(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-28
(45)【発行日】2022-03-08
(54)【発明の名称】アフィニティークロマトグラフィー工程を含む、百日咳菌由来タンパク質を取得する方法
(51)【国際特許分類】
C07K 1/22 20060101AFI20220301BHJP
C07K 14/235 20060101ALI20220301BHJP
C07K 1/20 20060101ALI20220301BHJP
【FI】
C07K1/22
C07K14/235
C07K1/20
(21)【出願番号】P 2020549752
(86)(22)【出願日】2019-03-15
(86)【国際出願番号】 KR2019003051
(87)【国際公開番号】W WO2019190092
(87)【国際公開日】2019-10-03
【審査請求日】2020-11-10
(31)【優先権主張番号】10-2018-0035046
(32)【優先日】2018-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】506379781
【氏名又は名称】グリーン・クロス・コーポレイション
【氏名又は名称原語表記】GREEN CROSS CORP.
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【氏名又は名称】野田 雅一
(72)【発明者】
【氏名】パク, ジョン クワン
(72)【発明者】
【氏名】ムン, ジェ フン
(72)【発明者】
【氏名】チョイ, ジ ソブ
(72)【発明者】
【氏名】アン, ドン ホ
(72)【発明者】
【氏名】ジョン, ヒョン ジン
(72)【発明者】
【氏名】キム, ヘ リョン
(72)【発明者】
【氏名】チョイ, ボ ミ
【審査官】西垣 歩美
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第1996/031535(WO,A1)
【文献】特表2013-535207(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105175517(CN,A)
【文献】特表2015-533148(JP,A)
【文献】米国特許第04705686(US,A)
【文献】特開平03-169893(JP,A)
【文献】特表2009-525260(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00-19/00
C12P 1/00-41/00
C12N 1/00-7/08
C12N 15/00-15/90
CAPLUS/MEDLINE/BIOSIS/RESISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アフィニティークロマトグラフィー工程を使用して、百日咳菌培養物を含む試料からPT
(百日咳毒素)タンパク質及びFHA
(繊維状赤血球凝集素)タンパク質を単離するステップを含む、PTタンパク質又はFHAタンパク質を取得する方法
であって、
前記アフィニティークロマトグラフィー工程のための溶出バッファーが、リン酸ナトリウム溶液を含み、
前記溶出バッファーが、NaCl溶液をさらに含み、
前記NaCl溶液の濃度が、0M~3Mに徐々に増加し、
前記アフィニティークロマトグラフィー工程が、式1
【化1】
の構造を有する化合物が結合している樹脂を使用することを含む、方法。
【請求項2】
前記リン酸ナトリウム溶液が、6.5~8.5のpHを有する、請求項
1に記載の方法。
【請求項3】
前記リン酸ナトリウム溶液が、50mM~200mMの濃度を有する、請求項
1に記載の方法。
【請求項4】
前記溶出バッファーが、15CV~35CVの量である、請求項
1に記載の方法。
【請求項5】
前記アフィニティークロマトグラフィー工程の前に、以下のステップ:
1)百日咳菌培養物を遠心分離するステップと、
2)ステップ1)で得られた上清をヒドロキシアパタイト(HA)クロマトグラフィーによって精製するステップと、
3)ステップ2)で精製された上清を疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)によって精製するステップ
がさらに含まれる、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
メンブレンクロマトグラフィー(MC)
工程によって、請求項1~
