示される。
【0024】
分岐アルキル基は、直鎖アルキル基の少なくとも1つの水素がアルキル基によって置換された基である。分岐アルキル基は、ジエチルペンチル基、トリメチルブチル基、トリメチルペンチル基、トリメチルヘキシル基(トリメチルヘキサメチル基)等が例示される。
【0025】
シクロアルキル基は、単環シクロアルキル基、架橋環シクロアルキル基、縮合環シクロアルキル基等が例示される。
【0026】
本開示において、単環は、炭素の共有結合により形成された内部に橋かけ構造を有しない環状構造を意味する。また、縮合環は、2つ以上の単環が2個の原子を共有している(すなわち、それぞれの環の辺を互いに1つだけ共有(縮合)している)環状構造を意味する。架橋環は、2つ以上の単環が3個以上の原子を共有している環状構造を意味する。
【0027】
単環シクロアルキル基は、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロデシル基、3,5,5-トリメチルシクロヘキシル基等が例示される。
【0028】
架橋環シクロアルキル基は、トリシクロデシル基、アダマンチル基、ノルボルニル基等が例示される。
【0029】
縮合環シクロアルキル基は、ビシクロデシル基等が例示される。
【0030】
上記の(メタ)アクリルアミド基含有化合物(a)は、N-無置換(メタ)アクリルアミド骨格含有モノマー、N-一置換(メタ)アクリルアミド骨格含有モノマー、N,N-二置換(メタ)アクリルアミド骨格含有モノマー等が例示される。
N-無置換(メタ)アクリルアミド骨格含有モノマーは、(メタ)アクリルアミド、マレイン酸アミド等が例示される。
N-一置換(メタ)アクリルアミド骨格含有モノマーは、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリルアミド(メタ)アクリルアミドt-ブチルスルホン酸、ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド等が例示される。
N-二置換(メタ)アクリルアミド骨格含有モノマーは、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロイルモルホリン等が例示される。
【0031】
上記塩は、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド塩化メチル4級塩、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートベンジルクロライド4級塩等が例示される。これらの中でも(メタ)アクリルアミド、特にアクリルアミドを用いると、水溶性が高く、スラリーの分散性や、電極活物質同士の結着性が高いバインダーを作製することができる。
【0032】
上述したように、水溶性グラフトポリマー(C)の化学構造は、幹ポリマー(A)と枝ポリマー(B)、及びこれらを結合させる結合部位で構成される。ここで、本開示において、結合部位は、(A)及び(B)のどちらにも含まれないと定義する。
【0033】
幹ポリマー(A)を構成する単量体100質量%中に含まれる(メタ)アクリルアミド基含有化合物(a-1)に由来する構成単位の割合の上限は、100、99.95、99.8、99.7、99.2、95、90、85、80、75、70、65質量%等が例示され、下限は99.8、99.7、99.2、95、90、85、80、75、70、65、60、55、50質量%等が例示される。上記構成単位の割合の範囲は適宜(例えば上記上限及び下限の値から選択して)設定され得る。1つの実施形態において、上記構成単位の割合は50質量%以上であることが好ましく、55.0~99.8質量%であることがより好ましく、60.0~99.7質量%であることが特に好ましい。(メタ)アクリルアミド基含有化合物(a-1)に由来する構成単位を上記範囲で含むことにより、電極活物質の分散性が良好となり、均一な電極層の作製が可能となるため構造欠陥がなくなり、良好な充放電特性を示し、さらに(メタ)アクリルアミド基含有化合物に由来する構成単位を前記範囲で含むことにより、ポリマーの耐酸化性、耐還元性が良好となるため、高電圧時の劣化が抑制され良好な充放電耐久特性を示す。
【0034】
<(a-1)成分以外の単量体:(a-2)成分ともいう>
幹ポリマー(A)には、(a-1)成分以外の単量体((a-2)成分)由来の構成単位を本発明の所望の効果を損ねない限り含み得る。(a-2)成分は、単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。(a-2)成分は、不飽和カルボン酸、不飽和スルホン酸、不飽和リン酸等の酸基含有単量体、不飽和カルボン酸エステル、α,β-不飽和ニトリル化合物、共役ジエン化合物、芳香族ビニル化合物等が例示される。
【0035】
不飽和カルボン酸は、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸及びこれらの塩等が例示される。不飽和カルボン酸の使用量は特に限定されないが、上記(a-1)成分との反応を考慮すると、単量体群100モル%に対し40モル%未満(例えば30、20、19、15、10、5、1モル%未満)が好ましい。
【0036】
不飽和スルホン酸は、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸等のα,β-エチレン性不飽和スルホン酸;(メタ)アクリルアミドt-ブチルスルホン酸、2-(メタ)アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、2-(メタ)アクリルアミド-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸、3-スルホプロパン(メタ)アクリル酸エステル、ビス-(3-スルホプロピル)イタコン酸エステル及びこれらの塩等が例示される。不飽和スルホン酸の使用量は特に限定されないが、上記(a-1)成分との反応を考慮すると、単量体群100モル%に対する不飽和スルホン酸の含有量の上限は、40、30、20、19、15、10、5、1、0.5、0.1、0.05、0.02モル%等が例示され、下限は、30、20、19、15、10、5、1、0.5、0.1、0.05、0.02、0.01モル%等が例示される。上記含有量の範囲は適宜(例えば上記上限及び下限の値から選択して)設定され得る。
【0037】
不飽和リン酸単量体は、ビニルホスホン酸、ビニルホスフェート、ビス((メタ)アクリロキシエチル)ホスフェート、ジフェニル-2-(メタ)アクリロイロキシエチルホスフェート、ジブチル-2-(メタ)アクリロイロキシエチルホスフェート、ジオクチル-2-(メタ)アクリロイロキシエチルホスフェート、モノメチル-2-(メタ)アクリロイロキシエチルホスフェート、3-(メタ)アクリロキシ-2-ヒドロキシプロパンリン酸及びこれらの塩等が例示される。不飽和リン酸等の酸基含有単量体の使用量は特に限定されないが、上記(a-1)成分との反応を考慮すると、単量体群100モル%に対し40モル%未満(例えば30、20、19、15、10、5、1モル%未満)が好ましい。
【0038】
1つの実施形態において、不飽和カルボン酸、不飽和スルホン酸、不飽和リン酸等の酸基含有単量体の使用量は、単量体群100モル%に対し40モル%未満(例えば30、20、19、15、10、5、1モル%未満)が好ましい。
【0039】
不飽和カルボン酸エステルは、(メタ)アクリル酸エステルが好ましい。(メタ)アクリル酸エステルは、直鎖(メタ)アクリル酸エステル、分岐(メタ)アクリル酸エステル、脂環(メタ)アクリル酸エステル、置換(メタ)アクリル酸エステル等が例示される。
【0040】
直鎖(メタ)アクリル酸エステルは、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸n-アミル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸n-オクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシル等が例示される。
【0041】
分岐(メタ)アクリル酸エステルは、(メタ)アクリル酸i-プロピル、(メタ)アクリル酸i-ブチル、(メタ)アクリル酸i-アミル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル等が例示される。
【0042】
脂環(メタ)アクリル酸エステルは、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル等が例示される。
【0043】
置換(メタ)アクリル酸エステルは、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシメチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸エチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸エチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸プロピレングリコール、トリ(メタ)アクリル酸トリメチロールプロパン、テトラ(メタ)アクリル酸ペンタエリスリトール、ヘキサ(メタ)アクリル酸ジペンタエリスリトール、(メタ)アクリル酸アリル、ジ(メタ)アクリル酸エチレン等が例示される。
