(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-28
(45)【発行日】2022-03-08
(54)【発明の名称】配向ポリエステルフィルム
(51)【国際特許分類】
C08J 5/18 20060101AFI20220301BHJP
C08G 63/181 20060101ALI20220301BHJP
C08L 67/02 20060101ALI20220301BHJP
C08K 3/00 20180101ALI20220301BHJP
【FI】
C08J5/18 CFD
C08G63/181
C08L67/02
C08K3/00
(21)【出願番号】P 2017550658
(86)(22)【出願日】2017-09-20
(86)【国際出願番号】 JP2017033850
(87)【国際公開番号】W WO2018142662
(87)【国際公開日】2018-08-09
【審査請求日】2020-07-01
(31)【優先権主張番号】P 2017015166
(32)【優先日】2017-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】吉田 昌平
(72)【発明者】
【氏名】青山 滋
【審査官】深谷 陽子
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-355090(JP,A)
【文献】特開2009-138067(JP,A)
【文献】国際公開第2016/167149(WO,A1)
【文献】特開2014-031011(JP,A)
【文献】特表2013-522413(JP,A)
【文献】特開2007-016056(JP,A)
【文献】特開2011-126272(JP,A)
【文献】特開2007-178788(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/00- 5/02、 5/12- 5/22
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00- 13/08
B32B 1/00- 43/00
B29C 55/00- 55/30、 61/00- 61/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルと
絶縁性フィラーを含有する層(P1層)を有する配向ポリエステルフィルムであって、前記P1層が下記(1)および(2)を満たす配向ポリエステルフィルム。
(1)P1層の
絶縁性フィラーの含有量がP1層全体に対して10~60質量%であり、P1層中に含有する
絶縁性フィラーの平均径が1.1μm以上40.0μm以下であること。
(2)P1層のポリエステルが芳香族ジカルボン酸成分とジオール成分を主たる構成成分とするポリエステルを主成分とし、該ジオール成分が、主鎖炭素数が偶数の直鎖状のジオール(A)と、主鎖炭素数が奇数のジオール(B)を含み、
前記ジオール(A)が1,2-エタンジオールまたは1,4-ブタンジオールであり、前記ジオール(B)が1,3-プロパンジオールまたは1,5-ペンタンジオールであり、前記ジオール(A)とジオール(B)のモル比(A)/(B)が30/70~97/3であること。
【請求項2】
前記主鎖炭素数が奇数のジオール(B)が1,3-プロパンジオールである請求項1に記載の配向ポリエステルフィルム。
【請求項3】
前記主鎖炭素数が偶数のジオール(A)が1,2-エタンジオールである請求項1または2に記載の配向ポリエステルフィルム。
【請求項4】
厚み方向の熱拡散率が1.6×10
-7m
2/s以上である請求項1~3のいずれかに記載の配向ポリエステルフィルム。
【請求項5】
P1層を構成するポリエステルの固有粘度(IV)が0.65以上である請求項1~4のいずれかに記載の配向ポリエステルフィルム。
【請求項6】
絶縁破壊電圧が60kV/mm以上である請求項1~5のいずれかに記載の配向ポリエステルフィルム。
【請求項7】
表面比抵抗が1.0×10
13Ω/□以上である請求項1~6のいずれかに記載の配向ポリエステルフィルム。
【請求項8】
フィルムの厚みをT(μm)として、フィルムの一方の表面から厚み0.1Tまでの範囲のフィラー含有量をVfa(体積%)、前記フィルムの一方の表面からの厚み0.1Tから厚み0.9Tまでの範囲のフィラー含有量をVfb(体積%)とした場合、少なくとも一方の表面について0≦Vfa/Vfb<1を満たす請求項1~7のいずれかに記載の配向ポリエステルフィルム。
【請求項9】
両方の表面について0≦Vfa/Vfb<1を満たす請求項8に記載の配向ポリエステルフィルム。
【請求項10】
フィルムの厚みをT(μm)として、フィルムの一方の表面から厚み0.1Tまでの範囲にあるポリエステルを構成するジオール成分のうち、主鎖炭素数が奇数のジオール(B)が占める割合をMa(モル%)とし、前記フィルムの一方の表面からの厚み0.1Tから厚み0.9Tまでの範囲にあるポリエステルを構成するジオール成分のうち、主鎖炭素数が奇数のジオール(B)が占める割合をMb(モル%)とした場合に、少なくとも一方の表面について0≦Ma/Mb<1を満たす請求項1~9のいずれかに記載の配向ポリエステルフィルム。
【請求項11】
両方の表面について0≦Ma/Mb<1を満たす請求項10に記載の配向ポリエステルフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配向ポリエステルフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル樹脂(特にポリエチレンテレフタレートや、ポリエチレン-2、6-ナフタレンジカルボキシレートなど)は機械特性、熱特性、耐薬品性、電気特性、成形性に優れ、様々な用途に用いられている。そのポリエステルを延伸配向させてフィルム化した配向ポリエステルフィルム、中でも二軸配向ポリエステルフィルムは、その機械特性、電気的特性などから、銅貼り積層板、太陽電池用バックシート、粘着テープ、フレキシブルプリント基板、メンブレンスイッチ、面状発熱体、フラットケーブル、回転機用の電気絶縁材料、磁気記録材料、コンデンサ用材料、包装材料、自動車用材料、建築材料、写真用材料、グラフィック用材料途、感熱転写用材料、電池用材料などの各種工業材料として使用されている。
【0003】
これらの用途のうち、回転機用の電気絶縁材料(例えば風力発電機用絶縁材料、ハイブリッドモーター用絶縁材料、エアコンモーター用絶縁材料、サーボモーター用絶縁材料)などでは、回転機の小型化や高出力化が進んでおり、それに伴って発電時や使用時の発熱が顕在化している。発熱した熱が蓄積されると温度上昇により発電効率が低下したり、消費電力が高くなったりするといった課題があった。そのため、内部に発生した熱を外部に伝導・放散させる熱対策が重要となっている。また、電子部品用に用いられる電気絶縁材料(例えば、粘着テープ、フレキシブルプリント基板、メンブレンスイッチなど)においても、近年の電子部品の高性能化、小型化、高集積化により、各種電子部品の発熱大きくなった結果、処理速度が低下したり、消費電力が増大したりするなどの問題があった。そのため、筐体などの外装を通じて内部で発生した熱を外部に外に逃がすことが重要となっている。また、リチウムイオン電池などに用いられる絶縁材料においても、電池の出力増加に伴い発熱対策が重要となっている。
そのため、熱伝導性の高いフィルムが求められており、種々の材料が提案されている。例えば、熱伝導性の高いグラファイトシートの片側もしくは両表層にPETフィルムの保護層を積層させた複合フィルム(特許文献1)、二軸延伸PET中に、繊維状の炭素材料を含有させたフィルム(特許文献2、特許文献3)などが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-80672号公報
【文献】特開2013-28753号公報
【文献】特開2013-38179号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の技術においてはグラファイトシートが脆く、機械特性に乏しいことや、保護層となるPETフィルムの熱伝導性が低く、グラファイトシートの高い熱伝導性を十分に発揮できないことが問題であり、また、積層により厚みが厚くなるといった課題がある。また、特許文献2および特許文献3の技術では、繊維状の炭素材料が高い導電性を有するため、絶縁性が求められる用途に用いることはできなかった。
【0006】
また、樹脂の熱伝導性を高める手法として、樹脂中に伝熱性の高いフィラーを高濃度添加する手法は一般的であるが、フィラーを高濃度で添加した樹脂を延伸などによって配向させ、配向フィルムを作製した場合、配向させる過程でフィラーと樹脂との界面で界面剥離が発生してボイドが形成され、そのボイドが断熱層として働くため、得られたフィルムの熱伝導性が低くなってしまうという問題があった。
【0007】
そこで、本発明の課題は電気絶縁性、熱伝導性に優れる配向ポリエステルフィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために本発明は以下の構成をとる。すなわち、
[I]ポリエステルと絶縁性フィラーを含有する層(P1層)を有する配向ポリエステルフィルムであって、前記P1層が下記(1)および(2)を満たす配向ポリエステルフィルム。
(1)P1層の絶縁性フィラーの含有量がP1層全体に対して10~60質量%であり、P1層中に含有する絶縁性フィラーの平均径が1.1μm以上40.0μm以下であること。
【0009】
(2)P1層のポリエステルが芳香族ジカルボン酸成分とジオール成分を主たる構成成分とするポリエステルを主成分とし、該ジオール成分が、主鎖炭素数が偶数の直鎖状のジオール(A)と、主鎖炭素数が奇数のジオール(B)の両方を含み、前記ジオール(A)が1,2-エタンジオールまたは1,4-ブタンジオールであり、前記ジオール(B)が1,3-プロパンジオールまたは1,5-ペンタンジオールであり、前記ジオール(A)とジオール(B)のモル比(A)/(B)が30/70~97/3であること。