5のいずれか一項に記載の方法により得られたPTタンパク質からエンドトキシンを除去するステップを含む、PTタンパク質を精製する方法。
【請求項7】
前記
メンブレンクロマトグラフィー工程において、0.6μm~1.0μmの孔径が使用される、請求項
6に記載の方法。
【請求項8】
メンブレンクロマトグラフィー(MC)工程によって、請求項1~
5のいずれか一項に記載の方法により得られたFHAタンパク質からエンドトキシンを除去するステップを含む、FHAタンパク質を精製する方法。
【請求項9】
前記
メンブレンクロマトグラフィー工程において、0.6μm~1.0μmの孔径が使用される、請求項
8に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アフィニティークロマトグラフィー工程を含む、百日咳菌(BordetellaPertussis)由来タンパク質を取得する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
百日咳は、主に乳幼児に起こる急性呼吸器疾患であり、2週間以上にわたる咳を特徴とする。グラム陰性で好気性の短球桿菌である百日咳菌は、百日咳を引き起こすことが報告されている。百日咳菌はその唯一の宿主としてヒトを使い、主に気道を介してヒトに感染する。さらに、百日咳菌は気道粘膜に生息し、人体に疾患を引き起こす。1930年代に、細胞性百日咳ワクチンが開発され、百日咳に対して予防効果を有することが証明された。さらに、百日咳ワクチンは1940年代に破傷風及びジフテリアの不活化死菌ワクチンと組み合わせて使用されたが、全細胞性百日咳ワクチンの副作用(発作、浮腫、発熱等)が報告されている。したがって、安全性を有する百日咳ワクチンを開発することが求められていた。
【0003】
1950年代には、百日咳菌の病因についての研究が行われ、百日咳毒素(PT)、線維状赤血球凝集素(FHA)、パータクチン(PRN)及び線毛(FIM)等の成分が抗原として報告された。その後、これらのタンパク質の単離及び精製を含む無細胞性百日咳ワクチンの開発が進められてきた。1980年代以降、精製百日咳ワクチンが日本で初めて開発され、予防接種された。
【0004】
百日咳ワクチンの精製の目的は、PT、FHA及びPRN等の特定のタンパク質が豊富で、エンドトキシンを含まない製品を生産することである。従来、硫酸アンモニウム沈殿と密度勾配遠心分離を繰り返すことにより、同時に抗原が精製されていた。しかしながら、このような方法は、不純物が多く発生し、精製工程の制御が難しいという欠点を有する。別の方法は、物理的方法と化学的方法の組み合わせを使用して、各抗原を個別に精製することである。韓国特許出願公開第2015-0124973号は、PT、FHA並びにFIM2型及び3型を含む無細胞性百日咳ワクチン組成物を開示している。
【0005】
百日咳菌の主要タンパク質であるPT及びFHAを精製する既存の方法は、一般的なワクチンの調製に使用される方法であるサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)を使用して、培養上清に存在するPT及びFHAを単離することである。しかしながら、この方法は規模拡大が難しく、プロセス収率が低い。さらに、3種又は4種の成分を混合することを含む百日咳ワクチンの製造方法では、1種の成分の生産性の低下でさえも、全体の製造期間を長くするという問題だけでなく、生産バッチ数の増加により引き起こされる経済的な問題が生じる場合がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これに関して、本発明者らは、SEC工程にまつわる問題を解決し、百日咳菌由来タンパク質であるPT及びFHAの効率的な生産を可能にする方法を見出す研究の間に、特定の化合物が結合している樹脂を使用するアフィニティークロマトグラフィーによってPT及びFHAタンパク質を単離する場合に、方法に必要とされる時間及び費用が大幅に削減されるだけでなく、標的タンパク質の生産が増加することを見出した。この知見に基づいて、本発明者らは本発明を完成させた。
【0007】
したがって、本発明の目的は、百日咳菌由来タンパク質であるPTタンパク質又はFHAタンパク質を、アフィニティーカラムを使用して単離する方法を提供することである。
【0008】
本発明の別の目的は、百日咳菌由来タンパク質であるPTタンパク質又はFHAタンパク質を精製する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を実現するために、本発明は、前処理された百日咳菌培養物中のPTタンパク質又はFHAタンパク質をアフィニティークロマトグラフィー工程によって単離する方法を提供する。
