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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-28
(45)【発行日】2022-03-08
(54)【発明の名称】原子間力顕微鏡
(51)【国際特許分類】
   G01Q 60/24 20100101AFI20220301BHJP
   G01Q 10/04 20100101ALI20220301BHJP
   G01Q 10/06 20100101ALI20220301BHJP
【FI】
G01Q60/24
G01Q10/04 101
G01Q10/06
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2017250990
(22)【出願日】2017-12-27
(65)【公開番号】P2019117110
(43)【公開日】2019-07-18
【審査請求日】2020-12-24
(73)【特許権者】
【識別番号】501131302
【氏名又は名称】株式会社生体分子計測研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】山岸 信義
(72)【発明者】
【氏名】森居 隆史
(72)【発明者】
【氏名】岡田 孝夫
【審査官】佐野 浩樹
(56)【参考文献】
【文献】特表2002-540436(JP,A)
【文献】特開2007-170861(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0033991(US,A1)
【文献】特開2000-039390(JP,A)
【文献】特開2004-264039(JP,A)
【文献】特開平11-316243(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01Q10/00 -90/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料台に載置した試料にカンチレバーを接触させ、前記カンチレバーのたわみ量が一定となるように前記試料をスキャンして前記試料の表面形状を検出する原子間力顕微鏡において、
前記試料台を前記カンチレバーのたわみ方向に変位させるZ方向スキャナと、
前記Z方向スキャナの変位を制御する制御回路と、
前記制御回路の制御パラメータを設定するパラメータ設定部と、
を有し、
前記パラメータ設定部は、前記試料をスキャンして前記試料表面の凹凸データを取得し、前記制御パラメータを調整して前記凹凸データのエッジの傾きが予め設定した第1の閾値よりも大きくなったときの制御パラメータを、制御パラメータとして設定すること
を特徴とする原子間力顕微鏡。
【請求項2】
試料台に載置した試料にカンチレバーを接触させ、前記カンチレバーのたわみ量が一定となるように前記試料をスキャンして前記試料の表面形状を検出する原子間力顕微鏡において、
前記試料台を前記カンチレバーのたわみ方向に変位させるZ方向スキャナと、
前記Z方向スキャナの変位を制御する制御回路と、
前記制御回路の制御パラメータを設定するパラメータ設定部と、
を有し、
前記パラメータ設定部は、前記試料をスキャンして得られる前記試料表面の凹凸データを取得し、前記制御パラメータを調整して前記凹凸データの振幅が予め設定した第2の閾値よりも大きくなったときの制御パラメータを、制御パラメータとして設定すること
を特徴とする原子間力顕微鏡。
【請求項3】
前記パラメータ設定部は、前記制御パラメータを調整し、前記試料を前記カンチレバーのたわみ方向と直交する平面上の第1の方向にスキャンしたときの往路と復路のプロファイルの一致度を測定し、一致度が予め設定した第3の閾値よりも大きくなったときの制御パラメータを、制御パラメータとして設定すること
を特徴とする請求項1または2に記載の原子間力顕微鏡。
【請求項4】
前記制御回路は、PID回路であり、前記制御パラメータは、積分ゲインであること
を特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の原子間力顕微鏡。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子間力顕微鏡に係り、特に、鮮明な画像を得るためのフィードバック回路等の制御回路の各種制御パラメータを自動で初期設定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
原子間力顕微鏡(AFM:Atomic Force Microscope)は、カンチレバーの先端に設けた探針と試料に作用する原子間力を計測し、試料の形状を測定する。カンチレバーは、片持ちバネ構造を有し、探針と試料表面を微小な力で接触させ、カンチレバーのたわみ量が一定になるように探針・試料間距離(Z方向の距離)をフィードバック制御(一例としてPID制御)しながら、水平面上(XY平面上)にスキャンすることで、表面形状を画像化する。
