(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-28
(45)【発行日】2022-03-08
(54)【発明の名称】サーマルプリントヘッドおよびサーマルプリンタ
(51)【国際特許分類】
B41J 2/345 20060101AFI20220301BHJP
B41J 2/325 20060101ALI20220301BHJP
B41J 2/335 20060101ALI20220301BHJP
【FI】
B41J2/345 Z
B41J2/325 A
B41J2/335 101Z
(21)【出願番号】P 2016203459
(22)【出願日】2016-10-17
【審査請求日】2019-10-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000113322
【氏名又は名称】東芝ホクト電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107928
【氏名又は名称】井上 正則
(72)【発明者】
【氏名】山内 恵
【審査官】加藤 昌伸
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-169855(JP,A)
【文献】特開2005-280203(JP,A)
【文献】特開平03-286889(JP,A)
【文献】特開平07-148961(JP,A)
【文献】特開2005-212128(JP,A)
【文献】特開2008-168579(JP,A)
【文献】特開2009-006638(JP,A)
【文献】米国特許第05568175(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/315 - 2/345
B41J 2/42 - 2/425
B41J 2/475 - 2/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放熱板と、
前記放熱板に載置された支持基板と、前記支持基板に積層されたグレーズ層と、前記グレーズ層上に設けられ主走査方向に配列された複数の発熱素子とを有するヘッド基板と、
前記放熱板に前記ヘッド基板と副走査方向に隣り合うように載置され、接続回路が設けられた回路基板と、
前記ヘッド基板の前記回路基板寄りの上面または前記回路基板の前記ヘッド基板寄りの上面に載置され、前記発熱素子および前記接続回路に電気的に接続された制御素子と、
前記ヘッド基板の前記回路基板寄りの上面および前記回路基板の前記ヘッド基板寄りの上面に、前記制御素子を覆うように設けられた封止体と、
を具備し、
前記封止体は、フィラーを含有するエポキシ系樹脂であり、前記フィラーは、粒径が1乃至30μmの範囲に分布し、粒径が2乃至10μmのフィラーの占有率が重量比で67%であり、前記封止体の表面粗さが、0.3μm以下であるサーマルプリントヘッド。
【請求項2】
前記フィラーは、少なくともシリカ、炭酸カルシウムのいずれかである請求項1に記載のサーマルプリントヘッド。
【請求項3】
前記封止体は、前記フィラーを重量比で50乃至70%含有する請求項1に記載のサーマルプリントヘッド。
【請求項4】
放熱板と、前記放熱板に載置された支持基板と前記支持基板に積層されたグレーズ層と前記グレーズ層上に設けられ主走査方向に配列された複数の発熱素子とを有するヘッド基板と、前記放熱板に前記ヘッド基板と副走査方向に隣り合うように載置され、接続回路が設けられた回路基板と、前記ヘッド基板の前記回路基板寄りの上面または前記回路基板の前記ヘッド基板寄りの上面に載置され、前記発熱素子および前記接続回路に電気的に接続された制御素子と、前記ヘッド基板の前記回路基板寄りの上面および前記回路基板の前記ヘッド基板寄りの上面に前記制御素子を覆うように設けられた封止体と、を具備し、前記封止体は、フィラーを含有するエポキシ系樹脂であり、前記フィラーは、粒径が1乃至30μmの範囲に分布し、粒径が2乃至10μmのフィラーの占有率が重量比で67%であり、前記封止体の表面粗さが0.3μm以下であるサーマルプリントヘッドと、
受像紙とインクリボンを前記複数の発熱素子との間に挟持し、前記受像紙と前記インクリボンを前記副走査方向に移動させるプラテンローラと、
