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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-28
(45)【発行日】2022-03-08
(54)【発明の名称】搬送車
(51)【国際特許分類】
   B60T 7/16 20060101AFI20220301BHJP
   B60T 13/68 20060101ALI20220301BHJP
   B60T 13/18 20060101ALI20220301BHJP
   B60T 13/125 20060101ALI20220301BHJP
【FI】
B60T7/16
B60T13/68
B60T13/18
B60T13/125
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018082222
(22)【出願日】2018-04-23
(65)【公開番号】P2019188943
(43)【公開日】2019-10-31
【審査請求日】2020-07-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】塚原 拓矢
【審査官】保田 亨介
(56)【参考文献】
【文献】実開昭49-082189(JP,U)
【文献】特表2016-522371(JP,A)
【文献】特開平10-287221(JP,A)
【文献】特開2000-153757(JP,A)
【文献】登録実用新案第3157947(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T7/12-8/1769
8/32-8/96
13/00-17/22
G05D1/00-1/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
油圧シリンダから油を排出することによってブレーキ圧を発生させる搬送車であって、
油を貯留するタンクと、
前記ブレーキ圧を発生させる際に前記油圧シリンダから排出された油を前記タンクへ戻す排出路と、
制御手段と、を備え、
前記排出路には、第1排出路と、単位時間当りに排出される油の流量が前記第1排出路よりも少ない第2排出路と、があり、
前記第1排出路には、当該第1排出路を開閉させる第1開閉弁が配設されており、
前記第2排出路には、当該第2排出路を開閉させる第2開閉弁が配設されており、
前記第2開閉弁は、前記第2排出路の開度を比例的に変化させる電動式の開閉弁であり、
前記制御手段は、実ブレーキ圧が目標ブレーキ圧に達していないときには前記第1排出路の前記第1開閉弁を開状態に制御し、前記実ブレーキ圧が前記目標ブレーキ圧に達しているときには前記第1排出路の前記第1開閉弁を閉状態に制御するとともに前記第2排出路の前記第2開閉弁を開状態に制御することを特徴とする搬送車。
【請求項2】
前記制御手段は、前記実ブレーキ圧が前記目標ブレーキ圧に達していないときには前記第1排出路の前記第1開閉弁と前記第2排出路の前記第2開閉弁のそれぞれを開状態に制御する請求項1に記載の搬送車。
【請求項3】
前記制御手段は、前記実ブレーキ圧が前記目標ブレーキ圧に達しているときには前記第2開閉弁の開度を制御して前記油圧シリンダから排出された油を前記第2排出路のみによって前記タンクへ戻す請求項1又は請求項2に記載の搬送車。
【請求項4】
前記第1開閉弁は、開状態と閉状態の2状態を取り得るON-OFF弁である請求項1~請求項3の何れか一項に記載の搬送車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷を搬送する搬送車に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、埠頭内では、船から降ろされた大型のコンテナを所望の位置に搬送する手段として無人搬送車が利用されている。無人搬送車は、例えば特許文献1に開示されている。無人搬送車は、運行管理情報をもとに走行経路を走行目的地に向かって走行するとともに、走行目的地では例えば荷役作業を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-218736号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
