(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-28
(45)【発行日】2022-03-08
(54)【発明の名称】液化消火剤用噴射ヘッド
(51)【国際特許分類】
A62C 31/02 20060101AFI20220301BHJP
B05B 1/12 20060101ALI20220301BHJP
B05B 1/26 20060101ALI20220301BHJP
B05B 1/00 20060101ALN20220301BHJP
【FI】
A62C31/02
B05B1/12
B05B1/26 A
B05B1/00 A
(21)【出願番号】P 2019518792
(86)(22)【出願日】2018-05-15
(86)【国際出願番号】 JP2018018699
(87)【国際公開番号】W WO2018212160
(87)【国際公開日】2018-11-22
【審査請求日】2021-02-22
(31)【優先権主張番号】P 2017099696
(32)【優先日】2017-05-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000168676
【氏名又は名称】株式会社コーアツ
(74)【代理人】
【識別番号】100141586
【氏名又は名称】沖中 仁
(74)【代理人】
【識別番号】100102211
【氏名又は名称】森 治
(72)【発明者】
【氏名】井上 康史
(72)【発明者】
【氏名】藪下 真大
(72)【発明者】
【氏名】鴨 三範
【審査官】瀬戸 康平
(56)【参考文献】
【文献】特許第5276730(JP,B1)
【文献】特開2012-70774(JP,A)
【文献】実開昭62-174547(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2011/0259617(US,A1)
【文献】欧州特許出願公開第1151800(EP,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A62C 31/02
B05B 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液化消火剤を使用する消火設備において消火対象区画に液化消火剤を
気化させて放出するために設置される噴射ヘッドであって、液化消火剤を供給する配管が接続される噴射ヘッド本体と、噴射ヘッド本体に配設されたオリフィスを形成したオリフィス板と、該オリフィスの出口部に配設されたブロック形状の多孔質部材と、該多孔質部材に液化消火剤の放出隙間を隔てて配設されたデフレクタとを備えてな
り、前記デフレクタの放出された液化消火剤が衝突する面が、平坦面をし、該デフレクタの面と、ブロック形状の多孔質部材の対向する面とが、平行に配置され、液化消火剤の放出隙間を形成してなることを特徴とする液化消火剤用噴射ヘッド。
【請求項2】
前記液化消火剤の放出隙間の大きさを任意に設定する隙間調節機構を設けたことを特徴とする請求項1に記載の液化消火剤用噴射ヘッド。
【請求項3】
前記ブロック形状の多孔質部材内の液化消火剤の流動方向と平行方向の外周面の少なくとも一部が大気に開放されてなるようにしたことを特徴とする請求項1又は2に記載の液化消火剤用噴射ヘッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハロゲン化物等の沸点の高い液化消火剤用の噴射ヘッドに関するものである。
【背景技術】
【0002】
消火設備において、消火剤として、ハロゲン化物等の沸点の高い液化消火剤、例えば、ドデカフルオロ-2-メチルペンタン-3-オン(CF3CF2C(O)CF(CF3)2、沸点49.2℃、NFPA/ISO登録名「FK-5-1-12」)を使用する場合、消火対象区画に液化消火剤を放出するために、液化消火剤を霧状に噴霧する噴射ヘッドを用いるようにしている。
【0003】
