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7031719高分子電解質膜シート、高分子電解質膜ロール、触媒層付電解質膜、膜電極接合体、電気化学式水素ポンプおよび水電解装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-28
(45)【発行日】2022-03-08
(54)【発明の名称】高分子電解質膜シート、高分子電解質膜ロール、触媒層付電解質膜、膜電極接合体、電気化学式水素ポンプおよび水電解装置
(51)【国際特許分類】
   C25B 13/02 20060101AFI20220301BHJP
   C25B 1/02 20060101ALI20220301BHJP
【FI】
C25B13/02 301
C25B1/02
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020190012
(22)【出願日】2020-11-16
(62)【分割の表示】P 2016101375の分割
【原出願日】2016-05-20
(65)【公開番号】P2021036079
(43)【公開日】2021-03-04
【審査請求日】2020-12-07
(31)【優先権主張番号】P 2015102698
(32)【優先日】2015-05-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】新宅 有太
(72)【発明者】
【氏名】出原 大輔
(72)【発明者】
【氏名】足立 眞哉
(72)【発明者】
【氏名】梅田 浩明
【審査官】▲来▼田 優来
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/027724(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B9/00-9/77,13/00-08
H01M8/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン性基含有芳香族炭化水素系ポリマーからなる、電気化学式水素ポンプ用または水電解装置用の高分子電解質膜が基材上に成形されてなる高分子電解質膜シートであって:
前記高分子電解質膜が、
80℃、相対湿度25%雰囲気下での単位面積当たりのプロトン伝導度が0.12S/cm以上;
80℃、相対湿度90%の雰囲気下での単位面積当たりのプロトン伝導度が8S/cm以上;
80℃、相対湿度90%雰囲気下での水素透過度が3.0×10-7cm・(cm・s・cmHg)-1以下;
25℃、相対湿度60%の雰囲気下での幅10mmの膜の引張破断強度が100000N以上;
引張破断伸度が150%以上;
膜厚が25μm以上200μm以下であり、
前記基材がポリマーフィルムでかつ厚みが250μm以上600μm以下であり、
前記イオン性基含有芳香族炭化水素系ポリマーが、主鎖に少なくとも芳香環、エーテル結合およびケトン結合を有する、芳香族ポリエーテルケトン系ポリマーである、高分子電解質膜シート。
【請求項2】
前記イオン性基含有芳香族炭化水素系ポリマーが、イオン性基を含有するセグメント(A1)とイオン性基を含有しないセグメント(A2)を有するブロックポリマーであって、前記イオン性基を含有するセグメント(A1)が下記一般式(S1)で表される構成単位を含有し、前記イオン性基を含有しないセグメント(A2)が下記一般式(S2)で表される構成単位を含有する、請求項1に記載の高分子電解質膜シート。
【化1】
(一般式(S1)中、Ar ~Ar は任意の2価のアリーレン基を表し、Ar およびAr の少なくとも1つは置換基としてイオン性基を有している。Ar およびAr は置換基としてイオン性基を有しても有しなくても良い。Ar ~Ar はイオン性基以外の基で任意に置換されていても良い。Ar ~Ar は構成単位ごとに同じでも異なっていてもよい。Rは、ケトン基または、ケトン基に誘導され得る保護基を表し、それぞれ同じでも異なっていても良い。*は一般式(S1)または他の構成単位との結合部位を表す。)
【化2】
(一般式(S2)中、Ar ~Ar は任意の2価のアリーレン基を表し、任意に置換されていても良いが、イオン性基を有しない。Ar ~Ar は構成単位ごとに同じでも異なっていてもよい。Rは、ケトン基または、ケトン基に誘導され得る保護基を表し、それぞれ同じでも異なっていても良い。*は一般式(S2)または他の構成単位との結合部位を表す。)
【請求項3】
請求項1または2に記載の高分子電解質膜シートがロール状に巻回されてなる高分子電解質膜ロール。
【請求項4】
請求項1または2に記載の高分子電解質膜シートの高分子電解質膜に触媒層を付してなる触媒層付電解質膜。
【請求項5】
前記高分子電解質膜と前記触媒層の間の剥離強度が5N/cm以上である、請求項に記載の触媒層付電解質膜。
【請求項6】
請求項1または2に記載の高分子電解質膜シートの高分子電解質膜を用いて構成される膜電極接合体。
【請求項7】
請求項1または2に記載の高分子電解質膜シートの高分子電解質膜を用いて構成される電気化学式水素ポンプ。
【請求項8】
請求項1または2に記載の高分子電解質膜シートの高分子電解質膜を用いて構成される水電解装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学式水素ポンプまたは水電解装置に用いられる高分子電解質膜およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、次世代におけるエネルギーの貯蔵・輸送手段として、水素エネルギーが注目されている。水素は、燃料電池の燃料として用いることで、熱機関を用いた発電よりも理論的に高いエネルギー効率で電力に変換可能で、かつ有害排出物レスであることから、高効率なクリーンエネルギー源となり得る。水素は2次エネルギーであり、様々な作製方法があるが、再生可能エネルギーによる余剰電力を使用して、水を電気分解すれば、二酸化炭素を排出することなく電力を水素エネルギーに変換可能である。水の電気分解による水素製造方式は、アルカリ水電解と固体高分子電解質膜(PEM)型水電解があるが、PEM型水電解は高電流密度での運転が可能であり、再生可能エネルギーの出力変動に柔軟に対応できるという特長を有する。
【0003】
水素は貯蔵方式によっては、タンクローリーやタンカーで運ぶことができるため、需要の大きい地域に必要な時に供給できる点で、電力貯蔵に対し、大きなメリットを有する。
【0004】
水素の貯蔵方式は、圧縮水素、液体水素、合金への水素吸蔵などが挙げられる。中でも特に、気体燃料としてすぐに使用できる点、エネルギー効率の点で、圧縮水素への需要が高まっている。
【0005】
圧縮水素の製造方式として、従来、容積式圧縮機が用いられてきたが、近年、電気化学式水素ポンプが注目されている。電気化学式水素ポンプは、固体高分子型電解質膜に電流を流すことで、電気化学的に水素を圧縮する水素圧縮機である。容積式圧縮機に比べ、エネルギー効率や静音性が高く、かつコンパクトであり、また水素精製も可能といった特長を有する。
【0006】
電気化学式水素ポンプの原理を以下に示す。
1.アノードに供給された水素が電圧印加により酸化され、プロトンと電子を生成する。
2.プロトンは、電解質膜中のイオン交換基を介してカソードに伝導する。
3.電子は、電圧印加により外部回路を通ってアノードからカソードへ伝導する。
4.プロトンと電子が、カソードで結合して再び水素を生成することで、カソード側で水素を圧縮する。
【0007】
このような、電気化学式水素ポンプや水電解装置に用いられる電解質膜として、非特許文献1、2、3、特許文献1、2、3、4には、米デュポン社製の「ナフィオン(登録商標)」を使用した例が報告されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【文献】「ジャーナル オブ パワー ソース」(Journal of Power Source),105 (2002)208-215
【文献】「イーシーエス トランサクションズ」(ECS Transactions) 58 (1) 681-691 (2013)
【文献】「ジャーナル オブ ザ エレクトロケミカル ソサエティー」(Journal of The Electrochemical Society)149 (8) A1069-A1078 (2002)
【特許文献】
【0009】
【文献】国際公開2003/021006号パンフレット
【文献】国際公開2005/014468号パンフレット
【文献】特開平11-131280
【文献】特開2001-140089
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、ナフィオンは、本質的に水素透過の大きいパーフルオロ系ポリマーからなる電解質膜であるため、水素バリア性が十分でなく、電気化学式水素ポンプでは、圧縮した水素がカソードからアノードへ逆透過することによる水素ロス、水電解装置では生成した水素がカソードからアノードへ透過することによるアノードの電解電圧の上昇およびアノードで酸素との混合気体になることによる安全面の課題があった。また破断強度が低いゴムのような材料のため、高圧下で膜変形する課題があった。さらに、当該課題を解決するために膜厚を厚くすると、プロトン伝導度低下に伴い水素圧縮および水電解効率が低下する問題があった。
【0011】
このように、従来技術による高分子電解質材料は、より高効率な電気化学式水素ポンプおよび水電解装置を実現するためには、経済性、プロセス性、プロトン伝導性、機械強度、化学的安定性、物理的耐久性の点で不十分であった。
【0012】
本発明は、かかる背景に鑑み、優れた水素バリア性を有し、なおかつ、低加湿条件下および加湿条件下における優れたプロトン伝導性、優れた機械強度、物理的耐久性と化学的安定性を達成することができる、電気化学式水素ポンプ用または水電解装置用の高分子電解質膜を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、前記課題を解決すべく、電気化学式水素ポンプとしたときに高水素圧縮効率かつ長期耐久性を達成することができ、水電解装置としたときに高水電解効率かつ長期耐久性を達成することができる電解質膜について鋭意検討を重ねた結果、高水素圧縮効率、高水電解効率の点で、高プロトン伝導度と水素バリア性の両方に優れ、さらに長期耐久性の点で、機械強度の中でも特に、引張破断強度と引張破断伸度の両方に優れた膜が必要なことに着目し、それらを満たす炭化水素系電解質膜により、高圧下でも、前記膜変形や水素逆透過によるロスが少なく、高水素圧縮効率、高水電解効率で、かつ長期間安定作動できる優れた電気化学式水素ポンプおよび水電解装置を発現できることを究明するとともに、さらに種々の検討を加え、本発明を完成した。
