(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-28
(45)【発行日】2022-03-08
(54)【発明の名称】車両のトランスファ構造
(51)【国際特許分類】
F16H 57/04 20100101AFI20220301BHJP
B60K 17/348 20060101ALI20220301BHJP
【FI】
F16H57/04 J
B60K17/348 B
(21)【出願番号】P 2018057688
(22)【出願日】2018-03-26
【審査請求日】2021-02-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100197561
【氏名又は名称】田中 三喜男
(72)【発明者】
【氏名】大川 裕三
(72)【発明者】
【氏名】野口 慈仁
(72)【発明者】
【氏名】原澤 渉
【審査官】岡本 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-132178(JP,A)
【文献】特開2016-003761(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 57/04
B60K 17/348
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1ギヤと該第1ギヤよりも下側に位置するとともに前記第1ギヤに噛み合う第2ギヤとを収容するギヤ室と、
該ギヤ室と並設され、前記第1ギヤと同軸上に設けられたカップリングを収容するカップリング室とを備え、
前記ギヤ室の下部は、前記第2ギヤの下部が浸かるように潤滑油を貯留する潤滑油貯留部とされ、前記第2ギヤの回転により前記潤滑油が掻き上げられて、前記第1ギヤ側に供給されるようになっている車両のトランスファ構造であって、
前記カップリング室は、前記ギヤ室とを仕切る側壁部を有し、
該側壁部における前記第1ギヤと前記第2ギヤとの噛み合い部よりも回転方向の後方側に対応する位置には、前記第2ギヤにより輸送された潤滑油の一部を前記カップリング室に供給するためのオイル供給孔が、設けられ
、
前記カップリング室の側壁部には、前記潤滑油の一部を前記オイル供給孔に導くガイド部を設け、
前記第1ギヤは、一対の軸受によって支持されており、
前記側壁部には、前記一対の軸受のうちの前記カップリング室側の軸受が嵌合される支持部が設けられ、
該支持部の一部は、前記オイル供給孔への案内部を形成していることを特徴とする車両のトランスファ構造。
【請求項2】
前記カップリング室の側壁部には、前記オイル供給孔よりも低い位置に、前記カップリング室の潤滑油を前記ギヤ室にもどすための排出口が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の車両のトランスファ構造。
【請求項3】
前記ガイド部は、前記側壁部から前記ギヤ室側に突出する凸部で一体形成されることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の車両のトランスファ構造。
【請求項4】
前記第1ギヤおよび前記第2ギヤは、ヘリカルギヤであり、
前記第2ギヤの歯面の傾斜方向は、該第2ギヤが前進時に掻き上げる潤滑油が、前記側壁部に向かって飛散する方向であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の車両のトランスファ構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、四輪駆動車に搭載されるトランスファ構造に関する。
【背景技術】
【0002】
四輪駆動車として、車体前部にエンジンなどの駆動源と変速機とを軸心が車体前後方向に延びるように配置し、該変速機から出力される駆動力を車体後方に延びる後輪用出力軸および後輪用差動装置を介して主駆動輪としての後輪に伝達するとともに、補助駆動輪としての前輪に出力する駆動力を取り出すトランスファ装置を設け、該トランスファ装置によって取り出した駆動力を車体前方に延びる前輪用出力軸および前輪用差動装置を介して前輪に伝達し、後輪に加えて前輪も駆動可能に構成したものが知られている。
【0003】
特許文献1に記載のトランスファ装置は、後輪用出力軸上に前輪用の駆動力を取り出すカップリングが配設され、該カップリングを完全に締結することで駆動力を前輪と後輪に均等に伝達される四輪駆動状態になり、カップリングの完全締結と完全解放との中間では締結状態に応じて前輪に出力される駆動力の配分が調整される。
【0004】
カップリングによって取り出された駆動力は、後輪用出力軸上に設けられた駆動ギヤと、該駆動ギヤに噛み合うとともに前輪用出力軸上に設けられた被駆動ギヤとを介して前輪用出力軸に伝達され、後輪に加えて前輪も駆動可能に構成されている。
【0005】
駆動ギヤと被駆動ギヤとは、常時噛み合い式であるため、両ギヤおよびこれらを支持する軸受は、噛み合い部における焼き付き防止のために潤滑が必要である。そして、これらの潤滑のために、駆動ギヤおよび被駆動ギヤを収容するギヤ室の下部には、潤滑油が貯留されている。そして、この潤滑油が、被駆動ギヤから駆動ギヤへ掻き上げられることによって掻き上げ給油が行われる。
【0006】
このギヤ室の車体後方側には、前述のカップリングが収容されるカップリング室が配置されている。そして、特許文献1に記載のトランスファ装置においては、駆動ギヤおよび被駆動ギヤの潤滑と、カップリングの潤滑では異なる潤滑系統を設けている。これにより、ギヤ室とカップリング室との間に、ギヤ室の潤滑油がカップリング室へ侵入することを防止するためのオイルシールが設けられている。
【0007】
また、カップリングには、湿式多板式のメインクラッチと、電磁式のパイロットクラッチと、両クラッチ間に配置されたカム機構とが備えられている。カム機構は、一対のディスク部材と、両ディスク部材が互いに対向する位置に設けられたカム溝間にあそびを有した状態で挟持されたボールとを有している。このカム機構は、両ディスク部材間に相対回転が生じると、カム溝間においてボールの位置が変化する。これにより、ボールが、カム溝間に食い込んで、ディスク部材に押圧力を生じさせるようになっている。