[II]前記主鎖炭素数が奇数のジオール(B)が1,3-プロパンジオールである[I]に記載の配向ポリエステルフィルム。
[III]前記主鎖炭素数が偶数のジオール(A)が1,2-エタンジオールである[I]または[II]に記載の配向ポリエステルフィルム。
[IV]厚み方向の熱拡散率が1.6×10-7m2/s以上である[I]~[III]のいずれかに記載の配向ポリエステルフィルム。
[V]P1層を構成するポリエステルの固有粘度(IV)が0.65以上である[I]~[IV]のいずれかに記載の配向ポリエステルフィルム。
[VI]絶縁破壊電圧が60kV/mm以上である[I]~[V]のいずれかに記載の配向ポリエステルフィルム。
[VII]表面比抵抗が1.0×1013Ω/□以上である[I]~[VI]のいずれかに記載の配向ポリエステルフィルム。
[VIII]フィルムの厚みをT(μm)として、フィルムの一方の表面から厚み0.1Tまでの範囲のフィラー含有量をVfa(体積%)、フィルムの一方の表面からの厚み0.1Tから該厚み0.9Tまでの範囲のフィラー含有量をVfb(体積%)とした場合に、少なくとも一方の表面について0≦Vfa/Vfb<1を満たす[I]~[VII]のいずれかに記載の配向ポリエステルフィルム。
[IX]両方の表面についてVfa/Vfbが0≦Vfa/Vfb<1を満たす[VIII]に記載の配向ポリエステルフィルム。
[X]フィルムの厚みをT(μm)として、フィルムの一方の表面から厚み0.1Tまでの範囲にあるポリエステルを構成するジオール成分のうち、主鎖炭素数が奇数のジオール(B)が占める割合をMa(モル%)とし、前記フィルムの一方の表面からの厚み0.1Tから該厚み0.9Tまでの範囲にあるポリエステルを構成するジオール成分のうち、主鎖炭素数が奇数のジオール(B)が占める割合をMb(モル%)とした場合に、少なくとも一方の表面について0≦Ma/Mb<1を満たす[I]~[IX]のいずれかに記載の配向ポリエステルフィルム。
[XI]両方の表面についてMa/Mbが0≦Ma/Mb<1を満たす[X]に記載の配向ポリエステルフィルム。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、従来の配向ポリエステルフィルムと比べて電気絶縁性、熱伝導性、機械特性に優れるポリエステルフィルムを提供することができる。かかる配向ポリエステルフィルムは、銅貼り積層板、太陽電池用バックシート、粘着テープ、フレキシブルプリント基板、メンブレンスイッチ、面状発熱体、フラットケーブル、回転機用絶縁材料、磁気記録材料、コンデンサ用材料、自動車用材料、感熱転写用材料、電池用材料など、電気絶縁性と熱伝導性が重視されるような用途に好適に使用することができる。特には、かかる配向ポリエステルフィルムを用いることで、エネルギー効率の良い回転機や、電池、電子機器などを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】絶縁材料としての放熱性を評価するための評価モジュールの概観を示す模式図である。
【
図2】配向ポリエステルフィルムの断面の厚み範囲を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の配向ポリエステルフィルムは、ポリエステルとフィラーを含む層(P1層)を有することが必要である。なお、本発明において配向ポリエステルフィルムとは、フィルムを構成する樹脂組成物中の樹脂がポリエステルを主成分とする樹脂組成物を、少なくとも一軸方向に配向されてなるフィルムであることを表す。少なくとも一軸方向に配向されてなるとは、フィルム厚み方向へのラマン分光による配向測定により求められる配向パラメータが、いずれかの方向において1.2以上であることを表す。
【0013】
本発明において、ポリエステルとはエステル結合を主たる結合とする樹脂を表す。本発明の配向ポリエステルフィルムは、P1層に含有するポリエステルが、芳香族ジカルボン成分と、ジオール成分を主たる構成成分とするポリエステルを主成分とすることが必要である。なお、本明細書において、構成成分とはポリエステルを加水分解することで得ることが可能な最小単位のことを示す。また、本明細書において、主たる構成成分と表現した場合、該構成成分が全構成成分中で占める割合が80モル%以上、より好ましくは90モル%以上、更に好ましくは95モル%以上であることを示す。また、本明細書において主成分と表現した場合、該成分が全成分中で占める割合が80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、更に好ましくは95質量%以上であることを示す。
【0014】
かかるポリエステルを構成するジカルボン酸構成成分としては、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸、ダイマー酸、エイコサンジオン酸、ピメリン酸、アゼライン酸、メチルマロン酸、エチルマロン酸などの脂肪族ジカルボン酸、アダマンタンジカルボン酸、ノルボルネンジカルボン酸、イソソルビド、シクロヘキサンジカルボン酸、デカリンジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、1,8-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、フェニルエンダンジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸、フェナントレンジカルボン酸、9,9’-ビス(4-カルボキシフェニル)フルオレン酸などの芳香族ジカルボン酸、もしくはそのエステル誘導体が挙げられるがこれらに限定されない。また、上述のジカルボン酸構成成分のカルボキシル基末端に、l-ラクチド、d-ラクチド、ヒドロキシ安息香酸などのオキシ酸類、およびその誘導体や、オキシ酸類が複数個連なったもの等を付加させたものも好適に用いられる。また、これらは単独で用いても、必要に応じて、複数種類用いても構わない。
【0015】
また、本発明の配向ポリエステルフィルムにおいて、P1層中のポリエステルを構成する全ジカルボン酸構成成分中のうち、芳香族ジカルボン酸構成成分が占める割合は、90モル%以上100モル%以下が好ましい。より好ましくは95モル%以上100モル%が好ましい。更に好ましくは98モル%以上100モル%以下、特に好ましくは99モル%以上100モル%以下、最も好ましくは100モル%、すなわちジカルボン酸構成成分の全てが芳香族カルボン酸構成成分であるのがよい。90モル%に満たないと、耐熱性が低下したりする場合がある。本発明の配向ポリエステルフィルムにおいて、P1層中のポリエステルを構成する全ジカルボン酸構成成分のうち、芳香族ジカルボン酸構成成分が占める割合を90モル%以上100モル%以下とすることで、後述する製造方法において、高耐熱な配向ポリエステルフィルムを得ることができる。
【0016】
また、かかるポリエステルを構成するジオール構成成分としては、1,2-エタンジオール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,3-ペンタンジオール、1,4-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオールなどの脂肪族ジオール類が好ましい。これらは単独で用いても、必要に応じて、複数種類用いても構わない。
【0017】
本発明の配向ポリエステルフィルムは、P1層中のポリエステルを構成するジオール成分が、主鎖炭素数が偶数のジオール(A)と、主鎖炭素数が奇数のジオール(B)の両方を含むことが必要である。
【0018】
主鎖炭素数が偶数のジオール(A)とは、2つのヒドロキシ基が結合している2つの炭素間にある、一続きの炭素鎖について、ヒドロキシ基が結合している炭素を含めて炭素数を数えた場合に、炭素数が偶数となるものである。主鎖炭素数が偶数のジオール(A)としては、1,2-エタンジオール、1,2-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,4-ペンタンジオール、1、4-シクロヘキサンジメタノールなどが挙げられるが、製膜性の観点から1,2-エタンジオールや、1,4-ブタンジオールといった側鎖や環状骨格をもたない直鎖状のジオールが好ましく、1,2-エタンジオールがより好ましい。
【0019】
主鎖炭素数が奇数のジオール(B)とは、2つのヒドロキシ基が結合している2つの炭素間にある、一続きの炭素鎖について、ヒドロキシ基が結合している炭素を含めて炭素数を数えた場合に、炭素数が奇数となるものである。主鎖炭素数が奇数のジオール(B)としては、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,3-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオールなどが挙げられるが、製膜性の観点から1,3-プロパンジオールや、1,5-ペンタンジオールといった側鎖や環状骨格をもたない直鎖状のジオールが好ましく、1,3-プロパンジオールがより好ましい。
【0020】
本発明の配向ポリエステルフィルムは、P1層中に上記ジオール(A)とジオール(B)の両方を含むことにより、延伸時の分子鎖の配向挙動を変化させることができ、分子鎖の過度な配向に起因するフィラーと樹脂との界面でのボイド形成を抑制することができ、熱伝導性に優れたフィルムとなる。
【0021】
また、上記ジオール(A)とジオール(B)のモル比(A)/(B)は、30/70以上、97/3以下であることが必要である。モル比(A)/(B)が97/3を超えたり、30/70未満であったりすると、ジオール(A)とジオール(B)を共存させることにより延伸時の分子鎖の配向挙動を変化させ、ボイド形成を抑制するという本発明の効果が得られない。また、モル比が30/70未満の場合には、絶縁材料としての耐熱性が損なわれる場合がある。モル比(A)/(B)は、好ましくは40/60以上、90/10以下、より好ましくは50/50以上、80/20以下である。