【0003】
このような原子間力顕微鏡においては、試料の測定を開始する前等に、走査条件(走査範囲、速度、解像度等)や、PID制御のゲイン(制御パラメータ)を初期設定する必要がある。また、鮮明な画像を得るために、プリスキャンを実行し、操作者が画像を目視することにより、PID制御のゲインを最適な数値となるように調整する操作を行っている。
【0004】
このような制御パラメータの調整は、熟練者であれば数分程度の短時間で行うことができるが、初心者などの熟練していない操作者の場合には、長時間を要してしまう、或いは、好適な設定ができないという問題が生じる。
【0005】
また、例えば特許文献1には、カンチレバーの交換時における初期設定方法について記載されているが、PID制御のゲインなどの制御パラメータを自動調整することについて開示されていない。そこで、何とか制御パラメータの設定を自動化したいという要望が高まっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平11-316243号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような従来の課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、制御回路の制御パラメータの設定を自動で実施することが可能な原子間力顕微鏡を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本願発明は、試料台に載置した試料にカンチレバーを接触させ、前記カンチレバーのたわみ量が一定となるように前記試料をスキャンして前記試料の表面形状を検出する原子間力顕微鏡において、前記試料台を前記カンチレバーのたわみ方向に変位させるZ方向スキャナと、前記Z方向スキャナの変位を制御する制御回路と、前記制御回路の制御パラメータを設定するパラメータ設定部と、を有し、前記パラメータ設定部は、前記試料をスキャンして前記試料表面の凹凸データを取得し、前記制御パラメータを調整して前記凹凸データのエッジの傾きが予め設定した第1の閾値よりも大きくなったときの制御パラメータを、制御パラメータとして設定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る原子間力顕微鏡では、制御回路の制御パラメータを自動で設定するので、操作者の熟練度によらず、短時間で且つ高精度な制御パラメータの初期設定が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る原子間力顕微鏡の構成を示すブロック図である。
図2図2は、フォトダイオードに設けられる2つのフォトディテクタ、及び照射されるレーザ光を示す説明図である。
図3A図3Aは、本発明の一実施形態に係る原子間力顕微鏡で、試料を測定する際の設定処理の手順を示すフローチャートである。
図3B図3Bは、本発明の一実施形態に係る原子間力顕微鏡で、試料を測定する際の設定処理の手順を示すフローチャートである。
図4図4は、プリスキャンで得られるAFM画像を示す図であり、(a)は画像が得られない場合、(b)は画像が不鮮明である場合、(c)は画像が鮮明である場合を示す。
図5図5は、プリスキャンで得られるAFM画像の一例を示す図である。
図6図6は、図5に示したAFM画像をX方向にスキャンしたときに得られるプロファイルであり、(a)は傾きがある場合、(b)は傾きがない場合を示している。
図7図7は、プリスキャンで得られるAFM画像、及びX方向にスキャンしたときに得られるプロファイルを示す図であり、(a)はAFM画像が不鮮明な場合、(b)はAFM画像が鮮明な場合、(c)はAFM画像が不鮮明な場合及び鮮明な場合のプロファイルを示している。
図8図8は、プリスキャンを実施したときの、X方向の往路、及び復路のプロファイルデータを示す図であり、(a)はプロファイルの一致度が低い場合、(b)はプロファイルの一致度が高い場合を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
[本実施形態の構成説明]
図1は、本発明の一実施形態に係る原子間力顕微鏡の構成を示すブロック図である。本実施形態に係る原子間力顕微鏡100は、スキャナ15、カンチレバー11、レーザダイオード17、及びフォトダイオード18を備えており、カンチレバー11のたわみ量が一定になるように、スキャナ15をカンチレバーのたわみ方向(これを、Z方向とする)に変位させ、この変位量に基づいて試料の形状を測定するものである。
【0012】