しかしながら、液化消火剤を霧状に噴霧する噴射ヘッドは、液化消火剤の拡散特性や気化特性が悪く、1つの噴射ヘッドでカバーできる消火対象範囲が小さいという問題に加え、噴射ヘッドから液化消火剤が放出される際に、高レベルの騒音が発生するという問題があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記液化消火剤を使用する消火設備において消火対象区画に液化消火剤を放出するために設置される噴射ヘッドが有する問題点に鑑み、液化消火剤の拡散特性や気化特性が良く、1つの噴射ヘッドでカバーできる消火対象範囲を大きくすることができるとともに、騒音の低減率を高めることができるようにした液化消火剤用噴射ヘッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明の液化消火剤用噴射ヘッドは、液化消火剤を使用する消火設備において消火対象区画に液化消火剤を放出するために設置される噴射ヘッドであって、液化消火剤を供給する配管が接続される噴射ヘッド本体と、噴射ヘッド本体に配設されたオリフィスを形成したオリフィス板と、該オリフィスの出口部に配設されたブロック形状の多孔質部材と、該多孔質部材に液化消火剤の放出隙間を隔てて配設されたデフレクタとを備えてなることを特徴とする。
【0006】
この場合において、前記液化消火剤の放出隙間の大きさを任意に設定する隙間調節機構を設けることができる。
【0007】
また、前記ブロック形状の多孔質部材の液化消火剤の流動方向と平行方向の外周面の少なくとも一部が大気に開放されてなるようにすることができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明の液化消火剤用噴射ヘッドによれば、液化消火剤を供給する配管が接続される噴射ヘッド本体と、噴射ヘッド本体に配設されたオリフィスを形成したオリフィス板と、該オリフィスの出口部に配設されたブロック形状の多孔質部材と、該多孔質部材に液化消火剤の放出隙間を隔てて配設されたデフレクタとを備えてなることから、オリフィスを介して供給された液化消火剤が、ブロック形状の多孔質部材内を流動しながら拡散し、大きい放出面積となって、多孔質部材に液化消火剤の放出隙間を隔てて配設されたデフレクタに衝突することで、広い範囲に拡散、気化させることができる。これにより、液化消火剤の良好な拡散特性や気化特性を得ることができ、1つの噴射ヘッドでカバーできる消火対象範囲を大きくすることができる。
また、液化消火剤が、ブロック形状の多孔質部材内を流動しながら拡散し、大きい放出面積となって放出されるため、液化消火剤の放出時に発生する騒音を低減することができる。
【0009】
また、前記液化消火剤の放出隙間の大きさを任意に設定する隙間調節機構を設けることにより、1つの噴射ヘッドでカバーできる消火対象範囲を簡単に調節することができる。
【0010】
また、前記ブロック形状の多孔質部材の液化消火剤の流動方向と平行方向の外周面の少なくとも一部が大気に開放されてなるようにすることにより、ブロック形状の多孔質部材内の液化消火剤の流動によるエゼクタ効果によって、多孔質部材の大気に開放された外周面から大気が取り込まれ、多孔質部材内で液化消火剤の拡散、気化を促進させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の液化消火剤用噴射ヘッドの第1実施例を示す断面図である。
【
図2】本発明の液化消火剤用噴射ヘッドの第2実施例を示す断面図である。
【
図3】本発明の液化消火剤用噴射ヘッドの第3実施例を示す断面図である。
【
図4】本発明の液化消火剤用噴射ヘッドの第4実施例を示す断面図である。
【
図5】本発明の液化消火剤用噴射ヘッドの第5実施例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の液化消火剤用噴射ヘッドの実施の形態を、図面に基づいて説明する。
【0013】
図1に、本発明の液化消火剤用噴射ヘッドの第1実施例を示す。
【0014】
この液化消火剤用噴射ヘッド1は、液化消火剤を使用する消火設備において消火対象区画に液化消火剤を放出するために設置される噴射ヘッド1であって、液化消火剤を供給する配管(図示省略)が接続される噴射ヘッド本体2と、噴射ヘッド本体2に配設されたオリフィス31を形成したオリフィス板3と、オリフィス31の出口部に配設されたブロック形状の多孔質部材4と、多孔質部材4に液化消火剤の放出隙間Dを隔てて配設されたデフレクタ6とを備えてなるようにしている。
