(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-28
(45)【発行日】2022-03-08
(54)【発明の名称】斜め延伸フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 55/14 20060101AFI20220301BHJP
B29C 55/20 20060101ALI20220301BHJP
【FI】
B29C55/14
B29C55/20
(21)【出願番号】P 2018003383
(22)【出願日】2018-01-12
【審査請求日】2020-09-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001933
【氏名又は名称】特許業務法人 佐野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】園田 泰史
(72)【発明者】
【氏名】最上 尚行
(72)【発明者】
【氏名】南條 崇
【審査官】田中 則充
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/041273(WO,A1)
【文献】特開平09-003230(JP,A)
【文献】特開2016-126272(JP,A)
【文献】国際公開第2007/061105(WO,A1)
【文献】特開2013-099958(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 55/00-55/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルム基材を一方向に搬送しながら、搬送方向を途中で屈曲させることにより、前記一方向とフィルム面内で交差する斜め方向に前記フィルム基材を延伸して斜め延伸フィルムを作製する斜め延伸工程を有する斜め延伸フィルムの製造方法であって、
前記フィルム基材を前記一方向に5%以上28%以下の延伸倍率で延伸する縦延伸工程をさらに含み、
斜め延伸前の前記フィルム基材および前記斜め延伸フィルムのそれぞれに対して熱処理を行ったときの、前記フィルム基材の前記一方向における寸法変化率をT1(%)とし、前記斜め延伸フィルムの前記一方向における寸法変化率をT2(%)とし、前記熱処理を、前記フィルム基材を構成する樹脂のガラス転移温度Tg+5℃で90秒間加熱する処理としたとき、
以下の条件式(1)および(2)を満足することを特徴とする斜め延伸フィルムの製造方法;
T1<0%≦T2 ・・・(1)
-7.0%<T1≦-0.5% ・・・(2)
ただし、
T1={(A2-A1)/A1}×100
T2={(B2-B1)/B1}×100
A1:前記フィルム基材の前記熱処理前における前記一方向の寸法(mm)
A2:前記フィルム基材の前記熱処理後における前記一方向の寸法(mm)
B1:前記斜め延伸フィルムの前記熱処理前における前記一方向の寸法(mm)
B2:前記斜め延伸フィルムの前記熱処理後における前記一方向の寸法(mm)
であり、
前記斜め延伸工程では、前記縦延伸工程で前記一方向に延伸された前記フィルム基材を、前記斜め方向に延伸して前記斜め延伸フィルムを作製し、
前記フィルム基材を構成する前記樹脂は、ポリカーボネート系樹脂、シクロオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂のいずれかを含むことを特徴とする斜め延伸フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記斜め延伸工程では、斜め延伸前に前記フィルム基材を予熱温度まで加熱し、
前記予熱温度は、斜め延伸時の延伸温度以上であることを特徴とする請求項1に記載の斜め延伸フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記斜め延伸工程では、前記フィルム基材の幅手方向の両端部を挟む左右の把持具は、前後の把持具と一定間隔を保って、一定速度で走行することを特徴とする請求項1または2に記載の斜め延伸フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記フィルム基材を構成する前記樹脂は、ポリカーボネート系樹脂であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに
記載の斜め延伸フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、斜め延伸フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、フィルム基材を、幅手方向および長手方向の両方向に交差する斜め方向に延伸して、斜め延伸フィルムを作製する手法が種々提案されている。このうち、例えば特許文献1では、フィルム基材の幅手方向の両端部とそれ以外の部分(各端部で挟まれた部分)とで樹脂組成を変えて、フィルム基材を斜め方向に延伸することにより、比較的硬くて脆い樹脂(例えばアクリル樹脂)を用いて斜め延伸フィルムを作製する場合でも、斜め延伸フィルムにおける延伸方向の破断を防止するようにしている。
【0003】
また、例えば特許文献2および3では、フィルム基材を搬送方向に延伸(縦延伸)した後に斜め延伸する手法が開示されている。特に、特許文献2では、幅手方向の中央部の膜厚を端部よりも増大させたフィルム基材を用いて縦延伸および斜め延伸を行うことにより、斜め延伸後のフィルムの厚みおよび光学特性のバラツキを抑えるようにしている。また、特許文献3では、搬送方向の延伸率または収縮率を調整することによって、フィルム基材の配向角を調整するようにしている。
【0004】
また、例えば特許文献4では、張力が付与されたフィルム基材の一部を、フィルム基材の幅が変化しない温度からネッキングが生ずる温度に昇温させてフィルム基材をネッキング延伸することにより、ネッキングの安定性を制御して延伸ムラの少ない延伸フィルムを得るようにしている。なお、ネッキング延伸とは、フィルム基材の狭い範囲においてネッキング(くびれ)を生じさせて、フィルム基材を延伸する手法を指す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-69436号公報(請求項1、6、7、段落〔0007〕~〔0010〕、〔0013〕、
図1等参照)
【文献】特許5233746号公報(請求項1、段落〔0009〕、〔0011〕、
図1、
図3等参照)
【文献】特許4841191号公報(請求項1、段落〔0012〕、
図1等参照)
【文献】特許5542579号公報(請求項1、段落〔0003〕、〔0010〕、〔0012〕、
図1等参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、
図6Aは、幅手方向の両端部をクリップCpで把持して(図面では幅手方向の片側のクリップCpのみを図示)、斜め延伸フィルムFを搬送する様子を模式的に示す斜視図であり、
図6Bは、
図6AにおけるA-A’線矢視断面図である。フィルム基材を搬送途中で屈曲させて斜め延伸フィルムFを作製する場合において、フィルム基材を構成する樹脂として、熱による収縮が小さい樹脂(例えばポリカーボネート系樹脂)を用いると、フィルム基材を所望の延伸温度で斜め延伸したときに、
図6Bに示すように、斜め延伸フィルムFの幅手方向の端部で波状変形が起こる。この波状変形は、以下の原理で発生すると考えられる。
【0007】
図7に示すように、フィルム基材の搬送方向をE1方向からE2方向(E1方向に対してフィルム面内でθo(°)の角度で交差する方向)に変更して斜め延伸を行う場合、フィルム基材は、搬送途中で屈曲させられることでE1方向に機械的に収縮する。例えば、斜め延伸前のフィルム基材において、E1方向の寸法がLo(mm)であった部分は、斜め延伸後にLo・cosθo(mm)となり、E1方向においてcosθo倍だけ機械的に縮められる。このため、フィルム基材は、斜め延伸時にE1方向に自発的に収縮しなければ、「余り」が生じることとなり、このフィルムの「余り」が、
図6Bで示したように、フィルム端部に波状変形となって現れる。
【0008】
熱収縮性が高い樹脂(例えばセルロースエステル系樹脂)を用いた場合、E1方向において、樹脂の熱収縮が斜め延伸特有の機械的な収縮に追い付くため、上記の波状変形はほとんど発生しない。しかし、熱収縮性の低い樹脂を用いた場合、E1方向において、樹脂の熱収縮が斜め延伸特有の機械的な収縮に追い付くことができず、結果として、フィルム端部に波状変形が現れる。
【0009】