【0022】
上述の構成成分(ジカルボン酸とジオール)を適宜組み合わせて、重縮合させることでポリエステルを得ることができるが、P1層のポリエステルは、カルボキシル基および/または水酸基を3つ以上有する構成成分が共重合されていることも好ましい。その場合は、カルボキシル基および/または水酸基を3つ以上有する構成成分の割合が、ポリエステルの全構成成分に対して0.005モル%以上2.5モル%以下であることが好ましい。
【0023】
本発明の配向ポリエステルフィルムにおいて、ポリエステルとフィラーを含む層(P1層)を構成するポリエステルの固有粘度(IV)は0.65以上であることが好ましい。より好ましくは0.70以上、更に好ましくは0.75以上である。IVが0.65に満たないと、後述のフィラーを含有させた場合に、ポリエステルの分子鎖間の絡み合いが少なくなりすぎて、機械物性が低下したり、フィラーの分散性が低下して熱伝導性が低下したりする場合がある。IVの上限は特に決められるものではないが、IVが高いほど重合時間が長くなるためコスト的に不利であったり、溶融押出が困難となったりするという点から、好ましくは1.4以下、更に好ましくは1.2以下である。
【0024】
なお、上記IVとするには、溶融重合によって所定の溶融粘度になった時点で吐出し、チップ化することにより得られるポリエステルを用いる方法と、目標より低めのIVで一旦チップ化し、その後に固相重合を行うことにより得られるポリエステルを用いる方法がある。これらのうち、特に熱劣化を抑えられ、かつ末端カルボキシル基数を低減できるという点で、目標より低めのIVで一旦チップ化し、その後、固相重合を行うことにより得られるポリエステルを用いる方法を用いるのが好ましい。また、後述する方法にてフィラーをポリエステルに含有させた後に、固相重合を行うのが、フィルムのIVをより高めるために好ましい。
【0025】
本発明の配向ポリエステルフィルムは、P1層がフィラーを含有することが必要である。本発明において、フィラーとは、金、銀、銅、白金、パラジウム、レニウム、バナジウム、オスミウム、コバルト、鉄、亜鉛、ルテニウム、プラセオジウム、クロム、ニッケル、アルミニウム、スズ、チタン、タンタル、ジルコニウム、アンチモン、インジウム、イットリウム、ランタニウム、ケイ素などの金属、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化セシウム、酸化アンチモン、酸化スズ、インジウム・スズ酸化物、酸化イットリウム、酸化ランタニウム、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ケイ素などの金属酸化物、フッ化リチウム、フッ化マグネシウム、フッ化アルミニウム、氷晶石などの金属フッ化物、リン酸カルシウムなどの金属リン酸塩、炭酸カルシウムなどの炭酸塩、硫酸バリウム、硫酸マグネシウムなどの硫酸塩、窒化ケイ素、窒化ホウ素、窒化炭素などの窒化物、ワラストナイト、セピオライト、ゾノトライト、アルミノシリケートなどのケイ酸塩、チタン酸カリウム、チタン酸ストロンチウムなどのチタン酸塩、カーボン、フラーレン、カーボンファイバー、カーボンナノチューブ、炭化ケイ素などの炭素系化合物等が挙げられる。これらのフィラーは、1種単独でも、2種以上を混合して使用してもよい。また、これらフィラーは、樹脂との親和性を高め、分散性を高める目的で、シランカップリング剤処理、金属蒸着、ポリマーのグラフト化、プラズマ処理、などといった表面処理によって表面改質したものを用いてもよい。
【0026】
本発明の配向ポリエステルフィルムにおいては、フィラーの材質としては、導電性を有さない酸化亜鉛、酸化チタン、酸化セシウム、酸化アンチモン、酸化スズ、インジウム・スズ酸化物、酸化イットリウム、酸化ランタニウム、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ケイ素等の金属酸化物、フッ化リチウム、フッ化マグネシウム、フッ化アルミニウム、氷晶石等の金属フッ化物、リン酸カルシウム等の金属リン酸塩、炭酸カルシウム等の炭酸塩、硫酸バリウム、硫酸マグネシウム等の硫酸塩、窒化ケイ素、窒化ホウ素、窒化炭素などの窒化物、ワラストナイト、セピオライト、ゾノトライト、アルミノシリケートなどのケイ酸塩、チタン酸カリウムなどのチタン酸塩などを用いることが好ましい。その理由は、フィラーが絶縁性であるため、長期に渡って電気絶縁性を維持するという、本発明の効果を顕著に発揮することができ、電気絶縁性が必要とされる用途に特に好適なためである。
【0027】
本発明の配向ポリエステルフィルムにおいて、P1層中のフィラーの含有量(Vf1(体積%))は、10質量%以上、60質量%以下であることが必要である。好ましくは15質量%以上、50質量%以下、より好ましくは20質量%以上、40質量%以下である。フィラーの含有量が10質量%未満であると、フィラーが伝熱パスを形成できなくなり、熱伝導性が悪化する場合がある。フィラーの含有量が60質量%を超えると、フィルムの製膜性が悪化したり、絶縁材料として使用する際のハンドリング性や絶縁性が低下したりする場合がある。
【0028】
本発明の配向ポリエステルフィルムにおいて、P1層中に含有するフィラーの平均径は1.1μm以上40.0μm以下であることが好ましく、より好ましくは3μm以上35.0μm以下、更に好ましくは5μm以上30.0μm以下である。平均径が1.1μmに満たないと、界面積が多くなりすぎてフィラー間の接触が阻害され、熱伝導性が低下する。一方、40.0μmを超えるとフィルムの製膜性が低下したり、製膜後のフィルムのハンドリング性や絶縁性が悪化したりする場合がある。
【0029】
本発明の配向ポリエステルフィルムは、ポリエステルとフィラーを含む層(P1層)のみからなる場合と、他の層との積層構成とする場合の、いずれも好ましく用いられる。積層構成とする場合には、P1層の高い熱伝導性や高い耐熱性の効果を発揮するためには、P1層の割合が配向ポリエステルフィルム全体の50体積%以上とすることが好ましい。より好ましくは60体積%以上、更に好ましくは70体積%以上である。
【0030】
本発明の配向ポリエステルフィルムの全体の厚みは5μm以上500μm以下が好ましく、10μm以上400μm以下がより好ましい。更に好ましくは、20μm以上300μm以下である。厚みが5μm未満の場合、フィルムの製膜性が低くなり、製膜が困難となる場合がある。一方、500μmより厚い場合、例えば絶縁材料として断裁や折り曲げなどの加工を行う際にハンドリング性が悪化する場合がある。本発明の配向ポリエステルフィルムにおいて、フィルム全体の厚みを5μm以上500μm以下とすることによって、製膜性とハンドリング性を両立することができる。
【0031】
本発明の配向ポリエステルフィルムは、フィルム厚み方向の熱拡散率が1.6×10-7m2/s以上であることが好ましい。より好ましくは、1.7×10-7m2/s以上、更に好ましくは1.8×10-7m2/s以上、特に好ましくは2.0×10-7m2/s以上である。本値を満たすことによって、銅貼り積層板、太陽電池用バックシート、粘着テープ、フレキシブルプリント基板、メンブレンスイッチ、面状発熱体、フラットケーブル、回転機用材料、磁気記録材料、コンデンサ用材料、自動車用材料、建築材料、感熱転写用材料、電池用材料など、熱伝導性が重視される用途に好適に用いることができる。フィルム厚み方向の熱拡散率を高くする手段としては、上述のより好ましい原料処方とする他に、ポリエステルとフィラーを混合してチップ状の組成物を得た後、得られたチップを固相重合し、固有粘度を高くした後にフィルムを作製する方法や、製膜時の延伸倍率を後述するより好ましい倍率にする方法などが挙げられる。なお、熱拡散率の上限は特に定められるものではないが、2.0×10-6m2/sを超える配向ポリエステルフィルムを得ることは実用上困難である。
【0032】
本発明の配向ポリエステルフィルムは、絶縁破壊電圧が60kV/mm以上であることが好ましい。絶縁破壊電圧が60kV/mm未満であると、実使用時の耐電圧性が悪化し、機器の信頼性を損ねる場合がある。絶縁破壊電圧は、より好ましくは70kV/mm以上、更に好ましくは80kV/mm以上、さらには90kV/mm、特に好ましくは100kV/mm以上、更に特に好ましくは110kV/mm以上である。絶縁破壊電圧を上記の範囲内とするための方法としては、ポリエステルとフィラーを含む層(P1層)に含有されるフィラーの種類やフィラー径、添加量などを制御することなどが挙げられる。
【0033】
本発明の配向ポリエステルフィルムは、表面比抵抗が1.0×1013Ω/□以上であることが好ましい。本値を満たすことによって、銅貼り積層板、太陽電池用バックシート、粘着テープ、フレキシブルプリント基板、メンブレンスイッチ、面状発熱体、フラットケーブル、回転機用材料、磁気記録材料、コンデンサ用材料、自動車用材料、建築材料、感熱転写用材料、電池用材料など、絶縁性が重視される用途に好適に用いることができる。本値を満たすためには、添加するフィラーが導電性を有さないものとすることが好ましい。なお、上限は特に定められるものではないが、1.0×1016Ω/□を超える配向ポリエステルフィルムを得ることは実用上困難である。
【0034】
