(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-28
(45)【発行日】2022-03-08
(54)【発明の名称】傾動式重力鋳造装置
(51)【国際特許分類】
B22D 23/00 20060101AFI20220301BHJP
B22D 33/02 20060101ALI20220301BHJP
【FI】
B22D23/00 A
B22D33/02
(21)【出願番号】P 2019062642
(22)【出願日】2019-03-28
【審査請求日】2020-10-07
(73)【特許権者】
【識別番号】390003447
【氏名又は名称】川▲崎▼工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121496
【氏名又は名称】中島 重雄
(72)【発明者】
【氏名】川▲崎▼ 康司
【審査官】酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2004/0065429(US,A1)
【文献】特開昭64-011783(JP,A)
【文献】特開2003-205359(JP,A)
【文献】特開2002-120060(JP,A)
【文献】特開2003-251454(JP,A)
【文献】特開平10-296429(JP,A)
【文献】国際公開第2005/099932(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 23/00,33/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メカニカルブレーキを有するサーボモータの駆動によって上型および下型を有する金型を閉じて溶湯を前記金型のキャビティに注ぐと共に、前記金型で鋳造された完成品を取り出すため前記下型に対し前記上型を開けた後、前記上型を安定待機位置まで回転させるように構成した傾動式重力鋳造装置であって、
前記安定待機位置にある前記上型を前記サーボモータの駆動によって回転させる
ことにより一旦上昇させた後に下降させて閉じる際、
前記サーボモータのサーボ制御は行わずに前記サーボモータを駆動して回転させると共に、前記サーボモータのメカニカルブレーキによって前記上型に対しブレーキをかけるよう
前記サーボモータおよび前記メカニカルブレーキを制御する制御部を有することを特徴とする。
【請求項2】
請求項1記載の傾動式重力鋳造装置において、
前記制御部は、さらに、前記金型で鋳造された完成品を取り出すため前記サーボモータの駆動によって前記下型に対し前記上型を開けた後、
前記上型を回転させて一旦上昇させ、その後に下降させて前記安定待機位置まで回転させる際、
前記サーボモータのサーボ制御は行わずに前記サーボモータを駆動して回転させると共に、前記サーボモータのメカニカルブレーキによって前記上型に対しブレーキをかけるよう
前記サーボモータおよび前記メカニカルブレーキを制御することを特徴とする傾動式重力鋳造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サーボモータを備えた傾動式重力鋳造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の傾動式重力鋳造装置として、例えば、サーボモータの駆動によって上型および下型を有する金型を閉じた後、溶湯が注がれた金型を回転させて鋳造を行うと共に、金型で鋳造された完成品を取り出すため下型に対し上型を開けた後、安定待機位置まで回転させるように構成した各種の傾動式重力鋳造装置が提案されている(例えば、特許文献1~3参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5124258号公報
【文献】特許第2928118号公報
【文献】特許第4277265号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上述の特許文献1~3に記載の従来の傾動式重力鋳造装置では、上型を回動させて下型に閉める場合や、金型で鋳造された完成品を取り出すため下型に対し上型を開ける場合でも、サーボモータのサーボ制御により行っていたため、上型の重量が大きい場合には、サーボ制御ではサーマルトリップ等のサーボエラーを起こす場合があるという問題がある。
【0005】
特に、上型が頂点から下側に向かって下降する間は、上型の重量によって大きな慣性力がサーボモータや減速機にかかるため、サーボエラーが発生し易かった。
