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  • 特許-可変圧縮装置及びエンジンシステム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-28
(45)【発行日】2022-03-08
(54)【発明の名称】可変圧縮装置及びエンジンシステム
(51)【国際特許分類】
   F02B 75/04 20060101AFI20220301BHJP
   F02D 15/02 20060101ALI20220301BHJP
   F16F 7/00 20060101ALI20220301BHJP
【FI】
F02B75/04
F02D15/02 C
F16F7/00 G
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018074127
(22)【出願日】2018-04-06
(65)【公開番号】P2019183724
(43)【公開日】2019-10-24
【審査請求日】2020-12-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100167553
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 久典
(72)【発明者】
【氏名】増田 裕
(72)【発明者】
【氏名】梅本 義幸
【審査官】池田 匡利
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/108182(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0216427(US,A1)
【文献】米国特許第04938192(US,A)
【文献】特表平10-502986(JP,A)
【文献】特開2017-150389(JP,A)
【文献】実開昭63-168234(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 75/04
F02D 15/02
F16F 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
昇圧された作動流体が供給されることでピストンロッドが圧縮比を高める方向に移動される流体室の一部を形成する流体室形成部材と、前記ピストンロッドの圧縮比を高める方向への移動を規制する規制部材とを有する可変圧縮装置であって、
前記規制部材または前記ピストンロッドに固定され、前記規制部材と前記ピストンロッドとの衝突エネルギを弾性変形により吸収する吸収部材を有することを特徴とする可変圧縮装置。
【請求項2】
前記流体室形成部材に対して前記規制部材を固定するボルトを有し、
前記吸収部材は、前記規制部材と前記ボルトの頭部との間に設けられることを特徴とする請求項1記載の可変圧縮装置。
【請求項3】
前記吸収部材は、前記規制部材と前記ピストンロッドとの間に設けられることを特徴とする請求項1記載の可変圧縮装置。
【請求項4】
前記規制部材は、前記吸収部材が嵌合される凹部を有することを特徴とする請求項3記載の可変圧縮装置。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の可変圧縮装置を有することを特徴とするエンジンシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可変圧縮装置及びエンジンシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、クロスヘッドを有する大型往復ピストン燃焼エンジンが開示されている。特許文献1の大型往復ピストン燃焼エンジンは、重油などの液体燃料と天然ガス等の気体燃料との両方での稼働が可能とされるデュアルフュエルエンジンである。特許文献1の大型往復ピストン燃焼エンジンは、液体燃料による稼働に適する圧縮比と気体燃料による稼働に適する圧縮比との双方に対応するため、油圧によりピストンロッドを移動させることで圧縮比を変更させる調整機構をクロスヘッド部分に設けている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-20375号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のような圧縮比を変更する圧縮調整装置においては、圧縮比を高める方向においてピストンロッドの移動を規制する規制部材を設けることがある。