【0014】
すなわち、本発明の高分子電解質膜は、
イオン性基含有芳香族炭化水素系ポリマーからなる、電気化学式水素ポンプ用または水電解装置用の高分子電解質膜であって:
80℃、相対湿度25%雰囲気下での単位面積当たりのプロトン伝導度が0.12S/cm2以上;
80℃、相対湿度90%の雰囲気下での単位面積当たりのプロトン伝導度が8S/cm2以上;
80℃、相対湿度90%雰囲気下での水素透過度が3.0×10-7cm・(cm・s・cmHg)-1以下;
25℃、相対湿度60%の雰囲気下での幅10mmの膜の引張破断強度が100000N以上;
引張破断伸度が150%以上;
である高分子電解質膜である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、優れた水素バリア性を有し、なおかつ、低加湿条件下および加湿条件下における優れたプロトン伝導性、優れた機械強度、物理的耐久性と化学的安定性を達成することができる実用性に優れた電気化学式水素ポンプおよび水電解装置用高分子電解質膜を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の、電気化学式水素ポンプ用または水電解装置用の高分子電解質膜(以下、単に「電解質膜」ということがある)について詳細に説明する。
【0017】
<高分子電解質膜>
本発明の電解質膜は、イオン性基含有芳香族炭化水素系ポリマーからなるものである。イオン性基含有芳香族炭化水素系ポリマーとは、主鎖に芳香環を有するポリマーであり、芳香環には炭化水素系芳香環だけでなく、ヘテロ環も含むものとする。芳香族炭化水素系ポリマーを用いることにより、従来のパーフルオロ系ポリマーからなる電解質膜にはない、高引張破断強度と低水素透過性を両立した、電気化学式水素ポンプまたは水電解装置に適した電解質膜を得ることができる。
【0018】
イオン性基含有芳香族炭化水素系ポリマーの具体例としては、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンオキシド、ポリアリーレンエーテル系ポリマー、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリパラフェニレン、ポリアリーレン系ポリマー、ポリアリーレンケトン、ポリエーテルケトン、ポリアリーレンホスフィンホキシド、ポリエーテルホスフィンホキシド、ポリベンズオキサゾール、ポリベンズチアゾール、ポリベンズイミダゾール、芳香族ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリイミドスルホン等のポリマーが挙げられる。
【0019】
なかでも、機械強度や物理的耐久性と、製造コストの観点を総合すると、イオン性基含有芳香族炭化水素系ポリマーとしては、芳香族ポリエーテル系ポリマーが好ましい。ここで、芳香族ポリエーテル系ポリマーとは、主鎖に芳香環およびエーテル結合を有しているポリマーの総称であり、具体例としてはポリエーテルスルホン、ポリアリーレンエーテル系ポリマー、ポリエーテルケトン、ポリエーテルイミド等が挙げられる。さらに、主鎖骨格構造のパッキングの良さおよび極めて強い分子間凝集力から結晶性を示し、一般的な溶剤に全く溶解しない性質を有するとともに、引張強伸度、引裂強度および耐疲労性に優れる点から、芳香族ポリエーテルケトン系ポリマーが特に好ましい。ここで、芳香族ポリエーテルケトン系ポリマーとは、主鎖に少なくとも芳香環、エーテル結合およびケトン結合を有しているポリマーの総称であり、芳香族ポリエーテルケトン、芳香族ポリエーテルケトンケトン、芳香族ポリエーテルエーテルケトン、芳香族ポリエーテルエーテルケトンケトン、芳香族ポリエーテルケトンエーテルケトンケトン、芳香族ポリエーテルケトンスルホン、芳香族ポリエーテルケトンホスフィンオキシド、芳香族ポリエーテルケトンニトリルなどを含む。
【0020】
イオン性基含有芳香族炭化水素系ポリマーのイオン性基は、負電荷を有する原子団が好ましく、プロトン交換能を有するものが好ましい。このような官能基としては、スルホン酸基、スルホンイミド基、硫酸基、ホスホン酸基、リン酸基、カルボン酸基が好ましい。なお、イオン性基は、塩となっているものを含むものとする。このような塩を形成するカチオンとしては、任意の金属カチオン、NR (Rは任意の有機基)等を例として挙げることができる。金属カチオンの場合、その価数等特に限定されない。好ましい金属カチオンの具体例としては、Li、Na、K、Rh、Mg、Ca、Sr、Ti、Al、Fe、Pt、Rh、Ru、Ir、Pd等のカチオンが挙げられる。中でも、安価でかつ容易にプロトン置換可能なNa、K、Liのカチオンが好ましく使用される。中でも、高プロトン伝導度の点から少なくともスルホン酸基、スルホンイミド基または硫酸基がより好ましく、原料コストの点からスルホン酸基が最も好ましい。
【0021】
ポリマー鎖にイオン性基を導入する方法は、イオン性基を有するモノマーを用いて重合する方法と、高分子反応でイオン性基を導入する方法が挙げられる。
【0022】
イオン性基を有するモノマーを用いて重合する方法としては、繰り返し単位中にイオン性基を有したモノマーを用いればよい。かかる方法は例えば、ジャーナル オブ メンブレン サイエンス(Journal of Membrane Science),197,2002,p.231-242に記載がある。この方法はポリマーのイオン交換容量の制御が容易であり好ましい。
【0023】
高分子反応でイオン性基を導入する方法としては、例えば、ポリマープレプリンツ(Polymer Preprints, Japan),51,2002,p.750等に記載の方法によって可能である。主鎖に芳香環を有する炭化水素系ポリマーへのリン酸基導入は、例えばヒドロキシル基を有するポリマーのリン酸エステル化によって、カルボン酸基導入は、例えばアルキル基やヒドロキシアルキル基を有するポリマーを酸化することによって、硫酸基導入は、例えばヒドロキシル基を有するポリマーの硫酸エステル化によって可能である。芳香族炭化水素系ポリマーへのスルホン酸基の導入は、たとえば特開平2-16126号公報あるいは特開平2-208322号公報等に記載の方法を用いることができる。具体的には、例えば、芳香族炭化水素系ポリマーをクロロホルム等の溶媒中でクロロスルホン酸のようなスルホン化剤と反応させたり、濃硫酸や発煙硫酸中で反応させたりすることによりスルホン化することができる。スルホン化剤はポリマーをスルホン化するものであれば特に制限はなく、上記以外にも三酸化硫黄等を使用することができる。この方法により芳香族炭化水素系ポリマーをスルホン化する場合には、スルホン化の度合いはスルホン化剤の使用量、反応温度および反応時間により、制御することができる。主鎖に芳香環を有する炭化水素系ポリマーへのスルホンイミド基の導入は、例えばスルホン酸基とスルホンアミド基を反応させる方法によって可能である。
【0024】
このようにして得られるイオン性基含有芳香族炭化水素系ポリマーの分子量は、ポリスチレン換算重量平均分子量で、0.1万~500万であることが好ましく、1万~100万であることがより好ましい。0.1万未満では、成型した膜にクラックが発生するなど機械強度、物理的耐久性、耐溶剤性のいずれかが不十分な場合がある。一方、500万を超えると、溶解性が不充分となり、また溶液粘度が高く、加工性が不良になる場合がある。
【0025】
本発明に使用するイオン性基含有芳香族炭化水素系ポリマーとしては、低加湿条件でのプロトン伝導性や発電特性の点から、イオン性基を含有するセグメント(A1)とイオン性基を含有しないセグメント(A2)を有するブロックポリマーであることがより好ましい。なお、本明細書においては便宜上「イオン性基を含有しないセグメント(A2)」と記載するが、当該セグメント(A2)は電解質膜としての性能に決定的な悪影響を及ぼさない範囲でイオン性基が少量含まれていることを排除するものではない。
【0026】
イオン性基を含有するセグメント(A1)、イオン性基を含有しないセグメント(A2)の数平均分子量は、相分離構造のドメインサイズに関係し、低加湿でのプロトン伝導性と物理的耐久性のバランスから、それぞれ0.5万以上がより好ましく、さらに好ましくは1万以上、最も好ましくは1.5万以上である。また、5万以下がより好ましく、さらに好ましくは、4万以下、最も好ましくは3万以下である。
【0027】
このようなブロックポリマーとしては、イオン性基を含有するセグメント(A1)が下記一般式(S1)で、イオン性基を含有しないセグメント(A2)が下記一般式(S2)で表される構成単位を含有するものがさらに好ましい。
【0028】
【化1】
【0029】
(一般式(S1)中、Ar~Arは任意の2価のアリーレン基を表し、ArおよびArの少なくとも1つは置換基としてイオン性基を有している。ArおよびArは置換基としてイオン性基を有しても有しなくても良い。Ar~Arはイオン性基以外の基で任意に置換されていても良い。Ar~Arは構成単位ごとに同じでも異なっていてもよい。Rは、ケトン基または、ケトン基に誘導され得る保護基を表し、それぞれ同じでも異なっていても良い。*は一般式(S1)または他の構成単位との結合部位を表す。)
【0030】
【化2】
【0031】
(一般式(S2)中、Ar~Arは任意の2価のアリーレン基を表し、任意に置換されていても良いが、イオン性基を有しない。Ar~Arは構成単位ごとに同じでも異なっていてもよい。Rは、ケトン基または、ケトン基に誘導され得る保護基を表し、それぞれ同じでも異なっていても良い。*は一般式(S2)または他の構成単位との結合部位を表す。)
ここでケトン基に誘導されうる保護基とは、有機合成で一般的に用いられる保護基があげられ、後の段階で除去することを前提に、一時的に導入される置換基を表し、脱保護により元のケトン基に戻すことのできるものである。
【0032】
このような保護基としては、例えば、セオドア・ダブリュー・グリーン(Theodora W. Greene)、「プロテクティブ グループス イン オーガニック シンセシス」(Protective Groups in Organic Synthesis)、米国、ジョン ウイリー アンド サンズ(John Wiley & Sons, Inc)、1981、に詳しく記載されており、これらが好ましく使用できる。保護基は、保護反応および脱保護反応の反応性や収率、保護基含有状態の安定性、製造コスト等を考慮して適宜選択することが可能である。なかでも特に、ケトン部位をケタール部位で保護/脱保護する方法、ケトン部位をケタール部位のヘテロ原子類似体、例えばチオケタール、で保護/脱保護する方法が好ましく用いられる。