を具備するサーマルプリンタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、サーマルプリントヘッドおよびサーマルプリンタに関する。
【背景技術】
【0002】
サーマルプリントヘッド(TPH)は、発熱領域に配列された複数の抵抗体を発熱させ、その熱により感熱記録媒体に文字や図形などの画像を形成する出力用デバイスである。このサーマルプリントヘッドは、バーコードプリンタ、デジタル製版機、ビデオプリンタ、イメージャ、シールプリンタなどの記録機器に広く利用されている。
【0003】
サーマルプリントヘッドは、放熱板と、放熱板上に設けられたヘッド基板および回路基板を備えている。ヘッド基板の上にはグレーズ層が設けられ、グレーズ層の上に複数の発熱素子が設けられている。回路基板には、複数の発熱素子の発熱を制御するための駆動用ICが実装されている。複数の発熱素子と駆動用ICとは、ボンディングワイヤにより電気的に接続されている。
【0004】
発熱素子等の保護のために発熱素子の表面に保護膜が設けられている。駆動用ICおよびボンディングワイヤは、保護のために封止体で覆われている。
【0005】
このようなサーマルプリントヘッドを用いたサーマルプリンタは、プラテンローラを備え、プラテンローラと発熱領域の間に挿入された受像紙とインクリボンを発熱領域に押し付けつつ、受像紙とインクリボンを主走査方向に対して垂直な副走査方向に移動させる。
【0006】
このとき、インクリボンの背面が封止体に接触すると、インクリボンが擦られてカスが発生する問題がある。このカスが発熱素子に付着すると、発熱素子とインクリボンとの一様な接触が阻害され、画像の画質が低下する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
インクリボンが封止体に接触しても、インクリボンのカスの発生を抑制することができるサーマルプリントヘッドおよび該サーマルプリントヘッドを用いたサーマルプリンタを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
一つの実施形態によれば、サーマルプリントヘッドは、放熱板と、前記放熱板に載置された支持基板と、前記支持基板に積層されたグレーズ層と、前記グレーズ層上に設けられ主走査方向に配列された複数の発熱素子とを有するヘッド基板と、前記放熱板に前記ヘッド基板と副走査方向に隣り合うように載置され、接続回路が設けられた回路基板と、前記ヘッド基板の前記回路基板寄りの上面または前記回路基板の前記ヘッド基板寄りの上面に載置され、前記発熱素子および前記接続回路に電気的に接続された制御素子と、前記ヘッド基板の前記回路基板寄りの上面および前記回路基板の前記ヘッド基板寄りの上面に、前記制御素子を覆うように設けられた封止体と、を具備する。前記封止体は、フィラーを含有し、前記フィラーは、粒径が1乃至30μmの範囲に分布し、粒径が2乃至10μmのフィラーの占有率が重量比で67%である。前記封止体の表面粗さが、0.3μm以下である。
【発明の効果】
【0010】
本実施形態によれば、インクリボンが封止体に接触しても、インクリボンのカスの発生を抑制することができるサーマルプリントヘッドおよび該サーマルプリントヘッドを用いたサーマルプリンタが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施形態1に係るサーマルプリントヘッドを示す図。
【
図2】実施形態1に係る封止体の表面状態を比較例と対比して示す図。
【
図3】実施形態1に係る封止体の表面粗さを比較例と対比して示す図。
【
図4】実施形態1に係るフィラーの粒度分布を示す図。
【
図5】実施形態1に係るフィラーの含有率と封止体の特性との関係を説明するための模式図。
【
図6】実施形態2に係るサーマルプリンタを示す断面図。
【
図7】実施形態2に係るインクリボンのカス発生頻度を比較例と対比して説明するための模試図。
【
図8】実施形態2に係る別のサーマルプリンタを示す断面図。
【
図9】実施形態2に係る別のサーマルプリントヘッドの要部を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0013】
(実施形態1)
本実施形態に係るサーマルプリントヘッドについて、
図1乃至
図4を用いて説明する。
