IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱瓦斯化学株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-28
(45)【発行日】2022-03-08
(54)【発明の名称】光学材料用組成物
(51)【国際特許分類】
   C08G 18/08 20060101AFI20220301BHJP
   C08G 18/38 20060101ALI20220301BHJP
   G02B 1/04 20060101ALI20220301BHJP
【FI】
C08G18/08 090
C08G18/38 074
C08G18/38 076
G02B1/04
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019505834
(86)(22)【出願日】2018-02-26
(86)【国際出願番号】 JP2018007006
(87)【国際公開番号】W WO2018168419
(87)【国際公開日】2018-09-20
【審査請求日】2021-01-05
(31)【優先権主張番号】P 2017052122
(32)【優先日】2017-03-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100110663
【弁理士】
【氏名又は名称】杉山 共永
(74)【代理人】
【識別番号】100128761
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 恭子
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】仮屋薗 和貴
(72)【発明者】
【氏名】青木 崇
(72)【発明者】
【氏名】竹村 紘平
(72)【発明者】
【氏名】古川 喜久夫
【審査官】岡谷 祐哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-064146(JP,A)
【文献】特開2002-332350(JP,A)
【文献】特開2004-339329(JP,A)
【文献】特表2004-516372(JP,A)
【文献】国際公開第2007/010996(WO,A1)
【文献】特公昭45-017434(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 18/08
C08G 18/38
G02B 1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エピスルフィド化合物(a)、チオール化合物(b)、イソシアナート化合物(c)、及び下記式(1)で表されるベンジルハライド化合物(d)を含有する光学材料用組成物であって、
【化1】
(Xは、ハロゲンを示す。Lは、水素原子、メチル基、ハロゲン、メルカプトメチル基及びイソシアナートメチル基からなる群から選択される。X及びLがそれぞれ複数存在する場合、それらのX及びLはそれぞれ独立して選択されるものとする。nはを表す。)
前記チオール化合物(b)が、m-キシリレンジチオール、p-キシリレンジチオールおよびo-キシリレンジチオールからなる群から選択される1種または2種以上であるか、または
前記イソシアナート化合物(c)が、o-キシリレンジイソシアナート、m-キシリレンジイソシアナートおよびp-キシリレンジイソシアナートからなる群から選択される1種または2種以上である、前記光学材料用組成物。
【請求項2】
さらに硫黄化合物(e)を含有する請求項1に記載の光学材料用組成物。
【請求項3】
前記ベンジルハライド化合物(d)が、光学材料用組成物中、0.0001~5質量%の範囲にある請求項1または2に記載の光学材料用組成物。
【請求項4】
前記ベンジルハライド化合物(d)がベンジルクロライド化合物である請求項1~3のいずれか一項に記載の光学材料用組成物。
【請求項5】