【0033】
保護基を含む構成単位として、より好ましくは下記一般式(U1)および(U2)から選ばれる少なくとも1種を含有するものが挙げられる。
【0034】
【化3】
【0035】
(式(U1)および(U2)において、Ar~Ar12は任意の2価のアリーレン基、RおよびRはHおよびアルキル基から選ばれた少なくとも1種の基、Rは任意のアルキレン基、EはOまたはSを表し、それぞれが2種類以上の基を表しても良い。式(U1)および(U2)で表される基は任意に置換されていてもよい。)
なかでも、化合物の臭いや反応性、安定性等の点で、前記一般式(U1)および(U2)において、EがOである構成単位とすることが最も好ましい。すなわち、ケトン部位をケタール部位で保護/脱保護する方法が最も好ましい。
【0036】
一般式(U1)中のRおよびRとしては、安定性の点でアルキル基であることがより好ましく、さらに好ましくは炭素数1~6のアルキル基、最も好ましく炭素数1~3のアルキル基である。また、一般式(U2)中のRとしては、安定性の点で炭素数1~7のアルキレン基であることがより好ましく、最も好ましくは炭素数1~4のアルキレン基である。Rの具体例としては、-CHCH-、-CH(CH)CH-、-CH(CH)CH(CH)-、-C(CHCH-、-C(CHCH(CH)-、-C(CHO(CH-、-CHCHCH-、-CHC(CHCH-等があげられるが、これらに限定されるものではない。
【0037】
前記一般式(U1)および(U2)で表される構成単位のなかでも、耐加水分解性などの安定性の点から少なくとも前記一般式(U2)を有するものがより好ましく用いられる。さらに、前記一般式(U2)のRとしては炭素数1~7のアルキレン基、すなわち、Cn12n1(n1は1~7の整数)で表される基であることが好ましく、安定性、合成の容易さの点から-CHCH-、-CH(CH)CH-、または-CHCHCH-から選ばれた少なくとも1種であることが最も好ましい。
【0038】
前記脱保護反応は、不均一又は均一条件下に水及び酸の存在下において行うことが可能であるが、機械強度、物理的耐久性、耐溶剤性の観点からは、膜等に成型した後で酸処理する方法がより好ましい。具体的には、成型された膜を塩酸水溶液や硫酸水溶液中に浸漬することにより脱保護することが可能であり、酸の濃度や水溶液の温度については適宜選択することができる。
【0039】
上記一般式(S1)および(S2)で表される構成単位を含有するブロックポリマーは、脱保護を経て、電解質膜としたときに、電子求引性のケトン基で全てのアリーレン基が化学的に安定化されており、なおかつ、結晶性付与による強靱化、ガラス転移温度低下による柔軟化によって物理的耐久性が高くなる。
【0040】
上記一般式(S1)および(S2)において、Ar~Arとしては、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニレン基、フルオレンジイル基などの炭化水素系アリーレン基、ピリジンジイル、キノキサリンジイル、チオフェンジイルなどのヘテロアリーレン基が挙げられ、好ましくはフェニレン基であり、最も好ましくはp-フェニレン基である。
【0041】
イオン性基を含有するセグメント(A1)中に含まれる一般式(S1)で表される構成単位の含有量は、20モル%以上がより好ましく、50モル%以上がさらに好ましく、80モル%以上が最も好ましい。また、イオン性基を含有しないセグメント(A2)中に含まれる一般式(S2)で表される構成単位の含有量としては、20モル%以上がより好ましく、50モル%以上がさらに好ましく、80モル%以上が最も好ましい。イオン性基を含有しないセグメント(A2)中に含まれる一般式(S2)の含有量が20モル%未満である場合には、脱保護を経て、電解質膜としたときに、結晶性による機械強度、寸法安定性、物理的耐久性に対する本発明の効果が不足する傾向がある。
【0042】
一般式(S1)で表される構成単位のより好ましい具体例としては、原料入手性の点で、下記一般式(P2)で表される構成単位が挙げられる。中でも、原料入手性と重合性の点から、下記式(P3)で表される構成単位がさらに好ましく、下記式(P4)で表される構成単位が最も好ましい。
【0043】
【化4】
【0044】
(式(P2)(P3)(P4)中、M~Mは、水素、金属カチオン、アンモニウムカチオンNR (Rは任意の有機基)を表し、M~Mは2種類以上の基を表しても良い。また、r1~r4は、それぞれ独立に0~2の整数、r1+r2は1~8の整数を表し、r1~r4は構成単位ごとに異なっていても良い。Rは、ケトン基または、ケトン基に誘導され得る保護基を表し、それぞれ同じでも異なっていても良い。*は式(P2)(P3)(P4)または他の構成単位との結合部位を表す。)
本発明で使用するブロックポリマーとしては、イオン性基を含有するセグメント(A1)と、イオン性基を含有しないセグメント(A2)のモル組成比(A1/A2)が0.2以上であることが好ましく、0.33以上であることがより好ましく、0.5以上であることがさらに好ましい。また、5以下であることが好ましく、3以下であることがより好ましく、2以下であることがさらに好ましい。A1/A2が、0.2未満あるいは5を越える場合には、低加湿条件下でのプロトン伝導性が不足したり、耐熱水性や物理的耐久性が不足したりする傾向がある。
【0045】
イオン性基を含有するセグメント(A1)のイオン交換容量は、低加湿条件下でのプロトン伝導性の点から、好ましくは2.5meq/g以上、より好ましくは、3meq/g以上、さらに好ましくは3.5meq/g以上である。また、耐熱水性や物理的耐久性の点から、6.5meq/g以下がより好ましく、5meq/g以下がより好ましく、4.5meq/g以下がさらに好ましい。
【0046】
イオン性基を含有しないセグメント(A2)のイオン交換容量は、耐熱水性、機械強度、寸法安定性、物理的耐久性の点から、好ましくは1meq/g以下、より好ましくは0.5meq/g、さらに好ましくは0.1meq/g以下である。
【0047】
ブロックポリマーがスルホン酸基を有する場合、そのイオン交換容量は、プロトン伝導性と耐水性のバランスの点から、0.1~5meq/gが好ましく、より好ましくは1.5meq/g以上、さらに好ましくは2meq/g以上である。また、3.5meq/g以下がより好ましく、さらに好ましくは3meq/g以下である。イオン交換容量が0.1meq/gより小さい場合には、プロトン伝導性が不足する場合があり、5meq/gより大きい場合には、耐水性が不足する場合がある。
【0048】
なお、本明細書中において、イオン交換容量は中和滴定法により求めた値である。中和滴定法は、以下のとおりに行う。なお、測定は3回以上行ってその平均値を取るものとする。
(1)プロトン置換し、純水で十分に洗浄した電解質膜の膜表面の水分を拭き取った後、100℃にて12時間以上真空乾燥し、乾燥重量を求める。
(2)電解質に5wt%硫酸ナトリウム水溶液を50mL加え、12時間静置してイオン交換する。
(3)0.01mol/L水酸化ナトリウム水溶液を用いて、生じた硫酸を滴定する。指示薬として市販の滴定用フェノールフタレイン溶液0.1w/v% を加え、薄い赤紫色になった点を終点とする。
(4)下記式によりイオン交換容量を求める。
【0049】
イオン交換容量(meq/g)=
〔水酸化ナトリウム水溶液の濃度(mmol/ml)×滴下量(ml)〕/試料の乾燥重量(g)
イオン性基を含有するセグメント(A1)およびイオン性基を含有しないセグメント(A2)を構成するオリゴマーの合成方法は、実質的に十分な分子量が得られる方法であれば特に限定されるものではないが、例えば芳香族活性ジハライド化合物と2価フェノール化合物の芳香族求核置換反応、またはハロゲン化芳香族フェノール化合物の芳香族求核置換反応を利用して合成することができる。
【0050】
イオン性基を含有するセグメント(A1)を構成するオリゴマーの合成に用いる芳香族活性ジハライド化合物として、芳香族活性ジハライド化合物にイオン性基を導入した化合物をモノマーとして用いることは、化学的安定性、製造コスト、イオン性基の量を精密制御可能な点から好ましい。イオン性基としてスルホン酸基を有するモノマーの好適な具体例としては、3,3’-ジスルホネート-4,4’-ジクロロジフェニルスルホン、3,3’-ジスルホネート-4,4’-ジフルオロジフェニルスルホン、3,3’-ジスルホネート-4,4’-ジクロロジフェニルケトン、3,3’-ジスルホネート-4,4’-ジフルオロジフェニルケトン、3,3’-ジスルホネート-4,4’-ジクロロジフェニルフェニルホスフィンオキシド、3,3’-ジスルホネート-4,4’-ジフルオロジフェニルフェニルホスフィンオキシド、等を挙げることができる。なかでも化学的安定性と物理的耐久性の点から、3,3’-ジスルホネート-4,4’-ジクロロジフェニルケトン、3,3’-ジスルホネート-4,4’-ジフルオロジフェニルケトンがより好ましく、重合活性の点から3,3’-ジスルホネート-4,4’-ジフルオロジフェニルケトンが最も好ましい。
【0051】
また、イオン性基を含有するセグメント(A1)を構成するオリゴマーおよびイオン性基を含有しないセグメント(A2)を構成するオリゴマーの合成に用いるイオン性基を有しない芳香族活性ジハライド化合物としては、4,4’-ジクロロジフェニルスルホン、4,4’-ジフルオロジフェニルスルホン、4,4’-ジクロロジフェニルケトン、4,4’-ジフルオロジフェニルケトン、4,4’-ジクロロジフェニルフェニルホスフィンオキシド、4,4’-ジフルオロジフェニルフェニルホスフィンオキシド、2,6-ジクロロベンゾニトリル、2,6-ジフルオロベンゾニトリル、等を挙げることができる。中でも4,4’-ジクロロジフェニルケトン、4,4’-ジフルオロジフェニルケトンが結晶性付与、機械強度や物理的耐久性、耐熱水性の点からより好ましく、重合活性の点から4,4’-ジフルオロジフェニルケトンが最も好ましい。これら芳香族活性ジハライド化合物は、単独で使用することができるが、複数の芳香族活性ジハライド化合物を併用することも可能である。
【0052】
