(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-28
(45)【発行日】2022-03-08
(54)【発明の名称】エンジン診断装置
(51)【国際特許分類】
F02C 7/00 20060101AFI20220301BHJP
【FI】
F02C7/00 A
(21)【出願番号】P 2018025506
(22)【出願日】2018-02-15
【審査請求日】2021-01-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】茂木 悠佑
(72)【発明者】
【氏名】鹿庭 政人
(72)【発明者】
【氏名】河野 幸弘
【審査官】吉田 昌弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-227174(JP,A)
【文献】特開2005-133583(JP,A)
【文献】特開2015-209841(JP,A)
【文献】特開2010-275934(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0279218(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02C 7/00
F02C 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン指標及びタービン出口温度のデータを含むエンジン運転データが蓄積されるエンジン運転データ保持部と、
地上指標のデータが蓄積される地上指標データ保持部と、
前記地上指標データ保持部に蓄積された前
記地上指標のデータに基づいて、将来の地上指標のデータを予測するための予測式を算出し、前
記地上指標のデータを取得して前記予測式を適用し、前記将来の地上指標の予測データを算出する指標取得変換部と、
前記指標取得変換部で得られた前記将来の地上指標の予測データ
から所定範囲内の前
記地上指標
のデータ値で運航された前記エンジン運転データを前記エンジン運転データ保持部に蓄積された前記エンジン運転データから抽出するエンジン運転データ検索部と、
前記エンジン運転データ検索部で抽出された前記エンジン運転データのタービン出口温度
についての
頻度分布に基づいて、エンジンの運転が正常であるかどうかを診断するエンジン運転診断部と
を含むエンジン診断装置。
【請求項2】
前
記地上指標
のデータを予測するための前記予測式は、あらかじ
め地上指標別に予測式を構築されている請求項1に記載のエンジン診断装置。
【請求項3】
前記エンジン指標には、高度、吸気温度、吸気圧力、湿度、風向、風速及び機体重量の少なくとも1つが含まれる請求項1又は2に記載のエンジン診断装置。
【請求項4】
前記地上指標には、気温及び気圧が含まれる請求項1から3のいずれか一項に記載のエンジン診断装置。
【請求項5】
前記エンジン運転データは、離陸時
に空港の滑走路から所定の高さで測定されたデータである請求項1から4のいずれか一項に記載のエンジン診断装置。
【請求項6】
前記エンジン運転データ検索部は
、空港における地上指標の予測データから所定範囲内のエンジン運転データを抽出する請求項1から5のいずれか一項に記載のエンジン診断装置。
【請求項7】
前記エンジン運転診断部は、前記エンジン運転データ検索部で抽出されたエンジン運転データのタービン出口温度の平均値を将来のタービン出口温度予測値とする請求項1から6のいずれか一項に記載のエンジン診断装置。
【請求項8】
前記エンジン運転診断部は、前記エンジン運転データ検索部で抽出されたエンジン運転データのタービン出口温度の分布において
、閾値を超える
頻度に基づいてエンジン運転が異常である
こと
を判定する請求項1から7までのいずれか一項に記載のエンジン診断装置。
【請求項9】
前
記地上指標の海抜のデータが蓄積された空港データ保持部をさらに含み、前記エンジン運転データ検索部は前
記地上指標に含まれる気温及び気圧のデータについて、前記気圧のデータを前
記地上指標データ保持部に蓄積された前
記地上指標の海抜のデータを参照して気圧の影響を受けて誤差が生じた気圧高度計によって得られた前記エンジン指標の高度の値に変換し、前記気温及び前記変換された高度の値を用いてエンジン運転データを抽出する請求項1から8のいずれか一項に記載のエンジン診断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、航空機のガスタービンエンジンを診断するためのエンジン診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
