IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社GSユアサの特許一覧

特許7031649評価装置、コンピュータプログラム及び評価方法
<>
  • 特許-評価装置、コンピュータプログラム及び評価方法 図1
  • 特許-評価装置、コンピュータプログラム及び評価方法 図2
  • 特許-評価装置、コンピュータプログラム及び評価方法 図3
  • 特許-評価装置、コンピュータプログラム及び評価方法 図4
  • 特許-評価装置、コンピュータプログラム及び評価方法 図5
  • 特許-評価装置、コンピュータプログラム及び評価方法 図6
  • 特許-評価装置、コンピュータプログラム及び評価方法 図7
  • 特許-評価装置、コンピュータプログラム及び評価方法 図8
  • 特許-評価装置、コンピュータプログラム及び評価方法 図9
  • 特許-評価装置、コンピュータプログラム及び評価方法 図10
  • 特許-評価装置、コンピュータプログラム及び評価方法 図11
  • 特許-評価装置、コンピュータプログラム及び評価方法 図12
  • 特許-評価装置、コンピュータプログラム及び評価方法 図13
  • 特許-評価装置、コンピュータプログラム及び評価方法 図14
  • 特許-評価装置、コンピュータプログラム及び評価方法 図15
  • 特許-評価装置、コンピュータプログラム及び評価方法 図16
  • 特許-評価装置、コンピュータプログラム及び評価方法 図17
  • 特許-評価装置、コンピュータプログラム及び評価方法 図18
  • 特許-評価装置、コンピュータプログラム及び評価方法 図19
  • 特許-評価装置、コンピュータプログラム及び評価方法 図20
  • 特許-評価装置、コンピュータプログラム及び評価方法 図21
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-28
(45)【発行日】2022-03-08
(54)【発明の名称】評価装置、コンピュータプログラム及び評価方法
(51)【国際特許分類】
   H02J 3/00 20060101AFI20220301BHJP
   H02J 3/32 20060101ALI20220301BHJP
   H02J 3/38 20060101ALI20220301BHJP
   H02J 7/35 20060101ALI20220301BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20220301BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20220301BHJP
   H01M 10/42 20060101ALI20220301BHJP
   G01R 31/367 20190101ALI20220301BHJP
   G01R 31/382 20190101ALI20220301BHJP
   G01R 31/392 20190101ALI20220301BHJP
   G01R 31/388 20190101ALI20220301BHJP
   H02J 13/00 20060101ALI20220301BHJP
【FI】
H02J3/00 170
H02J3/32
H02J3/38 110
H02J7/35 K
H02J7/00 Y
H01M10/48 301
H01M10/48 P
H01M10/42 P
G01R31/367
G01R31/382
G01R31/392
G01R31/388
H02J13/00 301A
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019208083
(22)【出願日】2019-11-18
(65)【公開番号】P2021083208
(43)【公開日】2021-05-27
【審査請求日】2022-01-18
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】鵜久森 南
【審査官】田中 慎太郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/181727(WO,A1)
【文献】特許第6590029(JP,B1)
【文献】特開2018-173370(JP,A)
【文献】特開2015-59933(JP,A)
【文献】特開2018-147680(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 13/00
H02J 3/00-5/00
H02J 7/00-7/12
7/34-7/36
H01M 10/42-10/48
G01R 31/367
G01R 31/382
G01R 31/392
G01R 31/388
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄電素子を用いたシステムの評価装置であって、
蓄電素子の状態を表現する数理モデルを取得する数理モデル取得部と、
前記数理モデルに基づいて構築されたシステムの運用時に入力された時系列入力データと、前記時系列入力データに基づいて前記システムが出力した時系列出力データとを含む運用データを取得する運用データ取得部と、
前記数理モデルに前記時系列入力データを入力し、前記数理モデルから時系列モデル出力データを出力させる処理を実行させる処理部と、
前記時系列出力データと前記時系列モデル出力データとに基づいて前記システムの設計又は運用を評価する評価部と
を備える評価装置。
【請求項2】
前記時系列出力データと前記時系列モデル出力データとの比較値を示す比較値時系列データを算出する比較値算出部と、
前記比較値算出部で算出した比較値時系列データに基づいて前記システムの異常事象の有無を判定する判定部と
を備え、
前記評価部は、
前記判定部で異常事象があると判定した場合、前記システムの設計又は運用を評価する請求項1に記載の評価装置。
【請求項3】
前記時系列出力データは、前記システムに用いられた蓄電素子の電気値及び温度値の実測値を含み、
前記時系列モデル出力データは、前記蓄電素子を表現した前記数理モデルの電気値及び温度値の計算値を含み
記実測値及び計算値に基づいて前記システムの異常事象の有無を判定する判定部を備える請求項に記載の評価装置。
【請求項4】
記実測値に基づいて所要の蓄電素子間の実測電圧差及び実測温度差を算出する第1算出部と、
前記実測値及び前記計算値に基づいて前記所要の蓄電素子のうちの一の蓄電素子の電圧及び温度についての実測値と計算値との差を算出する第2算出部と
を備え、
前記判定部は、
実測電流値、前記第1算出部で算出した実測電圧差及び実測温度差、並びに前記第2算出部で算出した実測値と計算値との差に基づいて異常事象の要因を判定する請求項3に記載の評価装置。
【請求項5】
システムの異常事象として前記システムに用いられた蓄電素子の異常であるか又は前記蓄電素子の環境の異常であるかを判定する判定部を備える請求項に記載の評価装置。
【請求項6】
前記運用データに基づいて所要時点での蓄電素子の劣化状態を推定する劣化状態推定部と、
前記劣化状態推定部で推定した劣化状態が目標値以下である場合、前記システムの異常事象の要因を判定する判定部と
を備える請求項に記載の評価装置。
【請求項7】
前記判定部での判定結果に基づいて前記システムの設計又は運用に関する支援情報を提供する提供部を備える請求項2から請求項6のいずれか一項に記載の評価装置。
【請求項8】
コンピュータに、
蓄電素子の状態を表現する数理モデルを取得する処理と、
前記数理モデルに基づいて構築されたシステムの運用時に入力された時系列入力データと、前記時系列入力データに基づいて前記システムが出力した時系列出力データとを含む運用データを取得する処理と、
前記数理モデルに前記時系列入力データを入力し、前記数理モデルから時系列モデル出力データを出力させる処理と、
前記時系列出力データと前記時系列モデル出力データとに基づいて前記システムの設計又は運用を評価する処理と
を実行させるコンピュータプログラム。
【請求項9】
蓄電素子を用いたシステムの事業者から蓄電素子の状態を表現する数理モデルを取得し、