図1はサーマルプリントヘッドを示す図で、
図1(a)はその平面図、
図1(b)は
図1(a)のV1-V1矢視断面図、
図2は封止体の表面状態を比較例と対比して示す図、
図3は封止体の表面粗さを比較例と対比して示す図、
図4はフィラーの砥粒分布を示す図、
図5はフィラーの含有率と封止体の特性との関係を説明するための模式図である。なお本実施の形態は単なる例示であり、本発明はこれに限定されない。図面は模式的なものであり、各寸法の比率等は現実のものとは異なる。
【0014】
始めに、サーマルプリントヘッドについて説明する。
図1に示すように、サーマルプリントヘッド10は、その要部として、放熱板12、ヘッド基板13、回路基板14、駆動用IC15およびボンディングワイヤ24、25を有する。ここで、放熱板12の主面に、互いに隣接するヘッド基板13および回路基板14が接着剤23を介し接着し載置される。
【0015】
そして、回路基板14上に制御素子である駆動用IC15が搭載され、硬性封止材料である例えばエポキシ系樹脂からなる封止体26により気密封止されている。この封止体26は回路基板14およびヘッド基板13に跨って設けられる。
【0016】
放熱板12は、例えばアルミニウム、ステンレスなどの金属からなり、主走査方向S1に延びた短冊状になっている。そして、接着剤23は、両面接着テープ、軟性のある例えばシリコン樹脂等の熱硬化性樹脂接着剤からなる。
【0017】
ヘッド基板13は、主走査方向S1に延びて放熱板12上に取り付けられている。ヘッド基板13は、支持基板16およびグレーズ層17を有する。支持基板16は、耐熱性を有する絶縁体材料からなり、例えばアルミナなどのセラミックスにより構成されている。その他に、SiN、SiC、石英、AlN、あるいはSi、Al、O、N等を含むファインセラミックスであってもよい。グレーズ層17は、例えばSiO2からなるガラス膜あるいは樹脂膜等からなり、支持基板16に積層している。
【0018】
グレーズ層17の上面には、主走査方向S1に垂直で印刷媒体が走行する副走査方向S2に延びて、互いに主走査方向S1に間隔を空けて配列された複数の発熱抵抗体18が形成されている。そして、発熱抵抗体18上に、個別電極20および共通電極19が間隙Gを挟んで対向して配設される。ここで、個別電極20および共通電極19からなる一対の電極は発熱抵抗体18に重層し電気接続する。そして、これ等の間隙Gで露出する発熱抵抗体18が発熱抵抗部となる。この発熱抵抗部は、その通電電極となる一対の電極と共に1つの発熱素子を構成し、主走査方向S1に所要ピッチ(dpi:ドット/インチ)で帯状に配列され、発熱領域21になる。個別電極20は、後述の通り、ボンディングワイヤ24を介して、駆動用IC15に電気的に接続される。
【0019】
ここで、ヘッド基板13は、例えば以下のようにして形成される。例えばアルミナセラミックスからなる板厚が0.5mm~1.0mm程度の細長の支持基板16を用意し、その上面にガラスからなるグレーズ層17を融着し焼成する。次に、グレーズ層17の上面全体に、スパッタ装置等の薄膜形成装置により、抵抗体層および導電体層を順に積層する。その後、フォトエングレービングプロセスにより、導電体層および抵抗体層を発熱抵抗体部の形状パターンに加工する。続いて、間隙Gの導電体層をエッチング除去して所定の個別電極20および共通電極19にする。更に、個別電極20、共通電極19および発熱抵抗部を覆う保護膜22を形成し、個別電極20のボンディングワイヤ24との接続箇所の上の保護膜22に開口を形成する。
【0020】
ここで、抵抗体層は、例えばTaSiO、NbSiO、TaSiNO、TiSiCO系の電気抵抗体材料からなる。導電体層は、例えば、Al、CuあるいはAlCu合金等の金属を主材料に構成される。そして、保護膜22は、SiO2膜、SiN膜、SiON膜あるいはSiC膜等の硬質で緻密な熱伝導性のある絶縁体材料から成る。ここで、保護膜22の最表面に少なくともSiと炭素が含まれていると熱伝導性が高くなり好適である。この保護膜22は、発熱素子アレイの一対の電極および発熱領域21を少なくとも被覆し、記録媒体の圧接あるいは摺接による磨耗、並びに大気中に含まれている水分等の接触による腐食から保護する機能を有する。
【0021】
回路基板14は、ヘッド基板13と副走査方向S2に隣り合うように放熱板12の主面に配置され、ヘッド基板13と並行して主走査方向S1に配列されている。