【0008】
カップリングの締結では、まず、パイロットクラッチの締結によりカム機構の両ディスク部材間に相対回転が生じる。これにより、カム溝とボールとのあそびが埋められてから、ディスク部材にボールによる押圧力が作用する。その後、ディスク部材がメインクラッチ側に押圧されることで、メインクラッチの複数の摩擦板の締結が開始される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、トランスファ装置の二輪駆動状態から四輪駆動状態への応答性の向上のために、カップリングの感度が高められる場合がある。具体的には、例えば、カップリングに対する前輪側のギヤ比と後輪側のギヤ比とに、わずかな差を設けることで、カップリングを締結するカム機構のカム溝間に挟持されたボールのあそびが予め詰められてカップリングのメインクラッチ締結の応答性を向上させる対策が考えられる。
【0011】
しかしながら、カム機構のボールのあそびを詰めることで、カップリングのメインクラッチの複数の摩擦板間において摺動が生じ、特に、摺動が大きくなる高速走行時においては、カップリングの摺動による発熱が大きくなる場合がある。この場合、現状のように、トランスファ装置のケースを介した大気による冷却では、カップリングの温度が許容温度を超える虞があり、カップリングの耐久性を確保するためには、カップリングの冷却が必要となる。
【0012】
これに対して、前述のギヤ室同様にカップリング室にも潤滑油を貯留させることで、冷却することが考えられるが、貯留する潤滑油の量によっては、カップリングの攪拌抵抗を生じさせたり、トランスファ装置の重量の増加に繋がり、車両の燃費が悪化する虞がある。
【0013】
そこで、本発明は、車両のトランスファ構造において、燃費の悪化を抑制しつつ、トランスファ装置のカップリングの発熱による耐久性の低下を抑制することを課題とする。
【0014】
なお、カップリングを冷却する例としては、上述の前輪側のギヤ比と後輪側のギヤ比との差を設ける場合によらず、トランスファ装置の周辺の環境や、カップリングの仕様等によっては、カップリングを冷却する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記課題を解決するため、本発明にかかる車両のトランスファ構造は、次のように構成したことを特徴とする。
【0016】
まず、請求項1に記載の発明は、
第1ギヤと該第1ギヤよりも下側に位置するとともに前記第1ギヤに噛み合う第2ギヤとを収容するギヤ室と、
該ギヤ室と並設され、前記第1ギヤと同軸上に設けられたカップリングを収容するカップリング室とを備え、
前記ギヤ室の下部は、前記第2ギヤの下部が浸かるように潤滑油を貯留する潤滑油貯留部とされ、前記第2ギヤの回転により前記潤滑油が掻き上げられて、前記第1ギヤ側に供給されるようになっている車両のトランスファ構造であって、
前記カップリング室は、前記ギヤ室とを仕切る側壁部を有し、
該側壁部における前記第1ギヤと前記第2ギヤとの噛み合い部よりも回転方向の後方側に対応する位置には、前記第2ギヤにより輸送された潤滑油の一部を前記カップリング室に供給するためのオイル供給孔が、設けられ、
前記カップリング室の側壁部には、前記潤滑油の一部を前記オイル供給孔に導くガイド部を設け、
前記第1ギヤは、一対の軸受によって支持されており、
前記側壁部には、前記一対の軸受のうちの前記カップリング室側の軸受が嵌合される支持部が設けられ、
該支持部の一部は、前記オイル供給孔への案内部を形成していることを特徴とする。
【0017】
また、請求項2に記載の発明は、前記請求項1に記載の発明において、
前記カップリング室の側壁部には、前記オイル供給孔よりも低い位置に、前記カップリング室の潤滑油を前記ギヤ室にもどすための排出口が設けられていることを特徴とする。
【0019】
また、請求項3に記載の発明は、前記請求項1又は前記請求項2に記載の発明において、
前記ガイド部は、前記側壁部から前記ギヤ室側に突出する凸部で一体形成されることを特徴とする。
【0021】
また、請求項4に記載の発明は、前記請求項1から前記請求項3のうち1項に記載の発明において、
前記第1ギヤおよび前記第2ギヤは、ヘリカルギヤであり、
前記第2ギヤの歯面の傾斜方向は、該第2ギヤが前進時に掻き上げる潤滑油が、前記側壁部に向かって飛散する方向であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
請求項1に記載の発明によれば第1ギヤと同軸上に設けられたカップリングを収容するカップリング室の側壁部には、オイル供給孔が設けられており、該オイル供給孔によって、ギヤ室とカップリング室とが連通されている。また、オイル供給孔は、側壁部の第1ギヤと第2ギヤとの噛み合い部よりも回転方向の後方側に対応する位置に設けられているので、第2ギヤの回転によって輸送された潤滑油がカップリング室に供給され、ギヤ室に貯留される潤滑油をカップリング室に循環させて、カップリングを冷却することができる。
【0023】
また、ギヤ室とカップリング室とは側壁部によって仕切られるとともに、オイル供給孔によって連通されているので、カップリング室においては、オイル供給孔の位置に応じて、ほぼ一定のオイルレベルが保つことができる。一方、ギヤ室においては、上述のように、カップリング室が効率よく冷却されるので、ギヤ室の潤滑油を必要以上に増加させることなく、第1ギヤおよび第2ギヤを潤滑することができる。
【0024】
したがって、例えば、カップリング冷却のために、カップリング室のオイルレベルに合わせて、ギヤ室とカップリング室のオイルレベルを一致させることによる、特に、ギヤ室における攪拌抵抗の増大を抑制することができる。これにより、トランスファ装置全体の潤滑油量を削減することができるので、トランスファ装置の重量の増加を抑制することができる。その結果、燃費の悪化を抑制しつつ、カップリングの発熱による耐久性低下を抑制することができる。