【0006】
そこで、本発明はこのような問題点に着目してなされたもので、金型を傾動させるサーボモータのサーボエラーの発生を防止することができる傾動式重力鋳造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため、本発明に係る傾動式重力鋳造装置は、メカニカルブレーキを有するサーボモータの駆動によって上型および下型を有する金型を閉じて溶湯を前記金型のキャビティに注ぐと共に、前記金型で鋳造された完成品を取り出すため前記下型に対し前記上型を開けた後、前記上型を安定待機位置まで回転させるように構成した傾動式重力鋳造装置であって、前記安定待機位置にある前記上型を前記サーボモータの駆動によって回転させることにより一旦上昇させた後に下降させて閉じる際、前記サーボモータのサーボ制御は行わずに前記サーボモータを駆動して回転させると共に、前記サーボモータのメカニカルブレーキによって前記上型に対しブレーキをかけるよう前記サーボモータおよび前記メカニカルブレーキを制御する制御部を有することを特徴とする傾動式重力鋳造装置。
また、本発明に係る傾動式重力鋳造装置では、前記制御部は、さらに、前記金型で鋳造された完成品を取り出すため前記サーボモータの駆動によって前記下型に対し前記上型を開けた後、前記上型を回転させて一旦上昇させ、その後に下降させて前記安定待機位置まで回転させる際、前記サーボモータのサーボ制御は行わずに前記サーボモータを駆動して回転させると共に、前記サーボモータのメカニカルブレーキによって前記上型に対しブレーキをかけるよう前記サーボモータおよび前記メカニカルブレーキを制御することも特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の傾動式重力鋳造装置によれば、安定待機位置にある上型をサーボモータの駆動によって回転させて閉じる際、少なくとも上型が頂点から下側に向かって下降する間は、サーボモータのメカニカルブレーキによって上型に対しブレーキをかけるようメカニカルブレーキを制御するため、サーボモータのサーボエラーの発生を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明に係る実施形態の傾動式重力鋳造装置による鋳造方法の各工程と、各工程におけるサーボ制御とメカニカルブレーキ制御のオン・オフ状態を示す図である。
【
図2】本発明に係る実施形態の傾動式重力鋳造装置において上型が開いている待機工程の状態を示す図である。
【
図3】本発明に係る実施形態の傾動式重力鋳造装置において上型を下側上方まで回転させる上型回転下降工程の動作を示す図である。
【
図4】本発明に係る実施形態の傾動式重力鋳造装置において上型と下側とを閉じる金型閉め工程の動作を示す図である。
【
図5】(a)~(c)それぞれ、本発明に係る実施形態の傾動式重力鋳造装置の金型傾斜工程における金型の傾斜動作を示す図である。
【
図6】(a)~(c)それぞれ、本発明に係る実施形態の傾動式重力鋳造装置の金型起立工程における金型の起立動作を示す図である。
【
図7】本発明に係る実施形態の傾動式重力鋳造装置において金型内で製品完成後に下型から上型を離す金型開き工程の動作を示す図である。
【
図8】本発明に係る実施形態の傾動式重力鋳造装置において金型内で製品完成後に下型から上型を離した後、上型を安定待機位置まで回転させて戻す上型回転上昇工程の動作を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係る傾動式重力鋳造装置の実施の形態を、添付図面を参照しながら詳細に説明する。尚、下記に説明する実施形態は、あくまで本発明の一例であり、本発明に係る傾動式重力鋳造装置は、本発明の技術的思想の範囲内で適宜変更可能である。
【0011】
<実施形態の傾動式重力鋳造装置1の概略構成>
本発明に係る実施形態の傾動式重力鋳造装置1は、
図2~
図8に示すように、メカニカルブレーキ(以下、図面中ではメカブレーキと略す。)12aを有するサーボモータ12の駆動によって上型13aおよび下型13bを有する金型を閉じた後、金型に溶湯を金型のキャビティに注ぎ、回転等して傾動させて鋳造を行うと共に、金型で鋳造された完成品を取り出すため下型13bに対し上型を開けた後、後方へ回転させるように制御を行う制御部11を有するものである。尚、
図2~
