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特許7031923常温施工型アスファルト合材及びその製造方法
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  • 特許-常温施工型アスファルト合材及びその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-28
(45)【発行日】2022-03-08
(54)【発明の名称】常温施工型アスファルト合材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   E01C 7/35 20060101AFI20220301BHJP
【FI】
E01C7/35
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021214151
(22)【出願日】2021-12-28
【審査請求日】2021-12-28
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390017628
【氏名又は名称】大有建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】特許業務法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長▲崎▼ 洋
(72)【発明者】
【氏名】小椋 拓実
(72)【発明者】
【氏名】宮地 将大
【審査官】彦田 克文
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-66980(JP,A)
【文献】国際公開第2021/006292(WO,A1)
【文献】特開昭63-137959(JP,A)
【文献】特開2019-85322(JP,A)
【文献】特開2017-71674(JP,A)
【文献】特開2003-327835(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01C 7/00 - 19/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
常温施工型アスファルト合材であって、
骨材と、
アスファルト及び脂肪酸を含み前記骨材の周囲を覆うバインダ層と、
前記バインダ層の周囲を覆うアルカリ性添加材層と、
前記アルカリ性添加材層の周囲を覆う縮合ヒドロキシ脂肪酸層と、
を備えた、常温施工型アスファルト合材。
【請求項2】
請求項1に記載の常温施工型アスファルト合材であって、
前記縮合ヒドロキシ脂肪酸層は、ひまし油系縮合脂肪酸を含有する、常温施工型アスファルト合材。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の常温施工型アスファルト合材であって、
前記アルカリ性添加材層は、セメントを含有する、常温施工型アスファルト合材。
【請求項4】
常温施工型アスファルト合材の製造方法であって、
骨材とバインダとを混合することで前記骨材が前記バインダで被覆された第一混合体を形成する工程と、
前記第一混合体とアルカリ性添加材とを混合することで前記第一混合体が前記アルカリ性添加材で被覆された第二混合体を形成する工程と、
前記第二混合体と縮合ヒドロキシ脂肪酸とを混合することで前記第二混合体を前記縮合ヒドロキシ脂肪酸で被覆する工程と、
を備えた、常温施工型アスファルト合材の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、常温施工型アスファルト合材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、道路下の埋設管掘削工事に伴う道路舗装の仮復旧や、局所的に発生する既設道路舗装の破損箇所を補修するため、あるいは災害時における緊急舗装等で、施工現場において常温状態で施工可能な常温施工型アスファルト合材が使用されている。従来の常温施工型アスファルト合材としては、鉱物油等を使用してアスファルト合材の粘度を強制的に低下させる、いわゆるカットバックアスファルト合材があった(特許文献1)。特許文献1のカットバックアスファルト合材は、鉱物油等のカットバック材を含むことによりアスファルトが軟化した状態で施工を行い、施工後は、カットバック材が揮発することで、アスファルト合材がアスファルト本来の強度を発揮する。通常、施工後は早期の交通開放が望まれるため、短い養生時間で所望の強度を発揮するアスファルト合材が求められる。しかし、カットバックアスファルト合材では、カットバック材の揮発に要する時間が長く、施工後の交通開放が迅速に行えないといった問題があった。
