(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-28
(45)【発行日】2022-03-08
(54)【発明の名称】摩擦締結装置
(51)【国際特許分類】
F16D 28/00 20060101AFI20220301BHJP
F16D 13/52 20060101ALI20220301BHJP
F16D 23/12 20060101ALI20220301BHJP
F16H 3/44 20060101ALI20220301BHJP
【FI】
F16D28/00 Z
F16D13/52 D
F16D23/12 Z
F16H3/44 A
(21)【出願番号】P 2018087468
(22)【出願日】2018-04-27
【審査請求日】2021-04-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100197561
【氏名又は名称】田中 三喜男
(72)【発明者】
【氏名】上杉 達也
【審査官】倉田 和博
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-500965(JP,A)
【文献】特開平11-117952(JP,A)
【文献】特開昭61-166759(JP,A)
【文献】特開2005-155871(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 28/00
F16D 13/38-13/56
F16D 23/12
F16H 3/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドラムとハブの間に設けられ、前記ドラムと前記ハブに交互に係合する複数の摩擦板と、該複数の摩擦板を押圧して互いに締結させる押圧力発生部とを備えた摩擦締結装置であって、前記押圧力発生部は、
前記摩擦板をゼロタッチ状態近傍まで移動させる第1の電動アクチュエータと、
前記摩擦板をゼロタッチ状態近傍まで移動させた状態から、前記摩擦板を締結させる圧電素子からなる第2の電動アクチュエータとを備える摩擦締結装置。
【請求項2】
前記第1の電動アクチュエータは、
カム面を有し、軸回りに回転駆動される回転板と、
前記カム面に対向するカムフォロア面を有し、前記回転板の回転により軸方向に移動して前記摩擦板を移動させる可動板とを備える請求項1に記載の摩擦締結装置。
【請求項3】
前記第1の電動アクチュエータの前記回転板を回転駆動する圧電素子アクチュエータを備える請求項2に記載の摩擦締結装置。
【請求項4】
前記第1の電動アクチュエータは、前記複数の摩擦板の一端側の摩擦板に対向して設けられ、前記第2の電動アクチュエータは、前記複数の摩擦板の他端側の摩擦板に対向して設けられている請求項1から3のいずれかに記載の摩擦締結装置。
【請求項5】
前記請求項1~4のいずれかに記載の摩擦締結装置を使用した少なくとも1つのクラッチと複数のブレーキとを備えた自動変速機であって、電源オフ時に自動変速機が所定の変速段に設置されるように、前記少なくとも1つのクラッチと複数のブレーキのそれぞれの前記摩擦締結装置がノーマルオープン又はノーマルクローズのいずれかに設定されている自動変速機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自動車の自動変速機におけるクラッチ、ブレーキに適用される摩擦締結装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車の自動変速機のクラッチ、ブレーキ等の摩擦締結装置は、油圧ポンプによる油圧により駆動されるので、駆動抵抗が大きいうえ、自動変速機の重量を増大し、大型化していた。摩擦締結装置の駆動抵抗の低減、自動変速機の軽量化及びコンパクト化を図るには、電気的アクチュエータを用いることにより油圧レスとすることが有効である。
【0003】
