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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-28
(45)【発行日】2022-03-08
(54)【発明の名称】シールキャップ
(51)【国際特許分類】
   F04B 39/12 20060101AFI20220301BHJP
   F04B 39/00 20060101ALI20220301BHJP
   F04C 29/00 20060101ALI20220301BHJP
   F04C 29/12 20060101ALI20220301BHJP
   F16J 13/10 20060101ALI20220301BHJP
【FI】
F04B39/12 101Z
F04B39/00 A
F04C29/00 B
F04C29/12 A
F16J13/10 Z
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018184926
(22)【出願日】2018-09-28
(65)【公開番号】P2020056313
(43)【公開日】2020-04-09
【審査請求日】2020-12-18
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(72)【発明者】
【氏名】野崎 健太
(72)【発明者】
【氏名】石川 光世
(72)【発明者】
【氏名】青木 健
(72)【発明者】
【氏名】坂野 利幸
(72)【発明者】
【氏名】出戸 紀一
(72)【発明者】
【氏名】金井 明信
【審査官】山崎 孔徳
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-157817(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04B 39/12
F04B 39/00
F04C 29/00
F04C 29/12
F16J 13/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体が流れる配管を接続する配管接続部と、
前記配管接続部の端面に開口された流路孔と、を備えた流体機械に用いられ、
前記流路孔に挿入されて前記流路孔を塞ぐキャップ体を備え、
前記キャップ体は、
円柱状のキャップ本体部と、
前記キャップ本体部の外周面にて周方向にわたって環状に設けられ、前記キャップ本体部の軸方向に離間して配置される複数の突条部と、を有するシールキャップであって、
前記複数の突条部は、
前記流路孔の開口側に最も近く位置する外部側突条部と、
前記流路孔の開口側から最も離れて位置する内部側突条部と、
前記外部側突条部と前記内部側突条部との間に位置する中間突条部と、を有し、
前記外部側突条部、前記内部側突条部、前記中間突条部それぞれ周方向に分断する切り欠きがそれぞれ設けられ、
前記キャップ本体部は、前記切り欠きに対応する位置に形成され、前記キャップ本体部の外周面よりも窪む凹部である気泡滞留部を有し、
前記キャップ本体部の周方向に前記切り欠きの位相差が生じるように、前記キャップ本体部の周方向における前記切り欠きの位置がそれぞれ設定され、
前記キャップ体が前記流路孔に挿入されたとき、前記流路孔の孔壁と、前記孔壁に圧接される前記複数の突条部と、前記切り欠きと、により、前記流体機械の外部空間と前記流体機械の内部空間とを連通する連通路が区画形成され
前記複数の突条部と前記孔壁によって、複数の環状の空間が、前記連通路の一部として形成され、
前記複数の環状の空間は前記切り欠きによって連通されることを特徴とするシールキャップ。
【請求項2】
前記外部側突条部に形成される前記切り欠きと前記中間突条部に形成される前記切り欠きとの前記キャップ本体部の周方向の位相差である外部側位相差と、
前記内部側突条部に形成される前記切り欠きと前記中間突条部に形成される前記切り欠きとの前記キャップ本体部の周方向の位相差である内部側位相差と、は同じ位相差であることを特徴とする請求項1記載のシールキャップ。
【請求項3】
前記複数の突条部は、複数の前記中間突条部を有し、