【0003】
そこで、カットバック材としての鉱物油に代えて、油脂または脂肪酸を使用し、アルカリ性添加物を添加・混合して、アスファルトの粘度を低下させた常温施工型アスファルト合材が提案されている(特許文献2)。特許文献2の常温施工型アスファルト合材は、施工中もしくは施工直後にアスファルト合材に硬化促進剤を供給することにより、油脂または脂肪酸とアルカリ性添加物とが急速に鹸化反応し、硬化することで早期の交通開放が可能となる。
【0004】
また、特許文献3には、骨材と、バインダ層と、添加材層と、表面被覆層とを備えた常温施工型アスファルト合材が記載されている。添加材層は、脂肪酸であるダイマー酸を含む。特許文献3の常温施工型アスファルト合材では、表面被覆層は水和反応材で構成されており、施工時に散布する水による水和反応で硬化し、それにより初期強度を向上させている。添加材層に含まれるダイマー酸は、バインダ層に含まれるアルカリ性粉末と鹸化反応することによって硬化する働きを有している。また、表面に表面被覆層が形成されることによって、貯蔵中に合材同士が付着せず、そのため貯蔵安定性が高くなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平11-12475号公報
【文献】特許第5583978号公報
【文献】特開2017-71764号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
施工後の迅速な交通開放を実現するため、油脂や脂肪酸を用いた常温施工型アスファルト合材においては、アルカリ性添加材の添加量を増やして鹸化反応を早めることにより初期強度を高めることが考えられる。しかしながら、アルカリ性添加材は空気中の湿気(水分)とも反応して常温施工型アスファルト合材の硬化が進むため、アルカリ性添加材の添加量を増加させると、貯蔵安定性が悪化するという問題が生じる。例えば、特許文献2の常温施工型アスファルト合材は、アルカリ性添加材の割合が20%を超えると、1カ月以上の貯蔵が困難となる。
【0007】
そこで本開示は、優れた貯蔵安定性を有し、施工後に高い初期強度を実現できる常温施工型アスファルト合材を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そのための手段として、本発明は以下の手段を採る。
[1]常温施工型アスファルト合材であって、骨材と、アスファルト及び脂肪酸を含み前記骨材の周囲を覆うバインダ層と、前記バインダ層の周囲を覆うアルカリ性添加材層と、前記アルカリ性添加材層の周囲を覆う縮合ヒドロキシ脂肪酸層と、を備えた、常温施工型アスファルト合材。
[2][1]に記載の常温施工型アスファルト合材であって、前記縮合ヒドロキシ脂肪酸層は、ひまし油系縮合脂肪酸を含有する、常温施工型アスファルト合材。
[3][1]または[2]に記載の常温施工型アスファルト合材であって、前記アルカリ性添加材層は、セメントを含有する、常温施工型アスファルト合材。
[4]常温施工型アスファルト合材の製造方法であって、骨材とバインダとを混合することで前記骨材が前記バインダで被覆された第一混合体を形成する工程と、前記第一混合体とアルカリ性添加材とを混合することで前記第一混合体が前記アルカリ性添加材で被覆された第二混合体を形成する工程と、前記第二混合体と縮合ヒドロキシ脂肪酸とを混合することで前記第二混合体を前記縮合ヒドロキシ脂肪酸で被覆する工程と、を備えた、常温施工型アスファルト合材の製造方法。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本開示の常温施工型アスファルト合材の製造過程を示した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示の実施形態に係る常温施工型アスファルト合材(以下、アスファルト合材という)及びその製造方法について、添付図面を参照しつつ説明する。