従来、特許文献1には、ピエゾアクチュエータによりカムリングを回動させて圧着板を移動させることにより、クラッチを締結する自動車のクラッチ装置が記載されている。特許文献2は、導電性高分子チューブを束ねて螺旋状に巻回したアクチュエータエレメントを円筒状のシリンダと円筒状のピストンとで区画される空間に収納した高分子アクチュエータを用いたクラッチ装置が提案されている。しかし、導電性高分子チューブの伸縮力をアクチュエータの作動力に効果的に変換することが難しいうえ、部品点数が増加し、構造が複雑であるとう問題がある。
【0004】
特許文献3、4には、ゲル状の電場応答性体積相転移高分子と電解質が封入された弾性容器をシリンダとピストンとの間に収納した高分子アクチュエータを用いたクラッチ装置が提案されている。しかし、このものはゲル状の高分子と電解質を弾性容器に封入しているため、耐久性に欠けるという問題がある。
【0005】
このような従来の問題から、摩擦締結装置への電気的アクチュエータの利用は実用化されていない。電気的アクチュエータには、圧電式(圧電セラミック)と誘電式(高分子アクチュエータ)とがある。圧電式は、押力は大きいが、変位が少なく、誘電式は、変位量が大きいが、押力は小さいという欠点がある。このため、クラッチやブレーキ等の摩擦締結装置に適用するには、圧電式アクチュエータには変位を拡大する機構が要求され、誘電式アクチュエータには倍力機構が要求される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特表2015-500965号公報
【文献】特開2005-83466号公報
【文献】特開2005-155871号公報
【文献】特開2011-106564号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は前述の従来の問題に鑑みてなされたもので、押圧力は大きいが変位が小さい圧電素子アクチュエータでも締結動作を達成できるようにして、油圧レスとし、駆動抵抗の低減、軽量化及びコンパクト化を図ることができる摩擦締結装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため、本発明は以下の手段を講じている。
【0009】
請求項1の発明は、ドラムとハブの間に設けられ、前記ドラムと前記ハブに交互に係合する複数の摩擦板と、該複数の摩擦板を押圧して互いに締結させる押圧力発生部とを備えた摩擦締結装置であって、前記押圧力発生部は、
前記摩擦板をゼロタッチ状態近傍まで移動させる第1の電動アクチュエータと、
前記摩擦板をゼロタッチ状態近傍まで移動させた状態から、前記摩擦板を締結させる圧電素子からなる第2の電動アクチュエータとを備える。
請求項1の発明によれば、ゼロタッチまでは第1の電動アクチュエータで摩擦板を移動させ、ゼロタッチからは圧電素子からなる第2の電動アクチュエータで摩擦板を押圧するので、押圧力は大きいが変位が小さい圧電素子アクチュエータでも締結動作を達成できるようにして、油圧レスとし、駆動抵抗の低減、軽量化及びコンパクト化を図ることができる。
【0010】
請求項2の発明では、前記第1の電動アクチュエータは、
カム面を有し、軸回りに回転駆動される回転板と、
前記カム面に対向するカムフォロア面を有し、前記回転板の回転により軸方向に移動して前記摩擦板を移動させる可動板とを備える。
請求項2の発明によれば、
回転板の回転により回転板のカム面と可動板のカムフォロア面とが摺接するので、可動板は位置決めされながら軸方向に移動し、確実な移動量を確保することができる。
【0011】
請求項3の発明は、前記第1の電動アクチュエータの前記回転板を回転駆動する圧電素子アクチュエータを備える。
請求項3の発明によれば、
第1の電動アクチュエータの回転板の回転駆動に圧電素子アクチュエータを用いているので、消費電力を低減できるとともに、コンパクト化を図ることができる。
【0012】
請求項4の発明では、前記第1の電動アクチュエータは、前記複数の摩擦板の一端側の摩擦板に対向して設けられ、前記第2の電動アクチュエータは、前記複数の摩擦板の他端側の摩擦板に対向して設けられている。
【0013】