また、オイル供給孔の周辺部には、第2ギヤによって掻き上げられるとともに飛散された潤滑油をオイル供給孔に導くガイド部が設けられているので、オイル供給孔の周辺に飛散した潤滑油をカップリング室へ供給することができる。これにより、ギヤ室とカップリング室との間でより積極的に潤滑油を循環させることができるので、ギヤ室の底部に貯留される比較的低温の潤滑油をカップリング室に供給することができ、カップリングの冷却効果が確保され、潤滑油の量を削減することができる。
また、第1ギヤを支持する一対の軸受のうちのカップリング室側の軸受は、カップリング室の側壁部に設けられた支持部によって支持される。この支持部の一部は、ギヤ室内に飛散する潤滑油をオイル供給孔へ案内するための案内部として形成されているので、この支持部の一部の案内部を利用して飛散したオイルをオイル供給孔にガイドすることができる。これにより、ギヤ室とカップリング室との間でより積極的に潤滑油を循環させることができるので、ギヤ室の底部に貯留される比較的低温の潤滑油をカップリング室に供給することができ、カップリングの冷却効果が確保され、潤滑油の量を削減することができる。
【0025】
また、請求項2に記載の発明によれば、カップリング室側壁部には、オイル供給孔よりも低い位置に、カップリング室の潤滑油をギヤ室に戻すための排出口が設けられているので、カップリング室の潤滑油のオイルレベルを排出口の位置に保持することができる。これにより、排出口を適切な位置に設けることで、カップリング室においてもオイルレベルが最適化されて、カップリング室側の攪拌抵抗も抑制することができる。
【0027】
また、請求項3の記載の発明によれば、ガイド部は、カップリング室の側壁部からギヤ室側に突出する凸部で一体形成されるので、オイル供給孔が配置される側壁部において限られたスペースに効率よく配置することができる。また、ガイド部材を別部品で形成する場合に比して、部品点数および製造工程を削減することができる。
【0029】
また、請求項4に記載の発明によれば、第2ギヤの歯面の傾斜方向は、該第2ギヤが前進時に掻き上げる潤滑油が、カップリング室の側壁部に向かって飛散する方向であるヘリカルギヤなので、オイル供給孔に向けて潤滑油を飛散させることで、ギヤ室とカップリング室との間でより積極的に潤滑油を循環させることができる。その結果、ギヤ室の底部に貯留される比較的低温の潤滑油をカップリング室に供給することができ、カップリングの冷却効果が確保される。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】本発明の実施形態に係る車両のトランスファ構造を示す概略図である。
【
図2】本実施形態におけるトランスファ装置を示す断面拡大図である。
【
図3】本実施形態におけるカム機構の説明図である。
【
図4】本実施形態おけるトランスファ装置のケースを取り除いたときの斜視図である。
【
図5】(a)
図2におけるA-A矢視で示すトランスファ装置のトランスファケースの第1ケース部材を取り除いたときの正面図である。(b)オイル供給孔の周辺の要部拡大斜視図である。(c)(a)におけるD-D断面図である。
【
図6】
図2におけるB-B矢視で示すトランスファ装置のトランスファケースの第2ケース部材を取り除いたときの第1ケース部材の背面図である。
【
図7】
図2におけるB-B矢視で示すトランスファ装置の第1ケース部材単体の背面図である。
【
図9】
図2におけるE-E矢視で示すトランスファケースの端面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明に係る車両のトランスファ構造について説明する。
【0032】
図1に示すように、本発明の実施形態におけるトランスファ装置が搭載された四輪駆動車1は、フロントエンジン・リアドライブ車ベースの四輪駆動車1であり、車体前部に駆動源としてのエンジン2と変速機3とが軸心が車体前後方向に延びるように配置されている。
【0033】
変速機3の車体後方には、トランスファ装置10が設けられており、該トランスファ装置10には、変速機3から出力される駆動力を車体後方側に延びる後輪用出力軸11と、該後輪用出力軸11と平行に配置されて駆動力を前輪に出力する前輪用出力軸12とが設けられている。
【0034】
後輪用出力軸11上には、カップリング20と、該カップリング20の車体前方側に配置されるとともにカップリング20から取り出された駆動力を前輪用出力軸12に伝達する第1ギヤとしての駆動ギヤ13と、カップリング20と駆動ギヤ13との間に配置されるダンパ30とが設けられている。
【0035】
また、前輪用出力軸12上には、駆動ギヤ13に噛み合う第2ギヤとしての被駆動ギヤ14が設けられ、カップリング20によって取り出された前輪用の駆動力は、駆動ギヤ13と被駆動ギヤ14を介して前輪用出力軸12に伝達される。
【0036】
前輪用出力軸12は、自在継手40を介して車体前方に延びる前輪用プロペラシャフト50に連結されている。該前輪用プロペラシャフト50は、自在継手60を介して前輪用差動装置70の入力軸71に連結され、該入力軸71は、左右の前輪にそれぞれ連結された車軸72、72に連結されている。
【0037】
これにより、カップリング20によって取り出された駆動力は、駆動ギヤ13および被駆動ギヤ14を介して前輪用出力軸12に伝達され、該前輪用出力軸12から前輪用プロペラシャフト50および前輪用差動装置70を介して前輪に伝達される。四輪駆動車1では、カップリング20は、前輪と後輪とのトルク配分を前輪:後輪=0:100~50:50の範囲で可変できるようになっている。なお、カップリング20の作動は、図示しない制御ユニットによって制御される。
【0038】
また、ダンパ30によって、カップリング20から駆動ギヤ13、被駆動ギヤ14、前輪用出力軸12、前輪用プロペラシャフト50および前輪用差動装置70を介して前輪に至る前輪側の駆動系がエンジン2のトルク変動に共振する共振周波数をエンジン2の実用領域下に低下させるように形成されている。
【0039】
次に、
図2を参照しながら、本発明の実施形態におけるトランスファ装置10についてさらに詳細に説明する。