【0044】
不飽和カルボン酸エステルの使用量は特に限定されないが、不飽和カルボン酸エステルを使用することで本発明の水溶性グラフトポリマー(C)のガラス転位温度低下による電極のカールを抑制することができる。一方、本発明のリチウムイオン電池のサイクル特性を考慮すると、不飽和カルボン酸エステルの使用量は単量体群100モル%に対し40モル%未満(例えば30、20、19、15、10、5、1モル%未満)が好ましい。
【0045】
α,β-不飽和ニトリル化合物は、本発明の電極に柔軟性を与える目的で好適に使用できる。α,β-不飽和ニトリル化合物は、(メタ)アクリロニトリル、α-クロル(メタ)アクリロニトリル、α-エチル(メタ)アクリロニトリル、シアン化ビニリデン等が例示される。これらのうち、(メタ)アクリロニトリルが好ましく、特にアクリロニトリルが好ましい。α,β-不飽和ニトリル化合物の使用量は特に限定されないが、単量体群100モル%に対し40モル%未満(例えば30、20、19、15、10、5、1モル%未満)が好ましい。単量体群100モル%に対し40モル%未満であることで、水溶性グラフトポリマー(C)成分の水への溶解性を保ちつつ、上記スラリーの電極層が均一となり、前記柔軟性を発揮させやすくなる。
【0046】
共役ジエン化合物は、1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、2-クロル-1,3-ブタジエン、置換直鎖共役ペンタジエン、置換及び側鎖共役ヘキサジエン等が例示される。共役ジエン化合物の使用量は特に限定されないが、本発明に係るリチウムイオン電池のサイクル特性の観点より、前記単量体群100モル%のうち10モル%未満が好ましく、0モル%がより好ましい。
【0047】
また、芳香族ビニル化合物は、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、ビニルトルエン、クロルスチレン、ジビニルベンゼン等が例示される。芳香族ビニル化合物の使用量は特に限定されないが、本発明に係るリチウムイオン電池のサイクル特性の観点より、前記単量体群100モル%のうち10モル%未満が好ましく、0モル%がより好ましい。
【0048】
上記不飽和カルボン酸、不飽和スルホン酸、不飽和リン酸等の酸基含有単量体、不飽和カルボン酸エステル、α,β-不飽和ニトリル化合物、共役ジエン化合物、芳香族ビニル化合物以外の(a-2)成分の単量体群に占める割合は、単量体群100モル%に対して、10モル%未満、5モル%未満、1モル%未満、0.1モル%未満、0.01モル%未満であり、単量体群100質量%に対して、10質量%未満、5質量%未満、1質量%未満、0.5質量%未満、0.1質量%未満、0.01質量%未満である。
【0049】
(幹ポリマー(A)の物性)
以下、幹ポリマー(A)の物性について記載する。なお、下記幹ポリマー(A)の物性は、幹ポリマー(A)単体(例えば、水溶性グラフトポリマー(C)を合成する際に必要な量(メタ)アクリルアミド基含有化合物(a-1)を用いて合成したポリマー等)の物性である。
【0050】
幹ポリマー(A)の重量平均分子量(Mw)は特に限定されないが、その上限は、600万、550万、500万、450万、400万、350万、300万、250万、200万、150万、100万、95万、90万、85万、80万、75万、70万、65万、60万、55万、50万、45万、40万等が例示され、下限は、550万、500万、450万、400万、350万、300万、290万、250万、200万、150万、100万、95万、90万、85万、80万、75万、70万、65万、60万、55万、50万、45万、40万、35万、30万、25万、20万、15万、10万等が例示される。上記重量平均分子量(Mw)の範囲は適宜(例えば上記上限及び下限の値から選択して)設定され得る。1つの実施形態において、リチウムイオン電池電極用スラリーの分散安定性の観点から好ましくは10万~600万、より好ましくは20万~600万である。
【0051】
幹ポリマー(A)の重量平均分子量(Mw)は特に限定されないが、その上限は、600万、550万、500万、450万、400万、350万、300万、250万、200万、150万、100万、95万、90万、85万、80万、75万、70万、65万、60万、55万、50万、45万、40万、30万、20万、10万、5万等が例示され、下限は、550万、500万、450万、400万、350万、300万、290万、250万、200万、150万、100万、95万、90万、85万、80万、75万、70万、65万、60万、55万、50万、45万、40万、35万、30万、20万、10万、5万、1万等が例示される。上記数平均分子量(Mn)の範囲は適宜(例えば上記上限及び下限の値から選択して)設定され得る。1つの実施形態において、幹ポリマー(A)の数平均分子量(Mn)は、1万以上が好ましい。
【0052】
重量平均分子量及び数平均分子量は、例えばゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により適切な溶媒下で測定したポリアクリル酸換算値として求められる(以下同様)。
【0053】
幹ポリマー(A)のB型粘度は特に限定されないが、その上限は、10万、9万、8万、7万、6万、5万、4万、3万、2万、1万、9000、8000、7000、6000、5000、4000、3000、2000mPa・s等が例示され、下限は、9万、8万、7万、6万、5万、4万、3万、2万、1万、9000、8000、7000、6000、5000、4000、3000、2000、1000、500、100mPa・s等が例示される。上記B型粘度の範囲は適宜(例えば上記上限及び下限の値から選択して)設定され得る。1つの実施形態において、B型粘度の範囲は100~10万mPa・sが好ましい。なお、B型粘度は東機産業株式会社製 製品名「B型粘度計モデルBM」等のB型粘度計により測定される(以下同様)。
【0054】
幹ポリマー(A)を含む水溶液のpHは特に限定されないが、溶液安定性の観点から好ましくはpH2~13(25℃)、より好ましくはpH3~12である。
【0055】
幹ポリマー(A)のガラス転移点は特に限定されないが、70℃以上(80℃以上、90℃以上等)が好ましく、機械的強度、耐熱性の観点から100℃以上(125℃以上、150℃以上等)がより好ましい。
【0056】
幹ポリマー(A)のガラス転移温度は、(a-1)や前記単量体(a-2)の組み合わせによって調製可能である。(メタ)アクリルアミド基含有化合物(a-1)、単量体(a-2)を用いた幹ポリマー(A)において、そのガラス転移温度は、(a-1)や(a-2)のホモポリマーのガラス転移温度(Tg)(絶対温度:K)と前記単量体(a-2)の質量分率から、以下に示すFoxの式に基づいて求めることができる。
1/Tg=(W/Tg)+(W/Tg)+(W/Tg)+・・・+(W/Tg
[式中、Tgは、求めようとしているポリマーのガラス転移温度(K)、W~Wは、各単量体の質量分率、Tg~Tgは、各単量体のホモポリマーのガラス転移温度(K)を示す]
【0057】
例えば、ガラス転移温度は、アクリルアミドのホモポリマーでは165℃、アクリル酸のホモポリマーでは106℃、メタクリル酸メチルのホモポリマーでは126℃、アクリロニトリルのホモポリマーでは105℃である。所望のガラス転移温度を有する幹ポリマー(A)が得られるように、それを構成する(a-1)及び(a-2)の組成を決定することができる。なお、単量体のホモポリマーのガラス転移温度は、DSC(示差走査熱量測定装置)、DTA(示差熱分析装置)、TMA(熱機械測定装置)等によって例えば-100℃から300℃へ昇温させる条件(昇温速度10℃/min.)で測定することができる。また、文献に記載されている値を用いることもできる。文献は、「化学便覧 基礎編II 日本化学会編 (改訂5版)」、p325等が例示される。
【0058】
<1-3.枝ポリマー(B):(B)成分ともいう>
本発明の水溶性グラフトポリマー(C)の枝ポリマー(B)は、結合部位を介して幹ポリマー(A)に直結しており、3量体以上のポリアルキレングリコールエーテル基を含む化合物(b-1)を構成単位中に含む。枝ポリマー(B)は、単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。このような枝ポリマー(B)には、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等が例示される。このような枝ポリマーは、一般的に使用されているものを使用することができ、特に制限されない。
【0059】
本開示において、「3量体以上のポリアルキレングリコールエーテル基」とは、
-(RO)
(式中、Rはアルキレン基であり、nは3以上の整数である)を意味する。
【0060】
アルキレン基は、直鎖アルキレン基、分岐アルキレン基、シクロアルキレン基等が例示される。
【0061】
直鎖アルキレン基は、-(CH-(nは1以上の整数)の一般式で表現できる。直鎖アルキレン基は、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、n-ブチレン基、n-ペンチレン基等が例示される。
【0062】