請求項5の発明は、前記請求項1~4のいずれかに記載の摩擦締結装置を使用した少なくとも1つのクラッチと複数のブレーキとを備えた自動変速機であって、電源オフ時に自動変速機が所定の変速段に設置されるように、前記少なくとも1つのクラッチと複数のブレーキのそれぞれの前記摩擦締結装置がノーマルオープン又はノーマルクローズのいずれかに設定されている。
請求項5の発明によれば、故障時に所定の変速段に設定してフェイルセーフが図れる。
【発明の効果】
【0014】
請求項1の発明によれば、ゼロタッチまでは第1の電動アクチュエータで摩擦板を移動させ、ゼロタッチからは圧電素子からなる第2の電動アクチュエータで摩擦板を押圧するので、押圧力は大きいが変位が小さい圧電素子アクチュエータでも締結動作を達成できるようにして、油圧レスとし、駆動抵抗の低減、軽量化及びコンパクト化を図ることができる。
【0015】
請求項2の発明によれば、
回転板の回転により回転板のカム面と可動板のカムフォロア面とが摺接するので、可動板は位置決めされながら軸方向に移動し、確実な移動量を確保することができる。
【0016】
請求項3の発明によれば、第1の電動アクチュエータの回転板の回転駆動に圧電素子アクチュエータを使用するので、消費電力を低減できるとともに、コンパクト化を図ることができる。
【0017】
請求項4の発明によれば、第1の電動アクチュエータと第2の電動アクチュエータが摩擦板の両側に配置されるので、お互いに干渉することなく配置することができ、構成が簡単になる。
【0018】
請求項5の発明によれば、故障時に所定の変速段に設定してフェイルセーフが図れる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の摩擦締結装置が適用される自動変速機の概略図(a)及び摩擦締結装置の締結の組み合わせと変速段の関係を示す図(b)。
【
図2】本発明の実施形態に係る摩擦締結装置の非締結時の状態を示す断面図。
【
図3】
図2の摩擦締結装置の締結前半の状態を示す断面図。
【
図4】
図2の摩擦締結装置の締結後半の状態を示す断面図。
【
図6】第1電動アクチュエータの回転板の回転前後の状態を示す斜視図。
【
図7】第1電動アクチュエータの動作前(b)と動作後(a)の斜視図及び正面図。
【
図8】第2電動アクチュエータの電圧印加前の正面図(a)、左側面図(b)、右側面図(c)、電圧印加後の正面図(d)。
【
図9】第2電動アクチュエータの配置状態を示す側面図。
【
図10】本発明の摩擦締結装置の変位と押圧力の関係を示す図(a)、従来の油圧ピストンによる摩擦締結装置の変位と押圧力の関係を示す図。
【
図11】第1電動アクチュエータの回転板のストッパの2つの変形例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態を添付図面に従って説明する。
【0021】
<自動変速機の構成>
まず、本発明の摩擦締結装置が用いられる一例の自動変速機の構成を
図1に基づいて説明する。この自動変速機1は、フロントエンジンフロントドライブ車等のエンジン横置き式自動車に適用されるもので、主たる構成要素として、エンジン出力軸2に取り付けられたトルクコンバータ3と、該トルクコンバータ3の出力回転が入力軸4を介して入力される変速機構5とを有し、該変速機構5が入力軸4の軸心上に配置された状態で、変速機ケース6に収納されている。
【0022】
そして、該変速機構5の出力回転が、同じく入力軸4の軸心上において該入力軸4の中間部に配置された出力ギヤ7からカウンタドライブ機構8を介して差動装置9に伝達され、左右の車軸9a、9bが駆動されるようになっている。
【0023】
前記トルクコンバータ3は、エンジン出力軸2に連結されたケース3aと、該ケース3a内に固設されたポンプ3bと、該ポンプ3bに対向配置されて該ポンプ3bにより作動油を介して駆動されるタービン3cと、該ポンプ3bとタービン3cとの間に介設され、かつ、前記変速機ケース6にワンウェイクラッチ3dを介して支持されてトルク増大作用を行うステータ3eと、前記ケース3aとタービン3cとの間に設けられ、該ケース3aを介してエンジン出力軸2とタービン3cとを直結するロックアップクラッチ3fとで構成されている。そして、タービン3cの回転が前記入力軸4を介して変速機構5に伝達されるようになっている。