【0022】
回路基板14のヘッド基板13寄りの上面には、主走査方向S1に沿って所要数の駆動用IC15が実装されている。駆動用IC15は、発熱素子を制御可能なスイッチング機能を有する制御素子である。ボンディングワイヤ24を介して、個別電極20に電気的に接続している。
【0023】
駆動用IC15およびボンディングワイヤ24、25は、エポキシ系樹脂からなる封止体26によって封止されている。封止体26は、ヘッド基板13の回路基板14寄りの上面に対して、駆動用IC15およびボンディングワイヤ24、25を封止している。この封止体26は、熱硬化性樹脂であるエポキシ系樹脂塗液の塗布、100℃程度における数時間の加熱処理による熱硬化を通して、所定箇所に形成される。
【0024】
封止体26は、熱硬化性樹脂であるエポキシ系樹脂塗液を主に用い、加熱処理による熱硬化により、駆動用IC15およびボンディングワイヤ24、25がヘッド基板13および回路基板14上に保持形成(保護)する事を目的としている。この封止体26は、熱硬化後にある柔らかさを持つシリコン系樹脂等を用いる事もある。
【0025】
封止体26は、駆動用IC15およびボンディングワイヤ24、25を保持および保護することが目的であることから、絶縁性、耐熱性、アスペクト比、濡れ性、表面張力、耐溶剤性等の特性を必要としており、さまざまな充填剤(フィラー)を混合して特性を満たしている。
【0026】
ほとんどの樹脂には何らかの充填剤(フィラー)が添加されていることが多く、同じ樹脂でもフィラーが違えば、性質も変わってくる。したがって、樹脂系の材料を検討する際には、どのような充填剤(フィラー)をどう添加するのかという点が重要となる。種類としては、セラミックス系や繊維系のもの、酸化物などが多く見受けられるが、基本的にはこの充填剤(フィラー)の持つ性質がそのまま反映されてくる。ただし同じ充填剤(フィラー)でも、大きさや形状、添加の仕方でも発揮される性質が異なる。
【0027】
実用上、充填剤(フィラー)の存在なしでは樹脂は工業的にも使うことが困難といえるほど重要な役割を果たしている。
【0028】
前述した、充填剤(フィラー)を樹脂に入れることで、もともとの材料になかった機能や性質、物性を付与できる。具体的に使用されている充填剤は、主に充填剤(フィラー)の種類・大きさ・形状によって決まるが、一種類のフィラーでも複数の性質を得られるものもある。
【0029】
たとえば、増量用としては炭酸カルシウム・タルク・シリカ・クレー等、補強用としては、ウォラストナイト、チタン酸カリウム、ゾノトライト、石膏繊維、アルミボレート、MOS、アラミド繊維、各種ファイバー系、カーボンファイバー(炭素繊維)、グラスファイバー(ガラス繊維)、タルク、マイカ、ガラスフレーク、ポリオキシベンゾイルウィスカー等が、導電性を付与する為には、カーボンブラック、黒鉛、炭素繊維、金属粉、金属繊維、金属箔等、難燃性付与としては、酸化アンチモン、水酸化アルミ、水酸化マグネシウム、硼酸亜鉛、赤燐、炭酸亜鉛、ハイドロタルサイト、ドーソナイト等が挙げられる。
【0030】
充填剤(フィラー)は、通常100μmから10nm程度まで大きさにかなりの幅のある材料であり、マクロフィラー(100μm~10μm)、ミクロフィラー(10μm~100nm)、ナノフィラー(100nm~10nm)に分類される。粒子の大きさは、性能に直接影響を及ぼすため、得たい特性に応じて使い分けていくことが必要となっている。
【0031】
一般に、粒子が小さいほど、充填剤(フィラー)の持っている性能の発現が高くなり、例えば機械的強度の向上などが見られるが、ハンドリングは難しくなる。充填剤(フィラー)は基本的には、粒子、粉体の形状で使用するので、他の粉体と同様に、ある大きさになるとこれらは固体とも液体とも異なる挙動を見せるようになり、粉体制御、粉体加工の技術が関係してくる。
【0032】
従来のサーマルプリントヘッドに使用される封止体の樹脂に使用されている充填剤(フィラー)の粒子径は平均20μm(1μm~100μm)を使用している。この時の封止体の表面粗さはRa0.45μm、Rmax0.55μmが平均な値となっている。
【0033】