前記エピスルフィド化合物(a)の割合が、光学材料用組成物中、50~90質量%の範囲にあり、前記チオール化合物(b)及び前記イソシアナート化合物(c)化合物の合計割合が、光学材料用組成物中、50~10質量%範囲にある請求項1~4のいずれか一項に記載の光学材料用組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の光学材料用組成物を重合硬化した硬化物。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか一項に記載の光学材料用組成物を重合硬化することを含む、光学材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はプラスチックレンズ、プリズム、光ファイバー、情報記録基盤、フィルター等の光学材料に用いられる光学材料用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
光学材料の高屈折率および高アッベ数、高耐熱性を同時に実現する手法として、エピスルフィド化合物の使用が挙げられるが、当該化合物からなる光学材料は、高強度化が課題となっていた。このため、エピスルフィド化合物にチオール化合物とイソシアナート化合物を添加することにより、引張強度、耐衝撃性などの各種強度の向上に関する検討が行われていた(特許文献1~4参照)。
エピスルフィド化合物にチオール化合物とイソシアナート化合物を加えた組成物の重合反応では、エピスルフィド基の単独重合反応、エピスルフィド基とチオール基の反応、エピスルフィド基とイソシアナート基の反応、チオール基とイソシアナート基のチオウレタン化反応等の種々の反応が複雑に進行するため、樹脂中に屈折率の不均一な部分が生じるなどにより硬化物に脈理や白濁が生じるなどの問題があった。
エピスルフィド基の高い反応性を制御し、得られる硬化物の均一性を高めるために、ケイ素、ゲルマニウム、スズまたはアンチモンのハロゲン化物が提案されている(特許文献5)。しかしながら、特許文献5の実施例に例示されている重合調整剤を用いると、得られる硬化物に白濁が生じる場合があった。
その為、重合速度の制御と得られる光学材料の白濁抑制を両立可能な重合調整剤の開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平11-292950号公報
【文献】特開2001-131257号公報
【文献】特開2001-330701号公報
【文献】特開2007-084629号公報
【文献】特許第3632761号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような状況の下、エピスルフィド化合物にチオール化合物とイソシアナート化合物を加えた組成物において重合速度を適切に制御し、透明性の高い光学材料の提供が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、エピスルフィド化合物とチオール化合物およびイソシアナート化合物を含有する組成物においてベンジルハライド化合物を配合することにより、重合速度を適切に制御しつつ、得られる光学材料の白濁を抑制できることを見いだし、本発明に至った。
すなわち、本発明は以下の通りである。
【0006】
[1] エピスルフィド化合物(a)、チオール化合物(b)、イソシアナート化合物(c)、及び下記式(1)で表されるベンジルハライド化合物(d)を含有する光学材料用組成物。
【化1】
(Xは、ハロゲンを示す。Lは、水素原子、メチル基、ハロゲン、メルカプトメチル基及びイソシアナートメチル基からなる群から選択される。X及びLがそれぞれ複数存在する場合、それらのX及びLはそれぞれ独立して選択されるものとする。nは1又は2を表す。)
【0007】
[2] さらに硫黄化合物(e)を含有する[1]に記載の光学材料用組成物。
【0008】
[3] 前記ベンジルハライド化合物(d)が、光学材料用組成物中、0.0001~5質量%の範囲にある[1]または[2]に記載の光学材料用組成物。
【0009】
[4] 前記ベンジルハライド化合物(d)がベンジルクロライド化合物である[1]~[3]のいずれかに記載の光学材料用組成物。
【0010】
[5] 前記エピスルフィド化合物(a)の割合が、光学材料用組成物中、50~90質量%の範囲にあり、前記チオール化合物(b)及び前記イソシアナート化合物(c)化合物の合計割合が、光学材料用組成物中、50~10質量%の範囲にある[1]~[4]のいずれかに記載の光学材料用組成物。