【0011】
図1に示すように、本開示のアスファルト合材7は、骨材1と、骨材1の周囲を覆うバインダ層2と、バインダ層2の周囲を覆うアルカリ性添加材層3と、アルカリ性添加材層3の周囲を覆う縮合ヒドロキシ脂肪酸層4とを備えている。
【0012】
≪骨材≫
骨材1は、道路舗装に使用される公知の骨材を使用でき、通常、粗骨材、細骨材、およびフィラーを含有している。粗骨材、細骨材およびフィラーは、一般的なものが使用可能である。粗骨材としては、砕石、砂利、鉄鋼スラグ、人工焼成骨材、焼成発泡骨材、人工軽量骨材、陶磁器粒、エメリーなどが使用できる。また、既存舗装の廃材を粉砕して製造された再生骨材を使用してもよい。細骨材としては、天然砂、人工砂、スクリーニングス等の公知のものが挙げられる。フィラーは、石灰岩やその他の岩石を粉砕した石粉、消石灰、回収ダストまたはフライアッシュ等の公知のものが挙げられる。粗骨材、細骨材、およびフィラーはそれぞれ、1種のみを単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0013】
≪バインダ層≫
バインダ層2は、アスファルトと脂肪酸とを含有するバインダからなり、骨材1の周囲を被覆している。なお、バインダ層2は骨材1の周囲全てを被覆していることが好ましいが、その一部を被覆していてもよい。アスファルトとしては、ストレートアスファルト、ブローンアスファルト、ポリマー改質アスファルト等の道路舗装に用いられる公知のものが使用可能である。脂肪酸は、1つのカルボキシ基を有する脂肪族化合物である。脂肪酸としては、例えば、動植物由来の飽和脂肪酸、及び不飽和脂肪酸の単体および混合物が挙げられる。なお、バインダ層2に含有される脂肪酸には、後述する縮合ヒドロキシ脂肪酸は含まれない。
【0014】
飽和脂肪酸としては、一般的なものが使用可能である。例えば、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ドデカン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸、イコサン酸、ドコサン酸、テトラコサン酸、ヘキサコサン酸、オクタコサン酸、及びトリアコンタン酸などが挙げられる。
【0015】
不飽和脂肪酸としては、一般的なものが使用可能である。例えば、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、トール油脂肪酸、(脱水)ひまし油脂肪酸、大豆油脂肪酸、桐油脂肪酸、アマニ油脂肪酸、米糠油脂肪酸、綿実油脂肪酸、オリーブ油脂肪酸、サフラワー油脂肪酸、(水添)ヤシ油脂肪酸、パーム油脂肪酸などの植物由来、あるいは、牛脂などの動物由来の乾性油、半乾性油、または不乾性油脂肪酸などが挙げられる。
【0016】
≪アルカリ性添加材層≫
アルカリ性添加材層3は、アルカリ性添加材からなり、バインダ層2の周囲を被覆している。なお、アルカリ性添加材層3はバインダ層2の周囲全てを被覆することが好ましいが、その一部を被覆していてもよい。アルカリ性添加材としては、石灰、消石灰、普通ポルトランドセメント等の公知のものが挙げられるが、これらに限定されるものではなく、水添加時にアルカリ成分となる化合物であればよい。
【0017】
≪縮合ヒドロキシ脂肪酸層≫
縮合ヒドロキシ脂肪酸層4は、縮合ヒドロキシ脂肪酸からなり、アルカリ性添加材層3の周囲を被覆している。縮合ヒドロキシ脂肪酸は、分子内にヒドロキシ基とカルボキシ基を有するヒドロキシ脂肪酸が分子間でエステル化し、多量体となっているものである。縮合ヒドロキシ脂肪酸は、例えば、ヒドロキシ脂肪酸に苛性ソーダ等のアルカリ触媒を添加し、加熱下で反応水を除去することにより脱水縮合して、得ることができる。
【0018】