本実施形態において、充填剤(フィラー)の大きさを粒子径が2~7μmを主とし(1μm~30μm)内に分別した充填剤(フィラー)を樹脂に約60%混ぜることで、硬化後の封止体の表面性がRa0.3μm以下となり、表面性が改善することで、インクリボン等が接触した場合においてもカス等の発生がなくなることで、発生したカスが発熱抵抗体へ移動し印画に不具合を生じさせる事が無くなり、良好な印画が得られる。
【0034】
次に、封止体26について説明する。
サーマルプリントヘッドの封止体には、駆動用IC、ボンディングワイヤを保持、保護するために、絶縁性、耐熱性、アスペクト比、濡れ性、表面張力、耐溶剤性等の特性が要求される。これらの要求を満たすために、封止体としての樹脂には様々なフィラー(充填剤)が混合されている。
【0035】
後述するように、封止体は、フィラーが混合された樹脂を、例えばポッティングにより複数の駆動用IC15、複数のボンディングワイヤ24、25と共にヘッド基板13の一面及び回路基板14の一面の境界付近に塗布し、熱硬化させることにより形成される。そのため、封止体の形状、特に高さには、樹脂の塗布量、樹脂の粘度等に依存してバラツキが生じる。
【0036】
後述するように、サーマルプリントヘッドを用いたサーマルプリンタにはプラテンローラが備えられている。サーマルプリンタはプラテンローラの回転によって、プラテンローラと発熱領域21の間に挿入された受像紙とインクリボンを副走査方向S2に移動させる。
【0037】
一般にインクリボンは、耐熱・滑性層(厚さ0.1~2μm程度)をコーティングした樹脂製のベースフィルム(厚さ2.5~12μm程度)とインク層(厚さ1~10μm程度)とで構成されている。
【0038】
インクリボンのベースフィルムは、封止体のエポキシ系樹脂より柔らかい。インクリボンの背面が封止体に擦られると、インクリボンが封止体の表面粗さに応じて削られ、カスが発生する。カスはベースフィルムから耐熱・滑性層が剥離したものおよびベースフィルム基材の切削屑と推定される。このカスはインクリボンの移動とともに、発熱素子まで運ばれ、発熱素子に付着する。その結果、発熱素子とインクリボンとの一様な接触が阻害され、画像の画質の低下をもたらす。
【0039】
従って、サーマルプリントヘッドの封止体には、インクリボンが封止体に接触しても、インクリボンが削られないだけの平滑性が更に要求される。
【0040】
本実施形態の封止体26は、フィラーを含有する熱硬化性のエポキシ系樹脂であり、0.3μm以下の表面粗さを有している。
【0041】
表面粗さには種々の定義があるか、ここでは算術平均粗さRaとして説明する。算術平均粗さRaとは、粗さ曲線からその平均線の方向に基準長さLだけを抜き取り、この抜取り部分の平均線の方向にX軸を、縦倍率の方向にY軸を取り、粗さ曲線をy=f(x)で表したときに、次の式によって求められる値をマイクロメートル(μm)で表したものである。Ra=(1/L)∫|f(x)|dx、但し積分範囲は0からLまで。
【0042】
また、Rmaxは、ここでは最大高さRyとして説明する。最大高さRyとは、粗さ曲線からその平均線の方向に基準長さだけを抜き取り、この抜き取り部分の山頂線と谷底線との間隔を粗さ曲線の縦倍率の方向に測定し、この値をマイクロメートル(μm)で表したものである。但し、Ryを求める場合には、キズとみなされるような並みはずれて高い山及び低い谷がない部分から、基準長さだけ抜き取るものとする。
【0043】
封止体26には、粒径が2μm~7μmを主とし、粒度分布で1μm~30μm内に分布したフィラーが重量比で約60%混合されている。
【0044】
封止体26は、例えば次のように形成される。
エポキシ系樹脂にフィラーを混合し十分に攪拌した後、エポキシ系樹脂を複数の駆動用IC15、複数のボンディングワイヤ24、25と共にヘッド基板13の一面及び回路基板14の一面の境界付近に、例えばポッティングにより塗布する。
【0045】
塗布されたエポキシ系樹脂を、例えば100℃程度の高温状態に保ち、数時間熱処理する。この高温状態において、エポキシ系樹脂の高分子間が架橋し熱硬化する。
【0046】
熱硬化の際に、エポキシ系樹脂は硬化収縮するので、フィラー等の含有物が表面に析出し、表面粗さが生じ易い。
【0047】