無人搬送車は、運行管理情報にしたがって正確に走行させることで効率的な運行を実現し得る。特に、荷役作業を行う走行目的地には精度よく停止させなければ、その後の荷役作業に支障を来たし、その結果、時間の遅延などが発生する虞があるため、停止精度は重要な要素である。それに加えて、無人搬送車は、目的地に対して早く到達することも求められている。このため、無人搬送車を走行目的地で精度よくかつ早く停止させるように、ブレーキシステムには改善の余地が残されている。
【0005】
この発明は、走行目的地に精度よく、かつ早く到達させることを実現し得る搬送車を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する搬送車は、油圧シリンダから油を排出することによってブレーキ圧を発生させる搬送車であって、油を貯留するタンクと、前記ブレーキ圧を発生させる際に前記油圧シリンダから排出された油を前記タンクへ戻す排出路と、制御手段と、を備え、前記排出路には、第1排出路と、単位時間当りに排出される油の流量が前記第1排出路よりも少ない第2排出路と、があり、前記第1排出路には、当該第1排出路を開閉させる第1開閉弁が配設されており、前記第2排出路には、当該第2排出路を開閉させる第2開閉弁が配設されており、前記第2開閉弁は、前記第2排出路の開度を比例的に変化させる電動式の開閉弁であり、前記制御手段は、実ブレーキ圧が目標ブレーキ圧に達していないときには前記第1排出路の前記第1開閉弁を開状態に制御し、前記実ブレーキ圧が前記目標ブレーキ圧に達しているときには前記第1排出路の前記第1開閉弁を閉状態に制御するとともに前記第2排出路の前記第2開閉弁を開状態に制御することを要旨とする。
【0007】
この構成によれば、単位時間当りに排出される油の流量の多少が異なる複数の排出路を備えることで、目標ブレーキ圧と実ブレーキ圧との差によって油圧シリンダから排出される油を流す排出路を制御し、単位時間当りに排出される油の流量を変化させることができる。つまり、実ブレーキ圧が目標ブレーキ圧に達していないときには第1排出路の第1開閉弁を開状態に制御し、第1排出路を用いて油を排出させることで、実ブレーキ圧を早く目標ブレーキ圧に近づけることができる。その結果、搬送車を停止させるために必要な距離が短く、搬送車を走行目的地に早く到達させることができる。また、単位時間当りの流量が第1排出路に比して少ない第2排出路を備え、実ブレーキ圧が目標ブレーキ圧に達しているときには第1排出路を閉状態に制御するとともに第2排出路の第2開閉弁を開状態に制御することで、ブレーキ圧を精度よく制御することができる。その結果、搬送車を精度よく走行目的地に到達させることができる。
【0008】
上記搬送車において、前記制御手段は、前記実ブレーキ圧が前記目標ブレーキ圧に達していないときには前記第1排出路の前記第1開閉弁と前記第2排出路の前記第2開閉弁のそれぞれを開状態に制御してもよい。
【0009】
この構成によれば、実ブレーキ圧が目標ブレーキ圧に達していないときには第1排出路と第2排出路を併用して油を排出させることで、単位時間当りに排出される油の流量を増加させることができる。したがって、実ブレーキ圧を早く目標ブレーキ圧に近づけることができる。
【0010】
上記搬送車において、前記制御手段は、前記実ブレーキ圧が前記目標ブレーキ圧に達しているときには前記第2開閉弁の開度を制御して前記油圧シリンダから排出された油を前記第2排出路のみによって前記タンクへ戻すようにしてもよい。
【0011】