本発明の配向ポリエステルフィルムは、フィルムの厚みをT(μm)として、フィルムの一方の表面から厚み0.1Tまでの範囲のフィラー含有量をVfa(体積%)、前記フィルムの一方の表面から厚み0.1Tから厚み0.9Tまでの範囲のフィラー含有量をVfb(体積%)とした場合に、少なくとも一方の表面についてVfa/Vfbが0≦Vfa/Vfb<1を満たすことが好ましい。より好ましくは、両方の表面についてVfa/Vfbが0≦Vfa/Vfb<1を満たすことが好ましい。本発明において、Vfa/Vfbは後述する方法で求められるものであり、Vfa/Vfbが小さい程、フィルムの表層にフィラーの含有量が少ないことを示している。その結果、フィルム表面からのフィラーの滑落や、フィラーと樹脂の界面で界面剥離が発生するのを抑制することが可能となる。特に、平滑面に対してフィルムを接着させるような用途において顕著な効果が発揮され、フィラーの滑落やフィラーと樹脂の界面での界面剥離が起きにくいほど、平滑面に対する密着力が高くなるため好ましい。より好ましくは、0.1≦Vfa/Vfb≦0.8、更に好ましくは0.1≦Vfa/Vfb≦0.7である。Vfa/Vfbが1以上である場合、フィルム表面にフィラー粒子が多く存在することになり、フィルム表面からフィラーが滑落し、工程汚染が発生したり、フィラーと樹脂の界面で界面剥離が発生したりする場合がある。なお、Vfa/Vfbの下限は0であるが、0.1以上とすると、フィルムの熱伝導性を高める観点からより好ましい。0≦Vfa/Vfb<1とするためには、フィラーの種類や表面活性を制御した上で、フィラーの含有量が少ない層と多い層とを積層した積層構造とし、少なくとも片側の表面にフィラーが少ない層を設けることが好ましい。
【0035】
本発明の配向ポリエステルフィルムは、フィルムの厚みをT(μm)として、フィルムの一方の表面から厚み0.1Tまでの範囲にあるポリエステルを構成するジオール成分のうち、主鎖炭素数が奇数のジオール(B)が占める割合をMa(モル%)とし、前記フィルムの一方の表面からの厚み0.1Tから厚み0.9Tまでの範囲にあるポリエステルを構成するジオール成分のうち、主鎖炭素数が奇数のジオール(B)が占める割合をMb(モル%)とした場合に、少なくとも一方の表面についてMa/Mbが0≦Ma/Mb<1を満たすことが好ましい。より好ましくは、両方の表面についてMa/Mbが0≦Ma/Mb<1を満たすことが好ましい。
【0036】
本発明において、Ma/Mbは後述する方法で求められるものであり、Ma/Mbが小さい程、フィルムの表層に主鎖炭素数が奇数のジオール(B)を構成成分とするポリエステルが少ないことを示している。その結果、フィルムの配向性が低下して機械強度や耐熱性が低下するのを抑制したり、フィルムの表面にオリゴマーなどの揮散成分が析出し、工程汚染が発生するのを抑制したりすることが可能となる。より好ましくは、0.1≦Ma/Mb≦0.8、更に好ましくは0.1≦Ma/Mb≦0.7である。Ma/Mbが1以上である場合、フィルムの表層に主鎖炭素数が奇数のジオール(B)を構成成分とするポリエステルが多く存在することになり、フィルムの配向性が低下して機械強度や耐熱性が低下したり、フィルムの表面にオリゴマーなどの揮散成分が析出し、工程汚染が発生したりする場合がある。0≦Ma/Mb<1とするためには、主鎖炭素数が奇数のジオール(B)を構成成分とするポリエステルの含有量が少ない層と多い層とを積層した積層構造とし、少なくとも片側の表面に主鎖炭素数が奇数のジオール(B)を構成成分とするポリエステルの含有量が少ない層を設けることが好ましい。
【0037】
本発明の配向ポリエステルフィルムは、上記P1層のみからなる単層フィルムであってもよく、また、P1層の少なくとも片面にその他の層(以下、その他の層をP2層と略すことがある)を積層した積層構成も好ましく用いられる。その中でも、フィルム表面からのフィラーの滑落や、フィラーと樹脂の界面で界面剥離が発生するのを抑制するためには、P1層の少なくとも片面にP1層よりもフィラー含有量の少ないP2層を積層した積層構成とするのが好ましい。より好ましくは、P1層の両面に、P1層よりも粒子含有量の少ないP2層を積層した積層構成にするのがよい。この場合、P2層を構成する樹脂の主成分をポリエステル樹脂とすることが製膜性の観点から好ましい。
【0038】
また、P2層にはフィラーを添加することが熱伝導性を高めるために好ましく、フィラーとしては前記のものが用いられる。その場合、P2層のフィラー含有量Vf2(体積%)は、フィルムが上記0≦Vfa/Vfb<1の関係を満たすために、P1層のフィラー含有量Vf1(体積%)との間で0≦Vf2/Vf1<1を満たすのが好ましい。より好ましくは0≦Vf2/Vf1≦0.8、更に好ましくは0≦Vf2/Vf1≦0.7である。Vf2/Vf1が1以上である場合、フィルム表面にフィラーが多く存在することになり、フィルム表面から粒子が滑落し、工程汚染が発生したり、フィラーと樹脂の界面で界面剥離が発生したりする場合がある。
【0039】
P2層中のフィラー含有量Vf2(体積%)は0~5体積%であることがフィルムの延伸性を向上させるために好ましく、より好ましくは0~3体積%、更に好ましくは0~2体積%である。含有量が5体積%を超えると、フィルム表面からフィラーが滑落し、工程汚染が発生したり、フィラーと樹脂の界面で界面剥離が発生したりする場合がある。
【0040】
また、フィルムの配向性が低下して機械強度や耐熱性が低下するのを抑制したり、フィルムの表面にオリゴマーなどの揮散成分が析出し、工程汚染が発生するのを抑制したりするためには、P1層の少なくとも片面にP1層よりも主鎖炭素数が奇数のジオール(B)を構成成分とするポリエステルの含有量の少ないP2層を積層した積層構成とするのが好ましい。より好ましくは、P1層の両面に、P1層よりも主鎖炭素数が奇数のジオール(B)を構成成分とするポリエステルの含有量の少ないP2層を積層した積層構成にするのがよい。
【0041】
その場合、フィルムが上記0≦Ma/Mb<1の関係を満たすために、P1層のポリエステルを構成するジオール成分のうち、主鎖炭素数が奇数のジオール(B)が占める割合をM1(モル%)とし、P2層のポリエステルを構成するジオール成分のうち、主鎖炭素数が奇数のジオール(B)が占める割合をM2(モル%)とした場合、0≦M2/M1<1を満たすのが好ましい。より好ましくは0≦M2/M1≦0.8、更に好ましくは0≦M2/M1≦0.7である。M1/M2が1以上である場合、フィルムの表層に主鎖炭素数が奇数のジオール(B)を構成成分とするポリエステルが多く存在することになり、フィルムの配向性が低下して機械強度や耐熱性が低下したり、フィルムの表面にオリゴマーなどの揮散成分が析出し、工程汚染が発生したりする場合がある。
【0042】
P1層とP2層の比率は、P1層の割合がフィルム全体の50体積%以上とすることが好ましく、より好ましくは60体積%以上、更に好ましくは70体積%以上である。P1層の割合が50体積%に満たないと、P1層による熱伝導性向上の効果が不十分となる場合がある。
【0043】
次に、本発明の配向ポリエステルフィルムの製造方法について、その一例を説明するが、本発明は、かかる例のみに限定されるものではない。
【0044】
本発明の配向ポリエステルフィルムの製造方法は、下記工程1~3をその順に含むものであることが好ましい。
(工程1)ポリエステルと、フィラーとを溶融混練する工程。(以下、溶融混練工程)、
(工程2)ポリエステルとフィラーを含む樹脂組成物を溶融させ口金から吐出させてシート状のフィルムを得る工程(以下、溶融押出工程)、
(工程3)シート状のフィルムを二軸延伸する工程(以下、延伸工程)
以下、工程1~工程3について、詳細を説明する。
【0045】
(工程1)
本発明の配向ポリエステルフィルムの製造方法において、その原料となるポリエステルは、上述のジカルボン酸構成成分、ジオール構成成分からエステル化反応またはエステル交換反応を経て重縮合反応を行い、固有粘度を0.5以上とすることによって得られる。
【0046】
また、エステル交換反応を行う際には、酢酸マグネシウム、酢酸カルシウム、酢酸マンガン、酢酸コバルトなど公知のエステル交換反応触媒を用いることができるほか、重合触媒である三酸化アンチモンなどを添加してもよい。エステル化反応時には水酸化カリウムなどのアルカリ金属を数ppm添加しておくと耐熱性や耐加水分解性も改善される。また重縮合反応触媒としては、二酸化ゲルマニウムのエチレングリコール溶液、三酸化アンチモン、チタンアルコキシド、チタンキレート化合物などを用いることができる。その他の添加物としては、例えば、静電印加特性を付与する目的で酢酸マグネシウム、助触媒として酢酸カルシウムなどを挙げることができ、本発明の効果を妨げない範囲で添加することができる。また、フィルムの滑り性を付与するために各種フィラーを添加、あるいは触媒を利用した内部析出フィラーを含有させてもよい。
【0047】
本発明の配向ポリエステルフィルムの製造方法において、フィラーをシランカップリング剤によって表面処理する場合、i)溶媒中にフィラーを分散させた後、その分散液を攪拌させながらシランカップリング剤、または表面処理剤を溶解/分散させた溶液/分散液を添加する方法、ii)フィラーを攪拌しながら、シランカップリング剤を溶解/分散させた溶液/分散液を添加する方法などが挙げられる。
【0048】
次いで、上記により得られたポリエステルにフィラーを添加する方法は、予めポリエステルとフィラーをベント式二軸混練押出機やタンデム型押出機を用いて溶融混練する方法が好ましい。ここで、ポリエステルはフィラーを含有させる際に加熱されるため、少なからずポリエステルが劣化する。そのため、P1層中のフィラーの含有量に比べてフィラー含有量の多い高濃度マスターペレットを作製し、それを、フィラーの含有量の少ないポリエステルのペレットあるいはフィラーを含まないポリエステルのペレットと混合して希釈し、P1層のフィラーの含有量を所定量とするのが、延伸性、機械特性、耐熱性などの観点から好ましい。
【0049】
このとき、高濃度マスターペレット中のフィラーの濃度は20質量%以上80質量%以下が好ましく、より好ましくは25質量%以上70質量%以下、更に好ましくは30質量%以上60質量%以下である。20質量%に満たない場合、P1層に添加するマスターペレットの量が多くなり、その結果P1層に劣化したポリエステルの量が多くなって延伸性、機械特性、耐熱性などが低下する場合がある。また80質量%を越える場合は、マスターペレット化が困難となったり、マスターペレットをポリエステルに混合した場合に均一に混合するのが難しくなったりする場合がある。
【0050】