波状変形が生じたフィルムは、斜め延伸機(テンター)から排出され、搬送ロールの周面で抱かれて搬送される際に、割れて破断しやすくなる。また、フィルム端部に波状変形が起こると、波状変形のないフィルム中央部との間で配向角にバラツキが生じやすくなる。しかし、上述した特許文献1~4では、熱収縮性の低い樹脂を用いて斜め延伸フィルムを作製する場合において、上記の波状変形を抑えて、幅手方向の配向角のバラツキを低減する点については一切検討されていない。なお、特許文献1のように、フィルム幅手方向で樹脂組成を変える方法は、コスト面で現実的ではない。
【0010】
また、例えばフィルム基材をE1方向に延伸しすぎると、斜め延伸時の高温(延伸温度)において、フィルムがE1方向に沿って過剰に熱収縮する。このため、作製された斜め延伸フィルムを加熱して耐久試験を行ったときに、面内方向のリタデーションRoが耐久試験前よりも低下する。したがって、特許文献2および3のように、斜め延伸前に縦延伸を行う場合は、縦延伸後で斜め延伸前のフィルム基材の熱処理前後におけるE1方向の寸法変化率を適切に抑えることが必要である。しかし、この点については、特許文献2および3では一切検討されていない。また、特許文献1においても、斜め延伸前のフィルム基材の熱処理前後におけるE1方向の寸法変化率については一切検討されていない。
【0011】
本発明の目的は、前記の事情に鑑み、熱収縮性の低い樹脂を用いて斜め延伸フィルムを作製する場合でも、フィルム端部で発生する波状変形を抑えて、幅手方向の配向角のバラツキを低減できるとともに、耐久試験後の面内リタデーションRoの低下を抑えることができる斜め延伸フィルムの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の上記目的は、以下の製造方法により達成される。
【0013】
1.フィルム基材を一方向に搬送しながら、搬送方向を途中で屈曲させることにより、前記一方向とフィルム面内で交差する斜め方向に前記フィルム基材を延伸して斜め延伸フィルムを作製する斜め延伸工程を有する斜め延伸フィルムの製造方法であって、
斜め延伸前の前記フィルム基材および前記斜め延伸フィルムのそれぞれに対して熱処理を行ったときの、前記フィルム基材の前記一方向における寸法変化率をT1(%)とし、前記斜め延伸フィルムの前記一方向における寸法変化率をT2(%)とし、前記熱処理を、前記フィルム基材を構成する樹脂のガラス転移温度Tg+5℃で90秒間加熱する処理としたとき、
以下の条件式(1)および(2)を満足することを特徴とする斜め延伸フィルムの製造方法;
T1<0%≦T2 ・・・(1)
-7.0%<T1≦-0.5% ・・・(2)
ただし、
T1={(A2-A1)/A1}×100
T2={(B2-B1)/B1}×100
A1:前記フィルム基材の前記熱処理前における前記一方向の寸法(mm)
A2:前記フィルム基材の前記熱処理後における前記一方向の寸法(mm)
B1:前記斜め延伸フィルムの前記熱処理前における前記一方向の寸法(mm)
B2:前記斜め延伸フィルムの前記熱処理後における前記一方向の寸法(mm)
である。
【0014】
2.前記フィルム基材を前記一方向に延伸する縦延伸工程をさらに含み、
前記斜め延伸工程では、前記縦延伸工程で前記一方向に延伸された前記フィルム基材を、前記斜め方向に延伸して前記斜め延伸フィルムを作製することを特徴とする前記1に記載の斜め延伸フィルムの製造方法。
【0015】
3.前記斜め延伸工程では、斜め延伸前に前記フィルム基材を予熱温度まで加熱し、
前記予熱温度は、斜め延伸時の延伸温度以上であることを特徴とする前記1または2に記載の斜め延伸フィルムの製造方法。
【0016】
4.前記フィルム基材を構成する前記樹脂は、ポリカーボネート系樹脂、シクロオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂のいずれかを含むことを特徴とする前記1から3のいずれかに記載の斜め延伸フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0017】
上記の製造方法によれば、熱収縮性の低い樹脂を用いて斜め延伸フィルムを作製する場合でも、フィルム端部で発生する波状変形を抑えることができ、これによって、作製された斜め延伸フィルムにおいて、幅手方向の配向角のバラツキを低減することができる。また、斜め延伸前のフィルム基材の熱処理前後における寸法変化率の範囲を適切に規定することにより、作製された斜め延伸フィルムにおける耐久試験後の面内リタデーションRoの低下を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の実施の形態に係るフィルム基材の製造装置の概略の構成を示す説明図である。
【
図2】上記フィルム基材の製造工程の流れを示すフローチャートである。
【
図3】斜め延伸フィルムの製造装置の概略の構成を模式的に示す平面図である。
【
図4】上記斜め延伸フィルムの製造装置の延伸部のレールパターンの一例を模式的に示す平面図である。
【
図5】フィルムロールから所定の大きさのフィルム片の切り出し方を説明するための説明図である。
【
図6A】幅手方向の端部をクリップで把持して斜め延伸フィルムを搬送する様子を模式的に示す斜視図である。
【
図7】斜め延伸時に、フィルム基材が搬送途中で屈曲させられることで一方向に機械的に収縮する様子を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施の一形態について、図面に基づいて説明すれば以下の通りである。なお、本明細書において、数値範囲をA~Bと表記した場合、その数値範囲に下限Aおよび上限Bの値は含まれるものとする。
【0020】
〔斜め延伸フィルムの製造方法の概要〕
本実施形態に係る斜め延伸フィルムの製造方法は、長尺状のフィルム基材を一方向に搬送しながら、搬送方向を途中で屈曲させることにより、前記一方向とフィルム面内で交差する斜め方向に前記フィルム基材を延伸して斜め延伸フィルムを作製する斜め延伸工程を有する。
【0021】
斜め延伸フィルムにおける分子の配向方向、すなわち、遅相軸の方向は、フィルム面内(厚さ方向に垂直な面内)において、フィルムの幅手方向に対して0°を超え90°未満の角度をなす方向である(自動的にフィルムの長手方向に対しても0°を超え90°未満の角度をなす方向となる)。遅相軸は、通常延伸方向または延伸方向に直角な方向に発現するため、フィルムの幅手方向に対して0°を超え90°未満の角度で延伸を行うことにより、かかる遅相軸を有する長尺状の斜め延伸フィルムを製造しうる。斜め延伸フィルムの幅手方向と遅相軸とがなす角度、すなわち配向角は、0°を超え90°未満の範囲で、所望の角度に任意に設定することができる。
【0022】
本実施形態において、長尺とは、フィルムの幅に対し、少なくとも5倍程度以上の長さを有するものをいい、好ましくは10倍もしくはそれ以上の長さを有し、具体的にはロール状に巻回されて保管または運搬される程度の長さを有するもの(フィルムロール)を考えることができる。
【0023】
長尺状の斜め延伸フィルムを製造においては、長尺状のフィルム基材を製膜した後、これを一度巻芯に巻き取って巻回体(フィルムロール、フィルム原反)とし、この巻回体からフィルム基材を斜め延伸工程に供給して(繰り出して)、斜め延伸フィルムを製造してもよい。また、製膜後のフィルム基材を巻き取ることなく、製膜工程から連続して斜め延伸工程に供給して斜め延伸フィルムを製造してもよい。製膜工程と斜め延伸工程とを連続して行うことは、延伸後のフィルムの膜厚や光学値の結果をフィードバックして製膜条件を変更し、所望の長尺斜め延伸フィルムを得ることができるので好ましい。
【0024】
〔斜め延伸フィルムの製造方法のポイント〕
本実施形態では、斜め延伸前のフィルム基材および斜め延伸後のフィルム(斜め延伸フィルム)のそれぞれに対して熱処理を行ったときの、前記フィルム基材の前記一方向(搬送方向、長手方向)における寸法変化率をT1(%)とし、前記斜め延伸フィルムの前記一方向(斜め延伸前(屈曲前)のフィルム基材の搬送方向と同じ方向)における寸法変化率をT2(%)とし、前記熱処理を、前記フィルム基材を構成する樹脂のガラス転移温度Tg+5℃で90秒間加熱する処理としたとき、以下の条件式(1)および(2)を満足する。すなわち、
T1<0%≦T2 ・・・(1)
-7.0%<T1≦-0.5% ・・・(2)
ただし、
T1={(A2-A1)/A1}×100
T2={(B2-B1)/B1}×100
A1:前記フィルム基材の前記熱処理前における前記一方向の寸法(mm)
A2:前記フィルム基材の前記熱処理後における前記一方向の寸法(mm)
B1:前記斜め延伸フィルムの前記熱処理前における前記一方向の寸法(mm)