この構成によれば、実ブレーキ圧が目標ブレーキ圧に達しているときには第2排出路のみによって油を排出させることができる。第2排出路は単位時間当りに排出される油の流量が少なく、かつ第2排出路の開度を比例的に制御する第2開閉弁を備えていることから、走行目的地に到達又は近づいたときのブレーキ圧を制御し易く、走行目的地に搬送車を精度よく停止させることができる。
【0012】
上記搬送車において、前記第1開閉弁は、開状態と閉状態の2状態を取り得るON-OFF弁としてもよい。この構成によれば、ON-OFF弁の採用により、ブレーキ圧の応答性を高めることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、搬送車を走行目的地に精度よく、かつ早く到達させることを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】無人搬送車の模式図。
図2】無人搬送車の走行形態を示す模式図。
図3】無人搬送車のブレーキシステムを示す回路図。
図4】ブレーキ圧の制御内容を説明するフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、搬送車の一実施形態を図1図4にしたがって説明する。
図1に示すように、無人搬送車10の車体10aの上部には、荷Wを積載する荷台11が設けられている。荷台11には、位置決め手段(図示しない)によって積載位置を固定化した状態で荷Wが積載される。車体10aの前後左右には、走行車輪12が設けられている。
【0016】
この実施形態の無人搬送車10は、例えば、埠頭内において船から降ろされたコンテナを搬送する港湾用の車両として利用される。荷台11には、荷Wとして、鉄道やトラックなどの貨物輸送に用いる大型のコンテナが積載される。この実施形態の無人搬送車10は、工場内で利用される無人搬送車に比して全長及び全幅が大きく設計された大型の無人搬送車である。
【0017】
また、この実施形態の無人搬送車10は、電動式の車両である。このため、無人搬送車10には、走行用モータMTに電力を供給するバッテリBTが搭載されている。バッテリBTは二次電池であり、例えばリチウムイオン電池である。
【0018】
図2に示すように、無人搬送車10は、施設内に敷設された走行経路Lに沿って走行する。走行経路Lは、直線路SLやカーブ(曲線)路RL,LLを組み合わせて構成されている。無人搬送車10は、所定の誘導方式により、走行経路Lを、所定の車速で走行するように制御される。なお、走行経路Lには、無人搬送車10の走行目的地が定められている。走行目的地には、荷台11に荷Wを積む位置、荷台11の荷Wを降ろす位置、バッテリBTに充電を行う位置が含まれる。そして、無人搬送車10は、運行管理情報をもとに走行目的地に向かって走行経路Lを走行し、走行目的地では荷役作業などのために停止する。
【0019】
無人搬送車10には、車両の走行を制御する制御装置13が搭載されている。制御装置13は、走行を制御するにあたって各種の演算処理を行う演算部と、走行ルートの情報や演算用の各種情報を記憶する記憶部と、を有する。また、制御装置13には、走行用センサなどの各種センサが接続されている。走行用センサは、無人搬送車10の走行に必要な情報を検知するセンサであり、無人搬送車10の現位置情報を得るために走行距離を検知する距離センサや、無人搬送車10の走行方向情報を得るために方向を検知する方位角センサを含む。
【0020】
図3は、この実施形態の無人搬送車10に搭載されているブレーキシステムBSを示す。
無人搬送車10の各走行車輪12には、図3に示す油圧シリンダとしてのブレーキシリンダ20の駆動によって動作する図示しないブレーキシューが設けられている。そして、各走行車輪12は、ブレーキシリンダ20の駆動によってブレーキシューが図示しないブレーキディスクを挟み込むことでブレーキが掛けられる。
【0021】
以下、ブレーキシステムBSの構成を説明する。
ブレーキシステムBSは、システム内に油を供給するポンプ21と、ポンプ21を駆動するモータ22と、油を貯留するタンク23と、を備えている。モータ22は、制御装置13によって駆動が制御される。
【0022】