前記複数の中間突条部のそれぞれの切り欠きの位相差は、前記外部側位相差および前記内部側位相差よりも大きく設定されていることを特徴とする請求項記載のシールキャップ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、シールキャップに関し、特に、流体機械における冷媒の流路孔を塞ぐシールキャップに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のシールキャップとしては、例えば、特許文献1に開示された圧縮機のフランジ栓が知られている。特許文献1に開示されたフランジ栓は、吸入口又は吐出口に略圧入状態で組みつけられ、外部から水分の浸入等での内部部品の錆を防止し、圧縮機に封入している潤滑油の洩れを防止している。フランジ栓には圧縮機の内部と外部を連通するように微細な連通路が形成されている。圧縮機内部の空気の圧力が上昇した時には、この微細な連通路を通り、圧力を逃がす。また、圧縮機内部の空気の圧力が減少した時には、この連通路を通り、外部より空気を吸い込み、負圧にならないように圧力が調整される。従って、輸送中の振動等があっても、圧力差が小さく、フランジ栓の移動荷重が小さい為、抜け落ちない。また、圧縮機内部が負圧にもなりにくい為、フランジ栓を外す際にも、大きな力を要することはない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-22717号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、圧縮機を含む流体機械を出荷する場合、出荷前の流体機械の内部には、予め潤滑油が封入されていることが一般的である。特許文献1に開示されたフランジ栓には、微細な連通路が形成されているため、出荷後の流体機械の輸送時の姿勢によっては、微細な連通路から潤滑油が漏洩するという問題がある。
【0005】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたもので、本発明の目的は、流体機械に対する着脱容易性と、流体機械の内部の圧力上昇による抜け出し防止と、潤滑油の漏洩防止と、を可能とするシールキャップの提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明は、流体が流れる配管を接続する配管接続部と、前記配管接続部の端面に開口された流路孔と、を備えた流体機械に用いられ、前記流路孔に挿入されて前記流路孔を塞ぐキャップ体を備え、前記キャップ体は、円柱状のキャップ本体部と、前記キャップ本体部の外周面にて周方向にわたって環状に設けられ、前記キャップ本体部の軸方向に離間して配置される複数の突条部と、を有するシールキャップであって、前記複数の突条部は、前記流路孔の開口側に最も近く位置する外部側突条部と、前記流路孔の開口側から最も離れて位置する内部側突条部と、前記外部側突条部と前記内部側突条部との間に位置する中間突条部と、を有し、前記外部側突条部、前記内部側突条部、前記中間突条部それぞれ周方向に分断する切り欠きがそれぞれ設けられ、前記キャップ本体部は、前記切り欠きに対応する位置に形成され、前記キャップ本体部の外周面よりも窪む凹部である気泡滞留部を有し、前記キャップ本体部の周方向に前記切り欠きの位相差が生じるように、前記キャップ本体部の周方向における前記切り欠きの位置がそれぞれ設定され、前記キャップ体が前記流路孔に挿入されたとき、前記流路孔の孔壁と、前記孔壁に圧接される前記複数の突条部と、前記切り欠きと、により、前記流体機械の外部空間と前記流体機械の内部空間とを連通する連通路が区画形成され、前記複数の突条部と前記孔壁によって、複数の環状の空間が、前記連通路の一部として形成され、前記複数の環状の空間は前記切り欠きによって連通されることを特徴とする。
【0007】
本発明では、キャップ本体部が流体機械の流路孔に挿入されたとき、流路孔の孔壁と、流路孔を形成する孔壁に圧接される複数の突条部と、切り欠きと、により、流体機械の外部空間と流体機械の内部空間とを連通する連通路が区画形成される。流体機械の外部空間と流体機械の内部空間とを連通する連通路が区画形成されることにより、流体機械に対する着脱容易性と、流体機械の内部の圧力上昇により抜け出し防止を可能としている。また、連通路は、切り欠きの位相差が生じているのでラビリンス状となる。連通路には潤滑油が入り込むが、潤滑油とともに気泡が連通路に入り込む。流体機械の向きに応じて気泡が切り欠きに集約されると、切り欠きを中心に空気溜まりが形成される。したがって、切り欠きを中心に形成された空気溜まりが潤滑油の移動を妨げるので、潤滑油の流体機械の内部空間から外部空間への漏洩を防止することができる。
