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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-28
(45)【発行日】2022-03-08
(54)【発明の名称】ポリカルボジイミド共重合体
(51)【国際特許分類】
   C08G 18/79 20060101AFI20220301BHJP
   C08G 18/36 20060101ALI20220301BHJP
   C08G 18/76 20060101ALI20220301BHJP
   C08G 18/28 20060101ALI20220301BHJP
【FI】
C08G18/79 070
C08G18/36
C08G18/76
C08G18/28 065
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2018551632
(86)(22)【出願日】2017-11-14
(86)【国際出願番号】 JP2017040863
(87)【国際公開番号】W WO2018092752
(87)【国際公開日】2018-05-24
【審査請求日】2020-08-27
(31)【優先権主張番号】P 2016224618
(32)【優先日】2016-11-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】309012122
【氏名又は名称】日清紡ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100131635
【弁理士】
【氏名又は名称】有永 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100119666
【弁理士】
【氏名又は名称】平澤 賢一
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 雄大
【審査官】西山 義之
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-041175(JP,A)
【文献】特開昭53-098398(JP,A)
【文献】特開2002-025342(JP,A)
【文献】特開平10-195160(JP,A)
【文献】特開2008-214366(JP,A)
【文献】特開平11-322888(JP,A)
【文献】特開2015-147838(JP,A)
【文献】特開2015-147839(JP,A)
【文献】国際公開第2016/163284(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/163285(WO,A1)
【文献】特開2013-112755(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 18/79
C08G 18/36
C08G 18/76
C08G 18/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ひまし油、官能基数2~10のひまし油系ポリオール、及びHO-R-OHで表される長鎖脂肪族ジオール(Rは、30~150個の炭素原子を含有する直鎖又は分岐の飽和又は不飽和のアルキレン基を表す。)から選ばれる少なくとも1種のポリオールの水酸基を除いた残基を含むソフトセグメントと、
前記ソフトセグメントとウレタン結合を介して結合される芳香族ジイソシアネート化合物由来のポリカルボジイミドからなるハードセグメントとを有するポリカルボジイミド共重合体であって、
前記ポリカルボジイミド共重合体のイソシアネート末端が、末端封止剤で封止されているポリカルボジイミド共重合体
【請求項2】
前記芳香族ジイソシアネートが、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート及び4,4’-ジイソシアナト-3,3’-ジメチルビフェニルからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載のポリカルボジイミド共重合体。
【請求項3】
前記ポリオールが、ひまし油、又は官能基数2~10のひまし油系ポリオールである、請求項1又は2に記載のポリカルボジイミド共重合体。
【請求項4】
前記ポリオールが、官能基数2~3のひまし油系ポリオールである請求項3に記載のポリカルボジイミド共重合体。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のポリカルボジイミド共重合体を含むカルボキシ基含有樹脂の硬化剤。
【請求項6】
請求項5に記載の硬化剤及びカルボキシ基含有樹脂を含むカルボキシ基含有樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1~4のいずれか1項に記載のポリカルボジイミド共重合体が、脂肪族アミン又は芳香族性を有する複素環式アミンで変性されてなる変性ポリカルボジイミド共重合体。
【請求項8】
前記脂肪族アミンが、ジエチルアミン、ジイソプロピルアミン、tert-ブチルエチルアミン、ジ-n-ブチルアミン、ジ-sec-ブチルアミン、ジ-tert-ブチルアミン、ジシクロヘキシルアミン、2-メチルピペリジン及び2,6-ジメチルピペリジンからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項7に記載の変性ポリカルボジイミド共重合体。