B2:前記斜め延伸フィルムの前記熱処理後における前記一方向の寸法(mm)
である。
【0025】
条件式(1)を満足する場合、フィルム基材の熱処理前後での寸法変化率T1が負の値であるため、フィルム基材は熱処理後に一方向(搬送方向)に収縮する特性となり、その収縮度合いは、条件式(2)で規定される通りである。この場合、熱収縮性の低い樹脂を用いて斜め延伸フィルムを作製する場合でも、斜め延伸時の高温(延伸温度)において、斜め延伸特有の上記一方向の機械的な収縮に、フィルム基材の熱による上記一方向の収縮(熱収縮)が追い付くようになる。これにより、フィルム端部に「余り」が生じるのを低減することができ、フィルム端部に波状変形が発生するのを抑えることができる。したがって、その後のフィルム搬送の際に、斜め延伸フィルムが搬送ロールに抱かれることによる割れを低減することができる。また、フィルム端部の波状変形を抑えることにより、波状変形が元々生じていないフィルム幅手中央部と、フィルム端部との間で配向角にバラツキが生じるのを低減することも可能となる。
【0026】
また、斜め延伸前のフィルム基材の熱処理前後での寸法変化率T1が、条件式(2)で規定した適切な範囲に収まっているため、フィルム基材の熱処理後の上記一方向の収縮が適度に抑えられる。これにより、フィルム基材を用いて斜め延伸を行う場合でも、斜め延伸時の高温(延伸温度)でフィルム基材が上記一方向に過剰に熱収縮することがなくなる。その結果、作製された斜め延伸フィルムを加熱して耐久試験を行った場合でも、面内方向のリタデーションRoが耐久試験前よりも低下するのを抑えることができる。
【0027】
また、例えば、フィルム基材が、フィルム面内で上記一方向(搬送方向)と垂直な方向(幅手方向)に延伸(横延伸)されているとすると、このフィルム基材を熱処理した後は、フィルム基材は延伸方向(幅手方向)の残留応力の緩和により、上記一方向に延びようとする(T1>0となる)。したがって、このようなフィルム基材を高温下で斜め延伸すると、フィルム基材が上記一方向に熱収縮しないため、上記した波状変形が現れるとともに、幅手方向において配向角のバラツキが生じる。したがって、条件式(1)で示したように、T1<0を規定することにより、上記の波状変形および幅手方向における配向角のバラツキを低減することができる。
【0028】
なお、上述の効果を確実に得る観点では、以下の条件式(2a)を満足することが望ましく、以下の条件式(2b)を満足することがより望ましく、以下の条件式(2c)を満足することがより一層望ましい。すなわち、
-7.0%<T1≦-2.0% ・・・(2a)
-6.8%<T1≦-4.5% ・・・(2b)
-6.8%<T1≦-5.0% ・・・(2c)
である。
【0029】
本実施形態の斜め延伸フィルムの製造方法は、前記フィルム基材を前記一方向に延伸する縦延伸工程をさらに含み、前記斜め延伸工程では、前記縦延伸工程で前記一方向に延伸された前記フィルム基材を、前記斜め方向に延伸して前記斜め延伸フィルムを作製してもよい。
【0030】
フィルム基材を斜め延伸する前に上記一方向に延伸(縦延伸)することにより、熱処理後のフィルム基材に上記一方向に収縮(熱収縮)させる特性を付与することができる。これにより、斜め延伸時の高温において、上記一方向の機械的な収縮に、フィルム基材の熱による上記一方向の収縮を追い付かせて、上記したフィルム端部での波状変形の発生を抑えることが確実に可能となる。
【0031】
なお、本実施形態の斜め延伸フィルムの製造方法は、前記フィルム基材に溶媒を含ませて前記一方向に搬送する搬送工程をさらに含み、前記斜め延伸工程では、前記一方向に搬送された前記フィルム基材を、前記斜め方向に延伸して前記斜め延伸フィルムを作製してもよい。フィルム基材に溶媒を含ませることより、上記一方向にフィルム基材を搬送したときに、フィルム基材が上記一方向に延伸されやすくなる。したがって、このような手法によっても、熱処理後に上記一方向に収縮するような特性をフィルム基材に付与することができるため、上記と同様に、斜め延伸時の高温において、上記一方向の機械的な収縮に、フィルム基材の熱による上記一方向の収縮を追い付かせて、上記したフィルム端部での波状変形の発生を抑えることが確実に可能となる。
【0032】
前記斜め延伸工程では、斜め延伸前に前記フィルム基材を予熱温度まで加熱し、前記予熱温度は、斜め延伸時の延伸温度以上であることが望ましい。斜め延伸時の延伸温度よりも高い予熱温度を斜め延伸前に与えることにより、斜め延伸時に、所定の延伸温度でフィルム基材を効率よく熱収縮させることができる。したがって、この手法は、特に、熱収縮性が低く、熱による寸法変化の小さい樹脂を用いてフィルム基材を構成し、このフィルム基材を斜め延伸する場合に非常に有効となる。
【0033】
前記フィルム基材を構成する前記樹脂は、ポリカーボネート系樹脂、シクロオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂のいずれかを含んでいてもよい。上記いずれの樹脂も、熱収縮性が低く、熱による寸法変化の小さい樹脂であるため、このような樹脂を用いてフィルム基材を構成した場合において、上述した本実施形態の製造方法が非常に有効となる。
【0034】
〔フィルム基材の製造について〕
本実施形態のフィルム基材は、例えば溶液流延製膜法によって製造することができる。以下、溶液流涎製膜法によるフィルム基材の製造方法について説明する。
【0035】
<溶液流延製膜法>
図1は、本実施形態のフィルム基材の製造装置1の概略の構成を示す説明図である。また、
図2は、フィルム基材の製造工程の流れを示すフローチャートである。本実施形態のフィルム基材の製造方法は、
図2に示すように、攪拌調製工程(S1)、流延工程(S2)、剥離工程(S3)、延伸工程(S4)、乾燥工程(S5)、切断工程(S6)、エンボス加工工程(S7)、巻取工程(S8)を含む。以下、
図1および
図2を参照しながら、各工程について説明する。
【0036】
(S1;攪拌調製工程)
攪拌調製工程では、攪拌装置100の攪拌槽101にて、少なくとも樹脂および溶媒を攪拌し、支持体3(エンドレスベルト)上に流延するドープを調製する。
【0037】
(S2;流延工程)
流延工程では、攪拌調製工程で調製されたドープを、加圧型定量ギヤポンプ等を通して、導管によって流延ダイ2に送液し、無限に移送する回転駆動ステンレス鋼製エンドレスベルトよりなる支持体3上の流延位置に、流延ダイ2からドープを流延する。そして、支持体3は、流延されたドープ(流延ドープ)を支持しながら搬送する。これにより、支持体3上に流延膜としてのウェブ5が形成される。
【0038】
支持体3は、一対のロール3a・3bおよびこれらの間に位置する複数のロール(不図示)によって保持されている。ロール3a・3bの一方または両方には、支持体3に張力を付与する駆動装置(不図示)が設けられており、これによって支持体3は張力が掛けられて張った状態で使用される。
【0039】
流延工程では、ウェブ5を支持体3上で加熱し、支持体3から剥離ロール4によってウェブ5が剥離可能になるまで溶媒を蒸発させる。溶媒を蒸発させるには、ウェブ側から風を吹かせる方法や、支持体3の裏面から液体により伝熱させる方法、輻射熱により表裏から伝熱する方法等があり、適宜、単独であるいは組み合わせて用いればよい。
【0040】
(S3;剥離工程)
上記の流延工程にて、支持体3上でウェブ5が剥離可能な膜強度となるまで乾燥固化あるいは冷却凝固させた後、剥離工程では、ウェブ5を、自己支持性を持たせたまま剥離ロール4によって剥離する。剥離されたウェブ5は、フィルム基材を構成する。
【0041】
なお、剥離時点での支持体3上でのウェブ5の残留溶媒量は、乾燥の条件の強弱、支持体3の長さ等により、50~120質量%の範囲であることが望ましい。残留溶媒量がより多い時点で剥離する場合、ウェブ5が柔らか過ぎると剥離時平面性を損ね、剥離張力によるシワや縦スジが発生しやすいため、経済速度と品質との兼ね合いで剥離時の残留溶媒量が決められる。なお、残留溶媒量は、下記式で定義される。
【0042】
残留溶媒量(質量%)=(ウェブの加熱処理前質量-ウェブの加熱処理後質量)/
(ウェブの加熱処理後質量)×100
ここで、残留溶媒量を測定する際の加熱処理とは、115℃で1時間の加熱処理を行うことを表す。
【0043】
(S4;延伸工程)
延伸工程では、支持体3から剥離されたウェブ5(フィルム基材)を、テンター6によって、搬送方向と同じ方向に延伸する。したがって、S4の流延工程は、フィルム基材を搬送方向と同じ一方向に延伸する縦延伸工程を構成する。延伸工程では、ウェブ5の両側縁部をクリップ等で固定して延伸するテンター方式が、フィルムの平面性や寸法安定性を向上させるために好ましい。なお、テンター6内では、延伸に加えて乾燥を行ってもよい。