【0008】
また、気泡滞留部は気泡を切り欠きに滞留し易くする。このため、気泡滞留部は、切り欠きに気泡を集約させて空気溜まりを形成し易くするとともに、空気溜まりを切り欠きに留めることができる。したがって、流体機械の内部の圧力が上昇しても、空気溜まりが切り欠きに留まることができ、潤滑油の移動を妨げ、潤滑油の流体機械の内部空間から外部空間への漏洩を防止することができる。
また、気泡滞留部をキャップ本体部の表面から窪む凹部とすることにより、容易に気泡滞留部を設けることができる。凹部には気泡が溜まり易くなるほか、気泡の集約により形成された空気溜まりをより一層留めることができる。
【0009】
また、上記のシールキャップにおいて、前記外部側突条部に形成される前記切り欠きと前記中間突条部に形成される前記切り欠きとの前記キャップ本体部の周方向の位相差である外部側位相差と、前記内部側突条部に形成される前記切り欠きと前記中間突条部に形成される前記切り欠きとの前記キャップ本体部の周方向の位相差である内部側位相差と、は同じ位相差である構成としてもよい。
この場合、外部側位相差と内部側位相差とを同じ位相差とすることにより、連通路を可及的に長くすることが可能であり、連通路が長くなるほど潤滑油の流体機械の内部空間から外部空間への漏洩をより防止し易くなる。
【0011】
また、上記のシールキャップにおいて、前記複数の突条部は、複数の前記中間突条部を有し、前記複数の中間突条部のそれぞれの切り欠きの位相差は、前記外部側位相差および前記内部側位相差よりも大きく設定されている構成としてもよい。
この場合、複数の中間突条部のそれぞれの切り欠きの位相差は、外部側位相差および内部側位相差よりも大きく設定されているので、連通路の長さをより長くすることができるほか、切り欠きの数が増えることにより、空気溜まりが形成される位置が増えて、より潤滑油の流体機械の内部空間から外部空間への漏洩を防止することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、流体機械に対する着脱容易性と、流体機械の内部の圧力上昇による抜け出し防止と、潤滑油の漏洩防止と、を可能とするシールキャップを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】第1の実施形態に係るシールキャップを適用する流体機械としての圧縮機の平面図である。
図2】第1の実施形態に係るシールキャップを適用する流体機械としての圧縮機の正面図である。
図3】第1の実施形態に係るシールキャップの平面図である。
図4】第1の実施形態に係るシールキャップの側面図である。
図5】キャップ体を拡大して示す拡大側面図である。
図6】(a)は図5のA-A線矢視図であり、(b)は図5のB-B線矢視図であり、(c)は図5のC-C線矢視図であり、(d)は図5のD-D線矢視図である。
図7】(a)はキャップ体の外周を展開して平面的に表現した展開図であり、(b)は図7(a)のE-E線矢視図である。
図8】(a)は切り欠きの凹部に気泡が溜まる状態を示す説明図であり、(b)は気泡の集約によって切り欠きを中心に空気溜まりが形成された状態を示す説明図である。
図9】(a)は第2の実施形態のシールキャップにおけるキャップ体を拡大して示す拡大側面図であり、(b)は第2の実施形態のシールキャップにおけるキャップ体の外周を展開して平面的に表現した展開図である。
図10】(a)は参考例のシールキャップにおける切り欠きの凹部に気泡が溜まる状態を示す説明図であり、(b)は参考例のシールキャップにおける気泡の集約によって切り欠きを中心に空気溜まりが形成された状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(第1の実施形態)
以下、第1の実施形態に係るシールキャップを図面に基づいて説明する。図1および図2に示す圧縮機10は、流体機械としての車載用の圧縮機であり、圧縮機10のハウジング11は、主にシリンダブロック、フロントハウジングおよびリヤハウジングにより構成されている。ハウジング11には流体としての冷媒が流れる配管を接続する第1配管接続部12が設けられている。第1配管接続部12には端面13が形成され、端面13には、流路孔としての吐出孔14が開口する。吐出孔14はハウジング11の孔壁11Aにより形成されている。