【0040】
後輪用出力軸11は、変速機3からの入力軸3aと同じ軸心上に配置されるとともに、入力軸3aとともに回転するように設けられている。後輪用出力軸11の前端部には、車体前方側に開放した凹部11aが設けられており、該凹部11aの内周面に変速機3からの入力軸3aの後端部がスプライン嵌合されている。
【0041】
後輪用出力軸11の後端部には、該後輪用出力軸11を、図示しない自在継手を介して後輪用プロペラシャフトに連結するための連結部材15がスプライン嵌合されている。
【0042】
後輪用出力軸11上には、車体前側から順に駆動ギヤ13と、ダンパ30と、カップリング20とが配設されている。
【0043】
駆動ギヤ13は、外周面に斜歯が形成された歯部13aと、該歯部13aの内周側から一体的に車体前方側および車体後方側にそれぞれ延びる円筒状の前方側円筒部13bおよび後方側円筒部13cとが備えられている。
【0044】
駆動ギヤ13の内周側には、後輪用出力軸11が貫通される貫通口13dが設けられている。駆動ギヤ13と、後輪用出力軸11との間の嵌合部16には、ニードルベアリング61が設けられている。駆動ギヤ13は、後輪用出力軸11に対して回転可能とされている。
【0045】
駆動ギヤ13の後方側円筒部13cの内周部には、ダンパ30と連結されるスプライン部13eが形成されている。
【0046】
ダンパ30は、該ダンパ30の外周部を形成する円筒状の外筒部材31と、ダンパ30の内周部を形成する円筒状の内筒部材32と、外筒部材31と内筒部材32との間に設けられると共に結合される弾性部材33とを備えている。
【0047】
ダンパ30のカップリング20側の側面には、ダンパ30の外筒部材31と内筒部材32との間に収納された弾性部材33の飛び出し防止のため飛び出し防止部材34が設けられている。飛び出し防止部材34とダンパ30の外筒部材31のカップリング20側の端部は、スナップリング35によって、外筒部材31に対する飛び出し防止部材34の抜けが防止されている。
【0048】
ダンパ30の外筒部材31の駆動ギヤ13側の端部には、動力伝達部材36がくし歯もしくはスプラインによって嵌合されると共に、スナップリング37によって、外筒部材31に対する動力伝達部材36の抜けが防止されている。
【0049】
動力伝達部材36の内周側には、軸方向において駆動ギヤ13の内周側のニードルベアリング61に近接する位置まで延びる円筒部36aが設けられている。この円筒部36aは、駆動ギヤ13の後方側円筒部13cのスプライン部13eにスプライン嵌合される。なお、動力伝達部材36の円筒部36aは、後輪用出力軸11との間に隙間P21を有した状態で配置される(
図8参照)。
【0050】
動力伝達部材36の内周側には、ダンパ30の内筒部材32の内周側においてカップリング20側に延びてカップリング20に連結される円筒状の連結部36bが設けられている。ダンパ30の内筒部材32の内周側には、動力伝達部材36の連結部36bと並設されるとともに、カップリング20に連結されるスプライン部32aが設けられている。
【0051】
カップリング20は、湿式多板式のメインクラッチ21と、カム機構22と、電磁式のパイロットクラッチ23とが備えられている。
【0052】
メインクラッチ21には、ダンパ30に連結される外側回転部材21aと、後輪用出力軸11によって構成される内側回転部材21bと、両者に交互に係合された複数の摩擦板21cが設けられている。
【0053】
外側回転部材21aは、その内周部に複数の摩擦板21cが係合される円筒状の本体部21dと、該本体部21dの前端側から車体前方側に延びる本体部21dよりも小径の連絡部21eが設けられている。この連絡部21eは、ダンパ30の動力伝達部材36の連結部36bおよび内筒部材32のスプライン部32aに連結される。
【0054】
これにより、外側回転部材21aは、ダンパ30と、駆動ギヤ13と、被駆動ギヤ14と、自在継手40と、前輪用プロペラシャフト50と、自在継手60と、前輪用差動装置70とを介して左右の前輪にそれぞれ連結された車軸72、72へ連絡されている。
【0055】
外側回転部材21aにおける連絡部21eの本体部21d側の端部の内周側と、後輪用出力軸11との間には、軸受62が嵌合されている。外側回転部材21aは、後輪用出力軸11に対して回転自在に支持されている。
【0056】
外側回転部材21aの本体部21dの後端部21fは、車体後方側に開放されている。本体部21dの後端部21fは、カバー部材24によって覆われている。
【0057】
カム機構22は、後輪用出力軸11上で、メインクラッチ21の複数の摩擦板21cと、カバー部材24の間に配設されている。カム機構22は、一対のディスク状のカム22a、22bと、ボール部材22cとが備えられている。
【0058】
一対のディスク状のカム22a、22bは、メインクラッチ21側のメインカム22aと、パイロットクラッチ23側のパイロットカム22bとを有するとともに、両カム22a、22bは対向配置されている。
【0059】
メインカム22aは、周方向外側において、メインクラッチ21の複数の摩擦板21cに近接する位置まで延びている。パイロットカム22bと、カバー部材24との間には、軸受63が嵌合されて両者が相対回転自在にされている。
【0060】
図3(a)に示すように、ボール部材22cは、メインカム22aとパイロットカム22bの互いに対向する面にそれぞれ設けられたカム溝22d、22e間にあそびを有して挟持されている。
【0061】
図2に示すように、パイロットクラッチ23は、メインカム22a後方に配置されたアーマチュア23aと、カバー部材24の後方側に配置されたソレノイド23bと、アーマチュア23aとカバー部材24との間に設けられた複数の摩擦板23cとが備えられている。
【0062】
複数の摩擦板23cは、メインクラッチ21の外側回転部材21aの内周側と、パイロットカム22bの外周側との間で交互に係合されている。
【0063】
パイロットクラッチ23は、ソレノイド23bの磁力によってアーマチュア23aが吸引されることで複数の摩擦板23cが締結される。