ヒドロキシ脂肪酸の具体例としては、例えば、リシノール酸、ジヒドロキシステアリン酸、α-オキシリノレン酸、ヒドロキシペラルゴン酸、ヒドロキシカプリン酸、ヒドロキシラウリル酸、ヒドロキシミリスチン酸、ヒドロキシパルミチン酸、ヒドロキシステアリン酸、ヒドロキシアラキン酸、ヒドロキシベヘン酸、ヒドロキシオクタデセン酸、サビニン酸、2-ヒドロキシテトラデカン酸、イプロール酸、2-ヒドロキシヘキサデカン酸、ヤラピノール酸、ユニペリン酸、アンブレットール酸、アリューリット酸、2-ヒドロキシオクタデカン酸、18-ヒドロキシオクタデカン酸、9,10-ジヒドロキシオクタデカン酸、カムロレン酸、フェロン酸、セレブロン酸などが挙げられる他、天然油脂より採取したひまし油脂肪酸、硬化ひまし油脂肪酸、ジヒドロキシ化ナタネ油脂肪酸などが挙げられる。
【0019】
縮合ヒドロキシ脂肪酸としては、上記のヒドロキシ脂肪酸の少なくとも1種を脱水縮合した縮合ヒドロキシ脂肪酸が挙げられる。これらの中でも、ひまし油脂肪酸、硬化ひまし油脂肪酸等のひまし油由来のヒドロキシ脂肪酸を脱水縮合して得られる、ひまし油系縮合脂肪酸が好ましい。縮合ヒドロキシ脂肪酸は、単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0020】
≪その他の添加剤≫
本開示のアスファルト合材7は、本開示の効果を阻害しない範囲でその他の添加剤を含有していてもよい。その他の添加剤として具体的には、粘着性付与樹脂、耐ブロッキング剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、無機充填剤などを1種類単独で若しくは2種以上を混合して加えることができる。
【0021】
≪配合割合≫
脂肪酸と縮合ヒドロキシ脂肪酸の割合は適宜変更可能であるが、貯蔵安定性と施工後の初期強度のバランスの観点から、脂肪酸と縮合ヒドロキシ脂肪酸の合計100質量%に対して、脂肪酸は50~90質量%であることが好ましく、60~85質量%であることが更に好ましい。また、アルカリ性添加材の含有量も適宜変更可能であるが、施工後の初期強度の観点から、脂肪酸と縮合ヒドロキシ脂肪酸の合計100質量部に対し、40~90質量部であることが好ましく、50~80質量部であることが更に好ましい。
【0022】
≪アスファルト合材の製造≫
次に、図1を参照しながら、本開示のアスファルト合材7の製造方法を説明する。まず、骨材の原料を混合装置内に仕込み、原料が略均一になるまでドライミキシングを行い、骨材1を形成する。ドライミキシングの温度および時間は特に限定されないが、通常、温度は100~140℃程度であり、時間は1~150秒程度である。
【0023】
次いで、骨材1にバインダを噴射した後、これらを混合することで、骨材1がバインダで被覆された第一混合体5を形成する。第一混合体5では、骨材1の周りにバインダ層2が形成されている。本工程では、骨材1にバインダを噴射して混合することで、バインダを骨材1の表面に均一に被覆することができる。本工程における混合温度および時間は特に限定されないが、通常、温度は100~140℃程度であり、時間は1~90秒程度である。
【0024】
次いで、第一混合体5にアルカリ性添加材を噴射した後、これらを混合することで、第一混合体5がアルカリ性添加材で被覆された第二混合体6を形成する。第二混合体6では、第一混合体5、より詳しくはバインダ層2の周りにアルカリ性添加材層3が形成されている。本工程では、第一混合体5にアルカリ性添加材を噴射して混合することで、アルカリ性添加材を第一混合体5の表面に均一に被覆することができる。本工程における、混合温度および時間は特に限定されないが、通常、温度は100~140℃程度であり、時間は1~90秒程度である。
【0025】
次いで、第二混合体6に縮合ヒドロキシ脂肪酸を噴射した後、これらを混合することで、第二混合体6が縮合ヒドロキシ脂肪酸で被覆されたアスファルト合材7を形成する。アスファルト合材7では、第二混合体6、より詳しくはアルカリ性添加材層3の周りに縮合ヒドロキシ脂肪酸層4が形成されている。本工程では、第二混合体6に縮合ヒドロキシ脂肪酸を噴射して混合することで、縮合ヒドロキシ脂肪酸を第二混合体6の表面に均一に被覆することができる。本工程における混合温度および時間は特に限定されないが、通常、温度は100~140℃程度であり、時間は1~90秒程度である。
【0026】