前記事業者から前記数理モデルに基づいて構築されたシステムの運用時に入力された時系列入力データと、前記時系列入力データに基づいて前記システムが出力した時系列出力データとを含む運用データを取得し、
コンピュータ内に前記数理モデルを組み込み、前記数理モデルに前記時系列入力データを入力し、前記数理モデルから時系列モデル出力データを出力させる処理を実行し、
前記時系列出力データと前記時系列モデル出力データとに基づいて前記システムの設計又は運用を評価するシステムの評価方法。
【請求項10】
前記時系列出力データと前記時系列モデル出力データとの比較値を示す比較値時系列データを算出し、
算出した比較値時系列データに基づいて前記システムに用いられた蓄電素子の異常であるか又は前記蓄電素子の環境の異常であるかの異常事象を判定する請求項9に記載の評価方法。
【請求項11】
異常事象の判定結果に基づいて前記システムの設計又は運用に関する支援情報を提供する請求項10に記載の評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、評価装置、コンピュータプログラム及び評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車業界などの各業界では、MBD(モデルベース開発)が盛んに導入されており、シミュレーションに基づいた製品開発が浸透している(特許文献1)。システムを模擬した数理モデルは、所定の数値データの入力に対し、所定の数値データを出力する。数理モデルに基づいて、そのシステムの制御プログラムが作成され、あるいは周辺システムが設計される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平11-14507号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
システムが、二次電池のようなモデリング難易度が高いものであると、数理モデルの出力が、現実のシステム(実システムともいう)の出力と乖離する場合がある。その場合、数理モデルそのものを改善する余地、数理モデルに基づいて設計された二次電池システム又は周辺システムの構成、あるいは制御プログラムの動作を改善する余地がある。しかし、従来そのような改善について十分な検討がなされていない。
【0005】
本発明は、数理モデルに基づいて構築されたシステムを評価する評価装置、コンピュータプログラム及び評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
蓄電素子を用いたシステムの評価装置は、蓄電素子の状態を表現する数理モデルを取得する数理モデル取得部と、前記数理モデルに基づいて構築されたシステムの運用時に入力された時系列入力データと、前記時系列入力データに基づいて前記システムが出力した時系列出力データとを含む運用データを取得する運用データ取得部と、前記数理モデルに前記時系列入力データを入力し、前記数理モデルから時系列モデル出力データを出力させる処理を実行させる処理部と、前記時系列出力データと前記時系列モデル出力データとに基づいて前記システムの設計又は運用を評価する評価部とを備える。
【0007】
コンピュータプログラムは、コンピュータに、蓄電素子の状態を表現する数理モデルを取得する処理と、前記数理モデルに基づいて構築されたシステムの運用時に入力された時系列入力データと、前記時系列入力データに基づいて前記システムが出力した時系列出力データとを含む運用データを取得する処理と、前記数理モデルに前記時系列入力データを入力し、前記数理モデルから時系列モデル出力データを出力させる処理と、前記時系列出力データと前記時系列モデル出力データとに基づいて前記システムの設計又は運用を評価する処理とを実行させる。
【0008】
蓄電素子を用いたシステムの評価方法は、蓄電素子を用いたシステムの事業者から蓄電素子の状態を表現する数理モデルを取得し、前記事業者から前記数理モデルに基づいて構築されたシステムの運用時に入力された時系列入力データと、前記時系列入力データに基づいて前記システムが出力した時系列出力データとを含む運用データを取得し、コンピュータ内に前記数理モデルを組み込み、前記数理モデルに前記時系列入力データを入力し、前記数理モデルから時系列モデル出力データを出力させる処理を実行し、前記時系列出力データと前記時系列モデル出力データとに基づいて前記システムの設計又は運用を評価する。
【0009】
数理モデル取得部は、蓄電素子の状態を表現する数理モデルを取得する。蓄電素子の状態は、蓄電素子自体の状態だけでなく、蓄電素子の配置などの周囲の環境の状態も含む。数理モデルは、蓄電素子や蓄電素子の周辺の特性を代数方程式、微分方程式及び特性パラメータを用いて数学的に記述したモデルを表し、シミュレーションを実行することによって得られるモデルである。数理モデルは、例えば、プログラミング言語又は数値解析ソフトウェアにより実行される実行コードである。また、数理モデルは、プログラミング言語又は数値解析ソフトウェアにより参照される、定義情報若しくはライブラリファイルであってもよい。
【0010】
運用データ取得部は、数理モデルに基づいて構築されたシステムの運用時に入力された時系列入力データと、時系列入力データに基づいてシステムが出力した時系列出力データとを含む運用データを取得する。運用データは、文字通り蓄電システム(システムともいう)の運用時だけでなく、蓄電システムの運用前の試運転や設計最終段階などで実際に得られたデータを含めてもよい。
【0011】
時系列入力データは、例えば、蓄電素子に入力される電力データであり、蓄電素子の充電時には正の電力データとし、放電時には負の電力データとすることができる。電力データは、蓄電素子に対する負荷データを意味する。時系列出力データは、蓄電素子の電流データ、電圧データ、温度データ、及びこれらのデータから算出できるデータ、例えば、SOC(充電状態)のデータを含む。
【0012】
数理モデル及び運用データは、例えば、蓄電システムの設計、導入、運用及び保守などの事業を行う事業者から取得することができる。運用データは、このような事業者から、例えば、運用開始から現時点(例えば、運用開始から数か月後、数年後など)までの運用期間内に収集されたデータとすることができる。時系列データの計測頻度は、蓄電システムの運用状態などに応じて変化し得るが、一般的には、負荷変動が比較的大きい運用状態では、時系列データの計測頻度が多く(例えば、1時間ごとに5分間実測する)、負荷変動が比較的小さい運用状態では、時系列データの計測頻度は少ない(例えば、6時間ごとに5分間実測する)。
【0013】
処理部は、数理モデルに時系列入力データを入力し、数理モデルから時系列モデル出力データを出力させる処理を実行させる。数理モデルに入力する時系列入力データは、例えば、運用データに含まれる電力データと同じデータである(同じ負荷を入力することを意味する)。運用期間が、1年のように比較的長い場合には、運用期間を、例えば、1週間単位、1か月単位などに分割し、分割した期間毎の電力データを数理モデルに入力してもよい。数理モデルは、蓄電素子の電流データ、電圧データ、温度データを出力する。また、これらのデータからSOC(充電状態)のデータを計算することもできる。
【0014】
評価部は、時系列出力データと時系列モデル出力データとに基づいて蓄電システムの設計又は運用を評価する。すなわち、評価部は、蓄電システムの運用データに含まれる蓄電素子の電圧データ、電流データ、温度データと、蓄電システムに実際に入力された電力データと同じ電力データを数理モデルに入力したときに数理モデルが出力する電圧データ、電流データ、温度データとを比較する。データの比較は、日時を同期させて行う。すなわち、同一の日時のデータを比較する。評価部は、例えば、両者の電圧データ、電流データ、温度データの少なくとも1つの間にデータの乖離があるか否かに基づいて蓄電システムの設計又は運用の評価を行うことができる。乖離の程度が想定範囲より大きい場合には、異常事象の可能性があると判定でき、乖離の程度がさらに大きい場合には、異常事象があると判定できる。
【0015】
上述の構成により、数理モデルに基づいて構築され、蓄電素子を用いたシステムの設計又は運用を評価できる。
【0016】