【0064】
図3(b)に示すように、カム機構22は、パイロットクラッチ23の作動により、メインカム22aとパイロットカム22bとが相対回転させられる。これにより、カム溝22d、22e内に挟持されているボール部材22cが後輪用出力軸11の周方向D1に移動する。
【0065】
このボール部材22cの位置が変化すると、ボール部材22cがカム溝22d、22e間に食い込む状態となる。メインカム22aは、ボール部材22cからメインクラッチ21側へ押圧力Fを受ける。メインクラッチ21の複数の摩擦板21cは、メインカム22aのメインクラッチ21側への移動によって締結される。
【0066】
なお、パイロットクラッチ23は、ソレノイド23bに流す電流量をコントロールすることで磁界強度が増減可能とされる。アーマチュア23aの吸引力は、磁界強度に対して比例する。アーマチュア23aの吸引力に応じて、パイロットクラッチ23の複数の摩擦板23cの締結力が変化する。
【0067】
パイロットクラッチ23の複数の摩擦板23cの締結力に応じて、パイロットカム22bの周方向への回転量(パイロットカムのメインカムに対する相対回転量)が変化する。両カム22a、22b間の相対回転量に応じて、カム溝22d、22e間におけるボール部材22cの食い込み量(メインカム22a側への押圧力)が変化するので、メインクラッチ21の複数の摩擦板21cに生じる締結力が調整される。したがって、ソレノイド23bの電流量によって、カップリング20の前輪側と後輪側への駆動力配分が調整可能となっている。
【0068】
また、本実施形態では、前輪用差動装置70と駆動ギヤ13と被駆動ギヤ14等との間で生じる前輪側のギヤ比と、図示しない後輪側差動装置等によって生じる後輪側のギヤ比との間に1%のギヤ比が設けられている。
【0069】
前輪側のギヤ比とは、変速機3からの出力回転数と前輪の回転数との比であり、後輪側のギヤ比とは、変速機3からの出力回転数と後輪の回転数との比である。なお、この前輪側のギヤ比と後輪側のギヤ比との間のギヤ比は、わずかに設けられていればよく、例えば、1%以上であってもよい。
【0070】
一方、後輪用出力軸11に平行に配置された前輪用出力軸12は、被駆動ギヤ14と一体的に形成されている。
【0071】
前輪用出力軸12には、車体前側において径方向外側に延びる延設部12aが設けられている。被駆動ギヤ14は、延設部12aの上端部から車体前方に延びて形成されるとともに、駆動ギヤ13と互いに噛み合った状態で配置されている。被駆動ギヤ14は、外周面に斜歯が形成された歯部14aを有している。
【0072】
前輪用出力軸12は、中空状に形成されており、前輪用出力軸12の内周部には、前輪用プロペラシャフト50が連結される自在継手40の外側継手部材41に設けられた軸状部42が挿通されている。
【0073】
本実施形態におけるトランスファ装置10の以上の構成は、トランスファケース80に収容されている。
【0074】
トランスファケース80は、車体前方側から順に配置される第1ケース部材81、第2ケース部材82、第3ケース部材83によって分割して構成される。第1ケース部材81と第2ケース部材82とが図示しない締結ボルト等を用いて締結固定されるとともに、第2ケース部材82と第3ケース部材83とが図示しない締結ボルト等を用いて締結固定される。
【0075】
トランスファケース80内には、駆動ギヤ13および被駆動ギヤ14を収容するギヤ室Z1と、カップリング20およびダンパ30を収容するカップリング室Z2が設けられている。
【0076】
ギヤ室Z1の下部は、潤滑油を貯留する潤滑油貯留部としての機能を有している。カップリング室Z2の車体前端部には、ギヤ室Z1とを仕切る側壁部82aが設けられている。
【0077】
駆動ギヤ13は、前方側円筒部13bおよび後方側円筒部13cの外周側に設けられた前方側軸受64および後方側軸受65を介してトランスファケース80に回転可能に支持されている。
【0078】
前方側軸受64のアウタレース64aは、第1ケース部材81に設けられた凹部でなる支持部81aに圧入されている。一方、後方側軸受65のアウタレース65aは、第2ケース部材82の側壁部82aからギヤ室Z1側に立ち上がるボス部でなる支持部82bに圧入されている。
【0079】
また、前方側軸受64の車体前方側の端部には、該前方側軸受64のアウタレース64aに接するとともに、第1ケース部材81の支持部81aの内周面から、後輪用出力軸11の外周面に向かって延びるプレート部材84が設けられている。なお、プレート部材84と、後輪用出力軸11の外周面との間には隙間P14が設けられている(
図8参照)。
【0080】
被駆動ギヤ14は、歯部14aの内周側と、前輪用出力軸12の車体後方側の外周部とに設けられた軸受66、67を介してトランスファケース80に回転可能に支持されている。
【0081】
後輪用出力軸11の後端部の連結部材15は、軸受68を介して第3ケース部材83に回転可能に支持されている。
【0082】
パイロットクラッチ23のソレノイド23bは、該ソレノイド23bを支持する筒状の支持部材23dを介して第3ケース部材83に固定されている。カップリング20の後方側は、軸受69を介して第3ケース部材83に回転自在に支持されている。
【0083】
トランスファ装置10にはまた、トランスファケース80に、複数のシール部材85、86、87が配設され、該トランスファケース80内の潤滑油が外部に漏洩することが防止されている。
【0084】
具体的には、第1ケース部材81の車体前端側で第1ケース部材81と後輪用出力軸11との間にシール部材85が配設され、第1ケース部材81の車体前端側で第1ケース部材81と前輪用出力軸12との間にシール部材86が配設され、第3ケース部材83と連結部材15との間にシール部材87が配設されている。
【0085】
カップリング20におけるメインクラッチ21の連絡部21eの後端部と、後輪用出力軸11の外周側との間には、前側シール部材88が配設されている。カップリングのカバー部材24の内周側と、後輪用出力軸11の外周側との間には、後側シール部材89が配設されている。