【0015】
ハウジング11には、流体としての冷媒が流れる配管を接続する第2配管接続部16が第1配管接続部12と離れた位置に設けられている。第2配管接続部16には端面17が形成され、端面17には、流路孔としての吸入孔18が開口する。吸入孔18はハウジング11の孔壁11Bにより形成されている。
【0016】
本実施形態では、図1および図2に示すように、圧縮機10の第1配管接続部12、第2配管接続部16が頂部に位置し、圧縮機10の回転軸心Pが水平になるように、圧縮機10が車両のエンジンルーム内にてほぼ水平に固定される。
【0017】
図3図4に示すシールキャップ20は、第1配管接続部12に装着して吐出孔14を塞ぐためのものであり、例えば、人力による加圧により弾性変形可能なポリウレタン等の樹脂材料又はゴム系材料により形成されている。シールキャップ20は、板状の板状体21と、把持体22と、キャップ体24と、を備える。
【0018】
板状体21は、把持体22およびキャップ体24を一体的に連結する。図4に示すように、板状体21の表面21Aに把持体22が備えられている。表面21Aにおいて板状体21の長手方向の他側に把持体22が位置する。板状体21の裏面21Bはキャップ体24を備える。キャップ体24は、裏面21Bにおいて板状体21の長手方向の一側に位置する。板状体21は、板状体21の長手方向における一側の端部26と、他側の端部27を有している。
【0019】
把持体22は、第1配管接続部12に装着されたシールキャップ20を引き抜き易くするためのものである。図4に示すように、把持体22は、板状体21の端部27において表面21Aから立設されるように形成される板状の部位である。
【0020】
図4図5に示すように、キャップ体24は、円柱状のキャップ本体部30と、キャップ本体部30の外周面にて周方向にわたって環状に設けられる4本の突条部31、32、33、34と、を有する。キャップ本体部30は、先端からキャップ本体部30の内側へ入り込むように形成された凹部(図示せず)を備えている。キャップ本体部30の軸心S1は板状体21の裏面21Bと直交する。キャップ本体部30の外周径は、吐出孔14の直径より僅かに大きく設定されている。
【0021】
図5に示すように、突条部31~34は、キャップ本体部30の軸方向に離間して配置されている。突条部31~34の離間の間隔は一定である。本実施形態では、キャップ本体部30の最も基部側に位置する突条部31は、吐出孔14の開口側に最も近く位置する外部側突条部に相当する。キャップ本体部30の最も先端側に位置する突条部34は、吐出孔14の開口側から最も離れて位置する内部側突条部に相当する。突条部31、34間に存在する突条部32、33は、外部側突条部と内部側突条部との間に位置する中間突条部に相当する。
【0022】
突条部31~34を含めたキャップ体24の外周径は、吐出孔14の直径よりも僅かに大きく設定されている。キャップ体24を吐出孔14に挿入すると、突条部31~34はそれぞれ弾性変形して吐出孔14の孔壁11Aと圧接する。つまり、突条部31~34と孔壁11Aとの圧接を図るように、突条部31~34に締め代が設定されている。突条部31~34と孔壁11Aとの圧接によりキャップ体24が吐出孔14に保持される。
【0023】
図6図7(a)に示すように、キャップ体24は、突条部31を分断する切り欠き35と、突条部32を分断する切り欠き36と、突条部33を分断する切り欠き37と、突条部34を分断する切り欠き38と、を有する。切り欠き35~38の幅は突条部31~34のキャップ本体部30の軸方向の長さよりも大きい。
【0024】
図6に示すように、キャップ本体部30の周方向における切り欠き35~38の位置は、キャップ本体部30の周方向に切り欠き35~38の位相差が生じるように設定されている。具体的には、キャップ本体部30の軸方向に互いに隣り合う一対の突条部31、32では、切り欠き35と切り欠き36は、90°の位相差が生じる位置に設定されている。互いに隣り合う一対の突条部32、33では、切り欠き36と切り欠き37は、180°の位相差が生じる位置に設定されている。軸方向に互いに隣り合う一対の突条部33、34では、切り欠き35と切り欠き36は、90°の位相差が生じる位置に設定されている。
【0025】