【請求項9】
前記脂肪族アミンがジイソプロピルアミンである、請求項8に記載の変性ポリカルボジイミド共重合体。
【請求項10】
前記芳香族性を有する複素環式アミンが、3,5-ジメチルピラゾール、イミダゾール、2-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾールからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項7に記載の変性ポリカルボジイミド共重合体。
【請求項11】
請求項7~10のいずれか1項に記載の変性ポリカルボジイミド共重合体を含むカルボキシ基含有樹脂の硬化剤。
【請求項12】
請求項11に記載の硬化剤及びカルボキシ基含有樹脂を含むカルボキシ基含有樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分子中にソフトセグメントを含むポリカルボジイミド共重合体、及びこれを変性して得られる変性ポリカルボジイミド共重合体に関する。また、ポリカルボジイミド共重合体を含むカルボキシ基含有樹脂の硬化剤、及びカルボキシ基含有樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
溶液での貯蔵安定性が改善された変性ポリカルボジイミド組成物及び変性ポリカルボジイミドが知られている(例えば、特許文献1参照)。分子内にソフトセグメントを有するポリカルボジイミド共重合体は、柔軟性に優れているものの、用いられているソフトセグメントは極性が高いため、該共重合体を含む組成物の硬化物は、耐水性に劣るという課題があった。
また、ポリエチレンテレフタレートの耐加水分解安定剤として、芳香族ポリカルボジイミドに、ポリエステルポリオール及びポリカーボネートポリオールを導入したポリカルボジイミド共重合体が知られている(例えば、特許文献2参照)。しかしながら、このポリカルボジイミド共重合体を硬化剤として用いる場合、配合量が多くなることにより、エステル基やカーボネート基が多くなるため、ポリエチレンテレフタレートの吸湿性が高くなり、耐水性が低下するという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-138080号公報
【文献】特開2015-147838号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、カルボキシ基含有樹脂組成物の硬化物について、耐水性を損なうことなく、柔軟性を改良することができる硬化剤として好適なポリカルボジイミド共重合体及びこれを変性して得られる変性ポリカルボジイミド共重合体、また、カルボキシ基含有樹脂の硬化剤、及びカルボキシ基含有樹脂組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、所定のソフトセグメントをポリカルボジイミドの分子中に導入することによって、硬化剤として用いたときに硬化物の耐水性が向上することを見出した。さらに、分子中にソフトセグメントを導入したポリカルボジイミド共重合体を含むカルボキシ基含有樹脂組成物は、保存安定性にも優れていることを見出し、本発明を完成させた。
【0006】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
[1]ひまし油、官能基数2~10のひまし油系ポリオール、及びHO-R-OHで表される長鎖脂肪族ジオール(Rは、30~150個の炭素原子を含有する直鎖又は分岐の飽和又は不飽和のアルキレン基を表す。)から選ばれる少なくとも1種のポリオールの水酸基を除いた残基を含むソフトセグメントと、前記ソフトセグメントとウレタン結合を介して結合される芳香族ジイソシアネート化合物由来のポリカルボジイミドからなるハードセグメントとを有するポリカルボジイミド共重合体。
[2]前記芳香族ジイソシアネートが、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート及び4,4’-ジイソシアナト-3,3’-ジメチルビフェニルからなる群から選択される少なくとも1種である、上記[1]に記載のポリカルボジイミド共重合体。
[3]前記ポリオールが、ひまし油、又は官能基数2~10のひまし油系ポリオールである、上記[1]又は[2]に記載のポリカルボジイミド共重合体。
[4]前記ポリオールが、官能基数2~3のひまし油系ポリオールである、上記[3]に記載のポリカルボジイミド共重合体。
[5]上記[1]~[4]のいずれか1項に記載のポリカルボジイミド共重合体を含むカルボキシ基含有樹脂の硬化剤。
[6]上記[5]に記載の硬化剤及びカルボキシ基含有樹脂を含むカルボキシ基含有樹脂組成物。
[7]上記[1]~[4]のいずれか1項に記載のポリカルボジイミド共重合体が、脂肪族アミン又は芳香族性を有する複素環式アミンで変性されてなる変性ポリカルボジイミド共重合体。
[8]前記脂肪族アミンが、ジエチルアミン、ジイソプロピルアミン、tert-ブチルエチルアミン、ジ-n-ブチルアミン、ジ-sec-ブチルアミン、ジ-tert-ブチルアミン、ジシクロヘキシルアミン、2-メチルピペリジン及び2,6-ジメチルピペリジンからなる群から選択される少なくとも1種である、上記[7]に記載の変性ポリカルボジイミド共重合体。