然し、本実施形態の封止体26のエポキシ系樹脂には、粒径が2μm~7μm、粒度分布で1μm~30μmと適度な大きさを有し、密着性が良好なフィラーが重量比で60%程度含まれているので、フィラーの表面析出が抑制され、0.3μm以下の表面粗さRaが得られる。従って、インクリボンが封止体26に擦られても、インクリボンが削られないだけの十分な平滑性を得ることが可能である。
【0048】
図2は封止体26の表面状態を比較例と対比して示す微分干渉顕微鏡写真で、
図2(a)が封止体26の表面状態、
図2(b)が比較例の表面状態である。ここで、比較例とは、粒径が平均20μm、粒径分布が1μm~100μmのフィラーを重量比で約60%含有するエポキシ系樹脂を用いた封止体のことである。
【0049】
図2(a)に示すように、本実施形態の封止体26では、微小な凹凸が一様に分布しており、きめ細かな面であることがわかる。フィラーの目立った表面析出は見られない。
【0050】
一方、
図2(b)に示すように、比較例では、比較的大きな塊が散在しており、フィラーが表面に析出し凝集していることがわかる。また、面のうねりも推察される。
【0051】
図3は封止体26の表面粗さを比較例と対比して示す図で、
図3(a)が封止体26の表面粗さ、
図3(b)が比較例の表面粗さである。
図3(a)、(b)において上段が表面粗さの三次元マップ、下段がラインプロファイルを示している。表面粗さの測定はレーザ粗さ計により行った。測定領域の面積は、略500μm□である。
【0052】
図3(a)に示すように、本実施形態の封止体26では、表面の凹凸は漣状であり、表面粗さRaが約0.21μmであることがわかる。
【0053】
一方、
図3(b)に示すように、比較例では、表面の凹凸は大きなうねりとともに突起状であり、表面粗さRaが約0.46μmであることがわかる。
【0054】
図4は種々のフィラーの粒度分布を示す図である。ここで、横軸は粒径、縦軸は頻度である。比較例とは市販のフィラーのことである。サンプルAからサンプルDは、比較例のフィラーをメッシュサイズが順に小さくなる篩にかけて得られたフィラーのことである。
【0055】
図4に示すように、比較例では、フィラーの粒径が1μm~100μm程度の範囲に分布しており、粒径20μm付近に大きな第1のピークと、粒径2μm~3μm付近に小さな第2のピークが見られる。
【0056】
サンプルAおよびサンプルBでは、フィラーの粒径が1μm~100μm程度の範囲に分布し、粒径20μm付近に大きな第1のピークがあることは変わっていない。然し、粒径が大きいフィラーの頻度が若干減少し、第2のピーク付近の粒径を有するフィラーが増加している。粒径の大きなフィラーは、まだ十分に取り除かれていない。
【0057】
サンプルCおよびサンプルDでは、フィラーの粒径が1μm~30μm程度の範囲に分布しており、粒度分布に顕著な変化がみられる。メッシュサイズが小さくなったことで、粒径の大きなフィラーが十分に取り除かれている。
【0058】
サンプルCでは、粒径10μm付近に大きな第1のピークと、粒径2μm~3μm付近に中程度の第2のピークを有している。粒度分布の基本的なパターンは変わっていないが、第1のピークと第2のピークにおける頻度の差は少ない。
【0059】
一方、サンプルDでは、粒度分布に第1のピークおよび第2のピークは見られない。粒度分布は単峰性で、粒径2μm~7μm付近に略フラットな頂上がある。フィラーの粒径が揃ってきたことがわかる。
【0060】
サンプルDのフィラーは、おおよそ粒径が1乃至30μm程度の範囲に分布し、粒径が2乃至10μm程度のフィラーの占有率が重量比で67%程度のフィラーである。粒径が2乃至10μm程度のフィラーの占有率は固定されたものではなく、篩の条件等によっても異なり一般的には10%程度の変動が見込まれるものである。
【0061】
図5はエポキシ樹脂中のフィラーの含有率と封止体の特性の関係を説明するための模式図である。ここで、横軸はフィラーの含有率、左の縦軸は平滑性、右の縦軸は耐久性を示している。平滑性とは、表面粗さの逆数を意味している。
【0062】
封止体には、表面粗さが小さい(平滑性)ことの他に強度(耐久性)が要求されている。
図5に示すように、平滑性はフィラーの含有率が少ないほど良好であるが、フィラーの含有率が過剰になると急激に悪化する特性を示す。一方、耐久性はフィラーの含有率が少ないと補強効果がなく樹脂本来の特性を示し、フィラーの含有率がある値以上では十分な耐久性が得られる。
【0063】