外部側突条部である突条部31に形成される切り欠き35と中間突条部である突条部32に形成される切り欠き36とのキャップ本体部30の周方向の位相差は、外部側位相差とに相当する。内部側突条部である突条部34に形成される切り欠き38と中間突条部である突条部33に形成される切り欠き37のキャップ本体部30の周方向の位相差は、内部側位相差とに相当する。本実施形態では、外部位相差と内部側位相差はいずれも90°であり同じ位相差である。中間突条部である突条部32の切り欠き36と突条部33の切り欠き37との位相差は、180°であるから、外部側位相差および内部側位相差よりも大きく設定されている。
【0026】
切り欠き35~38が設けられることにより、キャップ体24が吐出孔14に挿入されたとき、圧縮機10の外部空間と吐出孔14の空間とを連通する連通路40が区画形成される。具体的には、キャップ体24が吐出孔14に挿入された状態では、吐出孔14の孔壁11Aと、吐出孔14を形成する孔壁11Aに圧接される突条部31~34と、切り欠き35~38と、は連通路40を区画形成する。本実施形態の連通路40は、切り欠き35と、突条部31と突条部32との間の空間41と、切り欠き36と、突条部32と突条部33との間の空間42と、切り欠き37と、突条部33と突条部34との間の空間43と、切り欠き38と、から構成されている。したがって、連通路40は、ラビリンス状の通路を形成している。
【0027】
図6図7(a)に示すように、キャップ本体部30は、切り欠き35~38に対応する位置に形成された気泡滞留部としての凹部44~47を有する。凹部44は切り欠き35に対応する位置に形成され、凹部45は切り欠き36に対応する位置に形成され、凹部46は切り欠き37に対応する位置に形成され、凹部47は切り欠き38に対応する位置に形成されている。凹部44~47はキャップ本体部30の外周面よりも凹む空間を形成しており、その空間は四角錐状の空間である。
【0028】
図7(b)に示すように、圧縮機10の内部に封入された潤滑油が連通路40を通る際に、潤滑油とともに連通路40に入り込む気泡Vが凹部44~47によって連通路40の切り欠き35~38に留まり易くなる。凹部44~47の大きさは、気泡Vが留まり易く、かつ、気泡Vの集約により形成される後述する空気溜まりが移動しない条件であればよい。例えば、凹部46の大きさは突条部32、34に干渉しない大きさがよく、凹部45の大きさは突条部31、33に干渉しない大きさがよい。
【0029】
次に、本実施形態のシールキャップ20の作用について説明する。出荷前の圧縮機10の内部には潤滑油が封入されている。潤滑油が封入された後、吐出孔14にキャップ体24が挿入され、シールキャップ20は圧縮機10に装着される(図2を参照)。なお、吸入孔18に挿入され、装着されるシールキャップは図示されない。キャップ体24が吐出孔14に挿入されたとき、図7(a)に示すように、圧縮機10の外部空間と内部空間とを連通する連通路40が区画形成される。
【0030】
出荷された圧縮機10は輸送中に横向きに搬送されることがある。ここでは、図2に示す圧縮機10の姿勢から回転軸心P周りに反時計回りに45°回転した姿勢にて輸送される場合について説明する。図2に示す圧縮機10の姿勢から回転軸心P周りに反時計回りに45°回転した姿勢では、シールキャップ20における連通路40における切り欠き36が他の切り欠き35、37、38と比べて高い位置となる。図8(a)に示すように、連通路40には、輸送中の圧縮機10の内部圧力の変動により、圧縮機10の内部に封入されている潤滑油Lの一部が進入する。連通路40がラビリンス状であるため、連通路40を進入する潤滑油Lの動きは緩慢であり、潤滑油Lが圧縮機10の外部空間へ向かうが漏洩することは殆どない。
【0031】
潤滑油Lが連通路40を圧縮機10の外部空間へ向けて流れ、潤滑油Lが切り欠き36を通過しようとする。このとき、図8(a)に示すように、潤滑油Lに含まれている気泡Vおよび潤滑油Lとともに連通路40に入り込んだ気泡Vの一部は、凹部45にて留まる。そして、輸送された圧縮機10が例えば倉庫にて保管される場合、凹部45に留まる気泡以外の気泡Vは、時間の経過とともにゆっくりと連通路40において鉛直方向の上方へ向かう。切り欠き36が他の切り欠き35、37、38と比べて高い位置であるので、連通路40を移動する気泡Vは凹部45に滞留する気泡Vと一体化する。
【0032】