また、イオン性基を含有するセグメント(A1)を構成するオリゴマーおよびイオン性基を含有しないセグメント(A2)を構成するオリゴマーの合成に用いるイオン性基を有しないモノマーとして、ハロゲン化芳香族ヒドロキシ化合物を挙げることができる。当該化合物は、前述の芳香族活性ジハライド化合物と共重合することで、前記セグメントを合成できる。ハロゲン化芳香族ヒドロキシ化合物は特に制限されることはないが、4-ヒドロキシ-4’-クロロベンゾフェノン、4-ヒドロキシ-4’-フルオロベンゾフェノン、4-ヒドロキシ-4’-クロロジフェニルスルホン、4-ヒドロキシ-4’-フルオロジフェニルスルホン、4-(4’-ヒドロキシビフェニル)(4-クロロフェニル)スルホン、4-(4’-ヒドロキシビフェニル)(4-フルオロフェニル)スルホン、4-(4’-ヒドロキシビフェニル)(4-クロロフェニル)ケトン、4-(4’-ヒドロキシビフェニル)(4-フルオロフェニル)ケトン、等を例として挙げることができる。これらは、単独で使用することができるほか、2種以上の混合物として使用することもできる。さらに、活性化ジハロゲン化芳香族化合物と芳香族ジヒドロキシ化合物の反応においてこれらのハロゲン化芳香族ヒドロキシ化合物を共に反応させて芳香族ポリエーテル系化合物を合成しても良い。
【0053】
ブロックポリマーの合成方法は、実質的に十分な分子量が得られる方法であれば特に限定されるものではないが、例えば、前記イオン性基を含有するセグメントを構成するオリゴマーとイオン性基を含有しないセグメントを構成するオリゴマーの芳香族求核置換反応を利用して合成することができる。
【0054】
ブロックポリマーのセグメントを構成するオリゴマーを得るためや、当該オリゴマーからブロックポリマーを得るために行う芳香族求核置換反応は、前記モノマー混合物やセグメント混合物を塩基性化合物の存在下で反応させる。重合は、0~350℃の温度範囲で行うことができるが、50~250℃の温度であることが好ましい。0℃より低い場合には、十分に反応が進まない傾向にあり、350℃より高い場合には、ポリマーの分解も起こり始める傾向がある。
【0055】
重合反応は、無溶媒下で行うこともできるが、溶媒中で行うことが好ましい。使用できる溶媒としては、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルスルホキシド、スルホラン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、ヘキサメチルホスホントリアミド等の非プロトン性極性溶媒などを挙げることができるが、これらに限定されることはなく、芳香族求核置換反応において安定な溶媒として使用できるものであればよい。これらの有機溶媒は、単独でも2種以上の混合物として使用されても良い。
【0056】
芳香族求核置換反応に用いる塩基性化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等があげられるが、芳香族ジオール類を活性なフェノキシド構造に変換しうるものであれば、これらに限定されず使用することができる。また、フェノキシドの求核性を高めるために、18-クラウンー6などのクラウンエーテルを添加することも好適である。これらクラウンエーテル類は、スルホン酸基のナトリウムイオンやカリウムイオンに配位して有機溶媒に対する溶解性が向上する場合があり、好ましく使用できる。
【0057】
芳香族求核置換反応においては、副生物として水が生成する場合がある。この際は、重合溶媒とは関係なく、トルエンなどを反応系に共存させて共沸物として水を系外に除去することもできる。水を系外に除去する方法としては、モレキュラーシーブなどの吸水剤を使用することもできる。
【0058】
反応水又は反応中に導入された水を除去するのに用いられる共沸剤は、一般に、重合を実質上妨害せず、水と共蒸留し且つ約25℃~約250℃の間で沸騰する任意の不活性化合物である。普通の共沸剤には、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロルベンゼン、塩化メチレン、ジクロルベンゼン、トリクロルベンゼン、シクロヘキサンなどが含まれる。もちろん、溶媒の沸点よりも低い沸点を有する共沸剤を選定することが有益である。共沸剤が普通用いられるが、高い反応温度、例えば200℃以上の温度が用いられるとき、特に反応混合物に不活性ガスを連続的に散布させるときにはそれは常に必要ではない。一般には、反応は不活性雰囲気下に酸素が存在しない状態で実施するのが望ましい。
【0059】
芳香族求核置換反応を溶媒中で行う場合、得られるポリマー濃度が5~50重量%となるようにモノマーを仕込むことが好ましい。得られるポリマー濃度が5重量%未満である場合は重合度が上がりにくい傾向がある。一方、50重量%よりも多い場合には反応系の粘性が高くなりすぎ、反応物の後処理が困難になる傾向がある。
【0060】
重合反応終了後は、反応溶液より蒸発によって溶媒を除去し、必要に応じて残留物を洗浄することによって、所望のポリマーが得られる。また、反応溶液を、ポリマーの溶解度が低く、副生する無機塩の溶解度が高い溶媒中に加えることによって、無機塩を除去、ポリマーを固体として沈殿させ、沈殿物の濾取によりポリマーを得ることもできる。回収されたポリマーは場合により水やアルコール又は他の溶媒で洗浄され、乾燥される。所望の分子量が得られたならば、ハライドあるいはフェノキシド末端基は場合によっては安定な末端基を形成させるフェノキシドまたはハライド末端封止剤を導入することにより反応させることができる。
【0061】
イオン性基含有芳香族炭化水素系ポリマーとして用いるブロックポリマーとしては、TEMによる観察を5万倍で行った場合に相分離構造が観察され、画像処理により計測した平均層間距離または平均粒子間距離が5nm以上、500nm以下であるものが好ましい。中でも、平均層間距離または平均粒子間距離が10nm以上、50nm以下であるものがより好ましく、最も好ましくは15nm以上、30nm以下であるものがさらに好ましい。透過型電子顕微鏡によって相分離構造が観察されない、または、平均層間距離または平均粒子間距離が5nm未満である場合には、イオンチャンネルの連続性が不足し、伝導度が不足する場合がある。また、層間距離が500nmを越える場合には、機械強度や寸法安定性が不良となる場合がある。
【0062】
イオン性基含有芳香族炭化水素系ポリマーとして用いるブロックポリマーは、機械強度とプロトン伝導性の点で、相分離構造を有しながら、結晶性を有することが好ましい。すなわち、示差走査熱量分析法(DSC)あるいは広角X線回折によって結晶性が認められることが好ましく、具体的には示差走査熱量分析法によって測定される結晶化熱量が0.1J/g以上、または、広角X線回折によって測定される結晶化度が0.5%以上であることが好ましい。なお、「結晶性を有する」とはポリマーが昇温すると結晶化されうる、結晶化可能な性質を有する、あるいは既に結晶化していることを意味する。また、非晶性ポリマーとは、結晶性ポリマーではない、実質的に結晶化が進行しないポリマーを意味する。従って、結晶性ポリマーであっても、結晶化が十分に進行していない場合には、ポリマーの状態としては非晶状態である場合がある。当該結晶性ポリマーからなる電解質膜により、炭化水素系ポリマーの中でも、より優れた水素圧縮の電力効率、水電解効率や耐久性を有する電気化学式水素ポンプおよび水電解装置を実現できる。
【0063】
本発明の電解質膜における、低加湿下でのプロトン伝導度、すなわち80℃、相対湿度25%雰囲気下での単位面積当たりのプロトン伝導度(以下、単に「プロトン電導度」という)は、0.12S/cm以上である。プロトン電導度は、加湿機の小型化や水素圧縮効率の点で、より好ましくは0.2mS/cm以上であり、さらに好ましくは0.3mS/cm以上である。より高いプロトン伝導度を有することで、同じ電圧でより高い電流密度を得ることができる、すなわち、同じエネルギーでより多くの水素を圧縮できるようになるため、好ましい。
【0064】
本発明の電解質膜における、加湿下でのプロトン伝導度、すなわち80℃、相対湿度90%雰囲気下でのプロトン電導度は、8S/cm以上である。プロトン電導度は、水電解効率の点で、より好ましくは10S/cm以上であり、さらに好ましくは20S/cm以上である。より高いプロトン伝導度を有することで、同じ電圧でより高い電流密度を得ることができる、すなわち、同じエネルギーでより多くの水素を圧縮または生成できるようになるため、好ましい。
【0065】
また、本発明の電解質膜における、80℃、相対湿度90%雰囲気下での水素透過度(以下、単に「水素透過度」という)は3.0×10-7cm・(cm・s・cmHg)-1以下である。水素透過度が3.0×10-7cm・(cm・s・cmHg)-1より大きい場合、電気化学式水素ポンプでは圧縮水素の逆透過ロスが大きくなり、水電解装置では生成した水素のアノードへの透過が増え、その結果、水素圧縮および水電解効率が低下する。水素透過度は、水素圧縮および水電解効率の点で2.5×10-7cm・(cm・s・cmHg)-1以下であることがより好ましく、2.0×10-7cm・(cm・s・cmHg)-1以下であることがさらに好ましい。ここで、本発明における水素透過度とは、単位面積当たりの膜の水素透過量を表す。
【0066】
また、膜の耐圧変形性(圧力に対する膜の耐変形特性)、耐クリープ性の点から、25℃、相対湿度60%の雰囲気下での本発明の幅10mmの電解質膜の引張破断強度(以下、単に「引張破断強度」という)は100000N以上である必要がある。引張破断強度は好ましくは160000N以上、より好ましくは、200000N以上、さらに好ましくは240000N以上である。引張破断強度は大きいほどより好ましいが、大きいほど触媒層との界面抵抗が大きくなる傾向があるので、現実的な上限は2000000Nである。引張破断強度が100000N未満である場合は、耐圧変形性、耐クリープ性不足による高圧下での破膜等が発生しやすくなる場合がある。
【0067】
また、本発明の電解質膜の引張破断伸度は150%以上であり、より好ましくは180%以上、最も好ましくは200%以上である。引張破断伸度は、大きいほど好ましいが、引張破断強度との両立の点で、現実的な上限は1000%である。引張破断伸度が、150%未満である場合には、靭性が不足することにより、長時間水素ポンプ運転を続けたり、水素ポンプの起動停止を繰り返すような膨潤乾燥を繰り返す条件で使用したりすると、膜が破れる場合がある。かかる電解質膜のプロトン伝導度、水素透過度、引張破断強度および引張破断伸度は、後述する実施例に記載の方法に従って求められる。
【0068】