即ち、フィラーの含有率に対して平滑性と耐久性とはトレードオフの関係にあるので、両方の特性を満たすようにフィラーの含有率を定めることが望ましい。サンプルDのフィラーを用いて、含有率を変えながら平滑性と耐久性を種々調べたところ、含有率として50%乃至70%程度が好ましく、より最適には60%程度が好ましい結果が得られた。
【0064】
以上説明したように、本実施形態の封止体26であるエポキシ系樹脂には、粒径が2μm~7μm、粒度分布で1μm~30μmと適度な大きさを有し、密着性が良好なフィラーが重量比で60%程度含まれている。
【0065】
その結果、エポキシ系樹脂の熱硬化に起因するフィラーの析出が抑制され、0.3μm以下の表面粗さRaを有する封止体26が得られる。封止体26は、インクリボンが封止体26に擦られても、インクリボンが削られないだけの十分な平滑性を有している。従って、インクリボンのカスの発生を抑制することができるサーマルプリントヘッドが得られる。
【0066】
封止体26がエポキシ系樹脂である場合について説明したが、インクリボンのカスの発生を抑制するという観点からはシリコン系樹脂等を用いることも可能ではある。シリコン系樹脂は熱硬化後もある程度柔軟性を有している。従って、インクリボンの背面が封止体であるシリコン系樹脂に擦られても、インクリボンが削られることによるカスの発生は抑制される。
【0067】
但し、封止体が駆動用IC、ボンディングワイヤを保持、保護する耐久性の観点からは、エポキシ系樹脂がより適している。
【0068】
フィラーは、シリカ、炭酸カルシウムなどの一種類に限られず、複数種類のフィラーを混合しても構わない。
【0069】
(実施形態2)
本実施形態に係るサーマルプリンタについて説明する。
図6は本実施形態のサーマルプリンタを示す断面図、
図7はインクリボンのカス発生頻度を比較例と対比して説明するための模試図である。
【0070】
図6に示すように、本実施形態のサーマルプリンタ40は、
図1に示す封止体26を有するサーマルプリントヘッド10を用いている。サーマルプリンタ40はプラテンローラ41を備えている。このプラテンローラ41は、主走査方向S1を軸として、側面が発熱領域(複数の発熱素子が配列された帯状の領域)21に接するように配置され、その軸42を中心に回転可能に設けられている。
【0071】
サーマルプリンタ40は、プラテンローラ41の回転によって、プラテンローラ41と発熱領域21の間に挿入された受像紙43とインクリボン44を主走査方向S1に対して垂直な副走査方向S2に移動させる。この受像紙43とインクリボン44の移動に伴って、複数の発熱抵抗体18を選択的に発熱させることにより、所望の画像を形成する。
【0072】
プラテンローラ41は、複数の発熱抵抗体18を選択的に発熱させるときは回転を停止し、発熱抵抗体18を覆う保護膜22に受像紙43とインクリボン44を押し付ける。プラテンローラ40は、複数の発熱抵抗体18の発熱が停止されると回転を開始し、感熱紙43が副走査方向S2の走査距離だけ移動するのに要する角度だけ回転すると、回転を停止する。
【0073】
このとき、インクリボン44が封止体26と接触(図の破線で囲った擦過部45)していると、インクリボン44の背面(インク層と反対側の面、耐熱・滑性層がコーティングされた面)が、インクリボン44の断続的な移動に伴って、断続的に擦られる。
【0074】
上述したように、封止体26は表面粗さRaが0.3μm以下の平滑性を有しているので、インクリボン44の背面が封止体26によって断続的に擦られることによる摩耗はわずかである。従って、インクリボン44の背面が削られてカス(耐熱・滑性層の剥離片、ベースフィルム基材の切削屑等)が発生することが防止される。
【0075】
サーマルプリンタ40を用いて、A4サイズの受像紙43に連続して画像を形成しインクリボン44からカスの発生を確認する試験を行った。結果、20,000枚印刷しても、インクリボン44から発生したカスに起因する画像の画質低下は認められなかった。
【0076】
また、使用済みのインクリボン44の背面に擦過痕等も認められなかった。インクリボン44の背面の擦過痕は、リールに巻き取られた使用済みのインクリボン44をリールから引き出してルーペで観察する方法により行った。
【0077】