ブレーキシステムBSは、ブレーキシリンダ20とポンプ21とを繋ぐとともに、ブレーキシリンダ20へ給排される油の流路を構成する主流路24を備えている。この実施形態において主流路24は、ブレーキシリンダ20が備えるロッド室20aとボトム室20bのうち、ロッド室20aに接続されている。ブレーキシリンダ20のピストンロッド20cは、ロッド室20aに供給される油圧によって没動作を行うとともに、ロッド室20aから油が排出されるときにはボトム室20bに配設されたばね20dの弾性力によって出動作を行う。なお、この実施形態のブレーキシステムBSは、ブレーキシリンダ20のロッド室20aに油を供給することによってブレーキが解除されるとともに、ロッド室20aから油を排出することによってブレーキ圧を発生させる油圧式のブレーキシステムBSである。
【0023】
主流路24には、ポンプ21側を上流側とし、ブレーキシリンダ20側を下流側としたとき、下流側から上流側に向かって3ポートノーリーク弁25と、第2開閉弁としての電磁比例制御弁26とが配設されている。また、ブレーキシステムBSは、ポンプ21と電磁比例制御弁26との間の主流路24から分岐する第1分岐流路27を備えている。第1分岐流路27には、ポンプ21によって圧油が蓄圧されるアキュムレータ28が配設されている。
【0024】
この実施形態の電磁比例制御弁26は、図中に一点鎖線で囲むように、主流路24を所定の開度で開く流路制御部26aと、流路制御部26aの動作を制御して主流路24の開度を調整する開度調整部26bと、を備えている。開度調整部26bは、制御装置13の電気信号によって制御される電動式であり、主流路24の開度を比例制御するように流路制御部26aの作動圧を調整する。また、ブレーキシステムBSは、主流路24を下流から上流へ流れる油をタンク23に戻す第2分岐流路29を備えている。第2分岐流路29は、電磁比例制御弁26の流路制御部26aに接続されている。
【0025】
ブレーキシステムBSは、ブレーキシリンダ20と3ポートノーリーク弁25との間の主流路24から分岐し、主流路24を下流から上流へ流れる油をタンク23に戻す第3分岐流路30を備えている。第3分岐流路30には、開状態と閉状態の2状態を取り得る第1開閉弁としてのON-OFF弁31が配設されている。この実施形態のON-OFF弁は、制御装置13の電気信号によって制御される電動式である。また、第3分岐流路30には、ON-OFF弁31とタンク23との間にリリーフ弁32が配設されている。
【0026】
この実施形態のブレーキシステムBSは、ブレーキシリンダ20のロッド室20aから排出された油をタンク23に戻す排出路として、図中に一点鎖線で矢示する第1排出路33と、図中に破線で矢示する第2排出路34とを備えている。第1排出路33は、ブレーキシリンダ20から排出された油を、ON-OFF弁31を介して第3分岐流路30からタンク23に戻す流路である。第1排出路33は、主流路24の一部と第3分岐流路30とによって構成されている。一方、第2排出路34は、ブレーキシリンダ20から排出された油を、電磁比例制御弁26を介して第2分岐流路29からタンク23に戻す流路である。第2排出路34は、主流路24の一部と第2分岐流路29とによって構成されている。
【0027】
第1排出路33に流れる単位時間当りの流量を第1流量とし、第2排出路34に流れる単位時間当りの流量を第2流量としたとき、この実施形態においては第1流量よりも第2流量の方を小さい流量としている。つまり、第1排出路33と第2排出路34の流量を比較した場合、第2排出路34は単位時間当りに排出される油の流量が第1排出路33よりも少ない流路であって、第1排出路33は単位時間当りに排出される油の流量が第2排出路34よりも多い流路である。なお、排出される油の流量は、常時、固定した一定量であることを意味するものではない。つまり、第1排出路33から単位時間当りに排出される油の流量は、異なる単位時間において異なっていてもよい。
【0028】