分岐アルキレン基は、直鎖アルキレン基の少なくとも1つの水素がアルキル基によって置換された基である。分岐アルキレン基は、メチルメチレン基、エチルメチレン基、プロピルメチレン基、ブチルメチレン基、メチルエチレン基、エチルエチレン基、プロピルエチレン基、メチルプロピレン基、2-エチルプロピレン基、ジメチルプロピレン基、メチルブチレン基等が例示される。
【0063】
シクロアルキレン基は、単環シクロアルキレン基、架橋環シクロアルキレン基、縮合環シクロアルキレン基等が例示される。
【0064】
単環シクロアルキレン基は、シクロペンチレン基等が例示される。
【0065】
1つの実施形態において、3量体以上のポリアルキレングリコールエーテル(b-1)を有するマクロモノマーは、下記一般式(1)
【化6】
(式中、Rは、水素原子又はメチル基であり、Rは、メチレン基、エチレン基、又はプロピレン基であり、Rは、水素原子又はメチル基であり、nは3以上の整数である。)
で表わされる。
【0066】
上記のエチレングリゴール基を有するマクロモノマーは、ポリエチレングリコール-モノ(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール-モノ(メタ)アクリレート、オクトキシポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコールーモノ(メタ)アクリレート、ステアロキシ-ポリエチレングリコール-モノ(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール-モノ(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール-モノ(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコール-モノ(メタ)アクリレート等が例示される。
また、プロピレングリゴール基を有するマクロモノマーは、ポリプロピレングリコール-モノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール-プロピレングリコール-モノ(メタ)アクリレート等が例示される。
これらのマクロモノマーの中でも、ポリエチレングリコール-モノ(メタ)アクリレートがラジカル重合を容易に行うことができるため好ましい。
【0067】
枝ポリマー(B)を構成する3量体以上のポリアルキレングリコールエーテル(b-1)に由来する構成単位の割合は特に限定されない。枝ポリマー(B)を構成する3量体以上のポリアルキレングリコールエーテル(b-1)に由来する構成単位の割合の上限は、枝ポリマー(B)100質量%に対して、100、99、98、97、96、95、94、93、92、91質量%等が例示され、下限は、99、98、97、96、95、94、93、92、91、90質量%等が例示される。上記構成単位の割合の範囲は適宜(例えば上記上限及び下限の値から選択して)設定され得る。1つの実施形態において、構成単位の割合の範囲は好ましくは90~100質量%であり、より好ましくは91~99質量%である。90質量%以上であれば幹ポリマー(A)と枝ポリマー(B)の機能を分離して発揮させるには十分となり、本発明の効果である電極密着性が向上する。
【0068】
(枝ポリマー(B)の物性)
枝ポリマー(B)の重量平均分子量(Mw)は特に限定されないが、重量平均分子量(Mw)の上限は、200万、150万、100万、95万、90万、85万、80万、75万、70万、65万、60万、55万、50万、45万、40万、30万、10万、1万、100、500、250、150等が例示され、下限は、150万、100万、95万、90万、85万、80万、75万、70万、65万、60万、55万、50万、45万、40万、35万、30万、10万、1万、100、500、250、150、100等が例示される。上記重量平均分子量(Mw)の範囲は適宜(例えば上記上限及び下限の値から選択して)設定され得る。1つの実施形態において、リチウムイオン電池電極用スラリーの分散安定性の観点から好ましくは100~200万、より好ましくは150~150万である。
【0069】
枝ポリマー(B)の数平均分子量(Mn)の上限は、100万、95万、90万、85万、80万、75万、70万、65万、60万、55万、50万、45万、40万、30万、20万、10万、5万、1万、1000、500、250、100等が例示され、下限は、80万、75万、70万、65万、60万、55万、50万、45万、40万、35万、30万、20万、10万、5万、1万、1000、500、250、100、50等が例示される。上記数平均分子量(Mn)の範囲は適宜(例えば上記上限及び下限の値から選択して)設定され得る。1つの実施形態において、枝ポリマー(B)の数平均分子量(Mn)は、50以上が好ましい。
【0070】
枝ポリマー(B)のB型粘度は特に限定されないが、その上限は、10万、9万、8万、7万、6万、5万、4万、3万、2万、1万、9000、8000、7000、6000、5000、4000、3000、2000、1000、750、500、250、100、50、25、10mPa・s等が例示され、下限は、9万、8万、7万、6万、5万、4万、3万、2万、1万、9000、8000、7000、6000、5000、4000、3000、2000、1000、750、500、250、100、50、25、10、1mPa・s等が例示される。上記B型粘度の範囲は適宜(例えば上記上限及び下限の値から選択して)設定され得る。1つの実施形態において、B型粘度の範囲は1~10万mPa・sが好ましい。
【0071】
枝ポリマー(B)を含む水溶液のpHは特に限定されないが、溶液安定性の観点から好ましくはpH2~13(25℃)、より好ましくはpH3~12(25℃)である。
【0072】
枝ポリマー(B)のガラス転移点は特に限定されないが、室温環境下よりも低いガラス転移点であれば良く、より好ましくは10℃以下(5℃以下等)であることが好ましい。枝ポリマー(B)のガラス転移温度は、上記3量体以上のポリアルキレングリコールエーテル(b-1)の種類によって調製可能である。枝ポリマー(B)において、そのガラス転移温度は、前記Foxの式に基づいて求めることができる。
【0073】
例えば、ガラス転移温度は、ポリエチレングリコールのホモポリマーでは-67℃、ポリプロピレングリコールのホモポリマーでは-73℃、ポリプロピレングリコールのホモポリマーでは-78℃、ポリテトラメチレングリコールのホモポリマーでは-95℃である。所望のガラス転移温度を有する枝ポリマー(B)が得られるように、それを構成する(b-1)の組成を決定することができる。
【0074】
水溶性グラフトポリマー(C)において、幹ポリマー(A)に(メタ)アクリルアミド基含有化合物(a-1)に由来する構成単位と、枝ポリマー(B)に3量体以上のポリアルキレングリコールエーテル(b-1)に由来する構成単位の比率((a-1)成分の物質量/(b-1)成分の物質量)の上限は、2000、1900、1750、1500、1250、1000、750、500、250、100、80等が例示され、下限は、1900、1750、1500、1250、1000、750、500、250、100、80、75等が例示される。上記比率の範囲は適宜(例えば上記上限及び下限の値から選択して)設定され得る。1つの実施形態において、(a-1)成分に由来する構成単位と(b-1)成分に由来する構成単位の比率((a-1)成分の物質量/(b-1)成分の物質量)は、75~2000が好ましい。
【0075】
<1-4.結合部位>
本発明の結合部位は、エステル基を含み、幹ポリマー(A)と枝ポリマー(B)とを共有結合によって結びつけている。当該結合部位は、エステル結合を有しておれば特に限定されず、幹ポリマー(A)と反応するためのアクリル残基、メタクリル残基、アリル残基、ビニル残基等の二重結合に由来する重合残基を有していることが好ましい。またエステル結合は、枝ポリマー(B)中に含まれるアルキレングリコールエーテル基と結合するために用いられ得る。
【0076】
なお、結合部位は、例えば、上記一般式(1)で表わされるマクロモノマーを用いて、水溶性グラフトポリマー(C)を合成した場合、
【化7】
(式中、Rは、水素原子又はメチル基であり、Rは、メチレン基、エチレン基、又はプロピレン基であり、Rは、水素原子又はメチル基であり、nは3以上の整数である。)
上記四角で囲んだ部分となる。
【0077】
<1-5.水溶性グラフトポリマー(C)の製造方法>
本発明に用いる水溶性グラフトポリマー(C)は、(1)分岐構造を形成するように共重合させる方法や、(2)得られたポリマーを変性して分岐構造を生成させる方法等により合成することができる。その中でも一つの工程で目的の構造を得ることができるので、前記(1)の方法が好ましい。
【0078】
前記(1)分岐構造を形成するように共重合させる方法は、幹ポリマーの存在下にグラフトモノマーを公知の重合法により重合することで連鎖移動反応によりグラフトポリマーを得る方法が例示される。また、幹ポリマー中にラジカルやイオンを発生し得る官能基を導入し、該官能基からグラフトモノマーの重合反応を開始させることによりグラフトポリマーを得ることもできる。そのほか、重合時に分岐構造を形成し得るグラフトモノマーを公知の重合法により重合して得た枝ポリマーを、ラジカル付加反応等により幹ポリマーに付加させてもよい。