【0044】
(S5;乾燥工程)
テンター6にて延伸されたウェブ5は、乾燥装置7にて乾燥される。乾燥装置7内では、側面から見て千鳥状に配置された複数の搬送ロールによってウェブ5が搬送され、その間にウェブ5が乾燥される。乾燥装置7での乾燥方法は、特に制限はなく、一般的に熱風、赤外線、加熱ロール、マイクロ波等を用いてウェブ5を乾燥させる。簡便さの点から、熱風でウェブ5を乾燥させる方法が好ましい。
【0045】
ウェブ5は、乾燥装置7にて乾燥後、光学フィルムとして巻取装置10に向かって搬送される。
【0046】
(S6;切断工程、S7;エンボス加工工程)
乾燥装置7と巻取装置10との間には、切断部8およびエンボス加工部9がこの順で配置されている。切断部8では、製膜された光学フィルムを搬送しながら、その幅手方向の両端部を、スリッターによって切断する切断工程が行われる。光学フィルムにおいて、両端部の切断後に残った部分は、フィルム製品となる製品部を構成する。一方、光学フィルムから切断された部分は、シュータにて回収され、再び原材料の一部としてフィルムの製膜に再利用される。
【0047】
切断工程の後、光学フィルムの幅手方向の両端部には、エンボス加工部9により、エンボス加工(ナーリング加工)が施される。エンボス加工は、加熱されたエンボスローラーを光学フィルムの両端部に押し当てることにより行われる。エンボスローラーの表面には細かな凹凸が形成されており、エンボスローラーを光学フィルムの両端部に押し当てることで、上記両端部に凹凸が形成される。このようなエンボス加工により、次の巻取工程での巻きズレやブロッキング(フィルム同士の貼り付き)を極力抑えることができる。
【0048】
(S8;巻取工程)
最後に、エンボス加工が終了した光学フィルムを、巻取装置10によって巻き取り、光学フィルムの元巻(フィルムロール)を得る。すなわち、巻取工程では、光学フィルムを搬送しながら巻芯に巻き取ることにより、フィルムロールが製造される。光学フィルムの巻き取り方法は、一般に使用されているワインダーを用いればよく、定トルク法、定テンション法、テーパーテンション法、内部応力一定のプログラムテンションコントロール法等の張力をコントロールする方法があり、それらを使い分ければよい。光学フィルムの巻長は、1000~7200mであることが好ましい。また、その際の幅は500~3200mm幅であることが望ましく、膜厚は30~150μmであることが望ましい。
【0049】
なお、以上では、フィルム基材の製膜途中で縦延伸を行うことにより、一方向に延伸されたフィルム基材を得るようにしているが、製膜途中で縦延伸を行わず、製膜されたフィルム基材を図示しない縦延伸装置に供給して縦延伸を行うことにより、一方向に延伸されたフィルム基材を得るようにしてもよい。
【0050】
(望ましい縦延伸について)
上述したS4の延伸工程では、テンター6にて、フィルム基材の両端を把持部材でそれぞれ把持し、搬送方向に引っ張ることにより、フィルム基材に搬送方向の張力を付与して縦延伸を行っている。上記延伸工程では、未延伸フィルム基材に搬送方向の張力を付与することができる手段であれば、特に制限なく使用することができ、また、目的に応じて適宜選択することができる。例えば低速ロールと高速ロールとを有する張力付与手段を用いて縦延伸を行ってもよい。フィルムに対して連続的に搬送方向に張力を付与できる点では、低速ロールと高速ロールとを有する張力付与手段を用いることが好ましい。
【0051】
低速ロールと高速ロールとを有する張力付与手段を用いる場合、フィルム基材の搬送方向の上流側に低速ロールを配置し、下流側に高速ロールを配置し、これらロールに接触するようにフィルム基材を搬送させ、これらロールに周速差を設けることにより、フィルム基材に搬送方向の張力を付与することができる。フィルム基材の搬送速度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0052】
フィルム基材を縦延伸するとき、フィルム基材を構成する樹脂のガラス転移温度Tgよりも5℃以上高い温度で縦延伸を行い、延伸終了以降は、Tgよりも10℃以上低い温度ゾーンにフィルムを搬送し、急冷することが望ましい。この場合、縦延伸後、フィルム物性がより不均一なフィルム基材を得ることができる。
【0053】
なお、前述した特許文献2では、フィルムの物性変化を抑えることができるような条件で縦延伸を行い、その後、斜め延伸を行っている。本実施形態では、敢えてフィルムの物性に不均一性を与えるようにフィルム基材を縦延伸しており、この点で、本実施形態の製造方法は従来の製造方法とは異なる。
【0054】
<その他の製膜法>
本実施形態のフィルム基材は、溶融流延製膜法によって製造することもできる。溶融流延製膜法は、樹脂および可塑剤などの添加剤を含む組成物を、流動性を示す温度まで加熱溶融し、その後、流動性の溶融物を流延してフィルムを製膜する方法をいう。溶融流延によって形成される方法は、溶融押出(成形)法、プレス成形法、インフレーション法、射出成形法、ブロー成形法、延伸成形法などに分類できる。これらの中で、機械的強度および表面精度などに優れるフィルムが得られる溶融押出法が好ましい。また、溶融押出法で用いる複数の原材料は、通常、予め混錬してペレット化しておくことが好ましい。
【0055】
溶融流延製膜法でフィルム基材を製膜した後、図示しない縦延伸装置にて、フィルム基材を一方向に搬送しながら上記一方向に延伸することにより、縦延伸されたフィルム基材を得ることができる。
【0056】
〔フィルム基材〕
本実施形態では、上記フィルム基材を構成する樹脂として、未延伸状態で加熱による寸法変動が生じにくい樹脂(例えば加熱による寸法変化率が0.01%以下である樹脂)を用いることが有効である。なお、加熱による寸法変化率とは、{(加熱後寸法-加熱前寸法)/(加熱前寸法)}×100を指す。加熱による寸法変動が生じにくい樹脂としては、ポリカーボネート系樹脂、シクロオレフィン系樹脂(脂環式オレフィンポリマー)、ポリエステル系樹脂、ポリエーテルスルフォン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂、ポリメチルメタクリレート系樹脂、ポリスルフォン系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、アクリル樹脂などが挙げられる。
【0057】
ポリカーボネート系樹脂としては、特に限定なく種々のものを使用でき、化学的性質及び物性の点から、芳香族ポリカーボネート樹脂が好ましく、特に、フルオレン骨格を有するポリカーボネートや、ビスフェノールA系ポリカーボネート樹脂が好ましい。その中でも、ビスフェノールAにベンゼン環、シクロヘキサン環、および脂肪族炭化水素基等を導入したビスフェノールA誘導体を用いたものがより好ましい。さらに、ビスフェノールAの中央の炭素に対して、非対称に上記官能基が導入された誘導体を用いて得られた、単位分子内の異方性を減少させた構造のポリカーボネート樹脂が特に好ましい。
【0058】
このようなポリカーボネート樹脂としては、例えば、ビスフェノールAの中央の炭素の2個のメチル基をベンゼン環に置き換えたもの、ビスフェノールAのそれぞれのベンゼン環の一の水素をメチル基やフェニル基などで中央炭素に対し非対称に置換したものを用いて得られるポリカーボネート樹脂が特に好ましい。具体的には、4,4′-ジヒドロキシジフェニルアルカンまたはこれらのハロゲン置換体からホスゲン法またはエステル交換法によって得られるものであり、例えば、4,4′-ジヒドロキシジフェニルメタン、4,4′-ジヒドロキシジフェニルエタン、4,4′-ジヒドロキシジフェニルブタン等が挙げられる。また、この他にも、具体的なポリカーボネート系樹脂をあえて例示すれば、例えば、特開2006-215465号公報、特開2006-91836号公報、特開2005-121813号公報、特開2003-167121号公報、特開2009-126128号公報、特開2012-67300号公報、国際公開第2000/026705号等に記載されているポリカーボネート系樹脂が挙げられる。
【0059】
シクロオレフィン系樹脂としては、環状オレフィン(シクロオレフィン)からなるモノマーのユニットを有する樹脂であれば特に限定されるものではない。シクロオレフィン系樹脂は、シクロオレフィンポリマー(COP)またはシクロオレフィンコポリマー(COC)のいずれであってもよい。シクロオレフィンコポリマーとは、環状オレフィンとエチレン等のオレフィンとの共重合体である非結晶性の環状オレフィン系樹脂のことをいう。
【0060】