【0024】
一方、変速機構5は、第1、第2、第3プラネタリギヤセット(以下、単に「第1、第2、第3ギヤセット」という)10、20、30を有し、これらが変速機ケース6内における前記出力ギヤ7の反トルクコンバータ側において、トルクコンバータ側から順に配置されている。
【0025】
また、変速機構5を構成する摩擦要素として、前記出力ギヤ7のトルクコンバータ側に、第1クラッチ40及び第2クラッチ50が配置されていると共に、出力ギヤ7の反トルクコンバータ側には、第1ブレーキ60、第2ブレーキ70及び第3ブレーキ80がトルクコンバータ側から順に配置されており、さらに、第1ブレーキ60に並列にワンウェイクラッチ90が配置されている。
【0026】
前記第1、第2、第3ギヤセット10、20、30は、いずれもシングルピニオン型のプラネタリギヤセットであって、サンギヤ11、21、31と、これらのサンギヤ11、21、31にそれぞれ噛み合った各複数のピニオン12、22、32と、これらのピニオン12、22、32をそれぞれ支持するキャリヤ13、23、33と、ピニオン12、22、32にそれぞれ噛み合ったリングギヤ14、24、34とで構成されている。
【0027】
そして、前記入力軸4が第3ギヤセット30のサンギヤ31に連結されていると共に、第1ギヤセット10のサンギヤ11と第2ギヤセット20のサンギヤ21、第1ギヤセット10のリングギヤ14と第2ギヤセット20のキャリヤ23、第2ギヤセット20のリングギヤ24と第3ギヤセット30のキャリヤ33が、それぞれ連結されている。そして、第1ギヤセット10のキャリヤ13に前記出力ギヤ7が連結されている。
【0028】
また、第1ギヤセット10のサンギヤ11及び第2ギヤセット20のサンギヤ21は、前記第1クラッチ40を介して入力軸4に断接可能に連結されており、第2ギヤセット20のキャリヤ23は、前記第2クラッチ50を介して入力軸4に断接可能に連結されている。
【0029】
さらに、第1ギヤセット10のリングギヤ14及び第2ギヤセット20のキャリヤ23は、並列に配置された前記第1ブレーキ60及びワンウェイクラッチ90を介して変速機ケース6に断接可能に連結されており、第2ギヤセット20のリングギヤ24及び第3ギヤセット30のキャリヤ33は、前記第2ブレーキ70を介して変速機ケース6に断接可能に連結されており、さらに、第3ギヤセット30のリングギヤ34は、前記第3ブレーキ80を介して変速機ケース6に断接可能に連結されている。
【0030】
以上の構成により、この変速機構5によれば、第1、第2クラッチ40、50及び第1、第2、第3ブレーキ60、70、80の締結状態の組み合わせにより、前進6速と後退速とが得られるようになっており、その組み合わせと変速段の関係を
図1(b)の締結表に示す。なお、第1ブレーキ60はエンジンブレーキを作動させる1速でのみ締結され、エンジンブレーキを作動させない1速では、ワンウェイクラッチ90がロックすることにより1速を形成する。
【0031】
<摩擦締結装置の実施形態>
続いて、前記自動変速機1の第1クラッチ40、第2クラッチ50、第1ブレーキ60、第2ブレーキ70、第3ブレーキ80に適用される摩擦締結装置100の実施形態を
図2を参照して説明する。摩擦締結装置100は、クラッチとブレーキのいずれにも適用できるが、説明の便宜上、第1クラッチ40に適用した場合について説明する。
【0032】
第1クラッチ40は、ドラム41とハブ42とを有する。第1クラッチ40は、ドラム41が入力軸4と一体に回転し、ハブ42が第1ギヤセット10、第2ギヤセット20のサンギヤ11、21と一体に回転する。
【0033】
ドラム41は、円筒形状を有している。ハブ42は、ドラム41より小径の円筒形状を有し、ドラム41の内側に該ドラム41と同心に配置されている。
【0034】