図1に示すように、本実施形態に係る原子間力顕微鏡100は、測定対象となる試料12を載置する試料台13と、該試料台13の下方に設けられて試料台13を支持するスキャナ15を備えている。また、スキャナ15の下方には、該スキャナをZ方向に移動させるモータ16が設けられている。
【0013】
スキャナ15は、試料台13をZ方向に変位させるピエゾアクチュエータ(Z方向スキャナ、以下、「Zピエゾ15a」という)を備えている。更に、Z方向に直交する平面(Z方向を法線とする平面)であるXY平面方向に試料台13を変位させるピエゾアクチュエータ(以下、「XYピエゾ15b」という)を備えている。
【0014】
また、Zピエゾ15aに制御電圧を出力するZピエゾ制御回路22と、XYピエゾ15bに制御電圧を出力するXYピエゾ制御回路23と、モータ16に制御電圧を出力するモータ制御回路24を備えている。
【0015】
Zピエゾ15a、及びXYピエゾ15bに制御電圧を与えることにより、試料台13をZ方向、及びXY平面に、ナノメートル(nm)のオーダーで微細に変位させることができる。なお、Z方向は例えば鉛直方向であり、XY平面は例えば水平面である。
【0016】
試料台13の上部近傍には、片持ちバネ構造を有するカンチレバー11が設けられている。カンチレバー11の先端には、試料台13に載置される試料に対して微細な力で接触する探針11aが設けられている。また、カンチレバー11の後端は、図示省略の支持部材にて支持されている。
【0017】
カンチレバー11の上方には、レーザダイオード17、及びフォトダイオード18が設けられている。レーザダイオード17は、例えば半導体レーザであり、カンチレバー11の探針11aの背面にレーザ光を照射する。フォトダイオード18は、カンチレバー11で反射した光を受光する。なお、レーザダイオード17とカンチレバー11の間、及びカンチレバー11とフォトダイオード18の間には、レーザ光を反射するミラーやビームスプリッタなどが設けられるが、図1では記載を省略している。
【0018】
フォトダイオード18は、図2(a)に示すように2ブロックに分割されたフォトディテクタ18a、18bを有している。なお、フォトディテクタは、2分割に限定されず、4分割のフォトディテクタを用いることもできる。フォトダイオード18は、差動増幅器19に接続され、差動増幅器19は、振幅検出器20に接続されている。
差動増幅器19は、各フォトディテクタ18a、18bで検出された信号の差分信号を検出して、振幅検出器20に出力する。
【0019】
振幅検出器20は、差動増幅器19より出力される差分信号を、RMS信号(Root Mean Square;実効値)に変換し、変換後のRMS信号を制御回路21に出力する。例えば、図2(a)に示すように、点線で示すレーザ光の中心がフォトダイオード18の中心N1とほぼ一致する場合には、フォトディテクタ18aの検出信号Saとフォトディテクタ18bの検出信号Sbの差分信号はほぼゼロとなる。一方、図2(b)に示すように、レーザ光の中心がフォトダイオード18の中心N1から外れている場合には、検出信号SaとSbの差分信号が大きくなり、ひいてはRMS信号が大きくなる。つまり、RMS信号は、フォトダイオード18の中心N1に対するレーザ光照射位置のずれ量を示す指標となる。
【0020】
制御回路21は、RMS信号と、後述する目標電圧出力部31より出力される目標電圧とを比較する演算部21aを備えており、PID制御を実行して、RMS信号を目標電圧に近づける(差分をゼロとする)ためのZピエゾ15aの制御電圧を演算する。演算した制御電圧をZピエゾ制御回路22に出力する。制御回路21は、例えばPID制御を実行するフィードバック回路である。
【0021】
RMS信号を目標電圧に近づけるということは、フォトダイオード18で受光するレーザ光の位置を所望の位置に合わせること、例えば、図2(a)に示したように、レーザ光の中心がN1に合うように制御するということであり、カンチレバー11のたわみ量(Z方向の変位)を一定に保持するということである。
【0022】
制御回路21で演算した制御電圧をZピエゾ制御回路22に出力することにより、該Zピエゾ制御回路22は、カンチレバー11のたわみ量を一定とするための制御を行う。この際、PID制御の積分ゲイン(制御回路の制御パラメータ)を後述する方法で調整することにより、制御特性を向上させる。
【0023】
また、図1に示すように、本実施形態の原子間力顕微鏡100は、コントローラ30を備えている。コントローラ30は、目標電圧出力部31と、パラメータ設定部32と、画像生成部33と、駆動指令部34と、画像解析部35を備えている。
【0024】
なお、コントローラ30は、試料12の測定を開始する前に、制御回路21の制御パラメータを設定する構成要素のみを示しており、その他の制御要素の記載を省略している。また、コントローラ30は、例えば、CPU、メモリ、及び入出力部を備える汎用のマイクロコントローラ等で構成することができる。