図7は上述した各種フィラーを用いて形成された封止体とインクリボンのカス発生頻度との関係を説明するための模式図である。カス発生頻度は比較例を基準とした相対値である。サンプルA、サンプルBおよびサンプルCのカス発生頻度は、比較例のカス発生頻度と同等か若干低減している程度であった。
【0078】
一方、サンプルDのカス発生頻度は、比較例のカス発生頻度に比べて著しく低減していることが確認された。
【0079】
以上説明したように、本実施形態のサーマルプリンタ40は、表面粗さRaが0.3μm以下の平滑性を有する封止体26を有するサーマルプリントヘッド10を用いている。その結果、インクリボン44が封止体26に接触しても、インクリボン44のカスの発生が抑制される。従って、インクリボン44のカスに起因する画像の画質低下を防止したサーマルプリンタ40が得られる。
【0080】
ちなみに、
図2(b)に示す比較例の封止体では、インクリボンが接触して、カスが発生するのを抑制するためには、研磨紙等を用いて表面を研磨する必要がある。その結果、作業に多大の時間と費用を要する。
【0081】
なお、封止体上に紙ガイドが配置されるサーマルプリントヘッドの場合は、インクリボンの背面は紙ガイドと接触する。紙ガイドはもともとインクリボンと接触することを目的として配置されるため、このようなカスの問題は起こらない。
【0082】
上述したサーマルプリントヘッド10では、駆動用IC15が回路基板14のヘッド基板13寄りの上面に載置されている場合について説明したが、ヘッド基板13の回路基板14寄りの上面に載置されていても構わない。また、グレーズ層17が副走査方向S2の中央部よりも僅かに副走査反対方向寄りに、主走査方向S1に沿って延びる突状部を有する場合について説明したが、グレーズ層は平坦であっても構わない。
【0083】
図8は駆動用ICがヘッド基板の回路基板寄りの上面に載置されているサーマルプリントヘッドを有するサーマルプリンタを示す断面図ある。
図8に示すように、サーマルプリンタ50では、駆動用IC15がヘッド基板13の回路基板14寄りの上面に載置されている。
【0084】
駆動用IC15がヘッド基板13の回路基板14寄りの上面に載置される場合、駆動用IC15と発熱抵抗体18との距離が短くなるので、発熱抵抗体18と封止体26とが接近する。その結果、インクリボン44と封止体26とが接触(図の破線で囲った擦過部51)する確率が高くなるが、インクリボンのカスの発生を抑制する効果は同様に得ることができる。
【0085】
図9は平坦なグレーズ層を有するサーマルプリントヘッドの要部を示す断面図である。
図9に示すように、支持基板16に平坦なグレーズ層17が設けられている。グレーズ層17の一面には、複数の発熱抵抗体18、共通電極19及び個別電極20を覆う保護膜22が形成されていることは、
図1に示すサーマルプリントヘッド10同様である。
【0086】
異なる点は、保護膜22において発熱抵抗体18を覆う部分にわずかに凹んだ凹部22aが設けられていることである。グレーズ層が平坦であると、プラテンローラとの間に挟まれるインクリボンと保護膜との接触面積が増加し、保護膜が摩耗し易くなる。
【0087】
そこで、インクリボンとの接触面積の増加を抑えるために、保護膜22はわずかに凹んだ凹部22aを有している。この種のサーマルプリントヘッドにも本実施形態の封止体26を用いることか可能である。
【0088】
グレーズ層が平坦であると、プラテンローラ41と支持基板16との距離が短くなるので、プラテンローラ41と封止体26とが更に接近する。その結果、インクリボン44と封止体26とが接触する確率も更に高くなるが、インクリボンのカスの発生を抑制する効果は同様に得ることができる。
【0089】
以上、いくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0090】
10 サーマルプリントヘッド
11 ヘッドユニット
12 放熱板
13 ヘッド基板
14 回路基板
15 駆動用IC
16 支持基板
17 グレーズ層
18 発熱素子
19 共通電極
20 個別電極
21 発熱領域
22 保護膜
22a 凹部
23 接着剤
24、25 ボンディングワイヤ
26 封止体
40、50 サーマルプリンタ
41 プラテンローラ
42 軸
43 受像紙
44 インクリボン
45、51 擦過部
S1 主走査方向
S2 副走査方向