【0079】
これらの中でも、特に重合時に分岐構造を形成し得るグラフトモノマーを公知の重合法により重合して得た枝ポリマーを、ラジカル付加反応等により幹ポリマーに付加させる方法が最も構造制御が容易であり、後述するリチウムイオン電池電極用スラリーを安定化し易いので好ましい。具体的には枝ポリマーとしてマクロモノマーを用いて共重合させる方法が例示される。
【0080】
前記マクロモノマーは、幹ポリマー(A)を構成する単量体と同時に重合することで容易に水溶性グラフトポリマー(C)を得ることができる。マクロモノマーは、単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。マクロモノマーは、一般的に使用されているものを使用することができ、特に制限されない。
【0081】
ラジカル重合開始剤は、各種公知のものが特に制限なく使用される。ラジカル重合開始剤は、過硫酸カリウム及び過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩;上記過硫酸塩と亜硫酸水素ナトリウム等の還元剤とを組み合わせたレドックス系重合開始剤;2,2’-アゾビス-2-アミジノプロパン 二塩酸塩等のアゾ系開始剤等が例示される。ラジカル重合開始剤の使用量は特に制限されないが、(C)成分を与える単量体群100質量%に対し0.05~5.00質量%程度が好ましく、0.1~3.0質量%程度がより好ましい。
【0082】
ラジカル重合反応前及び/又は得られた(C)成分を水溶化する際等に、製造安定性を向上させる目的で、アンモニアや有機アミン、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム等の一般的な中和剤で反応溶液のpH調整を行ってもよい。その場合、pHは2~11程度の範囲に調整することが好ましい。また、同様の目的で、金属イオン封止剤であるEDTA又はその塩等を使用することも可能である。
【0083】
ラジカル重合の際の重合温度は特に限定されず、50~100℃程度が好ましい。重合時間は特に限定されず、1~10時間程度が好ましい。
【0084】
水溶性グラフトポリマー(C)が酸基を有する場合には、用途に応じて適宜中和率(中和率100%は水溶性グラフトポリマー(C)に含まれる酸成分と同モル数のアルカリにより中和することを示している。中和率50%は水溶性グラフトポリマー(C)に含まれる酸成分に対して半分のモル数のアルカリにより中和されたことを示す)を調整して使用できる。電極活物質を分散させるときの中和率は特に限定されないが、コーティング層等の形成後には70~120%であることが好ましく、80~120%であることがより好ましい。上記コーティング層作製後の中和率を上記範囲とすることで、酸の大半が中和された状態となり、電池内でLiイオン等と結合して、容量低下を起こすことがなくなるため好ましい。中和塩は、Li塩、Na塩、K塩、アンモニウム塩、Mg塩、Ca塩、Zn塩、Al塩等が例示される。
【0085】
<1-6.水溶性グラフトポリマー(C)の物性>
水溶性グラフトポリマー(C)の重量平均分子量(Mw)は特に限定されないが、その上限は、600万、550万、500万、450万、400万、350万、300万、250万、200万、150万、100万、95万、90万、85万、80万、75万、70万、65万、60万、55万、50万、45万、40万等が例示され、下限は、550万、500万、450万、400万、350万、300万、290万、250万、200万、150万、100万、95万、90万、85万、80万、75万、70万、65万、60万、55万、50万、45万、40万、35万、30万等が例示される。上記重量平均分子量(Mw)の範囲は適宜(例えば上記上限及び下限の値から選択して)設定され得る。1つの実施形態において、リチウムイオン電池電極用スラリーの分散安定性の観点から、水溶性グラフトポリマー(C)の重量平均分子量(Mw)は好ましくは30万~600万、より好ましくは35万~600万である。
【0086】
水溶性グラフトポリマー(C)成分の数平均分子量(Mn)の上限は、600万、550万、500万、450万、400万、350万、300万、250万、200万、150万、100万、95万、90万、85万、80万、75万、70万、65万、60万、55万、50万、45万、40万、30万、20万、10万、5万等が例示され、下限は、550万、500万、450万、400万、350万、300万、290万、250万、200万、150万、100万、95万、90万、85万、80万、75万、70万、65万、60万、55万、50万、45万、40万、35万、30万、20万、10万、5万、1万等が例示される。上記数平均分子量(Mn)の範囲は適宜(例えば上記上限及び下限の値から選択して)設定され得る。1つの実施形態において、水溶性グラフトポリマー(C)の数平均分子量(Mn)は、1万以上が好ましい。
【0087】
水溶性グラフトポリマー(C)のB型粘度は特に限定されないが、その上限は、10万、9万、8万、7万、6万、5万、4万、3万、2万、1万、9000、8000、7000、6000、5000、4000、3000、2000mPa・s等が例示され、下限は、9万、8万、7万、6万、5万、4万、3万、2万、1万、9000、8000、7000、6000、5000、4000、3000、2000、1000mPa・s等が例示される。上記B型粘度の範囲は適宜(例えば上記上限及び下限の値から選択して)設定され得る。1つの実施形態において、B型粘度の範囲は1000~10万mPa・sが好ましい。
【0088】
水溶性グラフトポリマー(C)を含む水溶液のpHは特に限定されないが、溶液安定性の観点から好ましくはpH2~13(25℃)、より好ましくはpH3~12である。
【0089】
前記水溶性グラフトポリマー(C)は、幹ポリマー(A)が高いガラス転移点を有するセグメントによる機械的強度、耐熱性、高凝集性を発現させる単量体の重合物であり、かつ、枝ポリマー(B)は低いガラス転移点を有するセグメントにより、応力緩和、柔軟性、高密着性を機能させることが好ましい。ここで、幹ポリマー(A)のガラス転移点は、70℃以上(80℃以上、90℃以上等)であることが好ましく、より好ましくは100℃以上(125℃以上、150℃以上等)であることが機械的強度、耐熱性の観点から好ましい。枝ポリマー(B)は、室温環境下よりも低いガラス転移点であれば良く、より好ましくは10℃以下(5℃以下等)であることが好ましい。幹ポリマー(A)の主構成成分に(メタ)アクリルアミド基含有化合物由来の構成単位を含み、枝ポリマー(B)の主構成成分にアルキレングリコールエーテル由来の構成単位を含むことによって本発明の効果が発現される。
【0090】
<1-7.水溶性グラフトポリマー(C)のフィルム>
本発明の水溶性グラフトポリマー(C)は、幹ポリマー(A)を連続層とし、枝ポリマー(B)をドメインとするミクロ相分離構造を有することが好ましい。この相分離構造を有していることを確かめる方法はフィルムのHAZEを測定する方法が例示される。水溶性グラフトポリマー(C)のフィルムは、(C)を含む水溶液を平坦なガラス板上に塗布し、80℃の順風乾燥機内でフィルムの厚さが100~250μmになるように作成する方法で得ることが好ましい。ここで、作成したフィルムのHAZEは、濁度計「NDH-2000(日本電色工業株式会社製)」によって測定することができる。
【0091】
前記フィルムのHAZEは、3%以上(例えば、5%以上、10%以上、25%以上、50%以上、75%以上、90%以上、97.5%以上、99%以上等)であることが好ましい。フィルムのHAZEが3%より低いと、幹ポリマー(A)と枝ポリマー(B)が相溶していることを示唆する。一方で、フィルムのHAZEが3%より高いと、幹ポリマー(A)と枝ポリマー(B)は相溶していない(ミクロ相分離している)ことを示唆する。この場合、フィルムは高いガラス転移点を有するセグメントと低いガラス転移点を有するセグメントが分離した、親和性が低い状態であるため、フィルムに内部応力が働いたときには低いガラス転移点を有するセグメントに由来する柔軟性により応力を緩和し、高いガラス転移点を有するセグメントに由来する高強度、高耐熱性も発揮する。
ひいては得られるリチウムイオン二次電池において、低いガラス転移点を有するセグメントを有することで電極密着性が高く、また充放電サイクル中に電極内での膨らみによる内部応力を緩和でき、高いガラス転移点を有するセグメントによるサイクル特性の向上が見込める。
【0092】
<1-8.添加剤>
リチウムイオン電池用バインダー水溶液には、(C)成分、水のいずれにも該当しない剤を添加剤として含み得る。添加剤は、分散剤、レベリング剤、酸化防止剤、増粘剤、分散体(エマルジョン)、架橋剤、ヒドロキシシリル化合物等が例示される。添加剤の含有量は、(A)成分100質量%に対し、0~5質量%、1質量%未満、0.1質量%未満、0.01質量%未満等が例示され、また水溶液100質量%に対し、0~5質量%、1質量%未満、0.1質量%未満、0.01質量%未満、0質量%等が例示される。
【0093】
分散剤は、用いる電極活物質(D)に応じて選択でき、アニオン性分散剤、カチオン性分散剤、非イオン性分散剤、高分子分散剤等が例示される。
【0094】