また、フィラー含有量の多い高濃度マスターペレットや、フィラーの含有量の少ないポリエステルのペレットや、フィラーを含まないポリエステルのペレットなどを混合して使用するにあたり、混合する前の各種ペレットや、混合後のペレットの混合物を固相重合して用いることが、ポリエステルの分子量を高めて、ポリエステルのIVを高める点で特に好ましい方法である。固相重合の温度は、ポリエステルの融点Tm-60℃以上、融点Tm-30℃以下の温度が好ましく、固相重合の真空度は0.3Torr以下が好ましい。
【0051】
以上のようにして、ポリエステルとフィラーを含む樹脂組成物を得る。
【0052】
(工程2)
次に、上記工程1で得られた、ポリエステルとフィラーを含む樹脂組成物をシート状に成形する工程を説明する。
【0053】
本発明の配向ポリエステルフィルムがP1層のみからなる単膜構成の場合、P1層用原料を押出機内で加熱溶融し、口金から冷却したキャストドラム上に押し出してシート状に加工する方法(溶融キャスト法)を使用することができる。その他の方法として、P1層用の原料を溶媒に溶解させ、その溶液を口金からキャストドラム、エンドレスベルト等の支持体上に押し出して膜状とし、次いでかかる膜から溶媒を乾燥除去させてシート状に加工する方法(溶液キャスト法)等も使用することができる。この中でも、生産性が高いという点で溶融キャスト法がより好ましい(以下、溶融キャスト法によりシート状に成形する工程を溶融押出工程と称す)。
【0054】
本発明の配向ポリエステルフィルムの製造方法において、溶融押出工程において製造する場合、乾燥したポリエステルとフィラーを含む樹脂組成物を、押出機を用いて口金からシート状に溶融押出し、表面温度10℃以上60℃以下に冷却されたドラム上で静電気により密着冷却固化し、未延伸のシート状フィルムを作製する。
【0055】
押出機で溶融押出する際は、窒素雰囲気下で溶融させ、押出機へのチップ供給から、口金までに押出される時間は短い程良く、目安としては30分以下、より好ましくは15分以下、更に好ましくは5分以下とすることが、劣化抑制の点で好ましい。
【0056】
(工程3)
工程2で得られたシートを、シートのガラス転移温度Tg以上の温度にて二軸延伸する。二軸延伸する方法としては、上述の様に長手方向と幅方向の延伸とを分離して行う逐次二軸延伸方法の他に、長手方向と幅方向の延伸を同時に行う同時二軸延伸方法のどちらであっても構わない。延伸条件の一例は、1)同時二軸延伸の場合は、ポリエステルのガラス転移温度Tg以上Tg+15℃以下の範囲の温度、2)逐次二軸延伸の場合は、第一軸目の延伸をポリエステルのガラス転移温度Tg以上Tg+15℃以下(より好ましくはTg+10℃以下)の温度とし、第二軸目の延伸をTg+5℃以上Tg+25℃以下の範囲の温度で延伸することが挙げられる。
【0057】
延伸倍率は、同時二軸延伸、逐次二軸延伸共に、長手方向と幅方向それぞれ1.5倍以上4倍以下とする。より好ましくは2.0倍以上、3.5倍以下、更に好ましくは2.0倍以上3.0倍以下である。また縦の延伸倍率と横の延伸倍率を合わせた面積延伸倍率は2倍以上16倍以下、より好ましくは4倍以上12倍以下、更に好ましくは4倍以上8倍以下である。面積倍率が2倍未満であると、得られるフィルムのポリエステル分子鎖の配向性が低く、得られるフィルムの機械強度や耐熱性が低下することがある。また面積延伸倍率が14倍を越えると延伸時に破れを生じ易くなったり、フィラーの周囲にボイドが多く形成され、熱伝導性が低下したりする傾向がある。
【0058】
延伸速度は、逐次二軸延伸の場合は長手方向が100~25000%/min、幅方向が50~5000%/minであることが好ましく、同時二軸延伸の場合は長手方向、幅方向ともに50~5000%/minであることが好ましい。延伸速度を好ましい範囲とすることによって、延伸時に破れを生じ易くなったり、フィラーの周囲にボイドが多く形成され、熱伝導性が低下したりするのを抑制できる場合がある。
【0059】
次に得られた二軸延伸フィルムに対して平面性と寸法安定性を付与するために、ポリエステルのガラス転移温度Tg以上融点Tm未満の温度Thで1秒間以上30秒間以下の熱処理を行ない、均一に徐冷後、室温まで冷却する。本発明の配向ポリエステルフィルムの製造方法において熱処理温度Thは、ポリエステルの融点Tmとの差Tm-Thが、20℃以上90℃以下、より好ましくは25℃以上70℃以下、更に好ましくは30℃以上60℃以下である。また、上記熱処理工程中では、必要に応じて幅方向あるいは長手方向に3~12%の弛緩処理を施してもよい。続いて必要に応じて、他素材との密着性をさらに高めるためにコロナ放電処理などを行っても良い。
【0060】
なお、本発明の配向ポリエステルフィルムがP1層と他の層(以下、P2層と称す)を含む積層構造の場合の製造方法は以下の通りである。積層する各層の材料が熱可塑性樹脂を主たる構成材料とする場合は、二つの異なる材料をそれぞれ二台の押出機に投入し、溶融して口金から冷却したキャストドラム上に共押出してシート状に加工する方法(共押出法)、単膜で作製したシートに被覆層原料を押出機に投入して溶融押出して口金から押出す方法(溶融ラミネート法)、P1層と積層するP2層をそれぞれ別々に作製し、加熱されたロール群などにより熱圧着する方法(熱ラミネート法)、接着剤を介して貼り合わせる方法(接着法)、その他、P2層用の材料を溶媒に溶解させ、その溶液をあらかじめ作製していたP1層上に塗布する方法(コーティング法)、およびこれらを組み合わせた方法等が使用することができる。なかでも、P1層とP2層の積層界面の密着性を高め、絶縁材料としてのハンドリング性を高めるという観点から、共押出法が特に好ましい。
【0061】
また、P2層が、熱可塑性樹脂でない材料を主たる構成成分とする場合は、P1層と積層するP2層をそれぞれ別々に作製し、接着剤などを介して貼り合わせる方法(接着法)や、硬化性材料の場合はP1層上に塗布した後に電磁波照射、加熱処理などで硬化させる方法等が使用することができる。その他、上述の共押出法、溶融ラミネート法、溶液ラミネート法、熱ラミネート法などの方法の他に、蒸着法、スパッタ法などの乾式法、めっき法などの湿式法、なども好適に用いることが出来る。
【0062】
コーティング法により異素材からなるP2層を形成する方法としては、配向ポリエステルフィルムの製膜中に塗設するインラインコーティング法、製膜後の配向ポリエステルフィルムに塗設するオフラインコーティング法があげられ、どちらでも用いることが出来るが、より好ましくはポリエステルフィルム製膜と同時にできて効率的であり、層間密着性が高いという理由からインラインコーティング法が好ましく用いられる。また、塗設する際には、塗設の基材である配向ポリエステルフィルム表面へコロナ処理などの表面処理を行うことが層間密着性を高めるために好ましい。
【0063】
本発明の配向ポリエステルフィルムは、上述の工程により製造することができ、得られたフィルムは、高い電気絶縁性、熱伝導性を有するものである。本発明の配向ポリエステルフィルムはその特長を活かして銅貼り積層板、太陽電池用バックシート、粘着テープ、フレキシブルプリント基板、メンブレンスイッチ、面状発熱体、フラットケーブル、回転機用絶縁材料、磁気記録材料、コンデンサ用材料、自動車用材料、建築材料、感熱転写用材料、電池用材料など、電気絶縁性と熱伝導性が重視されるような用途に好適に使用することができる。特には、かかる配向ポリエステルフィルムを用いることで、エネルギー効率の良い回転機や、電池、電子機器などを提供することができる。
【0064】
[特性の評価方法]
A.配向ポリエステルフィルムの厚みT
先端が平坦で直径4mmのダイヤルゲージ厚み計((株)ミツトヨ製)を用いて配向ポリエステルフィルムの厚みを測定した。なお、測定は場所を変えて10回実施し、その平均値でもって配向ポリエステルフィルムの厚みT(μm)とした。
【0065】
B.ポリエステルの組成分析
配向ポリエステルフィルムをアルカリにより加水分解し、各成分をガスクロマトグラフィーあるいは高速液体クロマトグラフィーにより分析し、各成分のピーク面積より組成比を求めた。以下に一例を示す。ジカルボン酸構成成分や、その他構成成分は高速液体クロマトグラフィーにて測定を行った。測定条件は既知の方法で分析することができ、以下に測定条件の一例を示す。なお、測定にあたってはフィラーを濾過分離した後に実施した。
装置:島津LC-10A
カラム:YMC-Pack ODS-A 150×4.6mm S-5μm 120A
カラム温度:40℃
流量:1.2ml/min
検出器:UV 240nm
ジオール構成成分や、その他構成成分の定量はガスクロマトグラフィーを用いて既知の方法で分析することができる。以下に測定条件の一例を示す。
装置 :島津9A(島津製作所製)
カラム:SUPELCOWAX-10 キャピラリーカラム30m
カラム温度:140℃~250℃(昇温速度5℃/min)
流量 :窒素 25ml/min
検出器:FID。
【0066】
C.固有粘度(IV)
オルトクロロフェノール100mlに配向ポリエステルフィルム(積層フィルムの場合はポリエステル層(P1層))を溶解させ(溶液中のポリエステル濃度C=1.2g/ml)、その溶液の25℃での粘度をオストワルド粘度計を用いて測定した。また、同様に溶媒の粘度を測定した。得られた溶液粘度、溶媒粘度を用いて、下記式(1)により、[η]を算出し、得られた値でもって固有粘度(IV)とした。
ηsp/C=[η]+K[η]2・C (1)
(ここで、ηsp=(溶液粘度/溶媒粘度)―1、Kはハギンス定数(0.343とする)である)。なお、測定にあたっては、予めフィラーを濾過分離した上で実施した。
【0067】
D.P1層中のフィラーの含有量
配向ポリエステルフィルム(積層フィルムの場合は削りだしたP1層)について、以下(A1)~(A4)の手順で求めた。
(A1)配向ポリエステルフィルム(積層フィルムの場合は削りだしたP1層)の質量w1(g)を測定した。
(A2)(A1)で質量を測定した配向ポリエステルフィルム(積層フィルムの場合は削りだしたP1層)をヘキサフルオロ-2-イソプロパノール中に溶解させ、遠心分離により不溶成分として粒子を分取した。
(A3)得られた粒子をヘキサフルオロ-2-イソプロパノールにて洗浄、遠心分離した。なお、洗浄作業は、遠心分離後の洗浄液にエタノールを添加しても白濁しなくなるまで繰り返した。