[9]前記脂肪族アミンがジイソプロピルアミンである、上記[8]に記載の変性ポリカルボジイミド共重合体。
[10]前記芳香族性を有する複素環式アミンが、3,5-ジメチルピラゾール、イミダゾール、2-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾールからなる群から選択される少なくとも1種である、上記[7]に記載の変性ポリカルボジイミド共重合体。
[11]上記[7]~[10]のいずれか1項に記載の変性ポリカルボジイミド共重合体を含むカルボキシ基含有樹脂の硬化剤。
[12]上記[11]に記載の硬化剤及びカルボキシ基含有樹脂を含むカルボキシ基含有樹脂組成物。
【発明の効果】
【0007】
本発明のポリカルボジイミド共重合体又は変性ポリカルボジイミド共重合体を硬化剤に用いることにより、カルボキシ基含有樹脂組成物の硬化物の耐水性を向上させるとともに、優れた柔軟性を有するものとすることができ、さらに、カルボキシ基含有樹脂組成物を保存安定性に優れたものとすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[ポリカルボジイミド共重合体]
本発明のポリカルボジイミド共重合体は、所定のポリカルボジイミドから構成されるハードセグメントと、所定のポリオールから構成されるソフトセグメントとを有している。このポリカルボジイミド共重合体を硬化剤として用いることにより、柔軟性が改良され、耐水性に優れたカルボキシ基含有樹脂組成物の硬化物を提供することができる。前記硬化物は、優れた柔軟性と耐水性により、屋外塗料や電子部品用途に用いる場合の耐久性が向上するという優れた効果を発揮する。
また、該ポリカルボジイミド共重合体は、硬化剤を含むカルボキシ基含有樹脂組成物を保存安定性に優れたものとすることができる。
【0009】
(ポリカルボジイミド)
本発明のポリカルボジイミド共重合体は、ハードセグメントとソフトセグメントとを有しており、ハードセグメントがポリカルボジイミドにより構成される。なお、本発明でいうポリカルボジイミドとは、ポリカルボジイミド共重合体中に含まれる構造単位をいう。
本発明のポリカルボジイミド共重合体におけるポリカルボジイミドは、芳香族ジイソシアネート化合物由来のポリカルボジイミドである。ここで、芳香族ジイソシアネート化合物とは、分子中に2つのイソシアネート基を有するイソシアネート化合物のことであり、分子中に存在する2つのイソシアネート基が芳香環に直結しているイソシアネート化合物のことをいう。
ジイソシアネート化合物由来のポリカルボジイミドには、例えば、芳香族ジイソシアネート化合物由来のポリカルボジイミドと脂肪族ジイソシアネート化合物由来のポリカルボジイミドとがある。芳香族ジイソシアネート化合物由来のポリカルボジイミドは、脂肪族ジイソシアネート化合物由来のポリカルボジイミドと比較して耐熱性が優れているため、芳香族ジイソシアネート化合物由来のポリカルボジイミドが好ましい。
【0010】
ジイソシアネート化合物由来のポリカルボジイミドは、例えば、下記一般式(1)に示す基を有する。
【0011】
【化1】

(式中、Rは、ジイソシアネート化合物からイソシアネート基を除いた残基を示す。)
【0012】
〔ジイソシアネート;(a)成分〕
本発明のポリカルボジイミド共重合体におけるポリカルボジイミドの由来元となる芳香族ジイソシアネート化合物(以下、「ジイソシアネート(a)」又は「(a)成分」ともいう)には、例えば、フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート、1,5-ナフタレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ジフェニルジメチルメタンジイソシアネート、ジフェニルエーテルジイソシアネート等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせてもよい。耐熱性の観点から、好ましい芳香族ジイソシアネート化合物は、トリレンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート、及びジフェニルメタンジイソシアネートから選ばれる少なくとも1種、より好ましくはトリレンジイソシアネートである。
【0013】
(ポリオール)
本発明のポリカルボジイミド共重合体は、前記ポリカルボジイミドとポリオール(以下、「ポリオール(b)」又は「(b)成分」ともいう)とを反応させて得られる。本発明のポリカルボジイミド共重合体は、ソフトセグメントがポリオールにより構成される。なお、本明細書中、ポリオールとは、分子中に水酸基を2個以上有する化合物を意味する。
本発明のポリカルボジイミド共重合体は、カルボジイミド基間に前記ポリオールの水酸基を除いた2価以上の残基を有し、カルボキシ基含有樹脂と馴染みが良く、カルボキシ基との反応率が上がるため、カルボキシ基含有樹脂の耐熱性が向上し、また、ポリオール(b)の極性が低いため、カルボキシ基含有樹脂の耐水性が向上する。また、カルボキシ基含有樹脂に柔軟性を付与することができる。
【0014】
〔ポリオール;(b)成分〕
前記(b)成分としては、ひまし油、官能基数2~10のひまし油系ポリオール、及びHO-R-OHで表される長鎖脂肪族ジオール(Rは、30~150個の炭素原子を含有する直鎖又は分岐の飽和又は不飽和アルキレン基を表す。)が挙げられる。なお、ここでいう官能基とは、水酸基を意味する。