【0025】
目標電圧出力部31は、振幅検出器20で検出されるRMS信号の目標電圧を設定し、演算部21aに出力する。
【0026】
駆動指令部34は、試料12の測定を開始する際に、Zピエゾ制御回路22、XYピエゾ制御回路23、及び、モータ制御回路24に駆動指令信号を出力する。
【0027】
画像生成部33は、制御回路21からZピエゾ制御回路22に出力した制御電圧を取得し、この制御電圧に基づいて試料12の表面形状を画像化する。
即ち、上述したように、カンチレバー11の探針11aと試料12の表面を微小な力で接触させ、カンチレバー11のたわみ量が一定になるように、Zピエゾ15aに制御電圧を与えて探針11aと試料12との間の距離を制御する。更に、XYピエゾ15bをXY平面上で平面スキャンする。具体的には、X方向(第1の方向)のスキャンをジグザグに往復させることにより、XY平面全体をスキャンする。すると、スキャナ15のZ方向の移動量が試料12のZ方向の大きさ、即ち、試料12の凹凸を示すことになり、XY平面上での試料12の凹凸データが得られる。換言すれば、制御回路21からZピエゾ制御回路22に出力する制御電圧は、試料12の凹凸を示すことになる。画像生成部33は、この制御電圧に基づき、コントラストを付与して試料12の表面形状を画像化する。
【0028】
パラメータ設定部32は、試料12の測定を開始する前の設定時に、画像生成部33で生成される画像を解析し、画像の解析結果に基づいてPID制御の制御パラメータを設定する。具体的には、PID制御の積分ゲインが最適値となるように設定する。なお、本実施形態では、一例として積分ゲインのみを設定する例について示すが、比例ゲイン、微分ゲインについも適切な数値となるように制御しても良い。
【0029】
[本実施形態の動作説明]
次に、本実施形態に係る原子間力顕微鏡100による、設定時の処理手順を、図3A図3Bに示すフローチャートを参照して説明する。この処理は、例えば、測定対象となる新規の試料12を試料台13の上に載置して、該試料12の測定を開始する際の設定として実施される。
【0030】
初めに、試料台13の上に試料12が載置されると、ステップS11において、モータ制御回路24は、モータ16をZ方向に予め設定した基準値だけ移動させる。基準値は、カンチレバー11が試料12の表面に微小な力で接触する程度の距離に設定されている。
【0031】
ステップS12において、パラメータ設定部32は、制御回路21の積分ゲイン(制御パラメータ)を初期値に設定してプリスキャンを実施する。即ち、XYピエゾ15bを駆動して試料台13を平面スキャンし、更に、フォトダイオード18で受光されるレーザ光が所望の位置となるように、Zピエゾ15aを駆動させる。この際の制御回路21より出力される制御電圧に基づいて、試料台13の表面画像を生成する。ステップS13において、AFM(Atomic Force Microscope)画像を取得する。なお、プリスキャンは、制御パラメータを設定する処理が終了するまで継続して実施される。
【0032】
ステップS14において、画像解析部35は、取得したAFM画像が鮮明な画像であるか否かを判断する。画像が鮮明であるか否かの判断は、画像のコントラスト、ノイズ、エッジ部の輝度変化、等の要素に基づき、周知の画像処理技術を用いて行うことができる。
【0033】
鮮明な画像が得られた場合には(ステップS14でYES)、試料台13のZ方向の位置、及び制御回路21に設定されている積分ゲイン(制御パラメータ)は、適正に設定されているものと判断し、ステップS34において、コントローラ30は、試料12を実際に測定するための本スキャンの実施に移行する。即ち、制御パラメータの設定を終了する。
【0034】
一方、鮮明な画像が得られない場合には(ステップS14でNO)、ステップS15において、画像解析部35は画像が得られているか否かを判断する。例えば、画像生成部33で生成した画像にエッジが存在せず、凹凸が検出されていないことが明らかな場合、即ち、図4(a)に示すように、試料12の表面が確認できないような画像である場合には、画像無しと判断する。画像無しと判断した場合には、ステップS16に処理を進める。画像有りと判断した場合には、図3BのステップS20に処理を進める。
【0035】
ステップS16において、駆動指令部34は、モータ制御回路24に駆動指令を出力する。モータ制御回路24は、モータ16を駆動して試料台13をカンチレバー11に接近させる。また、ステップS17において、Zピエゾ制御回路22は、Zピエゾ15aを初期位置に設定する。
【0036】