本発明の電解質膜は、製造効率、コストや製膜面積の点で、基材上に連続的に成形されてなる高分子電解質膜シートとして製造することが好ましく、この高分子電解質膜シートがロール状に巻回されてなる高分子電解質膜ロールとして製造し、供給することがさらに好ましい。水素ステーションなど、より大型の圧縮水素需要に対しては、電気化学式水素ポンプの水素圧縮量や水電解装置の水素生成量を増加する必要があり、そのために、用いる電解質膜の大面積化やセル数の増加が想定される。これら、大面積かつ大量な電解質膜の要求に対して、高分子電解質膜ロールは、保管性、輸送性、製造効率、コストの点でシート状電解質膜に対し優位性がある。
【0069】
本発明の電気化学式水素ポンプおよび水電解装置用高分子電解質膜は、カール性が80mm以下であることが好ましく、50mm以下であることがより好ましい。カール性が80mmより大きい場合、連続的に膜を成形する装置において、膜搬送時に膜が搬送路部材に接触し、膜面に傷が生じたり、膜厚が不均一となったりすることがある。かかるカール性は後述する実施例に記載の方法に従って求められる。
【0070】
本発明の電解質膜の膜厚は、20μm以上200μm以下が好適である。水素バリア性や膜強度の点で、膜厚は25μm以上がより好ましく、30μm以上がさらに好ましい。また、プロトン伝導度の点で、150μm以下がより好ましく、60μm以下がさらに好ましい。膜厚が20μm未満の場合、水素バリア性や膜の耐圧強度が低下する場合がある。一方、膜厚が200μmより厚い場合、プロトン伝導度低下に伴い、水素圧縮および水電解効率が低下する場合がある。なお、電解質膜の膜厚は、溶液濃度あるいは基板上への塗布厚等により制御することができる。
【0071】
従来のパーフルオロ系ポリマーからなる膜は、前記公知文献にあるように、その低水素バリア性や低引張破断強度から、150μmより厚膜でないと、水素バリア性や膜の耐圧強度を保持できず、電気化学式水素ポンプおよび水電解装置に用いることが難しかった。これに対し、イオン性基含有芳香族炭化水素系ポリマーからなる電解質膜は、高引張破断強度と低水素透過性を両立することができる。従って、20μm~200μmといった薄膜でも電気化学式水素ポンプまたは水電解装置に適用することができ、薄膜化に伴う材料コスト低減や水素圧縮および水電解効率向上といった、従来技術に対する新たな優位な効果を奏する。
【0072】
本発明の電解質膜の膜厚は、MD、TD方向のばらつきがそれぞれ±5%以下であることが好ましく、±3%以下であることがより好ましい。膜厚ばらつきが±5%より大きい場合、膜厚が薄い部分に電流が集中するため、電解質膜に局所的なストレスがかかり、局所ピンホールなどの問題が生じる可能性がある。かかる膜厚ばらつきは、後述する実施例に記載の方法に従って求められる。
【0073】
<高分子電解質膜の製造方法>
本発明の高分子電解質膜は、一例として、基材上に高分子電解質膜前駆体溶液を流延塗布して高分子電解質膜を成形する工程を有する製造方法により製造することができる。
【0074】
本発明者らは、電気化学式水素ポンプ用炭化水素系電解質膜および水電解装置用炭化水素系電解質膜の製造方法について、そのカール性や膜厚均一性に課題として着目し、これら課題を、製膜基材厚み、前駆体塗液粘度の最適化や乾燥条件等により解決し、均一な厚膜を連続ロールとして製造できることを見出した。
【0075】
当該製造方法において製膜に用いる基材の厚みT1は、電解質膜の厚みT2に応じて適宜選択できるものであるが、カール性・搬送性の点で、下記(式1)を満たす厚みの基材を用いることが好ましい。
7≦T1/T2≦15 (式1)
T1/T2が7未満の場合、電解質膜のカールにより、特にロール搬送時に膜面に傷がついたり、膜厚が不均一になったりする場合があり、15より大きい場合、ハンドリングが悪くなったり、コストが高くなったりする場合がある。コストの点からは、T1/T2は12以下であることがより好ましく、10以下であることがさらに好ましい。
【0076】
基材厚みT1はコストとハンドリングの点で、600μm以下が好ましく、550μm以下がより好ましく、500μm以下がさらに好ましく、400μm以下が最も好ましい。基材厚みT1については、式1を満たす範囲であれば、特に下限はないが、現実的には、200μm以上である。
【0077】
製膜に用いる基材としては通常公知の材料が使用できるが、ステンレスなどの金属からなるエンドレスベルトやドラム、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリスルホンなどのポリマーからなるフィルム、硝子、剥離紙などが挙げられる。金属などは表面に鏡面処理を施したり、ポリマーフィルムなどは塗工面にコロナ処理を施したり、剥離処理をしたり、ロール状に連続塗工する場合は塗工面の裏に剥離処理を施し、巻き取った後に電解質膜と塗工基材の裏側が接着したりするのを防止することもできる。
【0078】
製膜に用いる溶媒としては、電解質膜前駆体を溶解し、その後に除去し得るものであればよく、例えば、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルスルホキシド、スルホラン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、ヘキサメチルホスホントリアミド等の非プロトン性極性溶媒、γ-ブチロラクトン、酢酸ブチルなどのエステル系溶媒、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートなどのカーボネート系溶媒、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等のアルキレングリコールモノアルキルエーテル、あるいはイソプロパノールなどのアルコール系溶媒、水およびこれらの混合物が好適に用いられるが、非プロトン性極性溶媒が最も溶解性が高く好ましい。また、イオン性基含有成分の溶解性を高めるために、18-クラウンー6などのクラウンエーテルを添加することも好適である。
【0079】
電解質膜前駆体溶液の粘度は、膜厚の均一性と製膜性の点で、75poise以上1000poise以下であることが好ましい。溶液粘度が、1000poiseより大きい場合、高粘度のため塗工が困難になる傾向がある。一方溶液粘度が75poise未満の場合、溶液を基材に流延塗布した後に塗液流れが生じて、膜厚が不均一となったり、基材が塗液をはじくことにより膜品位が低下したりするおそれがある。溶液粘度は、後述する実施例に記載の方法に従って求められる。膜品位の点で、溶液粘度は90poise以上であることがより好ましく、100poise以上であることがさらに好ましい。また、同様に500poise以下であることがより好ましく、250poise以下であることが最も好ましい。
【0080】
必要な固形分濃度、粘度に調製した電解質膜前駆体溶液を常圧の濾過もしくは加圧濾過などに供し、高分子電解質溶液中に存在する異物を除去することは、強靱な膜を得るために好ましい方法である。ここで用いる濾材は特に限定されるものではないが、ガラスフィルターや金属性フィルターが好適である。該濾過で、ポリマー溶液が通過する最小のフィルターの孔径は、1μm以下であることが好ましい。
【0081】
電解質膜前駆体溶液の基材上への流延塗工方法としては、ナイフコート、ダイレクトロールコート、グラビアコート、スプレーコート、刷毛塗り、ディップコート、ダイコート、バキュームダイコート、カーテンコート、フローコート、スピンコート、リバースコート、スクリーン印刷などの手法が適用できる。電解質膜を成形するにあたっては、ロール状の基材を繰り出し、前記流涎塗工方法を適用して、進行方向およびその垂直方向である幅方向に均一な膜厚で連続的に塗工し、再びロール状に巻き取る方法が適している。このような方法においては、電解質膜前駆体溶液の粘度、膜厚の観点からダイコートが好ましい。また、カール性や乾燥効率の点で、これら流延塗工方法を用いた電解質膜前駆体溶液の間欠塗工も用いられる。間欠塗工を用いることで乾燥炉中の溶媒蒸気濃度を低減することができ、それにより、電解質膜前駆体溶液の乾燥効率が向上したり、またロール搬送した際の電解質膜のカールを抑制したりすることができる。間欠部分と塗工部分の長さの割合は、電解質膜としたときの物性、乾燥条件などにより、適宜選択できる。
【0082】
次いで、流延塗布して得られた膜は、イオン性基の少なくとも一部が金属塩の状態で熱処理することが好ましい。用いる高分子電解質材料が重合時に金属塩の状態で重合するものであれば、そのまま製膜、熱処理することが好ましい。金属塩の金属はイオン性基と塩を形成しうるものであればよいが、価格および環境負荷の点からはLi、Na、K、Rb、Cs、Mg、Ca、Sr、Ba、Ti、V、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Zr、Mo、Wなどが好ましく、これらの中でもLi、Na、K、Ca、Sr、Baがより好ましく、Li、Na、Kがさらに好ましい。この熱処理の温度は好ましくは80~350℃、さらに好ましくは100~200℃、特に好ましくは120~150℃である。熱処理時間は、好ましくは10秒~12時間、さらに好ましくは30秒~6時間、特に好ましくは1分~1時間である。熱処理温度が低すぎると、機械強度や物理的耐久性が不足する場合がある。一方、高すぎると膜材料の化学的分解が進行する場合がある。また熱処理時間が10秒未満であると熱処理による機械強度や物理的耐久性向上効果が不足する場合がある。一方、12時間を超えると電解質膜の劣化を生じやすくなる。
【0083】
また、本発明の製造方法においては、電解質膜前駆体溶液を流延塗布した基材から溶媒を蒸発する工程を有することが好ましい。そして、蒸発工程における溶媒蒸発後の高分子電解質膜中の残存溶媒量が10質量%以下であることが好ましく、8質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることがさらに好ましい。残存溶媒量が10質量%より多く存在する場合、電解質膜保管中に表面に溶媒がブリードアウトし、膜品位が低下したり、膜物性、特に水素バリア性や機械強度が低下したりすることがある。残存溶媒量は、塗布液濃度、乾燥炉長、乾燥炉温度、熱風量、排気、搬送速度などにより適宜調節できる。かかる残存溶媒量は、後述する実施例に記載の方法に従って求められる。
【0084】
流延塗布した膜を熱処理することにより得られた高分子電解質膜は、必要に応じて酸性水溶液に浸漬することによりプロトン置換することができる。この方法で電解質膜を成形することによって、高分子電解質膜はプロトン伝導度と物理的耐久性をより良好なバランスで両立することが可能となる。
【0085】
<触媒層付き電解質膜、膜電極複合体および電気化学式水素ポンプ、水電解装置>