図8では、実施形態の傾動式重力鋳造装置1の構成を簡略化して本発明に関連する主要な構成のみを図示しており、図示した構成以外のラドル等の構成も当然有している。
【0012】
<実施形態の傾動式重力鋳造装置1における制御部11の制御>
次に、実施形態の傾動式重力鋳造装置1における制御部11の制御について、
図1を参照して説明する。
【0013】
図1は、本発明に係る実施形態の傾動式重力鋳造装置1による鋳造方法の各工程と、各工程におけるサーボ制御およびメカニカルブレーキ制御のオン・オフ状態を示す図である。
【0014】
(1)待機工程(S100;
図2)
待機工程の傾動式重力鋳造装置1では、
図2に示すように、上型13aは傾斜した安定待機状態にあり、サーボモータ12の回転軸(図示せず。)には、上型13aの重量によって減速機14を介し時計方向に回転する力がかかっている。
【0015】
そのため、制御部11は、この待機工程では、サーボモータ12に対しサーボ制御は行わず、メカニカルブレーキ12aをオンさせて上型13aの傾斜した安定待機状態を保持している。
【0016】
尚、この待機工程では、上型13aが下型13bに対し大きく開いているため、金型により鋳造された製品の取り出しや、金型に対し中子(図示せず。)のセット作業等を行う。
【0017】
(2)上型回転下降工程(S200;
図3)
上型回転下降工程(S200)では、
図2に示すような傾斜した安定待機状態で開いた状態の重量が重い上型13aをサーボモータ12によって閉じ方向に回転させて下型13bの上方まで移動させる必要があるため、制御部11はサーボエラーが発生しないようサーボ制御は行わず、メカニカルブレーキ12aをオンさせてメカニカルブレーキ12aの制御であるメカブレーキ制御を行ないながら、
図2に示すような傾斜した安定待機状態で開いた状態から
図3に示すような下型13bの上方まで移動させる。
【0018】
特に、上型13aが頂点の高い位置から
図3に示すような下型13bの上方まで下降する際には、上型13aの重量によって上型13aに慣性力が働くため、メカニカルブレーキ12aにより上型13aの下降に対しブレーキをかける。
【0019】
これにより、
図2に示すような傾斜した安定待機状態で開いた状態から
図3に示すような下型13bの上方まで移動する際、サーボ制御を行なわないので、上型13aが頂点の位置から
図3に示すような下型13bの上方まで移動する際に上型13aの重量や慣性力等によってサーボエラーが発生することを防止することができる。
【0020】
特に、上型13aが頂点の高い位置から
図3に示すような下型13bの上方まで下降する間は、サーボ制御を行なうと上型13aの重量や慣性力等によってサーボエラーが発生しやすいが、この間、制御部11はサーボ制御を行なわず、メカニカルブレーキ12aにより上型13aの下降に対しブレーキをかけるので、確実にサーボエラーの発生を防止することができる。
【0021】
(3)金型閉め工程(S300;
図4)
金型閉め工程(S300)では、
図4に示すように上型13aと下型13bとを完全に閉め、その後、ラドル(図示せず。)から溶湯を金型内のキャビティに供給して鋳造を開始するため、制御部11は、メカニカルブレーキ12aはオフにして、従来通りサーボ制御を開始する。
【0022】
尚、制御部11は、上型13aと下型13bとを完全に閉める前にサーボ制御を開始できるよう、上型13aが下型13bに完全に閉める直前をセンサ(図示せず。)等により検出してメカニカルブレーキ12aはオフにし、上型13aと下型13bとを完全に閉める作業は従来通りサーボ制御により行う。
【0023】
そして、制御部11は、上型13aと下型13bとが完全に閉まったことを検出すると、
図4では図示していないが、ラドル(図示せず。)から溶湯を金型内のキャビティに供給して、次に説明する傾斜工程を行う。
【0024】
(4)金型傾斜工程(S400;
図5)
金型傾斜工程(S400)では、制御部11は、従来通りサーボ制御を行ない、メカニカルブレーキ12aはオフ、すなわちメカブレーキ制御はオフにした状態で、サーボモータ12のサーボ制御された回転を減速機14で減速しながら上型13aと下型13bとを完全に閉じた金型を矢印方向、すなわち
図5(a)に示す状態から
図5(b)に示す状態、さらには
図5(c)に示す状態までサーボ制御によって回転させる。
【0025】
(5)金型起立工程(S500;
図6)
金型起立工程(S500)でも、
図5(a)~(c)に示す傾斜工程と同様に、制御部11は、メカニカルブレーキ12aをオフにした状態で従来通りサーボ制御を行なって、