ステップS18において、プリスキャンで取得されるデータに基づいて、AFM画像を生成する。ステップS19において、再度画像が存在するか否かを判断し、画像無しの場合には、ステップS15に処理を戻す。モータ16の駆動により、試料台13がカンチレバー11に向けて接近すると、例えば、図4(b)に示すように試料12の表面の凹凸が画像化されてくる。更に、試料台13が最適な位置に達すると、図4(c)に示すように、試料12の表面の凹凸が鮮明に画像化される。
【0037】
そして、表面画像が鮮明となり、ステップS19にて画像有りと判断された場合には、ステップS20に処理を進める。ステップS20において、画像生成部33は、X方向の1つのラインに沿ってスキャンしたときの、プロファイルを読み込む。図5は、試料12の表面の一例を示す画像であり、黒い円形部分が凹部を示している。例えば、直線M1に沿ってスキャンしたときのプロファイルを読み込む。
【0038】
ステップS21において、プロファイルのXラインの傾斜(Xチルト)がゼロであるか否かを判断する。例えば、図6(a)に示すように、符号k1に示すプロファイルが得られた場合には、各凹凸部分の中心位置が傾斜しており、中心位置を結ぶラインm1が画像の横軸方向に対して傾斜している。このような場合には、Xチルト=0でないと判断する。ステップS22において、Zピエゾ制御回路22は、Xチルト=0となるように、Zピエゾ15aを駆動する。図6(b)に示すように、符号k2に示すプロファイルが得られ、ラインm2が画像の横軸方向に対してほぼ平行となった場合に、Xチルト=0と判断する。
【0039】
Xチルト=0である場合には、ステップS23において、プロファイルのYラインの傾斜(Yチルト)がゼロであるか否かを判断する。Yチルト=0でない場合には、ステップS25において、Zピエゾ制御回路22は、Yチルト=0となるように、Zピエゾ15aを駆動する。
【0040】
Yチルト=0である場合には、ステップS26において、プリスキャンにより得られるプロファイルに基づいて、再度Xチルト、Yチルトがゼロであるか否かを判断し、ゼロである場合には、ステップS28に処理を進める。ステップS20~S27の処理により、画像の傾斜を補正することができる。
【0041】
ステップS28において、画像生成部33は、取得した画像のXラインプロファイルを読み込む。
ステップS29において、パラメータ設定部32は、制御回路21の積分ゲインを調整する。
【0042】
ステップS30において、画像解析部35は、プリスキャンにより得られる画像に基づき、凹凸部のエッジの傾き、コントラスト、及び往復プロファイルの比較、の少なくとも一つの要因に基づいて、制御回路21の設定されている積分ゲインが適切な数値であるか否かを判断し、更に、適切でなければ適切な数値となるように、積分ゲインを調整する。以下、詳細に説明する。
【0043】
(凹凸部のエッジの傾き)
例えば、図7(a)に示すように、プリスキャンにより得られる画像がやや不鮮明な場合には、Xライン(画像の横方向のライン)のプロファイルは、図7(c)の符号p2に示すようなエッジ部分で滑らかになる曲線となる。符号R1に示すように、凹凸部のエッジでの曲線p2の立ち上がり、或いは立ち下がりの傾きは、緩やかである。画像解析部35は、このエッジの傾きd1を演算し、この傾きd1が予め設定した閾値dth(第1の閾値)よりも大きいか否かを判断する。d1<dthである場合には、積分ゲインは適切な数値ではない(NG)と判断する。
【0044】
そして、傾斜d1が大きくなる方向に積分ゲインを変化させ、d1≧dthとなった場合に、積分ゲインが適切な数値になったものと判断する。例えば、傾きd1が大きくなり、図7(c)の符号p1に示す曲線のようになった場合に、積分ゲインが適切であると判断する。この場合、プリスキャンにより得られる画像は、図7(b)に示すように鮮明な画像となる。
【0045】
(コントラスト)
上述した図7(a)のように、画像がやや不鮮明な場合には、Xラインのプロファイルは、凹部と凸部の振幅の差分Q1が小さい(図7(c)参照)。従って、画像化したときのコントラストが低くなる。画像解析部35は、振幅の差分Q1を演算し、差分Q1が予め設定した閾値Qth(第2の閾値)よりも大きいか否かを判断する。Q1<Qthである場合には、積分ゲインは適切な数値ではない(NG)と判断する。
【0046】
そして、差分Q1が大きくなる方向に積分ゲインを変化させ、Q1≧Qthとなった場合に、積分ゲインが適切な数値になったものと判断する。例えば、差分Q1が大きくなり、図7(c)の符号p1に示す曲線の振幅になった場合に、積分ゲインが適切であると判断する。
【0047】
(往復プロファイルの比較)
前述したように、カンチレバー11で試料12をスキャンする際には、試料台13をXY平面上で、X方向にジグザグにスキャンする。この場合、X軸方向の往路と復路では、若干Y方向に変位しているものの、ほぼ同一のXラインをスキャンすることになるので、往路と復路でプロファイルに大きな差はないはずである。従って、往路と復路のプロファイルを取得し、これらを比較することにより、積分ゲインが適切であるか否かを判断する。