電気化学式水素ポンプ、水電解装置に使用されるセルは、本発明の電解質膜の両面に触媒層、電極基材及びセパレータが順次積層された構造である。このうち、電解質膜の両面に触媒層を積層させたもの(即ち、触媒層/電解質膜/触媒層の層構成のもの)は触媒層付電解質膜(CCM)と称され、電解質膜の両面に触媒層及びガス拡散基材を順次積層させたもの(即ち、ガス拡散基材/触媒層/電解質膜/触媒層/ガス拡散基材の層構成のもの)は、膜電極複合体(MEA)と称されている。
【0086】
CCMの製造方法としては、電解質膜表面に、触媒層を形成するための触媒層ペースト組成物を塗布及び乾燥させるという塗布方式や触媒層のみを基材上に作製し、この触媒層を転写することにより、触媒層を電解質膜上に積層させる方法(転写法)が一般的に行われる。
【0087】
CCMにおける電解質膜と触媒層の間の剥離強度は、電解質膜と触媒層の界面抵抗低減、長期運転における耐久性維持の観点から、5N/cm以上であることが好ましい。剥離強度は、より好ましくは7N/cm以上であり、10N/cm以上がさらに好ましい。剥離強度は、後述する実施例に記載の方法に従って求められる。
【0088】
なお、CCMが基材上に連続的に形成され、ロール状に巻回されてなる触媒層付電解質膜ロールも、本発明の好ましい態様である。
【0089】
プレスにより、MEAを作製する場合は、公知の方法(例えば、電気化学,1985, 53, p.269.記載の化学メッキ法、電気化学協会編(J. Electrochem. Soc.)、エレクトロケミカル サイエンス アンド テクノロジー (Electrochemical Science and Technology),1988, 135, 9, p.2209.記載のガス拡散電極の熱プレス接合法など)を適用することが可能である。プレス時の温度や圧力は、電解質膜の厚さ、水分率、触媒層や電極基材により適宜選択すればよい。また、本発明では電解質膜が乾燥した状態または吸水した状態でもプレスによる複合化が可能である。具体的なプレス方法としては圧力やクリアランスを規定したロールプレスや、圧力を規定した平板プレスなどが挙げられ、工業的生産性やイオン性基を有する高分子材料の熱分解抑制などの観点から0℃~250℃の範囲で行うことが好ましい。加圧は電解質膜や電極保護の観点から、電解質膜と触媒層の密着性が維持される範囲でできる限り弱い方が好ましく、平板プレスの場合、10MPa以下の圧力が好ましく、プレス工程による複合化を実施せずに電極と電解質膜を重ね合わせ電気化学式水素ポンプおよび水電解装置用にセル化することもアノード、カソード電極の短絡防止の観点から好ましい選択肢の一つである。この方法の場合、電気化学式水素ポンプおよび水電解装置として運転を繰り返した場合、短絡箇所が原因と推測される電解質膜の劣化が抑制される傾向があり、電気化学式水素ポンプや水電解装置としての耐久性が良好となる。また、プレス条件の制御においては、加圧後に温度を上昇させ、所定の圧力、温度に保持したのち、圧力を保持したまま温度を降下させ、その後圧力を開放することが、皺や剥離のない均一な触媒層付電解質膜が得られる点において好ましい。加圧しながら温度を上昇させたり、温度を降下させる前に圧力を開放したりすると、電解質膜と触媒層の界面が固定されていない状態で3次元の熱収縮が起こり皺や密着不良による剥離が発生する場合がある。
【実施例
【0090】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、各物性の測定条件は次の通りである。
【0091】
(1)イオン交換容量(IEC)
以下の(i)~(iv)に記載の中和滴定法により測定した。測定は3回行って、その平均値を取った。
(i)プロトン置換し、純水で十分に洗浄した電解質膜の膜表面の水分を拭き取った後、100℃にて12時間以上真空乾燥し、乾燥重量を求めた。
(ii)電解質に5重量%硫酸ナトリウム水溶液を50mL加え、12時間静置してイオン交換した。
(iii)0.01mol/L水酸化ナトリウム水溶液を用いて、生じた硫酸を滴定した。指示薬として市販の滴定用フェノールフタレイン溶液0.1w/v%を加え、薄い赤紫色になった点を終点とした。
(iv)イオン交換容量は下記の式により求めた。
【0092】
イオン交換容量(meq/g)=
〔水酸化ナトリウム水溶液の濃度(mmol/mL)×滴下量(mL)〕/試料の乾燥重量(g)〕
(2)プロトン伝導度
膜状の試料を25℃の純水に24時間浸漬した後、80℃、相対湿度25~95%の恒温恒湿槽中にそれぞれのステップで30分保持し、定電位交流インピーダンス法でプロトン伝導度を測定した。
【0093】
測定装置としては、Solartron製電気化学測定システム(Solartron 1287 Electrochemical InterfaceおよびSolartron 1255B Frequency Response Analyzer)を使用し、2端子法で定電位インピーダンス測定を行い、プロトン伝導度を求めた。交流振幅は、50mVとした。サンプルは幅10mm、長さ50mmの膜を用いた。測定治具はフェノール樹脂で作製し、測定部分は開放させた。電極として、白金板(厚さ100μm、2枚)を使用した。電極は電極間距離10mm、サンプル膜の表側と裏側に、互いに平行にかつサンプル膜の長手方向に対して直交するように配置した。
【0094】
(3)数平均分子量、重量平均分子量
ポリマーの数平均分子量、重量平均分子量をGPCにより測定した。紫外検出器と示差屈折計の一体型装置として東ソー社製HLC-8022GPCを、またGPCカラムとして東ソー社製TSK gel SuperHM-H(内径6.0mm、長さ15cm)2本を用い、N-メチル-2-ピロリドン溶媒(臭化リチウムを10mmol/L含有するN-メチル-2-ピロリドン溶媒)にて、サンプル濃度0.1重量%、流量0.2mL/min、温度40℃で測定し、標準ポリスチレン換算により数平均分子量、重量平均分子量を求めた。
【0095】
(4)膜厚、膜厚ばらつき
ミツトヨ社製グラナイトコンパレータスタンドBSG-20にセットしたミツトヨ社製ID-C112型を用いて測定した。
【0096】
膜厚ばらつきは、たとえば、電解質膜がシート状である場合、四隅、等分した後の辺長さが3cm未満となるように各辺をn等分した点、中央部をそれぞれ測定し、それらの平均値を求める。その平均値を電解質膜の膜厚と定義する。平均値と各膜厚測定値との差分をそれぞれ求め、最大値および最小値を決める。最大値と最小値をそれぞれ平均値で割り返して、100を掛けた値を膜厚ばらつきとする。電解質膜がロール状である場合、TD方向は、両端部およびTD辺を等分した後の辺長さが3cm未満となるようにn等分したそれぞれの点を測定し、上記と同様に算出する。MD方向は、電解質膜の始めと終わり、MDロール長さを等分した後の各長さが、1m未満となるようにn等分したそれぞれの点を測定し、上記と同様に算出する。
【0097】
(5)純度の測定方法
下記条件のガスクロマトグラフィー(GC)により定量分析した。
カラム:DB-5(J&W社製) L=30m Φ=0.53mm D=1.50μm
キャリヤー:ヘリウム(線速度=35.0cm/sec)
分析条件
Inj.temp.; 300℃
Detct.temp.; 320℃
Oven; 50℃×1min
Rate; 10℃/min
Final; 300℃×15min
SP ratio; 50:1
(6)核磁気共鳴スペクトル(NMR)
下記の測定条件で、H-NMRの測定を行い、構造確認、およびイオン性基を含有するセグメント(A1)とイオン性基を含有しないセグメント(A2)のモル組成比の定量を行った。該モル組成比は、8.2ppm(ジスルホネート-4,4’-ジフルオロベンゾフェノン由来)と6.5~8.0ppm(ジスルホネート-4,4’-ジフルオロベンゾフェノンを除く全芳香族プロトン由来)に認められるピークの積分値から算出した。
【0098】
装置 :日本電子社製EX-270
共鳴周波数 :270MHz(H-NMR)
測定温度 :室温
溶解溶媒 :DMSO-d6
内部基準物質:TMS(0ppm)
積算回数 :16回
(7)引張強伸度測定
検体となる高分子電解質膜を25℃、60%RHに24時間放置した後、装置にセットし、以下の条件にて引張強伸度測定を行った。引張強伸度は、試験回数5回の平均値で算出した。
【0099】
測定装置: SV-201型引張圧縮試験機(今田製作所製)
荷重:50N
引張り速度:10mm/min
試験片:幅5mm×長さ50mm
サンプル間距離:20mm
試験温度:25℃、60%RH
試験数:n=5
(8)水素透過度測定
検体となる高分子電解質膜を境にして、片方には、水素ガスを供給し、もう片方を真空排気することで、圧力差を与え、水素ガスを透過させた。水素ガスが定常状態になった後に真空排気を止め、そのときより時間tの間に電解質膜を透過した水素ガスを計量管に貯えた。貯えたガスを熱伝導型検出器により、定量し、水素ガスに関する透過度Pを下式より求めた。
【0100】
Q=P×L×(p-p)/L×A×t
ここで、Qは水素ガス透過量(cm)、Pは水素ガス透過度、pは水素ガスの高圧側圧力、pは水素ガスの低圧側圧力=0、Lは電解質膜の厚み(cm)、Aは電解質膜における水素ガスの透過面積(cm)、tは透過ガスを貯蔵する時間(透過時間)(s)を表す。
【0101】
測定条件は以下のとおり。
【0102】
装置:GTRテック(株)製差圧式ガス透過率測定システム
測定温度:80℃
湿度:90%
試験ガス:乾燥水素と水蒸気の混合ガス
水素ガス分圧:44cmHg
ガス透過面積:15.2cm
測定n数:2
(9)カール性
電解質膜を基材つきのまま、20cm角に切り出して水平面に置き、温度23℃±5℃、湿度50%±5%の調温調湿雰囲気下に24時間静置後、カールにより反り上がった電解質膜端部と水平面との距離=カール性を計測する。
【0103】
(10)触媒層付電解質膜(CCM)の作製
田中貴金属工業株式会社製白金触媒TEC10E50Eとデュポン(DuPont)社製ナフィオン(登録商標)”(”Nafion(登録商標)”)を2:1の重量比となるように調整した触媒インクを市販のテフロン(登録商標)フィルムに白金量が0.3mg/cmとなるように塗布し、触媒層転写フィルムA100を作製した。この触媒層転写フィルムを5cm角にカットしたものを1対準備し、評価する高分子電解質膜を挟むように対向して重ね合わせ、加圧した状態から昇温させて、150℃、5MPaで3分間加熱プレスを行い、加圧した状態で40℃以下まで降温させてから圧力を開放し、電気化学式水素ポンプ用触媒層付電解質膜を得た。
【0104】