航空機のエンジンに使用されるガスタービンエンジンは、吸入した空気を圧縮して燃焼室に送り込むコンプレッサを有している。コンプレッサが劣化して性能が低下すると、燃焼室に噴射する燃料の量が増加し、その結果としてエンジンのタービン出口温度が上昇する。タービン出口温度は吸気温度など大気状態の影響も受けるが、エンジンには航空機の離陸時に最大の負荷がかかるため、タービン出口温度は離陸時に最高になる。
【0003】
タービン出口温度には運航上の制限値があり、航空機を運航するためには制限値を超過する前にタービン出口温度を低下させる必要がある。対処方法の一つにはコンプレッサの水洗がある。この水洗の時期を決定するために、エンジンの設計情報及び運転データを収集してモデルを構築し、天気予報サイトから取得した気温と、離陸地点の空港の情報とに基づいて、1週間後までのタービン出口温度を予測する予測システムが提供されている(特許文献1を参照)。航空会社は、タービン出口温度の予測システムを利用することによって、コンプレッサの水洗装置がある空港に適切なタイミングで駐機させることで、運航スケジュールの最適化を図ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のタービン出口温度の予測システムにおいては、タービン出口温度の十分な予測精度が得られなかった。
【0006】
この発明は、上述の実情に鑑みて提案されるものであって、タービン出口温度の予測精度を向上させたエンジン診断装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の課題を解決するために、この出願に係るエンジン診断装置は、所定のエンジン指標及びタービン出口温度のデータを含むエンジン運転データが蓄積されるエンジン運転データ保持部と、所定の地上指標のデータが蓄積される地上指標データ保持部と、地上指標データ保持部に蓄積された所定の地上指標のデータに基づいて、将来の地上指標のデータを予測するための予測式を算出し、所定の地上指標のデータを取得して予測式を適用し、将来の所定の地上指標の予測データを算出する指標取得変換部と、指標取得変換部で得られた所定の地上指標の予測データと近い地上指標データ値で運航されたエンジン運転データをエンジン運転データ保持部に蓄積されたエンジン運転データから抽出するエンジン運転データ検索部と、エンジン運転データ検索部で抽出されたエンジン運転データのタービン出口温度の分布に基づいて、エンジンの運転が正常であるかどうかを診断するエンジン運転診断部とを含んでいる。
【0008】
地上指標のデータを予測するための予測式は、予測式保持部に保持されていてもよい。
【0009】
エンジン指標には、高度、吸気温度、吸気圧力、湿度、風向、風速及び機体重量の少なくとも1つが含まれてもよい。地上指標には、気温及び気圧が含まれもよい。エンジン運転データは、離陸時に所定の空港の滑走路から所定の高さで測定されたデータでもよい。
【0010】
エンジン運転データ検索部は、所定の空港における地上指標の予測データから所定範囲内のエンジン運転データを抽出してもよい。エンジン運転診断部は、エンジン運転データ検索部で抽出されたエンジン運転データのタービン出口温度の平均値を将来のタービン出口温度予測値としてもよい。エンジン運転診断部は、エンジン運転データ検索部で抽出されたエンジン運転データのタービン出口温度の分布において、所定の閾値を超える部分が所定の割合を超えるとエンジン運転が異常であると判定してもよい。
【0011】
所定の地上指標の海抜のデータが蓄積された空港データ保持部をさらに含み、エンジン運転データ検索部は地上指標に含まれる気温及び気圧のデータについて、気圧のデータを地上指標データ保持部に蓄積された所定の地上指標の海抜のデータを参照して気圧の影響を受けて誤差が生じた気圧高度計によって得られたエンジン指標の高度の値に変換し、気温及び変換された高度の値を用いてエンジン運転データを抽出してもよい。
【0012】
地上指標に関しては航空機の離陸地点を定義するものとし、本実施の形態では、所定の空港を例として説明する。
【発明の効果】
【0013】