本開示においては、骨材を混合し、次いで、バインダ、アルカリ性添加材、縮合ヒドロキシ脂肪酸の順に添加・混合する。それにより、得られるアスファルト合材7は図1に示すように、骨材1の周囲にバインダ層2が形成され、バインダ層2の周囲にアルカリ性添加材層3が形成され、アルカリ性添加材層3の周囲に縮合ヒドロキシ脂肪酸層4が形成された構成とすることができる。すなわち、得られるアスファルト合材7の外面は、縮合ヒドロキシ脂肪酸層4によって被覆されている。そのため、アスファルト合材7の保管中にアルカリ性添加材が空気中の水分と接触することを抑制でき、空気中の水分との接触に起因するアスファルト合材7の硬化を防止できる。その結果、アスファルト合材7の貯蔵安定性を優れたものとすることができる。
【0027】
上述のように、アスファルト合材7の外面を縮合ヒドロキシ脂肪酸層4で被覆することにより、空気中の水分との反応が抑制されるため、アスファルト合材7に添加するアルカリ性添加材の量を増やすことが可能となる。その結果、施工時における硬化反応を早めることができ、施工後の初期強度の高いアスファルト合材7を得ることができる。
【0028】
≪貯蔵時≫
このようにして得られたアスファルト合材7は、通常、袋内に充填して貯蔵される。貯蔵に用いられる袋には、例えば、水分透過防止層および熱融着層を備える袋が用いられる。アスファルト合材7を水分透過防止層および熱融着層を備える袋に収容し、次いで、熱融着層をヒートシーラーなどにより加熱圧着することで熱融着層を熱融着する。これにより、アスファルト合材7を袋内に密封する。アスファルト合材7は袋内で貯蔵され、施工で必要となった時に、アスファルト合材7を袋内から取り出して使用する。
【0029】
袋に収容されたアスファルト合材7は、縮合ヒドロキシ脂肪酸層4によって外側が被覆されている。そのため、アルカリ性添加材が空気中の水分と接触することを抑制できる。その結果、貯蔵時のアスファルト合材7が袋の中で硬化することを防ぐことができ、アスファルト合材7の貯蔵安定性が高くなる。
【0030】
≪施工時≫
施工時には、アスファルト合材7を施工箇所に敷均し、散水した後、直ちに転圧する。この転圧によって、縮合ヒドロキシ脂肪酸層4、アルカリ性添加材層3、及びバインダ層2が潰れて、相互に混合される。散布された水がアルカリ性添加材と接触、反応することにより、アルカリ成分が溶出する。溶出したアルカリ成分が脂肪酸及び縮合ヒドロキシ脂肪酸と反応することにより、アスファルト合材が短時間で硬化し、舗装路面に必要な強度を発現する。
【実施例
【0031】
以下、本開示の具体的な構成及び効果を各実験例に基づき説明する。以下の実験例の組成において、%は質量%を意味する。
【0032】
実験例1
骨材の原料として、7号砕石40.21%、粗砂26.18%、細砂21.03%、および石粉4.00%を混合装置内に仕込み、原料が均一な分布になるまでドライミキシングを行った。その後、バインダとしてストレートアスファルト60/80 3.90%、脱水ひまし油脂肪酸(伊藤製油株式会社製)2.60%を添加して加熱混合した。その後、アルカリ性添加剤として普通ポルトランドセメント2.08%を添加して加熱混合することで、アスファルト合材を得た。
【0033】
実験例2
実験例1と同様にして骨材を作製し、バインダとしてストレートアスファルト60/80 3.90%、脱水ひまし油脂肪酸(伊藤製油株式会社製)2.08%を添加して加熱混合した。その後、アルカリ性添加剤として普通ポルトランドセメント2.08%を添加して加熱混合した。その後、縮合ヒドロキシ脂肪酸0.52%を添加して加熱混合することで、アスファルト合材を得た。縮合ヒドロキシ脂肪酸は、ひまし油系縮合脂肪酸である伊藤製油株式会社製のMINERASOLRC-1658を使用した。
【0034】
実験例3~8
実験例1,2のアスファルト合材と同様にして、下記表1に示す配合の実験例3~8の各アスファルト合材を得た。
【0035】
【表1】
【0036】
≪貯蔵安定性の評価≫
得られたアスファルト合材2.5kgをホーローバット(30cm×24cmサイズ)に入れ、温度20℃、湿度30%に調整した試験室にて所定の貯蔵時間静置した。所定の貯蔵時間は、静置したアスファルト合材が20℃に冷却された直後迄、1日、4日、および7日とした。所定の貯蔵時間静置したアスファルト合材の貯蔵安定性について、以下に記載のプロクターニードル貫入抵抗試験、常温マーシャル安定度試験、および、締固め度にて評価を行った。なお、その試験結果を表2に示す。