前記ひまし油系ポリオールとしては、ひまし油を原料として誘導されるものが挙げられる。具体的には、伊藤製油株式会社製のURIC H-30、URIC H-62、URIC Y-403;豊国製油株式会社製のHS 2G-120、HS SG-160R、HS 2G-270B、HS 2B-5500、HS KA-001等が挙げられるが、これらに限定されない。
前記長鎖脂肪族ジオールとしては、ポリアルキレンジオール等が挙げられる。具体的には、日本曹達株式会社製の両末端水酸基ポリブタジエン Gシリーズ、両末端水酸基水素化ポリブタジエン GIシリーズ、出光興産株式会社製の水酸基末端液状ポリブタジエン Poly bd(登録商標)、水酸基末端液状ポリオレフィン EPOL(登録商標)、三菱化学株式会社製ポリヒドロキシポリオレフィンオリゴマー ポリテール(登録商標)等が挙げられるが、これらに限定されない。
長鎖脂肪族ジオールの数平均分子量は、有効成分の観点から、500以上5000以下が好ましく、500以上3000以下がより好ましく、500以上2000以下がさらに好ましい。
これらの中でも、相溶性の観点から、ひまし油系ポリオールが好ましく、官能基数2のひまし油系ポリオールがさらに好ましい。
【0015】
(末端封止)
本発明のポリカルボジイミド共重合体においては、ハードセグメントの末端として残存する末端イソシアネートが、末端封止剤(以下、「末端封止材(c)」又は「(c)成分」ともいう)で封止されていることが好ましい。これにより、ポリカルボジイミド共重合体の耐熱性、生産安定性、及び保存安定性を高めることができ、品質を向上させることができる。
【0016】
〔末端封止剤;(c)成分〕
前記(c)成分としては、モノアルコール、モノフェノール、モノイソシアネート、モノアミン等が挙げられる。
前記モノアルコールとしては、メタノール、エタノール、シクロヘキサノール、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、ポリプロピレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。
前記モノフェノールとしては、フェノール、メチルフェノール、ジメチルフェノール、ナフトール等が挙げられる。
前記モノイソシアネートとしては、メチルイソシアネート、エチルイソシアネート、プロピルイソシアネート、n-ブチルイソシアネート、sec-ブチルイソシアネート、tert-ブチルイソシアネート等の低級アルキルモノイソシアネート;シクロヘキシルイソシアネート等の脂環式脂肪族モノイソシアネート;フェニルイソシアネート、トリルイソシアネート、ジメチルフェニルイソシアネート、2,6-ジイソプロピルフェニルイソシアネート等の芳香族モノイソシアネート等が挙げられる。
前記モノアミンとしては、ブチルアミン、シクロヘキシルアミン等の1級アミン;ジエチルアミン、ジブチルアミン、ジシクロヘキシルアミン等の2級アミンが挙げられる。
これらの中でも、反応性の観点から、好ましくはモノアルコール又はモノイソシアネート、より好ましくはモノイソシアネート、さらに好ましくは芳香族モノイソシアネート、よりさらに好ましくはフェニルイソシアネートである。
末端封止剤(c)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0017】
(カルボジイミド当量)
ポリカルボジイミド共重合体のカルボジイミド当量(カルボジイミド基1モル当たりの化学式量)は、カルボキシ基含有樹脂組成物の耐加水分解安定性、溶融粘度、及び溶液粘度の観点から、好ましくは200~1,500、より好ましくは250~1,250、さらに好ましくは300~1,000である。
【0018】
(ポリカルボジイミド共重合体の数平均分子量)
前記ポリカルボジイミド共重合体の数平均分子量は、カルボキシ基含有樹脂組成物の耐加水分解性、溶融粘度、及び溶液粘度の観点から、好ましくは250~50,000、より好ましくは300~10,000、さらに好ましくは400~5,000、よりさらに好ましくは500~3,000である。なお、数平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC法)により、標準物質としてポリスチレンを用いて測定される。
【0019】
(ポリカルボジイミド共重合体の製造方法)
本発明のポリカルボジイミド共重合体は、公知の方法によって製造することができる。例えば、
(i)溶媒の存在下でジイソシアネート(a)及びポリオール(b)を反応させて、ウレタン結合を含む両末端イソシアネートの化合物(以下、「(d)成分」ともいう)を生成させ、その後、触媒の存在下で、(a)成分、(d)成分、及び末端封止剤(c)を反応させて、カルボジイミド化及び末端封止を行う方法、
(ii)溶媒及び触媒の存在下でジイソシアネート(a)をカルボジイミド化してポリカルボジイミド(以下、「(e)成分」ともいう)を生成させ、次いで、(e)成分に、ポリオール(b)、及び末端封止剤(c)を添加して反応させ、共重合及び末端封止を行う方法、
(iii)溶媒及び触媒の存在下でジイソシアネート(a)、ポリオール(b)、及び末端封止剤(c)を反応させて、ウレタン化、カルボジイミド化、及び末端封止を行う方法、
等が挙げられる。
【0020】