この発明によると、航空機のエンジンのタービン出口温度の予測精度を向上させることができる。したがって、航空会社は、コンプレッサの水洗装置がある地上指標に適切なタイミングで駐機させるための正確な運航スケジュールを立てることができるようになる。また、タービン出口温度の予測しなかった上昇による航空機の計画外の運航中止を防止することができる。ひいては、コンプレッサの水洗などの整備費用の削減、整備スケジュールの策定の支援を図ることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】エンジン診断装置の概略的な構成を示すブロック図である。
【
図2】エンジン診断装置の一連の動作を示すフローチャートである。
【
図3】エンジン情報収集の一連の動作を示すフローチャートである。
【
図4】動的抽出の一連の動作を示すフローチャートである。
【
図5】エンジン運転データの抽出を説明する模式図である。
【
図6】計算結果の表示の一連の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本実施の形態に係るエンジン診断装置について、図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本実施の形態のエンジン診断装置10の概略的な構成を示すブロック図である。ここではエンジン診断装置10の構成の概要を説明し、エンジン診断装置10の動作の詳細についてはさらに後述する。
【0016】
エンジン診断装置10には、航空機のガスタービンエンジンの運転データを蓄積するエンジン運転データ保持部11、予測式を蓄積する予測式保持部12及び気温及び気圧のデータを保持する気温・気圧データ保持部13が含まれている。
【0017】
エンジン運転データ保持部11には、所定の航空会社の航空機のエンジンについて、学習用データとして、例えば、過去1か月から3か月のエンジン運転データがエンジン単位で蓄積されている。予測式保持部12では、気温・気圧データ保持部13に蓄積された気温のデータを参照してあらかじめ空港別の気温の予測式を構築する。気温・気圧データ保持部13には、所定の空港のための気温及び気圧のデータが蓄積されている。ここで、気温及び気圧を地上指標とみなし、気温・気圧データ保持部13を地上指標データ保持部とみなすこともできる。
【0018】
本実施の形態では、地上指標のデータを予測するための予測式は、あらかじめ予測式保持部12に構築されているが、気温・気圧データ保持部13から、所定の空港のための気温及び気圧のデータの取得都度に予測式を構築する方式でもよい。
【0019】
また、エンジン診断装置10には、気温取得変換部14、気圧取得変換部15及びエンジン運転データ検索部16が含まれている。気温取得変換部14は、気温・気圧データ保持部13に蓄積された気温のデータを参照して空港別の気温の予測式を構築し、天気予報サイトから入手した予測気温に予測式を適用して気温の予測データに変換する。気圧取得変換部15は、気温・気圧データ保持部13に蓄積された気圧のデータを参照して空港別の気圧の予測式を構築し、天気予報サイトから入手した予測気圧に予測式を適用して気圧の予測データに変換する。ここで、気温取得変換部14及び気圧取得変換部15は、合わせて地上指標取得変換部とみなすこともできる。
【0020】
エンジン運転データ検索部16は、気温取得変換部14で得られた気温の予測データ及び気圧取得変換部15で得られた気圧の予測データを用い、エンジン運転データ保持部11を検索し、蓄積されたエンジン運転データから気温及び気圧の予測データに近いエンジン運転データを抽出する。
【0021】
さらに、エンジン診断装置10には、エンジン運転診断部17及び表示部18が含まれている。エンジン運転診断部17は、エンジン運転データ検索部16で抽出されたエンジン運転データのタービン出口温度の分布について、平均値をタービン出口温度の平均温度とする。また、タービン出口温度の分布の標準偏差に基づいて閾値の運行制限温度を設定し、タービン出口温度が運行de制限温度を超過する確率を計算する。そして、その確率が所定の割合を超えると異常であると判定する。表示部18は、エンジン運転診断部17で得られたタービン出口温度の平均温度、正常かどうかの判定結果などを表示する。タービン出口温度の平均温度を将来のタービン出口温度予測値としてもよい。
【0022】
本実施の形態では、エンジン診断装置10のそれぞれの構成部分は、例えばPCのようなコンピュータにおいてプログラムによって実現される機能としてソフトウェアによって構成してもよいが、ハードウェアによって構成してもよい。また、エンジン運転データ保持部11、予測式保持部12及び気温・気圧データ保持部13は、エンジン診断装置10を構成するPC内に構成してもよいが、クラウド上のデータベースによって構成してもよい。