ドラム41とハブ42の間には、摩擦締結装置100が設けられている。摩擦締結装置100は、複数の摩擦板101a、101bと、該摩擦板101a、101bを押圧する第1電動アクチュエータ102と、第2電動アクチュエータ103とで構成されている。
【0035】
複数の摩擦板101a、101bのうち、ドラム41の内側に配設された複数の摩擦板101aは、ドラム41にスプライン結合されて軸方向に移動可能に、且つドラム41と一体に回転可能に配置されている。ハブ42の外側に配設された複数の摩擦板101bは、ハブ42にスプライン結合されて軸方向に移動可能に、且つハブ42と一体に回転可能に配置されている。ドラム41の摩擦板101aとハブ42の摩擦板101bは、交互に配置され、ハブ42の摩擦板101bの両面に設けられたフェーシング材101cを介して、互いに対向している。
【0036】
第1の電動アクチュエータ102は、回転板104と、可動板105と、該回転板104を駆動する駆動部106とで構成されている。
【0037】
図5に示すように、回転板104は、円環形状を有している。回転板104の可動板105と対向する面には、周方向に3つのカム面104aが形成されている。カム面104aの1つは、可動板側から見て反時計回りに120°の範囲に上り勾配になるように傾斜している。カム面104aの上り勾配の上端は段部104bを介して隣接するカム面104aの上り勾配の下端に連続している。カム面104aの上り坂勾配は、1~30°が好ましい。回転板104の外周面には、ストッパ104cが突設されている。
【0038】
可動板105は、回転板104と同じ円環形状を有している。可動板105の回転板104と対向する面には、周方向に3つのカムフォロア面105aが形成されている。カムフォロア面105aの1つは、回転板側から見て反時計回りに120°の範囲に上り勾配になるように傾斜している。カムフォロア面105aの上り勾配の上端は段部105aを介して隣接するカムフォロア面105aの上り勾配の下端になっている。カムフォロア面105aの上り勾配は、1~30°が好ましい。可動板105の外周面の3か所には、ドラム41とスプライン結合するための、1対の突部105cが形成されている。
【0039】
駆動部106は、4つの圧電素子を内蔵し、これらの圧電素子に高周波パルス電圧を印加することにより、駆動端106aが所定の周期で双方向に湾曲する公知の圧電素子アクチュエータである。駆動部106は、駆動端106aが回転板104の外周面に接触し、
図6に示すように、回転板104を双方向に回転駆動する。
【0040】
可動板105のカムフォロア面105aは、
図7に示すように、回転板104のカム面104aと相補する関係にある。上り勾配の下端における厚さをt1、上端における厚さをt2とすると、回転板104の段部104bと可動板105の段部105bが当接した状態では、回転板104と可動板105の合計厚さはt1+t2である。回転板104が120°回転すると、回転板104と可動板105の合計厚さはt2+t2の厚さとなる。したがって、回転板104と可動板105を組み合わせた第1電動アクチュエータ102は、(t2+t2)―(t1+t2)=t2-t1、すなわち上り勾配の高低差だけ軸方向に移動する。
【0041】
第2電動アクチュエータ103は、
図8に示すように、フレーム107に圧電素子108を組み込んだものである。
【0042】
フレーム107は、鉄、アルミ等の金属材料からなり、互いに対向する外面部107a及び内面部107bと、互いに対向する1対の側面部107c、107dとから構成されている。1対の側面部107c、107dは、両端が外面部107a及び内面部107bに一体に連結されている、1対の側面部107c、107dは、互いに対向する方向にV字形にくぼんでいる。一方の側面部107cの外面の中央には固定部107eが突設され、他方の側面部107dの外面の中央にはL字形の出力部107fが突設され、該出力部107fの先端には摩擦板101a、101bを押圧する押圧部107gが形成されている。
【0043】