【0086】
前側シール部材88と、後側シール部材89とによって、カップリング20内と、カップリング室2とがシールされる。これにより、カップリング20内の潤滑油と、これと異なるギヤ室Z1からカップリング室Z2へ供給される潤滑油とが分離された状態とされている。
【0087】
ところで、トランスファ装置10の潤滑は、ギヤ室Z1に貯留された潤滑油が、被駆動ギヤ14の歯面14bによって掻き上げられるとともに飛散させて、駆動ギヤ13側に供給されることになる。なお、本実施形態においては、
図4に示すように、被駆動ギヤ14のヘリカルギヤの歯面14bの回転方向R1の前方側となる方の側部14cが、車体前方側となるように形成されている。
【0088】
被駆動ギヤ14の歯面14bの潤滑油は、静的な状態において被駆動ギヤ14の歯面14bの傾斜に沿って矢印R2方向に流れようとするが、被駆動ギヤ14は、矢印R1方向に回転しているので、潤滑油は、車体後方側には飛散しやすく、車体前方側には、飛散が少なくなっている。
【0089】
そして、本実施形態におけるトランスファ装置10は、該トランスファ装置10の潤滑および冷却のための潤滑油案内構造として、ギヤ室Z1に貯留された潤滑油をカップリング室Z2へ供給するオイル供給孔90と、駆動ギヤ13の車体前方側の前方側軸受64に供給する軸受潤滑経路P1と、カップリング室Z2に供給するカップリング室冷却経路P2とが設けられている。
【0090】
まず、
図5を参照しながら、潤滑油案内構造の一部を構成するギヤ室Z1に貯留された潤滑油をカップリング室Z2へ供給するオイル供給孔90について説明する。
【0091】
図5(a)に示すように、カップリング室Z2の側壁部82aにおける駆動ギヤ13と被駆動ギヤ14との噛み合い部Xよりも回転方向の後方側に対応する位置には、オイル供給孔90が設けられている。該オイル供給孔90は、ギヤ室Z1とカップリング室Z2とを連通させている。オイル供給孔90は、カップリング室Z2の側壁部82aの駆動ギヤ13のカップリング20側の前方側軸受64を支持する支持部82bの外周面82cに沿って設けられている。
【0092】
オイル供給孔90には、
図5(b)に示すように、側壁部82aからギヤ室Z2側に突出する凸部で形成されるとともにオイル供給孔90へ潤滑油をガイドするガイド部90aが設けられている。
【0093】
ガイド部90aは、オイル供給孔90の下端部に沿って支持部82bの外周面82cから反支持部82b側に延びる底面部90bと、該底面部90bの反支持部82b側の端部からオイル供給孔90に沿って立ち上がる側面部90cと、該側面部90cの上端部からさらに反支持部82b側に被駆動ギヤ14の歯面に沿って延びる傾斜面部90dとで形成されている。
【0094】
なお、オイル供給孔90は、支持部82bに沿って設けられているので、支持部82bの外周面82cの一部もオイル供給孔90へ潤滑油をガイドする案内部90eとして機能している。
【0095】
側壁部82aのオイル供給孔90の下方には、
図5(c)に示すように、カップリング室Z2の潤滑油をギヤ室Z1に排出する排出口91が支持部82bの外周面82cに沿って設けられている。
【0096】
排出口91の上端部には、排出口91の上方を覆うように、側壁部82aからギヤ室Z1側に膨出する蓋部91aが設けられており、ギヤ室Z1側から排出口91への潤滑油の侵入が抑制されている。なお、排出口91の駆動ギヤ13に対して左右対称位置には、排出口91同様に、支持部82bに沿って第2の排出口92が設けられている。
【0097】
次に、駆動ギヤ13の車体前方側の前方側軸受64に供給する軸受潤滑経路P1と、カップリング室Z2に供給するカップリング室冷却経路P2について説明する。
【0098】
軸受潤滑経路P1は、被駆動ギヤ14によって輸送された潤滑油を車体前方側へ供給するためのオイル案内部材としてのオイルパス93を有している。
【0099】
オイルパス93は、
図4および
図5に示すように、ドーナツ状の円盤に切り欠き部が設けられた基本面部93aと、該基本面部93aの内周側から円筒状に車体後方側に延びる円筒部93bと、基本面部93aの上端部から車体前方側に延びるガイド部93cとを有している。基本面部93aの上部には、扇形の切欠部93dが設けられている。
【0100】
オイルパス93の基本面部93aは、第2ケース部材82の内周部に設けられた取り付け部に、複数のボルト93e…93eによって固定されている。
【0101】
オイルパス93の基本面部93aおよび円筒部93bは、前輪用出力軸12の延設部12aの車体後方側の面と、前輪用出力軸12の延設部12aよりも車体後方側とを覆うように配置されている(
図2参照)。
【0102】
オイルパス93の基本面部93aの外周部にはシール部材93fが配置されており、該シール部材93fによって、オイルパス93と、第2ケース部材82の内周面とがシールされている(
図2参照)。
【0103】
なお、オイルパス93の切欠部93dは、駆動ギヤ13と被駆動ギヤ14との噛み合い部Xに対応する位置に配置されている。
【0104】
オイルパス93のガイド部93cには、基本面部93aの上端部から被駆動ギヤ14の外周面に沿ってその一部を覆うように延びる天井部93gと、該天井部93gの噛み合い部X側の端部から被駆動ギヤ14の歯部14a側に延びる縦壁部93hとが設けられている。なお、縦壁部93hは、被駆動ギヤ14の斜歯の歯面の傾斜と同方向に傾斜させて形成されている。
【0105】
また、
図4に示すように、オイルパス93のガイド部93cの車体前方側の端部に対応する位置には、第2の案内部材94が設けられている。この第2の案内部材94は、軸受潤滑経路P1の一部を構成しており、
図4および
図6を参照しながら第2の案内部材94について説明する。
【0106】
図6に示すように、被駆動ギヤ14と車体前後方向において平行となるように配置された基本面部94aと、該基本面部94aの駆動ギヤ13側の下部に設けられた孔94bと、基本面部94aの下端部で孔94bから反駆動ギヤ13側に延びるオイル受け部としての傾斜部94cと、該傾斜部94cの駆動ギヤ13側の端部から孔94bを取り囲むように立ち上がる立ち上がり部94dとが設けられている。