【0023】
国内管制区域を航行する航空機及び国外管制区域を航行する航空機は、地上基地を介して所定のデータリンクにデータ通信可能に接続されている。航空機を運航する航空会社、航空当局は、データリンクに専用回線又はウェブリンクに接続され、リアルタイムデータが得られるようにされている。
【0024】
エンジン診断装置10は、データリンクに接続されていればよい。エンジン診断装置10は、航空機のエンジンから送信されたエンジン運転データを受け取ることができる。
【0025】
エンジン診断装置10は、航空会社にウェブアクセスが可能なように接続されている。航空会社は、エンジン診断装置によるエンジンの診断結果等をウェブアクセスによって参照することができる。また、エンジン診断装置は、エンジンに異常が発生したことを診断すると、該当する航空機の航空会社にアラームメールを送信している。
【0026】
図2は、エンジン診断装置10の一連の動作を説明するフローチャートである。エンジン診断装置10の一連の動作のステップS1においては、学習用情報を収集する。
図3は、ステップS1の学習用情報の収集における一連の動作を示すフローチャートである。
【0027】
ステップS11においては、エンジン運転データを蓄積する。エンジン診断装置10は、エンジンのタービン出口温度の学習用データとして、例えば過去1か月から3か月の離陸時のエンジン運転データをエンジン運転データ保持部11に蓄積する。このエンジン運転データの収集はエンジン単位で行い、同一のエンジンのデータを使用する。
【0028】
航空機は離陸時と巡航時に所定のタイミングでエンジン運転データを送信する。本実施の形態では、離陸時のエンジン運転データを使用する。
【0029】
航空機から送信されたエンジン運転データには、エンジンのタービン出口温度、吸気温度、吸気圧力、高度等のデータが含まれている。エンジン運転データには、燃料流量、オイルの温度及び圧力、振動値、回転数、抽気状況などがさらに含まれてもよい。このようなエンジン運転データは、タービン出口温度と、他のエンジン指標とからなるとみなしてもよい。エンジン運転データは、航空無線データ通信を介してエンジン診断装置10に送られ、クラウド上のエンジン運転データ保持部11に蓄積される。
【0030】
ステップS12においては、空港別の気温予測式を算出する。エンジン診断装置10は、気温・気圧データ保持部13に所定の空港のための気温のデータを蓄積する。所定の空港のための気温のデータには、例えば天気予報のサイトから過去の天気予報の気温のデータが入手可能な空港から最も近い地点について、入手したその地点の過去の天気予報の気温のデータと、空港で測定された気温のデータとを使用することができる。気温のデータは、エンジン運転データ保持部11に蓄積されたエンジン運転データと対比することができるように例えば過去1か月から3か月の期間にわたって蓄積してもよい。
【0031】
エンジン診断装置10の気温取得変換部14は、気温・気圧データ保持部13に蓄積された天気予報の気温のデータと空港で測定された気温の実績値を比較し、天気予報の気温のデータから気温の実績値を予測する気温予測式を空港別に構築する。例えば、過去の天気予報の気温のデータと気温の実績値との散布図を作成し、線形回帰分析により直線近似を行ってもよい。
【0032】
ステップS13においては、空港別の気圧予測式を算出する。エンジン診断装置10は、気温・気圧データ保持部13に所定の空港のための気圧のデータを蓄積する。所定の空港のための気圧のデータには、例えば天気予報のサイトから過去の天気予報の気圧のデータが入手可能な空港から最も近い地点について、入手したその地点の過去の天気予報の気圧のデータと、空港で測定された気圧のデータとを使用することができる。気圧のデータは、エンジン運転データ保持部11に蓄積されたエンジン運転データと対比することができるように例えば過去1か月から3か月の期間にわたって蓄積してもよい。
【0033】
エンジン診断装置10の気圧取得変換部15は、気温・気圧データ保持部13に蓄積された天気予報の気圧のデータと空港で測定された気圧の実績値を比較し、天気予報の気圧のデータから気圧の実績値を予測する気圧予測式を空港別に構築する。例えば、過去の天気予報の気圧のデータと気圧の実績値との散布図を作成し、線形回帰分析により直線近似を行ってもよい。
