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  • 特許-ユニットタイプの波動歯車装置 図1A
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  • 特許-ユニットタイプの波動歯車装置 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-28
(45)【発行日】2022-03-08
(54)【発明の名称】ユニットタイプの波動歯車装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 1/32 20060101AFI20220301BHJP
   F16H 57/04 20100101ALI20220301BHJP
【FI】
F16H1/32 B
F16H57/04 J
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020556578
(86)(22)【出願日】2018-11-16
(86)【国際出願番号】 JP2018042561
(87)【国際公開番号】W WO2020100309
(87)【国際公開日】2020-05-22
【審査請求日】2021-03-12
(73)【特許権者】
【識別番号】390040051
【氏名又は名称】株式会社ハーモニック・ドライブ・システムズ
(74)【代理人】
【識別番号】100090170
【弁理士】
【氏名又は名称】横沢 志郎
(72)【発明者】
【氏名】金山 尚樹
【審査官】前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】実開昭60-12756(JP,U)
【文献】実開平2-91238(JP,U)
【文献】特開2008-223800(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 1/32
F16H 57/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項3】
剛性の内歯歯車と、
可撓性の外歯歯車と、
前記内歯歯車と前記外歯歯車とを相対回転可能な状態で支持するベアリングと、
波動発生器と、
前記内歯歯車の内歯と前記外歯歯車の外歯とのかみ合い部分に塗布あるいは充填したグリースと、
前記ベアリングと前記外歯歯車との間に形成され、前記かみ合い部分および前記ベアリングの軌道溝に連通する隙間と、
前記外歯歯車に形成したグリース流通孔と
を備えており、
前記外歯歯車は、前記内歯歯車の内側に同軸に配置された半径方向に撓み可能な円筒状胴部、および、前記円筒状胴部の一方の第1端から半径方向の外方に延びている円盤状のダイヤフラムを備えたシルクハット形状をしており、前記外歯は、前記内歯歯車の前記内歯に対峙する前記円筒状胴部の外周面部分に形成されており、
前記波動発生器は、前記外歯歯車の円筒状胴部の内側に同軸に配置され、前記円筒状胴部を半径方向に繰り返し撓めて、前記内歯にかみ合う前記外歯の位置を円周方向に移動させるようになっており、
前記ベアリングの内輪は、軸線方向に沿って見た場合に、前記ダイヤフラムと前記内歯歯車との間に位置しており、
前記隙間は、第1隙間部分および第2隙間部分を含み、
前記第1隙間部分は、前記外歯歯車の前記円筒状胴部と前記ベアリングの前記内輪との間に形成され、前記円筒状胴部の外周面に沿って前記軸線方向に延び、前記かみ合い部分に連通しており、
前記第2隙間部分は、前記内輪と前記ダイヤフラムとの間に形成され、前記ダイヤフラムに沿って半径方向に延びており、
前記第2隙間部分の前記半径方向の内端は前記第1隙間部分に連通し、前記第2隙間部分の前記半径方向の外端は前記ベアリングの軌道溝に連通しており、
前記グリース流通孔は、前記ダイヤフラムに形成され、前記第2隙間部分と前記円筒状胴部の内側空間との間を連通している
ユニットタイプの波動歯車装置。
【請求項4】
剛性の内歯歯車と、
可撓性の外歯歯車と、
前記内歯歯車と前記外歯歯車とを相対回転可能な状態で支持するベアリングと、
波動発生器と、
前記内歯歯車の内歯と前記外歯歯車の外歯とのかみ合い部分に塗布あるいは充填したグリースと、
前記ベアリングと前記外歯歯車との間に形成され、前記かみ合い部分および前記ベアリングの軌道溝に連通する隙間と、