ここで、噴射ヘッド1は、中心軸を回転対称とした円形に形成されている(以下の実施例も同様。)。
また、液化消火剤を供給する配管が接続される噴射ヘッド本体2には、配管を接続するための雌ねじ(又は雄ねじ(
図5に示す本発明の液化消火剤用噴射ヘッドの第5実施例))を形成するようにしている。
【0015】
ここで、この液化消火剤用噴射ヘッド1が対象とする液化消火剤には、以下(1)~(3)の消火剤が含まれる。
(1)一般的な保存状態で貯蔵容器に液体で保持される消火剤、例えば、ハロン1301等のハロゲン化物消火剤。
(2)噴射ヘッドから噴射される際に、噴射ヘッド直前の配管内で液体の状態の消火剤、例えば、HFC-227ea等。
(3)沸点が0℃以上の消火剤、例えば、ドデカフルオロ-2-メチルペンタン-3-オン(CF3CF2C(O)CF(CF3)2、沸点49.2℃、NFPA/ISO登録名「FK-5-1-12」)等。
【0016】
この場合において、オリフィス板3は、中心に1個又は複数個(本実施例においては、6個。)のオリフィス31を等角度間隔に形成した円盤形状のもので、噴射ヘッド本体2の内部空間に形成した段部21に、例えば、段部21及びオリフィス板3の周面に形成したねじを介して、着脱可能に配設するようにしているので、複数種類のオリフィス31を形成したオリフィス板3を設置場所等の条件に応じて選択することができるようにしている。
なお、オリフィス板3を省略し、噴射ヘッド本体2にオリフィス31を直接形成することもできる。
【0017】
ブロック形状の多孔質部材4は、一体構造のもので構成するほか、本実施例に示すように、複数の多孔質部材41、42を積層した分割構造のもので構成することができる。
【0018】
ブロック形状の多孔質部材4は、形状保持性能の高い、すなわち、液化消火剤の放出圧力で変形等を起こさない無機材料(金属、金属の酸化物、金属の水酸化物等)を好適に用いることができ、3次元の網目状組織体からなる多孔質金属材料(住友電気工業社製「セルメット」(登録商標名))をより好適に用いることができる。
【0019】
多孔質部材4の空隙の孔径は、全体を均質な材料で構成するほか、液化消火剤の流動方向に沿って変化させた材料、より具体的には、空隙の孔径が液化消火剤の流動方向に沿って順次小さくなる材料で構成することができ、例えば、本実施例においては、液化消火剤の流動方向上流側の多孔質部材41の空隙の孔径よりも、下流側の多孔質部材42の空隙の孔径が小さくなるような材料で構成することができる。
このように、多孔質部材4の空隙の孔径を、液化消火剤の流動方向に沿って小さくなるようにすることにより、ブロック形状の多孔質部材内を流動する液化消火剤を均一に拡散させることができる。
【0020】
そして、多孔質部材4は、一体構造、分割構造のいずれの場合も、多孔質部材4の一方側の端面が噴射ヘッド本体2(本実施例においては、オリフィス板3を含む場合がある。)に接して配設されるとともに、多孔質部材4の他方側の端面が、後述のねじ部61(中心部)及び噴射ヘッド本体2に多孔質部材4を固定するリング部材7(リング部材7は、噴射ヘッド本体2に螺着するようにしている。)に接する部分を除いて、大気に開放されてなるようにしている。
これにより、多孔質部材4の大気に開放される液化消火剤の放出面積を大きく取ることができ、騒音の低減率を高めることができる。
【0021】
多孔質部材4に液化消火剤の放出隙間Dを隔てて配設されるデフレクタ6は、多孔質部材4を貫通するねじ部61(ねじ部61は、デフレクタ6に一体に形成するほか、別部材(ボルト)で構成することができる。また、ねじ部61をボルトで構成する場合は、1本又は複数本のボルトを用いることができる。)によってオリフィス板3に螺着する(又はねじ部61をボルト及びナット8で構成してオリフィス板3に締結する(
図3に示す本発明の液化消火剤用噴射ヘッドの第3実施例))ことにより、噴射ヘッド本体2に固定、一体化するようにしている。
デフレクタ6の放出された液化消火剤が衝突する面は、本実施例においては、山型面としているが、以下の実施例に示すように平坦面にすることもできる。