圧電素子108は、チタン酸バリウム、チタン酸鉛等からなる棒状の形状を有する。圧電素子108は、フレーム107の内側に収容されて、長手方向の両端がフレーム107の外面部107a及び内面部107bに結合されている。
図2に示すように、圧電素子108の一端は電源109の一方の電極に接続され、他端は制御装置111により制御されるスイッチ110を介して、電源109の他方の電極に接続されている。圧電素子108に電圧を印加すると、
図8(a)に示す状態から、
図8(d)に示すように、圧電素子108が長手方向に伸長するように変位し、この変位がフレーム107の変位拡大機構によって、1対の側面部107c、107dが圧電素子108の変位方向と直角な方向、すなわち、外側に変位する。これにより、固定部107eが固定されているため、出力部107fの押圧部107gが摩擦板101a、101bを押圧できるようになっている。
【0044】
なお、第2電動アクチュエータ103は、フレーム107を内側にくぼんだ形状ではなく、外側に膨らんだ形状にすれば、圧電素子108が長手方向に伸長するように変位したとき、1対の側面部107c、107dが内側に変位して、出力部107fの押圧部107gが摩擦板101a、101bから後退するようにすることもできる。
【0045】
第2電動アクチュエータ103は、
図9に示すように、摩擦板101aに隣接し、摩擦板101aの周囲に、スプライン結合部を除いて、等間隔で複数配置されている。第2電動アクチュエータ103は、固定部107eがドラム41の端壁に固定され、押圧部107gが摩擦板101aを押圧できるようになっている。
【0046】
第1電動アクチュエータ102の変位量は、摩擦板101a、101bをゼロタッチの状態まで移動させるのに必要な量であって、(クラッチクリアランス+クラッチ摩耗量)×摩擦板枚数で計算される。クラッチクリアランスを0.3mm、クラッチ摩耗量を0.1mm、摩擦板枚数を3枚とすると、第1電動アクチュエータ102の必要な変位量は1.2mmとなる。第2電動アクチュエータ103の変位量は、摩擦板101a、101bをゼロタッチの状態から締結させるのに必要な量でよい。
【0047】
次に、摩擦締結装置100を用いた第1クラッチ40の動作について説明する。
【0048】
図2を参照すると、第1クラッチ40の非締結時には、ドラム41及びその摩擦板101a、第1電動アクチュエータ102及び第2電動アクチュエータ103は、図示しない入力軸4ともに回転し、ハブ42及びその摩擦板101bは停止又は回転している。第1電動アクチュエータ102は、
図7(b)に示すように、回転板104のカム面104aの段部104bと可動板105のカムフォロア面105aの段部105bが当接して、回転板104と可動板105が近接した状態にある。また、第2電動アクチュエータ103は、出力部107fの押圧部107gが摩擦板101a、101bから後退した状態にある。
【0049】
第1クラッチ40の締結指令により、制御装置111は、締結の前半で第1電動アクチュエータ102を作動させ、締結の後半で第2電動アクチュエータ103を作動させる。
【0050】
第1クラッチ40の締結の前半では、第1電動アクチュエータ102の駆動部106に、回転板104が可動板側から見て時計回りに回動するように、電圧が印加される。これにより、回転板104が回動し、回転板104のカム面104aが周方向に移動する。回転板104のカム面104aに摺接するカムフォロア面105aを有する可動板105は、回転板104のカム面104aに押圧されて摩擦板101a、101bに向かって軸方向に移動する。回転板104は、120°回動して、そのストッパ104cが可動板105の図示しないスプラインに当接すると停止する。この可動板105の移動により、
図3に示すように、摩擦板101a、101bが押されて、摩擦板101a、101bのクリアランスが詰められ、ゼロタッチの状態となる。
【0051】
第1クラッチ40の締結の後半では、スイッチ110がオンされ、電源109の電圧が圧電素子に印加される。これにより、