これらの中でも、生産性の観点から、前記(i)の方法により製造することが好ましい。具体的には、ジイソシアネート(a)及びポリオール(b)を、ポリオール(b)の水酸基に対して、ジイソシアネート(a)のイソシアネート基が過剰量となるように混合してウレタン化反応を行い、次いで、末端封止剤(c)、及びカルボジイミド化触媒として有機リン系化合物もしくは有機金属化合物等を添加して、無溶媒又は不活性溶媒中で、カルボジイミド化反応を行うことが好ましい。
【0021】
前記カルボジイミド化触媒の具体例としては、3-メチル-1-フェニル-2-ホスフォレン-1-オキシド、3-メチル-1-エチル-2-ホスフォレン-1-オキシド、1,3-ジメチル-2-ホスフォレン-1-オキシド、1-フェニル-2-ホスフォレン-1-オキシド、1-エチル-2-ホスフォレン-1-オキシド、1-メチル-2-ホスフォレン-1-オキシド等が挙げられる。これらの中でも、工業的に入手の容易な3-メチル-1-フェニル-2-ホスフォレン-1-オキシドが好ましい。カルボジイミド化触媒は1種を単独でもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
前記(a)成分と(b)成分とのウレタン化反応の反応温度は、使用する原料によって適宜設定することができるが、生産性の観点から、好ましくは30~200℃、より好ましくは40~150℃、さらに好ましくは50~120℃である。
前記カルボジイミド化反応の反応温度は、生産性の観点から、好ましくは40~250℃、より好ましくは60~200℃、さらに好ましくは80~150℃である。
前記カルボジイミド化反応の反応時間は、同様の観点から、好ましくは2~20時間、より好ましくは3~15時間、さらに好ましくは4~10時間である。
カルボジイミド化触媒の使用量は、使用する触媒の種類に応じて適宜設定することができるが、好ましくはジイソシアネート(a)100質量部に対して、0.01~10質量部、より好ましくは0.05~5質量部、さらに好ましくは0.1~3質量部である。
【0022】
<カルボキシ基含有樹脂の硬化剤>
本発明の一の態様の硬化剤は、本発明のポリカルボジイミド共重合体を含む。この硬化剤を用いれば、カルボキシ基含有樹脂組成物を効果的に硬化させることができる。好ましい熱硬化温度は、90~180℃である。熱硬化温度が90~180℃であると、カルボキシ基含有樹脂組成物を十分に硬化させることができるとともに、主剤(樹脂)や基材の加熱による劣化、及び硬化させた樹脂の黄変等を抑制することができる。
なお、前記硬化剤は、前記ポリカルボジイミド共重合体以外に、硬化剤としての前記ポリカルボジイミド共重合体の効果を妨げない範囲において、エポキシ化合物、オキサゾリン化合物、イソシアネート化合物等の他の一般的な硬化剤を含んでいてもよい。
【0023】
<カルボキシ基含有樹脂組成物>
本発明の一の態様のカルボキシ基含有樹脂組成物は、前記一の態様の硬化剤、及びカルボキシ基含有樹脂を含む。前記カルボキシ基含有樹脂組成物に含まれる樹脂は、カルボジイミド基と架橋反応する樹脂であれば特に限定されない。カルボジイミド基との架橋反応のしやすさから、好ましいカルボキシ基含有樹脂は、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、アクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリオレフィン樹脂及びポリイミド樹脂からなる群から選択される少なくとも1種である。
【0024】
(ポリカルボジイミド共重合体の添加量)
前記一の態様のカルボキシ基含有樹脂組成物は、例えば、主剤(樹脂)の官能基1モル当量に対し、前記一の態様の硬化剤に含まれるポリカルボジイミド共重合体が、好ましくは0.5~1.5モル当量、より好ましくは0.8~1.2モル当量となるように添加される。
【0025】
前記一の態様のカルボキシ基含有樹脂組成物は、用途等に応じて、必要であれば、溶剤や、各種添加成分、例えば、顔料、充填剤、レベリング剤、界面活性剤、分散剤、可塑剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤等が、適宜配合されていてもよい。
【0026】
[変性ポリカルボジイミド共重合体]
本発明の変性ポリカルボジイミド共重合体は、前記ポリカルボジイミド共重合体を脂肪族アミン又は芳香族性を有する複素環式アミンで変性して得られる。
【0027】
(脂肪族アミン)
前記脂肪族アミンとしては、前記ポリカルボジイミド共重合体のカルボジイミド基をブロックすることができ、比較的高い温度で変性ポリカルボジイミド共重合体から解離を開始するとともに、解離性が高いものが好ましい。
本発明の変性ポリカルボジイミド共重合体に使用される好ましい脂肪族アミンは、ジエチルアミン、ジイソプロピルアミン、メチルイソプロピルアミン、tert-ブチルエチルアミン、ジ-sec-ブチルアミン、ジシクロヘキシルアミン、2-メチルピペリジン及び2,6-ジメチルピペリジンからなる群から選択される少なくとも1種であり、より好ましくは、ジエチルアミン、ジイソプロピルアミン、tert-ブチルエチルアミン、ジ-sec-ブチルアミン、ジシクロヘキシルアミン、2-メチルピペリジン及び2,6-ジメチルピペリジンからなる群から選択される少なくとも1種であり、さらに好ましくは、ジエチルアミン、ジイソプロピルアミン、tert-ブチルエチルアミン、ジ-sec-ブチルアミン、ジシクロヘキシルアミン及び2-メチルピペリジンからなる群から選択される少なくとも1種であり、特に好ましくは、ジイソプロピルアミンである。