上記環状オレフィンとしては、多環式の環状オレフィンと単環式の環状オレフィンとが存在している。かかる多環式の環状オレフィンとしては、ノルボルネン、メチルノルボルネン、ジメチルノルボルネン、エチルノルボルネン、エチリデンノルボルネン、ブチルノルボルネン、ジシクロペンタジエン、ジヒドロジシクロペンタジエン、メチルジシクロペンタジエン、ジメチルジシクロペンタジエン、テトラシクロドデセン、メチルテトラシクロドデセン、ジメチルシクロテトラドデセン、トリシクロペンタジエン、テトラシクロペンタジエンなどが挙げられる。また、単環式の環状オレフィンとしては、シクロブテン、シクロペンテン、シクロオクテン、シクロオクタジエン、シクロオクタトリエン、シクロドデカトリエンなどが挙げられる。
【0061】
ポリエステル系樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等が挙げられる。ポリエチレンナフタレート系樹脂としては、例えば、ナフタレンジカルボン酸の低級アルキルエステルとエチレングリコールとを重縮合させて製造したポリエチレンナフタレートを好適に用いることができる。
【0062】
〔添加剤〕
フィルム基材には、必要に応じて添加剤を加えてもよい。添加剤としては、可塑剤、紫外線吸収剤、リタデーション調整剤、酸化防止剤、劣化防止剤、剥離助剤、界面活性剤、染料、微粒子等がある。本実施形態において、微粒子以外の添加剤についてはドープの調製の際に添加してもよいし、微粒子分散液の調製の際に添加してもよい。
【0063】
〔斜め延伸フィルムの製造方法および製造装置〕
次に、上述したフィルム基材を用いて長尺状の斜め延伸フィルムを製造する方法および装置について説明する。
【0064】
(装置の概要)
図3は、斜め延伸フィルムの製造装置11の概略の構成を模式的に示す平面図である。製造装置11は、フィルム基材の搬送方向上流側から順に、フィルム繰り出し部12と、搬送方向変更部13と、ガイドロール14と、延伸部15と、ガイドロール16と、搬送方向変更部17と、フィルム巻き取り部18とを備えている。なお、延伸部15の詳細については後述する。
【0065】
フィルム繰り出し部12は、上述のようにして作製したフィルム基材を繰り出して延伸部15に供給するものである。このフィルム繰り出し部12は、
図1で示したフィルム基材の製造装置1と別体で構成されていてもよいし、一体的に構成されてもよい。前者の場合、フィルム基材を製膜後に一度巻芯に巻き取って巻回体(フィルムロール)となったものをフィルム繰り出し部12に装填することで、フィルム繰り出し部12からフィルム基材が繰り出される。一方、後者の場合、フィルム繰り出し部12は、フィルム基材の製膜後、そのフィルム基材を巻き取ることなく、延伸部15に対して繰り出すことになる。
【0066】
搬送方向変更部13は、フィルム繰り出し部12から繰り出されるフィルム基材の搬送方向を、斜め延伸テンターとしての延伸部15の入口に向かう方向に変更するものである。このような搬送方向変更部13は、例えばフィルムを搬送しながら折り返すことによって搬送方向を変更するターンバーや、そのターンバーをフィルムに平行な面内で回転させる回転テーブルを含んで構成されている。
【0067】
搬送方向変更部13にてフィルム基材の搬送方向を上記のように変更することにより、製造装置11全体の幅をより狭くすることが可能となるほか、フィルムの送り出し位置および角度を細かく制御することが可能となり、膜厚、光学値のバラツキが小さい長尺斜め延伸フィルムを得ることが可能となる。また、フィルム繰り出し部12および搬送方向変更部13を移動可能(スライド可能、旋回可能)とすれば、延伸部15においてフィルム基材の幅手方向の両端部を挟む左右のクリップ(把持具)のフィルムへの噛込み不良を有効に防止することができる。
【0068】
なお、上記したフィルム繰り出し部12は、延伸部15の入口に対して所定角度でフィルム基材を送り出せるように、スライドおよび旋回可能となっていてもよい。この場合は、搬送方向変更部13の設置を省略した構成とすることもできる。
【0069】
ガイドロール14は、フィルム基材の走行時の軌道を安定させるために、延伸部15の上流側に少なくとも1本設けられている。なお、ガイドロール14は、フィルムを挟む上下一対のロール対で構成されてもよいし、複数のロール対で構成されてもよい。延伸部15の入口に最も近いガイドロール14は、フィルムの走行を案内する従動ロールであり、不図示の軸受部を介してそれぞれ回転自在に軸支される。ガイドロール14の材質としては、公知のものを用いることが可能である。なお、フィルムの傷つきを防止するために、ガイドロール14の表面にセラミックコートを施したり、アルミニウム等の軽金属にクロームメッキを施す等によってガイドロール14を軽量化することが好ましい。
【0070】
また、延伸部15の入口に最も近いガイドロール14よりも上流側のロールのうちの1本は、ゴムロールを圧接させてニップすることが好ましい。このようなニップロールにすることで、フィルムの流れ方向における繰出張力の変動を抑えることが可能となる。
【0071】
延伸部15の入口に最も近いガイドロール14の両端(左右)の一対の軸受部には、当該ロールにおいてフィルムに生じている張力を検出するためのフィルム張力検出装置として、第1張力検出装置、第2張力検出装置がそれぞれ設けられている。フィルム張力検出装置としては、例えばロードセルを用いることができる。ロードセルとしては、引張または圧縮型の公知のものを用いることができる。ロードセルは、着力点に作用する荷重を起歪体に取り付けられた歪ゲージにより電気信号に変換して検出する装置である。
【0072】
ロードセルは、延伸部15の入口に最も近いガイドロール14の左右の軸受部に設置されることにより、走行中のフィルムがロールに及ぼす力、即ちフィルムの両側縁近傍に生じているフィルム進行方向における張力を左右独立に検出する。なお、ロールの軸受部を構成する支持体に歪ゲージを直接取り付けて、該支持体に生じる歪に基づいて荷重、即ちフィルム張力を検出するようにしてもよい。発生する歪とフィルム張力との関係は、予め計測され、既知であるものとする。
【0073】
フィルム繰り出し部12または搬送方向変更部13から延伸部15に供給されるフィルムの位置および搬送方向が、延伸部15の入口に向かう位置および搬送方向からズレている場合、このズレ量に応じて、延伸部15の入口に最も近いガイドロール14におけるフィルムの両側縁近傍の張力に差が生じることになる。したがって、上述したようなフィルム張力検出装置を設けて上記の張力差を検出することにより、当該ズレの程度を判別することができる。つまり、フィルムの搬送位置および搬送方向が適正であれば(延伸部15の入口に向かう位置および方向であれば)、上記ガイドロール14に作用する荷重は軸方向の両端で粗均等になるが、適正でなければ、左右でフィルム張力に差が生じる。
【0074】
したがって、延伸部15の入口に最も近いガイドロール14の左右のフィルム張力差が等しくなるように、例えば上記した搬送方向変更部13によってフィルムの位置および搬送方向(延伸部15の入口に対する角度)を適切に調整すれば、延伸部15の入口部の把持具によるフィルムの把持が安定し、把持具外れ等の障害の発生を少なくできる。更に、延伸部15による斜め延伸後のフィルムの幅方向における物性を安定させることができる。
【0075】
ガイドロール16は、延伸部15にて斜め延伸されたフィルムの走行時の軌道を安定させるために、延伸部15の下流側に少なくとも1本設けられている。
【0076】
搬送方向変更部17は、延伸部15から搬送される延伸後のフィルムの搬送方向を、フィルム巻き取り部18に向かう方向に変更するものである。
【0077】
ここで、配向角(フィルムの面内遅相軸の方向)の微調整や製品バリエーションに対応するために、延伸部15の入口でのフィルム進行方向と延伸部15の出口でのフィルム進行方向とがなす角度の調整が必要となる。この角度調整のためには、製膜したフィルムの進行方向を搬送方向変更部13によって変更してフィルムを延伸部15の入口に導く、および/または延伸部15の出口から出たフィルムの進行方向を搬送方向変更部17によって変更してフィルムをフィルム巻き取り部18の方向に戻すことが必要となる。
【0078】
また、製膜および斜め延伸を連続して行うことが、生産性や収率の点で好ましい。製膜工程、斜め延伸工程、巻取工程を連続して行う場合、搬送方向変更部13および/または搬送方向変更部17によってフィルムの進行方向を変更し、製膜工程と巻取工程とでフィルムの進行方向を一致させる、つまり、
