(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-28
(45)【発行日】2022-03-08
(54)【発明の名称】可変圧縮装置及びエンジンシステム
(51)【国際特許分類】
F02B 75/04 20060101AFI20220301BHJP
F02D 15/02 20060101ALI20220301BHJP
【FI】
F02B75/04
F02D15/02 C
(21)【出願番号】P 2018074126
(22)【出願日】2018-04-06
【審査請求日】2020-12-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100167553
【氏名又は名称】高橋 久典
(72)【発明者】
【氏名】増田 裕
(72)【発明者】
【氏名】梅本 義幸
【審査官】池田 匡利
(56)【参考文献】
【文献】独国特許出願公開第102016208209(DE,A1)
【文献】国際公開第2015/108182(WO,A1)
【文献】特表平10-502986(JP,A)
【文献】米国特許第04938192(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 75/04
F02D 15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
昇圧された作動流体が供給されることでピストンロッドが圧縮比を高める方向に移動される流体室と、前記ピストンロッドの圧縮比を高める方向への移動を規制する規制部材とを有する可変圧縮装置であって、
前記ピストンロッドと規制部材との間に設けられると共に作動流体が貯留される規制部材側流体室と、
前記規制部材側流体室に供給される作動流体を案内する供給流路と、
前記規制部材側流体室から排出される作動流体を案内する排出流路と、
前記排出流路に設けられると共に、前記ピストンロッドが前記規制部材に近づく際に、前記作動流体の流通を規制する流量規制部とを有
し、
前記流量規制部は、前記ピストンロッドと共に移動可能とされる錘部材と、前記錘部材の移動により閉弁方向に移動される弁体とを有することを特徴とする可変圧縮装置。
【請求項2】
前記流量規制部は、前記錘部材を開弁方向に付勢する付勢部材を有することを特徴とする請求項1記載の可変圧縮装置。
【請求項3】
前記規制部材側流体室には、前記流体室に供給される前記作動流体の一部が供給されることを特徴とする請求項1または2記載の可変圧縮装置。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の可変圧縮装置を有することを特徴とするエンジンシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可変圧縮装置及びエンジンシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、クロスヘッドを有する大型往復ピストン燃焼エンジンが開示されている。特許文献1の大型往復ピストン燃焼エンジンは、重油などの液体燃料と天然ガス等の気体燃料との両方での稼働が可能とされるデュアルフュエルエンジンである。特許文献1の大型往復ピストン燃焼エンジンは、液体燃料による稼働に適する圧縮比と気体燃料による稼働に適する圧縮比との双方に対応するため、油圧によりピストンロッドを移動させることで圧縮比を変更させる調整機構(可変圧縮装置)をクロスヘッド部分に設けている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような構成の可変圧縮装置は、ピストンロッドの圧縮比を高める方向への移動を規制する規制部材を有している。ところで、エンジン始動時や、エンジンの急停止時等、燃焼圧力がかからない状態では、ピストンロッドの往復による上向き慣性力よりも、シリンダ内圧力によるピストンを下に押下げる力が小さくなり、ピストンロッドが下部油室の油圧に拠らず自らの慣性力で上昇する。これにより、ピストンロッドが規制部材に近づく方向(圧縮比を高める方向)へと慣性力により移動されると、規制部材とピストンロッドとが衝突する。