高圧縮比で運転する際には、規制部材に対してピストンロッドが当接することとなる。しかしながら、例えば、エンジン始動時等のように燃焼室内に燃焼圧力が発生していない状態においてピストンロッドが移動される際には、ピストンロッドが規制部材に衝突することで、規制部材に大きな力が加わる可能性がある。
【0005】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、ピストンロッドから規制部材に加わる衝突エネルギを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するための第1の手段として、昇圧された作動流体が供給されることでピストンロッドが圧縮比を高める方向に移動される流体室の一部を形成する流体室形成部材と、上記ピストンロッドの圧縮比を高める方向への移動を規制する規制部材とを有する可変圧縮装置であって、上記規制部材またはピストンロッドに固定され、上記規制部材と上記ピストンロッドとの衝突エネルギを弾性変形により吸収する吸収部材を有する、という構成を採用する。
【0007】
第2の手段として、上記第1の手段において、上記流体室形成部材に対して上記規制部材を固定するボルトを有し、上記吸収部材は、上記規制部材と上記ボルトの頭部との間に設けられる、という構成を採用する。
【0008】
第3の手段として、上記第2の手段において、上記吸収部材は、上記規制部材と上記ピストンロッドとの間に設けられる、という構成を採用する。
【0009】
第4の手段として、上記第1の手段において、上記規制部材は、上記吸収部材が嵌合される凹部を有する、という構成を採用する。
【0010】
第5の手段として、エンジンシステムは、上記第1~第4の手段に記載の可変圧縮装置を備える、という構成を採用する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、吸収部材が弾性変形することにより、規制部材にピストンロッドが衝突する際の衝突エネルギを吸収することができる。したがって、規制部材がピストンロッドから受ける衝突エネルギを減少させることができ、規制部材にかかる衝撃を減少させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態におけるエンジンシステムの断面図である。
図2】本発明の一実施形態におけるエンジンシステムの一部を示す模式断面図である。
図3】本発明の一実施形態におけるエンジンシステムの変形例を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明に係る可変圧縮装置の一実施形態について説明する。なお、以下の図面において、各部材を認識可能な大きさとするために、各部材の縮尺を適宜変更している。
【0014】
[第1実施形態]
本実施形態のエンジンシステム100は、例えば大型タンカなど船舶に搭載され、図1に示すように、エンジン1と、過給機200と、制御部300(制御手段)とを有している。なお、本実施形態においては、過給機200を補機として捉え、エンジン1(主機)と別体として説明する。但し、過給機200をエンジン1の一部として構成することも可能である。
【0015】
エンジン1は、多気筒のユニフロー掃気ディーゼルエンジンとされ、天然ガス等の気体燃料を重油などの液体燃料と共に燃焼させるガス運転モードと、重油などの液体燃料を燃焼させるディーゼル運転モードとを有している。なお、ガス運転モードでは、気体燃料のみを燃焼させても良い。このようなエンジン1は、架構2と、シリンダ部3と、ピストン4と、排気弁ユニット5と、ピストンロッド6と、クロスヘッド7と、油圧部8と、連接棒9と、クランク角センサ10と、クランク軸11と、掃気溜12と、排気溜13と、空気冷却器14とを有している。また、シリンダ部3、ピストン4、排気弁ユニット5及びピストンロッド6により、気筒が構成されている。
【0016】