評価装置は、前記時系列出力データと前記時系列モデル出力データとの比較値を示す比較値時系列データを算出する比較値算出部と、前記比較値算出部で算出した比較値時系列データに基づいて前記システムの異常事象の有無を判定する判定部とを備え、前記評価部は、前記判定部で異常事象があると判定した場合、前記システムの設計又は運用を評価してもよい。
【0017】
比較値算出部は、時系列出力データと時系列モデル出力データとの比較値を示す比較値時系列データを算出する。例えば、蓄電素子の実際の電圧データと数理モデルが出力する電圧データとの差分を算出する。比較値は、同一の日時分秒のデータの比較値である。なお、蓄電素子の実際の電圧データと数理モデルが出力する電圧データとが同一時点でない場合には、数理モデルが出力する電圧データのタイミングを実際の電圧データのタイミングに合わせるように、数理モデルの出力タイミングを調整すればよい。電流データ、温度データについても同様である。
【0018】
判定部は、比較値算出部で算出した比較値時系列データに基づいて蓄電システムの異常事象の有無を判定する。比較値が閾値より大きい場合には、異常事象の可能性があると判定でき、比較値が閾値よりさらに大きい場合には、異常事象があると判定できる。
【0019】
評価部は、判定部で異常事象があると判定した場合、蓄電システムの設計又は運用を評価する。判定部で異常事象がないと判定した場合には、蓄電システムを評価しなくてもよい。上述の構成により、数理モデルに基づいて構築され、蓄電素子を用いたシステムの設計又は運用を評価できる。
【0020】
評価装置において、前記時系列出力データは、前記システムに用いられた蓄電素子の電気値及び温度値の実測値を含み、前記時系列モデル出力データは、前記蓄電素子を表現した前記数理モデルの電気値及び温度値の計算値を含み、前記判定部は、前記実測値及び計算値に基づいて前記システムの異常事象の有無を判定してもよい。
【0021】
時系列出力データは、数理モデルに基づいて構築された蓄電システムに用いられた蓄電素子の電気値及び温度値の実測値を含み、時系列モデル出力データは、蓄電素子を表現した数理モデルが出力する電気値及び温度値の計算値を含む。
【0022】
判定部は、実測値及び計算値に基づいて蓄電システムの異常事象の有無を判定する。蓄電素子に流れる実測電流値により、重負荷であるか軽負荷であるか、あるいは負荷変動の大小を判定できる。蓄電素子それぞれの電圧の実測値に基づいて、所要の蓄電素子間の電圧差を求めることができる。また、蓄電素子それぞれの温度の実測値に基づいて、所要の蓄電素子間の温度差を求めることができる。判定部は、これらの電圧差及び温度差の実測値、及び実測値と計算値との差などを考慮することにより、異常事象(例えば、蓄電素子の異常(想定よりも早期の劣化など)、あるいは蓄電素子の環境の異常)の有無を判定することができる。
【0023】
評価装置において、前記比較値算出部は、前記実測値に基づいて所要の蓄電素子間の実測電圧差及び実測温度差を算出する第1算出部と、前記実測値及び前記計算値に基づいて前記所要の蓄電素子のうちの一の蓄電素子の電圧及び温度についての実測値と計算値との差を算出する第2算出部とを備え、前記判定部は、実測電流値、前記第1算出部で算出した実測電圧差及び実測温度差、並びに前記第2算出部で算出した実測値と計算値との差に基づいて異常事象の要因を判定してもよい。
【0024】
比較値算出部は、第1算出部と第2算出部とを備える。第1算出部は、実測値に基づいて所要の蓄電素子間の実測電圧差及び実測温度差を算出する。
【0025】
第2算出部は、実測値及び計算値に基づいて所要の蓄電素子のうちの一の蓄電素子の電圧及び温度についての実測値と計算値との差を算出する。
【0026】
判定部は、実測電流値、第1算出部で算出した実測電圧差及び実測温度差、並びに第2算出部で算出した実測値と計算値との差に基づいて異常事象の要因を判定する。例えば、実測電流値及び蓄電素子間の実測電圧差が大きく、実測値と計算値との差も大きい場合には、当該一の蓄電素子の異常であると判定できる。一方、実測電流値が小さく、蓄電素子間の実測温度差が大きく、実測値と計算値との差も大きい場合には、環境の異常であると判定できる。
【0027】
評価装置において、前記判定部は、前記異常事象として前記システムに用いられた蓄電素子の異常であるか又は前記蓄電素子の環境の異常であるかを判定してもよい。
【0028】
評価方法は、前記時系列出力データと前記時系列モデル出力データとの比較値を示す比較値時系列データを算出し、算出した比較値時系列データに基づいて前記システムに用いられた蓄電素子の異常であるか又は前記蓄電素子の環境の異常であるかの異常事象を判定してもよい。
【0029】
判定部は、異常事象として蓄電システムに用いられた蓄電素子の異常であるか又は蓄電素子の環境の異常であるかを判定することができる。蓄電素子の異常は、例えば、蓄電素子が想定よりも早期に劣化していると判定される場合を含む。また、蓄電素子の異常と環境の異常とを区別して判定できるので、誤って蓄電素子の異常であると判定することを防止できる。
【0030】
評価装置は、前記運用データに基づいて所要時点での蓄電素子の劣化状態を推定する劣化状態推定部を備え、前記判定部は、前記劣化状態推定部で推定した劣化状態が目標値以下である場合、前記システムの異常事象の要因を判定してもよい。
【0031】
劣化状態推定部は、運用データに基づいて所要時点での蓄電素子の劣化状態を推定する。劣化状態推定部は、例えば、劣化シミュレータで構成してもよく、あるいは機械学習によって学習された学習済モデルで構成してもよい。運用データは、蓄電素子の電流データや電圧データに基づいて算出されたSOCの時系列データ、及び蓄電素子の温度の時系列データとすることができる。劣化状態推定部は、SOCの時系列データ及び温度の時系列データに基づいて蓄電素子の劣化値を推定することができる。すなわち、劣化状態推定部は、時点t1から時点tnまでのSOC及び温度の時系列データに基づいて、時点t1から時点tnまでのSOHの低下(劣化値)を推定することができる。時点tnは、時点t1から将来に向かって所要の時間が経過した時点とすることができる。時点t1と時点tnとの時間差は、劣化予測対象期間であり、例えば、1か月、半年、1年、2年などの所要の時間とすることができる。
【0032】
判定部は、劣化状態推定部で推定した劣化状態(例えば、SOH)が目標値以下である場合、蓄電システムの異常事象の要因を判定する。目標値は、例えば、運用開始から想定年数が経過した時点(期待寿命)でのSOHであり、蓄電素子のEOLとすることができる。期待寿命において、蓄電素子のSOHがEOL以下の場合、蓄電素子のSOHは、数理モデルの計算値から得られるSOHと乖離しているはずであり、かつ運用データに基づいて推定したSOHがEOL以下となる場合には、実際に運用中の蓄電システムを数理モデルによって構築される蓄電システムへ近づける対策を講じる必要がある。そこで、判定部は、このような場合には、実際に運用中の蓄電システムの異常事象の要因を判定することができる。また、期待寿命において、蓄電素子のSOHがEOLを上回っている場合は、実際に運用中の蓄電システムが、数理モデルに基づいて構築された蓄電システムの想定範囲内にあると考えられるので、蓄電システムの異常事象の要因を判定する必要はない。
【0033】
評価装置は、前記判定部での判定結果に基づいて前記システムの設計又は運用に関する支援情報を提供する提供部を備えてもよい。
【0034】
評価方法は、異常事象の判定結果に基づいて前記システムの設計又は運用に関する支援情報を提供してもよい。
【0035】
提供部は、判定部での判定結果に基づいてシステムの設計又は運用に関する支援情報を提供する。例えば、蓄電素子の異常であると判定された場合、蓄電素子の交換や増設、負荷の軽減などの支援情報を提供できる。また、環境の異常であると判定された場合、空調の調整(例えば、温度を下げる等)、蓄電素子の配置の変更などの支援情報を提供でき、異常要因に応じて蓄電システムの最適な運用を支援する支援情報を提供することができる。
【0036】
また、数理モデルを用いて蓄電システムを構築した際のシステム設計パラメータ、または数理モデルそのものを見直すこともできる。蓄電素子のシステム設計パラメータは、システム全体の中で用いられる蓄電素子の種類、数、定格などを含み、例えば、蓄電モジュールの構成又は数、バンクの構成又は数などのシステム設計に必要な種々のパラメータを含む。すなわち、当初の設計では、期待寿命の到達したときの蓄電素子のSOHがEOL以下とならないと見積もっていたものの、実際の運用データに基づく劣化状態は、期待寿命の到達したときの蓄電素子のSOHがEOL以下となる。このような場合には、設計パラメータ、または数理モデルそのものの見直しに関する支援情報を提供できる。