【0005】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、可変圧縮装置において、規制部材とピストンロッドとの衝突を防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するための第1の手段として、昇圧された作動流体が供給されることでピストンロッドが圧縮比を高める方向に移動される流体室と、上記ピストンロッドの圧縮比を高める方向への移動を規制する規制部材とを有する可変圧縮装置であって、上記ピストンロッドと規制部材との間に設けられると共に作動流体が貯留される規制部材側流体室と、上記規制部材側流体室に供給される作動流体を案内する供給流路と、上記規制部材側流体室から排出される作動流体を案内する排出流路と、上記排出流路に設けられると共に、上記ピストンロッドが上記規制部材に近づく際に、上記作動流体の流通を規制する流量規制部とを有する、という構成を採用する。
【0007】
第2の手段として、上記第1の手段において、上記流量規制部は、上記ピストンロッドと共に移動可能とされる錘部材と、上記錘部材の移動により閉弁方向に移動される弁体とを有する、という構成を採用する。
【0008】
第3の手段として、上記第2の手段において、上記流量規制部は、上記錘部材を開弁方向に付勢する付勢部材を有する、という構成を採用する。
【0009】
第4の手段として、上記第2または3の手段において、上記検出手段は、上記ロッドに設けられる磁性部材を有し、上記規制部材側流体室には、上記流体室に供給される上記作動流体の一部が供給される、という構成を採用する。
【0010】
第5の手段として、エンジンシステムは、上記第1~第4の手段に記載の可変圧縮装置を備える、という構成を採用する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ピストンロッドが規制部材に近づく方向に移動された際に、流動規制部が排出流路を閉鎖し、規制部材側流体室に作動油を貯留した状態を保持することができる。規制部材側流体室内の作動流体がダンパとしてはたらくことにより、ピストンロッドが規制部材に大きな力で衝突することを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態におけるエンジンシステムの断面図である。
【
図2】本発明の一実施形態におけるエンジンシステムの一部を示す模式断面図である。
【
図3】本発明の一実施形態におけるエンジンシステムの備える流量規制部の変形例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明におけるエンジンシステムの一実施形態について説明する。なお、以下の図面において、各部材を認識可能な大きさとするために、各部材の縮尺を適宜変更している。
【0014】
本実施形態のエンジンシステム100は、例えば大型タンカなど船舶に搭載され、
図1に示すように、エンジン1と、過給機200と、制御部300とを有している。なお、本実施形態においては、過給機200を補機として捉え、エンジン1(主機)と別体として説明する。但し、過給機200をエンジン1の一部として構成することも可能である。
【0015】
エンジン1は、多気筒のユニフロー掃気ディーゼルエンジンとされ、天然ガス等の気体燃料を重油などの液体燃料と共に燃焼させるガス運転モードと、重油などの液体燃料を燃焼させるディーゼル運転モードとを有している。なお、ガス運転モードでは、気体燃料のみを燃焼させても良い。このようなエンジン1は、架構2と、シリンダ部3と、ピストン4と、排気弁ユニット5と、ピストンロッド6と、クロスヘッド7と、油圧部8(昇圧機構)と、連接棒9と、クランク角センサ10と、クランク軸11と、掃気溜12と、排気溜13と、空気冷却器14と、上部油圧室油圧機構15とを有している。また、シリンダ部3、ピストン4、排気弁ユニット5及びピストンロッド6により、気筒が構成されている。