【0028】
(芳香族性を有する複素環式アミン)
本発明の変性ポリカルボジイミド共重合体に使用される芳香族性を有する複素環式アミンは、環内2級アミン窒素を有する芳香族性を有する複素環式アミンであれば特に限定されない。ここで、環内2級アミン窒素を有する芳香族性を有する複素環式アミンとは、ヘテロ環内にアミンを有する化合物をいう。
前記芳香族性を有する複素環式アミンとしては、変性ポリカルボジイミド共重合体からの解離開始温度が低いことから、好ましくは、環内窒素の数が2以上である複素環式アミンであり、より好ましくは、無置換もしくは置換してもよいピラゾール、及び無置換もしくは置換してもよいイミダゾールからなる群から選択される少なくとも1種の芳香族ヘテロ環化合物であり、さらに好ましくは、3,5-ジメチルピラゾール、イミダゾール、2-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチル-イミダゾール、2-フェニルイミダゾール及び2-フェニル-4-メチルイミダゾールからなる群から選択される少なくとも1種である。
【0029】
なお、脂肪族アミン又は芳香族性を有する複素環式アミンによりブロックされたカルボジイミド基は、カルボキシ基との反応性が低いため、カルボキシ基含有樹脂組成物をほとんど硬化させない。しかし、脂肪族アミン又は芳香族性を有する複素環式アミンが変性ポリカルボジイミド共重合体から解離すると、ブロックされたカルボジイミド基は、脂肪族アミン又は芳香族性を有する複素環式アミンで変性される前の状態のカルボジイミド基に戻る。カルボジイミド基は、カルボキシ基との反応性が高いため、脂肪族アミン又は芳香族性を有する複素環式アミンが変性ポリカルボジイミド共重合体から解離して生じたカルボジイミド基により、カルボキシ基含有樹脂組成物は熱硬化する。脂肪族アミン又は芳香族性を有する複素環式アミンにおける変性ポリカルボジイミド共重合体からの解離性が高いと、ブロックされたカルボジイミド基から生じるカルボジイミド基の数が増加し、カルボキシ基含有樹脂組成物の硬化が促進される。
【0030】
例えば、ポリカルボジイミド共重合体を脂肪族アミンで変性すると、脂肪族アミンがジイソプロピルアミンである場合、下記式(2)に示すカルボジイミド基は、下記式(3)に示すブロックされたカルボジイミド基となる。式(3)のブロックされたカルボジイミド基は、式(3)のうちの下記式(4)に示す部分の立体障害により、カルボキシ基との反応性が低い。ジイソプロピルアミンが解離すると、反応性が高い式(2)のカルボジイミド基が生じ、このポリカルボジイミド共重合体がカルボキシ基含有樹脂組成物を硬化させる。
【0031】
【化2】
【0032】
【化3】
【0033】
【化4】
【0034】
また、例えば、ポリカルボジイミド共重合体を、芳香族性を有する複素環式アミンで変性すると、芳香族性を有する複素環式アミンが3,5-ジメチルピラゾールである場合、式(2)に示すカルボジイミド基は、下記式(5)に示すブロックされたカルボジイミド基となる。式(3)のブロックされたカルボジイミド基は、3,5-ジメチルピラゾールが解離すると、反応性が高い式(2)のカルボジイミド基の状態に戻り、このポリカルボジイミド共重合体がカルボキシ基含有樹脂組成物を硬化させる。
【0035】
【化5】
【0036】
(変性ポリカルボジイミド共重合体の製造方法)
上述したように、本発明の変性ポリカルボジイミド共重合体は、脂肪族アミン又は芳香族性を有する複素環式アミンでカルボジイミド基をブロックし、ポリカルボジイミド共重合体を変性して得られる。脂肪族アミン又は芳香族性を有する複素環式アミンによるポリカルボジイミド共重合体の変性は、例えば、無溶媒で行うこともでき、また、ポリカルボジイミド共重合体を有機溶媒と混合し、これに、脂肪族アミン又は芳香族性を有する複素環式アミンをカルボジイミド基に対して所定の当量となるように添加し、撹拌して反応させることにより行うこともできる。
【0037】
有機溶媒を用いる場合、脂肪族アミン又は芳香族性を有する複素環式アミンの添加量は、カルボジイミド基1モル当量に対して、好ましくは1~2モル当量であり、過剰なアミン量の抑制や、加熱処理時のアミンの揮散しやすさの観点から、より好ましくは1~1.2モル当量である。また、脂肪族アミン又は芳香族性を有する複素環式アミンによるポリカルボジイミド共重合体の変性を行う際の反応温度は、反応速度、及びカルボジイミド基がブロックされる際の副反応を抑制する観点から、好ましくは常温(25℃程度)又は40~80℃である。前記変性を行う際の反応は、撹拌しながら行うことが好ましく、反応時間は、温度によって異なるが、好ましくは0.1~10時間程度である。
【0038】
<カルボキシ基含有樹脂の硬化剤>
本発明の他の一態様の硬化剤は、本発明の変性ポリカルボジイミド共重合体を含む。この硬化剤を用いると、カルボキシ基含有樹脂組成物の乾燥温度を、脂肪族アミン又は芳香族性を有する複素環式アミンの変性ポリカルボジイミド共重合体からの解離が開始する温度よりも低い温度に設定することができ、乾燥工程におけるカルボキシ基含有樹脂組成物の硬化を抑制することができる。