架構2は、エンジン1の全体を支持する強度部材であり、クロスヘッド7、油圧部8及び連接棒9が収容されている。また、架構2は、内部において、クロスヘッド7の後述するクロスヘッドピン7aが往復動可能とされている。
【0017】
シリンダ部3は、円筒状のシリンダライナ3aと、シリンダヘッド3bとシリンダジャケット3cとを有している。シリンダライナ3aは、円筒状の部材であり、ピストン4との摺動面が内側に形成されている。このようなシリンダライナ3aの内周面とピストン4とにより囲まれた空間が燃焼室R1とされている。また、シリンダライナ3aの下部には、複数の掃気ポートSが形成されている。掃気ポートSは、シリンダライナ3aの周面に沿って配列された開口であり、シリンダジャケット3c内部の掃気室R2とシリンダライナ3aの内側とを連通している。シリンダヘッド3bは、シリンダライナ3aの上端部に設けられた蓋部材である。シリンダヘッド3bは、平面視において中央部に排気ポートHが形成され、排気溜13と接続されている。また、シリンダヘッド3bには、不図示の燃料噴射弁が設けられている。さらに、シリンダヘッド3bの燃料噴射弁の近傍には、不図示の筒内圧センサが設けられている。筒内圧センサは、燃焼室R1内の圧力を検出し、制御部300へと送信している。シリンダジャケット3cは、架構2とシリンダライナ3aとの間に設けられ、シリンダライナ3aの下端部が挿入された箱状の部材であり、内部に掃気室R2が形成されている。また、シリンダジャケット3cの掃気室R2は、掃気溜12と接続されている。
【0018】
ピストン4は、略円柱状とされ、後述するピストンロッド6と接続されてシリンダライナ3aの内側に配置されている。また、ピストン4の外周面には不図示のピストンリングが設けられ、ピストンリングにより、ピストン4とシリンダライナ3aとの間隙を封止している。ピストン4は、燃焼室R1における圧力の変動により、ピストンロッド6を伴ってシリンダライナ3a内を摺動する。
【0019】
排気弁ユニット5は、排気弁5aと、排気弁筐5bと、排気弁駆動部5cとを有している。排気弁5aは、シリンダヘッド3bの内側に設けられ、排気弁駆動部5cにより、シリンダ部3内の排気ポートHを閉塞する。排気弁筐5bは、排気弁5aの端部を収容する円筒形の筐体である。排気弁駆動部5cは、排気弁5aをピストン4のストローク方向に沿う方向に移動させるアクチュエータである。
【0020】
ピストンロッド6は、一端がピストン4と接続され、他端がクロスヘッドピン7aと連結された長尺状部材である。ピストンロッド6の端部は、クロスヘッドピン7aに挿入され、連接棒9が回転可能となるように連結されている。また、ピストンロッド6は、クロスヘッドピン7a側端部の一部の径が太く形成された太径部を有している。
【0021】
クロスヘッド7は、図2に示すように、クロスヘッドピン7a(流体室形成部材)と、ガイドシュー7bと、蓋部材7c(規制部材)と、複数の固定ボルト7dと、コイルスプリング7e(吸収部材)とを有している。クロスヘッドピン7aは、ピストンロッド6と連接棒9とを移動可能に連結する円柱状部材である。クロスヘッドピン7aにおけるピストンロッド6の端部が挿入される挿入空間と、ピストンロッド6のフランジとにより、作動油(作動流体)の供給及び排出が行われる油圧室R3(流体室)が形成される。クロスヘッドピン7aには、中心よりも下側に、クロスヘッドピン7aの軸方向に沿って貫通する出口孔Oが形成されている。出口孔Oは、ピストンロッド6の不図示の冷却流路を通過した冷却油が排出される開口である。内部また、クロスヘッドピン7aには、油圧室R3と後述するプランジャポンプ8cとを接続する供給流路R4と、油圧室R3と後述するリリーフ弁8fとを接続するリリーフ流路R5とが設けられている。
【0022】
ガイドシュー7bは、クロスヘッドピン7aを支持する部材であり、クロスヘッドピン7aに伴ってピストン4のストローク方向に沿って不図示のガイドレール上を移動する。ガイドシュー7bがガイドレールに沿って移動することにより、クロスヘッドピン7aは、ピストン4のストローク方向に沿う直線方向以外への移動が規制される。蓋部材7cは、クロスヘッドピン7aの上部に固定され、ピストンロッド6の端部が挿入される環状部材である。