【0016】
架構2は、エンジン1の全体を支持する強度部材であり、クロスヘッド7、油圧部8及び連接棒9が収容されている。また、架構2は、内部において、クロスヘッド7の後述するクロスヘッドピン7aが往復動可能とされている。
【0017】
シリンダ部3は、円筒状のシリンダライナ3aと、シリンダヘッド3bとシリンダジャケット3cとを有している。シリンダライナ3aは、円筒状の部材であり、ピストン4との摺動面が内側に形成されている。このようなシリンダライナ3aの内周面とピストン4とにより囲まれた空間が燃焼室R1とされている。また、シリンダライナ3aの下部には、複数の掃気ポートSが形成されている。掃気ポートSは、シリンダライナ3aの周面に沿って配列された開口であり、シリンダジャケット3c内部の掃気室R2とシリンダライナ3aの内側とを連通している。シリンダヘッド3bは、シリンダライナ3aの上端部に設けられた蓋部材である。シリンダヘッド3bは、平面視において中央部に排気ポートHが形成され、排気溜13と接続されている。また、シリンダヘッド3bには、不図示の燃料噴射弁が設けられている。さらに、シリンダヘッド3bの燃料噴射弁の近傍には、不図示の筒内圧センサが設けられている。筒内圧センサは、燃焼室R1内の圧力を検出し、制御部300へと送信している。シリンダジャケット3cは、架構2とシリンダライナ3aとの間に設けられ、シリンダライナ3aの下端部が挿入された円筒状の部材であり、内部に掃気室R2が形成されている。また、シリンダジャケット3cの掃気室R2は、掃気溜12と接続されている。
【0018】
ピストン4は、略円柱状とされ、後述するピストンロッド6と接続されてシリンダライナ3aの内側に配置されている。また、ピストン4の外周面には不図示のピストンリングが設けられ、ピストンリングにより、ピストン4とシリンダライナ3aとの間隙を封止している。ピストン4は、燃焼室R1における圧力の変動により、ピストンロッド6を伴ってシリンダライナ3a内を摺動する。
【0019】
排気弁ユニット5は、排気弁5aと、排気弁筐5bと、排気弁駆動部5cとを有している。排気弁5aは、シリンダヘッド3bの内側に設けられ、排気弁駆動部5cにより、シリンダ部3内の排気ポートHを閉塞する。排気弁筐5bは、排気弁5aの端部を収容する円筒形の筐体である。排気弁駆動部5cは、排気弁5aをピストン4のストローク方向に沿う方向に移動させるアクチュエータである。
【0020】
ピストンロッド6は、一端がピストン4と接続され、他端がクロスヘッドピン7aと連結された長尺状部材である。ピストンロッド6の端部は、クロスヘッドピン7aに挿入され、連接棒9が回転可能となるように連結されている。また、ピストンロッド6は、クロスヘッドピン7a側端部の一部の径が太く形成された太径部を有している。
【0021】
クロスヘッド7は、クロスヘッドピン7aと、ガイドシュー7bと、蓋部材7c(規制部材)とを有している。クロスヘッドピン7aは、ピストンロッド6と連接棒9とを移動可能に連結する円柱状部材であり、ピストンロッド6の端部が挿入される挿入空間に、作動油(作動流体)の供給及び排出が行われる油圧室R3(流体室)が形成される。クロスヘッドピン7aには、中心よりも下側に、クロスヘッドピン7aの軸方向に沿って貫通する出口孔Oが形成されている。出口孔Oは、ピストンロッド6の不図示の冷却流路を通過した冷却油が排出される開口である。また、クロスヘッドピン7aには、油圧室R3と後述するプランジャポンプ8cとを接続する供給流路R4と、油圧室R3と後述するリリーフ弁8fとを接続するリリーフ流路R5とが設けられている。
【0022】