また、カルボキシ基含有樹脂組成物の熱硬化温度を、脂肪族アミン又は芳香族性を有する複素環式アミンの変性ポリカルボジイミド共重合体からの解離が開始する温度よりも高い温度に設定することにより、熱硬化工程でカルボキシ基含有樹脂組成物を確実に硬化させることができる。また、カルボキシ基含有樹脂組成物の熱硬化温度を比較的低い温度とすることができる。好ましい熱硬化温度は、90~180℃である。熱硬化温度が90~180℃であると、熱硬化樹脂組成物を十分に硬化させることができるとともに、主剤(樹脂)や基材の加熱による劣化、及び硬化させた樹脂の黄変等を抑制することができる。
なお、前記他の一態様の硬化剤は、変性されていない前記ポリカルボジイミド共重合体を含んでいてもよい。
【0039】
<カルボキシ基含有樹脂組成物>
本発明の他の一態様のカルボキシ基含有樹脂組成物は、前記他の一態様の硬化剤及びカルボキシ基含有樹脂を含む。前記カルボキシ基含有樹脂組成物に含まれる樹脂は、カルボジイミド基と架橋反応する樹脂であれば特に限定されない。カルボジイミド基との架橋反応のしやすさから、好ましいカルボキシ基含有樹脂は、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、アクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリオレフィン樹脂及びポリイミド樹脂からなる群から選択される少なくとも1種である。
【0040】
(変性ポリカルボジイミド共重合体の添加量)
前記他の一態様のカルボキシ基含有樹脂組成物は、例えば、主剤(樹脂)の官能基1モル当量に対し、前記他の一の態様の硬化剤に含まれる変性ポリカルボジイミド共重合体が、好ましくは0.5~1.5モル当量、より好ましくは0.8~1.2モル当量となるように添加される。
【0041】
また、前記他の一の態様のカルボキシ基含有樹脂組成物は、用途等に応じて、必要であれば、溶剤や、各種添加成分、例えば、顔料、充填剤、レベリング剤、界面活性剤、分散剤、可塑剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤等が、適宜配合されていてもよい。
【実施例
【0042】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0043】
[ポリカルボジイミド共重合体の作製]
実施例1(ポリカルボジイミド共重合体P1の合成)
トリレンジイソシアネート100質量部、ひまし油系ポリオール(伊藤製油株式会社製「URIC H-30」、官能基数2.7)144質量部、フェニルイソシアネート49.9質量部、及びトルエン402質量部を還流管及び撹拌機付き反応容器に入れ、窒素気流下、100℃で1時間撹拌した。次いで、カルボジイミド化触媒として3-メチル-1-フェニル-2-ホスフォレン-1-オキシド1.5質量部を加えて100℃で6時間撹拌し、赤外吸収(IR)スペクトル測定にて、波長2270cm-1前後のイソシアネート基による吸収ピークがほぼ消失したことを確認し、ポリカルボジイミド共重合体P1のトルエン溶液を得た。
【0044】
比較例1(ポリカルボジイミド化合物P9の合成)
トリレンジイソシアネート100質量部、フェニルイソシアネート34.2質量部、トルエン163質量部、及びカルボジイミド化触媒として3-メチル-1-フェニル-2-ホスフォレン-1-オキシド1.3質量部を還流管及び撹拌機付き反応容器に入れ、窒素気流下、100℃で3時間撹拌し、IRスペクトル測定にて、波長2270cm-1前後のイソシアネート基による吸収ピークがほぼ消失したことを確認して、ポリカルボジイミド化合物P9のトルエン溶液を得た。
【0045】
実施例2~8及び比較例2~3(ポリカルボジイミド共重合体P2~P8、P10、及びP11の合成)
実施例1において、原料組成を下記表1の記載条件に変えた以外は、実施例1と同様にして、ポリカルボジイミド共重合体P2~P8、P10、及びP11を得た。
【0046】
【表1】
【0047】
なお、表1の原料組成の詳細は、以下のとおりである。
<ジイソシアネート(a)>
・TDI:トリレンジイソシアネート(混合物:2,4-トリレンジイソシアネート(80質量%)、2,6-トリレンジイソシアネート(20質量%))
・MDI:4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート
・TODI:4,4’-ジイソシアナト-3,3’-ジメチルビフェニル
<ポリオール(b)>
・A:ひまし油系ポリオール、伊藤製油株式会社製「URIC H-30」、官能基数2.7
・B:ひまし油系ポリオール、伊藤製油株式会社製「URIC Y-403」、官能基数2
・C:ひまし油系ポリオール、豊国製油株式会社製「HS 2G-160R」、官能基数2
・D:水酸基末端液状ポリブタジエン、出光興産株式会社製「Poly bd(登録商標) R-15HT」、数平均分子量1000
・E:両末端水酸基水素化ポリブタジエン、日本曹達株式会社製「GI-1000」、数平均分子量1500
・F:ポリテトラメチレングリコール、日油株式会社製「PB-700」、数平均分子量700
・G:ポリカーボネートジオール、旭化成ケミカルズ株式会社製「デュラノール(登録商標) T-5650J」、数平均分子量700
<末端封止剤(c)>
・PhNCO:フェニルイソシアネート
<カルボジイミド化触媒>
・3-メチル-1-フェニル-2-ホスフォレン-1-オキシド