【0023】
固定ボルト7dは、頭部7d1と軸部7d2とを有し、軸部7d2が蓋部材7cに設けられたボルト孔に挿入され、蓋部材7cをクロスヘッドピン7aに対して固定する。また、固定ボルト7dは、頭部7d1が蓋部材7cから離間されており、頭部7d1と蓋部材7cとの間にコイルスプリング7e(吸収部材)が挿入されている。コイルスプリング7eは、固定ボルト7dの頭部7d1により、蓋部材7cにおけるクロスヘッドピン7aと当接しない面(上面)に固定され、蓋部材7cをクロスヘッドピン7aに向けて(下方向に向けて)付勢している。このようなクロスヘッド7は、ピストン4の直線運動を連接棒9へと伝達している。
【0024】
図2に示すように、油圧部8は、供給ポンプ8aと、揺動管8bと、プランジャポンプ8cと、プランジャポンプ8cが有する第1逆止弁8d及び第2逆止弁8eと、リリーフ弁8fとを有している。また、ピストンロッド6、クロスヘッド7、油圧部8、制御部300は、本発明における可変圧縮装置として機能する。
【0025】
供給ポンプ8aは、制御部300からの指示に基づいて、不図示の作動油タンクから供給される作動油を昇圧してプランジャポンプ8cへと供給するポンプである。供給ポンプ8aは、船舶の発電機の電力により駆動され、燃焼室R1に液体燃料が供給されるよりも前に稼働することが可能である。揺動管8bは、供給ポンプ8aと各気筒のプランジャポンプ8cとを接続する配管であり、クロスヘッドピン7aに伴って移動するプランジャポンプ8cと、固定された供給ポンプ8aとの間において、揺動可能とされている。
【0026】
プランジャポンプ8cは、クロスヘッドピン7aに固定されており、棒状のプランジャ8c1と、プランジャ8c1を摺動可能に収容する筒状のシリンダ8c2と、プランジャ駆動部8c3とを有している。プランジャポンプ8cは、プランジャ8c1が不図示の駆動部と接続されることで、シリンダ8c2内を摺動し、作動油を昇圧して油圧室R3へと供給する。また、シリンダ8c2には、端部に設けられた作動油の吐出側の開口に第1逆止弁8dが設けられ、側周面に設けられた吸入側の開口に第2逆止弁8eが設けられている。プランジャ駆動部8c3は、プランジャ8c1に接続され、制御部300からの指示に基づいてプランジャ8c1を往復動させる。
【0027】
第1逆止弁8dは、シリンダ8c2の内側に向けて弁体が付勢されることで閉弁する構造とされ、油圧室R3に供給された作動油がシリンダ8c2へと逆流することを防止している。また、第1逆止弁8dは、シリンダ8c2内の作動油の圧力が第1逆止弁8dの付勢部材の付勢力(開弁圧力)以上となると、弁体が作動油に押されることにより開弁する。第2逆止弁8eは、シリンダ8c2の外側に向けて付勢されており、シリンダ8c2に供給された作動油が供給ポンプ8aへと逆流することを防止している。また、第2逆止弁8eは、供給ポンプ8aから供給される作動油の圧力が第2逆止弁8eの付勢部材の付勢力(開弁圧力)以上となると、弁体が作動油に押されることにより開弁する。なお、第1逆止弁8dは、開弁圧力が第2逆止弁8eの開弁圧力よりも高く、予め設定された圧縮比で運転される定常運転時においては、供給ポンプ8aから供給される作動油の圧力により開弁することはない。
【0028】
リリーフ弁8fは、クロスヘッドピン7aに設けられ、本体部8f1と、リリーフ弁駆動部8f2とを有している。本体部8f1は、油圧室R3及び不図示の作動油タンクに接続される弁である。リリーフ弁駆動部8f2は、本体部8f1の弁体に接続され、制御部300からの指示に基づいて本体部8f1を開閉弁する。リリーフ弁8fがリリーフ弁駆動部8f2により開弁することで、油圧室R3に貯留された作動油が作動油タンクに戻される。
【0029】
図1に示すように、連接棒9は、クロスヘッドピン7aと連結されると共にクランク軸11と連結されている長尺状部材である。連接棒9は、クロスヘッドピン7aに伝えられたピストン4の直線運動を回転運動に変換している。クランク角センサ10は、クランク軸11のクランク角を計測するためのセンサであり、制御部300へとクランク角を算出するためのクランクパルス信号を送信している。
【0030】