【0037】
≪プロクターニードル貫入抵抗試験≫
所定の貯蔵時間静置後のアスファルト合材を、ボックス(10cm×10cm×10cmサイズ)に2層に分けて入れ、各層ごとにジッギングによって詰めた。ジッギングは、アスファルト合材を入れてからボックスを3cm程度持ち上げて床に10回自由落下させる方法とした。ジッギング後は表面を平らに均し、これを試料とした。試料作製直後に、貫入棒(貫入面積3.23cm)を試料表面から7.6cm差し込み、最大値を貫入抵抗値とした。なお、試料の作製及び貫入抵抗値の測定は20℃で行った。
【0038】
≪常温マーシャル安定度試験≫
所定の貯蔵時間静置後のアスファルト合材を用いて、作製温度20℃でマーシャル供試体を作製した。マーシャル供試体を、養生温度20℃で1時間養生した後、試験温度20℃にてマーシャル安定度を測定した。なお、その他の点は舗装評価・試験法便覧(社団法人日本道路協会編)に記載されている「B001マーシャル安定度試験方法」に準拠して行った。
【0039】
≪締固め度試験≫
製造後20℃に冷却された直後のアスファルト合材を用いて作製したマーシャル供試体の密度を基準密度とし、所定の貯蔵時間静置後であって常温マーシャル安定度試験直前に計測したマーシャル供試体の密度から、密度の低下率(締固め度)を算出した。供試体の作製温度、養生温度、養生時間、および試験温度は、上記の常温マーシャル安定度試験と同じである。
【0040】
【表2】
【0041】
≪プロクターニードル貫入抵抗試験の結果考察≫
表2から明らかなように、プロクターニードル貫入抵抗値は貯蔵時間の経過に伴い増大する傾向がある。実験例1~6を比較すると、縮合ヒドロキシ脂肪酸の割合が多いほど、貫入抵抗値の増加が小さくなる傾向があった。
【0042】
≪常温マーシャル安定度試験の結果考察≫
表2から明らかなように、常温マーシャル安定度は、貯蔵時間の経過に伴い低下する傾向がある。実験例1~6を比較すると、縮合ヒドロキシ脂肪酸の割合が多いほど、安定度の低下、すなわち強度の低下が小さくなる傾向があった。
【0043】
≪締固め度の結果考察≫
表2から明らかなように、締固め度は、貯蔵時間の経過に伴い低下する傾向がある。実験例1~6を比較すると、縮合ヒドロキシ脂肪酸の割合が多いほど、締固め度の低下が小さくなる傾向があった。
【0044】
以上の結果から、アスファルト合材は縮合ヒドロキシ脂肪酸層を有することにより、空気中の水分との反応に起因する硬化を抑制し、貯蔵安定性が向上することがわかる。
【0045】
実験例9~18
実験例2のアスファルト合材と同様にして、下記表3に示す配合の実験例9~18の各アスファルト合材を得た。
【0046】
【表3】
【0047】
≪初期安定性および供用時耐久性の評価≫
得られたアスファルト合材の初期安定性について、下記の常温マーシャル安定度試験、常温ホイールトラッキング試験にて評価を行った。また、供用時耐久性について、下記のマーシャル安定度試験、およびホイールトラッキング試験にて評価を行った。各試験の結果を表4に示す。
【0048】
≪常温マーシャル安定度試験≫
製造後20℃に冷却したアスファルト合材を用いて、マーシャル供試体を作製した。作製したマーシャル供試体を、養生温度20℃で1時間又は1日養生した後、20℃にてマーシャル安定度を測定した。その他の点は、上述の試験方法と同様に行った。
【0049】
≪常温ホイールトラッキング試験≫
製造後20℃に冷却したアスファルト合材を用いて、ホイールトラッキング供試体を作製した。ホイールトラッキング供試体を作製後、直ちに試験温度20℃にてホイールトラッキング試験を行った。その他の点は、舗装評価・試験法便覧(社団法人日本道路協会編)に記載されている「B003ホイールトラッキング試験方法」に準拠して行った。
【0050】
≪マーシャル安定度試験≫
製造後20℃に冷却したアスファルト合材を用いて、マーシャル供試体を作製した。作製したマーシャル供試体を、養生温度20℃で7日間養生した後、試験温度60℃にてマーシャル安定度試験を行った。その他の点は、舗装評価・試験法便覧(社団法人日本道路協会編)に記載されている「B001マーシャル安定度試験方法」に準拠して行った。