図4に示すように、圧電素子108は長手方向に伸張し、フレーム107の変位拡大機構により出力部107fが、圧電素子108の変位と直角な方向、すなわちドラム41の軸方向に変位する。この結果、第2電動アクチュエータ103の押圧部107gがゼロタッチ状態のドラム41の摩擦板101a及びハブ42の摩擦板101bを押圧する。
【0052】
第1電動アクチュエータ102の押圧力は、
図10(a)に示すように、摩擦板101a、101bがゼロタッチになるまでのクリアランス領域では、摩擦板101a、101bの摺動抵抗に打ち勝つだけの押圧力があればよい。第2電動アクチュエータ103の押圧力は、
図10(a)に示すように、ゼロタッチ状態の摩擦板101a、101bの弾性領域であり、摩擦板101a、101bを完全に締結する摩擦力が生じるだけの押圧力が必要である。
【0053】
従来の油圧ピストンを用いた摩擦締結装置では、
図10(b)に示すように、クリアランス領域では、ピストンが移動するにつれ、摩擦板の摺動抵抗に加えて、ピストンのリターンスプリングの反力が増加するので、これらに打ち勝つだけの押圧力が必要であり、さらに摩擦板の弾性領域では、摩擦板を完全に締結する摩擦力が生じるだけの押圧力が必要である。したがって、油圧ピストンを用いた摩擦締結装置では、油圧ピストンによる大きな押圧力が必要であった。これに対し、前記本発明の実施形態の摩擦締結装置100では、リターンスプリングの反力が無い分だけ、押圧力が小さくてよい。
【0054】
第1電動アクチュエータ102と第2電動アクチュエータ103の動作により、第1クラッチ40が締結され、ハブ42及びその摩擦板101bは、ドラム41及びその摩擦板101aとともに回転し、ドラム41の回転力がハブ42を介して第1、第2ギヤセット10、20のサンギヤ11、21に伝達される。
【0055】
第1クラッチ40の解放指令により、制御装置111は、締結時とは逆に、クラッチ解放の前半で第2電動アクチュエータ103を非作動にし、クラッチ解放の後半で第1電動アクチュエータ102を作動させる。
【0056】
クラッチ解放の前半で、スイッチ110がオフすると、第2電動アクチュエータ103の圧電素子108への電圧の印加が解消され、圧電素子108及びフレーム107が固有の弾性により復帰する。これにより、第2電動アクチュエータ103の押圧部107gが軸方向に後退し、ドラム41の摩擦板101a及びハブ42の摩擦板101bの押圧が無くなる。
【0057】
クラッチ解放の後半では、第1電動アクチュエータ102の駆動部106に、回転板104が可動板側から見て反時計回りに回動するように、電圧が印加される。これにより、回転板104が120°回動し、回転板104のカム面104aが周方向に移動して、可動板105のカムフォロア面105aから離間する。この結果、可動板105は摩擦板101a、101bとともに軸方向に移動可能となり、ゼロタッチ状態が解消されるので、第1クラッチ40が解放され、ハブ42及びその摩擦板101bは、その回転を停止し、ドラム41からハブ42への回転力が遮断される。
【0058】
第1クラッチ40の解放が完了して非締結状態になった瞬間は、摩擦板101a、101b及び第1電動アクチュエータ102の可動板105は互いに接触した状態にある。しかし、通常の非締結時には、相対速度のある摩擦板101a、101b及び可動板105の間に、空気の流れ(フェーシング面に沿った遠心力等による気流)により圧力が発生するので、摩擦板101a、101b及び可動板105は、クリアランスが拡大する方向に移動する。空気だけでなく、オイルを流すことで、摩擦板101a、101b及び可動板105を引き離す力を大きくすることができる。従って、第1電動アクチュエータ102はオイルレス、摩擦板101a、101bのフェーシング面は少量のオイル潤滑とすることが好ましい。
【0059】
前記実施形態の摩擦締結装置100では、ゼロタッチまでは第1電動アクチュエータ102で摩擦板101a、101bを移動させ、ゼロタッチからは圧電素子108からなる第2電動アクチュエータ103で摩擦板101a、101bを押圧するので、押圧力は大きいが変位が小さい圧電素子アクチュエータでも締結動作を達成できるようにして、油圧レスとし、駆動抵抗の低減、軽量化及びコンパクト化を図ることができる。