クランク軸11は、気筒に設けられる連接棒9に接続された長尺状の部材であり、それぞれの連接棒9により伝えられる回転運動により回転されることで、例えばスクリュー等に動力を伝える。掃気溜12は、シリンダジャケット3cと過給機200との間に設けられ、過給機200により加圧された空気が流入する。また、掃気溜12には、空気冷却器14が内部に設けられている。排気溜13は、各気筒の排気ポートHと接続されると共に過給機200と接続される管状部材である。排気ポートHより排出されるガスは、排気溜13に一時的に貯留されることにより、脈動を抑制した状態で過給機200へと供給される。空気冷却器14は、掃気溜12内部の空気を冷却する装置である。
【0031】
過給機200は、排気ポートHより排出されたガスにより回転されるタービンにより、不図示の駆動されたブロア等により機関外部から吸入した空気を加圧して早期溜12に供給する装置である。
【0032】
制御部300は、船舶の操縦者による操作等に基づいて、燃料の供給量等を制御するコンピュータである。また、制御部300は、油圧部8を制御することにより、燃焼室R1における圧縮比を変更する。具体的には、制御部300は、筒内圧センサからの信号に基づいてピストンロッド6の位置情報を取得し、プランジャポンプ8c、供給ポンプ8a及びリリーフ弁8fを制御し、油圧室R3における作動油の量を調整することにより、ピストンロッド6の位置を変更させて圧縮比を変更する。さらに、制御部300は、ピストンロッド6の位置情報に基づいて、注油装置15の注油量及び注油タイミングを変更する。
【0033】
このようなエンジンシステム100は、不図示の燃料噴射弁より燃焼室R1に噴射された燃料を着火、爆発させることによりピストン4をシリンダライナ3a内で摺動させ、クランク軸11を回転させる装置である。詳述すると、燃焼室R1に供給された気体燃料は、掃気ポートSより流入した空気と混合された後、ピストン4が上死点方向に向けて移動することにより圧縮されて温度が上昇し、この時液体燃料を着火源として少量噴射することで燃焼する。また、液体燃料の場合には、燃焼室R1において圧縮された空気に噴射されることで燃焼する。
【0034】
そして、燃焼室R1内の燃料が燃焼することで急激に膨張し、ピストン4には下死点方向に向けた圧力がかかる。これにより、ピストン4が下死点方向に移動し、ピストン4に伴ってピストンロッド6が移動され、連接棒9を介してクランク軸11が回転される。さらに、ピストン4が下死点に移動されることで、掃気ポートSより燃焼室R1へと加圧空気が流入する。排気弁ユニット5が駆動することで排気ポートHが開き、燃焼室R1内の排気ガスが、加圧空気により排気溜13へと押し出される。
【0035】
圧縮比を大きくする場合には、制御部300により供給ポンプ8aが駆動され、プランジャポンプ8cに作動油が供給される。そして、制御部300は、プランジャポンプ8cを駆動して作動油を、ピストンロッド6を持ち上げることが可能な圧力となるまで加圧し、油圧室R3へと作動油を供給する。油圧室R3の作動油の圧力により、ピストンロッド6の端部が持ち上がり、これに伴ってピストン4の上死点位置が上方(排気ポートH側)に移動される。
【0036】
圧縮比を小さくする場合には、制御部300によりリリーフ弁8fが駆動され、油圧室R3と不図示の作動油タンクとが連通状態となる。そして、ピストンロッド6の荷重が油圧室R3の作動油にかかり、油圧室R3内の作動油がリリーフ弁8fを介して作動油タンクへと押し出される。これにより、油圧室R3の作動油が減少し、ピストンロッド6が下方(クランク軸11側)に移動され、これに伴ってピストン4の上死点位置が下方に移動される。
【0037】
ピストンロッド6が高圧縮比方向に移動される際には、ピストンロッド6が蓋部材7cに当接する。このとき、蓋部材7cは、僅かにクロスヘッドピン7aから持ち上がるが、コイルスプリング7eの付勢力によりクロスヘッドピン7aへと戻る。これにより、ピストンロッド6から受ける衝突エネルギは、コイルスプリング7eにより吸収され、蓋部材7cに大きな力が加わることを防止できる。
【0038】
また、本実施形態においては、ピストンロッド6とコイルスプリング7eとが当接しないため、ピストンロッド6が高圧縮比方向に移動される際に、コイルスプリング7eによりピストンロッド6の移動が妨げられることがない。