【0107】
第2の案内部材94は、基本面部94aの駆動ギヤ13側の端部の上下両側に設けられた固定部94e、94eが、第1ケース部材81の支持部81aに設けられた取り付け部81b、81bにタッピングスクリュー94f、94fによって取り付けられている。
【0108】
さらに、
図7を参照しながら、軸受潤滑経路P1の案内通路の一部を構成する第1ケース部材81について説明する。なお、
図7は、
図2におけるB-B矢視で示すトランスファケース80の第1ケース部材81単体を示す背面図である。
【0109】
第1ケース部材81の支持部81aには、該支持部81aの車体前端から後輪用出力軸11側に延びる縦壁部81cが設けられている。支持部81aの外周側には、被駆動ギヤ14側に膨出するとともに支持部81aに連続する溝部81dが設けられている。
【0110】
溝部81dは、駆動ギヤ13側に開放される断面コ字状に形成されている。溝部81dの車体前方側の前壁部81eは、支持部81aの縦壁部81cに連続している。溝部81dは、前壁部81eの下端部から車体後方側に立ち上がる下壁部81fと、下壁部81fの被駆動ギヤ14側から上方に立ち上がる側壁部81gと、該側壁部81gの上端から駆動ギヤ13側に延びる上壁部81hとを有している。
【0111】
溝部81dは、ギヤ室Z1側に開放されている。なお、
図8に示すように、第2の案内部材94の孔94bは、第1ケース部材81の溝部81dと連通する状態で配置されている。
【0112】
支持部81aに前方側軸受64が圧入された状態において、溝部81dの側壁部81gと、前方側軸受64のアウタレース64aとの間には、隙間P11が形成される。溝部81dの前壁部81eおよび該前壁部81eと連続する第1ケース部材81の縦壁部81cと、プレート部材84との間には、隙間P12が形成される。プレート部材84と、シール部材85との間には、隙間P13が形成される。プレート部材84の後輪用出力軸11側の端部84aと、後輪用出力軸11の外周との間には、隙間P14が形成される。
【0113】
プレート部材84と前方側軸受64のインナレース64bの前端部および駆動ギヤ13の前方側円筒部13bの車体前端部との間には、隙間P15が形成される。前方側円筒部13bと、後輪用出力軸11の外周部との間には、隙間P16が形成される。
【0114】
隙間P11~P16は、駆動ギヤ13の内周部と後輪用出力軸11の外周部との間に配置されるニードルベアリング61まで連通されて、軸受潤滑経路P1を構成する案内通路P10が形成されている。
【0115】
したがって、ギヤ室Z1と、第2の案内部材94の孔94bと、軸受潤滑経路P1とが連通状態となる。
【0116】
図8を参照しながら、潤滑油案内構造における軸受潤滑経路P1のニードルベアリング61からカップリング室Z2に潤滑油を供給するカップリング冷却経路P2について説明する。
【0117】
カップリング冷却経路P2は、ダンパ30の動力伝達部材36の円筒部36aと後輪用出力軸11の外周部との隙間P21と、動力伝達部材36の連結部36bおよびダンパ30の内筒部材32のスプライン部32aとカップリング20の外側回転部材21aの連絡部21eとの間のスプライン嵌合部P22と、連絡部21eとダンパ30の内筒部材32およびダンパ30の車体後方側との間の隙間P23とによって形成されている。
【0118】
そして、カップリング冷却経路P2の上流側の隙間P21と、軸受潤滑経路P1の下流側のニードルベアリング61とは、連通状態なので、ギヤ室Z1からカップリング室Z2が、軸受潤滑経路P1と、カップリング冷却経路P2とを介して連通されている。
【0119】
ところで、本実施形態においては、トランスファ装置10の応答性向上のために、前述のように、カップリング20の前輪側のギヤ比と後輪側のギヤ比との間に1%のギヤ比が設けられている。
【0120】
これにより、前輪に連絡される外側回転部材21aに複数の摩擦板23cを介して連結されるパイロットカム22bと、後輪用出力軸11とともに回転するメインカム22aとの間に回転差が生じる。
【0121】
その結果、
図3(b)に示すように、カム溝22d、22e間のボール部材22cのあそびが詰められ、メインクラッチ21の複数の摩擦板21cの締結における応答性が向上されている。
【0122】
しかしながら、カム機構22のボール部材22cのあそびを詰めることで、カップリング20のメインクラッチ21の複数の摩擦板21c間において摺動が生じ、特に、摺動が大きくなる高速走行時においては、カップリング20の摺動による発熱が大きくなる虞がある。
【0123】
ここで、
図4および
図8を用いて、本実施形態のカップリング20を冷却するための潤滑油案内構造の作用について説明する。
【0124】
まず、トランスファ装置10では、駆動時に駆動ギヤ13に嵌合された被駆動ギヤ14が回転するとともに、該被駆動ギヤ14によってギヤ室Z1に貯留された潤滑油が掻き上げられて、駆動ギヤ13側が潤滑される。
【0125】
また、本実施形態においては、前述のように、被駆動ギヤ14のヘリカルギヤの歯面14bが回転方向R1の前方側となる方の側部14cが、車体前方側となるように形成されている(
図4参照)。
【0126】
これにより、
図8に示すように、被駆動ギヤ14の歯面14bの潤滑油は、静的な状態において被駆動ギヤ14の歯面14bの傾斜に沿って矢印R2方向に流れようとするが、被駆動ギヤ14は、矢印R1方向に回転しているので、潤滑油は、車体後方側には飛散しやすくなる。
【0127】
そして、被駆動ギヤ13の車体後方側には、オイル供給孔90が設けられているので、
図8の矢印R3に示すように、潤滑油を効果的にカップリング室Z2に供給することができる。
【0128】
また、
図5(b)の矢印R4に示すように、被駆動ギヤ14で掻き上げられるとともに飛散された潤滑油は、オイル供給孔90のガイド部90aにガイドされる。また、オイル供給孔90は、支持部82bの外周に沿って設けられているので、被駆動ギヤ14から駆動ギヤ13側へ飛散した潤滑油は、支持部82b外周面82cの一部を案内部90eとして機能させて、矢印R5に示すようにオイル供給孔90に導かれる。