レベリング剤は、アルキル系界面活性剤、シリコン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、金属系界面活性剤等の界面活性剤等が例示される。界面活性剤を用いることにより、塗工時に発生するはじきを防止し、上記スラリーの層(コーティング層)の平滑性を向上させることができる。
【0095】
酸化防止剤は、フェノール化合物、ハイドロキノン化合物、有機リン化合物、硫黄化合物、フェニレンジアミン化合物、ポリマー型フェノール化合物等が例示される。ポリマー型フェノール化合物は、分子内にフェノール構造を有する重合体であり、重量平均分子量が好ましくは200以上、より好ましくは600以上、好ましくは1000以下、より好ましくは700以下のポリマー型フェノール化合物が好ましく用いられる。
【0096】
増粘剤は、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等のセルロース系ポリマー及びこれらのアンモニウム塩並びにアルカリ金属塩;(変性)ポリ(メタ)アクリル酸及びこれらのアンモニウム塩並びにアルカリ金属塩;(変性)ポリビニルアルコール、アクリル酸又はアクリル酸塩とビニルアルコールの共重合体、無水マレイン酸又はマレイン酸若しくはフマル酸とビニルアルコールの共重合体等のポリビニルアルコール類;ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリビニルピロリドン、変性ポリアクリル酸、酸化スターチ、リン酸スターチ、カゼイン、各種変性デンプン、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体水素化物等が例示される。
【0097】
分散体(エマルジョン)は、スチレン-ブタジエン系共重合体ラテックス、ポリスチレン系重合体ラテックス、ポリブタジエン系重合体ラテックス、アクリロニトリル-ブタジエン系共重合体ラテックス、ポリウレタン系重合体ラテックス、ポリメチルメタクリレート系重合体ラテックス、メチルメタクリレート-ブタジエン系共重合体ラテックス、ポリアクリレート系重合体ラテックス、塩化ビニル系重合体ラテックス、酢酸ビニル系重合体エマルジョン、酢酸ビニル-エチレン系共重合体エマルジョン、ポリエチレンエマルジョン、カルボキシ変性スチレンブタジエン共重合樹脂エマルジョン、アクリル樹脂エマルジョン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド(PA)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、芳香族ポリアミド、アルギン酸とその塩、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)等が例示される。
【0098】
架橋剤は、ホルムアルデヒド、グリオキサール、ヘキサメチレンテトラミン、尿素ホルムアルデヒド樹脂、メチロールメラミン樹脂、カルボジイミド化合物、多官能エポキシ化合物、オキサゾリン化合物、多官能ヒドラジド化合物、イソシアネート化合物、メラミン化合物、尿素化合物、及びこれらの混合物が例示される。
【0099】
ヒドロキシシリル化合物とはケイ素原子にヒドロキシ基(-OH)が直接結合している構造を有する化合物を意味し、トリヒドロキシシリル化合物とは、トリヒドロキシシリル基(-Si(OH))を有する化合物を意味し、テトラヒドロキシシリル化合物とは、Si(OH)で表わされる化合物を意味する。1つの実施形態において、トリヒドロキシシリル化合物は下記一般式
RSi(OH)
(式中、Rは置換又は無置換のアルキル基、ビニル基、又は(メタ)アクリロキシ基を表し、上記置換基は、アミノ基、メルカプト基、グリシドキシ基、(メタ)アクリロキシ基、エポキシ基等が例示される。)で表わされる化合物である。ヒドロキシシリル化合物はシランカップリング剤やテトラアルコキシシランを加水分解して調整することが好ましい。ヒドロキシシリル化合物は水溶性を失わない範囲内で、部分的に縮重合していても構わない。シランカップリング剤は、一般的に使用されているシランカップリング剤を使用することができる。シランカップリング剤は、特に制限されない。シランカップリング剤から製造されるヒドロキシシリル化合物は、単独で用いてもよいし、又は2種以上を併用してもよい。1つの実施形態において、ヒドロキシシリル化合物はトリヒドロキシシリルプロピルアミンを含む。トリアルコキシシランは、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-2(アミノエチル) 3- アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2(アミノエチル)3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3- イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、テトラヒドロキシシラン等が例示される。またテトラアルコキシシランは、テトラメトキシシラン、テトラメトキシシランオリゴマー、テトラエトキシシラン、テトラエトキシシランオリゴマー等が例示される。これらのうち、水溶性グラフトポリマー(C)との安定性及び耐電解液性の観点から、3-アミノプロピルトリメトキシシランを用いてヒドロキシシリル化合物を製造することが好ましい。
【0100】
[2.リチウムイオン電池電極用スラリー]
本開示は、上記リチウムイオン電池用バインダー水溶液、及び電極活物質(D)を含む、リチウムイオン電池電極用スラリーを提供する。
【0101】
本開示において「スラリー」とは、液体と固体粒子の懸濁液を意味する。
【0102】
<2-1.電極活物質(D)((D)成分ともいう)>
電極活物質は、リチウムを可逆的に吸蔵及び放出できるものであれば特に制限されず、目的とする蓄電デバイスの種類により適宜適当な材料を選択することができる。電極活物質は、単独で用いてもよいし、二種以上の電極活物質を併用してもよい。電極活物質は、炭素材料、並びにシリコン材料、リチウム原子を含む酸化物、鉛化合物、錫化合物、砒素化合物、アンチモン化合物、及びアルミニウム化合物等のリチウムと合金化する材料等を挙げることができる。炭素材料やリチウムと合金化する材料は、電池の充電時の体積膨張率が大きいため、本発明の効果を顕著に発揮しうる。
【0103】
上記炭素材料は、高結晶性カーボンであるグラファイト(黒鉛ともいい、天然グラファイト、人造グラファイト等が例示される)、低結晶性カーボン(ソフトカーボン、ハードカーボン)、カーボンブラック(ケッチェンブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック、ランプブラック、オイルファーネスブラック、サーマルブラック等)、フラーレン、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンナノホーン、カーボンフィブリル、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、ピッチ系炭素繊維等が例示される。
【0104】
上記シリコン材料は、シリコン、シリコンオキサイド、シリコン合金等以外にも、SiC、SiO(0<x≦3、0<y≦5)、Si、SiO、SiO(0<x≦2)で表記されるシリコンオキサイド複合体(例えば特開2004-185810号公報や特開2005-259697号公報に記載されている材料等)、特開2004-185810号公報に記載されたシリコン材料が例示される。また、特許第5390336号公報、特許第5903761号公報に記載されたシリコン材料を用いても良い。
【0105】
上記シリコンオキサイドは、組成式SiO(0<x<2、好ましくは0.1≦x≦1)で表されるシリコンオキサイドが好ましい。
【0106】
上記シリコン合金は、ケイ素と、チタン、ジルコニウム、ニッケル、銅、鉄及びモリブデンよりなる群から選ばれる少なくとも一種の遷移金属との合金が好ましい。これらの遷移金属のシリコン合金は、高い電子伝導度を有し、かつ高い強度を有することから好ましく用いられる。シリコン合金は、ケイ素-ニッケル合金又はケイ素-チタン合金を使用することがより好ましく、ケイ素-チタン合金を使用することが特に好ましい。シリコン合金におけるケイ素の含有割合は、上記合金中の金属元素の全部に対して10モル%以上とすることが好ましく、20~70モル%とすることがより好ましい。なお、シリコン材料は、単結晶、多結晶及び非晶質のいずれであってもよい。
【0107】
また、電極活物質としてシリコン材料を用いる場合には、シリコン材料以外の電極活物質を併用してもよい。シリコン材料以外の電極活物質は、上記の炭素材料;ポリアセン等の導電性高分子;A(Aはアルカリ金属又は遷移金属、Bはコバルト、ニッケル、アルミニウム、スズ、マンガン等の遷移金属から選択される少なくとも一種、Oは酸素原子を表し、X、Y及びZはそれぞれ0.05<X<1.10、0.85<Y<4.00、1.5<Z<5.00の範囲の数である。)で表される複合金属酸化物や、その他の金属酸化物等が例示される。これらの中でも、電極活物質としてシリコン材料を用いる場合には、リチウムの吸蔵及び放出に伴う体積変化が小さいことから、炭素材料を併用することが好ましい。
【0108】