図8(b)に示すように、連通路40を移動する多数の気泡Vが凹部45に滞留する気泡Vと一体化すると、凹部45付近にて空気溜まりWが形成される。凹部45は空気溜まりWを引き続き滞留させる機能を果たすため、空間42から切り欠き36を越えようとする潤滑油Lは、空気溜まりWに阻まれる。つまり、空気溜まりWは潤滑油Lの圧縮機10の外部への漏洩を妨げる。切り欠き36よりも外部空間に近い空間41に潤滑油Lは存在するものの、圧縮機10の外部の空間側の空気との表面張力によって切り欠き35を越えない位置に留まる。
【0033】
また、圧縮機10の内部空間の圧力が高くなっても、空気溜まりWが圧縮することで圧力に対する緩衝機能を果たし、空気溜まりWの移動と潤滑油Lの外部への漏洩を妨げる。このように、高い位置となる切り欠き36に気泡Vを集約して空気溜まりWを形成し、空気溜まりWを凹部45によって切り欠き36に留まらせることで、潤滑油Lの圧縮機10の内部空間から外部空間への漏洩が防止される。
【0034】
なお、本実施形態では、切り欠き36が切り欠き35、37、38よりも高い位置について説明したが、圧縮機10の姿勢によって切り欠き36以外の切り欠き35、37、38のいずれかが最も高い位置となる場合がある。この場合、最も高い位置の切り欠きに空気溜まりWが形成されやすい。
【0035】
本実施形態のシールキャップ20は以下の作用効果を奏する。
(1)キャップ本体部30が吐出孔14に挿入されたとき、吐出孔14の孔壁11Aと、孔壁11Aに圧接される複数の突条部31~34と、切り欠き35~38と、により、圧縮機10の外部空間と内部空間とを連通する連通路40が区画形成される。圧縮機10の外部空間と内部空間とを連通する連通路40が区画形成されることにより、圧縮機10に対する着脱容易性と、圧縮機10の内部の圧力上昇による抜け出し防止を可能としている。また、連通路40は、切り欠き35~38の位相差が生じているのでラビリンス状となる。連通路40には潤滑油Lが入り込むが、潤滑油Lとともに連通路40に入り込む気泡Vが圧縮機10の向きに応じて切り欠き35~38のいずれかに集約されると、切り欠き35~38のいずれかを中心に空気溜まりWが形成される。したがって、切り欠き35~38のいずれかを中心に形成された空気溜まりWが潤滑油Lの移動を妨げるので、潤滑油Lの圧縮機10の内部空間から外部空間への漏洩を防止することができる。
【0036】
(2)気泡滞留部としての凹部44~47は気泡Vを切り欠き35~38に滞留し易くする。このため、凹部44~47は、切り欠き35~38に気泡Vを集約させて空気溜まりWを形成し易くするとともに、空気溜まりWを切り欠き35~38に留めることができる。したがって、圧縮機10の内部空間の圧力が上昇しても、空気溜まりWが切り欠き35~38に留まることができ、潤滑油Lの移動を妨げ、潤滑油Lの圧縮機10の内部空間から外部空間への漏洩を防止することができる。
【0037】
(3)複数の突条部31~34は、外部側突条部である突条部31と、内部側突条部である突条部34と、突条部31と突条部34との間に位置する中間突条部である突条部32、33と、を有する。外部側突条部である突条部31に形成される切り欠き35と中間突条部である突条部32に形成される切り欠き36とのキャップ本体部30の周方向の位相差は外部側位相差である。内部突条部である突条部34に形成される切り欠き38と中間突条部である突条部33に形成される切り欠き37とのキャップ本体部30の周方向の位相差は内部側位相差である。外部側位相差と内部側位相差とは同じ90°の位相差である。仮に、これらの位相差が同じでなく、偏って設定された場合、潤滑油Lが位相差の大きい側を通過せず位相差の小さい側を通過して次の切り欠きに到達することが考えられる。外部側位相差と内部側位相差とを同じ位相差とすることにより、連通路40を可及的に長くすることが可能であり、連通路40が長くなるほど潤滑油Lの圧縮機10の内部空間から外部空間への漏洩をより防止し易くなる。
【0038】
(4)気泡滞留部をキャップ本体部30の表面から窪む凹部44~47とすることにより、容易に気泡滞留部をキャップ本体部30に設けることができる。凹部44~47には気泡Vが溜まり易くなるほか、気泡Vの集約により形成された空気溜まりWを切り欠き35~38より留めることができる。
【0039】
(5)複数の突条部31~34は、複数の中間突条部である突条部32、33を有し、突条部32の切り欠き36と突条部33の切り欠き37との位相差は180°であり、外部側位相差および内部側位相差よりも大きく設定されている。このため、連通路40の長さをより長くすることができるほか、切り欠きの数が増えることにより、空気溜まりWが形成される位置が増えて、より潤滑油Lの圧縮機10の内部空間から外部空間への漏洩を防止することができる。