【0010】
上記目的を実現するために、本発明は、メンブレンクロマトグラフィー(MC)工程によって、アフィニティークロマトグラフィー工程で単離されたPTタンパク質からエンドトキシンを除去するステップを含む、PTタンパク質を精製する方法を提供する。
【0011】
さらに、本発明は、メンブレンクロマトグラフィー工程によって、アフィニティークロマトグラフィー工程で単離されたFHAタンパク質からエンドトキシンを除去するステップを含む、FHAタンパク質を精製する方法を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明では、百日咳菌のPT及びFHAタンパク質は、特定の化合物が結合している樹脂で充填されたアフィニティーカラムを使用する精製工程によって単離されるため、PT及びFHAタンパク質の生産効率が増加する。PT及びFHAタンパク質が精製工程によって単離される場合に、SEC工程を用いた単離方法と比較して、PTタンパク質の生産が著しく増加した。アフィニティーカラムを使用するPTタンパク質又はFHAタンパク質の単離方法は、樹脂費用、プロセス時間、バッファー使用量及び生産費用を削減するため、PTタンパク質又はFHAタンパク質の大量生産に効率的に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】PT及びFHAタンパク質についての方法全体のフローチャートを示す。
【
図2a】ブルーアフィニティーカラム工程における勾配溶出を使用するPT及びFHAタンパク質の単離工程のクロマトグラムを示す。
【
図2b】SDS-PAGEで示された、勾配溶出を使用するPT及びFHAタンパク質の単離の可能性を示す。
【
図3a】ブルーアフィニティーカラム工程における段階溶出(300mM、400mM、450mM、500mM及び1MのNaCl)を使用するPT及びFHAタンパク質の単離工程のクロマトグラムを示す。
【
図3b】SDS-PAGEで示された、段階溶出(300mM、400mM、450mM、500mM及び1MのNaCl)を使用するPT及びFHAタンパク質の単離の可能性を示す。
【
図4a】ブルーアフィニティーカラム工程における段階溶出(300mM、400mM、850mM及び1MのNaCl)を使用するPT及びFHAタンパク質の単離工程のクロマトグラムを示す。
【
図4b】SDS-PAGEで示された、段階溶出(300mM、400mM、850mM及び1MのNaCl)を使用するPT及びFHAタンパク質の単離の可能性を示す。
【
図5a】ブルーアフィニティーカラム工程を表1の実験計画(DOE)で実施することによって確立された、PT及びFHAタンパク質の単離に最適な条件を使用する単離工程のクロマトグラムを示す。
【
図5b】SDS-PAGEで示された、表1のDOEで確立されたPT及びFHAタンパク質の単離に最適な条件下で方法を実施することにより得られる結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の一態様では、アフィニティークロマトグラフィー工程を使用して、前処理された百日咳菌培養物中のPT及びFHAタンパク質を単離するステップを含む、PTタンパク質又はFHAタンパク質を精製する方法が提供される。
本明細書では、クロマトグラフィー工程は、式1
【0015】
【化1】
の構造を有する化合物が結合している樹脂を使用することを含み得る。
【0016】
上記化合物は、Cibacron Blue 3G-A(Sigma-Aldrich社)でもよい。本発明では、該化合物が結合している樹脂でカラムが充填されるアフィニティーカラム工程を、「ブルーアフィニティーカラム工程」又は「ブルーアフィニティークロマトグラフィー工程」とも称する。
【0017】
本発明の一実施形態では、PTタンパク質及びFHAタンパク質の単離に従来から使用されている方法であるサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)の代わりに、固定相として化合物Cibacron Blue 3G-Aを使用するアフィニティークロマトグラフィー工程を実施して、培養上清に存在するPT及びFHAタンパク質を単離した。
【0018】