前記外歯歯車に形成したグリース流通孔と
を備えており、
前記外歯歯車は、前記内歯歯車の内側に同軸に配置された半径方向に撓み可能な円筒状胴部、および、前記円筒状胴部の一方の第1端から半径方向の内方に延びている円盤状のダイヤフラムを備えたカップ形状をしており、前記外歯は、前記内歯歯車の前記内歯に対峙する前記円筒状胴部の外周面部分に形成されており、
前記波動発生器は、前記外歯歯車の円筒状胴部の内側に同軸に配置され、前記円筒状胴部を半径方向に繰り返し撓めて、前記内歯にかみ合う前記外歯の位置を円周方向に移動させるようになっており、
前記内歯歯車と前記ベアリングの外輪とは、軸線方向において隣接配置されており、
前記隙間は、第1隙間部分および第2隙間部分を含み、
前記第1隙間部分は、前記外歯歯車の前記円筒状胴部と、前記ベアリングの前記外輪および前記内歯歯車の内周面部分との間に形成されており、
前記第2隙間部分は、前記ダイヤフラムと前記ベアリングの内輪との間に形成されており、
前記第1隙間部分は、前記円筒状胴部の外周面に沿って前記軸線方向に延びており、
前記第1隙間部分の前記軸線方向の一方の端は、前記かみ合い部分に連通しており、他方の端は、前記ベアリングの前記軌道溝に連通しており、
前記第2隙間部分は、前記ダイヤフラムに沿って半径方向に延びており、
前記第2隙間部分の前記半径方向の外端は前記第1隙間部分に連通しており、
前記グリース流通孔は、前記ダイヤフラムに形成され、前記第2隙間部分と前記円筒状胴部の内側空間との間を連通している
ユニットタイプの波動歯車装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、剛性の内歯歯車と可撓性の外歯歯車とを相対回転可能な状態で支持するベアリングを備えたユニットタイプの波動歯車装置に関し、更に詳しくは、内歯歯車と外歯歯車の間のかみ合い部分がグリース潤滑されるユニットタイプの波動歯車装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ユニットタイプの波動歯車装置として、剛性の内歯歯車と、可撓性の外歯歯車と、両歯車を相対回転可能な状態で支持しているクロスローラベアリングなどのベアリングとを備えたものが知られている。この構成の波動歯車装置は、特許文献1、2に記載されている。
【0003】
特許文献1に記載の波動歯車装置では、クロスローラベアリングが、シルクハット形状の外歯歯車の円筒状胴部を取り囲む状態に配置されている。クロスローラベアリングの外輪は外歯歯車のダイヤフラムの外周縁に形成した円環状のボスに締結され、クロスローラベアリングの内輪は、内歯歯車に固定されている。外歯歯車の円筒状胴部およびダイヤフラムと、クロスローラベアリングの内輪との間には、双方の部材が干渉しないように所定の隙間が形成されている。隙間は、内歯歯車と外歯歯車のかみ合い部分に連通していると共に、クロスローラベアリングの内外輪の間の軌道溝に連通している。特許文献2に記載の波動歯車装置では、クロスローラベアリングがカップ形状をした外歯歯車の円筒状胴部を取り囲む状態に配置されている。外歯歯車の円筒状胴部およびダイヤフラムと、クロスローラベアリングの内輪との間には、所定の隙間が形成されている。隙間は、内歯歯車と外歯歯車のかみ合い部分およびクロスローラベアリングの軌道溝に連通している。
【0004】
なお、特許文献3には、波動歯車装置の外部から供給される潤滑オイルを、波動歯車装置の内部に導くために、外歯歯車にオイル供給穴を形成することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2014/091522号
【文献】国際公開第2014/203293号
【文献】特許第4877804号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、ユニットタイプの波動歯車装置では、両歯車のかみ合い部分の潤滑が、かみ合い部分に予め塗布あるいは充填したグリースによって行われる場合がある。かみ合い部分においては、波動発生器によって、外歯歯車における外歯が形成されている円筒状胴部が繰り返し半径方向に撓められる。外歯形成部分が半径方向に繰り返し撓むことによって生じるポンプ効果により、グリース潤滑されているかみ合い部分から、グリースが押し出される。押し出されたグリースは、外歯歯車の円筒状胴部とクロスローラベアリングの内輪との間に形成されている隙間に流れ込む。