ガイドシュー7bは、クロスヘッドピン7aを回動可能に支持する部材であり、クロスヘッドピン7aに伴ってピストン4のストローク方向に沿って不図示のガイドレール上を移動する。ガイドシュー7bがガイドレールに沿って移動することにより、クロスヘッドピン7aは、回転運動と、ピストン4のストローク方向に沿う直線方向以外への移動が規制される。蓋部材7cは、クロスヘッドピン7aの上部に固定され、ピストンロッド6の端部が挿入される環状部材である。また、蓋部材7cには、ピストンロッド6との摺動面にシールリングが設けられている。これにより、蓋部材7cと、ピストンロッド6の太径部との間に、上部油圧室R6(規制部材側流体室)が形成されている。また、蓋部材7cには、上部油圧室R6へと供給される作動油を案内する供給流路R7の一部と、上部油圧室R6から排出される作動油を案内する排出流路R8の一部とが形成されている。このようなクロスヘッド7は、ピストン4の直線運動を連接棒9へと伝達している。
【0023】
図2に示すように、油圧部8は、供給ポンプ8aと、揺動管8bと、プランジャポンプ8cと、プランジャポンプ8cが有する第1逆止弁8d及び第2逆止弁8eと、リリーフ弁8fとを有している。また、ピストンロッド6、クロスヘッド7、油圧部8、上部油圧室油圧機構15、制御部300は、本発明における可変圧縮装置として機能する。
【0024】
供給ポンプ8aは、制御部300からの指示に基づいて、不図示の作動油タンクから供給される作動油を昇圧してプランジャポンプ8cへと供給するポンプである。供給ポンプ8aは、船舶の発電機の電力により駆動され、燃焼室R1に液体燃料が供給されるよりも前に稼働することが可能である。揺動管8bは、供給ポンプ8aと各気筒のプランジャポンプ8cとを接続する配管であり、クロスヘッドピン7aに伴って移動するプランジャポンプ8cと、固定された供給ポンプ8aとの間において、揺動可能とされている。
【0025】
プランジャポンプ8cは、クロスヘッドピン7aに固定されており、棒状のプランジャ8c1と、プランジャ8c1を摺動可能に収容する筒状のシリンダ8c2と、プランジャ駆動部8c3とを有している。プランジャポンプ8cは、プランジャ8c1が不図示の駆動部と接続されることで、シリンダ8c2内を摺動し、作動油を昇圧して油圧室R3へと供給する。また、シリンダ8c2には、端部に設けられた作動油の吐出側の開口に第1逆止弁8dが設けられ、側周面に設けられた吸入側の開口に第2逆止弁8eが設けられている。プランジャ駆動部8c3は、プランジャ8c1に接続され、制御部300からの指示に基づいてプランジャ8c1を往復動させる。
【0026】
第1逆止弁8dは、シリンダ8c2の内側に向けて弁体が付勢されることで閉弁する構造とされ、油圧室R3に供給された作動油がシリンダ8c2へと逆流することを防止している。また、第1逆止弁8dは、シリンダ8c2内の作動油の圧力が第1逆止弁8dの付勢部材の付勢力(開弁圧力)以上となると、弁体が作動油に押されることにより開弁する。第2逆止弁8eは、シリンダ8c2の外側に向けて付勢されており、シリンダ8c2に供給された作動油が供給ポンプ8aへと逆流することを防止している。また、第2逆止弁8eは、供給ポンプ8aから供給される作動油の圧力が第2逆止弁8eの付勢部材の付勢力(開弁圧力)以上となると、弁体が作動油に押されることにより開弁する。なお、第1逆止弁8dは、開弁圧力が第2逆止弁8eの開弁圧力よりも高く、予め設定された圧縮比で運転される定常運転時においては、供給ポンプ8aから供給される作動油の圧力により開弁することはない。
【0027】
リリーフ弁8fは、クロスヘッドピン7aに設けられ、本体部8f1と、リリーフ弁駆動部8f2とを有している。本体部8f1は、油圧室R3及び不図示の作動油タンクに接続される弁である。リリーフ弁駆動部8f2は、本体部8f1の弁体に接続され、制御部300からの指示に基づいて本体部8f1を開閉弁する。リリーフ弁8fがリリーフ弁駆動部8f2により開弁することで、油圧室R3に貯留された作動油が作動油タンクに戻される。
【0028】