図3に示すように、フィルム繰り出し部12から繰り出されるフィルムの進行方向(繰り出し方向)と、フィルム巻き取り部18にて巻き取られる直前のフィルムの進行方向(巻き取り方向)とを一致させることにより、フィルム進行方向に対する装置全体の幅を小さくすることができる。
【0079】
なお、製膜工程と巻取工程とでフィルムの進行方向は必ずしも一致させる必要はないが、フィルム繰り出し部12とフィルム巻き取り部18とが干渉しないレイアウトとなるように、搬送方向変更部13および/または搬送方向変更部17によってフィルムの進行方向を変更することが好ましい。
【0080】
上記のような搬送方向変更部13・7としては、エアーフローロールもしくはエアーターンバーを用いるなど、公知の手法で実現することができる。
【0081】
フィルム巻き取り部18は、延伸部15から搬送方向変更部17を介して搬送されるフィルムを巻き取るものであり、例えばワインダー装置、アキューム装置、ドライブ装置などで構成される。フィルム巻き取り部18は、フィルムの巻き取り位置を調整すべく、横方向にスライドできる構造であることが好ましい。
【0082】
フィルム巻き取り部18は、延伸部15の出口に対して所定角度でフィルムを引き取れるように、フィルムの引き取り位置および角度を細かく制御できるようになっている。これにより、膜厚、光学値のバラツキが小さい長尺斜め延伸フィルムを得ることが可能となる。また、フィルムのシワの発生を有効に防止することができるとともに、フィルムの巻き取り性が向上するため、フィルムを長尺で巻き取ることが可能となる。
【0083】
このフィルム巻き取り部18は、延伸部15にて延伸されて搬送されるフィルムを一定の張力で引き取る引取部を構成している。なお、延伸部15とフィルム巻き取り部18との間に、フィルムを一定の張力で引き取るための引取ロールを設けたり、フィルムを所定の長さのところで切断する切断装置を設けるようにしてもよい。また、上述したガイドロール16に上記引取ロールとしての機能を持たせてもよい。
【0084】
本実施形態において、延伸後のフィルムの引取張力T(N/m)は、50N/m<T<300N/m、好ましくは150N/m<T<250N/mの間で調整することが好ましい。上記の引取張力が50N/m以下では、フィルムのたるみや皺が発生しやすく、リタデーション、配向角のフィルム幅方向のプロファイルも悪化する。逆に、引取張力が300N/m以上となると、配向角のフィルム幅方向のバラツキが悪化し、幅収率(幅方向の取り効率)を悪化させてしまう。なお、本実施形態では、前述した条件式を満足することで、斜め延伸後のフィルム端部の波状変形を抑えることができるため、50~100N/mの低張力でも、シワを生じさせることなく巻き取ることができる。
【0085】
また、本実施形態においては、上記引取張力Tの変動を±5%未満、好ましくは±3%未満の精度で制御することが好ましい。上記引取張力Tの変動が±5%以上であると、幅方向および流れ方向(搬送方向)の光学特性のバラツキが大きくなる。上記引取張力Tの変動を上記範囲内に制御する方法としては、延伸部15の出口側の最初のロール(ガイドロール16)にかかる荷重、すなわちフィルムの張力を測定し、その値が一定となるように、一般的なPID制御方式により引取ロールまたはフィルム巻き取り部18の巻取ロールの回転速度を制御する方法が挙げられる。上記荷重を測定する方法としては、ガイドロール16の軸受部にロードセルを取り付け、ガイドロール16に加わる荷重、すなわちフィルムの張力を測定する方法が挙げられる。ロードセルとしては、引張型や圧縮型の公知のものを用いることができる。
【0086】
延伸後のフィルムは、延伸部15の把持具による把持が開放されて、延伸部15の出口から排出され、把持具で把持されていたフィルムの両端(両側)がトリミングされた後に、順次巻芯(巻取ロール)に巻き取られて、長尺斜め延伸フィルムの巻回体となる。なお、上記のトリミングは、必要に応じて行われればよい。
【0087】
また、長尺斜め延伸フィルムを巻き取る前に、フィルム同士のブロッキングを防止する目的で、マスキングフィルムを長尺斜め延伸フィルムに重ねて同時に巻き取ってもよいし、巻き取りによって重なる長尺斜め延伸フィルムの少なくとも一方(好ましくは両方)の端にテープ等を貼り合わせながら巻き取ってもよい。マスキングフィルムとしては、長尺斜め延伸フィルムを保護することができるものであれば特に制限されず、例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルムなどが挙げられる。
【0088】
(延伸部の詳細)
次に、上述した延伸部15の詳細について説明する。
図4は、延伸部15のレールパターンの一例を模式的に示す平面図である。但し、これは一例であって、延伸部15の構成はこれに限定されるものではない。
【0089】
本実施形態における斜め延伸フィルムの製造は、延伸部15として、斜め延伸可能なテンター(斜め延伸機)を用いて行われる。このテンターは、フィルム基材を、延伸可能な任意の温度に加熱し、斜め延伸する装置である。このテンターは、加熱ゾーンZと、左右で一対のレールRi・Roと、レールRi・Roに沿って走行してフィルムを搬送する多数の把持具Ci・Co(
図4では、1組の把持具のみを図示)とを備えている。なお、加熱ゾーンZの詳細については後述する。レールRi・Roは、それぞれ、複数のレール部を連結部で連結して構成されている(
図4中の白丸は連結部の一例である)。把持具Ci・Coは、フィルムの幅手方向の両端を把持するクリップで構成されている。
【0090】
図4において、フィルム基材の繰出方向D1(
図7のE1方向に対応)は、延伸後の長尺斜め延伸フィルムの巻取方向D2(
図7のE2方向に対応)と異なっており、巻取方向D2との間で繰出角度θiを成している。繰出角度θiは0°を超え90°未満の範囲で、所望の角度に任意に設定することができる。
【0091】
このように、繰出方向D1と巻取方向D2とが異なっているため、テンターのレールパターンは左右で非対称な形状となっている。そして、製造すべき長尺斜め延伸フィルムに与える配向角θ、延伸倍率等に応じて、レールパターンを手動または自動で調整できるようになっている。本実施形態の製造方法で用いられる斜め延伸機では、レールRi・Roを構成する各レール部およびレール連結部の位置を自由に設定し、レールパターンを任意に変更できることが好ましい。
【0092】
本実施形態において、テンターの把持具Ci・Coは、前後の把持具Ci・Coと一定間隔を保って、一定速度で走行するようになっている。把持具Ci・Coの走行速度は適宜選択できるが、通常、1~150m/minである。左右一対の把持具Ci・Coの走行速度の差は、走行速度の通常1%以下、好ましくは0.5%以下、より好ましくは0.1%以下である。これは、延伸工程出口でフィルムの左右に進行速度差があると、延伸工程出口におけるシワ、寄りが発生するため、左右の把持具Ci・Coの速度差は、実質的に同速度であることが求められるためである。一般的なテンター装置等では、チェーンを駆動するスプロケットの歯の周期、駆動モータの周波数等に応じ、秒以下のオーダーで発生する速度ムラがあり、しばしば数%のムラを生ずるが、これらは本発明の実施形態で述べる速度差には該当しない。
【0093】
本実施形態の製造方法で用いられる斜め延伸機において、特にフィルムの搬送が斜めになる箇所において、把持具の軌跡を規制するレールには、しばしば大きい屈曲率が求められる。急激な屈曲による把持具同士の干渉、あるいは局所的な応力集中を避ける目的から、屈曲部では把持具の軌跡が曲線を描くようにすることが望ましい。
【0094】
このように、フィルム基材に斜め方向の配向を付与するために用いられる斜め延伸テンターは、レールパターンを多様に変化させることにより、フィルムの配向角を自在に設定でき、さらに、フィルムの配向軸(遅相軸)をフィルム幅方向に渡って左右均等に高精度に配向させることができ、かつ、高精度でフィルム厚みやリタデーションを制御できるテンターであることが好ましい。
【0095】
次に、延伸部15での延伸動作について説明する。フィルム基材は、その両端を左右の把持具Ci・Coによって把持され、加熱ゾーンZ内を把持具Ci・Coの走行に伴って搬送される。左右の把持具Ci・Coは、延伸部15の入口部(図中Aの位置)において、フィルムの進行方向(繰出方向D1)に対して略垂直な方向に相対しており、左右非対称なレールRi・Ro上をそれぞれ走行し、延伸終了時の出口部(図中Bの位置)で把持したフィルムを開放する。把持具Ci・Coから開放されたフィルムは、前述したフィルム巻き取り部18にて巻芯に巻き取られる。一対のレールRi・Roは、それぞれ無端状の連続軌道を有しており、テンターの出口部でフィルムの把持を開放した把持具Ci・Coは、外側のレールを走行して順次入口部に戻されるようになっている。