【0034】
なお、エンジン診断装置10には空港データ保持部が含まれてもよく、所定の空港について、海抜のデータを含む空港のデータが蓄積されてもよい。空港データ保持部への海抜のデータの蓄積は、ステップS1の学習用情報の収集の際に行ってもよい。
【0035】
図2に示したエンジン診断装置10の一連の動作のステップS2においては、動的抽出を行う。
図4は、ステップS2の動的抽出における一連の動作を示すフローチャートである。ステップS21においては、空港別の予測気温を算出する。エンジン診断装置10の気温取得変換部14は、天気予報のサイトから天気予報の気温のデータが入手可能な空港から最も近い地点について、天気予報の気温のデータを取得する。そして、ステップS12において構築した空港別の気温予測式を取得した天気予報の気温のデータに適用し、気温の予測データを算出する。例えば、天気予報サイトから取得した将来1日から7日にわたる気温のデータに基づいて、気温予測式を用いて気温の予測データを作成してもよい。予測された気温のデータは、空港別の離陸時の予測気温とすることができる。気温の予測データは、エンジンの予測吸気温度として使用してもよい。
【0036】
ステップS22においては、空港別の予測気圧を算出する。エンジン診断装置10の気圧取得変換部15は、天気予報のサイトから天気予報の気圧のデータが入手可能な空港から最も近い地点について、天気予報の気圧のデータを取得する。そして、ステップS13において構築した空港別の気圧予測式を取得した天気予報の気圧のデータに適用し、予測された気圧のデータを算出する。例えば、天気予報サイトから取得した将来1日から7日にわたる気圧のデータに基づいて、気圧予測式を用いて気圧の予測データを作成してもよい。気温の予測データは、空港別の離陸時の予測気圧とすることができる。気圧の予測データは、エンジンの予測吸気圧力として使用してもよい。
【0037】
続いて、気圧取得変換部15は、エンジン運転データに適合するように、空港別の離陸時の予測気圧をさらに空港別の離陸時の予測高度に変換する。これは、エンジン運転データに気圧のデータが含まれず、代わって気圧高度計のデータが含まれているためである。そのため、空港別の離陸時の予測気圧を大気圧の誤差が含まれた気圧高度計による計測高度に変換する。
【0038】
数1において、P0は海面気圧で1013.25hpaに固定とし、Pは予測気圧を計測時の予測高度に変換した気圧、Tは離陸時の予測気温とすることで、大気圧の影響を受けて誤差が生じた気圧高度計の値hに変換することができる。予測高度は、空港の海抜に300フィートを加えた値であり、空港データ保持部に蓄積されている空港の海抜のデータを参照して計算した。この値hを、空港別の離陸時の誤差込みの気圧高度計による予測高度として使用することにする。
【0039】
【0040】
ステップS23においては、エンジン運転データを検索する。エンジン診断装置10のエンジン運転データ検索部16は、エンジン運転データ保持部11に格納されたエンジン運転データを検索し、気温取得変換部14で得た予測気温及び気圧取得変換部15で得た予測高度に近いエンジン運転データを抽出する。
【0041】
図5は、エンジン運転データの抽出を説明する模式図である。エンジン運転データは、気圧、高度及びタービン出口温度を軸とする3次元空間内の点として分布している。ここで、気温とは吸気温度、高度とは気圧高度計による大気圧による誤差込みの計測高度とする。予測気温及び予測高度に近いエンジン運転データは、予測気温及び予測高度から所定範囲内にあるエンジン運転データであってもよく、例えば、予測気温の±3°及び予測高度の±300フィートの範囲であってもよい。このような範囲は、設定ファイルによって別途に設定することができる。
【0042】
予測気温及び予測高度の範囲を設定することにより、当該範囲内にあるエンジン運転データを抽出することができる。抽出されたエンジン運転データは、図中の右のタービン出口温度についてのデータ件数のヒストグラムに示すように、タービン出口温度の分布を示している。エンジン運転データ検索部16は、検索により抽出されたエンジン運転データの件数が閾値以下である場合、診断の信頼性なしとして予測をキャンセルする。データ件数の閾値は、設定ファイルによって別途に設定することができる。
【0043】
なお、