【0048】
図8(a)は、符号q1が往路のプロファイルの一例を示し、符号Q2が復路のプロファイルの一例を示している。図8(a)から明らかなように、曲線q1とq2との間には大きなずれが生じている。このような場合には、曲線q1とq2が一致、或いはほぼ一致するように積分ゲインを調整する。そして、図8(b)に示すように、曲線q1とq2の差分がほぼゼロとなった場合に、積分ゲインが適切であると判断する。判断方法は、一例として、往路のプロファイルと復路のプロファイルの一致度を相関係数等を演算して算出し、一致度が予め設定した第3の閾値よりも大きい場合に、往路のプロファイルと復路のプロファイルが一致していると判断する。
なお、上述したように、凹凸部のエッジの傾き、コントラスト、往復プロファイルの比較を全て行う必要はなく、これらのうちの少なくとも一つを実施することにより、積分ゲインを設定することができる。
【0049】
そして、図3BのステップS31では、上述した方法により積分ゲインが適切であると判断された場合には、「OK」であると判断して、ステップS32に処理を進める。
ステップS32において、画像生成部33は、プリスキャンにより得られるデータからAFM画像を生成する。ステップS33において、生成したAFM画像が鮮明な画像であるか否かを判断し、鮮明な画像が得られた場合には、積分ゲインの設定を終了し、本スキャンの実施に移行する(ステップS34)。
【0050】
こうして、試料12の測定を開始する前の、制御回路21で設定する積分ゲイン(制御パラメータ)を自動設定することができるのである。
【0051】
このようにして、本実施形態に係る原子間力顕微鏡100では、以下に示す効果を達成することができる。
(1)
試料の測定時にプリスキャンを実行し、試料表面の凹凸データに基づいて制御回路21の制御パラメータ(例えば、PID制御の積分ゲイン)を自動で設定する。従って、操作者の熟練度に関係なく、制御パラメータを設定できるので、短時間で制御パラメータを最適に設定することが可能となる。
【0052】
(2)
試料表面をプリスキャンして得られるデータからX方向のプロファイルを生成し、更に、制御回路21の制御パラメータを調整し、プロファイルから得られるエッジの傾きが閾値dth(第1の閾値)を上回ったときの制御パラメータを求め、これを制御パラメータに設定する。凹凸部のエッジの傾きが大きいということは、画像が鮮明に表示されているということであり、制御パラメータを好適な数値に設定することが可能となる。従って、操作者の熟練度に関係なく、制御パラメータを短時間で且つ好適に設定することが可能となる。
【0053】
(3)
試料表面をプリスキャンして得られるデータからX方向のプロファイルを生成し、更に、制御回路21の制御パラメータを調整し、プロファイルから得られる凹凸部の振幅の差分Q1が閾値Qth(第2の閾値)を上回ったときの制御パラメータを求め、これを制御パラメータに設定する。凹凸部の振幅の差分が大きいということは、画像のコントラストが大きく、鮮明に表示されているということであり、制御パラメータを好適な数値に設定することが可能となる。従って、操作者の熟練度に関係なく、制御パラメータを短時間で且つ好適に設定することが可能となる。
【0054】
(4)
試料表面をプリスキャンして得られるデータからX方向の、一往復のプロファイルを生成し、更に、制御回路21の制御パラメータを調整し、往路のプロファイルと復路のプロファイルの一致度が高い(第3の閾値よりも大きい)場合に、このときの制御パラメータを求め、これを制御パラメータとして設定する。往路と復路でプロファイルが一致しているということは、正確にスキャンが行われてプロファイルが取得されているということであり、制御パラメータを好適な数値に設定することが可能となる。従って、操作者の熟練度に関係なく、制御パラメータを短時間で且つ好適に設定することが可能となる。
【0055】
以上、本発明の実施形態を記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。
【符号の説明】
【0056】
11 カンチレバー
11a 探針
12 試料
13 試料台
15 スキャナ
15a Zピエゾ(Z方向スキャナ)
15b XYピエゾ
16 モータ
17 レーザダイオード
18 フォトダイオード
18a、18b フォトディテクタ
19 差動増幅器
20 振幅検出器
21 制御回路
21a 演算部
22 Zピエゾ制御回路
23 XYピエゾ制御回路
24 モータ制御回路
30 コントローラ
31 目標電圧出力部
32 パラメータ設定部
33 画像生成部
34 駆動指令部
35 画像解析部
100 原子間力顕微鏡
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7
図8