図1に示すように、連接棒9は、クロスヘッドピン7aと連結されると共にクランク軸11と連結されている長尺状部材である。連接棒9は、一端にクロスヘッドピン7aが回転可能に接続されており、クロスヘッドピン7aに伝えられたピストン4の直線運動を回転運動に変換している。クランク角センサ10は、クランク軸11のクランク角を計測するためのセンサであり、制御部300へとクランク角を算出するためのクランクパルス信号を送信している。
【0029】
クランク軸11は、気筒に設けられる連接棒9に接続された長尺状の部材であり、それぞれの連接棒9により伝えられる回転運動により回転されることで、例えばスクリュー等に動力を伝える。掃気溜12は、シリンダジャケット3cと過給機200との間に設けられ、過給機200により加圧された空気が流入する。また、掃気溜12には、空気冷却器14が内部に設けられている。排気溜13は、各気筒の排気ポートHと接続されると共に過給機200と接続される管状部材である。排気ポートHより排出されるガスは、排気溜13に一時的に貯留されることにより、脈動を抑制した状態で過給機200へと供給される。空気冷却器14は、掃気溜12内部の空気を冷却する装置である。
【0030】
上部油圧室油圧機構15は、逆止弁15aと、絞り弁装置15b(流体規制部)とを備えている。逆止弁15aは、供給流路R7中に設けられ、上部油圧室R6中の作動油が供給ポンプ8a側に逆流することを防止する弁である。絞り弁装置15bは、流路部材15cと、錘部材15dと、付勢バネ15e(付勢部材)と、支持部材15fとを有している。
【0031】
流路部材15cは、不図示の軸受部材等により蓋部材7cに回転可能に固定された円柱状部材である。流路部材15cは、開弁状態で排出流路R8の一部を形成すると共に、回転されることにより、排出流路R8の流通を規制する部材である。錘部材15dは、蓋部材7cに固定された支持部材15fにより下方から支持されると共に、ピストンロッド6に固定された付勢バネ15eにより吊り下げられた状態で支持された部材である。
【0032】
錘部材15dは、流路部材15cに接続されており、慣性力により鉛直方向に移動される。すなわち、錘部材15dは、クロスヘッドピン7aに伴って蓋部材7cが鉛直方向上向きの方向へと移動されることにより、鉛直方向上側に向けて慣性力がはたらいた際に、鉛直方向上側に向けて移動される。付勢バネ15eは、支持部材15fに鉛直方向上側の一端が固定されると共に錘部材15dを吊り下げる部材である。支持部材15fは、蓋部材7cに固定され、蓋部材7cと共に上下動する部材であり、錘部材15d及び付勢バネ15eを支持している。
【0033】
過給機200は、排気ポートHより排出されたガスにより回転されるタービンにより、不図示の吸気ポートから吸入した空気を加圧して燃焼室R1に供給する装置である。
【0034】
制御部300は、船舶の操縦者による操作等に基づいて、燃料の供給量等を制御するコンピュータである。制御部300は、位置検出部400の後述する通信部430の無線通信を受信する受信部を備えている。また、制御部300は、油圧部8を制御することにより、燃焼室R1における圧縮比を変更する。具体的には、制御部300は、位置検出部400からの信号に基づいてピストンロッド6の位置情報を取得し、プランジャポンプ8c、供給ポンプ8a及びリリーフ弁8fを制御し、油圧室R3における作動油の量を調整することにより、ピストンロッド6の位置を変更させて圧縮比を変更する。
【0035】
このようなエンジンシステム100は、不図示の燃料噴射弁より燃焼室R1に噴射された燃料を着火、爆発させることによりピストン4をシリンダライナ3a内で摺動させ、クランク軸11を回転させる装置である。詳述すると、燃焼室R1に供給された燃料は、掃気ポートSより流入した空気と混合された後、ピストン4が上死点方向に向けて移動することにより圧縮されて温度が上昇し、自然着火する。また、液体燃料の場合には、燃焼室R1において温度上昇することにより気化し、自然着火する。
【0036】