【0011】
[6] [1]~[5]のいずれかに記載の光学材料用組成物を重合硬化した硬化物。
[7] [1]~[5]のいずれか一項に記載の光学材料用組成物を重合硬化することを含む、光学材料の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明のベンジルハライド化合物を用いることで、エピスルフィド化合物とチオール化合物およびイソシアナート化合物から成る組成物の複雑な反応を制御することができ、工業的に容易に高い透明性を有する光学材料を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の光学材料用組成物は、エピスルフィド化合物(a)、チオール化合物(b)、イソシアネート化合物(c)、下記式(1)で表されるベンジルハライド化合物(d)及び必要に応じてその他の成分を含有する。
【化2】
(Xは、ハロゲンを示す。Lは、水素原子、メチル基、ハロゲン、メルカプトメチル基及びイソシアナートメチル基からなる群から選択される。X及びLがそれぞれ複数存在する場合、それらのX及びLはそれぞれ独立して選択されるものとする。nは1又は2を表す。)
以下これらについて詳細に説明する。
【0014】
[エピスルフィド化合物(a)]
本発明のエピスルフィド化合物(a)は、エピスルフィド基を1分子中に1個以上有するエピスルフィド化合物を意味する。
エピスルフィド化合物(a)として、好ましくは1分子中に2個のエピスルフィド基を有する化合物であり、具体的にはビス(β-エピチオプロピル)スルフィド、ビス(β-エピチオプロピル)ジスルフィド、ビス(β-エピチオプロピル)トリスルフィド、ビス(β-エピチオプロピルチオ)メタン、1,2-ビス(β-エピチオプロピルチオ)エタン、1,3-ビス(β-エピチオプロピルチオ)プロパン、1,2-ビス(β-エピチオプロピルチオ)プロパン、1,4-ビス(β-エピチオプロピルチオ)ブタン、及びビス(β-エピチオプロピルチオエチル)スルフィドが挙げられる。
この中でもビス(β-エピチオプロピル)スルフィド(式(2))及びビス(β-エピチオプロピル)ジスルフィド(式(2))がより好ましく、最も好ましい具体例は、ビス(β-エピチオプロピル)スルフィドである。
これらの化合物を用いることで、屈折率と強度および耐熱性を高めることができる。これらは単独でも、2種類以上を混合して使用してもかまわない。
【化3】
【化4】
【0015】
[チオール化合物(b)]
本発明において、チオール化合物(b)はメルカプト基を1分子あたり1個以上有するチオール化合物を意味する。
チオール化合物(b)として、好ましくは1分子中に2個以上のメルカプト基を有する化合物であり、具体的にはビス(2-メルカプトエチル)スルフィド、m-キシリレンジチオール、p-キシリレンジチオール、o-キシリレンジチオール、2,5-ビス(メルカプトメチル)-1,4-ジチアン、ペンタエリスリトールテトラキス(2-メルカプトアセテート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)、及び1,2-ビス(2-メルカプトエチルチオ)-3-メルカプトプロパンが挙げられる。
これらの化合物を用いることで、屈折率と強度および耐熱性を高めることができる。これらは単独でも、2種類以上を混合して使用してもかまわない。
【0016】
[イソシアネート化合物(c)]
本発明において、イソシアネート化合物(c)はイソシアナート基を1分子あたり1個以上有するイソシアナート化合物を意味する。
イソシアネート化合物(c)として好ましくは1分子中に2個のイソシアナート基を有する化合物であり、具体的にはo-キシリレンジイソシアナート、m-キシリレンジイソシアナート、p-キシリレンジイソシアナート、イソホロンジイソシアナート、1,3-ビス(イソシアナートメチル)シクロヘキサン、及びヘキサメチレンジイソシアネートが挙げられる。これらの化合物を用いることで、強度と耐熱性を高めることができる。
これらは単独でも、2種類以上を混合して使用してもかまわない。