【0007】
隙間に流れ込むグリースは、この隙間を通って、クロスローラベアリングの内外輪の間の軌道溝に流れる。クロスローラベアリングにおけるユニット外側に面する内外輪の間は、一般にオイルシールによってシールされている。しかしながら、軌道溝に流れ込むグリースによって、軌道溝の内圧が高まると、オイルシールから外部にグリースが漏れ出るおそれがある。
【0008】
本発明の目的は、この点に鑑みて、内歯歯車と外歯歯車とを相対回転可能な状態で支持しているベアリングのオイルシールからユニット外にグリースが漏れ出ることを防止あるいは抑制できるようにしたユニットタイプの波動歯車装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明のユニットタイプの波動歯車装置は、
剛性の内歯歯車と、
可撓性の外歯歯車と、
内歯歯車と外歯歯車とを相対回転自在の状態で支持しているベアリングと、
波動発生器と、
内歯歯車と外歯歯車とのかみ合い部分に塗布あるいは充填されたグリースと、
ベアリングと外歯歯車との間に形成され、かみ合い部分およびベアリングの内輪と外輪の間の軌道溝に連通している隙間と、
ユニット外側に面している内輪と外輪との間をシールしているオイルシールと、
外歯歯車に形成したグリース流通孔と
を備えており、
外歯歯車は、内歯歯車の内側に同軸に配置された半径方向に撓み可能な円筒状胴部、および、円筒状胴部の一方の端から半径方向の外方あるいは内方に延びている円盤状のダイヤフラムを備え、外歯は、内歯歯車の内歯に対峙する円筒状胴部の外周面部分に形成されており、
波動発生器は、外歯歯車の円筒状胴部の内側に同軸に配置され、円筒状胴部を半径方向に繰り返し撓めて、内歯にかみ合う外歯の位置を円周方向に移動させるようになっており、
グリース流通孔は、円筒状胴部およびダイヤフラムのうちの少なくとも一方の部位を貫通して、隙間と円筒状胴部の内側空間との間を連通していることを特徴としている。
【0010】
両歯車のかみ合い部分に塗布あるいは充填されているグリースは、波動発生器によって繰り返し半径方向に撓められる外歯歯車の円筒状胴部のポンプ効果によって、ダイヤフラムの方向に押し出される。押し出されたグリースは、外歯歯車の円筒状胴部とベアリングの間の隙間に流れ込む。この隙間は、ベアリングの軌道溝に連通していると共に、外歯歯車に形成したグリース流通孔を介して、外歯歯車の内側空間に連通している。したがって、かみ合い部分から隙間に押し出されたグリースの一部は、グリース流通孔を介して、外歯歯車の内側空間に流れ込む。隙間を通ってベアリングの軌道溝に流れるグリースの量を低減できる。よって、ベアリングの軌道溝に到達するグリースの量を低減できるので、軌道溝からオイルシールを介してユニット外側にグリースが漏れ出ることを防止あるいは抑制できる。
【0011】
ここで、グリース流通孔は、例えば、ダイヤフラムにおいて、その円周方向に等角度の間隔、あるいは異なる角度間隔で形成すればよい。グリース流通孔は、円形、楕円、多角形その他の形状の貫通孔とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1A】本発明を適用した実施の形態1のユニットタイプの波動歯車装置を示す概略縦断面図である。
図1B図1Aのユニットタイプの波動歯車装置の1B-1B線で切断した部分を示す概略横断面図である。
図1C図1Aのユニットタイプの波動歯車装置の内歯歯車およびシルクハット形状の外歯歯車を示す斜視図である。
図2】本発明を適用した実施の形態2のユニットタイプの波動歯車装置を示す概略縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、図面を参照して、本発明を適用したユニットタイプの波動歯車装置の実施の形態を説明する。なお、本発明は、以下に述べる実施の形態に限定されるものではない。
【0014】
(実施の形態1)
図1Aは本発明の実施の形態1に係るユニットタイプの波動歯車装置の概略縦断面図であり、図1B図1Aの1B-1B線で切断した部分を示す概略横断面図であり、図1Cは内歯歯車と外歯歯車を示す斜視図である。ユニットタイプの波動歯車装置1(以下、単に、「波動歯車装置1」という。)は、中空入力軸2、第1入力軸受け3、第2入力軸受け4、第1ユニット端板5、第2ユニット端板6、波動歯車機構7、および、クロスローラベアリング8を備えている。