【0039】
[第2実施形態]
続いて、上記第1実施形態の変形例を第2実施形態として、図3を参照して説明する。なお、第1実施形態と同一の構成部材については符号を同一とし、説明を省略する。
【0040】
本実施形態におけるエンジン1は、固定ボルト7dにコイルスプリング7eが挿入されておらず、蓋部材7cのピストンロッド6のフランジと当接する面(下面)に等間隔で複数設けられた凹部7c1に複数のコイルスプリング7eが嵌合されている。すなわち、コイルスプリング7eは、ピストンロッド6のフランジと、蓋部材7cとの間に設けられている。なお、コイルスプリング7eが完全に圧縮された状態において、蓋部材7cとフランジとは当接しない。
【0041】
このような本実施形態によれば、高圧縮比方向に向けてピストンロッド6が移動される際に、ピストンロッド6は、蓋部材7cと当接するよりも前にコイルスプリング7eと当接し、コイルスプリング7eが弾性変形することで、衝突エネルギが吸収され、移動速度が低下する。これにより、ピストンロッド6が蓋部材7cに対して激しく衝突することを防止できる。
【0042】
さらに、本実施形態においては、ピストンロッド6が蓋部材7cに接触するよりも前にコイルスプリング7eと接触するため、より効果的に蓋部材7cへの衝撃を防止することができる。
【0043】
また、本実施形態においては、蓋部材7cにおけるコイルスプリング7eが設置される位置に凹部7c1が形成されており、コイルスプリング7eが凹部7c1に嵌合されて固定されている。これにより、コイルスプリング7eが所定の位置からずれることがなく、常に一定の位置においてコイルスプリング7eとピストンロッド6とが当接し、効果的に衝突エネルギを吸収することができる。
【0044】
以上、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。上述した実施形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の趣旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0045】
上記実施形態においては、吸収部材としてコイルスプリング7eを備えるものとしたが、本発明はこれに限定されない。例えば、吸収部材としてコイルスプリング7eの代わりに、ゴムなどを備えるものとしてもよい。
【0046】
上記第1実施形態においては、コイルスプリング7eを固定ボルト7dの頭部と蓋部材7cとの間に配設するものとしたが、本発明はこれに限定されない。コイルスプリング7eは、固定ボルト7dと別に設けられたバネ固定部材と、蓋部材7cとの間に設けられてもよい。
【0047】
また、コイルスプリング7eは、蓋部材7cに設けられず、ピストンロッド6のフランジにおける蓋部材7cと当接する面に設けられるものとしてもよい。
【0048】
また、上記実施形態においては、コイルスプリング7eは、蓋部材7cに対して嵌合または固定ボルト7dにより直接固定されるものとしたが、本発明はこれに限定されない。コイルスプリング7eは、例えば、ワッシャ等の他の部材を介して間接的に蓋部材7cまたはピストンロッド6に固定されるものとしてもよい。
【符号の説明】
【0049】
1 エンジン
2 架構
3 シリンダ部
3a シリンダライナ
3b シリンダヘッド
3c シリンダジャケット
4 ピストン
5 排気弁ユニット
5a 排気弁
5b 排気弁筐
5c 排気弁駆動部
6 ピストンロッド
7 クロスヘッド
7a クロスヘッドピン
7b ガイドシュー
7c 蓋部材
7d 固定ボルト
7e コイルスプリング
8 油圧部
8a 供給ポンプ
8b 揺動管
8c プランジャポンプ
8c1 プランジャ
8c2 シリンダ
8c3 プランジャ駆動部
8d 第1逆止弁
8e 第2逆止弁
8f リリーフ弁
8f1 本体部
8f2 リリーフ弁駆動部
8g 昇圧ポンプ
9 連接棒
10 クランク角センサ
11 クランク軸
12 掃気溜
13 排気溜
14 空気冷却器
100 エンジンシステム
200 過給機
300 制御部
H 排気ポート
S 掃気ポート
O 出口孔
R1 燃焼室
R2 掃気室
R3 油圧室
R4 供給流路
R5 リリーフ流路
図1
図2
図3