さらに、アフィニティークロマトグラフィー工程は、段階溶出又は勾配溶出により行うことができる。特に、勾配溶出を使用することができる。本発明の一実施形態では、PT及びFHAタンパク質の単離工程を、段階溶出及び勾配溶出のそれぞれによって実施することで、ブルーアフィニティークロマトグラフィー工程においてPT及びFHAタンパク質を単離する効率的な処理方法が確立された。結果として、勾配溶出により処理が行われる場合に、PTタンパク質及びFHAタンパク質がSDS-PAGEで申し分なく単離されることが確認された。
【0019】
本明細書では、「勾配溶出」は、移動相の組成を連続的に変化させながら溶出を行う方法を指す。さらに、本明細書で使用される場合に、「段階溶出」という用語は、クロマトグラフィーにおいてカラム中を流れる溶媒の濃度又は組成を変化させることにより溶出能を高めた後に行われる断続的な切り換えによって溶出を行う方法である。
【0020】
勾配溶出方法で使用される溶出バッファーは、リン酸ナトリウム溶液でもよい。さらに、溶出バッファーは、NaCl溶液をさらに含んでもよく、ブルーアフィニティークロマトグラフィー工程は、NaCl溶液の濃度を変化させることによって実施してもよい。
【0021】
リン酸ナトリウム溶液は、10mM~500mM、20mM~350mM、50mM~200mM、又は100mM~150mMの濃度を有してもよく、特に100mMの濃度を有してもよい。さらに、NaCl溶液を含むリン酸ナトリウム溶液は、6.5~8.5、6.8~8.2、7.2~7.8又は7.4~7.7のpHを有してもよく、特に7.6のpHを有してもよい。さらに、溶出バッファーは、15CV~35CV、20CV~33CV又は23CV~30CVの量でもよく、特に25CVの量でもよい。さらに、クロマトグラフィー工程では、NaCl溶液の濃度を0M~3Mに、0M~2Mに、又は0M~1Mに徐々に増加させることによって、PT及びFHAタンパク質を個別に溶出させ得る。
【0022】
本発明の一実施形態では、25CVで100mMリン酸ナトリウム溶液(pH7.6)を、NaClの濃度を1Mまで徐々に高めつつ流すことによって、標的タンパク質PT及びFHAが個別に溶出され、この場合に、PTが最初に溶出されて、その後にFHAが溶出された。
【0023】
アフィニティークロマトグラフィーを使用する精製工程は、勾配溶出を使用する溶出ステップの前に前処理工程に供し得る。前処理工程は、i)洗浄するステップと、ii)平衡化バッファーを使用してカラムを平衡化するステップと、iii)標的タンパク質を含む溶液をカラムに吸着させるステップと、iv)再平衡化バッファーを使用してカラムを再平衡化させるステップと、v)洗浄バッファーを使用してカラムを洗浄するステップとによって行い得る。
【0024】
樹脂で充填されたカラムは、NaCl溶液で洗浄し得る。さらに、平衡化バッファー、再平衡化バッファー、又は洗浄バッファーは、リン酸ナトリウム溶液でもよい。本発明の一実施形態では、カラムを3MのNaCl溶液で洗浄し、そのカラムを、平衡化バッファー及び再平衡化バッファーとしてリン酸ナトリウム溶液を使用して平衡化及び再平衡化した。さらに、そのカラムを、洗浄バッファーとしてリン酸ナトリウム溶液を使用して洗浄した。
【0025】
さらに、本発明では、「前処理された百日咳培養物」は、1)百日咳菌培養物を遠心分離するステップと、2)得られた上清をヒドロキシアパタイト(HA)クロマトグラフィーによって精製するステップと、3)精製された上清を疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)によって精製するステップによって得ることができる。
【0026】
1番目に、百日咳菌培養物を遠心分離するステップを行うことができる。
【0027】
本発明では、「百日咳菌」は、パラ百日咳菌とも呼ばれ、約0.3μm~1μmほどの大きさのグラム陰性球桿菌である。百日咳菌の主要なタンパク質の中で、PTは百日咳毒素の略称である。PTタンパク質は、百日咳菌によって産生され、生体内又は細胞内で機能障害を引き起こすか、又は致死作用を示す毒性物質である。さらに、FHAは、繊維状赤血球凝集素アドヘシンの略称であり、百日咳を引き起こす百日咳菌の病原性因子である。PTタンパク質及びFHAタンパク質は、気管上皮細胞に付着する外膜タンパク質であり、百日咳菌から取得され、百日咳ワクチンの重要な成分である。
【0028】
本発明の一実施形態では、百日咳菌株を、改変Stainer scholte(MSS)培地において35℃の温度で培養し、得られた細胞培養物を、室温で2時間遠心分離にかけた。次いで、細胞が除去された培養上清をそこから分離及び取得した。
【0029】
2番目に、得られた上清をヒドロキシアパタイトクロマトグラフィーによって精製するステップを行うことができる。