また、ユミコア社製イリジウム酸化物触媒とデュポン(DuPont)社製ナフィオン(登録商標)”(”Nafion(登録商標)”)を2:1の重量比となるように調整した触媒インクを市販のテフロンフィルムにイリジウム量が2.5mg/cmとなるように塗布し、触媒層転写フィルムA200を作製した。この触媒層転写フィルムと前記A100をそれぞれ5cm角にカットしたものを1対準備し、評価する高分子電解質膜を挟むように対向して重ね合わせ、加圧した状態から昇温させて、150℃、5MPaで3分間加熱プレスを行い、加圧した状態で40℃以下まで降温させてから圧力を開放し、A200をアノード、A100をカソードとする水電解装置用触媒層付電解質膜を得た。
【0105】
(11)膜電極接合体(MEA)の作製
市販のSGL社製ガス拡散電極24BCHを5cm角にカットしたものを1対準備し、前電気化学式水素ポンプ用触媒層付電解質膜を挟むように対向して重ね合わせ、電気化学式水素ポンプ用膜電極接合体を得た。
【0106】
また、市販の多孔質チタン焼結体プレート2枚で前記水電解装置用触媒層付電解質膜を挟み、水電解装置用膜電極接合体を得た。
【0107】
(12)剥離強度測定
前記触媒層転写フィルムA100と高分子電解質膜をそれぞれ20cm角にカットしたものを対向して重ね合わせ、加圧した状態から昇温させて、150℃、5MPaで3分間加熱プレスを行い、加圧した状態で40℃以下まで降温させてから圧力を開放し、テフロン(登録商標)フィルムを剥がした。そのテフロンフィルムを剥がした面に5cm×15cmの別のテフロンシートと20cm角にカットした電解質膜を順に20cmの辺が端部にそろうように重ね合わせ、再度加圧した状態から昇温させて、150℃、5MPaで3分間加熱プレスを行い、加圧した状態で40℃以下まで降温させてから圧力を開放し、剥離強度測定用触媒層付電解質膜を得た。さらに前記触媒層転写フィルムA200についても、同様にして剥離強度測定用触媒層付電解質膜を得た。
【0108】
間に挟んだテフロンフィルムを除去し、テフロンフィルムを挟まなかった部分と挟んだ部分がともに含まれるよう、25mm幅×20cmの短冊に切った。テフロンフィルムを挟んだために電解質膜と触媒層が密着していない部分を引張試験器(A&D社製、テンシロンRTG-1210)の上下のチャックに挟み、JIS K 6854-3に従いT形剥離試験を行い密着部分の剥離強度を測定した。
【0109】
(13)水素圧縮評価
前記電気化学式水素ポンプ用膜電極接合体を英和(株)製 JARI標準セル“Ex-1”(電極面積25cm)にセットし、セル温度40℃とし、一方の電極(水素供給極:カソード)に100%RHに加湿した水素を大気圧で1L/minの流速で供給した。
【0110】
もう一方の電極(水素圧縮極:アノード)は、背圧弁にて圧力を制御可能な構造とし、評価前は大気圧となるように100%RHの窒素ガスでパージした。
【0111】
水素圧縮評価前に水素圧縮極の窒素パージバルブを止め、水素圧縮極の背圧がゲージ圧で1MPaとなるまで、株式会社高砂製作所製小型直流電源KX-100Lを用いて負荷電流10Aで出力した。1MPaで10分間保持し、その際のセル電圧を測定した。セル電圧が低い程、水素圧縮効率が優れている。評価後の膜電極接合体を水中に浸したバブルリークテスト用治具にセットし、膜電極接合体の片面から窒素を流入し、もう片面に抜ける窒素の有無をみることで、膜破れの有無を確認した。
【0112】
(14)水電解評価
前記水電解装置用膜電極接合体を英和(株)製 JARI標準セル“Ex-1”(電極面積25cm)にセットし、セル温度80℃とし、一方の電極(酸素発生極:アノード)に伝導度1μScm-1以下の純水を大気圧で0.2L/minの流速で供給した。
【0113】
もう一方の電極(水素発生極:カソード)は、背圧弁にて圧力を制御可能な構造とし、評価前は大気圧となるように100%RHの窒素ガスでパージした。
【0114】
ソーラトロン社製Multistat1480およびPower booster Model PBi500L-5Uを用いて負荷電流0~50A(電流密度0~2A/cm)で出力した。大気圧で電流をステップさせながら15分間保持し、その際のセル電圧を測定した。セル電圧が低い程、水電解効率が優れている。
【0115】
合成例1:ブロックコポリマーb1の合成
(下記一般式(G1)で表される2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1,3-ジオキソラン(K-DHBP)の合成)
【0116】
【化5】
【0117】
攪拌器、温度計及び留出管を備えた500mLフラスコに、4,4′-ジヒドロキシベンゾフェノン(DHBP)49.5g、エチレングリコール134g、オルトギ酸トリメチル96.9g及びp-トルエンスルホン酸一水和物0.50gを仕込み溶解する。その後78~82℃で2時間保温攪拌した。更に、内温を120℃まで徐々に昇温、ギ酸メチル、メタノール、オルトギ酸トリメチルの留出が完全に止まるまで加熱した。この反応液を室温まで冷却後、反応液を酢酸エチルで希釈し、有機層を5%炭酸カリウム水溶液100mLで洗浄し分液後、溶媒を留去した。残留物にジクロロメタン80mLを加え結晶を析出させ、濾過し、乾燥して2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1,3-ジオキソラン52.0gを得た。この結晶をGC分析したところ99.8%の2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1,3-ジオキソランと0.2%の4,4′-ジヒドロキシベンゾフェノンであった。
【0118】
(下記一般式(G2)で表されるジソジウム 3,3’-ジスルホネート-4,4’-ジフルオロベンゾフェノンの合成)
【0119】
【化6】
【0120】
4,4’-ジフルオロベンゾフェノン109.1g(アルドリッチ試薬)を発煙硫酸(50%SO3)150mL(和光純薬試薬)中、100℃で10時間反応させた。その後、多量の水中に少しずつ投入し、NaOHで中和した後、食塩200gを加え合成物を沈殿させた。得られた沈殿を濾別し、エタノール水溶液で再結晶し、上記一般式(G2)で示されるジソジウム 3,3’-ジスルホネート-4,4’-ジフルオロベンゾフェノンを得た。純度は99.3%であった。構造はH-NMRで確認した。不純物はキャピラリー電気泳動(有機物)およびイオンクロマトグラフィー(無機物)で定量分析を行った。
【0121】
(下記一般式(G3)で表されるイオン性基を含有しないオリゴマーa1’の合成)
【0122】
【化7】
【0123】
(式(G3)中、mは正の整数を表す。)
かき混ぜ機、窒素導入管、Dean-Starkトラップを備えた1000mL三口フラスコに、炭酸カリウム16.59g(アルドリッチ試薬、120mmol)、K-DHBP 25.8g(100mmol)および4,4’-ジフルオロベンゾフェノン20.3g(アルドリッチ試薬、93mmol)を入れ、窒素置換後、N-メチルピロリドン(NMP)300mL、トルエン100mL中にて160℃で脱水後、昇温してトルエン除去、180℃で1時間重合を行った。多量のメタノールで再沈殿することで精製を行い、イオン性基を含有しないオリゴマーa1(末端OM基、なおOM基のMはNaまたはKを表し、これ以降の表記もこれに倣う。)を得た。数平均分子量は10000であった。
【0124】
かき混ぜ機、窒素導入管、Dean-Starkトラップを備えた500mL三口フラスコに、炭酸カリウム1.1g(アルドリッチ試薬、8mmol)、イオン性基を含有しない前記オリゴマーa1(末端OM基)を20.0g(2mmol)を入れ、窒素置換後、N-メチルピロリドン(NMP)100mL、シクロヘキサン30mL中にて100℃で脱水後、昇温してシクロヘキサン除去し、デカフルオロビフェニル4.0g(アルドリッチ試薬、12mmol)を入れ、105℃で1時間反応を行った。多量のメタノールで再沈殿することで精製を行い、前記式(G3)で示されるイオン性基を含有しないオリゴマーa1’(末端フルオロ基)を得た。数平均分子量は11000であり、イオン性基を含有しないオリゴマーa1’の数平均分子量は、リンカー部位(分子量630)を差し引いた値10400と求められた。
【0125】
(下記一般式(G4)で表されるイオン性基を含有するオリゴマーa2の合成)
【0126】
【化8】
【0127】
(式(G4)において、Mは、NaまたはKを表す。)
かき混ぜ機、窒素導入管、Dean-Starkトラップを備えた1000mL三口フラスコに、炭酸カリウム27.6g(アルドリッチ試薬、200mmol)、K-DHBP 12.9g(50mmol)および4,4’-ビフェノール9.3g(アルドリッチ試薬、50mmol)、ジソジウム 3,3’-ジスルホネート-4,4’-ジフルオロベンゾフェノン40.6g(96mmol)、および18-クラウン-6エーテル17.9g(和光純薬、82mmol)を入れ、窒素置換後、N-メチルピロリドン(NMP)300mL、トルエン100mL中にて170℃で脱水後、昇温してトルエン除去、180℃で1時間重合を行った。多量のイソプロピルアルコールで再沈殿することで精製を行い、前記式(G4)で示されるイオン性基を含有するオリゴマーa2(末端OM基)を得た。数平均分子量は29000であった。
【0128】
(イオン性基を含有するセグメント(A1)としてオリゴマーa2、イオン性基を含有しないセグメント(A2)としてオリゴマーa1、リンカー部位としてオクタフルオロビフェニレンを含有するポリケタールケトン(PKK)系ブロックコポリマーb1の合成)
かき混ぜ機、窒素導入管、Dean-Starkトラップを備えた500mL三口フラスコに、炭酸カリウム0.56g(アルドリッチ試薬、4mmol)、イオン性基を含有するオリゴマーa2(末端OM基)を29g(1mmol)を入れ、窒素置換後、N-メチルピロリドン(NMP)100mL、トルエン30mL中にて100℃で脱水後、昇温してトルエン除去し、イオン性基を含有しないオリゴマーa1’(末端フルオロ基)11g(1mmol)を入れ、105℃で24時間反応を行った。多量のイソプロピルアルコールで再沈殿することで精製を行い、ブロックコポリマーb1を得た。重量平均分子量は40万であった。
【0129】
ブロックコポリマーb1は、イオン性基を含有するセグメント(A1)として、前記一般式(S1)で表される構成単位を50モル%、イオン性基を含有しないセグメント(A2)として、前記一般式(S2)で表される構成単位を100モル%含有していた。
【0130】