この実施形態において第1排出路33と第2排出路34の流量差は、電磁比例制御弁26とON-OFF弁31の開度差によって生じさせている。具体的に言えば、この実施形態では、ON-OFF弁31を、電磁比例制御弁26の開度よりも大きい開度で流路を開状態とする制御弁としている。ここで言う開度の大小は、ON-OFF弁31の最大開度を電磁比例制御弁26の最大開度よりも大きくする物理的な開度の大小としてもよいし、油を排出するときの電磁比例制御弁26の開度をON-OFF弁31の最大開度よりも小さい開度で制御する制御的な開度の大小としてもよい。
【0029】
以下、図4にしたがって、この実施形態の無人搬送車10の作用をブレーキシステムBSによるブレーキ圧の制御内容とともに説明する。
無人搬送車10を走行目的地に停止させる際には、ブレーキシステムBSを用いてブレーキ圧を発生させる。
【0030】
図4に示すように、無人搬送車10の制御装置13は、無人搬送車10を走行目的地に停止させるために必要な減速トルクを演算する(ステップS10)。減速トルクは、無人搬送車10への指示速度をもとに演算され、指示速度から無人搬送車10の減速度を算出する。そして、減速度から車両重量などに基づいて減速力を算出するとともに、走行車輪12の径から減速トルクを算出する。次に、制御装置13は、油圧ブレーキ減速トルクを演算する(ステップS11)。油圧ブレーキ減速トルクは、ステップS10で演算した減速トルクと、走行用モータMTが出力可能な減速トルク(回生ブレーキによる減速トルク)と、走行抵抗トルクとを差し引くことによって演算される。
【0031】
次に、制御装置13は、目標ブレーキ圧を演算する(ステップS12)。目標ブレーキ圧は、ステップS11で演算した油圧ブレーキ減速トルクを加味して演算される。この演算における換算計数は、予め実験などによって取得している。次に、制御装置13は、目標ブレーキ圧から電磁比例制御弁26へ出力する開度制御に用いる制御値を演算する(ステップS13)。この制御値は、目標ブレーキ圧が大きいほど電磁比例制御弁26の開度を大きくする値として演算されるもので、具体的な目標ブレーキ圧に対する電磁比例制御弁26の開度は予め実験などによって設定されている。そして、制御装置13は、ステップS13で演算した制御値を電磁比例制御弁26へ出力する(ステップS14)。
【0032】
次に、制御装置13は、実ブレーキ圧と目標ブレーキ圧を比較する(ステップS15)。具体的に言えば、制御装置13は、ステップS15において実ブレーキ圧と目標ブレーキ圧の差が所定差以上であるかを判定する。所定差は、実ブレーキ圧と目標ブレーキ圧とが一致又はほぼ一致することを示す値に設定されている。つまり、実ブレーキ圧と目標ブレーキ圧の差が所定差以上であることは、実ブレーキ圧が目標ブレーキ圧よりも低く、ブレーキシステムBSが目標ブレーキ圧に相当するブレーキ圧を発生していないことを示す。このため、制御装置13は、実ブレーキ圧と目標ブレーキ圧の差が所定差以上であるときにはON-OFF弁31を開状態に制御する(ステップS16)。
【0033】
一方、実ブレーキ圧と目標ブレーキ圧の差が所定差未満であることは、実ブレーキ圧が目標ブレーキ圧に達している又はほぼ達しており、ブレーキシステムBSが目標ブレーキ圧に相当するブレーキ圧を発生していることを示す。このため、制御装置13は、実ブレーキ圧と目標ブレーキ圧の差が所定差未満であるときにはON-OFF弁31を閉状態に制御する(ステップS17)。
【0034】
以上のように制御されるブレーキシステムBSを搭載した無人搬送車10は、走行目的地に停止させるためにブレーキを作動させる段階、すなわちブレーキ圧を発生させる段階において、実ブレーキ圧が目標ブレーキ圧に早く到達し得るように制御を行う。この制御において無人搬送車10は、電磁比例制御弁26とON-OFF弁31を併用してブレーキシリンダ20のロッド室20aの油を排出させる。
【0035】