【発明の効果】
【0037】
上述の構成により、数理モデルに基づいて構築され、蓄電素子を用いたシステムの設計又は運用を評価できる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1】本実施の形態の評価装置の構成を示す図である。
図2】遠隔監視システムの構成の一例を示す図である。
図3】バンクの構成の一例を示す図である。
図4】運用データに含まれる電力データを模式的に示す図である。
図5】運用データに含まれる実測値と数理モデルが出力する計算値の例を示す図である。
図6】蓄電素子の使用時間に応じたSOHの低下の一例を示す模式図である。
図7】運用データに含まれる第1時点から第2時点までの電流波形の一例を示す模式図である。
図8】運用データに含まれる第1時点から第2時点までの電圧波形の一例を示す模式図である。
図9】運用データに含まれる第1時点から第2時点までのSOCデータの一例を示す模式図である。
図10】運用データに含まれる第1時点から第2時点までの温度データの一例を示す模式図である。
図11】劣化シミュレータ61aの動作を示す模式図である。
図12】蓄電素子のSOHの推移の一例を示す図である。
図13】蓄電モジュール内の蓄電セルの温度分布の一例を示す模式図である。
図14】環境差による蓄電素子の挙動の相違の一例を示す模式図である。
図15】環境差による蓄電素子の挙動の相違の他の例を示す模式図である。
図16】実測値と予測値との関係の一例を示す説明図である。
図17】蓄電システムの使用状態での実測値と計算値の推移の第1例を示す模式図である。
図18】蓄電システムの使用状態での実測値と計算値の推移の第2例を示す模式図である。
図19】異常要因判定のルールベースモデルの一例を示す説明図である。
図20】学習モデルの構成の一例を示す模式図である。
図21】評価装置の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本実施の形態に係る評価装置を図面に基づいて説明する。図1は本実施の形態の評価装置50の構成を示す図である。評価装置50は、装置全体を制御する制御部51、データ取得部52、モデル取得部53、操作部54、表示部55、記憶部56、モデル実行部57、算出部58、判定部59、評価部60、劣化状態推定部61を備える。
【0040】
事業者Aは、蓄電システム40aの設計、導入、運用及び保守などの事業を行い、蓄電システム40aを、例えば、遠隔監視システム100aを用いて遠隔監視できる。蓄電システム40aは、数理モデル200aを用いて構築される。すなわち、事業者Aは、数理モデル200aを保有するとともに、遠隔監視により得られた蓄電システム40aの運用データを保有する。事業者Bも、同様に、数理モデル200bを保有するとともに、遠隔監視により得られた蓄電システム40bの運用データを保有する。事業者Cも、同様に、数理モデル200cを保有するとともに、遠隔監視により得られた蓄電システム40cの運用データを保有する。蓄電システム40a、40b、40cは、例えば、火力発電システム、メガソーラー発電システム、風力発電システム、無停電電源装置(UPS:Uninterruptible Power Supply)、鉄道用の安定化電源システム等に使用される。
【0041】
数理モデル200a、200b、200cは、蓄電素子や蓄電素子の周辺の特性を代数方程式、微分方程式及び特性パラメータを用いて数学的に記述したモデルを表し、シミュレーションを実行することによって得られるモデルである。数理モデルは、例えば、プログラミング言語又は数値解析ソフトウェアにより実行される実行コードである。また、数理モデルは、プログラミング言語又は数値解析ソフトウェアにより参照される、定義情報若しくはライブラリファイルであってもよい。数理モデル200a、200b、200cは、それぞれ異なる。
【0042】
運用データは、蓄電システム(システムともいう)の運用時だけでなく、蓄電システムの運用前の試運転や設計最終段階などで実際に得られたデータを含めてもよい。運用データは、時系列入力データ及び時系列出力データを含む。時系列入力データは、例えば、蓄電素子に入力される電力データであり、蓄電素子の充電時には正の電力データとし、放電時には負の電力データとすることができる。電力データは、蓄電素子に対する負荷データを意味する。時系列出力データは、蓄電素子の電流データ、電圧データ、温度データ、及びこれらのデータから算出できるデータ、例えば、SOC(充電状態)のデータを含む。
【0043】
評価装置50は、例えば、事業者Aから数理モデル200a及び蓄電システム40aの運用データを取得すると、取得した数理モデルと運用データを用いて所要の処理を行い、処理結果に基づいて、事業者Aの蓄電システム40aの設計又は運用を評価し、評価結果に基づいて蓄電システム40aの設計又は運用に関する支援情報を事業者Aに提供することができる。事業者Bについても、同様に、評価装置50は、数理モデル200b及び蓄電システム40bの運用データを取得すると、蓄電システム40bの設計又は運用に関する支援情報を事業者Bに提供することができる。事業者Cについても同様である。数理モデル200a、200b、200cは数理モデル200とも称する。
【0044】
図2は遠隔監視システム100の構成の一例を示す図であり、図3はバンク44の構成の一例を示す図である。図2に示すように、遠隔監視システム100は、通信デバイス10、通信ネットワーク1を介して通信デバイス10と接続されるサーバ装置20、ドメイン管理装置30、蓄電システム40を備える。蓄電システム40は、複数のバンク41を含む。図3に示すように、バンク41は、蓄電モジュールを複数直列に接続したものであり、電池管理装置(BMS)44、複数の蓄電モジュール42、及び各蓄電モジュール42に設けられた計測基板(CMU:Cell Monitoring Unit)43などを備える。
【0045】
通信デバイス10は、制御部11、記憶部12、第1通信部13及び第2通信部14を備える。制御部11は、CPU(Central Processing Unit)などで構成され、内蔵するROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)等のメモリを用い、通信デバイス10全体を制御する。
【0046】
記憶部12は、例えば、フラッシュメモリ等の不揮発性メモリを用いることができる。記憶部12は、所要の情報を記憶することができ、例えば、制御部11の処理によって得られた情報を記憶することができる。
【0047】
第1通信部13は、ドメイン管理装置30との間で通信を行うことができる。
【0048】
第2通信部14は、通信ネットワーク1を介してサーバ装置20との間で通信を行うことができる。
【0049】
ドメイン管理装置30は、所定の通信インタフェースを用いて各バンク41内の電池管理装置44との間で情報の送受信を行う。
【0050】
各バンク1~Nは、複数の蓄電モジュール42を備え、各蓄電モジュール42は、計測基板43を備える。各蓄電モジュール42は、複数の蓄電セル(蓄電素子)が直列に接続されている。計測基板43は、蓄電モジュール42の各蓄電セルの状態に関する蓄電素子情報を取得することができる、蓄電素子情報は、例えば、蓄電セルの電圧、電流、温度、SOC(充電状態)、SOHなどを含む。蓄電素子情報は、例えば、0.1秒、0.5秒、1秒などの適宜の周期で繰り返し取得することができる。蓄電素子情報が蓄積されたデータが運用データの一部となる。なお、蓄電セルは、鉛蓄電池及びリチウムイオン電池のような二次電池や、キャパシタのような、再充電可能なものであることが好ましい。蓄電セルの一部が、再充電不可能な一次電池であってもよい。
【0051】