【0015】
第1ユニット端板5は、中空入力軸2の一方の第1軸端部2aを、第1入力軸受け3を介して、回転自在の状態で支持している。第2ユニット端板6は、中空入力軸2の他方の第2軸端部2bを、第2入力軸受け4を介して、回転自在の状態で支持している。第1ユニット端板5と第2ユニット端板6の間には、波動歯車機構7が中空入力軸2を取り囲む状態に組み込まれている。
【0016】
波動歯車機構7は、中空入力軸2と一体回転する波動発生器11、波動発生器11によって非円形に撓められている可撓性の外歯歯車12、および、外歯歯車12に部分的にかみ合っている剛性の内歯歯車13を備えている。本例では、外歯歯車12は波動発生器11によって楕円状に撓められている。
【0017】
波動発生器11は、中空入力軸2に一体形成した楕円形輪郭のプラグ部分11aと、このプラグ部分11aの楕円形外周面11bに装着したウエーブベアリング11cとを備えている。ウエーブベアリング11cは半径方向に撓み可能な内外輪を備えており、プラグ部分11aによって楕円形に撓められている。
【0018】
外歯歯車12はシルクハット形状をしており、半径方向に撓み可能な円筒状胴部12a、この円筒状胴部12aにおける第1ユニット端板5の側の端から半径方向の外方に広がっている円環状のダイヤフラム12b、このダイヤフラム12bの外周縁に連続して形成された円環状の剛性のボス12c、および、円筒状胴部12aにおける第2ユニット端板6の側の外周面部分に形成した外歯12dを備えている。円筒状胴部12aにおける外歯12dが形成されている部位の内側に波動発生器11が位置しており、この部位が、波動発生器11によって、楕円状に撓められている。楕円状に撓められた円筒状胴部12aの長軸両端の位置において、外歯12dが内歯歯車13の内歯13aにかみ合っている。外歯12dと内歯13aとのかみ合い部分14の潤滑はグリース潤滑によって行われる。かみ合い部分14には、所定量のグリース(図示せず)が予め塗布あるいは充填されている。なお、外歯歯車12の内側空間12eにもグリースが充填されており、外歯歯車12と波動発生器11との間の摺動部分、波動発生器11のウエーブベアリング11c等の部分が潤滑される。
【0019】
クロスローラベアリング8は、外歯歯車12の円筒状胴部12aを取り囲む状態に配置されている。中心軸線1aの方向においては、クロスローラベアリング8は、外歯歯車12のダイヤフラム12bおよびボス12cと、内歯歯車13との間に配置されている。クロスローラベアリング8の外輪8aは、ボス12cを挟み、第1ユニット端板5に対して、複数本のボルト9aによって、固定されている。その内輪8bは、第2ユニット端板6の内歯歯車13に、複数本のボルト9bによって、固定されている。第1ユニット端板5に固定した外歯歯車12と、第2ユニット端板6に固定した内歯歯車13とは、クロスローラベアリング8によって、相対回転が可能な状態となっている。
【0020】
外歯歯車12とクロスローラベアリング8との間には、隙間15が形成されている。隙間15には、外歯12dと内歯13aとのかみ合い部分14に連通している第1隙間部分15aが含まれている。また、隙間15には、クロスローラベアリング8の外輪8aと内輪8bとの間の円環状の軌道溝8cに連通している第2隙間部分15bが含まれている。第1隙間部分15aは、外歯歯車12の円筒状胴部12aの外周面と、内輪8bの内周面との間に形成されており、円筒状胴部12aに沿って中心軸線1aの方向に延びている。
【0021】
第2隙間部分15bは、ダイヤフラム12bと、内輪8bの円環状の端面との間に形成されており、ダイヤフラム12bに沿って半径方向に延びている。第1隙間部分15aの一端はかみ合い部分14に連通しており、その他端は第2隙間部分15bの半径方向の内端に繋がっている。第2隙間部分15bの半径方向の外端は、外輪8aと内輪8bとの間を通って、軌道溝8cに連通している。軌道溝8cにはローラが転動可能な状態で挿入されている。クロスローラベアリング8において、軌道溝8cは、外輪8aと内輪8bの間の隙間8dを介して、ユニット外側に連通している。この隙間8dは、外輪8aと内輪8bの間に装着したオイルシール16によってシールされている。