上記リチウム原子を含む酸化物は、三元系ニッケルコバルトマンガン酸リチウム、リチウム-マンガン複合酸化物(LiMn等)、リチウム-ニッケル複合酸化物(LiNiO等)、リチウム-コバルト複合酸化物(LiCoO等)、リチウム-鉄複合酸化物(LiFeO等)、リチウム-ニッケル-マンガン複合酸化物(LiNi0.5Mn0.5等)、リチウム-ニッケル-コバルト複合酸化物(LiNi0.8Co0.2等)、リチウム-遷移金属リン酸化合物(LiFePO等)、及びリチウム-遷移金属硫酸化合物(LiFe(SO)、リチウム-チタン複合酸化物(チタン酸リチウム:LiTiO1)等のリチウム-遷移金属複合酸化物、及びその他の従来公知の電極活物質等が例示される。
【0109】
電極活物質の形状は特に制限されず、微粒子状、薄膜状等の任意の形状であってよいが、好ましくは微粒子状である。電極活物質の平均粒子径は特に制限されないが、その上限は、50、45、40、35、30、25、20、15、10、5、4、3、2.9、2、1、0.5、0.1μm等が例示され、下限は、45、40、35、30、25、20、15、10、5、4、3、2.9、2、1、0.5、0.1μm等が例示される。電極活物質の平均粒子径の範囲は適宜(例えば上記上限及び下限の値から選択して)設定することができる。1つの実施形態において、好ましくは0.1~50μmである。0.1μm以上であればハンドリング性が良好であり、50μm以下であれば電極の塗布が容易である。より好ましくは0.1~45μmであり、さらに好ましくは1~10μmであり、特に好ましくは5μm程度である。このような範囲にあると均一で薄いと膜を形成することができるため好ましい。なお、本開示における「粒子径」とは、粒子の輪郭線上の任意の2点間の距離のうち、最大の距離を意味するものとする。また「平均粒子径」の値は、特に言及のない限り、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)等の観察手段を用い、数~数十視野中に観察される粒子の粒子径の平均値として算出される値を採用するものとする。
【0110】
1つの実施形態において、本発明の効果を顕著に発揮するという観点から、炭素材料及び/又はリチウムと合金化する材料を電極活物質中に好ましくは50質量%以上、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、特に好ましくは100質量%含む。
【0111】
本発明のスラリーにおける、前記(D)成分の含有量は特に限定されないが、それらの固形分質量が、(D)成分100質量%に対して(C)成分が1~15質量%程度が好ましい。また、本発明のリチウムイオン電池用電極スラリーには、水溶性グラフトポリマー(C)以外のバインダーを使用しても構わないが、全バインダー中に占める水溶性グラフトポリマー(C)の含有割合が90質量%以上とすることが好ましい。
【0112】
電極活物質の使用割合は、電極活物質100質量%に対して水溶性グラフトポリマー(C)が、1~15質量%となるような割合で使用することが好ましく、1.5~14質量%となるような割合で使用することがより好ましく、2~12質量%となるような割合で使用することがさらに好ましい。このような含有割合とすることにより、密着性により優れ、しかも電極抵抗が小さく充放電特性により優れた電極を製造することができる。
【0113】
1つの実施形態において、電極活物質におけるシリコン又はシリコンオキサイドの含有量はリチウムイオン電池の電池容量を高める観点から電極活物質100質量%に対し、5質量%以上が好ましい。
【0114】
(スラリー粘度調整溶媒)
上記スラリーには、スラリー粘度調整溶媒が含まれ得る。スラリー粘度調整溶媒は、特に制限されることはないが、80~350℃の標準沸点を有する非水系媒体を含めてよい。スラリー粘度調整溶媒は単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。スラリー粘度調整溶媒の例は、N-メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等のアミド溶媒;トルエン、キシレン、n-ドデカン、テトラリン等の炭化水素溶媒;メタノール、エタノール、2-プロパノール、イソプロピルアルコール、2-エチル-1-ヘキサノール、1-ノナノール、ラウリルアルコール等のアルコール溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、ホロン、アセトフェノン、イソホロン等のケトン溶媒;ジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)等のエーテル溶媒;酢酸ベンジル、酪酸イソペンチル、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ブチル等のエステル溶媒;o-トルイジン、m-トルイジン、p-トルイジン等のアミン溶媒;γ-ブチロラクトン、δ-ブチロラクトン等のラクトン;ジメチルスルホキシド、スルホラン等のスルホキシド・スルホン溶媒;水等を挙げることができる。これらの中でも、塗布作業性の点より、N-メチルピロリドンが好ましい。上記非水系媒体の使用量は特に限定されないが、通常、本発明のスラリー100質量%に対し0~10質量%程度である。
【0115】
<2-2.リチウムイオン電池用電極スラリーの製造方法>
本開示は幹ポリマー(A)を構成する構成単位中、(メタ)アクリルアミド基含有化合物(a-1)に由来する構成単位の割合が50質量%以上であり、枝ポリマー(B)を構成する構成単位中、3量体以上のポリアルキレングリコールエーテル(b-1)に由来する構成単位の割合が90質量%以上であり、幹ポリマー(A)と枝ポリマー(B)がエステル結合で結合されている水溶性グラフトポリマー(C)、及び電極活物質(D)を混合する工程を含むリチウムイオン電池用電極スラリーの製造方法を提供する。
【0116】
本発明のスラリーの製造法は、(C)成分の水溶液(上記リチウムイオン電池用バインダー水溶液)と、電極活物質とを混合する方法、(C)成分、(D)成分、水を別々に混合する方法が例示される。なお、上記方法において混合の順番は特に限定されない。スラリーの混合手段は、ボールミル、サンドミル、顔料分散機、擂潰機、超音波分散機、ホモジナイザー、プラネタリーミキサー、ホバートミキサー等が例示される。
【0117】
上記リチウムイオン電池用電極スラリーは、リチウムイオン電池負極用電極スラリーとしても、リチウムイオン電池正極用電極スラリーとしても用いられ得る。
【0118】
[3.リチウムイオン電池用電極]
リチウムイオン電池用電極は、リチウムイオン電池用電極スラリーを集電体に塗布し乾燥させることにより得られる。
【0119】
塗布手段は特に限定されない。塗布手段は、コンマコーター、グラビアコーター、マイクログラビアコーター、ダイコーター、バーコーター等の従来公知のコーティング装置が例示される。
【0120】
乾燥手段も特に限定されず、温度は60~200℃程度が好ましく、100~195℃程度がより好ましい。乾燥雰囲気は乾燥空気又は不活性雰囲気であればよい。
【0121】
電極(硬化塗膜)の厚さは特に限定されないが、好ましくは5μm~300μm程度、より好ましくは10μm~250μm程度である。上記範囲とすることにより、高密度の電流値に対する十分なLiの吸蔵・放出の機能が得られやすくなる。
【0122】
集電体は、各種公知のものを特に制限なく使用できる。その材質は特に限定されず、例えば、銅、鉄、アルミ、ニッケル、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼等の金属材料や、カーボンクロス、カーボンペーパー等の炭素材料が用いられる。集電体の形態も特に限定されず、金属材料の場合、金属箔、金属円柱、金属コイル、金属板等が、炭素材料の場合、炭素板、炭素薄膜、炭素円柱等が例示される。これらの中でも、電極活物質を負極に用いる場合には集電体として銅箔が、現在工業化製品に使用されていることから好ましい。
【0123】
上記リチウムイオン電池用電極は、リチウムイオン電池負極としても、リチウムイオン電池正極としても用いられ得る。
【0124】
[4.リチウムイオン電池]
本開示は、上記リチウムイオン電池用電極を含む、リチウムイオン電池を提供する。上記電池には、電解質溶液、セパレータ、及び包装材料も含まれ、これらは特に限定されない。
【0125】
電解質溶液は、非水系溶媒に支持電解質を溶解した非水系電解液が用いられる。また、上記非水系電解液には、被膜形成剤を含めてもよい。
【0126】
非水系溶媒は、各種公知のものを特に制限なく使用できる。非水系溶媒は、単独で用いてもよいし、二種以上を混合して用いてもよい。非水系溶媒は、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等の鎖状カーボネート溶媒;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート等の環状カーボネート溶媒;1,2-ジメトキシエタン等の鎖状エーテル溶媒;テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、スルホラン、1,3-ジオキソラン等の環状エーテル溶媒;ギ酸メチル、酢酸メチル、プロピオン酸メチル等の鎖状エステル溶媒;γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン等の環状エステル溶媒、アセトニトリル等が例示される。これらの非水系溶媒の中でも、環状カーボネートと鎖状カーボネートを含む混合溶媒の組み合わせが好ましい。