電池管理装置44は、通信機能付きの計測基板43とシリアル通信によって通信を行うことができ、計測基板43が検出した蓄電素子情報を取得することができる。電池管理装置44は、ドメイン管理装置30との間で情報の送受信を行うことができる。ドメイン管理装置30は、ドメインに所属するバンクの電池管理装置44からの蓄電素子情報を集約する。ドメイン管理装置30は、集約された蓄電素子情報を通信デバイス10へ出力する。このように、通信デバイス10は、ドメイン管理装置30を介して、蓄電システム40の運用データを取得することができる。
【0052】
記憶部12は、ドメイン管理装置30を介して取得した運用データを記憶することができる。
【0053】
サーバ装置20は、通信デバイス10から蓄電システム40の運用データを収集することができる。サーバ装置20は、収集された運用データ(時系列の実測電圧データ、時系列の実測電流データ、時系列の実測温度データ、時系列の電力データ、時系列のSOCデータ)を、蓄電素子毎に区分して記憶することができる。
【0054】
次に、評価装置50について説明する。
【0055】
データ取得部52は、例えば、記録媒体読取デバイス、通信回路などで構成でき、運用データ取得部としての機能を有する。データ取得部52は、数理モデル200に基づいて構築された蓄電システム40の運用時に入力された時系列入力データと、時系列入力データに基づいてシステムが出力した時系列出力データとを含む運用データを取得する。
【0056】
モデル取得部53は、例えば、記録媒体読取デバイス、通信回路などで構成でき、数理モデル取得部としての機能を有する。モデル取得部53は、蓄電素子の状態を表現する数理モデル200を取得する。蓄電素子の状態は、蓄電素子自体の状態だけでなく、蓄電素子の配置などの周囲の環境の状態も含む。
【0057】
数理モデル及び運用データは、例えば、蓄電システムの設計、導入、運用及び保守などの事業を行う事業者A、B、Cなどから取得することができる。運用データは、このような事業者から、例えば、運用開始から現時点(例えば、運用開始から数か月後、数年後など)までの運用期間内に収集されたデータとすることができる。時系列データの計測頻度は、蓄電システムの運用状態などに応じて変化し得るが、一般的には、負荷変動が比較的大きい運用状態では、時系列データの計測頻度が多く(例えば、1時間ごとに5分間実測する)、負荷変動が比較的小さい運用状態では、時系列データの計測頻度は少ない(例えば、6時間ごとに5分間実測する)。
【0058】
記憶部56は、データ取得部52で取得した運用データ及びモデル取得部53で取得した数理モデル200を記憶することができる。
【0059】
操作部54は、例えば、キーボード、マウス、タッチパネルなどの入力デバイスで構成できる。
【0060】
表示部55は、液晶パネル又は有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイ等で構成できる。
【0061】
モデル実行部57は、CPU、ROM、RAMなどで構成することができ、あるいはGPU(Graphics Processing Units)を備えてもよい。モデル実行部57は、モデル取得部53で取得した数理モデル200を組み込むことにより、数理モデル200の実行環境(シミュレーション環境)を提供することができる。
【0062】
モデル実行部57は、処理部としての機能を有し、数理モデル200に時系列入力データを入力し、数理モデル200から時系列モデル出力データを出力させる処理を実行させる。数理モデルに入力する時系列入力データは、例えば、運用データに含まれる電力データと同じデータである(同じ負荷を入力することを意味する)。
【0063】
図4は運用データに含まれる電力データを模式的に示す図である。図4において、横軸は時間を示し、縦軸は時間帯毎の電力量を示す。電力データは、蓄電素子から見ると負荷データに相当し、正側を充電とし、負側を放電とすることができる。図4の例では、昼間において放電が行われ、早朝と夜間に充電が行われている。なお、図4に示す電力データは一例であって、代替的に図4の例と異なるものでもよい。電力データの運用期間は、図4に示すように1日でもよく、あるいは、1週間、2週間、1月、3か月、半年、1年など適宜の期間でもよい。
【0064】
運用期間が、例えば、1年のように比較的長い場合には、運用期間を、1週間単位、1か月単位などに分割し、分割した期間毎の電力データを数理モデル200に入力してもよい。数理モデル200は、蓄電素子の電流データ、電圧データ、温度データを出力する。また、これらのデータからSOC(充電状態)のデータを計算することもできる。
【0065】
評価部60は、運用データに含まれる時系列出力データと、数理モデル200が出力する時系列モデル出力データとに基づいて蓄電システムの設計又は運用を評価することができる。評価部60は、蓄電システムの運用データに含まれる蓄電素子の電圧データ、電流データ及び温度データ(これらを纏めて時系列出力データと称する)と、蓄電システムに実際に入力された電力データと同じ電力データ、蓄電素子の周辺温度(例えば、蓄電素子の温度、蓄電モジュールの温度、蓄電池盤内の温度など)を数理モデル200に入力したときに数理モデル200が出力する電圧データ、電流データ及び温度データ(これらを纏めて時系列モデル出力データと称する)とを比較する。また、運用期間の途中から比較を行う際は、比較を開始する時点における蓄電素子の容量維持率や内部抵抗、SOCなどの蓄電素子の状態を、実測値を基に、数理モデル200の初期値として入力することが望ましい。
【0066】
運用データに含まれる時系列出力データは、蓄電素子の電気値及び温度値の実測値を含む。例えば、蓄電素子の電流データ、電圧データ、温度データそれぞれの実測値を含む。時系列モデル出力データは、数理モデル200が出力する電気値及び温度値の計算値を含む。例えば、蓄電素子の電流データ、電圧データ、温度データそれぞれの計算値を含む。
【0067】
図5は運用データに含まれる実測値と数理モデル200が出力する計算値の例を示す図である。実測値及び計算値は、蓄電素子の電圧、電流及び温度それぞれの値を、時刻を同期した状態で対比している。評価部60は、実測電圧値と計算電圧値、実測電流値と計算電流値、実測温度値と計算温度値それぞれの間で乖離があるか否かに基づいて蓄電システムの設計又は運用の評価を行うことができる。乖離の程度が想定範囲より大きい場合には、異常事象の可能性があると判定でき、乖離の程度がさらに大きい場合には、異常事象があると判定できる。図5の例では、電圧及び電流については実測値と計算値との間で問題となる程度の乖離はない。しかし、温度については実測値と計算値との間で乖離があるので、異常事象の可能性ありと判定している。したがって、評価部60は、想定外の事象があると判定できる。なお、図5の例では、温度について乖離がある状態を示したが、電圧や電流についても乖離がある場合、想定外の事象の可能性があると判定できる。
【0068】
具体的には、算出部58は、比較値算出部としての機能を有し、時系列出力データと時系列モデル出力データとの比較値を示す比較値時系列データを算出することができる。比較値は、比較することができる値であればよく、例えば、差分でもよく、差分に代えて、比率や割合でもよい。例えば、蓄電素子の実際の電圧データと数理モデル200が出力する電圧データとの比較値を算出する。比較値は、同一の日時分秒のデータの比較値である。なお、蓄電素子の実際の電圧データと数理モデル200が出力する電圧データとが同一時点でない場合には、数理モデル200が出力する電圧データのタイミングを実際の電圧データのタイミングに合わせるように、数理モデル200の出力タイミングを調整すればよい。電流データ、温度データについても同様である。
【0069】
判定部59は、算出部58で算出した比較値時系列データに基づいて蓄電システムの異常事象の有無を判定することができる。比較値が閾値より大きい場合には、異常事象の可能性があると判定できる。また、比較値が閾値よりさらに大きい場合には、異常事象があると判定できる。
【0070】
上述の構成により、数理モデル200に基づいて構築された蓄電システム40の設計又は運用を評価できる。具体的な評価方法については後述する。
【0071】
異常事象(想定外の事象)の可能性があると判定された場合、評価装置50は、蓄電システム40の運用データを用いて、現在の運用状態を続けた場合に、蓄電システム40が想定年数間の要求を満たせるか否かを評価する必要がある。以下、この点について説明する。
【0072】