【0022】
ダイヤフラム12bと、第1ユニット端板5との間にも、ダイヤフラム12bに沿って半径方向に延びる隙間部分17が形成されている。この隙間部分17の半径方向の内端の側は、外歯歯車12の円筒状胴部12aの内側空間12eに連通している。内側空間12eは、円筒状胴部12aと中空入力軸2の円形外周面との間に形成されている円環状空間である。
【0023】
ここで、図1A図1Cに示すように、ダイヤフラム12bにおける半径方向の中程の部位には、複数個のグリース流通孔18が形成されている。グリース流通孔18は、本例では、ダイヤフラム12bにおいて、その円周方向に等角度間隔で形成された8個の円形貫通孔である。ダイヤフラム12bの一方の側の第2隙間部分15bと、他方の側の隙間部分17とは、複数個のグリース流通孔18を介して連通している。なお、グリース流通孔18を、円筒状胴部12aに形成した場合には、第1隙間部分15aと外歯歯車12の内側空間12eとがグリース流通孔18を介して連通する。
【0024】
この構成の波動歯車装置1の動作を説明する。モータ軸(図示せず)に連結した中空入力軸2が回転すると、それと一体となって波動発生器11が回転する。これにより、外歯歯車12と内歯歯車13のかみ合い位置が円周方向に移動し、これらの歯車の歯数差に応じた相対回転が、両歯車12、13の間に発生する。内歯歯車13(第2ユニット端板6)を固定すると、外歯歯車12(第1ユニット端板5)から減速回転が出力される。逆に、外歯歯車12(第1ユニット端板5)を固定すると、内歯歯車13(第2ユニット端板6)から減速回転が出力される。
【0025】
内歯歯車13に対する外歯歯車12のかみ合い部分14においては、波動発生器11が回転すると、円筒状胴部12aが繰り返し半径方向に撓められる。この撓みにより、かみ合い部分14には、グリースがダイヤフラム12bの方向に押し出されるポンプ効果が発生する。押し出されたグリースが、隙間15を通って、クロスローラベアリング8の軌道溝8cに向かって流れる。
【0026】
隙間15の第2隙間部分15bは、グリース流通孔18を介して、ダイヤフラム12bの反対側の隙間部分17に連通している。第2隙間部分15bを流れるグリースの一部は軌道溝8cに向かうが、残りは、グリース流通孔18を通って反対側の隙間部分17に流れ込む。隙間部分17に流れ込むグリースは、外歯歯車12の内側空間12eに還流する。グリース流通孔18を形成しておくことで、クロスローラベアリング8の軌道溝8cに到達するグリースの量を低減できる。よって、オイルシール16を介してユニット外部にグリースが漏れ出ることを防止あるいは抑制できる。
【0027】
(実施の形態2)
図2は、本発明を適用した実施の形態2のユニットタイプの波動歯車装置を示す概略縦断面図である。ユニットタイプの波動歯車装置20(以下、単に、「波動歯車装置20」という。)には、カップ形状の外歯歯車を備えた波動歯車機構が組み込まれている。
【0028】
波動歯車装置20は、波動歯車機構30、クロスローラベアリング40および出力軸50を備えている。波動歯車機構30は、波動発生器31、波動発生器31によって非円形に撓められている可撓性の外歯歯車32、および、外歯歯車32に部分的にかみ合っている剛性の内歯歯車33を備えている。本例では、外歯歯車32は波動発生器31によって楕円状に撓められている。波動発生器31は、楕円形輪郭のプラグ部分31aと、このプラグ部分31aの楕円形外周面31bに装着したウエーブベアリング31cとを備えている。ウエーブベアリング31cは半径方向に撓み可能な内外輪を備えており、プラグ部分31aによって楕円形に撓められている。
【0029】
外歯歯車32はカップ形状をしており、半径方向に撓み可能な円筒状胴部32a、この円筒状胴部32aにおける出力軸50の側の端から半径方向の内方に延びている円環状のダイヤフラム32b、このダイヤフラム32bの内周縁に連続して形成された円環状の剛性のボス32c、および、円筒状胴部32aにおける他方の端の側の外周面部分に形成した外歯32dを備えている。円筒状胴部32aにおける外歯32dが形成されている部位の内側に、波動発生器31が位置しており、この部位が、波動発生器31によって、楕円形に撓められている。楕円形に撓められた円筒状胴部32aの長軸両端の位置において、外歯32dが内歯歯車33の内歯33aにかみ合っている。外歯32dと内歯33aとのかみ合い部分34の潤滑はグリース潤滑によって行われる。かみ合い部分34には、所定量のグリース(図示せず)が予め塗布あるいは充填されている。なお、外歯歯車32の内側空間32eにもグリースが充填されており、外歯歯車32と波動発生器31との間の摺動部分、波動発生器31のウエーブベアリング31c等の部分が潤滑される。