【0127】
支持電解質は、リチウム塩が用いられる。リチウム塩は、各種公知のものを特に制限なく使用でき、LiPF、LiAsF、LiBF、LiSbF、LiAlCl、LiClO、CFSOLi、CSOLi、CFCOOLi、(CFCO)NLi、(CFSONLi、(CSO)NLi等が例示される。中でも、溶媒に溶けやすく高い解離度を示すLiPF、LiClO、CFSOLiが好ましい。これらは、単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。解離度の高い支持電解質を用いるほどリチウムイオン伝導度が高くなるので、支持電解質の種類によりリチウムイオン伝導度を調節することができる。
【0128】
被膜形成剤は、各種公知のものを特に制限なく使用できる。被膜形成剤は、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、ビニルエチルカーボネート、メチルフェニルカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、ジフルオロエチレンカーボネート等のカーボネート化合物、エチレンサルファイド、プロピレンサルファイド等のアルケンサルファイド;1,3-プロパンスルトン、1,4-ブタンスルトン等のスルトン化合物;マレイン酸無水物、コハク酸無水物等の酸無水物等が例示される。電解質溶液における被膜形成剤の使用量は特に限定されないが、10質量%以下、8質量%以下、5質量%以下、及び2質量%以下の順で好ましい。使用量を10質量%以下とすることで、被膜形成剤の利点である、初期不可逆容量の抑制や、低温特性及びレート特性の向上等が得られやすくなる。
【0129】
セパレータは、正極と負極との間に介在する物品であって、電極間の短絡を防止するために使用される。具体的には、多孔膜や不織布等の多孔性のセパレータを好ましく使用でき、それらには前記非水系電解液を含浸させて用いられる。セパレータの材料は、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリエーテルスルホン等が例示され、ポリオレフィンが好ましい。
【0130】
なお、負極として上記リチウムイオン電池用電極スラリーを用いて製造した負極、正極として上記リチウムイオン電池用電極スラリーを用いないで製造した正極を用いて、リチウムイオン電池を製造した場合、正極は、各種公知のものを特に制限なく使用できる。例えば、正極は、正極活物質、導電助材、正極用バインダーを有機溶媒と混合することによってスラリーを調製し、調製したスラリーを正極集電体に塗布、乾燥、プレスすることによって得られる。
【0131】
正極活物質は、無機正極活物質、有機正極活物質が例示される。無機正極活物質は、遷移金属酸化物、リチウムと遷移金属との複合酸化物、遷移金属硫化物等が例示される。上記遷移金属は、Fe、Co、Ni、Mn、Al等が例示される。正極活物質に使用される無機化合物は、LiCoO、LiNiO、LiMnO、LiMn、LiFePO、LiNi1/2Mn3/2、LiCo1/3Ni1/3Mn1/3、Li[Li0.1Al0.1Mn1.9]O、LiFeVO等のリチウム含有複合金属酸化物;TiS、TiS、非晶質MoS等の遷移金属硫化物;Cu、非晶質VO-P、MoO、V、V13等の遷移金属酸化物等が例示される。これらの化合物は、部分的に元素置換したものであってもよい。有機正極活物質は、ポリアセチレン、ポリ-p-フェニレン等の導電性重合体が例示される。電気伝導性に乏しい、鉄系酸化物は、還元焼成時に炭素源物質を存在させることで、炭素材料で覆われた電極活物質として用いてもよい。また、これらの化合物は、部分的に元素置換したものであってもよい。これらの中でも実用性、電気特性、長寿命の点で、LiCoO、LiNiO、LiMnO、LiMn、LiFePO、LiNi1/2Mn3/2、LiCo1/3Ni1/3Mn1/3、Li[Li0.1Al0.1Mn1.9]Oが好ましい。導電助材は前記したもの等が例示される。
【0132】
正極用バインダーは、フッ素系樹脂(ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン等)、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、不飽和結合を有する重合体(スチレン・ブタジエンゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム等)、アクリル酸系重合体(アクリル酸共重合体、メタクリル酸共重合体等)等が例示される。正極用バインダーは、一種又は二種以上を併用してもよい。
【0133】
正極集電体は、アルミニウム箔、ステンレス鋼箔等が例示される。
【0134】
本発明のリチウムイオン電池の形態は特に制限されない。リチウムイオン電池の形態は、シート電極及びセパレータをスパイラル状にしたシリンダータイプ、ペレット電極及びセパレータを組み合わせたインサイドアウト構造のシリンダータイプ、ペレット電極及びセパレータを積層したコインタイプ等が例示される。また、これらの形態の電池を任意の外装ケースに収めることにより、コイン型、円筒型、角型等の任意の形状にして用いることができる。
【0135】
本発明のリチウムイオン電池を製造方法は特に制限されず、電池の構造に応じて適切な手順で組み立てればよいが、特開2013-089437号公報に記載される方法が例示される。外装ケース上に負極を乗せ、その上に電解液とセパレータを設け、更に負極と対向するように正極を乗せて、ガスケット、封口板によって固定して電池にすることができる。
【実施例
【0136】
以下、実施例及び比較例をあげて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は、これらに限定されない。なお、実施例中、特に説明がない限り、「%」は「質量%」を示し、「部」は「質量部」を示す。
【0137】
(1)B型粘度
各バインダー水溶液の粘度は、B型粘度計(東機産業株式会社製 製品名「B型粘度計モデルBM」)を用い、25℃にて、以下の条件で測定した。
粘度100,000~20,000mPa・sの場合:No.4ローター使用、回転数6rpm、粘度20,000mPa・s未満の場合:No.3ローター使用、回転数6rpm。
【0138】
(2)重量平均分子量
重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により0.2Mリン酸緩衝液/アセトニトリル溶液(90/10、PH8.0)下で測定したポリアクリル酸換算値として求めた。GPC装置はHLC-8220(東ソー(株)製)を、カラムはSB-806M-HQ(SHODEX製)を用いた。
【0139】
(3)HAZE
HAZEは、濁度計(日本電色工業株式会社製 製品名「NDH-2000」)を用い、厚み100~250μmのフィルムをガラス板(並質ガラス、厚み2mm)上にコーティングした積層体を測定した。この積層体はガラス板上に水溶性グラフトポリマーを含む水溶液を塗工し、順風乾燥機(アドバンテック東洋株式会社製、商品名「送風定温乾燥器 DSR420DA」)にて80℃2時間乾燥させて作成した。
【0140】
実施例1-1
撹拌機、温度計、還流冷却管、窒素ガス導入管を備えた反応装置に、イオン交換水1282g、50%アクリルアミド水溶液300g(2.10mol)、80%アクリル酸水溶液21.4g(0.24mol)、ポリアルキレングリコールモノメタクリレート9.1g(0.008mol、日油製、製品名「ブレンマーPME-1000」)、メタリルスルホン酸ナトリウム0.19g(0.0012mol)を入れた。窒素ガスを通じて反応系内の酸素を除去した後、50℃まで昇温した。そこに2,2’-アゾビス-2-アミジノプロパン 二塩酸塩(日宝化学株式会社製 製品名「NC-32」)1.79g、イオン交換水30gを投入し、80℃まで昇温し3.0時間反応を行った。粘度(25℃)が7,700mPa・sの水溶性グラフトポリマーを含む水溶液を得た。
【0141】
実施例1-2~1-5、比較例1-1~1-3
上記実施例1-1において、表1で示すように単量体組成の数値を変更した他は実施例1-1と同様にして、水溶性グラフトポリマーを含む水溶液を調製した。
【0142】
【表1】
【0143】
・AM:アクリルアミド(三菱ケミカル株式会社製 「50%アクリルアミド」)
・ATBS:アクリルアミドt-ブチルスルホン酸(東亞合成株式会社製 「ATBS」)
・アクリル酸(大阪有機化学工業株式会社製 「80%アクリル酸」)
・アクリロニトリル(三菱ケミカル株式会社株式会社製 「アクリロニトリル」)
・SMAS:メタリルスルホン酸ナトリウム
・PME1000:ポリアルキレングリコールモノメタクリレート(日油株式会社製「ブレンマーPME-1000」:一般式(1)におけるnが約23)
・PME4000:ポリアルキレングリコールモノメタクリレート(日油株式会社製「ブレンマーPME-4000」:一般式(1)におけるnが約90)
・PE-90:ジエチレングリコールモノメタクリレート(日油株式会社製 「ブレンマー PE-90」:一般式(1)におけるnが約2)
【0144】
5.電極用スラリーの製造及び評価
実施例2-1