図6(a)~(c)に示すように、サーボモータ12のサーボ制御された回転を減速機14で減速しながら上型13aと下型13bとを閉じた金型を矢印の方向、すなわち
図6(a)に示す状態から
図6(b)に示す状態、さらには
図6(c)に示す状態までサーボ制御によって回転させる。
【0026】
尚、金型閉め工程(S300)後に金型内に溶湯が供給され、その後の傾斜工程(S500)と起立工程(S600)とによって金型は1回転するため、金型に流し込んだ溶湯が金型と中子(図示せず。)との間のキャビテイに行き渡って、鋳造による製品が完成する。ただし、傾斜工程(S500)と起立工程(S600)とによって金型を回転させる角度は、鋳造する完成品の形状等によって変わるため、1回転未満でも、1回転以上でもかまわない。
【0027】
(6)金型開き工程(S600;
図7)
以上説明した傾斜工程(S500)と起立工程(S600)とによって金型が回転すると、金型に流し込んだ溶湯が金型と中子(図示せず。)との間のキャビテイに行き渡って鋳造による製品が完成するため、金型内で鋳造製品の完成後、制御部11は、サーボモータ12に従来通りサーボ制御の指令を送って、金型開き工程(S600)によって金型を構成する上型13aを下型13bから離す。尚、この際もメカニカルブレーキ12aはオフである。
【0028】
(7)上型回転上昇工程(S700)
金型開き工程(S600)が終了すると、制御部11は、下型13bから完成品を取り出すため、回転軸を中心に上型11aを回転させて昇降させる指令をサーボモータ12に対し送る。その際、制御部11は、サーボモータ12をサーボ制御はオフにして、メカニカルブレーキ12aをオンしてメカニカルブレーキの制御によって上型13aを
図8に示すように安定待機位置まで上昇させる。
【0029】
これにより、
図7に示すように上型13aと下型13bが開いた状態から
図8に示すような上型13aの安定待機状態まで移動する際、制御部11はサーボ制御を行なわないので、上型13aの重量や慣性力等によってサーボエラーが発生することを防止することができる。
【0030】
特に、上型13aが頂点の高い位置から安定待機位置まで下降する間は、サーボ制御を行なうと上型13aの重量や慣性力等によってサーボエラーが発生しやすいが、この間、制御部11は、制御部11はサーボ制御を行なわず、メカニカルブレーキ12aにより上型13aの下降に対しブレーキをかけるので、確実にサーボエラーの発生を防止することができる。
【0031】
<実施形態の傾動式重力鋳造装置1の効果>
以上説明したように、本発明に係る実施形態の傾動式重力鋳造装置1は、上型13aを安定待機状態で待機させる待機工程(S100)、安定待機位置にある上型13aをサーボモータ12の駆動によって下型13bの方に下降させる上型回転下降工程(S200)および下型13bから離した上型13aを安定待機位置まで移動させる上型回転上昇工程(S700)では、制御部11は、サーボモータ12のメカニカルブレーキ12aによって上型13aに対しブレーキをかけるようメカニカルブレーキ12aでブレーキ制御を行なうため、上型13aが頂点から下側に向かって下降する際に上型13aの重量によって上型13aが勝手に下降しようとしてもサーボモータ12のサーボエラーの発生を防止することができる。
【0032】
特に、実施形態の傾動式重力鋳造装置1では、待機工程(S100)、上型回転下降工程(S200)および上型回転上昇工程(S700)においてメカニカルブレーキ12aでメカブレーキ制御を行なう場合、制御部11は、サーボモータ12のサーボ制御をオフにして実行しないので、サーボモータ12のサーボエラーの発生を確実に防止することができる。
【0033】
尚、上記実施形態の説明では、高所の安定待機位置にある上型13aをサーボモータ12の駆動によって下型13bの方に回転させて閉じる場合および閉じていた上型13aを下型13bから離して高所の安定待機位置の移動させる場合にメカニカルブレーキ12aでブレーキ制御を行なう際、制御部11は、サーボモータ12のサーボ制御を実行しないように説明したが、本発明では、これらの場合にメカニカルブレーキ12aによるブレーキ制御と共に、サーボモータ12のサーボエラーが発生しない程度にサーボ制御を行なうようにしても勿論良い。
【符号の説明】
【0034】
1 傾動式重力鋳造装置
11 制御部
12 サーボモータ
12a メカニカルブレーキ
13a 上型
13b 下型
14 減速機