【0060】
また、回転板104の回転により回転板104のカム面104aと可動板105のカムフォロア面105aとが摺接するので、可動板105は位置決めされながら軸方向に移動し、確実な移動量を確保することができる。
【0061】
第1電動アクチュエータ102の回転板104の回転駆動に圧電素子アクチュエータを使用しているので、消費電力を低減できるとともに、コンパクト化を図ることができる。
【0062】
第1電動アクチュエータ102と第2電動アクチュエータ103が摩擦板101a、101bの両側に配置されるので、お互いに干渉することなく配置することができ、構成が簡単になる。なお、第1電動アクチュエータ102と第2電動アクチュエータ103は摩擦板101a、101bのいずれの側に配置されてもよい。
【0063】
<自動変速機のフェールセーフ>
前記実施形態の摩擦締結装置100は、既に述べたように、自動変速機1の第1クラッチ40、第2クラッチ50、第1ブレーキ60、第2ブレーキ70、第3ブレーキ80に適用される。電源オフ時に自動変速機1が所定の変速段に設置されるように、少なくとも1つのクラッチと複数のブレーキのそれぞれの摩擦締結装置100がノーマルオープン又はノーマルクローズのいずれかに設定することにより、故障時に所定の変速段に設定してフェイルセーフを図ることができる。
【0064】
例えば、故障時には、3速又は4速に設定されるように摩擦締結装置100をノーマルクローズにしておき、故障しても、Dレンジに入れて3速又は4速で走行できるようする。
図1(b)を参照すると、3速の場合は、第1クラッチ40と第3ブレーキ80をノーマルクローズにし、4速の場合は、第1クラッチ40と第2クラッチ50をノーマルクローズにすることができる。
【0065】
摩擦締結装置100のノーマルクローズを達成するには、電圧を印加しないノーマル状態で、第1電動アクチュエータ102の可動板104が回転板105から離間して摩擦板101a、101bをゼロタッチ状態にするとともに、前述したように第2電動アクチュエータ103としてフレーム107が外側に膨らんだ形状のものを採用して、第2電動アクチュエータ103の出力部107fの押圧部107gが固有の弾性力により摩擦板101a、101bを押圧して、クラッチ又はブレーキを締結状態にする。電圧を印加すると、第1電動アクチュエータ102によりゼロタッチ状態を解消し、第2電動アクチュエータ103の出力部107fが後退して、クラッチ又はブレーキを非締結状態にする。
【0066】
このように、自動変速機1の少なくともいずれかの摩擦締結装置100をノーマルクローズにして、故障時でも所定のギヤ段に設定されるようにし、Dレンジに入れて少なくとも自動車を安全な場所又は修理工場までは走行できるようにすることができる。
【0067】
本発明は前記実施形態に限るものではなく、種々変更することができる。例えば、第1電動アクチュエータ102の回転板104のストッパ104cの代わりに、
図11(a)に示すように、回転板104に設けたピン104dが、可動板105に形成した円弧状の溝105dに沿って移動し、溝端に当接することで停止させるようにしてもよい。また、回転板104の内周縁に設けた突起104eが、可動板105の内周縁に設けた突起105eに当接することで停止させるようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0068】
以上のように、本発明に係る摩擦締結装置は、自動車の変速機のクラッチ、ブレーキに
好適に利用される可能性がある。
【符号の説明】
【0069】
1 自動変速機
41 ドラム
42 ハブ
100A,100B 摩擦締結装置
101a,101b 摩擦板
102 第1電動アクチュエータ
103 第2電動アクチュエータ
104 回転板
104a カム面
105 可動板
105a カムフォロア面
106 駆動部
107 フレーム
108 圧電素子