具体的に言えば、ブレーキシステムBSにおいては、3ポートノーリーク弁25を下流から上流に油が流れるように制御するとともに電磁比例制御弁26を所定の開度で開状態とする。これにより、ロッド室20aの油は、主流路24の3ポートノーリーク弁25を通って電磁比例制御弁26へ至るとともに、電磁比例制御弁26を構成する流路制御部26aを通じて第2分岐流路29からタンク23へ排出される。このように第2分岐流路29を通る場合、ロッド室20aの油は、第2排出路34を通じてタンク23へ排出される。
【0036】
加えて、ブレーキシステムBSにおいては、ON-OFF弁31を開状態とする。これにより、ロッド室20aの油は、主流路24の3ポートノーリーク弁25へ流れる油と、主流路24から分岐した第3分岐流路30へ流れる油とに分かれる。そして、第3分岐流路30へ流れる油は、第3分岐流路30のON-OFF弁31を通じてタンク23へ排出される。このように第3分岐流路30を通る場合、ロッド室20aの油は、第1排出路33を通じてタンク23へ排出される。この実施形態において第1排出路33は、第2排出路34に比して単位時間当りに流れる流量が多い。このため、ON-OFF弁31を開状態とした場合は、ロッド室20aの油を排出するスピードが上がり、ブレーキ圧を早く高めることが可能である。
【0037】
一方、無人搬送車10は、目標ブレーキ圧に対して実ブレーキ圧が一致又はほぼ一致した段階において、ON-OFF弁31を閉状態とする一方で、電磁比例制御弁26のみを用いてブレーキシリンダ20のロッド室20aの油を排出させる。これにより、ロッド室20aの油は、主流路24の3ポートノーリーク弁25を通って電磁比例制御弁26へ至るとともに、電磁比例制御弁26を構成する流路制御部26aを通じて第2分岐流路29のみからタンク23へ排出される。この実施形態において第2排出路34は、第1排出路33に比して単位時間当りに流れる流量が少ない。このため、電磁比例制御弁26のみを開状態とした場合は、ロッド室20aの油を排出するスピードが下がり、ブレーキ圧の高まり度合いが緩慢となる。つまり、ブレーキ圧の変化量は、電磁比例制御弁26とON-OFF弁31を併用した場合のように急激に変化せず、ゆっくりと変化する。
【0038】
因みに、ブレーキを解除する場合、ブレーキシステムBSでは、アキュムレータ28の圧油が主流路24の電磁比例制御弁26及び3ポートノーリーク弁25を通ってブレーキシリンダ20のロッド室20aへ供給される。これにより、ブレーキシリンダ20は、ロッド室20aの油圧がボトム室20bのばね20dの付勢力よりも高まることによってブレーキを解除するように作動する。
【0039】
したがって、この実施形態によれば、以下に示す効果を得ることができる。
(1)目標ブレーキ圧と実ブレーキ圧とが所定差未満になるまでは第1排出路33を用いて油を排出させることで、実ブレーキ圧を早く目標ブレーキ圧に近づけることができる。その結果、無人搬送車10を停止させるために必要な距離が短く、無人搬送車10を走行目的地に早く到達させることができる。また、単位時間当りの流量が第1排出路33に比して少ない第2排出路34を備え、目標ブレーキ圧と実ブレーキ圧とが所定差未満であるときには第1排出路33を閉状態に制御することで、ブレーキ圧を精度よく制御することができる。その結果、無人搬送車10を精度よく走行目的地に到達させることができる。
【0040】
(2)目標ブレーキ圧と実ブレーキ圧とが所定差以上であるときには第1排出路33と第2排出路34を併用して油を排出させることで、単位時間当りに排出される油の流量を増加させることができる。したがって、実ブレーキ圧を早く目標ブレーキ圧に近づけることができる。
【0041】
(3)目標ブレーキ圧と実ブレーキ圧とが所定差未満であるときには、第2排出路34のみによって油を排出させる。第2排出路34は単位時間当りに排出される油の流量が少なく、かつ第2排出路34の開度を比例的に制御する電磁比例制御弁26を備えていることから、走行目的地に到達又は近づいたときのブレーキ圧を制御し易く、走行目的地に無人搬送車10を精度よく停止させることができる。
【0042】
(4)第1排出路33の制御弁としてON-OFF弁31を採用することで、ブレーキ圧の応答性を高めることができる。