【0017】
[ベンジルハライド化合物(d)]
本発明で使用するベンジルハライド化合物(d)は、式(1)で表される化合物である。
【化5】
(Xは、ハロゲンを示す。Lは、水素原子、メチル基、ハロゲン、メルカプトメチル基及びイソシアナートメチル基からなる群から選択される。nは1又は2を表す。)
ベンジルハライド化合物(d)のXとしては、クロロ基、ブロモ基、フルオロ基、ヨード基などが挙げられるが、その中でもクロロ基、ブロモ基が好ましい。
ベンジルハライド化合物(d)のLがハロゲンである場合も上記と同様の基が挙げられ、その中でもクロロ基、ブロモ基が好ましい。
ベンジルハライド化合物(d)の好ましい具体例として、ベンジルクロライド、キシリレンジクロライド、メルカプトメチルベンジルクロライド、イソシアナートメチルベンジルクロライド、クロロベンジルクロライド、ジクロロベンジルクロライド、ベンジルブロマイド、キシリレンジブロマイド、メルカプトメチルベンジルブロマイド、イソシアナートメチルベンジルブロマイド、ブロモベンジルブロマイド、及びジブロモベンジルブロマイドが挙げられる。
より好ましい化合物としては、チオール化合物(b)やイソシアネート化合物(c)に近い構造のものを用いることが挙げられる。例えば、チオール化合物(b)としてキシリレンジチオール、イソシアネート化合物(c)としてキシリレンジイソシアナートを用いる場合には、キシリレンジクロライド、メルカプトメチルベンジルクロライド、イソシアナートメチルベンジルクロライド、キシリレンジブロマイド、メルカプトメチルベンジルブロマイド、及びイソシアナートメチルベンジルブロマイドが好ましい。
これらを選択することで、レンズの光学物性への影響を最小限にすることができ、白濁低減により効果的である。
【0018】
[その他の成分]
<硫黄化合物(e)>
本発明の光学材料用組成物は、更に硫黄化合物(e)を添加することができ、得られる硬化物の屈折率向上の点から好ましい。本発明における硫黄化合物(e)は硫黄原子を有する無機化合物を意味する。
硫黄化合物(e)の具体例として硫黄、硫化水素、二硫化炭素、セレノ硫化水素、硫化アンモニウム、二酸化硫黄、二酸化硫黄等の硫黄酸化物、チオ炭酸塩、硫酸およびその塩、硫化水素塩、亜硫酸塩、次亜硫酸塩、過硫酸塩、チオシアン酸塩、チオ硫酸塩、二塩化硫黄、塩化チオニル、チオホスゲン等のハロゲン化物、硫化ホウ素、硫化窒素、硫化珪素、硫化リン、硫化砒素、硫化セレン、金属硫化物及び金属水硫化物が挙げられる。
これらの中で、好ましくは硫黄、二硫化炭素もしくは硫化セレンであり、最も好ましいのは硫黄である。これらの化合物を用いることで、屈折率とアッベ数のバランスに優れた光学特性を付与することができる。これらは単独でも、2種類以上を混合してもかまわない。硫黄化合物(e)を使用する場合の光学材料用組成物中の割合は0.01~40質量%であり、0.1~30質量%、さらに好ましくは1~20質量%である。
【0019】
本発明の光学材料用組成物は、更に重合触媒を添加することができる。重合触媒は、重合硬化を発現するものであれば、特に限定されるものではない。好ましい具体例は、トリエチルベンジルアンモニウムクロライド及びテトラ-n-ブチルホスホニウムブロマイドである。
重合触媒の添加量は、光学材料用組成物中、好ましくは0.001~5質量%であり、より好ましくは0.005~3質量%である。
【0020】
本発明の光学材料組成物には、重合硬化する際に、ポットライフの延長や重合発熱の分散化などを目的として、重合触媒に加え重合調節剤を併用してもよい。重合調節剤は、長期周期律表における第13~16族元素のハロゲン化物を挙げることができる。好ましいものの具体例はジブチルスズジクロライド、ブチルスズトリクロライド、ジオクチルスズジクロライド、オクチルスズトリクロライド、ジブチルジクロロゲルマニウム、ブチルトリクロロゲルマニウム、ジフェニルジクロロゲルマニウム、フェニルトリクロロゲルマニウム及びトリフェニルアンチモンジクロライドである。
重合調節剤の添加量は、光学材料用組成物中、好ましくは0.001~5%であり、より好ましくは0.005~3質量%である。
【0021】