(A4)(A3)の洗浄液を加熱留去後、24時間自然乾燥させた後、60℃の温度で5時間真空乾燥し、フィラーを得た。得られたフィラーの質量w2(g)を求め、下記式(2)からフィラーの含有量Wf(質量%)を得た。
Wf=(w2/w1)×100 (2)
E.フィラーの平均径
上記D項の(A4)で得たフィラーについて、レーザー粒度分布計(島津製作所社製、SALD-2100)を用いて数平均粒子径を測定し、フィラーの平均径とした。
【0068】
F.熱拡散率
配向ポリエステルフィルムを1cm×1.5cmサイズに切り出し、周期加熱法熱拡散率測定装置(アドバンス理工社製、FTC-1)にて測定温度25℃でフィルム厚み方向の熱拡散率α(m2/s)を測定した。なお、測定は4回実施し、その平均値でもって熱拡散率とした。
【0069】
G.絶縁破壊電圧
配向ポリエステルフィルムをサイズ25cm×25cmの正方形に切り出し、23℃、65%Rhの室内で24時間調湿した後、JIS C2151(2006)に基づいて、交流絶縁破壊試験器(春日電機(株)製、AC30kV)を用いて、周波数60Hz、昇圧速度1000V/secで単位厚みあたりの絶縁破壊電圧(kV/mm)を測定した。なお、測定は10回実施し、その平均値でもって絶縁破壊電圧とした。
【0070】
H.表面比抵抗
デジタル超高抵抗微小電流計R8340((株)アドバンテスト製)で測定を実施した。測定は配向ポリエステルフィルムの両面各面において、面内において任意の10カ所で測定を実施し、その平均値をそれぞれ求めた。得られた平均値が低い方の値でもって表面比抵抗とした。また、測定試料は23℃、65%Rhの室内で一晩放置したものを用いて測定を実施した。得られた値を用いて以下の通り判定した。Aが実用範囲である。
A:表面比抵抗が1.0×1013Ω/□以上
C:表面比抵抗が1.0×1013Ω/□未満。
【0071】
I.絶縁材料としての放熱性
鍔径60mm、胴径20mm、全長100mm、内幅80mmのステンレス製のボビン(胴部に中空部が無いもの)と、厚みが125μmとなるように製膜した配向ポリエステルフィルムを用意した。次にボビン内壁にあたる胴部表面と鍔内面がすべて覆われるように配向ポリエステルフィルムをフィルム同士が重ならないように設置した(
図1)。その後、線径1mmの銅線を、巻き空き幅が2mm以内となるようにソレノイド状に該ボビンに巻き付けた。次に2つの貼付型サーミスタを用意し、一方(以下、銅線側サーミスタと称す)は巻き付けた銅線の中央部に貼り付け、もう一方(以下、ボビン側サーミスタと称す)はボビンの鍔外部に貼り付けた。次に、巻き付けた銅線に消費電力が3Wになるように電圧を調整しながら電流を流して銅線を発熱させ、2つのサーミスタの温度がともに飽和点に達するまで待機した後に、銅線側サーミスタの温度Taと、ボビン側サーミスタの温度Tbをそれぞれ測定して、これらの温度差から下記判定基準にて放熱性を評価した。S、A、Bが放熱性の高い絶縁材料として好適に用いられる。
S:Ta-Tbが0.3℃未満
A:Ta-Tbが0.3℃以上、1℃未満
B:Ta-Tbが1℃以上、2℃未満
C:Ta-Tbが2℃以上
J.絶縁材料としてのハンドリング性
配向ポリエステルフィルムを、モーター加工機(小田原エンジニアリング社製)を用いてコの字に曲げ加工した。具体的には、12mm×80mmの長方形に打ち抜いた後に、短辺側を4mm間隔で三つ折りした。打ち抜きから折り曲げまでの加工を連続で行って100個の試験片を作製し、下記判定基準にてハンドリング性を評価した。AおよびBがハンドリング性の高い絶縁材料として好適に用いられる。
A:全ての試験片に割れや亀裂が発生しない。
B:割れや亀裂が発生する試験片の数が1個以上、5個未満である。
C:割れや亀裂が発生する試験片の数が5個以上である。
【0072】
K.絶縁材料としての耐熱性
まず、ASTM-D882(1997年版)に基づいて、配向ポリエステルフィルムを1cm×20cmの短冊状に切り出し、引張試験器(オリエンテック社製、テンシロンAMF/RTA-100)を用いてチャック間5cm、引っ張り速度300mm/minにて室温で引っ張ったときの破断伸度を測定した。なお、測定方向についてはサンプルのいずれかの方向を0°とし、フィルム面内に-90°から90°まで10°毎に方向を変えながらサンプリングして破断伸度を測定し、得られた全データの相加平均値でもって耐熱性試験前のサンプルの破断伸度Saとした。なお、ここで、方向をかえて破断伸度を測定した際に、破断伸度が最も小さくなった方向をフィルムの長手方向として定めた。
次に、上記と同じように短冊状のサンプルを切り出した後、180℃の熱風オーブン中で24時間熱処理し、室温まで放冷後、上記と同じようにして耐熱性試験後の破断伸度Sbを求めた。
次に、耐熱試験前後の破断伸度から、下記式(3)により伸度保持率を計算し、下記判定基準にて耐熱性を評価した。AおよびBが耐熱性の高い絶縁材料として好適に用いられる。
伸度保持率(%)=Sb/Sa×100 (3)
A:伸度保持率が70%以上
B:伸度保持率が50%以上、70%未満
C:伸度保持率が50%未満。
【0073】
L.機械特性
JIS P8115(2001)に準拠した方法にて、耐折強さ試験を行った。配向ポリエステルフィルムを幅15mmの短冊型状にサンプリングし、株式会社マイズ試験機製MIT耐折試験機を使用して、荷重:9.8N、速度:175回/min、曲率半径(R):0.38mm、間隙:0.25mm、折り曲げ角:左右へ135°の条件で測定した。得られた値を用いて以下の通り判定した。S、A、Bが実用範囲である。
S:破断するまでの折り曲げ回数が1000回以上
A:破断するまでの折り曲げ回数が500回以上、1000回未満
B:破断するまでの折り曲げ回数が100回以上、500回未満
C:破断するまでの折り曲げ回数が100回未満。
【0074】
M.平滑面に対する接着性
配向ポリエステルフィルムの両面に熱硬化性の接着剤を乾燥後の厚みが5μmとなるように均一に塗布し、該接着剤を介してフィルムの両面に東レ(株)製PPSフィルム「トレリナ」(商標登録)(タイプ3030、厚み16μm)を熱ラミネートにより貼り合わせた。幅10mm長さ200mmのサンプルにカットし、該サンプルを、大栄科学精器製作所製引張試験器にて速度200mm/分、剥離角度180°ホールドの条件で、JIS K 6854-2(1999)に準じ、測定した。得られた剥離長さ(mm)と剥離荷重(N)の測定データから、最適直線法により、最適荷重直線を導き、180°ピール強度を求めた。測定はフィルムの両面について各10回ずつ行い、各面の平均値を算出した上で、より値が小さくなった面の平均値を用いて、平滑面に対する接着性を以下の基準で判定した。S、A、Bが実用上好ましい。
S:5.0N/cm以上
A:3.0N/cm以上、5.0N/cm未満
B:1.0N/cm以上、3.0N/cm未満
C:1.0N/cm未満。
【0075】
O.Vfa/Vfb
Vfa/Vfbは以下の(B1)~(B6)の手順で求めた。なお、測定は配向ポリエステルフィルム切断箇所を無作為に変更して計10回行い、その相加平均値でもってVfa/Vfbとした。また、測定は配向ポリエステルフィルムの表裏のそれぞれの表面について個別に測定を行い、それぞれの表面についてVfa/Vfbを求めた。
(B1)ミクロトームを用いて、配向ポリエステルフィルムのフィルム断面を厚み方向に潰すことなく、フィルム面方向に対して垂直に、フィルム長手方向(破断伸度の測定によって定義した方向)に対して平行に切断する。
(B2)次いで切断した断面を、走査型電子顕微鏡を用いて観察し、3000倍に拡大観察した画像を得る。なお、観察場所は無作為に定めるものとするが、画像の上下方向がフィルムの厚み方向と、画像の左右方向がフィルムの長手方向と、それぞれ平行になるようにするものとする。また、厚み方向に観察位置を移動させて行い、一方の表面からもう一方の表面まで連続した画像を準備した。
(B3)前記(B2)で得られる画像中において、
図2に示すように、一方の表面から厚み0~0.1Tの範囲の面積(フィルム内に存在する空隙やフィラーの面積も含む全面積)を計測し、これをAaとする。また同様に前記の一方の表面から厚み0.1T~0.9Tの範囲の面積を計測し、総面積をAbとする。
(B4)画像中のフィルム内において、前記の一方の表面から厚み0~0.1Tの範囲の全てのフィラーの面積を計測し、総面積をBaとする。ここで、計測対象とするのは、厚み0~0.1Tの範囲にフィラーの全体が画像内に収まっているものに限られず、画像内に一部のみが現われているフィラーも含むものとする。なお、画像でフィラーの場所が判別しにくい場合には、別途同じサンプルの断面についてエネルギー分散型X線分析を行い、無機物からなる部分を判別した後、面積を算出する。また同様に前記の一方の表面から厚み0.1T~0.9Tの範囲の全てのフィラーの面積を計測し、総面積をBbとする。
(B5)BaをAaで除し(Ba/Aa)、それに100を乗じることにより、前記の一方の表面から厚み0~0.1Tの範囲における無機粒子の面積割合を求め、この値でもって表面から厚み0.1Tの範囲のフィラー含有量Vfa(体積%)とする。また同様にBbをAbで除し(Bb/Ab)、それに100を乗じることにより0.1T~0.9Tの範囲のフィラー含有量Vfb(体積%)とする。
(B6)VfaをVfbで除し、Vfa/Vfbを算出する。
【0076】
P.Ma/Mb
Ma/Mbは以下の(C1)~(C6)の手順で求めた。なお、測定は配向ポリエステルフィルムを変更して計10回行い、その相加平均値でもってMa/Mbとした。また、測定は配向ポリエステルフィルムの表裏のそれぞれの表面について個別に測定を行い、それぞれの表面についてMa/Mbを求めた。
(C1)配向ポリエステルフィルムを平らな台座に載せて固定し、一方の表面を、やすりによって均一に研磨する。
(C2)C1の研磨作業を、適宜フィルムの厚みを計測しながら実施し、