図5においては、エンジン指標の内で吸気温度及び高度を使用しているが、このような例に限定されない。例えば、エンジン指標の内で、吸気温度及び吸気圧力を使用してもよい。この場合には、ステップS21で得た気温の予測データをエンジンの予測吸気温度として使用し、ステップS22で得た気圧の予測データをエンジンの予測吸気圧力として使用し、これら予測吸気温度及び予測吸気圧力に近いエンジン運転データを抽出してもよい。その際に、予測吸気圧力は、空港データ保持部に蓄積された空港の海抜のデータによって補正してもよい。
【0044】
図2のエンジン診断装置10の一連の動作のステップS3においては、予測値計算を行う。
図6は、ステップS3の予測値計算における一連の動作を示すフローチャートである。ステップS31においては、検索したエンジン運転データの平均値及び標準偏差を計算する。エンジン診断装置10のエンジン運転診断部17は、エンジン運転データ検索部16で検索により抽出されたエンジン運転データについて、平均値及び標準偏差を計算する。抽出されたエンジン運転データは、タービン出口温度の分布を示しているため、平均値はタービン出口温度の分布の平均値となり、標準偏差はタービン出口温度の分布の標準偏差となる。
【0045】
ステップS32においては、タービン出口温度の分布の平均値をタービン出口温度の予測値、すなわち予測タービン出口温度とする。エンジン運転診断部17は、タービン出口温度の平均温度を予測タービン出口温度に設定する。
図5においては、タービン出口温度の平均値が予測タービン出口温度として示されている。
【0046】
ステップS33においては、学習情報を元にした確率分布を用い,運行制限温度を超過する可能性を計算する。エンジン運転診断部17は、タービン出口温度の分布が統計的な過去の分布に従うと仮定し、予測タービン出口温度と、確率分布を元に運航制限温度を超えた面積を運行制限温度超過確率とすることができる。エンジン運転診断部17は、運航制限温度を超える確率を計算する。
図5には、運航制限温度及び運航制限温度を超過する確率に相当する範囲が示されている。運航制限温度は、設定ファイルによって別途に設定することができる。統計的な分布については、例えば、正規分布に従う仮定としてもよい。
【0047】
なお、ステップS3においては、抽出されたエンジン運転データの平均値及び標準偏差を計算したが、これに限られない。例えば、動的抽出の幅をより広く取り、重回帰分析を用いて予測値及び予測分散を計算することもできる。この場合には、学習用情報にないような気温及び気圧のデータからも予測計算を可能にすることができる。
【0048】
図4のエンジン診断装置10の一連の動作のステップS4においては、計算結果表示を行う。エンジン診断装置10の表示部18は、航空機の機体の空港別予測タービン出口温度をエンジンの左右について別個に表示する。
【0049】
また、表示部18は、航空機の機体について、空港別に運航制限値を超える確率をエンジンの左右について別個に表示する。確率が所定値を超える場合には、アラームメールを送ったりアラームを表示したりすることにより通知してもよい。また、表示部18は、1日後から7日後の予測を選択して表示してもよい。
【0050】
上述のように、本実施の形態は、離陸時の環境誤差(大気圧誤差など)を考慮することにより、タービン出口温度の予測精度を向上させている。したがって、コンプレッサの劣化の診断の精度を高めることにより、航空会社によるエンジンの保守計画の最適化を図ることができる。
【0051】
本実施の形態によると、同一のエンジンの直近1か月から3か月程度のデータを学習用データとして、予測指標に近いデータのタービン出口温度の実績値を予測値としているため、予測精度が向上している。また,統計的なタービン出口温度とその分布を用いるため,エンジンの内部構造が変化してもモデル再構築のコストが比較的低く,新規エンジンの追加が用意である。
【0052】
以上、本発明の実施形態に係るエンジンの診断装置について説明したが、本発明は必ずしも上述した実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の変更を行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
航空機のエンジンが運航制限に該当しないように、エンジンの整備を確実に実施することが可能になる。
【符号の説明】
【0054】
10 エンジン診断装置
11 エンジン運転データ保持部
12 予測式保持部
13 気温・気圧データ保持部
14 気温取得変換部
15 気圧取得変換部
16 エンジン運転データ検索部
17 エンジン運転診断部
18 表示部