本発明の光学材料用組成物には、耐酸化性、耐候性、染色性、強度、屈折率等の各種性能の改良を目的として、更に性能改良剤を添加することも可能である。性能改良剤としては、前記チオール化合物(b)以外のメルカプト基を2個以上有する化合物類、エポキシ化合物類、カルボン酸類、カルボン酸無水物類、フェノール類、アミン類、ビニル化合物類、アリル化合物類、アクリル化合物類およびメタクリル化合物類が挙げられる。
性能改良剤の添加量は、光学材料用組成物中、好ましくは0.001~10質量%であり、より好ましくは0.005~3質量%である。
【0022】
本発明の光学材料用組成物は、更に公知の酸化防止剤、ブルーイング剤、紫外線吸収剤、消臭剤、密着性改善剤及び離型性改善剤を添加することができる。
【0023】
[光学材料用組成物の調製]
本発明の光学材料用組成物は前記エピスルフィド化合物(a)、チオール化合物(b)、イソシアナート化合物(c)、ベンジルハライド化合物(d)及び必要に応じてその他の成分を均一に混合することにより調製される。
光学材料用組成物中の組成比は、各化合物の種類によって得られる光学材料の光学特性、強度、耐熱性など各種物性等により一概には決められないが、通常エピスルフィド化合物(a)は50~90質量%、チオール化合物(b)とイソシアナート化合物(c)化合物の合計が50~10質量%、好ましくは(a)化合物60~85質量%、チオール化合物(b)とイソシアナート化合物(c)化合物の合計が40~15質量%、さらに好ましくはエピスルフィド化合物(a)化合物65~85質量%、チオール化合物(b)とイソシアナート化合物(c)化合物の合計が35~15質量%である。上記範囲にあることで硬化物の耐熱性と強度向上効果を高められる。
【0024】
さらに、チオール化合物(b)のSH基とイソシアナート化合物(c)のNCO基との割合は好ましくはSH基/NCO基=1.0~2.5であり、より好ましくはSH基/NCO基=1.25~2.25であり、さらに好ましくはSH基/NCO基=1.5~2.0である。上記範囲にあることで硬化物の黄色度を押さえつつ耐熱性を高く保つことができる。
【0025】
光学材料用組成物中のベンジルハライド化合物(d)の割合は通常0.0001~5質量%であり、好ましくは0.0005~3質量%、さらに好ましくは0.001~1質量%である。上記範囲にあることで硬化物の白濁抑制と組成物増粘の抑制を両立できる。組成物の粘度は、好ましくは10~3000cP、より好ましくは10~1000cP、さらに好ましくは10~300cPの範囲内である。この範囲内に粘度を調整することで容易に注型することができ、光学材料の生産性が向上する。
【0026】
混合温度は通常-50℃~100℃の範囲で行われ、好ましくは、-5℃~50℃である。混合時間は通常、1分~12時間、好ましくは5分~6時間である。
【0027】
また、上記混合後、光学材料用組成物の脱気処理を行うことが硬化物の透明性の面から好ましい。脱気処理条件の具体例としては、0.1~15000Paの減圧下、1分間~24時間、0℃~100℃の条件が挙げられる。
また、必要に応じてフィルター等で不純物等をろ過して精製することができる。
【0028】
[光学材料用組成物の硬化]
本願発明の光学材料用組成物は通常の重合硬化方法を用いて硬化することができる。
例えば、光学材料用組成物をガラスや金属製の型に注入し、電気炉による加熱や、紫外線などの活性エネルギー線を照射するなどにより硬化物を得ることができる。
また、重合終了後、アニール処理を行う事は、光学材料の歪を除くために好ましい処理である。さらに必要に応じて染色、ハードコート、反射防止、防曇性、防汚性、耐衝撃性付与等の表面処理を行うことができる。
本願発明は、このようにして得られた光学材料用組成物を重合硬化した硬化物をも包含するものである。本発明の好ましい態様によれば、本発明の光学材料用組成物を重合硬化することで、重合速度を制御することができ、透明性の高い光学材料を提供することができる。得られた硬化物は、プラスチックレンズ、プリズム、光ファイバー、情報記録基盤及びフィルターなどの光学材料として好適に用いることができる。
[光学材料の製造方法]