図2に示すように、一方の表面から厚み0.1Tまでの範囲を研磨して、残るフィルムの厚みが、面内で均一に0.9Tの厚みに達した時点で、一旦研磨を止め、それまでに出てきた研磨屑をすべて回収する。
(C3)上記で回収した研磨屑について、前記B項の方法でポリエステルの組成分析を行い、ポリエステルを構成するジオール成分のうち、主鎖炭素数が奇数のジオールが占める割合をMa(モル%)として算出する。
(C4)(C2)で一旦止めた研磨作業を再開し、一方の表面から厚み0.9Tまでの範囲を研磨して、残るフィルムの厚みが面内で均一に0.1Tの厚みに達するまで研磨を行い、その間に出てきた研磨屑を全て回収する。
(C5)上記で回収した研磨屑について、前記B項の方法でポリエステルの組成分析を行い、ポリエステルを構成するジオール成分のうち、主鎖炭素数が奇数のジオールが占める割合をMb(モル%)として算出する。
(C6)MaをMbで除し、Ma/Mbを算出した。
【0077】
Q.配向性(配向パラメータ)
ミクロトームを用いてフィルム面に対して垂直に断面を切り出し、断面についてRENISHAW社製inVIA顕微ラマン分光光度計にて、対物レンズ:100倍、ビーム径:1μm、光源:YAGレーザーの二次高調波(波長532nm)、レーザーパワー:100mW,回折格子:Single 3000gr/mm、スリット:65μm、検出器:CCD/RENISHAW 1024×256、の条件にて、以下(D1)~(D3)の通り測定を行った。
なお、複数の樹脂が混合されている場合など、異方性に対し強い感度を有するピークが複数存在する場合などは、最もピーク強度が高いピークを用いて配向パラメータを求めた。
(D1)フィルム面内方向に平行方向の偏光を照射した場合と、垂直方向の偏光を照射した場合のそれぞれにおいてラマンバンドを求める。
(D2)得られたラマンバンドのうち、1615cm-1近傍のC=C伸縮振動のピーク強度をそれぞれ求め、平行方向の偏光を照射した場合のピーク強度をIs(平行)、垂直方向の偏光を照射した場合のピーク強度をIs(垂直)とする。
(D3)Is(平行)とIs(垂直)の比Is(平行)/Is(垂直)にて配向パラメータとする。
ミクロトームを用いてフィルム面に対して垂直に断面を切り出す際、切削方向をフィルム面内に-90°から90°まで10°毎に方向を変えながら切り出し、それぞれの断面について上記測定を行い、以下の基準で配向性を判定した。Aが実用上好ましい。
A:配向パラメータが、いずれかの方向において1.2以上
C:配向パラメータが全ての方向において1.2未満。
【実施例】
【0078】
以下、本発明について実施例を挙げて説明するが、本発明は必ずしもこれらに限定されるものではない。
(原料)
・ポリエステル:
ポリエステル-1:酸成分としてテレフタル酸を、ジオール成分として1,2-エタンジオールを用いて重縮合反応を行い、固有粘度0.7のポリエチレンテレフタレートペレットを得た。
【0079】
ポリエステル-2:DFG1(ベルポリエステルプロダクツ社製)を使用した。固有粘度が1.1のポリエチレンテレフタレートである。
【0080】
ポリエステル-3:“Sorona(登録商標)” Bright(デュポン社製)を使用した。固有粘度が1.1のポリトリメチレンテレフタレートである。
【0081】
ポリエステル-4:酸成分として2,6-ナフタレンジカルボン酸を、ジオール成分として1,2-エタンジオールを用いて重縮合反応を行い、固有粘度0.6のポリエステルペレットを得た。
【0082】
ポリエステル-5:“トレコン(登録商標)”1200S(東レ社製)を使用した。固有粘度1.3のポリブチレンテレフタレートである。
【0083】
ポリエステル-6:酸成分としてテレフタル酸を、ジオール成分として1,5-ペンタンジオールを用いて重縮合反応を行い、固有粘度0.7のポリエステルペレットを得た。
【0084】
ポリエステル-7:酸成分としてテレフタル酸を、ジオール成分として1,2-エタンジオールと1,3-プロパンジオールの2種類をモル比が75:25となるように用いて重縮合反応を行い、固有粘度0.8のポリエステルペレットを得た。
【0085】
・フィラー
フィラー-1:平均径14μmのワラストナイト(キンセイマテック社製、FPW#400)を、ヘンシェルミキサーに入れ攪拌し、その状態でワラストナイト100質量%に対してシランカップリング剤(信越化学社製、KBM-403)が1質量%となるようにシランカップリング剤をスプレー噴霧して添加し、70℃で2時間加熱攪拌後、取り出すことで、表面処理されたワラストナイトを得た。
フィラー-2:平均径16μmの表面処理されたアルミノシリケート(Quarzwerke社製、SILATHERM T 1360-012 EST)を用いた。
フィラー-3:平均繊維径0.06μm、平均繊維長10μmの多層カーボンナノチューブを用いた。
【0086】
・マスターペレット
MB-1:同方向回転タイプのベント式二軸混練押出機(日本製鋼所製、スクリュー直径30mm、スクリュー長さ/スクリュー直径=45.5)を275℃に加熱し、ポリエステル-1を60質量部、フィラー-1を40質量部、供給し、溶融混練後、ストランド状に吐出し、温度25℃の水で冷却した後、直ちにカッティングしてフィラー-1を40質量%含有するマスターペレット(MB-1)を作製した。
【0087】
MB-2:マスターペレット(MB-1)を160℃で6時間乾燥、結晶化させたのち、220℃、真空度0.3Torr、6時間の固相重合を行い、マスターペレット(MB-2)を作製した。
【0088】
MB-3:同方向回転タイプのベント式二軸混練押出機(日本製鋼所製、スクリュー直径30mm、スクリュー長さ/スクリュー直径=45.5)を275℃に加熱し、ポリエステル-1を60質量部、フィラー-2を40質量部、供給し、溶融混練後、ストランド状に吐出し、温度25℃の水で冷却した後、直ちにカッティングしてフィラー-2を40質量%含有するマスターペレット(MB-3)を作製した。
【0089】
MB-4:同方向回転タイプのベント式二軸混練押出機(日本製鋼所製、スクリュー直径30mm、スクリュー長さ/スクリュー直径=45.5)を275℃に加熱し、ポリエステル-1を20質量部、ポリエステル-3を20質量部、フィラー-1を60質量部、供給し、溶融混練後、ストランド状に吐出し、温度25℃の水で冷却した後、直ちにカッティングしてフィラー-1を60質量%含有するマスターペレット(MB-4)を作製した。
【0090】
MB-5:同方向回転タイプのベント式二軸混練押出機(日本製鋼所製、スクリュー直径30mm、スクリュー長さ/スクリュー直径=45.5)を255℃に加熱し、ポリエステル-5を60質量部、フィラー-1を40質量部、供給し、溶融混練後、ストランド状に吐出し、温度25℃の水で冷却した後、直ちにカッティングしてフィラー-1を40質量%含有するマスターペレット(MB-5)を作製した。
【0091】
MB-6:同方向回転タイプのベント式二軸混練押出機(日本製鋼所製、スクリュー直径30mm、スクリュー長さ/スクリュー直径=45.5)を300℃に加熱し、ポリエステル-4を60質量部、フィラー-1を40質量部、供給し、溶融混練後、ストランド状に吐出し、温度25℃の水で冷却した後、直ちにカッティングしてフィラー-1を40質量%含有するマスターペレット(MB-6)を作製した。
【0092】
MB-7:同方向回転タイプのベント式二軸混練押出機(日本製鋼所製、スクリュー直径30mm、スクリュー長さ/スクリュー直径=45.5)を275℃に加熱し、ポリエステル-7を60質量部、フィラー-1を40質量部、供給し、溶融混練後、ストランド状に吐出し、温度25℃の水で冷却した後、直ちにカッティングしてフィラー-1を40質量%含有するマスターペレット(MB-7)を作製した。
【0093】
MB-8:同方向回転タイプのベント式二軸混練押出機(日本製鋼所製、スクリュー直径30mm、スクリュー長さ/スクリュー直径=45.5)を275℃に加熱し、ポリエステル-1を15質量部、ポリエステル-3を15質量部、フィラー-1を70質量部、供給し、溶融混練後、ストランド状に吐出し、温度25℃の水で冷却した後、直ちにカッティングしてフィラー-1を70質量%含有するマスターペレット(MB-8)を作製した。
【0094】
MB-9:同方向回転タイプのベント式二軸混練押出機(日本製鋼所製、スクリュー直径30mm、スクリュー長さ/スクリュー直径=45.5)を255℃に加熱し、ポリエステル-3を60質量部、フィラー-1を40質量部、供給し、溶融混練後、ストランド状に吐出し、温度25℃の水で冷却した後、直ちにカッティングしてフィラー-1を40質量%含有するマスターペレット(MB-9)を作製した。
【0095】
MB-10:同方向回転タイプのベント式二軸混練押出機(日本製鋼所製、スクリュー直径30mm、スクリュー長さ/スクリュー直径=45.5)を275℃に加熱し、ポリエステル-1を20質量部、ポリエステル-3を40質量部、フィラー-2を40質量部、供給し、溶融混練後、ストランド状に吐出し、温度25℃の水で冷却した後、直ちにカッティングしてフィラー-2を40質量%含有するマスターペレット(MB-10)を作製した。
【0096】
MB-11:同方向回転タイプのベント式二軸混練押出機(日本製鋼所製、スクリュー直径30mm、スクリュー長さ/スクリュー直径=45.5)を275℃に加熱し、ポリエステル-1を96質量部、フィラー-3を4質量部、供給し、溶融混練後、ストランド状に吐出し、温度25℃の水で冷却した後、直ちにカッティングしてフィラー-3を4質量%含有するマスターペレット(MB-11)を作製した。
【0097】
(実施例1)
マスターペレット(MB-1)を50質量部、ポリエステル-3を30質量部、ポリエステル-2を20質量部の割合で3種類の原料を混合し、180℃の温度で3時間真空乾燥した後に押出機に供給し、窒素雰囲気下、280℃の温度で溶融させ、Tダイ口金に導入した。次いで、Tダイ口金内より、シート状に押出して溶融シートとし、該溶融シートを、表面温度25℃に保たれたドラム上に静電印加法で密着冷却固化させて未延伸のシート状フィルムを得た。
【0098】