【0129】
一方、被駆動ギヤ14の歯面14bの回転方向R1前方側となる方の側部14c(車体前方側)には飛散しにくくなるが、被駆動ギヤ14の駆動ギヤ13との噛み合い部Xよりも回転方向R1の後方側、かつ、被駆動ギヤ14の外周面に近接させて配置されたオイルパス93によって、被駆動ギヤ14がギヤ室Z1から掻き上げた潤滑油が、オイルパス93の傾斜に沿って、被駆動ギヤ14の歯面14bが回転方向R1前方側となる方の側部14c(車体前方側)に配置された駆動ギヤ13の前方側軸受64に供給されることになる。
【0130】
具体的には、
図8の矢印R6に示すように、被駆動ギヤ14によって掻き上げられた潤滑油は、オイルパス93の天井部93gおよび縦壁部93hの傾斜に沿って、車体前方側へ案内される。車体前方側へ案内された潤滑油は、第2の案内部材94の基本面部94aと、傾斜部94cと、立ち上がり部94dとによって、該第2の案内部材94の孔94bへ案内される。
【0131】
第2の案内部材94の孔94bへ案内された潤滑油は、溝部81dの側壁部81gと前方側軸受64のアウタレース64aとの隙間P11と、溝部81dの前壁部81eとプレート部材84との隙間P12と、シール部材85とプレート部材84との隙間P13と、プレート部材84の内周側の端部と後輪用出力軸11と隙間P14と、プレート部材84の車体後方側の面と前方側軸受64のインナレース64bおよび駆動ギヤ13の前方側円筒部13bと隙間P15によって、駆動ギヤ13の車体前方側の前方側軸受64に供給される。
【0132】
後輪用出力軸11側にガイドされた潤滑油の一部は、駆動ギヤ13の前方側円筒部13bの内周側と後輪用出力軸11と隙間P16を通り抜けて、駆動ギヤ13の内周側と後輪用出力軸11との間のニードルベアリング61が潤滑される。
【0133】
さらに、ニードルベアリング61を潤滑した潤滑油の一部は、ダンパ30の円筒部36aと後輪用出力軸11の外周部との隙間P21と、動力伝達部36の連絡部36bおよびダンパ30の内筒部材32のスプライン部33aとカップリング20の外側回転部材21aの連絡部21eとの間のスプライン嵌合部P22と、連絡部21eとダンパ30の内筒部材32およびダンパ30の車体後方側との間の隙間P23とを通り抜けて、カップリング室Z2に供給される。
【0134】
カップリング室Z2に供給された潤滑油は、
図5の矢印R7、R7に示すように、排出口91および第2の排出口92よりギヤ室Z1側へ排出されるので、カップリング室Z2に供給される潤滑油を、ギヤ室Z1との間で循環させることができる。
【0135】
なお、両排出口91、92の位置は、オイル供給孔90よりも低い位置とされているため、軸受潤滑経路P1およびカップリング冷却経路P2と、オイル供給孔90から供給された潤滑油が、カップリング室Z2に貯留される量を適切なオイルレベルに保持することができる。
【0136】
これにより、カップリング20の回転による攪拌抵抗を抑制することができるので、効率よくカップリング20を冷却することができる。
【0137】
また、カップリング室Z2においてカップリング20の冷却のために利用された潤滑油が、ギヤ室Z1に戻されることで、ギヤ室Z1の下部で冷却された潤滑油をカップリング室Z2に再度供給することができる。
【0138】
したがって、冷却された潤滑油によってカップリング20を冷却することができるので、より効率よくカップリング20を冷却することができる。その結果、潤滑油を必要以上に増加させることなく、駆動ギヤ13および被駆動ギヤ14の潤滑と、カップリング20の冷却とを効率よく実現することができる。
【0139】
また、本実施形態においては、カップリング室Z2側においても、カップリング20を冷却するための構造が設けられている。
【0140】
図9に示すように、カップリング室Z2を形成する第2ケース部材82は、その上部に突出する凸部でなる複数のフィン82d…82dが設けられている。これにより、カップリング室Z2に供給される潤滑油を第2ケース部材82の複数のフィン82d…82dを介した熱交換を実施することができる。
【0141】
また、カップリング室Z2と、カップリング20との間には、隙間S1が設けられている。カップリング室Z2の下部においては、カップリング20に対する隙間S2がその他の隙間S1よりも狭められて設けられている。
【0142】
カップリング室Z2の下部に貯留された潤滑油は、カップリング20の回転によって攪拌され、カップリング室Z2の上部側へ引き上げられる。このとき、カップリング室Z2の下部とカップリング20との隙間が狭められているので、潤滑油の流速が速められることで、カップリング室Z2のより上部側へ引き上げることができる。
【0143】
また、カップリング室Z2の上部は、複数のフィン82d…82dによって冷却されているため、上部側へ引き上げられた潤滑油が冷却されることになり、この冷却された潤滑油によって、カップリング20がより効率よく冷却されることができる。
【0144】
本発明は、例示された実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計上の変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0145】
以上のように、本発明によれば、四輪駆動車に搭載されるトランスファ装置において、燃費の悪化を抑制しつつ、トランスファ装置のカップリングの発熱による耐久性の低下を抑制できるので、この種の車両の製造産業分野において好適に利用される可能性がある。
【符号の説明】
【0146】
10 トランスファ装置
13 駆動ギヤ(第1ギヤ)
14 被駆動ギヤ(第2ギヤ)
14b 被駆動ギヤの歯面(第2ギヤの歯面)
20 カップリング
63、64 一対の軸受
82a 側壁部
82b 支持部
90 オイル供給孔
90a ガイド部
90e 案内部
91、92 排出口
X 噛み合い部
Z1 ギヤ室
Z2 カップリング室