【0051】
≪ホイールトラッキング試験≫
製造後20℃に冷却したアスファルト合材を用いて、ホイールトラッキング供試体を作製した。作製したホイールトラッキング供試体を、養生温度20℃で7日間養生した後、試験温度60℃にてホイールトラッキング試験を行った。その他の点は、舗装評価・試験法便覧(社団法人日本道路協会編)に記載されている「B003ホイールトラッキング試験方法」に準拠して行った。
【0052】
【表4】
【0053】
≪常温マーシャル安定度試験の結果考察≫
実験例9~16のアスファルト合材は、養生時間が1時間での安定度が、実験例17,18に比べて優れていた。したがって、実験例9~16は、初期安定性に優れていることがわかる。また、養生時間が1日の安定度についても、実験例17,18に比べて実験例9~16のほうが優れていた。
【0054】
≪常温ホイールトラッキング試験の結果考察≫
実験例9~16のアスファルト合材は、2520回の走行回数であっても20mm沈下することがなく、動的安定度が高かった。また、60分後における変形量も小さかった。一方、実験例17,18のアスファルト合材は、それぞれ走行回数175回、424回で20mm沈下したため、施工後の交通開放時において初期わだちの発生が懸念される。以上の結果から、実験例9~16のアスファルト合材は、優れた初期安定性を有していることが分かった。
【0055】
≪マーシャル安定度試験の結果考察≫
実験例9~16のアスファルト合材は、養生時間が7日間のマーシャル安定度が基準値4.9kNを上回った。一方、実施例17のアスファルト合材は、養生時間が7日間のマーシャル安定度が基準値4.9kNに達しなかった。
【0056】
≪ホイールトラッキング試験の結果考察≫
実験例9~16のアスファルト合材は、動的安定度が高く、60分後における変形量も小さかった。したがって、実験例9~16のアスファルト合材は、優れた耐流動性を有していることがわかった。特に縮合ヒドロキシ脂肪酸の割合が10%、20%である実験例9~14のアスファルト合材では、一般社団法人日本改質アスファルト協会が重交通箇所への適用を想定する「ポリマー改質アスファルトII型」の動的安定度である約5000(回/mm)と同等以上の動的安定度を示し、60分後における変形量も少なかった。一方、実験例17は、動的安定度が137回/mmと低く、60分後における変形量も34.59mmであり、耐久性に劣っていた。以上の結果から、実験例9~16のアスファルト合材は、優れた供用時耐久性を有していることがわかった。
【0057】
実験例19~21
実験例2のアスファルト合材と同様にして、表5に示す配合の実験例19~21のアスファルト合材を得た。なお、表5には実験例19~21と共に試験を行った実験例12,14,16の各配合も示す。
【表5】
【0058】
≪縮合ヒドロキシ脂肪酸の添加量が及ぼすアスファルト合材の物性の評価≫
実験例12,14、16,19~21のアスファルト合材について、縮合ヒドロキシ脂肪酸の添加量が及ぼす初期安定性への影響を、常温マーシャル安定度試験、およびカンタブロ試験にて評価した。なお、試験結果は下記表6に示す。
【0059】
≪常温マーシャル安定度試験≫
製造後20℃に冷却したアスファルト合材を用いて、マーシャル供試体を作製した。養生温度20℃で1時間又は1日養生した後、試験温度20℃にてマーシャル安定度を測定した。その他の点は、上述の試験方法と同様に行った。
【0060】
≪カンタブロ試験≫
製造後20℃に冷却したアスファルト合材を用いて、供試体を作製した。養生温度5℃で1日養生した後、試験温度5℃にてカンタブロ試験を行った。なお、その他の点は、舗装評価・試験法便覧(社団法人日本道路協会編)に記載されている「B010カンタブロ試験方法」に準拠して行った。
【0061】
【表6】
【0062】
≪常温マーシャル安定度試験およびカンタブロ試験の結果考察≫
表6から明らかなように、常温マーシャル安定度は縮合ヒドロキシ脂肪酸の割合が多いほど低下した。一方、カンタブロ損失率は縮合ヒドロキシ脂肪酸の割合が多いほど低下した。すなわち、縮合ヒドロキシ脂肪酸の割合が多いほど、骨材飛散抵抗性は向上した。