図6は蓄電素子の使用時間に応じたSOHの低下の一例を示す模式図である。図中、縦軸はSOH(State Of Health)を示し、横軸は時間を示す。蓄電素子は、使用時間(放置時間も含む)によりSOHが低下する。図6に示すように、時点ta、tb、tc、tdとし、時点tbと時点taとの時間は、時点tdと時点tcとの時間と同じとする。この場合、時点taから時点tbまでの間のSOHの低下ΔSOH(tb)と、時点tcから時点tdまでの間のSOHの低下ΔSOH(td)とで異なる。このように、同じ使用期間でも、蓄電素子の使用状態によって、SOHの低下度合いは異なる。そこで、蓄電素子の様々な使用状態を特定するために、異なる二つの時点間の蓄電素子の使用状態を把握することが、蓄電素子のSOHを推定するために重要な因子となる。
【0073】
劣化状態推定部61は、運用データ(実測値)に基づいて所要時点での蓄電素子の劣化状態を推定する。劣化状態推定部61は、例えば、劣化シミュレータ61aで構成してもよく、あるいは機械学習によって学習された学習済モデルで構成してもよい。実測値は、蓄電素子の電流データや電圧データに基づいて算出されたSOCの時系列データ、及び蓄電素子の温度の時系列データとすることができる。
【0074】
図7は運用データに含まれる第1時点から第2時点までの電流波形の一例を示す模式図である。図中、縦軸は電流を示し、正側が充電を表し、負側が放電を表す。横軸は時間を示す。なお、図7に示す電流波形は一例であって、代替的に他の電流波形でもよい。
【0075】
図8は運用データに含まれる第1時点から第2時点までの電圧波形の一例を示す模式図である。図中、縦軸は電圧を示し、横軸は時間を示す。なお、図8に示す電圧波形は一例であって、代替的に他の電圧波形でもよい。
【0076】
図9は運用データに含まれる第1時点から第2時点までのSOCデータの一例を示す模式図である。図中、縦軸はSOCを示し、横軸は時間を示す。SOCデータは、図7に示すような、蓄電素子の時系列の電流データに基づいて算出できる。例えば、電流積算法により求めることができる。
【0077】
図10は運用データに含まれる第1時点から第2時点までの温度データの一例を示す模式図である。図中、縦軸は温度を示し、横軸は時間を示す。なお、図10に示す温度波形は一例であって、代替的に他の温度波形でもよい。
【0078】
図11は劣化シミュレータ61aの動作を示す模式図である。劣化シミュレータ61aは、SOCの時系列データ及び温度の時系列データを入力データとして取得すると、蓄電素子の劣化値を推定(算出)する。図11に示すように、SOCの時系列データは、時点t1から時点tnまでのSOCの変動(例えば、時点毎のn個のSOCの値の変動)を示し、温度の時系列データは、時点t1から時点tnまでの温度の変動(例えば、時点毎のn個の温度の値の変動)を示す。
【0079】
すなわち、劣化シミュレータ61aは、時点t1から時点tnまでのSOC及び温度の変動に基づいて、時点t1から時点tnまでのSOHの低下(劣化値)を推定することができる。時点t1でのSOH(健康度ともいう)をSOHt1 とし、時点tnでのSOHをSOHtn とすると、劣化値は(SOHt -SOHtn )となる。すなわち、時点t1でのSOHが分かっていると、劣化値に基づいて時点tnでのSOHを求めることができる。ここで、時点は、現在又は将来のある時点とすることができ、時点tnは、時点t1から将来に向かって所要の時間が経過した時点とすることができる。時点t1と時点tnとの時間差は、劣化シミュレータ61aの劣化予測対象期間であり、どの程度の将来に対して劣化値を予測するかに応じて適宜設定することができる。時点t1と時点tnとの時間差は、例えば、1か月、半年、1年、2年などの所要の時間とすることができる。
【0080】
なお、図11の例では、温度の時系列データを入力する構成であるが、温度の時系列データに代えて、所要温度(例えば、時点t1から時点tnまでの平均温度)を入力してもよい。
【0081】
蓄電素子の劣化予測対象期間(例えば、時点t1から時点tnまで)経過後の劣化値Qdegは、Qdeg=Qcnd+Qcurという式で算出できる。ここで、Qcndは非通電劣化値であり、Qcurは通電劣化値である。非通電劣化値Qcndは、例えば、Qcnd=K1×√(t)で求めることができる。ここで、係数K1は、SOC及び温度Tの関数である。tは経過時間であり、例えば、時点t1から時点tnまでの時間である。また、通電劣化値Qcurは、例えば、Qcur=K2×√(t)で求めることができる。ここで、係数K2は、SOC及び温度Tの関数である。時点t1でのSOHをSOHt1とし、時点tnでのSOHをSOHtn とすると、SOHtn=SOHt1-QdegによりSOHを推定することができる。係数K1は、劣化係数であり、SOC及び温度Tと係数K1との対応関係を演算で求めてもよく、あるいはテーブル形式で記憶しておくことができる。ここで、SOCは、時系列データとすることができる。係数K2についても、係数K1と同様である。
【0082】
また、劣化状態推定部61は、深層学習を用いた学習モデルでもよい。学習モデルの教師データは、例えば、第1時点から第2時点までのSOCデータ及び温度データ、第1時点でのSOH、第2時点でのSOHとすることができる。このようなデータのセットをニューラルネットワークに与え、中間層のパラメータを学習によって更新すればよい。
【0083】
学習済の学習モデルは、第1時点でのSOH及び時系列データ(SOC及び温度)を入力データとして、第2時点でのSOHを推定することができる。これにより、第1時点(例えば、現在)のSOH、及び第1時点から第2時点(予測対象時点)までの蓄電素子の使用条件が分かれば、第2時点でのSOHを推定することができる。
【0084】
図12は蓄電素子のSOHの推移の一例を示す図である。図中、横軸は時間を示し、縦軸はSOHを示す。想定年数は、蓄電システム40の運用開始から運用終了までの間の使用年数である。実線は運用データに基づくSOHの推移を示し、破線は数理モデル200の出力データに基づくSOHの推移を示す。図12の例では、運用データに基づくSOHの推移と、数理モデル200の出力データに基づくSOHの推移とが乖離し、かつ運用データに基づくSOHの推移が想定年数間の要求を満たさない場合を図示している。
【0085】
判定部59は、劣化状態推定部61で推定した劣化状態(例えば、SOH)が目標値以下である場合、蓄電システムの異常事象の要因を判定することができる。目標値は、例えば、運用開始から想定年数が経過した時点(期待寿命)でのSOHであり、蓄電素子のEOLとすることができる。期待寿命において、蓄電素子のSOHがEOL以下の場合、蓄電素子のSOHは、数理モデル200の計算値から得られるSOHと乖離しているはずであり、かつ運用データに基づいて推定したSOHがEOL以下となる場合には、実際に運用中の蓄電システムを数理モデル200によって構築される蓄電システムへ近づける対策を講じる必要がある。そこで、判定部59は、このような場合には、実際に運用中の蓄電システムの異常事象の要因を判定することができる。また、期待寿命において、蓄電素子のSOHがEOLを上回っている場合は、実際に運用中の蓄電システムが、数理モデル200に基づいて構築された蓄電システムの想定範囲内にあると考えられるので、蓄電システムの異常事象の要因を判定する必要はない。
【0086】
次に、運用データに基づくSOHの推移が、目標値以下となる場合、数理モデル200に基づくSOHの推移を目標値として蓄電システム40の運用条件を変更する必要がある。以下、この点について説明する。
【0087】
図13は蓄電モジュール内の蓄電セルの温度分布の一例を示す模式図である。図13では、便宜上、温度分布を、高(かなり高い)、中(やや高い)、低(通常)の三つに分類しているが、実際の温度分布は、さらに細かく(例えば、1℃単位で)表すことができる。蓄電モジュール内の各蓄電セルの配置、蓄電モージュル(蓄電セル)に流れる電流値、蓄電モジュールの設置条件、蓄電モジュールの雰囲気温度などの環境の様々な要因に基づいて、温度分布を事前に想定(予測)することができる。図13の例では、外側よりも中央付近に配置された蓄電セルの温度が高い傾向にあり、また、蓄電モジュールの下側よりも上側の方が、温度が高い傾向にあることが分かる。このように、蓄電セル間の温度差は、環境の様々な要因が集約されて現れるといえる。