【0096】
このとき、レールRi・Roは左右非対称であるため、
図4の例では、図中Aの位置で相対していた左右の把持具Ci・Coは、レールRi・Ro上を走行するにつれて、レールRi側(インコース側)を走行する把持具CiがレールRo側(アウトコース側)を走行する把持具Coに対して先行する位置関係となる。
【0097】
すなわち、図中Aの位置でフィルムの繰出方向D1に対して略垂直な方向に相対していた把持具Ci・Coのうち、一方の把持具Ciがフィルムの延伸終了時の位置Bに先に到達したときには、把持具Ci・Coを結んだ直線がフィルムの巻取方向D2に略垂直な方向に対して、角度θLだけ傾斜している。以上の所作をもって、フィルム基材が幅手方向に対してθLの角度で斜め延伸されることとなる。ここで、略垂直とは、90±1°の範囲にあることを示す。
【0098】
次に、上記した加熱ゾーンZの詳細について説明する。延伸部15の加熱ゾーンZは、予熱ゾーンZ1、延伸ゾーンZ2および熱固定ゾーンZ3で構成されている。延伸部15では、把持具Ci・Coによって把持されたフィルムは、予熱ゾーンZ1、延伸ゾーンZ2、熱固定ゾーンZ3を順に通過する。本実施形態では、予熱ゾーンZ1と延伸ゾーンZ2とは隔壁で区切られており、延伸ゾーンZ2と熱固定ゾーンZ3とは隔壁で区切られている。
【0099】
予熱ゾーンZ1とは、加熱ゾーンZの入口部において、フィルムの両端を把持した把持具Ci・Coが、左右で(フィルム幅方向に)一定の間隔を保ったまま走行する区間を指す。
【0100】
延伸ゾーンZ2とは、フィルムの両端を把持した把持具Ci・Coの間隔が開き出し、所定の間隔になるまでの区間を指す。このとき、上述のような斜め延伸が行われるが、必要に応じて斜め延伸前後において縦方向あるいは横方向に延伸してもよい。
【0101】
熱固定ゾーンZ3とは、延伸ゾーンZ2より後の、把持具Ci・Coの間隔が再び一定となる区間であって、両端の把持具Ci・Coが互いに平行を保ったまま走行する区間を指す。
【0102】
なお、延伸後のフィルムは、熱固定ゾーンZ3を通過した後に、ゾーン内の温度がフィルムを構成する熱可塑性樹脂のガラス転移温度Tg(℃)以下に設定される区間(冷却ゾーン)を通過してもよい。このとき、冷却によるフィルムの縮みを考慮して、予め対向する把持具Ci・Coの間隔を狭めるようなレールパターンとしてもよい。
【0103】
熱可塑性樹脂のガラス転移温度Tgに対し、予熱ゾーンZ1の温度はTg~Tg+30℃、延伸ゾーンZ2の温度はTg~Tg+30℃、熱固定ゾーンZ3及び冷却ゾーンの温度はTg-30~Tg+20℃に設定することが好ましい。
【0104】
なお、予熱ゾーンZ1、延伸ゾーンZ2および熱固定ゾーンZ3の長さは適宜選択でき、延伸ゾーンZ2の長さに対して、予熱ゾーンZ1の長さは通常100~150%、熱固定ゾーンZ3の長さは通常50~100%である。
【0105】
また、延伸前のフィルムの幅をWo(mm)とし、延伸後のフィルムの幅をW(mm)とすると、延伸工程における延伸倍率R(W/Wo)は、好ましくは1.3~3.0、より好ましくは1.5~2.8である。延伸倍率がこの範囲にあると、フィルムの幅方向の厚みムラが小さくなるので好ましい。斜め延伸テンターの延伸ゾーンZ2において、幅方向で延伸温度に差を付けると、幅方向厚みムラをさらに良好なレベルにすることが可能になる。なお、上記の延伸倍率Rは、テンター入口部で把持したクリップ両端の間隔W1がテンター出口部において間隔W2となったときの倍率(W2/W1)に等しい。
【0106】
<長尺斜め延伸フィルムの品質>
本実施形態の製造方法により得られた斜め延伸フィルムにおいては、配向角θが巻取方向に対して、例えば0°より大きく90°未満の範囲に傾斜しており、少なくとも1300mmの幅において、幅方向の、面内リタデーションRoのバラツキが3nm未満であり、配向角θのバラツキが小さいことが好ましい。また、斜め延伸フィルムの、波長550nmで測定した面内リタデーション値Ro(550)が、120nm以上160nm以下の範囲にあることが好ましく、130nm以上150nm以下の範囲であることがさらに好ましい。
【0107】
すなわち、本実施形態の製造方法により得られた斜め延伸フィルムにおいて、面内リタデーションRoのバラツキは、幅方向の少なくとも1300mmにおいて、3nm未満であり、1nm以下であることが好ましい。面内リタデーションRoのバラツキを上記範囲にすることにより、例えば斜め延伸フィルムを偏光子と貼り合せて円偏光板とし、これを有機EL画像表示装置に適用したときに、黒表示時の外光反射光の漏れによる色ムラを抑えることができる。また、斜め延伸フィルムを例えば液晶表示装置用の位相差フィルムとして用いた場合に表示品質を良好なものにすることも可能になる。
【0108】
また、本実施形態の製造方法により得られた斜め延伸フィルムにおいて、配向角θのバラツキは、幅方向の少なくとも1300mmにおいて、1.0°以下であり、0.5°以下であることが好ましく、0.1°以下が最も好ましい。配向角θのバラツキが0.5を超える斜め延伸フィルムを偏光子と貼り合せて円偏光板とし、これを有機EL表示装置などの画像表示装置に据え付けると、光漏れが生じ、明暗のコントラストを低下させることがある。
【0109】
本実施形態の製造方法により得られた斜め延伸フィルムの面内リタデーションRoは、用いられる表示装置の設計によって最適値が選択される。なお、前記Roは、面内遅相軸方向の屈折率nxと面内で前記遅相軸に直交する方向の屈折率nyとの差にフィルムの平均厚みdを乗算した値(Ro=(nx-ny)×d)である。
【0110】
本実施形態の製造方法により得られた斜め延伸フィルムの平均厚みは、機械的強度などの観点から、10~200μm、好ましくは10~80μm、さらに好ましくは15~60μmである。また、上記斜め延伸フィルムの幅方向の厚みムラは、巻き取りの可否に影響を与えるため、3μm未満であることが好ましく、2μm以下であることがより好ましい。
【0111】
〔実施例〕
以下、本実施形態における斜め延伸フィルムの具体例な実施例について、比較例も挙げながら説明する。なお、本発明は、以下の実施例には限定されない。
【0112】
<実施例1>
(斜め延伸前フィルム基材の取得)
ガラス転移温度Tg(以下、単にTgとも称する)が138℃で、膜厚100μm、幅1000mm、Tg+5℃での熱処理前後での寸法変化率が0.001%のポリカーボネート系樹脂を含むフィルム基材を用意した。そして、縦延伸装置にて、フィルム基材を、延伸温度Tg+20℃、延伸倍率1.1倍で縦延伸(搬送方向に延伸)して巻き取り、斜め延伸前のフィルム基材のロール体(フィルムロール)を得た。
【0113】
(寸法変化率T1の測定)
上記のフィルムロールから、斜め延伸前のフィルム基材のサンプルを採取し、JIS K 7133:1999(JISは日本工業規格(Japanese Industrial Standards)の略称)に準拠した以下の手法によって、斜め延伸前のフィルム基材の寸法変化率T1を測定した。
【0114】
すなわち、
図5に示すように、上記のフィルムロールから、斜め延伸前のフィルム基材を120mm×120mm角に切り出し、繰り出し方向とその垂直方向(幅手方向)に幅50mmとなる標線を引き、50mm辺の正方形を描画した後、繰り出し方向の寸法(A1に相当)を寸法読取機(キーエンス製IM-6120)で測定した。次に、オーブン(AS ONE製 DO-600FPA)を用い、フィルム基材に張力を付与しない状態で、Tg+5℃に設定して90秒間加熱する熱処理を行い、取り出したフィルム基材を平面板に張り付け(寸法を変化させないようにするため)、放置し、上記寸法読取機で繰り出し方向の寸法(寸法A2に相当)を測定した。そして、以下の式に基づいて、フィルム基材の寸法変化率T1(%)を算出した。
T1={(A2-A1)/A1}×100
A1:フィルム基材の熱処理前における一方向(繰り出し方向)の寸法(mm)
A2:フィルム基材の熱処理後における一方向(繰り出し方向)の寸法(mm)
【0115】
(斜め延伸フィルムの作製)
上記で得られたフィルムロールを斜め延伸機にセットしてフィルム基材を繰り出し、斜め延伸前に予熱ゾーンを通過させて予熱温度までフィルム基材を加熱し、その後、延伸ゾーンを通過させて延伸倍率2.5倍で斜め延伸し、膜厚50μm、幅1500mm、配向角θ(幅手方向に対する角度)=44.8°の斜め延伸フィルムを作製した。作製した斜め延伸フィルムは巻き取ってフィルムロールとした。なお、予熱ゾーンでの予熱温度は、斜め延伸時の延伸温度(Tg+10℃)以上であるTg+30℃に設定した。
【0116】