上記のとおり、本願発明の光学材料用組成物を重合硬化することでプラスチックレンズ、プリズム、光ファイバー、情報記録基盤及びフィルターなどの光学材料を製造することができる。本願発明は、本願発明の光学材料用組成物を重合硬化することを含む光学材料の製造方法をも包含するものである。
【実施例
【0029】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明の効果を奏する限りにおいて実施形態を適宜変更することができる。なお、得られた光学材料用組成物や光学材料の分析は以下の方法で行った。
【0030】
[重合液の粘度]
B型粘度計(FUNGILAB社製Visco Elite)を使用し、重合液の20℃での粘度を測定した。
[光学材料の白濁発生率]
実施例及び比較例で得られた光学材料(厚さ10.0mm、φ83mmのプラスチックレンズ)の円形平板100枚を暗室で高圧水銀灯下、目視で観察し、濁りが確認されたレンズは白濁があるものと判定し、白濁発生率を算出した。
【0031】
[実施例1]
エピスルフィド化合物(a)としてビス(β―エピチオプロピル)スルフィド(以下a-1化合物と呼ぶ)を80.0質量部、チオール化合物(b)としてビス(2-メルカプトエチル)スルフィド(以下b-1化合物と呼ぶ)11.2質量部、イソシアナート化合物(c)としてm-キシリレンジイソシアナート(以下c-1化合物と呼ぶ)8.8質量部、ベンジルハライド化合物(d)としてm-キシリレンジクロライド(以下d-1化合物と呼ぶ)0.01質量部、重合触媒としてテトラ-n-ブチルホスホニウムブロマイド0.1質量部を20℃にて3時間混合して光学材料用組成物を調製した。光学材料用組成物の20℃での粘度は42cPであった。
得られた光学材料用組成物を1000Paの減圧下で30分脱気処理し、0.5μmのPTFE製のメンブランフィルターでろ過した。次いで、この組成物を対向する2枚の83mmφのガラスモールドを使用し、外周部にシリコン系の粘着材が塗布された粘着テープで巻いた型に注入し、オーブンを用いて30℃で10時間、30℃から100℃まで10時間かけて昇温させ、最後に100℃で1時間重合硬化させた。硬化物は、室温まで放冷しモールドから離型した後、110℃で1時間アニール処理して光学材料を得た。得られた光学材料の白濁発生率は1%であった。評価結果を、表1に示す。
【0032】
[実施例2~31]
組成を表1に示すものに変更した以外は実施例1と同様に操作を行った。(ただし、実施例5のみ混合時間を5時間に変更して行った。)得られた光学材料用組成物の粘度、光学材料の白濁発生率の評価結果を表1に示した。
【0033】
[比較例1~4]
組成を表2に示すものに変更した以外は実施例1と同様に操作を行った。得られた光学材料用組成物の粘度、光学材料の白濁発生率の評価結果を表2に示した。
【0034】
【表1A】
【0035】
【表1B】
【0036】
【表2】
【0037】
なお、表中の化合物と併記した括弧内の数値は、組成物中の化合物の含有率を示す。表中の化合物としては、以下のものを使用した。
(a-1) ビス(β-エピチオプロピル)スルフィド
(a-2) ビス(β-エピチオプロピル)ジスルフィド
(b-1) ビス(2-メルカプトメチル)スルフィド
(b-2) m-キシリレンジチオール
(b-3) 2,5-ビス(メルカプトメチル)-1,4-ジチアン
(b-4) ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)
(c-1) m-キシリレンジイソシアナート
(c-2) イソホロンジイソシアナート
(c-3) 1,3-ビス(イソシアナートメチル)シクロヘキサン
(d-1) m-キシリレンジクロライド
(d-2) p-キシリレンジクロライド
(d-3) o-キシリレンジクロライド
(d-4) ベンジルクロライド
(d-5) m-キシリレンジブロマイド
(e-1) 硫黄
TBPB テトラ-n-ブチルホスホニウムブロマイド
DBTDC ジブチルスズジクロリド
【産業上の利用可能性】
【0038】
本願発明は、光学材料用組成物を提供する。本願発明の光学材料用組成物を重合硬化した硬化物は、プラスチックレンズ、プリズム、光ファイバー、情報記録基盤及びフィルターなどの光学材料として好適に用いることができる。