【0048】
[変性ポリカルボジイミド共重合体の作製]
実施例9(変性ポリカルボジイミド共重合体PP1の作製)
実施例1で得たポリカルボジイミド共重合体P1のトルエン溶液に、ジイソプロピルアミン59.3質量部を添加して室温(約25℃)で5時間撹拌し、IRスペクトル測定にて、波長1740cm-1前後のグアニジン基による吸収ピークが生じ、波長2150cm-1前後のカルボジイミド基による吸ピークがほぼ消失したことを確認し、変性ポリカルボジイミド共重合体PP1のトルエン溶液を得た。
【0049】
比較例4(変性ポリカルボジイミド化合物PP9の作製)
比較例1で得たポリカルボジイミド化合物P9のトルエン溶液に、ジイソプロピルアミン59.3質量部を添加して室温で5時間撹拌し、IRスペクトル測定にて、波長1740cm-1前後のグアニジン基による吸収ピークが生じ、波長2150cm-1前後のカルボジイミド基による吸収ピークがほぼ消失したことを確認し、変性ポリカルボジイミド化合物PP9を得た。
【0050】
実施例10~16、比較例5及び6(変性ポリカルボジイミド共重合体PP2~PP8、PP10、及びPP11の作製)
実施例9において、原料組成を下記表2の記載条件に変えた以外は、実施例6と同様にして、変性ポリカルボジイミド共重合体PP2~PP8、PP10、及びPP11を得た。
【0051】
【表2】
【0052】
なお、表2のアミン化合物の詳細は、以下のとおりである。
・DIPA:ジイソプロピルアミン
・DsBA:ジ-sec-ブチルアミン
【0053】
[カルボキシ基含有樹脂組成物の作製]
実施例17
実施例1で得たポリカルボジイミド共重合体P1 10質量部を非晶性ポリエステル樹脂(株式会社東洋紡製「バイロン(登録商標)296」)のトルエン溶液(濃度30質量%)100質量部と混合し、カルボキシ基含有樹脂組成物を得た。
このカルボキシ基含有樹脂組成物を離型ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上にキャストして80℃で5分間乾燥し、厚さ100μmの未硬化フィルムを作製した。この未硬化フィルムを、離型PETフィルムを付けたまま、170℃で1時間乾燥して樹脂を硬化させ、硬化フィルムを作製した。
この硬化フィルムを用いて、柔軟性試験、及び耐水性試験を行った。各試験結果を下記表3に示す。
【0054】
実施例18~34及び比較例7~12
ポリカルボジイミド共重合体、及びカルボキシ基含有樹脂を下記表3の記載条件に変えた以外は、実施例17と同様にして、カルボキシ基含有樹脂組成物を作製し、さらに、硬化フィルムを作製した。これらの硬化フィルムを用いて、柔軟性試験、及び耐水性試験を行った。
なお、カルボキシ基含有樹脂として用いたアクリル樹脂Bは、トルエンで希釈することなく、製品のままで使用した。
変性ポリカルボジイミド共重合体を用いた実施例26~34、比較例10~12は、カルボキシ基含有樹脂組成物の保存安定性試験も行った。各試験結果を下記表3に示す。
【0055】
各試験の評価方法は、以下のとおりである。
(柔軟性試験)
作製した硬化フィルムを折り畳んだときに、柔軟性が乏しく割れたものを×、割れることなく元の形状に戻ったものを○とした。
【0056】
(耐水性試験)
作製した硬化フィルムから10mm×70mmの短冊シートを作製し、引張試験機にて引張強度及び伸び強度を測定した。その後、作製した短冊シートを高度加速寿命試験装置(エスペック株式会社「HAST CHAMBER EHS-210M」)に入れ、121℃、100%RHの条件下で、24時間経過後と、40時間経過後にサンプルを取り出し、引張試験機にて、短冊シートの引張強度及び引張伸びを測定した。試験前及び試験後に各5枚の引張強度及び引張伸びの平均値を算出し、下記の式で算出した引張強度保持率及び引張伸び保持率がともに80%を超えるものを○、少なくとも一方が80%以下のものを×とした。評価が「○」のものは、湿熱環境下でも硬化フィルムの強度が保持され、耐水性に優れているといえる。
引張強度保持率[%]=(試験後の引張強度の平均値)/(試験前の引張強度の平均値)×100
引張伸び保持率[%]=(試験後の引張伸びの平均値)/(試験前の引張伸びの平均値)×100
【0057】
(保存安定性試験)
作製したカルボキシ基含有樹脂組成物を、40℃の環境下に置き、所定時間後のゲル化の有無を観察した。96時間以内でゲル化したものを×、96時間を超えた時点でゲル化が見られなかったものを○とした。
【0058】
【表3】
【0059】
なお、表3のカルボキシ基含有樹脂の詳細は、以下のとおりである。
・A:ポリエステル樹脂、東洋紡株式会社製「バイロン(登録商標)296」、数平均分子量14000、酸価6
・B:アクリル樹脂、DIC株式会社製「アクリディック A-814」、不揮発分44.0~46.0質量%(溶剤:トルエン、酢酸エチル)、酸価(溶液)2.0~4.0
【0060】
表4に示した評価結果から、実施例では、柔軟性を付与するためのソフトセグメントの極性が低いため、湿熱環境下において吸湿性が抑えられ、強度(引張強度及び伸び強度)を保持することができていることが分かる。一方、比較例では、ソフトセグメントに極性の高い化学結合を多く含有しているため、湿熱環境下での強度の低下が見られる。
本発明のポリカルボジイミド共重合体組成物の硬化物は、柔軟性及び耐水性に優れており、塗料等に好適に用いることができる。