【0030】
細胞溶解液又は細胞培養物の遠心分離後に、様々なカラムクロマトグラフィー等を使用して不要な細胞破片等を除去し得る。カラムクロマトグラフィーは、ヒドロキシアパタイト(HA)クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、ゲル排除クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー、HPLC、逆相HPLC、アフィニティークロマトグラフィー(ブルーアフィニティークロマトグラフィー)等でもよい。本発明の一実施形態では、百日咳菌培養物の前処理のための第1の精製工程として、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィーを実施した。
【0031】
本明細書で使用される場合に、「ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー」という用語は、分離用の担体としてリン酸カルシウムの結晶性粒子を使用するカラムクロマトグラフィーである。負に荷電したリン酸イオン及び正に荷電したカルシウム原子が結晶表面に規則的に配置されている。これらの原子とのイオン性相互作用を適切に有することができる分子表面を有するタンパク質は、カラム内の樹脂に吸着され得る。さらに、吸着されたタンパク質は、リン酸バッファー等で溶出させ得る。
【0032】
本発明の一実施形態では、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィーにおいて、平衡化バッファーとしてリン酸ナトリウム溶液を使用し、洗浄バッファーとしてリン酸ナトリウム溶液を使用し、かつ溶出バッファーとしてNaCl溶液を含むリン酸ナトリウム溶液を使用して、PT及びFHAタンパク質を溶出させた。
【0033】
3番目に、精製された上清を疎水性相互作用クロマトグラフィーによって精製するステップを行うことができる。
【0034】
本発明の一実施形態では、百日咳菌培養物の前処理のための第2の精製工程として、疎水性相互作用クロマトグラフィーを実施した。
【0035】
本明細書で使用される場合に、「疎水性相互作用クロマトグラフィー」という用語は、疎水性官能基を有するマトリックスと分子との間の疎水性相互作用を使用する分離方法を指す。該マトリックスは、親水性で不活性なアガロースの変性によって疎水性機能を有することが可能となる。アルキルアミンとCNBr活性化アガロースとの反応によって得られる変性アガロースを使用してもよい。さらに、疎水性相互作用クロマトグラフィーはタンパク質単離のために広く使用されている。さらに、疎水性相互作用クロマトグラフィーにおいて、タンパク質溶出のために、イオン強度を低下させてもよく、又はpHを高めてもよい。
【0036】
本発明の一実施形態では、疎水性相互作用クロマトグラフィーにおいて、平衡化バッファーとしてNaCl溶液を含むリン酸ナトリウム溶液を使用し、洗浄バッファーとしてリン酸ナトリウム溶液を使用し、かつ溶出バッファーとしてリン酸ナトリウム溶液を使用して、PTタンパク質及びFHAタンパク質を含む溶液を溶出させた。
【0037】
本発明の別の態様では、メンブレンクロマトグラフィー(MC)工程によって、アフィニティークロマトグラフィー工程で単離されたPTタンパク質からエンドトキシンを除去するステップを含む、PTタンパク質を精製する方法が提供される。
【0038】
百日咳菌由来タンパク質であるPT及びFHAは、細菌内に存在する毒素であるエンドトキシンを含む。したがって、PT及びFHAタンパク質を精製して、これらのタンパク質をワクチンとして利用するためには、エンドトキシン除去工程を実施せねばならない。
【0039】
エンドトキシン除去は、アフィニティークロマトグラフィー工程又はメンブレンクロマトグラフィー工程によって実施してもよく、特にメンブレンクロマトグラフィー工程によって行うことができる。
【0040】
本明細書で使用される場合に、「メンブレンクロマトグラフィー」という用語は、対流が拡散よりも割合的に多くなり、溶液の分離効率が比較的高いようにマクロ多孔質平膜が使用されるモノクローナル抗体(MAb)及び他の生体分子を精製するために使用される工程を指す。したがって、メンブレンクロマトグラフィーにより、ウイルス、プラスミド、巨大タンパク質複合体等が膜に容易に到達し、容易に単離されることが可能となる。商業的に利用可能なメンブレンクロマトグラフィーは、限定されるものではないが、Mustang Q(Pall Corporation社)、Sartobind Q(Sartorius Stedim Biotech GmbH社)等を含み得る。