【0030】
クロスローラベアリング40は、中心軸線20aの方向において、内歯歯車33に対して隣接配置されている。クロスローラベアリング40の外輪41に、内歯歯車33が締結ボルトによって同軸に固定されている。クロスローラベアリング40の内輪42は、本例では、出力軸50の外周部分に一体形成されている。すなわち、内輪42と出力軸50とが、単一部品となっている。ユニット外側に面する外輪41と内輪42との間の隙間は、オイルシール45によって封鎖されている。出力軸50は円盤形状をしており、その内側の端面に、外歯歯車32のボス32cが締結ボルトによって同軸に固定されている。これにより、外輪41に固定した内歯歯車33と、内輪42が一体形成されている出力軸50に固定した外歯歯車32とが、相対回転が可能な状態となっている。
【0031】
外歯歯車32とクロスローラベアリング40との間には隙間60が形成されている。隙間60には、第1隙間部分61と第2隙間部分62とが含まれている。第1隙間部分61は、外歯歯車32と、外輪41および内歯歯車33との間に形成されている。第2隙間部分62は、外歯歯車32と内輪42との間に形成されている。第1隙間部分61は、外歯歯車32の円筒状胴部32aの外周面と、外輪41の端面部分と、内歯歯車33における内歯33aに隣接する内周面部分との間に形成されており、円筒状胴部32aに沿って中心軸線20aの方向に延びている。第1隙間部分61の一方の端は、外歯32dと内歯33aとのかみ合い部分34に連通しており、他方の端は、外輪41と内輪42の間の軌道溝43に連通していると共に、第2隙間部分62に連通している。第2隙間部分62は、ダイヤフラム32bと、出力軸50の円環状の内側の端面との間に形成されており、ダイヤフラム32bに沿って半径方向に延びている。第2隙間部分62の半径方向の外端が、第1隙間部分61に連通している。
【0032】
外歯歯車32のダイヤフラム32bにおける半径方向の中程の部位には、複数個のグリース流通孔38が形成されている。グリース流通孔38は、本例では、ダイヤフラム32bにおいて、その円周方向に等角度間隔で形成された複数個の円形貫通孔である。したがって、第2隙間部分62と、外歯歯車32の内側空間32eとは、複数個のグリース流通孔38を介して連通している。内側空間32eは、円筒状胴部32aと波動発生器31との間に形成されている空間である。なお、グリース流通孔38を、円筒状胴部32aに形成した場合には、第1隙間部分61と外歯歯車32の内側空間32eとがグリース流通孔38を介して連通する。
【0033】
この構成の波動歯車装置20の動作を説明する。モータ(図示せず)によって波動発生器31が回転すると、外歯歯車32と内歯歯車33のかみ合い位置が円周方向に移動する。両歯車の歯数差に応じた相対回転が、両歯車32、33の間に発生する。内歯歯車33の側が固定側とされ、外歯歯車32が連結されている出力軸50から減速回転が取り出される。
【0034】
内歯歯車33に対する外歯歯車32のかみ合い部分34においては、波動発生器31が回転すると、円筒状胴部32aが繰り返し半径方向に撓められる。この撓みにより、かみ合い部分34には、グリースがダイヤフラム32bの方向に押し出されるポンプ効果が発生する。押し出されたグリースが、第1隙間部分61を通って、クロスローラベアリング40の軌道溝43に向かって流れる。
【0035】
第1隙間部分61は、第2隙間部分62およびグリース流通孔38を介して、外歯歯車32の内側空間32eに連通している。第1隙間部分61に押し出されたグリースの一部は軌道溝43に向かうが、残りは、第2隙間部分62からグリース流通孔38を通って外歯歯車32の内側空間32eに還流する。クロスローラベアリング40の軌道溝43に到達するグリースの量を低減できるので、オイルシール45を介して外部にグリースが漏れ出ることを防止あるいは抑制できる。
図1A
図1B
図1C
図2