【0063】
上記の試験結果から、脂肪酸と縮合ヒドロキシ脂肪酸の配合割合を調整することにより、施工現場の条件に適したアスファルト合材を得ることができることが判明した。例えば、大型車の交通量の多い重交通道路では、縮合ヒドロキシ脂肪酸の割合を少なくすることにより、初期強度に優れたアスファルト合材を使用する。これにより、交通開放時の初期わだちを抑制することが可能となる。一方、寒冷地等では、縮合ヒドロキシ脂肪酸の割合を多くすることにより骨材飛散抵抗性に優れたアスファルト合材を使用する。これにより、バインダの硬化が原因で発生する骨材飛散を抑制することができる。
【0064】
更に実験例14,21のアスファルト合材の長期的貯蔵安定性について、下記の方法で評価した。なお、その試験結果を表7に示す。
【0065】
≪長期的貯蔵安定性の評価≫
得られたアスファルト合材10kgを、ポリエチレン製の袋(36cm×50cmサイズ、厚み0.08mm)に入れ、熱圧着によって密封した。その後、温度20℃、湿度60%に調整した試験室にて、20℃に冷却された直後迄、30日、又は90日貯蔵した。貯蔵したアスファルト合材を用いて、常温マーシャル安定度試験、締固め度、およびカンタブロ試験を行った。
【0066】
≪常温マーシャル安定度試験≫
所定時間貯蔵したアスファルト合材を用いて、20℃でマーシャル供試体を作製した。作製したマーシャル供試体を養生温度20℃で1時間又は1日養生した後、試験温度20℃にて常温マーシャル安定度試験を行った。その他の点は、上述の試験方法と同様に行った。
【0067】
≪締固め度試験≫
製造後20℃に冷却された直後のアスファルト合材を用いて作製したマーシャル供試体の密度を基準密度とし、所定の時間貯蔵後であって常温マーシャル安定度試験直前に計測した供試体の密度から、その低下率(締固め度)を算出した。供試体の作製温度は20℃であり、養生温度20℃で1時間養生した後、試験温度20℃にて密度を計測した。
【0068】
≪カンタブロ試験≫
所定時間貯蔵したアスファルト合材を用いて、20℃で供試体を作製した。作製した供試体を養生温度5℃で1日養生した後、試験温度5℃にてカンタブロ試験を行った。その他の点は、上述の試験方法と同様に行った。
【0069】
【表7】
【0070】
≪常温マーシャル安定度試験、締固め度、およびカンタブロ試験の結果考察≫
表7から明らかなように、実験例14のアスファルト合材は、貯蔵90日後であっても、安定度、締固め度、およびカンタブロ損失率のいずれもが良好な状態を維持した。すなわち、製造後90日経過しても作製直後と同程度の優れた物性を有し、施工性が良好であることがわかった。一方、実験例21のアスファルト合材は、貯蔵30日後に、安定度、締固め度、およびカンタブロ損失率のいずれもが作製直後と比べて劣っていた。更に、貯蔵90日後ではアスファルト合材自体が硬化してしまい、施工できないものとなった。以上の結果から、アスファルト合材は縮合ヒドロキシ脂肪酸層を有することにより、優れた長期的貯蔵安定性を得ることが確認できた。
【0071】
なお、本開示の実験例においては、90日間の貯蔵安定性について良好であることを確認したが、アルカリ性添加材および縮合ヒドロキシ脂肪酸の添加量を調整することにより、より長期間の貯蔵も可能であると推測される。
【符号の説明】
【0072】
1 骨材
2 バインダ層
3 アルカリ性添加材層
4 縮合ヒドロキシ脂肪酸層
5 第一混合体
6 第二混合体
7 常温施工型アスファルト合材
【要約】
【課題】
優れた貯蔵安定性を有し、施工後に高い初期強度を実現できる常温アスファルト合材を提供する。
【解決手段】
常温施工型アスファルト合材7は、骨材1と、アスファルト及び脂肪酸を含み骨材1の周囲を覆うバインダ層2と、バインダ層2の周囲を覆うアルカリ性添加材層3と、アルカリ性添加材層3の周囲を覆う縮合ヒドロキシ脂肪酸層4とを備える。常温施工型アスファルト合材7の外面は、縮合ヒドロキシ脂肪酸層4によって被覆されているため、空気中の水分との反応が抑制され、貯蔵安定性が高くなる。また、常温施工型アスファルト合材7に添加するアルカリ性添加材の量を増やすことで施工時における硬化反応を早め、施工後の初期強度が高くなる。
【選択図】図1
図1