【0041】
本発明の一実施形態では、PTタンパク質からエンドトキシンを除去するためのメンブレンクロマトグラフィー工程として、Mustang Q工程を実施した。Mustang-Qは、架橋された第四級アミン基に基づく高分子コーティングを介したイオン交換によって、負に荷電したエンドトキシンを除去する疎水性ポリエーテルスルホン(PES)膜ベースのカプセルである。Mustang Qメンブレンクロマトグラフィーでは、0.6μm~1.0μm、特に0.7μm~0.9μm、さらに特に0.8μmの孔径を使用することができる。
【0042】
本発明のさらに別の態様では、メンブレンクロマトグラフィー工程によって、ブルーアフィニティークロマトグラフィー工程で単離されたFHAタンパク質からエンドトキシンを除去する工程を含む、FHAタンパク質を精製する方法が提供される。
【0043】
本発明の一実施形態では、FHAタンパク質からエンドトキシンを除去するためのメンブレンクロマトグラフィー工程として、Mustang Q工程を実施した。
【0044】
Mustang Qメンブレンクロマトグラフィーでは、0.6μm~1.0μm、特に0.7μm~0.9μm、さらに特に0.8μmの孔径を使用してもよい。
【0045】
PT及びFHAタンパク質を単離及び精製する工程を
図1に示す。
【実施例】
【0046】
以下で、本発明を実施例によってより詳細に説明する。しかしながら、以下の実施例は本発明を例示するのみであって、本発明の範囲を実施例に限定するものではない。
【0047】
実施例1.百日咳菌の培養物
百日咳菌(国立衛生研究所)を、MSS培地で35℃の温度で4日間培養した。培養期間について、詳細には、種培養のために1日かかり、一次濃縮培養のために1日かかり、二次濃縮培養のために1日かかり、本培養のために1日かかった。
【0048】
実施例2.遠心分離工程
9500rpmの条件下で100l/hの流入速度により室温で2時間連続的に遠心分離することによって、細胞培養物を培養上清とスラリーとに分離した。
【0049】
実施例3.HA精製
蒸留水を使用して、ヒドロキシアパタイト(HA)樹脂のための保存液を除去した後に、1MのNaOH溶液との反応によって、洗浄を1時間行った。平衡化バッファーとしてリン酸ナトリウム溶液を使用して、平衡化を行った。次に、遠心分離工程により得られた培養上清をHA樹脂に吸着させ、平衡化バッファーを使用して、残りの培養上清を除去した。その後に、洗浄バッファーとしてリン酸ナトリウム溶液を使用して洗浄を完了させ、次いで、溶出バッファーとして、NaCl溶液を含むリン酸ナトリウム溶液を使用して、PT及びFHAタンパク質を溶出させた。
【0050】
実施例4.HICカラムでの精製
HIC樹脂で充填されたカラムに、蒸留水を3CVで120cm/時間で流して、保存液を除去した。次に、1MのNaOH溶液を4CVで40cm/時間でカラムに流して、洗浄を行った。平衡化バッファーとしてNaCl溶液を含むリン酸ナトリウム溶液を5CVでカラムに流して、平衡化を行った。平衡化の完了後に、HA精製工程により得られた溶出液をHICカラムに流して吸着させた。平衡化バッファーを5CVでカラムに流して、カラム内に残留している溶液を除去した。その後に、洗浄バッファーとしてのリン酸ナトリウム溶液を5CVでカラムに流して、洗浄を行った。洗浄が完了した後に、リン酸ナトリウム溶液を10CVでカラムに流して、PT及びFHAタンパク質を溶出させた。
【0051】
実施例5.ブルーアフィニティーカラムでの精製
実施例5.1.勾配溶出による精製
Cibacron Blue 3G-A樹脂で充填されたカラムに、蒸留水を3CVで60cm/時間で流して、保存液を除去した。次に、3MのNaCl溶液を3CVで60cm/時間でカラムに流して、使用前に洗浄を行った。平衡化バッファーとしてのリン酸ナトリウム溶液を5CVで流して、平衡化を行った。平衡化の完了後に、実施例1.4のHIC溶出液と蒸留水とを1:1で混合することによって得られた溶液をカラムに流して吸着させた。平衡化バッファーを5CVでカラムに流して、カラム内に残留している溶液を除去した。その後に、洗浄バッファーとしてのリン酸ナトリウム溶液を5CVでカラムに流して、洗浄を行った。
【0052】
洗浄の完了後に、NaCl溶液を含むリン酸ナトリウム溶液を溶出バッファーとして使用する勾配溶出を実施した。ここで、NaCl溶液を10CVで、100mM~500mMへと濃度を高めつつ流して、PTタンパク質及びFHAタンパク質を単離した。ここで、樹脂との結合能の違いにより、PTタンパク質が最初に溶出されて、その後にFHAタンパク質が溶出された。結果は