【0040】
(6)複数の突条部31~34および凹部44~47が周方向において位相差を保って配置されているので、圧縮機10が横向きや上下逆向きであっても、突条部31~34のいずれかが鉛直方向において最も高い位置となり、最も高い位置となる突条部によって潤滑油は漏洩し難くなる。特に、位相差が均等である場合、突条部31~34のいずれかを確実に鉛直方向の上方の位置とすることができ、潤滑油は一層漏洩し難くなる。
【0041】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態に係るシールキャップについて説明する。本実施形態では、シールキャップの突条部が3本である点で、第1の実施形態と相違する。本実施形態では、第1の実施形態と共通の構成については第1の実施形態の説明を援用し、共通の符号を用いる。
【0042】
図9(a)、図9(b)に示すシールキャップ50のキャップ体51は、キャップ本体部30および突条部52、53、54を有する。突条部52~54は、キャップ本体部30の軸方向に離間して配置されている。突条部52~54の離間の間隔は一定である。本実施形態では、キャップ本体部30の最も基部側に位置する突条部52は、吐出孔14の開口側に最も近く位置する外部側突条部に相当する。キャップ本体部30の最も先端側に位置する突条部54は、吐出孔14の開口側から最も離れて位置する内部側突条部に相当する。突条部52、54間に存在する突条部53は、外部側突条部と内部側突条部との間に位置する中間突条部に相当する。
【0043】
突条部52~54を含めたキャップ体24の外周径は、吐出孔14の直径よりも僅かに大きく設定されている。突条部52~54と孔壁11Aとの圧接を図るように、突条部52~54に締め代が設定されている。キャップ体24は、突条部52を分断する切り欠き55と、突条部53を分断する切り欠き56と、突条部54を分断する切り欠き57と、を有する。切り欠き55~57の幅は突条部52~54のキャップ本体部30の軸方向の長さよりも大きい。
【0044】
キャップ本体部30の周方向における切り欠き55~57の位置は、キャップ本体部30の周方向に切り欠き55~57の位相差が生じるように設定されている。具体的には、キャップ本体部30の軸方向に互いに隣り合う一対の突条部52、53では、切り欠き55と切り欠き56は、120°の位相差が生じる位置に設定されている。互いに隣り合う一対の突条部53、54では、切り欠き56と切り欠き57は、120°の位相差が生じる位置に設定されている。
【0045】
外部突条部である突条部52に形成される切り欠き55と中間突条部である突条部53に形成される切り欠き56とのキャップ本体部30の周方向の位相差は、外部側位相差とに相当する。内部突条部である突条部54に形成される切り欠き57と中間突条部である突条部53に形成される切り欠き56とのキャップ本体部30の周方向の位相差は、内部側位相差とに相当する。本実施形態では、外部位相差と内部側位相差はいずれも120°であり同じ位相差である。
【0046】
切り欠き55~57が設けられることにより、キャップ体24が吐出孔14に挿入されたとき、圧縮機10の外部空間と内部空間とを連通する連通路60が区画形成される。具体的には、キャップ体24が吐出孔14に挿入された状態では、吐出孔14の孔壁11Aと、吐出孔14を形成する孔壁11Aに圧接される突条部52~54と、切り欠き55~57と、は連通路60を区画形成する。本実施形態の連通路60は、切り欠き55と、突条部52と突条部53との間の空間61と、切り欠き56と、突条部53と突条部54との間の空間62と、切り欠き57と、から構成されている。したがって、連通路60は、ラビリンス状の通路を形成している。
【0047】
キャップ本体部30は、切り欠き55~57に対応する位置に形成された気泡滞留部としての凹部63~65を有する。凹部63は切り欠き55に対応する位置に形成され、凹部64は切り欠き56に対応する位置に形成され、凹部65は切り欠き57に対応する位置に形成されている。凹部63~65はキャップ本体部30の外周面よりも凹む空間を形成しており、その空間は四角錐状の空間である。
【0048】