市販の自転公転ミキサー(製品名「あわとり練太郎」、シンキー(株)製)を用い、上記ミキサー専用の容器に、実施例1-1の水溶性グラフトポリマーの水溶液を固形分換算で5部と、D50が5μmのシリコン粒子を10部と、天然黒鉛(伊藤黒鉛工業株式会社製 製品名「Z-5F」)を90部とを混合した。そこにイオン交換水を固形分濃度40%となるように加えて、当該容器を前記ミキサーにセットした。次いで、2000rpmで10分間混練後、1分間脱泡を行い、電極用スラリーを得た。
【0145】
実施例2-2~2-6、比較例2-1~2-3
実施例2-1において、バインダー及び活物質の重量部を変更した他は同様にして、電極用スラリーを得た。
【0146】
比較例2-4
バインダーをSBR(スチレン-ブタジエン重合体)の水分散体に変更した他は、実施例2-1と同様にして電極用スラリーを得た。
【0147】
比較例2-5
バインダーを比較例1-1において得られた水溶液、及びポリエチレングリコールを質量比率(樹脂固形分)で50:50と変更した他は、実施例2-1と同様にして電極スラリーを得た。
【0148】
<スラリー分散性評価>
スラリー調製直後の分散性を以下の基準で目視評価した。
◎:全体が均質なペースト状であり、液状分離がなく、かつ、凝集物も認められない。
○:全体は略均質なペースト状であり、僅かな液状分離が認められるが、凝集物は認められない。
△:容器底部に少量の凝集物と、やや多くの液状分離とが認められる。
×:容器底部に粘土状の凝集物が多数認められ、液状分離も多く認められる。
【0149】
<電極状態の評価>
実施例及び比較例で得られた電極の表面状態を以下の基準で目視評価した。
A:全体が均質な表面状態であり、凝集物も認められない。
B:全体は略均質な表面状態であり、僅かに電極層に凹凸が認められるが、凝集物は認められない。
C:全体に多量の凝集物と、電極層に多くの凹凸が認められる。また割れや集電体と電極層との剥離などの異常が認められる。
【0150】
<電極密着性の評価(ピール強度)>
実施例及び比較例で得られた電極から幅2cm×長さ10cmの試験片を切り出し、コーティング面を上にして固定する。次いで、該試験片の活物質層表面に、幅15mmの粘着テープ(「セロテープ(登録商標)」 ニチバン(株)製))(JIS Z1522に規定)を押圧しながら貼り付けた後、25℃条件下で引張り試験機((株)エー・アンド・デイ製「テンシロンRTM-100」)を用いて、試験片の一端から該粘着テープを30mm/分の速度で180°方向に引き剥がしたときの応力を測定した。測定は5回行い、幅15mm当たりの値に換算し、その平均値をピール強度として算出した。ピール強度が大きいほど、集電体と活物質層との密着強度あるいは活物質同士の結着性が高く、集電体から活物質層あるいは活物質同士が剥離し難いことを示す。
【0151】
6.リチウムイオン電池電極の製造及び評価
銅箔からなる集電体の表面に、実施例2-1で調製した電極用スラリーを、乾燥後の膜厚が25μmとなるようにドクターブレード法によって均一に塗布し、60℃で30分乾燥後、150℃/真空で120分間加熱処理して電極を得た。その後、膜(電極活物質層)の密度が1.5g/cmになるようにロールプレス機によりプレス加工することにより、電極を得た。
【0152】
7.リチウムハーフセルの組み立て及び評価
(1)リチウムハーフセルの組み立て
アルゴン置換されたグローブボックス内で、上記電極を直径16mmに打ち抜き成形したものを、2極式コインセル(宝泉株式会社製、商品名「HSフラットセル」)上に載置した。次いで、直径24mmに打ち抜いたポリプロピレン製多孔膜からなるセパレータ(CS TECH CO., LTD製、商品名「Selion P2010」)を載置し、さらに、空気が入らないように電解液を500μL注入した後、市販の金属リチウム箔を16mmに打ち抜き成形したものを載置し、前記2極式コインセルの外装ボディーをネジで閉めて封止することにより、リチウムハーフセルを組み立てた。ここで使用した電解液は、エチレンカーボネート/エチルメチルカーボネート=1/1(質量比)の溶媒に、LiPFを1モル/Lの濃度で溶解した溶液である。
【0153】
(2)充放電測定
上記で製造したリチウムハーフセルを25℃の恒温槽に入れ、定電流(0.1C)にて充電を開始し、電圧が0.01Vになった時点で充電完了(カットオフ)とした。次いで、定電流(0.1C)にて放電を開始し、電圧が1.0Vになった時点を放電完了(カットオフ)とする充放電を30回繰り返した。
【0154】
(3)放電容量維持率の評価
放電容量維持率は以下の式より求めた。
放電容量維持率={(30サイクル目の放電容量)/(1サイクル目の放電容量)}×100(%)
【0155】
なお、上記測定条件において「1C」とは、ある一定の電気容量を有するセルを定電流放電して1時間で放電終了となる電流値を示す。例えば「0.1C」とは、10時間かけて放電終了となる電流値のことであり、「10C」とは0.1時間かけて放電完了となる電流値のことをいう。
【0156】
8.ラミネート型リチウムイオン電池の作製
ラミネート型リチウムイオン電池を次のようにして作製した。
(1)負極の作製
銅箔からなる集電体に実施例2-1のリチウムイオン電池電極スラリーをのせて、ドクターブレードを用いて膜状に塗布した。集電体にリチウムイオン電池電極スラリーを塗布したものを80℃で20分間乾燥して水を揮発させて除去した後、ロ-ルプレス機により、密着接合させた。この時、電極活物質層の密度は1.0g/cmとなるようにした。接合物を120℃で2時間、真空乾燥機で加熱し、所定の形状(26mm×31mmの矩形状)に切り取り、電極活物質層の厚さが15μmの負極とした。
【0157】
(2)正極の作成
正極活物質としてLiNi0.5Co0.2Mn0.3と導電助剤としてアセチレンブラックと、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF)とを、それぞれ88質量部、6質量部、6質量部を混合し、この混合物を適量のN-メチル-2-ピロリドン(NMP)に分散させて、リチウムイオン電池正極用スラリーを作製した。次いで、正極の集電体としてアルミニウム箔を用意し、アルミニウム箔にリチウムイオン電池正極用スラリーをのせ、ドクターブレードを用いて膜状になるように塗布した。リチウムイオン電池正極用スラリーを塗布後のアルミニウム箔を80℃で20分間乾燥してNMPを揮発させて除去した後、ロ-ルプレス機により、密着接合させた。この時、正極活物質層の密度は3.2g/cmとなるようにした。接合物を120℃で6時間、真空乾燥機で加熱し、所定の形状(25mm×30mmの矩形状)に切り取り、正極活物質層の厚さが45μm程度の正極とした。
【0158】
(3)ラミネート型リチウムイオン電池の作製
上記の正極及び負極を用いて、ラミネート型リチウムイオン二次電池を製作した。詳しくは、正極及び負極の間に、ポリプロピレン製多孔膜からなるセパレータ(CS TECH CO.,LTD製、商品名「Selion P2010」)の矩形状シート(27×32mm、厚さ25μm)を挟装して極板群とした。この極板群を二枚一組のラミネートフィルムで覆い、三辺をシールした後、袋状となったラミネートフィルムに電解液を注入した。電解液としてエチレンカーボネート/エチルメチルカーボネート=1/1(質量比)の溶媒に、LiPFを1モル/Lの濃度で溶解した溶液を用いた。その後、残りの一辺をシールすることで、四辺が気密にシールされ、極板群及び電解液が密閉されたラミネート型リチウムイオン二次電池を得た。なお、正極及び負極は外部と電気的に接続可能なタブを備え、このタブの一部はラミネート型リチウムイオン二次電池の外側に延出している。以上の工程で作製したラミネート型リチウムイオン電池を通電したところ、動作上の問題は生じなかった。
【0159】
実施例2-2~2-6、比較例2-1~2-5のリチウムイオン電池電極スラリーについても、実施例2-1のリチウムイオン電池電極スラリーの代わりに、実施例2-2~2-6、比較例2-1~2-5のリチウムイオン電池電極スラリーを用いたことを除き、上記手順にて評価を行った。
【0160】
【表2】
【0161】
表2から明らかなように、実施例2-1~2-6の電極用スラリーはいずれも、スラリー分散性の評価が良好であった。実施例2-1~2-6の電極用スラリーを用いて作製した電極を含むリチウムハーフセル評価ではいずれも放電容量維持率の評価が良好であった。
【0162】
これに対し、直鎖状ポリマーを含む電極用スラリー(比較例2-1)の場合には、実施例の電極用スラリーに比べて、スラリー分散性が劣り、かつ作製した電極表面にはクラックが発生した。また、比較例2-1の電極用スラリーを用いて作製した電極を含むリチウムハーフセルの放電容量維持率は実施例のものより劣っていた。フィルムのHAZEが低い、つまり幹ポリマー(A)と枝ポリマー(B)が相溶しているポリマーを用いた電極用スラリー(比較例2-2)、直鎖状の水溶性ポリマーを含む電極用スラリー(比較例2-3)から作製した電極の電極状態は悪く、集電体からの剥離、クラック発生が起こるため、放電容量維持率が実施例のものより劣っていた。水分散体のSBR(比較例2-4)を用いた電極用スラリーは活物質の分散性が非常に悪く電極を作製することができなかった。直鎖状ポリマーとポリエチレングリコールとを混合したバインダー(比較例2-5)を含む電極用スラリーを用いた場合、電極表面にクラックが発生したため、放電容量維持率は実施例のものより劣っていた。