そして、燃焼室R1内の燃料が自然着火することで急激に膨張し、ピストン4には下死点方向に向けた圧力がかかる。これにより、ピストン4が下死点方向に移動し、ピストン4に伴ってピストンロッド6が移動され、連接棒9を介してクランク軸11が回転される。さらに、ピストン4が下死点に移動されることで、掃気ポートSより燃焼室R1へと加圧空気が流入する。排気弁ユニット5が駆動することで排気ポートHが開き、燃焼室R1内の排気ガスが、加圧空気により排気溜13へと押し出される。
【0037】
圧縮比を大きくする場合には、制御部300により供給ポンプ8aが駆動され、プランジャポンプ8cに作動油が供給される。そして、制御部300は、プランジャポンプ8cを駆動して作動油を、ピストンロッド6を持ち上げることが可能な圧力となるまで加圧し、油圧室R3へと作動油を供給する。油圧室R3の作動油の圧力により、ピストンロッド6の端部が持ち上がり、これに伴ってピストン4の上死点位置が上方(排気ポートH側)に移動される。
【0038】
圧縮比を小さくする場合には、制御部300によりリリーフ弁8fが駆動され、油圧室R3と不図示の作動油タンクとが連通状態となる。そして、ピストンロッド6の荷重が油圧室R3の作動油にかかり、油圧室R3内の作動油がリリーフ弁8fを介して作動油タンクへと押し出される。これにより、油圧室R3の作動油が減少し、ピストンロッド6が下方(クランク軸11側)に移動され、これに伴ってピストン4の上死点位置が下方に移動される。
【0039】
また、供給ポンプ8aから、供給流路R7を介して作動油の一部が上部油圧室R6へと流入し、上部油圧室R6が作動油により満たされる。ピストンロッド6にかかる力が鉛直方向下向きの場合、排出流路R8に設けられた絞り弁装置15bが常に開弁状態であり、上部油圧室R6から溢れた作動油は、排出流路R8を介して外部へと排出される。なお、供給ポンプ8aから供給される作動油は、プランジャポンプ8cを介して供給される作動油よりも圧力が低い。したがって、上部油圧室R6内の作動油の圧力は油圧室R3内の作動油の圧力よりも小さく設定されている。
【0040】
クロスヘッドピン7aの上下動に伴って連接棒9を介してクランク軸11が回転される。クロスヘッドピン7aの移動に対して、ピストン4及びピストンロッド6は、上下方向においてクロスヘッドピン7aに固定されていない状態のため、慣性力がはたらく。このとき、クラッシュアスターン等によりエンジン1を急停止させる場合及びエンジン1の始動時には、燃焼圧力がピストン4にかからず、シリンダ内圧力によるピストンを下に押下げる力が小さくなり、ピストンロッド6に対してシリンダ内圧力によるピストンを下に押下げる力よりも大きな鉛直方向上向きの慣性力がかかると、ピストンロッド6が蓋部材7cに近づく方向に移動される。この際、付勢バネ15eに移動可能に支持された錘部材15dは、鉛直方向上向きにかかる慣性力と付勢バネ15eの弾性力とがはたらき、鉛直方向上向きに持ち上げられ、流路部材15cが回転される。これにより、排出流路R8が閉鎖され、上部油圧室R6内の作動油が、上部油圧室R6から排出されなくなる。したがって、ピストンロッド6が慣性力により鉛直方向上方向に持ち上げられても、上部油圧室R6内の作動油がダンパとしてはたらくことにより、ピストンロッド6が蓋部材7cに大きな力で衝突することを防止できる。
そして、ピストンロッド6が反動等で鉛直方向下向き(蓋部材7cから離れる方向)に移動を開始すると、錘部材15dは、自重により、鉛直方向下向きに移動し、流路部材15cが回転され、排出流路R8が開放される。
【0041】
また、エンジン1の回転数が変化する際にも、錘部材15dに慣性力がはたらき、僅かに錘部材15dが鉛直方向上向きに持ち上げられる。これにより、流路部材15cがわずかに回転し、流路部材15cの入口及び出口が狭められることで、排出流路R8の流量を減少させることができる。
【0042】
このような本実施形態によれば、ピストンロッド6が蓋部材7cに近づく方向に移動された際に、絞り弁装置15bが作動し、上部油圧室R6作動油を貯留した状態を保持することができ、上部油圧室R6内の作動油がダンパとしてはたらくことにより、ピストンロッド6が蓋部材7cに大きな力で衝突することを防止できる。