【0088】
図14は環境差による蓄電素子の挙動の相違の一例を示す模式図である。図14において、縦軸は電圧を示し、横軸は時間を示す。電圧は、例えば、蓄電素子を充電している場合の推移であるが、放電時も同様である。環境差は、図14の例では、温度差である。図中、符号S2で示す曲線は、正常な蓄電素子の電圧の推移を示す。仮に温度差を考慮せずに、符号S1で示す曲線の蓄電素子の電圧の推移を見た場合、符号S2で示す正常な蓄電素子の電圧の推移に比べて、電圧が高いので、例えば、蓄電素子の内部抵抗が増加しており、容量が低下していると判断することができ、符号S1で示す曲線の蓄電素子は劣化していると判断する可能性がある。しかし、実際には、符号S1で示す曲線の蓄電素子の電圧の推移は、符号S2で示す正常な蓄電素子の温度(高:普通)よりもかなり低い温度での推移を表し、環境差(温度差)を考慮すれば、符号S1で示す曲線の蓄電素子は正常の範囲内であるということができる。一方、符号S3で示す曲線は、想定よりも劣化している蓄電素子の電圧の推移を表している。このように、環境差を考慮しないと、正常な蓄電素子を劣化していると判断する可能性がある。別言すれば、環境差を考慮することにより、正常な蓄電素子を劣化していると誤判定することを防止することが可能となる。
【0089】
図15は環境差による蓄電素子の挙動の相違の他の例を示す模式図である。図15において、縦軸は満充電容量(FCC)を示し、横軸は時間を示す。環境差は、図15の例では、温度差である。満充電容量は、蓄電素子を満充電したときの容量である。図中、符号S1で示す曲線は、正常な蓄電素子の満充電容量の推移を示す。仮に温度差を考慮せずに、符号S2で示す曲線の蓄電素子の満充電容量の推移を見た場合、符号S1で示す正常な蓄電素子の満充電容量の推移に比べて、満充電容量が低いので、例えば、蓄電素子の劣化が進行していると判断することができ、符号S2で示す曲線の蓄電素子は劣化していると判断する可能性がある。しかし、実際には、符号S2で示す曲線の蓄電素子の満充電容量の推移は、符号S1で示す正常な蓄電素子の温度(低:普通)よりもかなり高い温度での推移を表し、環境差(温度差)を考慮すれば、符号S2で示す曲線の蓄電素子は正常の範囲内であるということができる。一方、符号S3で示す曲線は、想定よりも劣化している蓄電素子の満充電容量の推移を表している。このように、環境差を考慮しないと、正常な蓄電素子を劣化していると判断する可能性がある。別言すれば、環境差を考慮することにより、正常な蓄電素子を劣化していると誤判定することを防止することが可能となる。
【0090】
算出部58は、第1算出部及び第2算出部としての機能を有する。算出部58は、実測値に基づいて所要の蓄電素子間の実測電圧差及び実測温度差を算出する。算出部58は、実測値及び計算値に基づいて所要の蓄電素子のうちの一の蓄電素子の電圧及び温度についての実測値と計算値との差を算出する。
【0091】
判定部59は、実測電流値、算出部58で算出した実測電圧差及び実測温度差、並びに実測値と計算値との差に基づいて蓄電システム40の異常事象の要因を判定することができる。
【0092】
図16は実測値と予測値との関係の一例を示す説明図である。図16において、蓄電システム40を構成する複数の蓄電素子が直列に接続されている状態を示す。図13に示すように、蓄電セルが複数直列に接続されて1つの蓄電モジュールを構成する。そして、蓄電モジュールが複数直列に接続されたバンクを構成する。図16に示す蓄電セルは、例えば、バンクを構成する複数の蓄電セルのうちの所要の2つの蓄電セルi、jを図示している。なお、蓄電セルi、jは、図13に示すような配置状態に応じて、複数の蓄電セルのうち任意の蓄電セルを選定できる。
【0093】
蓄電セルi、jに流れる電流を実測セル電流Ieと表す。蓄電セルiの実測セル電圧をVeiと表し、蓄電セルjの実測セル電圧をVejと表し、蓄電セルi、j間の実測セル間電圧差をΔV(ΔV=Vei-Vej)で表す。
【0094】
蓄電セルiの計算セル電圧をVciと表し、蓄電セルiの実測と計算の電圧差をΔVeci(ΔVeci=Vei-Vci)で表す。蓄電セルjの計算セル電圧をVcjと表し、蓄電セルjの実測と計算の電圧差をΔVecj(ΔVecj=Vej-Vcj)で表す。
【0095】
蓄電セルiの実測セル温度をTeiと表し、蓄電セルjの実測セル温度をTejと表し、蓄電セルi,j間の実測セル間温度差をΔT(ΔT=Tei-Tej)で表す。
【0096】
蓄電セルiの計算セル温度をTciと表し、蓄電セルiの実測と計算の温度差をΔTeci(ΔTeci=Tei-Tci)で表す。蓄電セルjの計算セル温度をTcjと表し、蓄電セルjの実測と計算の温度差をΔTecj(ΔTecj=Tej-Tcj)で表す。
【0097】
図17は蓄電システムの使用状態での実測値と計算値の推移の第1例を示す模式図である。図17では、充放電電流、蓄電システムを構成する複数の蓄電セルのうちの所要の蓄電セル間の電圧差、当該蓄電セル間の温度差の時間的推移を表している。なお、図17に例示する推移は、模式的に示すものであり、実際の推移と異なる場合がある。また、図示している推移期間の長さは、例えば、数時間でもよく、12時間、24時間、数日間などであってもよい。
【0098】
図17に示すように、充電電流及び放電電流は比較的小さな振幅で変動し、実測セル電流Ieは小さい。また、実測セル間電圧差ΔV、及び実測と計算の電圧差ΔVecそれぞれは、小さい値で推移している。
【0099】
温度差については、推移期間の前半において、実測セル間温度差ΔTは大きな値で推移し、実測と計算の温度差ΔTecは小さい値で推移している。時点taにおいては、蓄電セルに流れる電流は小さく、蓄電セルには重負荷が掛かっていないことが分かる。従って、蓄電セル固有の影響は少ないと考えられる。蓄電セル間の実測の温度差は大きいが、計算値との差が小さいので、温度差(例えば、配置や設置条件の違いによる環境差)は想定の範囲内であると判定することができ、蓄電システムは異常ではないと判定できる。
【0100】
図17に示すように、推移期間の後半において、蓄電システムの状態が変わり、実測セル間温度差ΔTは大きい値で推移し、実測と計算の温度差ΔTecも大きい値で推移している。時点tbにおいては、蓄電セルに流れる電流は小さく、蓄電セルには重負荷が掛かっていないことが分かる。従って、蓄電セル固有の影響は少ないと考えられる。蓄電セル間の実測の温度差は大きく、計算値との差も大きいので、蓄電セルの環境が想定の範囲を超えている可能性が高く、環境の異常であると判定することができる。
【0101】
図18は蓄電システムの使用状態での実測値と計算値の推移の第2例を示す模式図である。図18も、充放電電流、蓄電システムを構成する複数の蓄電セルのうちの所要の蓄電セル間の電圧差、当該蓄電セル間の温度差の時間的推移を表している。なお、図18に例示する推移は、模式的に示すものであり、実際の推移と異なる場合がある。また、図示している推移期間の長さは、例えば、数時間でもよく、12時間、24時間、数日間などであってもよい。
【0102】
図18に示すように、充電電流及び放電電流は比較的大きな振幅で変動し、実測セル電流Ieは大きい。また、推移期間の前半において、実測セル間温度差ΔTは大きい値で推移し、推移期間の後半において、小さい値で推移している。実測と計算の温度差ΔTecは、小さい値で推移している。
【0103】
電圧差については、推移期間の前半において、実測セル間電圧差ΔVは大きい値で推移し、実測と計算の電圧差ΔVecは小さな値で推移している。時点tcにおいては、蓄電セルに流れる電流は大きく、蓄電セルには重負荷が掛かっていることが分かる。従って、蓄電セル固有の影響の可能性があり得ると考えられる。蓄電セル間の実測の電圧差は大きいが、計算値との差が小さいので、蓄電セル間の温度差による影響や蓄電セル間のSOCのずれなどの影響である可能性が高く、想定の範囲内であると判定することができ、蓄電システムは異常ではないと判定できる。
【0104】
図18に示すように、推移期間の後半において、蓄電システムの状態が変わり、実測セル間電圧差ΔVは大きい値で推移し、実測と計算の電圧差ΔVecも大きい値で推移している。時点tdにおいては、蓄電セルに流れる電流は大きく、蓄電セルには重負荷が掛かっている可能性があることが分かる。従って、蓄電セル固有の影響の可能性があり得ると考えられる。蓄電セル間の実測の電圧差は大きく、計算値との差も大きいので、蓄電セルの異常であると判定することができる。