続いて、該未延伸フィルムを90℃の温度に加熱したロール群で予熱した後、100℃の温度の加熱ロールを用いて7000%/minの速度で長手方向(縦方向)に2.5倍延伸を行い、25℃の温度のロール群で冷却して一軸延伸フィルムを得た。得られた一軸延伸フィルムの両端をクリップで把持しながらテンター内の90℃の温度の予熱ゾーンに導き、引き続き連続的に100℃の温度の加熱ゾーンで200%/minの速度で長手方向に直角な方向(幅方向)に2.5倍延伸した。引き続いて、テンター内の熱処理ゾーン1で220℃の温度で20秒間の熱処理を施し、さらに熱処理ゾーン2で150℃の熱処理を行った。なお、熱処理に際し、熱処理ゾーン1-熱処理ゾーン2間で4%の弛緩処理を行った。次いで、均一に徐冷後、巻き取って、厚み125μmの配向ポリエステルフィルムを得た。
【0099】
得られたフィルムの特性を評価した結果を表1に示す。放熱性、ハンドリング性、耐熱性に優れたフィルムであることが分かった。
【0100】
(実施例2~5、実施例8~11、実施例13、実施例15)
製膜に用いる原料を表1の通りとした以外は、実施例1と同様にして、厚み125μmの配向ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの特性を評価した結果を表1に示す。
【0101】
(実施例6、実施例7、実施例12)
製膜に用いる原料を表1の通りとし、製膜時の溶融温度を250℃に変更し、延伸時の予熱温度と延伸温度をそれぞれ65℃と75℃に変更し、熱処理ゾーン1の温度を190℃に変更した以外は、実施例1と同様にして、厚み125μmの配向ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの特性を評価した結果を表1に示す。
【0102】
(実施例14)
製膜に用いる原料を表1の通りとし、製膜時の溶融温度を310℃に変更し、延伸時の予熱温度と延伸温度をそれぞれ115℃と125℃に変更し、熱処理ゾーン1の温度を260℃に変更した以外は、実施例1と同様にして、厚み125μmの配向ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの特性を評価した結果を表1に示す。
【0103】
(実施例16)
製膜時の延伸倍率を長手方向に2.7倍、幅方向に3.1倍に変更した以外は、実施例1と同様にして、厚み125μmの配向ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの特性を評価した結果を表1に示す。
【0104】
(比較例1、比較例3~5)
製膜に用いる原料を表1の通りとした以外は、実施例1と同様にして、厚み125μmの配向ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの特性を評価した結果を表1に示す。比較例3のフィルムは延伸時に破れが多発して製膜不可であり、それ以外のフィルムは製膜できたものの絶縁材料としての放熱性が不十分であった。
【0105】
(比較例2、比較例6)
製膜に用いる原料を表1の通りとし、製膜時の溶融温度を250℃に変更し、延伸時の予熱温度と延伸温度をそれぞれ65℃と75℃に変更し、熱処理ゾーン1の温度を190℃に変更した以外は、実施例1と同様にして、厚み125μmの配向ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの特性を評価した結果を表1に示す。いずれのフィルムも絶縁材料としての放熱性が不十分であった。
【0106】
(比較例7)
製膜時の延伸倍率を長手方向に2.7倍、幅方向に3.1倍に変更した以外は、比較例1と同様にして、厚み125μmの配向ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの特性を評価した結果を表1に示す。得られたフィルムは絶縁材料としての放熱性が不十分であった。
【0107】
(比較例8)
マスターペレット(MB-11)を50質量部、ポリエステル-2を50質量部の割合で2種類の原料を混合し、180℃の温度で3時間真空乾燥した後に押出機に供給し、窒素雰囲気下、280℃の温度で溶融させ、Tダイ口金に導入した。次いで、Tダイ口金内より、シート状に押出して溶融シートとし、該溶融シートを、表面温度25℃に保たれたドラム上に静電印加法で密着冷却固化させて厚み125μmの未延伸のシート状フィルムを得た。得られたフィルムの特性を評価した結果を表1に示す。得られたフィルムは絶縁性が低く、絶縁材料としての放熱性も不十分であった。
【0108】
(実施例17)
マスターペレット(MB-10)を50質量部、ポリエステル-2を50質量部の割合で2種類の原料を混合し、180℃の温度で3時間真空乾燥した後に押出機に供給し、窒素雰囲気下、280℃の温度で溶融させ、Tダイ口金に導入した。次いで、Tダイ口金内より、シート状に押出して溶融シートとし、該溶融シートを、表面温度25℃に保たれたドラム上に静電印加法で密着冷却固化させて未延伸のシート状フィルムを得た。
【0109】
続いて、該未延伸フィルムを90℃の温度に加熱したロール群で予熱した後、100℃の温度の加熱ロールを用いて7000%/minの速度で長手方向(縦方向)に2.0倍延伸を行い、25℃の温度のロール群で冷却して一軸延伸フィルムを得た。得られた一軸延伸フィルムの両端をクリップで把持しながらテンター内の90℃の温度の予熱ゾーンに導き、引き続き連続的に100℃の温度の加熱ゾーンで200%/minの速度で長手方向に直角な方向(幅方向)に3.0倍延伸した。引き続いて、テンター内の熱処理ゾーン1で220℃の温度で20秒間の熱処理を施し、さらに熱処理ゾーン2で150℃の熱処理を行った。なお、熱処理に際し、熱処理ゾーン1-熱処理ゾーン2間で4%の弛緩処理を行った。次いで、均一に徐冷後、巻き取って、厚み125μmの配向ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの特性を評価した結果を表2に示す。
【0110】
(実施例18)
2台の押出機(押出機Aおよび押出機B)を用意し、押出機Aにはマスターペレット(MB-10)を50質量部、ポリエステル-2を50質量部の割合で2種類の原料を混合したものを180℃の温度で3時間真空乾燥した後に供給し、押出機Bには、ポリエステル-1のみを180℃の温度で3時間真空乾燥した後に供給した。供給された樹脂は、それぞれの押出機によって窒素雰囲気下、280℃の温度で溶融された後、押出機Bの樹脂が押出機Aの樹脂の両表層に来るように3層に積層し、Tダイ口金に導入した。この時、3層の積層厚みの比が、1:10:1になるように積層した。次いで、Tダイ口金内より、シート状に押出して溶融シートとし、該溶融シートを、表面温度25℃に保たれたドラム上に静電印加法で密着冷却固化させて未延伸のシート状フィルムを得た。
【0111】
続いて、該未延伸フィルムを90℃の温度に加熱したロール群で予熱した後、100℃の温度の加熱ロールを用いて7000%/minの速度で長手方向(縦方向)に2.0倍延伸を行い、25℃の温度のロール群で冷却して一軸延伸フィルムを得た。得られた一軸延伸フィルムの両端をクリップで把持しながらテンター内の90℃の温度の予熱ゾーンに導き、引き続き連続的に100℃の温度の加熱ゾーンで200%/minの速度で長手方向に直角な方向(幅方向)に3.0倍延伸した。引き続いて、テンター内の熱処理ゾーン1で220℃の温度で20秒間の熱処理を施し、さらに熱処理ゾーン2で150℃の熱処理を行った。なお、熱処理に際し、熱処理ゾーン1-熱処理ゾーン2間で4%の弛緩処理を行った。次いで、均一に徐冷後、巻き取って、厚み125μmの配向ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの特性を評価した結果を表2に示す。
【0112】
(実施例19、実施例20)
3層の積層厚みの比を、表2に示すように変更した以外は、実施例18と同様にして厚さ125μmの配向ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの特性を評価した結果を表2に示す。
【0113】
(実施例21)
押出機Bにマスターペレット(MB-1)を25質量部、ポリエステル-1を75質量部の割合で2種類の原料を混合したものを180℃の温度で3時間真空乾燥した後に供給した以外は、実施例18と同様にして、厚さ125μmの配向ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの特性を評価した結果を表2に示す。
【0114】
(実施例22)
押出機Bの樹脂と押出機Aの樹脂が、1:10の比率で2層に積層されるように、それぞれTダイ口金に導入した以外は、実施例18と同様にして、厚さ125μmの配向ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの特性を評価した結果を表2に示す。
【0115】
【0116】
【0117】
【0118】
【産業上の利用可能性】
【0119】
本発明によれば、従来の配向ポリエステルフィルムと比べて電気絶縁性、熱伝導性に優れる配向ポリエステルフィルムを提供することができる。かかる配向ポリエステルフィルムは、銅貼り積層板、太陽電池用バックシート、粘着テープ、フレキシブルプリント基板、メンブレンスイッチ、面状発熱体、フラットケーブル、回転機用絶縁材料、磁気記録材料、コンデンサ用材料、自動車用材料、建築材料、感熱転写用材料、電池用材料など、電気絶縁性と熱伝導性が重視されるような用途に好適に使用することができる。特には、かかる配向ポリエステルフィルムを用いることで、エネルギー効率の良い回転機や、電池、電子機器などを提供することができる。
【符号の説明】
【0120】
1:ボビン
2:配向ポリエステルフィルム
3:銅線
4:銅線側サーミスタ
5:ボビン側サーミスタ
a:鍔径
b:胴径
c:全長
d:内幅
e:巻空き
f:配向ポリエステルフィルムの厚み(T)
g:一方の表面
h:一方の表面から厚み0.1Tまでの範囲
i:一方の表面からの厚み0.1Tから厚み0.9Tまでの範囲