【0022】
また、液化消火剤の放出隙間Dは、多孔質部材4とデフレクタ6の間に配設される隙間調節機構としてのスペーサ5の厚みによって規定されており、厚みの異なるスペーサ5を適宜選定することにより、液化消火剤の放出隙間Dの大きさを任意に設定することができるようにしている。
これにより、1つの噴射ヘッド1でカバーできる消火対象範囲を簡単に調節することができる。
【0023】
ところで、本実施例においては、噴射ヘッド1の内部のオリフィス板3の上部に空間を設けるようにしているが、
図2に示す本発明の液化消火剤用噴射ヘッドの第2実施例のように、この空間に第2のオリフィス板30及びブロック形状の第2の多孔質部材40を設けることができる。
この場合、第2のオリフィス板30は、中心に1個のオリフィス31を形成するようにし、噴射ヘッド本体2に螺着するようにしている。
また、第2の多孔質部材40は、空隙の孔径を、多孔質部材4の空隙の孔径より大きくなるような材料で構成することが好ましい。
【0024】
また、
図3及び
図4に示す本発明の液化消火剤用噴射ヘッドの第3及び第4実施例のように、ブロック形状の多孔質部材4の液化消火剤の流動方向と平行方向の外周面の少なくとも一部(本実施例においては、多孔質部材42の外周面)が大気に開放されてなるようにするようにしている。
これにより、ブロック形状の多孔質部材42内の液化消火剤の流動によるエゼクタ効果によって、多孔質部材42の大気に開放された外周面から大気が取り込まれ、多孔質部材42内で液化消火剤の拡散、気化を促進させることができる。
【0025】
また、
図5に示す本発明の液化消火剤用噴射ヘッドの第5実施例のように、小型の噴射ヘッド1の場合は、デフレクタ6を噴射ヘッド本体2に取り付けることで、方向性を有する液化消火剤の放出隙間Dを形成することができる。
【0026】
以上説明してきた液化消火剤用噴射ヘッド1によれば、液化消火剤を供給する配管が接続される噴射ヘッド本体2と、噴射ヘッド本体2に配設されたオリフィス31を形成したオリフィス板3と、オリフィス31の出口部に配設されたブロック形状の多孔質部材4と、多孔質部材4に液化消火剤の放出隙間Dを隔てて配設されたデフレクタ6とを備えてなることから、オリフィス31を介して供給された液化消火剤が、ブロック形状の多孔質部材4内を流動しながら拡散し、大きい放出面積となって、多孔質部材4に液化消火剤の放出隙間Dを隔てて配設されたデフレクタ6に衝突することで、広い範囲に拡散、気化させることができる。これにより、液化消火剤の良好な拡散特性や気化特性を得ることができ、1つの噴射ヘッド1でカバーできる消火対象範囲を大きくすることができる。
また、液化消火剤が、ブロック形状の多孔質部材4内を流動しながら拡散し、大きい放出面積となって放出されるため、液化消火剤の放出時に発生する騒音を低減することができる。
【0027】
以上、本発明の液化消火剤用噴射ヘッドについて、複数の実施例に基づいて説明したが、本発明は上記実施例に記載した構成に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において適宜その構成を変更することができるものである。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明の液化消火剤用噴射ヘッドは、液化消火剤の拡散特性や気化特性が良く、1つの噴射ヘッドでカバーできる消火対象範囲を大きくすることができるとともに、騒音の低減率を高めることができることから、液化消火剤を使用する消火設備において消火対象区画に液化消火剤を放出するために設置される噴射ヘッドに広く用いることができ、適用対象も、新設の消火設備に限定されず、噴射ヘッドを交換するだけで、既設の消火設備にも適用することができる。
【符号の説明】
【0029】
1 噴射ヘッド
2 噴射ヘッド本体
21 段部
3 オリフィス板
30 オリフィス板
31 オリフィス
4 多孔質部材
40 多孔質部材
41 多孔質部材
42 多孔質部材
5 スペーサ
6 デフレクタ
61 ねじ部(ボルト)
7 リング部材
8 ナット
D 放出隙間