本実施形態によれば、突条部が3本であっても第1の実施形態の作用効果(1)、(2)、(4)、(6)と同等の作用効果を奏する。
【0049】
参考例
次に、参考例に係るシールキャップについて説明する。本参考例のシールキャップは切り欠きに気泡滞留部を備えない点で第1の実施形態と異なる。本参考例では、第1の実施形態と共通の構成については第1の実施形態の説明を援用し、共通の符号を用いる。
【0050】
図10(a)、図10(b)に示す本参考例のシールキャップ70では、キャップ本体部30には切り欠き35~38に対応する位置に凹部を備えない。つまり、切り欠き35~38に対応する位置は、キャップ本体部30は外周面の一部である。
【0051】
第1の実施形態と同様に、図2に示す圧縮機10の姿勢から回転軸心P周りに反時計回りに45°回転した姿勢の状態では、切り欠き36は他の切り欠き35、37、38と比べて高い位置となる。連通路40の気泡Vは凹部がないため切り欠き37を通過するが、気泡Vは切り欠き36付近の高い位置で留まろうとする。そして、多数の気泡Vは、時間の経過とともにゆっくりと連通路40において鉛直方向の上方へ向かう。切り欠き36が他の切り欠き35、36、38と比べて高い位置であるので、連通路40を移動する気泡Vは切り欠き37付近おいて気泡Vと一体化する。気泡Vの一体化により空気溜まりWが形成される。空気溜まりWは潤滑油Lの圧縮機10の内部空間から外部空間への漏洩を妨げる。
【0052】
なお、上記の実施形態に係るシールキャップは、本発明の一実施形態を示すものであり、本発明は、上記した実施形態に限定されるものではなく、下記のように発明の趣旨の範囲内で種々の変更が可能である。
【0053】
○ 上記の実施形態では、シールキャップが装着される流体機械として車載用の圧縮機を例として説明したが、流体機械は圧縮機に限定されず、例えば、ポンプであってもよい。また、圧縮機の形式は特に限定されない。例えば、圧縮機は、斜板式、スクロール式、ベーン式であってもよい。
○ 上記の実施形態では、シールキャップは流路孔としての吐出孔を塞ぐとしたが、これに限らない。シールキャップは吸入孔を塞ぐものであってもよい。
○ 上記の実施形態では、気泡滞留部が角錐状の空間を有する凹部としたが、凹部は角錐状の空間に以外であってもよい。凹部は、例えば、半球状の空間を形成する凹部であってもよい。また、気泡滞留部は、気泡が留まり易い凹部のほか、気泡が係止されやすい粗面としてもよい。
○ 上記の実施形態では、キャップ体は4本又は3本の突条部を有するとしたがこの限りではない。突条部の数は3本以上であればよく、この場合、突条部を分断する切り欠きがそれぞれの突条部に設けられるとよい。また、突条部同士の間隔は一定でなくともよい。
○ 上記の実施形態では、切り欠きの位相が90°、180°又は120°という例を示したが、これに限らない。切り欠きの位相は、特に、限定されないが、45~180°の範囲が好ましい。切り欠きの位相は、位相差が生じていればよく、均等でなくてもよい。また、中間位相差を外部側位相差および内部側位相差よりも大きく設定したが、中間位相差は外部側位相差および内部側位相差よりも小さく設定してもよいし同じであってもよい。また、外部側位相差および内部側位相差を異なるようにしてもよい。
○ 第1の実施形態では、圧縮機の輸送時に切り欠き36が他の切り欠き35、37、38よりも高い位置となる圧縮機の姿勢を例示としたが、これに限らない。切り欠き36以外の切り欠き35、37、38のいずれかが高い位置となる圧縮機の姿勢であってもよい。また、圧縮機の姿勢は輸送時に限らず倉庫保管時の姿勢であってもよい。
【符号の説明】
【0054】
10 圧縮機
11 ハウジング
11A、11B 孔壁
12 第1配管接続部
13 端面
14 吐出孔(流路孔)
20、50、70 シールキャップ
21 板状体
22 把持体
24、51 キャップ体
30 キャップ本体部
31 突条部(外部側突条部)
32 突条部(中間突条部)
33 突条部(中間突条部)
34 突条部(内部側突条部)
35、36、37、38、55、56、57 切り欠き
40、60 連通路
41、42、43、61、62 空間
44、45、46、47、63、64、65 凹部
73、74、75 凹部
L 潤滑油
P 回転軸心
V 気泡
W 空気溜まり
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10