(寸法変化率T2の測定)
上記のフィルムロールから、斜め延伸フィルムのサンプルを採取し、フィルム基材の寸法変化率T1の測定方法と同様にして、斜め延伸フィルムの寸法変化率T2を測定した。
【0117】
すなわち、フィルムロールから、斜め延伸フィルムを120mm×120mm角に切り出し、繰り出し方向(斜め延伸前のフィルム基材の繰り出し方向と同じ方向)とその垂直方向に幅50mmとなる標線を引き、50mm辺の正方形を描画した後、繰り出し方向の寸法(寸法B1に相当)を寸法読取機(キーエンス製IM-6120)で測定した。次に、オーブン(AS ONE製 DO-600FPA)を用い、斜め延伸フィルムに張力を付与しない状態で、Tg+5℃に設定して90秒間加熱する熱処理を行い、取り出した斜め延伸フィルムを平面板に張り付けて放置し、上記寸法読取機で繰り出し方向の寸法(寸法B2に相当)を測定した。そして、以下の式に基づいて、斜め延伸フィルムの寸法変化率T2(%)を算出した。
T2={(B2-B1)/B1}×100
B1:斜め延伸フィルムの熱処理前における一方向(フィルム基材の繰り出し方向)の寸法(mm)
B2:斜め延伸フィルムの熱処理後における一方向(フィルム基材の繰り出し方向)の寸法(mm)
【0118】
<実施例2~7、比較例1~3>
フィルム基材を構成する樹脂、フィルム基材を縦延伸するときの延伸倍率、斜め延伸工程での予熱温度、延伸温度を表1のように変更した以外は、実施例1と同様にして斜め延伸フィルムを作製するとともに、フィルム基材の寸法変化率T1および斜め延伸フィルムの寸法変化率T2を測定した。
【0119】
<評価>
(波状変形)
作製された斜め延伸フィルムにおいてクリップで把持された部分(端部から150mmの領域)をスリットし、スリットした後のフィルムを長尺方向に1m切り出し、水平な平面上に静置して、23℃55RH%(RHは相対湿度)の環境下で、24時間以上調温調湿して安定させ、フィルムの幅手中央部を平面と密着させた。そして、フィルムの幅手両端部が平面より浮き上がる量(最大値)を金尺で長手方向に100mm間隔で測定してその平均値を算出し、以下の評価基準に基づいて波状変形を評価した。
《評価基準》
◎:浮き上がり量の平均値が、2mm以下である。
○:浮き上がり量の平均値が、2mmよりも大きく5mm以下である。
△:浮き上がり量の平均値が、5mmよりも大きく8mm以下である。
×:浮き上がり量の平均値が、8mmよりも大きい(問題がある)。
【0120】
(配向角均一性)
作製された斜め延伸フィルムにおいてクリップで把持された部分(端部から150mmの領域)をスリットし、スリットした後のフィルムを長尺方向に1m切り出し、水平な平面上に静置して、23℃55RH%の環境下で、24時間以上調温調湿して安定させた。そして、Ro測定装置(Axometrics社製のAXOSCAN)を用い、このフィルムの幅手方向の中央部および端部で配向角θを測定して、幅手方向における配向角θのバラツキ(最大値と最小値との差)を求め、以下の評価基準に基づいて、幅手方向の配向角均一性について評価した。
《評価基準》
◎:幅手方向の配向角θのバラツキが、1.0°以下である。
○:幅手方向の配向角θのバラツキが、1.0°よりも大きく1.5°以下である。
△:幅手方向の配向角θのバラツキが、1.5°よりも大きく2°以下である。
×:幅手方向の配向角θのバラツキが、2°よりも大きい(問題がある)。
【0121】
(耐久試験後の面内リタデーションRoの低下度合い)
作製された斜め延伸フィルムにおいてクリップで把持された部分(端部から150mmの領域)をスリットし、スリットした後のフィルムを長尺方向に1m切り出し、水平な平面上に静置して、23℃55RH%の環境下で、24時間以上調温調湿して安定させた。そして、Ro測定装置(Axometrics社製のAXOSCAN)を用い、このフィルムの幅手方向の複数箇所で面内リタデーションRoを測定し、面内リタデーションRoの平均値Ro1(mm)を算出した。
【0122】
その後、上記フィルムを80℃dryの環境下で500時間静置し、さらに23℃55RH%の環境に戻して24時間以上調温調湿して安定させた(耐久試験)。この耐久試験後に、上記Ro測定装置を用い、フィルムの幅手方向の複数箇所で面内リタデーションRoを測定し、面内リタデーションRoの平均値Ro2を算出し、面内リタデーションRoの平均値の差(Ro1-Ro2)を求めた。そして、耐久試験後の面内リタデーションRoの低下の度合いを、以下の評価基準に基づいて評価した。
《評価基準》
○:Ro1-Ro2が、5nm以内である。
△:Ro1-Ro2が、5nmよりも大きく7nm以下である。
×:Ro1-Ro2が、7nmよりも大きい(問題がある)。
【0123】
表1は、実施例1~7、比較例1~3における斜め延伸フィルムの製造条件、および作製された斜め延伸フィルムについての評価の結果を示している。なお、表1中、PCは、ポリカーボネート系樹脂を示し、COPは、シクロオレフィン系樹脂を示し、PEsは、ポリエステル系樹脂(ここではPET(ポリエチレンテレフタレート樹脂))を示し、Tgは樹脂のガラス転移温度を示す。また、縦延伸倍率が負の場合、横延伸(フィルム幅手方向の延伸)を行っていることを示す。
【0124】
【0125】
表1より、比較例1および3では、波状変形の評価が不良(×)となっている。比較例1では、斜め延伸前に縦延伸を行っておらず、斜め延伸前にフィルム基材に搬送方向(繰り出し方向)に収縮する特性を与えることができないことから、斜め延伸時において屈曲による上記方向の機械的な収縮にフィルム基材の熱による収縮が追い付かず、その結果、フィルム端部に波状変形が生じていると考えられる。比較例3では、斜め延伸前に横延伸を行っていることから、やはり、斜め延伸前にフィルム基材に搬送方向(繰り出し方向)に収縮する特性を与えることができず、その結果、斜め延伸後のフィルムの端部に波状変形が生じていると考えられる。特に比較例3では、横延伸によってT1が正となることで、斜め延伸後にフィルム端部に生じる波状変形が比較例1よりも大きくなり、その結果、波状変形が元々生じていないフィルム幅手中央部と、フィルム端部との間で配向角のバラツキが大きく生じていると考えられる。
【0126】
また、比較例2では、耐久試験後の面内リタデーションRoの低下の度合いが大きい。比較例2では、フィルム基材の熱処理前後での寸法変化率T1が-7.5%と大きく、縦延伸によってフィルム基材に搬送方向に過剰に収縮する特性が付与されているため、斜め延伸時に、フィルム基材が上記方向に過剰に熱収縮し、その結果、耐久試験後の面内方向のリタデーションRoの低下が大きくなったと考えられる。
【0127】
これに対して、実施例1~7では、フィルム端部の波状変形、配向角均一性、耐久試験後の面内リタデーションRoの低下の度合いのいずれにおいても良好な結果(◎、○、△)が得られている。実施例1~7では、T1<0%≦T2、および、-7.0%<T1≦-0.5%を両方とも満足しているため、PC、COP、PEsのような熱収縮性の低い樹脂を用いて斜め延伸フィルムを作製する場合でも、斜め延伸時の高温(延伸温度)において、斜め延伸特有の搬送方向(斜め延伸前のフィルム基材の搬送方向と同じ方向)の機械的な収縮に、フィルム基材の熱による上記方向の収縮が追い付く。これにより、フィルム端部に「余り」が生じて波状変形が発生するのが抑えられていると考えられる。また、フィルム端部の波状変形が抑えられる結果、波状変形が元々生じていないフィルム幅手中央部と、フィルム端部との間で配向角にバラツキが生じるのも低減されると考えられる。
【0128】
また、フィルム基材の寸法変化率T1が所定の範囲内に収まっているため、熱処理後のフィルム基材において上記方向への収縮が適度に抑えられる。これにより、斜め延伸時にフィルム基材が上記方向に過剰に熱収縮することがなくなり、耐久試験後に面内方向のリタデーションRoが低下するのが抑えられていると考えられる。
【0129】
また、実施例2および3の結果より、斜め延伸前のフィルム基材の予熱温度が、斜め延伸時の延伸温度以上である場合は、フィルム端部の波状変形を抑える効果および幅手方向の配向角のバラツキを低減する効果が高いと言える。これは、斜め延伸前に、延伸温度よりも高い予熱温度をフィルム基材に与えることにより、斜め延伸時に、所定の延伸温度でフィルム基材を効率よく熱収縮させて、斜め延伸特有の機械的な収縮にフィルム基材の熱による収縮を確実に追い付かせることができるためと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0130】
本発明は、斜め延伸フィルムの製造に利用可能である。
【符号の説明】
【0131】
5 ウェブ(フィルム基材)