図2a及び
図2bに示されている。
【0053】
実施例5.2.段階溶出による精製
Cibacron Blue 3G-A樹脂で充填されたカラムに、蒸留水を3CVで60cm/時間で流して、保存液を除去した。次に、3MのNaCl溶液を3CVで60cm/時間でカラムに流して、使用前に洗浄を行った。平衡化バッファーとしてのリン酸ナトリウム溶液を5CVで流して、平衡化を行った。平衡化の完了後に、実施例1.4のHIC溶出液と蒸留水とを1:1で混合することによって得られた溶液をカラムに流して吸着させた。平衡化バッファーを5CVでカラムに流して、カラム内に残留している溶液を除去した。その後に、洗浄バッファーとしてのリン酸ナトリウム溶液を5CVでカラムに流して、洗浄を行った。
【0054】
洗浄の完了後に、5段階を含む段階溶出を行った。各段階の溶出バッファーとして、NaCl溶液を含む100mMのリン酸ナトリウム溶液(pH7.6)を使用した。この場合に、それぞれの段階で300mM、400mM、450mM、500mM及び1Mの濃度でNaCl溶液を使用し、この溶液を10CVで流して、PTタンパク質及びFHAタンパク質を単離した。結果は
図3a及び
図3bに示されている。
図3a及び
図3bに示されるように、結合能の違いにより、PTタンパク質は、300mMのNaCl濃度で溶出され、FHAタンパク質は、400mMから開始して溶出されることが確認された。
【0055】
FHAタンパク質が溶出される正確な時点を特定するために、NaCl溶液の濃度を変動させることによって、4段階を含む段階溶出を行った。それぞれの段階で300mM、400mM、850mM及び1Mの濃度でNaCl溶液を使用し、後続の手順は上記と同じであった。結果は
図4a及び
図4bに示されている。
図4a及び
図4bに示されるように、PTタンパク質は、依然として300mMのNaCl濃度で溶出され、FHAタンパク質は、850mMのNaCl濃度で溶出された。
実施例6.PT及びFHAの単離に最適な条件の確立
勾配溶出を使用するPT及びFHAの単離に最適な条件を確立するために、表1の実験計画(DOE)を定めることによって、精製工程を小規模で行った。
【0056】
【0057】
Cibacron Blue 3G-A樹脂で充填されたカラムに、蒸留水を3CVで60cm/時間で流して、保存液を除去した。次に、3MのNaCl溶液を3CVで60cm/時間でカラムに流して、使用前に洗浄を行った。平衡化バッファーとしてのリン酸ナトリウム溶液を5CVで流して、平衡化を行った。平衡化の完了後に、実施例1.4のHIC溶出液と蒸留水とを1:1で混合することによって得られた溶液をカラムに流して吸着させた。平衡化バッファーを5CVでカラムに流して、カラム内に残留している溶液を除去した。その後に、洗浄バッファーとしてのリン酸ナトリウム溶液を5CVでカラムに流して、洗浄を行った。
【0058】
洗浄の完了後に、溶出バッファーとして1MのNaCl溶液を含む100mMのリン酸ナトリウム溶液(pH7.6)を25CVで使用する勾配溶出を実施することによって、PT及びFHAを単離した。この場合に、樹脂との結合能の違いにより、PTが最初に溶出されて、その後にFHAが溶出された。結果は
図5a及び
図5bに示されている。
【0059】
単離工程を、それぞれの条件に従って実施した。結果として、PT及びFHAは、9、10及び11の条件下で最も効率的に単離された。このことから、条件9、10及び11は、勾配溶出を使用するPT及びFHAの単離に最適な条件であることが確認された。
【0060】
実験例1.確立された単離条件の規模拡大の可能性の確認
実施例6で小規模で確立されたPT及びFHAの単離に最適な条件が規模拡大した場合でも適用されるかどうかを確認するために、これらの条件を大規模で適用することによって、単離工程を実施した。結果を表2及び表3に示す。
【0061】
【0062】
【0063】
表2及び表3に示されるように、小規模で確立されたPT及びFHAの単離のための条件を大規模で適用した場合に、PT生産は、PT及びFHAがSEC工程によって単離された場合と比較して約80%だけ増加した。これは、小規模で確立されたPT及びFHAの単離のための条件が大規模にも適用可能であることを示し、本発明によるブルーアフィニティーカラム工程が、従来から使用されていたPT及びFHAの単離方法であるSEC工程よりも、規模拡大及びプロセス収率の点でより効果的であることを意味する。