(5)また、ON-OFF弁31の採用によってブレーキ圧の制御内容が簡素化されるとともに、ブレーキシステムBSのコスト増を抑制することもできる。
【0043】
(6)実施形態の電磁比例制御弁26のように開度が小さい制御弁は、流れる油の流量が少ないことから、走行目的地に停止させるために必要なブレーキ力を精度よく制御することが容易である。一方で、電磁比例制御弁26のように開度が小さい制御弁は、流れる油の流量が少ないことから、実ブレーキ圧が目標ブレーキ圧に到達するまでの応答遅れは大きい。
【0044】
また、実施形態のON-OFF弁31のように開度が大きい制御弁は、流れる油の流量が多いことから、実ブレーキ圧が目標ブレーキ圧に到達するまでの応答遅れは小さい。一方で、ON-OFF弁31のように開度が大きい制御弁は、流れる油の流量が多いことから、走行目的地に停止させるために必要なブレーキ力を精度よく制御することが難しい。
【0045】
以上のことから、この実施形態のブレーキシステムBSは、開度に大小差を有する複数の制御弁を備えるとともに、流量に多少差を有する複数の排出路を備えることで、個々の制御弁の利点を活かしたブレーキ圧の制御を実現することができる。つまり、目標ブレーキ圧と実ブレーキ圧とが所定差以上であるときには複数の制御弁を併用することで応答遅れを解消して早さを向上させる。一方で、目標ブレーキ圧と実ブレーキ圧とが所定差未満であるときには複数の制御弁のうち開度の小さい制御弁のみを使用することで流れる油の流量を制御し易く、ブレーキ力の精度を向上させる。したがって、この実施形態では、個々の制御弁においてブレーキ力の精度と応答遅れという両立し得ない事柄を、複数の制御弁を備えることで両立することが可能なブレーキシステムBSを提供することができる。
【0046】
なお、実施形態は、以下のように変更して実施することができる。実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
図4に示すブレーキ圧の制御内容において、実ブレーキ圧と目標ブレーキ圧の差が所定差以上である場合、第1排出路33のみを開状態としてロッド室20aの油をタンク23に戻してもよい。そして、実ブレーキ圧と目標ブレーキ圧の差が所定差未満になると、第1排出路33を閉状態とする一方で、第2排出路34を開状態としてロッド室20aの油をタンク23に戻してもよい。つまり、ブレーキ圧を早く高める場合には、実施形態のように電磁比例制御弁26とON-OFF弁31とを併用するのではなくON-OFF弁31のみを開状態とし、ブレーキ圧をゆっくり高める場合には、ON-OFF弁31を閉状態とする一方で電磁比例制御弁26を開状態としてもよい。
【0047】
○ ON-OFF弁31を、電動式に代えて油圧式とし、油圧によって開閉を制御するようにしてもよい。
○ ON-OFF弁31に代えて第1排出路33に電磁比例制御弁を配設してもよい。第1排出路33は第2排出路34に比して単時間当りに流れる流量を多くすることから、第1排出路33に配設する電磁比例制御弁は、第2排出路34の電磁比例制御弁26の開度よりも大きい開度で流路を開状態とする制御弁とする。なお、ここで言う開度の大小は、第1排出路33の電磁比例制御弁の最大開度を電磁比例制御弁26の最大開度よりも大きくする物理的な開度の大小としてもよいし、油を排出するときの電磁比例制御弁26の開度を第1排出路33の電磁比例制御弁の最大開度よりも小さい開度で制御する制御的な開度の大小としてもよい。
【0048】
○ 無人搬送車10には、制御手段として、走行を制御する制御装置とブレーキシステムBSを制御する制御装置とが別々に搭載されていてもよい。
○ 実施形態のブレーキシステムBSは、無人搬送車に限らず、有人搬送車やその他の車両(産業車両を含む)に適用することができる。
【符号の説明】
【0049】
10…無人搬送車、13…制御装置、20…ブレーキシリンダ、23…タンク、26…電磁比例制御弁、31…ON-OFF弁、33…第1排出路、34…第2排出路。
図1
図2
図3
図4