【0043】
また、本実施形態によれば、絞り弁装置15bは、流路部材15cをピストンロッド6と共に移動する錘部材15dにより回転させることで、排出流路R8の開放、閉鎖を切り替えている。これにより、機械的に絞り弁装置15bを開閉することができ、複雑なセンシング等を行わずに単純な構成で課題を解決することができる。
【0044】
また、本実施形態によれば、錘部材15dは、付勢バネ15eにより鉛直方向上向き(開弁方向)に付勢されている。これにより、一度絞り弁装置15bが閉弁された後に、ピストンロッド6の移動と共にスムーズに流路部材15cを回転させて開弁させることができる。
【0045】
また、本実施形態によれば、油圧室R3に供給される作動油の一部が供給流路R7を介して上部油圧室R6に供給される。これにより、上部油圧室R6を設けるに当たり新たな油圧系統を設ける必要がなく、構成を単純とすることができる。
【0046】
以上、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。上述した実施形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の趣旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0047】
上記実施形態においては、流量規制部として、絞り弁装置15bを用いたが、本発明はこれに限定されない。例えば、流量規制部として、
図3に示す絞り弁16を用いても良い。絞り弁16は、流路部材16aと、流路部材16aに内設される弁体16bと、弁体16bを開弁方向に付勢する付勢バネ16cとを有している。流路部材16aは、蓋部材7cに固定されると共に、排出流路R8の一部を形成している。弁体16bは、流路部材16a内部に上下方向に移動可能に設けられ、慣性力により、ピストンロッド6が蓋部材7cに近づく方向に移動される際に閉弁方向に移動される。このような絞り弁16を用いても、上記実施形態と同様に、ピストンロッド6が蓋部材7cに近づく方向に移動される際に、流路部材16aを閉鎖することで上部油圧室R6内の作動油を保持し、ピストンロッド6と蓋部材7cとの衝突を防止することができる。
【0048】
また、上記実施形態においては、絞り弁装置15bを用いるものとしたが、ピストンロッド6の位置を検出する位置検出センサを設け、排出流路R8に電磁弁を設けることにより、ピストンロッド6の位置に基づいて、電磁弁の開弁、閉弁を電子制御で切り替えるものとしてもよい。
【0049】
油圧室R3に供給される作動油の一部を上部油圧室R6に供給するものとしたが、本発明はこれに限定されず、上部油圧室R6には、別系統で作動油を供給するものとしてもよい。
【符号の説明】
【0050】
1 エンジン
2 架構
3 シリンダ部
3a シリンダライナ
3b シリンダヘッド
3c シリンダジャケット
4 ピストン
5 排気弁ユニット
5a 排気弁
5b 排気弁筐
5c 排気弁駆動部
6 ピストンロッド
7 クロスヘッド
7a クロスヘッドピン
7b ガイドシュー
7c 蓋部材
8 油圧部
8a 供給ポンプ
8b 揺動管
8c プランジャポンプ
8c1 プランジャ
8c2 シリンダ
8c3 プランジャ駆動部
8d 第1逆止弁
8e 第2逆止弁
8f リリーフ弁
8f1 本体部
8f2 リリーフ弁駆動部
9 連接棒
10 クランク角センサ
11 クランク軸
12 掃気溜
13 排気溜
14 空気冷却器
15 上部油圧室油圧機構
15a 逆止弁
15b 弁装置
15c 流路部材
15d 錘部材
15e 付勢バネ
16 弁
16a 流路部材
16b 弁体
16c 付勢バネ
100 エンジンシステム
200 過給機
300 制御部
400 位置検出部
430 通信部
H 排気ポート
O 出口孔
R1 燃焼室
R2 掃気室
R3 油圧室
R4 供給流路
R5 リリーフ流路
R6 上部油圧室
R7 供給流路
R8 排出流路
S 掃気ポート