【0105】
上述のように、判定部59は、異常事象として蓄電システムに用いられた蓄電素子の異常であるか又は蓄電素子の環境の異常であるかを判定することができる。蓄電素子の異常は、例えば、蓄電素子が想定よりも早期に劣化していると判定される場合を含む。また、蓄電素子の異常と環境の異常とを区別して判定できるので、誤って蓄電素子の異常であると判定することを防止できる。
【0106】
判定部59は、例えば、ルールベースモデルを用いた機械学習(機械学習によってルールを見つける)を含むように構成することができ、あるいはニューラルネットワークモデル(学習器)を含むように構成することができる。まず、ルールベースモデルについて説明する。
【0107】
図19は異常要因判定のルールベースモデルの一例を示す説明図である。図19では、NO.1及びNO.2の2つのケースについて説明する。NO.1のケースでは、実測セル電流Ieが閾値未満であり、実測セル間電圧ΔVが閾値未満であり、実測セル間温度ΔTが閾値以上であり、実測と計算の電圧差ΔVecが閾値以上であり、実測と計算の温度差ΔTecが閾値未満である場合、異常要因の判定結果は、環境の異常とすることができる。評価部60は、提供部としての機能を有し、空調の調整(例えば、温度を下げる等)、蓄電素子の配置の変更などの支援情報を事業者(数理モデルと運用データの提供元の事業者)に提供でき、異常要因に応じて蓄電システムの最適な運用を支援する支援情報を提供することができる。
【0108】
NO.2のケースでは、実測セル電流Ieが閾値以上であり、実測セル間電圧ΔVが閾値以上であり、実測セル間温度ΔTが閾値未満であり、実測と計算の電圧差ΔVecが閾値未満であり、実測と計算の温度差ΔTecが閾値以上である場合、異常要因の判定結果は、蓄電素子の異常とすることができる。評価部60は、蓄電素子の交換や増設、負荷の軽減などの支援情報を事業者(数理モデルと運用データの提供元の事業者)に提供でき、異常要因に応じて蓄電システムの最適な運用を支援する支援情報を提供することができる。
【0109】
図示していないが、評価部60は、数理モデル200を用いて蓄電システム40を構築した際のシステム設計パラメータを見直すこともできる。蓄電素子のシステム設計パラメータは、システム全体の中で用いられる蓄電素子の種類、数、定格などを含み、例えば、蓄電モジュールの構成又は数、バンクの構成又は数などのシステム設計に必要な種々のパラメータを含む。すなわち、当初の設計では、期待寿命の到達したときの蓄電素子のSOHがEOL以下とならないと見積もっていたものの、実際の運用データに基づく劣化状態は、期待寿命の到達したときの蓄電素子のSOHがEOL以下となる。このような場合には、評価部60は、設計パラメータの見直しに関する支援情報を提供できる。
【0110】
次に、ニューラルネットワークモデルについて説明する。
【0111】
図20は学習モデル59aの構成の一例を示す模式図である。学習モデル59aは、深層学習(ディープラーニング)を含むニューラルネットワークモデルであり、入力層、出力層及び複数の中間層から構成されている。なお、図20では、便宜上、2つ中間層を図示しているが、代替的に中間層の層数は3つ以上であってもよい。
【0112】
入力層、出力層及び中間層には、1つ又は複数のノード(ニューロン)が存在し、各層のノードは、前後の層に存在するノードと一方向に所望の重みで結合されている。入力層のノードの数と同数の成分を有するベクトルが、学習モデル59aの入力データ(学習用の入力データ及び異常要因判定用の入力データ)として与えられる。入力データには、蓄電素子情報(例えば、SOC、満充電容量、SOC-OCV(開回路電圧:open circuit voltage)曲線、内部抵抗など)、実測セル電流、実測セル間電圧、実測と計算の電圧差、実測と計算の温度差等が含まれる。出力データには、異常要因(蓄電素子の異常、環境の異常等)が含まれる。
【0113】
出力データは、出力層のノードの数(出力層のサイズ)と同じサイズの成分を有するベクトル形式のデータとすることができる。例えば、出力ノードは、「蓄電素子の異常」、「環境の異常」それぞれの確率を出力することができる。
【0114】
学習モデル59aは、例えば、CPU(例えば、複数のプロセッサコアを実装したマルチ・プロセッサなど)、GPU(Graphics Processing Units)、DSP(Digital Signal Processors)、FPGA(Field-Programmable Gate Arrays)などのハードウェアを組み合わせることによって構成することができる。
【0115】
学習モデル59aは、複数の蓄電素子の電流の実測値、所要の蓄電素子間の実測電圧差及び実測温度差、並びに所要の蓄電素子のうちの一の蓄電素子の電圧及び温度についての実測値と計算値との差を入力データとし、異常要因を出力データとする教師データに基づいて学習されてある。
【0116】
学習モデル59aは、例えば、電流の実測値及び蓄電素子間の実測電圧差が大きく、実測値と計算値との差も大きい場合には、当該一の蓄電素子の異常を出力するように学習されてある。また、学習モデル59aは、電流の実測値が小さく、蓄電素子間の実測温度差が大きく、実測値と計算値との差も大きい場合には、環境の異常を出力するように学習されてある。
【0117】
図21は評価装置50の処理手順の一例を示すフローチャートである。便宜上、処理の主体を制御部51として説明する。制御部51は、蓄電システム40の構築に用いられた数理モデル200を取得し(S11)、蓄電システム40の運用データを取得する(S12)。制御部51は、運用データの実測値(電圧値、電流値、温度値など)と数理モデル200による計算値(電圧値、電流値、温度値値など)に基づいて異常事象の有無(異常事象の有無の可能性も含む)を判定する(13)。
【0118】
異常事象があると判定された場合(S13でYES)、制御部51は、運用データに基づく蓄電素子の劣化状態を推定し(S14)、劣化状態が想定年数間の要求を満たすか否かを判定する(S15)。要求を満たさない場合(S15でNO)、制御部51は、異常要因を判定する(S16)。
【0119】
制御部51は、異常要因が蓄電素子の異常であると判定した場合(S17でYES)、蓄電素子に対する評価、支援情報を出力し(S18)、処理を終了する。制御部51は、異常要因が蓄電素子の異常でないと判定した場合(S17でNO)、蓄電素子の環境の異常であると判定して、環境に対する評価、支援情報を出力し(S19)、処理を終了する。
【0120】
異常事象がない場合(S13でNO)、あるいは想定年数間の要求を満たす場合(S15でYES)、制御部51は、処理を終了する。
【0121】
本実施の形態の評価装置50は、CPU(プロセッサ)、GPU、RAM(メモリ)などを備えた汎用コンピュータを用いて実現することもできる。すなわち、図21に示すような、各処理の手順を定めたコンピュータプログラムをコンピュータに備えられたRAM(メモリ)にロードし、コンピュータプログラムをCPU(プロセッサ)で実行することにより、コンピュータ上で実現することができる。コンピュータプログラムは記録媒体に記録され流通されてもよい。
【0122】
実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれる。
【符号の説明】
【0123】
1 通信ネットワーク
10 通信デバイス
20 サーバ装置
30 ドメイン管理装置
40、40a、40b、40c 蓄電システム
41 バンク
42 蓄電モジュール
44 電池管理装置
50 評価装置
51 制御部
52 データ取得部
53 モデル取得部
54 操作部
55 表示部
56 記憶部
57 モデル実行部
58 算出部
59 判定部
59a 学習モデル
60 評価部
61 劣化状態推定部
61a 劣化シミュレータ
100a、100b、100c 遠隔監視システム
200、200a、200b、200c 数理モデル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21