ブロックコポリマーb1そのものを高分子電解質膜としたときの、中和滴定から求めたイオン交換容量は2.1meq/g、H-NMRから求めたモル組成比(A1/A2)は、56モル/44モル=1.27、ケタール基の残存は認められなかった。
【0131】
合成例2
(下記式(G5)で表される疎水性オリゴマ-a3の合成)
【0132】
【化9】
【0133】
撹拌機、温度計、冷却管、Dean-Stark管、窒素導入の三方コックを取り付けた1Lの三口フラスコに、2,6-ジクロロベンゾニトリル49.4g(0.29mol)、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン88.4g(0.26mol)、炭酸カリウム47.3g(0.34mol)をはかりとった。
【0134】
窒素置換後、スルホラン346mL、トルエン173mLを加えて攪拌した。フラスコをオイルバスにつけ、150℃に加熱還流させた。反応により生成する水をトルエンと共沸させ、Dean-Stark管で系外に除去しながら反応させると、約3時間で水の生成がほとんど認められなくなった。反応温度を徐々に上げながら大部分のトルエンを除去した後、200℃で3時間反応を続けた。次に、2,6-ジクロロベンゾニトリル12.3g(0.072mol)を加え、さらに5時間反応した。
【0135】
得られた反応液を放冷後、トルエン100mLを加えて希釈した。副生した無機化合物の沈殿物を濾過除去し、濾液を2Lのメタノール中に投入した。沈殿した生成物を濾別、回収し乾燥後、テトラヒドロフラン250mLに溶解した。これをメタノール2Lに再沈殿し、目的のオリゴマーa3 107gを得た。オリゴマーa3の数平均分子量は7,400であった。
【0136】
合成例3
(下記式(G6)で表される親水性モノマーa4の合成)
【0137】
【化10】
【0138】
攪拌機、冷却管を備えた3Lの三口フラスコに、クロロスルホン酸233.0g(2mol)を加え、続いて2,5-ジクロロベンゾフェノン100.4g(400mmolを加え、100℃のオイルバスで8時間反応させた。所定時間後、反応液を砕氷1000gにゆっくりと注ぎ、酢酸エチルで抽出した。有機層を食塩水で洗浄、硫酸マグネシウムで乾燥後、酢酸エチルを留去し、淡黄色の粗結晶3-(2,5-ジクロロベンゾイル)ベンゼンスルホン酸クロリドを得た。粗結晶は精製せず、そのまま次工程に用いた。
【0139】
2,2-ジメチル-1-プロパノール(ネオペンチルアルコール)38.8g(440mmol)をピリジン300mLに加え、約10℃に冷却した。ここに上記で得られた粗結晶を約30分かけて徐々に加えた。全量添加後、さらに30分撹拌し反応させた。反応後、反応液を塩酸水1000mL中に注ぎ、析出した固体を回収した。得られた固体を酢酸エチルに溶解させ、炭酸水素ナトリウム水溶液、食塩水で洗浄後、硫酸マグネシウムで乾燥後、酢酸エチルを留去し、粗結晶を得た。これをメタノールで再結晶し、下記構造式で表される3-(2,5-ジクロロベンゾイル)ベンゼンスルホン酸ネオペンチルa4の白色結晶を得た。
【0140】
合成例4:ブロックコポリマーb2の合成
(下記式(G7)で表されるポリアリーレン系ブロックコポリマーb2の合成)
【0141】
【化11】
【0142】
撹拌機、温度計、窒素導入管を接続した1Lの3口フラスコに、乾燥したN,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)166mLを合成例2で合成した疎水性オリゴマー13.4g(1.8mmol)、合成例3で合成した3-(2,5-ジクロロベンゾイル)ベンゼンスルホン酸ネオペンチル37.6g(93.7mmol)、ビス(トリフェニルホスフィン)ニッケルジクロリド2.62g(4.0mmol)、トリフェニルホスフィン10.5g(40.1mmol)、ヨウ化ナトリウム0.45g(3.0mmol)、亜鉛15.7g(240.5mmol)の混合物中に窒素下で加えた。
【0143】
反応系を撹拌下に加熱し(最終的には82℃まで加温)、3時間反応させた。反応途中で系中の粘度上昇が観察された。重合反応溶液をDMAc175mLで希釈し、30分撹拌し、セライトを濾過助剤に用い濾過した。撹拌機を取り付けた1Lの3つ口で、この濾液に臭化リチウム24.4g(281ミリモル)を1/3ずつ3回に分け1時間間隔で加え、120℃で5時間、窒素雰囲気下で反応させた。反応後、室温まで冷却し、アセトン4Lに注ぎ、凝固した。凝固物を濾集、風乾後、ミキサーで粉砕し、1N硫酸1500mLで攪拌しながら洗浄を行った。濾過後、生成物は洗浄液のpHが5以上となるまで、イオン交換水で洗浄後、80℃で一晩乾燥し、目的のブロックコポリマーb2 38.0gを得た。このブロックコポリマーの重量平均分子量は17万であった。
【0144】
ブロックコポリマーb2そのものを高分子電解質膜としたときの、中和滴定から求めたイオン交換容量は2.5meq/gであった。
【0145】
合成例5:
(下記式(G9)で表されるセグメントと下記式(G10)で表されるセグメントからなるリエーテルスルホン(PES)系ブロックコポリマー前駆体b3’の合成)
無水塩化ニッケル1.62gとジメチルスルホキシド15mLとを混合し、70℃に調整した。これに、2,2’-ビピリジル2.15gを加え、同温度で10分撹拌し、ニッケル含有溶液を調製した。
【0146】
ここに、2,5-ジクロロベンゼンスルホン酸(2,2-ジメチルプロピル)1.49gと下記式(G8)で示される、スミカエクセルPES5200P(住友化学社製、Mn=40,000、Mw=94,000)0.50gとを、ジメチルスルホキシド5mLに溶解させて得られた溶液に、亜鉛粉末1.23gを加え、70℃に調整した。これに前記ニッケル含有溶液を注ぎ込み、70℃で4時間重合反応を行った。反応混合物をメタノール60mL中に加え、次いで、6mol/L塩酸60mLを加え1時間攪拌した。析出した固体を濾過により分離し、乾燥し、灰白色の下記式(G9)と下記式(G10)で表されるセグメントを含むポリアリーレン1.62gを収率99%で得た。重量平均分子量は20万であった。
【0147】
【化12】
【0148】
合成例6:ブロックコポリマーb3の合成
(式(G10)で表されるセグメントと下記式(G11)で表されるセグメントからなるPES系ブロックコポリマーb3の合成)
合成例5で得られたブロックコポリマー前駆体b3’0.23gを、臭化リチウム1水和物0.16gとN-メチル-2-ピロリドン8mLとの混合溶液に加え、120℃で24時間反応させた。反応混合物を、6mol/L塩酸80mL中に注ぎ込み、1時間撹拌した。析出した固体を濾過により分離した。分離した固体を乾燥し、灰白色の式(G10)で示されるセグメントと下記式(G11)で表されるセグメントからなるブロックコポリマーb3を得た。得られたポリアリーレンの重量平均分子量は18万であった。
【0149】
ブロックコポリマーb3そのものを高分子電解質膜としたときの、中和滴定から求めたイオン交換容量は2.0meq/gであった。
【0150】
【化13】
【0151】
[実施例1]
合成例1にて得た22gのブロックコポリマーb1を80gのNMPに添加し、撹拌機で20,000rpm、3分間撹拌しポリマー濃度22質量%の透明な溶液を得た。ポリマーの溶解性は極めて良好であった。得られた溶液を、ガラス繊維フィルターを用いて加圧ろ過後、250μmのPETロール基材上に流延塗布し、150℃にて20分乾燥後、窒素下150℃で10分間熱処理し、ロール状のポリケタールケトン膜を得た。95℃、10重量%硫酸水溶液に24時間浸漬してプロトン置換、脱保護反応した後に、大過剰量の純水に24時間浸漬して充分洗浄し、高分子電解質膜を得た。得られた電解質膜のイオン交換容量は2.1meq/g、膜厚は25μm、カール性は40mmであった。その他、電解質膜の各種物性評価結果を表1に示す。
【0152】
得られた高分子電解質膜を使用したMEAを作製し、水素圧縮評価および水電解評価を行った。水素圧縮評価では、1MPaでのセル電圧は0.3Vで、優れた水素圧縮能力を示し、また圧縮後も膜破れはなかった。水電解評価では、2A/cmのときのセル電圧は1.65Vで、優れた水電解効率を示した。
【0153】
[実施例2]
膜厚を50μm、基材の厚みを500μmにする以外は実施例1と同様の方法により電解質膜を作製した。
【0154】
[実施例3]
膜厚を175μm、基材の厚みを1.2mmにする以外は実施例1と同様の方法により電解質膜を作製した。
【0155】
[比較例1]
高分子電解質膜にデュポン(DuPont)社製フッ素系電解質膜 NRE-211CS(膜厚25μm)の各種物性を測定した。水素圧縮評価において、電圧が安定せず、圧縮後に一部膜破れが観測された。また、水電解評価では酸素中の水素濃度が上昇したため安全面を考慮し評価を中止した。
【0156】
[比較例2]
高分子電解質膜にデュポン(DuPont)社製フッ素系電解質膜 NR-212(膜厚50μm)の各種物性を測定した。水素圧縮評価において、電圧が安定せず、圧縮後に一部膜破れが観測された。また、水電解評価では酸素中の水素濃度が上昇したため安全面を考慮し評価を中止した。
【0157】
[比較例3]
高分子電解質膜にデュポン(DuPont)社製フッ素系電解質膜 N-117(膜厚175μm)の各種物性を測定した。
【0158】
[比較例4]
膜厚を30μm、基材の厚みを188μmにする以外は実施例1と同様の方法により電解質膜を作製した。カール性は92mmであり、膜面にはロール搬送中についた線状のキズが見られたため、電解質膜の物性は測定が困難だった。
【0159】
[比較例5]
膜厚を10μm、基材の厚みを100μmにする以外は実施例1と同様の方法により電解質膜を作製した。水素圧縮評価において、電圧が安定せず、圧縮後に一部膜破れが観測された。また、水電解評価では酸素中の水素濃度が上昇したため安全面を考慮し評価を中止した。
【0160】
[比較例6]
膜厚を250μm、基材の厚みを2mmにする以外は実施例1と同様の方法により電解質膜を作製した。プロトン伝導度が低く、電気化学式水素ポンプと水電解装置用の電解質膜として使えなかった。
【0161】
[比較例7]
ブロックコポリマーb1の代わりにブロックコポリマーb2を使用する以外は、実施例2と同様の方法により電解質膜を作製した。引張破断伸度が低く、電気化学式水素ポンプと水電解装置用の電解質膜として使えなかった。
【0162】
[比較例8]
ブロックコポリマーb1の代わりにブロックコポリマーb3を使用する以外は、実施例2と同様の方法により電解質膜を作製した。引張破断伸度が低く、電気化学式水素ポンプと水電解装置用の電解質膜として使えなかった。
【0163】
【表1】